審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ23981補償金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ9922特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ3527特許権侵害差止請求事件 平成21ワ3528特許権侵害差止請求事件 平成21ワ3530特許権侵害差止請求事件 平成21ワ3538特許権侵害差止請求事件 平成21ワ3539特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ8557特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 発明者 / 協議 / 準拠法 / 黙示の合意 / 新規性 / 容易に実施 / 進歩性(29条2項) / 周知技術 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 技術的範囲 / 出願公開 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 補償金請求権 / パリ条約 / 優先権 / 共同出願 / 分割出願 / 実質的に同一 / 共有 / 警告 / クレーム / ライセンス / 抵触 / 消尽 / 権利の濫用(権利濫用) / 存続期間 / 優先日 / 出願経過 / 参酌 / 不存在 / 信義則 / 特許発明 / 実施 / 権原 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 設定登録 / 混同 / 対価 / クロスライセンス / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 公序良俗 / 管轄 / |
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事件 |
平成
18年
(ワ)
6264号
特許権に基づく差止請求権不存在確認請求事件
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原告大 和製衡株式会社 訴訟代理人弁護 士三山峻司 同 井上周一 同 金尾基樹 補佐人弁理 士角田嘉宏 同 古川安航 同 佃誠玄 被告株式会社イシダ 訴訟代理人弁護 士坂田均 同 草地邦晴 同 稲山理恵子 補佐人弁理 士吉村雅人 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/03/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求原告による英国内における別紙物件目録1及び2記載の自動定量計量装置の販売につき,被告が欧州(英国)第268346号特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。 第2事案の概要1本件訴訟は,原告が英国内において別紙物件目録1及び2記載の自動定量計量装置(以下,別紙物件目録1記載のものを「原告製品1」,同目録2記載のものを「原告製品2」といい,これらをまとめて「原告製品」という。)を販売することについての,欧州(英国)第268346号特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件特許発明」という。)に基づく差止請求権の不存在確認訴訟である。 被告は,本案前の答弁として,本件訴えを却下するとの判決を求め,本件訴えには確認の利益がないと主張している。 被告は,本案の答弁として請求棄却の判決を求め,上記差止請求権が存在すると主張している。 2基礎となる事実(弁論の全趣旨により認定した事実は,その旨末尾に付記した。それ以外は,訴訟上顕著な事実又は争いのない事実である。)(1)被告は,その子会社である英国バーミンガム所在のIshida Europe Limited(以下「英国イシダ」という。)と,本件特許権を共有している。本件特許の登録内容及び出願経過は以下のとおりである。 ア欧州登録番号第0268346号イ欧州出願番号第87304353.3号ウ優先権主張の基礎となる出願米国出願番号第931218号エ優先日1986年(昭和61年)11月14日オ出願日1987年(昭和62年)5月15日カ登録日1991年(平成3年)6月26日キ権利存続期間の満了日2007年(平成19年)5月15日ク発明の名称Method of and apparatus for controlling hopper gatemotion.ケ特許請求の範囲別紙Claims記載のとおり(訳文は別紙和訳のとおり。)。 (2)原告は,原告製品1を,英国の子会社であるYamatoScaleDataweighを介して英国内で販売している。また,原告は,業として,原告製品2を製造し,英国バーミンガム所在のTNAEuropeLimited(以下「英国TNA社」という。)に対してこれを輸出して販売している。(弁論の全趣旨)(3)被告は,原告に対し,平成17年3月18日付警告書により,原告の5機種の製品(「データウエイΣプラスシリーズ」を含む)について,被告の保有する計3件の特許権(本件特許権を含む)を侵害する旨の警告をした。 原告製品1は,上記「データウエイΣプラスシリーズ」の中の型番「ADW-414SD」の製品であり,原告製品2は,これと同一仕様の製品である。 被告及び英国イシダは,平成18年(2006年)5月17日付けで,英国の県特許裁判所(Patents County Court)へ,本件特許権侵害を理由に,英国TNA社に対し,原告製品2の販売の差止め及び損害賠償を求める訴えを提起した(以下「英国訴訟」という。)。 被告は,原告が英国内において原告製品を販売することについて,本件特許権に基づく差止請求権を有していると主張している。(弁論の全趣旨)(4)原告と被告の和解被告(当時の社名は株式会社石田衡器製作所)は,昭和59年3月22日に,原告に対し,被告の有する自動定量計量装置の日本特許(特許第1153378号)に基づき原告の自動定量計量装置の製造・販売の差止めを求める仮処分を申し立てた(東京地方裁判所昭和59年(ヨ)第2527号。以下「前件仮処分事件」という。)。原告は,上記特許の無効審判請求を行った。 前件仮処分事件について,昭和63年4月15日に裁判上の和解が成立した(以下「本件和解」という。)。 本件和解には,以下の条項がある。 「一,債権者(判決注・被告を指す。)は,債務者(判決注・原告を指す。)に対し,別紙工業所有権目録(一)記載の特許権(実用新案権を含む。以下同じ。)について通常実施権(範囲に制限のない無償の非独占的実施権とする。以下同じ。)を許諾する。自動定量計量装置に係る特許権であって,本和解成立の日までに成立するものについても,同様とする。 二,債権者は,債務者に対し,別紙工業所有権目録(二)記載の特許出願(実用新案登録出願を含む。以下同じ。)中の権利について,その実施を許諾し(範囲に制限のない無償の非独占的実施の許諾とする。以下同じ。),かつ特許権の成立を停止条件としてその通常実施権を許諾する。 自動定量計量装置に係る特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるものについても,同様とする。 三,債務者は,債権者に対し,別紙工業所有権目録(三)記載の特許権について通常実施権を許諾する。第一項後段の規定は,この場合に準用する。 四,債務者は,債権者に対し,別紙工業所有権目録(四)記載の特許出願中の権利について,その実施を許諾し,かつ特許権の成立を停止条件としてその通常実施権を許諾する。第二項後段の規定は,この場合に準用する。」本件和解の別紙工業所有権目録(一)ないし(四)(以下,まとめて「本件目録」という。)には,日本特許,米国特許,オーストラリア特許,英国特許,西ドイツ特許,イタリア特許,フランス特許,ブラジル特許,欧州特許(指定国は西ドイツ・フランス・英国・イタリア・オーストリア・スイス・リヒテンシュタイン・ルクセンブルグ・オランダ・スウェーデンなど様々)を始めとして合計約900件にのぼる特許権及び実用新案権(以下,まとめて「特許権等」という。)並びに特許出願中の権利及び実用新案登録出願中の権利(以下,まとめて「特許等出願中の権利」という。)が,国ごとに分類されて記載されている(ただし,欧州特許に係る特許権は「ヨーロッパ特許」の分類に入れられて指定国が付記されており,欧州特許出願もこれに準じて扱われている。)。 なお,本件和解における前文及び和解条項は,別紙前文及び和解条項のとおりである。 (5)本件特許に係る出願中の権利は,本件目録に記載されていない。また,本件特許に係る出願が出願公開されたのは,本件和解の後である1988(昭和63)年5月25日であるから,本件和解の第二項にいう「特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるもの」には文言上該当しない。 (6)本件特許の優先権主張の基礎となった米国出願番号第931218号に係る出願は,特許されて被告が特許権を有していた(以下,この特許を「米国125特許」,その特許権「米国125特許権」,その発明を「米国125特許発明」という。)。本件特許と米国125特許とは,実質的に同一の技術に対して付与されたものである。米国125特許権は,本件目録のうち工業所有権目録(一)に記載されており,原告に通常実施権が許諾されたものである。 米国125特許の登録内容及び出願経過は以下のとおりである。 ア米国特許番号第4705125号イ米国出願番号第931218号ウ優先権主張の基礎となる出願なしエ優先日なしオ出願日1986年(昭和61年)11月14日カ特許日1987年(昭和62年)11月10日キ権利存続期間の満了日2006年(平成18年)11月14日ク発明の名称METHOD OF AND APPARATUS FOR CONTROLLING HOPPER GATEMOTION(7)欧州(英国)第0219347号特許(以下「347特許」という。)の出願経過は以下のとおりである。347特許に係る出願は,被告によってされていた出願であり,本件和解の日よりも前に出願の公開公報(以下「347公報」という。)が発行されているから,同特許に係る出願中の権利は,本件和解条項第二項後段により,原告に実施許諾されたものである。 ア欧州登録番号第0219347号イ欧州出願番号第86307944.8号ウ出願日1986年(昭和61年)10月14日エ登録日1990年(平成2年)3月14日オ権利存続期間の満了日2006年(平成18年)10月14日カ発明の名称Weighing method and system.キ公開公報発行日1987年(昭和62年)4月22日(8)原告と被告は,本件訴訟の口頭弁論期日において,「本件訴訟に関しては,原告及び被告は,本件特許権の無効性自体及び本件訴訟における原告製品1及び2が本件特許権にかかる特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断については,専ら英国裁判所などにおける英国での手続きにおいて明らかにすることに異議を述べず,本件訴訟に限り,上記の点については争わない。」との約束をしている。 (9)被告は,原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属すると主張している。 原告は,被告の主張には誤りがあると考えてはいるものの,本件訴訟においては,上記合意の趣旨に即して,原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することについては争わない。 (10)原告と被告は,本件訴訟の国際裁判管轄が日本国にあることを争わない。 3争点(1)本件訴えの確認の利益[被告の主張]確認の訴えの対象としては,より有効・抜本的な解決の得られる訴訟物を選択しなければならない。原告は,本件特許権の通常実施権の確認請求という方法で自己の権利の積極的確認ができるから,消極的確認である差止請求権不存在確認を求める確認の訴えの利益はない。 [原告の主張]被告は,原告に対し,原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するとして,本件特許権の侵害となるとの警告を行っており,本件特許権が有効に存在することを前提として,原告製品の販売先に対して英国で訴訟を提起している。本件において,原告は,@本件特許権についての通常実施権の存在を主張するのみではなく,A本件和解の存在と作成における経緯により被告の原告に対する権利行使は信義則違反となると主張するものである。Aの主張を行うためには,通常実施権の存在確認では足りず,差止請求権不存在確認を求める必要がある。 (2)本件特許権は,本件和解によって,原告に実施許諾されているか。 ア本件和解の準拠法[]原告の主張本件和解の準拠法は,日本法である。 []被告の主張日本国裁判所において裁判上の和解が行われたからといって,実体法上の和解契約の準拠法が日本法となるわけではない。本件和解は,各国特許権についての通常実施権を設定するもので,本件特許権については,英国特許法に基づいて付与された英国特許権の英国内における実施権原を付与するものであるから,その成立及び効力を日本特許法に従って処断することは許されない。したがって,本件和解の当事者である原告と被告は,本件特許権に関しては,英国法を準拠法として黙示的に指定したと解するのが相当である。 イ米国125特許について実施許諾されたことを根拠とする主張の当否[]原告の主張(ア)米国125特許は,本件和解により原告に実施許諾されている。本件特許は,米国125特許と実質的に同一の技術に対して付与されたものである。 (イ)本件特許は,米国125特許の出願に基づく優先権を主張し,その効果を享受するものとして審査され登録を受けている。優先権を主張すると,後の出願については,特許要件(技術の新規性や進歩性等)について基礎出願の出願日に出願されたのとほぼ同様の効果が発生する(パリ条約4条B)。したがって,米国125特許と本件特許は,成立した国(地域)は異なるとはいえ,同一の技術に対して付与された実質的に同一の特許ということができる。よって,原告が本件和解により米国125特許の実施許諾を受けている以上,本件特許についても実施許諾を受けている。 (ウ)本件和解の和解調書の前文には,本件和解の趣旨として,「この和解は,裁判官の勧告に基づき,・・・,債権者と債務者との間に存在する相互の特許紛争を,全世界的に解決するために行われるものである。」旨が記載されている。もし,米国125特許について実施が許諾されている一方で,本件特許について実施が許されないということであれば,同一の技術でありながら,国や地域により区々の結果を生じることとなる。かかる結論は,「相互の特許紛争を,全世界的に解決する」という本件和解の趣旨を著しく逸脱するものである。 (エ)米国125特許の公報発行日は,本件和解の成立日より前である1987年(昭和62年)11月10日である。したがって,本件特許の内容は,本件和解の成立日において,米国125特許の公報により既に公開されていた。よって,本件特許は,本件和解により,原告に実施許諾されている。 []被告の主張(ア)米国125特許権が本件和解の対象になっていることと,本件特許権が本件和解の対象になっているか否かは全く別の問題である。本件特許権は本件和解における通常実施権の許諾の対象とはなっていない。 (イ)本件和解調書の前文の「両者間の特許紛争を全世界的に解決するため」との記載は,その前の「日本特許第1,153,378号特許権に関する紛争について結論を出すだけでは足りない」に対応するもので,一国内特許のみならず他の世界各国における特許についてもその対象とすることを明らかにしたにすぎない。その上で和解内容として,具体的にどの国のどの特許を和解の対象にするかについては,前文及び条項内で明確にし,本件目録においても,各国ごとに指定国も明示の上,特許番号(あるいは公開番号)のみで特定を行うという形式をとっている。 これらの記載からは,本件和解の対象(通常実施権の許諾の対象)となる特許権や特許出願中の権利の範囲は一義的に明確なものであって,本件特許権がこれに含まれると解する余地はない。 (ウ)本件和解の対象とされた特許権あるいは出願公開された出願中の権利は極めて多く,特に米国においては,最終的に工業所有権目録に記載されたものだけでも,被告が保有する特許権が109,原告が保有する特許権が39に及び,これを相互にライセンスした場合には,米国の自動定量計量装置に関する150近い特許権の実施が相互に可能になる。 世界的に見ても同装置に関する原告と被告のシェアはそれぞれ上位にある状況であったため,和解の検討段階で米国弁護士に意見を求めたところ,米国においてはこのような特許権の相互ライセンスが独占禁止法(アンチトラスト法)に抵触する可能性が高いことが指摘されていた。 米国における独占禁止法違反を回避するためにも,ライセンスの対象となる特許権の範囲は,包括的なものとはせず,当時における一定範囲の特定のものに明確に限定し,将来出願公開され,あるいは出願される特許権等についてはその範囲から除外することが,必要と考えられた。 そこで,和解案の検討にあたっては,相互に有する特許権や実用新案権等についても,個々の内容を相互に検討し,当事者が協議して定めた基準に基づいて選別の上,対象を限定して明確化した。また,将来出願公開され,あるいは出願される特許権等についてはその範囲に含めないことも明確化して,本件和解の成立に至ったのである。 (エ)本件和解条項の文理上も,本件和解締結の経緯,締結後の経緯に照らしても,米国125特許公報による公開をもって,本件特許出願について出願公開があったものと解釈することはできない。 ウ347特許出願中の権利について実施許諾されたことを根拠とする主張の当否[]原告の主張(ア)被告から原告に,347特許出願中の権利について,実施許諾がされた。 (イ)出願中の権利に対する実施許諾の対象には,当該特許出願に係る明細書(以下「特許の明細書」という。)に記載された発明全体が含まれる。 実施の許諾とは,許諾者が被許諾者に対して,許諾事項に対して法的主張をしないこと,あるいは特許権が成立した場合には,実施権とは,特許権者に対して権利行使をしないことを請求することができる債権的権利-不作為請求権-という性質を有する。 被許諾者は,実施許諾対象となる発明を実施することができる。したがって被許諾者は,許諾対象となる先願発明に当該発明を実施する上で必要不可欠な周知技術を付加した発明(これが後願として出願され登録されていれば後願特許)についても,当然に実施することができる。さもなくば,実施許諾を受けた発明を実施することができなくなり,実施許諾契約を締結する意義がなくなるからである。 (ウ)以下のとおり,本件特許発明は,347特許の明細書(347公報)に記載されている。 したがって,原告は,本件特許権について,実施に必要不可欠な周知技術を付加した発明も含めて,実施を許諾されている。 a本件特許発明のうち,特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件請求項1発明」といい,各請求項記載の発明をこれに準じて請求項を付していう(例えば請求項2記載の発明は「本件請求項2発明」となる。)。)(a)本件請求項1発明は,以下を内容としている。 (1a)駆動手段により駆動されるホッパゲートの動作を制御する方法において,(1b)該ホッパゲート開閉中の任意の時点における前記ホッパゲートの開度を設定することにより前記ホッパゲートの加速,減速モードを選択するステップと,(1c)前記ホッパゲートにより前記動作モードを実行するように前記駆動手段に出力すべき一連の信号を決定することによってプログラムを形成するステップと,(1d)前記プログラムに応じて前記駆動手段に信号を送信するステップを特徴とする方法。 (b)347公報の6頁右欄27行〜29行には「Additionaladvantages of using stepping motors for the hopper-drivingmechanisms of a combinational weighing system」(和訳すれば,「組合せ計量装置のホッパ駆動機構にステッピングモータを使用する利点は,」)と記載されている。また,同段39行〜42行には「(3) the speed and direction of rotation can be variedsimply by a digital control and design changes can beeffected easily by an open-loop control.」(和訳すれば,「(3)回転速度と回転方向は,デジタル制御で簡単に変えることができ,オープンループ制御により設計変更も容易に実施できる。」)と記載されている。すなわち347公報には,駆動手段たるステッピングモータをオープンループでデジタル制御することによりホッパゲートを加速減速させて開閉駆動する構成(以下「347公報の構成」という。)が記載されている。したがって,347公報には,(1a)の構成要件が明示的に記載されている。 甲第16号証(海老原大樹・岩佐孝夫著『ステッピングモータ活用技術』株式会社工業調査会発行の4〜7頁及び50〜53頁。以下「甲第16号証刊行物」という。)には,ステッピングモータの特徴につき,「モータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」(4頁20行)と記載されている。ステッピングモータの動作制御は,所定時刻における累積パルス数(モータの回転角度)を設定することにより行われる。また,ホッパゲートはステッピングモータにより開閉駆動されるのであるから,モータの回転角度とホッパゲートの開度とは当然に対応関係がある。したがって,347公報の構成において,ホッパゲート開閉中の任意の時点におけるホッパゲートの開度を設定することによりホッパゲートの加速,減速モードを選択することは自明である。よって,347特許の明細書には,(1b)の構成要件が実質的に記載されている。 同証には,ステッピングモータの運転について,「モータの励磁切換えのためのドライバと呼ばれる駆動回路と,モータに加減速制御や位置決め制御を指示するコントローラとよばれる制御回路が必要となる。制御回路にはしばしばマイコンが利用され,ソフトウェアによりモータの歩進数に対応した加減速パターンの作成や位置決め上の制御タイミングパルスの作成を行っている」(5頁12行〜17行)と記載されている。かかる記載を踏まえれば,347公報の構成においてステッピングモータにより制御が行われる以上,設定された動作モードを実行するように駆動手段に出力すべき一連の信号を決定してプログラムを形成することは自明である。よって,347特許の明細書には,(1c)の構成要件が実質的に記載されている。 また,同証の上記引用部分及び図1.1から把握できるように,生成されたパルス(信号)は駆動回路(駆動手段)に送信される。 したがって,347公報の構成においてプログラムに応じて駆動手段に信号を送信することも自明である。よって,347特許の明細書には,(1d)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項1発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項1発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 b本件請求項2発明について(a)本件請求項2発明は,以下を内容としている。 (2a)前記プログラムをメモリ手段内に記憶させるステップを特徴とする(2b)請求項1に記載の方法。 (b)347公報の7頁右欄48行以降には「Alternatively, the control unit may include a plurality of independent, cooperating computers ・・・ to drive the hoppers according to inputted signals.」(和訳すれば,「制御装置は,このような構成ではなく,・・・独立しかつ共同で動作する複数のコンピューターを含んでもよく,・・・コンピューターが入力信号に従ってホッパを駆動するというものであってもよい。」)と記載されている。すなわち347公報には,ステッピングモータの制御手段としてコンピュータを備える構成が記載されている。コンピュータは一般にメモリに記憶されたプログラムにより動作するものであるから,プログラムをメモリ手段内に記憶させることは自明である。よって,347特許の明細書には,(2a)の構成要件が実質的に記載されている。 上記aで検討したように,請求項1に記載の方法は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されている。よって,347特許の明細書には,(2b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項2発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されている。すなわち,本件請求項2発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 c本件請求項3発明について(a)本件請求項3発明は,以下を内容としている。 (3a)前記プログラムが前記ホッパゲートを最大スピードまで加速させ,停止するまで減速させることを特徴とする(3b)請求項1または2に記載の方法。 (b)347公報の構成は,ステッピングモータをオープンループでデジタル制御することによりホッパゲートを加速減速させて開閉駆動するものである。開閉駆動するのであれば,ある時点においてホッパゲートの速度がゼロ(停止)の状態になることは自明である。 また,加速した結果として達する最高速度が「最大スピード」なのであるから,「最大スピードまで加速」することは自明である。よって,347特許の明細書には,(3a)の構成要件が実質的に記載されている。 前記a及びbで検討したように,請求項1又は2に記載の方法は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。 よって,347特許の明細書には,(3b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項3発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項3発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 d本件請求項4発明について(a)本件請求項4発明は,以下を内容としている。 (4a)前記プログラムが,前記ホッパゲートが開いた後に前記ホッパゲートを所定回数振動させることを特徴とする(4b)先行する請求項のいずれかに記載の方法。 (b)甲第17号証(公開実用新案公報昭60-27089号)には,サイロの払出し装置が開示されている。同号証の願書に添付された図面の第3図には,サイロの払出し装置の部分縦断面図が記載されており,同号証の願書に添付された明細書の4頁16行〜18行には,「斜板12とシャッタ10間で粉体がアーチ現象を起さない様にする為バイブレータ16によってシャッタ10を振動させる。」と記載されている。かかる記載から,同号証に記載されたサイロの払出し装置は,サイロ(ホッパ)の出口に配設されたシャッタ(ゲート)を振動させることで粉体(内容物)の排出を容易にするものであることが把握できる。 甲第18号証(公開実用新案公報昭60-110312号)には,チューブ自動供給装置が開示されている。同号証の願書に添付された図面の第1図には,チューブ自動供給装置の主要部の側面図が記載されている。同号証の願書に添付された明細書の4頁14行〜19行には,「ホッパー2に供給されたチューブ群はシュート3の上面を該タッカープレート11の方向へ向って進行し,その間に,該フラッププレート4の上下運動によって上下に振動し,かつ,該タッカープレート11の前後運動によって前後に振動する。」と記載されている。同明細書の5頁9行〜11行には,「上記のような上下振動及び前後振動によって,チューブ材料がいかなるものであっても,チューブ群のブリッジ現象は確実に防止される。」と記載されている。かかる記載から,同号証に記載されたチューブ自動供給装置は,ホッパの出口に配設されたフラッププレート(ゲート)を振動させることでチューブ材料(内容物)の排出を容易にするものであることが把握できる。 甲第19号証(公開実用新案公報昭60-157732号)には,ホッパー式チューブ自動供給装置が開示されている。同号証の願書に添付された図面には,ホッパー式チューブ自動供給装置の縦断面図が記載されている。同号証の願書に添付された明細書の4頁9行〜14行には,「スライドガイドプレート6が矢印A方向に往復動すると,フラッププレート4は枢着部を中心に揺動し,本考案の上下振動部材としての先端部4aをホッパー1の供給口1a付近で上下に震動されるようになっている。」と記載されている。かかる記載から,同号証に記載されたホッパー式チューブ自動供給装置は,ホッパの出口に配設されたフラッププレート(ゲート)を振動させることでチューブ材料(内容物)の排出を容易にするものであることが把握できる。 これら3つの公開実用新案公報を参酌すれば,被計量物の排出を容易にするためにホッパゲートを振動させることは,当業者にとって周知な構成であることが把握できる。よって,347特許の明細書には,(4a)の構成要件が実質的に記載されている。 上記aないしcで検討したように,請求項1ないし3に記載の方法は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(4b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項4発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項4発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 e本件請求項5発明について(a)本件請求項5発明は,以下を内容としている。 (5a)前記駆動手段がステッピングモータであり,前記信号がパルス信号であることを特徴とする(5b)先行する請求項のいずれかに記載の方法。 (b)前記甲第16号証刊行物には,ステッピングモータの特徴として「パルス信号の周波数に比例した回転速度が得られる」こと,及び「モータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」ことが記載されている(4頁17行〜20行)。すなわち,ステッピングモータがパルス信号を用いて駆動制御されることは自明である。347公報の構成は,ステッピングモータによりホッパゲートを開閉駆動するものである。よって,347特許の明細書には,(5a)の構成要件が実質的に記載されている。 前記aないしdで検討したように,請求項1ないし4に記載の方法は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(5b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項5発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項5発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 f本件請求項6発明について(a)本件請求項6発明は,以下を内容としている。 (6a)ホッパゲートの動作を制御する装置において,(6b)該ホッパゲートの開閉中任意の時点における前記ホッパゲートの開度を設定することにより前記ホッパゲートの加速,減速モードを選択する選択手段と,(6c)プログラムに従い一連の信号を順次送信するための制御手段と,(6d)上記各信号に応じ且つ上記各信号により決まる角度と方向に前記ホッパゲートを駆動する駆動手段を特徴とする装置。 (b)347公報の構成はホッパゲートの動作を駆動手段たるステッピングモータにより制御するものである。したがって,347特許の明細書には,(6a)の構成要件が明示的に記載されている。 前記甲第16号証刊行物には,ステッピングモータの特徴につき,「モータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」(4頁20行)と記載されている。ステッピングモータの動作制御は,所定時刻における累積パルス数(モータの回転角度)を設定することにより行われる。また,ホッパゲートはステッピングモータにより開閉駆動されるのであるから,モータの回転角度とホッパゲートの開度とは当然に対応関係がある。したがって,347公報の構成において,ホッパゲート開閉中の任意の時点におけるホッパゲートの開度を設定することによりホッパゲートの加速,減速モードを選択する選択手段を設けることは自明である。よって,347特許の明細書には,(6b)の構成要件が実質的に記載されている。 前記甲第16号証刊行物には,ステッピングモータの運転について,「モータの励磁切換えのためのドライバと呼ばれる駆動回路と,モータに加減速制御や位置決め制御を指示するコントローラとよばれる制御回路が必要となる。制御回路にはしばしばマイコンが利用され,ソフトウェアによりモータの歩進数に対応した加減速パターンの作成や位置決め上の制御タイミングパルスの作成を行っている」(5頁12行〜17行)と記載されている。かかる記載を踏まえれば,347公報の構成において,プログラムに従い一連の(パルス)信号を順次送信するための制御手段を設けることは自明である。したがって,347特許の明細書には,(6c)の構成要件が実質的に記載されている。 上述のとおり,ステッピングモータの特徴の一つは,「モータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」(甲第16号証刊行物4頁20行)ことにある。さらに,「ステッピングモータを運転するためには・・・,モータに加減速制御や位置決め制御を指示するコントローラとよばれる制御回路が必要となる」(甲第16号証刊行物5頁12行〜14行)。かかる記載を踏まえれば,347公報の構成において,駆動手段が各信号に応じ且つ各信号により決まる角度と方向にホッパゲートを駆動することは自明である。したがって,347特許の明細書には,(6d)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項6発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項6発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 g本件請求項7発明について(a)本件請求項7発明は,以下を内容としている。 (7a)前記駆動手段がステッピングモータを備え,前記信号がパルス信号であることを特徴とする(7b)請求項6に記載の装置。 (b)前記甲第16号証刊行物には,ステッピングモータの特徴として「パルス信号の周波数に比例した回転速度が得られる」こと,及び「モータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」ことが記載されている(4頁17行〜20行)。すなわち,ステッピングモータがパルス信号を用いて駆動制御されることは自明である。347公報の構成は,ステッピングモータによりホッパゲートを開閉駆動するものである。よって,347特許の明細書には,(7a)の構成要件が実質的に記載されている。 前記fで検討したように,請求項6に記載の装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(7b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項7発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項7発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 h本件請求項8発明について(a)本件請求項8発明は,以下を内容としている。 (8a)前記制御手段がコンピューターを備えることを特徴とする(8b)請求項6または7に記載の装置。 (b)347公報の7頁右欄48行以降には「Alternatively, the control unit may include a plurality of independent, cooperating computers ・・・ to drive the hoppers according to inputted signals.」(和訳すれば,「制御装置は,このような構成ではなく,・・・独立しかつ共同で動作する複数のコンピューターを含んでもよく,・・・コンピューターが入力信号に従ってホッパを駆動するというものであってもよい。」)と記載されている。すなわち347公報には,ステッピングモータの制御手段としてコンピュータを備える構成が記載されている。よって,347特許の明細書には,(8a)の構成要件が明示的に記載されている。 前記f及びgで検討したように,請求項6または7に記載の装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(8b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項8発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項8発明は,347特許の明細書に記載されている技術事項といえる。 i本件請求項9発明について(a)本件請求項9発明は,以下を内容としている。 (9a)前記制御手段が前記プログラムを記憶するメモリ手段を備えることを特徴とする(9b)請求項6ないし8のいずれかに記載の装置。 (b)347公報の7頁右欄48行以降には「Alternatively, the control unit may include a plurality of independent, cooperating computers ・・・ to drive the hoppers according to inputted signals.」(和訳すれば,「制御装置は,このような構成ではなく,・・・独立しかつ共同で動作する複数のコンピューターを含んでもよく,・・・コンピューターが入力信号に従ってホッパを駆動するというものであってもよい。」)と記載されている。すなわち347公報には,ステッピングモータの制御手段としてコンピュータを備える構成が記載されている。コンピュータは一般にメモリに記憶されたプログラムにより動作するものであるから,347公報の構成がプログラムを記憶するメモリ手段を備えることは自明である。よって,347特許の明細書には,(9a)の構成要件が実質的に記載されている。 前記fないしhで検討したように,請求項6ないし8に記載の装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(9b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項9発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項9発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 j本件請求項10発明について(a)本件請求項10発明は,以下を内容としている。 (10a)前記制御手段が前記プログラムを修正することができる入力装置を備えることを特徴とする(10b)請求項6ないし9のいずれかに記載の装置。 (b)前記甲第16号証刊行物の図6.2には,ステッピングモータの制御思想を表現したソフトウェアの一例を示すブロック図が記載されている(51頁)。同図には,目標位置指示及び正逆転指示のために「外部指示入力」がされること,及び外部入力を受け付ける「運転パターン指示部」が設けられることが記載されている。かかる記載を踏まえれば,347公報の構成において,制御手段がプログラムを修正することができる入力装置を備えることは自明である。 したがって,347特許の明細書には,(10a)の構成要件が実質的に記載されている。 前記fないしiで検討したように,請求項6ないし9に記載の装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(10b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項10発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項10発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 k本件請求項11発明について(a)本件請求項11発明は,以下を内容としている。 (11a)前記ステッピングモータは軸とこの軸に固定されたカムを有し,(11b)前記駆動手段はさらに前記カムにより押されるよう配置されたカムフォロワーと,(11c)前記カムフォロワーと前記ホッパゲートに対し動作を伝達するように連結されたリンク手段と,(11d)前記ホッパゲートを閉じた状態にするように付勢するバネ手段を含むことを特徴とする(11e)請求項7,または,請求項7に従属する請求項8ないし10のいずれかに記載の装置。 (b)347公報の図12には,組合せ計量装置用のホッパ作動機構の側面図が記載されている。347公報の図13には,組合せ計量装置用のホッパ作動機構の別の側面図が記載されている。以下,347公報の6頁右欄52行から7頁左欄63行までの記載を参照しつつ,同図を検討する。 図12の61はステッピングモータの軸であり,62は軸61に固定されたカムである。したがって,347公報には,(11a)の構成要件が明示的に記載されている。 図12において,64はカムフォロワーであり,同カムフォロワーはカム62により押されるように配置されている。したがって,347公報には,(11b)の構成要件が明示的に記載されている。 図12において,65,67はそれぞれレバー部材であり,68はU字型レバーであり,70は連結部材である。これらの部材は,カムフォロワー64とホッパゲートに対し動作を伝達するように連結されたリンク手段である。したがって,347公報には,(11c)の構成要件が明示的に記載されている。 図13において,83,84はスプリング(バネ手段)であり,ホッパゲートを閉じた状態にするように付勢するものである。したがって,347公報には,(11d)の構成要件が明示的に記載されている。 前記gないしjで検討したように,請求項7,又は請求項7に従属する請求項8ないし10のいずれかに記載の装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(11e)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項11発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項11発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 l本件請求項12発明について(a)本件請求項12発明は,以下を内容としている。 (12a)各々が物品をバッチ単位で受け取り,前記物品バッチの重量を示す重量値信号を出力し,排出信号に応じて前記物品バッチを排出する物品バッチ取り扱い部であって,その各々が,ゲートを有する1つ以上のホッパを含む,複数の物品バッチ取り扱い部と,(12b)入力された重量値に基づき組合せ演算を定期的に実行し,これにより物品バッチ取り扱い部の組合せを少なくとも1つ選択し,このように選択された物品バッチ取り扱い部に排出信号を出力する制御手段を包含する組合せ計量装置であって,(12c)各ホッパゲートが請求項6ないし11のいずれかに記載の装置によって制御されることを特徴とする組合せ計量装置。 (b)347公報の3頁右欄45行〜4頁左欄38行の記載によれば,347公報に開示された組合せ計量装置は,複数の物品バッチ取り扱い部を備えている。それぞれの物品バッチ取り扱い部はプールホッパ217を備えており,プールホッパ217は供給トラフ213から物品をバッチ単位で受け取る。また,それぞれの物品バッチ取り扱い部は計量ホッパ218と計量装置(ロードセル等)を備えており,受け取った物品バッチの重量を検出して重量値信号を出力する。そして,組合せ演算用のコンピュータの指令に従って,物品バッチを排出する。したがって,347公報には,(12a)の構成要件が明示的に記載されている。 また,同記載によれば,347公報に開示された組合せ計量装置は,組合せ演算用のコンピュータを備え,該コンピュータは入力された重量値に基づき組合せ演算を定期的に実行し,これにより物品バッチ取り扱い部の組合せを少なくとも1つ選択し,このように選択された物品バッチ取り扱い部に排出信号を出力するものである。 したがって,347公報には,(12b)の構成要件が明示的に記載されている。 前記fないしkで検討したように,請求項6ないし11のいずれかに記載の装置は,そのすべての構成が347公報に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(12c)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項12発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項12発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 m本件請求項13発明について(a)本件請求項13発明は,以下を内容としている。 (13a)請求項12に記載の組合せ計量装置であって,(13b)複数のホッパゲートを含み,前記プログラムが前記各ホッパゲートを個別に作動させることを特徴とする組合せ計量装置。 (b)前記lで検討したように,請求項12に記載の組合せ計量装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(13a)の構成要件が実質的に記載されている。 347公報の6頁右欄33行〜6頁右欄36行には,「(2)各ホッパに附属する2枚のゲートは,関連ステッピングモータの回転方向を変化させることにより,個別に制御可能である」と記載されている。すなわち,347公報には,2枚のホッパゲートはプログラムを用いて個別に作動させることができる構成が記載されている。 したがって,347公報には,(13b)の構成要件が明示的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項13発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項13発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 n本件請求項14発明について(a)本件請求項14発明は,以下を内容としている。 (14a)請求項12または13に記載の組合せ計量装置であって,(14b)前記プログラムにより前記ホッパゲートが最大スピードまで加速し,停止するまで減速することを特徴とする組合せ計量装置。 (b)前記l及びmで検討したように,請求項12または13に記載の組合せ計量装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(14a)の構成要件が実質的に記載されている。 347公報の構成は,ステッピングモータをオープンループでデジタル制御することによりホッパゲートを加速減速させて開閉駆動するものである。開閉駆動するのであれば,ある時点においてホッパゲートの速度が減速によってゼロ(停止)の状態になることは自明である。また,加速した結果として達する最高速度が「最大スピード」なのであるから,「最大スピードまで加速」することは自明である。よって,347特許の明細書には,(14b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項14発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項14発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 o本件請求項15発明について(a)本件請求項15発明は,以下を内容としている。 (15a)請求項12ないし14のいずれかに記載の組合せ計量装置であって,(15b)前記設定されたプログラムが,計量装置によって取り扱われる物品の種類に応じた,複数の動作プログラムの一つであることを特徴とする組合せ計量装置。 (b)前記lないしnで検討したように,請求項12ないし14のいずれかに記載の組合せ計量装置は,そのすべての構成が347特許の明細書に明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているといえる。よって,347特許の明細書には,(15a)の構成要件が実質的に記載されている。 347公報の6頁右欄29行〜6頁右欄33行には,「(1)ホッパゲートは被計量物の特性に応じて制御可能であるため,被計量物の損傷と騒音を低減することができる」と記載されている。すなわち,347公報には,被計量物の特性に応じて動作プログラムを変更できる構成が記載されている。したがって,347特許の明細書には,(15b)の構成要件が実質的に記載されている。 (c)以上の検討から,347特許の明細書には,本件請求項15発明のすべての構成が明示的に記載されているか,又は明示的記載はないものの実質的に記載されているということができる。すなわち,本件請求項15発明は,347特許の明細書に記載されている技術的事項といえる。 []被告の主張(ア)出願中の特許を受ける権利の内容は,「特許請求の範囲」(Claims)記載の発明によって画されるべきである。なぜなら,発明の内容が明細書(「発明の詳細な説明」(Description)等)に漫然と記載されていても,それだけでは特許権若しくは出願中の特許を受ける権利の及ぶ範囲は不明確であり,ライセンシー及び第三者にとっても,予見可能性が低く,その結果,法的安定性を害し,無用な紛争を招くことになるからである英国特許法(Patent Act 1977)は,「出願中の特許を受ける権利」(Applications for patents)を,私権すなわち財産権(Personal Property)として位置づけ,譲渡性及び実施許諾することを認めている(Art30(1))。そして,実施許諾の対象については,出願の対象たる発明である旨明言している(“a license may be granted under any patent or any such application for working the invention which is the subject of the patent or the application” Art 30(4))。明細書に記載されている発明を実施許諾の対象に含めるとの規定は,英国特許法には存在しない。 ライセンス契約は,特許権若しくは出願中の特許を受ける権利に基づいて,その権利の一部若しくは全部を実施する「権原」を他の者に付与することを内容とするものであるから,特段の合意がない限り,後に特許権となり得る「特許請求の範囲」に記載された技術的範囲を実施許諾の対象にして合意されるべきものである。 この点,本件和解成立の経緯を見ても明らかなように,原告及び被告間にはそのような特段の合意はなかった。本件和解により実施許諾の対象となる権利は,原告及び被告間で実施許諾の対象として選別する基準が合意され,当事者間でその基準に従った選別作業を経て,本件目録に掲載された。その際,原告被告間には明細書に記載の発明全体を実施許諾の対象として選別するといった「合意」は存在しなかった。 (イ)本件特許と347特許の優先日,公開公報の発行日,及び出願日を比較検討すると,347特許の出願日が1986年(昭和61年)10月14日で,公開公報発行日が1987年(昭和62年)4月22日であるのに対し,本件特許の優先日は1986年(昭和61年)11月14日,出願日は1987年(昭和62年)5月15日であり,日本国特許法にいう29条の2の関係にある(ただし,欧州特許条約(EPCEuropean Patent Convention 1973)には日本国特許法29条の2のただし書に相当する規定はない)。仮に,原告がいうように,本件特許発明を構成する技術内容がすべて347特許の明細書(347公報)に記載されているとすると,本件特許発明はすべてが技術水準(the state ofthe art)を構成することになって,その結果,新規性(Novelty)が欠如し,登録要件を満たさないことになる。しかも,本件特許の特許公報(甲10)には,「EP-A-0219347(1987年4月22日発行)」として347公報が引用されているから,本件特許の審査の過程で347特許の明細書に記載された技術内容は当然考慮されていたはずであるが,それにもかかわらず,本件特許は有効に成立している。 このように,本件特許発明は,347特許の明細書に記載された発明ではない。 (ウ)原告は,347公報には,本件請求項1発明の構成要件が,一部は明示的に記載され,他は他の文献(甲第16号証刊行物)の記載から自明であるから,実質的に記載されていると主張する(本件請求項2発明ないし本件請求項15発明についても同様である)。 しかし,本件特許発明が,347公報に記載されているか否かは,欧州特許条約(英国特許法)に準拠して決せられるべき問題であるところ,このような主張を裏付ける規定は,欧州特許条約(英国特許法)にはない。 原告の主張は,結局のところ,2つの先行技術文献を組み合わせることによって,本件特許発明に想到し得るというにすぎない。原告の主張は,明細書への記載の存否の問題を,「実質的に記載されている」との評価をもって進歩性(Inventive step)における「自明(obvious)」の問題にすり替えて議論しているのである。 (エ)原告は,発明について実施許諾をした以上周知技術を付加した構成についても実施許諾がなされていると解すべきであると主張する。しかし,「特許を受ける権利」の実施許諾は,ノウハウと同様で,他人に実施させる場合でも,特別の権利があるというものではなく,事実上の問題であり,特許権の実施許諾とは異なるものである。原告は,事実上の問題と特許権の実施許諾の問題を混同している。 (3)原告製品に対する本件特許権の権利行使が日本法を準拠法とする信義則に反するか。 []原告の主張ア信義則の準拠法信義則は,契約関係を前提とした契約当事者間で適用される法理である。 そのため,信義則違反の評価根拠事実については,契約の存在,その内容を重要な要素として,さらに契約成立後の具体的な事情も考慮されるべきである。そして,権利行使における具体的な事情が信義則違反の評価根拠事実となるかどうかは,契約の存在やその内容などを踏まえなければ判断することできない。そのため,信義則違反の準拠法は,契約解釈の準拠法,すなわち日本法に従って判断がなされるべきである。 イ信義則違反の評価根拠事実以下の事実からすると,本件和解の当事者として,被告が原告に権利行使することは,信義則違反となり許されない。 (ア)本件和解の目的,交渉経緯及び内容a本件和解の目的は,成立当時,原被告間の自動計量定量装置に関する特許等についての紛争を全世界的に解決するため,またその紛争を抜本的に解決するためであった。 b本件和解は,上記の目的に沿い,遺漏がないよう包括的クロスライセンス契約の形式が採用された。 c本件特許と米国125特許は,発明の技術内容は同一である。米国125特許は本件和解の日においてすでに公開されていた。よって,本件和解時において本件特許の技術内容は秘密にしておく必要のあるものではなかった。一方,本件特許は,本件和解の日においてすでに出願中であったが,出願公開はなされていなかった。よって,原告は本件特許の出願が存在することを知りえない立場にあった。被告は,本件和解の交渉時,本件特許の存在を原告に告知する義務があったにもかかわらず,これを怠った。 d本件和解の前文には「現在公開されている両者の特許出願中の権利を対象として」,「相互の特許紛争を,全世界的に解決する」ために和解することが明記されている。本件特許と米国125特許の発明の技術内容は同一であり,本件和解の日においてすでに米国125特許の公報により出願公開されていた。よって,本件特許の技術内容は本件和解による許諾対象となる。 e本件和解の経緯において,実施許諾の対象は発明(パテントファミリー)であるという認識及び具体的な作業があった。本件和解の対象には,米国125特許が明示されている。本件特許は,米国125特許にかかる特許出願に基づく優先権を主張して取得されたものであり,両者は同一のパテントファミリーに属する。よって,本件特許は本件和解による許諾対象となる。 f347特許は,本件和解には明示されていないものの,本件和解の日には出願公開されていたので,本件和解の対象となる。同特許のファミリー特許は,本件和解の対象として明示されている。また,347特許は,本件和解の成立後に登録された。 本件和解の前文に示された契約の趣旨および本件和解条項13項の規定に照らせば,本件和解における「出願中の権利」に対する実施許諾の対象は,特許出願にかかる明細書に記載された発明全体である。 本件特許発明は,欧州(英国)347公報に記載された発明である。 したがって,本件特許発明の技術内容は,欧州(英国)347出願の「出願中の権利」に対する実施許諾によって,本件和解の許諾対象となる。 (イ)本件和解成立後の具体的事情a被告は,原告の本件特許発明の実施について,本件和解成立後,長期間にわたり,何らの異議も述べていなかったにもかかわらず,権利消滅の直前になって,唐突に原告に対し警告書を送付し権利主張をし始めた。 b原告の主要な取引先のみに対して訴訟を提起し,原告の信用を失墜させた。 [被告の主張]ア信義則の準拠法(ア)信義誠実の原則の評価根拠事実には,契約解釈に関わるものだけでなく,権利や義務の行使に関わるものがあり,契約関係の存在を前提にするからということのみで,準拠法が契約解釈の準拠法と同じであると一律に決せられるものではない。 (イ)原告が主張している信義則に関する評価根拠事実について本件特許の出願は和解成立日(昭和63年4月15日)以降の同年5月25日に出願公開されることになったが,被告がその事実を通知すべきであったのに,長年放置した末に権利行使するのは信義則に反するということは,まさしく権利行使の適法性の問題であって,法性決定の問題としては,英国法によって処断されるべきものである。 本件特許発明が,外国特許(米国125特許)発明と実質的に同一であるかどうかは,特許権の成立及び効力の問題であるから,英国特許法を準拠法として判断されるべき問題である。 原告が本件和解後の具体的事情として主張するところ(原告の主張イ(イ))は,本件特許の権利行使に関する事実であるから,それが許されるかどうかは,契約準拠法である日本法ではなく,権利が実施される英国における公序良俗及び公平の理念から,英国法を準拠法として決せられるべき問題である。 イ信義則違反の評価根拠事実について(ア)本件和解の目的,交渉経緯及び内容a原告は,本件和解が包括的クロスライセンスであると主張するが,誤りである。本和解契約の実施許諾の対象は,組合せはかりにのみに使用できる発明のうち,本件目録に掲載されているか,昭和63年(1988年)4月15日までに出願公開されている特許権又は特許出願中の権利に限定されている。原告のいう「包括的クロスライセンス」が,上記要件から外れるものをも実施許諾の対象に含める趣旨であり,ALL OVERな契約を意味するというものであれば,事実に反している。 b本件特許と米国125特許の発明の同一性について,原告の主張は,出願公開日が昭和63年(1988年)4月15日以降であっても,米国125特許と技術内容が同一である海外特許については,出願中であることを告知する義務があるというものである。しかし,出願公開日の要件を満たさない権利については実施許諾の対象から除外されているし,原告及び被告はその旨合意していたのであるから,被告が原告に対し,当該出願中の権利の存在を報告しなければならない理由が存在しない。 本件和解成立の経緯を見れば明らかなように,原告被告間には,「同一のパテントファミリー」であれば,出願公開日にかかわらず,本件和解の実施許諾の対象とするとの合意は,明示的にも黙示的にも存在しない。 (イ)本件和解後の事情についてa原告は,被告が原告による本件特許発明の実施について,長期間にわたり何らの異議も述べていなかったのに,唐突に警告書を送付して権利主張しだしたと主張している。 しかし,被告は,本件和解成立後,原告特許のうち実施許諾の対象になっていないものを常にチェックし,実施許諾対象外の問題になる原告特許があれば,事前に実施許諾を申し入れて,誠実に契約を遵守してきた。ところが,原告は,そうしたチェックをすることなく,被告の実施許諾の対象でない特許を無断で実施してきた。 b被告が,原告の実施状況を知るに至った事情は以下のとおりであるが,原告のいう,長期間にわたり何らの異議も述べていなかったのに,唐突に警告書を送付して権利主張しだしたとの批判は全くあたらない。 (a)1990年ころ,被告は,組合せ計量機と連動する包装機を独自に開発して,組合せ計量機と包装機とを一体化させる構想を持っていたが,その障害となったのは,原告の米国特許第4,780,830号とそれに対応する各国特許であった。日本の対応特許出願(特開昭62-103524昭和62年5月14日公開)は,本件和解成立時点では,公開されていたため,本来ならば実施許諾の対象になったはずであったが,この特許出願は,包装機メーカー(川島製作所)との共同出願であったため,許諾対象から外されていた。 (b)被告は,平成4年(1992年)10月8日に,上記米国特許を含む各国特許について実施許諾を申し入れたが,原告は拒否した。 そのため被告は,新たな包装機を独自に開発するとともに,原告の上記特許を使用しない新たな計量包装一体型システム(旧商品名:IPS,新商品名:ITPS)を開発し,平成12年(2000年)頃から主に米国市場で販売を開始した。 (c)ところが,豪州TNA社は,被告に対抗するために,TNA社の包装機(ROBAG2C)と原告の製品である「ADW-414SNX」とを一体化させたROBAG2Ciという計量包装一体型システムを開発して,TNAブランドで販売してきた。被告が,平成16年(2004年)頃,この一体型システムについてのマニュアル等の資料を適法に入手して調査したところ,このシステムは,本件特許の他に複数の被告特許(許諾対象特許も含む)が使用されており,包装機側の操作部が,まさに計量機側の操作・入力手段としても機能していた。このような無断実施や許諾対象特許の改造・改変は,本件和解によれば,被告の許諾がなければできないはずである。そこで,原告に対してこの点を問い質したところ,原告は,「この改変部分は,本件特許発明とは無関係の部分です。」と回答してきた。 さらに,原告は,共同出願を理由に許諾対象から外されたことを奇貨として,先の一体化システムの各国特許を持ち出して,平成17年(2005年)10月3日付で,被告に対して特許侵害の警告を行うとともに,平成17年(2005年)12月21日には,米国における被告の取引先(Heat and Control 社)に対しても,また平成18年(2006年)1月19日には,豪州における被告の取引先に対しても特許侵害の警告を行ってきた。そこで,被告は,仕方なく英国TNA社に対して差止請求訴訟を提起したのである。 第3当裁判所の判断1争点(1)(本件訴えの確認の利益)について被告は,本件特許権の通常実施権の確認請求ができるから,消極的確認である差止請求権不存在確認を求める確認の訴えの利益はないと主張する。しかし,本件訴訟は,通常実施権のみならず,本件和解の存在と成立における経緯により被告の原告に対する権利行使は信義則違反となることをも理由とする差止請求権不存在確認請求訴訟であるから,通常実施権の確認請求が可能であることにより,本件訴訟の訴えの利益が失われるものではない。なお,本件訴訟の提起が権利濫用であるとも認められない。 2争点(2)(本件和解による実施許諾)について(1)本件和解の準拠法についてア本件和解は,いずれも日本法人である原告と被告とが,日本国の法廷において日本語で締結したものである。本件和解の成立及び効力についての準拠法をどの国の法律とするかについての当事者の明示の意思は存在しないが,上記事実により当事者の黙示の意思を推認すれば,それは日本法であるものと認められるから,法の適用に関する通則法7条により,準拠法は日本法であると解すべきである。 イ被告は,本件和解が,各国特許権についての通常実施権を設定するものであることを根拠として,準拠法は,当該特許権が付与された国の国法として黙示的に指定されたと主張する。しかし,被告のように解すると,本件和解においては,多数の国の特許権等及び特許等出願中の権利について実施許諾がされているから,これら全部の国法が準拠法となり,非常に複雑となる。のみならず,欧州特許出願中の権利は,一個の出願について複数の指定国があることが多いから,出願中の権利が一個であるのに準拠法は複数(指定国の数だけ)あるという結果を招く。本件和解における契約当事者が,そのような意思を有していたとは認めがたい。 ウなお,当事者の意思が明確ではないとするとしても,法の適用に関する通則法附則3条3項,法例7条2項により,準拠法は行為地法である日本法となるところである。 (2)米国125特許の実施許諾を根拠とする主張についてア証拠(甲8,乙1ないし5,7ないし10,15,18,21,24ないし28,30,42ないし54)及び弁論の全趣旨によれば,本件和解に至るについて,次の経過があったことが認められる(重要な書証については末尾等に再掲する)。 (ア)前件仮処分事件については,昭和62年夏ころから和解についての検討が始まり,同年11月9日には,原告被告間の和解についての会談で,「馴れ合いが無いことの証拠として,契約成立後一定期間ごとにその期間の登録案件をバータすることも一つの方法である」という話も出され,同年12月24日の,原告と被告の会談では,「ALLOVERの契約」すなわち全部実施許諾する契約は問題ありと思うが,米国の弁護士に相談中との話も出た。(乙8ないし10,15)(イ)昭和63年1月ころ,被告は,被告の代理人弁護士から,米国の弁護士の意見を踏まえて,米国独占禁止法違反を避けるためには,@将来発生する両者の特許を和解契約書の範囲内に自動的に含まれるようにしないこと,A両者間の将来の実施許諾は,和解契約とは独立して取り決めなければならないこと,などの指摘を受けた。(弁論の全趣旨。とりわけ,被告準備書面(1)の17〜18頁において,米国のマッキントッシュ弁護士の意見が引用されている点)(ウ)昭和63年1月ころから,原告被告双方が,それぞれの保有する特許権等,出願中の権利について,目録案を相手に送付し,互いにその内容をチェックしたが,その過程で,目録の追加,差替えなどが行われていた。ところが,同年3月ころ,双方がリストアップした基準(例えば,一般はかりにも使用できるものを含むか否かなど)が同じでないことが確認されたため,同月29日に,原告と被告が,改めてリストアップの基準の基本事項として,@本件和解予定日(昭和63年4月15日)までに登録されたもの,公開されたものは含む,A組合せはかりのみに使用しているものは含む(例えば実施例が組合せはかりしか記載していないものはクレームの内容による(一般はかりにも適用できる記載のものは含む)。),B一般はかりにも使用でき,明細書に”組合せはかりにも適用できる”のような記載のあるものは除外する,などを確認し合った。その後,原告と被告は,これに従って目録を作成し直し,検討をした結果を送付したり,目録の差し替えをしたりして,本件目録が作成された。(乙18,21,24ないし28)(エ)日本出願を基礎として優先権主張をしたものでも,本件和解成立時点で出願公開されていなければ,本件目録に記載されておらず,そのため,このようにファミリー関係にある特許でも,日本特許及び英国特許は,本件目録に記載されているが,米国特許は記載されていないというものが原告の出願中の権利でも約10件あったこと,そのうち1件は,出願公開されていたことが本件和解成立後に判明したことから,後記「目録の差替え」の対象とされた。(乙5,7)(オ)原告は,昭和63年9月ころ,本件和解調書の別紙工業所有権目録には記載がないが,本件和解成立の日までに特許権が登録されていたり,出願公開されていたことが本件和解成立後に判明した権利に関して,被告に対し,これらの権利を追加した目録を送付して「目録の差替え」を行い,本件和解の対象となっていることを明確にする措置を採っている。 (乙5)(カ)原告の日本特許第2601649号特許権は,本件和解当時は出願中・公開前であり,本件目録には記載がなかったので,被告が実施許諾を求め,被告と原告との間で,本件和解とは別に実施許諾契約が締結されている。(甲8,乙3,4,54)(キ)本件和解成立時点で出願公開されていたが,一般はかりにも使用される技術であるため,本件和解の対象外とされていた被告の特許出願中の権利(特公平1-15007号に係る権利)については,本件和解とは別に,被告から原告への実施許諾契約が締結されている。また,はかりに関する技術ではないという理由で本件和解の対象外とされていた原告の特許出願中の権利について,被告が実施許諾を求めたが原告が拒絶した例(特公平6-21814号に係る権利)や,実施許諾した例(特公平7-20714号に係る権利)もある。(乙42ないし53)(ク)本件和解成立前に,原告被告間においては,昭和57年2月10日付け覚書(以下「旧覚書」という。)が締結されていたが,本件和解に関連して,原告が原告の米国代理人に検討を依頼したところ,原告と被告の米国におけるマーケットシェアが高いために,原告又は被告が特許権侵害問題で他社を提訴したり,他社から提訴された場合に,米国独占禁止法に違反するとの追及が行われる可能性が高いので注意を要するとの指摘を受け,昭和63年9月8日に新たな覚書(乙41。以下「新覚書」という。)を締結した。旧覚書では,原告と被告が,「工業所有権について相手方の権利の成立を妨げることなく共通の利益の確保に努める。」との条項であったのが,新覚書では「他当事者が工業所有権等を確立することを不正/不当に妨げるものではない。また,これら各自の所有する権利の行使については,互いに何ら制約されないものとする。」と変更されている。(乙1,2,30,32)イ上記事実を踏まえて判断する。 本件和解においては,実施許諾の対象となる特許権等及び特許等出願中の権利について,本件目録によって特定し,同目録以外では「自動定量計量装置に係る特許権であって,本和解成立の日までに成立するもの」と「自動定量計量装置に係る特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるもの」と特定されている。したがって,本件和解における実施許諾の対象の範囲は明確であり,逆に,それ以外の権利,例えば,「本件目録に記載されていない権利であって,かつ,自動定量計量装置に係る特許出願中の権利ではないもの」や「本件目録に記載されていない権利であって,かつ,本和解成立の日までに出願公開されないもの」などは含まれていないものと解される。 また,特許権等は,各国別々のものであるところ,本件目録では,特許権等及び特許等出願中の権利は,国(欧州特許は指定国が記載されていた。)ごとに分類されて記載されていることからすれば,本件和解においても,特許権等及び特許等出願中の権利は,各国別々のものと認識されていたものと認められる。 前記アのとおり,@原告と被告は,将来発生する両者の特許を和解契約書の範囲内に自動的に含まれるような契約は米国独占禁止法に触れるおそれがあるため避けることとしており,A本件目録は,原告被告双方による提示,検討,基準の統一,更に再検討や差替えなどを経て作成されており,B本件目録では,いわゆるファミリー出願について,ある国への出願中の権利は記載され,他の国への出願中の権利は記載されていない,というものも相当あり,C本件目録に含まれない特許権等については,別途実施許諾の交渉がされ,実施許諾がされたものもされなかったものも存在する。 以上の事実からすれば,本件和解条項及び本件目録によって明示されていないものは,本件和解による実施許諾の対象とならないとの認識が原告被告双方にあったものと認められる。 ウ原告の主張について(ア)原告は,原告が本件和解により米国125特許の実施許諾を受けていることを根拠として,本件特許についても実施許諾を受けていると主張する。しかし,特許権は各国別々のものであって,実質的に同一の技術であるからといって,一国について実施許諾した場合に,他国においても当然に実施許諾されたことになるわけではない。むしろ,各国の市場状況に応じて,ある国では実施許諾し,別の国では許諾せず独占する,ということは当然あり得るところであり,何ら異とするに当たらない。 そして,上記のとおり,本件和解においては,特許権等及び特許等出願中の権利は,各国別々のものと認識され,実施許諾の対象の範囲は,条項と本件目録によって明確にされていたことに照らせば,米国125特許の実施許諾を受けていることをもって,本件特許の実施許諾の根拠とすることはできない。 (イ)証拠(甲8)によれば,本件和解調書の前文では,和解の趣旨として,「両者間の相互の特許紛争を抜本的に解決するためには,日本特許第1,153,378号特許権に関する紛争について結論を出すだけでは足りないことが両者間に理解されるに至った。そこで,債権者及び債務者は,裁判官の勧告に従い,両者間の特許紛争を全世界的に解決するため,現在両者が有している特許権及び現在公開されている両者の特許出願中の権利を対象として,次のとおり和解することとする。」との記載があることが認められる。 上記記載からすれば,「全世界的に解決するため」とは,「日本特許第1,153,378号特許権に関する紛争について結論を出すだけでは足りない」に対応して,他国の特許についても対象とすることを示しているにすぎないものと解される。したがって,上記「全世界的に解決するため」の記載を,国・地域を問わず,本件和解調書に明示されていない特許権等や特許等出願中の権利が実施許諾されるとの趣旨と解することはできない。 (ウ)原告は,米国125特許の公報発行日が本件和解の日より前であるから,本件和解の成立日において,本件特許の内容が公開されていたことになるとも主張する。しかし,前記イにおいて説示したところに照らせば,米国125特許の公開により,欧州(英国)特許出願中の権利である本件特許に係る権利が,実施許諾の対象となったとすることはできない。 (エ)原告は,実施許諾の対象は,パテントファミリーごとに検討されていたと主張し,ファミリー特許が明示された検討表(甲20ないし22)の存在を指摘する。しかし,これについて,被告は,クロスライセンスを前提として作成されたものではなく,それより以前のロイヤリティを支払うことを内容とする合意を模索していた段階のものであると主張し,これらの表の作成日は,原告被告による目録作成の基準の見直しの時点(昭和63年3月29日)からみて相当前である昭和62年9月1日受入れと思われるもの(甲20)以外は明らかではない。そして,実際に,ファミリー関係にある特許でも,日本特許及び英国特許は,本件目録に記載されているが,米国特許は記載されていないというものが,原告の出願中の権利でも約10件あったことは前示のとおりである。これらの事実に照らし,原告の主張は採用することができない。 (オ)証拠(乙4)によれば,原告被告間の日本特許第2601649号の実施許諾契約には,「本件特許権の出願発明に対応する外国特許権・・・に基づいて,権利を行使しないものとする。」(3条)との条項があることが認められる。しかし,証拠(甲8)によれば,本件和解条項には,そのような条項はないことが認められるから,前記日本特許第2601649号の実施許諾契約をもって,米国125特許の実施許諾により本件特許の実施許諾がされたことを根拠付けることはできない。 (カ)原告は,本件和解における「第1項から前項までに定める『特許権』及び『特許出願中の権利』には、それらについての手続の補正、出願の変更、出願の分割、訂正の審判、再審及び再発行…によって発生する権利を含むものとする。」との条項(13条)の趣旨からして,実施許諾された米国125特許の出願の優先権に基づいて,同一の技術について英国で特許出願され,本件和解後に公開された本件特許権についても,実施許諾されたと解するべきであると主張する。 しかし,前記のとおり本件和解は,その成立までに公開された特許権及び特許出願中の権利を実施許諾の対象とすることを基本的な内容としたものであり,また本件目録では,ファミリー出願について,ある国への出願中の権利は記載され,他の国への出願中の権利は記載されていないというものも相当あることからすると,上記基本的内容の例外を定める本件和解の第13条は,その文言どおり,補正や分割出願等、上記条項において列挙された場合に限定されるものと解するのが相当であるから,上記原告の主張は採用できない。 (3)347特許の特許出願中の権利の実施許諾を根拠とする主張についてア本件和解における「特許出願・・・中の権利について,その実施を許諾し」における許諾について,原告は,明細書に記載された発明(技術的事項)全体を対象とすると主張し,被告は,特許請求の範囲に記載された内容によって画されると主張する。契約は自由であるから,一般論としては,いずれの合意をすることも可能である。そこで,まず,「特許出願中の権利について,実施を許諾」するという契約の普通の意味を検討し,これを踏まえて本件和解における合意の内容を認定することとする。 イ特許出願中の権利について実施を許諾することにより発生する権利義務との関係(ア)特許権に係る通常実施権は,当該特許発明を実施し得る権原であるが,特許権は,他人に対しては特許発明の実施を排除し得るという効力を有するものであることからすれば,通常実施権とは,特許権者に対し,当該特許権に基づく差止請求権・損害賠償請求権等の権利を行使させないという不作為請求権であるということができる。これを特許権者側からみると,「通常実施権の許諾」とは,当該特許権に基づく差止請求権・損害賠償請求権等の権利を行使しないという不作為義務(権利が消尽したとして行使しない場合も含む。以下同じ。)を負うことを意味するということができる。 上記特許権に係る通常実施権の許諾との対比において,特許出願中の権利の実施許諾の意味を検討する。特許出願中の権利は,それに基づく差止請求・損害賠償請求等ができないものであるから,第三者がその実施行為を特許権の設定登録前に適法に行うためには,特許出願中の権利の実施許諾を受けることは本来は必要のないことである。しかし,出願が公開された後には,補償金請求権が発生し得るから,「特許出願中の権利の実施許諾」をする意義は,特許権設定登録後に補償金請求権を行使しないという点にあるということができ,それにより権利者はそのような不作為義務を負うことになると理解される。また,登録前に許諾に基づいて製造販売された製品について,特許権設定登録後において特許権に基づく権利行使があり得るから,これらの製品について,特許権設定登録後に権利者が権利を行使しない(消尽した)という不作為義務を負う点にも意義があるということができる。 (イ)ところで,補償金請求権は,特許権設定登録後でなければ行使することができず,したがって,例えば日本国特許法65条1項所定の警告時に,第三者が実施している発明が明細書はもとよりその時点での特許請求の範囲に記載されていても,最終的に特許権が設定登録された発明の技術的範囲に属していなければ補償金請求権は発生しない。そうだとすると,「特許出願中の権利の実施許諾」,すなわち,補償金請求権を行使しないという不作為義務の範囲は,特段の合意のない限り,後に特許権として設定登録された発明の内容に従って,事後的に決まるものである。 また,特許権設定登録後において,登録前に製造販売された製品に対する権利行使をするときは,登録後の「特許請求の範囲」に記載された技術的範囲に基づかなければならないから,その不作為義務の範囲についても,後に特許権として設定登録された発明の内容に従って,事後的に決まるものである。 もっとも,願書に添付された「特許請求の範囲」に記載された発明は,出願人が特許を受けようとする発明を記載したものであるから,特許権の設定登録前の段階においても,当該特許出願に基づいて特許権が付与される可能性が最も高いものである。したがって,権利者が負う不作為義務の範囲は,厳密には上記のとおり特許権の設定登録後に事後的に決まるものであるが,特許出願中の権利の実施許諾契約をする当事者は,主として出願中の「特許請求の範囲」に係る発明を念頭において契約を締結するものであると推認される。 (ウ)これらのことからすれば,通常の「特許出願中の権利について,実施を許諾」するという契約は,主として出願中の「特許請求の範囲」に記載された発明を念頭に置いた上で,最終的には特許権として設定登録された発明を許諾の対象としてされると解するのが当事者の通常の意思に合致するものと解される。 (エ)ちなみに,特許出願準備中の発明を実施した装置を相手方に製造させる旨の契約をし,それに伴い当該装置を他人には納入販売しないという義務を負う旨の合意をしたという事例について,上記契約は,当該発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として,このような発明としての当該発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきであり,特段の事情の認められない限り,特許請求の範囲が減縮された場合には,これに伴って,上記他人には納入販売しないという義務の対象となる装置も,その範囲のものとなるとされている(最高裁判所平成5年10月19日第三小法廷判決・判例時報1492号135頁参照)。これは,「特許出願準備中の発明の実施許諾契約」が,普通は,出願中の「特許請求の範囲」に記載された発明を許諾の対象として決定され,最終的には特許権として設定登録された発明を対象として決定されていることを意味するということができる。このこととの均衡を考えると,「特許出願中の発明の実施許諾契約」,すなわち,「特許出願中の権利について,実施を許諾」するという契約も,普通は,これと同様に特許請求の範囲に記載された技術的範囲を許諾の対象として決定され,最終的には特許権として設定登録された発明を対象として決定されるものと解されるところである。 ウ特許権の実施許諾との均衡前示のとおり,特定の特許権について実施許諾を受けたとしても,それは,当該特許権に基づく権利行使を受けないという意味にすぎない。いかに許諾を受けた特許の明細書中に記載された発明の実施であっても,それが他の特許権の技術的範囲であれば,他の特許権の行使を受け得る。したがって,通常の「特許権の実施許諾」契約は,当該特許権に基づく権利を行使しないという趣旨であって,「当該特許の明細書中に記載された発明」の実施について他の特許権まで権利を行使しない趣旨と解されないことは明らかである。 他方,特許を受ける権利の実施許諾を受けた場合について,「特許の明細書中に記載された発明」の実施については,いかなる特許権の行使も受けないという趣旨と解するのは,上記特許権の実施許諾の場合と比較するとあまりにも不均衡である。このことからみても,通常の「実施許諾」というのは,特許権や出願中の権利が権利化された場合に当該権利の権利行使を受けないという趣旨であって,「特許の明細書中に記載された発明」の実施について他の特許権や出願中の権利まで権利を行使しないという趣旨ではないものと解される。 エ特許の明細書には,一般的な説明,実施例,比較例,参考例,従来例,設計変更についての開示・示唆なども含めて様々な発明が記載されるものであって,その中には,他の特許権の対象となっている発明もあり得ることは明らかである。原告の主張するように,特許出願中の権利の実施許諾が,特許の明細書に記載された発明全体に及ぶとすると,実施許諾の対象となっていない特許権に係る発明が,実施許諾の対象となった特許の明細書にたまたま記載されていた場合,それにより特許権を行使できなくなることになるが,そのような結果が通常の契約当事者の意思とは認めがたい。 オ原告の主張について(ア)原告は,出願中の権利の実施許諾については,「特許の明細書に記載された発明」が対象となると解さなければ,特許出願中の権利について実施許諾を受けたとしても,特許権が成立するまでは実施許諾の対象が確定しないため,特許の明細書に開示された発明について,実施できるか否か予測困難で不明確かつ不安定な状態に実施権者は置かれることになると主張する。 しかし,通常の「実施許諾」が,特許権や出願中の権利に係る明細書に記載されている発明の全部について,他の特許権まで行使しないという趣旨と解されないことは先に述べたとおりである。そしてこのように解しても,後に権利化される可能性が最も高いのは出願中の願書に添付された「特許請求の範囲」に係る発明なのであるから,その発明を念頭に置いて,先に述べた意義を有する特許出願中の権利の実施許諾を受けることには,最も可能性の高いリスクに対処するという点で十分な価値があるのであって,原告が主張するような不安定さがすべて解消されない限り特許出願中の権利の実施許諾契約をする意味がないというものではない。そしてまた,実施許諾を受ける者が,原告の主張するような不安定さを更に低減させ,さらには除去までしようとすれば,特許出願中の権利者との間で,単にその実施許諾契約を締結するにとどまらず,それを超えて,その明細書に記載されたすべての発明を実施することについての許諾契約(それらの発明の実施に対していかなる権利も行使しないという契約)を,更に相応の対価を支払った上で締結することもできるのである。したがって,原告が主張するような不安定さがあるからといって,特許出願中の権利の実施許諾の意味を,その明細書に記載されたすべての発明を対象とすると理解することはできない。 (イ)原告は,日本国特許法29条の2(拡大先願規定)では,先の出願で明細書に開示されていた発明であっても,同一出願人または同一発明者であれば,後の出願であっても特許を取得することができるから,出願人が先の出願と別個に新たな特許出願を行い,特許請求の範囲が減縮されるなどして権利化が放棄された発明につき特許を取得することも可能であり,そうなると,一度は実施許諾の対象となっていた発明につき,事後的に実施権が消滅した(あるいは付与されていなかったこととなる)結果,当該発明につき事後的に実施不能に陥るという不合理な結果が生じかねない,かかる状況は,実施権者に予測の困難な不利益を負わせ,取引の安全を著しく害すると主張する。 しかし,先の出願で明細書に開示されていた発明について,当該出願において特許権の対象とならない場合には権利を行使しないかのような態度をとって相手方をその旨信頼させておきながら,当該出願を取り下げるなどして権利化を放棄し,他方で後の出願を利用して同一発明で特許を取得するというような事例を意図的に発生させた場合に,特許権者に信義則上の問題が発生する余地があり得ることはともかく,通常の「実施許諾」が,特許権や出願中の権利に係る明細書に記載されている発明の全部について,他の特許権まで行使しないという趣旨と解されないことは前示のとおりである。原告の主張は,採用することができない。 カ本件和解についての判断(ア)特許の明細書に記載された発明全部について,なんらの権利をも行使しないという趣旨の明示をすれば,その旨の契約が成立することは明らかである。しかし,本件においてされているのは,それを明示した契約ではなく,「特許等出願中の権利の実施許諾」である。そして,本件全証拠によっても,特許等出願中の権利の実施許諾の名目の下に,当該出願に係る明細書に記載された発明全部について,なんらの権利をも行使しないという趣旨の合意が行われたと認めることはできない。かえって,前記のとおり,本件目録に記載する基準に関しても,特許等出願中の権利に関し,特許権とは異なり,明細書に記載された発明全部についての検討が行われたと認めることもできないから,本件和解においても,通常の出願中の権利の実施許諾と同様,特許権の実施許諾に準じて,許諾の対象は特許請求の範囲に記載された発明を基準として判断されていたものと認められるところである。 (イ)また,このように解すると,本件和解条項の第2項の「債権者は,債務者に対し,別紙工業所有権目録(二)記載の特許出願・・・中の権利について,その実施を許諾し(・・・非独占的実施の許諾とする。以下同じ。),かつ特許権の成立を停止条件としてその通常実施権を許諾する。」とは,債権者(被告)が,別紙工業所有権目録(二)記載の特許出願中の権利について,特許権の設定登録後に,当該特許権に基づく権利(登録前の実施行為に対しては補償金請求権,登録後の実施行為に対しては差止請求権,損害賠償請求権等)を行使しないという趣旨と理解される(仮に原告が主張するように、特許出願中の権利の実施許諾が、その明細書に記載されたすべての発明に及ぶならば、それらの発明については、当該特許出願に基づいて特許権が付与されようとされまいと、またどのような内容の発明として特許権が付与されようとも、それについては既に「実施許諾」(いかなる権利も行使しないという契約)がなされていることになるはずであるから、本件和解条項第二項の後段の規定は本来不要のはずである。)。また,証拠(甲8)によれば,本件和解条項には,「第一項から前項までに定める・・・ 特許出願中の権利 に『』は,それらについての手続の補正・・・によって発生する権利を含むものとする」(13条)との規定のあることが認められるが,これは,補正により特許出願中の権利の特許請求の範囲が変更した場合の手当をしたものと理解することができる。このように,本件和解において,出願中の権利の実施許諾が特許請求の範囲に記載された発明を基準として判断されていたとすると,他の本件和解中の条項も整合的に理解し得るところである。 (ウ)なお,以上のように,欧州(英国)特許を受ける権利の実施許諾を,日本法を準拠法として契約した場合に,その契約が英国特許法によって有効であるか否かを検討する。 弁論の全趣旨によれば,英国特許法(Patent Act 1977)では,「出願中の特許を受ける権利」を財産権(Personal Property)として位置付け,実施許諾を認めているが,その実施許諾の対象は,出願の対象たる発明(invention which is the subject of theapplication)とされている。したがって,英国特許に係る特許出願中の権利について,特許請求の範囲に記載された発明について実施許諾されたと解しても,不都合は生じず,有効なものと解される。 (4)小括以上のとおり,本件和解によって,被告から原告に本件特許の実施許諾がされたと認めることはできない。 3争点(3)(特許権行使が日本法を準拠法とする信義則に反するか)について(1)信義則における準拠法ア本訴において,原告は,日本法を準拠法とする信義則を主張している(英国法を準拠法とする信義則は主張していない。)。そこで,まず,本件において,「日本法を準拠法とする信義則」が存在する余地があるか否かを検討する。 イ特許権の実施許諾(当該特許権の行使をしないという不作為義務を負う)との対比でいえば,被告による英国特許権の行使が信義則上許されないということは,被告が,英国特許権の行使をしないという不作為義務を信義則上負う,ということを意味する。 そして,契約当事者間の信義則に基づく義務は,契約に付随するものであるから,その義務に関する準拠法は,本体である契約と同じというのが,当事者の意思と解される。 したがって,本件においては,日本法を準拠法とする本件和解(契約)に附随して,信義則上の義務が認められる余地があり,その場合には,その義務の準拠法も,本体である本件和解と同様日本法とする黙示の合意があったと解すべきである。したがって,本件和解に附随して発生する信義則上の義務の準拠法は,法の適用に関する通則法7条により日本法である。 ただし,日本法を準拠法とする信義則は,日本法による契約の付随的なものであるが故に準拠法が日本法と認められるのであって,契約(本件和解)に付随して発生する義務ではないことについてまで,「日本法を準拠法とする信義則上の義務」とすることはできない。 ウそこで,以下,日本法を準拠法とする,原告と被告間の信義則上の義務の有無について判断する。 (2)日本法を準拠法とする信義則の抗弁の成否ア本件和解に附随して,被告に「本件特許権の行使をしない」という信義則上の義務が生じるというためには,単に原告が本件特許権の行使を受けないことを期待したというだけでは足りず,これを行使することが信義に反するといえるほどの事情がなければならない。そこで,以下この観点から検討することとする。 イ原告の主張イ(ア)(本件和解の目的,交渉経緯及び内容)について(ア)同a(本件和解の目的は,原被告間の自動計量定量装置に関する特許等についての紛争を全世界的抜本的に解決するためであったとの点),b(本件和解は,包括的クロスライセンス契約の形式が採用されたとの点),c(本件特許の告知義務の点)について前記2(2)認定のとおり,(a)本件和解における,「全世界的に解決するため」との文言は,前件仮処分事件の対象である「日本特許第1,153,378号特許権に関する紛争について結論を出すだけでは足りない」に対応して,他国の特許についても対象とすることが示されたものすぎず,(b)本件和解における実施許諾の対象の範囲は,本件和解条項及び本件目録によって明確であり,(c)@原告と被告は,将来発生する両者の特許を和解契約の範囲内に自動的に含まれるような契約は米国独占禁止法に触れるおそれがあるため避けることとしており,(c)A本件目録は,原告被告双方による提示,検討,基準の統一,更に再検討や差替えなどを経て作成されており,(c)B本件目録では,ファミリー出願について,ある国への出願中の権利は記載され,他の国への出願中の権利は記載されていない,というものも相当あり,(c)C本件目録に含まれない特許権等については,別途実施許諾の交渉がされ,実施許諾がされたものもされなかったものも存在するのであって,(d)これらのことからすれば,本件和解条項及び本件目録によって明示されていないものは,許諾の対象とならないとの認識が原告被告双方にあったものと認められるところである。上記事実に照らし,被告において,本件和解の交渉時に本件特許の存在についての告知義務があったと認めることはできない。 (イ)同d(米国125特許公開の点),同e(本件和解の実施許諾がパテントファミリーである点)について米国125特許の公報発行日により,欧州(英国)特許出願中の権利である本件特許に係る権利が,実施許諾の対象となったとすることができないことは,前記2(2)ウ(ウ)のとおりであり,本件和解の実施許諾がパテントファミリーを対象とすると認められないことは,前記2(2)ウ(エ)のとおりである。 (ウ)同f(347特許の明細書に記載されている点)a通常の「特許出願中の権利の実施許諾」の範囲は,特段の合意のない本件においては,後に特許権となるべき「特許請求の範囲」に記載された技術的範囲を許諾の対象として判断決定されていたことは,前記2(3)カ(ア)のとおりである。また,本件和解条項の「第一項から前項までに定める・・・ 特許出願中の権利 には,それらについての『』手続の補正・・・によって発生する権利を含むものとする」(13条)との規定は,特許出願中の権利の実施許諾の範囲が,特許請求の範囲に記載された技術的範囲であることを前提として,補正により特許出願中の権利の特許請求の範囲が変更した場合の手当をしたものと理解されることも,前記2(3)カ(イ)のとおりである。したがって,特許請求の範囲に記載された技術的範囲以外は,実施許諾の対象となることが期待されていなかったものというべきである。 b本件全証拠によっても,被告において,347特許の明細書に開示されていた発明について,当該出願において特許権の対象とならない場合にはいかなる権利も行使しないかのような態度をとったとか,意図的に当該出願を取下げるとともに同一発明で本件特許に係る出願を利用して特許を取得したとか,というような行為があったと認めることはできない。 cかえって,次の事実が認められる。 (a)本件請求項1発明について@本件請求項1発明は,以下を内容としている(以下,本件特許発明については,日本語により内容を記載する。)。 (1a)駆動手段により駆動されるホッパゲートの動作を制御する方法において,(1b)該ホッパゲート開閉中の任意の時点における前記ホッパゲートの開度を設定することにより前記ホッパゲートの加速,減速モードを選択するステップと,(1c)前記ホッパゲートにより前記動作モードを実行するように前記駆動手段に出力すべき一連の信号を決定することによってプログラムを形成するステップと,(1d)前記プログラムに応じて前記駆動手段に信号を送信するステップを特徴とする方法。 A証拠(甲15)によれば,347特許の明細書には,「図11,12,13に示す好ましい実施例によるホッパ作動機構は,その回転速度と回転方法を自由に変更できるステッピングモータの使用を特徴とするものであり・・・組合せ計量装置のホッパ駆動機構にステッピングモータを使用する利点は,他に以下などがある。 ・・・(3)回転速度と回転方向は,デジタル制御で簡単に変えることができ,オープンループ制御により設計変更も容易に実施できる。」(甲15訳文8頁末行〜9頁9行)との記載があるものの,本件請求項1発明の(1b)の構成が明示されていないことが認められる。 B原告は,甲第16号証刊行物に,ステッピングモータの特徴につき,「モータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」(4頁20行)と記載されていることを根拠として,347特許の明細書記載の発明の構成において,ホッパゲート開閉中の任意の時点におけるホッパゲートの開度を設定することによりホッパゲートの加速,減速モードを選択することは自明であると主張する。 しかし,甲第16号証刊行物に記載されていることと,それが347特許の明細書に記載されていることは,必ずしも直結するものではない。また,「ステッピングモータではモータの回転角度と入力パルス数が,完全に比例する」ことと,347特許の明細書のステッピングモータについて,全開,半開などの具体的な「ホッパゲートの開度を設定すること」によって具体的な「ホッパゲートの加速,減速モードを選択する」ことが記載されていることも,必ずしも直結するものではない。被告がこれを否定する見解に立っているとしても,それは見解の相違にすぎないものであって,信義則の問題を生ぜしめるものではない。 (b)本件請求項6発明について本件請求項6発明には,「該ホッパゲート開閉中の任意の時点における前記ホッパゲートの開度を設定することにより前記ホッパゲートの加速,減速モードを選択する選択手段」との構成がある。そして,「ホッパゲート開閉中の任意の時点における前記ホッパゲートの開度を設定することにより前記ホッパゲートの加速,減速モードを選択する」ことが347特許の明細書に記載されていることを否定する見解に立っているとしても,それは見解の相違にすぎないものであって,信義則の問題を生ぜしめるものでないことは,前示のとおりである。 (c)本件請求項2発明ないし本件請求項5発明,及び本件請求項7発明ないし本件請求項15発明についてこれらの発明は,本件請求項1発明又は本件請求項6発明の構成を含むものであるから,これらが347特許の明細書に記載されていることを否定する見解に立ったとしても,信義則の問題を生ぜしめるものでないことは前示のとおりである。 (d)本件請求項4発明について@本件請求項4発明は,以下を内容としている。 (4a)前記プログラムが,前記ホッパゲートが開いた後に前記ホッパゲートを所定回数振動させることを特徴とする(4b)先行する請求項のいずれかに記載の方法。 A証拠(甲15)によれば,347特許の明細書には,上記(4a)の構成が明示されていないことが認められる。 B原告は,公開実用新案公報昭60-27089号(甲17),公開実用新案公報昭60-110312号(甲18),公開実用新案公報昭60-157732号(甲19)に,上記構成が記載されており,上記構成は周知であるから,347特許の明細書に上記構成が実質的に記載されていると主張する。しかし,上記技術がこれら複数の公開実用新案公報に記載されていることと,それが周知といえるかは別問題である。また,上記技術が周知技術であることと,それが347特許の明細書に実質的に記載されているといえることも,別問題である。被告がこれを否定する見解に立っているとしても,それは見解の相違にすぎないものであって,信義則の問題を生ぜしめるものではない。 d上記のとおり,347特許の明細書に本件特許の構成が明示されているというものではなく,これが実質的に記載されているかどうかは,見解の相違があり得るものである。このことからすれば,被告において,意図的に当該出願を取り下げるとともに同一発明で本件特許に係る出願を利用して特許を取得したような行為があったと認めることは,なおさらできない。 eなお,本件特許が,347特許の明細書記載の発明と同一であって無効であるか否かは,最終的には権限ある官庁によって判断されるべき問題である。しかし,仮に,本件特許を無効とする判断が下されたとしても,このことにより,本件特許権は無効を理由に行使できないことになるものの,そのことと,本件和解に附随する信義則とは別の問題である。 f原告が,本件特許発明が347特許の明細書に記載されていることを根拠として信義則違反を主張する趣旨は,「特許等出願中の権利」の実施許諾を受けた347特許の明細書に記載されている発明は,当該出願において特許権の対象となる発明となれば,通常実施権が許諾されることになるから権利行使を受けないし,当該出願において特許権の対象となる発明とならなければ,自由技術になり権利行使を受けないから,いずれにしても権利行使を受けないという期待を抱くのに,本件特許権の行使はその期待に反するという趣旨とも解される。 しかし,後者の点(当該出願において特許権の対象となる発明とならなければ,自由技術になり権利行使を受けないということ)は,原告がこれを抱いたとしても,単なる期待にすぎず,本件全証拠によっても,被告が,本件和解の経過において,347特許の明細書に記載されている発明については権利行使をしないかのような態度をとったなどの事情は認められないから,その発明の実施に対して本件特許権を行使することが,信義則に反するものではない。 のみならず,弁論の全趣旨によれば,欧州特許条約においては,日本国特許法29条の2ただし書(出願人同一の場合の例外)に相当する規定はなく,本件特許発明の技術内容がすべて347特許の明細書に記載されている場合には,本件特許発明は新規性がなく,本件特許は無効となって特許権を行使できないことになるから,本件においては,上記期待に反することにもならない。 この点について,原告は,347特許の明細書に記載されている発明にとどまらず,これと同一ではなくても,これに周知技術を付加した発明についてまで,権利行使を受けないことを期待し,その期待が保護されるべきであると主張するもののように思われる。 しかし,第三者が,347特許の明細書に記載されている発明にとどまらず,これに周知技術が付加されていることにより同一とはいえない発明について,後願として他の特許出願をし,これが特許査定されて,原告に対して当該他の特許権を行使してくることは当然あり得るところである。このことからみれば,特許出願中の明細書に書いてある発明に周知技術を付加した発明について権利行使を受けないという期待に反する結果が生じることは当然あり得るところにすぎず,上記期待が保護されなければならないものではない。そうだとすると,他の特許権により権利行使をするのが,被告であるとしても,本件和解の経過において,そのような発明について権利行使をしないかのような態度を被告がとったという事情は認められないのであるから,被告の権利行使が本件和解に附随する信義則に反するということはできない。 ウ本件和解後の事情について(ア)同a(被告が長期間にわたり,何らの異議も述べていなかった等の点)について上記は,本件和解に附随する事柄といえるかどうか疑問があるが,仮にそうだとしても,そもそも,被告が原告による本件特許発明の実施を知らなければ,異議の述べようがないから,信義則の問題が発生するとは考えられない。ところが,被告が原告による本件特許発明の実施(又は原告製品の製造販売)をいつ知ったかという点について,原告は何ら主張していないから,原告の主張は,それ自体失当である。なお,仮に,被告が原告による本件特許発明の実施を知りつつある程度の期間異議を述べていなかったとしても,そのことが直ちに本件和解の趣旨に反するものではなく,本件特許権の行使が信義則に反するものではない。 (イ)同b(原告の主要な取引先のみに対して訴訟を提起し,原告の信用を失墜させたとの点)上記も,本件和解に附随する事柄といえるかどうか疑問があるが,仮にそうだとしても,そのことが本件和解の趣旨に反するというものではないから,本件特許権の行使が信義則に反するという結果を招くものでもない。 (ウ)なお,以上の本件和解後の事情は,それが本件和解に附随する事柄ではないとすると,日本法を準拠法とする信義則とは無関係であることになり,原告が日本法以外を準拠法とする信義則の主張をしていない本件においては,主張自体失当というべきである。 エ小括以上の事実に照らせば,本件全証拠によっても,原告製品に対する被告による本件特許権の行使が日本法に基づく信義則に反するものと認めることはできない。 4結論以上のとおり,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 村上誠子 |