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関連審決 無効2005-80303
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10444審決取消請求事件 判例 特許
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平成18行ケ10452審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10383審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  公知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  存続期間 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10499号 審決取消請求事件
原告カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士三好秀和
同 工藤理恵
訴訟復代理人弁理士豊岡静男
被告株 式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
同 伊藤高順
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2005−80303号事件について平成18年9月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯被告(旧商号・日本電装株式会社)は,名称を「無線式ドアロック制御装置」とする特許第2135142号の発明(昭和61年10月21日特許出願〔特許出願人の名称・被告の旧商号〕,平成10年2月27日設定登録。以下,この出願を「本件出願」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者であったが,平成18年10月21日存続期間が満了して,当該権利が消滅した。
原告は,平成17年10月27日,本件特許を無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,これを無効2005-80303号事件として審理したが,平成18年9月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月10日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の要旨キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部と,このつまみ部に設けられる送信スイッチと,前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると予め定められたコード信号を送信する送信機と,前記送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する受信機とを備える無線式ドアロック制御装置において,前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段と,この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする無線式ドアロック制御装置。
3審決の理由( ) 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおりであり,本件発明は,実願1昭59-199303号(実開昭61-115466号,昭和61年7月21日公開)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)及び特開昭60-70284号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下,順に「引用発明1」,「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができないので,審判請求人(注,原告)の主張及び証拠方法によっては,本件発明の特許を無効とすることができないとした。
( ) なお,審決は,本件発明と引用発明1との対比について,次のとおり認定 2した。
ア引用発明1「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるイグニッションキー30と,このイグニッションキー30の一端に設けられ,このイグニッションキー30を操作するための,アッパーケース32とロアケース34から成るキーケースと,このキーケースに設けられる操作ボタン16aと,前記キーケースに内蔵され前記操作ボタン16aがON操作されると,スイッチSW 〜SW の操作に基づき予め定められたキーコードを送信する1 4電波送信部70と,前記電波送信部70から送信されるキーコードを受信して,ドアロック装置を制御する受信機を備える車両用遠隔解施錠装置。」イ対比(ア) 一致点「キーシリンダに挿入され,各種機器を作動させるキープレートと,このキープレートの一端に設けられ,このキープレートを操作するためのつまみ部と,このつまみ部に設けられる送信スイッチと,前記つまみ部に内蔵され前記送信スイッチが操作されると予め定められたコード信号を送信する送信機と,前記送信機から送信されるコード信号を受信して,ドアロックアクチュエータを制御する受信機とを備える無線式ドアロック制御装置。」(イ) 相違点「本件発明が,『前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段』と,『この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段』とを備えるのに対して,引用発明1がこのような構成を備えていない点。」(以下「本件相違点」という。)第3原告主張の審決取消事由審決は,引用発明2の認定を誤り(取消事由1),本件相違点についての判断を誤り(取消事由2),その結果,本件発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論を導き出したもので,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)( ) 審決は,引用発明2について,「イグニッションキーとは別体である所定1の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;前記送信機から送信される固有信号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制御装置において,携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするために,イグニッションキーが(車室内の)鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置。」(審決謄本8頁第2段落)と認定したが,上記記載のうち,@携帯用送信機を「イグニッションキーとは別体である」と認定した点(以下「付随事項@」という。),Aロックアクチュエータの駆動を禁止する理由を「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするために」と特定した点(以下「付随事項A」という。)は,本件発明に係る特許請求の範囲とは無関係な事項に関する認定であるのみならず,相違点についての判断の前提として不当なものであって,誤りである。
( ) 確かに,引用例2(甲2)においては,発明の目的,効果などにおいて,2付随事項Aに係る記載があるが,これを特許請求の範囲における特定事項としていないのであるから,引用発明2が,付随事項Aによって限定されるべきものではない。
また,引用例2には,「例えば,上記カード型送受信機1を所持した運転者が車室内に存在し,各ドアロックを施錠して居眠りをしていた場合などに」(2頁右下欄第3段落)と記載されているので,「運転者が車室内に存在し,各ドアロックを施錠して居眠りをしていた場合」は,単なる例示にすぎない。そして,「このような車両用施錠制御装置にあっては,上記カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,かつ上記スイッチ12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠・解錠が行なわれる構成となっている」(同段落)との記載からは,カード型送受信機が車両の近傍に存在すれば,運転者が車内にいようが車外にいようが同じ状態となることが明らかであり,また,スイッチを操作する者が運転者か第三者かも関係ないものである。
( ) 引用発明2は,本件相違点についての進歩性の判断を行うために引用され3るものであるところ,前記第2の3( )イ(イ)のとおり,本件相違点は,「本 2件発明が,『前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段』と,『この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段』とを備えるのに対して,引用発明1がこのような構成を備えていない点。」であるから,引用発明2の認定において,携帯用送信機とイグニッションキーとが一体であるか別体であるかは関係のない事項であって,相違点についての判断において,引用発明2の携帯用送信機とイグニッションキーとが一体であるか別体であるかが問題になるのであれば,その際に検討すればよいだけのことである。
( ) 引用例2に,1つの発明のみが記載されているというのであればともかく,4種々の発明が記載されているのであり,それらの種々の発明の中から,本件出願時における技術常識を勘案して,適当な発明を選択して認定することが可能であり,原告(審判請求人)が審判請求書(甲8)で主張していたとおり,引用発明2は,「所定の固有信号を無線送信する送信機と;前記送信機から送信される固有信号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制御装置において,イグニッションキーが鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置。」(以下「引用発明2A」という。),すなわち,審決認定の引用発明2から付随事項@及びAを除いたものと認定されるべきである。
したがって,審決が,付随事項@及びAによって限定された引用発明2を,本件発明と引用発明1との相違点の判断を行なうために引用したのは,誤りであって,審決は取り消されるべきである。
2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)( ) 審決は,本件相違点についての認定判断において,引用発明2を前提とし,1「引用発明1には,・・・第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき技術的課題が引用発明1には存在しないのであって,引用発明1に引用発明2の動作禁止制御手段を適用すべき前提となる動機付けが無いというべきである。」(審決謄本10頁最終段落ないし11頁第1段落)と判断したが,引用発明2の認定が誤っていることは前記のとおりであるから,上記判断は前提において既に誤りである。
( ) 続いて,審決認定の引用発明2から付随事項@及びAを除いた引用発明2 2Aを,引用発明1に組み合わせることが,当業者において,容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。
キープレートと送信機とを一体化し,キープレートに送信スイッチが設けられているものにおいては,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,使用者の意図に反してドアを解錠,施錠の操作をしてしまうという「誤操作」が生じることは,本件出願時の技術常識から,当然に認識されるものであったのであるから,引用発明1には,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,誤って送信スイッチを押してしまうという誤作動を防止しようとする自明の課題が存在するものである。
換言すると,本件出願時の技術常識をもった当業者が引用例1を見れば,キープレートのつまみ部に送信スイッチを設けているという構造から,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,誤って送信スイッチを押してしまうという誤作動が生じるという問題点があり,この問題点を解決する手段が必要とされるとの課題があると認識することは自明である。
この自明性については,例えば,特開昭60-37380号公報(以下「甲4公報」という。),特開昭60-164571号公報(以下「甲5公報」という。),特開昭61-221475号公報(昭和61年10月1日公開,以下「甲6公報」という。),特開昭60-119874号公報(以下「甲7公報」という。)によると,無線式ドアロック制御装置において,送信機や車両本体にスイッチが設けられているものについては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となるという不都合が生じることが,本件出願時には技術常識であったことが認められる。
すなわち,甲4公報には,キープレートと送信機とが別体であり,送信機に送信スイッチが設けられているものにおいて,送信スイッチの意図しない操作による不都合があること,車両の走行中は,ドアロック機構がアンロック状態となることを禁止することが記載されている。甲5公報には,キープレートと送信機とが別体であり,送信機に送信スイッチが設けられておらず,車両本体にスイッチが設けられているものにおいて,スイッチの操作誤りがあることが記載されている。甲6公報には,キープレートと送信機とが別体であり,送信機にも車両本体にもスイッチが設けられておらず,送信機が接近すれば解錠されるものにおいて,走行中の安全性を確保するために,エンジンキーの位置が運転状態であれば解錠動作を停止することが記載されている。甲7公報には,キープレートと送信機とが別体であり,送信機に送信スイッチが設けられておらず,車両本体にスイッチが設けられているものにおいて,キーがイグニッションキーシリンダに差し込まれている場合には解錠しないことが記載されている。甲4公報ないし甲7公報の上記記載に,引用例2の記載をも併せ考えると,本件出願時,送信機及び車両のいずれかにスイッチが設けられているものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となるという不都合が生じることは,技術常識であったものであり,意図しない解錠を防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入された状態において,解錠操作がされることを禁止することは,自明な課題であったということができる。
( ) 一方,引用発明2Aをみると,キープレートと送信機とが一体となったも3のと,キープレートと送信機とが別体であり,送信機に送信スイッチが設けられているものとは,送信スイッチを押してドアを解錠・施錠する点で共通しているから,「スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となるという不都合が生じる」ことも同じである。そうすると,本件出願時の技術常識の下で,引用例2に接した当業者は,引用発明2Aは,送信機には送信スイッチが設けられておらず,車両本体にスイッチが設けられているもの,送信機に送信スイッチが設けられているもの,さらには,キープレートと送信機とが一体となったものなど,無線式ドア解施錠装置の種類に関係なく,誤ったスイッチ操作を防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入された状態で,解錠操作がされることを禁止する技術であると認識することができるものである。
( ) したがって,誤ったスイッチ操作を防止するために,キープレートがキー4シリンダに挿入された状態で,解錠操作がされることを禁止する技術を開示する引用発明2Aを,引用発明1の自明な課題を解決するために適用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
なお,仮に,引用発明2Aが,送信機には送信スイッチが設けられておらず,車両本体にスイッチが設けられているもの,送信機に送信スイッチが設けられているもについて,誤ったスイッチ操作を防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入された状態で,解錠操作がされることを禁止する技術であって,キープレートと送信機とが一体となったものに係る上記の技術ではないとしても,引用発明1の上記自明な課題を解決しようとする際に,キープレートと送信機とが別体となった無線式ドアロック制御装置に関する,誤ったスイッチ操作を防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入された状態で,解錠操作がされることを禁止する技術を適用することに困難性はない。したがって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けが存在することに変わりはない。
( ) 被告は,甲4公報ないし甲7公報によっても,@本件出願時,ドアの解錠,5施錠とは本来的に関係しないキープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,使用者の意図に反してドアを解錠,施錠の操作をしてしまうという「誤操作」は全く認識されていなかった,A本件出願時,キープレートの操作と,ドアの解錠,施錠する操作とは全く別の動作となっていたことが理解されるにすぎない旨主張する。
しかし,@については,スイッチが設けられているものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となるという不都合が生じるのであり,このような状態は,キープレートにスイッチを設けたものにおいても生じることに変わりはなく,また,キープレートにスイッチを設けたものをキーシリンダに挿入して操作するときにも生じることに変わりはないのである。このことは,本件明細書(甲3)の〔従来の技術〕及び〔発明が解決しようとする問題点〕の欄に,「このようなつまみ部(注,「キープレートのつまみ部」)に送信機を内蔵したものは,構造上,どうしてもこのつまみ部に送信スイッチを設けなければならない。」(2頁3欄8行目ないし11行目),「このつまみ部は,本来キープレートを操作するための部材であるため,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,誤って送信スイッチを押してしまう。このため,施錠あるいは解錠をしたくないにも拘らず,ドアロックアクチュエータが作動して不便を感じることがある。」(同欄13行目ないし19行目)と記載されているように,構造上から生じる必然的なものである。
要するに,スイッチが露出して設けられているものは,意図しない接触等により,スイッチの誤操作が生じ得ることは,経験則上明らかな事項であり,本件明細書も,経験則上明らかな事項について記載しているにすぎない。
このことは,例えば,実願昭58-110621号(実開昭60-17863号)のマイクロフィルム(以下「甲9マイクロフィルム」という。)及び実願昭58-112117(実開昭60-19649号公報)のマイクロフィルム(以下「甲10マイクロフィルム」という。)に,イグニッションキーなどに発光素子を取り付けた照明付キーにおいて,操作ボタンがつまみ部の平面部分に位置するため,誤って操作ボタンを押下する場合が多いことが問題点として指摘されていることからも,明らかである。
Aについては,キープレートと送信機とが別体のものにおいて,キープレートの操作と,ドアの解錠,施錠する操作とは全く別の動作となっているのは,当然のことである。甲4公報ないし甲7公報には,キープレートと送信機とが別体のものに関する発明が記載されているが,引用発明1においては,キープレートと送信機とを一体化し,キープレートに送信スイッチが設けられているから,キープレートの操作と,ドアの解錠,施錠する操作とが同じ動作になっているのであり,殊更に取り上げて論ずべき事項ではない。
被告の主張の意図が,キープレートと送信機とが別体のものに関する発明の技術は,キープレートと送信機とを一体化した発明には適用できないとの主張であるとしても,前記のとおり,キープレートと送信機とを一体化したものが,別体のものと比較して,課題等において格別異なる点があるものではない。
第4被告の反論審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について( ) 原告は,審決が,ロックアクチュエータの駆動を禁止する理由を「携帯用1送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするために」(付随事項A)と特定した点につき,本件発明に係る特許請求の範囲とは無関係な事項に関する認定であるのみならず,相違点についての判断の前提として不当なものであると主張する。
しかし,引用例2(甲2)においては,《発明の背景》欄に,「カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,かつ(ドアに設けられた)上記スイッチ12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠,解錠が行なわれる構成となっているため,・・・第3者が車外からスイッチ12を操作した場合には施錠されていたドアロックが解錠されてしまうこととなり,安全上好ましくない事態を招くことが考えられる。」(2頁右下欄最終段落),《発明の目的》欄に,「この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,携帯用送信機を所持した者が,車室内に存在している場合に車外からの解錠,施錠操作を禁止することのできる車両用施錠制御装置を提供することにある。」(3頁左上欄第1段落),《発明の効果》欄に,「以上詳細に説明したように本発明の車両用施錠制御装置にあっては,携帯用送信機を所持している者(例えば運転者)が,車内に存在する場合に,車外からの解錠,施錠操作を禁止することが可能となり,外部からの他人の侵入を防止し,防犯性を向上させることができる。」(7頁左上欄第3段落)とそれぞれ記載されているのであるから,ドアアクチュエータの駆動禁止理由を外部からの第三者の侵入防止と明確に説明しているものであり,また,それ以外の説明はされていない。
したがって,原告の上記主張は失当であり,引用発明2の認定に誤りはない。
( ) 原告は,審決が,引用発明2の携帯用送信機を「イグニッションキーとは2別体である」と認定したことは誤りであると主張するが,引用例2においては,カード型送受信機1をイグニッションキー63とは明らかに別部材として記載しており,それ以外の記載は全くない。したがって,原告の上記主張は失当であり,引用発明2の認定に誤りはない。
2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)について( ) 原告は,引用発明2に「誤ったスイッチ操作を防止するため,キープレー1トがキーシリンダに挿入された状態で,解錠操作がされることを禁止する手段」が開示されていることを前提に,取消事由2の主張をしているが,引用発明2には,そのような技術が開示されておらず,ドアアクチュエータの駆動禁止理由を外部からの第三者の侵入防止,すなわち,付随事項Aが開示されているのである。したがって,原告の上記主張は,前提において既に誤りである。
( ) 原告は,甲4公報ないし甲7公報を挙げて,本件出願時,意図しない解錠2を防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入された状態において,解錠操作がされることを禁止することは,自明な課題であった旨主張する。
しかし,甲4公報で取り上げている「誤操作」は,使用者が車両から離れる際,ロック状態であるにもかかわらず,無意識のうちに送信スイッチを押してしまうことであり,キープレートをキーシリンダに挿入し操作する際に誤ってスイッチを押してしまうという「誤操作」ではない。甲5公報のカード型送信機1は,引用例2記載のものと同様,カード型送受信機自体にはスイッチがなく,ドアの施錠,解錠に,送信機のスイッチを押すという操作は本来的に不要である。甲6公報の送信器1も,引用例2や甲5公報に記載のものと同様,送信器1自体にはスイッチがなく,ドアの解錠に,送信器のスイッチを押すという動作は本来的に不要である。甲7公報のカード型送信機1も,引用例2や甲5公報及び甲6公報に記載のものと同様,カード型送受信機自体にはスイッチがなく,ドアの施錠・解錠に,送信機のスイッチを押すという操作は本来的に不要である。
したがって,甲4公報ないし甲7公報によっても,@本件出願時,ドアの解錠,施錠とは本来的に関係しないキープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,使用者の意図に反してドアを解錠,施錠の操作をしてしまうという「誤操作」は全く認識されていなかった,A本件出願時,キープレートの操作と,ドアの解錠,施錠をする操作とは全く別の動作となっていたことが理解されるにすぎない。
このように,甲4公報ないし甲7公報は,おのおの独自の課題の下,それに応じた構成を採用しているのであるが,キープレートがキーシリンダに挿入された状態で,施解錠操作がされることを禁止することについては,記載がないのはもちろん,その示唆さえもない。そもそも,本件出願時の技術常識では,スイッチ操作を行うときに正しく操作ができなかったことを「誤作動」として問題視していたのであり,本件出願時,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,本来スイッチ操作したくないにもかかわらず,スイッチ操作してしまうことを「誤操作」として問題視した事例はなかったのである。
したがって,引用発明1においても,上記「自明の課題」というものは,開示されていない。また,甲4公報ないし甲7公報にも,上記「自明の課題」についての記載はなく,その示唆もない。
なお,原告は,「キープレートをキーシリンダに挿入して操作する際に,誤って送信スイッチを押してしまうこと」が自明な課題であるという主張の裏付けとして,本件明細書の記載を掲げているが,出願当時の技術常識は,当業者が本件明細書を読んでいないことを前提としなければならないのであって,「後知恵」というべき手法であり,失当である。
( ) およそ,あらゆる発明は,おのおの独自の技術的課題を持ち,その課題を3解決するために,独自の構成を採用しているのである。スイッチが始めて世に出た時代であれば格別,あらゆる分野でスイッチが用いられていた本件出願当時では,本件出願人は,単にスイッチの誤操作を防止するという広い概念の発明を出願したものではなく,そのことは,本件明細書の記載より明白である。
本件発明は,送信機のスイッチを押してドアロックアクチュエータを解錠・施錠する動作と,キープレートをキーシリンダに挿入して各種機器を作動させる動作という本来全く関係がなかった動作が,送信機及び送信スイッチをキープレートのつまみ部に設けた結果,使用者の意図に反してつながってしまうという点に着目したものであり,その不具合をなくすべく独自の構成を採用しているのである。そして,この着目点は,引用発明1及び2に示唆がないことはもちろん,原告の提出する甲4公報ないし甲7公報等にも,全く示されていないのである。
本件発明の独自の技術的課題を殊更に無視して,スイッチの誤操作という上位概念に本件発明の課題をわい曲して進歩性の判断をしようとする論理は誤っており,失当である。
( ) 以上のとおり,送信機に送信スイッチも設けられていない引用発明2には,4本件発明に到る動機付けは全くないから,引用発明1に引用発明2を適用すべき動機付けは存在せず,当業者により容易に想到し得たものといえないとした審決の認定判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について( ) 審決は,引用発明2について,「イグニッションキーとは別体である所定1の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;前記送信機から送信される固有信号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制御装置において,携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするために,イグニッションキーが(車室内の)鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置。」(審決8頁第2段落)と認定したのに対し,原告は,これを争い,本件発明に係る特許請求の範囲とは無関係な事項を含めた認定であり,ひいては,相違点についての判断を誤らせるものである旨主張する。
( ) 引用発明1が,本件相違点に係る本件発明の構成,すなわち,「前記キー2プレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段」,及び,「この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段」との構成を具備していないことは,前記第2の3( )イ(イ)のとおり,当事者間に争いがない。 2そして,引用発明2中の,「所定の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;前記送信機から送信される固有信号を受信して,ロックアクチュエータを制御する受信手段を備える無線式車両用施錠制御装置において,イグニッションキーが(車室内の)鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止部とからなる無線式車両用施錠制御装置」の部分(引用発明2A)が,本件相違点に係る本件発明の上記構成に相当することは,審決も説示するとおり(審決謄本9頁第3段落),当事者間に実質的に争いがない。
ところが,審決は,引用発明2Aに,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」という事実(付随事項@),ロックアクチュエータの駆動を禁止する理由が「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするため」であるという事実(付随事項A)を含めた全体を引用発明2と認定した上,本件相違点についての認定判断において,「引用発明1には,・・・第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき技術的課題が引用発明1には存在しないのであって,引用発明1に引用発明2の動作禁止制御手段を適用すべき前提となる動機付けが無いというべきである。」(審決謄本10頁最終段落ないし11頁第1段落)と判断し,引用発明2に存在する付随事項@及びAが,引用発明1に存在しないとして,引用発明2を引用発明1に適用する動機付けがないとしているのである。
したがって,審決は,付随事項@及びAが引用発明2Aに特有の事項であって,付随事項@及びAと引用発明2Aとを分離して進歩性を考えることはできないものとしていることが明らかである。
( ) そこで,引用例2(甲2)についてみると,以下の記載がある。
3ア≪発明の背景≫欄(ア) 「本願出願人は,先に,特願昭57-132118号(未公開)において『電波式キーシステム』提案している。この電波式キーシステムは,例えば車両のドアロックに適用され,運転者がキーを所持する代わりに送信機を持ち,この送信機を所持したものが上記ドアに設けられたスイッチを操作した場合のみドアロックの解錠あるいは施錠が行なわれる構成となっているものである。」(1頁右下欄最終段落ないし2頁左上欄1行目)(イ) 「このように,カード型送受信機1側のコード信号と車両側の制御回路2に登録されているコード信号とが一致した場合に限りドアロックの解錠・施錠が行われることによって,例えば上記カード型送受信機1を所持しない者がドアロックを解錠しようとしても,ドアロックは解錠されない。また,コード信号の異なるカード型送受信機1を携帯した者がドアロックを解錠しようとしても同様にしてドアロックは解錠されない。
これによって,上記カード型送受信機1は,従来の機械式キーと同様の防犯性を有するものとなる。」(2頁左下欄最終段落)(ウ) 「ところが,このような車両用施錠制御装置にあっては,上記カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,かつ上記スイッチ12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠・解錠が行なわれる構成となっているため,例えば,上記カード型送受信機1を所持した運転者が車室内に存在し,各ドアロックを施錠して居眠りをしていた場合などに,第3者が車外からスイッチ12を操作した場合には施錠されていたドアロックが解錠されてしまうこととなり,安全上好ましくない事態を招くことが考えられる。」(2頁右下欄最終段落)イ≪発明の目的≫欄「この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,携帯用送信機を所持した者が,車室内に存在している場合に車外からの解錠・施錠操作を禁止することのできる車両用施錠制御装置を提供することにある。」(3頁左上欄第1段落)ウ《発明の効果》欄「以上詳細に説明したように本発明の車両用施錠制御装置にあっては,携帯用送信機を所持している者(例えば運転者)が,車内に存在する場合に,車外からの解錠,施錠操作を禁止することが可能となり,外部からの他人の侵入を防止し,防犯性を向上させることができる。」(7頁左上欄第3段落)( ) 上記記載によると,確かに,≪発明の背景≫欄,≪発明の目的≫欄,《発4明の効果》欄には,「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとするため」であると説明する付随事項Aに係る記載がある。
しかし,上記( )ア(ウ)の記載を更に検討すると,先に,「このような車両3用施錠制御装置にあっては,上記カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,かつ上記スイッチ12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠・解錠が行なわれる構成となっているため」という文章があり,これに続いて,「例えば」として,「上記カード型送受信機1を所持した運転者が車室内に存在し,各ドアロックを施錠して居眠りをしていた場合などに,第3者が車外からスイッチ12を操作した場合には施錠されていたドアロックが解錠されてしまうこととなり,安全上好ましくない事態を招くことが考えられる。」との記載が挙げられているのである。
そうすると,「カード型送受信機1が車両側の制御装置2の近傍に存在し,スイッチ12が操作された場合には,必然的にドアロックの施錠・解錠が行われる」という従来技術の問題があり,その一例として,付随事項Aが挙げられているものと理解することができる。
また,引用例2の特許請求の範囲には,「(1)所定の固定信号を無線送信する携帯用送信機と;車体側に設けられ,かつ前記固有信号を受信する受信手段と;前記受信された固有信号が車体側に予め設定された固有信号に一致するか否かを判別する固有信号照合手段と;ドアロック等の車体所定部位の錠を施錠・解錠操作するロックアクチュエータと;前記固有信号の一致が判定された場合に限り,前記ロックアクチュエータを駆動するロックアクチュエータ駆動手段と;前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止手段とを具備することを特徴とする車両用施錠制御装置。」,「(2)前記アクチュエータ駆動禁止手段は,イグニッションキーが鍵孔に挿入されているか否かを検出するイグニッションキー挿入検出部と,該イグニッションキー挿入検出部によってイグニッションキーが鍵孔に挿入されていることが検出されている期間中は,前記ロックアクチュエータの駆動を禁止するアクチュエータ駆動禁止部とからなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の車両用施錠制御装置。」との記載があるが,いずれの特許請求の範囲においても,付随事項@及びAを構成要件とはしていないことが認められる。
さらに,≪実施例の説明≫欄には,「以下,本発明の実施例を第4図以下の図面を用いて詳細に説明する。第4図は,本発明に係る車両用施錠制御装置の一実施例におけるカード型送受信機の構成を示すブロック図,第5図は同じく車体側に設けられた制御装置の構成を示すブロック図である。第4図に示すカード型送受信機30は,前記第2図に示した従来例と同様に,ほぼ名刺大の薄板状カード型のケース内に収納されており,運転者が従来の機械式キーとともに携帯するものである。」(3頁右上欄第2ないし第4段落),「駆動回路46a〜46eは,上記AND回路45a〜45eからON信号が供給されるのに応答して,各駆動回路に対応して接続されたアクチュエータ47a〜47eを駆動するものである。これらの駆動回路によって駆動されるアクチュエータ類47a〜47eとしては,同図に示す如く,運転席側ドアのドアロックの解錠・施錠を行なうための運転席ドアロックアクチュエータ47a,助手席側ドアロックのドアロックの解錠・施錠を行なうための助手席ドアロックアクチュエータ47b,車体後部のトランクロックの施錠・解錠を行なうトランクロックアクチュエータ47c,グローブボックスロックの施錠・解錠を行なうためのグローブボックスロックアクチュエータ47d,ステアリングハンドルのロッキングを行なうためのステアリングロックアクチュエータ47eが設けられている。従って,上記ループアンテナ41aとスイッチ42aとタイマ43aとスイッチ回路44aと,AND回路45aと,駆動回路46aと,運転席ドアロックアクチュエータ47aとによって,運転席側ドアロック回路aが構成されており,同様にして,助手席ドアロック回路b,トランクロック回路c,グローブボックスロック回路d,ステアリングロック回路eとが構成されている。」(3頁右下欄最終段落ないし4頁右上欄1行目),「各ロックの解錠・施錠を開始させる機会を与えるスイッチ42a〜42eは,各錠毎に設けられており,これによって,カード型送信機30を所持している者は,解錠あるいは施錠を行なおうとする錠のみを選択して作動させることができ,例えば,ドアロックを全て施錠した状態でトランクロックのみを解錠したい場合にはトランクロック回路cのスイッチ42cを操作することによってトランクロックのみを解錠させることができるのである。・・・上記の動作によって,カード型送受信機30を所持している者が車両内に搭乗している場合には,上記イグニッションキースイッチIGNにキー63を挿入しておけば,車外からドアロック等を解錠される虞れがなく,防犯性の向上を図ることができる。」(6頁左下欄第2段落ないし右下欄第2段落)との記載があり,ドアロックとは別に,トランクロック,グローブボックスロック,ステアリングロックを禁止する構造の記載もある。
以上によれば,引用例2は,広く,従来技術において,カード型送受信機が車両側の制御装置の近傍に存在し,スイッチが操作された場合には,必然的にドアロック,トランクロック,グローブボックスロック,ステアリングロックといった車体所定部位の錠の施錠・解錠が行われることを,カード型送受信機と機械式キーを携帯した運転者が,イグニッションキーをイグニッションキー孔に挿入することで,意識的に禁止する技術を開示するものであり,そのうちの1つが引用発明2Aであって,運転者が望まないのに,車両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じるということを前提とするひとまとまりの技術として把握することができる。
したがって,ドアアクチュエータの駆動禁止理由を,「携帯用送信機を所持した者が車室内に存在している場合に,車外からの解錠・施錠操作(第3者が車外から車両のドア部に設けられたスイッチ12を操作した場合の解錠操作)を禁止することができるものとする」こと,すなわち,付随事項Aが引用発明2Aに特有の技術であるとはいえない。
また,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」という付随事項@についても,上記と同様であって,引用発明2Aに特有の技術であるとはいい難く,付随事項@が間接的であって,付随事項Aについて検討すれば足りることは,後記2( )のとおりである。
1( ) 被告は,引用例2に,付随事項@及びAについての開示があることを強調 5する。
しかし,付随事項@及びAが,引用例2に開示されていることについては,原告も格別争っておらず,上記のとおり,付随事項@及びAが,引用発明2Aに特有の技術とはいえず,引用発明2が付随事項Aによって限定されるべきものでもない旨主張している。すなわち,本件相違点に係る本件発明の構成に相当する公知技術としては,引用発明2Aで十分なはずのところ,審決は,本件相違点に係る本件発明の構成に相当する公知技術として,付随事項@及びAを摘示しているのではなく,引用発明2Aに付加した付随事項@及びAが,引用発明1に存在せず,そのため,引用発明1に引用発明2を適用するに当たっての動機付けを欠くことになるとの前提として,付随事項@及びAを認定しているところに問題があるのである。
したがって,被告の上記主張は,付随事項@及びAが引用発明2に存在する意味を誤解するものであって,採用の限りでない。
( ) そうすると,審決は,結果として,引用例2の中から,引用発明1に無用6の事柄を抽出し,これを引用発明2Aに結合させることによって,引用発明1と相容れない公知技術を創出したものといわざるを得ない。本件相違点についての判断において,引用発明1に引用発明2Aを適用する動機付けが問題となるのであれば,その時点で,引用例2の記載の全体を観察して,動機付けの有無,阻害事由の有無などを検討すべきである。審決のような引用発明2の認定の手法は,正確性を欠き,容易想到性の判断を誤らせる要因となるものであって,誤りというべきである。
このように,引用発明2の認定の誤りは,それ自体で取消事由となるのではなく,これが相違点についての認定判断に結び付いて,審決の結論に影響を及ぼすときに初めて取消事由となるものと解すべきである。
2取消事由2(本件相違点についての判断の誤り)について( ) 審決は,前記のとおりに引用発明2を認定した上,「引用発明1には,イ1グニッションキーを携帯する使用者がその操作ボタンを押さない限り,(その使用者が車内に居るか否かに拘わらず,)第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がない,いいかえれば,第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき技術的課題が引用発明1には存在しないのであって,引用発明1に引用発明2の動作禁止制御手段を適用すべき前提となる動機付けが無いというべきである。」(審決謄本10頁最終段落ないし11頁第1段落)と判断しているが,引用発明2は,引用例2の中から,引用発明1には無用の構成である付随事項Aを抽出し,これを引用発明2Aに結合させて,引用発明1と相容れない公知技術とし,上記のとおり,「いいかえれば,第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しないのであるから,刊行物2に記載の技術ないし引用発明2が解決すべき技術的課題が引用発明1には存在しない」との結論が導かれるようにしているのであって,付随事項Aを付加したことで審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
なお,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」という付随事項@については,審決は,おそらく,引用発明1においては,携帯用送信機とイグニッションキーとが一体であるから,「引用発明1には,イグニッションキーを携帯する使用者がその操作ボタンを押さない限り,(その使用者が車内に居るか否かに拘わらず,)第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がない,いいかえれば,第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しない」(審決謄本10頁最終段落ないし11頁第1段落)という論理を考えていたものと思われる。しかし,審決が,その直前において,「引用発明1は,イグニッションキー30が解施錠動作の起因となる信号を発生する操作手段である『操作ボタン16a』を一体に備えているものであって,その操作ボタン16aを押すことによってコードの送信・照合及び解施錠という一連の解施錠動作を自動的に行なうことができるように構成されたものであるが,これに対して,引用発明2は,その『携帯用送信機』が,『所定の固定信号を無線送信する』ものではあるものの,コードの送信・照合及び解施錠という一連の解施錠動作を自動的に行なう起因となる信号を発生する操作手段が車両側のドア部に設けた『スイッチ12』であって,『携帯用送信機』が有していないものであるという相違があるといえる。」(同10頁第4段落)と説示しているとおり,審決の判断において問題にしているのは,携帯用送信機がスイッチ12と別体であることであり,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」ことに基づいて,判断しているわけではないから,付随事項@は間接的であって,付随事項Aについて検討すれば足りるものというべきである。したがって,付随事項@をもって,直ちに,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
( ) 前記1( )のとおり,本件相違点に係る本件発明の構成は,引用例2に引22用発明2Aとして開示されており,引用発明1に引用発明2Aを組み合わせることができれば,本件発明の構成となるので,引用発明2Aを引用発明1に組み合わせることが当業者において容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。
ア審決は,上記( )のとおり,「引用発明1には,イグニッションキーを1携帯する使用者がその操作ボタンを押さない限り,(その使用者が車内に居るか否かに拘わらず,)第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がない,いいかえれば,第三者による操作によって解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在しない」と認定した。
確かに,引用発明1においては,携帯用送信機が「イグニッションキーとは別体である」という構成ではないから,操作ボタン16aが,イグニッションキー30の一端に設けられたキーケースに設けられており,イグニッションキー30とは別にドアを開閉する機器が存在しない以上,第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がないことは,明らかである。
それゆえに,付随事項Aが引用発明1に無用のものとなることは,上記のとおりである。
イところで,一般に,スイッチが露出して設けられている場合,意図しない接触等により,スイッチの誤操作が生じ得ることは,経験則上明らかな事項であり,原告も主張するように,例えば,甲9マイクロフィルム及び甲10マイクロフィルムに,イグニッションキーなどに発光素子を取り付けた照明付キーにおいて,操作ボタンがつまみ部の平面部分に位置するため,誤って操作ボタンを押下する場合が多いことが問題点として指摘されていることからも,明らかである。したがって,露出して設けられているスイッチによって施錠したり解錠したりする構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除されるという事態が起こり得ることは,技術常識というべきである。そして,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された事態が起こり得る以上,その対策が,当該技術における当然の技術課題となることは明らかである。
このことは,本件発明の共通又は近似の技術分野において,多数の公知文献が存在することによっても裏付けられる。例えば,発明の名称を「キーレスエントリ装置」とする甲4公報において,「受信したコード信号が現実にドアをアンロックするためのものであるか,誤操作によるものかを判別する方法はなく,このため誤操作によるコード信号を受信した場合も当然アンロック状態となる。従って使用者が意図していない場合にもロック状態が解除されてしまうという不都合があった。例えば,本出願人が先に提案したように,送信機の送信スイッチを押圧するごとに交互にロック・アンロック状態が反転する方式を採用した場合には,無意識のうちに送信スイッチを押圧してロック状態と思っていても実際にはアンロック状態となっており,これに気付かないで車両から離れるおそれがある不都合があった。」(1頁右欄ないし2頁左上欄第1段落)との記載があり,発明の名称を「施錠制御装置」とする甲5公報において,「カード型送信機1の携帯者が起動スイッチをONすることによって,施錠・解錠する構成である。このため例えば,前記携帯者が無意識にスイッチを2度操作してしまい,あるいは操作忘れをしてしまい,施錠をしたつもりで車両を離れたが,実は解錠状態のままであるという事態の発生も考えられる。」(2頁右下欄最終段落ないし3頁左上欄第1段落)との記載があり,発明の名称を「トラックの荷台のドアロック解錠装置」とする甲6公報において,「このような従来例にあっては,トラック(A)が運転状態のときに,送信器(1)が動作状態になっていると,送信器(1)から発せられる解錠コード信号が常に受信部(2)にて受信され,ドア(7)の電気錠(5)が解錠されたままトラック(A)が運転されることになり,走行中の安全性に問題があった。」(1頁右欄最終段落ないし2頁左上欄第1段落)との記載があり,発明の名称を「車両用施錠制御装置」とする甲7公報においては,「少なくとも前記信号強度検出手段,受信信号強度変化検出手段,判定手段は,車体所定部位の錠を施解錠するキーがイグニッションキーシリンダに差込まれている場合には作動しないことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の車両用施錠制御装置。」(特許請求の範囲( ))との記載がある。
5これらは,いずれも,スイッチによって施錠したり解錠したりする構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こり得るという技術常識を前提に,この課題をどのように解決するかを問題としていることが認められる。
上記技術常識を勘案すると,引用発明1においては,イグニッションキーとは別にドアを開閉する機器が存在しないから,第三者によるドアの開閉が行われるという不都合がないことは明らかであるが,イグニッションキーを携帯する使用者がその操作ボタンを誤操作して,解錠のための起因となるべき信号が発信されるという不具合が存在し,そのため,その対策が当然に技術課題となるものというべきである。
ウ一方,引用発明2Aは,前記1( )のとおり,運転者が望まないのに,4車両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じるということを前提とする技術であり,スイッチが操作されると,車両のドアが不本意に開いてしまうという安全上好ましくない事態が生じないように,カード型送受信機とイグニッションキーを携帯した運転者が,イグニッションキーをイグニッションキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の錠の施錠・解錠を,意識的に禁止するものである。
そして,引用発明2Aもまた,スイッチによって施錠したり解除したりする構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こり得るという技術常識を前提にしており,そのための対策として,イグニッションキーをイグニッションキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の錠の施錠・解錠を,意識的に禁止することにしているものである。したがって,引用発明2Aは,引用発明1における上記課題に対して,一つの解決策を提供するものである。
なお,引用発明1においては,イグニッションキー30の一端に設けられたキーケースに操作ボタン16aが設けられているが,車体所定部位の錠の施錠・解錠であることには,変わりがないのであるから,引用発明2Aを,引用発明1に適用することを妨げる事情にはならないものというべきである。その他,引用発明1と引用発明2Aとを組み合わせることを妨げるような格別の事情も見当たらない。
エこのように,引用発明1と引用発明2Aとは,いずれも,車両のドアロックの施錠・解錠を,無線を利用して行うというものであって,技術分野を共通にしており,また,スイッチの誤操作による解錠を防ぐという技術課題も共通しており,引用発明1と引用発明2Aとを組み合わせることを妨げるような格別の事情も見当たらないのであるから,引用発明1と引用発明2Aとを組み合わせることについての動機付けがあると認めるのが相当であって,当業者において,容易に,引用発明1に引用発明2Aの技術を適用し得るものというべきである。
( ) 被告は,本件相違点に係る本件発明の構成,すなわち,意図しない解錠を3防止するために,キープレートがキーシリンダに挿入された状態において,解錠操作がされることを禁止する構成が,引用発明2Aにも,甲4公報ないし甲7公報にも開示されていない旨主張する。
しかし,上記( )ウのとおり,引用発明2Aは,スイッチによって施錠し2たり解錠したりする構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除された状態となることが起こり得るという技術常識を前提にして,そのための対策として,イグニッションキーをイグニッションキー孔に挿入することで,ドアロック等の車体所定部位の錠の施錠・解錠を,意識的に禁止することにしているものである。
その目的,機能,作用等からして,引用発明2Aにおける「イグニッションキーをイグニッションキー孔に挿入すること」が,本件発明の「前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されている」ことに相当することは,明らかである。また,甲4公報ないし甲7公報において,それが自明な課題であったことは,前記( )イから認め得るところである。
2したがって,被告の上記主張は採用の限りでない。
( ) 被告は,本件発明は,送信機のスイッチを押してドアロックアクチュエー4タを解錠・施錠する動作と,キープレートをキーシリンダに挿入して各種機器を作動させる動作という本来全く関係がなかった動作が,送信機及び送信スイッチをキープレートのつまみ部に設けた結果,使用者の意図に反してつながってしまうという点に着目したものであり,その不具合をなくすべく独自の構成を採用しているのであり,この着目点は,引用発明1及び2に示唆がないことはもちろん,原告の提出する甲4公報ないし甲7公報等にも,全く示されていない旨主張する。
原告の上記主張を裏付ける本件明細書(甲3)の記載は,「〔発明の効果〕本発明は,上記の構成および作動により,キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはない。これにより,望まないのにドアロックが作動するという操作者の不快感をなくし,このような誤作動をなくすことで,消費電力をも軽減するものである。」(2頁4欄6行目ないし13行目)との箇所であると思われる。しかし,上記「キープレートをキーシリンダに挿入して操作する時に誤って送信指令スイッチを押してしまっても,無線式ドアロック制御装置が作動することはない」という効果が,本件発明の「前記キープレートが前記キーシリンダに挿入されているとき所定の検出信号を発生する検出手段と,この検出手段が前記検出信号を発生すると,前記無線式ドアロック制御装置の作動を禁止する禁止手段とを備えること」との構成によるものであることは,既に検討してきたところによって明らかである。そして,この構成は,本件相違点でもあり,この技術が引用発明2Aに開示されていることは,前記のとおりである。したがって,引用発明2Aを引用発明1に組み合わせた構成である本件発明において,当然に奏する効果であって,各発明のそれぞれの効果を足し合わせた以上の格別の効果を奏するというものではない。
( ) 被告は,本件発明の独自の技術的課題を殊更に無視して,スイッチの誤操5作という上位概念に本件発明の課題をわい曲して進歩性の判断をしようとする論理は誤っている旨主張する。
しかし,引用例2には,1つの技術のみが記載されているというものではなく,前記1( )のとおり,種々の発明が記載されているところ,その中か4ら,引用発明2Aという公知技術を把握することもできれば,付随事項@及びAを含めた公知技術を把握することもできる。そして,前者は,後者の上位概念に当たることが明らかであるが,公知技術との対比における進歩性の認定判断においては,本件発明に最も近い技術を選択するのが常道である。
また,前記( )イのとおり,スイッチが露出して設けられている場合,意図2しない接触等により,スイッチの誤操作が生じ得ることは,経験則上明らかな事項であり,露出して設けられているスイッチによって施錠したり解錠したりする構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除されるという事態が起こり得るという技術常識は,当業者が当然に気が付くものであり,かつ,その問題意識を持っているべきものである。
したがって,引用例2に接した当業者が,引用発明2Aに着目し,これを選択することは,ごく容易なことというべきである。被告の上記主張も採用の限りでない。
( ) 以上検討したところによれば,審決は,引用発明2の認定を誤り,かつ,6本件相違点についての認定判断を誤ったものであって,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
3以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2は理由があるから,審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明