関連審決 |
無効2006-80089 不服2002-23364 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ27193損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ474特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ1223特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ8682損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ 785特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 相当の対価(相当な対価) / 協議 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 新規性 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / インターネット / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 寄せ集め / 周知技術 / 公知技術 / 上位概念 / 下位概念 / 技術的範囲 / 同日出願 / 出願公開 / 同一の発明 / 実施可能要件 / 技術常識 / 先行技術 / 明確性 / 発明の詳細な説明 / 発明が明確 / 発明が不明確 / 技術的特徴 / 遡及 / 分割出願 / 警告 / 実施料相当額 / 善意 / 登録意匠 / 類似する意匠 / 意匠権 / 原出願日 / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 置換 / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 権原 / 加工 / 交換 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 供した設備 / 損害額 / 逸失利益 / 販売数量(販売数) / 譲渡数量 / 単位数量 / 乗じた額 / 実施能力 / 実施料 / 相当因果関係 / 不法行為(民法709条) / 同意 / 実施許諾(実施の許諾) / 設定登録 / 混同 / 対価 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
12207号
特許権侵害差止等請求事件
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原告山 本光学株式会社 訴訟代理人弁護 士辻本希世士 訴訟復代理人弁護 士笠鳥智敬松田さとみ 補佐人弁理士辻本一義 窪田雅也 神吉出 上野康成 森田拓生 被告藤 田光学株式会社 訴訟代理人弁護 士吉村悟山本晋太郎 訴訟復代理人弁護 士麻生英右 訴訟代理人弁理 士戸川公二 補佐人弁理士中出朝夫 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/04/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1被告は,別紙被告物件目録(ただし,同目録添付図面第2図及び第14図を除く )記載の物件を販売してはならない。 。 2被告は,原告に対し,72万5968円及びこれに対する平成17年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の,その余を被告の各負- 2 -担とする。 5この判決の第2項は,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は,別紙イ号物件目録記載の物件を製造し,販売してはならない。 2被告は,前項の物件を廃棄し,同物件の製造に必要な金型を除去せよ。 3被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成17年12月18() 。 日 訴状送達の日の翌日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え第2事案の概要本件は,発明の名称を「ゴーグル」とする後記特許権及び意匠に係る物品を「水中眼鏡」とする後記意匠権を有する原告が,後記ゴーグルを販売する被告,,(, の行為は上記各権利を侵害すると主張して 被告に対し 上記特許権 ただし請求項3を除く )又は意匠権に基づき,同物件の製造販売の差止め及び廃棄 。 並びに同物件の製造に必要な金型の除去(除却)を求めるとともに,特許権侵害又は意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日である平成17年12月18日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む )を請求する事案である。なお,上記特許権に基づく請求と意 。 匠権に基づく請求とは,選択的併合の関係にある。 1前提事実(各項末尾に証拠を掲記したもの以外,争いがない )。 (1)当事者原告は,眼鏡・サングラスの製造販売等を業とする株式会社である。 被告は,眼鏡の製造販売等を業とする株式会社である。 (2)原告の特許権原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。その特許請求の範囲の請求項1の発明を「本件特許発明1 ,同請求項2の発明を「本件特許発 」明2 ,同請求項4の発明を「本件特許発明4 ,同請求項5の発明を「本 」 」」,「」。, 件特許発明5 といい 併せて 本件各特許発明 ということがある またそれぞれの発明に係る特許を順次「本件特許1」などといい,併せて「本件各特許」という。なお,本判決末尾添付の本件特許に係る特許公報を「本件特許公報」といい,その明細書を「本件明細書」という )の特許権者であ。 る。 ア特許番号第3615530号イ出願日平成14年8月30日(特願平7-337520の分割)ウ原出願日平成7年12月25日エ登録日平成16年11月12日オ発明の名称ゴーグルカ特許請求の範囲請求項1,2,4及び5【請求項1】「左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行なうようにし,前記アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設け,鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設け,前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け,鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とするゴーグル 」。 【請求項2】「前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のゴーグル 」。 【請求項4】「左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと,該両アイカップを連結する弾性材料により成形された鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付台部に前記鼻ベルト両端部が取り付けられているゴーグルにおいて,前記取付台部の後面側に断面略円形の棒状突起が設けられ,前記鼻ベルトの左右両端部に,前記棒,, 状突起が相対回動可能に嵌合される係合孔が設けられ 前記アイカップは, , 前面のレンズ部と 該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備え前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ,前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしていることを特徴とするゴーグル 」。 【請求項5】「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ,前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され,前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ,該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し,該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されていることを特徴とする請求項4記載のゴーグル 」。 (3)構成要件の分説ア本件特許発明1及び同2を構成要件に分説すると 次のとおりである 以 ,(下,それぞれ「構成要件A」などという。。)【請求項1】A左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,B前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行なうようにし,C前記アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設け,D鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設け,E前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け,F鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とするゴーグル。 【請求項2】G前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のゴーグル。 イ本件特許発明4及び同5を構成要件に分説すると,次のとおりである。 【請求項4】H左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと,該両アイカップを連結する弾性材料により成形された鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,I前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付台部に前記鼻ベルト両端部が取り付けられているゴーグルにおいて,J前記取付台部の後面側に断面略円形の棒状突起が設けられ,K前記鼻ベルトの左右両端部に,前記棒状突起が相対回動可能に嵌合される係合孔が設けられ,L前記アイカップは,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備え,M前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ,N前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしていることを特徴とするゴーグル。 【請求項5】O前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ,P前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され,Q前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ,R該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し,S該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されていることを特徴とする請求項4記載のゴーグル。 (4)原告の意匠権ア本件意匠権原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という )を有している。。 登録番号第988008号出願日平成7年9月12日(意願平7-27031)登録日平成9年5月2日意匠に係る物品水中眼鏡本件登録意匠別紙本件意匠公報のとおりイ類似意匠原告は,本件登録意匠を本意匠とする別紙意匠公報類似1ないし5(甲5ないし9)記載のとおりの類似1ないし5の類似意匠(平成10年法律第51号による改正前の意匠法〔以下 「旧意匠法」という 〕22条) ,。 の意匠権を有している(以下 「本件各類似意匠」と総称し,個別に指称 ,するときは「本件類似意匠1」などという。。)(5)被告の行為被告は,業として,平成17年4月ころから,別紙被告物件目録添付図面第1図,第3図ないし第13図,第15図ないし第19図記載の子供用水中(「」。,「」。) ゴーグル 以下 被告製品 という なお その意匠を 被告意匠 というを輸入し,販売していた(ただし,被告製品の構成については一部争いがある。。)(6)本件各特許発明の構成要件充足性被告製品は,本件各特許発明の構成要件Aないし同D,同Gないし同M,同P,同Q及び同Sを充足する。 (7)出願経過等ア本件特許権は,原告が,平成7年12月25日にした出願(特願平7-337520号。以下「本件親出願」という。また,本件親出願の願書に添付された明細書を「本件親出願当初明細書」といい,本件親出願当初明細書と,本件親出願の願書に添付した図面を併せて「本件親出願当初明細書等」という。乙19参照)を,平成14年8月30日に分割出願した特許発明について,平成16年11月12日に設定登録を受けたものである(甲1。同分割出願を以下「本件分割出願」という。。)イ本件親出願は,平成14年10月28日付け(起案日)で拒絶査定を受け,原告は同年12月4日に審判請求をし(不服2002-23364号 ,同月24日に手続補正書(乙18の2)及び本件親出願の特許請求 )の範囲を補正する手続補正書(乙18の3)を提出した。原告は,平成17年9月30日,本件親出願について拒絶理由通知を受けた(乙18の8 。同拒絶理由通知には,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし )7については,特許法29条2項により特許を受けることができないと記載されていた。これを受け,原告は,同年11月9日,補正書を提出して請求項4ないし7を削除した結果,平成18年1月6日に本件親出願について特許権の設定登録を受けた(特許第3755546号。乙18の10・12。その特許公報は乙20 。)(8)無効審判請求被告は,平成18年5月15日,特許庁長官に対し,本件各特許の無効審判請求をし(無効2006-80089号事件 ,特許庁は,同年11月7 )日,同事件において,本件各特許をいずれも無効とする旨の審決をした(乙67 。原告は,同審決の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に審決取消 )訴訟を提起している(甲60 。)2争点(1)本件特許権に基づく差止請求等についてア被告製品の技術的構成(争点1-1)イ被告製品は本件特許発明1及び同2の各構成要件を充足するか(構成要件E及び同Fの充足性 (争点1-2))ウ被告製品は本件特許発明4及び同5の各構成要件を充足するか(ア)構成要件Nの充足性(争点1-3)(イ)構成要件Rの充足性(争点1-4)(ウ)構成要件Oの充足性(争点1-5)エ本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(ア)本件分割出願は分割出願の要件に違反するか(争点1-6)(イ)本件特許1及び同2についてa構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか(争点1-7)() b本件特許1には実施可能要件違反の無効理由があるか 争点1-8c本件特許1には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1-9)d本件特許2には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1-10)(ウ)本件特許4及び同5についてa構成要件Nの「鋭角」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか(争点1-11), ,, b構成要件O 同Q及び同Rの意義は不明確であり 本件特許5には特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか(争点1-12)c本件特許4には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1-13)d本件特許5には進歩性欠如の無効理由があるか(争点1-14)オ出願経過禁反言の法理の適用の有無(争点1-15)カ公知技術の抗弁(争点1-16)(2)本件意匠権侵害に基づく差止請求等についてア被告意匠は本件登録意匠と類似するか(争点2-1)イ本件登録意匠は登録無効審判により無効とされるべきもであるのか(争点2-2)(3)原告の損害額(争点3)第3争点に関する当事者の主張1争点1-1(被告製品の技術的構成)について【原告の主張】(1)被告製品の技術的構成は,別紙イ号物件目録に記載のとおりである。原告は,被告作成の別紙被告物件目録添付図面のうち,第1図,第3図ないし第13図,第15図ないし第19図についてはあえて異議を述べないが,第2図及び第14図は不正確であるから,第2図は削除し,第14図は原告作成の別紙イ号物件目録の第10図を用いるべきである。 また,被告は,別紙被告物件目録添付図面中の符号10a・10bが指す部材を示す名称として「ピボット軸」を用いているが 「ピボット軸」とは,旋回の中心のことであり,同部材を指す名称としては誤りであって「棒状突起」を用いるべきである。 (2)被告製品の構成を本件各特許発明の構成要件に即して分説すると,以下のとおりである。 ア本件特許発明1及び同2に対応する構成a左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続するゴムバンドとから成るゴーグルである。 b前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該棒状突起が相対回動可能に嵌合される貫通孔とにより行うようにしている。 c前記アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設けている。 d前記鼻ベルトの両端部に貫通孔を設けている。 e前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜するフック部を設けている。 f鼻ベルトの両端部の後面に前記フック部を係止させるようにしている。 g前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルトの両端部の後面に前記フック部を係止させるようにしている。 イ本件特許発明4及び同5に対応する構成h左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと,該両アイカップを連結する弾性材料により成形された鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続するゴムバンドとから成る。 i前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設, 。 され 鼻ベルト取付台部に前記鼻ベルトの両端部が取り付けられているj前記鼻ベルト取付台部の後面側に断面略円形の棒状突起が設けられている。 k前記鼻ベルトの両端部に,前記棒状突起が相対回動可能に嵌合される貫通孔が設けられている。 l前記アイカップは,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備えている。 m前記アイカップの鼻ベルト取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。 n前記棒状突起は,鼻ベルト取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている。 o前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になるフック部が設けられている。 p前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記鼻ベルト取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成されている。 q前記貫通孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられている。 r該鼻ベルトの両端部の前面が,前記鼻ベルト取付台部の後面に面接触している。 s該鼻ベルトの両端部の後面が前記フック部に係止されている。 【被告の主張】(1)被告製品の構成は,別紙被告物件目録記載のとおりである。 (2)被告製品の構成を,本件各特許発明に対応させた場合の構成は以下のとおりである。 @被告製品である水中ゴーグル1aは,左右一対のアイカップ2a・2bと,この左右のアイカップ2aと2bとを互いに連接するブリッジ・リンク3aと,前記左右アイカップ2a・2bの左右両端同士を鉢巻き状に連結し,かつ,バックル部4b・4cにおいて長さ調節可能なゴムバンド4aとから構成されている(別紙被告物件目録添付図面第1図参照 。)A左右のアイカップ2a・2bは,淡色透明のポリスチレン樹脂を一体成形して成り,正面のレンズ部6a・6bと,レンズ部6a・6bの周縁から後方(接眼側)へ突出する円筒形の周壁部7a・7bとを一体に有する(別紙被告物件目録添付図面第4図参照 。)B上記アイカップのレンズ部6aと6bとが隣向して対向する縁角部のそれぞれには,舌状の持出ブラケット8a・8bが斜め前方へ差し延べるように一体成形により延成されている(別紙被告物件目録添付図面第1図ないし第3図,第6図ないし第8図,第11図及び第12図参照 。)C上記アイカップの周壁部7a・7bの接眼側端縁のフランジFには,柔らかで弾力的な軟質樹脂製の明色不透明なジャバラ形の吸盤ベローズ7c・7dが嵌合接着してあり(別紙被告物件目録添付図面第1図,第2図,第4図,第6図ないし第8図参照 ,この吸盤ベローズ7c・7dの開口 )縁を手で眼窩の周縁に圧接させると,当該左右のアイカップ2a・2bを眼窩周縁に吸着させることができる。 D舌状持出ブラケット8a・8bの接眼側には,ピボット軸10a・10bが対向する周壁部7a・7bの壁面と略平行に突設されており,これらピボット軸10a・10bの突端部は,前記持出ブラケット8a・8bの傾斜に沿うように片流れ形状の丸頭ヘッドhを形成しており,その周壁部側は角丸の法肩(のりかた)aを成し,その反対側の法尻(のりじり)には当該ブラケットの突端方向へ平行に突出する∠形のフック部11a・1( ,,, 1bを形成してある 別紙被告物件目録添付図面第3図 第5図 第6図第8図参照 。)Eブリッジ・リンク3aは,左右に股開き状に分岐する股部31・31,中間部に厚肉部32を有する細幅湾曲板状の軟質樹脂製のリンク部材であって,当該ブリッジ・リンクの両端近傍には,上記ピボット軸10a・10bと略同径の貫通孔31a・31bが開設してあり,かつ,前記股部31・31の厚肉部32寄りの前面側には滑りリブ32a・32bがそれぞれ形成されている(別紙被告物件目録添付図面第6図ないし第10図参照 。)Fゴムバンド4aは,左右両アイカップ2a・2bの両端側面に持出状に添設したフィン2c・2dに開設されたバンド通し孔2e・2fに折返しに挿通されてバックル部4b・4cにおいて長さ調節可能に1本締めの鉢巻きループを構成している(別紙被告物件目録添付図面第1図,第3図,第11図及び第12図参照 。)G被告製品の水中ゴーグル1aにあっては,アイカップ2a・2bの対向する内側部に突成された持出ブラケット8a・8bの上記ピボット軸10a・10bを,上記ブリッジ・リンク3aの両端近傍の貫通孔31a・31bに対し角丸の法肩(のりかた)aを先にして丸頭ヘッドhからそれぞれ押込んで貫入させるとともに,ピボット軸10a・10b突端の丸頭ヘッドhの法尻(のりじり)にあるフック部11a・11bを前記ブリッジ・リンク3aの貫通孔31a・31bの孔縁に引っ掛けて連結させたことによって,左右のアイカップ2a・2bとブリッジ・リンク3aとをピボット軸10a及び10bの周面を中心として2節機構的に相対回動可能に構成してあり(別紙被告物件目録添付図面第6図参照 ,ピボット軸10)a・10bを中心に左右のアイカップ2a・2bの回動が必要なときには持出ブラケット8a・8bの後面側とブリッジ・リンク3aの股部31・31の前面側とは離間した状態でブリッジ・リンク3a前面に形成した滑りリブ32a・32bにブラケット8a・8bの後面が微擦して適度の摩擦抵抗で相対回動が可能となる。 2争点1-2(構成要件E及び同Fの充足性)について【原告の主張】(1)構成要件Eの「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部」の意味について「突起中心軸線に対して鋭角に傾斜」とは,突起中心軸線を縦方向とすると,下記図2に現れているように,棒状突起(係止突部も含めた形状)が上下反転した略「レ」字状のようになることを意味する。 係止突部は,その名のとおり係止のために突出した部分であって,鼻ベルトに対する抜け止めとして機能するものであるところ,突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する構成を採ることによって,係止突部は抜け止めとしての機能を有しつつ,鋭角に傾斜していない場合と比較して,鼻ベルトの突起係合孔に挿通する際に,係止突部が大きな抵抗にならずに棒状突起を前記突起係合孔にスムーズに挿通させることができ 「アイカップと鼻ベルトの連結が ,使用中に外れることがなく,連結・分離が容易である」という本件各特許発( )。 明の効果に寄与するようにしているのである 別紙図1と別紙図2の比較(2)構成要件E,及び同Fに該当する形状, , 本件特許公報の図5における係止突部11には 別紙図3に示したように(a)部分と(b)部分があるが 本件特許発明1における係止突部としては (a) , ,部分が存在すれば十分である。(b)部分は,抜け止めとしての機能を維持しながら,その表面のカーブにより,アイカップと鼻ベルトを分離する際に棒状突起を抜きやすくするものである。 また,本件特許公報の図11のように,係止突部を棒状突起の端部全周にわたって設けた場合においては,係止突部に,突起中心軸線に対して鈍角に傾斜する部分も存在するが,鋭角に傾斜する部分が存在して本件各特許発明の効果に寄与するようになっている以上は,構成要件Eを充足する。なお,本件特許公報の図11及び図12は 「突起中心軸線に対して鋭角に傾斜」 ,という事項の説明のためのものではなく,係止突部の形態のバリエーションを示したものであって,本件特許発明1を不明確にするものではない。 (3)構成要件E及び同Fの「係止突部」に該当しない形状実公昭44-14173号公報(乙12。以下「引用例4」という )の。 第2図及び第3図に図示されるフック形の傾斜面2における鉤鍔形状部分や,実願平2-112597号(実開平4-70059号)マイクロフィルム(乙14。以下「引用例6」という )の第1図及び第4図中の接続部材 。 5の両端部に立設された爪は,孔にスムーズに挿通させられる形状ではあるが,これらは,断面略円形ではなく断面略長方形の回動不能な部分に設けられたものである点で,本件各特許発明とは異なる。 実願昭54-64029号(実開昭55-164061号)マイクロフィルム(乙13。以下「引用例5」という )の第3図の突条体12に設けら 。 れたテーパー状の「隆起部13」については,抜け止めとして機能するもの, 。 か否か不明であり 突条体12が断面略円形で回動可能か否かも不明であるさらに,引用例4に開示された技術的事項はスイミングゴーグル(以下,単に「ゴーグル」ともいう )のアイカップと鼻ベルトとの連結とは無関係 。 ,,, , なものであり また 本件各特許発明では アイカップ側に棒状突起を設け鼻ベルト側に棒状突起が入る突起係合孔を設けているのに対し,引用例5や引用例6は,鼻ベルト側に前記突条体12や爪を設け,アイカップ側にこれらが入る孔を設けたものであり,全く異なる構成である。 したがって,引用例4の鉤鍔形状部分,引用例5の隆起部13及び引用例6の接続部材5の両端部に立設された爪は,いずれも本件各特許発明における係止突部に相当する部分ではない。 (4)被告の主張に対する反論被告は,構成要件E及び同Fの「係止突部」の形状は別紙図4のように表すことができると主張するが,被告が「突起中心軸線に対する角度」という「θ」は,図中「係止突部」として表された逆三角形の左右の斜辺のなす角度であり,突起中心軸線とは全く関係がない。被告は,このような突起中心軸線に対する角度についての誤った前提の下に 「係止突部」は円錐キノコ ,形のような構成に限られると断定しているものである。 (5)構成要件E及び同Fと被告製品との対比被告製品のfの「フック部11a・11b」は棒状突起10a・10bの突端部において突出する部分である。そして,同フック部の構成は,構成要件E及び同Fを充足する。 【被告の主張】(1)構成要件Eの「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設ける」の意義原告が構成要件Eにおいて特定する「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設ける」という文言の技術的意義を文理どおりに忠実に解釈するならば 「棒状突起」というのは細く突き出た出っ張 ,りを意味し 「係止突部 (判決注,なお,被告は一部「係合突部」なる用 ,」語を用いて主張しているが,本件各特許の請求項の記載と適合しないため,すべて「係止突部」に関する主張として扱う )というのは繋ぎ止めるため 。 に突出した突起部分を意味する。 また,棒状突起は断面略円形(構成要件B)の円柱体であって 「鼻ベル,ト取付台部の後面に,顔面に向かって突出するように」設けられる(構成要件C)ものであるから,棒状突起先端部の係止突部は,幾何学的に別紙図4に示す形状に一義的に定まる。すなわち,本件特許発明1の構成要件Eで特定される係止突部は,別紙図4のように,突起中心軸線Cに対して角度θが90°以下の円錐キノコ形の異形突起を成しているのである。 それにもかかわらず,原告は,前記「係止突部」の説明として本件特許公報の図5,図11及び図12の図示例を掲げ,また本件明細書の【発明の実施の形態】の段落【0009】には「 棒状)突起10の後端面10Aは, (図5に示しているように,前記取付台部後面8Aと略平行とすべく突起10の中心軸線に対して傾斜されている。前記棒状突起10の後端部には,対向内側に係止突部11が設けられている 」とか,また,段落【0016】の 。 後段部分には「上記実施形態において,棒状突起10の係止突部11は,図11に示すように,突起10の端部全周にわたって設けることができる。また棒状突起10の係止突部11は,図12に示すように,アイカップ2の周壁部7側に突出状に設けることができる 」などと「棒状突起の先端部に突 。 起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部」の字義から幾何学的に特定される概念から逸脱した形状を係止突部の概念に取り込もうとして,結果的に本件明細書全体としての「係止突部」の意義を不明瞭なものとしている。構成要件Eに関し「係止突部」の意義を不明瞭にしたことによる不利益は原告が負担すべきであって,善意の社会公衆並びに被告に不利益が転嫁されるべきいわれはない。 原告は,独自に作図した別紙図3を引用し 「本件特許公報の図5におけ ,る係止突部11には別紙図3に示したように(a)部分と(b)部分とがあるが,本件特許発明1における係止突部としては,(a)部分が存在すれば十分である 」とも主張する。。 しかしながら,構成要件E及び同Fの係止突部は 「棒状突起の先端部に ,突起中心軸線に対して鋭角に傾斜」して設けられる部分である。 別紙図3における(a)部分が,断面略円形(円柱形)の棒状突起の中心軸線に対して鋭角を成していないことは一目瞭然であって,本件特許発明1にいう「係止突部」に該当しないことは明らかである。 本件特許発明1及び同2において,構成要件Eのように 「棒状突起の先,端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」という表現を採用したのは,そうすることによって,棒状突起を鼻ベルトの係合孔に嵌合させるに際し,円錐キノコ形の先端部が棒状突起の差込み摩擦抵抗を少なくして係止させやすくするという効果を狙ったものなのである。 (2)構成要件Eと被告製品の対比被告製品にあっては,別紙被告物件目録添付図面(ピボット軸は,図中,符号10a・10bにて指示)に示すとおり,原告が「棒状突起」と称しているピボット軸の突端部は,中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を構成していない。よって,被告製品は構成要件Eを充足しない。 (3)構成要件Fと被告製品の対比また,構成要件Fは「鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させる。」,「」 ようにしたことを特徴とするゴーグルであるが 被告製品は 係止突部を備えないので,同構成要件も充足しない。 (4)被告製品の本件特許発明2の技術的範囲への属否加えて,本件特許発明2は,本件特許発明2に構成要件Gとして,鼻ベルトの形状と棒状突起における係止突部との連結構造を限定条件として付加しただけの構成であるから,被告製品は,前記(1)及び(2)と同様の理由により本件特許発明2の技術的範囲に属さない。 3争点1-3(構成要件Nの充足性)について【原告の主張】被告は,棒状突起は周壁部の反対側でも取付台部の後面に対して鋭角であると主張するが,別紙被告物件目録添付図面第5図を見ても明らかなように,周壁部の反対側では鈍角であるから,被告製品が構成要件Nを備えていることは明らかである。 被告は,棒状突起(被告の表現では「ピボット軸 )の先端部の形状につい 」て主張しているが,棒状突起と取付台部の後面に対する角度とは関係がない。 さらに,被告は「鋭角というだけでは機能上有害な角度をも含み不明確である 」と主張するが 「機能上有害な角度」の意義は不明であり,仮に「機能 。,上有害な角度」を含んでいたとして,なぜそれによって発明が不明確となるのかは不明である。 構成要件Nは,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることを防止するためのものである。すなわち,棒状突起が取付台部の後面に対して前記周壁, , 部側において鋭角をなしていなければ アイカップが外方に引っ張られたとき棒状突起が鼻ベルトの突起係合孔から抜けるおそれがあるが,鋭角をなしていれば,鼻ベルトの突起係合孔の各外端側が取付台部と棒状突起の間に押し込められるので,棒状突起が抜けにくく,アイカップと鼻ベルトの連結が外れることを防止することができる(本件明細書段落【0015。】)このように,構成要件Nの技術的意義は明確に理解できるものであり,本件特許発明4が不明確であるなどということはあり得ない。 【被告の主張】被告製品は 「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側におい ,て鋭角をなしている」という構成要件Nを備えていない。 構成要件Nの意義は不明確である。鋭角とは,2つの線分が0°から直角90°の範囲内で交差する際の当該線分相互の角度関係をいうところ,構成要件Nの文言を字義どおりに解釈すると,棒状突起は,取付台部の後面に対し0°から90°の範囲内で周壁部側で任意の角度に定め得ることになるから,鋭角というだけでは機能上有害な角度(棒状突起が取付台部に対してあまり鋭角に倒れ過ぎていると鼻ベルトとの相対回動が阻害される )をも含み不明確であ 。 る。そこまでに至らなくても,機能的に無意味な角度までも含む概念であるだけに,その技術的範囲は著しく不明瞭である。 原告は,本件特許公報の図5及び後記11の【原告の主張】に記載の別紙図5に基づいて棒状突起の延びる方向(突起中心軸線の方向)と,取付台部の後面とのなす角度が,鼻ベルト側ではなく,周壁側において鋭角となっていることを意味すると主張するが,棒状突起は,周壁部側だけでなく,その反対側でも突起中心軸の方向と平行をなして左側へ斜傾し取付台部の後面に対して“\”状に傾斜して鋭角をなしていることによれば,やはり,構成要件Nの意義は不明確である。 これに対し,被告製品は,ピボット軸10a・10bの突端部を片流れ形状の丸頭ヘッドhに形成し,かつ,法尻に設けた∠形フック部11a・11bの反対側に位置する軸端形状を角丸の法肩形状に成形してあるから,ブリッジ・リンク3a両端の貫通孔31a・31bへの差込みが極めて滑らかに行えるのであって,本件特許発明4が必須としている意義不明な構成要件N「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」という文言から特定される構成とは形状が全く異なり,かつ,その作用効果も異なるので,本件特許発明4の技術的範囲に属しないことは明らかである。 4争点1-4(構成要件Rの充足性)について【原告の主張】被告製品の股部31・31の前面側の滑りリブ32a・32bは 「鼻ベル,トの両端部の前面」の一部であり,取付台部(8a・8a)の後面に面接触するから構成要件Rを充足する。さらに,股部31・31の外端部は,別紙被告物件目録添付図面第5図等では,取付台部(8a・8a)の後面との間隔が誇張して描かれているが,装着時には面接触するものである。 被告は 「点接触」するにすぎないと主張するが,別紙被告物件目録添付図 ,面第5図において,滑りリブ32aは一定幅の「面」を有する形状として描かれており,しかも別紙被告物件目録の「3.被告物件における技術的構成の説明」Gには,滑りリブ32a・32bにブラケット8a・8aの「後面」が微擦するとの記載があり,被告自らも,互いの面同士が接触することを明確に認めている。また,別紙被告物件目録添付図面第5図は,顔面に装着していない状態で描かれているが,顔面に装着した場合には,ゴムバンド4aの引っ張りにより,滑りリブ32a・32bが持出ブラケット8a・8aの後面により強く面接触するとともに,股部31・31の外端部寄りの面も,持出ブラケット8a・8aの後面に面接触することとなる。 本件特許発明5は,構成要件Rにより,鼻ベルトと取付台部との間に摩擦を生じさせ,アイカップのフィッティングの際に微妙な調整を可能とするものであるところ,面としての接触がなければ同摩擦が生じず,同微調整もなし得ない。被告製品についても,上記摩擦により上記微調整を可能にするという同一の作用効果を有しており,鼻ベルトと取付台部との間に面としての接触が存在していることを前提としている。 【被告の主張】被告製品のブリッジ・リンクの前面側の股部に突成された滑りリブは,表面がカマボコ形を成しており,このカマボコ形を成した滑りリブの頂点に持出ブラケットの後面が当接しているのである。それゆえ,被告製品における左右のアイカップが相対回動するときには,持出ブラケットの後面は滑りリブのカマボコ面の頂点に点接触しながら当該カマボコ面の頂点に沿って線状に相対移動することになる。 原告は,別紙被告物件目録添付図面第5図に図示される滑りリブ32aの頂点がたまたま平坦状に見えるのに事寄せて,当該滑りリブ32a・32bは「 面』を有する形状」だと決め付けているが,事実に反していることは被告 『製品の現品を見れば明らかである。また,原告は,別紙被告物件目録の「3.被告物件における技術的構成の説明」Gに「持出ブラケット8a・8bの後面側とブリッジ・リンク3aの股部31・31の前面側とは離間した状態でブリッジ・リンク3a前面に形成した滑りリブ32a・32bにブラケット8a・8bの後面が微擦することになるので,適度な摩擦抵抗での相対回動を可能となる 」とある記載中の「滑りリブ32a・32bにブラケット8a・8bの 。 後面が微擦する」という部分だけを摘出して,互いの面同士が接触することを被告が自認していると主張するが,事実に反する。 原告は 「鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触」して ,いることが当初から記載してあったかのように主張するが,本件親出願に係る特許公報である甲第20号証 特開2003-153636号公報 記載の 請 ( )【求項7】は,平成14年12月24日提出の手続補正書によって新規に付加された事項である。 5争点1-5(構成要件Oの充足性)について【原告の主張】構成要件Oの「前記後面」は,その直前の「取付台部」の後面を意味するこ。,「 」 とが明らかである また棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になるとは,係止突部の突出する方向が取付台部の後面に沿う方向とおよそ一致することを意味する。この構成により,係止突部の突出する方向は鼻バンドの両端部の前後面に沿う方向ともおよそ一致し,係止突部の抜け止めとしての機能が効果的に発揮されるようになっている。 【被告の主張】構成要件Oの「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設け」のうち 「前記後面」の意味が全く不明である 「係止突部」と称する , 。 ものに関しては,棒状突起の先端部外周に前記後面と平行になるように設けるとあるが,棒状突起がどのような形状になるのか,本件特許発明5にいうところの「後面」なる用語の意味も,その「後面と略平行になる係止突部」の意義も全く理解することができない。 してみれば,この点においても,原告において特許を受けようとする発明構成を明確に特定するために必要であったのに,これを怠って記載しなかった結果,本件特許発明5の技術的範囲が明確にならなくなったことの不利益は原告自身が負うべきことはいうまでもない。 よって,被告製品は,本件特許発明5の構成要件Oを具備していないので,本件特許発明5の技術的範囲に属しないものというべきである。 6争点1-6(本件分割出願は,分割出願の要件に違反するか)について【被告の主張】(1)本件各特許発明は,平成7年12月25日に特許出願(本件親出願)さ, ( , れ 平成18年1月6日に設定登録された特許権 特許第3755546号特願平7-337520号)に係る請求項1ないし3に記載された特許発明と実質上同一というべきである。 したがって,本件分割出願は,本件親出願から分割されたものとは認められず,特許法44条1項の規定に違反しているので,同条2項に定める出願日遡及の利益を受けることができず,実際の出願日である平成14年8月30日まで出願日が繰り下がる。 そうすると,本件親出願の内容は,平成9年7月8日に出願公開されているのであるから,その公開公報である特開平9-173378号公報(乙19)が頒布された時点において,本件各特許発明は,既に新規性及び進歩性を喪失していたことになり(特許法29条1項3号,同条2項 ,特許法1)23条1項2号に規定する無効理由があることとなる。 (2)しかも 本件分割出願に係る本件特許発明2及び同5には いずれも 該 , ,「鼻ベルトの両端部の前面が前記取付台部の後面に面接触し」という構成要件が記載されているのであるが,この記載は本件各特許発明の作用効果に重大な影響を及ぼす本質的な構成部分に該当し そして本件親出願当初明細書 乙 , (19)のどこにも記載されていなかったのであるから,当該事項の分割明細書への挿入と本件親出願当初明細書への補充補正は新規事項の追加に該当する。 したがって,これら分割出願に係る特許も親特許も,特許法17条の2第3項に違反することになり,特許法44条1項の分割出願の適法要件を欠いていることになる。よって,本件分割出願に係る特許及び親特許のいずれについても特許法123条1項1号の無効理由に該当する。 【原告の主張】(1)被告は,本件各特許発明は本件親出願の特許請求の範囲に記載された発明と実質上同一である,具体的には,本件特許発明1及び同4は本件親出願の請求項1に係る発明と実質上同一であると主張する。 しかし 「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止 ,突部 (構成要件E)という構成は,本件親出願の請求項1に記載がない。 」また,本件特許発明1には,本件親出願の請求項1における「棒状突起と, 」。 前記後面とは 前記周壁部側において鋭角をなしており という限定がないなお,本件特許発明1における棒状突起と取付台部の後面との角度を勝手に実施例記載のものに限定して,本件親出願の請求項1の特許発明と同一であるとする被告の見解は,最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決(民集45巻3号123頁・リパーゼ事件最高裁判決)の趣旨に反する。 したがって,本件特許発明1は,本件親出願の請求項1の特許発明と同一ではないことが明らかであるから,本件分割出願は,分割適法要件を満たしている。 (2)取付台部の構成に関し,本件特許発明4では「取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ (構成要件M)」ているのに対し,本件親出願の請求項1の特許発明では「前記取付台部は,前記周壁部の左右対向内側より前記レンズ部の前面側に向かう傾斜面に形成された後面を有し」たものとなっている。 ,, , つまり 本件特許発明4は 本件親出願の請求項1の特許発明とは異なり取付台部がレンズ部の前面よりも前方に突出する構成に限定したものとなっており,これによって,着用者の鼻と鼻ベルトとの間隔に余裕が生じるとともに,取付台部の傾斜をきつくして,棒状突起と取付台部の後面とのなす角度をより鋭角なものとし,鼻ベルトの突起係合孔からの棒状突起の抜け出しを効果的に防止することができるようになっている。したがって,本件特許発明4と,本件親出願の請求項1の特許発明とは下位概念と上位概念の関係にあるとも評価し得る。そして,特許庁の審査実務でも,同日出願の2つの発明が上位概念と下位概念の関係に立つような場合には,同一の発明には該当しないものとして扱うことが確立している。この点で,被告の主張は失当である。 なお,本件親出願の請求項1の特許発明における前記取付台部の構成を勝手に実施例記載のものに限定して,本件特許発明4と同一であるとする被告の見解は,上記最高裁判決の趣旨に反する。 したがって,本件特許発明4も,本件親出願の請求項1の特許発明と同一でないことが明らかであって,分割適法要件を満たしている。 (3)被告は,本件特許発明5及び本件親出願の請求項2の「鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し」という事項は,本件親出願の, , 本件親出願当初明細書に記載されていおらず 新規事項の追加に当たるから本件分割出願は分割適法要件を満たしていない旨主張する。 しかし,本件分割出願が本件親出願との関係で新規事項を追加したとして不適法になるのは,本件親出願当初明細書等に記載されていない事項を追加した場合に限られるところ,当該事項は,本件親出願当初明細書等の図3及び図5に記載されている(乙19)から,本件分割出願が分割適法要件を満たしていることは明らかである。 7争点1-7(構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について【被告の主張】構成要件Eにおける「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」るというところの前記係止突部(突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部)なる用語の意義は不明であるから,構成要件Gもまた,その技術的意義が明確であるとはいえない。また,本件特許発明2は,本件特許発明1に係る請求項を引用する従属項である。したがって,本件特許発明2は,特許法36条6項2号に規定される記載要件に違反して特許されたものに該当する。 【原告の主張】, 。 係止突部の意義は 前記2において主張したとおりであって不明確ではない8争点1-8(本件特許1は実施可能要件違反の無効理由があるか)について【被告の主張】本件特許発明1の係止突部は 「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して ,鋭角に傾斜して」設けられるものと限定された構成から成るものであって,そのように棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜した尖った形状の係止突部が鼻ベルトの両端部の後面にいかなる状態に係止されることになるのか全く理解することができず,当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。よって,本件特許1には,特許法36条4項に規定される明細書記載要件を満たすことなく特許された違法があるので,同法123条1項4号に規定する無効理由がある。 【原告の主張】, 。 係止突部の意義は 前記2において主張したとおりであって不明確ではない9争点1-9(本件特許1には進歩性欠如の無効理由があるか)について【被告の主張】(1)本件特許発明1は,別紙審決(無効2006-80089号)の5頁以下に記載されているとおり,実公平7-24126号公報(乙9。以下「引用例1」という )に記載された引用発明1(別紙審決6頁27行ないし3 。 6行のとおり)と,実願平1-10194号(実開平2-102265号)マイクロフィルム(乙10。以下「引用例2」という )に記載の発明並び。 に乙第26号証の4の公開実用新案公報及び乙第26号証の5の実用新案公報にそれぞれ記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであって,本件特許1は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 (2)構成要件Aの構成は,引用例1の図1や引用例6の第1図にも記載されているように,アイカップ連結式の水中ゴーグルの基本的構成として周知である。 構成要件Bは,アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行うようにした連結構造を特定したものであるが,かかる連結構造は,引用例1の段落【0018】並びに図6及び図7に記載され,引用例5の第3図にも開示されている周知技術である。 構成要件Cは,アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設けるようにした差込プラグの一態様であるが,かかる構成は,引用例2の第7図及び第8図,実用新案登録請求の範囲の請求項1の「ブラケット(15)の背面(15b)に,上方からみて略L形の連結帯係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)側に位置するように,()()() 突設すると共に 該係合片 20 の対向端面 20b 又は端部 20a前面に係止突起(23)又は(22)を設け」との記載によれば周知技術である。 構成要件D( 鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設け )の構成は,引用 「 」例2の実用新案登録請求の範囲の請求項(4)並びに第1図,第10図,第11図,第18図及び第19図に記載されているとおり,周知技術であった。 なお,同各図面に図示された係合孔は角孔形状に表してあるが,この係合孔を丸孔形状にして係合片(すなわち,断面円形の棒状突起)に対し軸回りできるように変更することは当業者が必要に応じて選択できる設計事項である。 「 」 , 構成要件Eの 突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突起を設け は本件特許発明1の本質的部分に該当する技術要素であるのに,その技術的意。,「」 義が明確でない その点は措くとしても 引用例5の第3図に 隆起部13として図示された突条体12のテーパー状の節部分のような形状を意味するならば,かかる構成に変更することは,当業者が設計上の必要に応じて適宜取捨選択可能な設計事項である。また,同図の「隆起部13」は,突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突起に該当する。このテーパー状の節部分を中心軸線に対して鋭角に傾斜させるといった形状設定は,引用例4の第2図及び第3図に図示されるフック形の傾斜面2における鉤顎形状部分の構成からみて,当業者が必要に応じて取捨選択可能な設計事項である。 構成要件Fの構成は,引用例2の第1図,第7図,第8図,第14図,第15図及び引用例5の第4図に図示されている連結構造と実質的に変わりがない。 以上のとおり,本件特許発明1は,その出願前に頒布された引用例1に記載されたゴーグルを基本的構成とし,これに本件特許出願前に周知慣用であった引用例2,特開平7-67983号公報(乙11。以下「引用例3」という,引用例4ないし6に記載された当業者が自由に選択可能な常套的 。)手段を付加しているにすぎないものであるから,本件特許1が無効であることは明らかである。 (3)本件特許発明1と,引用例2に示されたゴーグルとは,構成要件A,同Cないし同Fについては一致する。他方,本件特許発明1における棒状突起は断面円形であって係合孔に相対回動可能に嵌合されるのに対し,引用例2に示された公知ゴーグルにあっては対応する連結帯係合片20が角軸状を成して相対回動できない点で相違する(構成要件B 。)しかし,引用例2の係合片20を横断面円形の丸軸状と成し,係合孔29の形状を丸孔に変更することは,本件特許出願当時の当業者にとっては技術常識であり これを引用例2のゴーグルに適用すれば 本件特許発明1の ア , ,「イカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔により行うようにしたものであるから,アイカップの上下方向の動きに融通性が生まれ,ゴーグル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィッティング自由度を向上させることができる」という特有の作用効果を奏することができる。 本件特許発明1と引用例2記載のゴーグルとの間の相違点(構成要件B)は,上記の技術常識を適用することによって当業者が容易に想到することができるから,本件特許発明1に進歩性を認めることはできない。 したがって,本件特許1は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるので,特許無効審判により無効にされるべきものに該当する(特許法123条1項2号 。)【原告の主張】以下の原告の主張は,本件各特許発明すべてについての進歩性に関する主張である。 (1)本件各特許発明の作用効果被告は,被告製品の構成を複数の技術要素に分解し,それぞれに対応する公知の技術要素を引用例1ないし6から拾い出して,被告製品は進歩性を欠く技術に関するものであるから,本件各特許発明の技術的範囲に属しないかのように主張している。しかし,被告は単に被告製品が公知技術の組合せであると述べているだけで,公知技術に基づいて当業者が容易に想到できたことの論理付けはしていない。したがって,被告の主張はそもそも主張自体失当である。 もっとも,本件各特許発明は,前述のように審査段階において進歩性が認められ,登録されている。本件各特許発明が進歩性を有することは,本件特許公報の「発明の効果」欄に記載の次の@ないしBの効果を奏することからも明らかである。 @アイカップと鼻ベルトの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔により行うようにしたものであるから(請求項1ないし5 ,アイカップの上下方向の動きに融通性が生まれ,ゴー )グル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィッティング自由度を向上させることができる。 A前記アイカップの鼻ベルト取付台部に棒状突起を設け,鼻ベルトの両端に突起係合孔を設けたので(請求項1ないし5 ,成形性が良く,連結強 )度を確保できる。 B前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け(請求項1ないし3 ,前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ, )該鼻ベルト両端傾斜面に前記突部と係止させるようにしたので(請求項2及び3 ,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく,連 )結・分離が容易である。 上記Aについて補足すると,棒状突起は,フィッティングの際に軸になる部分であるから,適正なフィッティングの妨げとなるねじれや変形の防止のために,さらには,アイカップと鼻ベルトの連結・分離の際の突起係合孔への挿通性をよくするためにも,突起係合孔を設けた鼻ベルトよりも硬質であることが望ましいが,アイカップの材質も硬質であることから,棒状突起とアイカップとを硬質材料で一体に成形できるので成形性が良い。また,装着時に硬質な棒状突起の係止突部を軟質な鼻ベルトにしっかりと係止させられるので連結強度を確保できる。 また,本件特許発明4及び同5も上記Bの効果を奏する。すなわち 「棒,状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている (構成要件N)ことにより,鼻ベルトの突起係合孔の各外端側が取付台 」部と棒状突起の間に押し込められるので,前記係合孔から棒状突起が抜け出して,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることが防止される(段落【0015。さらに,硬質プラスチック製のアイカップ側にある棒状 】)突起を,軟質な弾性材料により成形された鼻ベルトの突起係合孔に挿通させるようにしているため,抜き差ししやすく,アイカップと鼻ベルトの連結・分離が容易である。 (2)被告が引用する文献(引用例1ないし6)との相違点アフィッティング引用例1ないし6に記載のものは,いずれも,連結状態のアイカップと鼻ベルトにおける棒状突起と突起係合孔との相対回動を可能とした構成(本件各特許発明の構成要件B及び同K)を有するものではなく,上記@ないしBのすべての効果を兼ね備えたものはもちろん,単に@の効果を奏するものすら記載も示唆もされていない。 引用例1に記載のものは,ジョイントの取替え時における部品の破損を防止すること,アイカップとジョイントの連結を確実にすること及びジョイントの取替えを容易とすることを技術的課題とするもので(段落【0006,本件各特許発明のように,アイカップと鼻ベルトの上下方向の 】)相対的な動きによってゴーグルを顔面にフィッティングさせることを技術的課題とするものではない。 すなわち,引用例1においては 「アイカップとジョイントの相対的な ,回転 (引用例1の考案の効果欄)といっても「アイカップとジョイント 」とを着脱自在に連結する (同考案の効果欄)場面で,ジョイントの先端 」の連結軸を中心として回転するにすぎず,ゴーグル装着時に顔面への微妙なフィッティングのためにアイカップと鼻ベルトが相対的に回動するのとは技術的思想が全く異なる。また,引用例1の段落【0018】にジョイント10の連結軸11を丸軸としてもよいとの記載があるといっても,単に連結軸11の形状が角軸に限定されないことを示したものにすぎず,丸軸にしても結合状態のアイカップとジョイントが相対回動不能であることに変わりはないのであり,フィッティングに関しては全く考慮されていない。引用例1に記載のものにおいて,アイカップとジョイントは着脱操作のときに回転するだけで 「相対回動可能 (構成要件B)なのではない。 ,」そして,引用例1の図6及び図7にも,ゴーグル装着時に顔面への微妙なフィッティングのためにアイカップと鼻ベルトが相対的に回動する技術的思想は全く表れていない。 また,引用例5に記載のものは,本件各特許発明における鼻ベルトに対応する連結バンド本体11に複数の突条体12を設け,適当な突条体12を選択し不要な突条体12を除去することにより,自分に合致した長さの連結バンドが得られるようにしたもので,突条体12が挿通するバンド通し孔が形成された突起部14はアイカップ側に設けられている。突条体12の断面形状やバンド通し孔の形状は不明であり,引用例5は突条体12とバンド通し孔を回動可能とすることについて示唆するものではない。 イ成形性・連結強度の確保引用例1ないし6に記載のものは,いずれも,アイカップ側の取付台部に棒状突起を設け,鼻ベルトに突起係合孔を設けた構成(本件各特許発明の構成要件C,同D,同J及び同K)を有するものではなく,引用例1ないし6には,断面略円形の棒状突起と突起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結構造に関し,成形性を良くすること及び連結強度を確保することについて,記載も示唆もされていない。 引用例2に記載のものは,ゴーグル本体のブラケット15への連結帯16(鼻ベルト)の着脱が容易でかつ外れにくい上,外観が良好でしかも着用がしやすいゴーグルを提供することを課題とするもので(考案が解決しようとする課題欄 ,ブラケット15は,略L字状の連結帯係合片20が )突設されたものとなっており,本件各特許発明における断面略円形の「棒状突起」とは形状が全く異なる。また,連結帯16に設けられた係合孔29は四角形であるため,連結状態のブラケット15と係合孔29は相対回動不能でもある。このように,引用例2に記載のものは,ブラケット15や係合孔29の構成が本件各特許発明における棒状突起や突起係合孔とは全く異なっており,棒状突起と突起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結構造に関し,成形性を良くすること及び連結強度を確保することについて示唆するものではない。 ウアイカップと鼻ベルトの連結・分離引用例1ないし6に記載のものは,いずれも,断面略円形の棒状突起と突起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結構造に関し,連結・分離を適切に行えるようにする構成(本件各特許発明の構成要件E,同F,同G,同M,同N,同O,同P,同Q,同R及び同S)を有するものではなく,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく,しかも連結・分離を容易にすることについて,記載も示唆もされていない。 引用例1に記載のものは,そもそも本件各特許発明の連結構造とは全く異なるが,作用効果の面でも,アイカップとジョイントを結合させると,段落【0019】に記載の方法で連結解除しなければ分離できないようになっており,分離が容易ではない。 引用例2に記載のものは,前述のとおり棒状突起と突起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結に関するものではなく,また,ブラケット15と連結帯16の連結・分離に際して連結帯16の回転等の作業を要する構成であるから(引用例2第14図及び第15図 ,形状自体が本件各特 )許発明とは全く異なる上,作用効果の面でも,本件各特許発明のような連結・分離の容易性を全く備えていない。 引用例3に記載のものは,ジョイントの長さ調節を軽い力で行い得るようにした水中メガネに関するものであり(要約の目的欄 ,棒状突起と突)起係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結に関するものではなく,本件各特許発明のアイカップと鼻ベルトの連結・分離の仕方とは全く異なるものである。 引用例4に記載のものは,ともに可撓性材質の鉤体イと受体ロからなる締結具に関するもので,アイカップと鼻ベルトの連結構造に関するものではなく,また,ゴーグルに関するものでもなく,本件各特許発明のアイカップと鼻ベルトの連結・分離の仕方とは全く異なるものである。 引用例5に記載のものは,本件各特許発明における鼻ベルトに対応する連結バンド本体11に複数の突条体12を設け,適当な突条体12を選択し不要な突条体12を除去することにより,着用者に合致した長さの連結バンドが得られるようにしたもので,取付台部や棒状突起の位置や傾斜のつけ方などの工夫で連結・分離を容易にした本件各特許発明の技術的思想は全く表れていない。また,突条体12が軟質材料で形成されたものであるのに対し,アイカップ側にあるバンド通し孔の周囲は硬質材料で形成されたものであり,ねじれや変形の生じやすい軟質な突条体12を周囲が硬質なバンド通し孔に挿入することは困難であり,アイカップと鼻ベルトの連結が容易ではなく,挿入後においても,しっかりと係止させることは無理であるから,アイカップと鼻ベルトとの連結が使用中に外れやすいものとなる。 引用例6に記載のものは,非着用時にも着用時と同様の形態を保ち得る装飾性の高い水中眼鏡とすることを目的とするもので(考案が解決しようとする課題欄 ,取付台部や棒状突起の位置や傾斜のつけ方などの工夫で )連結・分離を容易にした本件各特許発明の技術的思想は全く表れていない。また,爪52が軟質材料で形成されたものであるのに対し,アイカップ側にある係合孔31の周囲は硬質材料で形成されたものであり,ねじれや変形の生じやすい軟質な爪52を,周囲が硬質な係合孔31に挿入することは困難であり,アイカップと鼻ベルトの連結が容易ではなく,挿入後においても,しっかりと係止させることは無理であるから,アイカップと鼻ベルトとの連結が使用中に外れやすいものとなる。 以上のとおり,引用例1ないし6は,いずれも,棒状突起と係合孔とによるアイカップと鼻ベルトの連結構造に関し,本件各特許発明のように,連結が使用中に外れることがなく,しかもアイカップと鼻ベルトの連結・分離を容易とすることについて,記載も示唆もないものである。 このように,本件各特許発明は,各構成要件の機能的又は作用的関連により従来にはない優れた効果を奏するものであり,単なる公知技術の寄せ集めではないから,公知技術に基づいて当業者が容易に想到できたことの論理付けのできないものであり,進歩性を有している。 なお,本件特許公報の段落【0017】の「棒状突起10はベルト取付台部8の前面側に突設することができる。また鼻ベルト3に棒状突起を設け,アイカップ2のベルト取付台部8に突起係合孔を設けることができる 」という事項は,構成要件にかかる限定が付されていなかった時点に 。 おける本件親出願当初明細書の記載(乙19段落【0026 )が残って】いるものにすぎない。 10争点1-10(本件特許2には進歩性欠如の無効理由があるか)について【被告の主張】(1)本件特許発明2は,本件特許発明1に従属する発明であり,本件特許発明1に,構成要件Gとして 「鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に ,傾斜した鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させる」という技術要素を付加したものである。しかし,ゴーグルにおいては,鼻ベルトの中央部が着用者の鼻梁を負傷させないように取付台部をレンズ部の前面よりも前方へ持ち出し,持ち出された取付台部の後面に設けた棒状突起と鼻ベルト両端の係合孔とを嵌合させねばならないのであるから,鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させることは自明の常識であり,引用例2記載の公知ゴーグルにあっても,連結帯16の両端部は後方に傾斜されている。ちなみに,引用例2の「連結帯16は,第10図及び第11図に示すように可撓性を有しかつ伸縮不能な合成樹脂材により一体的に成形され,中央部が前方に突出されて両端の連結耳部16aに係合孔29が設けられる (9頁10ないし13行)と 」の記載も,連結帯16の両端部の連結耳部16aがブラケット(取付台部)15の後面方向へ傾斜していることを前提としたものである。 したがって,本件特許発明2も,特許法29条2項に違反して特許されたものである。 ,, , (2)なお 本件特許発明2は 別紙審決の5頁以下に記載されているとおり前記9の【被告の主張】(1)に記載の理由に加えて,乙第21号証の公開実用新案公報(実開昭53-153700号)に記載されている周知技術を引用発明1に適用することによって,当業者が容易に発明することができたものである。よって,本件特許発明2についての特許は,特許法29条2項に違反してなされたものである。 (3)引用例5には,第3図において,左右のレンズ部に斜めに突設された突起部14が表されており,この突起部14に貫設した連結バンド通し孔(符号なし)に対して,柔軟性の連結バンド本体11の両端に設けた突条体12を嵌合させて左右のレンズ部1同士を連結して構成した水泳用メガネが,従来例として記載されており,そして,その第4図には左右のレンズ部15における対向面側に突起部14を斜めに庇状に持ち出し,この突起部14に設けた通し孔に,連結バンド本体11両端の突条体12をテーパー状の隆起部13で引っ掛け連結して成る水泳用メガネが図示してある。引用例5における連結バンド11は本件特許発明2の鼻ベルトに該当し,この連結バンド11における突条体12は本件特許発明2における鼻ベルト両端の後方に傾斜した両端部に該当し(第4図参照 ,また連結バンド11の突条体12の隆 )起部13が突起部14の通し孔に係合した構造は本件特許発明2における鼻ベルト取付台部の係合孔に棒状突起の係止突部を係止させた状態に対応する。引用例5の連結方式と本件特許発明2における鼻ベルトの連結方式は,ちょうど逆関係ではあるが,かかる結合方式の変更は当業者が設計上の要請に応じて適宜採択できる常識的置換である。 そうすると,本件特許2は,特許法29条2項の進歩性の特許要件を欠如していることは明らかであるから,当該特許は無効である。 したがって,請求項2に係る本件特許権は,無効審判により無効にされるべきものに該当し,同特許権を被告に対して行使することは許されない(特許法104条の3第1項 。)【原告の主張】前記9における原告の主張と同旨である。 11争点1-11(構成要件Nの「鋭角」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について【被告の主張】構成要件Nの「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」という文言は,著しく不明確である。先にも述べたとおり 「鋭角」とは,0°<θ≦90°の範囲内でθが取り得るすべての角度を ,意味するから,取付台部の後面に対して,そのように不特定な角度関係に棒状突起を配設すると,機能上有害(棒状突起が取付台部に対してあまり鋭角に倒れ過ぎていると鼻ベルトとの相対回動が阻害される )な角度までも含むこと 。 となるし,必ず得られる作用効果がいかなるものであるのかも不明である。よって,構成要件Nの技術的意義は著しく不明瞭であり,本件特許発明4は特許法36条6項2号の規定に違反して登録されたものであって,技術的範囲の解釈も不能であると同時に,特許無効理由(特許法123条1項4号)を内在している。 【原告の主張】構成要件Nの「棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている とは 別紙図5に示すように 棒状突起の延びる方向 突 」,,() , ,, 起中心軸線の方向 と 取付台部の後面とのなす角度が 鼻ベルト側ではなく周壁部側において鋭角となっていることを意味する。つまり,別紙図5における太線のなす角度が鋭角となっていることである。 なお,被告は,構成要件Nを 「棒状突起の先端部を斜切形状に成形して, ,鋭角側を周壁部側に配置するという意味」としているが,構成要件Nは,取付台部の後面側に設けられた棒状突起の延びる方向についての記載であり,棒状突起の先端部の形状に関するものではない。 さらに,被告は,構成要件Nの「鋭角」という用語について,機能上有害ないし無意味な角度を含むため,そのような角度関係に特定配置する棒状突起にいかなる技術的意義があるのか不明瞭であると主張するが,特許請求の範囲においては,特許を受けようとする発明に関する基本的事項を明確に記載すれば足りるのであって,当該発明の目的,作用効果の達成を困難とするようなすべての具体的構成を排除するように記載しなければならないわけではない。 12争点1-12(構成要件O,同Q及び同Rのの意義は不明確であり,本件特許5には,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について【被告の主張】(1)構成要件Oは 「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止 ,突部を設け」るということであるが 「棒状突起の先端部外周に前記後面と ,略平行に」という意味が不明である。 「前記後面」とは何の後面を意味するのか不明であり,また「係止突部」と称するものに関しては「棒状突起の先端部外周に前記後面と平行になるように設け」るとあるが,棒状突起がどのような形状になるのか,請求項5にいうところの「後面」なる用語の意味も,その「後面と略平行になる係止突部」の意義も全く理解することができない。 それゆえ,本件特許5は,特許法36条6項2号に違反して特許されたものであり,同法123条1項4号の無効理由が存在する。 (2)構成要件Qは,鼻ベルトの係合孔は当該鼻ベルトの両端部の前後面に対し傾斜して設ける構成であるが,棒状突起の突出方向に沿って開設しなければならないはずであり,傾斜して設けたからといって,必ずしも棒状突起の軸回りに鼻ベルトと取付台部とが円滑に相対回動可能になるというものではない。その意味において本件特許5は,構成要件Qに関しても,特許法36条6項2号に違反して特許されたものというべきであり,同法123条1項4号の無効理由を有する。 (3)構成要件Rは,鼻ベルトの両端部の前面を前記取付台部の後面に面接触させるというものであるが,鼻ベルト両端の前面を取付台部に面接触させるためには,鼻ベルト両端の厚みと前記取付台部の後面とそこに突設された棒状突起先端部外周に形成した係止突部までの内法を合致させておく必要があり,とすると,棒状突起の先端は,構成要件Nに特定されるようにアイカップの周壁側において鋭角を成しているはずであるから,構成要件Pにおける「鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成」するという要請と矛盾することになる。この場合,係合孔を該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けるという構成要件Qは,その矛盾の解決手段とはなり得ない。鼻ベルトの端部が棒状突起を中心に相対回動する際には,棒状突起は静止したままであって,棒状突起先端の係止突部及び鋭角部と鼻ベルトの係合孔周縁との位置関係が変化してしまうからである。 【原告の主張】前記5において主張したとおり,構成要件Oの意義は不明確ではない。その余の被告の主張は争う。 13争点1-13(本件特許4は進歩性欠如の無効理由があるか)について【被告の主張】(1)別紙審決の5頁以下に記載されているとおり,引用例1に記載された引用発明2(別紙審決6頁37行ないし7頁11行のとおり)に,引用例2や乙第26号証の5,11ないし14,乙第75号証及び乙第76号証の各公開実用新案公報記載の周知技術を適用すれば,当業者であれば,本件特許発明4を容易に発明することができる。 ,, 。 よって 本件特許4は 特許法29条2項に違反してなされたものである(2)さらに,本件特許発明4は,引用例1に記載されたスイミングゴーグルや,引用例6に記載された水中眼鏡を基本的構成(構成要件H及び同I)として,これらに周知慣用であった引用例2ないし6に記載の常套的手段を付, , 加したものにすぎず 本件特許発明4の出願時における当業者にしてみれば容易に推考できる程度のものである。 , , ア構成要件H及び同Iは 左右一対の硬質プラスチック製のアイカップと両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付台部に前記鼻ベルト両端部が取り付けられているゴーグルであるところ,かかる構成は,引用例1の図1と引用例6の第1図にも記載されているように,アイカップ連結式の水中ゴーグルの基本的構成として周知である。また,水中ゴーグルにおいてアイカップを硬質プラスチックで作製することは当業者の間では常識技術に属する。 イ構成要件J及び同Kは,アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行うようにしたアイカップと鼻ベルトとの連結構造を特定したものであるが,かかる連結構造は,引用例1の段落【0018】並びに図6及び図7に記載され,引用例5の第3図にも図示に開示されているところからも明らかなとおり,周知技術である。 ウ構成要件Lは,アイカップを前面のレンズ部と該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とで構成を特定したものであるが,引用例6の第1図の眼鏡体1と同一の構成である。当該眼鏡体1は,プラスチック製の円形のレンズ及び防水用の枠部12とを一体成形して作製されたものであって,本件特許発明4におけるレンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とで構成された硬質プラスチック製アイカップと同一であるから,構成要件Lは,本件特許発明4特有の構成ではない。 エ構成要件Mは,アイカップの取付台部をレンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けた構成であるが,このような構成は,引用例1の図1,図2及び図4に図示されており,加えて,引用例6の8頁18行ないし9頁2行目に「本実施例では略箱状に突出させたブラケット3について説明したが,ブラケットの形状はこれに限るものではなく,例えば眼鏡体1の枠部12から舌状に突出させて先端部に係合孔を穿設したものであってもよい 」と補足説明されているとおり 「アイカップの取 。 ,付台部をレンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けた構成」は,本件特許の出願前に既に当業者間に知られていたのである。 また,引用例1に記載されたアイカップ1・1の対向内側のそれぞれに出っ張った連結片2・2は,ジョイント10(本件各特許発明における鼻ベルト)の裏面がゴーグルの着用時に着用者の鼻梁に当たらないようにするための自明の構成であり,当業者が必要に応じて自由に選択可能な設計事項である。 オ構成要件Nは,棒状突起を取付台部の後面に対し周壁部側において鋭角をなすという構成であるが,文理的には意味不明である。もし,本件明細書に附帯する図面の図3及び図5の記載に徴し,棒状突起の先端部を斜切り形状に成形して,鋭角側を周壁部側に配置するという意味ならば,なぜそのような構成が必要なのか技術的意味が不明であり,本件特許は特許法36条6項2号に違反して特許されたものといわざるを得ず,不明瞭に記載したことによる不利益は,原告が負担すべきである。 しかし,棒状突起の先端部を斜切りの形状に成形することは,係合孔に嵌まりやすくするための自明の構成であって,引用例4にも開示されてい, , るとおり 古くから当業者に悉知されている当業者の常識技術であるから構成要件Nの採用に進歩性は認められない。 カ以上のとおり,本件特許発明4は,その出願前に頒布された引用例1に記載されたスイミングゴーグルを基本的構成とし,これに本件特許出願前に周知慣用であった前示各引用例記載の公知ないし周知の技術を当業者が適宜適用することによって構成することが可能であるから,特許法29条2項の進歩性の特許要件を欠如していることは明らかであり,本件特許4は無効である。 したがって,本件特許4は,無効審判により無効にされるべきものに該当し,同特許に係る特許権を被告に対し行使することは許されない(特許法104条の3第1項 。)(3)本件特許発明4と引用例2に開示されたゴーグルとは,本件特許発明4における棒状突起は断面円形であって係合孔に相対回動可能であるのに対し,引用例2記載の公知ゴーグルにあっては対応する連結帯係合片20が角軸状を成して相対回動できない点で相違する(構成要件J及び同Kにおける相違 。)しかし,係合片29を横断面円形の丸軸状と成し係合孔29の形状を丸孔に形状変更することは,本件特許の出願当時の当業者にとっては技術常識で, , 。 あり 引用例1にもその旨明記されていることは 既に述べたとおりであるしてみれば,本件特許発明4と引用例2記載のゴーグルとの相違点は,常識技術の適用によって当業者が容易に克服することが可能であって,本件特許発明4には進歩性を認めることができない。 したがって,本件特許4は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるので,特許無効審判により無効にされるべきものに該当する(特許法123条1項2号 。)【原告の主張】前記10における原告の主張と同旨である。 14争点1-14(本件特許5には進歩性欠如の無効理由があるか)について【被告の主張】(1)本件特許発明5は,別紙審決5頁以下に記載のとおり,前記13【被告の主張】に加えて,周知技術を引用発明2に適用すれば,容易に発明することができるものである。よって,本件特許5は,特許法29条2項に違反して特許されたものであって,特許無効審判により無効とされるべきものである。 (2)構成要件Oは,棒状突起の先端部外周に前記後面に略平行に,という意味が不明である。すなわち 「前記後面」が何の後面を意味するのかが不明 ,であるし,棒状突起がどのような形状になるのかも不明であって「後面と略平行になる係止突部」の意義も理解することができない。 構成要件Pは,鼻ベルトの両端部の前後面は,取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成するというものであるが,鼻ベルトの係合孔に取付台部の棒状突起を嵌合させ相対回動可能にするためには,鼻ベルトの両端部前後面が取付台部の後面と平行になっていなければ,円滑に回らないことは自明のことであるから,鼻ベルト両端の前後面を取付台部の傾斜に合わせることは設計事項であって,この点に進歩性は認められない。 構成要件Sは,鼻ベルト両端部の後面が係止突部に係止されているという構造であるが,かかる構成もまた不明瞭である。鼻ベルト両端の係合孔からの抜け止めだけの目的で棒状突起の先端部に係止突部を設け,この係止突部を鼻ベルトの係合孔周縁に引っ掛けただけだとすると,引用例5に記載の水泳用メガネにおける連結バンド本体の突条体12の隆起部13をレンズ部15における突起部15のバンド通し孔に引っ掛ける構造と同じであって周知であるから,そこに進歩性を認めるべき理由はない。また,そのような構成は,引用例1における段落【0002】ないし段落【0004】にも従来例として図6を引用して例示されている。それゆえ,このような構成要件Sを採用した点にも進歩性を認めるべき理由は見当たらない。 以上のとおり,本件特許発明5のゴーグルは,その出願前に頒布された引用例1に記載されたスイミングゴーグルを基本的構成とし,これに本件特許出願前に周知慣用であった前示各引用例記載の公知ないし周知の技術を当業者が適宜適用することによって構成することが可能であるから,特許法29条2項の進歩性の特許要件を欠如していることは明らかであり,本件特許5は無効である。 ,, , したがって 本件特許5は 無効審判により無効にされるべきものであり本件特許権を被告に対して行使できない(特許法104条の3第1項 。)(3)本件特許の請求項5には,構成要件Oとして 「棒状突起の先端部外周 ,に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ」という技術事項が付加してあるが,引用例2記載の公知ゴーグルにあっても 「ブラケット(15)の ,連結帯係合片(20)の端部(20a)前面及び対向端面(20b)に係止突起(22 (23 」が設けられる(引用例2の請求項(3)及び第7図の符 ))号22・23の引出線部分 。)そしてさらに,構成要件Pとして「鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され」という技術事項及び構成要件Qとして「係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ」という技術事項も付加しているが,これらも前述の構成要件Gと同様に自明な常識技術の付加に該当する。鼻ベルトの両端部が取付台部の後面と平行な傾斜面を成しているのであるから,取付台部の後面から突出する棒状突起が当該係合孔に円滑に嵌入するためには当該孔の開設方向も棒状突起に適合していなければならない。構成要件Rとして「鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し」という技術事項も付加されているが,かかる構成は本件親出願当初明細書に記載がなかった事項であり,そのこと自体が本件特許の無効理由を構成する(特許法123条1項1号 。さらに,構成)要件Sとして「鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されている」という構成を限定条件として付加しているが,引用例2に「連結帯係合片20には,第8図に拡大図示しているように端部20aの前面先端に係止突起22が突設されると共に,対向端面20b後方に係止突起23が突設され,連結帯16が自然に外れないようにせられており (8頁8ないし12行目) 」と記載されていることからも明らかなとおり,構成要件Sに該当する技術手段は,引用例2にも既に開示されていたのである。 したがって,本件特許発明5も,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものに該当する。 【原告の主張】本件特許発明5は,手続補正書(平成14年12月24日提出。甲20)による補正直後の旧請求項7の記載事項に基づくものである 拒絶理由通知書 甲。(22)において,旧請求項7は,鼻ベルト前後面の記載が不明瞭である点で拒絶理由(特許法36条6項1号)があるとされたが,これは,本件特許発明5の構成要件Pに対応する「前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記後面…」という記載の「前記後面」が,直前の鼻ベルトの両端部の後面のこととして受け取られるおそれがあったためである。当該拒絶理由は,手続補正書(甲25)により 「前記後面」が取付台部の後面であることを明記したため解消した。 ,構成要件Oに関する被告の主張に対する反論は,前記12における原告の主張のとおりである。 15争点1-15(出願経過禁反言の法理の適用の有無)【被告の主張】(1)原告は,平成14年12月24日提出の手続補正書(乙18の3)において,請求項4ないし7が引用例1及び引用例2に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に推考できるものであることを明確に自認した上で,特許請求の範囲から請求項4ないし7を削除し,請求項1,請求項2及び請求項3についてだけ,出願を維持し特許を受けた経緯がある。 してみれば,本件親出願から分割された本件各特許発明についても,本件親出願の特許請求の範囲の上記請求項4ないし7に記載されていた技術事項は,原告自身が進歩性を欠いたものとして当該技術的範囲から意識的に除外したものといえる。 (2)分割出願に係る特許である本件特許の請求項1ないし5に記載された本件各特許発明の技術的範囲から除外された技術事項は以下のとおりであり,原告は,本件各特許発明の技術的範囲から,これらの技術事項を除外したのである。 ア【請求項4】前面のレンズ部を備えた左右一対のアイカップと,該両アイカップを連結する所定厚みの板状の鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が,前記レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するよう設けられ,該取付台部の後面である顔面側傾斜面に,顔面側に向かって突出する棒状突起が設けられ,前記鼻ベルトの左右両端部に,前記棒状突起が相対回動可能に嵌合される係合孔が設けられ,前記鼻ベルトの両端部の前面側に,前記取付台部に取り付けるための凹み段差が設けられていることを特徴とするゴーグル。 イ【請求項5】前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備えた左右一対のアイカップと,該両アイカップを連結する鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設されたゴーグルにおいて,前記鼻ベルトの左右両端部を後方に傾斜させ,該両端部の傾斜面には係合孔が前後方向に貫通して設けられ,前記取付台部は,前記レンズ部の前面よりも前方に斜めに突出するよう設けられ,前記取付台部の後面に,前記係合孔に嵌合する棒状突起が顔面側に向かって突設され,該棒状突起の先端には係止突部を設け,ゴーグルを装着して使用しているときの前記弾性バンドの張力により前記係合孔の各外端側が前記取付台部と棒状突起の間に押し込められるようにアイカップと鼻ベルトが連結されていることを特徴とするゴーグルウ【請求項6】前記棒状突起の先端部外周に係止突部を設け,前記鼻ベルト両端部の後面には,前記係止突部が係止する切欠部が設けられていることを特徴とする請求項5記載のゴーグル。 【】 , エ請求項7前面のレンズ部の周縁から後方に突出する周壁部を備え該周壁部の左右一端側に鼻ベルトの取付台部が突設され,同他端側に弾性バンドを接続するバンド接続部を備えたゴーグル用アイカップにおいて,前記取付台部は,前記周壁部より前記レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するよう設けられ,該取付台部の後面には前記鼻ベルトに設けられた係止孔に挿通される棒状突起が顔面に向かって突設され,該棒状突起の先端部には前記鼻ベルト抜け止め用の係止突部が設けられていることを特徴とするゴーグル用アイカップ。 【原告の主張】原告は,意見書(乙18の9)において,拒絶理由通知(乙18の8)の対象となった請求項4ないし7を削除することにより,本件親出願の拒絶理由が解消するという当たり前のことを述べただけであり,特定の構成要件の解釈を述べたわけでもなければ,本件訴訟において審査段階で述べた意見と異なった主張を行っているわけでもない。むしろ,原告は,本件親出願についても,本件分割出願についても,本件各特許発明の進歩性を積極的に主張することによって特許査定を受けたものである。また,本件親出願の請求項4ないし7は本件各特許発明とは内容が異なるものでもあり,当該請求項の削除は本件各特許発明の技術的範囲の解釈とは全く無関係である。 16争点1-16(公知技術の抗弁)について【被告の主張】(1)被告製品における技術的構成@(別紙被告物件目録参照。以下同じ )。 は 「左右一対のアイカップ2a・2bと,この左右のアイカップ2aと2 ,bとを互いに連接するブリッジ・リンク3aと,前記左右アイカップ2a・2bの左右両端同士を鉢巻き状に連結し,かつ,バックル部4b・4cにおいて長さ調節可能なゴムバンド4aとから構成されている(別紙被告物件目録添付図面第1図参照 」ものであるところ,かかる構成は,引用例1の図 )1及び引用例6の第1図にも開示されているようにアイカップ連結式の水中ゴーグルの基本的構成として周知である。 (2)被告製品における技術的構成Aは,引用例2に「ゴーグル本体12は,第2図〜第9図に示しているように,レンズ部13が略だ円形で,この周縁から後方に延びるスカート部14の開口周縁14aが着用者の眼部周囲の顔面に沿う弯曲形状に,透明又は半透明のポリカーボネート又はセルローズプロピオネート等の硬質合成樹脂により一体成形されている (7頁10ない」し16行)と記載されているように,本件特許出願前から周知であり,同様の構成は引用例6(5頁18行ないし6頁2行)にも開示されている。 (3)また,被告製品における技術的構成Bは,引用例6に「本実施例では略箱状に突出させたブラケット3について説明したが,ブラケットの形状はこれに限るものではなく,例えば眼鏡体1の枠部12から舌状に突出させて先端部に係合孔を穿設したものであってもよい(8頁18行ないし9頁2 。」行目)と説明されているところからも明らかなとおり,本件特許出願前,アイカップのレンズ部6aと6bとが隣向して対向する縁角部のそれぞれに舌状の持出ブラケット8a・8bを斜め前方へ差し延べるそれぞれ一体成形によって設ける構成は当業者間では周知技術であったのである。また,被告製品における技術的構成Cは「アイカップの周壁部7a・7bの接眼側端縁のフランジFには,柔らかで弾力的な軟質樹脂製の濃色不透明なジャバラ形の吸盤ベローズ7c・7dが嵌合接着」されるというものであるが,かかる構成に関連した公知技術は,引用例2の第29図に図示され,かつ,その3頁10ないし13行に「スカート部3の周縁には,ウレタンフォーム等の柔軟弾性材料からなるパッド10が,接着剤等により固着されている 」との記。 載に示されている。 被告製品における前記吸盤ベローズ7c・7dは,引用例2記載の前記パッド10とは作用は異なるが,いずれも着用者の眼窩周縁に対する当たり感触をソフトにしようとする点において共通する。 (4)被告製品ににおける技術的構成Dに係る構成は,引用例5第3図の「隆起部13」に図示されている。さらに引用例4第2図及び第3図の傾斜面2に設けられた鉤顎形状のフック体は,被告製品におけるピボット軸10a・10bの突端部に設けられた∠形のフック部11a・11bに対応する。被告製品におけるピボット軸10a・10bの突端部の形状的工夫は,引用例4及び引用例5に開示された周知技術とは必ずしも同じではないが,被告製品におけるピボット軸10a・10bの前提技術ともいえるので,念のため引用しておく。 (5)また,被告製品の技術的構成Eに係る構成のうち,被告製品におけるブリッジ・リンク3aは引用例5における連結バンド11に該当する。この連結バンド11の左右両端は内窄まりの内股形状に成形されている(引用例5第4図参照 。しかして,引用例5の連結バンド11は,必ずしも被告製品 )におけるブリッジ・リンク3aとは同じ構成ではなく滑りリブ32a・32bのような改善工夫が見られるが,被告製品に対し前提技術であるので,念のために引用しておく。 (6)さらに,被告製品における技術的構成Fに係る構成は,引用例1の図1や,引用例2の第1図及び引用例6の第6図ないし第9図に図示されているように周知慣用の技術事項である。 (7)以上のように,被告製品は,技術的構成@を基本的骨組みとして,これに上記引用例1ないし6に開示された当業者に常識の公知技術と製造元が特許出願することなく公知にした技術的工夫とを加味して製作されたものである。 また,既述のとおり,本件各特許発明は,いずれも引用例1や引用例6のような古い実用新案の部分的改変にすぎず,本件特許出願当時の技術水準からみて進歩性を欠如しているので,このように公知技術と同視すべき技術領域に属する被告製品は本件各特許発明の技術的範囲から除外されているというべきである。 よって,原告による特許権侵害の主張には,理由がない。 【原告の主張】被告は,被告製品が公知技術の組合せであると述べているだけで,公知技術に基づいて当業者が容易に想到できたことの論理付けはしていない。したがって,被告の主張はそもそも主張自体失当である。 17争点2-1(被告意匠は本件登録意匠と類似するか)について【原告の主張】(1)本件登録意匠の構成ア基本的構成態様@左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成る。 A各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備えている。 B各アイカップの左右対向内側において,鼻ベルトの取付台部がレンズ部よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。 C両アイカップの鼻ベルトの取付台部間に鼻ベルトが取り付けられている。 イ具体的構成態様Dアイカップのレンズ部は横長の略楕円形状である。 Eアイカップの周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,対向外端部を除く部分は略直角である。 Fアイカップの周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように外方に向かって細くなった,なだらかな曲面となっている。 Gアイカップの周壁部の後部にはフランジが形成されている。 H鼻ベルトの取付台部は,略舌片形の板状であり,レンズ部の外縁から斜め前方に突設されている。 I各アイカップの周壁部の対向外端部には上下方向のバンド挿通孔が設けられている。 J鼻ベルトは,正面視において,上下方向の幅が長手方向両端部より中央部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブしている。 K鼻ベルトは,中間部の前面が比較的平坦で,長手方向両端部が,後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置するようになっている。 L弾性バンドは中央部と両端部が帯状で,他の中間部がひも状であり,両端部はそれぞれ両端が丸みを帯びた横長の留具に通され,中間部は前記バンド挿通孔に通されている。 (2)本件登録意匠の要部本件登録意匠の出願前の公知意匠としては,意匠登録第738340号公報(甲14)に記載の「水中めがね」に係るものがある。この公知意匠は,左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備えており,各アイカップの周壁部の対向外端部は,弾性バンドの挿通孔が設けられた外端縁が四角形状,, , に切欠した形状の輪郭を有し そして アイカップの左右対向内側においてレンズ部よりも前方に向かって斜めにやや反り返るように突出し,上下にアイカップの周壁部とほぼ同じ幅で連続する面を有する形状の鼻ベルトの取付部が設けられ,この取付部に鼻ベルトが前方に湾曲した状態で突出するように設けられた態様となっている。 この公知意匠に対し,本件登録意匠は,アイカップの周壁部,鼻ベルトの取付台部及び鼻ベルトの態様に関し,前記(1)のF,H,J及びKのようにした点及びこれらと他の要素との組合せにおいて新規である。 また,これと併せて,本件登録意匠の本件各類似意匠が,アイカップ・鼻ベルトの細部形状,アイカップの周壁部のフランジに取り付けられるパッドの有無,弾性バンドの構成について,本件登録意匠と差異があるにもかかわらず,類似意匠登録されていることを考慮すると,本件登録意匠の要部は,本件各類似意匠との共通点,すなわち,左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備えた水中眼鏡において,周壁部の対向外端部が外方に向かって細くなっており,さらに,左右対向内側においてレンズ部よりも前方に向かって斜めに突出するようにした鼻ベルトの取付台部が設けられており,鼻ベルトは,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置するようになっている点にある。 すなわち,従来意匠との関係で本件登録意匠が特徴的なのは,各アイカップの外方に向かって細くなった周壁部の対向外端部と,略舌片状の鼻ベルトの取付台部とが呼応するとともに,鼻ベルトが前方に大きく湾曲して突出することなく,その長手方向両端部が前記取付台部の後側に位置することによって呈する,左右のアイカップと鼻ベルトとの一体性あるスマートな美感にある。このように,本件登録意匠は,主に正面視におけるスマートな美感が特徴的である。 (3)被告意匠の構成被告意匠の構成は,別紙被告物件目録添付図面第1図,第3図ないし第13図,第16図ないし第19図のとおりである。同目録添付図面第2図及び第14図は,被告意匠を正確に表現しておらず,第2図は削除し,第14図の代わりに別紙イ号物件目録添付図面図10によるのが相当である。 ア基本的構成態様@左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成る。 A各アイカップは,レンズ部とその周縁から後方に突出する周壁部を備えている。 B各アイカップの左右対向内側において,鼻ベルトの取付台部がレンズ部よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。 C両アイカップの鼻ベルトの取付台部間に鼻ベルトが取り付けられている。 イ具体的構成態様Dアイカップのレンズ部は横長の略楕円形状である。 Eアイカップの周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,対向外端部を除く部分は略直角である。 Fアイカップの周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように外方に向かって細くなった,なだらかな曲面となっている。 Gアイカップの周壁部の後部にはフランジが形成されており,フランジにはくびれのある軟質なパッドが着脱可能に設けられている。 H鼻ベルトの取付台部は,略舌片形の板状であり,レンズ部の外縁から斜め前方に突設されている。 I各アイカップの周壁部の対向外端部には,斜め前後方向のバンド挿通孔が設けられている。 J鼻ベルトは,正面視において,上下方向の幅が長手方向両端部より中央部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブしている。 K鼻ベルトは,中間部の前面が比較的平坦で,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置するようになっている。 L弾性バンドは全体が帯状で,両端部がそれぞれバンド挿通孔と縦長の留具に通されている。 (4)被告意匠と本件登録意匠との類否ア本件登録意匠と被告意匠とは,基本的構成態様@,A,B及びC並びに具体的構成態様D,E,F,H,J及びKにおいて共通するが,具体的構成態様G,I及びLについては差異がある。 しかし,具体的構成態様G,I及びLは,本件登録意匠と本件各類似意匠との関係からも分かるように,細部に関するものにすぎず,被告意匠は本件登録意匠とその要部において相違するものではない。 被告意匠が呈する美感は,前記のとおり,本件登録意匠の,各アイカップの外方に向かって細くなった周壁部の対向外端部と,鼻ベルトの取付台部とが呼応するとともに,鼻ベルトが前方に大きく湾曲して突出することなく,その長手方向両端部が前記取付台部の後側に位置することによって呈する,左右のアイカップと鼻ベルトとの一体性あるスマートな美感と共。, , 通している そして かかる正面視は需要者が実際に目にする形状であり。,, 商品選択において極めて重要な役割を担う とりわけ 被告製品のように弾性バンドが折りたたまれた状態でケースに収納されている場合や,インターネットで商品選択を行う場合には(甲35 ,需要者としては正面視 )を拠り所に商品選択を行うほかない。したがって,正面視の美感は極めて重要であり,被告意匠の美感も,上記のような正面視にこそ存在する。被告自身も,正面視を重視しているからこそ,あえて自ら正面視によって被告製品の販促活動を行っているのである。 イ被告は,被告意匠は,Aアイカップの周壁部のフランジに取り付けられるパッド(被告のいう「吸盤ベローズ )と,B両アイカップ間の弾性バ 」ンド(被告のいう「ゴムバンド )の呈する美感により,本件登録意匠と 」は非類似である旨主張する。 しかし,被告意匠が呈する美感は,前記のとおり,各アイカップの外方に向かって細くなった周壁部の対向外端部と,鼻ベルトの取付台部とが呼応するとともに,鼻ベルトが前方に大きく湾曲して突出することなく,その長手方向両端部が前記取付台部の後側に位置することによって呈する,左右のアイカップと鼻ベルトとの一体性あるスマートな美感であり,被告, 。, 意匠の上記A及びBの点は この美感を凌駕するものではない すなわち被告意匠のパッドは,正面視においてさほど注目される部材ではなく,本件登録意匠や本件各類似意匠におけるアイカップの周壁部のフランジやパッドと比較して,特段特徴的な形態を有していない。意匠登録第7333(), (), 80号公報甲28実公昭62-145658号公報甲29には被告意匠のパッドと同様な形状のものが記載されており,それ自体新規なものでもない。また,被告意匠の1本締め様とした弾性バンドの形態は,本件類似意匠1の弾性バンドの形態とさほど違わず,原告が旧社名「山本防塵眼鏡株式会社」時代である昭和55年8月以前(甲30)に発行したカタログ「SwimmingGoggles (甲31)や,米国特許 」公報第3944345号 甲32 の第1図で挙げられている公知意匠 p () (riorart)には,被告意匠の弾性バンドと同様の形状のものが記載されており,それ自体新規なものでもない。さらに,パッドが顔面に吸着するような形状で,かつ弾性バンドを1本締め様としたものは,実開昭52-158500号公報(甲33)や,米国意匠特許公報第350496号(甲34)に見られるように,従来から存在しており,被告製品の上記A及びBの点により呈する美感は特徴的なものではない。 このように,被告意匠は,本件登録意匠のポイントとなる部分において共通し,ポイントではない部分において微細な差異を備えているにすぎない。したがって,被告意匠は,明らかに本件登録意匠に類似する。 ウ被告は,被告意匠における「アイカップと吸盤ベローズとの一体形状を強調するツートーン・カラーの形態美」については,甲第31号証及び甲第32号証には記載がないと主張する。しかし,同各甲号証のゴーグルにおいては,明らかに,アイカップが透明色で吸盤ベローズ(パッド)が不,(,) 透明色のツートーン・カラーをなしており 本件類似意匠4 甲8 17や意匠登録第738340号公報(甲14)の意匠についても同様のことがいえる。さらに,黒色以外のパッドに限定したものとしても,原告発行の1990年のカタログ「’90SWIMMINGGEARSCA」(),(),, TALOG甲40には吸盤ベローズパッドをピンクブルーイエロー等としたツートーン・カラーをなすゴーグルが記載されている。 このように,ツートーン・カラーはありふれたものであって,被告意匠における本件登録意匠との共通の美感を凌駕するには至らない。そもそも,アイカップは透明色にする必要があるのに対し,吸盤ベローズ(パッド)は透明色にする必要がないのであるから,吸盤ベローズ(パッド)付きのゴーグルがツートーン・カラーをなすことは当たり前なのである。 エさらに,被告は,本件各類似意匠は,平成8年3月1日発行の雑誌「SWIMMING&WATERPOLOMAGAZINE」3月号広告『SWΛNS(SPORTS(乙17)により無効理由を有するとし )』た上で,無効理由を有する類似意匠はその本意匠についての類否判断に当たって拘束力を持つものではないことを示した大阪地方裁判所判決(平成14年(ワ)第457号)を引用し,原告が本件各類似意匠の存在をもって,被告意匠との類否を論ずることは許されない旨主張する。 しかし,同判決の趣旨は,旧意匠法10条1項が「意匠権者は,自己の登録意匠にのみ類似する意匠について類似意匠の意匠登録を受けることができる」と規定していたところ 「自己の登録意匠」の出願と類似意匠の ,出願との中間に 「自己の登録意匠」以外の他人の公知意匠が介在し,こ ,れに当該類似意匠が類似する場合には,その類似意匠についての意匠登録は意匠法3条1項の規定に違反してされたものとして無効理由を有するから,本意匠の要部認定に当たり当該類似意匠を参酌するのは相当ではないというものである。しかるところ,乙第17号証に記載されているのは本件登録意匠の実施品であり 「自己の登録意匠」であるから,これに類似 ,する本件各類似意匠は,意匠法3条1項の規定に違反して登録されたものではなく,同登録は無効理由を有しない。 , 「」 仮に 自己が公知にした意匠は旧意匠法10条1項の 自己の登録意匠には当たらず,本件各類似意匠の意匠登録が無効理由を有するとしても,乙第17号証の公知意匠に本件各類似意匠が類似するということは,当該公知意匠と同一の本件登録意匠にも本件各類似意匠が類似することを意味するのであり,よって,本件各類似意匠の意匠登録に無効理由があろうとなかろうと,本件登録意匠の類似範囲が本件各類似意匠にまで及ぶことが確認できることに違いはない。 ,,() 結局のところ 本件の審理のためには 本件登録意匠の実施品 乙17と本件各類似意匠(甲5ないし9,15ないし18)が真に類似していることを被告自身も認めていることが重要なのであり,このことを前提とすれば,本件登録意匠の要部や被告意匠との類似に関する原告の分析が正しいことが自然と導かれるのである。 オ以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠に類似する。 【被告の主張】(1)本件登録意匠の構成ア本件登録意匠の基本的構成態様@左右一対のアイカップと,これら左右のアイカップとを互いに連接する鼻ベルトと,前記両アイカップの左右両端同士を繋ぐ鉢巻きループを構成する弾性バンドとによって,前記一対のアイカップを着用者の眼部にあてがって弾性バンドを後頭部に巻き付けることにより着装して潜水遊泳可能なゴーグルを構成している。 イ本件登録意匠の具体的構成態様A左右のアイカップは,正面のレンズ部と当該レンズ部から後方(着用者に対し接眼側)へ突出する筒形の周壁部とを一体に有し,かつ,左右のアイカップの対向部分はレンズ部を囲う周縁部分が斜め前方へ先細り状に延び出して持出ブラケットを形成している(別紙本件意匠公報の斜視図,正面図及び平面図参照 。)B左右アイカップにおける筒形周壁部の接眼側周縁は,着用者の眼窩周縁に適合可能なように弯曲形状に成形されている(別紙本件意匠公報の平面図参照 。)C左右アイカップが構成する当該水中眼鏡のフロント部の両外側には,縦に長いバンド挿通孔が穿設されて,このバンド挿通孔の上口部分と下口部分には弾性バンドが挿通されて上下2段に分岐して配設されている(別紙本件意匠公報の正面図,背面図及び右側面図参照 。)D鼻ベルトは,左右に股開き状に分岐する股部,中間部は圧肉部に成形された細幅の弯曲板材であり,左右のアイカップから持ち出された持出ブラケットと鼻ベルト両端の股部とを何らかの連結手段で固定している(別紙本件意匠公報の平面図参照 。)E上記フロント部の両外側に穿設されたバンド挿通孔に上下2段に分岐して挿通された弾性バンドは,バンド挿通孔に挿通された近傍部分と着用者の側頭部に沿う部分では丸紐状を成し,着用者の後頭部に当接する部分では平らかな帯状を成しており,丸紐状部分はバンド挿通孔に引き通されて当該挿通孔の上口と下口とから上下2段に分岐して2段ループを形成し(別紙本件意匠公報の正面図,背面図,平面図及び右側面図参照 ,後頭部側に配設したバックルにおいて着用者の頭回りサイズに合 )わせて調節可能に構成してある。したがって,本件登録意匠に係る水中眼鏡は,着用者の後頭部を上下2段に巻き締めて水泳時における水抵抗によるアイカップの捲くれを安定させる機能を有することを予想せしめる。また,弾性バンドが上下2段に分岐して接続される左右アイカップ両側部分は,先細鋭角状の斜状フィンが,径を接眼方向に拡大しながら広がるアイカップ外側の接眼縁に架橋状に連設されて,そこに上下に貫通する上下方向へ深く抜けた平面視が略ナス形のバンド挿通孔が形成されている。 (2)被告意匠の構成被告意匠の構成は,別紙被告物件目録添付図面第1図ないし第19図のとおりである。 ア被告意匠の基本的構成態様@左右一対のアイカップと,これら左右のアイカップとを互いに連接するブリッジ・リンクと,前記両アイカップの左右両端同士を繋ぐ鉢巻きループを構成するゴムバンドとによって,前記一対のアイカップを着用者の眼部にあてがってゴムバンドを後頭部に巻き付けることにより着装して潜水遊泳可能な構成を備える(別紙被告物件目録添付図面第13図の斜視図参照 。なお,被告意匠の意匠形態における別紙被告物件目録 )添付図面第13図ないし第19図に示す意匠各部の部分名称については,同図面第1図ないし第12図に示す図面の該当箇所の符号名称を参照されたい。 イ被告意匠の具体的構成態様A左右のアイカップは,淡色透明のポリスチレン樹脂を一体成形して成る硬質シェル部と,弾力的に圧縮復元可能な吸盤ベローズとから構成されており,前記硬質シェル部は,正面のレンズ部と当該レンズ部周縁から後方(接眼側)へ突出する筒形の周壁部とを一体に有し,かつ,前記アイカップにおけるレンズ部の対向縁角部のそれぞれには,舌状の持出ブラケットが斜め前方へ差し延べるように一体成形してある(別紙被告物件目録添付図面第13図の斜視図,第16図の平面図及び第17図の底面図参照 。)B左右のアイカップを構成する吸盤ベローズは,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質樹脂により中腹部が断面略U字状に弯曲するように溝形を呈する環状ジャバラ形に成形されており,上記アイカップの接眼側端縁に強固に接着されることよってアイカップの硬質シェル部と一体を成し当該硬質シェル部との間に境界線の明確なツートーン・カラーの濃淡模様を現出している(別紙被告物件目録添付図面第4図,第13図の斜視図,第16図の平面図,第17図の底面図,第18図及び第19図の左・右側面図参照 。しかして,被告意匠のアイカップは,吸盤ベローズ )の開口縁側を眼窩の周縁に圧接させると,前記U字形溝部分が緩やかに弾性変形してたわむ一方,前記圧接力を解除すればカップの内部が減圧状態となって,左右のアイカップが吸盤のように眼窩周縁に吸着することが一目瞭然である。 C左右のアイカップの対向角部に突成された上記舌状持出ブラケットの接眼側には,ピボット軸が周壁部の対向面と略平行に突設されており,これらピボット軸の突端部は,前記持出ブラケットの傾斜に沿うように片流れ形状の丸頭ヘッドを形成し,周壁部側は角丸の法肩(のりかた)を成し,その反対側は当該ブラケットの突端方向へ∠形に突出するフック部を形成している(別紙被告物件目録添付図面第3図,第5図,第7図,第8図,第16図の平面図及び第17図の底面図参照 。)Dブリッジ・リンクは,左右に股開き状に分岐する股部,中間部は厚肉部に成形された軟質樹脂製の細幅湾曲板状のリンク部材であって,当該ブリッジ・リンクの左右両端近傍には,上記ピボット軸と略同径の貫通孔が開設してあり,かつ,前記股部の厚肉部寄りの前面側には滑りリブ( ,, がそれぞれ形成されている 別紙被告物件目録添付図面第5図 第7図第8図,第16図の平面図及び第17図底面図参照 。)E上記左右一対のアイカップは,アイカップの対向する内側部に突成された持出ブラケットの上記ピボット軸が,上記ブリッジ・リンクの両端近傍の貫通孔のそれぞれに押込み貫入され,ピボット軸突端の丸頭ヘッドのフック部を前記ブリッジ・リンクの貫通孔の孔縁に引っ掛け連結されて,左右のアイカップとブリッジ・リンクとをピボット軸の周面を中心に相対回動可能に連接されてゴーグルのフロント部分を構成している。 Fゴムバンドは,左右両アイカップの両端に持出状に添設したフィンのバンド通し孔に折返し状態で挿通されてバックル部において長さ調節可能に1本締めの鉢巻きループを形成している(別紙被告物件目録添付図面第13図の斜視図,第16図の平面図,第17図の底面図,第18図及び第19図の左・右側面図参照 。)(3)被告意匠と本件登録意匠との類否ア被告意匠が呈する美感被告意匠が呈する美感は,次のとおりである。 (ア)被告意匠全体においてアイカップと吸盤ベローズ(パッド)との一体形状との形状を強調するツートーン・カラーの形態美被告意匠にあっては,左右アイカップの周壁部接眼側の端縁のフランジに,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質樹脂により中腹部が断面略U字状に弯曲するように溝形を呈する環状ジャバラ形の吸盤ベローズ(原告のいう「パッド )が一体に嵌合接着され,前記アイカップのレンズ 」部及び円筒形周壁部とによって境界線の明確な鮮やかなツートーン・カラーの濃淡模様を現出しているところから,アイカップの形状と環状ジャバラ形の吸盤ベローズの形状との織りなすアイカップのフォームがツートーン・カラーにより強調され看者の興味を惹く視覚的な注意喚起性を発揮して需要者の購買意欲をそそり得る。 ,, , これに対し 原告は ツートーン・カラーはありふれたものであって本件登録意匠との共通する美感を凌駕するに至っていないと主張する。 世にツートーン・カラーというデザインの表現様式があまねく知られているのは事実である。しかし,原告の引用する甲第40号証のパンフレットが平成2年に日本国内に頒布されていた事実は被告の知るところではないが,仮に,それが国内に頒布されていたとしても,環状ジャバラ形の吸盤ベローズの形状とアイカップのフォームとが織りなすツートーン・カラーによって強調されて需要者の興味を惹き視覚的に注意を喚起する被告意匠が奏する意匠効果を発揮する事実までも否定されるものではない。したがって,被告意匠における環状ジャバラ形の吸盤ベローズの形状とアイカップのフォームとが織りなすツートーン・カラーがありふれた形態であるとする原告の主張は意味不明である。 (イ)被告意匠全体において吸盤ベローズ部分が呈する機能美被告意匠にあっては,左右のアイカップにおける周壁部の接眼側の端縁のフランジに,柔らかで弾力的な軟質樹脂製の不透明なジャバラ形の吸盤ベローズが嵌合接着されているので,需要者は,一見しただけで,着用時に眼窩周縁に対する感触が良好なアイカップ吸着機能を感得してそこに機能美を見出し,購入の際の選択のポイントとなる評価対象として重視されるのである。 (ウ)被告意匠全体においてゴムバンド(原告のいう「弾性バンド )部」分が呈する機能美被告意匠にあっては,ゴムバンドは左右両アイカップの両端に持出状に添設したフィンに開設されたバンド通し孔に折返しに挿通されてバックル部において長さ調節可能な1本締めの鉢巻きループを形成しているので,着用の際に着用者が頭部を1本締めでスマートにすっきりと巻締め可能であることを一目で感得することができ,上記吸盤ベローズのアイカップ吸着機能とも相まって,水泳時の水抵抗でアイカップが離脱するおそれもないと安心することができ,そこに機能美を見出して水泳を安心して楽しめる格好良い水中ゴーグルとして購入時の選択ポイントになる。 ちなみに,本件登録意匠における弾性バンドは,左右アイカップの外端における上下のバンド挿通孔(別紙本件意匠公報の右側面図参照)の上口及び下口から上下2段に分岐して後頭部に回されるのに対し,本件特許公報の図14にあっては同一支点から後頭部に回されている点に使用上の差異があるだけであって,1本締めの鉢巻きループ方式を採用している被告製品(別紙被告物件目録添付図面第18図及び第19図の左・右側面図参照)とは使用時における着用者のボディー・イメージは顕著に異なる。 バンド挿通孔の形状についても,本件登録意匠の審査を担当した特許庁審査官は,審査段階で本件登録意匠における弾性バンド挿通孔周辺の形状を重視して,拒絶理由通知書(乙24)を発し 「本体のひも通し,孔周辺の断面図」の提出を要求していた経緯があることからみて,上記形状は本件登録意匠において重要なポイントに該当することを指摘しておきたい。 イ被告意匠と本件登録意匠との類否について被告意匠は,本件登録意匠とは基本的構成態様においては一致し共通性が認められるが,具体的構成態様を成すところの外観形態において顕著に相違している。 すなわち,被告意匠は,その具体的構成態様ABにおいて説明したとおり,左右のアイカップが淡色透明のポリスチレン樹脂から成る硬質シェル(レンズ部及び筒形の周壁部の成形部分)と,濃色不透明の軟質樹脂から成る吸盤ベローズとから構成されて,境界線の明瞭なツートーン・カラーの濃淡模様を現出しているのに対し,本件登録意匠における左右のアイカップは,濃色不透明の軟質樹脂製の吸盤ベローズを欠き,レンズ部とその周縁より後方に突出する周壁部とで構成した単純な形態の左右のアイカップからは被告意匠におけるようなツートーン・カラーの濃淡模様は決して生じ得ない。 また,被告意匠における具体的構成態様Fのゴムバンドは,左右両アイカップの両端に持出状に添設したフィンのバンド通し孔に折返し状態で挿通されてバックル部において長さ調節可能に1本締めの鉢巻きループを形成しているのに対し,本件登録意匠における弾性バンドは,左右アイカップの外端に穿設された上下に長いバンド挿通孔に引き通されて当該挿通孔の上口と下口とから上下2段に分岐し2段ループとなって着用者の後頭部を上下2段に巻き締める形態になっているので,その使用時における使用形態が全く違うことが両者の外観からただちに認識可能である。 したがって,被告意匠は,その外観の呈する上記ア(ア)のツートーン・カラーで強調された形態美,及び同(イ)のアイカップ吸盤ベローズ部分が発揮する意匠効果としての機能美,同(ウ)のゴムバンドの1本締め鉢巻きループ部分が発揮する意匠効果としての格好良い機能美を備える点に特徴があり,当該外観から得られる美的印象は本件登録意匠とは顕著に相違する。さらに被告が強調しておきたいことは,本件登録意匠における弾性バンド(ゴムバンド)は,別紙本件意匠公報の正面図,背面図及び右側面図を見ても明らかなように上下2段に配設されており,この水中眼鏡を着装するならば,着用者の後頭部を上下2段の2本締めの状態となるはずであって,被告製品とは装着状態において顕著な差異が生ずる。このような使用状態における外観的差異は,ファッション性を重視するスイミング愛好の着用者のスタイル及びボディー・イメージに大きく影響するのであって,一般需要者にとって重大な関心事となり,購入選択時における意思決定上の大切なポイントとなることに疑いはない。 ちなみに,本件登録意匠における弾性バンドは,左右アイカップの外端における上下のバンド挿通孔(別紙本件意匠公報の右側面図参照)の上口部分及び下口部分から上下2段に分岐して後頭部に回されるのに対し,本件特許公報の図14にあっては同一支点から後頭部に回されている点に使用上の差異があるだけで,1本締めの鉢巻きループ方式を採用している被告製品のゴーグル(別紙被告物件目録添付図面第18図及び第19図の左・右側面図参照)とは使用時における着用者のボディー・イメージが顕著に異なるのである。 以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠とは具体的構成態様が顕著に相違し,かつ,その相違から生ずる視覚的美感も全く異質であって,市場において一般需要者が関心を持つ構成上の美的ポイントの所在も全く違うので,両意匠に係る物品を彼此混同するおそれはなく,明らかに両意匠は非類似である。 ウ原告の主張に対する反論(ア)本件各類似意匠について原告は,本件登録意匠についての類似意匠(本件各類似意匠)の存在を主張し,本件登録意匠の類似範囲がさも広いかのように主張する。 しかしながら,旧意匠法10条1項により類似意匠登録を受けることができる意匠は 「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」であり,それ ,以外の意匠については類似意匠の登録を受けることができず(同法17条1号 ,もし誤って登録された場合には,当該類似意匠登録は無効審 )判により無効とされる(同法48条1項1号 。また,意匠権侵害訴訟 )において,訴訟物となるのは登録された本意匠だけであって,登録類似意匠の存在は当該類似意匠出願の時点において特許庁が本意匠と当該類似意匠とが類似していると判断した経緯を示すものであり,登録類似意匠の存在は権利範囲を認定する一資料となるにすぎない(乙16。大阪地方裁判所平成6年7月19日「脱臭器事件」判決 。)そこで,案ずるに,本件登録意匠に附帯する本件各類似意匠のそれぞれを具体的に観察すれば,本件登録意匠とは全く類似していないことが一見して明らかである。もし,かように顕著な外観上の差異があるのに類似と判断されたとすれば,引用例1の図1や,引用例2の第1図及び引用例6の第6図ないし第9図に図示された公知意匠の存在を審査官が看過して類似意匠登録したものといわざるを得ない。 さらに,本件各類似意匠については,その登録出願前に市場で販売されていた水中ゴーグルに関する公知文献が多数存在しているのであるから(例えば,乙17:平成8年3月1日発行の雑誌「SWIMMING&WATERPOLOMAGAZINE」3月号広告『SWΛNS(SPORTS 』参照 ,その意味において公知意匠にも類似するも ))のであって,自己の登録意匠にのみ類似する意匠には該当せず,無効理由を内在しているといわざるを得ない。 すなわち,原告は,乙第17号証に記載されている「SWΛNS(SPORTS 」のゴーグルは,本件登録意匠の実施品であり 「自己の ) ,登録意匠」であるから,これに類似する本件各類似意匠は,意匠法3条1項の規定に違反して登録されたものではないと主張する。しかしながら,乙第17号証に記載の「SWΛNS(SPORTS 」のゴーグル)は,左右アイカップにおける顔面に当接するフランジ部分が特に,同号証に写る当該ゴーグルの右側アイカップ(向かって右)における「ひも通し孔」の近傍の形状と別紙本件意匠公報の斜視図に図示される右側アイカップにおける「ひも通し孔」の近傍部位の形状とを対照してみても明らかなとおり,目尻側において眼窩に当接するフランジ部分の張り出し幅が前者のフランジのほうが格段に幅広に延成されていることに加えて,持出ブラケットの形状及びアイカップの形状も顕著に異なっているから,本件登録意匠の実施品であるとは到底いえない。 よって,原告は,本件各類似意匠の存在をもって,本意匠の類似範囲を拡大解釈して被告に主張することは許されない。 (イ)原告は,本件登録意匠における左右のアイカップと鼻ベルトとの関係で一体性のあるスマートな美感を生ずると主張し,その美感が被告意匠の美感と共通しているから相互に類似すると主張するようであるが,そのような形態の水中眼鏡は,乙第21号証(実開昭53-153700号公報)にも開示されているように,ごくありふれたものであって,本件登録意匠の支配的要素,ないし美的ポイントと呼ぶに値しない物品形態である。 また,原告は,左右アイカップの周壁部両端が外方に向かって細くなっている点が本件登録意匠の特徴であると主張するが,本件登録意匠の特徴は,弾性バンドが上下2段に分岐して接続される左右アイカップ両側部分が,先細鋭角状の斜状フィンが,径を接眼方向に拡大しながら広がるアイカップ外側の接眼縁に架橋状に連設されて,そこに上下に貫通する上下方向へ深く抜けた平面視が略ナス形のバンド挿通孔が開設されている点にあるのであり,そのことは本件登録意匠の前記出願審査の経緯からみても明らかである(乙24参照 。)(ウ)さらに,念のために,本件登録意匠の出願前に国内で知られていた公知意匠としては,乙第21号証のほかに,次に掲げる文献記載のものが存する。 @実開昭56-95260号公報(乙31)の第1図に図示された水中眼鏡A実開昭62-145657号公報(乙32)の第1図及び第3図に図示された水中眼鏡B実開昭63-160818号公報(乙33)の第1図に図示されたゴーグルC特開昭63-260578号公報(乙34)の第1図に図示された水中ゴーグルD実開平2-37669号公報(乙35)の第4図に図示されたスイミングゴーグルE実開平6-29555号公報(乙36)の図1及び図9に図示されたスイミングゴーグルF実開平6-44563号公報(乙37)の図3に図示された水泳用ゴーグルG特開平4-144556号公報(乙38)の第4図に図示されたゴーグルH特開平6-190081号公報(乙39)の図1,図2及び図27に図示された水泳用ゴーグル上記@ないしHの公知意匠と本件登録意匠及びこれに附帯する本件各類似類似意匠とを較べてみると,次のとおりである。なお,これら意匠のうち,本件登録意匠(甲3)と本件類似意匠3(甲7)は弾性バンドの形状に差異が認められるが,他の部分の形状はほとんど同一に近い。 本来,本件登録意匠について類似意匠登録が認められるべき意匠は,かような形状の意匠に限られるべきである。 a乙第31号証の第1図,乙第32号証の第1図,第2図,乙第33号証の第1図,乙第34号証の第1図,乙第35号証の第4図,乙第36号証の図1,図9,乙第38号証の第4図に図示された水中眼鏡におけるアイカップは 左右両側部分の形状を除いて本件登録意匠 甲 , (3)及び本件類似意匠3(甲7)のアイカップと共通し,上下2段の2本締めを可能にする弾性バンドの形状において差異が見られる。また,本件類似意匠1,同2,同4及び同5の各意匠(甲5,6,8及び9)とは,アイカップの形状,左右一対のアイカップ両側における弾性バンドの接続形式及び弾性バンドの形状が共通しているので,全体としての外観的印象は,前記各公知意匠と本件類似意匠1,同2,同4及び同5の各意匠との間に大差は見られない。もっとも,本件類似意匠1とは,同意匠のアイカップ両側には長さ調節用の板状バックルがそれぞれ配設されているのに対し,前記各公知意匠にあっては,そのような付属部品を備えていない点において差異が認められる。 b乙第37号証の図1,図3及び乙第39号証の図2に図示された水泳用ゴーグルの意匠は,左右両側部分の形状を除き本件登録意匠のアイカップ1・1の形状,中間部がツヅミ形に細くなった鼻ベルト5と前記アイカップから差し向かうように斜めに前方へ持ち出された取付台部の形状が呈する連続的な連結形状が,本件登録意匠及び本件各類似意匠と共通し,これらにおける弾性バンドの形態にも共通性が見られる。 すなわち,本件登録意匠及び本件各類似意匠の水中眼鏡の意匠分野においては,上記@ないしGの公知文献に記載された公知意匠が知られていたのであって,これら公知の水中眼鏡の意匠は本件登録意匠に類似しているだけでなく,これに附帯する本件各類似意匠にも類似している。それゆえ,本件各類似意匠は,本意匠である本件登録意匠に類似するだけでなく,乙第31号証ないし同39号証に記載された公知意匠とも類似しており,本意匠にのみ類似する意匠には該当しないから,その意匠登録は類似意匠登録の要件(旧意匠法10条1項)も欠如し,無効審判により無効にされるべきものに該当する。 ( ) 18争点2-2 本件登録意匠は登録無効審判により無効とされるべきものかについて【被告の主張】本件登録意匠の登録は,その出願前に頒布された実開昭53-153700号公報(乙21)の第1図に記載された「水中眼鏡」の意匠と類似し,かつ,乙第21号証に記載された公知の水中眼鏡に基づいて意匠当業者が容易に創作できたもの(意匠法48条1項1号)に該当するので,無効にされるべきものである。 乙第21号証には,第1図に次の「水中眼鏡 (以下「公知ゴーグル」とい 」う )が図示されている。 。 (1)乙第21号証記載の公知ゴーグルの基本的構成態様イ左右一対のアイカップと,これら左右のアイカップとを互いに連接する鼻ベルトと,前記両アイカップの左右両端同士を繋ぐ鉢巻きループを構成する伸縮ベルトとによって,前記一対のアイカップを着用者の眼部にあてがって伸縮ベルトを後頭部に巻き付けることにより着装して潜水遊泳可能な水中眼鏡を構成している。 (2)乙第21記載の公知ゴーグルの具体的構成態様ロ左右のアイカップは,正面のレンズ部と当該レンズ部から後方(着用者に対し接眼側)へ突出する筒形の周壁部とを一体に有し,かつ,左右のアイカップの対向部分からは斜め前方へ差込口を有する箱形のブラケットが突設されている。 ハ鼻ベルトは,着用者の鼻梁前方へ∩形に弯曲した形状の細幅の弯曲板材であって,その左右両端は左右のアイカップから突出した箱型ブラケットの差込口に差し込まれて左右のアイカップを互いに連結している。 ニ伸縮ベルトは,帯状を成し,左右のアイカップの各外端部に形成された縦スリット状のベルト挿通孔に2重ループを形成した状態に挿通し,調節輪杆(=バックル)において着用者の頭回りサイズに合わせて調節自在に配設してある。したがって,本件登録意匠に係る水中眼鏡は,着用者の後頭部を上下2段に巻き締めて水泳時における水抵抗によるアイカップの捲くれを安定させる機能を有することを予想せしめる。ちなみに,本件特許公報の図14に従来例として引用図示された水中ゴーグルは,乙第21号証の第2図記載の公知ゴーグルの使用状態図を転載した図面である。 (3)本件登録意匠と公知ゴーグルとの外観比較本件登録意匠と公知ゴーグルの意匠とは,その基本的構成態様において一致し,具体的構成態様「b・c対ロ「d対ニ ,及び「e対ハ」との比較 」,」においては,舌状の持出ブラケットと箱形ブラケット,股開き状をなす弯曲板状の鼻ベルトと∩形の弯曲板状の鼻ベルト,上口部分・下口部分を有する縦長のバンド挿通孔とスリット状のバンド挿通孔,及び丸紐状部分を有する弾性バンドと帯状の伸縮ベルトの挿通形態において若干の差異が見られる。 しかしながら,本件登録意匠と公知ゴーグルとの比較における「b・c対ロ「d対ニ ,及び「e対ハ」との差異は,意匠全体としての美感にさほ 」,」どの変化をもたらす形態要素ではなく,最も需要者の注目を惹くところの着用者の後頭部を上下2段に巻き締めることが可能な使用状態が共通しているので,両意匠は相互に類似関係にあるというべきである。 ちなみに 「b対ロ」における舌状の持出ブラケットと箱形ブラケットと ,の差異 「c対ハ」における股開き状をなす弯曲板状の鼻ベルトと∩形の弯 ,曲板状の鼻ベルトとの差異は,一般需要者が購入取引時に重視する形状部分ではないので,意匠上の微差というべきであり,類否判断に影響しない事項である。 (4)容易創作性(意匠法3条2項)仮に,本件登録意匠が公知ゴーグルの意匠に類似しないとしても,上記のような部分的な形状上の差異は,当該意匠分野の意匠デザイナーが必要に応じて適宜マイナーチェンジできる範囲内の変形であるので,意匠法3条2項の規定により意匠登録を受けることができない意匠に該当する。特に,本件登録意匠における水中眼鏡のフロント部両外側のバンド挿通孔に上下2段に分岐して挿通した弾性バンドに関する具体的構成態様dは,眼帯抑え板やマスクの紐通しに一般的に用いられている紐通し機構であるので,意匠進歩性に欠ける部分的変更に該当する。 したがって,本件登録意匠は,公知ゴーグルの意匠に類似するから,本件登録意匠に係る意匠登録は意匠法48条1項1号に該当するので,同法41条で準用する特許法104条の3第1項の規定により被告に対し本件意匠権を行使することができない。 【原告の主張】被告が本件登録意匠の無効原因として引用する公知ゴーグル(乙21)は,【】, 前記美感の基礎となる具体的構成態様である前記17 原告の主張 (1)のFH及びKを全く備えていない。すなわち,公知ゴーグルは,アイカップの周壁部の対向外端部の輪郭が略V字上のなだらかな曲面になっておらず,鼻ベルト取付台部が略舌片形でもなければ板状でもなく,鼻ベルトの中間部が盛り上がっている上に両端部が取付台部(これこそ「ブラケット」と表現するのが望ま。) 。, しいかもしれないの中に挿入されてしまっている 公知ゴーグルの意匠は本件登録意匠が備える正面視におけるスマートな美感は全く備えておらず,本件登録意匠とは完全に非類似である。したがって,公知ゴーグルの存在が本件登録意匠の意匠登録を無効にすることなどあり得ず,公知ゴーグルから本件登録意匠を創作することも容易ではない。 ところで,本件登録意匠が備える前記美感が乙第21号証等の公知意匠にはない斬新なものであり,本件登録意匠の意匠登録に無効理由が存在しないことは,本件登録意匠の実施品が財団法人日本産業デザイン振興会より1996年( 。) 度のグッドデザイン賞を受賞していること 受賞番号96A0048 甲36からも裏付けられる。 19争点3(原告の損害額)について【原告の主張】(1)特許法102条1項に基づく請求ア被告製品の販売数量被告は,平成16年7月ころより被告製品を合計26万1792個輸入していることを自認しており,このうち7万4665個を返品し,6万3518個を廃棄したと主張するが,廃棄数量を示す資料はなく,返品数量については主張が変遷しており信用できない。よって,被告製品の販売個数は26万1792個である。 イ侵害行為がなければ権利者が販売することができた物及び原告の製造販売する製品の単位数量当たりの利益の額(ア)「侵害の行為がなければ販売することができた物」について「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害された特許権に係る特許発明の実施品であって,侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味し,実施品が複数種類ある場合には,その構成が最も類似するものとすべきである。少なくとも侵害品と同等の機能を有する製品でなければならないはずである。本件各特許発明の実施品である原告の製造販売する製品は,原告の平成17年のカタログに5種類掲載されているが,この中でも「FO-2 (以下「本件原告製品」と 」いう。なお,原告が製造販売するゴーグル一般を「原告製品」ということがある )は,パッドや弾性バンドの形態まで被告製品と共通してい 。 るのであるから,本件原告製品は損害額の算定基準とするのに最もふさわしいものである。 被告は,侵害行為がなければ販売することができた物は,原告の子供用ゴーグルとすべきであると主張するが,子供用ゴーグル(ジュニア用ゴーグル)は 「スクール」市場を意識して,一人の指導者に対して多 ,数の子供がいる場合を想定し,安全性等から子供が勝手にアイカップと鼻ベルトとを分解することができない構造となっており,本件各特許発明の実施品ではない。 また,被告は,スイミングゴーグルは3つの市場を形成しており,本件原告製品がフィットネス用であるのに対し被告製品はこれらのいずれでもない玩具としてのゴーグルであると主張するが,フィットネスは,ゴーグル市場全体からレーシング及びスクールを除いた部分であるから,被告製品もフィットネスの市場に分類される。 さらに,被告は,被告製品は100円ショップ「ダイソー」で販売されるものであって,標準小売価格が2000円である本件原告製品とは市場競合関係はないと主張する。しかし 「ダイソー」と本件原告製品 ,を取り扱うスポーツ用品店とは販売店舗において競合しており,本件原告製品の販売機会が奪われたことは明らかである。さらに,本件原告製品と被告製品は,使用対象者・使用目的・機能が共通しており,特に子供の場合は,商品を価格帯で区別して使い分けるようなことはない。また,被告製品の譲渡数量は,原告の実施能力の範囲内であるから,被告製品の購入者は原告の潜在的顧客であり,原告が被告製品の譲渡数量分の販売機会を喪失したことは明らかである。 なお,原告は,念のため,原告の製造販売するゴーグルの中で標準小売価格が最も低い商品番号「SW-40」の商品(以下,単に「SW-40」という )についても単位数量当たりの利益の額を後記(4)のと 。 おり明らかにする。 (イ)小売業者との共同不法行為被告は,100円ショップ「ダイソー」を経営する株式会社大創産業(以下「大創」という )との間に密接な関係を有し,大創による被告 。 製品の販売に積極的に関与していたことは被告の自認するとおりである。よって両者の間には,共同不法行為が成立するだけの主観的及び客観的関連共同性がある。よって,被告は大創の侵害行為についても連帯して責任を負う。 大創は,被告製品を一般消費者向けに販売しており,本件原告製品との間で市場において競合するのであるから,被告の大創に対する営業活動は,被告の原告に対する損害賠償責任を軽減する理由にはならない。 (ウ)本件原告製品の限界利益本件原告製品の1個当たりの出荷額は800円であり,1個当たりの追加的製造販売のための費用は296円である。よって,本件原告製品1個当たりの利益の額は504円である。 (エ)「SW-40」の限界利益原告は 「SW-40」を1個当たり600円で販売していた。そし ,て 「SW-40」の1個当たりの追加的製造販売のための費用は20 ,1円である。よって 「SW-40」1個当たりの利益の額は,少なく ,とも399円である。 ウ原告の実施能力原告のスイミングゴーグルの年間国内出荷額は,少なくとも6億5000万円程度であり,本件原告製品の1個当たりの出荷額800円を基準に年間出荷数量を算定すると81万2500個であるから,被告製品の販売数量程度の増産であれば,既存の人員・設備のままで対応できる。 エ特許法102条1項ただし書に該当する事情特許法102条1項は,同条2項のように損害額を「推定」するものではない。特許法102条1項は,侵害品の販売による損害を権利者の市場機会の喪失ととらえ,侵害品の譲渡数量に権利者製品の利益額を乗じた金額を権利者の実施能力限度内において逸失利益として認め,損害額とすることを定めたものである。 仮に,部分的にでも「販売することができないとする事情」が認められるとすれば,それは,原告の市場機会の喪失の原因が被告製品の販売によるものではないこと,すなわち,@被告が低価格化等の営業努力により本件原告製品の市場とは別の独自の市場を開拓したこと,あるいは,A本件原告製品と同等以上の機能を実現する新技術を利用した代替品の登場により,本件各特許発明が陳腐化・本件特許権の市場形成力が低下して本件原告製品の市場が縮小していたこと,を被告が立証できた場合のみである。 上記@の,被告の営業努力により独自の市場が開拓されたか否かについて検討する。本件においては,本件原告製品と被告製品とは,使用対象者・使用目的・機能が共通し,ともに一般の消費者が普通に購入できる場所で販売されたものであるから,市場が共通している。さらに,原告のゴーグルの国内年間出荷数量は控えめに見ても81万2500個であることからすれば,原告の実施能力の範囲内の規模であって,被告の営業努力によって本件原告製品の市場とは別の独自の市場が開拓されたとは到底いえな。, , い状況である このように もともと本件原告製品に大きな市場が存在し被告製品の譲渡数量が原告の実施能力を超えるものでもなかったのであるから,被告製品が低価格であったことは 「販売することができないとす ,る事情」として考慮されるべきではない。 次に,上記Aの本件原告製品の代替品による権利内容の陳腐化・本件原告製品の競争力の低下について検討すると,本件各特許発明に取って代わるような新技術は未だ登場しておらず,本件原告製品の代替品と呼べるものは存在しない状況にあり,権利内容の陳腐化・本件原告製品の競争力の低下は全く認められない。 被告は,原告の水中ゴーグル製品全体に対する市場占有率が17.6%とされていることより,代替品の存在によって認められる「販売することができないとする事情」の割合を82.4%と主張しているが,これでは市場に存在する他社のゴーグル製品がすべて本件原告製品の代替品ということになり,本件原告製品が新規性・進歩性を認められた本件各特許発明の実施品であることが全く無視されている。 本件各特許発明は,その出願前公知のゴーグルでは代替し得ない構成・効果を有することが認められたからこそ特許されたのであり,他社のゴーグル製品がすべて本件原告製品の代替品であるなどということはあり得ない。しかも,被告は,本件各特許発明と技術的特徴において差異がないと主張する引用例1等のゴーグルについて,いつごろ実際に販売されていたのか,その市場占有率がどの程度であったのかを明らかにしていない。 オ寄与度被告は,本件特許発明1及び同4の棒状突起等からなるアイカップと鼻ベルトとの連結部分の構成は,購入動機とはならないと主張している。 しかし,引用例1には,フィッティング自由度の向上に関する事項は全く記載されていないし,本件各特許発明は,フィッティング自由度の向上に加えてアイカップと鼻ベルトとの連結強度が優れている点等でも従来のゴーグルとは差異がある。そして,本件各特許発明の実施品である本件原告製品は,原告の主要商品であり,本件各特許発明の技術をアピールするパンフレットを配布し,雑誌において本件各特許発明の技術を積極的に宣伝していること等によれば,前記連結部分が購入の動機付けとなっていることは明らかである。 被告は,被告製品の市場競争力を高めるために本件各特許発明を実施する構成を外すことができなかったのであり,これは,被告が本件各特許発() 。, 明の販売促進力 市場形成力 を認めていたことにほかならない しかも被告製品は,本件原告製品とは外観のみならず,取扱説明書の文面にまで酷似した部分があり(甲46,47 ,たまたま結果的に侵害態様となっ )たというのではなく,初めから意図的に本件各特許発明を実施した商品を出すことにより,原告が築いた市場に割り込んで本件原告製品の顧客を奪おうとしたことが明らかである。 カ小括原告は,被告製品が流通していた平成17年当時において,本件原告製品1個当たり,少なくとも504円の利益を得ていた。 これに,被告製品の実施個数を乗じると1億3194万3169円となる。 (2)特許法102条3項に基づく請求(予備的主張)被告製品の販売数量のうち原告において販売することができないとする事情が認められる部分があるとしても,当該部分に関しては,特許法102条3項の相当な対価額の賠償請求が認められる。 本件各特許発明を第三者に実施許諾する場合の実施料率は,本件原告製品が1個当たりの追加的製造販売のための費用296円に対し標準小売価格2000円と極めて高い利益率を確保することが可能であり,かつ,本件各特許発明に係るフィッティング機能等を実現する構成は他に類を見ないものであり,競合品がなく,高い価値が認められるので,30%を下らない。 なお,上記(1)イ(イ)のとおり,被告と大創の行為は,本件特許権の侵害に関し共同不法行為を構成することが明らかであり,被告は大創の侵害行為についても連帯して責任を負う。 よって,特許法102条3項の実施料相当額の損害賠償額の算定においても,大創による小売価格100円が基準となる。 , ,, 本件において 上記予備的主張が検討されるのは 被告が主張するように被告の営業努力により独自の市場が開拓されたことが認められ,それが「販売することができないとする事情」として考慮された場合であるが,そのような場合には,当該市場での被告製品の販売数量分については,原告の販売機会の喪失による損害はないとしても,当該市場の形成に本件各特許発明の技術が寄与したことが認められる以上は,特許権者である原告は,被告に実施料相当額を請求できるはずである。 (3)弁護士費用原告は,被告の不法行為のため,本件訴訟提起を余儀なくされたが,そのための弁護士費用は,少なくとも1319万4316円となる。 (4)まとめよって,原告は,被告に対し,上記(2)及び(3)の合計額である1億4513万7484円のうちの一部請求として,3000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 なお 「SW-40」を基準とした場合の損害額は,少なくとも1億04 ,45万5008円(399円×26万1792個)と同金額の1割の弁護士費用相当額を加えた1億1490万0508円となる。 【被告の主張】(1)特許法102条1項に基づく請求ア被告製品の販売数量被告は,平成16年4月から同年7月にかけて合計16万8768個を大創に対して売り渡したものの,原告が大創宛てに本件特許権を侵害するとの警告書を発したため,同月以降,納品を停止するとともに,ただちに大創に対して販売中止と回収を依頼し,同年11月に大創の在庫品4万4519個をすべて回収したことにより,差引合計12万4249個を売り渡したものである。 原告の主張は,特許法102条1項の損害額の計算において,被告製品の返品・廃棄を一切考慮していない点で不当である。 イ侵害行為がなければ権利者が販売することができた物及び本件原告製品の単位数量当たりの利益の額本件においては,損害賠償額の算定の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物」がそもそも存在しないから特許法102条1項は適用されないと解すべきであり,また,万歩譲っても,本件における「侵害の行為がなければ販売することができた物」は,子供用ゴーグル市場で販売される原告製の安価な子供用ゴーグルであると解すべきであるか, 。 ら 原告主張の本件特許実施品の限界利益額を採用する合理的理由はないすなわち,被告製品は,以下の事情により本件原告製品はもとより,子供用ゴーグル商品との間でも,競合関係が存在しない。 (ア)ゴーグル市場は3区分されていることスイミングゴーグル市場では,競技種目としての「レーシング ,健」康目的の「フィットネス ,学校体育としての「スクール (子供用) 」 」の3つの市場が形成されており,それぞれの市場に合わせた商品が開発されている。 (イ)本件特許実施品は,特殊高級素材による成人用のレーシング用若しくはフィットネス用高級商品であること原告主張の本件原告製品をはじめとする本件各特許発明の実施品は,別表「原告商品FO-2との比較」のとおり,シリコーン樹脂などの特殊高級素材を使った成人用のレーシング用ないしフィットネス用の高級商品である。 (ウ)原告の子供用商品も高級商品であること原告製の子供用ゴーグルも学校やスイミングスクールで使用する高級な商品であるが,子供用ゴーグルが,ゴーグル業界において「スクール用」と呼ばれてきたのは,学校のプール学習や,スイミングスクールに通う際に,学校ないしスイミングスクールから特別に指導,指定されて購入し,あるいは学校指定の製品を購入するのが常態となっていることの反映である。 (エ)原告の製造販売するゴーグルの販売ルート原告は,本件原告製品を含む原告の製造販売するゴーグルを,スポーツ専門店,スポーツ量販店,百貨店,大型総合スーパー等に販売している。 (オ)被告製品は市場,流通ルート,品質及び用途が本件原告製品とは異なる商品であることaこれに対し,被告製品は,卸売単価58円,限界利益単価11.24円で,大創だけに対して販売され,その経営する100円ショップ「ダイソー」各店の玩具売場だけで販売されてきた超安価な子供用の玩具ゴーグルである。被告製品は,原告の販売先やこれに類する業者に販売されてきた事実はなく,かかる販売ルートに乗せること自体がおよそ考えられない商品である。原告は商品売場が同一建物内にあることを根拠に被告製品によって本件原告製品の販売機会が奪われたと,, 。 主張するが 需要者層が異なるため 小売市場としての競合性はないb被告製品の包装に「ザスポ-ツこども「こども用水中ゴーグル 」,(ケース付「頭のサイズ約34p〜49p」と表記されているこ )」,と,ベルトサイズが49pと成人用ゴーグルのベルトサイズ61pよりも10p以上も短いこと,100円ショップ「ダイソー」店舗の玩具売場で販売されてきたこと等を総合すれば,被告製品が成人用の競泳用ないしフィットネス用のゴーグルとしての実用には耐えないことも明らかである。さらに 「フィットネス」とは,成人が健康目的で ,行うトレーニングを指す概念であり,子供の遊びを含まないから,被告製品は,フィットネス市場の製品ということはできない。原告は,被告製品を成人が使用した場合も相当数あると考えられると主張するが,被告製品はシュリンク包装がされているため,消費者はケースを開けることができず,商品を手に取ってみることができない。包装も子供向けのイラストを用いていた。ベルトの長さも成人用ゴーグルより10p以上も短く,成人が被告製品を装着した場合に極めて窮屈な状態に陥り,実用に支障を来す場合もあることは想像に難くない。品質面でも,成人用の競泳用ないしフィットネス用のゴーグルとしての実用に耐えないことは明らかである。 c子供用の玩具である被告製品については,原告の本件特許実施品のような高価なシリコーン樹脂を使う必要はなく,そのような要望もあり得ない。 本件明細書の段落【0008】には 「周壁部7の後端部7Aは, ,顔面にフィットするように滑らかな曲面とされ,パッドが不要となっている 」と言明し,さらに,その【0020】には,本件各特許発 。 「, , 明の特有の効果として 本発明によれば クッションパッドが不要で軽量化及びコスト低下を図ることができ,水泳競技用として最適である 」と記載されているにもかかわらず,本件原告製品は,高価なシ 。 リコーンパッドを用い,その分高価で,単位数量当たりの利益が高くなっていることも明らかである。 d以上のとおり,玩具用ゴーグル(被告製品)とプロ用,競泳用,な() ,, いし成人用ゴーグル 本件原告製品 の市場とが競合しており かつ価格面から見ても相互に代替可能という状況にないことは明らかである。 それどころか,被告製品は,従来は駄菓子購入に向かうしかなかった子供たちのわずかな小遣銭を資金源として 「玩具としてのゴーグ ,ル」に対する新たな有効需要を創出し,第4番目の市場区分ともいうべき独自のゴーグル市場を開拓した商品であり,学校やスイミングスクールから,プール指導において使用することを求められ,時には製品指定まで受けることのある中級以上の「スクールゴーグル」である原告の子供用製品とも,品質水準において次元の異なる,玩具に等しい超安価商品であり,市場競合関係は全くないといえる。 (カ)「侵害の行為がなければ販売することができた物」の不存在により特許法102条1項はそもそも適用されないこと以上の検討によれば,特許法102条1項に基づく損害計算における単位数量当たりの利益としては 「特許権者が販売し,侵害商品と競合 ,」, 関係に立つ代替可能品の単位数量当たりの利益 を問題とすべきでありそこでは,特許権者の商品が,侵害商品との間で 「競合し,受注競争,する」関係にあるか否かが判断基準とされるべきであるところ,本件特許実施品である原告の成人の競泳用ないしフィットネス用の高級商品はもちろん,原告の子供用の中高級商品も,被告製品とは市場,流通ルート,品質及び用途が異なる商品であり,両商品間には 「競合し,受注,競争する」関係が成立しないから,本件においては,損害賠償額の算定の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物 (特許」法102条1項本文)が存在せず,特許法102条1項はそもそも適用されないと解すべきである。 (キ)「侵害の行為がなければ販売することができた物」が存在するとされた場合について仮に 「侵害の行為がなければ販売することができた物」が存在する ,とされた場合には,原告製の安価な子供用ゴーグルの限界利益が適用されるべきである。 (ク)「SW-40」について「SW-40」も成人用のゴーグルであり,子供用玩具ゴーグルである被告製品と市場競合関係を生じない。よって 「SW-40」も「侵 ,害の行為がなければ販売することができた物」の選定として不適切である。 ウ特許法102条1項ただし書に該当する事情(ア)被告製品の特徴と本件原告製品との異質性について(推定覆滅事由その1)被告製品は,100円ショップの玩具売場で販売することを目的とした小売単価が100円,被告の卸売価格が58円という極安価の子供専用ゴーグルである。 平成17年時点におけるスイミングゴーグル市場は37億円である。 ,「」 スイミングゴーグル市場の顧客特性は 競技種目としての レーシング層,健康目的の「フィットネス ,学校体育としての「スクール (子 」 」供用)に分かれている。 原告が販売するゴーグルは百貨店等に供給される高級ないし中級の製品であり,子供用ゴーグルは,小売単価1050円ないし1365円の高級ないし中級の製品である。その他,一般成人用で1050円ないし2100円,競技用で1470円ないし2730円と価格幅が大きい。 子供用ゴーグルは,学校ないしスイミングスクールの指導,指定によって購入するものであり,子供がそれらの指導なしに必需品でないゴーグルを1000円以上出して購入することは皆無に近い。 被告製品の小売価格1個100円であるとことは 「玩具としてのゴ,ーグル」に対する新たな有効需要を創出し,第4番目の市場区分ともいうべき独自のゴーグル市場を開拓したことを意味する。 すなわち,被告製品は,包装の表示や,玩具売場で販売されている事実からも明らかなとおり,学校の指定を受けるような中級以上の「スクールゴーグル」である本件原告製品とは異なる玩具に等しい安価商品であって,本件原告製品との市場競合関係は全くない。また,このように安価商品であるからこそ,合計12万3609個という大量の販売が可能となったのである。 さらに,卸先が,巨大な販売力を誇る業界最大手の100円ショップ「ダイソー」を展開する大創であることが上記販売数量を達成し得た原因であって,被告製品が仮に本件各特許発明の技術的範囲に属するとしても,本件各特許発明の作用効果を需要者(子供)が重視した結果によるものでは断じてない。すなわち,被告製品の販売数量と,本件各特許発明の作用効果との間には全く因果関係はないのである。 むしろ,被告は,大創との取引を実現するために卸売単価58円を実現し,新たな市場を開発する努力などで,被告製品の売上げを達成したものである。よって,仮に,被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属すると仮定しても,これらの事情によって,大幅な推定の覆滅が認められるべきである。 (イ)競合製品の存在と市場占有率に応じた推定の覆滅(推定覆滅事由その2)本件で問題となる子供用水中ゴーグル市場における本件原告製品の市場占有率がどの程度のものかは被告には不明である。 ただし,ゴーグル製品全体については統計資料があり,本件が問題となった平成17年における原告の市場占有率は17.6%であり,他に市場占有率31.2%の株式会社タバタをはじめとして,有力企業がひ,, 。 しめき合っており 他方 被告の市場占有率はゼロに等しい状態であるしたがって,被告の子供用水中ゴーグルの販売行為がなくとも,原告以外の他の企業が市場占有率82.4%に沿った販売をなし,その分,原告は本件原告製品を販売することができなかった事情が存在するというべきであるから,この要因のみによっても,競合他企業の市場占有率82.4%については推定の覆滅が認められるべきである。また,本件原告製品は,原告の販売する製品全体のうちの1種類にすぎず,しかも売れ筋でないことが明らかであって,我が国の競泳用,成人フィットネス用及びスクール用のゴーグル製品全体に占める市場占有率は無視してよいほど微々たる数値となることが明らかである。 エ寄与度本件特許発明1及び同4に係るゴーグルは,棒状突起が相対回動可能に係合孔に嵌合されることにより「アイカップの上下方向の動きに融通性が生まれ,ゴーグル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィッティン」 , グ自由度を向上させる という作用効果を発揮するという点においてのみ従来品であるゴーグル(引用例2)と差異があるにすぎない。しかし,このような可変品質部分の差異は,ゴーグルの分野において需要者にとって購入動機となるほどの重要な品質ではない。そのような構成の変更は,本件特許出願当時の技術常識だったからである。 さらに,本件原告製品やパッケージの包装,取扱説明書にも,本件各特許発明の作用効果の説明はなく,これが需要動向を左右する要因になり得ないことは明らかである。 だからこそ,原告は,本件原告製品について,さらにクッションパッドやツインバンドの素材に高価なシリコーンゴムを使用したり,片眼ずつ度付レンズを交換できることを謳って競合商品との差別化を図ってセールス・ポイントにしているのである。 しかも,平成18年度の原告製品カタログにおいては,本件原告製品は全く掲載されていない。これは,本件原告製品の売れ行きが悪かったためと考えられることによれば,原告製品の中でも本件原告製品が主要商品であったとは考えられず,本件各特許発明が消費者の商品購入の動機付けになったとはいえない。 よって,本件原告製品が創出した利潤のうち,本件各特許発明を採用したことによる寄与の度合いは全くないといってよい。 (2)特許法102条3項に基づく請求について特許法102条1項は,特許権侵害によって,特許権者に生じた損害額を計算する方法の一つを示すものであり,そこでは,特許権侵害者の譲渡数量の全量を対象とし,特許権者は侵害行為により,その全量を販売する機会を喪失したものと推定した上で,そこから 「特許権者が販売することができ ,ないとする事情」があると認定された部分を控除する方法で,特許権者に生じた全損害額を計算する方法なのであるから,そこにおいて,特許権侵害者の譲渡数量の中から控除された部分は,そもそも特許権侵害との間の因果関係が否定され,権利者にはその部分の損害は生じなかったと判断されたことを意味する。 したがって,侵害行為との間の因果関係が否定された当該部分について,同法102条1項とは別異の損害額計算手法である同条3項を根拠に実施料相当額の損害賠償請求をすることは二重請求となるので許されない。 特許権者が同条1項に基づく損害賠償を請求する場合は,侵害者の譲渡数量全量の販売によって生じた全損害を同条1項に基づく権利者の損害計算の対象としている以上,そこで因果関係が認められないとして填補賠償の対象外とされた部分について,同条3項の損害額の上乗せを認めたのでは,填補賠償を超えることになるからである。 以上のとおり,特許法102条1項ただし書の「販売することができない事情」があるとして減額された部分に,同条3項の適用を認めることは許されるべきではない。 第4当裁判所の判断1本件特許権侵害の成否についての判断の大要当裁判所は,本件各特許のうち,本件特許1,同2及び同4には進歩性欠如の無効理由があり(特許法29条2項,123条1項2号 ,特許無効審判に)より無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項により,本件特許権に基づく権利行使はできないものと判断する。また,本件特許5には特許無効審判により無効とされるべき事由を認めることができず,かつ,被告製品は,同特許に係る本件特許発明5の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害すると認められるから,本件特許権に基づく差止請求(被告製品の製造の差止めを求める部分を除く )は理由があるが,金型の除去請求は被告が被告製品 。 を製造しておらず,かつ今後製造するおそれも認められないため,被告製品の廃棄請求はその対象物を欠くため,それぞれ理由がないものと判断する。 そこで,以下においては,まず,本件各特許の無効理由の存否(争点1-7ないし1-14)について判断し(その中で,分割出願要件違反の有無(争点1-6)についても併せて判断する,次いで,被告製品が本件特許発明5 。)の技術的範囲に属するか否かに関する争点(争点1-1ないし1-5)について順次判断していくこととする。 2争点1-7(構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について(1)本件特許発明1及び同2の構成要件Eは 「前記棒状突起の先端部に突 ,起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」ることである。 同構成要件のうち 「係止」は「係わり合って止まること(平成18年 , 。」8月31日日刊工業新聞社発行「特許技術用語集第3版 )を意味する。そ」,「」,。。。。 して対するとは@向かい合うA対比するくらべるB対になるC対象とする。Dこたえる。応ずる。E応対する,という意味である(広辞苑第5版)ところ,このうち構成要件Eの「対する」は,上記Cの意味で用いられていると解するのが相当である。よって,構成要件Eの「係止突部」は,係わり合って止めるために設けられた突出した部分であって,棒状突起の先端部に設けられており,その成形角度は,突起中心軸線を基準として,棒状突起側に鋭角に傾斜したものをいうが,そのような構成を有するものであれば,その形状には特段の限定がされていないと解釈することができる。 「係止突部」とは,上記意義を有するものとして明確であり,特許法36条6項2号の記載要件を満たすものというべきである。 なお,上記解釈によれば,様々な形状の係止突部がその技術的範囲に属することとなるところ,以下のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載も,上記のように様々な形状の係止突部がその技術的範囲に属すると解することと矛盾する記載はないというべきであるし,他に「係止突部」の意義を曖昧にしたり,不明確にしたりするような記載があると認めることはできない。 (2)本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,係止突部に関して次の記載がある。 ア「本発明は,前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け,前記鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにしたので,アイカップと鼻ベルトの連結・分離が容易であり,ゴーグルを装着して使用しているとき,弾性バンドによる引張力が,前記棒状突起を鼻ベルトの係合孔に挿入方向に作用する。したがって,ゴーグル使用時に,アイカップと鼻ベルトが外れない。 この場合,前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベ。」 ルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにするのが好ましい( 課題を解決するための手段】段落【0006 ) 【 】イ「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ,前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され,前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ,該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し,該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されているのが好ましい(同上段落【0007 ) 。」】ウ「前記棒状突起10の後端部には,対向内側に係止突部11が設けられている。前記アイカップ2は,各周壁部7の左右方向外端側(前記取付台座8の反対側)が,後方に傾斜状に延出されて前記バンド接続部9とされている。このバンド接続部9は,厚肉とされ,バンド挿通孔12が上下方向(レンズ部6の中心軸線)と直交する方向に設けられている( 発明。」【の実施の形態】段落【0009 )】エ「さらに,ゴーグル1を装着して使用しているとき,アイカップ2と鼻ベルト3には,図5に示すように,弾性バンド4の張力Fが矢印で示す方向に作用し,そのために,鼻ベルト3の両端部3Aには,図3(判決注,図5の誤記と認める )に矢印FAで示す方向に力が作用する。即ち,突 。 起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の取付台部8と棒状突起10の間に押し込められる。また,棒状突起10の係止突部11が,鼻ベルト3の突起係合孔13後方の切欠部14に係止されている。したがって,ゴーグル1の使用中は,前記係合孔13から棒状突起10が抜け出して,アイカップ2と鼻ベルト3が分離することはない(同上【0015 ) 。」】オ「そして,弾性バンド4は,アイカップ2のバンド挿通孔12に上下方向に挿通されているので,アイカップ2をねじることがなく,フィット性が良好である。また,弾性バンド4は,その帯状部分4A,4Cが後頭部に接するので,安定性がよく,断面略円形の中間部4Bが顔の側部に位置しているので,スイミング用ゴーグルの場合水の抵抗が減少し,競技用として最適である。 上記実施形態において,棒状突起10の係止突部11は,図11に示すように,突起10の端部全周にわたって設けることができる。また棒状突起10の係止突部11は,図12に示すように,アイカップ2の周壁部7側に突出状に設けることができる。さらに,鼻ベルト3は,図13に示すように,帯板状とすることができる(同上【0016 ) 。」】(3)上記アの各記載によっても,構成要件E,同F及び同Gの「係止突部」の形状を限定しているものとは認められず,前記(1)において認定した構成を含むものであれば,すべて本件特許発明1にいう「係止突部」に該当するものと解すべきであり,その意味で明確性を欠くものではない。 (4)被告は 「係止突部」とは,繋ぎ止めのために突出した突起部分を意味 ,, , するから 円錐キノコ形に形成された異形突起部分に限られる旨主張するが「係止」とは,前記のとおり,係わり合わせて止めることをいうにすぎないから,本件特許発明1でいうと,鼻ベルトを係わり合わせて止めることがで,,「」 きる構成を備えるものであれば足りるというべきであり それゆえ突部も,鼻ベルトが引っ張る方向とは逆の方向に向けて突出していれば足りると解されるから,被告がいうような円錐キノコ形の形状に限定されると解すべき根拠はない。 よって,被告の主張は採用できない。 3争点1-8(本件特許1は実施可能要件違反の無効理由があるか)について被告は,構成要件E及び同Fの「係止突部」の意義は不明確であるから,本件特許1は,実施可能要件を欠如する無効理由があると主張する。 しかし,構成要件E及び同Fの「係止突部」の意義が不明確であるということができないことは,前記2で判示したとおりである。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができ,本件特許1には,特許法36条4項に規定される明細書記載要件を満たすことなく特許された違法があるとの被告の主張は採用できない。 4争点1-6(本件分割出願は,分割要件に違反するか)について(1)被告は,本件特許の請求項5の「該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し」という要件は本件親出願当初明細書には記載されていなかったから,新規事項の追加に当たると主張する。 分割出願が行われた場合,新たな特許出願(分割出願)は本件親出願の時にしたものとみなされる(特許法44条2項)ところ,このように出願日の遡及が認められるためには,分割出願に係る発明がその本件親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか,同明細書等に記載した事項から自明な事項であることを要するというべきであ()。, 。 る 同法44条1項原告の主張は かかる趣旨をいうものと理解できる(2)本件親出願当初明細書には,以下の記載があることが認められる(乙19 。)ア「また,前記両端部3Aの前面には,鼻ベルト3の前端面に対して,前記取付台部8の前後方向厚さと略同じ寸法の段差Hが設けられている(図5参照 。この段差Hは,アイカップ2の前記取付台部8前面と,鼻ベル )ト3前面を,面一(フラッシュサーフェース)にするのに役立つ(段。」落【0016 )】イ「さらに,ゴーグル1を装着して使用しているとき,アイカップ2と鼻ベルト3には,図5に示すように,弾性バンド4の張力Fが矢印で示す方向に作用し,そのために,鼻ベルト3の両端部3Aには,図3に矢印FAで示す方向に力が作用する。即ち,突起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の取付台部8と棒状突起10の間に押し込められる(段落【0。」023 )】(3)上記(2)アのように,常にフラッシュサーフェースにするためには,鼻ベルトの両端部の前面が取付台部の後面に面接触していなければならず,そうしていなければ,鼻ベルトが棒状突起上を移動してしまい,常にフラッシュサーフェースにすることができなくなってしまうことによれば,本件親出願当初明細書の上記(2)アの記載は,鼻ベルトの両端部の前面が前記取付台部の後面に面接触することを示唆するものということができる。さらに,上記(2)イの記載にあるように,本件明細書には,ゴーグルを装着したとき,弾性バンドによって取付台部の後方と鼻ベルトの内側に向かって力が作用すること,それによって鼻ベルトの突起係合孔の外側の部分が棒状突起の方向に押し込められることが記載されているということができる。また,本件親出願当初明細書等の図3及び図5には,鼻ベルトの両端部の前面が取付台部の後面に面接触している構成が開示されている。 また,本件分割出願の当初明細書(甲20)にも,上記(2)ア,イと同様の記載がある(同明細書段落【0011【0015。】,】)したがって,本件特許の請求項5の「該鼻ベルトの両端部の前面が前記取付台部の後面に面接触し」との事項は,本件親出願当初明細書及び図面に記載した事項の範囲内であるから,本件分割出願が分割要件に違反してされたものであるとの被告の主張は採用できない。よって,本件分割出願の出願日は,本件親出願の出願日である平成7年12月25日に遡るものと認められる。 (4)なお,被告は,本件分割出願に係る本件特許発明1及び同4が,本件親出願に係る発明と同一であることをもって,分割出願の要件違反であるとの主張をする。しかし,本件分割出願に係る発明が本件親出願に係る発明と同一であれば,本件分割出願は,分割出願の要件の具備を論ずるまでもなく,特許法39条の適用上,本件親出願を先願とする後願に当たることになるので,本件特許1及び同4は同法123条1項2号の無効理由を有することになる。したがって,被告の上記主張をかかる趣旨と解して判断することとする。 同日に出願された2つの出願のそれぞれの請求項に係る発明同士が同一か否かは,いずれの発明を先願としても両発明が同一とされる場合には,両者は同一の発明であると解されるのに対し,いずれかの発明を先願とした場合に同一とされない場合には,両発明は同一の発明には該当しないと解するのが相当である。 そこで,本件親出願の請求項1に係る特許発明と,本件特許発明1とを対比すると,証拠(甲1,乙20)によれば,本件特許発明1は 「前記棒状,突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け」とい() , , う構成 構成要件E を備えているのに対して 本件親出願の請求項1にはかかる構成に関する記載はないことが認められる。よって,本件親出願の請求項1に係る特許発明と本件特許発明1とは同一とはいえない。 次に,本件親出願の請求項1に係る特許発明と本件特許発明4とを対比すると,証拠(甲1,乙20)によれば,本件親出願の請求項1に係る特許発明は 「前記取付台部は,前記周壁部の左右対向内側より前記レンズ部の前 ,面側に向かう傾斜面に形成された後面を有し」との構成を備えているのに対して,本件請求項4に係る特許発明は 「前記アイカップの取付台部は,レ ,ンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ (構成」要件M)た点,及び本件親出願の請求項1に係る特許発明は 「前記鼻ベル,トの左右両端部の前面は,前記取付台部の後面に沿うように後方に向かって傾斜状に延び」ているとされているのに対して,本件特許発明4は,この点。, について何ら記載されていない点で相違していることが認められる よって本件親出願の請求項1に係る特許発明と本件特許発明4とは同一とはいえない。 したがって,本件特許1及び同4は,特許法39条の規定に違反して特許されたものではなく,同法123条1項2号の無効理由を有しない。 5争点1-9(本件特許1は進歩性欠如の無効理由があるか)について(1)ア本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例1には 「スイミン,グゴーグルのアイカップ連結装置」に関する考案の従来技術を用いたゴーグルについて,次のとおりの記載がある。 (ア)「 従来の技術】一般に,スイミングゴーグルにおいては,左右一 【対のアイカップの間隔を調整できるようにしている。そのようなスイミングゴーグルとして,図6および図7に示したものが従来から知られている。 上記スイミングゴーグルは,左右一対のアイカップ30,30の内端部に連結片31を設け,この連結片31をジョイント32によって着脱自在に連結し,長さの異なるジョイント32の取り替えによって左右のアイカップ30の間隔を調整している。 そして,ジョイント32と連結片31とを着脱自在に連結するため,連結片31に前後に貫通する孔33を形成し,一方ジョイント32には軸方向の割り溝34を有する連結軸35を設け,この連結軸35を上記孔33に挿入し,連結軸35の先端部外周に形成した係合突条36を連結片31の背面側に係合させるようにしている(段落【0002 , 。」】【0003【0004 )】,】(イ)「 考案が解決しようとする課題】ところで,上記アイカップの連 【結装置においては,ジョイント32の取外しに際し,連結片31の背面側に突出する連結軸35の先端部を内方に変形させて周方向に分割された一対の係合突条36を連結片31に対して同時に係合解除する必要があり,上記連結軸35の変形によって,その連結軸35が破損し易く,連結軸35を無理に抜くと,連結片31が破損する不都合がある(段。」落【0005 )】イ上記アの記載及び引用例1の図6及び図7によれば 引用例1には左,,「右一対のアイカップ30,30と,両アイカップ30,30を着脱自在に連結するジョイント32と,両アイカップ30,30の対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,前記アイカップ30,30とジョイント32との連結を,軸方向に割り溝34,34を有する丸軸の連結軸35,35と,該連結軸35,35が相対回動可能に嵌合される孔33,33とにより行うようにし,前記アイカップ30,30の内端部に連結片31,31を設け,この連結片31,31に前後に貫通する孔33,33を設け,ジョイント32の両端部に顔面に向かって突出する連,,, , 結軸35 35を設け 前記連結軸35 35の先端部外周に連結軸3535の中心軸線に対して鋭角に傾斜する係合突条36,36を設け,前記係合突条36,36を孔33,33の背面に係止させたスイミングゴーグル(以下「引用発明3」という )が記載されていると認められる。 。」 。 よって,引用発明3を本件特許発明1の構成と対応させると以下のような構成を有することとなる。 a左右一対のアイカップ30,30と,両アイカップ30,30を着脱自在に連結するジョイント32と,両アイカップ30,30の対向外端相互を接続する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,b前記アイカップ30,30とジョイント32との連結を,軸方向に割り溝34,34を有する丸軸の連結軸35,35と,該連結軸35,35が相対回動可能に嵌合される孔33,33とにより行うようにし,c前記左右アイカップ30,30の内端部に連結片31,31を設け,この連結片31,31に前後に貫通する孔33,33を設け,dジョイント32の両端部に顔面に向かって突出する連結軸35,35を設け,e前記連結軸35,35の先端部外周に連結軸35,35の中心軸線に対して鋭角に傾斜する係合突条36,36を設け,,, 。 f前記係合突条36 36を孔33 33の背面に係止させたゴーグルウ本件特許発明1と引用発明3とを対比すると,その作用及び構造から見て,引用発明3における「アイカップ「ジョイント「弾性バンド , 」,」,」「丸軸「連結軸「孔「連結片「係合突条」は,それぞれ本件特 」,」,」,」,許発明1の「アイカップ「鼻ベルト「弾性バンド「断面略円形 , 」,」,」,」「棒状突起「係合孔「取付台部「係止突部」に相当すると認めら 」,」,」,れる。 そうすると,本件特許発明1と引用発明3とは,以下の点で一致する。 (ア)左右一対のアイカップと,両アイカップを連結する鼻ベルトと,両アイカップの対向外端部相互を連結する弾性バンドとから成るゴーグルにおいて,(イ)前記アイカップと鼻ベルトとの連結を,断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔とにより行うようにし,(ウ)棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設けた点他方,以下の点で相違する。 @本件特許発明1は,アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設け,鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設けているのに対し,引用発明3は,鼻ベルトの両端部に顔面に向かって突出する棒状突起を設け,アイカップの内端部に取付台部を設け,この取付台部に係合孔を設けている点(以下「相違点1」という )。 A本件特許発明1は,鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させるようにしたのに対し,引用発明3は,取付台部の後面に係止突部を係止させるようにした点(以下「相違点2」という )。 B本件特許発明1の棒状突起には割り溝が入っていないのに対し,引用(「」 発明3の棒状突起には軸方向に割り溝が入っている点 以下 相違点3という )。 (2)そこで,上記(1)ウ記載の各相違点について順次検討する。 ア引用例2の記載内容本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例2には,次の記載がある(乙10 。)(ア)「実用新案登録請求の範囲」「(1)左右一対のゴーグル本体(12)が,レンズ部(13)と,該レンズ部(13)の周縁から後方に延びるスカート部(14)とを備え スカート部 14 の左右対向内側に突設したブラケット 1 ,() (5)に連結帯(16)が係合されると共にスカート部(14)のブラケット(15)と反対の外側に着用ベルト(17)が装着され,スカート部(14)の周縁に着用者の眼部周囲の顔面に密着するパッド(18)が設けられているゴーグル(11)において,前記ブラケット(15)の背面(15b)に,上方からみて略L形の連結帯係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)側に位置するように突設すると共に,該係合片(20)の対向端面()()()() 20b 又は端部 20a 前面に係止突起 23 又は 22を設けたことを特徴とするゴーグル。 (2)前記ブラケット(15)に前面(15a)から背面(15b)に貫通する連結帯装着用孔(21)を設けた請求項1記載のゴーグル。 (3)前記ブラケット(15)の連結帯結合片(20)の端部(20a)前面及び対向端面(20b)に係止突起(22 (23)を設)けた請求項1又は2記載のゴーグル。 (4)前記連結帯(16)の両端部には,前記係合片(20)が嵌入係合する係合孔(29)を備えている請求項1,2又は3記載のゴーグル(明細書1頁4行から2頁9行) 。」(イ)「スカート部14の左右対向内側に突設したブラケット15は,前面15aがレンズ部13前面よりも前方に突出せられた水平断面略くの字形を呈し,上下に後方に延びる補強板19が設けられると共に,対向端部背面15bには,水平断面が略L形を呈しかつ端部20aがレンズ部13側に位置するようにブラケット前面15a上下幅よりも幅の狭い連結帯係合片20が突設されている(明細書7頁16行から8頁3 。」行)(ウ)「連結帯係合片20には,第8図に拡大図示しているように端部20aの前面先端に係止突起22が突設されると共に,対向端面20b後方に係止突起23が突設され,連結帯16が自然に外れないようにせられており,各角部は連結帯16の着脱がし易いように,面取りRがなされている(明細書8頁8行から13行) 。」イ上記アの記載及び引用例2の第1図,第7図及び第8図によれば,引用,「 (),() 例2には左右一対のゴーグル本体12と両ゴーグル本体12を連結する連結帯(16)と,両ゴーグル本体の対向外端部相互を接続する着用ベルトとから成るゴーグルにおいて,前記ゴーグル本体(12)と連結帯(16)との連結を,係合片(20)と,該係合片が嵌合される係(),()() 合孔 29 とにより行うようにし ブラケット 15 の背面 15bに,上方からみて略L形の連結帯係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)側に位置するように突設すると共に,該係合片(20)の対向端面(20b)又は端部(20a)前面に係止突起(23)又は(22)を設け,前記連結帯(16)の両端部の後面に連結帯係合片(20)に形成された端部(20a)及び係止突起(22,23)を係止させ,連結帯 16 の両端部の後面に連結帯係合片 20 に形成された端部 2 () ()(0a)及び係止突起(23)を係止させたゴーグル(以下「引用発明。」4」という )が記載されていることが認められる 。 。 )ウそして,本件特許発明1と引用発明4とを対比すると,その作用及び構造から見て引用発明4における スカート部14ブラケット1 ,「()」,「(5「連結帯(16「係合片(20「対向端部背面(15b, )」,)」,)」, )」「端部(20a,係合突起(22,23 」は,それぞれ本件特許発明 )」 )「」,「」,「」「」,「」 1の周壁部取付台部鼻ベルト棒状突起取付台部の後面及び「係合突部」に相当する。 以上によれば,引用発明4には,スカート部(14)の左右対向内側に突設したブラケット(15)の背面(15b)に,上方から見て略L形の連結係合片(20)を,端部(20a)がレンズ部(13)側に位置するように突設する構成及び連結帯 16 の両端部の後面に連結帯係合片 2 () (0)に形成された端部(20a)及び係止突起(22,23)を係止させる構成が開示されているということができる。 エ本件特許発明1の容易想到性について(ア)相違点1について相違点1に係る本件特許発明1の構成は,アイカップの鼻ベルト取付台部の後面に,顔面に向かって突出する棒状突起を設け,鼻ベルトの両端部に突起係合孔を設けているものであるが,上記のとおり,引用発明4には スカート部 周壁部 の左右対向内側に突設したブラケット 取 ,() (付台部)の背面に上方から見て略L形の連結帯係合片(棒状突起)を備えるという同様の構成を開示している。 (イ)相違点2に係る本件特許発明1の構成は,鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させるようにしたものであるところ,上記のとおり,引用発明4にも,連結帯(鼻ベルト)の両端部の後面に連結帯係合片(棒状突起)に形成された端部及び係止突起を係止させる構成が開示されている。 (ウ)相違点3については,引用発明3において,連結軸(取付台部)に,()() 割り溝が入っているのは 連結軸 取付台部 のジョイント 鼻ベルトからの着脱を容易にするためであることは,引用例1の図面の記載から明らかであるが,連結軸(取付台部)のジョイント(鼻ベルト)からの着脱をどの程度の力で行うようにするのかは,ゴーグルの使用者の使用態様を考慮して,当業者が適宜容易に為し得る程度の設計事項であるから,相違点3は,当業者が容易に想到し得る程度のものである。 (エ)そして,引用発明4は,引用発明3と同じゴーグルに関する発明であって技術分野も共通しており,引用発明4に開示された技術を引用発明3のゴーグルに適用することを阻害する要因もなく,かつ,適用することによって得られた構成が,アイカップと鼻ベルトの上下方向の相対的な動きに融通性があり,微調整が容易で,顔面へのフィッティング自由度があるとの作用効果を奏することは,引用発明3及び同4から当業者が予測し得る範囲のものであり,格別のものということはできない。 オ原告の主張について,, , (ア)原告は 引用例1ないし6には @アイカップと鼻ベルトの連結を断面略円形の棒状突起と,該突起が相対回動可能に嵌合される係合孔により行うようにしたものであるから,アイカップの上下方向の動きに融通性が生まれ,ゴーグル装着者の顔面に対する位置調整が容易で,フィッティング自由度を向上させることができるという効果も,A前記アイカップの鼻ベルト取付台部に棒状突起を設け,鼻ベルトの両端に突起係,, , 合孔を設けたので 成形性が良く 連結強度を確保できるという効果もB前記棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け(請求項1〜3 ,前記鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ, )該鼻ベルト両端傾斜面に前記突部と係止させるようにしたので(請求項2,3 ,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく, )連結・分離が容易であるとの効果についての記載も示唆もなく,これらによって本件各特許発明の進歩性を否定することはできないと主張する。 (イ)しかしながら,まず,上記@の効果については,本件特許発明1におけるフィッティング自由度の向上という効果は断面略円形の棒状突起と,相対回動可能に嵌合される係合孔によって行うことによってもたらされるのであるから(本件明細書段落【0019,引用発明3にお】)いても,丸軸の連結軸35(取付台部)と,該連結軸35が相対回動可能に嵌合される孔33(係合孔)の形状において,本件特許発明1と同様の効果を生じさせることができることは自明のことであり,本件特許発明1に格別の作用効果ではないのであるから,単にかかる効果が引用例1に記載されていないことをもって容易想到性を認定する根拠とすることが否定されるものではない。 (ウ)上記Aの効果については,原告は,補足説明として棒状突起及び鼻ベルトの材質について主張するが,そもそも本件特許発明1において材質の特定はされていない。また,原告は,引用発明4のブラケット15や係合孔29の構成と,本件特許発明1における棒状突起や突起係合孔とが相違するから,引用発明4は,上記Aの効果を示唆するものではないと主張するが,本件明細書には,上記Aの効果について「また,本発明によれば,前記アイカップの鼻ベルト取付台部に棒状突起を設け,鼻ベルトの両端に突起係合孔を設けたので」成形性が良く,連結強度を確保できる旨記載されている(段落【0019 )にすぎず,引用発明4 】, () の係合片は 本件特許発明1の棒状突起に相当するものである 前記ウところ,該係合片が,本件特許発明1の取付台部に相当するブラケットと同一素材で一体成形されていることは,引用例2の7頁10ないし16行及び第7図から明らかであり,また,鼻ベルトに相当する連結帯16の両端に係合孔29が設けられている点でも本件特許発明1と共通するから,上記Aの効果を奏することは優に認めることができ,原告が指摘する構成の相違点があることによって,上記認定は左右されない。 (エ)上記Bの効果は,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載と対応する構成である「棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜する係止突部を設け たことによってもたらされるとされているところ 本 」 (件明細書段落【0019,引用発明3にも,かかる構成が記載され 】)ていることは既に認定したとおりであるから,引用発明3において,係合突条36によってジョイント32と連結片31が係止し,アイカップ30とジョイント32との連結が使用中に外れない点も,連結・分離が容易である点も,本件特許発明1と同じである。 (オ)以上によれば,原告の主張は採用することができない。 (3)小括以上によれば,本件特許発明1は,引用発明3に引用発明4を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから,本件特許1には進歩性欠如の無効理由がある(特許法29条2項,123条1項2号 。)6争点1-10(本件特許2には進歩性欠如の無効理由があるか)について(1)本件特許発明2と引用発明3とを対比すると,本件特許発明1と引用発明3とが一致する点で一致するとともに,相違点1ないし3で相違することに加えて,本件特許発明2は「鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルト両端部の後面に前記係止突部を係止させるようにした」の, (「」 に対して 引用発明3はこのような構成を備えていない点 以下 相違点4という )で相違する。。 (2)そこで,上記相違点4について検討する。 ア本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例3には,次の記載がある(乙11 。)(ア)「 請求項1】左右のメガネ本体(2L,2R)と,該左右のメガ 【ネ本体(2L,2R)の左右間隔を調整するための該左右のメガネ本体(2L,2R)の内端を互いに係脱自在として連結する可撓性を有するジョイント(4)と,前記左右のメガネ本体(2L,2R)の各外端部に係脱自在に装着してループとなる弾性バンド(6)と,を備えている水中メガネ(1)において,前記左右のメガネ本体(2L,2R)の各,(),() 内端部には 内方に延伸した支持部 7 を一体に備え 該支持部 7のそれぞれは方形状に枠組みされてジョイント(4)の挿通窓(7A)を形成しており,該挿通窓(7A)に挿入されているジョイント(4)に形成した複数の係合部(10)のひとつを係脱する被係合部(8)を一体に備え,該被係合部(8)にジョイント(4)のひとつの係合部(10)が係合した状態を維持してその離脱を防止し,かつ,被係合部(8)に対してジョイント(4)の他の係合部(10)を移し替えるとき左右外側方に弾性変形可能な押え片(9)が,左右のメガネ本体(2L,2R)の各内端部から前記挿通窓(7A)に向かってジョイント挿通間隔(S)を有して前方に突出されていることを特徴とする水中メガネ 」。 (イ)「 0014 【実施例】以下,本発明の実施例を図を参照して説 【】明する。図1〜図5は本発明の一実施例を示し,水中メガネ1は,左右のメガネ本体2L,2Rと,該左右のメガネ本体2L,2Rの左右間隔を調整するため該メガネ本体2L,2Rの内端を互いに係脱自在として連結する可撓性を有するジョイント4と,両端に掛け具5を備え,該掛け具5のそれぞれを前記左右のメガネ本体2L,2Rの各外端部に係脱自在に装着してループを形成する弾性バンド6とからなっている 」。 (ウ)「 0015】メガネ本体2L,2Rの顔面当てがい用の端縁部に 【は,顔面に密着しかつ顔面に強い衝撃を与えないために柔軟な弾力を有する環状パッド3が着脱自在に装着されている。メガネ本体2L,2Rは,透明又は半透明の硬質合成樹脂製であって少なくともそのレンズ面は防曇処理が施されている。そして,メガネ本体2L,2Rの左右方向内端部には,レンズ面2L1,2R1より前方に突設しかつ内方に延伸した支持部7を一体に備え,該支持部7のそれぞれは方形状に枠組みされてジョイント4の挿通窓7Aを形成しており,支持部7の先端が被係合部8とされている 」。 (エ)「 0017】前記ジョイント4は,合成樹脂若しくはゴムからな 【り可撓性を有し,両端部には長さ方向に所定間隔でそれぞれ3つの係合部10が突設されている。この係合部10を含むジョイントの肉厚は,被係合部8と押え片9との間隙Sよりも厚くされており,したがって,ジョイント4の両端部が左右メガネ本体2L,2Rの被係合部8と押え片9との間隙Sに挿通されているとき,係合部10の一つが被係合部8に係合して,ジョイント4の間隙Sから抜けることを抑止する 」。 イ上記ア並びに引用例3の図1及び図2によれば,引用例3には 「ジョ,イント4の両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜させたジョイント4両端部の後面に形成された係合部10に左右メガネ本体2L,2Rに形成された被係合部8を係止させるようにしたゴーグル(以下「引用発明5」 。」という )が記載されていることが認められる。 。 そして,上記ジョイント4は,本件特許発明2の鼻ベルトに,上記被係合部8は本件特許発明2の係止突部に,上記左右メガネ本体2L,2Rは本件特許発明2の左右一対のアイカップに,上記係合部10は,本件特許発明2の鼻ベルト両端部の後面にそれぞれ相当する。 ウそうすると,相違点4のうち,鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ,後方に傾斜した鼻ベルト両端部の後面にアイカップを係止させるようにした点は,上記イのとおり,引用発明5に備えられている。 また,鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させるようにした点は,前記4(2)イにあるように引用発明4に備えられている。 (3)本件特許発明2の容易想到性について上記(2)イ,ウによれば,相違点4の構成は,引用発明4及び同5に開示されていることが明らかである。そして,引用発明4及び同5は,引用発明3と同じゴーグルに関する発明であるから,技術分野も共通し,引用発明3に引用発明4及び同5を組み合わせることに何らの阻害要因も認められない。 しかも,その作用効果も引用発明3ないし5から予測し得る範囲のものである。 以上によれば,本件特許発明2は,引用発明3に引用発明4及び同5を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものというべきであり,本件特許2には進歩性欠如の無効理由がある(特許法29条2項,123条1項2号 。)(4)原告の主張について原告は,構成要件Gの構成により,アイカップと鼻ベルトの連結が使用中に外れることがなく,連結・分離が容易であるという効果を奏するところ,前記各引用例にはそのことを示唆する記載もないと主張する。 しかし,引用例2にも「前記ブラケット15の背面15bに,上方からみて略L形の連結帯係合片20を,端部20aがレンズ部13側に位置するように突設すると共に,該係合片20の対向端面20b又は端部20a前面に係止突起23又は22を設けたことを特徴とするものであるから,連結帯16のブラケット15への着脱が容易で,強制的に外ずさない限り簡単にかつ自然に外れることがなく,連結状態を確実に保持することができ (同公報」16頁10行ないし18行)との記載があり,引用例3にも「本発明は,左右のメガネ本体と,これを互いに連結するジョイントと,弾性バンドとの各パーツに分解組立可能で,組付けたときはその連結が確実かつ強固でありながら,意識的に分解するのは容易な水中メガネを提供することが目的である(段落【0006「 作用】左右のメガネ本体2L,2Rを当てが 。」】),【うとともに弾性バンド6を頭部に装着すると,弾性バンド6の反作用でジョイント4には左右方向の引張力が作用する。ジョイント4の係合部10が支持部7の被係合部8に係合しており,支持部7は方形状に枠組みされていることから,被係合部8が屈曲することはなく不意にジョイント4が外れることはない(段落【0011「ジョイント4を引き抜くには,ジョイン 。」】),ト4を押え片9側へ押しつけることにより該押え片9を左右外側方に変形させ,押え片9と被係合部8との間隔Sを拡げれば,係合部10と被係合部8との係合が解除され,この状態で引き抜くことができる(段落【001。」9「この水中メガネ1の使用状態,すなわち頭部に装着されているとき 】),には,左右メガネ本体2L,2Rは相互に離隔しようとし,ジョイント4には引張力が作用するが,この状態では,ジョイント4の係合部10は,メガネ本体2L,2Rの被係合部8に,より深く係合するとともに押え片9でその離脱を防止する。また,被係合部8はメガネ本体2L,2Rに固定的であるとから,強度的にも優れ,使用中に不意にジョイント4が外れたり,被係合部8が破損するなどということが少ない(段落【0020 )との記載 。」】があるように,ゴーグルにおいて使用中にジョイントが外れないこと及びジョイントの連結・分離が容易であることといった課題は,およそ一般的な課題であることは明らかである。そして,本件特許発明2と,引用発明3ないし5の構成が相違しているとしても,引用発明5には上記のとおり,ジョイント4の着脱方法も記載されているから,本件特許発明2と同様の連結・分離の容易性を備えているということができる。 そして,構成要件Gの 「鼻ベルトの両端部を後方に傾斜させ」という構 ,成を備えた場合に,使用中にジョイントが外れないという上記の一般的な課題の解決のために,当業者があらゆる従来技術の中から,引用発明4のように鼻ベルト両端部の後面に係止突部を係止させることを想到することは,容易であるというべきである。 よって,原告の上記主張は採用できない。 (5)本件特許1及び同2に係る特許権に基づく差止請求等に関する小括以上のとおり 本件特許1及び同2には 進歩性欠如の無効理由があり 特 , , (許法123条1項2号,29条2項 ,特許無効審判において無効にされる )べきものであると認められるから,特許法104条の3第1項によって,原告は,同各特許に係る特許権に基づく権利行使をすることができない。 よって,その余の点について検討するまでもなく,同特許権に基づく原告の請求は,理由がない。 7争点1-11(構成要件Nの「鋭角」の意義は不明確であり,特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について(1)構成要件Nは 「前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁 ,部側において鋭角をなしていることを特徴とするゴーグル 」である。。 「鋭角」とは 「直角より小さい角 (広辞苑第5版)であり,0°<θ ,」<90°の範囲内でθが取り得るすべての角度を意味するものである 「対。 して の意味は 前記2(1)のとおりであるから 請求項4の上記記載の 棒 」, ,「状突起」の形状の意味は,アイカップ取付台部の後面に,顔面に向かって斜めに突出するように設けられており,当該取付台部の後面を基準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜したものを意味すると解釈することができる。 本件明細書にも 「アイカップ2の取付台部8は,レンズ部6の前面より ,も前方に向かって斜めに突出するように設けられている。該取付台部8の後面(顔面側傾斜面)8Aに,顔面に向かって突出する断面略円形の棒状突起10が設けられている。この突起10は,前記後面8Aに対して,周壁部7側が鋭角となっている。また,突起10の後端面10Aは,図5に示しているように,前記取付台部後面8Aと略平行とすべく突起10の中心軸線に対して傾斜されている(段落【0009 )と記載されており,上記解釈に 。」】沿う図3及び図5が記載されている。 以上によれば,請求項4の「前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ,前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしていることを特徴とするゴーグル 」の意義は明確であって,特許法36条6項2号に違反 。 するということはできない。 (2)被告は 「鋭角」は機能上有害(棒状突起が取付台部に対してあまり鋭 ,角に倒れ過ぎていると鼻ベルトとの相対回動が阻害される )な角度や,機。 能的に無意味な角度までも含む概念であってその技術的意義は著しく不明瞭であると主張するが,特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲は対世的な絶対権たる特許請求の効力範囲を明確にするためのもので,その記載は正確なものでなければならないことから,特許を受けようとする発明が明確でなければならないとしたものであって,その技術的意義の有無を問う規定ではない。よって,被告の主張は理由がない。 (, ,,, 8争点1-12 構成要件O Q Rの意義は不明確であり 本件特許5には特許請求の範囲が不明確である無効理由があるか)について(1)本件特許発明5は 「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行に ,なる係止突部が設けられ,前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され,前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ,該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し,該鼻ベルト両端部の後面が前記係止突部に係止されていることを特徴とする請求項4記載のゴーグル 」というものである。 。 (2)被告は 「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行に」の「前記後面」 ,が何の後面を意味するのかが不明であると主張するが,請求項5は,請求項4の従属項であるから,請求項4に記載されている「後面」が「取付台部の後面」であることによれば 「前記後面」とは 「取付台部の後面」を意味 ,,することが明らかである。 また,被告は 「棒状突起「棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行 ,」,になる係止突部」の意義も不明確であると主張するが 「棒状突起」とは,,突起が棒状のものをいうことは明らかであって その形状は明確である前 ,。「記後面と略平行になる係止突部」は 「前記後面」が「取付台部の後面」を ,意味することは上記のとおりであり 「係止 「突部」の意味は,前記2の ,」とおりであるから,棒状突起の外周部に,取付台部の後面と平行な角度で,鼻ベルトと係わり合って止めるために突出した部分をいうことは十分理解可能である。さらに,本件特許公報の図5の図面の記載も,上記認定と矛盾するものではない(このように,請求項5の構成要件Oは,構成要件Eが「係止突部」の形状を限定してなかったのに対し,上記のとおり「係止突部」の形状を「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる」形状に限定したものといえる。したがって,上記各用語の意義に不明確な点はない。 。)(3)さらに,被告は,請求項5の構成要件Qの「前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ」の記載について,鼻ベルトの係合孔は当該鼻ベルトの両端部の前後面に対し傾斜して設ける構成であるが,傾斜して設けたからといって,必ずしも棒状突起の軸回りに鼻ベルトと取付台部とが円滑に相対回動可能になるというものではないと主張する。 しかし,既に判示したとおり,特許法36条6項2号は,その技術的意義の有無を問う規定ではなく,その記載から技術的事項を明確に把握することができることを要求する規定であるから,被告の上記主張は失当である。 なお,付言すると,本件明細書には,実施例の説明として「前記鼻ベルト3は,図1,図3,図5,図9に示されているように,平面視略弯曲状で,() 。, 軟質 又は半硬質 プラスチック等の弾性材料により成形されている また鼻ベルト3は,長手方向(左右方向)両端部3Aが,後方に向かって傾斜状(ハ字状)に延び,該両端部3Aに前後方向に貫通する突起係合孔13,13が設けられている。この係合孔13は,前記両端部3Aの前後面に対して傾斜している(段落【0010 )と記載されており,さらに「また,前 。」】記両端部3Aの前面には,鼻ベルト3の前端面に対して,前記取付台部8の前後方向厚さと略同じ寸法の段差Hが設けられている(図5参照 。この段)差Hは アイカップ2の前記取付台部8前面と 鼻ベルト3前面を 面一 フ , ,,(ラッシュサーフェース)にするのに役立つ。これは,スイミングゴーグルに採用することにより,水の抵抗をなくするのに効果がある(段落【00。」11 )と記載されているように,鼻ベルトの係合孔が鼻ベルトの両端部の 】前後面に対して傾斜して設けられるとの構成は,水の抵抗をなくすという効果のために採用されているものと認められる。そして,構成要件Qの「前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ」の技術的意義は,請求項5の「棒状突起」が,請求項4における「前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」との記載を受けて,鼻ベルトの両端部の係合孔が棒状突起が差し込まれる際に,鼻ベルトの両端部の前面が取付台部の後面に面接触する(構成要件R参照)ことができるようにするために,係合孔を鼻ベルト両端部の前後面に対して傾斜して設けることを意味することは明らかである。 よって,被告の上記主張は,技術的観点に照らしても採用できない。 (4)さらに,被告は,構成要件Rと,構成要件N,構成要件Pの要請が矛盾する旨主張している。しかし,本件特許公報の図3には,対向内側に突出している係止突部が描かれており,さらに本件明細書には,実施例の説明として「さらに,ゴーグル1を装着して使用しているとき,アイカップ2と鼻ベルト3には,図5に示すように,弾性バンド4の張力Fが矢印で示す方向に作用し,そのために,鼻ベルト3の両端部3Aには,図3に矢印FAで示す方向に力が作用する。即ち,突起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の取付台部8と棒状突起10の間に押し込められる。また,棒状突起10の係止突部11が,鼻ベルト3の突起係合孔13後方の切欠部14に係止されている。したがって,ゴーグル1の使用中は,前記係合孔13から棒状突起10が抜け出して,アイカップ2と鼻ベルト3が分離することはない(段。」落【0015 )と記載されているように,鼻ベルトには,係止突部と係合 】する切欠部を設けるとの構成が開示されている。したがって,当業者であれば,これらの記載を基に鼻ベルトに切欠部を設けるなどすることによって,相互の構成要件の構成を矛盾なく構成することが可能であると認められる。 よって,被告の上記主張は採用できない。 9争点1-13(本件特許4には進歩性欠如の無効理由があるか)について(1)本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例1には,前記5(1)のとおり引用発明3が記載されている。 引用発明3を本件特許発明4の構成と対応させると以下のようになる。 h左右一対のアイカップ30,30と,両アイカップ30,30を着脱自在に連結するジョイント32と,両アイカップ30,30の対向外端部相互を接続する弾性バンドとから成り,i前記アイカップ30,30の各内端部には前記ジョイント32の連結片31,31が突出して設けられ,該連結片31,31に前記ジョイント32両端が取り付けられているスイミングゴーグルにおいて,,, j前記ジョイント32の背面両端部に丸軸の連結軸35 35が設けられk前記連結片31,31に,前記連結軸35,35が挿入された状態でア, , イカップ30 30とジョイント32が相対回動可能に嵌合される孔3333が設けられ,l前記アイカップ30,30は,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備え,m前記アイカップ30,30の連結片31,31は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ,n前記連結軸35,35は,ジョイント32の背面に対して垂直に設けられたスイミングゴーグル。 本件特許発明4と引用発明3を対比すると,その作用及び構造から見て引用発明3の「ジョイント32」が本件特許発明4の「鼻ベルト」に,以下,同じく「着脱自在に連結する」が「連結する」に 「弾性バンド」が「弾性 ,バンド」に 「各内端部」が「左右対向内側」に 「連結片31,31」が , ,「取付台部」に 「突出して設けられ」が「突設され」に 「スイミングゴ , ,ーグル」が「ゴーグル」に 「丸軸の連結軸35,35」が「断面略円形の ,棒状突起」に 「連結軸35,35が挿入された状態でアイカップ30,3 ,0とジョイント32が相対的に回転する孔33,33」が「棒状突起が相対回動可能に嵌合される係合孔」に,それぞれ相当する。 そうすると,本件特許発明4と引用発明3は,後記アの点で一致し,後記イの点で相違する。 ア一致点左右一対のアイカップと,該両アイカップを連結する鼻ベルトと,前記両アイカップの対向外端部相互を接続する弾性バンドから成り,前記両アイカップの左右対向内側には前記鼻ベルトの取付台部が突設され,該取付台部に前記鼻ベルト両端部が取り付けられているゴーグルにおいて,断面略円形の棒状突起が設けられ,棒状突起が相対回動可能に嵌合される係合孔が設けられ,前記アイカップは,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部とを備え,前記アイカップの取付台部は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられたゴーグルである点イ相違点(ア)本件特許発明4ではアイカップは硬質プラスチック製であり,鼻ベルトは弾性材料により形成されているのに対し,引用発明3では,アイカップと鼻ベルトの素材が不明である点(以下「相違点5」という )。 (イ)本件特許発明4では,取付台部の後面側に棒状突起が設けられ,鼻ベルトの左右両端部に係合孔が設けられており,棒状突起は,取付台部の後面に対して,周壁部側において鋭角をなしているのに対し,引用発明3では,取付台部に係合孔が設けられ,鼻ベルトの左右両端部に棒状突起が設けられており,棒状突起は棒状突起が設けられた鼻ベルトの背面に対して垂直に設けられている点(以下「相違点6」という )。 (3)そこで,以下,上記相違点5及び同6について検討する。 ア相違点5について相違点5については,引用例2に「連結帯6は,弾性可撓性のプラスチックにより帯状に一体形成され (同公報4頁13,14行「ゴーグル 」 ),本体12は,…透明又は半透明のポリカーボネート又はセルロースプロピオネート等の硬質合成樹脂により一体成形されている(同8頁10な。」いし16行)とあり,かつ,引用例2が公開されたのは平成2年8月14日であること(乙10 ,さらに,その他の本件特許出願前の刊行物であ )() 「, る実開昭62-145657号公報 乙32 に 繊維素系プラスチックポリカーボネート樹脂,アクリル樹脂又は透明なポリオレフィン系樹脂にて成形された水中眼鏡において (実用新案登録請求の範囲)と記載され 」ているほか,特開平6-190081号公報(乙39)にも 「前記アイ,カップは,硬質プラスチック製の本体と ( 特許請求の範囲 【請求項1 」【】0 )と記載されていることによれば,相違点5に係る構成は周知技術で 】あったと認めることができる。したがって,引用発明2に上記構成を適用して,相違点5を備えることは,当業者であれば容易に想到し得る設計事項であるというべきである。 イ相違点6について(ア)相違点6のうち,引用発明2では,取付台部に係合孔が設けられ,鼻ベルトの左右両端部に棒状突起が設けられているのに対して,本件特許発明4では取付台部の後面側に棒状突起が設けられ,鼻ベルトの左右両端部に係合孔が設けられている点については,前記のとおり,引用発明4に備えられている。 これに対し,本件特許発明4の「前記棒状突起は,取付台部の後面に対して,前記周壁部側において鋭角をなしている」については,まず本件特許発明4の「取付台部の後面」がどのような面であるのかが特許請求の範囲の記載からは必ずしも明らかではないので,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌する。 (イ)本件明細書(甲1)には以下の記載がある。 ・「また他の本発明の特徴とするところは,…前記取付台部は,前記周壁部の左右対向内側より前記レンズ部の前面側に向かう傾斜面に形成された後面を有し,該後面と前記棒状突起とは,前記周壁部側において鋭角をなしている点にある(段落【0007 ) 。」】・【発明の実施の形態 「前記アイカップ2の取付台部8は,レンズ 】部6の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。該取付台部8の後面(顔面側傾斜面)8A (段落【0009 ) 」】以上の各記載に加えて,請求項4を引用する請求項5に「前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され」と記載されていることによれば,本件特許発明4の取付台部の後面は,傾斜面であると認められる。また,その傾斜の方向は,引用発明2その他のゴーグルの周知の形態によれば,アイカップの対向内側であることが明らかである。 (ウ)ところで,取付台部が斜め前方に向かって突出する構成(構成要件M)は,引用発明3にも見られる従来からある構成であるが,証拠(乙),(), 9 によれば 本件特許出願当時 平成7年12月25日 の技術では取付台部を斜め前方に突出させても,鼻ベルトとの連結部においては連結台部も上面視で水平となる構成が比較的多く採用されていたことが認められる(引用発明3 。これに対して,本件特許発明4は,取付台部 )の突出方向と同様に傾斜している取付台部の後面に棒状突起を設けることとし,それに際して鼻ベルトが容易に抜けないように取付台部の後面に対して棒状突起が周壁部側において鋭角をなすようにした点に特徴があるということができる。 しかし,このように取付台部の後面を取付台部の突出方向と同様の傾斜とする構成は,以下の刊行物の記載によれば本件特許出願当時に周知の技術であったというべきである。 a本件特許出願前に頒布された刊行物である実開平3-54629号公報(乙75)には,以下の記載がある。 ・「 従来の技術)従来,例えばスイミング用ゴーグルとしては, (従来例Tとして第12図に示すようなものがある(米国特許第4468819号明細書 。これは,左右一対のゴーグル本体60,6 )0間に,可撓性を有する平面視U字状の連結部材61が配置され,前記各ゴーグル本体60の対向側端部に,連結部材61を取付ける取付部62が設けられている。そして,この取付部62には挿通孔63が形成され,取付部62の両側には複数個の突部64が設けられ,この突部64を選択的に挿通孔63に係止させることにより,ゴーグル本体60間の間隔を調整するものである(同公報3頁。」11行ないし4頁2行)・さらに,上記実施例の図面には,取付部62がゴーグル本体から対向内側に斜め前方に突出しており,かつその挿通孔63が形成されている取付部が上面視で傾斜しており,挿通孔は顔面に向かって垂直になるために,取付部62に対しては垂直ではなく傾斜して貫通している構成が記載されている。また,取付部62の後面は,取付部の突出方向と同様の傾斜面となっている。 b本件特許出願前に頒布された刊行物である実開平2-131468号公報(乙76)には,以下の記載がある。 ・「ブリッジ5は第3図に示すように,眼鏡基板2より突設された橋桁51を有しており,前記橋桁51の先端部に弾性体のブリッジ5が取付けられた構造になっている(同公報5頁11ないし1 。」4行)・第3図には,本件特許発明4における取付台部に相当する「橋桁51」が記載されており,本件特許発明4における鼻ベルトに相当する「ブリッジ5」の取付部分は,傾斜している構成が記載されている。また,橋桁51の後面は,橋桁51の突出方向と同様の傾斜面となっている。 したがって,引用発明2に上記周知技術を適用して,その取付台部の後面を取付台部の突出方向と同様の傾斜面とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項ということができる。 (エ)そうすると,傾斜した取付台部に設ける棒状突起の角度をどのように設定するかが問題となるが,鼻ベルトによってアイカップには対向内側に引っ張る力が作用することは自明であり,取付台部に垂直に設けたのでは,鼻ベルトが抜けやすくなることも自明である。 そこで,使用中に鼻ベルトがアイカップから外れることを防止するという課題が発生するが(なお,かかる課題がゴーグル一般に共通する普遍的な課題であることは,既に判示したとおりである,係止部を抜。)けにくくするための方法として,係止部を,係止部にかかる引張力と反, 。 対側に向けて鋭角に構成することは 古くから見られる周知技術であるすなわち,実開昭50-112331号公報(乙78)には,考案の名「」 , 称を バツクル とする考案に関するバックルの図面が記載されておりその第2図及び第3図には,バックルの裏面の側縁中央に突起を設け,その突起をベルト穴が引っ張られる方向と反対側に傾斜させて設ける構成が記載されている。その他,バックルに関する技術事項として同様の内容の考案が,複数出願され公開されている(実開昭55-32186号公報〔乙79 ,実開昭55-179510号公報〔乙80。これ 〕 〕), , らの公開時期及び技術内容によれば バックルに関する上記技術事項は本件特許出願時には周知技術であったと認めるのが相当である。 そして,張力が働く関係にあるゴーグルの鼻ベルトとアイカップの連結部材と,ベルトのバックルとは,技術分野として同一とまでいうことはできないものの,その技術内容は本件特許出願当時においても普遍的な常識に近いものであり,その適用される技術分野の範囲を広く認めて差し支えのないものというべきである。そして,ゴーグルに関する当業者であれば,傾斜する取付台部に棒状突起を設けた場合,取付台部に垂直に棒状突起を設けたのでは,鼻ベルトの対向内側に働く引張力によって,鼻ベルトが容易に抜ける事態が生じてしまうことや,これを防ぐた,, めに引張力が作用する方向とは反対側に棒状突起を傾斜させ すなわち棒状突起の中心軸線を取付台部の後面に対してアイカップの周壁部側において鋭角をなす構成を採用することは,容易に想到することができるものというべきである。 ウまた,本件特許発明4に上記構成を採用することによって得られる効果も,上記各引用発明に上記周知技術を組み合わせた場合に想定される効果の範囲内である。原告は,上記各引用発明には,本件特許発明4に係る効果を示唆する記載がないと主張するが,使用中にアイカップと鼻ベルトが抜けないようにするとの課題は,ゴーグル一般に共通する普遍的課題であるから,かかる課題を解決するために,従来技術に存在する構成を組み合わせることは当業者であれば通常行うことであって,それによって,予想できなかったような効果を奏する場合であればともかく,かかる顕著な効果があるとは認められない本件特許発明4について,進歩性が欠如していることは前記認定のとおりであって,原告の主張は採用できない。 エ以上によれば,本件特許発明4は,当業者であれば,引用発明2に引用,(,,,,,, 発明4 さらに上記各周知技術 乙10 32 39 75 76 7880)を適用することにより,容易に想到することができたものである。 また,本件特許発明4の作用効果は,引用発明3に引用発明4及び上記各周知技術を適用することによって予想される範囲のものである。 よって,本件特許発明4は,進歩性に欠け,特許法29条2項により特許を受けることができないものというべきである。 (4)以上によれば,本件特許4は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原告は,同特許に係る特許権に基づいて権利行使をすることができない(特許法104条の3 。)10争点1-14(本件特許5には進歩性欠如の無効理由があるか)について(1)本件特許発明5と引用発明3を対比すると,本件特許発明4と引用発明3の一致点及び相違点のほかに,本件特許発明5が「前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる係止突部が設けられ(構成要件O「前,」),記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され(構成要件P)及び「前記係合孔は該鼻ベルトの両端部の前後面 ,」,」(),「 , に対して傾斜して設けられ構成要件Q該鼻ベルト両端部の前面が前記取付台部の後面に面接触し(構成要件R「該鼻ベルト両端部の後 ,」),面が前記係止突部に係止されていることを特徴とする請求項4記載のゴーグル(構成要件S)との構成を備えるのに対し,引用発明3はそのような 。」構成を備えない点で相違する(以下 「相違点7」という。 ,。)(2)相違点5及び同6については,既に前記9において判示したとおり当業者が容易に想到し得たものであるから,以下,相違点7について検討する。 ア構成要件Oについて(ア)本件特許発明5の構成要件Oの「係止突部」は 「前記後面と略平,行になる」ものであるところ,前記8のとおり「前記後面」とは「取付台部の後面」を意味し,係止突部は棒状突起の先端部外周に取付台部の後面と平行な角度で,鼻ベルトと係わり合って止めるために突出した部分をいうものである。 そして,構成要件Oにおける「棒状突起」の意義は,取付台部の後面に,顔面に向かって斜めに突出するように設けられており,当該取付台部の後面を基準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜したものを意味すると解することができることは,前記8のとおりである。 構成要件Sは「該鼻ベルトの両端部の後面が前記係止突部に係止されている」というものであるから,構成要件Oの「係止突部」は,鼻ベルトが係止するために設けられた突部であるということができる。 そして,取付台部は 「レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに ,突出するように設けられ」ているため(構成要件M ,その後面も,傾)斜しているものであるところ,上記のとおり棒状突起が当該取付台部の後面を基準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜しているものであることによれば,係止突部も,棒状突起の先端部に突起中心軸線に対して鋭角に傾斜したもの,すなわち,本件特許発明1の構成要件Eの構成を備え,かつ取付台部の後面と略平行になるものと認められる(つまり,本件特許発明1の「係止突部」とは異なり,本件特許発明5の「係止突部」は,被告が主張する別紙図4の形状を含まないこととなる。。)そして,構成要件Oにおける係止突部は,上記構成を備えることによって,アイカップと鼻ベルトが使用中に外れることなく,かつ,その連結・分離が容易となるものである(本件明細書段落【0006。す】)なわち,棒状突起の中心軸線に対して鋭角に,かつ取付台部の後面と略平行に傾斜する係止突部を設けるとの構成を備えることによって,本件特許発明5に係るゴーグルは,ゴーグル装着時は引張力の作用によって抜けにくいにもかかわらず,非装着時においては鼻ベルトの脱着が容易であるとの効果を奏するものである。 そして,本件各証拠によっても,上記のように構成された係止突部を備える発明は,本件特許出願当時には見当たらない。 イ構成要件Pについて構成要件Pに係る構成が採用された理由は,本件明細書の記載によっても,必ずしも明らかではない。 もっとも,本件各特許発明における鼻ベルトのように,接する面に対して略平行に形成する構成は,既に引用発明4の連結帯に関する構成として開示されている。すなわち,引用例2(乙10)には 「ところで,従来,の上記ゴーグル1は,連結帯6がその係合突起6bをブラケット4の係合孔5に係止させているだけであるから,外れ易いうえ弯曲させた状態で着用するので着用が面倒で,連結帯6の端部が背部に延びて外観を損なうなどの問題がある(同公報4頁18行ないし5頁3行。判決注,なお, 。」引用例2における従来技術として記載されているゴーグルに係る第29図と,本件特許公報の従来技術に関する図面として記載されている図15とは,アイカップと鼻ベルトの連結構造に関してはほぼ同一の図面である。 ちなみに,引用例2に係る特許の出願人は原告である )と,本件各特許。 発明に関する課題の中でも鼻ベルトに関する課題と同一の課題が記載されている。その上で,上記課題を解決する構成とその作用に関して 「本考,案によれば,ゴーグル本体12のブラケット15に連結帯16を取付ける場合,第14図Al〜liに示すように,連結帯16の係合孔29が,ブラケット15の係合片20の先端部に嵌まるまで,連結帯16端部を指先で押し込み,次いで,連結帯16の他端部を前方へ回し,連結帯16の背面に係止突起23が係止するまで前方へ引張ることによって,連結帯16, 。, を係合片20の基部に嵌合させ 容易に装着することができる このとき連結帯16はその前面がブラケット15の前面15aと略平行になると共に,背面が係止突起22,23によって係止され (同公報6頁15行な 」いし7頁5行)と記載されており,かつ,連結帯16の形状については,「前記連結帯16は,第10図及び第11図に示すように,可撓性を有しかつ伸縮不能な合成樹脂材により一体的に成形され,中央部が前方に突出されて両端の連結耳部16aに係合孔29が設けられると共に,該耳部16aの先端部は幅が狭くされ,装着時に指先で押動しうるようになっている。30は材料節減用の凹部である(同公報10頁10ないし16行) 。」と記載されている。 このように,可撓性はあるが伸縮不能な合成樹脂で製造されている連結帯16の耳部の前後面が,装着時にはブラケット背面(15b)に略平行に形成されていることは,引用例2の第8図より明らかであり,当業者であれば,引用例2の記載によって十分認識可能である。 さらに,証拠(乙76)によれば,実開平2-131468号公報の第3図には,本件特許発明4における取付台部に相当する「橋桁51」が記, 「」 載されており 本件特許発明4における鼻ベルトに相当する ブリッジ5の取付部分は,傾斜している構成が記載され,橋桁51の後面は,橋桁5,,, 1の突出方向と同様の傾斜面となっており かつ ブリッジ5の前後面は橋桁51の傾斜面後面に対して略平行な傾斜面に形成されている構成が記載されていることが認められる。 よって,上記従来技術によれば,本件各特許発明における「鼻ベルト」の両端部の前後面を,その体裁を良くするために,その接する面(本件特許発明5における「取付台部 )と略平行に形成することは,従来からあ 」る周知の技術ないし設計事項であるということが可能であり,さらに鼻ベルトの両端部の前後面を傾斜面に形成することは,上記乙第76号証に記載されている。 したがって,本件特許発明5における,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている「取付台部の後面」に,アイカップと連結するために設ける鼻ベルトを係止させる場合に,その端部の前後面を「取付台部の後面」と略平行な傾斜面に形成することは,当業者であれば,容易に想到し得る設計事項であるというべきである。 ウ構成要件Qについて構成要件Qの「鼻ベルト」は,構成要件Pの「鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され」との構成を備える鼻ベルトである。そして,本件特許出願前の刊行物である実開平3-54629号公報に記載された実施例の図面には,取付部62がゴーグル本体から対向内側に斜め前方に突出しており,かつその挿通孔63が形成されている取付部が上面視で傾斜しており,挿通孔63は取付部62に対して垂直ではなく顔面に向かって垂直になるように傾斜して貫通している構成が開示されている(乙75 。)このように,取付部が斜め前方に突出しているときに,連結部材を取付部に対して垂直以外の方向に挿通するに際して,その挿通孔を連結部材が挿通される方向に一致させれば,挿通孔が取付部の前後面に対して傾斜して設けられるのは,自明のことである。 よって,構成要件Qについては,当業者であれば適宜選択し得る設計事項であるといわざるを得ない。 エ構成要件Rについて構成要件Rのように,鼻ベルトの両端部の前面が,取付台部の後面に面接触するとの構成は,前記5(2)のように,引用発明3と引用発明4を組み合わせれば,取付台部の後面に引用発明3における連結軸35,35が設置されることになるから,当然,アイカップ30,30の裏面が,ジョイント32の前面と面接触することになるということはできる。 しかし,本件特許発明5における取付台部とは,取付台部がレンズ前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられ(構成要件M ,そ)の取付台部の後面に対して 棒状突起は 周壁部側において鋭角をなし 構 ,, ()。, , 成要件N ているものである また 本件特許発明5における鼻ベルトはその両端部の前後面は,取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され(構成要件P ,さらに鼻ベルトに設けられた係合孔は,鼻ベルトの両端部の )前後面に対して傾斜して設けられる(構成要件Q)ものである。そして,「該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接触し 」との,構成(構成要件R)を採用することによって,鼻ベルト両端の厚みと前記取付台部の後面とそこに突設された棒状突起先端部外周に形成した係止突部までの内法が略一致することとなるものである。 このような取付台部8と鼻ベルト両端部3Aの構成を採用することによって,本件特許発明5は,ゴーグル使用時には,本件特許公報図5に示されているように,アイカップ2と鼻ベルト3には,弾性バンド4の張力がFAで示す方向に作用し,突起係合孔13の各外端側が,アイカップ2の取付台部8と棒状突起10との間に押し込められ(つまり,鼻ベルトが,ゴーグル前面の方向に押し込められることとなる,その結果,ゴーグ。)ル1の使用中は,突起係合孔13から棒状突起10が抜け出して,アイカップ2と鼻ベルト3が分離することはないという効果を奏するものである(本件明細書段落【0015。】)他方,引用発明3にも,引用発明4にも,鼻ベルトの両端部の前面を,傾斜している取付台部の後面に面接触させるという構成について示唆するものはなく,したがって,弾性バンドの張力がアイカップと鼻ベルトに作用する結果,鼻ベルトがゴーグルの斜め前方向に押し込められる効果を示唆する記載はない。 また,他に,本件特許出願当時,鼻ベルトの両端部の前面が面接触し,かつ鼻ベルトがゴーグルの斜め前方向に押し込められるとの効果が開示された先行技術が存在したと認めるに足りる証拠はない。 よって,構成要件Rについては,これを備える先行技術は見当たらず,本件特許発明5は,構成要件Rに係る構成を備える点において,新規性があり,かつ進歩性があると認めることができる。 オ構成要件Sについて構成要件Sの鼻ベルト両端部の後面が係止突部に係止されているとの構成は,引用発明4に備えられている。 カ本件特許発明5の奏する作用効果について上記アないしオによれば,本件特許発明5は,構成要件O及び同Rの構成を備える点で新規であり,かつ,その効果においても,構成要件Oを備えることによって,アイカップと鼻ベルトが使用中に外れることなく,かつ,その連結・分離が容易になり,同Rを備えることによってフィッティング自由度の向上を図るとの従来技術から予想することのできない効果を奏するものである。 (3)以上によれば,本件特許発明5は,本件特許出願当時において,当業者が容易に想到することができたということはできない。 よって,本件特許5は,特許無効審判により無効にされるべきものであると認めることはできない。そこで,以下,被告製品が本件特許発明5の技術的範囲に属するか否かについて検討を進めることとする。 11争点1-1(被告製品の技術的構成)について(1)争いのない事実被告製品が,別紙被告物件目録添付図面第2図及び第14図を除いた同目録の図面の構成を備えることは,当事者間に争いがない。 (2)証拠(乙23,50)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は上記(1)の各図面に加えて,被告製品の正面図として,別紙イ号物件目録添付図面図10の構成を備えるものと認めるのが相当である。 よって,本件特許発明5に対応する被告製品の構成は,以下のとおりと認められる(なお,用語については,原則として原告主張の用語例に従うものとする。。)h左右一対の硬質プラスチック製のアイカップ(2a,2b)と,該両アイカップを連結する弾性材料により成形された鼻ベルト(3a)と,前記()。 両アイカップの対向外端部相互を接続するゴムバンド 4a とから成るi前記両アイカップ(2a,2b)の左右対向内側には前記鼻ベルト(3a)の取付台部(8a,8b)が突設され,鼻ベルト取付台部に前記鼻ベルトの両端部が取り付けられている。 j前記鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面側(接眼側)に断面略円形の棒状突起(10a,10b)が設けられている。 k前記鼻ベルト(3a)の両端部に,前記棒状突起(10a,10b)が相対回動可能に嵌合される貫通孔(31a,31b)が設けられている。 l前記アイカップ(2a,2b)は,前面のレンズ部と,該レンズ部の周縁から後方に突出する周壁部(7a,7b)とを備えている。 m前記アイカップ(2a,2b)の鼻ベルト取付台部(8a,8b)は,レンズ部の前面よりも前方に向かって斜めに突出するように設けられている。 n前記棒状突起(10a,10b)は,鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面(接眼側)に対して,前記周壁部(7a,7b)側において鋭角をなしている。 o前記棒状突起(10a,10b)の先端部外周に鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面と略平行になるフック部(11a,11b)が設けられている。 p前記鼻ベルト(3a)の両端部の前後面は,前記鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面と略平行な傾斜面に形成されている。 q前記貫通孔(31a,31b)は該鼻ベルト(3a)の両端部の前後面に対して傾斜して設けられている。 r該鼻ベルト(3a)の両端部の前面に滑りリブ(32a,32b)が形成されており,同滑りリブが前記鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面に面接触している。 s該鼻ベルト(3a)の両端部の後面が前記フック部(11a,11b)に係止されている。 12争点1-3(構成要件Nの充足性)について構成要件Nの意義は,前記7のとおり 「アイカップ取付台部の後面に,顔 ,面に向かって斜めに突出するように設けられており,当該取付台部の後面を基準として,アイカップの周壁部側の角度が鋭角に傾斜したもの」を意味すると解するのが相当である。 そして 被告製品の構成nは その機能 構造に照らせば 前記棒状突起 1 ,,,「(0a,10b)は,鼻ベルト取付台部(8a,8b)の後面(接眼側)に対して,前記周壁部(7a,7b)側において鋭角をなしている 」であり,被告。 製品の構成nの「棒状突起「鼻ベルト取付台部の後面「周壁部側」は, 」, 」,それぞれ本件特許発明4の「棒状突起「取付台部の後面「周壁部側」に 」,」,相当する。 よって,被告製品は構成要件Nを充足する。 13争点1-4(構成要件Rの充足性)について構成要件Rは 「該鼻ベルトの両端部の前面が,前記取付台部の後面に面接 ,触し 」というものであるところ,証拠(甲48)によれば,被告製品におけ ,る鼻ベルトの取付台部の後面に位置する,鼻ベルト前面端部には,カマボコ形の滑りリブが形成されていることが認められる(このことは被告も認めている。さらに,被告製品の取付台部は硬質プラスチック製であり,鼻ベルト 。)は弾性材料により成形されていることは,当事者に争いがないところ,カマボコ形の滑りリブが弾性材料により成形されているため,鼻ベルト前面端部が取付台部の後面に接触する際にも,厳密に点で接触しているというよりは,やや幅のある面でもって接触しているものと認めるのが相当である。 被告は,被告製品の両端部の前面(別紙被告物件目録にいう滑りリブ32a・32b)は,取付台部(8a・8a)の後面に点接触するにすぎないと主張するが,上記説示に照らし採用できない。 よって,被告製品は構成要件Rを充足する。 14争点1-5(構成要件Oの充足性)について構成要件Oの「前記後面」は,構成要件Jの「取付台部の後面」を意味することは,前記10(2)ア(ア)のとおりである。 また 「後面と略平行になる係止突部」の意義も,前記2において判示した ,とおり,係わり合って止めるために設けられた突出した部分であって,その形状は,棒状突起の先端部に設けられており,その成形角度については,係止突部の突出する方向が取付台部の後面に沿う方向とおよそ一致することを意味する。 そして,別紙被告物件目録添付図面第5図の符号11aのフック部は,上記係止突部に該当する。そして,このフック部11aは,棒状突起10aの先端部外周に設けられている。 よって,被告製品は,構成要件Oを充足する。 15争点1-16(公知技術の抗弁)について被告は,被告製品は別紙被告物件目録記載の技術的構成@を基本的骨組みとして,これに引用例1ないし6に開示された当業者に周知の公知技術と製造元が特許出願することなく公知にした技術的工夫とを加味して製作されたものであるから,かかる公知技術を用いた被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に。, , 属しないと主張する 被告の同主張の趣旨は 必ずしも明らかではないものの被告製品は上記各引用例で開示された公知技術を用いたものであるから,いわゆる公知技術の抗弁(自由技術の抗弁)を主張するものとも解される。 そして,そもそもかかる抗弁が許容されるか否かはともかくとして,本件特許発明5が公知技術と対比して新規でかつ進歩性を有する発明であることは,前記10で判示したとおりであり,被告製品がこのように新規でかつ進歩性を有する本件特許発明5の構成要件をすべて具備する以上,同特許発明の技術的範囲に属するものというべきである。 16争点1-15(出願経過禁反言の法理の適用の有無)についてなお,被告は,出願経過禁反言の法理により,削除された請求項に係る技術事項は本件特許発明の技術的範囲から除外されたものであると主張する。 前記前提事実(7)のとおり,原告は,平成14年8月30日に本件分割出願をした後,平成17年9月30日,本件親出願について拒絶理由通知を受け,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7については特許法29条2項により特許を受けることができないと記載されていたため,同年11月9日提出の手続補正書において同各請求項を削除し,平成18年1月6日に本件親出願について特許権の設定登録を受けたものである。このように,上記補正は,本件親出願に関するものであって,本件分割出願に係る本件各特許発明についてではない。そして,本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7が本件各特許発明と同一であると認められないことは,前記のとおりであるから,原告が本件親出願の特許請求の範囲請求項4ないし7を削除したことにより,原告が本件各特許発明を意識的に除外したものとはいえないというべきである。 よって,この点に関する被告の主張は採用できない。 17本件意匠権に基づく差止請求等に関する判断の大要当裁判所は,被告意匠は本件登録意匠に類似せず,被告製品の製造販売は原告の有する本件意匠権を侵害するものではないと判断する。その理由の詳細は下記のとおりである。 18争点2-1(被告意匠は本件登録意匠と類似するか)について(1)本件登録意匠の構成証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠は別紙本件意匠公報記載のとおりであり,その構成は以下のとおりであると認められる。 ア本件登録意匠の基本的構成態様, , @左右一対のアイカップと 両アイカップを互いに連結する鼻ベルトと両アイカップの目尻側の対向外端部に設けられたバンド挿通孔同士を互いに接続する弾性バンドとから成る。 A左右一対のアイカップは,レンズ部とその周縁から後方(接眼側)に突出する周壁部を備えている。 イ本件登録意匠の具体的構成態様, , B左右一対のアイカップのレンズ部は 正面視横長の略楕円形状でありその縦横の長さの比率は,それぞれ約5対7である。 C同レンズ部の周縁から後方(接眼側)に周壁部が突出しており,周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,対向外端部を除く部分は略直角である。同周壁部の後部端縁にはフランジが形成されているところ,同フランジは,着用者の顔面眼窩部分に直接密着するように対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている。 D同周壁部は,鼻ベルト方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベルトの両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット)を形成している。 E同周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように外方に向かって細くなり,その先端部において鋭角的な曲面を形成しており,その結果,側面視で1頂点が鋭角的な曲面である略二等辺三角形を呈している。レンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約1対2である。 F同周壁部の対向外端部には,上下方向に弾性バンドが挿通する縦長のバンド挿通孔が設けられている。 G鼻ベルトは,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台, 。,, 部の後側に位置し これと連結して固定されている また 鼻ベルトは正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブを描いている。その結果,左右一対のアイカップは,正面視で,取付台部及び鼻ベルトを介して一連の連続する緩やかな曲線を描く横長のダンベル形状をなしている。 H弾性バンドは,着用時に後頭部に当接する中間部と両端部が平坦な帯状であり,側頭部に当接する他の中間部が断面丸形ひも状であり,平坦な帯状の両端部はそれぞれ両端が丸みを帯びた横長の留め具に通され,断面丸形ひも状の中間部は前記弾性バンド挿通孔に通されている。上記中間部は,バンド挿通孔に上下2段に分岐して2段ループを形成し,後頭部に配設した留め具において着用者の頭回りのサイズに合わせて調節可能にしている。 (2)被告意匠の構成(各部位に付された記号は,別紙被告物件目録添付図面に表記されたものである )。 前記前提事実によれば,被告製品は,別紙被告物件目録添付図面第1図,第3図ないし第13図,第15図ないし第19図記載のとおりであり,その意匠(被告意匠)の構成は,以下のとおりと認められる(なお,用語については,原則として原告主張の用語例に従うものとする。また,本件登録意匠と相違する部分には下線を施すこととする。。)ア被告意匠の基本的構成態様(,) ,(,) @左右一対のアイカップ 2a 2b と 両アイカップ 2a 2bを互いに連結する鼻ベルト(3a)と,両アイカップの対向外端部に設けられたバンド挿通孔(2e,2f)同士を互いに接続する弾性バンド(4a)とから成る。 A左右一対のアイカップ(2a,2b)は,レンズ部(6a,6b)とその周縁から後方に突出する周壁部(7a,7b)を備えている。 イ被告意匠の具体的構成態様B左右一対のアイカップ(2a,2b)のレンズ部(6a,6b)は,正面視横長の略楕円形状であり,その縦横の長さの比率は,それぞれ約5対7である。 (,)()(, C同レンズ部 6a 6b の周縁から後方 接眼側 に周壁部 7a),(,)(,) 7b が突出しており 周壁部 7a 7b のレンズ部 6a 6bに接する角度は,対向外端部が鈍角,対向外端部を除く部分が略直角である。同周壁部(7a,7b)の後部端縁にはフランジが形成されており,同フランジには,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしているとともに,着用者の顔面眼窩部分に密着するようにパッド(7c,7d)が嵌着されている。同パッド(7c,7d)は,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質部材により中腹部が断面略U字状に湾曲するように溝型を呈する環状ジャバラ形に成形されており,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている。パッド(7c,7d)は,背面視のみならず正面視も肉厚の弾力性があることが見て取れる。 D同周壁部(7a,7b)は,鼻ベルト(3a)方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベルト(3a)の両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット,8a,8b)を形成している。 E同周壁部(7a,7b)の対向外端部は,外方に向かって細くなっているが,その先端部において鋭角的な曲面を形成しておらず,側面視で, 。 略半円状を呈するように その外端部が緩やかなアールを形成しているレンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約5対9である。 F同周壁部(7a,7b)の対向外端部には,斜め前後方向に弾性バンド(4a)が挿通する縦長のバンド挿通孔(2e,2f)が設けられている。 G鼻ベルト(3a)は,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置し,これと連結して固定されている。また,鼻ベルト(3a)は,正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より, 。, 中間部が狭くなるように 上下縁が緩やかにカーブを描いている なお被告意匠は 「左右一対のアイカップは,正面視で,取付台部及び鼻ベ ,ルトを介して一連の連続する緩やかな曲線を描く横長のダンベル形状をなしている 」との本件登録意匠の構成を備えていない。 。 H弾性バンド(4a)は,全体が帯状であり,両端部がそれぞれ両端が丸みを帯びた2個の縦長の留め具(4b,4c)に通されるとともに,前記バンド挿通孔(2e,2f)に通され,1本締めの鉢巻きループを形成し,側頭部付近に配設した留め具(4b,4c)において着用者の頭回りのサイズに合わせて調節可能にしている。 ウ補足説明本件登録意匠及び被告意匠の各構成に関する当事者の主張にかんがみ,当裁判所の上記認定について補足説明をしておく。 (ア)原告a原告は,被告意匠の周壁部の対向外端部は略V字状の輪郭を有すると主張する。しかし,争いのない別紙被告物件目録添付図面第1図,第18図及び第19図によれば,上記(2)E認定のとおり,被告意匠の周壁部(7a,7b)の対向外端部は,外方に向かって細くなっているが,その先端部において鋭角的な曲面すなわち略V字状の輪郭を形成しておらず,側面視で略半円状を呈するように,その外端部が緩やかなアールを形成しているというべきであるから,原告の上記主張は採用できない。 bまた,原告は,被告製品のパッドはアイカップから着脱可能と主張する。しかし,証拠(乙23)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,パッドが嵌着された状態で販売されていることが認められるところ,被告製品がその通常の使用態様の下で,パッドをアイカップから取り外して使用することを予定していると認めるに足りる証拠はない。かえって,後記認定の被告製品の販売態様,価格等や対象年齢を考慮すれば,被告製品がパッドを取り外した状態で使用することを予定した商品ではないと認められる。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (イ)被告他方,被告は,被告提出の図面である別紙被告物件目録添付図面第2図及び第14図においては,鼻ベルトは正面視においてその上下端がほ,(,) ぼ平行であるように表示されているが 証拠 乙23の第2図 第3図によれば,被告製品の鼻ベルトは,上下方向の幅が長手方向両端部より中央部が狭くなるように,上下端が緩やかにカーブしていることが認められる。したがって,鼻ベルトは,別紙イ号物件目録添付図面図8及び図10に基づいて表示するのが相当である。 (2)本件登録意匠の要部アところで,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するところ,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。 ,, 。 イそこで まず 本件登録意匠の要部がどこにあるのかについて検討する(ア)証拠(甲31,35,40,49の1ないし3,50の1・2,51の1ないし3,52,乙17)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ,「」。 a本件登録意匠は 意匠に係る物品を 水中眼鏡 とするものである水中眼鏡とは 「水中で目をあけていられるように用いる眼鏡 (広 , 」辞苑第5版)を意味するが,通常は,プール等において水泳を行う際に眼窩部分を覆うように顔面に装着して着用するものである。 b水中眼鏡は,その用途に応じて,競泳用のものから子供用のものまで種々のものがある。これらは,いずれも主としてスポーツ用品店等において,プラスチックケース等に収納された状態で,店頭に陳列して販売されることが多いが,低価格品についてはホームセンターや100円ショップ等において,プラスチックケースや,より簡易な透明, 。, の包装を施されて 店頭に陳列されて販売されることもある ただしショッピングセンター内のスポーツ用品店は,100円ショップ等と隣接していることも多い。この種の水中眼鏡は,いずれも店頭に陳列して販売されることがほとんどであり,需要者(一般消費者)は,これを陳列された状態で,又は商品を手にとってその形状等を観察して商品の選択をする。 c水中眼鏡の宣伝広告の態様は,パンフレットのほか,雑誌・インターネットを媒体とするものであるが,そこに表示されている商品たる水中眼鏡は,以下のとおり,正面又は左右斜めやや上方から撮影したものが掲載されることが多い。 (a)原告の水中眼鏡を紹介した商品パンフレット(甲31)には,水中眼鏡を平面上に置き,これを向かって右斜めやや上方から撮影した商品が掲載されている。 (b)被告の水中眼鏡を紹介したウェブサイト(甲35)には,水中眼鏡を収納ケースとともに平面上に置き,これを正面又は正面やや下側から撮影した商品が掲載されている。 (c)原告の水中眼鏡を紹介した商品パンフレット(甲40)には,主として,水中眼鏡を向かって左斜めやや上方から撮影した商品が掲載されている。 (d)原告の水中眼鏡を紹介した商品パンフレット(甲52)には,水中眼鏡を平面上に置き,これを向かって右斜めやや上方から撮影した商品が掲載されている。 (e)「SWIMMING&WATERPOLOMAGAZINE」1996年3月号(乙17)には,原告の水中眼鏡(本件登録意匠の実施品であるかどうかは争いがある )には,水中眼鏡を平 。 面上に置き,これを向かって右斜めやや上方から撮影した商品が掲載されている。 (イ)以上の認定事実によれば,次のようにいうことができる。 a水中眼鏡は,通常,プール等において水泳を行う際に眼窩部分を覆うように顔面に装着して着用するものであって,需要者は,これを着用した際の見栄えの良さのほか,顔面とのフィット感など装着した際の具合の良さ(装着感)を重視するものと考えられる。また,その販売態様は,成人用であれ子供用であれ,いずれもスポーツ用品店等の店頭に陳列されることがほとんどであり,需要者(一般消費者)は,これを陳列された状態で,又は商品を手にとってその形状等を観察して商品の選択をするものといえる。その他,水中眼鏡の上記使用態様及び機能や宣伝広告の態様等を考慮すると,需要者は,主として,その正面又は左右やや斜め方向から見たアイカップの形状,あるいはアイカップと鼻ベルト等を全体として見た場合の統一的形状を重視するとともに,装着感の良否の観点からは,顔面に直接接することになる各アイカップのフランジ部分ないしこれに嵌着されたパッド部分に着目して商品の選択をするものというべきである。 bそして,本件登録意匠において,上記各部分がいかなる具体的構成を有するかをみると,まず,アイカップについては,前記認定のとおり,左右一対のアイカップのレンズ部は,正面視横長の略楕円形状であり,その縦横の長さの比率は,約5対7であり,同レンズ部の周縁から後方(接眼側)に周壁部が突出しており,周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部は鈍角,対向外端部を除く部分は略直角であって,同周壁部の後部端縁にはフランジが形成されているところ,同フランジは,着用者の顔面眼窩部分に直接密着するように対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている。そして,同周壁部は,鼻ベルト方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベルトの両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット)を形成している,他方,鼻ベルトは,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置し,これと連結して固定されている。また,鼻ベルトは,正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブを描いている。その結果,左右一対のアイカップは,正面視で,取付台部及び鼻ベルトを介して一連の連続する緩やかな曲線を描く横長のダンベル形状をなしている。同周壁部の対向外端部は,略V字状の輪郭を有するように外方に向かって細くなり,その先端部において鋭角的な曲面を形成しており,その結果,側面視で1頂点が鋭角的な曲面である略二等辺三角形を呈している,レンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約1対2である。 本件登録意匠は,これらの具体的構成態様を備える結果,その正面から見たアイカップの形状が鼻ベルトの形状と一体となって,全体として横長の流れるような流線形をなし,この流線形は途中で途切れることなく,周壁部の対向外端部まで及び,その先端が略V字状の輪郭を有するように外方に向かって細くなり,その先端部において鋭角的な曲面を形成しているのであって,全体として,シャープでスポーティ感があり,かつ,スマートな美感をもたらしている。また,本件登録意匠における各アイカップのフランジ部分は,正面視で,上記のとおりアイカップと鼻ベルトの形状が一体となって全体として横長の流れるような流線形状に対応し,その美感を損なわないスマートな美感をもたらしている。なお,本件類似意匠2は,フランジ部分にパッドが嵌着されているが,それにもかかわらず上記流線形状からもたらされるスマートな美感を損なわない形状とされていることが認められる。 cそして,いずれも本件登録意匠の出願前公知意匠であると認められる甲第14号証 意匠登録第738340号公報甲第28号証 意 ( ),(匠登録第733380号公報 ,甲第29号証(実開昭62-145 )658号公報 ,甲第31号証(原告が旧社名「山本防塵眼鏡株式会 )社 時代である昭和55年8月以前 甲30 に発行したカタログ S 」 ()「wimmingGoggles,甲第32号証(米国特許第3 」)944345号公報)の第1図,甲第33号証(実開昭52-158),( ), 500号公報甲第34号証 米国意匠特許第350496号公報乙第21号証(実開昭53-153700号公報)中の第1図,第2図,乙第31号証(実開昭56-95260号公報)中の第1図,乙第32号証(実開昭62-145657号公報)中の第1図ないし第,( ), 4図 乙第33号証 実開昭63-160818号公報 中の第1図乙第34号証(特開昭63-260578号公報)中の第1図,乙第35号証(実開平2-37669号公報)中の第1図,第4図,乙第36号証 実開平6-29555号公報 中の図1 乙第37号証 実 ( ),(開平6-44563号公報)中の図1,図2,乙第38号証(特開平4-144556号公報)の第4図及び乙第39号証(特開平6-190081号公報)中の図2を検討しても,本件登録意匠のような構成を一体として備え,その結果,正面から見たアイカップの形状が鼻ベルトの形状と一体となって,全体として横長の流れるような流線形をなし,この流線形は途中で途切れることなく,周壁部の対向外端部まで及び,その先端が略V字状の輪郭を有するように外方に向かって細くなり,その先端部において鋭角的な曲面を形成していて,全体として,シャープでスポーティ感があり,かつ,スマートな美感をもたらしているものは見当たらないから,本件登録意匠の上記構成は,これらの各公知意匠にない新規で斬新な形状であるというべきであって,需要者の注意を強く惹くものと認められる。 これに対し,本件登録意匠の弾性バンドは,店頭での陳列状況や各宣伝広告の態様にかんがみても,通常はアイカップの後方に隠れて折りたたまれた状態で需要者の目に触れるものであり,被告のいう1本締めか2本締めかを含め,必ずしもその形状が需要者の注意を惹くものとは認められないから,この点は,本件登録意匠の要部を構成しないというべきである。 dしたがって,本件登録意匠の上記(イ)bの各構成が需要者の注意を最も惹く部分,すなわち本件登録意匠の要部であると認められる。 (ウ)aこれに対し,被告意匠の具体的構成は,前記のとおり,左右一対のアイカップ(2a,2b)のレンズ部(6a,6b)は,正面視横長の略楕円形状であり,その縦横の長さの比率は,それぞれ約5対7であり,同レンズ部(6a,6b)の周縁から後方(接眼側)に周壁部(7a,7b)が突出しており,周壁部(7a,7b)のレンズ部(6a,6b)に接する角度は,対向外端部が鈍角,対向外端部を除く部分が略直角である。同周壁部(7a,7b)の後部端縁にはフランジが形成されており 同フランジには 対向外端部に向けて後方 顔 ,,(面側)に湾曲した形状をなしているとともに,着用者の顔面眼窩部分に密着するようにパッド(7c,7d)が嵌着されている,同パッド(7c,7d)は,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質部材により中腹部が断面略U字状に湾曲するように溝型を呈する環状ジャバラ形に成形されており,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている,パッド(7c,7d)は,背面視のみならず正面視も肉厚の弾力性があることが見て取れる,同周壁部(7a,7b)は,鼻ベルト(3a)方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベルト(3a)の両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット,8a,8b)を形成している,他方,鼻ベルト(3a)は,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置し,これと連結して固定されている。また,鼻ベルト(3a)は,正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブを描いている。同周壁部(7a,7b)の対向外端部は,外方に向かって細くなっているが,その先端部において鋭角的な曲面を形成しておらず,側面視で略半円状を呈するように,その外端部が緩やかなアールを形成している。レンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約5対9である,というものである。 bこれを本件登録意匠の上記具体的構成態様と対比すると,まず,左右一対のアイカップのレンズ部が正面視横長の略楕円形状であり,その縦横の長さの比率がそれぞれ約5対7である点,同レンズ部の周縁から後方(接眼側)に周壁部が突出しており,周壁部のレンズ部に接する角度は,対向外端部が鈍角,対向外端部を除く部分が略直角である。同周壁部の後部端縁にはフランジが形成されており,同フランジには,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている点,同周壁部は,鼻ベルト方向に向けて斜め前方へ先細り状に延び出し,鼻ベルトの両端に係合する三角形舌状の取付台部(持出ブラケット)を形成している点及び鼻ベルト(3a)は,長手方向両端部にそれぞれ股開き状に分岐し,中間部は厚肉部に形成された細幅の湾曲部材から成り,中間部の前面は比較的平坦であり,長手方向両端部が後方に向かって傾斜状に延びて前記取付台部の後側に位置し,これと連結して固定されている。また,鼻ベルト(3a)は,正面視において上下方向の幅が長手方向両端部より中間部が狭くなるように,上下縁が緩やかにカーブを描いている点は,本件登録意匠と共通するものの,他面において,着用者の顔面眼窩部分に密着するようにパッドが嵌着されており,同パッドは,柔らかで弾力的な濃色不透明の軟質部材により中腹部が断面略U字状に湾曲するように溝型を呈する環状ジャバラ形に成形されており,対向外端部に向けて後方(顔面側)に湾曲した形状をなしている点,パッドは,背面視のみならず正面視も肉厚の弾力性があることが見て取れる点,周壁部の対向外端部は,外方に向かって細くなっているが,その先端部において鋭角的な曲面を形成しておらず,側面視で略半円状を呈するように,その外端部が緩やかなアールを形成している点,レンズ部と周壁部の対向外端部を合わせたアイカップ全体の正面視縦横の長さの比率は,それぞれ約5対9である点で相違する。上記のような具体的構成における相違点がある結果,被告意匠は,左右の各アイカップの縦横の比率は同じであるものの,とりわけ上記肉厚のパッドが存在し,それが正面視からも肉厚の弾力性があることが見て取れることや,周壁部の対向外端部が外方に向かって細くなっているとはいえその先端部において鋭角的な曲面を形成しておらず側面視で略半円状を呈するようにその外端部が緩やかなアールを形成していることから,正面視において,左右のアイカップは,それぞれ全体としてより丸みを帯びた略円形に近い柔らかな印象をもたらす形状を呈しており,その結果,左右のアイカップと鼻ベルトが一体として流れるような流線形状を呈しておらず,前記各公知意匠に見られるような単に左右の略円形のアイカップを鼻ベルト(ただし,中央部分が狭くなっており,アイカップとの形状の連続性に一定の配慮がされてはいるが)が連結しているだけであるという印象をもたらしていて,本件登録意匠のように,正面から見たアイカップの形状が鼻ベルトの形状と一体となって,全体として横長の流れるような流線形状をなし,シャープでスポーティ感があり,かつ,スマートな美感をもたらしてはいないというべきである。 cもっとも,本件類似意匠2は,被告意匠と同様,アイカップ後方のフランジ部分にパッドが嵌着されているものである。しかし,前記イ(イ)bで認定説示したとおり,本件類似意匠2では,そのようにパッドが嵌着されているにもかかわらず,上記流線形状からもたらされるスマートな美感を損なわない形状とされているのに対し,被告意匠においては,パッドは肉厚で弾力性があり,アイカップとは異なる濃色不透明色とされていることとも相まってその存在が強調され,正面視からも肉厚なパッドが見て取れ,その結果,左右のアイカップがそれぞれ全体としてより丸みを帯びた略円形に近い柔らかな印象をもたらす形状を呈していることが認められるのであって,その美感は本件類似意匠2とも顕著に相違していると認められる。なお,被告製品においてパッドを取り外して使用することが予定されていると認めるに足りる証拠がないことは,前記のとおりである。 (エ)以上のとおり,被告意匠は,本件登録意匠とその要部において顕著に異なるものというべきであり,その結果,本件登録意匠との一致点を凌駕して,これと美感を異にするというべきであるから,本件登録意匠とは非類似であるというべきである。 (3)そうすると,被告製品の製造販売は,本件意匠権を侵害するものではない。したがって,争点2-2(本件登録意匠は登録無効審判により無効とされるべきか)について判断するまでもなく,原告の意匠権に基づく請求は,いずれも理由がない。 19争点3(原告の損害額)について上記のとおり,被告が被告製品を販売する行為は,請求項5に係る本件特許権を侵害するものと認められるので,同特許権侵害に関する損害額について検討する。 (1)特許法102条1項に基づく請求(主位的請求)についてア被告製品の販売数量について証拠(乙40の2ないし7,45ないし48,57,58,59の1,,,,) ,, 60 64 68 70ないし73 及び弁論の全趣旨によれば 被告は自ら被告製品を製造したことはなく,平成16年7月及び平成17年6月に,被告製品を合計26万1792個輸入し,このうち,平成17年4月から同年7月にかけて,合計12万4249個を販売したが,同年10月に被告製品4万3200個を廃棄し,同年11月には取引先である大創から4万4519個返品され,さらに平成18年1月に7万4665個,輸入元へ返品した後,平成18年4月に1万9678個廃棄したことが認められる。 なお,原告は,被告は廃棄数量を示す資料を提出せず,返品数量については主張が変遷しており信用できないとして,被告製品の販売個数を,輸入数量全量である26万1792個であると主張する。しかし,証拠(乙40の5の1ないし3)によれば,被告が輸入元に返品した水中ゴーグルは7万4665個であることが認められる。また廃棄数量については,証拠(乙40の6の1ないし3)によれば,平成17年10月17日及び同月25日に廃棄されたゴーグルについては,同日付けの交付年月日が記入されている「産業廃棄物管理票」の「産業廃棄物」欄では「廃プラスチック類」にチェックが付され 「数量(及び単位 」の欄にいずれも「8□」 ,)と記載されていること,及び,平成18年4月28日に廃棄されたゴーグルについては,同日付けの交付年月日が記入されている「産業廃棄物管理表」の「産業廃棄物」欄には 「廃プラスチック類 「紙くず 「木くず」 ,」」にチェックがついており 「数量(及び単位 」の欄に「8□」と記載さ ,)れていることが認められ,これらによれば,同管理票の書式は,数量ではなく容量(体積)で書くことを許容する書式となっているが,これは廃棄する数量を個別に数える必要性に乏しいことに基づくものであると推認されるところであり,被告が,被告製品の廃棄数量を明確に立証できないことはやむを得ない面があるというべきである。しかし,廃棄数量以外の数量は,特定可能であり,他に,被告が廃棄数量についてあえて事実と異なる報告をしたと認めるに足りる事情は見当たらないことによれば,廃棄数量は上記のとおりであると認めるのが相当である。 イ侵害の行為がなければ販売することができた物について(ア)「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害品と市場において競合し,侵害品が販売されなければその需要が喚起されたであろう特許権者の商品を指す。 被告は,被告製品は本件原告製品とは市場において競合しないから,特許法102条1項は適用されないと主張しているので,以下,本件原告製品が「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するか否かについて検討する。 aスイミングゴーグル市場の状況証拠(乙52)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 スイミング市場の顧客特性は,協議種目としての「レーシング」市,「」,「」 場 健康目的の フィットネス 市場 学校体育としての スクール市場に分けられる。 平成16年におけるスイミングゴーグルの国内出荷額は,1位が株., ., 式会社タバタで構成比29 6% 2位が原告で構成比が17 5%3位がミズノ株式会社で構成比が14.8%,4位が株式会社デサントで構成比が13.7%であり,その他に6社が競合している。 b本件原告製品について証拠(甲36,46,乙74)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (a)平成17年の原告製品のカタログ(乙41)に掲載されている本件特許発明5の実施品は6種類あり,このうち,アイカップにパッドが付されており,かつ弾性バンドの形態が幅広のテープ状の1本締めであるのは本件原告製品のみである。平成18年の原告製品のカタログ(乙74)には,本件原告製品は掲載されていない。 (b)本件原告製品は,フィットネス用のゴーグルであり,かつシリコーンクッションとシリコーンベルトを採用しており,紫外線防止加工,曇止め加工がなされている。販売価格は2000円(本体価格)である。 (c)本件原告製品の材質は,アイカップ及びベルトアジャスターがポリカーボネート,クッション及びベルトがシリコーンゴム,鼻ベルトがエラストマーである。アイカップは度付きレンズに交換可能であり,そのため,アイカップに直接ベルトを連結できず,サイドパーツが付属部品として付いている。 c被告製品について証拠(甲47,48,乙50)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (a)被告製品は,アイカップ周辺にピンク色の大きめのパッドが付いており,弾性バンドの色もピンク色であり,アイカップの色もピンクがかった透明色である。ケースには 「ザスポーツこども」と ,,「() 書かれたシールと カエル型で こども用水中ゴーグル ケース付」 。 頭のサイズ約34p〜49p と書かれたシールが貼付されている被告製品の周方向の長さは,約44pであり,被告が販売している成人用ゴーグルのそれが約54pであるのと比較すると短い。 (b)被告製品は,大創が展開するいわゆる100円ショップである「ダイソー」でのみ販売され,販売価格は100円(本体価格)であった。また 「ダイソー」の大型店にはスポーツ用品売場のある ,店舗もあったが,スポーツ用品売場のない店舗もあり,そのような店舗では玩具売場で売られていた。 また,被告製品はシュリンク包装がされているため,消費者は購入前にケースを開けることができず,被告製品を手に取ってみることができなかった。 (c)被告製品の材質は,レンズがポリスチレン,レンズ裏が塩化ビニル,ストラップがエラストマー,山パーツ(鼻ベルト)がポリブチレンサクシネートカーボネイトである。紫外線防止加工及び曇止め加工はされていない。度付きレンズとの交換はできず,サイドパーツも付いていない。 d上記認定事実によれば,被告製品は,1個100円という通常では想定し難い価格を設定し,かつ,子供を対象とした商品であることを購買者に対する最大のセールスポイントとしたスイミングゴーグルであったということができる。このことからすると,成人が自ら使用するために購入するというよりは,親が子供のために購入することの多い製品であったものと認められる。 他方,本件原告製品は,フィットネス用の製品としての基本性能に加えて,シリコーン素材を使用したり,度付きレンズと交換可能であるなどの付加的な機能も備えた中級品であることが認められる。 以上のとおり,被告製品は,これまで市場で流通していたスイミングゴーグルと比較して圧倒的な低価格を実現したものであったため,その低価格ゆえに,本来,スイミングゴーグルを購入する意思のなかった購買者層を新たに開拓した面があることも否定できない。 しかし,子供用のスイミングゴーグルの購買層の中には,被告製品が存在しなければ,それに代わるものとして,これまで市場に流通していたスイミングゴーグルを購入したであろう購買者層も存在したであろうことが推認される。そのような購買者は,従前スイミングゴーグルが販売されていたスポーツ用品店等において本件原告製品を含む従来商品を選択していたものと想定される。その場合,本件原告製品の本体価格は,原告製品のうち最も安価な子供用ゴーグル(本体価格1000円)の2倍程度であること,本件原告製品は鼻ベルトを3サイズから選択可能であり,ベルトの長さも調節可能であるから,子供が使用することも可能であることを考慮すると,デザイン等の好みや付加的機能により,本件原告製品を選択する者も存在するものと推認される。 そうすると,被告製品が本件原告製品と市場において競合しないと断定することはできない。 (イ)したがって,本件原告製品は,特許法102条1項の「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当すると認めるのが相当である。 ウ原告の実施能力証拠(乙52)及び弁論の全趣旨によれば,原告のスイミングゴーグルの年間国内出荷額は,およそ6億5000万円程度であることが認められる。そして,特許法102条1項の「実施の能力」は,潜在的な実施能力であれば足りると解されるところ,後記エ(ア)aのとおり,本件原告製品1個当たりの出荷額は800円であり,仮にこれを基準に年間出荷数量を算定すると81万2500個となるから,本件原告製品は,被告製品の販売数量である12万4249個程度であれば,追加設備投資などは要せずに増産可能であると認められる。 エ単位数量当たりの利益額について(ア)証拠(甲43,45)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a本件原告製品の出荷価格は,1個当たり800円である。 b原告は,本件原告製品の組立工程を外注しており,その後,自社で曇止め加工を施すなどしている。原価は1個当たり合計386.18円であるが,追加して製造することによって要したであろう追加的費用は,原材料費と外注費であり,その他の経費である労務費,製造間接費(工場の製造設備や建屋の償却費)は,増加することのない経費であると認められる。そして,原材料費は263.80円,外注加工費は31.60円であるから,製造原価は1個当たり295.40円である。 (イ)以上によれば,本件原告製品の限界利益は,1個当たりの出荷額800円から追加的製造販売のための費用295.40円を控除して得ることができる。よって,本件原告製品1個当たりの利益の額は504円である(1円未満切捨て 。)オ特許法102条1項ただし書に該当する事情について(ア)特許法102条1項は,権利者の逸失利益の算定を容易にするために設けられた規定であり,同項本文は,侵害者の譲渡した製品の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者の実施能力の限度で損害額と推定することを規定し,同項ただし書は,侵害者が同項本文による推定を覆す事情を証明した場合には,その限度で損害額を減額することができることを規定したものと解するのが相当である。そして,同項ただ「 」,, し書の 販売することができないとする事情 としては 侵害品の価格侵害品の販売ルート,競合品の存在,侵害品の譲渡数量に占める当該特許発明の寄与度等の事情を考慮することができると解するのが相当であ。 ,, , る この点に関する原告の主張 すなわち 特許法102条1項本文は上記の方法により算出した額を損害額と擬制することを定めた規定であるとして,同項ただし書の「販売することができないとする事情」を限定的にとらえるべきである旨の主張は,採用しない。 (イ)被告製品の譲渡数量の全部又は一部を原告が販売することができないとする事情として,証拠(甲52,乙17,41,49の1,55)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 a侵害品の価格について本件原告製品は,本体価格2000円であり,原告製品は子供用ゴーグルでも1050円ないし1365円であるのに対して,被告製品は,本体価格が100円という極めて安価なものである。 被告製品が本件原告製品と市場において全く競合しないといえない, , , ことは 前記説示のとおりであるが 上記のような価格差からすれば被告製品は子供用の玩具といってもよいものであるから,両製品の市場における競合の程度は極めて低いものと認められる。 b販売ルートの違いについて被告製品は,いわゆる100円ショップ最大手の「ダイソー」で独占的に販売されていた製品である。本件原告製品のように,スポーツ専門店等で販売される場合であれば,購買者は,他のブランドのゴーグルとの機能,性能,価格,デザインにおける差異に着目してこれを購入するかどうかの意思決定をするのが通常であると考えられるが,100円ショップにおいて販売される場合には,消費者は「通常ではわずか100円では購入できない物が購入できる」という意外性を期待して買い物をする場合が少なくないため(乙55,56 ,スポー)ツ専門店等のスポーツ用品売場における消費者(通常は,特定の用品を購入することを志向して来店する消費者)の消費行動とは異なり,上記のような意外性ゆえに購入する消費者も一定数存在するものと推認されるし 「ダイソー」の店舗数の多さによれば,機能以外の面に ,着目して被告製品を購入した消費者も相当数存在していたものと認められる。したがって,被告製品が「ダイソー」で販売されていたという事情は,特許法102条1項ただし書において考慮すべき事情であるということができる(なお,原告は,大創も本件特許権を侵害した共同不法行為者なのであるから,このような事情は考慮すべきではないと主張するが,特許発明を実施したことによる特徴的部分とは異なる事情によって被告製品の販売数が増加したことを考慮してこそ,適正な逸失利益の算定が可能となるのであるから,上記事情を特許法102条1項ただし書において考慮すべき事情から除外する根拠はなく,原告の上記主張は採用できない。。)c競合品の存在について前記のとおり,平成17年当時のゴーグル市場における原告のシェアは17.6%であり,被告のシェアはほとんどゼロに近いものであったところ,ゴーグル市場の中のフィットネス用ゴーグルあるいはスクール用ゴーグルの市場において原告のシェアが特に高いといった事情は見当たらないから,本件原告製品が属するフィットネス用ゴーグル市場及びスクール用ゴーグル市場における原告のシェアも上記と同程度と見るのが相当である(なお,本件特許発明5と競合する技術を用いた他社ゴーグルにいかなるものがあり,そのシェアがそれぞれどの程度であるのかは,証拠上必ずしも明らかではないが,鼻ベルトの両端部の前面が,取付台部の後面に面接触しているとの構成等は,上記のとおり消費者のゴーグル購買動機として有力なものとはいえないから,厳密な意味での競合品を特定しなければならないほどの技術的事項ではない。。)そして,被告製品が市場に存在しなければ,実際に被告製品を購入した者が,本件原告製品を購入するか,その競合品を購入するかについては,他に特段の事情の認められない本件においては,それぞれのシェアに対応する割合でそれぞれの製品の購入に向かうと推認するのが相当である。したがって,被告製品が販売されなかった場合,原告は,実際に販売された被告製品の数量の17.6%について被告製品と競合し得る原告製品のフィットネス用ゴーグルあるいはスクール用ゴーグルを販売することができたと認められる一方(つまり,上記のとおり,鼻ベルトの両端部の前面が,取付台部の後面に面接触しているとの構成等は,上記のとおり消費者のゴーグル購買動機として有力なものとはいえないから,被告製品が販売されなかった場合に,本件原告製品以外で本件特許発明5の実施品でないフィットネス用あるいはスクール用の原告製品が購買される可能性が認められるということである,その余の82.4%は,本件原告製品を含む原告製品を 。)販売することができなかったものと認められる。 d特許発明の寄与度について(a)本件特許のうち,有効であると判断されたのは本件特許5である。また,同特許の構成のうち新規性・進歩性を有する構成は,構成要件O( 前記棒状突起の先端部外周に前記後面と略平行になる 「,」)(「 , 係止突部が設けられ及び同R該鼻ベルトの両端部の前面が前記取付台部の後面に面接触し)である。もっとも,構成要件 ,」P(前記鼻ベルトの両端部の前後面は,前記取付台部の後面と略平行な傾斜面に形成され)及び構成要件Q( 前記係合孔は該鼻ベ ,」「ルトの両端部の前後面に対して傾斜して設けられ)も,新規性,」, , を有する部分ではあるので これらも構成要件O及び同Rとともに本件特許発明5の本質的特徴を構成する。 上記各構成がもたらす効果については,前述のとおり,構成要件Oが奏する効果は,鼻ベルトとアイカップの連結・分離を容易にする点にあり,構成要件Rが奏する効果は,鼻ベルトと取付台部との間に摩擦を生じさせ,アイカップのフィッティングの微妙な調整を可能にする点にある。構成要件Pが奏する効果については本件明細書に明確な記載はなく,構成要件Qの奏する効果については,取付台部を斜め前方に突出させたことに伴う設計変更事項であるから,これについても,棒状突起を断面略円形にしたことによって相対回動可能に嵌合される係合孔であること(本件明細書段落【0019 )を超える作用効果はない。また,同効果は,引用発明3にも 】ある従来技術も備える効果であるということができる。 上記各構成及び各効果が,本件特許発明5の本質的特徴となるのであるから,特許法102条1項ただし書に該当する事情の有無についての判断も,このような本件特許発明5の本質に則ってなされるべきである。 (b)本件特許発明5は,すべて取付台部の後面側に属する部品についての技術的事項を内容とするものであって,ゴーグルの前面からは確認することはできないものである。また,被告製品は,シュリンク包装がされているため,消費者は購入するまで手に取ってこれを観察することができず,取付台部の裏側に着目して商品を購入することを想定することは困難である。したがって,本件特許発明5の本質的部分が被告製品の販売に寄与したと想定することはいささか困難なものである。 そして,鼻ベルトは,ゴーグル装着時に前面中央に位置し,比較的注目される部材ではあるといえるが,さらにその裏面に注目するかどうかという点については,ゴーグルの機能やデザインにつき高い関心のある需要者であればともかく,被告製品が子供向けの小売価格100円の低価格商品であり,かつ,基本的には購入前に手に取って鼻ベルトの裏側の構成を観察してこれを購入することはできない包装がなされていることからすれば,基本的には鼻ベルトの裏側の構成に注目することはないと認めるのが相当であるし,仮に包装を開封して被告製品を手に取る場合があったとしても,その低価格さゆえに,消費者が注目するのは通常の使用に耐え得る構造であるかどうかや,デザインの好みといった点である場合が多いと考えられ,あえて鼻ベルトの裏側の構成に注目して購入する消費者が多いと想定することは困難である。 そうすると,本件特許発明5に係る鼻ベルトの裏側の構成が,消費者にとっての購買動機となり得る場合は極めて少ないと認めるのが相当である(原告も 「SR-1」の販売開始当初は,鼻ベルト ,の機能・構成についてカタログや広告で触れていたものの,その後は鼻ベルトの機能・構成についてカタログで触れることがなくなっている。なお,本件特許発明5の実施品である「SR-1」が原告の競技用ゴーグルの重要なブランドであって,軽量化やコンパクトな形態がアピールされている製品である一方,本件原告製品は,フィットネス用ゴーグルであり,そのような点はカタログには記されていない。また,カタログに掲載された本件原告製品の写真には,特に鼻ベルトの裏側の構成が分かるようなものは掲載されていない。これらの点によれば,鼻ベルトの,特にその取付台部後面側の構成が,本件原告製品を購入する際の動機となったことは極めて少ないと認めるほかはなく,したがって,また,この構成が被告製品を購入する際の動機となったことも極めて少ないと認められる。。)eその他の事情について本件原告製品は,平成18年の原告のカタログには掲載されておらず,かつ,明示的に本件原告製品の後継品であると称する製品も掲載されていないことによれば,少なくとも平成17年当時にはさほど売上高の高い製品ではなかったと推認されるから,平成17年4月以降に被告製品の販売が開始されたことによって受けた影響は限定的なものであったと認めるのが相当である。 (ウ)以上の事情を総合考慮すれば,被告製品の譲渡数量に相当する数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる本件原告製品, 。 の数量を控除した数量は 上記譲渡数量の1%と認めるのが相当であるカ損害額そうすると,被告製品の譲渡数量は,12万4249個であり,その1%である1242個が,原告が販売し得た数量と認めるのが相当である。 これを単位数量当たりの利益の額504円に乗じると,62万5968円となる。 (2)特許法102条3項に基づく請求について原告は,仮に,特許法102条1項ただし書が適用された結果,原告によって販売できないと認定された分については,同条3項の実施料相当額として,共同不法行為者である大創の店舗「ダイソー」における販売価格100円の30%が損害として認められるべきであると主張する。 しかし,特許法102条1項は,特許権者が被った販売減少等による逸失利益相当の損害の額に関する特則であり,逸失利益相当の損害額を算定するという民法709条の原則を超えた保護を特許権者に付与するための特則ではないと解すべきである。そして,特許法102条1項は,侵害品が販売されなかったとすれば特許権者が得ることができた販売機会に応じて逸失利益を算定することを認めた規定であり,そのただし書において,侵害行為と損害との因果関係を否定すべき事情を考慮することとしているものである。これに対し,同条3項は,当該特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるところ,同条1項ただし書に基づいて損害と相当因果関係がないと認められた侵害品の販売数量に基づいて実施料相当額を損害として算定したのでは,権利者が被った逸失利益相当の損害を超える額の損害の賠償を認めることとなるから相当ではない。 よって,原告の特許法102条3項に基づく請求は理由がない。 (3)弁護士費用原告が被った損害の額のうち,弁護士費用相当分としては,本件事案の難易,請求額,前記認容額,その他諸般の事情を勘案し,10万円をもって相当と認める。 (4)合計前記(1)及び(3)の損害額を合計すると,72万5968円となる。 20特許法100条2項に基づく請求についてなお,請求の趣旨第1項の被告製品の製造販売の差止請求に関しては,上記19(1)アで認定したとおり,被告は,被告製品を輸入して販売していたのみであり,自ら製造したことはなく,かつ,今後被告製品を製造するおそれがあると認めるに足りる証拠はないから,原告の差止請求のうち,被告製品の製造の差止めを求める部分は理由がない。 , , また 請求の趣旨第2項の被告製品の廃棄及び金型の除却請求等については上記のとおり被告が自ら被告製品を製造せず,かつ,今後これを製造するおそれも認められない以上,その製造に供した設備であるとされる金型の除却を求める原告の請求は理由がない。そして,被告製品は,そのすべてが廃棄又は返品されおり,被告は被告製品を保有していないから,廃棄請求も理由がない。 第4結論以上のとおり,原告の被告に対する特許権に基づく差止請求は,別紙被告物件目録(ただし,同目録添付図面第2図及び第14図を除く )記載の物件の。 販売の差止めを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の差止請求及び廃棄請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。 原告の被告に対する特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,72万5968円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成17年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却する。 原告の意匠権に基づく請求は,いずれも理由がないからこれを棄却する。 なお,特許権に基づく差止請求に関する仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中俊次 |
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裁判官 | 西理香 |
裁判官 | 西森みゆき |