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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ10034特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10077特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10030特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10096損害賠償請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  相違点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  技術分野の関連性 /  技術常識 /  優先権 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (ネ) 10013号 特許権侵害差止請求控訴事件
控訴人株 式会社荏原製作所
訴訟代理人弁護士大野聖二
補佐人弁理 士渡邉勇
同 伊藤茂
被控訴人株式会社神鋼環境ソリューション
訴訟代理人弁護士吉澤敬夫
同 牧野知彦
同弁理士新井全
同 岡信太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1控訴人( )原判決を取り消す。
1( )被控訴人は,原判決別紙「被告物件目録(原告)」記載の被控訴人製品を 2生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
( )訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
3( )仮執行の宣言42被控訴人主文と同旨第2事案の概要1事案の要旨本件は,廃棄物の処理方法等の発明について特許権を有する控訴人が,被控訴人が流動床式ガス化溶融炉を製造販売する行為は本件特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,特許法100条に基づき,被控訴人の上記行為の差止めを請求した事案である。原判決が,被控訴人の製品は本件各発明の技術範囲に属さず,また,本件各発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであり,同法104条の3第1項により控訴人の本件特許権の行使は許されないとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴し,原判決の上記各判断を争っている。
2争いのない事実等及び争点原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要等」の「2争いのない事実等」及び「3争点」のとおりであるから,これを引用する。
第3争点に関する当事者の主張以下のとおり,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第3争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
1争点( )(本件各発明における「循環流」の解釈)及び争点( )(被控訴人製1 2品の構成)について〔控訴人の主張〕( )「流動媒体の循環流」の解釈について1本件各発明における「流動媒体の循環流」とは,原判決の判示するとおり,「意図的に形成された流動媒体の循環する流れ」(原判決110頁14行目)であり,「流動層において必然的に発生する物理現象としての流れとは異なり,流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けることにより形成された流動媒体の循環する流れを意味するもの」(同111頁2行目〜4行目)と解釈すべきである。したがって,「流動媒体の循環流」に該当するためには,@流動層において必然的に発生する物理現象としての流れとは異なった,意図的に形成された流動媒体の循環する流れが存在すること,Aこのような流動媒体の循環する流れが流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けるという手段により形成されていることという2要件を満たす必要がある。
(2)意図的に形成された循環流の存在について被控訴人自身が作成した資料によれば,被控訴人製品には,明らかに,流動層において必然的に発生する物理現象としての流れとは異なった,意図的に形成された流動媒体の循環する流れが存在する。
「廃棄物の熱分解・ガス化灰溶融システムの開発動向」(甲17)の「砂層中心部の流動化速度を増加させ,外周部の流動化速度を低下させることで,流動化速度の差を設け」ているとの記載によれば,被控訴人製品の流動層が,被控訴人が主張するような「ランダムに流動し,気泡流動化状態となる」ことはあり得ず,上記の流動化速度差は,通常のバブリング方式の問題点を解消する目的でなされるものであるから,流動化速度差は,砂を循環させて,軽い物質を層内にもぐりこませるために意図的に行うものである。「ごみ処理施設ガイドブック2001」(甲25)の説明内容に照らせば,被控訴人製品は,被控訴人が主張するような「流動媒体(砂)は,砂層4で,あたかも沸騰させた水のようにランダムに流動し,気泡流動化状態となる」ものでない。そして,「流動床式熱分解ガス化溶融システムと実証試験状況」(甲44)は,神戸製鋼所の従業員(甲17と同じ執筆者)の執筆によるものであるが,「●丸型炉+旋回流動により,ごみの分散,熱の拡散,不燃物排出が良好である。●旋回流動により,チャーの粉砕,細粒化不燃物のクリーニング効果が高い。」と記載されていて,被控訴人製品における「旋回流動」は,「ごみの分散,熱の拡散,不燃物排出が良好」,「チャーの粉砕,細粒子化不燃物のクリーニング効果が高い。」という技術的効果を狙って意図的に採用され,形成されたものであることは明らかである。
また,控訴人が,「廃棄物処理技術評価-第19号-流動床式熱分解ガス化溶融技術」(甲13)等において,被控訴人製品に中央部から周辺部へ向けた円弧状の矢印が示されていることを循環流が存在することの根拠としたことに対し,原判決は,「ゴミ処理施設フローシート」(乙14)等において,バブリング型の流動層炉についても同様の矢印が用いられていることを根拠として控訴人の主張を排斥したが,原判決が,バブリング型の流動層炉であるとしたものは,いずれも,バブリング型の流動層炉ではないか,実際の流動床炉ではない。
さらに,神戸製鋼所の従業員の執筆した論文中の表である「流動床式ガス化溶融炉の実証施設の概要」(甲10)によれば,被控訴人製品及び控訴人の製品が同一の流動床炉のグループ「一塔式内部循環型(丸型,分散板式)」に分類され,かつ,同表中に「一塔式バブリング型」が他のグループとして掲げられているところ,被控訴人製品が被控訴人が主張するような構造であれば,被控訴人製品は「一塔式バブリング型」に分類されるはずであるのに,神戸製鋼所の従業員自ら,被控訴人製品を控訴人の製品と同じ「一塔式内部循環型(丸型,分散板式)」に分類していることは,被控訴人製品が,被控訴人の主張する構造ではないことを示すものである。
また,平成9年11月10日付け日刊工業新聞の記事「ダイオキシンゼロへの切り札」(甲47)には,「流動床炉でのガス化でも『ゴミは簡単にガスにはなってくれない。ガス化炉というイメージだと間違ってしまう』と設計のポイントも単なる流動床炉とは異なると指摘。温度制御のため空気比にプラス,内部循環流動床炉の機能も採用していく。」と記載されていて,被控訴人製品は,「単なる流動床炉」とは異なった,「内部循環流動床炉の機能」が加わったものであり,バブリング型流動層炉でないことが明らかである。
(3)流動化ガスの質量速度による形成について被控訴人作成の原判決別紙「被告物件目録(被告)」において,「空気導入口6より供給される空気は,風箱5にて整流され,分散板3の通気口9を経て砂層4に供給され,・・・これによって,流動媒体(砂)は,砂層4で,・・・流動・・・」と記載されているとおり,被控訴人自身,「空気導入口6より供給される空気」により,流動層炉の砂が流動化されていることを認めている。そして,被控訴人製品は,流動層炉の流動媒体(砂)に流動速度差を設けるものであり,このような流動媒体(砂)の流動速度差は,「空気導入口6より供給される空気」,つまり,流動化ガスの質量速度の大小により形成されているものであるから,被控訴人製品は,流動媒体の循環する流れが流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けるという手段により形成されているという要件を明らかに満たしている。
原判決は,「流動媒体の循環流」という要件を,@流動層において必然的に発生する物理現象としての流れとは異なった,意図的に形成された流動媒体の循環する流れが存在すること,Aこのような流動媒体の循環する流れが流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けるという手段により形成されていること,という2要件に分析せず,全体として書証に記載されているかどうかを問題としたために,誤った結論に至ったものである。
〔被控訴人の主張〕( ) 「流動媒体の循環流」の解釈について1原判決は,「流動媒体の循環流」について,「流動層において必然的に発生する物理現象としての流れとは異なり,流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けることにより形成された流動媒体の循環する流れを意味するもの」と定義したが,このような定義をしてみても,「流動層において必然的に発生する物理現象としての流れ」とはどのような流れであるのか,「流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けることにより形成された流動媒体の循環する流れ」とはどのような点において「流動層において必然的に発生する物理現象としての流れ」と異なるのかが示されなければ,その意味するところを理解することはできない。
本件各発明の出願以前から,被控訴人製品のように,炉底がすり鉢状の製品において,炉中央部と炉周辺部とで分散版ノズル口径に差をつけて,砂層に供給する空気速度に差を付け,これにより,砂層全体を通過する空気速度を均一にして砂層全体を均一な気泡流動化状態,すなわち,バブリング状態とすることはまったくの常とう手段であった。仮に,原判決がいう「流動層炉に供給する流動化ガスの質量速度に大小を付けることにより形成された流動媒体の循環する流れ」というのがこのような周知慣用の技術をも含むものだとすると,「流動化ガスの質量速度に大小を付ける」ことは従来の技術と同じ事を意味するのであって,本件各発明の特徴であるはずの「循環流」は従来の技術との比較において全く意味のない要件となってしまう。
本件明細書1(甲1の2)等の記載や公知技術にかんがみれば,本件各発明の「流動層」とは,@質量速度が比較的小さい流動化ガスによって形成され,炉中央部に流動媒体が沈降する「移動層」と,A質量速度が比較的大きい流動化ガスによって形成され,炉周辺部に流動媒体が定常的に上昇する「流動層」により形成され,B炉内周辺部上方における流動化ガスの上向き流が炉の中央に向かうように転向されることにより,流動媒体が周辺部頂部から中央部頂部へ移動し,C炉の中央部の「移動層」では流動媒体が拡散沈降し,炉内周辺部の「流動層」では流動媒体が活発に流動しており,移動層の下部から流動層へ及び流動層頂部から移動層へ,流動媒体が移動し,D上記@ないしCにより,流動媒体を,炉内において大きな循環径で繰り返し循環させているものと解釈されるべきである。
( )被控訴人製品の構造(砂層の流動状態)について 2控訴人は,神戸製鋼所の従業員等によって書かれた論文等を根拠に,被控訴人製品には,循環流がある旨主張する。
しかし,それらに示された抽象的な説明や模式図を基に被控訴人製品の構造(砂層の流動状態)を特定しようとする控訴人の主張が失当であることは明らかである。
また,控訴人は,原判決がバブリング型の流動層炉についても矢印が付されていることの根拠とした「ゴミ処理施設フローシート」(乙14)等に記載された流動層炉はバブリング型の炉ではない旨主張する。仮に,控訴人が本件各発明における「循環流」以外の流動層を有する炉をすべて「バブリング型の流動層炉」と定義した上で,それらの文献に記載された流動層が,従来のバブリング炉ではないと主張しているのであれば,これらの刊行物においても本件各発明と同様な「循環流」を有していると主張しているのと同義であり,そうすると,本件各発明の循環流は,従来から周知の流動層まで含む,全く特徴のない「循環流」をいうことになる。逆に,控訴人が「流動層炉」には,本件各発明の「循環流」を有する炉,「バブリング型の流動層炉」,及び,この二者とは異なる「流動層炉」があり,上記刊行物記載の流動層炉には,本件各発明の「循環流」でもなく,さらに,従来からの「バブリング型の流動層」でもない,それ以外の流動層炉があるとしているのであれば,それはどのような流動層の流れであるのか,及び,被控訴人製品がそれとは異なり,本件各発明の「循環流」を有することを主張立証しなければならないはずであるが,そのような主張立証はされていない。控訴人の主張の趣旨は極めて不明確であり,いずれにせよ,成り立たない。
また,控訴人は,神戸製鋼所の従業員が,控訴人及び被控訴人の製品を「一塔式内部循環型」に分類していることをもって,被控訴人製品は「一塔式バブリング型」に分類されるべきである旨を述べるが,そこでいう「一塔式バブリング型」の意味内容さえ明らかではなく,また,その執筆者が本件各発明との関係を意識していない分類をもって,本件各発明との対比を行うことはできない。
平成9年11月10日付け日刊工業新聞の記事「ダイオキシンゼロへの切り札」(甲47)は,被控訴人製品の試作品さえ完成していない段階の記事であり,これを基に被控訴人製品の構造(砂層の流動状態)を特定することはできない。
2争点()(本件発明1@ないしBに係る特許が無効にされるべきものか否12か)について〔控訴人の主張〕( )本件発明1@ないしBの技術的意義について1本件発明1@ないしB以前の技術について,乙1発明においては,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分解過程が行われた結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成もない。一方,特公平1-52654号公報(甲52)に記載の発明では,処理対象物や熱分解の条件によってはチャーが流動層炉内に滞留してしまい,生成したチャーを流動層から溢流させて流動層炉外に抜き出し,別途粉砕処理して溶融炉に供給していたのであり,特開昭54-43902号公報(甲53)に記載の発明でも,流動層熱分解炉で熱分解により生成されたチャーを流動層炉外へ溢流させて粉砕処理していた。
本件発明1@ないしBは,このような事情に着目し,流動層において熱分解(ガス化)を行い,熱分解過程の結果生成された流動層炉内にとどまりがちなチャーを流動層炉外に抜き出すことなく次段の溶融炉にガスとチャーを供給するため,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成して,流動媒体の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,ガス化の結果生成したチャーを生成ガスから分離して,循環流中で微粒子とする処理を行い,流動層炉からガスと微粒子となったチャーを溶融炉に供給するようにしたものである。
したがって,本件発明1@ないしBは,流動層炉内において可燃ガスと多量のチャーを生成し,生成された多量のチャーを循環流中で循環流の作用により微粒子として,ガスに同伴されやすくし,流動層炉内にとどまらせることなく可燃ガスとともに安定して溶融炉に供給することができるので,処理対象の廃棄物が質的及び量的に変動する廃棄物処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるようにしたという技術的意義がある。
上記のような本件発明1@ないしBの技術的意義は,本件第1特許権の請求項1の「廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して灰分を熔融してスラグ化することを特徴とする廃棄物の処理方法。」との記載から明らかである。
この点について,被控訴人は,控訴人の主張する技術的意義が本件明細書1の記載と矛盾する旨主張するが,本件発明1@ないしBの具体的内容は【実施例】の段落【0027】ないし【0029】,【0050】に記載されているし,その意義も,本件明細書1の【発明が解決しようとする課題】の項(段落【0008】)や【発明の効果】の欄(段落【0057】)に記載されていて,被控訴人主張は,本件明細書1のうち,自らに都合のよい記載部分のみを引用し,明細書全体の記載を無視しているものである。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その1)2本件発明1@は,流動層炉内に供給された廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーについて,循環流中でさらに微粒子として,流動層炉から,ガスと微粒子となったチャーを溶融炉に供給するようにしたものである。これに対し,乙1発明は,熱分解により生成した微細なチャーと可燃性ガスが流動層熱分解炉から排出されサイクロン燃焼炉に供給されるもので,熱分解で生成されたチャーが微細粒子と呼ばれ,熱分解過程で生成されたチャーをさらに微粒子とすることは一切記載されていない。
すなわち,本件発明1@は,生成されたチャーについて,循環流の作用により,循環流中で,さらに微粒子とする構成を有するのに対して,乙1発明は,単に,流動層中でチャーを生成するだけで,生成されたチャーをさらに微粒子とする構成を有さず,この点において本件発明1@と乙1発明は明らかに相違している。
したがって,原判決は,相違点2として,「本件発明1@が,『該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該循環流中で微粒子とし』(構成要件1D及び1E)ているのに対し,乙1発明が,『該流動層炉内の流動層中でガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該流動層中で微粒子とし』(構成(エ))ており,『循環流中』で『ガスとチャーを生成し,微粒子とする』ことが明示されていない点」(原判決130頁末行〜131頁5行目)を認定したが,相違点2としては,「本件発明1@が,(廃棄物を)『流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし』ているのに対し,乙1発明が,『熱分解の生成ガス中に含まれるチャー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して』いるのであって,『該流動層炉内の流動層中でガス化してガスとチャーを生成し』ているものの,『生成されたチャーを微粒子とする』構成(工程)は記載されておらず,生成されたチャーを流動層炉内の循環流中で微粒子とすることを開示していない点。」と認定すべきであり,原判決は,相違点の認定を誤ったものである。
この点について,被控訴人は,本件発明1@の特許請求の範囲には,「該チャーを該循環流中で微粒子とし」と記載されているだけで,「さらに微粒子とする」とは記載されていない旨主張するが,特許請求の範囲には,「流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該循環流中で微粒子とし」と記載されていて,この記載からも,微粒子とされるのは生成されたチャーであり,生成されたチャーをさらに微粒子とすることが明確に記載されている。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その2)3ア乙1発明は,流動層中でガス化してガスと微粒子としてのチャーを生成するものの,生成されたチャーをさらに微粒子とすることを開示するものではない。
そして,乙23発明には,ガス化によって生成したチャーをさらに微粒子とし,可燃ガスとともに微粒子のチャーを得ることは開示されていない。
また,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明にも,ガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子として可燃ガスとともに得るという構成を備えていない。
そうすると,乙23発明等に開示された「意図的に流れさせた循環流」に関する構成を乙1発明にどのように組み合わせても,ガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子として可燃ガスとともに得ることを規定した本件発明1@の構成は欠いたままである。
したがって,相違点1に係る本件発明1@の構成について,乙1発明と乙23発明等又は周知技術との組合せから容易に想到することはできない。
イ流動層における流動媒体の流れは,流動層内での被処理物の反応に密接に関係し,廃棄物処理における流動層の機能を左右するものであり,乙1発明においては,気泡流動化状態の流動層において,可燃ガスと微細なチャーが生成されるという流動層の機能が発揮されている。
このような乙1発明に,乙23発明等により開示された「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用した場合,乙1発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,乙1発明に記載された,可燃ガスと微細なチャーが生成されるという流動層の機能を変質させ,乙1発明における流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せのうちの前段の流動層炉の機能を変質させ,流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉を組み合わせた乙1発明そのものの機能を変質させる。このような,発明の本質的な機能に係る乙1発明における流動層の流動媒体の流れを変更することに,当業者が容易に想到することはあり得ない。
流動媒体の流れと流動層の機能との関係を看過して,「流動媒体の流れ」であれば,どのような流動層にも適用できるものであるかのような前提により,乙23発明等に開示された技術を乙1発明に適用すれば,相違点1に係る本件発明1@の構成に容易に想到することができるとすることは誤りである。
この点について,被控訴人は,乙1発明に,乙23発明に開示された循環流を採用しても,その機能が変質しない旨主張するが,流動の条件によって,流動層炉における流動層の機能が異なってくることは,被控訴人自身も既に認めていた(甲34の3)。また,被控訴人は,実願昭57-111269号(実開昭58-58232号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙23,以下「乙23マイクロフィルム」という。)には,乙1発明に類似する流動層炉と本件発明1@ないしBに類似する流動層炉が併記されている旨主張するが,乙23マイクロフィルム記載の考案の名称が「流動床式焼却炉」であることから明らかなとおり,乙23マイクロフィルムには,乙1発明に類似する流動層炉や本件発明1@ないしBに類似する流動層炉も併記されていないし,乙23発明の流動床式焼却炉では,可燃物は流動層内で燃え尽きてしまう。
さらに,被控訴人は,流動層炉は,空気量の調整によって,ガスとチャーを生成するガス化を行ったり,焼却を行ったりできるものである旨主張するが,流動層炉は,種々の目的に使用され,使用目的に応じて幾つもの流動層の機能を決定する要素について最適化を行う必要があることが当業者の技術常識であり,ガス化を目的とする流動層炉と焼却を目的とする流動層炉の相互の技術を簡単に置換できるものではない。そして,被控訴人は,本件発明1@は,乙1発明と乙23発明等の循環流を組み合わせたにすぎない発明である旨主張するが,周知又は公知の「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との技術には,生成されたチャーをさらに微粒子とする工程を開示するものはなく,乙1発明に上記技術を組み合わせても,本件発明1@の構成は得られない。
ウ乙23発明は,廃棄物を焼却する焼却炉に関する発明であり,炉内に供給された焼却物は,循環流中で焼却されてしまい,可燃ガス及びチャーの生成に関する記載はなく,可燃ガスとチャーを流動層からフリーボードに排出しているものではない。乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明のいずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を完結させているものであり,これらの発明において,ガス化してガスとチャーを生成し,可燃ガスとチャーを流動層炉から排出するという技術的事項を開示するものは一切ない。
乙1発明は,「可燃ガスと微細なチャーが生成される」というものであるから,相違点1に係る構成の作用機能を考慮すれば,乙23発明等に開示された技術と乙1発明とを組み合わせることに当業者は容易に想到することができない。
この点について,被控訴人は,相違点1は流動層炉の循環流の形成に係る構成なので,控訴人の上記主張事実が相違点1の認定に関係しない旨主張するが,被控訴人の主張は,相違点の認定判断における相違点に係る構成の技術的意義及び作用機能を全く無視するものである。本件発明1@ないしBにおいて,「流動層」を形成するのは,熱分解過程で生成されたチャーを流動層炉内でさらに微粒子とする処理を行うことで,溶融炉にガスとチャーを供給するためであるから,相違点1に係る公知例について,チャーを流動層炉から排出する作用機能を有するか否かは重要な意味を有している。また,被控訴人は,流動層式の焼却炉で廃棄物を燃焼させれば,可燃ガスとチャーが発生するのは当然のことであり,廃棄物を燃焼させて発生した可燃ガスとチャーが流動層からフリーボードに排出されて燃焼することが特開昭60-96823号公報(乙2,以下「乙2公報」という。)に記載されている旨主張するが,乙2公報は,乙2公報が開示する特定の構成を有する発明において,フリーボードで可燃ガスとチャーを燃焼することを記載しているものであり,この記載から,乙23発明においても,発生した可燃ガスとチャーが流動層からフリーボードに排出されて燃焼するものとされることはない。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その3)4ア相違点2に係る本件発明1@の「該廃棄物を該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」という構成は,廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,ガス化によって生成されたチャーを循環流中でさらに微粒子として,生成したガスに同伴しやすくして,ガスと微粒子となったチャーをともに次段の溶融炉に供給するための構成である。
これに対し,乙23発明は,焼却炉であり,焼却物の一部がガス化されるとしても,それは,焼却工程の一部であって,焼却物がガス化されてガスとチャーを生成する記載はなく,攪拌作用の結果により,焼却物は瞬時に燃焼し,炉内に供給された焼却物は循環流中で焼却されてしまうし,乙23発明は,ガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子とする工程を経て微粒子のチャーを得るものではない。
したがって,乙23発明は,相違点2に係る本件発明1@の構成を開示していないのであり,当業者は,乙23発明に開示された技術に基づき,相違点2に係る本件発明1@の構成に容易に想到することはできない。
また,仮に,乙23発明の「焼却物」とチャーの置き換えが可能であるとしても,乙23発明においては,循環流で焼却物は焼却されてしまうので,次段に可燃ガスとチャーを供給することはできず,当業者は,相違点2に係る本件発明1@の構成に容易に想到することはできない。
この点について,被控訴人は,本件発明1@と乙23発明の循環流の態様がTIF炉と控訴人が称している同一のものである旨主張するが,本件各発明の出願当時,本件発明1@の熱分解ガス化溶融炉が,従来の焼却炉やガス化炉における技術と異なる技術であることは,被控訴人自身が認めており(甲28),循環流の態様が同一であるから機能が類似しているという単純なものではない。
イ乙22発明の流動層は,石炭を燃焼させ,燃焼ガスとチャーを流動層から排出するものであるから,乙22発明は,次段で熱源として利用し得る可燃ガスと微粒子のチャーを得るという,相違点2に係る本件発明1@の構成は開示していない。なお,特開平2-195104号公報(乙22,以下「乙22公報」という。)には,未燃炭素分(チャー)が微小化される旨の記載があったとしても,対象物が小さくなる過程が存在することを意味するにとどまる「微小化」と,微粒子となったチャーを得ることを規定した本件各発明における「微粒子とし」との構成とは,その意味するところが全く異なる。乙24発明は,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その移動層と流動層から形成される循環流においてガス化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉からは,可燃ガスが排出され,チャーは例外的に排出されるものであるにすぎないものであるから,乙24発明は,次段で熱源として利用しうる可燃ガスと微粒子のチャーを得るという相違点2に係る本件発明1@の構成は開示していない。乙26発明は,流動層炉から燃焼排ガスを排出し,可燃ガスやチャーは完全燃焼してしまい排出されることはないから,乙26発明は,ガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子とすることを開示していないし,乙27発明も,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内で燃焼物は短時間に砂中で焼却されて燃え尽きてしまい,流動層炉からは燃焼排ガスが排出されるものである。
したがって,乙24発明,乙26発明及び乙27発明は,次段で熱源として利用し得る可燃ガスと微粒子のチャーを得るという本件発明1@の相違点2に係る構成を開示するものではないから,これらの発明に開示された技術に基づき,当業者は,相違点2に係る本件発明1@の構成に容易に想到することはできない。
被控訴人は,相違点2に係る,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,チャーを循環流中で微粒子とすることは,周知のTIF炉においても同じである旨主張するが,「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」との相違点2に係る本件発明1@の構成は,いずれの公知例にも開示されていないし,被控訴人が問題とするTIF炉は焼却炉であり,本件発明1@の熱分解ガス化溶融炉とは,全く異なる技術である。
ウ乙23発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明は,微粒子とされる過程を経て微粒子となったチャーを得ているものではなく,いずれも,流動層内における燃焼又はガス化の反応の完結により,焼却物は,流動層内で消えてなくなってしまうものであって,流動層内において完結される燃焼又はガス化反応によって消えてなくなる過程の中途の段階のものについて,これを殊更に取り上げて,微粒子のチャーを生成するための本件発明1@における「微粒子とし」との構成が開示されているとすることはできない。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その4)5乙1発明が解決しようとした課題は,具体的には,「本発明は,熱分解過程を流動層により行い,熱分解の生成ガス中に含まれるチヤー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して,このガスをサイクロン燃焼炉に導入し,此処で加圧空気によって可燃分(ガス及びチャー)を燃焼せしめることにより,従来の方式の上記の欠点を除き,熱媒体の凝塊形成がなく,灰分の集じん性能が良好であり,流動層炉の大きさも小さくなり,重金属の溶出も防がれ,またサイクロン焼却炉用の特別な微粉砕前処理を必要としない高性能でありかつコンパクトで構造簡単な固形物の焼却方法及びその装置を提供することを目的とするものである」(乙1の2頁左欄32行目〜43行目)。したがって,乙1発明は,熱分解の生成ガス中に含まれるチャーに着眼してされた発明であるのに対して,乙23発明は,チャーに触れるところはなく,その相違を考慮すれば,両者を組み合わせることは容易とはいえない。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その5)6乙1発明に乙23発明等に開示された技術を組み合わせて,装置前段の流動層炉でチャーの微粒子化を行い,次段のサイクロン燃焼炉に微粒子化されたチャーを供給すれば,微粒子化されたチャーを捕捉しきれず,一部サイクロン燃焼炉をすり抜けてしまうというキャリーオーバーの問題が生じ,乙1発明の目的に反する改変となり,その組合せには,明確な阻害事由がある。
サイクロン炉の捕集粒径には限界があり,例えば,1μm以下の粒径であると全く捕集できない(甲30)。したがって,乙1発明の流動層炉において生成されたチャーをさらに微粒子とすると,特公昭62-35004号公報(乙1,以下「乙1公報」という。)の図1に記載されているのと同様な構造のサイクロン燃焼炉では,捕捉し得ないチャーの量が増加することは明らかであり,キャリーオーバーの問題が必ず生じる。また,本件発明1@の出願当時,旋回流溶融炉に供給される灰分のうち,溶融炉で捕捉されてスラグとなる割合を示す溶融炉のスラグ化率は,高くても80%程度であり,残部がキャリーオーバーしていることは当業者の技術常識であった(甲51)。
また,原判決は,電気集じん器の設置が必須とされているわけではないなどの乙1公報の記載を前提として,「キャリーオーバーの問題が必ず生ずるとまではいい難い。」とするが,乙1発明は流動層炉で生成されたチャーをより微細な粒子とする工程を有するものではない。
乙1発明においては,流動層における熱分解により,チャー及び灰分が「一般の機械的集じん装置では充分に捕捉し得ない」微細粒子となっていることは解決すべき課題であり,この微細粒子を,サイクロン燃焼炉において,高負荷燃焼を行って,灰分をサイクロン内壁に捕捉溶融せしめて集じん性能を向上させるとともに溶融スラグとして取り出し,その結果,「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し,相乗的な極めて顕著な効果」を奏している。乙1発明のそもそもの課題である微細粒子がさらに微細になれば,発明の効果が得られず,また,逆に,粗くなると,サイクロン燃焼炉の課題を解決できない懸念が生ずる。このことを乙1発明においては,「両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅し」としているのであり,この「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを組み合わせること」は,従来技術の問題点を解決した唯一無二の組合せであり,他の組合せに置き換えることができないものであり,この置き換え不能な組合せを「チャー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して」と記載している。
したがって,乙1発明は,その流動層炉を本件発明1@のような循環流を備えた流動層炉などのチャーを微粒子とする流動層炉に置き換えるということを全く意図していない。
しかも,乙1発明は,サイクロン燃焼炉の前段として流動層を使用したため,キャリーオーバーの問題により,灰分の集塵性能に限界があるという問題を抱えていて,このような乙1発明の前段の流動層に,微粒子化の機能を有する循環流を採用すると,次段のサイクロン燃焼炉に,より微細なチャー等が多く供給されて,キャリーオーバーの問題がより拡大し,乙1発明の目的である微細な灰分の集じん性能向上という目的に反する改変となってしまうし,より微細なチャーを電気集じん器で捕集することとなり,「集じん後の発じん防止などに特別な対策を要する。」という,乙1発明において認識されていた課題そのものが拡大してしまい,発明の目的に逆行することとなるこのように,乙1発明に,乙23発明等に開示された技術を組み合わせることは,乙1発明の目的に反する改変となるのであり,その組合せには,阻害事由が明確に認められる。
原判決が,「装置前段の流動層炉でチャーの微粒子化を行い,後段のサイクロン燃焼炉に微粒子化されたチャーを供給したとしても,サイクロン燃焼炉の高性能化などの対策を採ることで対処ができる程度のものと推認される。」(155頁19行目〜22行目)と判示するとおり,サイクロン燃焼炉の高性能化などの対策をとらない限り,乙1発明の流動層炉に原判決の認定した意味でのチャーの微粒子化を行う技術を採用することは困難であるところ,本件第1特許権が出願された平成7年当時,サイクロン燃焼炉の高性能化がされていないことは,平成12年時点のサイクロン炉の捕集性能を示す文献(甲30)からも明らかである。したがって,原判決の判示内容は,乙1発明に,チャーをさらに微粒子化する技術を組み合わせることに阻害事由があることを明確に認めるものである。
被控訴人は,キャリーオーバーの問題の発生の有無は前段の流動層の問題ではなく,次段の旋回溶融炉の性能の問題であり,本件発明1@には,特に旋回溶融炉の性能についての限定はなく,その構成が乙1発明と同様であることから,阻害事由が否定される旨主張するが,乙1発明は,「集じん後の発じん防止などに特別な対策を要する」という課題を解決する目的のものであるのに対し,本件発明1@は,流動層炉において生成されたチャーをさらに微粒子として,より大量のチャーを次段の溶融炉に供給して,これを有効に利用できるとするものである。したがって,本件発明1@の発明の目的は,乙1発明の目的とは明確に異なっており,キャリーオーバーの問題が生じたとしても,それが発明の目的に反するというものではなく,被控訴人の主張は,全く異なる技術思想である両発明を,皮相的に比較するものである。引用発明の目的に反する改変という阻害事由は,発明の目的との関係で相対的に決まる。
( )原判決は,「乙23発明の流動層炉が焼却炉であるとしても,この炉の構7造を乙1発明の流動層炉として採用する場合には,適宜運転条件の調整を行うことにより,可燃ガスとチャーを生成することができるから,乙23発明を乙1発明と組み合わせることができないとはいえ(ない)」(原判決156頁2行目〜6行目)と判断した。
しかし,焼却炉の発明においては,可燃分を完全燃焼させるという技術思想のもと,各構成とその機能が規定されているのであり,それらの各構成の間においても相互に構成と機能とが密接に関連していて,乙1発明の流動層炉も,流動層熱分解炉として次段のサイクロン燃焼炉に可燃ガスと微細な粒子のチャーを供給するという目的のために各構成と機能が相互に密接に関連して規定されている。焼却炉としての流動層炉を,全く技術的思想を異にする乙1発明の熱分解炉に適用して,焼却炉と熱分解炉との相違に関連するいくつもの構成や機能への影響を考慮することなく,適宜運転条件の調整を行うことによりその特定の機能の相違を解消することができるということはできない。まして,運転条件を調整することにより,微細な粒子のチャーを供給することはできない。「適宜運転条件の調整」が仮に可能だとしても,それは,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーを循環流の作用でさらに微粒子とするという技術的事項の開示が前提であるところ,乙1発明にも乙23発明にもそのような技術的事項の開示は一切ない。
被控訴人は,熱分解炉と焼却炉とは,ほとんど同じ技術のうちの運転条件の差程度の区別にすぎない旨主張するが,被控訴人の代表者が述べるとおり(甲28),本件発明1@の熱分解ガス化溶融炉と従来の焼却炉等の技術とはコンセプトが全く違うものである。
( )本件発明1ABの進歩性判断の誤り8本件発明1@に進歩性があるから,その従属項である本件発明1A,Bは進歩性がある。
〔被控訴人の主張〕( )本件発明1@ないしBの技術的意義について1控訴人が主張する本件発明1の技術的意義は,特許請求の範囲の記載に基づく主張ではない上,本件明細書1の記載とも矛盾する。
本件明細書1では,従来技術の問題点として,チャーが生成ガスに同伴して炉外に飛散することを掲げているのであるから,控訴人が本件発明1@ないしBの技術的意義であると主張している「多量のチャーを微粒子とすることでガスに同伴させやすくして溶融炉に供給する」との技術的事項は,本件発明1@ないしBの特徴ではなく,むしろ,解決すべき従来技術の問題点として記載されている事項である。本件明細書1の実施例においても,チャーを循環流中で効率良くガス化・燃焼することによって高いガス化効率と良質の可燃ガスを得ることが記載されているのであって,本件発明1@ないしBは,チャーを多量に発生させず,ガス化してしまう発明とされているのである。
控訴人が,その主張する技術的意義の根拠として挙げる本件明細書1の記載において,「タール,チャーの可燃分を多量に含む」とか,「微粒子状態で溶融燃焼炉に搬送されたチャーを利用する」とかの記載は全くない。他方,本件明細書1の段落【0011】,【0022】,【0030】,【0035】及び【0038】には,チャーを循環流中で効率良くガス化,燃焼することによって,高いガス化効率と良質の可燃ガスを得ることが明確に記載されており,本件発明1@ないしBの意義が,チャーを大量に発生させず,可能な限り可燃ガス化してしまうことによって,できるだけチャーよりも燃焼効率の良い可燃ガスの形態で溶融炉に送り込もうとし,付随的にチャーやタールが含まれた状態で溶融炉に供給することで,段落【0057】にいう,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を溶融燃焼炉で利用しようとしているものであることは明らかである。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その1)について2控訴人は,本件発明1@が炉内に供給された廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーについて,循環流中でさらに微粒子として,流動層炉からガスと微粒子となったチャーを溶融炉に供給するようにしたものである旨主張するが,本件発明1@の特許請求の範囲には,「該チャーを該循環流中で微粒子とし」と記載されているだけで,「さらに微粒子とする」とは記載されていないのであるから,乙1発明についても,「さらに微粒子とする」という構成を認定する必要はない。
乙1発明において,すでに微細なチャーができていて,それが炉内にとどまらないというのであれば,そのようなチャーは,本件発明1@における「さらに微粒子化」がされているということとなり,乙1発明においても,本件発明1@の課題が解決され,本件発明1@と同様の作用効果が奏されていることになる。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その2)について 3ア控訴人は,本件発明1@がガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子として可燃ガスとともに得ることを規定していることを前提として,乙1発明が同構成を開示していない旨主張するが,本件発明1@は,生成されたチャーをさらに微粒子とするものではない。
また,控訴人は,本件発明1@がガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子として可燃ガスとともに得ることを規定していることを前提として,乙23発明,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明が同構成を開示していない旨主張するが,生成されたチャーをさらに微粒子とするという構成は本件発明1@の構成ではないし,乙23発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明の循環流と本件発明1@の循環流は同一であるから,控訴人の主張は理由がない。
イ控訴人は,乙1発明に「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用すると,乙1発明そのものの機能を変質させる旨主張するが,乙1発明は,流動層炉の流動媒体の流れを特に限定していないのであるから,その流動媒体の流れを循環流としても,その機能が変質することはない。本件明細書1には,乙1発明を引用した上で,その課題を流動層に循環流を採用することで解決したことが記載されているのであるから,本件各発明は,乙1発明に乙23発明等に開示された循環流を組み合わせたにすぎない発明なのであり,乙1発明も乙23発明等も,ともに流動層で可燃ガスと微細なチャーが生成されるという機能において何ら相違するものではないから,控訴人の主張は失当である。
さらに,乙23マイクロフィルムには,乙1発明に類似する流動層炉と本件発明1@に類似する流動層炉が併記されていて,乙23発明の構成を乙1発明と組み合わせる動機付けが記載されている。
そして,そもそも,流動層炉は,特開昭55-102682号公報(乙73,以下「乙73公報」という。)に記載されているように,循環流の有無にかかわらず,「空気量の調整」(酸素量の調整)によって,ガスとチャーを生成するガス化を行ったり,焼却を行ったりできるものであり,流動層炉である乙1発明に,乙23発明等で開示された「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用することは困難ではなく,また,これを組み合わせたからといって,乙1発明のガスとチャーを生成するという流動層の機能は変質しない。
仮に,控訴人の主張が,乙1発明に乙23発明等に開示された循環流を組み合わせると問題が発生するという趣旨であれば,本件発明1@は乙1発明と乙23発明等に開示された循環流を組み合わせたにすぎない発明なのであるから,本件発明1@自体に問題があるということにほかならず,失当である。
ウ控訴人は,乙23発明には可燃ガス及びチャーの生成に関する記載はなく,可燃ガスとチャーを流動層からフリーボードに排出しているものでないから,乙23発明を乙1発明に組み合わせることはできない旨主張するが,相違点1は,流動層炉の循環流の形成に係る構成なのであるから,控訴人主張の事実は,相違点1の認定判断とは関係がない。また,流動層式の焼却炉で廃棄物を燃焼させれば,可燃ガスとチャーが発生するのは当然の物理現象であり,また,発生した可燃ガスとチャーが流動層からフリーボードに排出されて燃焼することも,乙2公報に記載されているとおり,当業者であれば当然に理解できることである。乙23発明に,可燃ガス及びチャーの生成に関する直接的な記載がないのは,記載するまでもないからにすぎない。
また,控訴人は,乙22発明等がガス化してガスとチャーを生成し,それらを流動層炉から排出することを開示するものでないから,乙1発明に,組み合わせることに容易に想到することができない旨主張するが,控訴人が主張するガスとチャーの生成等の事項は,技術常識であり,開示の有無は問題とならない。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その3)について4ア控訴人は,相違点2に係る本件発明1@の「該廃棄物を該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」との構成について,ガス化によって生成されたチャーを循環流中でさらに微粒子として,生成したガスに同伴しやすくし,ガスと微粒子となったチャーをともに次段の溶融炉に供給するための構成である旨主張するが,本件発明1@には,控訴人が主張するような技術的意義はなく,本件明細書1には,控訴人主張の技術的意義と正反対のことが記載されている上,チャーをさらに微粒子とするとの構成は本件発明1@の請求項には記載されていないから,控訴人の主張は,その主張の前提において誤っている。
流動層炉で廃棄物を燃焼させればガスとチャーが生成するのは周知の物理現象であり,その生成されたチャーが流動攪拌により破壊されれば微粒子となるのは当然であって,本件発明1@との対比では,チャーが「微粒子」となっていれば足りるのであるから,乙23発明における開示で十分である。
控訴人が主張する,本件発明1@と乙23発明の循環流の態様は,TIF炉と控訴人が称しているのと同一のものである。
イ控訴人は,相違点2に係る構成について,根拠とされた乙23発明等には,相違点2に係る本件発明1@に係る「微粒子とし」との構成を有するとともに,「可燃ガスと微粒子のチャー」を得ているものはなく,相違点2に係る構成を周知技術とすることはできない旨主張する。
しかし,相違点2に係る本件発明1@の構成である,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,チャーを循環流中で微粒子とすることは,乙23マイクロフィルムに記載されている。また,控訴人がTIF炉と称する循環流を有する流動層炉は,30年近く前から控訴人が発表を続けてきたものであり,これら周知のTIF炉においても循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,チャーを循環流中で微粒子としている。控訴人は,上記TIF炉が焼却炉である旨主張するが,TIF炉に関する乙26発明は,実施例は焼却炉であるが,発明の名称及び請求項からも,「熱反応炉」に関する発明で,熱分解炉(ガス化炉)についても開示しており,乙25発明も流動層に循環流を有する「熱反応装置」に関する発明であり,焼却炉と熱分解炉は,極めて隣接したほぼ同一の技術分野に属するものと広く認識されている。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その4)について5控訴人は,乙1発明は,「熱分解の生成ガス中に含まれるチャー」に着眼してされた発明であるのに対し,乙23発明は,チャーに関して触れておらず,この相違を考慮すれば,両者を組み合わせることは容易とはいえない旨主張するが,乙23発明において,チャーが生成されることは,周知の事項である。また,仮に,控訴人の主張が,乙1発明と乙23発明の課題が相違するから両者を組み合わせることは容易とはいえないとの意味の主張であるとすれば,乙23マイクロフィルムにおいて,乙1発明と同様な図が開示されている(第1図)ことからも明らかなとおり,両者の技術分野は極めて共通しているのであるから,両者の課題と作用・機能の相違がその組合せを困難にするほどのものとはいえない。
( )本件発明1@の進歩性判断の誤り(その5)について6控訴人は,乙1発明に乙23発明等を組み合わせて,「装置前段の流動層炉でチャーの微粒子化を行い,次段のサイクロン燃焼炉に微粒子化されたチャーを供給」すれば,キャリーオーバーの問題が生じ,乙1発明の目的に反する改変となり,その組合せには阻害事由がある旨主張する。
しかし,キャリーオーバーの問題の発生の有無は前段の流動層の問題ではなく,次段の旋回溶融炉の性能の問題である。本件発明1@には,特に旋回溶融炉の性能についての限定はなく,その構成は,乙1発明と同様である。
本件発明1@においてキャリーオーバーの問題が生じないのであれば,乙1発明に乙23発明を組み合わせた場合にもキャリーオーバーの問題は生じないはずであるし,本件発明1@においてキャリーオーバーが生じたとしても問題としないのであれば,乙1発明と乙23発明を組み合わせた場合にもやはり同様にこの点を問題とする必要がなく,いずれにせよ,控訴人の主張は理由がない。
また,乙1発明において,1μm以下の粒径のチャーがキャリーオーバーの問題を引き起こすのであれば,それを捕捉できるようにサイクロン燃焼炉の高性能化等などの対策をとれば済むことである。控訴人は,本件発明1@の出願当時の溶融炉のスラグ化率が高くても80%程度であり,残部がキャリーオーバーしていることは当業者の技術常識であると主張しているが,本件発明1@において控訴人が主張するようにチャーがさらに微粒子となっているのであれば,本件発明1@において,キャリーオーバーされる割合は,20%を超えることとなるが,これは,チャーがさらに微粒子化された場合,本件発明1@が実施できなくなるという意味で,控訴人の主張が誤っているか,キャリーオーバーが大きな問題ではないかのいずれかであるのであり,いずれにしても控訴人主張の阻害事由は存在しない。
( )控訴人は,乙23発明の流動層炉が焼却炉であるとしても,適宜運転条件7調整を行うことにより,可燃ガスとチャーを生成することができるとして,乙23発明を乙1発明と組み合わせることができないとはいえないとした原判決の判断を争っている。
しかし,乙73公報にあるとおり,熱分解炉と焼却炉の差は,空気量の問題にすぎず,空気量を少なくして発生する熱量を抑え目に調整すれば,熱分解炉(この場合の温度は450〜550℃程度)にできるし,逆に,空気量を増やして発生する熱量を上げると,焼却炉となる。このように,熱分解炉と焼却炉とは,ほとんど同じ技術のうちの運転条件の差程度の区別にすぎないのであるから,乙23発明を乙1発明と組み合わせることができないとはいえないとした原判決の判断に誤りはない。
( )本件発明1ABの進歩性判断の誤りについて8本件発明1@に進歩性がないから,本件発明1@に単に周知技術を付加しただけの従属請求項である本件発明1A及びBも,明らかに進歩性がない。
3争点()(本件発明2@,Aに係る特許が無効にされるべきものか否か)に13ついて〔控訴人の主張〕( )本件発明2@は,本件発明1Aに構成要件2F@及びAを付加したもので1あり,本件発明1Aに進歩性があるから,本件発明2@は進歩性がある。
( )本件発明2Aの「流動層温度が450℃〜650℃に維持される」という2数値範囲は,循環流を備えた流動層において,次段の溶融炉に多量に生成したチャーを安定して供給するという効果を企図し,その温度範囲を最適化しようとして規定されたものである。ガス化溶融炉において,次段の溶融炉に,循環流の作用により多量に生成したチャーを安定して供給するという効果を得るという目的,課題自体が新規なものであり,当業者は,この課題自体を知らないのであるから,それを最適化する数値範囲を知ることはできず,その数値範囲について,当業者は容易に想到することができない。
原判決が周知性の根拠として挙げる乙2公報に記載された発明,乙28発明,乙30発明は,いずれも,本件発明2Aの課題を開示するものではないから,本件発明2Aの規定する温度範囲は,容易に想到することができるものではない。
被控訴人は,本件発明2Aの温度範囲の限定は,ガス化炉部分の構成が「ガス化炉」であるといっているにすぎないものであり,「流動層温度が450℃〜650℃に維持される」という数値範囲は,当業者における技術常識を請求項に記載しただけのものである旨主張するが,被控訴人自身,その製品の温度範囲を本件発明2Aの温度範囲の限定とほぼ同じにするに当たり,単に,熱分解ガス化炉だからという理由ではなく,ガス化反応を緩慢にして,大量のチャーを次段の燃焼溶融炉に安定的に供給するという,本件発明2Aと同一の理由で設定している(甲17,44)。
〔被控訴人の主張〕( )控訴人は,本件発明1Aに進歩性があるから,本件発明2@は進歩性があ1る旨主張するが,本件発明1Aに進歩性がないから,本件発明2@も進歩性がない。
( )控訴人は,本件発明2Aの目的,課題自体が新規なものであるから,当業2者は最適化する数値範囲を知ることはできず,「流動層温度が450℃〜650℃に維持される」という数値範囲を当業者が容易に想到することができなかった旨主張するが,対象をガス化するためにどの程度の温度が必要かという問題は,単なる物理現象の問題であるから,温度範囲の限定は,ガス化炉部分の構成が「ガス化炉」であるといっているにすぎないものであり,「流動層温度が450℃〜650℃に維持される」という数値範囲は,当業者における技術常識を請求項に記載したというだけの構成要件であり,その技術的意義を述べても,進歩性を肯定するものとはなり得ない。また,そもそも,本件発明2Aに,控訴人が主張するような技術的意義など存在せず,存在しない技術的意義に基づいて,本件各発明の目的,課題自体が新規なものであるとの主張は,その前提を欠いたものであり,失当である。
また,仮に,「ガス化溶融炉において,次段の溶融炉に,循環流の作用により,多量に生成したチャーを安定して供給する」ということが本件各発明の課題であるとしても,そのような課題は,乙1発明において既に存在していた。
4争点()(本件発明3に係る特許が無効にされるべきものか否か)について14〔控訴人の主張〕( )本件発明3は,流動層に吹き込む流動化ガスとして,質量速度が比較的小1さい流動化ガスを供給する手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気を用いて流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その流動媒体の流れを有する流動層において,流動層炉内に流動媒体の循環流という定常的な流動媒体の流れと,循環流中に空気量の比較的少ない部分と多い部分を形成し,このような流動層炉において,廃棄物をガス化して可燃ガスとチャーを生成し,次段の溶融炉に可燃ガスとチャーを供給しているものである。
構成要件3B@ないしBに係る構成について,開示があるとして引用され,又は,当該構成が周知技術であることの根拠とされた文献(乙22ないし24,26,27)のいずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を完結させるのであって,流動層から可燃ガスとチャーをともに排出していないものであるから,次段の溶融炉に可燃ガスとともにチャーを供給するという本件発明3の構成は開示されていない。なお,乙24発明は,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その移動層と流動層から形成される循環流においてガス化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉からは,可燃ガスが排出され,チャーは例外的に排出されるものであるにすぎない。
したがって,乙1発明の「可燃ガスと微細なチャーが生成される」という流動層に,ガス化反応や燃焼を完結させて「可燃ガスとチャーをともに排出」していない発明が開示する技術を基に,相違点5に係る構成に当業者が容易に想到することはできない。
被控訴人は,可燃ガスとチャーが発生しない流動層など現実的にあり得ない旨主張するが,乙1発明以外の流動層においては,可燃ガスとともにチャーを排出するという技術を開示していないのであり,また,流動層において出現するか不明で,出現しても一時的なものである可燃ガスとチャーについて,可燃ガスとチャーが発生しない流動層など現実的にあり得ないという主張は,相違点5との関係では無意味である。さらに,被控訴人は,乙2公報にフリーボードで可燃ガスとチャーが燃焼することが記載されている旨指摘するが,乙2公報に記載されているのは,従来のバブリング型流動層であり,相違点5には全く関係がなく,被控訴人の主張は意味不明である。
( )相違点5に係る,「該流動層炉は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを2供給する流動化ガス供給手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する流動化ガス供給手段を備え,該質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段と,該質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段から供給される流動化ガスはともに空気とし,該流動化ガスを炉内に供給して該炉内に流動媒体の循環流を形成し」(構成要件3B@ないしB)という構成は,焼却炉において周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,公知でもない。
流動層焼却炉において循環流を形成する場合には,質量速度の比較的小さい流動化ガスと質量速度の比較的大きい流動化ガスは,ともに燃焼用空気とされるのに対し,流動層ガス化炉において循環流を形成する場合には,質量速度の比較的小さい流動化ガスと質量速度の比較的大きい流動化ガスにはガス化剤が使用される。相違点5に係る上記技術について,流動化ガスとして可燃物を燃焼させるために空気を用いていた焼却炉の技術分野において周知の技術手段であるからといって,可燃分を燃焼により消費しないで,可燃分として回収するために空気以外のガス化剤を流動化ガスとして用いていたガス化炉の技術分野においてまで,周知の技術手段であるとすることはできない。ガス化炉に係る乙24発明は,流動化ガスを空気以外のガス化剤としている。
〔被控訴人の主張〕控訴人は,構成要件3B@ないしBに係る構成について,開示があるとして引用され,当該構成が周知技術との根拠とされた文献には,可燃ガスとともにチャーを排出するという本件発明3の構成は開示されていない旨主張するが,可燃ガスとチャーが発生しない流動層など現実的にあり得ない。
乙24発明は,ガス化効率の向上を目的とした流動層ガス化炉に関し,流動層炉としてのガス化炉から生成したガスとチャーがともに排出されることを開示し,乙2公報にも,フリーボード(空塔部10)で可燃ガスとチャーを燃焼することが記載されている。
5争点()(本件発明4@ないしBに係る特許が無効にされるべきものか否15か)について〔控訴人の主張〕( )本件発明4@ないしBの技術的意義について1本件発明4@ないしBは,その特許請求の範囲の記載及び本件明細書3の段落【0031】,【0059】の記載のとおり,流動層において生成されたチャーに対して,さらに,抑制された燃焼反応が継続されるようにした上で,可燃ガスとともに次段の溶融炉に送り,可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用するものであり,ガスとチャーを生成するガス化の工程と,ガス化生成物(チャー)の抑制された燃焼反応が継続される工程という,2段の工程からなるものである。このように,本件発明4@ないしBは,乙1発明とは異なり,単に,チャーが生成されるだけではなく,さらに,抑制された燃焼反応が継続されることが必要であり,乙1発明とは明確に区別される。
この2段の工程について,特許請求の範囲の記載上,場所的,時間的限定はない。
( )本件発明4@の進歩性判断の誤り(その1) 2本件発明4@は,流動層において生成されたチャーに対して,さらに,流動媒体が上昇する流動層において抑制された燃焼反応が継続されるようにした上で,可燃ガスとともに次段の溶融炉に送り,可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用するものである。
これに対し,乙1発明における「部分燃焼」は,廃棄物を対象とし,廃棄物の一部を燃焼させることであって,その熱により残部の廃棄物の熱分解を行なわせてガスとチャーを生成する過程における反応であり,生成されたチャーを,さらに,流動層において燃焼量を最小限に抑えて燃焼させる工程に関する記載はない。
したがって,本件発明4@は,生成されたチャーに対し,流動媒体が上昇する流動層において抑制された燃焼反応が継続されるようにする構成を有するのに対して,乙1発明の部分燃焼は,流動層におけるチャーの生成過程における反応にすぎず,生成されたチャーについてさらに抑制された燃焼反応が継続されるものでないので,この点において明らかに相違している。
原判決は,本件発明4@の技術的意義を見誤り,乙1発明を誤って認定したために,相違点の認定を誤ったものである。
被控訴人は,本件発明4@の「抑制された燃焼反応」が乙1発明の「部分燃焼」と異なるのか明らかでない旨主張するが,請求項1にも明確に規定されているように,本件発明4@は,ガスとチャーを生成するガス化の工程と,ガス化生成物(チャー)の抑制された燃焼反応が継続される工程というチャーを処理する工程との,2段の工程からなることは明らかであり,このチャーを処理する「抑制された燃焼反応が継続されるようにし」と,乙1発明の原料の一部が燃焼する「部分燃焼」とは明らかに異なるものである。
( )本件発明4@の進歩性判断の誤り(その2)3原判決は,循環流の形成の有無に関する相違点7,流動媒体が上昇する流動層の温度に関する相違点8について,本件発明1A,本件発明2Aにおける容易想到性判断と同様の理由により,「相違点7は乙23発明等によって開示されている。・・・相違点8は当業者が周知技術に基づいて容易に設定し得た設計的事項にすぎない。」(166頁下から2行目〜167頁1行目)として,当業者が容易に想到することができたと判断したが,本件発明1A,本件発明2Aについての原判決の判断は誤りであり,相違点7及び8に係る本件発明4@の構成について,当業者は,容易に想到することができない。
( )本件発明4A及びBの進歩性の判断の誤りについて4本件発明4@に進歩性があるから,その従属項である本件発明4A,Bも,進歩性がある。
〔被控訴人の主張〕( )本件発明4@ないしBの技術的意義について1控訴人は,本件発明4@ないしBについて,ガスとチャーを生成するガス化の工程と,ガス化生成物(チャー)の抑制された燃焼反応が継続される工程という,2段の工程からなるものである旨主張するが,仮に,控訴人が時間的な関係から2段の工程からなると主張しているのであれば,特許請求の範囲には「ガスとチャーを生成し,・・・抑制された燃焼反応が継続されるようにし」と記載されているだけであり,本件明細書3(甲3の2)を精査しても,時間的に2段の工程からなるとの記載はない。むしろ,流動層炉においては,廃棄物が投入されている限り,ガスとチャーが流動層中で常に生成し続け,この間に抑制された燃焼反応も継続されているのであるから,時間的な関係から2段の工程からなることはありえない。一方,控訴人の主張する2段の工程の意味が,ガスとチャーを生成するガス化の工程と抑制された燃焼反応が継続される工程が,「移動層」と「流動層」という循環流中の明確に異なる場所で起きているという,場所的に2段の工程からなるという意味であるならば,それは,乙23発明等に記載された,いわゆるTIF炉として周知の構成であるから,この点をもって進歩性を有するといえない。
( )本件発明4@の進歩性判断の誤りについて2控訴人は,本件発明4@は,生成されたチャーに対して,抑制された燃焼反応が継続されるようにする構成を有するのに対して,乙1発明の部分燃焼は,流動層におけるチャーの生成過程における反応にすぎない旨主張するが,控訴人が主張する「抑制された燃焼反応」がどのような反応で,どのような点で乙1発明の「部分燃焼」と異なるのかは明確ではなく,本件明細書3をみても明らかではない。むしろ,本件明細書3の段落【0031】には「流動層10の温度は,450〜650℃に維持され,抑制された燃焼反応が継続するようにされる。」とあり,「抑制された燃焼反応」は450℃〜650℃という温度によるものとされているのであるから,これはまさに「部分燃焼」をいうものと解釈するのが自然である。それにもかかわらず,仮に,「抑制された燃焼反応」などという用語を一般的な用語とは異なる意味で記載しているというのであれば,その意味を明細書で定義すべきであることは当然であって,控訴人の主張は,明細書の記載に基づかないものである。
( )本件発明4A及びBの進歩性判断の誤りについて3本件発明4@に進歩性がないから,本件発明4A及びBも進歩性がない。
6争点()(本件発明5に係る特許が無効にされるべきものか否か)について16〔控訴人の主張〕本件発明5は,本件発明4@ないしBをまとめたもので,本件発明4@ないしBに進歩性があるから,本件発明5は進歩性がある。
〔被控訴人の主張〕本件発明4@ないしBに進歩性がないから,本件発明5は進歩性がない。
7争点()(本件発明6@ないしBに係る特許が無効にされるべきものか否17か)について〔控訴人の主張〕( )本件発明6@と乙1発明とは,相違点11並びに本件発明4@と乙1発明1との相違点である相違点7及び8で相違するところ,相違点7及び8に係る本件発明4@の構成について,当業者は容易に想到することができなかったから,本件発明6@は進歩性がある。
( )相違点11に係る本件発明6@の構成要件6E「生成されたチャーの一部2を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成は,特許請求の範囲に「生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ,該流動層炉より該ガスと該チャーを供給して灰分を熔融する熔融炉を備えたことを特徴とするガス化及び熔融装置。」と記載されているように,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ,燃え残って微粒子となったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に送るためのものである。
乙1発明は,このような技術的事項を開示していないし,乙23発明及び周知技術においても,「生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」,次段の溶融炉に可燃ガスとチャーを送るという技術的事項を開示していない。
したがって,乙1発明に乙23発明又は周知技術を組み合わせることにより,当業者において,相違点11に係る本件発明6@の構成に容易に想到することはできない。
( )本件発明6@に進歩性があるから,その従属項である本件発明6A,Bも3進歩性がある。
( )本件発明6Bは,「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる4流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え,前記流動層炉内には流動化ガスとして空気を供給することを特徴とし,該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成を有する。そして,本件発明6Bは,流動層において熱分解(ガス化)を行いガスとチャーを生成し,生成された流動層炉内にとどまりがちな生成したチャーを,流動層炉外に抜き出すことなく,流動層内でその一部を燃焼させ,燃え残って微粒子となったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に供給するようにしたものである。このため,炉内に流動化ガスとして空気を供給し,質量速度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給することにより,上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を形成して,廃棄物を流動媒体の沈降する流動媒体中でガス化してガスとチャーを生成し,生成したチャーを,フリーボードに上昇するガスと分離して,流動媒体の循環流により流動媒体が沈降する部分の底部から流動媒体が上昇する流動層の底部に循環させ,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,その一部を燃焼させて,燃え残って微粒子となったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に供給するようにしている。
これに対して,乙1発明には,本件発明6Bの,該循環流の沈降する流動媒体中における「ガス化してガスとチャーを生成し」に対応する,流動層中における,部分燃焼を伴う「熱分解過程によりガスとチャーを生成し」は存在するが,ガス化により生成されたチャーを質量速度が比較的大きい流動化ガスによって流動化され流動媒体が上昇する流動層において燃焼させ,チャーの一部を燃焼させて,燃え残った微粒子のチャーを得るという本件発明6Bの「流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成はない。
そして,乙23発明,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明のいずれの流動層炉においても「該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成を開示するものではなく,これらの循環流を乙1発明に適用したとしても本件発明6Bの構成に想到することはない。〔被控訴人の主張〕控訴人は,本件発明6@の「生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成は,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ,燃え残って微粒子となったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に送るためのものであるのに対し,乙1発明は,このような技術的事項を開示していない旨主張する。
しかし,乙23マイクロフィルム等に示された流動媒体の循環を示す矢印から明らかなように,乙23発明等にも,本件各発明と同様に流動媒体が上昇する流動層が存在するものであるから,生成されたチャーの一部について,流動媒体が上昇する流動層で燃焼しないということは物理的にありえず,控訴人の主張は,当業者の技術常識から逸脱したものであり,明らかに失当である。
また,本件発明6@に進歩性がないので,本件発明6A及びBも進歩性がない。
8争点()(本件発明7に係る特許が無効にされるべきものか否か)について18〔控訴人の主張〕本件発明7の構成要件7E(生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ)は,本件発明6@の構成要件6Eと実質的に同一であるが,本件発明6@に進歩性があるから,本件発明7も進歩性がある。
〔被控訴人の主張〕本件発明6@に進歩性がないので,本件発明7も進歩性がない。
9争点()(本件発明8に係る特許が無効にされるべきものか否か)について19〔控訴人の主張〕本件発明8は,構成要件8F(前記熔融炉は,酸素又は酸素と空気の混合気体を供給するノズルを備えたこと)を除いて,本件発明4@ないしB,5,6@ないしB又は7と同じであるところ,本件発明4@ないしB,5,6@ないしB又は7にいずれも進歩性があるから,本件発明8も進歩性がある。
〔被控訴人の主張〕本件発明4@ないしB,5,6@ないしB又は7に進歩性がないので,本件発明8も進歩性がない。
第4当裁判所の判断1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり,当審における当事者の主張についての判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第4の4ないし11(原判決126頁14行目〜176頁19行目。ただし,新規性の有無についての判断部分〔131頁6行目〜132頁12行目,166頁19行目〜22行目及び171頁14行目〜16行目〕を除く。)のとおりであるから,これを引用する。
2争点()(本件発明1@ないしBに係る特許が無効にされるべきものか否12か)( )控訴人は,本件発明1@ないしBの進歩性の前提として,その技術的意義1を主張するので,本件明細書1(甲1の2)をみると,次のとおりの記載がある。
ア「【産業上の利用分野】本発明は,流動層炉において可燃物をガス化し,生成された可燃ガス及び微粒子を熔融燃焼炉において高温燃焼させ灰分を熔融する方法及び装置に関する。」(段落【0001】)イ「【従来の技術】近年,多量に発生する都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物を焼却し減量化すること,及びその焼却熱を有効利用することが望まれている。廃棄物の焼却灰は,通常,有害な重金属を含むので,焼却灰を埋め立てにより処理するためには,重金属成分を固化処理する等の対策が必要である。これらの課題に対応するため,特公昭62-35004号公報(注,乙1公報)の固形物の燃焼方法及びその装置が提案された。この公報の燃焼方法においては,固形物原料が流動層熱分解炉において熱分解され,熱分解生成物,即ち,可燃ガス及び粒子,がサイクロン燃焼炉に導入される。サイクロン燃焼炉の中で加圧空気により可燃分が高負荷燃焼され,旋回流により灰分が壁面に衝突し溶けて壁面を流下し,熔融スラグとなって排出口から水室へ落下し固化される。特公昭62-35004号公報の方法においては,流動層全体が活発な流動化状態であるため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応可燃分が多いため,高いガス化効率が得られない等の短所があった。また,従来,流動層炉が使用できるガス化原料としては,石炭等の場合は,粒径0.5〜3mmの粉炭,廃棄物の場合は,数十mmの細破砕物とされてきた。これより大きいと流動化を阻害するし,これより小さいと完全にガス化されないまま未反応可燃分として生成ガスに同伴して炉外へ飛散してしまう。従って,これまでの流動層炉では,ガス化原料を炉に投入する前の前処理として,予め粉砕機等を用いて破砕・整粒することが不可欠であり,所定の粒径範囲に入らないガス化原料は,利用できず,歩留まりをある程度犠牲にせざるをえなかった。」(段落【0002】,【0003】)ウ「上記の問題を解決するため,特開平2-147692号公報(注,以下「乙24公報」という。)の流動層ガス化方法及び流動層ガス化炉が提案された。この公報の流動層ガス化方法においては,炉の水平断面が矩形にされ,炉底中央部から炉内へ上向きに噴出される流動化ガスの質量速度が,炉底の2つの側縁部から供給される流動化ガスの質量速度より小さくされ,炉底側縁部の上方で流動化ガスの上向き流が炉中央部へ転向され,炉中央部に流動媒体が沈降する移動層が形成され,炉の両側縁部に流動媒体が活発に流動化する流動層が形成され,移動層に可燃物が供給される。
流動化ガスは,空気と蒸気の混合物,又は酸素と蒸気の混合物であり,流動媒体は,珪砂である。しかしながら,この特開平2-147692号公報の方法は,次の短所を有する。即ち,(1)移動層及び流動層の全体において,ガス化吸熱反応と燃焼反応が同時に生じ,ガス化し易い揮発分がガス化すると同時に燃焼され,ガス化困難な固定炭素(チャー)やタール分等は,未反応物として生成ガスに同伴して炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られない。(2)生成ガスを燃焼させ蒸気及びガスタービン複合発電プラントに使用する場合,流動層炉を加圧型とすることが必要であるが,炉の水平断面が矩形のため,加圧型とすることが困難である。好ましいガス化炉の内圧は,生成ガスの用途によって決定される。一般の燃焼用ガスとして使用する場合は,数千mmAq程度で良いが,ガスタービンの燃料として使用する場合は,数kgf/cm 以上が必要であり,更に,高効22率ガス化複合発電用の燃料として使用する場合には十数数kgf/cm以上が適当である。」(段落【0004】,【0005】)エ「都市ごみ等の廃棄物処理については,依然として可燃性ごみの燃焼による減量化が,重要な役割を担っており,それに付随して,近年,ダイオキシン対策,媒塵の無害化,エネルギー回収効率の向上等,環境保全型のごみ処理技術の必要性が増大している。我が国の都市ごみの焼却量は,約100,000トン/日であり,都市ごみ全量のエネルギーは,我が国の消費電力量の約4%に相当する。現在,都市ごみのエネルギーの利用率は,約10%に止まっているが,利用率を高めることができれば,それだけ化石燃料の消費量が少なくなり,地球温暖化防止にも寄与できる。しかしながら,現在の焼却システムは,次の問題を含んでいる。即ち,▲1▼HCによる腐食の問題があり,発電効率を高くできない。▲2▼HC ,NO□ □x,SOx,水銀,ダイオキシン等に対する公害防止設備が複雑化してコスト及びスペースが増大している。▲3▼法規制の強化,最終処分場の用地難等により,焼却灰の熔融設備の設置が増大しているが,そのため別設備の建設が必要であり,また電力等を多量に消費している。▲4▼ダイオキシンを除去するには,高価な設備が必要である。▲5▼有価金属の回収が困難である。」(段落【0006】,【0007】)オ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,従来技術の前記の問題点を解消することにあり,都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物や石炭等の可燃物から多量の可燃分を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成された可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を熔融することができる処理方法及びガス化及び熔融燃焼装置を提供することにある。本発明においては,熔融炉へ供給される生成ガスは,自己熱量により1300℃以上の高温を発生するような充分な熱量を持ち,チャー,タールを含む均質なガスであるようにされ,またガス化装置から不燃物の排出が支障なく行われるようにされる。本発明の別の目的は,廃棄物中の有価金属を還元雰囲気の流動層炉内から酸化しない状態で取出し回収できるガス化方法及び装置を提供することにある。本発明の更に別の目的は,図面を参照する実施例の説明において明らかにされる。」(段落【0008】)カ「【作用】本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。」(段落【0020】)キ「本発明においては,流動層炉へ供給される中央流動化ガスの質量速度が,周辺流動化ガスの質量速度より小にされ,炉内周辺部上方における流動化ガスの上向き流が炉の中央部へ向うように転向され,それによって,流動媒体の沈降拡散する移動層が炉の中央部に形成されると共に,炉内周辺部に流動媒体が活発に流動化している流動層が形成される。炉内へ供給された可燃物は,移動層の下部から流動層へ及び流動層頂部から移動層へ,流動媒体と共に循環する間に可燃ガスにガス化される。可燃物は,最初に,炉中央の下降する移動層の中で,主として揮発分が流動媒体(一般的には,硅砂を使用)の熱によりガス化される。そして,移動層を形成する中央流動化ガスの酸素含有量が,小さ(い)ため,移動層内で生じた可燃ガスは,ほとんど燃焼されずに中央流動化ガスと共にフリーボードへ上昇され,発熱量の高い良質の生成ガスとなる。移動層において揮発分が失われ加熱された可燃物,即ち,固定炭素(チャー)やタール分等は,次に流動層内へ循環され,流動層内の比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガスと接触し燃焼され,燃焼ガス及び灰分に変わると共に炉内を450〜650℃に維持する燃焼熱を発生する。この燃焼熱により流動媒体が加熱され,加熱された流動媒体が炉周辺部上方で炉中央部へ転向され移動層内を下降することにより移動層内の温度を揮発分のガス化に必要な温度に維持する。可燃物が投入される炉中央部ほど低酸素状態であるので,高い可燃分を有する生成ガスを発生することができる。また,可燃物中の金属が不燃物取出口から未酸化の有価物として回収することができる。」(段落【0021】,【0022】)ク「可燃物供給口104から移動層9の上部へ供給された可燃物11は,流動媒体と共に移動層9中を下降する間に,流動媒体の持つ熱により加熱され,主として揮発分がガス化される。移動層9には,酸素が無いか少ないため,ガス化された揮発分から成る生成ガスは燃焼されないで,移動層9中を矢印116のように抜ける。それ故,移動層9は,ガス化ゾーンGを形成する。フリーボード102へ移動した生成ガスは,矢印120で示すように上昇し,ガス出口108から生成ガス29として排出される。移動層9でガス化されない,主としてチャー(固定炭素分)やタール114は,移動層9の下部から,流動媒体と共に矢印112で示すように炉内周辺部の流動層10の下部へ移動し,比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガス8により燃焼され,部分酸化される。流動層10は,可燃物の酸化ゾーンSを形成する。流動層10内において,流動媒体は,流動層内の燃焼熱により加熱され高温となる。高温になった流動媒体は,矢印118で示すように,傾斜壁6により反転され,移動層9へ移り,再びガス化の熱源となる。流動層9の温度は,450〜650℃に維持され,抑制された燃焼反応が継続するようにされる。」(段落【0028】,【0029】)ケ「図1及び図2に示すガス化炉1によれば,流動層炉2にガス化ゾーンGと酸化ゾーンSが形成され,流動媒体が両ゾーンにおいて熱伝達媒体となることにより,ガス化ゾーンGにおいて,発熱量の高い良質の可燃ガスが生成され,酸化ゾーンSにおいては,ガス化困難なチャーやタール114を効率良く燃焼させることができる。それ故,可燃物のガス化効率を向上させることができ,良質の可燃ガスを生成することができる。」(段落【0030】)コ「【発明の効果】(1)本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。(2)本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。(3)本発明においては,流動層炉の循環流により大きな不燃物も容易に排出できる。また,不燃物中の鉄,アルミが,未酸化の有価物として利用できる。(4)本発明によれば,ごみ処理を無害化し,高いエネルギ利用率を有する方法又は設備が提供される。」(段落【0056】〜【0059】)( )控訴人は,本件発明1@ないしBは,流動層炉内において可燃ガスと多量2のチャーを生成し,生成された多量のチャーを循環流中で,循環流の作用により微粒子としてガスに同伴されやすくし,流動層炉内にとどまらせることなく可燃ガスとともに安定して溶融炉に供給することができるので,処理対象の廃棄物が質的及び量的に変動する廃棄物処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用できるようにした旨主張し,その具体的内容は,本件明細書1に記載され,また,その技術的意義は,本件明細書1の請求項1の記載や段落【0008】,【0057】に記載されている旨主張する。
しかし,上記( )のとおり,本件明細書1には,廃棄物から多量の可燃分1を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成された可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を溶融することができる処理方法等の提供を目的とすること,移動層内で生じた可燃ガスは,ほとんど燃焼されずにフリーボードに上昇し,良質の生成ガスとなり,チャーが流動層において燃焼されることで,燃焼熱を発生し,燃焼ガス,灰分になること,ガス化ゾーンGにおいて,良質の可燃ガスが生成され,酸化ゾーンSにおいては,チャー等を効率よく燃焼させ,「それ故」(上記( )ケ)可燃物のガス化効率を向上させ,良質の可燃ガスを生1成できることは記載されているが,生成されたチャーについて,従来技術と比較した粒径や生成量についての記載はない。このことに,本件明細書1に,従来技術の課題として,未反応可燃分がガス化されずに炉外に飛散したこと,及び,チャー等が未反応物として炉外に飛散し,高いガス化効率が得られなかったことが記載されていることを併せ考慮すると,本件発明1@ないしBの技術的意義について,ガス化効率を高め,良質の生成ガスを得ることを目的としているものであることは認められるものの,更に進んで,次段の溶融炉に供給するという目的で,従来技術によるものよりも,チャーの粒径を小さくし,また,チャーを多量に生成することについてまでの技術的意義が記載されているものとは認められず,この点についての控訴人の主張は,採用の限りではない。
( )控訴人は,本件発明1@の進歩性判断の誤り(その1)として,本件発明31@は,生成されたチャーについて,循環流の作用により,循環流中で,さらに微粒子とする構成を有するのに対して,乙1発明は,単に,流動層中でチャーを生成するだけで,生成されたチャーをさらに微粒子とする構成を有さず,この点において本件発明1@と乙1発明が明らかに相違しており,原判決が,相違点の認定を誤った旨主張する。
ア本件発明1@の特許請求の範囲の記載は,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第2の2( )ア(カ)a(請求項16)のとおりであり,「該2流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成」すること(構成要件1D),「該チャーを該循環流中で微粒子と(する)」こと(構成要件1E)を規定している。同記載によって,本件発明1@は,循環流中でガスとチャーが生成され,その循環流中でチャーが微粒子とされるという構成を備えるものであることは理解し得るが,それを超えて,特許請求の範囲の記載が,廃棄物をガス化してガスとチャーを形成するという工程と,生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層へ移動し部分酸化させて微粒子とするという工程の2段階の工程があることを規定しているものとまで認めることはできない。
そうすると,チャーについて,生成させる過程と生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層へ移動し部分酸化させる工程の2段階の工程があることが本件発明1@に規定されていることを前提とし,生成されたチャーを循環流中でさらに微粒子とする構成を有するとして,相違点の認定の誤りをいう控訴人の主張は,前提を欠き,採用することができない。
イまた,仮に,本件明細書1の記載及び技術常識等から,流動層内の流動媒体を循環流とした流動層炉において,循環流中の下降流である移動層でガス化が行われ,上昇流である流動層においてチャーが部分酸化することがあったとしても,後記( )のとおり,流動層内の流動媒体の流れを循環7流とした場合には,そのような作用は,当業者が容易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流におけるチャーの生成及びチャーを微粒子とすることに係る構成については,別途,相違点2として認定され,その容易想到性について判断されているのであるから,上記循環流中での控訴人主張のチャーの発生機序等は,本件の相違点の認定判断に影響するものではない。
( )控訴人は,本件発明1@の進歩性判断の誤り(その2)として,相違点14についての容易想到性判断に当たり,本件発明1@が,ガス化によって生成したチャーをさらに微粒子とするものであることを前提として,乙1発明にも,乙23発明,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明にも,上記構成が記載されていないとして,乙1発明に,相違点1に係る,乙23発明等に開示された「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を組み合わせても,相違点1に係る本件発明1@の構成に想到することが容易でない旨主張する。
しかし,前記( )アのとおり,本件発明1@のチャーについて,2段階の3工程があるとの控訴人主張は採用することができず,また,仮に,チャーについて控訴人の主張の事実が認められるとしても,前記( )イのとおり,同3事実は,本件発明1@の容易想到性判断に影響するものではない。
( )また,控訴人は,流動層における流動媒体の流れは,流動層内での被処理5物の反応に密接に関係し,廃棄物処理における流動層の機能を左右するものであり,乙1発明においては,気泡流動化状態の流動層において,可燃ガスと微細なチャーが生成されるという流動層の機能が発揮されているとし,乙1発明に,乙23発明等により開示された「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用した場合には,乙1発明の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,乙1発明の可燃ガスと微細なチャーが生成されるという流動層炉の機能を変質させ,乙1発明そのものの機能を変質させることにつながる旨主張する。
しかしながら,乙1発明の流動層炉が,気泡流動化状態の流動層が有する機能を前提としているものとは認められない。乙1発明は,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の4( )のとおり,「(ア)廃棄物を流動層2炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,(イ)流動層炉内の流動媒体を流動化させて流動層を形成し,(ウ)該廃棄物を該流動層炉内に供給し,(エ)該流動層炉内の流動層中でガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該流動層中で微粒子とし,(オ)該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回溶融炉に供給して灰分を溶融してスラグ化することを特徴とする廃棄物の処理方法」を内容とするものであって,「該流動層炉内の流動層中でガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該流動層中で微粒子とし」という構成(構成(エ))を有するものであり,その流動層は,廃棄物をガス化して,ガスとチャーを形成し,また,チャーを微粒子とする機能を有するものである。そして,後記( )エ6のとおり,乙1発明のようなガス化炉において,その流動層内の流動媒体を循環流としても,その流動層は,「該流動層炉内の流動層中でガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該流動層中で微粒子とし」という,乙1発明における流動層と同様の機能を果たし得るものである。
したがって,乙1発明における流動層の流動媒体の流れを循環流とすることが,乙1発明そのものの機能を変質させるものとは認められず,そのような変質があることを前提とする控訴人の上記主張は,採用の限りではない。
( )さらに,控訴人は,乙23発明は,廃棄物を焼却する焼却炉に関する発明6で,可燃ガス及びチャーの生成に関する記載はなく,また,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明のいずれも,循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を完結させるもので,可燃ガスとチャーを流動層炉から排出するという技術的事項を開示するものはないとして,相違点1に係る構成の作用機能を考慮すれば,当業者は,乙23発明等に開示された技術と乙1発明とを組み合わせることに容易に想到しなかった旨主張する。
ア発明の進歩性判断における相違点についての容易想到性判断に当たり,相違点に係る構成を開示している発明について,進歩性判断の対象となる発明と同じ構成を備える必要はないのであるから,乙23発明,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明についての控訴人主張の事実は,そのことにより,直ちに,同発明等で開示された技術を乙1発明に対して適用することを阻害するものではない。
イ乙1発明は,流動層熱分解炉に係る発明であるところ,同発明と流動層を有する焼却炉の発明とは,流動層を用いて廃棄物を焼却ないし加熱して処分する方法の技術に関する発明である点で共通するものであり,また,乙1公報において,「固形物を燃焼する場合,砂などの固体粒子を熱媒体とする流動層焼却炉は周知の様に多くの利点があるが,下記の欠点がある。
即ち@例えばプラスチックを多量に含む都市ごみのように発熱量が極めて高い原料を過大負荷で燃焼して,固体の単位表面積当りの発熱速度が流動熱媒体(砂)の最大熱移動速度を越えると,該局部が異常に高温となり熱媒体が半溶融状態となつて凝塊を形成し,遂に流動化不能となる。Aプラスチックのような発熱量の高い原料は燃焼に必要な空気量が極めて多く流動化に必要なガス量を遙かに越えるので,流動層の塔径を必要以上に過大に設定せねばならず不経済となる。B流動層燃焼に於ては,灰分は微細粒子となつて燃焼ガス中に混入するが,粒径が細かいので一般の機械的集じん装置では充分に捕捉し得ないのみならずへ集じん后も発じん防止などに特別な対策を要する。C都市ごみ,廃プラスチック,下水スラジ,石炭などのように原料中に有害重金属を含む場合は,捕集した灰分中に重金属が濃縮されるので,これの埋立に際して重金属の溶出を防ぐ為に固化処理等の対策を要する。などの問題があった。これを解決するために流動層熱分解方法が用いられ,この方法は吸熱反応であるので上記@の問題を解決し,Aの問題も部分燃焼法などを用いて解決することができる。
しかしながら,流動層熱分解方法においてもB及びCの問題点を解決することはできなかつた。」(2欄23行目〜3欄8行目)として,廃棄物の焼却処分に当たり,熱分解炉と焼却炉の技術が比較検討されたことが記載されているように,廃棄物の焼却処分に当たり,流動層焼却炉と流動層ガス化炉が,密接に関連する技術分野に属するものであることは明らかである。
ウ乙23マイクロフィルムには,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の4( )イのとおりの記載があり,殊に,「3.〔考案の詳細な5説明〕本考案は流動床式焼却炉に関する。・・・この様な流動床式の焼却炉に於ては硅砂等の流動媒体が使用されている。この如き流動床式焼却炉には通常流動媒体(本文に於ては砂と称する)が床面積全般に渉り流動化して,この砂の流動状態の部分の上方,所謂フリーボードと称する部分から焼却物の投入を行つて来た。しかしながらこの様な作動方式の場合には,次の様な問題が経験されている。即ち( )焼却物中の比較的比重の小さ1い成分(例えば紙類,プラスチツクス類等)は流動する砂の上部に於て停滞浮遊する。このため,これらの比較的可燃性傾向の高い成分は流動する砂の上部で良好に燃焼してもその燃焼による発生熱量は砂に伝達されることが少く従つてその熱が有効に利用されない。( )上記のため,砂の温2度も不安定・不均一となり,従つて排ガス温度も変動が激しい。( )発 3生熱が砂に有効に還元伝達されないため,砂温を上昇させるために補助燃料(例えば助燃油)を必要とする場合が多く,燃料の節約が困難である。
・・・本考案は従来の流動床燃焼方式による上記した如き種々の欠点,問題点を克服するための流動床式焼却炉を提供することを目的とするものである。」(2頁3行目〜4頁8行目)として,流動媒体が床面積全体にわたり流動化するという従来の流動床式焼却炉においては,流動層に有効に熱が伝達されず,その温度が不安定となるなどの課題があったこと,その課題を解決するために,流動層に循環流を設けたことが記載されている。
また,乙24公報には,「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかった。」(2頁左下欄11行目〜14行目)として,層内全体を活発な流動化状態で均一に保つ流動層では,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,ガス化効率が低かったこと,流動層に循環流を設けることによりその課題を解決したことが記載されている。
そして,乙1発明は,流動層中において,熱分解を行って,ガス化してガスとチャーを生成し,該チャーを該流動層中で微粒子とするもので,流動層に有効に熱を伝達すること,その流動層の温度を安定化させることを当然の課題としていたのであるから,乙23マイクロフィルムに示された既に知られていた課題を有していたのであり,また,ガス化によるガスを利用するものでガス化効率が高まることが望ましいといえるものであるから,乙24公報に示された既に知られていた課題を有していたというべきである。
したがって,乙1発明は,乙23マイクロフィルム及び乙24公報に示された既に知られていた課題を有していたのであり,その課題について,乙23発明及び乙24発明と同様,流動媒体の流れを循環流とするという構成を採用することにより,解決する動機付けがあったと認められる。
なお,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の4( )ク(ウ)の 5とおり,乙1公報に記載された乙1発明が解決しようとした課題と,乙23マイクロフィルムに記載された乙23発明が解決しようとした課題とは異なるが,当業者において,両者を組み合わせることを困難にするほどのものとはいえないし,乙1公報及び乙23マイクロフィルムにおいて,発明が解決しようとした課題として,異なった課題が記載されていることは,乙1発明が,既に知られていた,流動層に有効に熱を伝達すること,及び,その流動層の温度を安定化させることという課題を有することを否定するものではない。
また,本件明細書1には,前記( )ウのとおり,乙24発明が,【従来1の技術】欄に記載され,その短所が記載されているのであるが(段落【0004】,【0005】),同事実は,乙24公報に上記課題が記載されていること,それを循環流の採用により解決したこと,乙1発明も同様の課題を有していた事実を左右するものではないし,直ちに,乙1発明に乙24発明において開示された技術を組み合わせることを阻害するものではない。
エ他方,乙23マイクロフィルムには,「供給された焼却物は領域Bの下方に動き多孔板21の位置に至る間に,焼却物中にあるプラスチツク類は液化,又は一部ガス化し,水分を含むものは更に水分を蒸発させ焼却物は概ね脆化の傾向を示す。・・・領域A,Cの下方部分で移動層から流動層へと移行した焼却物は水分も蒸発し,より可燃性となつているため,多量の空気(流動用並びに燃焼用)により撹拌作用を伴つた激しい流動化状態となり,瞬時に燃焼する。」(11頁下から2行目〜12頁10行目)として,焼却物が,循環流において,ガス化,脆化することが記載されている。
乙22公報には,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の4( )アのとおりの記載があり,殊に,「流動層に投入された石炭は短時間 5で加熱により揮発分が分離する。・・・揮発分が分離した後の未燃炭素分(チャー)は,流動層中を数10回にわたり旋回循環しながら比較的長い時間をかけて燃焼する。チャーは当初揮発分の分離により多孔質状となり,その後燃焼の進行に伴い,漸次微小化する。粒径が0.2mm以下となると,燃焼ガスに同伴されて煙道から一旦炉外に出るが・・・」(3頁右下欄5行目〜14行目)として,循環流により,微細な粒子となったチャーが炉外に排出されることが記載されている。
乙24公報には,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の4( )ウのとおりの記載があり,「ガス化炉3にて生成したガスは,二段の5サイクロン4によりガス中に含まれる固形物を分離する。一段目のサイクロンで分離された固形物中には,未反応チャーが含まれるので,再びガス化炉3に供給される。」(3頁右下欄最終段落),「下降移動層34の中では,石炭の乾留反応が主体的に,ガス化反応が部分的に行われ,ガスとチャーが生成する。ここで生成したガスは上方または水平方向に抜け,チャーは流動媒体と共に両側縁部の流動層部35へ移動し,流動化ガスとして供給された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤と,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こす。」(5頁左上欄第2段落),「E同じく,原料中に含まれる微粉の割合が減り,しかも流動層の不活発な流動化の中で乾留による微粉化が行われるので,飛散する未反応チャーの量が少なく,従つてガス化効率を高くできる。例え飛散しても,捕集した後の再ガス化が比較的容易であることもガス化効率の向上につながる。」(6頁右上欄第4段落)として,流動媒体の流れを循環流とした場合,熱分解,ガス化が行われること,ガスとチャーが生成されること,それらが炉外に排出されることが記載されている。
これらによれば,本件第1特許権の出願日(平成7年2月9日)及び優先権主張日(平成6年3月10日)当時,当業者は,流動層の流動媒体の流れが循環流である場合において,廃棄物について,循環流中でガス化が行われ,ガスとチャーを生成すること,生成したチャーが循環流中で微細化すること,生成したガスが炉外に排出されること,また,生成したチャーもガスとともに,炉外に排出されるという構成をとることを容易に理解することができ,また,ガス化炉の流動層の流動媒体の流れを循環流とすることも可能であると理解でき,これらは技術常識であったと認めるのが相当である。
なお,控訴人は,乙24発明について,チャーは例外的に排出されるもので,次段で熱源として利用し得る可燃ガスと微粒子のチャーを得る構成を有していない旨主張する(前記第3の2〔控訴人の主張〕( )イ)が,4上記のとおり,本件明細書1の【従来の技術】欄に乙24公報が記載されていることは,乙24公報に記載された技術と本件発明1@との関連を示すものであり,また,本件発明1@は,前記( )のとおり,乙24発明と2同様,ガス化効率を高めることを目的としていると解され,多量のチャーの生成及びそれを熱源として利用することを目的とするものとは認められないから,控訴人主張の事実が,乙1発明に,乙24発明等に開示された技術を組み合わせることを阻害するものということはできない。
オ以上のとおりの,乙1発明と乙23発明等の技術分野の関連性,乙1発明も,乙23マイクロフィルム等に記載されていた,既に知られていた課題を有していたといえ,その課題を流動媒体の流れを循環流とすることで解決するという動機を有していたこと,当業者は,乙1発明の流動層において,乙23発明等に開示された構成を採用しても,技術常識により,炉内に投入された廃棄物によって,循環流中でガスとチャーが生成し,それらのガスとチャーを炉外に排出する構成をとることが可能であると容易に理解できることから,当業者は,乙1発明に,乙23発明等において開示されている,流動媒体を循環流とするという構成を組み合わせ,相違点1に係る本件発明1@の構成に想到することが容易であったと認めることができる。これに反する控訴人主張は,採用できない。
( )控訴人は,本件発明1@の進歩性判断の誤り(その3)として,相違点27に係る本件発明1@の「該廃棄物を該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」という構成は,ガス化によって生成されたチャーを循環流中でさらに微粒子として,ガスに同伴しやすくして,「該ガスと該微粒子となったチャー」をともに次段の溶融炉に供給するための構成であるのに対し,乙23発明は,焼却物がガス化されてガスとチャーを生成する記載はなく,ガス化によって生成されたチャーをさらに微粒子とする工程を経て微粒子のチャーを得るものではなく,乙23発明は,相違点2に係る本件発明1@の構成を開示していないから,当業者は,乙23発明によって,相違点2に係る本件発明1@の構成に容易に想到することはできない旨主張する。
しかしながら,前記( )エのとおり,本件第1特許権の出願日及び優先権6主張日当時,当業者は,流動層の流動媒体の流れを循環流とした場合,廃棄物について,循環流中でガス化が行われ,ガスとチャーが生成すること,チャーが循環流中で微細化し,ガスとともに,炉外に排出する構成をとることが可能であると容易に理解することができるものである。
したがって,乙1発明に,乙23発明に開示されている循環流を組み合わせれば,廃棄物がガス化されて,可燃ガスとチャーが生成され,循環流中でチャーが微粒子化し,ガスとともに炉外に排出することは,当業者が容易に予測し得ることであると認めることができる。
そうすると,乙23発明,上記本件第1特許権の出願日及び優先権主張日の技術常識等を併せ考慮すれば,相違点2に係る本件発明1@の構成は,当業者が容易に予測できるものとして,実質的に開示されているものと評価することができるのであり,控訴人の主張は採用できない。
なお,控訴人は,本件発明1@に,廃棄物をガス化してガスとチャーを形成するという工程と,生成されたチャーをさらに微粒子とするという工程との2段階の工程があり,チャーが微粒子化される旨主張する。控訴人主張の2段階の工程は,前記( )のとおり,特許請求の範囲に記載されたものでは2ないが,乙24公報の「下降移動層34の中では,石炭の乾留反応が主体的に,ガス化反応が部分的に行われ,ガスとチャーが生成する。ここで生成したガスは上方または水平方向に抜け,チャーは流動媒体と共に両側縁部の流動層部35へ移動し,流動化ガスとして供給された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤と,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こす。」(5頁左上欄11行目〜18行目)等の記載や技術常識に照らしても,流動媒体の流れを循環流とした場合,その条件によっては,循環流中の下降流中でガス化が行われ,その上昇流中でチャーの部分酸化が行われることは,当業者にとり,容易に予測できたものであると認められる。
また,控訴人は,乙22発明,乙24発明及び乙27発明も,次段で熱源として利用し得る可燃ガスと微粒子のチャーを得るという,相違点2に係る本件発明1@の構成を開示するものではないとし,さらに,乙23発明,乙22発明,乙24発明及び乙27発明は,いずれも,微粒子とされる過程を経て,微粒子となったチャーを得るものでなく,流動層内において完結される燃焼又はガス化反応によって消えてなくなる過程の中途の段階のものについて,これを殊更に取り上げて,本件発明1@における「微粒子とし」との構成が記載されているとすることはできない旨主張するが,上記判示に照らし,乙22発明等と,本件第1特許権の出願日及び優先権主張日の技術常識等を考慮すれば,相違点2に係る本件発明1@の構成は実質的に開示されていたものと認められるのであり,控訴人の主張は採用できない。
( )控訴人は,本件発明1@の進歩性判断の誤り(その4)として,乙1発明8は,熱分解の生成ガス中に含まれるチャーに着眼した発明であるのに対し,乙23発明は,チャーに触れるところはなく,その相違を考慮すれば,両者を組み合わせることは容易とはいえない旨主張するが,前記( )に照らし,6乙1発明と乙23発明に開示された技術を組み合わせることに当業者は容易に想到できたと認められる。
( )控訴人は,本件発明1@の進歩性判断の誤り(その5)として,乙1発明9に乙23発明等を組み合わせて,「装置前段の流動層炉でチャーの微粒子化を行い,次段のサイクロン燃焼炉に微粒子化されたチャーを供給」すれば,キャリーオーバーの問題が生じ,乙1発明の目的に反する改変になることが明らかで,その組合せには,明確な阻害事由がある旨主張する。
しかし,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の4( )コ(ア)の5とおり,本件発明1@において,キャリーオーバーの問題が必ず生ずるとまではいい難いし,装置前段の流動層炉でチャーの微粒子化を行い,次段のサイクロン燃焼炉に微粒子化されたチャーを供給したとしても,サイクロン燃焼炉の高性能化などの対策を採ることで対処ができる程度のものと推認でき,炉の構造いかんでキャリーオーバーの問題が生じ得るからといって,乙1発明1を乙23発明と組み合わせることができなくなるわけではない。
そして,そもそも,乙1発明において,ガスとともにガス化炉の外に排出される,「微細な粒子」等と表現されるチャーの粒径を数値的に記載したものはないし,乙1発明の流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合に生成されるチャーの粒径を認めるに足りる証拠はない。本件明細書1にも,生成されるチャーの粒径の記載及びチャーの粒径とキャリーオーバーとの関係については,何ら記載がない。
控訴人は,流動層炉の流動媒体が循環流を有した場合には,そうでない場合に比べ,その生成されるチャーの粒径が小さいことを前提とした主張をするが,乙24公報に,前記( )ウのとおり,「従来の流動層では,層内全体6を活発な流動化状態で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかった。」(2頁左下欄11行目〜14行目)との記載があるように,流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合,未反応チャーの炉外への排出が減少することはうかがえるものの,キャリーオーバーが問題となる,流動層炉から排出されるチャーのうちでも粒径の小さいチャーについて,流動層炉の流動媒体が循環流を有する場合に,そうでない場合に比べ,必ず多量になると認めるには足りない。
本件発明1@ないしBは,ガス化炉の流動層の流動媒体の流れを循環流として,そこで生成されたチャーを次段のサイクロン炉に供給するものであるが,本件明細書1にも,チャーの粒径が小さくなることにより,控訴人が主張するキャリーオーバーの問題が発生する旨が記載されているものではないし,また,本件発明1@ないしBは,粒径の小さいチャーについて,乙1発明が備える構成とは異なる特段の構成により,対応しているものとは認められない。
そうすると,チャーの粒径について原告主張の点が認められない点からも,乙1発明に対し,流動媒体の流動層の流れを循環流とした場合に,控訴人主張の阻害事由が存在するとは認められない。
なお,控訴人は,被控訴人の,本件発明1@には,特に旋回溶融炉の性能についての限定はなく,その構成が乙1発明と同様であることから,阻害事由が否定される旨の主張に反論して,乙1発明は,「集じん後の発じん防止などに特別な対策を要する」という課題を解決する目的のものであるのに対し,本件発明1@は,流動層炉において生成されたチャーをさらに微粒子として,より大量のチャーを次段の溶融炉に供給して,これを有効に利用できるとするものであり,その目的が異なる旨主張する。
しかし,上記のとおり,そもそも,流動層炉の流動媒体の流れが循環流であれば,そうでない場合に比べ,キャリーオーバーが問題となる粒径が小さいチャーの発生が多くなることを認めるに足りないし,前記( )のとおり,2本件発明1@がチャーの発生について,控訴人主張の目的を有するとは認められないものであるから,控訴人主張は失当である。
()控訴人は,「乙23発明の流動層炉が焼却炉であるとしても,この炉の構10造を乙1発明の流動層炉として採用する場合には,適宜運転条件の調整を行うことにより,可燃ガスとチャーを生成することができるから,乙23発明を乙1発明と組み合わせることができないとはいえ(ない)」(原判決156頁2行目〜5行目)とした原判決の判断が誤りである旨主張する。
しかし,乙73公報には,「熱分解炉におけるごみの焼却割合は,炉1に供給される空気2の量によってきまる。十分な空気量を供給すれば,投入されるごみ3の全量が燃焼し,逆に,空気量を制限し,かつ燃焼発熱量の代替熱量を外部から供給すれば,投入ごみ3は全量が熱分解する。熱分解炉は,上述のごとく,空気量の調整ひとつで焼却および熱分解の間での相互移行が容易に可能である。通常は,熱分解炉の温度が450〜550℃程度になるように,供給空気量によって燃焼割合が調整されている。」(1頁右欄17行目〜2頁左上欄6行目)として,空気量の調整により,熱分解炉と焼却炉とが相互に移行することが記載されており,また,前記( )エのとおり,本6件第1特許権の出願日及び優先権主張日当時,当業者は,流動層の流動媒体の流れを循環流とした場合であっても,廃棄物について,循環流中でガス化が行われ,ガスとチャーを生成することが可能であると容易に理解することができるものであったことを併せ考えても,当業者が乙23発明と乙1発明を組み合わせることができないとは認められない。
()控訴人は,本件発明1@に進歩性があることから,その従属項である本件11発明1A及びBに進歩性がある旨主張するが,本件発明1@に進歩性がないことは,以上のとおりであるから,同主張は失当である。
3争点()(本件発明2@及びAに係る特許が無効とされるべきものか否か) 13について( )控訴人は,本件発明2@は,本件発明1Aに構成要件2F@及びAを付加1したものであり,本件発明1Aに進歩性があるから,本件発明2@は進歩性がある旨主張するが,本件発明1@についての控訴人の主張が採用できないことは,前示のとおりであるから,失当である。
( )控訴人は,本件発明2Aの「流動層温度が450℃〜650℃に維持され2る」という数値範囲は,循環流を備えた流動層において,次段の溶融炉に,多量に生成したチャーを安定して供給するという効果を企図して,その温度範囲を最適化しようとして,規定されたものであって,ガス化溶融炉において,次段の溶融炉に,循環流の作用により,多量に生成したチャーを安定して供給するという効果を得る目的,課題自体が新規なものであり,当業者は,この課題自体を知らないのであるから,それを最適化する数値範囲を知ることはできず,この点に進歩性があるのは明らかである旨主張する。
しかし,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の5( )エのと1おり,流動層の温度を450℃ないし650℃に維持することは,当業者が周知技術に基づいて容易に設定し得た設計的事項にすぎず,前記2( )に照1らしても,本件明細書1には,流動層炉を低空気比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させること,それにより,可燃分を含む均質な生成ガスを得ることができることについては記載されているものの,更に進んで,温度範囲が上記のものであることによって,チャーについて,多量に生成され,また安定して供給されるものであることが記載されているとは認められないし,また,上記温度範囲が,そのような多量のチャーの生成のためのものであることの記載もなく,本件発明2Aの温度範囲が,控訴人主張の目的,課題のために,定められたものであるということはできない。
控訴人の主張は,採用できない。
4争点()(本件発明3に係る特許が無効にされるべきものか否か)について14( )控訴人は,構成要件3B@ないしBに係る構成について,開示があるとし 1て引用され,又は,当該構成が周知技術との根拠とされた文献(乙22ないし24,26,27)は,いずれも,流動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を完結させるのであって,流動層から可燃ガスとチャーをともに排出していないものであるから,可燃ガスとともにチャーを排出するという本件発明3の構成は記載も示唆もされていない旨主張する。
しかし,相違点に係る構成についての進歩性判断において,構成が開示されているとされ,また,周知技術の根拠となった文献において,必ず,進歩性判断の対象となる発明の構成が記載されている必要はない。
そして,前記2( )に照らせば,控訴人が,乙22発明ないし乙24発明,6乙26発明,乙25発明について主張する事実は,本件第1特許権の出願日及び優先権主張日当時の周知技術を併せ考慮すれば,当業者が,乙1発明に,乙22発明等に開示された技術を組み合わせて,相違点5に係る本件発明3の構成(構成要件3B@ないしB)に容易に想到できたとの判断を左右するものではないというべきであり,控訴人主張は失当である。
( )控訴人は,相違点5に係る構成について,流動化ガスとして可燃物を燃焼2させるために空気を用いていた焼却炉の技術分野において周知の技術手段であるからといって,可燃分を燃焼により消費しないで,可燃分として回収するために空気以外のガス化剤を流動化ガスとして用いていたガス化炉の技術分野においてまで,周知の技術手段であるとすることはできない旨主張する。
控訴人の上記主張は,ガス化炉の技術分野において,ガス化剤として空気以外の物質が用いられていたことを前提とするものであるが,乙1公報の「21は流動化ガスとしての空気を供給するブロワである。」(4欄末行〜5欄1行目),「空気はガス入口4からガス室5に入りガス分散板6を通って砂を流動化させ且つ原料の一部を燃焼する」(5欄6行目〜8行目)との記載に照らせば,ガス化炉に係る乙1発明自体,流動化ガスとして,空気を用いており(乙1公報),ガス化炉の技術分野において,空気以外のガス化剤を流動化ガスとして用いていたという主張は,その前提を欠くものであって,採用できない。
5争点()(本件発明4@ないしBに係る特許が無効にされるべきものか否15か)について( )控訴人は,本件発明4@ないしBについて,流動層において生成されたチ1ャーに対し,さらに,抑制された燃焼反応が継続されるようにした上で,可燃ガスとともに次段の溶融炉に送り,可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用するものであり,ガスとチャーを生成するガス化の工程と,ガス化生成物(チャー)の抑制された燃焼反応が継続される工程という,2段の工程からなるものである旨主張する。
しかし,本件発明4@の特許請求の範囲の記載は,「炉内に上昇する流動媒体と沈降する流動媒体からなる流動媒体の循環流を有する流動層炉を備え,該廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃〜650℃に維持し,抑制された燃焼反応が継続されるようにし」というものであり,同記載によって,本件発明4@は,循環流を有する流動層炉内において,ガスとチャーが生成され,また,抑制された燃焼反応が継続されるという構成を備えるものであることが理解できるところ,それを超えて,特許請求の範囲の記載が,チャーについて,ガス化してガスとチャーを形成するという工程と,ガス化生成物(チャー)の抑制された燃焼反応が継続される工程という,2段の工程がある旨を規定しているものとは認められない。
また,本件明細書3(甲3の2)には,「流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉を低空比低温度(450〜650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させる」(段落【0059】)ことが記載され,その結果「抑制された燃焼反応が継続される」と解されるところ,そのような燃焼反応は,前記2( )における,流動媒体の流れを循環流とし7た場合,その条件によっては,循環流中の下降流中でガス化が行われ,その上昇流中でチャーが部分酸化されるという,当業者が容易に予測できた反応と同様のものである。したがって,仮に,本件明細書3の記載及び技術常識等から,循環流中の沈降する流動媒体からなる層でガス化が行われ,上昇する流動媒体からなる層において,チャーの抑制された燃焼反応が継続されることが認められるとしても,それは当業者が容易に予測し得る作用にすぎず,循環流に係る構成については,別途,相違点7として認定された上,その容易想到性について判断されているのであるから,そのような作用は,相違点の認定判断に影響するものではない。
( )控訴人は,乙1発明における「部分燃焼」は,廃棄物を対象とし,廃棄物2の一部を燃焼させることであって,その熱により残部の廃棄物の熱分解を行なわせてガスとチャーを生成する過程における反応であるのに対し,本件発明4@は,流動層において生成されたチャーに対して,さらに,流動媒体が上昇する流動層において抑制された燃焼反応が継続されるようにした上で,可燃ガスとともに次段の溶融炉に送り,可燃分の大部分を次段の溶融炉において利用するものであるとして,原判決の相違点の認定に誤りがある旨主張する。
しかし,本件発明4@のチャーの生成等について,控訴人が主張するような2段階の工程が特許請求の範囲に規定されず,また,乙1発明において,その流動媒体の流れを循環流とした場合,前記( )のとおり,循環流中の沈1降する流動媒体からなる層でガス化が行われ,上昇する流動媒体からなる層において,チャーの抑制された燃焼反応が継続されることは当業者が容易に予測し得る作用にすぎないこと,他方,本件発明4@の循環流に係る構成は,本件発明4@と乙1発明の相違点7として認定され,その容易想到性について判断されているいることを併せ考えると,上記循環流中での控訴人主張のチャーの発生機序等は,本件の相違点の認定判断に影響するものではない。
したがって,原判決の相違点の認定に誤りはなく,控訴人の主張は,採用の限りではない。
( )控訴人は,本件発明4@と乙1発明との相違点である相違点7及び相違点38について,原判決が,本件発明1A,本件発明2Aについての容易想到性判断と同様の理由により,当業者が容易に想到することができたとしたのに対し,本件発明1A,本件発明Aについての原判決の判断の誤りを理由として,当業者が容易に相当することができない旨主張するが,前記のとおり,本件発明1A,本件発明Aについての原判決の判断には誤りはないから,失当である。
また,控訴人は,本件発明4@に進歩性があるから,その従属項である本件発明4A及びBに進歩性がある旨主張するが,本件発明4@の進歩性についての控訴人の主張が採用できないことは,前示のとおりであるから,前提を欠き,失当である。
6争点()(本件発明5に係る特許が無効にされるべきものか否か)について16控訴人は,本件発明5は,本件発明4@ないしBをまとめたもので,本件発明4@ないしBに進歩性があるから,本件発明5は進歩性がある旨主張するが,本件発明4@ないしBの進歩性についての控訴人の主張が採用できない以上,失当である。
7争点()(本件発明6@ないしBに係る特許が無効にされるべきものか否17か)について( )控訴人は,本件発明6@と乙1発明とは,相違点11並びに本件発明4@1と乙1発明との相違点である相違点7及び8で相違するところ,相違点7及び8に係る本件発明4@の構成について,当業者は容易に想到することができなかったから,本件発明6@は進歩性がある旨主張するが,前記5( )の3とおり,相違点7及び8に係る構成についての控訴人の主張は採用できないから,失当である。
( )控訴人は,相違点11に係る本件発明6@の構成要件6E「生成されたチ2ャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成は,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ,燃え残って微粒子となったチャーを可燃ガスとともに次段の溶融炉に送るためのものであるところ,乙1発明,乙23発明等は,「生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」,次段の溶融炉に可燃ガスとチャーを送るという技術的事項を開示していないから,乙1発明に乙23発明又は周知技術を組み合わせることにより,当業者において,相違点11に係る本件発明6@の構成に容易に想到することはできない旨主張する。
しかし,ガス化により生成したチャーについて,流動媒体が上昇する流動層においてその一部を燃焼させること,生成したチャーもガスとともに,炉外に排出されるという構成をとることは,本件第3特許権の出願日(平成7年2月9日)及び優先権主張日(平成6年3月10日,同年4月15日)当時,当業者が容易に予測できたことであって,上記相違点に係る本件発明6@の構成に当業者が容易に想到できるものであることは,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の9( )の判示並びに前記2( )及び( )の判367示のとおりであり,控訴人の主張は失当である。
( )控訴人は,本件発明6@に進歩性があるから,その従属項である本件発明36A,Bも進歩性がある旨主張するが,本件発明6@に進歩性がないことは以上のとおりであるから,同主張は失当である。
( )控訴人は,乙1発明には,ガス化により生成されたチャーを質量速度が比4較的大きい流動化ガスによって流動化され流動媒体が上昇する流動層において燃焼させ,チャーの一部を燃焼させて,燃え残った微粒子のチャーを得るという,本件発明6Bの「流動媒体が上昇する流動層の温度を450℃から650℃に維持し,生成されたチャーの一部を流動媒体が上昇する流動層で燃焼させ」との構成はなく,乙23発明,乙22発明,乙24発明,乙26発明及び乙27発明も,いずれも本件発明6Bの上記構成がないから,これらを組み合わせても,本件発明6Bの構成に想到することはない旨主張する。
しかし,ガス化により生成したチャーについて,流動媒体が上昇する流動層においてその一部を燃焼させることは,本件第3特許権の出願日及び優先権主張日当時,当業者が容易に予測できたことであって,本件発明6Bの構成に当業者が容易に想到できるものであることは,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第4の9( )の判示及び前記2( )の判示のとおりであ57り,控訴人の主張は失当である。
8争点()(本件発明7に係る特許が無効にされるべきものか否か)について18控訴人は,本件発明7の構成要件7E(生成されたチャーの一部を質量速度の比較的大きい流動化ガスによって流動化される流動層で燃焼させ)は,本件発明6@の構成要件6Eと実質的に同一であるが,本件発明6@に進歩性があるから,本件発明7も進歩性がある旨主張するが,本件発明6@の進歩性についての控訴人の主張は採用できないから,失当である。
9争点()(本件発明8に係る特許が無効にされるべきものか否か)について19控訴人は,本件発明8は,構成要件8F(前記熔融炉は,酸素又は酸素と空気の混合気体を供給するノズルを備えたこと)を除いて,本件発明4@ないしB,5,6@ないしB又は7と同じであるところ,本件発明4@ないしB,5,6@ないしB又は7にいずれも進歩性があるから,本件発明8も進歩性がある旨主張するが,前記のとおり,本件発明4@ないしB,5,6@ないしB又は7の進歩性についての控訴人の主張は採用できないから,失当である。
10以上によれば,本件各発明はいずれも進歩性を欠き,本件各発明に係る特許はいずれも特許無効審判によって無効にされるべきものであり,控訴人は,特許法104条の3第1項に基づき,本件各特許権の行使は許されないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,控訴人の控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明