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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10052特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10103特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10036特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成20ネ10080特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10050特許権に基づく侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  有用性 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  共有 /  援用権(援用) /  優先日 /  技術的意義 /  均等 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  設定登録 /  混同 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  釈明 /  訂正明細書 /  補助参加 /  取消決定 / 
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事件 平成 18年 (ネ) 10048号 特許権侵害差止請求控訴事件
控訴人八洋エンジニアリング株式会社
控訴人共 立冷熱株式会社
両名訴訟代理人弁護士矢野千秋
同弁理士木内光春
同 補佐人弁理 士東山喬彦
同 茜ヶ久 保公二
同 大熊考一
同 町田正史
被控訴人ヤ ヨイ食品株式会社
被控訴人補助参加人株 式会社前川製作所
被控訴人及び同補助参加人両名訴訟代理人弁護士 山ア順一
同 新井由紀
同訴訟復代理人弁護士小林陽子
被控訴人及び同補助参加人両名訴訟代理人弁理士 高橋昌久
同 補佐人弁理 士松本廣
被控訴人訴訟代理人弁護士 野村晋右
同 橋利昌
同 吉澤敬夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1控訴人ら( ) 原判決を取り消す。
1( ) 被控訴人は,原判決別紙「被告装置説明書」記載の装置を使用してはなら 2ない。
( ) 訴訟費用及び参加によって生じた費用は,第1,2審とも,被控訴人及び3同補助参加人の負担とする。
2被控訴人主文と同旨第2事案の概要1事案の要旨本件は,発明の名称を「アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム」とする特許第3458310号発明(平成11年9月30日出願〔優先権主張同年2月24日(以下「本件優先日」という。)及び同年6月14日・日本〕,平成15年8月8日設定登録,以下,その特許請求の範囲請求項1ないし5の各発明を「本件発明1」ないし「本件発明5」といい,併せて「本件発明」ということがある。)の特許権(以下「本件特許権」という。)を共有する控訴人らが,被控訴人補助参加人が設計・施工した原判決別紙「被告装置説明書」記載の冷凍設備(以下「被控訴人装置」という。)を使用する被控訴人に対し,上記行為が本件発明1及び5の技術的範囲に属するものであり,本件特許権を侵害するとして,本件特許権に基づき,被控訴人装置の使用の差止めを求めた事案である。
原審は,被控訴人装置は本件発明1及び5の技術的範囲に属しないとし,仮定的に,控訴人らの訂正請求に係る明細書の訂正を考慮しても同様であるとして,控訴人らの請求を棄却したため,控訴人らは,これを不服として,その取消し及び被控訴人装置の使用の差止めを求めて控訴したものである。
2前提となる事実等及び争点次のとおり改めるほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
( ) 原判決3頁12行目から16行目までを次のとおり訂正する。
1特許請求の範囲請求項5前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたことを特徴とする請求項1,2,3または4記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
( ) 原判決4頁4行目及び5行目を次のとおり訂正する。
2Fを特徴とする請求項1,2,3または4記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
( ) 原判決5頁16行目から9頁14行目まで(( ) 訂正請求,並びに,( )3 67訂正請求後の本件発明1及び2の構成要件の分説)を次のとおり改める。
( ) 訂正請求(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)6ア控訴人らは,本件無効審判事件において,平成17年10月3日に訂正請求(以下「第1次訂正請求」という。)をしたが,同年12月22日,訂正請求の「やり直し」を求めて,再度,訂正請求書を提出した。
特許庁は,上記事件を審理した上,平成18年2月20日,「訂正(注,第1次訂正請求に係る訂正)を認める。特許第3458310号の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。これに対し,控訴人らは,同年3月29日,第1次審決の取消しを求める訴え(当庁平成18年(行ケ)第10134号)を提起するとともに,同年5月15日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲減縮,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正審判請求をしたところ,同年7月19日,第1次審決を取り消す旨の決定を受けた。上記取消決定を受けて,本件無効審判事件は特許庁審判官に差し戻され,本件無効審判事件が再び特許庁に係属し,控訴人らは,同年8月11日,上記訂正審判請求書に添付した訂正明細書援用した訂正請求(以下「第2次訂正請求」という。
これにより上記訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた。)をした。特許庁は,上記事件について更に審理した上,平成19年1月9日,「訂正(注,第2次訂正請求に係る訂正)を認める。特許第3458310号の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月10日,その謄本を控訴人らに送達した。(甲6の2,甲8,10,乙19)なお,控訴人らが,本件審決の取消しを求める訴え(当庁平成19年(行ケ)第10045号)を提起し,これが係属中であることは,当裁判所に職務上顕著である。
イ第2次訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲請求項1及び5の記載(以下,特許請求の範囲請求項1,5の各発明を「本件訂正発明1」,「本件訂正発明5」という。)(ア) 請求項1アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,前記アンモニアサイクル(2)の構成部材は,目的の冷却を行う蒸発器(9A)から隔離した場所に設置するものであり,一方,前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたものであり,また,この前記炭酸ガスサイクル(3)は,冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクル(3A)を具えて成り,この炭酸ガス冷凍サイクル(3A)は,二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器(9A)を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサ(7)よりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサ(7)と蒸発器(9A)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,更に,この炭酸ガスサイクル(3)は,前記蒸発器(9)の上流側に膨張弁ではない流量調整弁(8)を具えており,冷却時には,前記アンモニアサイクル(2)を作動させてカスケードコンデンサ(7)により,炭酸ガス冷凍サイクル(3A)中の二酸化炭素媒体を冷却,液化して,炭酸ガスサイクル(3)中の二酸化炭素媒体を自然循環させるようにしたことを特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
(イ) 請求項5前記炭酸ガスサイクル(3)内には,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたことを特徴とする請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
( ) 本件訂正発明1及び5の構成要件の分説7本件訂正発明1及び5は,以下の構成要件に分説することができる。
(本件訂正発明1)A’ アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,B’ 前記アンモニアサイクル(2)の構成部材は,目的の冷却を行う蒸発器(9A)から隔離した場所に設置するものであり,C’ 一方,前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたものであり,D’ また,この前記炭酸ガスサイクル(3)は,冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクル(3A)を具えて成り,E’ この炭酸ガス冷凍サイクル(3A)は,二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器(9A)を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサ(7)よりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサ(7)と蒸発器(9A)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,F’ 更に,この炭酸ガスサイクル(3)は,前記蒸発器(9)の上流側に膨張弁ではない流量調整弁(8)を具えており,G’ 冷却時には,前記アンモニアサイクル(2)を作動させてカスケードコンデンサ(7)により,炭酸ガス冷凍サイクル(3A)中の二酸化炭素媒体を冷却,液化して,炭酸ガスサイクル(3)中の二酸化炭素媒体を自然循環させるようにしたことH’ を特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
(本件訂正発明5)I’ 前記炭酸ガスサイクル(3)内には,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたことJ’ を特徴とする請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
第3当事者の主張次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」「3争点についての当事者の主張」の( )の(原告ら 1の主張)及び(被告及び被告補助参加人の反論)の各ア,イ,( )ないし( )に 24記載のとおり(ただし,( )ないし( )の記載中の「訂正請求後の本件発明1」 24及び「訂正請求後の本件発明2」は,第1次訂正請求に係るもの。)であるから,これを引用する。
1控訴人らの主張(争点1〔被控訴人装置は,本件発明1又は5の技術的範囲に属するか。〕に係る被控訴人装置の構成要件C充足性について)( ) 本件発明1の構成要件C(「自然循環を行うようにしたこと」)にいう1「自然循環」の意義ア原判決は,「本件発明1における『自然循環』とは,本件明細書において,二酸化炭素などの媒体について,気体又は液体の相変化と液体時の液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い,圧縮機を組み込む必要のないものを意味していると認められる」(42頁8行目ないし11行目)と認定したところ,原判決の「自然循環」自体の定義については,異論を唱えるものではないが,後記のとおり,「被告装置における冷媒循環は,定常時の運転においても,CO 液ポンプによる送出の作用がなければ停止し,2完了しない」(44頁9行目ないし10行目)などと論理矛盾した認定をしている。原判決の上記認定は,装置の「定常運転時」の定義を明確にしないままにされたことによるものであり,かつ,「自然循環」の位置付けを誤ったものである。
すなわち,本件発明1の構成要件Cにおける「自然循環」は,装置の定常運転時に自然に循環し続ける現象である。また,「自然循環を行うようにしたこと」とは,強制循環が一切介在しない「自然循環のみ」の場合だけでなく,「自然循環」と「強制循環」とが両方発生した状態である「自然循環+強制循環」の場合も含むものである。
本件発明1の構成要件Cにおいて,文言上「自然循環のみ」と記載されているわけではなく,「液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い」に当たるものであれば,「自然循環」に該当するのであり,少なくとも構造上不可避的にこのような「自然循環」を利用するのであれば,「自然循環」を行っていることに変わりはない。
イ被控訴人及び同補助参加人は,圧縮機やポンプがいずれも冷媒の強制循環手段であることは争う余地がない旨主張する。
しかし,本件発明1は,「圧縮機を組み込まずに」とは記載されているが,ポンプを使用することなくとは明細書のどの部分にも記載がないのみならず,圧縮機とポンプとを明確に区別し,本件発明5において,補助ポンプを使用することも本件発明の一形態であることを明記しているから,本件発明1において,自然循環は圧縮機を使用せず,ポンプの使用は含むことを意味するものである。本件発明1の「自然循環」は,あくまでも「圧縮機を用いない」ものであって,「ポンプ」の有無とは無関係である。
ポンプと圧縮機とが,機能上本質的に相違することは,当業者にとって最も基本的な技術常識というべきである。また,ポンプと圧縮機との区別は,本件発明の明細書で明らかにされており,特に,ポンプを使用した場合は,本件発明5として明確に表現されている。したがって,被控訴人の上記主張は,失当である。
( ) 被控訴人装置における「自然循環」の発生2ア原判決は,上記のとおり,「自然循環」について,「本件発明1における『自然循環』とは,本件明細書において,二酸化炭素などの媒体について,気体又は液体の相変化と液体時の液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い,圧縮機を組み込む必要のないものを意味していると認められる。」と定義をしたところ,被控訴人装置において「液ヘッド差」が生じている以上,必然的に,上記定義における「液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い」に当たるのであり,しかも,「圧縮機」を組み込んだものでもないのであるから,被控訴人装置は,本件発明1の「自然循環」に該当することが明らかである。原判決が,上記の定義にもかかわらず,被控訴人装置が「自然循環」に当たらないとするのは,論理矛盾である。
しかも,原判決は,「被告装置における冷媒循環は,定常時の運転においても,CO 液ポンプによる送出の作用がなければ停止し,完了しな2い」(44頁9行目ないし10行目),「被告装置においては,装置起動時のみならず,装置の定常運転時においても,上記CO 液ポンプを停止2させる場合には,装置の運転が停止し,循環も直ちに停止するものである。」(43頁下から4行目ないし2行目)と判示するが,本件発明1は,運転中に自然循環が存在することを前提とした発明であり,自然循環が停止した場合のことを論じている発明ではない。原判決は,本件発明1の「自然循環」が,装置の定常運転時に自然に循環し続ける現象であることを全く考慮していない。
すなわち,被控訴人装置の運転中は,CO 液ポンプから送られる冷媒2(液相二酸化炭素)が連通管をふさぐことにより,冷媒の管路としては密閉されたループが形成され,被控訴人装置において,各機器の配置からして,気相と液相の液ヘッド差が生じていることは明らかであるから,連通管がふさがれている間は,この液ヘッド差により自然循環が発生している。
このことから明らかなように,被控訴人装置のポンプは,被控訴人装置の運転中は連通管を塞いで自然循環を維持するために使用されるものである。
百歩譲って,被控訴人装置の「定常運転時」とは,「CO 液ポンプの2稼動時」及び「CO 液ポンプの停止時」の双方を含むものであったとし 2ても,被控訴人装置の定常運転時において冷媒循環がされている最中に「自然循環」が発生しているのであって,原判決は,この点を看過したものであり,失当である。
さらに,被控訴人装置におけるCO 液ポンプを停止した場合にシステ2ムが停止するので自然循環でないとする原判決の認定は,論理的ではない。
なぜならば,ポンプの作用が自然循環の維持のためにあるとすれば,冷媒循環の実質が自然循環であっても,CO 液ポンプを停止すれば,自然循2環の維持も停止するのであるから,このような観点を無視して,「ポンプ停止=システム停止=自然循環でない」と結論付けることは,論理の飛躍である。
加えて,被控訴人装置のCO 液ポンプは,強制循環で冷却を行うには2能力の不足するポンプであり,このような能力不足のポンプが被控訴人装置において果たしている役割は,専ら自然循環を維持するためにシステムの運転中連通管を閉じておくことにあるものとしか理解することができない。
イ本件発明1は,明細書における発明の詳細な説明及び図1に示されているとおり,被控訴人装置のスパイラルクーラーに相当する蒸発器9の上流側に流量調整弁8を設け流量調整を行っている。一方,被控訴人装置においては,「冷媒の流量を調整」は,「給液管立上げ部及び連通管」によって行っているのではなく,スパイラルクーラーの上流側に設けられた流量調整弁で行っているにすぎないから,流量調整という目的で「給液管立上げ部及び連通管」を設ける必要はない。結局,被控訴人装置は,本件発明1の構成をそのまま採用しながら,しかも「給液管立上げ部及び連通管」によって流量調整を行うとするのは,流量調整の観点からすると屋上屋を重ねるものであって,本件発明1の技術的範囲に属することになるのを回避するために余分な構成を追加した迂回技術というべきである。
ウ原判決は,「被告装置においてCO 液ポンプを設置し,給液管立上げ2部及び連通管を設けて,ポンプによる吐出作用を欠く状態では冷媒循環が実現されない構成を採用していることは,それが本件発明1の迂回技術と認められないだけでなく,本件発明1の構成要件Cの『自然循環を行うようにしたこと』と同視できるものではない」(45頁末行ないし46頁42 行目)と認定し,この根拠として,(A)被控訴人装置に設けられたCO液ポンプが十分な吐出能力を有し,このポンプは,給液管立上げ部及び連通管の付加に伴う圧力損失を補完するためだけの目的で設けられていると認めることはできないこと(原判決44頁下から7行目ないし45頁5行目),(B)被控訴人装置におけるCO 液ポンプの設置の意義並びに給液2管立上げ部及び連通管の構成の有用性は,技術的にみて合理的なものであると解され,上記構成が無用又は不利なものであって,被控訴人装置全体としての実用価値ないし技術的価値を低下させることが当業者にとって自明であると認めるに足りる証拠はないこと(同45頁下から11行目ないし7行目)を挙げているが,いずれも誤りである。
重要な点は,被控訴人装置において,@装置の定常運転時には,液ヘッド差が生じる,A定常運転時に生じた液ヘッド差は,自然循環を行わせるだけの大きなものである,Bしたがって,装置の定常運転時に,自然循環が生じるという事実があり,被控訴人装置の運転時に@からBの物理現象が生じることは,当業者であれば否定できないはずである。
エ平成16年5月18日付け被控訴人補助参加人作成の「スパイラル凍結負荷計算書(グラタン)」(乙3,以下「乙3資料」という。)が,フリーザーについてのものであるとの証拠がなく,これがスパイラルクーラー1台の計算であるとすると,スパイラルクーラー1台の最大負荷は26万7502kcal/hであり,-45℃における液体二酸化炭素の蒸発潜熱を78.59kcal/kg,-45℃における液体二酸化炭素の比体積を0.881 □/kgとすると,スパイラルクーラー1台における1分当たりの気化蒸発する液体二酸化炭素の量は49.9 □/minということになる。ところで,被控訴人及び同補助参加人の主張によれば,被控訴人装置は,蒸発量の3倍の液体二酸化炭素を循環させるというのであるから,約150 □/minの容量となり,これに,連通管からレシーバタンクに戻る9 □/minを加えると約159 □/minの容量のポンプが必要となるが,CO 液ポンプ1台の公称吐出量は80 □/min2であるから,被控訴人装置のCO 液ポンプの吐出能力では,本件発明の 2実施品である控訴人らの装置(以下「控訴人装置」という。)に必要な循環量の約半分であって,被控訴人装置の冷媒循環を「強制循環のみ」で実現させる必要循環容量に到達しないから,被控訴人装置の冷媒循環が,「強制循環のみ」で実現される事実はなく,「自然循環」が発生していることが明らかである。
また,被控訴人及び同補助参加人の計算は,被控訴人装置の運転時にCO 液ポンプが蒸発量の3倍を超える送出量を有するとしているが,この2主張は,CO レシーバタンクとスパイラルクーラーの高低差による液ヘ 2ッド差(建物の構造上12〜15mH)が存在すること及び配管路の圧力損失を無視したものであって,誤りである。
オ以上のとおり,被控訴人装置は,本件発明1の構成要件Cを充足し,その余の構成要件も充足するから,本件発明1の技術的範囲に属するものであり,仮に,これが認められないとしても,本件発明5の構成要件Eを充足し,その余の構成要件も充足するから,本件発明5の技術的範囲に属するものであり,したがって,被控訴人装置を使用する被控訴人の行為は,本件特許権を侵害するものである。
( ) 被控訴人装置の第2次訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の充足性3被控訴人装置が,第2次訂正請求に係る訂正後の本件発明1及び5の技術的範囲に属することは,上記( )及び( )に検討したところと同様である。
122被控訴人及び同補助参加人の主張(争点1に係る被控訴人装置の構成要件C充足性について)( ) 本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環」の意義について1ア原判決は,「自然循環」の技術的意義について,「本件発明1における『自然循環』とは,本件明細書において,二酸化炭素などの媒体について,気体又は液体の相変化と液体時の液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い,圧縮機を組み込む必要のないものを意味していると認められる。」(42頁8行目ないし11行目)と認定しているが,ここにいう「圧縮機を組み込む必要がない」とは,「圧縮機」に限定されず液ポンプを含む強制循環手段を組み込む必要がないという意味であり,「組み込む必要がない」とは,これら強制循環手段によらずに冷媒の循環が完了することであると解すべきである。
控訴人らは,ポンプと圧縮器とは違うと主張するが,ポンプと圧縮器は,自然循環方式装置との対比において,いずれも,冷媒の強制循環手段となるという意味では,共通しているものである。
なお,控訴人らは,前記1( )アのとおり,「自然循環+強制循環」の1場合も「自然循環を行うようにした」ことに含まれるのであり,被控訴人装置は「自然循環+強制循環」に該当すると主張しているが,この場合,被控訴人装置における強制循環が液ポンプによることは明らかであるから,ポンプと圧縮機とが違うという主張は,それ自体として誤りである。
イ控訴人らは,原判決の上記認定は,装置の「定常運転時」の定義を明確にしないままにされたものであり,「自然循環」の位置付けを誤っているとした上,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環」は,装置の定常運転時に自然に循環し続ける現象であり,また,「自然循環を行うようにした」とは,強制循環が一切介在しない「自然循環のみ」の場合だけでなく,「自然循環」と「強制循環」とが両方発生した状態である「自然循環+強制循環」の場合も含む旨主張する。
しかし,定常運転時に強制循環手段であるCO 液ポンプを停止すると2循環が停止する装置が本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環を行うようにした」装置に該当しないとの原判決の認定は,言い換えると,「自然循環を行うようにした」装置に該当するためには,定常時運転において,強制循環手段を停止しても液ヘッド差の作用により循環が定常的に維持され,冷却が停止しない装置,例えば,圧縮機による強制循環運転と自然循環運転を切り換えて運転を持続できる装置(特開平9-264620号公報〔乙12〕参照)でなければならないということであり,このような装置においては,強制循環手段を停止する場合も,当然,定常運転時に含まれることになるのであるから,「定常時」に関する原判決の認定には,何らの誤りも不明確さもない。
また,控訴人らの,定常運転時において「自然循環+強制循環」の態様であれば,「自然循環を行うようにしたこと」に該当するとの主張は,自然循環という結果又は効果と,液ヘッド差という自然循環を発生させる原因又は作用とを混同するという明らかな誤りを犯している。
そもそも,一般に,「循環」とは,「ひとまわりして,またもとの場所あるいは状態にかえり,それを繰り返すこと。」(広辞苑第五版)であり,冷凍技術分野に限って特殊な語義があるということはないから,冷凍装置が「自然循環を行うようにした」ものであると言い得るためには,強制循環手段によらずに冷媒が「ひとまわりして,またもとの場所あるいは状態にかえり,それを繰り返すこと」が必要であり,「ひとまわりして,またもとの場所あるいは状態にかえり,それを繰り返す」という作用が働いているということだけでは足りない。このことは,物体を実際に落下させることと,物体に重力が働くことが異なるのと同じであり,自明の理である。
冷媒に作用する液ヘッド差(高低差)は,凝縮機と蒸発機の配置に高低差と冷媒温度差がある限り,たとえ圧縮機を組み込んだ装置であっても,多かれ少なかれ必ず作用する力であるにすぎないから,その作用が働いても,その作用のみによっては,当該装置において目的とする冷媒循環が完了しない装置は,「自然循環を行うようにした」装置に該当しない。
このように,液ヘッド差が働くことと自然循環を混同する控訴人らの主張は,技術的にも論理的にも,甚だしい誤りを犯すものであって,失当である。
ウ結局,本件発明1の「自然循環を行うようにした」といえるのは,自然循環作用のみで循環が成立する場合,及び,強制循環手段が補助的に用いられているにすぎない場合であり,百歩を譲って,自然循環作用と強制循環手段とが共存する場合を含めたとしても,自然循環作用と強制循環手段との協働によってのみ循環が成立し,いずれか一方が欠けても循環が成立しない装置のみをいうと解すべきである。
( ) 被控訴人装置における「自然循環」の発生について2ア被控訴人装置は,スパイラルクーラーの蒸発量を基準としてその3倍を超える冷媒をCO 液ポンプにより強制送液するよう設計され製作された2装置であって,このような循環は,いわゆる液ヘッド差に依存する自然循環式装置においては到底実現できないものであり,したがって,給液管立上げ部及び連通管の構成の有無にかかわらず,動作原理において自然循環式装置とは全く類を異にする装置であるとの認定こそが最も実質に即したものと考えるが,給液管立上げ部及び連通管の構成とその有用性をもって構成要件該当性を否定した原判決の判断も,もちろん,それ自体として正当なものである。
イ控訴人らは,被控訴人装置において「液ヘッド差」が生じている以上,必然的に,上記定義における「液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い」に当たるのであり,しかも,「圧縮機」を組み込んだものでもないのであるから,被控訴人装置は,本件発明1の「自然循環」に該当する旨主張する。
しかし,被控訴人装置が,強制的循環手段であるCO 液ポンプによる2冷媒の送液のみにより循環が成立し,かつ,強制的循環手段なくして循環が成立しない構成を有する装置であることは,証拠上明らかであり,それゆえ,被控訴人装置が「自然循環を行うようにした」との本件発明1の構成要件Cに該当しないとした原判決の認定は正当であり,なんら誤りはない。
ウ控訴人らは,被控訴人装置のCO 液ポンプの能力が通常設計する必要2循環量の約半分程度の容量しかない,すなわち,被控訴人及び同補助参加人が主張するような強制循環を行うに足りない能力しかないのに,原判決はこれを看過した誤りがあると主張しているが,極めて単純な誤解に基づく誤った主張である。
すなわち,被控訴人装置は,クーラー計4台を有し,これに対応して5台のCO 液ポンプ(うち1台は予備用)を備えており,2台のクーラー2が1台のフリーザーを構成している。そして,CO 液ポンプ1台の公称 2吐出量は80 □/minであるが,実際の運転データでは約90 □/minであるから,フリーザー1台に対して動作するCO 液ポンプの吐出2量は2台分の約180 □/minである。他方,乙3資料の負荷計算書は,フリーザー1台(=クーラー2台)についてのものであり,フリーザー1台の最大負荷が26万7502kcal/hであり,液体二酸化炭素の蒸発潜熱を77.46kcal/kg,液体二酸化炭素の比重量1121.65kg/m (比体積0.892 □/kg)として計算すると,フ3リーザー1台における1分当たりの液体二酸化炭素の蒸発量は,51.4□/min,スパイラルクーラー1台当たりでは,その2分の1の25.7 □/minとなる。そうすると,フリーザー1台につき強制循環させるに要するCO 液ポンプの吐出量の3倍は154.2 □/min(51.24 □/min×3)となり,これに連通管の戻り量約18 □/min(9 □/min×2)を加算しても,被控訴人装置のCO 液ポンプが必2要循環量の3倍を超える液冷媒を送液する十分な能力を有していることは明らかである。
エ控訴人らは,被控訴人装置において,@装置の定常運転時には,液ヘッド差が生じる,A定常運転時に生じた液ヘッド差は,自然循環を行わせるだけの大きなものである,Bしたがって,装置の定常運転時に,自然循環が生じるという事実があり,被控訴人装置の運転時に@からBの物理現象が生じる旨主張する。
しかし,被控訴人装置は,定常時に液ポンプを停止すると冷媒循環が直ちに停止し,自然循環しない構造の装置であるから,Bの結論を導くことはできない。また,液ヘッド差は,単に給液管側のコンデンサー又は液タンクの冷媒液面と蒸発器の高低差による冷媒の圧力のみで決まるのではなく,この液面よりも高い位置にまで還流しなければならない戻り管側の冷媒の逆方向の圧力との差であり,蒸発器での冷媒の加熱・蒸発が不足すれば,十分な液ヘッド差は得られないことから,Aもまた当然には成り立たない。
したがって,控訴人らの上記主張は,失当である。
( ) 被控訴人装置の第2次訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の充足性に3ついて控訴人らの主張は争う。
第4当裁判所の判断1争点1(被控訴人装置は,本件発明1又は5の技術的範囲に属するか。)について( ) 本件発明1の構成要件C(「自然循環を行うようにしたこと」)にいう1「自然循環」の意義についてアまず,本件発明1,2,5に係る特許請求の範囲請求項1,2,5の記載をみると,次のとおりである(請求項2は,参考のために掲げる。)。
(ア) 請求項1アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたことを特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
(イ) 請求項2前記圧縮機を組み込まないことによる二酸化炭素媒体の循環は,炭酸ガスサイクル(3)内の二酸化炭素媒体に液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象に加えて,炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却して行うことを特徴とする請求項記載のアンモニアサイクルと炭1酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
(ウ) 請求項5前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたことを特徴とする請求項1,2,3または4記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。
イ本件発明1は,「前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにした」構成(構成要件B,C)であるのに対し,本件発明2及び5は,請求項1をその構成に含んでおり,本件発明2は,「前記圧縮機を組み込まないことによる二酸化炭素媒体の循環は・・・液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象に加えて,炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却して行う」構成,本件発明5は,「前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」構成(構成要件E)である。そして,本件発明1の場合には,「前記炭酸ガスサイクル(3)」は,「自然循環」を行うのに対し,本件発明2及び5では,「循環」を行うとして,「自然循環」と「循環」とを区別している。
また,本件発明2においては,上記のとおり,「前記圧縮機を組み込まないことによる二酸化炭素媒体の循環は,炭酸ガスサイクル(3)内の二酸化炭素媒体に液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象に加えて,炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却して行う」との構成であるが,ここに「液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象」が,本件発明1の二酸化炭素媒体の循環のことを指していることが,前後の記載と文脈自体から,明らかであって,本件発明2においては,「液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象」に「炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却」する過程を加えたものである。
さらに,本件発明5は,請求項1を構成として含むものであるところ,「二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたこと」(構成要件E)を特徴とするとの記載によると,請求項1の構成,すなわち,本件発明1の構成が一次的な循環であり,本件発明5では,この一次的な循環を補助するものとして,「液ポンプ(P)」を加えているものと解するのが相当である。ところで,仮に,本件発明1の構成に係るヒートポンプシステムにおいて,液ポンプを併用する場合も包含するものとすると,補助のために同じ「液ポンプ」を加えても何ら技術的意義を有しないこと,すなわち,本件発明5を本件発明1とは別に特許請求の範囲に記載する意義を失わせることになるから,この点からしても,本件発明1の構成に係るポンプにおいては,液ポンプを併用していないものというべきである。
このような特許請求の範囲の記載の仕方によると,本件発明1は,「液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象」のみ,すなわち,二酸化炭素媒体の「自然循環」を行うヒートポンプシステムであるのに対し,本件発明2は,「液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象」に「炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却して行う」構成を加えて,二酸化炭素媒体の「循環」を行うヒートポンプシステムであり,本件発明5は,「二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」構成を加えて,二酸化炭素媒体の「循環」を行うヒートポンプシステムであり,したがって,本件発明1においては,「自然循環現象」以外の循環手段,例えば,液ポンプ等による循環を含まないものと理解するのが妥当である。
ウ念のため,本件明細書を検討すると,本件明細書の発明の詳細な説明には,「自然循環現象」に関して,次の記載がある。
(ア) 「請求項2記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステムは,前記請求項記載の要件に加え,前記1圧縮機を組み込まないことによる二酸化炭素媒体の循環は,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体に液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象に加えて,炭酸ガスサイクル内の一部を加熱または冷却して行うことを特徴として成るものである。この発明(注,本願発明2)によれば,液ヘッド差を利用した自然循環現象に加えて,炭酸ガスサイクル内の一部を加熱または冷却して二酸化炭素媒体を循環させる」(2頁4欄25行目ないし35行目)(イ)「蒸発器9側で目的の冷却を行うことから,カスケードコンデンサ7を蒸発器9よりも高い位置に設置し,これらの間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものである。次にこのヒートポンプシステム1の冷却態様について説明する。まずアンモニアサイクル2では,圧縮機4によって圧縮された気体状のアンモニアが,コンデンサ5を通るとき,冷却水または空気によって冷やされて液体となる。液体となったアンモニアは,膨張弁6によって必要な低温度に相当する飽和圧力まで膨張した後,カスケードコンデンサ7で蒸発して気体となる。このとき,アンモニアは,炭酸ガス冷凍サイクル3内の二酸化炭素から熱を奪い,これを液化する。一方,炭酸ガスサイクル3では,カスケードコンデンサ7によって冷やされて液化した液体炭酸ガスが,液ヘッド差を利用した自然循環現象によって下降し,流量調整弁8を通って,目的の冷却を行う蒸発器9に入り,ここで温められて蒸発し,ガスとなって再びカスケードコンデンサ7に戻っていく。」(3頁6欄13行目ないし31行目)(ウ) 「因みに液ヘッド差を利用した自然環境現象(注,『自然循環現象』の誤記と認める。)そのものは,一般的に知られており,例えば精密機械部品等を冷却するためのヒートパイプ等にも同様の原理が流用されている。しかしながらこのようなヒートパイプは,専ら作動液(媒体)が循環するものに止まり,それ以上の冷却作用を付加するものではなかった。その点,本願発明は液ヘッド差を利用した自然環境現象(注,『自然循環現象』の誤記と認める。)にとどまることなく,液の循環量を制御して二酸化炭素媒体を冷却または加熱することによって積極的に媒体の循環を行うという特徴的構成を有するものである。」(同欄32行目ないし41行目)上記記載によると,「自然循環現象」とは,カスケードコンデンサと蒸発器とで炭酸ガスサイクルが形成され,その際,カスケードコンデンサを蒸発器よりも高い位置に設置して,液ヘッド差を形成した上,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体が,カスケードコンデンサによって液化して下降して蒸発器に至り,蒸発器において気化して上昇して再び,カスケードコンデンサに至り,これを繰り返すという現象を意味していることが認められる。
他方,本件明細書の発明の詳細な説明では,本件発明1については,「請求項1記載の・・・冷却または加熱を行うヒートポンプシステムにおいて,前記炭酸ガスサイクルは,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにした」(2頁4欄13行目ないし19行目)としているが,本件発明2及び5については,「この発明(注,本件発明2)によれば,液ヘッド差を利用した自然循環現象に加えて,炭酸ガスサイクル内の一部を加熱または冷却して二酸化炭素媒体を循環させる」(同欄33行目ないし35行目),「請求項5記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステムは,前記請求項1,2,3または4記載の要件に加え,前記炭酸ガスサイクル内に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ボンプを設けたことを特徴として成るものである。」(3頁5欄19行目ないし24行目)と記載されるのみであって,「自然循環」という語そのものは使われていない。
以上のとおりの本件明細書の記載に,前記の特許請求の範囲の記載をも併せ考えると,本件発明1における炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環は,「自然循環現象」のみによるものであって,これを構成要件Cにいう「自然循環を行うようにしたこと」といい,本件発明2及び5における炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環は,「自然循環現象」に,「炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却して行うこと」,あるいは,「二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたこと」を付加しており,これは「自然循環を行う」ものではないと理解するのが自然かつ合理的である。
エ控訴人らは,少なくとも構造上不可避的に「自然循環」を利用しているのであれば,自然循環を行っていることには何ら変わりないから,そのような場合も,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環を行うようにしたこと」に該当する旨主張するので,検討する。
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,上記のとおり,「因みに液ヘッド差を利用した自然循環現象そのものは,一般的に知られており,例えば精密機械部品等を冷却するためのヒートパイプ等にも同様の原理が流用されている。・・・本願発明は液ヘッド差を利用した自然循環現象にとどまることなく,液の循環量を制御して二酸化炭素媒体を冷却または加熱することによって積極的に媒体の循環を行うという特徴的構成を有するものである。」(上記ウ(ウ))との記載があるが,「液ヘッド差を利用した自然循環現象」は,本件優先日当時,周知の原理であり,この原理がヒートパイプ等に利用されていたとしているので,これが客観的な事実であったかについてみると,特開平10-38317号公報(乙2,以下「乙2公報」という。)には,「【従来の技術】冷房システムにおける冷媒の循環方式の一つとして,冷媒自然循環方式と呼ばれるものが知られている。この方式においては,冷却ユニットとしての蒸発器に対して,該蒸発器よりも高所に凝縮器を配置し,この両者を液管およびガス管を用いて往復に連結することにより,冷媒循環系が構成される。
この循環系内に封入された冷媒は,蒸発器において吸熱により気化して冷媒ガスとなり,ガス圧によってガス管内を上昇して凝縮器へと移動する。凝縮器に到達した冷媒ガスは,凝縮器において放熱によって液化して冷媒液となり,重力によって液管内を下降して蒸発器へと移動する。
このような冷媒自然循環方式を採用する冷房システムにおいては,居室等の被冷房領域に配置される冷却ユニット(蒸発器)内の冷媒は,熱負荷状態に対応した気液割合状態(気液混合状態)にあることが必要である。」(段落【0002】ないし【0003】)との記載,特開昭63-105368号公報(乙10,以下「乙10公報」という。)には,「従来この種空気調和機として,例えば特公昭54-19609号公報に記載されたものが知られており,この公報記載の空気調和機は,室内側に配置される2つの利用側熱交換器と,該各熱交換器に対し所定高さ上方位置に配置された1つの熱源側熱交換器とを備え,これら熱源側熱交換器と利用側熱交換器とを,それぞれ冷媒配管により閉ループ状に連結し,前記熱源側熱交換器で凝縮された液冷媒を,高低差を利用して,前記各利用側熱交換器に供給し,この各利用側熱交換器で蒸発させることにより室内を冷却し,また該各利用側熱交換器で蒸発されたガス冷媒を前記熱源側熱交換器に還流させ,つまり前記各利用側熱交換器と熱源側熱交換器との間で冷媒を自然循環させることにより,前記室内の冷却運転を行うようにしたものである。」(1頁右欄1行目ないし16行目)との記載,特開平9-243111号公報(乙11,以下「乙11公報」という。)には,「【従来の技術】従来,冷凍サイクルにより冷却した冷却水を冷媒として配管を循環させることにより冷房を行う冷房設備があった。この冷房装置では,冷却水を循環させるためにポンプが必要になる。特に,ビル空調においては,数mから十数mといった高さの配管中に冷却水を循環させることが必要になり,それに要する動力はかなりのものである。自然循環ループを用いた冷房装置はこの動力を省力するものである。・・・ここでいう自然循環ループは2相サーマルループとも呼ばれ,いわばループ式ヒートパイプであり,冷媒液が冷媒ガスとなる際の気化熱を被冷却部から吸収する冷却器2と,冷媒ガスを冷却し液化凝縮して冷媒液とする熱交換器4とを,ガス配管6と液配管8とで接続して形成される冷媒の循環経路をいう。このループ中における冷媒の自然循環は,熱交換器4を冷却器2より高所に配置し,ガス配管6中の冷媒ガスと液配管8中の冷媒液との比重差により冷媒液を流下し,冷媒ガスを上昇させることにより行われる。・・・冷房装置が使用される状況では,熱交換器4が配置される側は冷却器2が配置される側より通常,温度が高い。それで蒸気圧縮冷凍サイクルにおいては,冷媒ガスを断熱圧縮により凝縮器の外気より高温にすることにより冷媒ガスから放熱させているが,これに対し上述のように自然循環ループは圧縮機を有していない。」(段落【0002】ないし【0004】)との記載がある。
(イ) 乙2公報,乙10公報及び乙11公報の上記(ア)の記載によると,本件優先日当時,液ヘッド差を利用した冷媒の自然循環現象が周知の原理であったことは客観的な事実であり,さらに,この原理を利用し,凝縮器又は熱交換器を高所に,蒸発器又は冷房装置を低所において,これらを配管で結んで冷媒の循環ループとする冷房システムも,周知の技術事項であったことが認められる。
(ウ) ところで,本件発明が,液ヘッド差を利用した冷媒の自然循環現象そのもの,あるいは,この原理を利用した上記周知の技術事項を発明の対象としようとしているものでないことは,本件明細書の発明の詳細な説明の,「本願発明は液ヘッド差を利用した自然循環現象にとどまることなく,液の循環量を制御して二酸化炭素媒体を冷却または加熱することによって積極的に媒体の循環を行う」(上記ウ(ウ))との記載からも明らかである。
そうすると,第三者の装置が構造上不可避的に液ヘッド差を利用した自然循環現象の原理を利用していることをもって,直ちに,本件発明1の構成要件Cに該当するとか,その技術的範囲に属するとかいえないことは,明らかである。
オ控訴人らのその余の主張について(ア) 控訴人らは,本件発明1は,「圧縮機を組み込まずに」とは記載されているが,ポンプを使用しないとは本件明細書のどこにも記載されていないのみならず,本件発明5において,補助ポンプを使用することも本件発明の一形態であることを明記しているから,本件発明1は,圧縮機とポンプとを明確に区別し,自然循環は圧縮機を使用せず,ポンプの使用は含むことを明確にしている旨主張する。
しかし,本件明細書にポンプを使用しないとの明示の記載がないとしても,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には,前記のとおり,本件発明1においてポンプを使用しないことが開示されているものである。
また,本件発明5において,補助ポンプを構成としているが,「二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)」であって,液ポンプ(P)を随意に使用することができるものではないから,補助ポンプを使用することが本件発明の一形態であるとはいえない。
(イ) 控訴人らは,本件発明1の構成要件Cにおける「自然循環」は,装置の定常運転時に自然に循環し続ける現象であり,また,「自然循環を行うようにした」とは,強制循環が一切介在しない「自然循環のみ」の場合だけでなく,「自然循環」と「強制循環」とが両方発生した状態である「自然循環+強制循環」の場合も含む旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環を行う」とは,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環を「自然循環現象」のみによることを意味するのであり,「強制循環」としては,本件発明2のように「炭酸ガスサイクル(3)内の一部を加熱または冷却して行うこと」,あるいは,本件発明5のように「二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたこと」を付加した場合にのみ,それぞれの発明の構成要件を充足するのであって,その他の「強制循環」を容れる余地はない。
(ウ) したがって,控訴人らの上記主張は,いずれも,採用の限りでない。
カ以上検討したところによると,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環を行う」とは,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環を「自然循環現象」のみによることを意味するのであって,圧縮機を組み込まないのみならず,液ポンプその他のポンプが併存しないものである。
( ) 被控訴人装置における「自然循環」の発生について2ア被控訴人装置の炭酸ガスサイクルにおける冷媒循環が,「前記炭酸ガス2 サイクル(注 「二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル」)は,CO ,レシーバタンク1から供給される気相の二酸化炭素がカスケードコンデンサ2において前記アンモニアサイクルとの熱交換により凝縮液化されて前記CO レシーバタンク1に戻る凝縮サイクルと,前記CO レシーバタン2 2ク1に貯留された液相二酸化炭素の大部分が前記CO レシーバタンク1 2よりも下に設けられたCO 液ポンプ3の吐出力により,前記CO レシー 2 2バタンク1内の液相二酸化炭素の液面よりも高く立ち上げられた立上げ部を有し,かつ,立上げ部の頂部から前記CO レシーバタンク1の上部に2連通する連通管5を設けた給液管4を通過し,流量調整弁6を経由して,前記CO レシーバタンクよりも下に配置されたスパイラルクーラ7に流2入し,一部が気化した気液混合相となり,該気液混合相のCO が戻り管 28を通過して前記CO レシーバタンク1に戻る冷却サイクルと,前記C 2O 液ポンプ3から吐出された液相二酸化炭素の一部が前記連通管5を通 2過して前記CO レシーバタンク1に還流する部分還流サイクルからなる 2二酸化炭素の循環を行うようにしたこと」(原判決「事実及び理由」欄の第2の1( )イc)であることは,当事者間に争いがない。
4上記事実によると,被控訴人装置において,液化されてCO レシーバ 2タンクに貯留された液相二酸化炭素が,蒸発器を通過して同CO レシー 2バタンクに戻るまでの循環方法は,まず,CO 液ポンプの吐出力により, 2液相二酸化炭素が,同CO レシーバタンク内の液相二酸化炭素の液面よ 2りも高く立ち上げられた立上げ部を経由してから,給液管を流下し,流量調整弁を経由して,上記CO レシーバタンクよりも下に配置されたスパ2イラルクーラー(蒸発器)に流入し,一部が気化した気液混合相となり,この気液混合相の二酸化炭素が戻り管を通過して上記CO レシーバタン2クに戻るというものであり,定常状態においては,CO 液ポンプの吐出 2力と,気体又は液体の二酸化炭素の液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行っていることが認められる。
イところで,前記( )のとおり,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循1環」とは,二酸化炭素ガスを冷却し液化凝縮して冷媒液とする熱交換器を,ガス配管と液配管とで接続して形成される冷媒の循環経路で,冷却器より高所に配置し,ガス配管中の冷媒ガスと液配管中の冷媒液との比重差により冷媒液を流下し,冷媒ガスを上昇させることにより行われる循環ループにおける循環を意味するものであり,かつ,二酸化炭素ガスの上記自然循環現象のみを利用するものであって,圧縮機を組み込まないのみならず,液ポンプその他のポンプをも利用しないシステムであるから,上記のとおり,CO 液ポンプを具備し,このCO 液ポンプの吐出力と,気体又は液2 2体の二酸化炭素の液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行っている被控訴人装置は,構成要件Cの「自然循環」の要件を充足しないことが明らかである。
ウ進んで,被控訴人装置のCO 液ポンプが,本件発明5の構成要件Eに2いう「前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)」に当たるか否かについて検討する。
(ア) 平成16年11月被控訴人補助参加人作成の「納入機器リストおよび完成図一覧表」(乙9の1,以下「乙9の1資料」という。),同年10月15日伊藤忠産機株式会社作成の「ヤヨイ食品株式会社清水工場第一工場新築工事のうちスパイラル凍結設備工事グラタン・デザートスパイラルフリーザー設備図」(乙20,以下「乙20資料」という。)及び「ヤヨイ食品株式会社清水工場第一工場新築工事のうちスパイラル凍結設備工事パスタ・ソーススパイラルフリーザー設備図」(乙21,以下「乙21資料」という。)によれば,被控訴人装置は,被控訴人清水工場に設置されているものであり,被控訴人補助参加人が冷凍設備工事を受注し,設計,施工したものであること,被控訴人清水工場には,2つのフリーザー(スパイラルフリーザー設備,以下「フリーザー室」ともいう。)が存在すること,フリーザー室の下方の一端には,作業員が出入りすることのできる扉が図示されており,かなり大型のものであることが認められる。
そして,乙9の1資料のNo.12及びNo.13をみると,「機器名称及び型式」欄には,いずれも「CO 液ポンプボトム式ユニットク2ーラー」と,「搬入場所」欄には,それぞれ「1階G/Dスパイラルフリーザー室」,「1階P/Sスパイラルフリーザー室」と,「備考」欄には,いずれも「上段・下段併せて2基」と記載されており,これらの記載からすれば,被控訴人装置のクーラーが,2台で1つのフリーザーとしてフリーザー室に設置されていることが認められる。
上記認定事実を前提に乙3資料をみると,その「防熱仕様」欄には,天井,壁,床のパネル高さ,パネル長さ,パネル幅が記載されているところ,この数値は,乙20資料,乙21資料の各フリーザー室の大きさに対応していることが認められ,乙3資料の「換気負荷」欄には,「庫内温度」,「庫外温度」及び「扉開口時間」との記載があって,この用語もフリーザー室についてのものであることが明らかである。
そうすると,乙3資料は,明示こそされていないが,その内容に照らし,被控訴人清水工場に設置された2つのフリーザー室のうち,「グラタン・デザートスパイラルフリーザー」室についてのスパイラル凍結負荷計算書であると認めることができる。
一方,乙9の1資料,平成16年6月10日株式会社帝国電機製作所作成の「テイコクモータポンプ仕様書」(乙9の2)及び弁論の全趣旨によれば,上記フリーザー室用に,株式会社帝国電機製作所から被控訴人補助参加人へ5台のCO 液ポンプが納品され,フリーザー室の各2クーラーに対応して5台のCO 液ポンプ(うち1台は予備用)を備え 2付けたところ,上記CO 液ポンプ1台の吐出量は80 □/minであ 2ることが認められる。
なお,控訴人らの主張に従って,-45℃における液体二酸化炭素の蒸発潜熱を78.59kcal/kg,-45℃における液体二酸化炭素の比体積を0.881 □/kgとする。ちなみに,被控訴人及び同補助参加人は,前者を77.46kcal/kg,後者を0.892□/kgとしており,実質的な差はない。
(イ) そこで,乙3資料の内容について検討すると,上記フリーザー室の最大負荷(負荷計算合計)は26万7502kcal/hであることが認められ,スパイラルクーラー1台当たりの最大負荷は,13万3751kcal/hであり,2229kcal/minに換算される。一方,-45℃における液体二酸化炭素の蒸発潜熱78.59kcal/kgは,89.2kcal/ □に換算することができるから,スパイラルクーラー1台当たりの最大負荷2229kcal/minを蒸発潜熱89.2kcal/ □で除して得られるスパイラルクーラー1台における1分当たりの液体二酸化炭素の蒸発量は約25 □/minとなる。
そうすると,被控訴人装置のスパイラルクーラー1台が,1分間で液体二酸化炭素を約25リットル蒸発することになる。一方,被控訴人装置のCO 液ポンプ1台の吐出量は80 □/minであり,連通管の若2干の戻り量(9 □/minであることに当事者間で争いがない。)を考慮しても,スパイラルクーラー1台の液体二酸化炭素の蒸発量の約3倍の液体二酸化炭素が上記クーラーに供給されることになる。
したがって,被控訴人装置の二酸化炭素媒体の循環は,主として,CO 液ポンプによってされていることが認められるから,被控訴人装置2のCO 液ポンプは,本件発明5の構成要件Eにいう「前記炭酸ガスサ2イクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」に当たるとはいえず,構成要件Eを充足しない。
(ウ) 控訴人らは,乙3資料が,フリーザーについてのものであるとの証拠がなく,スパイラルクーラー1台の計算書であるとの前提で,被控訴人装置のCO 液ポンプの吐出能力では,控訴人装置に必要な循環量の約2半分である旨主張する。
しかし,上記(ア)認定のとおり,乙3資料は,2つのフリーザー室のうち,「グラタン・デザートスパイラルフリーザー」室についてのスパイラル凍結負荷計算書であり,これを前提とすれば,被控訴人装置にお2 いて,上記フリーザー室に備え付けられた各クーラーに対応する各CO液ポンプの吐出量は80 □/minであるから,スパイラルクーラー1台の液体二酸化炭素蒸発量25 □/minの約3倍の液体二酸化炭素が上記クーラーに供給されることになる。
なお,乙3資料がスパイラルクーラー1台の計算書であるとする控訴人らの主張は,これを裏付ける何らの証拠も示されていない。その他,本件全証拠を検討しても,乙3資料が,フリーザーについての計算書でないことをうかがわせる証拠を見いだすことができない。
したがって,被控訴人装置のCO 液ポンプの吐出能力では,控訴人2装置に必要な循環量の約半分であるとする控訴人らの主張は,誤った前提に立つものというほかなく,失当である。
エ控訴人らのその余の主張について(ア) 控訴人らは,原判決が,「被告装置における冷媒循環は,定常時の運転においても,CO 液ポンプによる送出の作用がなければ停止し,完2了しない」(44頁9行目ないし10行目)などと判示した点をとらえ,本件発明1は,運転中に自然循環が存在することを前提とした発明であり,自然循環が停止した場合のことを論じている発明ではなく,原判決は,本件発明1の「自然循環」が,装置の定常運転時に自然に循環し続ける現象であることを全く考慮していない旨主張し,その理由として,@被控訴人装置の運転中は,CO 液ポンプから送られる冷媒(液相二2酸化炭素)が連通管をふさぐことにより,冷媒の管路としては密閉されたループが形成され,被控訴人装置において,各機器の配置からして,気相と液相の液ヘッド差が生じていることは明らかであるから,連通管がふさがれている間は,この液ヘッド差により自然循環が発生している,A被控訴人装置の「定常運転時」とは,「CO 液ポンプの稼動時」及2び「CO 液ポンプの停止時」の双方を含むものであったとしても,被 2控訴人装置の定常運転時において冷媒循環がされている最中に「自然循環」が発生している,B被控訴人装置のCO 液ポンプは,強制循環で2冷却を行うには能力の不足するポンプであり,このような能力不足のポンプが被控訴人装置において果たしている役割は,専ら自然循環を維持するためにシステムの運転中連通管を閉じておくことにあるものとしか理解することができないとする。
しかし,前記( )ア認定のとおり,被控訴人装置は,定常状態におい2て,CO 液ポンプの吐出力と,気体又は液体の二酸化炭素の液ヘッド 2差(高低差)を利用して循環を行っているものであり,しかも,上記ウ(ウ)認定のとおり,被控訴人装置のCO 液ポンプは,スパイラルクーラ2ー1台の液体二酸化炭素蒸発量の約3倍の液体二酸化炭素を上記クーラ2 ーに供給するのであって,二酸化炭素媒体の循環は,主として,CO液ポンプによってされているものであるから,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環を「自然循環現象」のみにより行っているとはいえないものである。ところで,前記( )カのとおり,本件発明1の「自然1循環」とは,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環を「自然循環現象」のみによることを意味するものであるから,前記イ及びウ(イ)のとおり,被控訴人装置は,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環」の要件を充足しておらず,また,本件発明5の構成要件Eにいう「前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」との要件をも充足していない。また,被控訴人装置の定常運転時において冷媒循環がされている最中の循環も,主としてCO 液ポンプによってされる冷媒循環であって,「自然循環」ではな2いし,被控訴人装置のCO 液ポンプが能力不足のポンプであるともい 2えない。
したがって,控訴人らの上記主張は,すべて失当である。
(イ) 控訴人らは,被控訴人装置は,本件発明1の構成をそのまま採用しながら,しかも「給液管立上げ部及び連通管」によって流量調整を行うとするのは,流量調整の観点からすると屋上屋を重ねるものであって,本件発明1の技術的範囲に属することになるのを回避するために余分な構成を追加した迂回技術である旨主張する。
しかし,特許発明均等であるとしてその技術的範囲に属するとされる迂回発明ないし迂回技術は,特許発明と基本的に同一の技術的思想に基づきながら,特許請求の範囲中の構成要件のうち,出発的要件と最終的要件を同一にしつつ,その中間に,客観的にみて無用かつ容易な要件を施したものをいうなどと説明されている講学上の概念である。そうすると,控訴人らの上記迂回の主張は,被控訴人装置が,「給液管立上げ部及び連通管」による流量調整を除けば,本件発明1のすべての構成要件を充足すること,すなわち,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素媒体の循環を,液ヘッド差を形成したことによる自然循環現象のみによって行っている場合を前提としなければならないと解されるところ,被控訴人装置が,構成要件Cにいう「自然循環を行う」との要件を充足していないことは,上記のとおりである。
したがって,控訴人らの上記主張は,その前提において,既に誤りであって,失当というほかない。
(ウ) 控訴人らは,被控訴人装置において,@装置の定常運転時には,液ヘッド差が生じる,A定常運転時に生じた液ヘッド差は,自然循環を行わせるだけの大きなものである,Bしたがって,装置の定常運転時に,自然循環が生じるという事実があり,被控訴人装置の運転時に@からBの物理現象が生じることは,当業者であれば否定できないはずである旨主張する。
しかし,そもそも,被控訴人装置が,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環を行う」との要件を充足しておらず,本件発明5の構成要件も充足していないばかりでなく,本件発明1と均等であるとしてその技術的範囲に属するとされる迂回技術でもないことは,上記ウ(イ),エ(イ)のとおりである。しかも,被控訴人装置が,控訴人ら主張のように,定常運転時に生じた液ヘッド差が自然循環を行わせるだけの大きなものであることを認めるに足りる証拠はなく,控訴人らによる控訴人装置に必要な循環量の計算が誤りであることは,前記ウ(ウ)のとおりである。
したがって,控訴人らの上記主張は,採用の限りでない。
(エ) 控訴人らは,被控訴人及び同補助参加人が,被控訴人装置の運転時にCO 液ポンプが蒸発量の3倍を超える送出量を有するとするのは,C2O レシーバタンクとスパイラルクーラーの高低差による液ヘッド差 2(建物の構造上12〜15mH)が存在すること及び配管路の圧力損失を無視したものである旨主張するが,被控訴人装置の二酸化炭素媒体の循環は,主として,CO 液ポンプによってされているものであり,液2ヘッド差等を無視するものでないことは,前示のとおりであるから,控訴人らの前記主張は,失当というほかない。
2念のため,被控訴人装置が本件訂正発明1及び5の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
第2次訂正請求は,前記第2の2( )の( )アのとおり,本件特許出願の願書 36に添付した明細書の特許請求の範囲減縮,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから,本件訂正発明1の構成要件C’にいう「自然循環を行うようにした」との構成は,本件発明1の構成要件Cにいう「自然循環を行うようにしたこと」と異なるものではない。そうすると,被控訴人装置は,「自然循環を行う」との構成要件を具備していないから,その余の点について検討するまでもなく,被控訴人装置は,本件訂正発明1の技術的範囲には属しない。
また,本件訂正発明5は,構成要件I’のとおり,「前記炭酸ガスサイクル(3)内には,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」との構成を有するところ,この構成が,本件発明5の構成要件Eにいう「前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」と異なるものではない。そうすると,被控訴人装置は,「前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けた」の構成要件を具備していないから,その余の点について検討するまでもなく,被控訴人装置は,本件訂正発明5の技術的範囲には属しない。
3以上のとおり,被控訴人装置は,本件発明1及び5のいずれの技術的範囲にも属しないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの請求は理由がない。
よって,控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明