• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ4556職務発明譲渡対価請求事件 判例 特許
平成15ワ23981補償金請求事件 判例 特許
平成17ワ12576職務発明対価支払等請求事件 判例 特許
平成14ワ20521特許権持分移転登録手続等請求事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  考案者 /  職務発明 /  業務範囲 /  相当の対価(相当な対価) /  協議 /  反復(反復可能性) /  一定の効果 /  創作性(創作) /  製造方法 /  共同発明 /  公知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術的範囲 /  実施可能要件 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  技術的特徴 /  明細書の記載要件 /  遡及 /  補償金請求権 /  実質的に同一 /  共有 /  着想 /  時効 /  利害関係人 /  クレーム /  ライセンス /  抵触 /  意匠権 /  援用権(援用) /  存続期間 /  特許出願日 /  対象製品 /  数値限定 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  置換 /  同一の作用効果 /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  加工 /  間接侵害 /  構成要件 /  汎用品 /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  販売数量(販売数) /  販売利益 /  生産能力 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  共同発明者 /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  発明の範囲 /  対価 /  クロスライセンス /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  利害関係人 /  不実施 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (ワ) 11060号 職務発明の対価請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士杉山義丈
補佐人弁理 士福井豊明
被告東 洋紡績株式会社
訴訟代理人弁護士内田敏彦 宮原正志
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告に対し,3億円及びこれに対する平成16年10月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,被告の従業員であった原告が,被告に対し,後記各特許発明がいずれも原告を共同発明者の一人とする職務発明であり,その特許を受ける権利共有持分を被告に承継させたと主張して,主位的に特許法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ )3項に基づいて,特許を受け 。
る権利を使用者である被告に承継したことに対する相当な対価(以下単に「相当の対価」ということがある )若しくは被告における平成4年11月1日施 。
行の特許取扱規定第10条等の被告の勤務規則に基づく補償金の支払又は不当利得の返還として,合計12億0180万円のうち3億円の支払を求め(一部請求 ,予備的に特許表彰規定の運用等について被告に不法行為があったとし )て,同額の損害賠償を求め(一部請求 ,さらにこれらの金員に対する訴状送 )達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
1前提となる事実(当事者間に争いがない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)(1)当事者ア被告被告は,各種の繊維工業品の製造,加工及び販売並びに合成樹脂及びその成形品,各種の化学工業品の製造,加工及び販売等を業とする株式会社である。
イ原告(ア)被告における原告の経歴原告は,昭和34年10月1日呉羽紡績株式会社に入社し,昭和41年4月26日に同社が被告と合併したことにより(甲73)被告に在職することとなった。同年4月,原告は,敦賀ナイロン工場の研究係長に,昭和43年8月には堅田研究所に転任し,ナイロン繊維の改質研究等に従事した後,昭和45年3月にナイロン研究室長となった。そして,昭和46年4月,ナイロン関係樹脂の研究がプラスチック研究所内B研究室のNチームに集約され,原告は,同チームのリーダー兼研究企画室員となった。Nチームは,後記(3)アのMXD-6を研究テーマとした。
その後,原告は,昭和49年6月に堅田研究所プラスチック研究所B研究室の室長として各種縮合系樹脂の開発研究に,昭和50年5月には堅田開発研究所C研究室の室長として新規機能材料の研究に,昭和51年9月に同M研究室の室長として,機能膜と医療診断研究にそれぞれ従事し,同年11月には,同研究所付きRO膜プロジェクトリーダーを務めた。さらに,原告は,昭和53年3月本社研究総括部に異動し,RO膜の立ち上げに従事することとなったが,同年7月ごろ堅田開発研究所に戻り,昭和56年8月から昭和58年4月まで被告の東京の事務所に勤めていたが,その後本社研究総括部に配属となり,昭和59年6月20日に被告を退職した。
(イ)被告における原告の受賞歴原告は,昭和43年8月16日に行われた第6回発明改善審査の結果,敦賀ナイロン工場勤務時の「ナイロン連続重合法の改善」に関する発明改善提案により,乙種B賞を考案者5名のうちの1人として受賞した。
また,原告は,昭和55年4月8日 「逐次二軸延伸によるONyフ ,ィルムの開発」に関する発明改善提案について,その協力者の一人として社長賞を受賞した。
(ウ)被告退職後の原告の待遇原告は,被告退職後の平成3年11月18日,被告の総合研究所との間で,同日から平成4年11月17日までの1年間,非常勤の嘱託社員として,週に2日,報酬月額40万2900円で勤務するとの契約を締結した(乙93 。)原告は,上記契約期間中である平成4年9月30日に自己都合を理由とする退職届を提出し,いったん被告を退職したが,同年10月1日には自らが代表取締役を務める有限会社Xテクノリサーチの代表取締役として,同社が被告に対して,ナイロンフィルムの品質改良に関して,週に2日,被告の総合研究所において指導及び助言といった技術指導を行うことを内容とする覚書を締結した。その契約期間は1年間,技術指導の対価は年間504万7000円(消費税相当額を含む)であった(乙29,94 。)さらに,原告は,平成14年1月29日,被告機能成形品事業部との間で,同年2月1日から同年4月30日までの間,非常勤嘱託社員として,週に1日,報酬月額20万円で勤務するとの契約を締結した(甲75 。)(2)原告がした発明ア本件各特許権原告は,被告に在職中,後記の(ア)ないし(ツ)及びイの(ア)ないし(キ)の各特許発明をした。これらの発明は,いずれも被告の業務範囲に属し,かつ,被告の従業員の職務に関するものであって,特許法35条1項職務発明に当たる。原告は,上記各特許発明につき,後記(5)アの昭和46年1月1日施行の特許取扱規定第2条に基づき,発明者として特許を受ける権利共有持分を被告に譲渡した(以下,これらの職務発明を個別に指称するときは「本件発明@」などといい,併せて「本件各発明」と総称する。ただし,原告は,本件発明F及び本件発明Hを審理の途中で対価額算定の基礎となる発明から除外した。そして,本件各発明は,後記の「出 。)願日」に出願され 「登録日」に特許権の設定登録がなされ 「登録抹消 , ,日」に消滅した(以下,これらの特許権を個別に指称するときは「本件特許権@」などとといい,併せて「本件各特許権」と総称する。また,これらの特許権に係る特許を「本件特許@」などといい,併せて「本件各特許」と総称する。。)原告が,被告に対し,特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価を請求している発明は,本件各発明及び後記イの(ア)ないし(キ)記載の各発明(本件A発明ないし本件G発明)である。
本件各特許権の内容及び各特許請求の範囲は,次のとおりである。
(ア)本件特許権@特許番号特許第850204号登録日昭和52年3月19日発明の名称ポリアミド溶融物のゲル化防止方法出願番号特願昭47-83118出願日昭和47年8月19日公告番号特公昭51-24297公告日昭和51年7月23日登録抹消日平成3年7月23日発明者(特許公報に記載された発明者であり,記載順は公報記載に従う。以下同じ )原告 〈P1〈P2〉 。,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録@のとおり(イ)本件特許権A特許番号特許第850205号登録日昭和52年3月19日発明の名称ポリアミド溶融物のゲル化防止方法出願番号特願昭47-97558出願日昭和47年9月27日公告番号特公昭51-25065公告日昭和51年7月28日登録抹消日平成3年7月28日発明者原告 〈P1〈P2〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Aのとおり(ウ)本件特許権B特許番号特許第850206号登録日昭和52年3月19日発明の名称ポリアミド溶融物のゲル化防止方法出願番号特願昭47-97561出願日昭和47年9月27日公告番号特公昭51-25066公告日昭和51年7月28日登録抹消日平成3年7月28日発明者原告 〈P1〈P2〈P3〉 ,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Bのとおり(エ)本件特許権C特許番号特許第868651号登録日昭和52年6月30日発明の名称ポリアミド溶融物のゲル化防止方法出願番号特願昭47-89853出願日昭和47年9月7日公告番号特公昭51-41906公告日昭和51年11月12日登録抹消日平成2年11月12日発明者原告 〈P1〈P2〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Cのとおり(オ)本件特許権D特許番号特許第951539号登録日昭和54年5月25日発明の名称キシリレン基含有ポリアミド成型材料の製造法出願番号特願昭49-49183出願日昭和48年2月26日公告番号特公昭53-32396公告日昭和53年9月7日登録抹消日平成5年2月6日発明者原告 〈P1〈P2〈P4〈P5〉 ,〉,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Dのとおり(カ)本件特許権E特許番号特許第951540号登録日昭和54年5月25日発明の名称キシリレン基含有ブロツク共重合体の製造法出願番号特願昭49-54133出願日昭和48年2月6日公告番号特公昭53-32397公告日昭和53年9月7日登録抹消日平成5年9月7日発明者原告 〈P1〈P2〈P4〈P5〉 ,〉,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Eのとおり(キ)本件特許権G特許番号特許第1027129号登録日昭和55年12月25日発明の名称キシリレン基含有ポリアミド成型材料出願番号特願昭48-15318出願日昭和48年2月6日公告番号特公昭55-19948公告日昭和55年5月29日登録抹消日平成5年2月6日発明者原告 〈P1〈P2〈P4〈P5〉 ,〉,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Gのとおり(ク)本件特許権I特許番号特許第1079652号登録日昭和57年1月25日発明の名称多層成形容器出願番号特願昭49-140901出願日昭和49年12月6日公告番号特公昭56-23792公告日昭和56年6月2日登録抹消日平成6年6月2日発明者〈P6〈P7〈P8 ,原告 〈P9〉 〉,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Iのとおり(ケ)本件特許権J特許番号特許第1107052号登録日昭和57年7月30日発明の名称ポリアミドフィルムの延伸方法出願番号特願昭51-95277出願日昭和51年8月9日公告番号特公昭56-52741公告日昭和56年12月14日登録抹消日平成8年8月9日発明者〈P10〈P5 ,原告 〈P11〈P12 , 〉,〉,〉,〉〈P2〉【特許請求の範囲】【請求項1】α型脂肪族ポリアミド(またはそれらのポリアミド混合物)97〜80(重量)%と(1)γ型脂肪族ポリアミドまたは/および(2)非晶性脂肪族ポリアミドまたは/および(3)キシリレンジアミン残基を分子鎖中に70モル%以上含有しない含環ポリアミド3〜20(重量)%とを混合したポリアミド混合物からなり面配向指数が0.6〜1.7の範囲にある一方向延伸膜を該一方向延伸膜の延伸方向に対し直角の方向に延伸することを特徴とする逐次二軸延伸ポリアミドフイルムの延伸方法。
【請求項2】α型脂肪族ポリアミド(またはそれらのポリアミド混合物)97〜80(重量)%とポリアミド以外の熱可塑性ポリマー3〜20(重量)%の重合体混合物からなり,面配向指数が0.6〜1.7の範囲にある一方向延伸膜を該一方向延伸膜の延伸方向に対し直角の方向に延伸することを特徴とする逐次二軸延伸ポリアミドフイルムの延伸方法。
(コ)本件特許権K特許番号特許第1178306号登録日昭和58年11月30日発明の名称耐ガス透過性を有する熱接着性積層フイルム出願番号特願昭49-97295出願日昭和49年8月24日公告番号特公昭58-13348公告日昭和58年3月12日登録抹消日平成6年8月24日発明者原告 〈P1〈P2〈P13〈P14〉 ,〉,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Kのとおり(サ)本件特許権L特許番号特許第1227275号登録日昭和59年8月31日発明の名称ナイロン系延伸フイルム及びその製造法出願番号特願昭51-44689出願日昭和51年4月19日公告番号特公昭58-52821公告日昭和58年11月25日登録抹消日平成8年4月19日発明者原告 〈P5〈P10〈P12〈P2 , ,〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Lのとおり(シ)本件特許権M特許番号特許第1235878号登録日昭和59年10月17日発明の名称耐ガス透過性の優れたフイルム出願番号特願昭49-51480出願日昭和49年5月8日公告番号特公昭59-7723公告日昭和59年2月20日登録抹消日平成6年5月8日発明者原告 〈P1〈P2〈P13〈P14〉 ,〉,〉,〉,【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Mのとおり(ス)本件特許権N特許番号特許第1442738号登録日昭和63年6月8日発明の名称ナイロン系延伸フイルム及びその製造方法出願番号特願昭51-52559出願日昭和51年5月8日公告番号特公昭61-16773公告日昭和61年5月2日登録抹消日平成8年5月2日発明者原告 〈P5〈P10〈P12〈P2 , ,〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Nのとおり(セ)本件特許権O特許番号特許第1353856号登録日昭和61年12月24日発明の名称ナイロン系の延伸されたフイルム及びその製造法出願番号特願昭51-53686出願日昭和51年5月10日公告番号特公昭61-16774公告日昭和61年5月2日登録抹消日平成8年5月2日発明者原告 〈P5〈P10〈P12〈P2 , ,〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Oのとおり(ソ)本件特許権P特許番号特許第1355842号登録日昭和61年12月24日発明の名称ポリアミド系延伸フイルム及びその製造法出願番号特願昭51-52561出願日昭和51年5月8日公告番号特公昭61-19652公告日昭和61年5月19日登録抹消日平成8年5月8日発明者原告 〈P5〈P10〈P12〈P2 , ,〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Pのとおり(タ)本件特許権Q特許番号特許第1351365号登録日昭和61年11月28日発明の名称ポリアミド系延伸フイルムおよびその製造法出願番号特願昭51-53685出願日昭和51年5月10日公告番号特公昭61-19653公告日昭和61年5月19日登録抹消日平成8年5月10日発明者原告 〈P5〈P10〈P12〈P2 , ,〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Qのとおり(チ)本件特許権R特許番号特許第1394212号登録日昭和62年8月11日発明の名称延伸ポリアミドフイルムの製造法出願番号特願昭51-93357出願日昭和51年8月4日公告番号特公昭61-61967公告日昭和61年12月27日登録抹消日平成8年8月4日発明者〈P5 ,原告 〈P10〈P12〈P2 , 〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】ε-カプロアミド単位を分子鎖中に80モル%以上含有するポリアミド又は/及びヘキサメチレンアジポアミド単位を80モル%以上含有するポリアミド(A成分ポリアミド)50〜97重量%と吸水率が1.0%以下の値を有する脂肪族系ポリアミド(B成分ポリアミド)50〜3重量%とから成る重合体混合物で形成された未延伸フイルムを逐次2軸延伸法により延伸温度30〜200℃,延伸倍率1.5〜8倍の範囲でそれぞれ選択することにより延伸し,厚み1〜500μ,各延伸方向の破断強度5kg/mu以上の延伸フイルムを得ることを特徴とする延伸ポリアミドフイルムの製造法。
(ツ)本件特許権S特許番号特許第1432825号登録日昭和63年3月24日発明の名称ナイロン系延伸フイルムの製造法出願番号特願昭52-3353出願日昭和52年1月13日公告番号特公昭62-25704公告日昭和62年6月4日登録抹消日平成9年1月13日発明者原告 〈P5〈P10〈P12〈P2 , ,〉,〉,〉,〉〈P11〉【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Sのとおりイその他の発明上記ア記載の特許権に係る発明以外にも,原告は,以下の各公開特許公報に記載された発明の発明者として,同公報に記載されている。
(ア)特公昭52-8874(発明の名称・低融点ポリアミドの製造法。
発明者・原告 〈P9 。以下「本件A発明」ということがある ) ,〉 。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Aのとおり(乙40の1・2)登録日昭和52年8月31日公告日昭和52年3月11日登録抹消日平成3年3月11日(イ)特公昭52-16125(発明の名称・共重合ポリアミド熱融接着剤。発明者・原告 〈P9〈P15〈P16〈P17 。以下 ,〉,〉,〉,〉「本件B発明」ということがある )。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Bのとおり(乙41の1・2)登録日昭和52年10月28日公告日昭和52年5月7日登録抹消日平成4年5月7日(ウ)特公昭52-23396(発明の名称・低融点ポリアミドの製造法。
発明者・原告 〈P9 。以下「本件C発明」ということがある ) ,〉 。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Cのとおり(乙42の1・2)登録日昭和53年1月30日公告日昭和52年6月23日登録抹消日平成2年6月23日(エ)特公昭52-30197(発明の名称・低融点共重合ポリアミドの製造法。発明者・原告 〈P9 。以下「本件D発明」ということがあ ,〉る )。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Dのとおり(乙43の1・2)登録日昭和53年2月25日公告日昭和52年8月6日登録抹消日平成4年8月6日(オ)特公昭53-15537(発明の名称・共重合ポリアミドホツトメルト接着剤。発明者・原告 〈P9 。以下「本件E発明」ということが ,〉ある )。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Eのとおり(乙44の1・2)登録日昭和54年1月30日公告日昭和53年5月25日登録抹消日平成4年5月25日(カ)特公昭53-41700(発明の名称・ポリアミドホツトメルト接着剤。発明者・原告 〈P9 。以下「本件F発明」ということがあ ,〉る )。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Fのとおり(乙45の1・2)登録日昭和54年7月20日公告日昭和53年11月6日登録抹消日平成4年11月6日(キ)特公昭54-8221(発明の名称・熱融着性接着剤。発明者・原告 〈P9〈P18 。以下「本件G発明」ということがある ) ,〉,〉 。
【特許請求の範囲】別紙特許請求の範囲目録Gのとおり(乙46の1・2)登録日昭和54年10月19日公告日昭和54年4月13日登録抹消日平成4年9月4日(3)用語について以下の用語については,原則として以下の意義で用いることとし,他の意義を含めて用いる場合には,その旨注記することとする。
アSM樹脂・MXD-6樹脂(以下,当事者の呼称にならい「SM樹脂」という )。
化学名メタキシリレンアジパミド。メタキシリレンジアミン(MXD-A)とアジピン酸との縮重合反応から得られる結晶性のポリアミド樹脂。
ナイロン6等とは異なり主鎖中に芳香族環を有する脂肪族ポリアミドで,酸素や炭酸ガスなどのガスバリア性に優れ,フィルムシート,ボトルなどへの利用が進んでいる。MXD-6(PolyMethaxyleneadipamide)樹脂ともいう(甲61 。)イMSM樹脂メタキシリレンジアミンとアジピン酸及びポリエチレングリコールジアミノプロピルエーテル(2つのジアミンを末端に有するポリエーテル)との縮重合反応から得られるポリアミド樹脂。SM樹脂を改質(Modify)したものである。
ウFSMフィルムMSM樹脂とナイロン6とをブレンドしてなるMSM樹脂主体の混合溶融物又はMSM樹脂単体から逐次二軸延伸の方法で生産されるポリアミドフィルム。
エMSM延伸フィルム上記ウのFSMフィルムのうちのMSM樹脂単体から逐次二軸延伸の方法で生産されるポリアミドフィルム。
オONyフィルムMSM樹脂又はSM樹脂をブレンドしてなるナイロン6主体の混合溶融物から逐次二軸延伸の方法で生産されるポリアミドフィルム。
(4)被告による本件各発明の事業実施ア被告は,昭和51年8月からナイロンフィルム事業を開始した。同事業において被告がこれまで製造したナイロンフィルム及びその原料樹脂は,おおむね以下のとおりである。
(ア)ナイロン6樹脂(T814レジン他)(イ)SM樹脂たるT600レジン(ウ)MSM樹脂たるT601レジン(エ)FSMフィルム(オ)ONyフィルム(逐次二軸延伸ポリアミドフィルム)たる「ハーデンフィルム 。なお,そのうち一般品が「N1100」シリーズ(末尾 」1桁が異なる品番のものが複数ある。以下,併せて「N1100」という )であり,耐ピンホール性を向上させた高機能品が「N2100」 。
シリーズ(末尾1桁が異なる品番のものがある 「ハーデンフィルムT 。
タイプ」ともいう。以下,併せて「N2100」又は「N2100フィルム」という,耐ピンホール性(包装フィルムの屈曲部位に発生する 。)ピンホールと呼ばれる微細孔の発生を抑制する性質)に加えて耐水接着性を向上させた高機能品が「N7030 ,袋滑り防止性及び帯電防止 」性を向上させた高機能品が「N7150 ,バリア性を高めた高機能品 」が「N8000」シリーズ(末尾1桁が異なるタイプのものが複数ある )である。。
N1100は,いわゆる汎用二軸延伸ポリアミドフィルムであり,原料樹脂として,ナイロン6樹脂97重量%とSM樹脂3重量%を混合した混合物を用いる。
これらのナイロンフィルムの主な用途は,レトルト包装,真空包装等の食品包装用のフィルムや一般包装用フィルム,積層(多層)容器である(甲70,乙36,117,弁論の全趣旨 。)イ被告は,本件発明@,D,EをONyフィルム(ハーデンフィルム)において実施し,本件発明MをFSMフィルムにおいて実施した。
(5)被告の勤務規則の内容ア被告には,従業員の行った発明・考案等の特許出願等の取扱い及び従業員に対する表彰等に関して,昭和46年1月1日から特許取扱規定が施行されており,下記のとおり,昭和63年1月1日施行のものを経て,平成4年11月1日施行のものに改定された。
イ昭和46年1月1日施行の特許取扱規定(乙8。以下「旧特許取扱規定」ともいう )には,次の規定があった。 。
第2条(出願権の承継)従業員は,発明考案をなしたときは,その発明考案について国内および国外における特許を受ける権利,実用新案登録を受ける権利および意匠登録を受ける権利を会社に譲渡し,会社は,これを承継する 」。
第7条(出願時奨励金)会社が発明者から出願権を承継した発明考案について国内において特許出願または実用新案登録出願をしたときは,会社は,その発明者に対して出願1件につき2000円の出願時奨励金を交付する (後。
略)第8条(登録時奨励金)発明者から出願権を承継した発明考案が国内において特許権,実用新案権または意匠権(以下これら三者を含わせて「工業所有権」という)の登録を受けたときは,会社は,その発明者に対して,次の登録時奨励金を交付する (後略)。
特許権1件につき5,000円(後略 」)「第10条(実施効果の申請)工業所有権を含む発明考案のうち,実施効果(社外への譲渡,実施許諾またはクロスライセンスを含む)があつたときは,その発明者の直属上司は 「発明改善審査手続要領」の所定の発明改善審査申請書 ,を同要領の定めるところにより技術部長に提出する 」。
そして,発明改善審査手続要領(昭和40年8月17日実施,乙10)は,実施効果の上がった職務発明(発明改善)を,甲種(原則として個人を対象とする発明改善であり,研究を主な職務としない従業員が本来の職務を遂行しながら行ったものをいう )と乙種(研究を主な職務とする従 。
業員又は研究技術開発等のために組織された委員会等の業務組織に属する従業員がその研究によって行ったものをいう )に分け,技術部長が申請 。
書に基づき採点をし,毎年2月及び8月に開催される発明改善審査委員会において審査をし,その結果,甲種は特等,1等及び2等(それぞれ,さらにAないしCの等級に分けられる )に査定されると,その等級に応じ 。
て奨励金が支給され,乙種はA等からD等に査定されると,その等級に応じて奨励金が支給される。また,C等以上の乙種には,藪田特別賞に基づく奨励金も支給される旨定めていた。なお,上記「発明改善審査手続要領」は,昭和54年6月25日に改定された後,昭和60年4月15日制定の「開発表彰規定 (乙13)に引き継がれた。 」ウ旧特許取扱規定は,昭和63年1月1日施行の特許取扱規定(乙9)の施行に伴い廃止された。出願時奨励金及び登録奨励金(同規定により名称。, が「登録時奨励金」から「登録奨励金」に改められた )に関する定めは以下のとおりである。
第8条(出願時奨励金)会社が発明者から出願権を承継した発明考案について国内において特許出願,実用新案登録出願または意匠出願をしたときは,会社は,その発明者に対して出願時奨励金を交付し,その詳細は別に定める。
(後略)第9条(登録奨励金)発明者から出願権を承継した発明考案が国内において特許権,実用新案権または意匠権(以下これら三者を合わせて「工業所有権」という)として登録されたものであって,商業的に実施されている工業所有権については登録奨励金を交付し,その詳細は別に定める 」。
第11条(顕著な実施効果の申請)工業所有権を含む発明考案のうち,実施効果(社外への譲渡,実施許諾またはクロスライセンスを含む)が顕著であったときは,その発明者の上司は 「開発表彰又は改善提案」の規定により申請書を技術 ,部長に提出する 」。
すなわち,上記特許取扱規定(乙9)により,各奨励金の額の詳細は別に定めることとされ,奨励金の額が増額される(乙12)とともに,登録奨励金の支給要件に「商業的に実施されている工業所有権」であることが加えられた。また,実施効果の申請については 「工業所有権を含む発明 ,考案のうち,実施効果(社外への譲渡,実施許諾またはクロスライセンスを含む)が顕著であったものは,その発明者の上司は 『開発表彰又は改,善提案』の規定により申請書を技術部長に提出する 」と定められ,これ。
を受けた開発表彰規定(乙13)には,表彰の対象となる技術は 「職務,として開発に従事する従業員(研究所,各部研究開発組織,プロジェクトチームなどに属する従業員)が行なった開発成果の中で,事業化され現在,業績に貢献している新製品または新技術」とされ,当該製品又は技術の総括責任者が関連部門と協議の上,採点した上で等級及び被表彰者を決定して表彰を申請し,41点以上の場合は審査会事務局へ申請書を提出し,毎年2月中旬の年1回開催される審査会において優秀賞AないしB,優良賞AないしBの等級に区分し,その等級に応じて褒賞金を支払う,また,優秀賞Aに決定されたものの中で,特に優秀なものは社長賞を受賞することもあると定められた。
エさらに,平成4年11月1日施行の「特許取扱規定 (甲1の2。以下」「本件特許取扱規定」という )により上記ウの特許取扱規定が廃止され 。
た。本件特許取扱規定では,出願時奨励金及び登録奨励金に関する定めに変更がなかったが,新たに特許表彰制度が発足した。同制度について定めた第10条は 「 業績への寄与の顕著な特許に対する表彰 」との表題の ,( )下に「発明者から出願権を承継した発明が国内において工業所有権として登録されたものであって,その工業所有権のもつ排他的効果により業績に寄与しているものについては,その寄与が一定以上のものについて奨励金を交付して表彰する。その詳細は別に定める 」と定め,これを受けて平 。
成4年11月1日に制定された同条の細則である特許表彰規定(甲1の3。
以下「特許表彰規定」という )には,以下の規定が置かれた。 。
第4条〔表彰を受ける特許〕表彰を受ける特許は次の要件を満足する特許の中から選考される。
@登録されていることA社内又はユーザーにおいて実施していること,ライセンスにより他社に有償で実施させていること,又はクロスライセンスで他社から実施許諾を得た特許を実施していることB選考前3年間の業績への寄与が一定以上であること第5条〔表彰特許の選考と選考組織〕特許登録から3年毎に過去3年間の特許の業績への寄与を評価し,業績への寄与の大きいものを表彰特許として選考する。
@表彰する特許を選考するため特許表彰選考委員会を設ける。
(以下略)第6条〔表彰対象特許の評価〕@特許の業績への寄与の評価は発明実施の利益とその利益に対する特許の寄与を勘案して行う。
(1)特許を社内又はユーザーで実施している場合特許の排他性による事業業績への寄与(シェア獲得維持等)を主としてこれに特許を会社に実施許諾している寄与を加味して評価する。
(2)他社に実施許諾実施料収入を得ている場合評価期間内の実施料収入を評価する。但し実施料収入がノウハウフィを含む時は特許実施料相当部分を査定して評価する。
(3)クロスライセンスで他社から実施許諾を得た特許を社内実施している場合他社から実施許諾を得た特許の実施料を金銭で支払うとした場合の金額を評価する。
A評価作業は下記の手順に従って行う。
(1)当年度の選考対象特許(登録及び前回表彰選考時から3年を経過した特許)を特許部から関係部署(発明部署及び発明実施部署)に連絡する。
(2)上記連絡に基づき関係部署は評価期間(過去3年間)の特許実施状況を特許部に報告する。報告は実施(ライセンス,クロスライセンスを含む)しているすべての特許について,発明実施部署から行うものとする。
(3)特許部は上記報告に基づき上記@項により特許の業績への評価を行う。
第7条〔特許表彰選考委員会の開催〕選考会は年1回,10月中旬に開催する。開催の日時は委員長の承認を得て特許部長が承認する。
第8条〔表彰〕会社は特許の発明者に対して選考決定された等級に応じて定められた奨励金を交付して表彰する。選考された特許のうち業績への寄与が特別に顕著なものに対して就業規則第73条による社長賞の表彰を行う。
第9条〔等級と奨励金〕@特許発明者に交付する奨励金は次の通りとする。
1級10万円2級5万円3級2万円」(6)被告における特許表彰制度の選考対象となる特許について上記のとおり,特許表彰制度が平成4年に発足し,同年10月14日の「特許表彰制度発足のお知らせと特許実施状況報告の御依頼」なる文書(乙。 。 17)による通知(以下「乙17通知」という )が各部宛てに発出された乙17通知には「表彰は登録から3年毎に過去3年間の業績への寄与を評価することになっていますので今年は平成1年および昭和61,58,55,52年公告の成立特許を対象にします 」との記載があり,平成4年の第1 。
回特許表彰の選考対象となる特許は,上記各年に出願公告がなされ,その後登録されたものとされた(乙17,弁論の全趣旨 。)それ以降,平成6年法律第116号による改正特許法により平成8年1月1日をもって出願公告制度が廃止されるまでの間に出願公告を経て登録された特許に係る発明のみが選考対象となっていた第1回(平成4年度)から第7回(平成10年度)までの特許表彰においては,選考対象特許は出願公告年を基準として運用されていた。被告は,第8回(平成11年度)以降の特許表彰においては,登録年(ただし,出願公告を経て登録になったものを除く )及び出願公告年を選考対象特許の区分基準として運用している(乙2 。
0,弁論の全趣旨 。)(7)被告による奨励金の支払原告は,被告から,本件各発明について,別紙「今までに得た奨励金」記載のとおりの奨励金の支払を受けている(本件特許OないしRの登録時奨励金の支給の有無を除いて争いがない。。)なお,原告は,本件発明Iについて受領した登録時奨励金の額を4000円であると主張していたところ,平成18年10月5日の第13回口頭弁論期日で陳述した準備書面(19)において,これを本件発明Iについて受領した登録時奨励金は1000円であったと旨従前の主張を変更するに至った。しかし,この点については原告の従前の主張を被告が援用しており,裁判上の自白が成立しているところ,原告はこの自白が真実に反することを立証しないから,上記別紙の本件発明Iの欄のとおり,4000円であることに争いがないことになる。
また,本件特許OないしRの登録時奨励金については,被告がこれを原告に対して支払ったと認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告が被告から受領した奨励金は,合計2万5076円である。
(8)原告の訴訟提起原告は,平成16年9月30日,本件訴訟を提起した。
(9)時効援用被告は,本件訴訟において,本件各発明及び本件A発明ないし本件G発明に係る特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価の支払を求める請求権(以下「対価請求権」ということがある )につき,消滅時効援用する旨 。
の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実 。)2争点(1)被告が原告に対して支払うべき相当の対価の額(2)被告が原告に対して支払うべき補償金の額(3)被告による不当利得の有無及び返還すべき利得額(4)被告による原告に対する不法行為の成否及び損害額(5)争点(1),(2)につき,消滅時効の成否第3当事者の主張1争点(1)(被告が原告に対して支払うべき相当の対価の額)について【原告の主張】(1)対象となる発明について被告は,本件発明@,D,E,Mを除く本件各発明の実施を否認するが,以下のとおり,いずれも実施しているものである。
ア本件各発明がなされた経緯は,おおむね以下のとおりである。
(ア)原告は,昭和43年8月,被告の堅田研究所に異動し,ナイロン繊維の改質研究や成型加工の研究を行うようになった。原告は,昭和45年3月,ナイロン研究室室長となり,ナイロン糸等に関する研究を行っていたが,昭和46年のニクソンショックを契機に繊維製品の対米輸出が困難となり,全社的に繊維を主流とする産業からの脱却を模索し,ナイロンから方向転換することとなった。昭和46年4月に堅田研究所の組織改編があり,ナイロン研究室は解体され,ナイロン関係樹脂の研究は,プラスチック研究所内B研究室の6グループ中の1グループであるNチームに集約された。このNチームは,原告をリーダー兼研究企画室員とし,わずか4名のみでスタートした。原告は,SM樹脂というナイロンに注目し,SM樹脂フィルムにはゲル化による生産不良,耐屈折強度(耐ピンホール性)が低く,冷凍食品等食品包装用には難点があるほか,高温で透明フィルムが失透(オリゴマー析出による白濁)するという問題点があったが,これらの問題をペオアミンの添加によって解決することを見出した。SM樹脂の安定製造法に関する発明が本件発明@ないしCであり,MSM樹脂の製造法(耐衝撃性改質とオリゴマー白化防止法)に関する発明が本件発明D,E及びGであり,FSMフィルムの製造法に関する発明が本件発明D,E,G,I,K及びMである。
(イ)その後原告は,昭和49年6月に堅田研究所プラスチック研究所B研究室長,昭和50年5月には同研究所C研究室長として新規機能材料の研究を担当したが,その間もSM樹脂の応用研究を自らのテーマとして続けていた。
この間,被告犬山工場研究室では 〈P6〉が昭和50年1,2月こ ,ろにナイロン6に原告の発明の実施品であるMSM樹脂を数%ブレンドして成膜し延伸することを試み,同時二軸延伸でしか延伸できなかったナイロン6を,逐次二軸延伸で簡単に延伸できることを見出した。これは発明の名称を「二軸延伸ポリアミドフイルムの製造法」とする発明(特公昭54-18709。以下「 V]発明」という。別紙特許請求 [の範囲目録甲8参照)として特許出願されたものであり,被告における二軸延伸ポリアミドフィルムの製造法の基本特許とされている。原告は,この発明から,ナイロン6の結晶化速度が速いのに対しSM樹脂の結晶化速度は遅いことに注目し,透明ナイロン等非晶質ナイロンの研究を行った経験から逐次延伸で延伸可能なSM樹脂を含む低結晶性ナイロンのブレンドによるナイロン6及びナイロン66等の延伸フィルムの製造法について網羅した特許を出願し,特許権を取得した。このONyフィルムの製造法に関する発明が本件発明J,L,NないしS(以下,これらの発明に係る特許を「本件ONyフィルム関連特許」ともいう )であ。
る。ここで原告の役割として重要なのは,SM樹脂を使用する場合はもとより,SM樹脂を使用しなくても(本件発明QないしS ,逐次延伸)可能なナイロン6(すなわちONyフィルム)を製造できる技術を特許化して他社のONyフィルムへの参入を完全に抑えたことである。
イ被告が狭義の実施をしている(あるいは各特許発明技術的範囲から見て均等である技術的範囲に属する製造方法により製造した製品を販売している)特許発明について(ア)本件発明J及びRについてa本件発明J及び同Rの対象製品はONyフィルムであるN2100である。
b被告は,平成4年当時,ナイロン6にナイロン12(ダイアミド)をブレンドして,本件発明J及び同Rに係るN2100フィルムを全ONyフィルム生産量の4分の1程度事業実施していた(甲5の1参照 。)被告がブレンドしているダイアミド(以下「特定ダイアミド」という )は,ドイツのデグサ社製のポリアミドエラストマー「ベスタミ 。
ドE40-S1 (以下「本件ベスタミド」という )である。本件ベ 」 。
スタミドは,ラウリルラクタム(以下「LL」ともいう,ドデカン。)二酸(以下「DD」ともいう,ポリテトラメチレングリコール(以 。)下「PTMG」ともいう )の3主成分の共重合体であり,その構造 。
は,ナイロン12の結晶の間隔にPTMGブロックが分布し,一部は結晶を作る構造でポリエーテルアミドブロック共重合体をなすものである。その構造式は,例えば別紙構造式1記載のとおりに表されると考えられる(なお,同構造式は株式会社東レリサーチセンター(以下「東レリサーチ社」という )の分子構造測定結果〔甲14〕に記載 。
のものである。。)もっとも,反応性からDD,PalmiticAはLLと優先的に反応し,これらはポリアミド成分とみなすべきであるので,実際には別紙構造式1は別紙構造式2のように表されると考えられる。
また,このことは本件ベスタミドの製造元であるヒュルス社が取得している特許権の特許公報(特公昭63-456公報。甲67)に,無水系でLLのアシドリシス(カチオン付加反応)で99%以上変換(重合)するまで反応させ,その後にポリエーテルと縮合反応させるとと記載されており,同方法で高分子を製造すると必ず別紙構造式2の高分子になることからも裏付けられる。
本件ベスタミドは,基本的にはアミド基の集合体を骨格としているポリアミドにほかならない。この場合,ポリアミドとポリエーテルを連結する鎖は,エステル結合であるがポリエーテルアミドブロックエステルとはいわない。すなわち,モノマーの中に異種結合があっても,高分子を形成している主結合がアミドならポリアミドとなる。
ここではONyフィルム原料のブレンド成分としてアミド結合を骨格に有する柔軟性の高分子でナイロン6の配向結晶化を阻止する効果が重要であり,アミド基を連結した結合がC-C結合に限らずエーテル結合(-O-)であってもエステル結合(-COO-)であっても実質的にポリアミドの機能を備えていると解釈してよい。
被告は,特定ダイアミドが本件ベスタミドであることを否認するが,被告の犬山工場ではナイロン6にダイアミドE40-3Sを3wt%ブレンドしてN2100を生産していた。ダイアミドE40-3Sは,本件ベスタミドと小差はあっても同一物質である。
被告は,命名法からポリエーテルアミドはポリアミドと別物質であると主張するが,ダイセル・デグサ株式会社(以下「ダイセル・デグサ」という )のダイアミドのカタログ(甲49)も「ダイアミドP 。
AE」はナイロン12の共重合体のシリーズとし,最後にアミド名を付しており,ポリアミドを上位概念としている。このように,被告のいうほど厳密に区別しないのが一般的であり,本件発明Jもそこまで厳密に区別しているのではない。
さらに,本件ベスタミドの組成は,東レリサーチ社の分析結果(甲14,48等)からも明らかなように,LL70モル%,DD15モル%,PTMG(分子量≒1000)15モル%の共重合体であることが示されており,原告の考える本件ベスタミドの構造によれば,ポリアミド分率が85モル%であると考えられ,本件ベスタミドの融点はダイセル・デグサのカタログ(甲49)によると148℃,また,特定ダイアミドの品質保証書(乙24)によると148〜158℃でとされていることと合致する。
被告は,ベスタミドE40-S1と特定ダイアミドは異なる物質である旨主張するが,被告が提出した本件ベスタミドの粘弾性測定分析・試験報告書(乙99)と特定ダイアミドの粘弾性測定分析・試験報告書(乙109)をみると,全く同じ曲線となっており,同じ物質である。被告は,特定ダイアミドのガラス転移点(第2次転移点)が-52℃であるとして,ことさらベスタミドE40-S1と特定ダイアミドの相違を強調しているが,物性的にみて両者にさしたる相違はない。
ガラス転移点は力学的には明確な定義がなく,高分子セグメントの自由容積とか分子のたわみ易さに関係する物理的特性であって,この物性によって物質の同一性が決まるというような必要特性ではない。
熱変形性に絡み延伸温度に対する目安になるだけである。
c本件特許Jの請求項1におけるブレンド成分は,結晶系から分類して,以下の少なくとも一種である。
@γ型結晶系の脂肪族ポリアミドA非晶性脂肪族ポリアミドBキシリレンジアミン残基を分子鎖中に70モル%以上含有しない含環ポリアミドまた,請求項2におけるブレンド成分は,下記Cである。
Cポリアミド以外の熱可塑性ポリマーそして,特定ダイアミドは,実質的にγ型脂肪族ポリアミド及び非晶質脂肪族ポリアミドである。したがって,N2100の製造方法は,本件特許Jの請求項1のブレンド成分「@,A,Bの少なくともいずれか一種」の要件を充足し,本件発明Jの技術的範囲実質的に同一である。仮に,特定ダイアミドが実質的にγ型脂肪族ポリアミド及び非晶質脂肪族ポリアミドと解し得ないとしても,請求項1におけるブレンド成分と請求項2におけるブレンド成分は,機能面からみると両者ともナイロン6の結晶性を遅らせるということであり,両者は全く同一である。
したがって,請求項1のブレンド成分のいずれかの一部を,請求項2におけるブレンド成分Cと置き換えた被告の製造方法は,請求項1又は請求項2の本件発明Jの技術的範囲実質的に同一である。
なお,被告は,本件ベスタミドはγ型脂肪族ポリアミドとはいえないと主張するが,東レリサーチ社において,γ型結晶であることが確認されている。ただし,ピーク強度から判断して,非晶質ポリアミドを含む可能性もある。しかし,仮に本件ベスタミドを用いることによって3%全量がγ型脂肪族ポリアミドにならないとしても,その一部を,同じ機能を有する請求項2の本件発明Jにいうポリマーに置き換えることは,ポリアミドのみをブレンド成分とする本件特許Jの請求項1,あるいはポリアミド以外の熱可塑性ポリマーをブレンド成分とする本件特許Jの請求項2と均等の関係にある。本件発明Jの本質的部分は,ナイロン6の結晶性を乱す物質をブレンドすることにあり,ブレンドされる物質の種類そのものは本質的要素ではなく,上記ブレンド成分@ないしBの少なくとも一部をブレンド成分Cと置き換えても同じ作用効果を生じ,かつ置換することは当業者にとって極めて容易だからある。
したがって,ナイロン6に特定ダイアミドを3%ブレンドすることによって生産するN2100の製造方法は,本件特許Jの請求項1又は2のいずれの観点からみても,それら請求項に記載の発明の技術的範囲に属する。
d本件発明Rのブレンド成分となるポリアミドは,吸水率から分類し,吸水率が1.0%以下の脂肪族ポリアミドである。
本件ベスタミドは,実質的に脂肪族ポリアミドと考えてよく,吸水率は本件ベスタミドのカタログに0.3%とある(甲16 。したが)って,N2100の製造方法は,本件発明Rの技術的範囲に属する。
また,上記cで論じたように,ブレンド成分としてポリアミドを選択するか,ポリアミド以外の熱可塑性樹脂を選択するか,あるいは,ポリアミドとポリアミド以外の熱可塑性樹脂の共存体(混合物,共重合体)を選択するかは,本質的部分ではなく,いずれをとっても作用効果に変わりはなく,置換するのも当業者にとって容易である。
したがって,N2100の製造方法は本件発明Rの技術的範囲に属する。
e被告によって平成17年12月5日から平成18年1月13日にかけてなされた本件発明Jの追試実験(乙37の1)は,その明細書記載の実施例と比較して,本来用いられるべきナイロン6よりも低い粘度のナイロン6を用いているのであるから,同実施例記載の条件よりも樹脂押出温度を低く設定する必要があるのに逆の条件を設定している。これは 〈P19〉氏のストリーマコロナ放電冷却による密着技 ,術(以下「コロナ放電技術」ともいう )に関する発明(特公昭62 。
-41095公報に係る発明〔以下「 W」発明@」という,特公 [。〕[。〕, 昭59-23270公報に係る発明〔以下「 W]発明A」という実公昭63-19135公報に係る考案〔以下「 W]発明B」とい[う 〕及び実公平1-20786公報に係る考案〔以下「W]発明 。
C」という。以下,併せて「各[W]発明」という )による冷却 。〕 。
効果を強調することを意図したものと考えられる。
被告は,N2100は被告の開発したコロナ放電技術がなければ実施できないと主張する [W]発明@は,融解したフィルムを移動冷 。
却体(ローラ)表面へ密着させるときに,放電による電荷を用いて密着効果を高めることを目的として静電荷をフィルムに与えるものであるが,同密着技術が,ブレンドによるONyフィルム製造,特に低溶融粘度のポリエーテルアミドのブレンドによるN2100の製造に非常に有効な冷却法であることは理解できる。しかし,本件ベスタミドを用いて本件発明Jを実施することが,冷却法が未熟であったために,発明した当時は事業実施できなかったとしても,その後に開発された冷却法を用いて実現できるようになったとすれば,それは本件発明Jが実施されなかったこと,あるいは実施不可能であったことを意味するのではなく,逆に本件発明Jを積極的に活用したことを意味する。
N2100の製造方法が本件発明Jの技術的範囲に属する以上,その実施に当たることを否定することはできない。
被告は,さらに平成18年4月20日,同月25日,同年5月8日から同月19日にかけて,本件特許Jの明細書記載の実施例の追試実験を大学教授立会いの下で行い,その結果をまとめた実験成績報告書(1)(乙101)に基づき,延伸性の評価において,特定ダイアミドをブレンドした場合のほうが,ナイロン6単体フィルムよりも延伸困難であったと主張している。しかし,ブレンド成分の混合によりナイロン6の結晶化は抑えられるはずであり,面配向指数φを1以下に抑える科学的根拠があるにもかかわらず,その効果を打ち消す結果となっているのは,製膜条件として記述されていない因子が隠されていると考えられる。また,コロナ放電技術も本件発明Jも面配向指数を整えることによって逐次延伸を可能とする点で共通する技術であるが,面配向指数φを低下させる方法はコロナ放電技術以外にも種々あり,これらをすべて含む点でブレンド法はコロナ放電技術よりも上位概念にある。つまり,コロナ放電技術を用いたブレンドによるONyフィルムの製造法はすべて本件発明Jの技術的範囲に含まれるのである。
f被告において,平成17年8月9日から同年10月30日にかけて行われた本件特許Rの明細書記載の実施例の追試実験(乙39の1)においても,本件特許Rの明細書記載の実施例と比較すると,ナイロン6の粘度が低く,破断強度が低くなるし,特定ダイアミドの混合比率が低いので耐水性が低下する。被告は特定ダイアミドを3wt%しか添加しないが,もう少しその量を増やすことによって,耐水性,透水性は向上するはずである。また,本件特許Rは力学的強度の改良も目的とするものである。破断強度は,上記追試実験によっても大きくなっていることが認められ,被告は,N2100の製造により本件発明Rを実施していることになる。
被告は,さらに本件特許Rの明細書記載の実施例の追試実験を大学教授立会いの下で行い,その結果をまとめた実験成績報告書(2)(乙102)に基づいて,特定ダイアミドをブレンドしたフィルムはナイロン6単体フィルムと透湿性において変わらない数値を示していたと主張するが,本件特許Rの特許請求の範囲記載の数値は,透湿性の数値の下限を限定したものではないから,それをもって本件発明Rを実施していないということはできない。
g被告は,実験成績報告書(3)(乙103)において,平成18年4月20日及び同月25日に本件特許J及び同Rの明細書記載の実施例に合わせた実験を行ったところ,本件特許Jの明細書記載の実施例の追試実験では縦延伸ができたものの横延伸は破断してできず,本件特許Rの明細書記載の実施例の追試実験では原反が波打って冷却ロールに接触冷却できない状態で延伸性の評価に至らなかったと報告している。
しかし,同報告書の写真で見る限り,原反は白濁しており,ブレンド成分の混練が不十分であったと考えられ,このような条件下で得られた結果をもって本件発明J及び同Rの価値や実施の有無を実証することは難しいといわなければならない。
その他,被告は,上記実験成績報告書に基づき,作用効果不奏功について主張する。しかし,ナイロン6への本件ベスタミド(特定ダイアミド)のブレンドが延伸効果を発揮することは明白であり,またポリエーテルなどの柔らかい素材を含入する素材をブレンド成分として使用することで,耐ピンホール性を向上させることができることは当然に予測可能である。仮に,本件ベスタミド(特定ダイアミド)のブレンドによって延伸性以外の予期しない効果が出たとしても延伸性を発揮していることには変わりはないのであるから,N2100の製造方法は,本件発明Jの技術的範囲に属するといえる。
(イ)本件発明B及び同JについてN1100は,昭和54年7月9日から昭和59ないし同60年まで(これは原告の推測である )は[V]発明,それ以降は〈P20〉の 。
発明に係る「二軸延伸ポリアミドフィルムの製造法」に関する発明(特公昭57-8646。乙27の2。以下「 Y]発明」という。その特 [許請求の範囲は別紙特許請求の範囲目録乙27の2のとおり )の実施
品であるとともに,α型ポリアミドにγ型ポリアミドや含環ポリアミド(SM樹脂,もしくはMSM樹脂。これらは含環ポリアミドであると同時にγ型ポリアミドでもある )をブレンドしたものであるので,本件 。
特許Jの出願公告日である昭和56年12月14日以降は本件発明Jの, , 実施品でもある。さらに [Y]発明が消滅した平成7年2月6日以降平成8年8月9日までは完全に本件発明Jのみの実施品である。
また,N1100の生産に不可欠の材料であるSM樹脂は,本件発明Bの実施品であるから,N1100は本件発明Bの実施品でもある。また,N8000シリーズも,N1100同様,ONyフィルムであって本件発明B及び同Jの実施品であるから対象製品に含めるのが相当である。
さらに,SM共押出延伸フィルムはガスバリヤ性と耐ピンホール性を特徴とするKコートONyフィルムの代替品であるが,素材はSM樹脂を使用しているのであるから,本件発明B及び同Jの実施品として算定対象にするべきである。
(ウ)本件発明Kについて被告は,本件発明M(FSMフィルム単独)の実施は認めながら,ポリオレフィンとの積層フィルムに関する本件発明Kを実施したことがないと主張する。しかし,ポリアミド樹脂は,原料であるラクタムや環状低重合体(オリゴマー)を必ず含有しており,この含有量をゼロにするのは難しい。このラクタムや環状低重合体は水可溶性があるので食品に直接接触するような包装は避けるのが常識である。したがって 「’9,0-11<包装材料レポート>フイルム産業の需要と用途別市場動向」(乙3)の144頁にも示されているように,FSMフィルムは必ずCPPなどのポリオレフィン等,水に溶解しない物質と積層された商品となるのが通常である。したがって,被告は本件発明Kを実施しているものと推認される。
(エ)本件発明E及び同Iについて本件発明Iの実施品は積層容器である。積層PETボトルの材料はMSM樹脂であるから,本件発明Eの実施品でもある。
(オ)本件発明@ないしEについて平成4年10月ころには,ONyフィルムの材料であるSM樹脂(T600レジン)とMSM樹脂(T601レジン)のいずれも生産されており,それに対応する本件発明@ないしC(SM樹脂)と本件発明D及び同E(MSM樹脂)は実施若しくは利用されている。
(カ)本件A発明ないし本件G発明について原告は,昭和46年4月以降,プラスチック研究所B研究室で,SM樹脂と共に共重合ポリアミド樹脂の研究を始めた。共重合ポリアミド樹脂の1つの研究テーマとして,低融点接着強度と耐溶剤性の特徴を活かした製品用途にホットメルト接着剤があった。
原告は,共重合による融点降下と耐ドライクリーニング性,耐熱水洗濯性を実現した新しい共重合体組成を設計し,従来の樹脂粉末を織布上に融着させたドット状接着芯地に対し,簡単な多数ノズルより溶出した多数フィラメントをくもの巣状に絡ませた不織布状の接着剤にすることに成功し,昭和48年11月クレハセンイ株式会社のヒット商品「ダイナック」に仕上げた。
ダイナックは本件A発明ないし本件G発明の実施品である。
ウ被告において広義の実施がなされた特許,すなわち原告が防衛特許網を築いた特許について(ア)本件特許A,B,Gは防衛特許であって,MSM事業(FSMフィルム事業)への他社の参入を防止している点で,被告は,本件特許A,B,Gについて広い意味での実施をしている。
(イ)原告の発明に係る本件ONyフィルム関連特許(本件特許J,L,NないしS)は [V]発明及び[Y]発明を実施しているONyフィ ,ルム市場への他社の参入を抑止している防衛特許であるところ,特許法35条4項は,直接,その発明を実施していることを要件としているわけではなく,使用者がその発明から利益を得ていれば足りる(なお,本件特許取扱規定第10条の規定で要求される「実施」も,使用者がその発明から利益を得ていれば足りると解するべきである。よって,被告。)は,本件発明J,L,NないしSを実施又は利用(広義の実施)していた。
(2)相当の対価の額について原告が受けるべき相当の対価の額の算定については,@製品に対して発明が1つである場合は,後記の別表2の各年の被告の利益を合算して,1-使用者寄与率(従業者貢献度)と発明者間寄与率を掛け合わせれば原告が受けるべき相当の対価の額が得られることになる。A対象製品に対して発明が複数関与している場合には,さらに発明間寄与率と,各発明の存続期間を考慮する必要がある。これらを総合して表したのが別表3ないし5である。別表3ないし5のうち,@欄は各特許の寄与率,A欄は被告が得た利益,B欄は被告の得た利益のうち,原告の発明が寄与した額,C欄は原告が受けるべき相当の対価の額である。これらの別表のうち,特許法35条3項に基づいて原告が受けるべき相当の対価についてまとめたのが平成3年4月1日以降の利益額に基づいて算定した別表5である。別表3は平成元年4月1日から,すなわち,本件特許取扱規定による特許表彰規定の対象になる日から,別表4は昭和59年10月1日から,すなわち,本件訴訟提起前の催告の日からの対価の額を挙げたものであるが,これらはいずれも後述する不法行為に基づく損害賠償請求の基礎とすべき原告が支給を受けるはずであった相当の対価の額である。なお,便宜上,別表3及び別表4についてもここで論じることとする。
以下,アにおいて本件各発明の実施品の平成13年末までの生産量について(別表1 ,イにおいて対象特許特有の効果から生じる被告の各年の利益 )について(別表2 ,ウにおいて従業者貢献度及び発明者間寄与率について )まとめて論じることとし,エにおいて各実施品ごとに他に実施された発明との間の発明間寄与率についても論じて対価の算定をする。
ア本件各発明の実施品及びダイナックの平成13年末までの生産量は,被告から提出された資料等に基づき原告が推計するところでは,別表1のとおりである。
イ別表2は,対象となる本件各発明特有の効果から生じる被告の各年の利益をまとめたものである。この「被告の利益」は,対象製品を販売することにより被告が得るすべての利益ではなく,そのうちの対象となる本件各発明の寄与額を意味する。また,別表2中「M」は各年の生産量を,またΔは後述するようにN2100とN1100の価格差を意味する。
(ア)ONyフィルムaN2100(別表2(2))本件発明J及び同Rの対象製品はN2100である。このN2100は,一般グレード品N1100よりも余分の加工を加えて付加価値が高められている。他社の一般グレード品に比べN2100は118.7円/kgの利益を上げたことになる。これを年度ごとに算出すると別表2(2)のとおりである。
bN1100(別表2(1))N1100は,昭和54年7月9日から昭和59ないし60年まで(これは原告の推測である )は[V]発明,それ以降は[Y]発明 。
実施品であるとともに,本件特許Jの出願公告日である昭和56年12月14日以降は本件特許Jの権利の下での実施品でもある。さらに [Y]発明が消滅した平成7年2月6日以降,平成8年8月9日 ,までは完全に本件特許Jの下だけでの実施品である。
N1100は,他社一般グレード品に比し平成4年12月当時で加工コスト差118.7円/kgのメリットがあったのであるから,この差と生産量との積がN1100の生産におけるN1100の固有の被告の利益として算出することができる。なお,ここでのN1100の平成4年以降の生産量は,平成4年までの実績と被告における販売計画(甲18)に基づく推定値を使用した。
なお,また加工コスト差については,平成6年以降生産スピードがそれまでの2,3倍に向上したことによる約18円/kgのコスト低減が加わり,固定費が3分の2となった効果で平成6年以降さらに遂次二軸延伸のメリットで大きくなっている可能性がある。
cN8000シリーズ(Kコート ,SM共押出延伸フィルム )別表2(1)のとおりである。
(イ)FSMフィルム(別表2(3))被告は,FSMフィルムの販売利益はほとんどないとしているが,被告固有の商品であって競合品がなく,耐熱性とハイバリヤ性の特徴から1500円/kg程度の価格で流通しており,量を伸ばせば利益はもっと得られたはずである。
原告のコスト試算では最低でも200円/kgの利益を得られたはずであるので,別表1(21)の生産量に200円/kgを掛け合わせて利益額を算定したのが別表2(3)である。
(ウ)積層容器(別表2(4))積層容器については,製造販売実績は不明であるものの,別表1(26)の生産量に,上記200円/kgの利益を掛け合わせて本件特許権Eの存続期間内に被告が得た利益額を算定したのが別表2(4)である。
(エ)SMレジン(外販用)別表1(16)に記載の生産量に,100円/kg位の利益を掛け合わせて被告が得た利益額を算定したのが別表2(5)である。
(オ)ダイナックダイナックの製造販売による純利益は,組成例CL/6-10/TMD-12=60/30/10モル%で試算すると,1500円/kg以上である。これに,別表1(3)の生産量を乗じて被告の得た利益額を算定したのが別表2(6)である。
ウ従業者貢献度,発明者間寄与率について(ア)SMレジンについては本件発明@ないしCが関与する。
基礎になるSM樹脂,MSM樹脂,FSMフィルムの開発については,昭和46年まで,大勢の研究者が長年研究してもSM樹脂のゲル化を防止できず,研究中止の方針が決定していた。
原告は,日本での原料面での有利な背景があることと,溶融成型が可能なガスバリヤ性の利点があることに注目し,四面楚歌の中(上記先駆者達があれだけやってきて見込みを付けられなかったため,いくら原告がひとり意気込んでも無理だろうとの否定的雰囲気が研究所全体にあった,研究に取り組み,原告と〈P1〈P2〉の3名が9か月でゲル 。) 〉,化防止法を完成させたのが本件発明@ないしCである。これは世界に誇れる技術革新であるため,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,イタリアの5か国に特許出願取得され,MSM樹脂はさらにカナダを加え6か国に特許出願された。
以上によれば,本件発明@ないしCに関する従業者貢献度は20%,また,形式上,複数の発明者が関与したことになっているが実質的には原告ひとりの能力で生み出されたものであり,その発明者間の原告寄与率は90%というべきである。
(イ)原告は,SM樹脂のゲル化防止技術に引き続き6か月で耐ピンホール性も解決して,第2次研開プロジェクトに導いた(昭和49年。本件発明D,E 。)(ウ)昭和50年に〈P6〉らによって,ナイロン6/SM樹脂比のナイロン6が多い側での逐次二軸延伸に成功した。被告総合研究所発刊の「総研20年の歩み (甲73)37頁の昭和50年の欄に 「NY6/ 」 ,SM比のNY-6の多い側での逐次二軸延伸に成功。理論づけを経て特許出願(51/4 」との記載があるが,原告のONyフィルム関連の )各特許出願(特許J,L,N,OないしR)が昭和51年4月から8月にかけてであることを考慮すると,この「理論づけ」は原告の業績であり,これによって被告におけるONyフィルムの立場は格段に強固になった(ちなみに [V]発明 [Y]発明とも,出願は昭和50年で,こ ,,こでいう「理論づけ」の時期と相違する。さらに,被告が現在も実施 。)しているタフネスタイプのONyフィルム,すなわち本件発明Jは,この「理論づけ」によって初めて生まれた。
上記のONyフィルム関連の特許は,業務から離れて1年経過後,原告がほとんど単独で原告の考えに基づいて完成させたものである。
そのことは,原告が昭和51年6月に開催されたポリアミドの研究成果等について発表した講演会で使用したOHPフィルムシート(甲13,55)に示されている。原告は,これらのOHPフィルムシートを,講演依頼を受けた後,勤務時間外に,顧問として堅田研究所に勤務していた平成3年11月から平成5年末までの間に作成したOHPフィルムシート(36枚)から興味のある図面(甲13,55の図22や図24)を抜き出し,補足説明を加えて作成した。また,同時期の他の会議(日付については記憶にない )で,甲第55号証のOHPフィルムシート 。
を用いることもあったが,その際,ONyフィルムの耐ピンホール性が800回に匹敵することを強調するため,あるいはそれまで口頭で説明していたことを追記するために書き込むなどしたものであり,それ以外に追記したことや溶剤で消去したこともない。
原告は,甲第55号証の図24に示すように,MSM樹脂についてブロック共重合体で海島構造を作ることによりガスバリヤ性と透明性を損なわずに,欠点の耐ピンホール性を10〜25倍に改良できる画期的技術を開示しており,さらに,同号証の図21,図22(図22はペオアミンの混入量を変化させた場合の耐ピンホール性を示すものである )。
によれば,さらに多くの改良の余地も示唆している。
(エ)次いで,原告は,FSMフィルムの製品化に成功して包材事業の基盤を築いた。
FSMフィルムについて,被告は,アメリカ,イギリス,ドイツの3か国にて特許権を取得したが,これらの基盤技術の構築を3年間という短期で完成させたのは原告の全能力と責任感と使命感によることは明白である。
したがって,従業者貢献度は20%とするのが相当である。
(オ)小括本件各発明に関し,被告が研究設備の供与等をしていることは理解できるが,SM樹脂,MSM樹脂,FSMフィルムは,周囲の否定的な雰囲気の下で,世界で初めて生まれた製品であり,その後の包装業界に与えた影響を考慮すると,従業者たる原告の寄与率は20%以上である。
また,ONyフィルム,特にタフネスタイプのONyフィルムが今日まで被告の主力製品として生きているのは,ひとえに従業者たる原告の理論付けによるところが大きく,その寄与率も20%以上である。また,形式上,本件各発明は複数の発明者が関与しているが,実質的には原告ひとりの能力で生み出されたものであり,その発明者間寄与率は90%以上である。
エ原告に対して支払われるべき対価の額について(ア)SMレジンに関する対価の額SMレジンについては,上述のとおり本件発明@ないしCが関与し,これらに関する従業者貢献度は20%,その発明者間の原告寄与率は90%というべきである。そこで,平成元年から本件特許権Bが消滅した平成3年7月28日までの2年119日分の年ごとの販売量(外販分)×利益100円/kgの値の積の積算より求めた合計額は,2億0760万円となる。この額に従業者貢献度20%と発明者間寄与率90%を掛け合わせると3740万円となる。なお,昭和59年以降のそれは1億2310万円となる。
したがって,原告に対して支払われるべき相当の対価の額は,450万円である。
(イ)N1100(Kコートを含む )に関する対価の額。
N1100には本件発明B,同J及び[Y]発明が関与している。
なお [Y]発明は,従前から被告の研究所内部の,第一次研開プロ ,ジェクト(昭和45年2月〜昭和46年12月)でSM樹脂の耐ピンホール性改良のためにナイロン6を85〜3%ブレンドしていた技術をナイロン6/SM樹脂比でナイロン6が多い側で実施したのみであり,ナイロン6を延伸するための基本的な原理を見出したものではない。これに対し,SM樹脂がγ型結晶であることから,その上位概念のγ型ポリアミドをブレンドするとした本件発明Jは [Y]発明と比較しても重 ,要である。
したがって,本件特許権Bが消滅する平成3年7月28日までの上記各発明間の寄与率は,本件発明B60% [Y]発明20%,本件発明 ,J20%とする。
平成3年7月29日から[Y]発明に係る特許権が消滅する平成7年10月11日までは,本件発明J及び[Y]発明が関与するので,[Y]発明50%,本件発明J50%の各発明間寄与率をとる。
[Y]発明に係る特許権消滅後は本件発明Jのみの実施となるので,平成8年8月9日までの特許Jの寄与率を100%とする。
本件発明B及び同Jの原告の発明者間寄与率は90%である。
したがって,原告に対して支払われるべき相当の対価の額は別表5のとおり5億6890万円となる。
(ウ)N2100に関する対価の額N2100には本件発明J及び同Rと各[W]発明が関与する。これらの発明の被告の利益に対する従業者貢献度は20%である。
被告が「革新的技術」と称する[W]発明@及び同Aは,公知技術により容易に創作できた発明であり,これをもって革新的技術とはいえない。すなわち [W]発明@の特許出願審査過程で引用された文献(例 ,えば,特開昭49-88265公報)には,静電荷をフィルムに与えるためにコロナ放電を用いていることが記載されており,一方,特公昭37-6142公報(甲71)には,融解フィルムに電荷を与えるためにコロナ放電を用いること,及びコロナ放電を使用しないまでも融解フィルムに電荷を与えるときに針状の電極を用いることが開示されている。
[W]発明Aは,当該移動冷却体上で1方向に1.1倍以上延伸するだけの内容であり,むしろ自然に発生する現象を明細書に記載したにすぎない技術である。
以上のように [W]発明@及び同Aを「革新的」とする被告の主張 ,は失当である。すなわち,素材がなければ事業はなかったのに対し,コロナ放電技術はなくてもFSMフィルムフィルムで4年,ONyフィルムで2年間生産ができたのであるから,各[W]発明は不可欠の技術ではない。
冷却ロールへの未延伸フィルムの押付けは,従来技術であるエアーナイフ法を使用した場合と,コロナ放電技術を用いた場合の生産効率の比較においてなされるべきである。この点,コロナ放電技術では150m/分であり,エアーナイフ法ではその80%の120m/分程度であるので,N2100の製造についての技術的な貢献という観点からみると,原告のした発明の寄与率は70%とみるべきである。
このようにみると,コロナ放電技術はN2100には一定の効果はあるが,その寄与率は30%程度と考えられる。
また,本件発明J及び同Rの原告の発明者間寄与率は90%である。
なお,別表3ないし5においては,一般品との価格差と生産量の積を算出し積算した。
以上によれば,本件発明J及び同RのN2100に関する原告に支払われるべき相当の対価は,平成元年4月1日以降では5億9020万円,昭和59年以降では7億5460万円,さらに,別表5に従うと4億8070万円となる。
(エ)FSMフィルムに関する対価の額FSMフィルムには本件発明Kが関与する。その従業者貢献度は20%,原告の発明者間寄与率を90%とするのが相当であるので,それを前提に本件特許権Kの消滅した平成6年8月24日までの5年146日間,年度ごとの利益を算出し積算した。
平成元年以降は1640万円,昭和59年以降では2700万円となり,別表5に従うと880万円となる。
(オ)積層容器に関する対価の額積層容器には本件発明I及び材料にはMSM樹脂が使用されているので本件発明Eが関与する。
当該2つの発明の従業者貢献度を20%とし,発明間寄与率を本件発明Eと発明者を〈P21〉とする特公昭62-36855公報(乙132)に係る発明(以下 「 Z]発明」といい,その特許を「 Z]特 ,[ [許」という )でそれぞれ60%,40%とし,単価を200円として 。
平成元年以降の原告の受ける対価の額を計算すると,446万円となり,昭和59年以降の額は6510万円であり,別表5に従うと2730万円である。
(カ)ダイナックに関する対価の額別表2(6)に示す被告の得た利益の額になる。これに本件各発明と同様の従業者貢献度,発明者間寄与率を掛け合わせると別表3,別表4及び別表5の「ダイナック」の欄記載の原告の受けるべき対価の額が得られる。
(キ)小括以上によれば,平成元年以降の原告が受けるべき対価の額は17億1680万円となり,昭和59年から計算すると26億1230万円となり,別表5に従うと12億0180万円となる。
オ結論以上の結果,原告が受けるべき相当の対価の額は別表3,別表4及び別表5のごとく,平成元年から計算すると17億1680万円になり,昭和59年以降であれば26億1230万円となり,別表5に従うと12億0180万円となり,原告は別表5の12億018万円のうち3億円を職務発明対価として請求するものである。
【被告の主張】(1)対象となる特許について被告は,後記争点(5)の【被告の主張】のとおり,本件各特許に関する相当の対価請求権及び補償金請求権は,すべて時効により消滅すると主張するものである。したがって,以下の主張は,上記各請求権につき,時効による消滅が認められなかったとの仮定の下における主張である。
ア原告が被告において狭義の実施がなされたと主張する特許について(ア)本件発明J及び同Rの実施についてa特定ダイアミドの化学構造について原告は,特定ダイアミドは本件発明Jの「γ型脂肪族ポリアミド」に該当するとともに,本件発明Rの「吸水率が1.0%以下の脂肪族系ポリアミド」に該当すると主張している。
しかし,特定ダイアミドは,化学構造から「ポリエーテルエステルアミド」と命名される化合物であるから,単に「ポリアミド」と呼べるものではなく,もとより「脂肪族ポリアミド」でもないし「脂肪族系ポリアミド」でもない。
すなわち,N2100は,T-813(4)レジン,すなわちナイロン6樹脂97%と,特定ダイアミド3%を混合した樹脂を延伸して製造されるものである。被告は特定ダイアミドをダイセル・ヒュルス株式会社(現在の社名は,ダイセル・デグサ)から購入している。この特定ダイアミドの化学名は,ポリエーテルアミドブロック共重合物といい,既存化学物質登録7-2136の化学物質(正式名称「ラウリルラクタム・ドデカン二酸・ポリ(重合度10〜20)テトラヒドロフラン(末端ヒドロキシル基)重縮合物 )である。すなわち,こ 」の物質は「ラウリルラクタム (ナイロン12モノマー)成分と 「ド 」 ,デカン二酸」成分と 「ポリ(重合度10〜20)テトラヒドロフラ ,ン」成分(すなわち,ポリテトラメチレンエーテルグリコール)とか)。 らなる三元共重合物である(ポリエーテルアミドブロック共重合物また,特定ダイアミドは,化学構造を基準にする国際標準となっている高分子化合物のIUPAC命名法によれば 「ポリエーテルエステ ,ルアミド」と命名される高分子化合物である。本件ベスタミド及び特定ダイアミドを構成する主成分であるラウリルラクタム(LL ,ド)デカン二酸(DD)及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)のモル比,モル%及び重量比(wt%)に関する原告分析結果と被告分析結果とを対比すると,下記表1及び表2に示すとおりである。
(a) 表1本件ベスタミドに関する原告の分析結果LLDDPTMGモル比0.5320.1150.117モル比10021.622.0モル%701515wt%42.3869.11648.381(b) 表2特定ダイアミドに関する被告の分析結果LLDDPTMGモル比10025.124.7モル%66.816.816.5wt%39.511.549.0以上のとおり,本件ベスタミドのモル比と特定ダイアミドのモル比を対比すると,本件ベスタミドのモル比はLL/DD/PTMG=100/21.6/22.0(原告分析結果)であるのに対し,特定ダイアミドのモル比はLL/DD/PTMG=100/25.1/24.7(被告分析結果)である。
このようなモル比についての無視することのできない重要な相違にかんがみれば,本件ベスタミドは,化学物質として特定ダイアミドとは相違するものと化学的に認定できるものである。
b特定ダイアミド又は本件ベスタミドは,本件発明Jのブレンド成分であるかについて(a) 「ポリアミド」とは 「構造単位ないしモノマー単位がアミド結 ,合(-CONH-)によって一体的に結合して高分子化されたポリマー」をいい,構造単位ないしモノマー単位がアミド結合以外の結合によって一体的に結合して高分子化されたポリマーは,ポリアミドの定義には入らない。
特定ダイアミドは 「ラウリルラクタム「ドデカン二酸」及び ,」,「ポリテトラヒドロフラン(末端ヒドロキシル基 (=PTMG 」))という3種類の出発原料(構造単位ないしモノマー単位)を重縮合して高分子化されるものであり,これら三者のモル比は,約4/1/1である。そして,アミド結合によって一体的に結合される分子鎖は,ラウリルラクタムの4量体に相当する短い分子鎖にすぎず,それ自体では高分子と呼べるものではない。高分子化は 「ドデカ,ン二酸」と「ポリテトラヒドロフラン(PTMG 」との更なる結)合によるのであり,これらは「エステル結合」によって一体的に結合して高分子化されるものである。
エステル結合によって高分子化される高分子が,構造単位ないしモノマー単位がアミド結合によって一体的に結合して高分子化されたポリマー(定義としての「ポリアミド )に該当しないことは, 」上記定義から明らかである。
このように,特定ダイアミドは「ポリアミド」ではなく,もとより「脂肪族ポリアミド」ではないから 「γ型脂肪族ポリアミド」 ,にも 「非晶性脂肪族ポリアミド」にも,さらに「脂肪族系ポリア ,ミド」のいずれにも該当しない。
(b) 本件ベスタミドの化学構造式は,甲第14号証の記載に基づいて具体化すると,下記構造式3で表すことができる。
【構造式3】{‐[CO‐(CH ) ‐NH] ‐CO‐(CH ) ‐CO‐O‐(CH CH CH CH O) ‐}y2115 210 2222142222そして,この構造式3におけるPTMG成分(‐(CH CH CH CHO) ‐)は,本件ベスタミド分子中,48.381重量%を占めて 14いる。
構造式3に示す本件ベスタミド分子の基本骨格を構成する原子(C,O及びN)の反復繰返単位当たりの総個数147原子を上記3種類の構成成分単位(LL,DD,PTMG)に振り分けると,それぞれ次のとおりの個数になる。
LL成分:65原子(=13×5)DD成分:12原子PTMG成分:70原子(=5×14)このように,本件ベスタミドは,その基本骨格中に,ポリアミドとは異質のPTMG成分(70原子)を有している。この70原子という原子個数は,ナイロン12の構成成分であるLL(ラウリルラクタム)成分(65原子)とDD(ドデカン二酸)成分(12原子)を合計した原子数(77原子)にほぼ匹敵する量である。そして本件ベスタミドは,このような原子個数から成る3種類の構成成分(LL,DD,PTMG)を反復繰返単位とする構造式3で示すような三元共重合物(ポリエーテルアミドブロック共重合物)である。
これを別の観点からいえば,本件ベスタミドは,ポリアミドとは異質の構成成分であるPTMG成分を,分子全体のほぼ半分の重量割合(約48.4重量%)含有している三元共重合物である。そして,上記のように繰返単位の基本骨格を構成する骨格構成原子(全147原子)中に,そのほぼ半数(約48%)に相当する70原子をもって構成されるポリエーテル成分(PTMG:これはポリアミドの構成成分ではない )を含有しており,かつ,ポリアミドとは 。
異質の該ポリエーテル成分がラウリルラクタム(LL)の平均約5量体からなる短分子鎖を1分子のドデカン二酸成分(DD)を介して結合する態様で分子全体のほぼ半分の重量割合(約48.4重量%)含有してなる三元共重合物(ポリエーテルアミドブロック共重合物)である本件ベスタミドは,いかなる意味においても,これを実質的に「脂肪族ポリアミド」と呼び得るという技術常識は全く存在しない。
したがって,本件ベスタミドは「実質的にγ型脂肪族ポリアミドである」ということはできない。
また,本件ベスタミドが脂肪族ポリアミドではないことは,物性の観点からも裏付けられる。高分子化合物において最も重要な熱的特性は,融点(固体が融解して液体化する温度)とガラス転移温度(高分子物質を加熱した場合にガラス状の硬い状態からゴム状に変わる現象であるガラス転移が起こる温度)である。
融解及びガラス転移は,いずれも高分子の転移の一種であって,高分子のほとんどすべての力学的性質は,転移及びその温度,特に高分子の構造と密接な関連を有するガラス転移温度によって決定されるのであるから,これが異なればその高分子物質は全く別物であるといっても何ら過言ではない。
しかるに,脂肪族ポリアミドのガラス転移温度は,およそ40〜50℃であり,脂肪族ポリアミドであるナイロン12のガラス転移温度は,50℃である。
これに対し,本件ベスタミドのガラス転移温度は-53℃である) , (乙99 。ガラス転移温度が100℃以上も異なるのであるから本件ベスタミドが「脂肪族ポリアミド」ではあり得ないことは明白である。
なお,特定ダイアミドは,分子鎖中に環構造のポリアミドを全く含まないから 「キシリレンジアミン残基を分子鎖中に70モル% ,以上含有しない含環ポリアミド」にも該当しない。
(c) 以上のとおり,特定ダイアミドは,仮に原告が主張するように本件ベスタミドと同一の物質であったとしても,本件特許Jの請求項1に規定する3種類のブレンド成分のいずれにも該当しないものである(なお,特定ダイアミドが,請求項2の本件発明Jの「ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー」に該当しないことは,後記dのとおりである。。)(d) 原告が特定ダイアミドであると主張する本件ベスタミドは,脂肪族ポリアミドを含むが,その含有量は,最大限に見積もっても重量比で51.6%を超えることはない。したがって,N2100の延伸前の重合体混合物において 「α型脂肪族ポリアミド」たるナイ ,ロン6樹脂(97重量%)と混合されている本件ベスタミド(3重量%)中には,脂肪族ポリアミドは最大限に見積もっても上記重合体混合物の1.55重量%(=3重量%×0.516)しか存在していない。
また,本件ベスタミドは 「ポリアミド以外の熱可塑性ポリマ ,ー」を含むが,その含有量は最大限に見積もっても重量比で57.6%(=100%-42.4%)を超えることはない。
したがって,N2100の延伸前の重合体混合物において「α型脂肪族ポリアミド」たるナイロン6樹脂(97重量%)と混合されている本件ベスタミド(3重量%)中には 「ポリアミド以外の熱 ,可塑性ポリマー」は最大限に見積もっても上記重合体混合物の1.728重量%(3重量%×0.576)しか存在していない。
また,本件ベスタミドは,その成分組成及び推定化学構造式から明らかなごとく含環ポリアミドを全く含まない。
以上によれば,N2100の製造方法は,本件特許Jの請求項1を充足しない。
なお,原告は,本件特許Jの請求項1のブレンド成分のいずれか1つを請求項2のブレンド成分と置き換えたN2100の製造方法は,同特許の請求項1あるいは請求項2の技術的範囲実質的に同一であると主張するが,同主張は誤りである。本件特許Jの請求項1と請求項2は,それぞれ独立の請求項の発明(別発明)であり,これら2発明間のブレンド成分を相互に置き換えたブレンド成分という技術思想は同発明には存在しないからである。
さらに,原告は均等論を持ち出しているが,原告のいう「ナイロン6の結晶性を乱す物質をブレンドすること」といった本件特許Jの特許請求の範囲に記載されていない事項を本質的部分とする点で誤りである。
c本件発明RとN2100の製造方法の対比本件発明Rの「A成分ポリアミド」とは,ナイロン6等をいう。これと混合する50〜3重量%の「B成分ポリアミド」は,吸水率が1.0%以下の脂肪族系ポリアミドに限られる。
N2100の延伸前の重合体混合物の成分組成は,ナイロン6樹脂(97重量%)と特定ダイアミド(3重量%)とを混合したものである。特定ダイアミドは脂肪族系ポリアミド樹脂成分を含むが,その含有量は最大限に見積もっても重量比で51%を超えることはない。したがって,特定ダイアミド中には,脂肪族系ポリアミドは1.53重量%しか存在しておらず,本件特許Rの特許請求の範囲の「吸水率が1.0%以下の脂肪族系ポリアミド(B成分ポリアミド)50〜3重量%」を充足しない。
原告が特定ダイアミドであると主張する「ベスタミドE40-S1ナチュラル (本件ベスタミド)が特定ダイアミドではないことは前 」記aのとおりである。
また,本件ベスタミドは,その組成として脂肪族ポリアミド樹脂成分を含むが,その含有量は最大限に見積もっても重量比で51.6%を超えることはない(約48.4重量%あるPTMG成分を除いた重量比 。したがって,N2100の延伸前の重合体混合物において, )「A成分ポリアミド」たるナイロン6樹脂(97重量%)と混合されている本件ベスタミド(3重量%)中には,脂肪族系ポリアミドは最大限に見積もっても上記重合体混合物の1.55重量%しか存在していない。よって,N2100の製造方法は,本件特許Rの特許請求の範囲の「吸水率が1.0%以下の値を有する脂肪族系ポリアミド(B成分ポリアミド)50〜3重量%」を充足しない。
したがって,本件発明Rにおけるその他の構成要件の充足/非充足を検討するまでもなく,ナイロン6に本件ベスタミドを3重量%混合したポリアミド混合物を用いて逐次二軸延伸の方法で製造されるナイロンフィルム(N2100)は,本件特許Rの請求項1の技術的範囲に属するものではない。
dN2100は,本件発明J及び同Rにより製造したフィルムとしての効果を全く奏していないこと(a)N2100の開発経緯N2100は,昭和61年に被告が独自に開発した逐次二軸延伸ポリアミドフィルムである。被告は,その10年前の昭和51年8月から,ONyフィルム(ハーデンフィルム)を事業実施している。
同フィルムは,ナイロン6の特性を有する食品包装用フィルムとして有用であるが,屈曲疲労特性が劣るため,冷凍食品包装の用に供した場合に,その使用,流通過程で包装フィルムの屈曲部位にピンホールと呼ばれる微細孔が時々発生し内容物が漏れ出す危険性が指摘されていた。そのため被告は,冷凍食品包装分野への新商品投入を目的として,耐ピンホール性に優れた逐次二軸延伸ナイロン6フィルムたるN2100を開発した。
なお,N2100の製造においては,Tダイから溶融押出された無定形溶融シート(未延伸キャストフィルム)の冷却ドラム表面へのフィルム密着手段として,被告の独自開発に係るストリーマコロナ放電冷却による密着技術が使用されている。同技術は,本件発明J及び同Rの出願当時,未開発・未知のものであった。
ちなみに,被告がN2100を開発した昭和61年当時,原告は既に被告を退職しており,原告はN2100の商品開発には全く関与していない。
(b) 本件発明J及び同RとN2100の製造方法との主たる相違について本件発明J及び同Rは,いずれも,従来,逐次二軸延伸法による工業的製膜が困難と認識されていたナイロン6やナイロン66のようなα型脂肪族ポリアミドを主原料とし,これに特定のブレンド(混合)成分を特定量混合した樹脂を原料樹脂として用いることにより,逐次二軸延伸法で工業的にポリアミドフィルムの製膜が可能になることを見出したものである。
その技術的特徴は,それぞれの発明のブレンド(混合)成分及び混合比率にある。
なお,本件発明J及び同Rでは,それらの特許公報記載の実施例からもうかがわれるように,製膜時の無定形溶融シート(未延伸キャストフィルム)の冷却方法自体は,当時の公知方法を採用することを当然の前提としている。そこで,被告は,原料樹脂としてN2100と同じ二成分混合物(ナイロン6/特定ダイアミド=97/3(重量比 )を用い,本件発明J及び同Rに開示されているよう )な従来から公知の一般的なキャストフィルム製造法(単なるチルロール冷却法,冷却空気吹付密着法等)を用いた場合に,本件発明J及び同Rの奏する作用効果,すなわち 「逐次二軸延伸が容易にで ,きる」と同一の作用効果が奏されるか否かを実験した。
その結果,従来から公知の一般的なキャストフィルム製造法を用いたのでは,未延伸キャストフィルムの縦方向の延伸(一軸延伸)は可能であるにしても,この縦延伸フィルム(一軸延伸フィルム)を引き続いて横方向に所定倍率(約3倍強程度)延伸する際にフィルム破断が頻繁に生じるため,逐次二軸延伸フィルムを工業的に安定的に製造することができないことが確認された(乙37の1[実験成績報告書(1)。すなわち,特定ダイアミドのブレンドによる ])逐次二軸延伸性の改良効果は全く得られなかったのである。
被告がN2100を逐次二軸延伸法によって工業的に実施し得ているのは,ひとえに各[W]発明に係るコロナ放電技術に依拠するものである。
被告は,特定ダイアミドをブレンドするN2100の場合,本件発明Rに係るフィルムが奏するとする特性と同一の特性が得られる])。 かどうかについても実験した(乙39の1[実験成績報告書(2)本件発明Rは,ナイロン6のような脂肪族系ポリアミドフィルムの特に“耐水性,耐湿性(透湿度 ”を改良する作用効果を奏する発 )明であるとされるが,原料樹脂として,特定ダイアミドをナイロン6樹脂に3重量%混合した二成分混合物を用いて逐次二軸延伸の方法で製造されるポリアミドフィルム(以下「N2100相当品」という )は,ナイロン6単独(100%)から成る逐次二軸延伸ポ 。
リアミドフィルムと比較した場合,透湿度,濡れ張力(耐水性)及び衝撃強度のいずれもほぼ同等であった。
なお,本件特許J及び同Rの各明細書にはうたわれていないが,冷凍食品包装用途のフィルムとするためには,既述のとおり耐ピンホール性が重要である。上記乙第39号証の1によれば,本件発明J及び同Rのポリアミドフィルム相当品は,ナイロン6単独フィルムと比較した場合,耐ピンホール性は全く改善されないのに対し,特定ダイアミドを3重量%ブレンドした樹脂を用いて製造されるN2100相当品のみは,耐ピンホール性が改善されることが分かる。
(c) 再実験についてなお,被告は,上記(a)(b)の各実験は被告の利害関係人のみによってなされた実験であり信頼性が希薄であるとの原告の主張を受け,乙第37号証の1に関し,実験条件については原告の示唆も踏まえて再実験したところ,N2100相当品の逐次二軸延伸性は原料樹脂としてナイロン6樹脂単体を使用する場合よりもかえって悪くなった(乙101 。さらに,乙第39号証の1についても,実験条 )件を本件特許Rの明細書の実施例1記載の条件に合わせて行ったところ,N2100相当品の透湿度,濡れ張力(耐水性)及び衝撃強度のいずれもナイロン6単独樹脂からなる逐次二軸延伸ポリアミドフィルムとほぼ同等であった(乙102 。)(d) 小括以上のように,特定ダイアミドを混合することによっては,本件発明Jに特有の効果(逐次二軸延伸性の改良効果)も,本件発明Rに特有の効果(耐水性,耐湿性の向上)も得られないものである。
そして,対象製品の構成が特許請求の範囲に記載された構成要件を充足していても,発明の詳細な説明に記載された効果を奏しない場合には,対象製品製造方法特許発明技術的範囲に属するということはできないというべきである。発明の効果を奏しないものにまでクレーム用語を広げて解釈すると,特許発明の有する実質的な価値を超えて特許権を保護することになり,また,特許無効原因を有する特許権を保護するという不条理を容認することにつながり,相当ではないからである。
したがって,本件特許Jの請求項2に規定する「ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー」というブレンド成分に係るクレーム用語は,「α型脂肪族ポリアミドの逐次二軸延伸性を得る」という当該ブレンド成分に基づく特有の効果を奏する「ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー」に限定して解釈されなければならない 「ポリアミド以。
外の熱可塑性ポリマー」でさえあれば,その化学構造や分子量等のいかんにかかわらず,あらゆるものが「α型脂肪族ポリアミドの逐次二軸延伸性を得る」という効果を奏するなどということは,本件特許Jの明細書をみても,全く立証されていないことは明らかである。
したがって,N2100の製造方法は,本件発明J(ただし請求項2の発明)及び同Rの技術的範囲に属するとすることはできない。
e本件発明J及び同Rの実用価値並びにN2100の製造方法が両発明の技術的範囲に属さないことについて被告は,本件特許Jの明細書記載の実施例1の追試実験を行ったところ,縦延伸はできたものの,引き続く横延伸工程ではフィルム破断が生じて,逐次二軸延伸フィルムを製造することは全く不可能であった。また,本件特許Rの明細書記載の実施例1の追試実験では,Tダイから溶融押出される無定形溶融シートが激しく波打って吐出し,冷却ロール(チルロール)表面上にまともに密着冷却することができず,縦延伸工程へ供給すべき未延伸フィルムを取得することさえできないという有様であった(乙103 。)以上によれば,本件発明J及び同Rは実用価値の極めて乏しいものであることは明白であって,この一事をもってしても被告が事業実施しているN2100について,本件発明J及び同Rを実施していないことは明らかである。
(イ)本件発明B及び同Jについて原告は,審理終結直前に突如として,N1100は本件発明B及び同Jの実施に該当するなどという主張を始めた。審理終結直前になってのこのような新たな主張が,時機に後れた主張であって許されないものであることは当然である。
その点はひとまず措くとしても,原告の主張は失当である。
N1100では,原料成分の1つとして,SM樹脂(上市当初の数年間はMSM樹脂)をブレンド成分として使用するが,その重合系には本件発明Bに規定する化合物を一切使用していない。
原告は,N1100の原料成分の1つとして使用するSM樹脂又はMSM樹脂の製造方法が本件発明Bの実施に該当する理由を何ら示しておらず,原告の主張が失当であることは明らかである。
また,SM樹脂単独,あるいはMSM樹脂単独からなるポリアミド(これらは,キシリレンジアミン残基を分子鎖中に100モル%含有する含環ポリアミドである )は,本件発明Jのブレンド成分「キシリレ 。
ンジアミン残基を分子鎖中に70モル%以上含有しない含環ポリアミド」から明確に除外されている。また,本件発明Jのブレンド成分「γ型脂肪族ポリアミド」は,原告の主張するような単なる「γ型ポリアミド」ではなく,γ型ポリアミドの中でも,脂肪族のもの,すなわち,「γ型脂肪族ポリアミド」に明確に限定されているのであり,SM樹脂やMSM樹脂のような芳香族ポリアミドは,明確に除外されている。
(ウ)本件発明Kについて原告は,FSMフィルムは本件発明Kを実施した製品であると主張するが,失当である。
本件発明Kは,共重合された所定のブロックポリエーテルアミドフィルム(以下 「MSM樹脂からなるフィルム」という )と低融点のポリ , 。
オレフィン系樹脂を積層した熱接着性積層ポリアミドフィルムに係る発明であり,かかる構成を採用することにより,耐屈曲疲労性,低温耐衝撃性,並びにガスバリア性に優れた熱接着性積層フィルムを提供するものである。
一方,被告が製造販売するFSMフィルムは,フィルムとしてはMSM樹脂単体から逐次二軸延伸の方法で生産されるポリアミドフィルム(すなわち 「MSM延伸フィルム:品名「N3100 (旧品名「N1 , 」501)のみであって,本件発明Kの対象とする「MSM樹脂からな 」)るフィルム」の少なくとも片面にポリオレフィン系樹脂を積層した熱接着性積層フィルムは製造していない。FSMフィルムへの他種フィルムの積層化は被告ユーザーが必要に応じて適宜実施することになる。原告は,FSMフィルムが積層された製品がレトルト袋及びレトルト蓋材として使用されていることが「’90-11<包装材料レポート>フイルム産業の需要と用途別市場動向 (乙3)に報じられていると主張する 」が,本件発明Kの実施品となる余地のある同レポート中の積層フィルムは,いずれも被告が製造販売したものではなく,また,同レポート記載のとおり,ユーザーは種々の積層態様で使用しているのであるから,被告のFSMフィルムの製造販売行為は間接侵害行為にも該当しない。
したがって,本件発明KはFSMフィルムの実施対象発明になるとの原告の主張は失当である。
(エ)本件発明E及び同Iについて原告は 「MSM樹脂はFSMフィルムの原材料ではあるがPET積 ,層容器にも使われており,FSMフィルムの生産量が少ないのでMSM樹脂の主用途は積層容器となる 」などという決め付けを前提に,MS 。
M樹脂がPET積層容器に使用されていると主張するが [Z]発明に,係る積層PETボトルには,MSM樹脂は使用されていない。
また,本件発明Iと[Z]発明とは,多層成形容器の内外層を構成する樹脂組成が,前者は「ポリオレフィン樹脂 ,後者は「エチレンテレ 」フタレート繰返単位を主体とするポリエステル樹脂 (通称「PET )」」である点で両者は明確に相違する別発明である。
その上 [Z]発明における中間層は「SM樹脂」であって 「MSM , ,樹脂」ではない。したがって,原告の主張は,その前提において既に誤っている。
よって,原告の主張は失当である。
(オ)本件発明@ないしEについて原告は,外販用SMレジンは本件発明Bの実施品であると主張する。
しかし,N1100の項で既述したように,被告のSM樹脂の重合系には,特許Bに規定する化合物(O-フェニレンジアミンおよび/またはその誘導体)は一切使用していない。したがって,当然ながら,外販用のSM樹脂が本件発明Bの実施品でないことは明らかである。
原告は,外販用のSM樹脂が本件発明Bの実施品に該当する理由を何ら示すことなく,本件発明Bの実施品であるなどと主張しているにすぎず,その主張が失当であることは明らかである。
(カ)本件A発明ないし本件G発明についてダイナック(又はその製造方法)は,本件A発明ないし本件G発明の技術的範囲に属するものではない。呉羽テック株式会社(以下「呉羽テック」という )の製造販売するダイナックは,ナイロン12を必須の 。
共重合組成成分とするところ,上記各発明は,いずれもナイロン12を共重合組成成分とするものではないからである。
不実施周辺特許の位置付け(ア)総論わが国では,企業が保有する全特許権のうち約60%が自己実施も他社に実施許諾もされていない特許権(いわゆる不実施特許)であり,この事情は被告においても同様である。
いわゆる不実施特許についての独占の利益につき,これを合理的・説得的に評価する基準ないし手法は,未だ見つかっていない。いわゆる不実施特許の独占の利益については,余りにも多くの評価因子が存在し,しかも個々の評価因子の多くは不確定性を排除することが容易ではないからである。例えば,使用者が当該不実施特許に係る発明の代替技術と言い得るような他の特許発明を事業実施していなければ,使用者は当該不実施特許によりいかなる独占の利益をも受けていないと言い得るが,代替技術と言い得る他の特許発明(A)を事業実施している場合においても,その代替性の範囲や程度は様々であるから,これらをいかに数値化すべきかが問題であるし,また,その数値化に際しても代替技術たる他特許発明(A)の実施事業の市場規模,殊に競業者,参入希望企業の有無並びに数が異なれば当然のことながらその数値は影響を受けることを考慮しなければならない。また,使用者が事業実施している代替技術(A)と競業者,参入希望者が当該事業において実施する代替技術(B)との優劣や当該代替技術(B)が特許により保護されているか否か等によっても数値は変動するであろう。
これらの不確実な多数の評価因子を積み重ねて評価することは,信頼性に乏しい数値を乗じることとなるから,信憑性・信頼性において著しく低い数値が導かれるにすぎない。
したがって,不実施特許における独占の利益は,論理的には,これを否定する積極的理由はなさそうに見えても,仮定的数値を積み重ねるしか評価のしようのない実際の評価にあっては,上記のとおり,信頼性のおける評価結果は全く期待できないのである。
少なくとも,化繊・綿紡9社(東レ株式会社〔以下「東レ」という,帝人株式会社,旭化成株式会社,三菱レイヨン株式会社,ユニチ 。〕カ株式会社〔以下「ユニチカ」という,株式会社クラレ,日清紡績株 。〕式会社等)は,いずれも平成16年法律第79号による改正特許法35条4項の施行後も,不実施特許に対する特許表彰を行う制度を採用していないことが判明している。被告の知る限り,他の業種においても同様である。
(イ)本件訴訟における本件特許J,L及びNないしSの位置付け本件特許J,L及びNないしSは,いずれもいわゆる不実施特許である。
被告の本件特許J,L及びNないしS(ONyフィルム周辺特許)による独占の利益に関する見解は,以下のとおりである(なお,本項においては,ONyフィルム市場への他社参入の可否について検討する関係上 「ONyフィルム」という用語を,フィルム製膜方式のいかんを問 ,わず 「二軸延伸ポリアミドフィルム」を指す意味として使用する。 , 。)aわが国におけるONyフィルム事業わが国では,ユニチカ,株式会社興人(以下「興人」という,被。)告,三菱モンサント化成(現在,同事業は三菱樹脂株式会社〔以下「三菱樹脂」という 〕に引き継がれている。以下「三菱グループ」 。
ともいう,出光石油化学株式会社(以下「出光石油化学」とい 。)う )の少なくとも5社がONyフィルム事業を行っている。上記5 。
社のONyフィルムは,製膜方式がそれぞれ独自のもので各社相違するが,得られるONyフィルムの物性自体には実質的な差異はない。
したがって,ONyフィルムの用途は,5社とも,一般包装用,特に,冷凍食品包装用が主体であり,5社のONyフィルムは過去においても現在でも実質的に市場競合している。
事業規模では,ユニチカが突出しており,被告は第2位,次いで興人,三菱樹脂の順で,この順位も上市以来変わっていない。
また,被告以外の上記4社はいずれも,ブレンドによる逐次二軸延伸法に係る被告のONyフィルムに関する特許権( Y]発明及び[[V]発明に係る特許権)の権利存続中からONyフィルム事業を行っている。
このように,被告のONyフィルムたるハーデンは,上市当初から先発他社品と市場競合しており,販売量も残念ながら第2位に甘んじており,被告はONyフィルムの市場において独占的実施ができたわけでも,また優位な立場を獲得したわけでもない。このような被告のONyフィルムたるハーデンは [Y]発明及び[V]発明並びに ,[W]発明@及び同Aに係る各特許権によって守られてきたものである。被告のハーデンが,市場において幾ばくかの優位性を得ているとすれば,それは専ら各[W]発明に係る高速製膜化技術を独占実施できたことによる。
bONyフィルム周辺特許群による他社の参入は阻止できないこと。
原告は,東レ,ユニチカ,三菱グループの3社は,ブレンドによるONyフィルムの特許出願をしたが,原告の発明に係るONyフィルム周辺特許群(本件特許権J,L,NないしS)が先行したために,これら後願他社特許の権利化をすべて抑える(拒絶若しくは取り下げさせる)ことが可能になっており,それゆえに,原告の発明に係る上記ONyフィルム周辺特許群が被告のブレンドによるONyフィルムの独占的地位に大いに寄与している旨主張している。
しかし,この原告の主張は,誤りである。
甲第19号証ないし同第27号証の特許出願はいずれも,所定期間内に審査請求がされず,未審査請求によるみなし取下げとなっており,これらの特許出願が本件特許権J,L,NないしSのいずれかに阻まれて拒絶若しくは取下げになったという事実はない。
また,本件特許権J,L,NないしSは,上記3社の特許権(甲19ないし27)のいずれに対しても,特許性を阻却する先行資料(先行技術)たり得ず,権利抵触関係すらない。甲第19号証ないし同第27号証に係る特許の出願人は,自己の出願に係るブレンドによるONyフィルム関連の発明を事業実施したければ,自己の自由裁量で何時でも(当該特許の成立,不成立,みなし取下げ等,去就のいかんに関わりなく)事業実施が可能であったものである。
したがって,他社のブレンドによる逐次二軸延伸ONyフィルムへの事業進出を,本件特許権J,L,NないしSによって特許的に防衛し切れなかったことは明らかである。
原告は,本件特許権J,L,NないしSが被告のブレンドによるONyフィルムの独占的実施を支えるのに不可欠であったと主張し,かつ 「 V]発明 [Y]発明,原告発明のいずれを実施しても,同じ ,[,品質の製品を得られる」という前提に立って,上記3社のいずれかの出願が特許として登録された場合には,被告はブレンドによるONyフィルムの実施について独占的地位を確立することは不可能であったと主張する。
しかし,上述したように,上記3社の特許出願に係る発明は,いずれも本件特許権J,L,NないしSとは権利抵触関係がないから,上記3社は,これらの自社出願に係る甲第19号証ないし同第27号証の発明を実施して「ブレンドによるONyフィルム」事業に参入することは可能であり(このことは,これらの特許出願が権利化されるか否かとは無関係である,その参入を被告がONyフィルム周辺特許 。)群によって阻止することはできない。
したがって,原告の上記主張は完全に誤りである。
のみならず,そもそもONyフィルムは,ブレンドによらなくても逐次二軸延伸法で製造できることが特開昭50-55679公報(乙55)により古くから知られており,この出願は拒絶査定が確定していたから,ONyフィルムの事業化を企図する者は,何もブレンドによるONyフィルムに拘泥する必要性などなかったものである。
なお,被告は,被告の保有するブレンドによる逐次二軸延伸法によるONyフィルム製造法に関する特許権( Y]発明及び[V]発明 [に係る各特許権,並びに本件特許権J,L,NないしS)のいずれに関しても,今日まで他社からライセンス及びクロスライセンスの申出を受けたことは一度もなく,また無効審判を請求されたこともない。
もし原告が主張するように,本件特許権J,L,NないしSによって,被告のONyフィルムと同等品質のONyフィルムが製造でき,かつ,逐次二軸延伸法が同時二軸延伸法やインフレーション法等,他の製膜方式に比べて,生産技術として格別優位に立つのであれば,他社から上記不実施特許権(本件特許権J,L,NないしS)についてライセンスクロスライセンスの打診を受けても何ら不思議ではない。しかるに,そのような事実は全くなかった。
さらに,被告の保有するブレンドによる逐次二軸延伸法によるONyフィルム製造法に関する特許権( Y]発明及び[V]発明に係る [各特許権,並びに本件特許権J,L,NないしS)の権利期間が満了して既に8年以上が経過するが,前記競業4社(ユニチカ,三菱樹脂,興人及び出光石油化学)はいずれも,相変わらず前記した従来からの自己のONyフィルム製膜方式を採用し続けている。このことからも,他社は,ブレンドによる逐次二軸延伸法によるONyフィルムの製造法に格別の魅力を感じていないことが窺知できるのである。
以上より,ONyフィルム周辺特許群の被告のONyフィルム事業業績への寄与は,仮にあったとしても極めて低いものであり,旧特許取扱規定に定める出願時奨励金及び登録時奨励金の金額を超えないというべきである。
(2)原告に対して支払われるべき相当の対価の額についてア原告が主張する実施品の平成13年末までの生産量に関する別表1の記載は否認ないし争う。被告の主張する生産量は以下のとおりである。
(ア)被告は,本件発明J(及び/又はR)の実施品となり得る製品として原告が主張するN2100にN2100シリーズのフィルムすべてを対象とし,かつ,N2100の生産開始時期である昭和61年11月から本件特許権Jの消滅日である平成8年8月9日の間の売上高を算出した。
ただし,本件発明Jはポリアミドフィルムの延伸方法,本件発明Rは耐湿性に関する発明であるから,フィルムとして完成した物に対し後から付加された価値(例えば,コーティング)に対しては全く無貢献である。
よって,売上高計算のべースはフィルムそのものを対象としており,フィルムとして完成後に付加された上記価値によって上昇した価格を控除した。
具体的には,N2100に特定のコーティングを施した製品(N8000シリーズ)があるが,これについてはコーティング加工賃を除いた上で,売上げに換算した。
(イ)上記(ア)の前提に基づくN2100シリーズの売上高の具体的な計算方式は次のとおりである。
N2100シリーズの1987年(昭和62年)度から1995年(平成7年)度の売上高は,コーティング加工賃を除いて157億3900万円である。
1996年(平成8年)4月1日から同年8月9日(本件特許権J消滅日)までの間の売上高は1996年度のコーティング加工賃を除く売上高21億5600万円に12分の4を乗じて求められ,7億1900万円である。
また,1986年(昭和61年)度の上記売上益金明細表(原デ-タ)が存在しなかったため,昭和61年11月(N2100の生産スタート)から昭和62年3月31日の間の売上高は,証拠がない以上,原告に有利となるように計算すべきと考え,1987年(昭和62年)度から1989年(平成元年)度までの売上実績値のプロットから1986年(昭和61年)を外挿し,その外挿値に12分の5を乗じて求めた(3億3300万円)。
以上によれば,N2100シリーズの昭和61年11月から平成8年8月9日の間の売上高は167億9100万円である。
(ウ)N2100シリーズは,汎用ONyフィルムに比して,耐ピンホール性という付加価値を有し,その付加価値が冷凍食品用包装材等として競争力を有していることから,汎用ONyフィルムに比して販売価格が高価である。
しかるに,本件発明Jはポリアミドフィルムの延伸方法,本件発明Rは耐湿性に関する発明であり,いずれも,耐ピンホール性向上という点に対して全く無貢献であることは明白であるから,相当の対価算定の前提となる売上高算出においては,汎用品との価格差を控除すべきは当然である。
そして,一般品のONyフィルムとN2100の価格差(104円/kg)は,一般品のONyフィルムの加重平均販売価格(674円/kg)の約15%に相当する。したがって,この分を控除してN2100の一般品のONyフィルム基準売上高を計算すると,167億9100万円×0.85=142億7200万円となる。
(エ)なお,原告は,SM共押出延伸フィルムの生産量を別表1(22)に挙げている。SM共押出延伸フィルムとは,一般的にいえば2台以上の押出機を用いてSM樹脂及びSM樹脂と同種又は異種の樹脂を溶融状態でダイ内,あるいはダイ開口部において接合させ,多層フィルムを1工程で製造するものである。同フィルムも,本件各発明とは全く無関係であって,本件訴訟とは関係のないものである。
イ原告は,対象発明特有の効果から生じる被告の各年の利益を別表2にまとめたと主張するが,同別表に示す利益額は根拠のない架空のものである。
なお,ダイナックテープ(以下「ダイナック」という )の利益予想に。
ついて,原告は,ダイナックの組成例を決め付けて想定して原告の受けるべき対価額なるものを算出しているが,仮想の樹脂組成を前提とするものであり失当である。
ダイナックは全部で9銘柄あり,全9銘柄とも 「ナイロン6成分 , ,」「特定ポリアミド成分」及び「ナイロン12成分」を共重合したポリアミド共重合体を使用している(乙122参照 。)原告がダイナックの組成に係る特許であると主張する7件の特許はいずれも,ナイロン12成分を必須の共重合成分としない特定の三元共重合体に係る発明であるという点で,ダイナックに使用する原料樹脂組成とは共重合樹脂組成が明確に相違することが明らかなのである。
原告が前提とする樹脂組成中に「ナイロン12成分」は全く含まれておらず,ダイナックの原料樹脂組成とは全く相違する。
ウ原告は,従業者貢献度を20%,発明者寄与率を90%以上と主張しているが,相当ではない。以下の事情によれば,その従業者貢献度は1〜2%であって,どんなに大きくとも2%を上限とすべきである。
(ア)原告は [V]発明及び[Y]発明が本件発明J,L,NないしS ,の先行技術に該当すること及び結晶化を遅らせて逐次二軸延伸性を得る機能を有する物質をブレンドするという発想ないし思想はもっぱらこれらの先行技術の発想に係るものであることを自白している。
このように,本件各発明は,基本発想及びその技術思想の双方を,もっぱら[V]発明及び[Y]発明に依拠しているのである。
さらに,被告は,昭和35,36年には東洋紡繊維技術研究所を中心にフィルム分野の基礎研究に着手し,独自の生産設備を備え,二軸延伸に関する技術やノウハウを蓄積し,ナイロンフィルムにおけるSMブレンド技術やコロナ放電技術の開発につながり,ついに世界初の逐次二軸延伸ナイロンフィルムの工業化に成功したのである。被告は,昭和39年ころから逐次二軸延伸技術の研究開発を続けており,長期にわたる研究開発の結果,昭和50年になって,SMブレンド法という画期的な発明が実を結び,実用的な逐次二軸延伸ナイロンフィルムの開発に成功した。そして,昭和51年に逐次二軸延伸ナイロンフィルムであるハーデンフィルムの本格生産が開始された。しかし,N2100フィルムの製品化には,昭和53年ころに完成するコロナ放電技術の完成と,さらにその約8年後に完成する耐ピンホール性改良剤(特定ダイアミド)の研究開発を待たなければならず,昭和61年にようやくN2100フィルムの逐次延伸が可能となったのである。
ナイロンの逐次二軸延伸が非常に難しいことは広く知られており,現に昭和50年当時,先行者であるユニチカ及び興人は,いずれも同時延伸法によってのみナイロンフィルムを生産していた。
この逐次二軸延伸ナイロンフィルムの研究開発に投じられた研究開発費及び設備投資額は,合計14億1170万円に上り,仮に本件発明J及び同Rが出願された昭和51年までに限っても直接の研究開発費だけで1億円を超える金額が投資されている。被告は,失敗に終わるリスクを冒して投資したからこそ,SMブレンド法及びコロナ放電技術という画期的な発明が相次いで誕生し,その製品化に成功したのである。
上記研究開発費及び設備投資額は,被告の投資額のごく一部であり,フィルム事業の拠点となった26万u以上の敷地を持つ犬山工場の人件費を含む経費が加わることや,被告が有する繊維に関する技術がフィルム開発に活かされており,その歴史は極めて長いことを考慮すれば,雇用者貢献度が一般的事例よりも大きいことは当然である。
(イ)原告は,開発経緯について,SMフィルムの開発に関する第1次研開プロジェクトを,周囲の反対意見を押し切って,あたかも原告が立ち上げたかのごとく主張するが,事実に反する。SMフィルムが優れたガスバリヤ性を有するという情報は,被告が昭和43年にアメリカから入手していたものであり,かかる情報に基づいて昭和45年2月にSMフィルムの開発に関する第1次研開プロジェクトを立ち上げ,このプロジェクトは昭和46年12月まで継続していたのである。この当時,原告は,ナイロン繊維の研究に従事しており,それまでSM樹脂開発はもとより,フィルム研究開発にも一度も関与していない。
(ウ)原告は,被告の「総研20年の歩み (甲73)37頁の昭和50 」年の欄の「NY6/SM比のNY-6の多い側での逐次二軸延伸に成功。
理論づけを経て特許出願(51/4 」との記載を採り上げ,この「理 )論づけ」は原告の業績である旨主張している。
しかしながら,上記記載は,ナイロン6/SM比のナイロン6リッチの混合重合体の逐次二軸延伸製膜について,一方向延伸膜の面配向係数を0.6〜1.5の範囲になるように一方向に延伸し,しかる後に直角方向に延伸を行うという〈P10〉教授(昭和47年4月から昭和53年6月まで被告堅田研究所F研究室長 )の理論付けを経て,同氏が共 。
発明者となっている特開昭52-104565公報(乙106)に係る特許及び特開昭52-134677公報(甲64)に係る特許が出願されたという事実関係を説明する記事である。
(エ)本件特許Jの明細書の実施例記載の物質を提案した者についてaさらに,原告は,本件特許Jの明細書の実施例記載の物質を原告が提案したものであり,それは甲第55号証,乙第40号証の1,本件発明L,NないしS等に示されていると主張する。
しかし,原告は,甲第55号証及び同第13号証の作成時期・作成目的及び作成経緯に関し,主張を恣意的に変更しており,その虚偽は明白というべきである。すなわち,原告は,講演依頼をした人物を「総合研究所企画室の〈P22〉氏」から「 P23〉氏 ,さらに 〈」「ある人物」へと被告の主張を受けて変遷させ,講演依頼時期も当初「昭和51年4月始めのある日の午後」としていたのを「昭和51年3月」と変更したのであって,甲第55号証のOHPシートが他者から講演依頼を受けて作成したものではないことは明らかというほかなく,その作成時期も含めた原告の主張は信用できないことが明らかである。
さらに,原告は,甲第55号証の作成目的に関して,当初 「総合,研究所企画室の〈P22〉主任研究員からの講演要請を受けて36枚のOHPシートを用意して昭和51年6月11日,堅田研究所企画室で,プラスチック委員会主催の講演会で約1時間半講演を行った 」。
と主張していたが 〈P22〉氏からも否定され,原告は 「原告が昭 , ,和46年4月以降,ホットメルト(低融点,非晶質ポリアミド)の開発に着手し,その過程で低融点ポリアミドに関する出願(乙40ないし46。各枝番を含む )をし,また透明ナイロン(非晶質ポリアミ 。
ド)の研究にも着手し,研究ノートとしてまとめたもの」が甲第55号証であるとその主張を変更した。
原告の上記主張に対して,被告は,OHPシートに直筆で研究ノートをとる研究者がいたことを知らないし,被告は,当時,研究者に対して,OHPシートに直筆で研究ノートをとるよう指示したこともないので,甲第55号証は原告が研究ノートとしてまとめたものであるという主張は,全く信用することができないと主張した。
そうすると,原告は 「研究ノートとしてまとめたものが甲第55 ,号証である 」という前言を翻し 「昭和51年3月,ONyの本格生 。,産が決定されたことを受けて,ある人物から,それ迄のポリアミドの研究とこれから可能性のある研究について講演の依頼を受けた ・・。
・ 中略 ・・・原告はその要請に応えてその講演のための資料を業務 ()外に単独で,厚さ62μmのOPPフィルムにマジックペンで手書きで作成した(甲第55号証)ことは誰が何と言おうと間違いのない事実である,と甲第55号証の作成目的を「講演のための資料」とし 。」て作成したものであると再び主張変更したのである。
甲第55号証に関する原告の主張が全く信用できないことは,同号証の作成目的に関する再三に及ぶ主張の変遷のみをもってしても明らかである。
b原告は,甲第55号証の原本OHPフィルムの記載内容に関して,平成3年11月から同5年末までの期間中に,甲第55号証の原本OHPフィルム(36枚)のうち,図22の縦軸に「720」及び「1115」という2つの数字を,また同時に,同じく図24にも,中央上に「2.5wt%」という数字をそれぞれ追記した事実を認めている。
被告は,甲第55号証の原本OHPフィルム(全35枚,4頁は欠落 )と,被告が受領している甲第55号証及びその一部であるとさ 。
れる甲第13号証の各写し(以下「甲55の写し等」という )と照。
合した。その結果,甲第55号証の原本OHPフィルムには,原告が後日追記したという上記3か所の数字のほか 「図7「図8「図 ,」,」,9」及び「図11」に関して,甲第55号証の写しにはこれら各図中に「複数本の直線群」が記載されているのに対して,甲第55号証の原本OHPフィルムにはそれに対応する直線群は全く記載されていないことが分かった。
甲55の写し等におけるこれら「複数本の直線群」は,おそらくは本件訴訟目的のために,原告によって後日追記されたか,甲第55号証の原本とは元来別の原紙をコピーしたものを甲第55号証の写しであるかのごとく偽装したかのいずれかであると推認できる。なぜなら,「図7」記載の直線群は,ダイナックに係る特許であると原告が主張する乙第46号証の1の特許公報記載の図と同一であり 「図8」記,載の直線群は,同様に乙第42号証の1の特許公報及び乙第45号証の1の特許公報記載の各図と同一であり,また「図9」記載の直線群も同様に乙第40号証の1の特許公報及び乙第41号証の1の特許公報の各図とそれぞれ対応するからである。
このように,甲第55号証の写しは,甲第55号証の原本OHPフィルムには記載のない事項を本件訴訟目的に意図的に改ざん若しくは偽装したものと推認できることによれば,甲第55号証の原本OHPフィルムと甲第55号証の写しとの関係についての上記原告の主張が全く信用できないことは明らかである。
c原告は,本件特許Jの明細書の実施例記載の物質が甲第55号証等に開示されていると主張しているが,いずれも失当である。原告主張の物質は,明細書の開示要件違反という無効原因を含み,第三者排除効がないか,甲第55号証や乙第40号証の1,本件特許N及び同Sの明細書の実施例に記載されていないからである。よって,甲第55号証及び乙第40号証の1,本件発明L,NないしS等から,本件特許Jの明細書の実施例の「物質AないしF」を原告が提案したものであるとすることはできない。
エ特許法35条3項(及び4項)にいう「相当の対価」とは,使用者が原始的に取得する通常実施権(同1項)を除いた,特許権の排他的効力に基づく独占の利益をいう。しかるに,原告の主張は,この通常実施権に基づく「利益」をも「相当の対価」に含めていることが明白であって,失当である。
(ア)SMレジンの対価額について原告はSMレジンについては本件発明@ないしCが関与すると主張しながらも,対価請求の根拠とする特許は,本件発明Bのみである。しかしながら,既に主張したとおりSMレジンが本件発明Bの実施品でないことは明らかであるから,原告の本件発明Bに基づく対価額の算定根拠は,その前提から失当である。
(イ)N1100(Kコートを含む )の対価額について。
既述のとおり,被告はN1100では本件発明B及び同Jは全く実施していないから,本件発明B及び同Jに基づく対価額の算定をN1100(Kコートを含む )の実施に依拠する原告主張は,そもそも前提を 。
誤ったもので失当である。
(ウ)N2100の対価額についてa本件発明J及び同Rの不実施既に主張したとおり,そもそも,被告は本件発明J及び同Rを実施していないのであるから,原告の本件発明J及び同Rに基づく対価額の算定根拠は,前提を誤っており失当である。
b独占の利益の不存在仮に万一,被告によるN2100の自己実施において,本件発明J又は同Rのいずれかが実施されていると仮定したとしても,本件特許権J及び同Rは独占的な排他力を何ら有しないから,法に定める「相当の対価」の根拠であるところの独占の利益を全くもたらしてはいないことが明らかである。
本件発明J及び同Rで配合する特定ブレンド成分は,延伸ポリアミドフィルムの特性にはほとんど影響を与えず,延伸ポリアミドフィルムの特性は,もっぱら主原料のα型脂肪族ポリアミド樹脂に由来するものとなる。そのため,通常かかる延伸ポリアミドフィルムは 「一,般品のONyフィルム」とか「汎用ONyフィルム」などと呼称される。
他方,N2100は,昭和61年に被告が独自開発した逐次二軸延伸ポリアミドフィルムであるところ,原告が被告を退職した後,被告の研究者が探索の結果見出した特定ダイアミドという特殊なブレンド成分を使用する点に特徴を有し,特定ダイアミドのブレンドによる特有の効果として「耐ピンホール性」という特殊高機能性を付与した逐次二軸延伸ポリアミドフィルムである。
この特定ダイアミドは,本件発明J及び同Rには全く開示されていないにもかかわらず,原告は,本件発明J(及び/又は同R)に係るブレンド成分のクレーム用語を不当に広く解釈することによって,「一般品のONyフィルム」とは明確に区別される特殊高付加価値商品たるN2100が,本件発明J(及び/又は同R)の「一般品のONyフィルム」の実施品であると主張しているのである。
ブレンドによる「一般品のONyフィルム」に関しては,被告がN2100の事業実施を開始した昭和61年より約3年も以前の昭和58年7月7日以降,本件特許権J及び同Rの実施権を得る必要性なく誰でも自由に事業実施できる自由技術が存在していた。前記(1)イ(イ)bの甲第19号証記載の発明である。同発明に係る出願は,昭和58年7月7日に未審査請求によるみなし取下げ(乙57)となっている。
したがって,昭和61年当時,ブレンドによる「一般品のONyフィルム」の事業化を企図する者は,わざわざ本件特許権J及び同Rの実施権を取得する必要など毛頭なく,それゆえ,昭和58年7月7日以降,本件特許権J及び同Rは,他者による「一般品のONyフィルム」の事業化を排除する排他効は実質的にゼロ(皆無)の特許権になってしまっていたといっても過言ではない。よって,仮に,被告のN2100の生産が,本件発明J又は同Rの実施に当たると仮定したとしても,他者による「一般品のONyフィルム」の事業化を本件発明J又は同Rによって排除できない以上,被告のN2100生産における本件発明J(及び/又は同R)の自己実施利益はすべて通常実施権の範囲内の利益にすぎず,独占的実施利益は全く含まれていないことは明らかなのである。
c独占寄与率(仮定主張)万一,本件発明J及び同Rについて,被告における自社実施に関する相当の対価が算定されるとしても,その独占寄与率については,次の事情を考慮するべきである。
被告がN2100を含むナイロンフィルムの生産に要した設備及び人件費等は,26万u以上の敷地を有する犬山工場を含め,極めて莫大である。仮に他社がその製造に必要な特許権等の実施許諾を受けたとしても,当該他社は,その生産規模によるコスト競争力において圧倒的に劣ることが明白であるばかりか,被告が長い時間と大量の製品を生産する際に会得してきた各種ノウハウに匹敵する生産技術を有しているはずもなく,その売上高は,被告が当該特許権を自社実施する場合に比して,圧倒的に減少することが明白である。
ゆえに,実施許諾の対象権利に,N2100の生産のための中核技術であるコロナ放電技術に関する一切の特許権等が含まれると仮定したとしても,当該他社が挙げ得る売上高は,多くとも被告の約半分とみるのが妥当である。したがって,独占寄与率は,多く見積もったとしても,最大30%とみるべきである。
d仮想実施料率(仮定主張)また,仮想実施料率については,被告の基幹技術であるコロナ放電技術関係の権利一切とセットで実施許諾した場合を想定するべきであり,その場合でも5%が上限である。
e発明の独占の利益に対する貢献度被告が実験成績報告書(3)(乙103)で立証したように,本件特許Jの出願当時の技術水準に係る溶融押出無定形シートの冷却技術によっては,N2100を逐次二軸延伸法で製膜することは不可能であり,各[W]発明に係るコロナ放電技術が開発されることによって,初めて逐次二軸延伸法によるN2100の製膜が可能になったのである。本件発明J及び同Rは,出願当時の溶融押出無定形シートの一般的冷却法によっては逐次二軸延伸フィルムとして工業的に製膜することは不可能であるから,N2100の逐次二軸延伸フィルム製膜に対する本件発明J及び同Rの寄与は実質的にゼロと評価するのが相当である。
ストリーマコロナ放電冷却による密着技術(各[W]発明)は,熱可塑性合成樹脂フィルム製膜分野で従来その利用が全く知られていなかった特殊な高電圧・高電流の静電密着技術を利用して,未延伸キャストフィルムの結晶化を効果的に抑えながら冷却ロール表面への溶融押出フィルム(キャストフィルム)の密着冷却を確実にし,それによって冷却ロール表面にオリゴマー(低分子量ポリアミド重合体)が堆積せず,厚み均一性,透明性に優れた高品質の逐次二軸延伸ポリアミドフィルムを高速度で工業的に製膜できるようにしたものである(乙38の1・2 。この密着技術によれば,従来逐次二軸延伸の方法で )工業的に製膜することが困難と認識されていたナイロン6やナイロン66のようなα型脂肪族ポリアミド単独からなるポリアミド樹脂(α型脂肪族ポリアミド100%)を原料樹脂として用いてさえ,逐次二軸延伸法で工業的に製膜することが可能になるばかりか,製膜速度も従来の3ないし5倍あるいはそれ以上に高速化することが可能となり,フィルム製造原価を大幅に引き下げることができるという顕著な作用効果を奏するものである。被告独自の開発に係るN2100を工業的に製膜できるようになったのは,このストリーマコロナ放電冷却による密着技術があってこそなのである。
さらに,本件発明Rは,被告が忠実な追試実験を行って判明したように,唯一の実施例でさえ逐次二軸延伸フィルムの製膜は不可能であるというのが実態であるから,発明として完成していると認めることさえできないものである。したがって,N2100に対する本件発明Rの寄与を議論する以前に本件発明Rの発明としての価値は実質的にゼロと評価するのが相当である。
f本件発明Jの発明者間寄与率本件発明Jの共同発明者である〈P10〉教授が原告から本件特許Jの明細書を書くように依頼された事実は全くなく,本件特許Jの明細書すべてを〈P10〉教授自身が書いたこと,原告からは本件特許Jの明細書の作成等に関して何の協力もなかったこと,また,原告を共同発明者の1人として記載したのは,同じ研究所でポリアミドの研究を長年行っていた研究者への思いやりであって,本件発明Jに対する原告の貢献度は限りなくゼロに近いものであり,原告が貢献度を90%と主張しているというのは信じがたいことであると陳述している(乙111 。)したがって,本件発明Jに対する原告の発明者間寄与率は,限りなくゼロに近い。そして,本件発明Jに規定する4種類のブレンド成分中 「非晶性脂肪族ポリアミド」及び「キシリレン残基を含有しない ,含環ポリアミド」という2種類のブレンド成分に関して,その下位概念に相当する具体的な化合物の1つ,2つを仮に原告が〈P10〉教授に提示したということを容認したとしても,せいぜい5%と認めるのが相当である。
なお原告は 〈P10〉室長が「ポリアミド以外の熱可塑性樹脂の ,ブレンド」要件及び「一軸延伸フィルムの面配向指数の内容」要件を加えて本件発明Jを完成させたことを自認しているから,ポリアミド以外の熱可塑性樹脂をブレンドする本件発明Jの請求項2の発明における原告の発明者間寄与率は,実質的にゼロである。
g本件発明Rの発明者間寄与率原告は,本件特許Rの出願経緯及び発明者間寄与率に関して 〈P,6〉らがナイロン6にMSM樹脂をブレンドして逐次二軸延伸性を得ているとの情報に基づき,ナイロン6の結晶化を遅らせている要因がγ型ポリアミドであると理解できたことから 〈P5〉室長には,含 ,環ポリアミド以外のポリアミドとしてγ型結晶性ポリアミドの例としてナイロン12やナイロン69を挙げ,それらのブレンドによるONyフィルムの製造法について補強を依頼し,吸水率の観点から整備し本件発明Rを完成させたと主張している。
しかし,ナイロン6の結晶化を遅らせている要因がγ型ポリアミドであると仮に理解できたとしても,そのことから直ちに 「ナイロン,12やナイロン69などのγ型結晶性ポリアミドのブレンドによるONyフィルムの製造法について,吸水率の観点から特許の補強整備を依頼する 」という行動に出たというのはいかにも奇異というべきで 。
ある。
なぜなら 「含環ポリアミド以外のγ型結晶性ポリアミドのブレン ,ドによるONyフィルムの製造法」と,本件発明Rの「耐水性,耐湿性の改良された延伸ポリアミドフィルム」の提供という二つの事象間には技術的関連性が何ら認められず(前者はフィルムの生産技術,後者はフィルム物性の改良技術という互いに相異なる技術事項に係るものである,両事象を結合して思考することは論理飛躍だからである。 。)しかも,本件発明Rのブレンド成分は,そもそもポリアミドのγ型結晶とは何らの関連性もない。本件特許Rの出願当初明細書(乙110。
特開昭53-18667)を見ても,本件特許Rは,出願当初からブレンド成分( B成分ポリアミド )として 「吸水率が1.0%以下 「」,の脂肪族系ポリアミド」のブレンドに着目した耐水性,耐湿性の改良された延伸ポリアミドフィルムを提供する発明であったのであり,γ型結晶性ポリアミドのブレンドに着目した逐次二軸延伸ポリアミドフィルムの製造法の発明ではない。
しかして,原告は,本件発明Rの「B成分ポリアミド」のごく一部に相当する化合物について着想を提供したにすぎないのであるから,本件発明Rに関して,原告が実質的に単独に近い発明者間寄与率であるとすることは到底容認し得るものではない。
特許法にいう発明は,単なる着想のみでは足りず,その着想が具体化されたものでなればならないことはいうまでもないのであるから,仮に原告が本件発明Rのごく一部についての着想を〈P5〉室長に提示した事実があったと仮定しても,その具体化に当たっては〈P5〉室長及び同室長の同僚研究者( P10〈P12〈P2〈P1 〈〉,〉,〉,〉 , 1 )と相協力して共同する必要性があったものである。したがって本件発明Rは,原告が実質的に単独に近い形でしたものではなく,〈P5〉室長及び同室長の同僚研究者と共同してしたものと認めるのが相当である。
そして,前述したとおり,原告が提供したという着想と,本件発明Rとの乖離が著しく,到底原告が提供した着想とは認められない事実関係にあることに徴すれば,本件発明Rにおける原告の発明者間寄与率は,多くとも6名の共同発明者均等寄与率(6分の1)である0.167を超えないと認めるのが相当というべきである。
(エ)FSMフィルムの対価額について原告は,FSMフィルムには本件発明Kが関与すると主張する。しかしながら,既に主張したとおり,被告は本件発明Kを実施していないのであるから,本件発明Kに基づく対価額の算定をFSMフィルムの実施に依拠する原告主張は,前提を誤っており失当である。
(オ)積層容器の対価額について原告は,積層容器には本件発明I及び材料にはMSM樹脂が使用されているので本件発明Eが関与すると主張しながら,積層容器についての対価請求の根拠とする発明は,本件発明Eのみであるとしている。
しかしながら,被告はMSM樹脂を用いた積層成形容器を事業実施していないから,原告の本件発明Eに基づく対価額の算定根拠は,前提からして失当である。
(カ)ダイナックについて争う。
2争点(2) 補償金請求 について ()【原告の主張】前記1において主張した特許法35条4項職務発明対価請求と同額の補償金請求が認められるべきである(本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定第5条 。)【被告の主張】争う。
3争点(3)(被告による不当利得の有無)について【原告の主張】被告は,ONyフィルムに係る本件特許権J,L,NないしSと[V]発明及び[Y]発明に係る特許権も同様に取得した。これら特許権10件は,いずれもブレンドによるONyフィルムの製造方法に関するものであって,いずれを用いても同等の品質,価格のONyフィルムを製造することができる。したがって,これら10件の特許権は一体となるものであって,1つが欠けても他社にブレンド方式のONyフィルムへの参入の機会を与えることになる。換言すると,上記各特許権は,被告の利益に対して相互に同等の地位を有するものである。その結果,被告は莫大な利益を得た。被告は,原告に出願時奨励金及び登録奨励金を与えたが,上記利益はこれら奨励金によって償われる程度をはるかに超える額である。仮に,原告のONyフィルムに関する各主張が認められないとしても,訴状に添付した売上計算書に見られる被告の莫大な利益を全額被告に帰属させることは公平の観点からみて不当である。よって,被告の利益の一部は原告に返還されるべきである。
その他の本件発明についても,被告は現実に実施していたか,被告の業績に利用していたのであるから,被告の売上げの一部は原告に還元されるべきである。
【被告の主張】原告の不当利得の主張は,要件事実を踏まえた主張になっていない。被告が仮にONyフィルム等の販売に関し,本件各特許権の排他的効力によって超過的利益を得ていることがあると仮定しても,それは特許を受ける権利承継という法律上正当な原因に基づくものであるから,決して不当利得ではない。
4争点(4)(原告に対する不法行為の成否及び損害額)について【原告の主張】。 (1)評価対象となるべき特許が,被告の都合により一方的に切り捨てられたすなわち,被告が提出した乙17通知の趣旨によれば,被告は,特許表彰規定の実施に当たり,被告保有の全特許を出願公告年に応じて3グループ(選考対象特許群A,B,C)に分割し,それぞれ下記の回数に表彰対象とする。
選考対象特許群A:昭和52年,同55年,同58年,同61年,平成元年選考対象特許群B:昭和53年,同56年,同59年,同62年,平成2年選考対象特許群C:昭和54年,同57年,同60年,同63年,平成3年本件特許取扱規定第10条とその細則である特許表彰規定が平成4年に制定されることによって,被告の保有するすべての特許権に係る発明者は,平成元年度から平成3年度までの実績に対する表彰対象としての評価を受ける権利を有していたことになる。しかしながら,被告の運用によると,平成5年度の表彰対象となった特許は,平成元年度の実績が切り捨てられたことになり,平成6年度の表彰対象となった特許は,平成元年と同2年度の実績が切り捨てられたことになる。さらに,第3回の評価日を平成6年10月15日とすると,昭和54年に出願公告のあった特許権であって平成6年10月14日に存続期間が満了した特許権は,平成元年から平成6年の評価日の前日まで5年と364日分の実績が無視されるが,被告はこのような不合理に対して,従業員から不服請求ができる等の何らの対策を講じてこなかった。
原告は,乙17通知の存在及び本件特許取扱規定の具体的な運用内容を本件訴訟提起後に知った。本件各特許権について,原告が本件特許取扱規定及び特許表彰規定の適用を受けなかったことにより,原告は平成元年度以降,対価請求額に相当する損害を被った。
原告は,乙第18号証及び同第35号証の社報の配布を受けていない。乙17通知は社内文書であり,原告はそれを受け取る立場になかったので,その存在及び内容を知るよしもない。原告が本件訴訟の提起を思い立ったのは,発光ダイオードに関する職務発明対価請求事件の東京高等裁判所の判決があった後の平成15年末であり,それまでは仮に社報や本件特許取扱規定等を入手したとしても発明表彰がどのような形で実施されようと関心はなかった。
(2)評価基準に関しても不公平な取扱いがなされている。
ア被告は,平成6年の第3回特許表彰において [Y]発明を表彰の対象 ,にしているが,同発明はナイロン6にSM樹脂を所定量ブレンドすること及び延伸速度を制御することのみを技術的範囲とするものであり,SM樹脂以外のナイロン6の結晶化を遅らせる物質が含まれていない。したがって,ブレンド成分としてSM樹脂以外の物質にも配慮した本件特許J,L,NないしSが対象になるべきであった。
さらに,被告が実施していると認める本件特許Mは,FSMフィルムに関する基本特許であり,売上げは年間数億円程度あるにもかかわらず,第2回の表彰の対象となるべきであるが,取り上げられていない。
また,原告の基準に照らせば,第1回表彰では,本件特許G,K,L,NないしRが,第2回表彰では本件特許D,E,I,J,M,Sが,第4回表彰では本件特許L,NないしRが,第5回表彰では本件特許J,Sがそれぞれ表彰されるべきであったのに,表彰の対象となっていない。被告も実施を認める本件特許EはMSM樹脂に関する発明であり,平成2年4月1日から平成5年3月31日は特許権が存続し,年数億円の売上げを挙げているのであるから,表彰の対象となるべきであった。
一方,第5回と第8回の表彰の対象特許は [W]発明@及び[W]発 ,明Aに係る特許である。しかし,原告のした基本特許は,これら各特許のような小改良とは比べものにならない重要かつ世界的にも画期的な技術であるSM樹脂の工業生産技術や,そのフィルムとしての欠陥を改良したMSM樹脂の製造技術,さらにはONyフィルム製造におけるブレンド材料に関する技術であり,これらの技術がなければ現在の被告のONyフィルム事業が成り立たないほど重要な技術である。これらの発明の評価をしないで,上記各発明を評価の対象とする被告の運用は恣意的である。さらに,感光性樹脂凸版印刷材「プリンタイト」に関する特許(特公昭52-36042,特公昭52-39287,特公昭53-324,特公昭53-2084,特公昭53-21851,特公昭54-22229,特公昭56-25660,特公昭58-47700,特公昭60-21374等)も表彰の対象となったが 「プリンタイト」の被告における経常利益は年間 ,10億円であるのに対し,ONyフィルムの年間経常利益は50億円に達するのに,その基本技術の発明者(原告)が一度も表彰対象になっていないのは,研究者に対する差別であって,被告による不法行為に当たる。
イその他,被告は,スパンボンド(SB)関連の特許を特許表彰規定に基づく表彰の対象としているが,数年前のSB事業全体の売上高は約60億円といわれており,原告が起こしたSM樹脂関連のONyフィルムを含む包材容器事業の約2分の1である。
ウホットメルト接着剤「ダイナック」の研究開発に関する原告の業績も放置されている。
被告の関係会社であるクレハセンイ株式会社(現在の商号は,呉羽テック株式会社)のヒット商品たるホットメルト接着剤「ダイナック」は,原告の着想により昭和47年から同48年にかけて出願された本件A発明ないし本件G発明に関連する商品であり,平成5年度の同商品の売上高は約14億円,売上累積額は約80億円になったと予想される。
しかし,これら7件の特許発明は,発明改善の提案も特許表彰制度の取扱いも顧みられず放置されてきた。これは研究者に対して不公平であり不法行為に該当する。
エまた,本件発明@ないしE,I,K,Mの被告の業績に対する貢献を考慮すれば,今までに一度も発明改善の対象にも特許表彰の対象にもなっていないのは片手落ちであり不法行為に当たる。
オ原告のした本件各発明とその周辺技術の関係は,別紙技術フェーズのとおりであり,SM重合(T ,MSM製造(U)は素材であり,この有無 )が事業の存否を決する基幹技術である。FSMハイバリヤフィルム(V)は,T及びUができて世界初新商品を生み新事業開始のきっかけとなった。
本件発明J及び同R(W)は,T,U及びVがなければなく,その成果もTないしVを切り離して論じられない [Y]発明(Z)も本質的に本件 。
発明J及び同R(W)と同じで[V]発明(Y)から派生し,T及びUがあってできた。この別紙技術フェーズに基づいて,特許表彰制度の運用の問題点をまとめると,以下のとおりである。
(ア)素材の開発研究に対する公正な評価の欠如素材の開発は企業の根幹となる技術であり,FSMフィルム,ONyフィルム,PETボトルでのバリヤ材料については,材料がなければ商品はなく,企業にとっては産業の米に相当する重要な要件である。しかしながら,発明を実施している実施部署では素材に関する基本特許の公平な評価は難しく,重視しない傾向があるため,被告社内では,SM重合やMSM製造(別紙技術フェーズT及びU)といった素材の研究開発に対する評価はなされていない。
(イ)評価の難易による不公明性材料の開発や困難な技術の開発では,製品化されて効果を生むには時間がかかり,著しい効果を出しても有効期間が短いので評価されにくい。
現在の被告の評価システムではコロナ放電技術のような加工工程での生産性や品質向上,コスト低減など効果の評価がしやすい部分のみを取り上げる傾向となる。どこまで技術を深く掘り下げるかの目安もないし,特に評価時登録されていることの要件は公明さを欠いている。つまり,別紙技術フェーズ(T,U)対(Y,Z :U対W:W対[のうち,安 )易なほうのみ取り上げている。
(ウ)実施部署による不公平性ダイナックのように,実施されている特許発明であっても社内に実施事業部がなかったり,実施部署があってもその実施部署が積極的に取り上げなければ評価されることがない。いずれの特許発明を取り上げ,どの程度正確に報告書を作成するかはその部署の考え方に左右される。このような実施部署の取組みに対する不公平がある。
別紙技術フェーズによれば,被告は,別紙技術フェーズY,Z,[及び\は取り上げているがV及びWは実施していても取り上げていない。
(エ)評価委員会の不公平さ特許表彰規定における評価委員会は,実施部署の管理部長,技術部の管理部長,総合研究所の管理部長と特許部長とからなる。実施部署の報告書を基に協議するとしたら,実施部署による特許発明の評価の客観性などのチェックができる機能はあるのか,極めて疑問である。事実,ONyフィルムの評価で[Y]発明が「他社のONyフィルム市場への参入を防止した」として評価された結果を見ても明らかなように,実施部署の考え方のみで決まるので,公正さを保つ役割をせず不公正である。
つまり,別紙技術フェーズによれば,別紙技術フェーズV,W及びXは顧みずZ及び[のみを評価する結果になっている。
(オ)特許部の不公明性特許部長が最終的に実施部署の報告書を基に特許発明を公正に評価し,表彰対象とするか,どの特許表彰の対象とするかの結論を下すことになっているが,実施部署が素材の評価抜きの結果しか出していない場合にチェックは可能なのか極めて疑問であり,結論は公明性を欠くおそれがある。別紙技術フェーズT及びUが取り上げられていないのは,その現れである。
カ原告は,上記各特許に関連する業績のみならず,被告において数々の研究活動による業績を残した。例えば,SM樹脂のゲル化防止技術とSM樹脂生産技術などである。原告の発明は,これらの研究活動に裏付けされるものであって,原告主張の各発明が正しく評価されていないということは,原告の被告における研究活動自体を否定することになる。
(3)研究所の出向者,退職研究者に対する差別として,以下のものがある。
まず,出向者は,社長賞の対象外とされている事実がある。例としてONyフィルムの基礎研究で大いに功績のあった堅田研究所の元フィルム研究室長の〈P5〉氏は,社長賞候補に挙がった昭和55年当時,被告の系列会社である東洋化成株式会社に出向しており,対象から外され協力者にも加わっていない。
その前のONyフィルムの発明改善表彰においても 〈P5〉氏は表彰当,時(昭和55年)東洋化成株式会社に出向しており,資格がないといわれ対象から外されたので,以前一緒にSMフィルムの研究に従事した研究所在職の〈P26〉氏を〈P5〉氏の代わりに加えてもらったと本人から聞いた。
しかし〈P26〉氏は,ONyフィルムの開発当時(昭和50,51年)は労働組合の事務局専任であったので研究に従事することはなかったにもかかわらず加えられた経緯がある。
原告も,本件発明J及び同Rの実施の報奨はもちろん,本件発明L,NないしQ,SによるブレンドによるONyフィルム製造で被告の優位性確保に貢献したにもかかわらず表彰の対象にならなかったばかりか,旧特許取扱規定に基づく奨励金の支給に関しても,原告が最後に登録時奨励金の支給を受けたのは昭和60年10月8日の本件発明L(登録日・昭和59年8月31日)と本件発明M(登録日・昭和59年10月17日)に対してであり,本件発明NないしSの登録時奨励金の支給はなかった。このように,原告は,昭和60年以降退職者として除外され,奨励金の支払はなされていない状態である。これは研究所で基礎研究をし,基盤技術を構築した退職研究者に対する明らかな差別であり,不法行為である。
原告は,平成元年9月,昭和51年以降に出願した本件特許権J,NないしS等の特許登録状況を被告の特許部に問い合わせて,同部管理の特許登録記録を入手したところ,特許登録記録と出願時の願書に記載された発明者順位とは変わっていた。本件特許権Lを例に挙げると,公告公報では原告,〈P5〈P10〈P12〈P2〈P11〉の順になっているのに, 〉,〉,〉,〉,特許登録記録では〈P10〈P12〈P2 ,原告 〈P5〈P1 〉,〉,〉,〉,1〉の順になっている。
担当者によると,数年前から退職者や出向者を在職者より順位を下げ別管理をしているとのことであったが,その別管理の取扱いは登録奨励金を中止したことと関連しているように思われる。
これは明らかに退職研究者を差別していることになるが,同じ考え方が特許表彰制度の運営においても行われる可能性があり,その不公平の原因は特許表彰制度運営の事務局に既に存在していたことになる。
(4)損害そして,表彰を受けるべき特許発明について,原告が本件特許取扱規定及び特許表彰規定の適用を受けなかったことにより,原告は平成元年度以降の被告売上げに対して実施料率,独占実施における特許権の寄与率,複数発明者間の原告寄与率を掛け合わせた額,すなわち別表3及び別表4記載の損害(それぞれ17億1680万円及び26億1230万円)を被った。
【被告の主張】(1)原告は,本件特許取扱規定及び特許表彰規定の制定及び運用につき,被告の運用方法が不合理であると主張する。
アしかし,特許表彰規定によれば,表彰対象特許は同規定第4条Bにより「選考前3年間の業績への寄与が一定以上であること」という要件を満足する特許の中から選考されると定められ,その選考方法については同規定第5条に「特許登録から3年毎に過去3年間の特許の業績への寄与を評価し,業績への寄与の大きいものを表彰特許として選考する 」と定められ。
ている。このように,特許表彰規定の定めによれば,該規定の運用いかんにかかわらず,常に「選考前3年間の業績への寄与」のみが評価されるにすぎない。そのことによって,一部の実績が切り捨てられるとしても,このことは被告の特許表彰規定の定めそのものであって,被告による同規定の運用方法が悪いからではない。また,上記のごとく表彰対象特許の選考方法を定めることは,特許表彰規定として何ら不合理なものではないから,原告の指摘は理由がない。
原告は,昭和54年に出願公告のあった特許であって平成6年10月14日に存続期間が満了した特許につき5年と364日の実績が無視されることになると主張するが,原告の発明に係る特許において,昭和54年に出願公告がなされ,平成6年10月の選考会における選考対象となる特許は1件もなく,原告自身がかかる不利益を被っているわけではないから,本件訴訟の請求原因の主張としては主張自体失当である。
イなお,原告は,乙17通知の存在及び被告の本件特許取扱規定の具体的な運用基準の内容を,本件訴訟提起の後に知ったと主張するが,以下の事情によれば,事実であるか疑わしいものである。
原告は,平成4年10月1日から少なくとも1か年,被告の総合研究所内でナイロンフィルムの品質改良に関するプロジェクト(以下「NRプロジェクト」という )の要員として技術指導に携わっていたが(乙29参 。
照 ,被告の総合研究所では,在籍・勤務する全員を対象に社報を配布す )るシステムを採っており,この配布システムは昭和57年当初から今日まで変更されていない。被告の乙第35号証及び同第18号証の社報は,いずれも原告が技術指導を行っていた期間中に発行されており,原告はこの期間内にこれら社報の配布を受け,本件特許取扱規定及び特許表彰規定の制定並びにその運用基準の内容を知っていた蓋然性が極めて高い。
また,原告が提出した甲第1号証の1ないし3によれば,原告は,NRプロジェクト発足当時,同プロジェクトリーダーであった〈P24〉室長宛てに送付された甲第1号証の1ないし3の各写しを上記技術指導期間内に入手したものと推察される。また,原告は,上記技術指導期間中,被告の総合研究所の図書室への出入り及び図書の閲覧を自由に許されていた。
同図書室の書架には社報が揃っており,原告にはいつでも上記各社報を同図書室で閲覧する機会はあった。
しかも,特許表彰規定は,被告の就業規則の一部をなす本件特許取扱規定(甲1の2)第10条の細則として定められた規定であり,被告は,これを従業者でない退職者にまで周知徹底しなければならない義務を負うものではない。乙17通知も,被告の特許表彰規定(甲1の3)の運用に関する通知であるから,被告は,就業規則や特許表彰規定の内容と同じく,従業員でない退職者にまで周知徹底しなければならない義務はない。
以上のように,そもそも乙17通知を退職者に対して周知しなかったことについて被告に落ち度はなく,退職者にまで周知するか否かは被告の裁量の範囲内にあるというべきである。したがって,被告には原告が主張するような不法行為(特許表彰規定の恣意的運用)は存在しない。さらに,退職者は,乙17通知に拘束されずに,従業員に対する運用とは異なった原告独自の解釈に基づく運用がなされるべきであるという原告の主張は,何ら根拠がない。
(2)原告は,特許表彰規定に基づく特許表彰の評価基準に関して不公平な取扱いがなされていると主張する。
アまず,原告は [Y]発明が表彰対象とされていることを指摘するが, ,[Y]発明は被告のONyフィルムに関する基本特許の一つである。
[Y]発明に係る特許権が,被告のONyフィルムと同じ「SM樹脂とナイロン6との混合溶融物からなる逐次二軸延伸ポリアミドフィルム」に関し他社の事業参入を困難にしてきたことは明らかである。
これに対し,原告の発明に係る本件特許権J,L,NないしSが他社参入を困難にし,業績向上に寄与した事実は存在しない。現に,これらの特許権が消滅して既に8年以上が経過する今日に至るも,第三者はこれらの特許発明に係るブレンド方式による逐次二軸延伸ナイロンフィルムを事業実施していない。
また,本件特許Mについては,確かに第2回特許表彰の選考対象特許ではあったが 「選考前3年間の業績への寄与が一定以上であること」とい ,う特許表彰の資格要件(特許表彰規定第4条B)を満たしていなかった。
すなわち,本件特許Mの発明に係る商品「MSM延伸フィルム (MSM」樹脂単体から逐次二軸延伸の方法で生産されるポリアミドフィルム。品名「N3100 (旧品名「N1501)は,経常利益がほとんどない商 」」)品であって,被告の業績に対する寄与に乏しいものであった。それゆえ,被告は,遅くとも平成16年12月末にこの商品に関する事業から実質的に撤退している。このように,本件特許Mは,特許表彰規定に定める被告の業績への寄与についての資格要件を満たしていなかったのであるから,特許表彰を受けられなかったとしてもやむを得ない。
また,原告が表彰対象となった特許と比較する特許と推察される本件特許@に係るSM樹脂のゲル化防止に関する特許権は,被告の特許表彰規定が制定された平成4年11月1日より前の平成3年7月23日に存続期間満了により消滅しており,同規定による特許表彰の適用対象にはなり得なかった。MSM樹脂の製造技術に関する本件特許D,E及びMは,MSM延伸フィルム用の原料樹脂に係る発明であるから,その業績への評価は,「MSM延伸フィルム」の評価によるものであり,特許表彰の資格要件( 選考前3年間の業績への評価が一定以上であること )を満たさない。 「 」「ONyフィルム製造におけるブレンド成分に関する技術」に関する本件特許J,L,NないしSは,被告がONyフィルム製造において使用しているブレンド成分とは別異のブレンド成分を用いる発明であり,被告はこれらの特許を一度も事業実施したことはない。
イ特許表彰制度の運用上,不都合な点はない。
(ア)素材の開発研究に対する公正な評価原告は,被告が素材の開発研究者を不公正扱いする企業体質であるなどと根拠もない非難をしているが,研究者には,発明改善提案,特許表彰,学会発表,博士号取得,海外留学等々の種々のチャンスが与えられているのに対し,工場現場技術者及び営業事務職の従業者等は,業務の性質上,実質的に発明改善提案のチャンスのみが与えられているというに等しい立場にあり,研究者のみが不公正扱いされているなどということは全くない。
原告は 「逐次二軸延伸によるONyフィルムの開発」に関する発明 ,改善提案において「社長賞」を 「ナイロン連続重合法の改善」に関す ,る発明改善提案において「乙種B等」を受賞しており,さらに,被告に在職中,被告における研究成果に係る学会発表に基づき博士号を取得する便宜も与えられた。
その上原告は,被告を退職後,2度ならず3度までも,破格の待遇で嘱託社員等として被告に優遇再雇用されている。被告を退職後,被告に再三再雇用された研究者は他に例をみないのであって,かかる厚遇を受けておきながら,被告が退職研究者を差別扱いしていると非難するのは失当である。
(イ)評価の難易による公明性原告は 「評価時登録されていること」という被告の特許表彰の資格 ,要件は,材料開発など製品化に時間がかかる発明に対する評価において公明さを欠くと主張する。
特許権による排他効が,特許登録によって発生することは特許法上自明であるから,特許権の排他効に係る特許法35条3項職務発明対価の評価において 「評価時登録されていること」という要件を規定す ,ることは,極めて当然のことである。この要件は,発明の製品化に時間がかかる,かからないに関係なく妥当するものである。
被告の特許表彰制度は,権利が存続しているすべての特許権を対象とし,評価対象となる発明個々について,会社の業績に対する寄与の程度を一定の計算式に基づいて評価するものである。したがって,公明さを欠くようなものでは全くなく,原告の非難は当たらない。
(ウ)実施部署による公平性原告は,実施部署による評価では公平性が保てないなどと非難している。
しかし,発明の実施効果の有無・程度について第一次評価のできる部署は,実施部署をおいて他に存在しないことは極めて明瞭である。したがって,発明の実施効果の有無・程度の第一次評価(基礎データ)を,実施部署から提出してもらうシステムを採用することに何ら不公平など存しないことは明らかである。
なお 「ダイナック」に関しては,既述のとおり,使用するポリアミ ,ド組成物が,原告の主張する特許に係るポリアミド組成物とは全く権利抵触関係がないから,これを実施していないことは,実施部署による評価の公平性を云々する以前の問題であり,非難されるいわれはない。
(エ)評価委員会の公平性原告は,特許表彰規定に基づく評価委員会の構成員は,実施部署の評価の客観性をチェックできる機能があるのか疑問であるなどと述べ,ONyフィルムの評価で[Y]発明が「他社のONyフィルム市場への参入を防止した」として評価されたことを不公正の例であるとして挙げている。
[Y]発明は,SM樹脂をブレンド成分として逐次二軸延伸ポリアミドフィルムを製造する被告の「ハーデンフィルム (一般品のONyフ」ィルム)をカバーする基本特許である。したがって [Y]発明は,他,社が,SM樹脂をブレンド成分として逐次二軸延伸ポリアミドフィルムを製造する事業実施行為(すなわち,被告のONyフィルムへの参入)を防止していることは明らかである。
原告は,SM樹脂以外の物質がブレンドされた場合には[Y]発明は権利が及ばないから [Y]発明が「他社のONyフィルム市場への参 ,入を防止した」と評価することは不公正であり,原告が防衛特許網と主張する本件発明J及び同R等を評価に入れて初めて公正な評価になるかのごとく主張するようである。
しかし [Y]発明の評価時点においては,既にブレンドによる逐次 ,二軸延伸ポリアミドフィルムの製造に関して自由技術が存在していたから(甲19 ,原告が防衛特許網と主張する特許は 「他社のONyフィ ) ,ルム市場への参入防止」に対して何ら防止効を有していなかったことは明らかである。
このように,原告が防衛特許網と主張する特許を「他社のONyフィルム市場への参入防止効」として評価しなければ不公正であるという原告の主張が失当であることは明らかである。
(オ)特許部の公明性原告は,実施部署が素材の評価抜きの結果しか出していない場合に,特許部長が実施部署の報告書を基にこれをチェックし,公正に評価して結論を下せるのか疑問であり,公明性を欠くおそれがあるなどと主張する。
しかし,実施部署が素材の評価抜きの結果しか出さないなどということはおよそあり得ず,被告には素材の評価を抜いて評価する手法すら想像できないものである。
(3)ホットメルト接着剤「ダイナック」の研究開発について呉羽テックの「ダイナック」の組成が原告が掲げた7件の特許発明のいずれとも関係がない(いずれの発明の技術的範囲にも属さない)ことは,既に述べたとおりである。
したがって,原告の主張する上記不法行為論は成り立たない。
また,上記7件の特許に関する対価請求権は,仮にその特許発明実施されていたとしても,原告が本件訴訟を提起する前に消滅時効期間が経過していることは,後述のとおりである。
したがって,上記各特許についての特許を受ける権利承継による対価請求権は,時効によりその起算点(遅くとも昭和54年10月20日)に遡って消滅している。
よって,上記各特許についての評価に関し原告が主張するような不法行為の成立する余地はない。
(4)その他の主張についてその他,原告は,SM樹脂製造技術の研究開発(本件発明@ないしE,I,K及びM)につき,一度も発明改善の対象にも特許表彰の対象にもなっていないのは片手落ちであり,不法行為に当たると主張している。しかし,被告の本件特許取扱規定第10条に基づく表彰制度の運用は適切になされていたことは,既に主張したとおりであり,被告には,原告の主張するような不法行為は存在しない。
また,原告は,本件特許L,NないしQで,その後同J,R及びSを追加して構築されたONyフィルムの特許の防衛網が,実施している特許と等価の価値を有することになるのに,被告がこのような観点から一度も特許表彰対象として取り上げなかったことは不法行為に該当すると主張している。
しかし,不実施周辺特許による特許実施事業の防衛網の構築が事業実施している特許と等価値であるということはあり得ない。
不実施周辺特許の寄与度に対する評価額としては,わが国の事業実施主要企業の特許(職務発明)取扱規定で一般的に定められる特許を受ける権利承継に基づく対価請求権のうちの,出願時奨励金及び登録時奨励金の金額がおおむね妥当なものというべきである。
したがって,原告が上記の本件特許J,L及びNないしSの被告ONyフィルム事業に対する寄与が,既に受領済みの出願時奨励金と登録時奨励金の合計額を超えると主張するのであれば,その不足額を原告において主張・立証する責任がある。その不足額の存在が証明されて初めて,正当な評価を怠ったことを理由とする被告の不法行為責任の有無が論じられるにすぎない。
加えて,原告は,原告主張の各特許が正しく評価されないということは,原告の被告における研究活動自体を否定することになる,と主張している。
しかし,このような原告主張は,特許( ノウハウ」を含む。本項におい 「て以下同じ )による独占的実施の存在を前提として特許法35条が職務発 。
明についての対価請求権を定めていることを看過した,本末転倒の議論である。特許に関係しない研究活動は,研究職たる従業員にとって労働契約上,給与と対価関係にある基本的職務であるから,その対価は当該研究者の給与に含まれているのである。
よって,被告は,原告の特許に関係しない研究活動についての主張に対しては,あえて反論しない。
(5)出向研究者,退職研究者に対する差別について原告は,退職者や出向者も不公平な扱いを受けているとして,ONyフィルムの基礎研究で功績のあった元フィルム研究室長の〈P5〉氏が,出向していたがために社長賞の対象外とされたなどと主張している。しかしながら,被告には出向者を社長賞の対象外とする社内規定は存在しない。誰を社長賞の対象者とするかは,対象技術の開発に対する貢献度を基準とし,関係諸部署の長の推薦に基づき,発明改善審査等所轄の選考委員会において決定される仕組みになっている 〈P5〉氏は,研究室長という研究全般をみる一般 。
管理者という立場にあったために,研究実務に関与した研究者に比べて対象技術の開発に対する貢献度が低いと判断されたために受賞対象者にならなかったと推察され,出向者であったこととは関係しない。
また原告は,旧特許取扱規定の下で,原告が最後に登録時奨励金の支給を受けたのは,昭和60年10月8日,本件特許Lと本件特許Mに対してであったと主張し,それ以降(本件特許NないしS)の登録時報奨はなかったと主張している。原告が,本件特許L及び同Mに対して登録時報奨を受けた昭和60年10月8日というのは,原告が被告を退職した昭和59年6月より1年以上後である。したがって,この一事のみをもってしても,被告が退職者に対して登録時奨励金の支払に関して不利な取扱いをしていないことが窺知できるのである。なお,特許N及びSに対しては,登録時奨励金は支払われていないが,これは,特許N及びSが登録された昭和63年6月8日及び同年3月24日より前の昭和63年1月1日に被告の旧特許取扱規定が改定されて新たな特許取扱規定(乙9)が制定・施行され,登録時奨励金の増額に伴って 「 工業所有権として)登録されたものであって,商業的に実施さ ,(れている工業所有権については登録奨励金を交付し ・・・」との規定(第 ,9条)が導入されたことによる。本件特許N及びSは,この新たな特許取扱規定(乙9)の適用対象であり,かつ当該特許が商業的に実施されていないために登録時奨励金を受ける資格要件を欠き,登録時奨励金は支払われなかったのである。
このように,被告は,上記各特許取扱規定の定めにしたがって,支払うべき特許に関しては,規定どおり登録時奨励金を支払っており,登録時奨励金の支払を恣意的に中止したことはない。
なお,原告は,被告の特許部が管理する特許登録記録(甲46)の発明者の記載順位が,出願時の願書に記載された発明者順位と変わっていることをもって,退職研究者差別の発端であるかのように非難する。しかし,この原告の主張は事実無根であり,失当である。
被告は,昭和60年にコンピュータ特許管理システム(以下「PAS1」という )を導入し,特許管理システムを従来の台帳管理からコンピュータ 。
管理に移行した。その際,被告の出願及び保有する全特許について,出願番号,特許番号,発明者,発明の名称,その他種々の管理項目についてPAS1にデータ入力( 登録」と同義,以下同じ )する作業が必要であった。発 「 。
明者の入力は,発明者名を直接入力する方式ではなく,被告人事部所管の「社員コード」を利用して能率的に行う方式を採用した。当時,被告では,退職者の社員コードが新入社員に対して再使用される場合もあったので,重複混乱を避けるために,退職発明者に対しては,人事部所管の社員コード(在職当時の社員コード)をそのまま使わずに,別途,PAS1登録専用のアルファベットの「Z」を付与した「退職者コード」を作成し,PAS1へ登録した。退職発明者に対してはこのような特別の「退職者コード」の作成及び同コードの入力作業を余儀なくされたため,在職発明者及び出向発明者が時期的に早くPAS1へ入力され,退職発明者のPAS1への入力が後にまわることが生じた。このような次第で,特許庁が発行する特許公報の発明者の順番とは前後してPAS1へ登録される場合が生じたのである。原告が例示した本件特許Lの公告公報記載の発明者の順番と甲第46号証の発明者の順番が異なっているは,このケースに該当したためである。しかし,被告は,登録時奨励金の支払や特許表彰の評価を,特許庁の発行する特許公報で最終確認して実施しているので,PAS1への入力順位によって退職者が在職者と比べて差別して取り扱われるようなことは一切ない。
(6)小括以上のとおり,被告は特許表彰規定を公平に適用して評価した結果,原告の発明に係る特許はいずれも同規定の要件を満たさなかったり,表彰に値する一定以上の評価が得られなかったために表彰の対象とならなかったものである。
ちなみに,原告は,被告を退職後も有限会社Xテクノリサーチを設立し,同社の代表取締役としての立場において平成4年10月1日から少なくとも1年間,被告の総合研究所内でナイロンフィルムの品質改良に関するプロジェクトの要員として技術指導に携わっていた。被告は,退職後の原告をナイロンフィルムの品質改良技術指導者として当時としては破格の待遇(技術指導料:500万円〔毎週2日×1年間 )で,特別に処遇している。このこ 〕とから容易に理解できるように,被告は,原告の研究者としての力量を十分に評価しており,原告を他の研究者と差別したり,不公正に取り扱ったりしたことはない。
5争点(5)(争点(1),(2)につき,消滅時効の成否)について【被告の主張】(1)被告が自社実施したことのある(ただし,第三者に実施許諾したことはない )本件発明@,D,E,M(以下,総称して「第1群発明」という 。
ことがある )について。
特許を受ける権利承継による対価請求権の実績補償に係る部分について被告の実質的な実績補償制度に関する「特許取扱規定 (乙8,9)の」条項,並びに各「発明改善審査手続要領 (乙10,11)及び「開発表 」彰規定 (乙13)の各条項によれば,実績補償は,発明の実施後,その 」効果を検討した上で奨励金(褒賞金)を支給するものと規定するにとどまっており,一義的に明確な支払回数や支払時期についての定めはなかった。
職務発明についての特許を受ける権利を使用者に承継させた場合,対価請求権は承継の時に発生し,特許法35条4項の定める「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,客観的に見込まれる利益の額をいうものであるから,対価請求権の発生時において算定可能なものであり,対価請求権の発生時に対価の額も定まるものである。
したがって,上記のごとく支払時期について別段の定めもなかった被告の「実施効果」の申請に基づく奨励金(実質上の実績補償)の支払時期は,特許権の登録後,被告が発明を実施したときに到来するものと解するのが相当である(同旨:大阪地方裁判所平成15年11月27日判決・平成14年(ワ)第5323号事件。最高裁判所ホームページ 。)以下,本件各特許(18件)について検討すると,本件各特許は,昭和52年3月19日から昭和63年6月8日までの間に順次登録され,このうち本件特許@は昭和52年3月19日に,本件特許D及び同Eはいずれも昭和54年5月25日に,また本件特許Mは昭和59年10月17日に登録されている。他方,被告が本件特許@の実施品であるT601レジン(MSM樹脂)又はT600レジン(SM樹脂)を原料とするONyフィルムの生産を開始したのは昭和51年(1976年)8月であり,また,本件特許@,本件特許D及び本件特許Eの実施品であるT601レジンを原料とする,本件特許Mの実施品であるFSMフィルム(MSM延伸フィルム)の生産を開始したのは,昭和49年(1974年)である。
このように見てくると,原告が本件訴訟において相当の対価請求の算定対象としている本件各特許のうち,少なくとも被告が実施した4件の発明,すなわち,本件発明@,D,E及びMそれぞれの特許を受ける権利承継による対価請求権の実績補償に係る部分については,本件発明@の分は,特許権が昭和52年3月19日に設定登録されたことによって,本件発明D及び同Eの分は,これらの特許権がいずれも昭和54年5月25日に設定登録されたことによって,また本件発明Mの分は,特許権が昭和59年10月17日に設定登録されたことによって,それぞれ原告においてその権利を行使することができる状態になったというべきである。
したがって,本件発明@についての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和52年3月20日であるというべきであるから,原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間(10年)が経過していることは明らかである。また,本件発明D及び同Eについての対価請求権も,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和54年5月26日であるというべきであるから,原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。さらに,本件発明Mについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和59年10月18日であるというべきであるから,原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。よって,第1群発明(すなわち,本件発明@,D,E及びMの4件)に属する個々の発明についての特許を受ける権利承継による被告社内規定に基づく対価請求権の実績補償に係る部分は,いずれも時効によって消滅している。
なお,原告は,本件特許取扱規定第10条(業績への寄与の顕著な特許に対する表彰)に基づく奨励金の支払も選択的に請求しており,この場合は明らかに支払回数,支払時期の定めはあったと主張する。しかしながら,本件特許取扱規定は平成4年11月1日から施行された規定であるのに対し,本件特許権@は上記施行日の前である平成3年7月23日をもって既に存続期間が満了し,権利消滅しているからそもそも同規定の適用はない。
また,本件特許D,E及びMに関する消滅時効の効果は,消滅時効の起算点(これら各特許の特許登録時)に遡って同各特許についての対価請求権を消滅させるものであるから,既に旧特許取扱規定(昭和46年1月1日施行,同62年12月31日廃止 )に基づき上記各特許についての特許 。
を受ける権利の承継が行われ,同規定の有効期間中に対価請求権の行使が可能となることにより上記起算点から進行した消滅時効時効期間(10年)が満了し,その消滅時効を被告が援用して上記時点まで遡及して権利消滅の効果が生じる以上は,平成4年11月1日から施行された本件特許取扱規定の存在や規定内容などは何ら問題となり得るものではない。
イ選択的に併合されている対価請求権について対価請求権については,消滅時効はその行使をすることができる時,すなわち承継の時から進行する。本件訴訟のように原告が勤務規則等の被告社内規定に基づく対価請求権とは別に,特許法35条3項に基づく対価請求権をも併合請求している場合における特許法35条3項に基づく対価請求権は,支払時期等につき勤務規則その他の社内規定がない場合と同様,承継の時に行使し得るから,その消滅時効は,その行使をすることができる時,すなわち承継の時から進行する。とすると,個々の特許に関して,対価請求権を行使することができる時(承継の時)は,遅くとも当該特許の出願日であるので,第1群発明に属する発明に関する対価請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも本件発明@については昭和47年8月20日,本件発明Dについては昭和48年2月7日,本件発明Eについては昭和49年5月15日,本件発明Mについては昭和49年5月9日であるというべきであるから,いずれも本件訴訟提起前に消滅時効時効期間が経過している。
, (2)被告が自社で事業実施も第三者に実施許諾もしたことがない本件発明AB,C,G,IないしL,NないしSの14件の発明(以下,総称して「第2群発明」ということがある )について。
特許を受ける権利承継による対価請求権の実績補償に係る部分について第2群発明については,特許表彰規定の対象となるとしても,その第4条Aの「社内又はユーザーにおいて実施していること,ライセンスにより他社に有償で実施させていること,又はクロスライセンスで他社から実施許諾を得た特許を実施していること 」を満たしていない以上,原告は第 。
2群発明について特許表彰規定に基づく奨励金の支給を受ける資格はない。
対価請求権について対価請求権は承継の時に発生する。そして,原告が勤務規則等の被告社内規定に基づく対価請求権のほかに,特許法35条3項に基づく対価請求権をも訴訟物(選択的併合)としている場合,勤務規則等による支払時期の定めは,訴訟物を異にする特許法上の対価請求権については斟酌する余地がないから,このような支払時期の定めは,何ら対価請求権を行使する上で法律上の障害になるものではない。そうすると,第2群発明に関する特許を受ける権利承継時期は,遅くとも当該特許の出願日であるので,第2群発明に属する個々の発明についての対価請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも以下のとおりとなるというべきである。
(ア)本件特許A及び同Bについての対価請求権については,その消滅時効の起算点はいずれも遅くとも昭和47年9月28日であるというべきである。
(イ)本件特許Cについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和47年9月8日であるというべきである。
(ウ)本件特許Gについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和48年2月7日であるというべきである。
(エ)本件特許Iについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和49年12月7日であるというべきである。
(オ)本件特許Jについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和51年8月10日であるというべきである。
(カ)本件特許Kについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和49年8月25日であるというべきである。
(キ)本件特許Lについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和51年4月20日であるというべきである。
(ク)本件特許N及び同Pについての対価請求権については,その消滅時効の起算点はいずれも遅くとも昭和51年5月9日であるというべきである。
(ケ)本件特許O及び同Qについての対価請求権については,その消滅時効の起算点はいずれも遅くとも昭和51年5月11日であるというべきである。
(コ)本件特許Rについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和51年8月5日であるというべきである。
(サ)本件特許Sについての対価請求権については,その消滅時効の起算点は遅くとも昭和52年1月14日であるというべきである。
したがって,本件各特許中上記14件の特許についての対価請求権は,いずれもみな原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間(10年)が経過している。
対価請求権について(予備的抗弁)(ア)なお,仮に第2群発明について「被告による実施」が認められたとしても,支払時期について別段の定めもなかった被告の「実施効果」の申請に基づく奨励金(実質上の実績補償)の支払時期は,特許権登録後,被告が発明を実施したときに到来すると解するのが相当である。
(イ)被告のONyフィルムは,昭和51年8月の生産開始当時はナイロン6にT601レジン(MSM樹脂)をブレンドしてなるものが主体であったが,昭和55年以降はT600レジン(SM樹脂)をブレンドしてなるONyフィルムが主体となっている。すなわち,被告は上記ONyフィルムの原料たるT600レジン(SM樹脂)の生産を昭和55年には開始していたのであるが,立証可能な限度でいうと,昭和61年3月末には生産していた。したがって,原告がSM樹脂は実施品であると主張する本件発明Aないし同Cのそれぞれの特許を受ける権利承継による対価請求権の実績補償に係る部分は,被告がSM樹脂の生産を開始したことによって,いずれも原告において行使することができる状態になったのであるから(なお,これらの発明に関する特許登録はそれ以前になされている,これらの発明についての対価請求権の消滅時効の起 。)算点は,遅くとも昭和61年4月1日であるというべきである。また,原告は,SM樹脂の生産により,容器の発明である本件発明Iも実施したことになると主張するが,同特許の登録も昭和57年1月25日になされているので,同じく消滅時効の起算点は昭和61年4月1日となる。
それゆえ,本件発明Aないし同C及び同Iについての対価請求権は,いずれも原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。
(ウ)被告は,T601レジンを原料とするFSMフィルム(MSM延伸フィルム)の生産を昭和49年から開始している。他方,原告が本件発明D及び同Eと同様にMSM樹脂において実施されていると主張する本件発明Gは,昭和55年12月25日に特許登録されている。したがって,本件発明Gの実績補償に係る分については,その特許が設定登録されたことによって原告において行使することができる状態になったということができるから,その対価請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも昭和55年12月26日というべきである。また,原告は,本件発明Kは,第1群発明に属する本件発明Mと同様に,FSMフィルムにおいて実施されていると主張し,その特許は昭和58年11月30日に設定登録されているから,原告は,この登録によって本件発明Kに係る対価請求権を行使することができる状態になったものである。よって,同対価請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも昭和58年12月1日であるというべきである。それゆえ,本件発明G及びKについての対価請求権は,いずれも原告の本件訴訟提起前に消滅時効時効期間は経過していることは明らかである。
(エ)原告は,本件発明J,L,NないしSは被告のONyフィルム事業に甚大な寄与をしているから,被告はこれらの発明について広義の実施をしていると主張する。被告は,ONyフィルムの生産を昭和51年8月に開始しており,他方,本件特許Jは昭和57年7月30日に,本件特許Lは昭和59年8月31日に,本件特許Nは昭和63年6月8日に,本件特許O及び同Pはいずれも昭和61年12月24日に,本件特許Qは昭和61年11月28日に,本件特許Rは昭和62年8月11日に,本件特許Sは昭和63年3月24日にそれぞれ設定登録されている。
したがって,本件発明J,L,NないしSのそれぞれの特許を受ける権利承継による対価請求権の実績補償に係る部分については,いずれも上記登録によって原告において行使することができる状態になったということができるから,その対価請求権の消滅時効の起算点は,いずれも遅くとも登録日の翌日,すなわち,本件発明Jについては昭和57年7月31日,本件発明Lについては昭和59年9月1日,本件発明Nについては昭和63年6月9日,本件発明O及び同Pについては昭和61年12月25日,本件発明Qについては昭和61年11月29日,本件発明Rについては昭和62年8月12日,本件発明Sについては昭和63年3月25日であるというべきである。
それゆえ,本件発明J,L,NないしSについての対価請求権は,いずれも原告が本件訴訟を提起する前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。
(3)特許表彰規定に対価請求権の支払時期の定めがあると認められると仮定した場合の消滅時効の起算点について以上,(1)及び(2)が被告の基本的主張である。被告の特許表彰規定には,奨励金(第8条)の支払時期を具体的に定めた条項は存在せず,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項があるということはできないからである。
しかし,被告の特許表彰規定に対価請求権の支払時期の定めがあると認められる場合にかんがみ,消滅時効の起算点につき仮定主張をする。
ア本件発明D,E,G及びJについて仮に被告の特許表彰規定に対価請求権の支払時期の定めがあると認められると仮定しても,該規定は遡及適用されるものではないのみならず,該規定の制定を債務の承認とみることもできないのであるから,本件発明D及び同Eについては,上記のとおり遅くとも登録日から消滅時効が進行すると解され,同規定が制定された平成4年11月1日より前に消滅時効が完成しているから,両特許の対価請求権の実績補償部分の消滅時効援用権は喪失しない。また,本件発明G及び同Jが被告において実施されていたと仮定しても,上記のとおり遅くとも本件発明Gについては昭和55年12月26日,本件発明Jについては昭和57年7月31日から消滅時効が進行すると解されることによれば,同規定が制定された平成4年11月1日より前に消滅時効が完成しているから,両特許の対価請求権の実績補償部分の消滅時効援用権は喪失しない。
よって,これらの発明に関する対価請求権は,特許表彰規定が制定される前に消滅時効が完成している。
イ被告の特許表彰制度の運用について前提事実記載の区分基準に基づき,選考対象特許を分類すると,以下のとおりとなる。
本件特許取扱規定第5条には 「特許登録から3年毎に過去3年間の特 ,許の業績への寄与を評価し,業績への寄与の大きいものを表彰特許として選考する 」と規定されており,この規定を厳格に適用すれば,出願公告 。
と特許登録の年度が異なる場合には,特許登録を基準に選考対象とすべきであるが,平成4年当時の特許法では,特許登録は必ず特許出願公告を経てなされていたこと,特許出願に係る発明が出願公告されたときは排他権(いわゆる仮保護の権利)を認められたこと,当時の被告の特許管理実務では,被告の特許の特定は登録番号ではなく出願公告番号により行われていたこと,当時は特許権の存続期間は出願公告の日から15年をもって終了すると定められていた関係上,昭和52年出願公告に係る特許は,これを第1回特許表彰で選考対象としなければ,第2回特許表彰の選考時前に存続期間満了により消滅するため,第2回以降の特許表彰を受け得る資格を喪失してしまう等の事情があったことにより,被告における同制度の実際の運用上は,第5条の規定を緩めて,特許登録後3年未満のものであっても出願公告を基準として運用していた(乙17通知のとおり 。)そして,選考するのは10月中旬であるから,そのときまでに存続期間が満了している特許は,選考対象となり得ない。
したがって,平成4年の表彰対象特許群(以下,これを「選考対象特許群A」という )は,出願公告年が昭和52年,同55年,同58年,同 。
61年,平成元年の特許である。
平成5年の表彰対象特許群(以下,これを「選考対象特許群B」という )は,出願公告年が昭和53年,同56年,同59年,同62年,平 。
成2年の特許である。
平成6年の表彰対象特許群(以下,これを「選考対象特許群C」という )は,出願公告年が昭和54年,同57年,同60年,同63年,平 。
成3年の特許である。
本件各特許のうち,特許表彰規定施行前に消滅していた本件発明@ないしCを除く14件が属する選考対象特許群は以下のとおりである。
@選考対象特許群Aに属するもの(8件)…本件特許G,K,L,NないしRA選考対象特許群Bに属するもの(6件)…本件特許D,E,I,J,M及びSB選考対象特許群Cに属するもの(0件)…なしなお,被告において,第4回表彰以降,ごくまれに特許表彰規定第4条@の規定からは表彰対象に該当しない特許を例外的に表彰対象としたことがあった。その要件は次のとおりである。
@第4回表彰以降の選考会において,A前回表彰を受けた特許に限り,B選考会時において失効している特許権であっても,Cその評価期間のうちのいずれかの期間権利存続していて,表彰に値する特段の利益を上げている特許権。
乙第20号証(平成12年3月の社報)に記載されている第8回表彰の対象となった特許は [W]発明@に係る特許である。しかし [W]発明 , ,@は上記要件を充たす一方,本件各発明はいずれも上記要件を満たさない。
ウ特許表彰規定の適用があるとした場合の消滅時効の起算点について(その1)(ア)選考対象特許群Aに属する本件各特許(本件特許G,K,L,NないしR)について上記本件各特許を特許表彰選考委員会が特許表彰規定に基づき初めて評価選考するのは,第1回特許表彰のための選考のとき(平成4年10月中旬)である。そして,上記本件各特許は,選考時に「社内又はユーザーにおいて実施していること,ライセンスにより他社に有償で実施させていること,クロスライセンスで他社から実施許諾を得た特許を実施していること 」という資格要件(特許表彰規定第4条A)を満たさな 。
いので,第1回特許表彰規定の選考対象特許になり得ない。
したがって,これら各特許についての対価請求権の消滅時効の起算点は,特許表彰規定の存在によって影響を受けることはなく,前記(2)イのとおりである。
よって,本件特許G,K,L,NないしRについての対価請求権は,原告が本件訴訟を提起する前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。
(イ)選考対象特許群Bに属する本件各特許(本件特許D,E,I,J及びS)について上記本件各特許のうち本件特許D及び同Eは,平成5年10月中旬の第2回特許表彰のための選考のときには存続期間が満了していて,いずれもその特許権が消滅していた(特許表彰規定第7条 。したがって,)本件特許D及び同Eは,選考のときに「登録されていて現に法律上の排他的効力を有していること」という資格要件(同規定4条@)が欠けているので,第2回特許表彰及びそれ以降の選考対象特許になり得ない。
すなわち,本件特許取扱規定第4条@に定める要件のうち 「登録」,がいつの時点において存在していることを要するかは,第4条本文に「表彰を受ける特許は次の要件を満足する特許の中から選考される」とあり,かつ,Aの規定は「実施していること「実施させていること」 」,といういわゆる現在形の表現形式を用いて記載されていることによれば,@及びAの各要件は表彰時(正確には,表彰に値するか否かの選考をする時)において現に「登録されていること「実施されていること」若 」,しくは「実施させていること」が要求されていると解釈するのが正当である。したがって,本件特許D及び同Eについての対価請求権の消滅時効の起算点は,特許表彰規定の存在によって影響を受けることはないので,遅くとも昭和54年5月26日であるというべきである。
同じく選考対象特許群Bに属する本件各特許のうち本件特許I,J及びSは,いずれも特許表彰規定第4条Aの資格要件の関係で,該規定の第2回特許表彰及びそれ以降の選考対象に包含され得ない。したがって,これら各特許についての対価請求権の消滅時効の起算点は,特許表彰規定の存在によって影響を受けることはない。
よって,選考対象特許群Bに属する本件特許D,E,I,J及びSについての対価請求権は,原告が本件訴訟を提起した平成16年(2004年)9月30日より前に消滅時効時効期間(10年)が経過していることは明らかである。
エ特許表彰規定の適用があるとした場合の消滅時効の起算点について(その2)被告の特許表彰制度は,3年ごとの選考結果に応じて過去3年間の実績補償分としての奨励金を当該選考年度に支払う制度であるとして 「使用,者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合」に当たるとの解釈がなされる場合の本件各特許の対価請求権の消滅時効の起算点は以下のとおりである。
(ア)選考対象特許群Aに属する本件各特許(G,K,L,NないしR)についてこれらの特許については,特許表彰規定第4条の資格要件を具備する限り,平成4年10月中旬以降,3年ごとの10月中旬の選考会で選考される都度 「選考前3年間の業績への寄与」に基づく実績補償分とし ,ての奨励金が支払われる。
aしかし,本件特許Gは平成5年2月6日に,本件特許Kは平成6年8月24日に,いずれも同特許に係る特許権が存続期間満了により消滅しているから,平成4年10月中旬の選考対象にはなり得ても,平成7年10月中旬の選考対象特許にはなり得ない。
したがって,本件特許G及び同Kについては,特許表彰規定上,支払時期の定めのある奨励金は平成4年10月中旬の選考に対応する「選考前3年間の業績への寄与」に基づく実績補償分だけであり,その支払時期は,遅くとも被告の平成4年度末,すなわち平成5年3月31日であるから,上記各特許についての特許を受ける権利承継による対価請求権のうち 「平成元年10月中旬以降の業績」への寄与 ,に基づく実績補償分については,その消滅時効の起算点は,上記支払時期,すなわち平成5年3月31日というべきである。なお,それ以前の業績への寄与に基づく実績補償分については,特許表彰規定上,何ら支払時期の定めはないから,登録日から消滅時効が進行すると解すべきである。
b本件特許L,NないしRのうち,本件特許Lは平成8年4月19日に,本件特許N及び同Oはいずれも平成8年5月2日に,本件特許Pは平成8年5月8日に,本件特許Qは同年5月10日に,本件特許Rは同年8月4日にいずれもそれらの特許に係る特許権が消滅しているので,これらの本件特許L及びNないしRは,平成4年10月及び平成7年10月中旬の選考対象にはなり得ても,平成10年10月中旬の選考対象にはならない。
また,奨励金の支払時期は,遅くとも各年度末(選考の翌年の3月31日)であるから,これらの特許の実績補償分のうち 「平成4年,10月中旬以降3年間の業績」への寄与に基づく実績補償分について,その消滅時効の起算点は,遅くとも平成8年3月31日というべきである。
しかし 「平成元年10月中旬以降3年間の業績」への寄与に基づ ,く実績補償は,その支払時期が平成5年3月31日であるから,消滅時効の起算点もこの時点となるので,本件訴訟提起前に時効期間が経過している 「平成元年10月中旬前の業績」への寄与に基づく実績 。
補償分については,仮にこの対応期間内に本件発明L及び同NないしRが実施されていたとしても,特許表彰規定以外の被告の規定上は何ら支払時期の定めがないから,その消滅時効の起算点は前記(2)イのとおりである。
よって,本件発明L及びNないしRについての相当の対価請求権のうち,少なくとも「平成4年10月中旬前の業績」への寄与に基づく実績補償については,いずれも原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。
(イ)選考対象特許群Bに属する本件各特許(D,E,I,J,M及びS)についてa本件特許D及び同Eを除く4件の特許については,特許表彰規定第4条の資格要件を具備する限り,平成5年10月中旬以降,3年ごとの10月中旬(平成8年10月中旬)の選考会で選考される都度,「選考前3年間の業績への寄与」に基づく実績補償分としての奨励金が支払われる。
bしかし,本件特許Iは平成6年6月2日に,本件特許Jは平成8年8月9日に,本件特許Mは平成6年5月8日にそれぞれの特許に係る特許権が消滅しているから,いずれも平成5年10月中旬の選考対象特許にはなり得ても,平成8年10月中旬の選考対象特許にはなり得ない。平成5年度の選考対象特許についての奨励金の支払時期は遅くとも平成6年3月31日であるから 「平成2年10月中旬以降の業 ,績」への寄与に基づく実績補償分については,その消滅時効の起算点は平成6年3月31日というべきである 「平成2年10月中旬前の 。
業績」への寄与に基づく実績補償分については,仮にこの対応期間内に本件発明I,J及びMが実施されていたとしても,特許表彰規定以外の被告の規定上,支払時期の定めがないから,遅くとも登録日から消滅時効が進行する。よって,これら3件の特許についての相当対価請求権については,いずれの部分も原告が本件訴訟を提起する前に消滅時効が完成している。
cさらに,本件特許権Sは平成9年1月13日に消滅しているから,同特許は,平成5年10月中旬及び平成8年10月中旬の選考対象特許にはなっても,平成11年10月中旬の選考対象特許にはならない。
したがって,本件特許Sについては,特許表彰規定上 「平成2年1,0月中旬以降3年間の業績」への寄与に基づく実績補償分については,その消滅時効の起算点は遅くとも平成6年3月31日というべきであり 「平成5年10月中旬以降3年間の業績」への寄与に基づく実績 ,補償分については,その消滅時効の起算点は遅くとも平成9年3月31日というべきである。
「平成2年10月中旬前の業績」への寄与に基づく実績補償分は,仮にこの対応期間内に本件発明Sが実施されていたとしても,特許表彰規定以外の被告の規定上,何ら支払時期の定めはないから,該実績補償分についての消滅時効の起算点は,遅くとも昭和63年3月25日というべきである。よって,本件訴訟提起前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。
(4)本件特許M及び同Rに係る対価請求権の消滅時効の起算点について出願公告年に応じ3グループに分割して特許表彰を行う被告の運用によらずに 「特許登録から3年毎に過去3年間の特許の業績への寄与を評価し, ,業績への寄与の大きいものを表彰特許として選考する 」という特許表彰規。
第5条の規定どおりの運用を行った場合においても,本件特許M及び同Rに係る特許法35条3項に基づく対価請求権は,以下に述べるとおり,時効により消滅している。
本件特許Mは,その特許権が昭和59年10月17日に登録され,平成6年5月8日に権利消滅している。特許表彰規定が制定された平成4年11月1日以降において,この特許が特許登録から3年ごとに選考対象となる選考年度は,平成5年度,すなわち平成5年10月中旬の選考時の1回きりである。
仮に,各表彰年度の年度末である翌年3月31日が支払期限であると仮定した場合には,本件特許Mに関する平成5年度の奨励金の支払時期は,遅くとも当該年度末に当たる平成6年3月31日ということになる。時効期間(10年)は,この支払時期(平成6年3月31日)を起算点として計算されるから,平成16年3月31日の経過をもって,消滅時効が成立する。
また,本件特許Rは,その特許権が昭和62年8月11日に登録され,平成8年8月4日に権利消滅している。特許表彰規定に基づき,本件特許Rが特許登録から3年ごとに選考対象となる選考年度は,平成5年度,すなわち平成5年10月中旬の選考時の1回きりである。
特許表彰委員会で選考決定された特許の発明者に対する奨励金(対価)の支払時期が各表彰年度の年度末である翌年3月31日であると仮定した場合には,本件特許Rに関する平成5年度の奨励金の支払時期は,遅くとも当該年度末に当たる平成6年3月31日になる。この支払時期(平成6年3月31日)を起算点とすると,平成16年3月31日の経過をもって,消滅時効が成立する。
被告は,原告に対して,被告の特許表彰規定(甲1の3)を告知し,原告はこれに合意(事実上の「承認」を)していたと認められるから,本件発明M及び同Rに係る特許法35条3項に基づく対価請求権は,消滅時効が完成している。
(5)本件A発明ないし本件G発明の対価請求権について仮に「ダイナック (又はその製造方法)が上記7件の特許発明のいずれ 」かの技術的範囲に属するとしても,本件A発明ないし本件G発明それぞれについての特許を受ける権利の被告への承継は,昭和47年から同48年にかけて特許出願日の前になされており,またそれぞれの特許権の設定登録は本件A発明は昭和52年8月31日,本件B発明は昭和52年10月28日,本件C発明は昭和53年1月30日,本件D発明は昭和53年2月25日,本件E発明は昭和54年1月30日,本件F発明は昭和54年7月20日,本件G発明は昭和54年10月19日になされている(乙40ないし乙46の各1・2 。)他方,上記商品「ダイナック」は,呉羽テックにおいて昭和53年4月から売上げが計上され始めたから,これにより仮に上記7件の特許発明のいずれかについて実施があったと仮定した場合,その実施開始日は遅くとも昭和53年4月30日である。
このように見てくると,上記7件の特許発明のうち「ダイナック」によりその実施がなされたと認められる特許発明が仮に存在するとしても,これについての特許を受ける権利承継による対価請求権は,遅くとも上記7件の特許のうち最も遅く特許権の設定登録がなされた本件G発明に係る特許権の登録日(昭和54年10月19日)以降,原告において行使することができる状態になったというべきである。
したがって,仮に上記7件の特許発明のうちに「ダイナック」によりその実施がなされたと認められる特許発明が存在したと仮定しても,当該発明についての対価請求権についての消滅時効の起算点は遅くとも昭和54年10月20日であるというべきであるから,原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日より前に消滅時効時効期間が経過していることは明らかである。
したがって,当該特許についての特許を受ける権利承継による対価請求権は時効によりその起算点(遅くとも昭和54年10月20日)に遡って消滅している。
【原告の主張】(1)本件特許取扱規定第10条(業績への寄与の顕著な特許に対する表彰)の表彰対象とすべき特許についてア原告は,乙17通知が配布された時点では退職しており,その存在を知らなかったので,これに拘束されることはなく,平成6年の第3回の表彰選考において本件各特許のすべてが判断の対象とされるべきであると主張できる。
特許表彰規定第5条の定める奨励金は,過去3年間の業績への寄与を評価するものであるから,3年の評価期間内に特許権が存続していれば評価対象となるものである。特許表彰規定には,選考前3年間の評価対象期間の途中で特許権が消滅したときには対象外とする規定はなく,さらに平成4年11月1日の制定日以前に存続していた特許権を対象外とする規定もないから,平成6年10月の選考時には,平成3年10月の時点で存続していた特許権がすべて対象となる。
したがって,本件訴訟の提起から10年を遡った時点すなわち平成6年以降に原告に対して支払われるべき補償金は,特許表彰規定第5条により,平成3年度から平成5年度の実施がその評価対象となるものと解される。
平成6年10月の選考会時点では,ONyフィルムの製造に不可欠なFSMフィルム関連の特許である本件特許@,A及びBが存続しており,消滅まで評価期間があった。
また,MSM樹脂関連の本件特許D,E及びGが評価対象期間の前半期に存続していた。
さらに,FSMフィルム関連の本件特許D,E,G,I,K及びMのうち,本件特許I,K及びMがそれぞれ3年間の評価期間があった。
ONyフィルム関連の本件特許J,L,NないしSいずれも3年間の評価期間がある。
平成9年10月の評価時の特許権は,FSMフィルム関連特許である本件特許I,K及びMが評価対象となる。ONyフィルム関連の本件特許J,L,NないしSも評価対象となる。
イ出願公告日を基準として3年ごとに表彰の対象となるとする場合について(ア)被告の主張する本件特許取扱規定及び特許表彰規定の運用は,不合理な点が多く納得できない。
まず,乙17通知記載の運用によると,実績が切り捨てられる特許が生じる(前記4【原告の主張】(1)参照 。)また,特許表彰規定第4条にいう「選考前3年間」の意味が,被告の主張によると選考日の前日までの実績が評価されることになるが,現実には,選考日の前日までの売上げ及び利益を正確に把握できるわけがない。選考年の前年度末までの全期間(あるいは一部の期間)のうち,特許権が存続する期間中において生産された製品を対象としない限り,その製品の売上げが被告全体の売上げの中でいかほどの割合を占めるのか,判断できないはずである。
また,現実の運用においても,評価時点においては特許権が消滅している特許が特許表彰の対象となっており,選考会の時点で特許権が存続している必要があるとの被告主張は,被告の実際の運用と一致していない。
(イ)被告の特許表彰制度の運用の実体を検討すると,次の基準に従っていることが理解,推認できる。
@出願公告日を基準としている。
A選考会のときに特許権が存続している必要はない。
B過去3年間のいずれかの期間に特許権が存続していれば足りる。
C売上げは,年度すなわち4月1日から翌年の3月31日までを単位として扱っていると推認できる。
乙第20号証(平成12年3月の社報)の第8回表彰の記事には,「二軸延伸ポリアミドフィルム」が第5回1級表彰に引き続き表彰されたことが記載されており,表彰対象者が〈P19〉らとなっていることによれば,表彰対象となった特許は [W]発明@及び同Aに係る特許 ,(乙38の1・2)と解される。
第8回表彰の選考会は平成11年12月17日に開催されており,上記特許の出願公告日によれば,上記@の基準を適用していることが分かる。
次に [W]発明@に係る特許権は平成10年7月25日に [W]発 , ,明Aに係る特許権は昭和63年8月2日に消滅しており,選考会の時点で特許権が存続している必要があるとの被告主張は,被告の実際の運用と一致しない。被告は,現実には上記Aの基準を適用している。
また,選考会の開催の日を基準としても,年度の最終日を基準としても,過去3年間,上記2つの特許権は存続していなかった。したがって,上記Bの基準を適用している。
また,選考会開催日から遡って3年の売上げを選考会の当日に知ることは現実的に不可能である。被告は,評価期間は年度を単位とすると主張するが,年度末に特許権が存続していない場合には,存続していた期間の売上げが評価対象とされるものと推認される(上記Cの基準の適用 。)(ウ)3年ごとに評価することに関して,被告の保有する特許を3グループに分けて評価するとの運用を前提とするにしても,以下のように評価対象期間を考えるべきである。
@出願公告日を基準とすべきである。
出願公告によって実質的に特許権が発生していた平成6年法以前の出願に対応する運用としては合理的であると考えられる。
A選考会のときに特許が存続している必要はない。
上記(イ)のとおり,被告の運用もそのようになっている。
B評価期間の一部の期間特許権が存在していれば足りる。
上記(イ)のとおり,被告の運用もそのようになっている。
C売上げの算定は,年度すなわち4月1日から翌年の3月31日までを単位として扱うべきである。
上記の観点から,各年度の表彰対象になる本件各特許を整理すると,以下のようになる。斜字の特許は,評価対象期間が3年に満たないものである。
1回表彰:特許G,K,L,N〜Q,2回表彰:特許E,I,J,M,SD ,3回表彰:特許4回表彰:特許L,N〜RG,K,5回表彰:特許J,S E,I,M ,6回表彰:特許L,N〜R 7回表彰:特許J,S 8回表彰:特許ウ登録日を基準として,3年に1度表彰の対象になるとした場合前記イ(ウ)A及びBの基準は,仮に登録日を基準として表彰対象の特許を選考するのが合理的であるとしても,当然に採用されるべきである。登録日を基準とする観点から,各年度で表彰されるべき本件各特許は以下のようになる。
1回表彰:特許D,E,G,K,O,P,Q@,A,B,C,2回表彰:特許 L,M,R3回表彰:特許,J,N,SI4回表彰:特許O,P,Q D,E,G,K ,L,M,R 5回表彰:特許J,N,S 6回表彰:特許O,P,Q 7回表彰:特許なお,上記斜字の特許権は,選考会以前の過去3年間(または選考会の開催された年の前3年度間)の一部の期間特許権が存続していたものである。
(2)特許法35条3項に基づく対価請求の消滅時効についてア被告は,特許法35条3項に基づく対価請求は承継の時に行使し得ると主張する。
しかし,対価請求権の発生時において対価の額も算定可能であり,したがって対価請求権の発生時に対価の額も定まるとするのは,下記事情にかんがみて,実情にそぐわず妥当でない。
(ア)従業員が在職中に対価請求について訴訟を提起することは極めて困難若しくは不可能であること(イ)承継時に将来の実施を見込んで対価の額を算定することは,当事者及び裁判所にとって極めて困難であること(ウ)特許出願をしてから(承継があってから)10年経過した時点で特許発明実施する場合があるが,このときには時効完成後の実施による利益を対価に反映させる機会がないことイ被告は,別段の定めがない被告の実施効果の申請に基づく奨励金(実質上の実績補償)の支払時期は,特許の登録後,被告が発明を実施したときに到来するものと解するのが相当であると主張する。
しかし,特許の登録後,被告が発明を実施したときに1回目の実績報奨が実行されたとしても,再度あるいは再々度の実績報奨は実際の実績が発生してから,すなわち,被告の昭和40年8月17日施行の「発明改善審査手続要領 (乙10)の第9条にいう「その後更に査定以上の顕著な実 」施効果を得たもの」ということになる。しかも,同要領及び昭和47年8月16日施行の「発明改善審査手続要領 (乙11)の甲種採点基準が実 」際に得られた利益を評価の対象としていることから,顕著な実績効果の申請は,あくまで被告の実際の売上げに基づいて処理されるべきである。
第4当裁判所の判断1争点(2)(補償金請求)について原告は,本件特許取扱規定第10条に定める奨励金が実績補償金に相当するとして,これを対価請求と選択的に併合する。また,同規定に基づく奨励金が職務発明対価であるのか,さらに表彰されるべき特許登録された特許発明の範囲についても争いがある。しかし,上記各点をひとまず措くとしても,原告のいう本件特許取扱規定第10条に基づく補償金請求は,同条に定める奨励金そのものを指すのではなく,特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に修正される額の補償金を請求するものである。
しかし,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定は,後記3(3)のとおり,相当の対価の一部である一定額の奨励金を支給する根拠となるに止まるものであり,同規定によっては支給されなかった相当の対価の不足額の請求は,結局,特許法35条3項に基づく相当の対価請求権として,被告に対して請求が可能なのであって,本件特許取扱規定第10条のみに基づいて請求することができるものではない。
また,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定に定める奨励金が支給されるには,選考委員会の選考決定が必要である(特許表彰規定第7条)ところ,既にこれらの選考・決定時期を経過している本件各発明については,上記の手続要件を充足していないことは明らかである。
したがって,原告の本件特許取扱規定第10条に基づく補償金請求は理由がない。
2争点(3)(不当利得)について原告は,ONyフィルムに関連する本件発明J,L,NないしSを含む本件各発明に係る特許権を取得したことによって,被告は莫大な利益を得たのであるから,被告の得た利益の一部は原告に返還されるべきであると主張する。
しかしながら,被告が本件各特許によって利益を得たとしても,それは,旧特許取扱規定第2条に基づいて,被告が,それらの職務発明に関する特許を受ける権利を,原告を含む共同発明者らから承継したことを根拠とするものであって,法律上の原因に基づく利得である。
したがって,被告が本件各特許によって得た利益が不当利得であるとの原告の主張は採用できない。
3争点(5)(消滅時効の成否)について(1)はじめに本件においては,本件各発明が被告において実施されたのか否かにつき争いがあるところ,当裁判所は,後記のとおり,原告の被告に対する対価請求権は,当該発明を実施しているか否かによって消滅時効の起算点を異にすると判断するものである。したがって,実施していたと仮定しても対価請求権が消滅時効によって消滅する発明に関しては,その相当の対価を算定するまでもなく,同発明に係る原告の相当の対価請求は理由がないことになる。そこで,以下,争点(5)について判断する。
なお,原告の補償金請求に対する被告の消滅時効の抗弁は,法律的には,特許法35条3項に基づく対価請求権と同一の権利に基づく主張に対する抗弁であるから,以下,同抗弁に係る主張も,対価請求権に対する抗弁の主張であることを前提として判断する。
(2)消滅時効の成否に関する基本的判断枠組み, , ア特許法35条3項は 「従業者等は,契約,勤務規則その他の定により職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ。, (中略)たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する 」と規定し勤務規則等で職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させる旨を定めている場合には,そのような勤務規則等の定めに従って,従業者が使用者に職務発明についての特許を受ける権利承継させたときに,従業者は相当の対価の支払を受ける権利を取得することになる。そして,相当の対価の支払時期については,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,その支払時期によるものと解するのが相当であり,その支払時期が到来するまでの間は従業者等は権利を行使することができず,権利の行使につき法律上の障害があるというべきであるから,勤務規則等に定められている支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁 。)イ被告は,特許法35条3項にいう勤務規則等に当たるものとして,本件特許取扱規定を定めている。前記前提となる事実のとおり,同規定は,「従業員は,発明考案をなしたときは,その発明考案について国内および国外における特許を受ける権利,実用新案登録を受ける権利および意匠登録を受ける権利を会社に譲渡し,会社は,これを承継する(第3条)と。」定めるとともに,上記権利譲渡の対価として,まず,当該従業員に対し特許等の出願に際し支払われる出願時奨励金及び特許等の登録に際し支払われる登録奨励金について定めている(登録奨励金は,旧特許取扱規定では「登録時奨励金」と称され,登録以外に特段の支給要件が定められていなかったが,昭和63年制定の特許取扱規定により「商業的に実施されている工業所有権」であることを支給要件に加え,本件特許取扱規定もこれを踏襲している。さらに,これらのほか,同規定第10条に定める特許表 。)彰制度及び特許表彰規定第9条@に基づく奨励金並びに同第11条(顕著な実績効果の申請)に基づく褒賞金についての定めがある。
ウそこで,まず,上記出願時奨励金及び登録奨励金について,その対価請求権の消滅時効の起算点を検討する。
(ア)出願時奨励金について前記前提となる事実のとおり,本件特許取扱規定第8条(出願時奨励金)は 「会社が発明者から出願権を承継した発明考案について国内に ,おいて特許出願,実用新案登録出願または意匠出願をしたときは,会社は,その発明者に対して出願時奨励金を交付し,その詳細は別に定める 」と定めており,旧特許取扱規定に同趣旨の規定(ただし,1件当 。
たり2000円とする旨が定められていた )があったことを踏襲した 。
ものである。上記規定によれば,出願時奨励金は「特許出願・・をしたとき」を支給要件とするものであり,特許出願日がその支払期日となる旨を定めたものということができる。
(イ)登録奨励金について前記前提となる事実のとおり,本件特許取扱規定第9条(登録奨励, , 金)は 「発明者から出願権を承継した発明考案が国内において特許権実用新案権または意匠権(以下これら三者を合わせて「工業所有権」という)として登録されたものであって,商業的に実施されている工業所有権については登録奨励金を交付し,その詳細は別に定める 」と定め。
ており,旧特許取扱規定の該当規定に,登録奨励金支払の対象となる工業所有権が「商業的に実施されている」ことを支給要件に加えた昭和63年1月1日施行の特許取扱規定を踏襲したものである。上記規定によれば,登録奨励金(登録時奨励金)は,登録及びその商業的実施を支給要件とするものであり,特許権の設定登録がされた時点又は商業的に実施された時点のいずれか遅い方をその支払期日と定めたものと認められる。
エ次に,本件特許取扱規定第10条に定める特許表彰制度及び特許表彰規定第9条1号に基づく奨励金の支払請求権について,その消滅時効の起算点について判断する。
(ア)まず,上記規定が職務発明対価の支払時期の定めということができるかが問題となる。この点に関し,被告は,本件特許取扱規定第10条及びその細目を定めた特許表彰規定に基づく奨励金は,これらの規定にその支払回数や支払時期の定めがあるものとはいえず,その対価請求権の消滅時効の起算点は登録時又は実施開始時であると主張する。
しかし,前記前提となる事実のとおり,特許表彰規定第5条は 「特,許登録から3年毎に過去3年間の特許の業績への寄与を評価」して表彰の対象となる特許を選考する旨を定めているところ,その対象とされる特許は,出願公告年又は登録年を基準として一律に定められている。すなわち,選考当時に登録されている特許であれば,一律に表彰の選考対象となり,特許部から関係部署に連絡され,この連絡に基づき関係部署は評価期間(過去3年間)の特許実施状況を,自社実施又は他社に実施許諾あるいは他社とのクロスライセンスの対象となっている特許のすべてについて特許部に報告し,特許部がこの報告に基づき特許の業績への評価を行い,特許表彰選考委員会による選考会において,特許部の行った評価に基づき表彰特許を業績への寄与に応じて,3つの等級に分けて選考するものである(特許表彰規定第5条,第6条 。)上記規定によれば,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定は,登録されている特許のうち,自社実施又は他社に実施許諾あるいは他社とのクロスライセンスの対象となっているすべての特許を3年に1度は必ず評価対象とした上で,評価対象となる3年間における実施実績によって,特許の業績への寄与を評価して表彰対象とし,かつ奨励金を支給するか否かを決定するものである。したがって,この奨励金は,実績補償としての性質を持つものというべきである。また,被告の従業者にとっても,登録されている特許に係る発明が実施されている限り,3年に1度の選考会を経て,実施実績に応じてその支払の要否及びその額が明らかとされるのであるから,その時点でその支払額が本来支払われるべき相当の対価額と比較して不足しているか否かが初めて判明し,不足額について権利行使が可能となるものというべきである。したがって,上記規定は,対価請求権を行使する上で法律上の障害になっているというべきであり,本件特許取扱規定及び特許表彰規定は,実績補償について支払時期を定めた規定であると解するのが当事者の合理的意思に合致し,相当である。したがって,少なくとも,特許表彰規定にいう「実施」のされている特許については,各評価対象期間の特許発明実施実績に応じた奨励金の支払時期が,相当の対価の支払を受ける権利のうち,当該期間における特許発明実施に対応する分の消滅時効の起算点になると解するのが相当である。
(イ)ところで,この評価対象期間が具体的にいつからいつまでなのかは,特許表彰規定に明記されていない。しかし,同規定第4条Bに「選考前3年間の業績への寄与が一定以上であること」と規定されていることによれば,毎年10月中旬に行われるとされている選考会の3年前の10月中旬から,選考会が開催される年の10月中旬までの期間がをもって評価対象期間であると定めていると解するのが相当である。そして,特許表彰の対象となった特許に対する奨励金の支払時期は,特許表彰規定に明記されていないものの,特許表彰規定の附則第10条@で「この規定は1992年度から実施する 」と施行年度から直ちに施行すること 。
とされており,被告の事業年度は毎年4月1日に始まり,翌年3月31日をもって終了することからすると,その支払時期は,遅くとも表彰特許に選考された日以後の直近の年度末である3月31日であると認められる(甲1の3,乙4 。よって,この日をもって対価請求権の消滅時 )効の起算点とするのが相当である。
(ウ)もっとも,前記前提となる事実のとおり,特許表彰規定第4条は,表彰対象となる特許が「登録されていること」を要件としているところ,表彰選考の対象となるためには登録がいつの時点でされている特許であることを要するか,すなわち,同特許は評価対象期間中に登録されていれば足りるのか,あるいは選考会開催時点(毎年10月中旬)において登録されていることを要するのかについて争いがある。この点については,被告の社報や乙17通知においても,その意義や運用の指針等が明示されておらず,他に,これを明らかにする証拠は見当たらない。
そこで検討するに,同規定は,まず,表彰選考対象の特許の範囲を確定することを目的とするものであるから,選考時における対象特許の要件を定めたものと理解するのが自然である上,上記要件が「登録されていること」と現在形で規定されていることからすると,対象となる特許は,選考時に登録されていること,すなわち選考時において特許権が存続している特許である必要があると解するのが相当である。ただし,特許表彰選考委員会による選考会の開催時期は,同規定第7条に10月中旬に開催すると規定されるにとどまるところ,前記認定事実によれば,被告における選考会の開催が,現実には10月中旬より遅れた時期に行われることもしばしばあったことが窺われる。しかし,そのような現実の開催日をもって対象となる特許を区分したのでは,偶然的な要素によって表彰対象となる特許の範囲が変動することになり,不合理な結果を招くことになって相当でないから,上記要件は,10月中旬の開始日である同月11日の時点で登録され,特許権が存続している特許であることを要すると解するのが相当である。
したがって,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定における支払時期に関する定めが適用されるか否かは,当該特許権が選考会開催時まで存続しているか否かによって定まることとなる。
もっとも,証拠(乙20,126)によれば,第4回表彰以降,前回(すなわち,同じ出願公告年の特許が表彰対象となった特許表彰を指す )に表彰された特許がなお特段の利益を上げている場合,選考時に 。
おいて特許権が消滅していても,表彰の対象とされた例があった( W]発明@に係る特許(特公昭62-41095号公報に係る特 [許)ほか2件の特許 。しかし,上記証拠によれば,特許表彰制度の下 )で,被告においては,選考会1回当たり平均約500件の特許が選考対象となり,そのうち約30ないし40件の特許が表彰対象とされていたことが認められ,かかる多数の表彰対象特許のうち上記扱いがされた3件は,ごく少数の例外にとどまるものであるであり,実績が特に顕著である特許について,選考会において特に選定されるものであることが推認されるから,このような例外的事例があることをもって,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定に関する上記解釈を妨げるものではないというべきである。
(エ)さらに,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定においては,評価対象期間後特許権が消滅するまでの実績であって,次の特許表彰の評価対象とならない期間における実績を表彰を対象とする旨の規定はない(例外的に,選考会開催前に権利が消滅している特許に対する表彰がなされる例があることは,前記のとおりであるが,このような取扱いはあくまで例外的なものであって,明文によって規定されているものではない。しかし,当事者の合理的意思にかんがみれば,上記期間中の実 。)績に対する相当の対価も,最終の実績補償の支払時期に併せて支給されることを予定しているものと認めるのが相当である。したがって,上記期間中の実績に対する相当の対価請求権については,本件特許取扱規定第10条及び特許表彰規定による表彰の対象となる最終の実績補償の支払時期がその消滅時効の起算点になると認めるのが相当である。
(オ)以上によれば,特許表彰規定第4条Aにいう「実施」がされている特許であり,かつ,特許表彰選考委員会による選考会の開催される年の10月11日まで特許権が存続している特許に関する,3年前の10月中旬から同選考会が開催される10月中旬までの間の業績への寄与に基づく実績補償分の対価請求権の消滅時効の起算点は,選考会開催予定年度の年度末である3月31日であるというべきである。
(カ)他方,上記の意味でも実施されていない特許又は本件特許取扱規定の施行前に特許権が消滅している特許,あるいは特許表彰選考委員会による選考会の開催される年の10月10日までに特許権が消滅することにより本件特許取扱規定第10条が適用されることのない特許に関する相当対価請求権の消滅時効の起算点については,本件特許取扱規定制定前の特許取扱規定における実績補償に関する定めに従って決せられることとなる。
なお,原告は,本件特許取扱規定及び特許表彰規定に,施行前に権利消滅した特許は上記各規定の適用除外とするとの規定がない以上はそのような特許も同各規定の適用対象となると主張する。しかし,本件特許取扱規定の付則には「この規定は,平成4年11月1日から施行する 」と規定され,特許表彰規定の第10条(附則)には「@この規定 。
は1992年度から実施する 」と規定されていること(甲1の2・ 。
) , 3 ,その施行前に特許権が消滅した特許を対象とするとの規定はなくかつ,施行の際に権利消滅していた特許をあえて表彰対象とすることが合理的であるとはいえないことを考慮すると,上記各規定は,施行時において特許権として現に存続している特許を対象とするものというべきである。
よって,原告の主張は採用できない。
そこで,旧特許取扱規定における実績補償に関する定めをみるに,前記前提となる事実のとおり,同定めに当たるものとして,旧特許取扱規定第10条があり,同条は「実施効果の申請」として 「工業所有権を,含む発明考案のうち,実施効果(社外への譲渡,実施許諾またはクロスライセンスを含む)があつたときは,その発明者の直属上司は 『発明,改善審査手続要領』の所定の発明改善申請書を同要領の定めるところにより技術部長に提出する 」と規定し(乙8 ,これを受けた「発明改善 。)審査手続要領」は「この要領にいう発明改善とは,従業員が創意工夫によつて会社の業務範囲に属する事項について新規な,または改良されたもの,あるいは方法を案出し,かつ,その実施効果(社外への譲渡または実施許諾を含む)のあがったものをいう 」と定めていて,審査申請 。
も直属上司が発明改善申請書を作成し,技術課長が申請書の採点をして発明改善審査委員会に提出することとしていた(乙10 。これらの規)定によれば,実施効果の申請に関する規定は,そもそも評価対象にするか否かも各上司の裁量に委ねられており,かつ,被告の設置した発明改善審査委員会において実施効果が上がったと認められたときに初めて奨励金が支給されるものであって,その支給の有無や支払時期は,発明改善審査委員会による会社業績に貢献したことの認定,すなわちもっぱら被告の意思いかんによって決せられるものである。したがって,これらの規定をもって実績補償の支払時期を画したものということはできない。
よって,同制度に係る奨励金に関する定めは,支払時期に関する定めをしたものということはできず,結局,実績補償に関する旧特許取扱規定等には,明確な支払時期の定めがなかったことになる。
そして,上記のとおり,対価請求権は承継時に発生するものであって,その対価の額は 「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及び ,その発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない(特許法35条4項)ものであるが,対価請求権の発生 。」時において,特許法35条4項の定める「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」についても客観的に見込まれる利益の額は算定可能であるから,権利の承継時に対価の額も定められるべきものである。
よって,旧特許取扱規定及び発明改善審査手続要領(乙10)に定める実績補償の支払時期は,結局のところ,出願時奨励金及び登録奨励金の支払期日のうち遅い時点,すなわち,特許権の設定登録がされた発明が実施された時(特許権の設定登録時又は特許発明実施開始時のいずれか遅い時点)とすることを定めていたものと解するほかはない。また,昭和63年1月1日施行の特許取扱規定における「顕著な実施効果の申請」に関する第11条の規定も,旧特許取扱規定の定める第10条と同趣旨の規定であり,これに基づく奨励金の定めも,一定の支払時期の定めがあるとは認められないものであって,同規定の制定施行をもって,被告が既に支給時期が到来していた同奨励金の支払債務を承認したということはできず,これをもって旧特許取扱規定の下で進行を開始した消滅時効を中断するものではない。
オさらに,本件特許取扱規定第11条の定める顕著な実績効果の申請に基づく褒賞金の支給は,旧特許取扱規定第10条に定める「実施効果の申請」及び昭和63年1月1日施行の特許取扱規定に定める「顕著な実施効果の申請」と同様の規定であるから,同規定も,実績補償の支払時期を定めているということはできず,上記エ(カ)で説示したのと同様の理由により,特許の設定登録がされた発明が実施された時をもって,褒賞金の支払時期と認めるのが相当である。また,旧特許取扱規定の下で進行を開始した消滅時効を中断するものではないことも前同様である。
カ以上のとおり,特許表彰規定第4条Aにいう「実施」がされていない特許又は本件特許取扱規定の施行前に特許権が消滅し,あるいは特許表彰選考委員会による選考会の開催される年の10月10日までに特許権が消滅することにより本件特許取扱規定第10条が適用されることのない特許権に関する対価請求権の消滅時効の起算点は,設定登録日あるいは実施開始時のいずれか遅いほうと解するのが相当である。
また,被告の昭和63年1月1日施行の特許取扱規定においても,旧特許取扱規定と同旨の規定である「顕著な実施効果の申請」の規定(第11条)が置かれたが,同規定による褒賞金の支給は,実施効果が顕著な発明考案が対象であり,当該製品又は技術の総括責任者の同規定の申請によって行われるものであるから,明確な支払時期の定めがあるとは認めることができず,同規定によっては,旧特許取扱規定の下で消滅時効の進行を始めた対価請求権の消滅時効を中断することはないと認められる。よって,特許表彰規定第4条Aにいう「実施」がされていないか,又は,同条にいう「実施」はされているものの選考会が開催される年の10月10日までに特許権が消滅していることにより本件特許取扱規定第10条が適用されることのない特許に関する相当対価請求権は,特許権の設定登録時又は実施開始時のいずれか遅い時点から10年を経過した時点で,消滅時効が完成することとなる。
なお,原告は 「実施」された特許には他社の市場参入を阻止するため ,に出願されたいわゆる防衛特許も含まれる旨主張する。しかし,本件特許取扱規定にも特許表彰規定にも,自社における「実施」についての他の意味で用いる旨の規定はないから,その概念は,特許法2条3項に定める「実施」と同じ意義で用いられていると解するのが合理的である。したがって,被告が実際に当該特許に係る発明の技術的範囲に属する製品の製造販売等,特許法2条3項に定める行為をしていない場合には,上記各規定にいう「実施」には当たらないと解するのが相当である。
キ乙17通知による告知について(ア)前記前提となる事実及び証拠(甲1の1〜3,乙18,20,27の1,29,35,93,94)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a特許表彰制度の創設は,乙17通知のみでなく,被告の同日発行の社報(乙35)においても報じられた。なお,同社報には,特許部名義で,特許表彰制度の意義に関し 「当社では従来,特許出願を奨励 ,するため,出願の時発明者に奨励金を交付して来たが,今回新たに特許表彰制度を設け平成4年度から実施することにした。今回設けられた特許表彰制度は,事業の業績に大きく寄与した特許の発明者を表彰することにより,会社にとって役に立つ特許をとる重要性を再認識し,このような特許を出願することの動機づけとなることを狙いとしている 」と記載されていた。 。
また,表彰手続について,特許登録から3年ごとに過去3年間の業績への特許の寄与を評価し表彰すること,関係部署の申請に基づき業績への寄与の大きい特許につき委員会で表彰特許を推薦し,特許部を統括する取締役が決定し,その特許の発明者を表彰することが記載されていた。
「表彰の対象特許」については,特許表彰規定第4条@ないしBと同趣旨のことが記載されていたが,対象特許が登録されているべき時期については記載はなかった。また,特許の業績への寄与の評価に関しては 「実施の利益とその利益に対する特許の寄与を勘案して,一 ,定以上の寄与の特許を3ランクに評価する。特許と技術開発とは切っても切り離せない関係にあるが,この制度が表彰の対象とするのは技術開発成果そのものではなく,特許の持つ排他的効果による業績への寄与である。斬新なアイディアや卓抜した技術に裏付けられていなくても,いわゆる並の技術であっても観点を変えた見方をすることにより役に立つ特許に育てあげることができる。特許出願の原稿を書かれる前にぜひ特許部員にご相談を 」と記載されていた。 。
b本件特許取扱規定及び特許表彰規定は,平成4年11月1日に施行されたが 「MR〈P24〉室長」宛てに作成されたこれらの各規定 ,を添付した「特許表彰制度発足について」という人事部長及び特許部長連名の連絡文書(甲1の1ないし3)は,同年12月4日付けで送付された。
c特許表彰規定第7条には,特許表彰委選考員会による選考会は,毎年10月中旬に開催するとされていたが,第1回特許表彰に関しては,施行日後に選考会が開催され,第3回特許表彰の選考会は平成7年2月16日に,第8回特許表彰の選考会は平成11年12月17日にそれぞれ行われた。
d原告は,乙17通知がなされた時点では有限会社Xテクノリサーチの代表取締役として被告との間で平成4年10月1日に「覚書」を締結し,同日以降,週に2日,被告の総合研究所においてナイロンフィルムの品質改良に関する技術指導に従事していた。原告が指導していた技術は,平成3年11月18日に原告が被告の総合研究所との間で非常勤嘱託契約を締結して以降取り組んでいた「ONyフィルムリップ筋の低減」に関する技術であった。
ところで,原告が,上記の〈P24〉室長宛て「特許表彰制度発足について」なる連絡文書及び同文書に添付された特許取扱規定及び特許表彰規定の写しを提訴当時から書証(甲1の1ないし3)として提出していたことは,当裁判所に顕著であり,これによれば,原告自身,平成4年12月当時に上記各文書を現実に受領し,その内容を了知していたものと認められる。しかし,他方,乙17通知については,原告がこれを被告の社内において具体的に知ったと認めるに足りる証拠はない。被告は,原告が平成4年10月1日から少なくとも1か年,被告の総合研究所内でNRプロジェクトの要員として技術指導に携わっていたところ,被告の総合研究所では,在籍・勤務する全員を対象に社報を配布するシステムを採っており,この配布システムは昭和57年当初から今日まで変更されていないこと等を根拠に,原告が乙17通知についても知り得た蓋然性が高いと主張するが,上記事情は原告がこれを知り得た可能性を示すにとどまるものであって,原告が現実に同通知を認識していたことまで推認させるものではないというべきである。
(イ)乙17通知は,これによって特許表彰制度が,特許表彰規定の定めとは異なり出願公告年を基準として運用されることを従業員に通知する文書であって,表彰の対象となる特許を区別する基準に関する通知であるから,乙17通知を知らず,特許表彰規定のみを了知していた従業員が,同規定の内容に基づいて権利行使した場合に,乙17通知に基づく運用をしていることを理由に不利益を受けるのでは,同規定の内容を信頼した従業員の対価請求権行使の機会を奪うこととなり,相当ではない。
また,乙17通知は,就業規則の変更に準じるような手続を踏まえて制定された規定であるとも認めることができず,就業規則の一部である本件特許取扱規定の細則を定めた特許表彰規定とは性質を異にするものであるから,乙17通知が特許表彰規定と矛盾し,かつ,原告が特許表彰規定の適用を受けるときと比べて不利益を受ける場合には,原告に対し乙17通知の適用をするためには,原告が同通知の内容を現実に了知し,少なくともこれを黙示的に承諾していたことが必要であるというべきである。
原告は,乙17通知が配布された当時,既に被告を退職しており,勤務規則の適用を受ける対象ではなかったが,勤務規則に定められた実績補償の支払時期は,相当の対価請求権の消滅時効の起算点となるものであり,被告において,退職した従業員に対しても従業員と同様に実績補償の支払をすることとしていたことは,弁論の全趣旨により認められるところである。したがって,前記のとおり,原告が乙17通知を了知したとは認められず,したがって,これに定められた運用について黙示的にも承諾していたと認められない以上,乙17通知の内容のうち,特許表彰規定の定めと矛盾するものは,原告に対し拘束力を有するものではないというべきである。
(ウ)この点につき,原告は,乙17通知の拘束力を受けないから,本件特許はいずれも平成6年の特許表彰の評価対象となる旨主張する。しかし,特許表彰規定によれば 「特許登録から3年毎に」選考され,かつ ,選考会は毎年開催されるのであるから,少なくとも特許権の設定登録時を基準として,3年に1度選考対象となることは充分認識可能なものである。したがって,原告の上記主張は採用できない。また,いかなる特許が対象となるのかは,退職した元従業員も上記の規定を見た上で被告に対して問い合わせることが充分期待できるから,選考対象となる特許については,乙17通知に記載されたとおりとするのが相当である。
(エ)また,原告は,出願公告日を基準として選考対象特許を分けることは合理的であるとして,この点については被告の運用に異議を述べていないから,本件においても,出願公告日を基準として選考対象特許を選別すべきである。しかし,仮にこのような運用に従うことによって原告に不利益が生じる場合についてまで,原告がかかる運用によることを容認しているわけではないことは明らかであるから,そのような場合には,特許登録日を基準として,消滅時効の起算点を認定するのが相当である。
(3)本件各特許に係る対価請求権の時効消滅の成否以上を前提に,本件において,対価請求権の時効消滅の成否を本件各特許ごとに検討する。
ア本件特許取扱規定及び特許表彰規定が制定された平成4年11月1日以前に抹消登録がなされた特許について,同規定の支払時期の定めの適用がないことは,前記のとおりである。なお,本件特許取扱規定施行前においては,昭和63年1月1日施行の特許取扱規定第11条に,顕著な実施効果の申請の規定があり,これは実績補償に関する定めではあるが,一律に支払時期を定めた規定であると認められないことも,前記のとおりである。
したがって,本件特許取扱規定及び特許表彰規定の支払時期の定めは,本件特許@ないしCには適用されず,設定登録日又はその後に実施された時点から消滅時効が進行する。そして,原告がSM樹脂において実施されたと主張する本件発明@ないしCについては,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,遅くとも昭和61年3月末にはSM樹脂を生産していたことが認められるから,これらの各発明に係る対価請求権の消滅時効の起算点は,昭和61年4月1日とするのが相当である。そして,原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日までに,既に10年を経過していることが明らかである。したがって,これらの発明に係る対価請求権は,被告の消滅時効援用により,上記起算点に遡って消滅したものというべきである。
また,N1100について本件発明Bが実施されたとの原告の主張は,原料樹脂であるSM樹脂の生産に関してであるから,本件発明Bに係る対価請求権の消滅時効の起算点は,上記のとおりSM樹脂の生産開始日である昭和61年3月末日となるから,この対価請求権も,上記同様,被告の消滅時効援用により消滅したことになる。
イ本件各特許のうち,原告が防衛のために出願されたと主張する本件特許G,L,NないしQ及びSは,前記のとおり,本件特許取扱規定及び特許表彰規定にいう「実施」された特許には該当しないから,本来,その特許の設定登録日が消滅時効の起算点となると解すべきところ,被告は設定登録日の翌日をもって消滅時効の起算点とし,その範囲で消滅時効援用しているので,以下,設定登録日の翌日を消滅時効の起算点として時効完成の有無を判断することとする。
したがって,前記前提となる事実によれば,上記各特許の消滅時効の起算点は,以下のとおりとなる(いずれも,特許登録日の翌日 。)・本件特許G昭和55年12月26日・本件特許L昭和59年9月1日・本件特許N昭和63年6月9日・本件特許O昭和61年12月25日・本件特許P昭和61年12月25日・本件特許Q昭和61年11月29日・本件特許S昭和63年3月25日以上によれば,上記各特許に関する相当の対価請求権は,いずれも原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日までに10年以上が経過しており,被告の消滅時効援用により,消滅していることが明らかである。
ウ被告において実施したことを認める特許(本件特許D,E,M)及び原告が被告において実施されたと主張する特許(本件特許I,J,K,R)について,出願公告年を基準とすると,その特許表彰の対象となり得る年度は,以下のとおりである。
(ア)平成4年度評価対象特許(括弧内は,出願公告年。以下同じ )。
・本件特許K(昭和58年)(イ)平成5年度評価対象特許・本件特許I(昭和56年)・本件特許J(昭和56年)・本件特許M(昭和59年)なお,本件特許Dは平成5年2月6日に,本件特許Eは平成5年9月7日に,いずれも特許権が登録抹消されているため,評価対象とはならない。
(ウ)平成7年度評価対象特許・本件特許R(昭和61年)なお,本件特許Kは平成6年8月24日に特許権が抹消登録されているため,評価対象とはならない。
(エ)平成8年度評価対象特許・なし。
なお,本件特許権Jは,平成8年8月9日に特許権が登録抹消されているため,評価対象とはならない。
そして,原告が本件訴訟を提起したのは,平成16年9月30日であるから,平成5年度以前の特許表彰の対象特許及びその評価期間の実績に関する相当の対価請求権は,平成6年3月31日にその支払時期が到来し,この日が起算点となるから,原告が本件訴訟を提起した平成16年9月30日までに10年が経過しており,被告の消滅時効援用により消滅した。他方,平成7年3月31日に奨励金の支払時期が到来する平成6年度以降の特許表彰の対象特許については,いまだ消滅時効期間が経過していないことになる。
以上のとおり,出願公告日を基準にした場合,本件特許I,J,K,Mの平成2年10月中旬以降特許権が消滅するまでの間の実績に関する対価請求権は,時効により消滅したこととなる。
エもっとも,前記のとおり,原告が乙17通知を現実に了知したと認めることはできないから,乙17通知に従った運用をすることによって原告に不利益が生じる場合には,特許表彰規定に従い,特許権の設定登録年を基準として,選考対象特許を選定すべきである。
そこで,特許権の設定登録年を基準とすると,本件特許D,E,I,J,K,M及びRが特許表彰の対象となり得る年度は,以下のとおりである。
(ア)平成4年度評価対象特許(括弧内は特許登録年。以下同じ )。
・本件特許K(昭和58年)(イ)平成5年度評価対象特許・本件特許I(昭和57年)・本件特許M(昭和59年)・本件特許R(昭和62年)(ウ)平成6年度評価対象特許・本件特許J(昭和57年)本件特許D(昭和54年)は,平成5年2月6日に特許権が登録抹消されているため,評価対象とはならない。
本件特許E(昭和54年)も,平成5年9月7日に特許権が登録抹消されているため,評価対象とはならない。
(エ)平成7年度評価対象特許・なし本件特許Kは,平成6年8月24日に特許権が登録抹消されているため,評価対象とはならない。
(オ)平成8年度評価対象特許・なしそして,原告が本件訴訟を提起したのは,平成16年9月30日であるから,平成5年度以前の特許表彰の対象特許及びその評価期間の実績に関する相当の対価請求権は,時効により消滅していることになる。他方,平成7年3月31日に奨励金の支払時期が到来する平成6年度以降の特許表彰の対象特許については,いまだ消滅時効期間が経過していないことになる。
したがって,登録年を基準とすると,本件特許I,M,Rの平成2年10月中旬以降特許権が消滅するまでの間の実績に関する対価請求権については,時効により消滅したこととなる。
オ以上によれば,出願公告年を基準としても登録年を基準としても,本件特許I及び同Mの平成2年10月中旬以降特許権が消滅するまで間の実績に関する対価請求権は時効により消滅したものである。したがって,これらの各特許に関する限り乙17通知により出願公告年を基準にしても,これによらない場合と比べて原告に不利益を及ぼすことはない。
なお,本件特許I及び同Mの平成2年10月中旬より前の実績に関する相当の対価の支払時期は,旧特許取扱規定の実績補償の定めに従って定められることとなる。そして,本件発明Mは,FSMフィルムに関する発明であるところ,被告がFSMフィルムの生産を開始した時期は昭和49年である(争いのない事実 。したがって,遅くとも本件特許権Mの設定登 )録日(昭和59年10月17日)の翌日である昭和59年10月18日には,原告は,実績補償に係る対価請求権を行使することが可能であったということができるから,同日をもって,同請求権の消滅時効の起算点とするのが相当である。そうすると,本件特許Mの上記実績補償に係る対価請求権は,被告の消滅時効援用により消滅したことになる。
また,原告は,積層容器に関する発明である本件発明Iを,SM樹脂の用途発明として積層PETボトルにおいて実施していると主張する。被告がSM樹脂の生産を開始したのは,遅くとも昭和61年3月であり(乙19 ,仮に被告が本件発明Iを実施しているとすれば,遅くともこの頃に )は実施を開始していたものというべきであるから,同発明に係る対価請求権の消滅時効の起算点は,同年4月1日とするのが相当である。そうすると,本件特許Iの上記実績補償に係る対価請求権は,被告の消滅時効援用により消滅したことになる。
なお,特許登録年を基準とすることによって,本件特許Jが評価対象たり得ることとなるので,本件特許Jの平成2年10月中旬以降特許権が消滅するまでの間の実績補償に係る対価請求権については,出願公告年を基準とせず,登録年を基準とすることとする。そして,本件特許Jに係る対価請求権については,旧特許取扱規定に基づき,特許権の設定登録日(遅くともその翌日)を消滅時効の起算点と考えれば,本件特許取扱規定施行前に,その対価請求権についての消滅時効がいったん完成することは,被告の主張するとおりである。しかし,本件特許取扱規定は,その施行時に存続する特許権に係る発明を対象として,改めて実績補償に関する支払時期を定めたものであるから,特許表彰規定第4条の要件を充足して奨励金の支給対象となる発明について,対価請求権に係る債務を消滅時効完成後に承認する趣旨の規定であると解される。よって,本件発明Jの平成2年10月中旬以降の実績に関する対価請求権の有無を検討することとする。
カなお,本件特許D,E,Kのように,本件特許取扱規定の施行日には特許権が存続していたものの,特許表彰選考委員会の選考会の開催時期である10月中旬より前に特許権が消滅している場合には本件特許取扱規定及び特許表彰規定の適用がなく,旧特許取扱規定の規定に従って支払時期の定めの有無を判断することになることは,前記判示のとおりであるところ,同規定では,登録時又は実施開始時のいずれか遅い時点をもって支払時期と定めたものと解される。
そして,本件発明D及び同Eの方法により製造されたT601レジンを原料とするFSMフィルムの生産を被告が開始したのは,昭和49年である(争いのない事実)から,本件特許D及び同Eに係る対価請求権のうち実績補償分は,いずれも昭和54年5月25日の特許権の設定登録をもって,原告において権利行使することが可能となったものであり,被告の援用する同月26日が消滅時効の起算点となる。そして,同対価請求権は,本件訴訟の提起があった平成16年9月30日までに10年以上が経過しており,被告の消滅時効援用により消滅している。
さらに,原告は,本件特許KはFSMフィルムにおいて実施されたと主張するが,上記のとおり,FSMフィルムの生産を被告が開始したのは昭和49年であり,同特許の設定登録がなされたのは昭和58年11月30日であるから,原告は,この設定登録がなされたことによって,本件発明Kの相当対価請求権のうち実績補償分について権利行使することが可能となったものである。よって,遅くともその翌日である同年12月1日が消滅時効の起算点となる。したがって,本件発明Kに係る対価請求権は,本件訴訟の提起があった平成16年9月30日までに10年以上が経過しており,被告の消滅時効援用により消滅している。
キ以上のとおり,本件各特許のうち,原告の被告に対する本件特許@ないしE,G,I,KないしQ及びSに関する対価請求権は,すでに時効により消滅しており,本件特許J,Rに関する対価請求権のみが時効消滅しないで存続していることになる。
ク本件A発明ないし本件G発明の対価請求権について本件A発明ないし本件G発明の対価請求権については,前記前提となる事実(2)イによれば,本件F発明に係る特許権を除く6件の特許権は,いずれも本件特許取扱規定施行前に登録抹消されており,本件特許取扱規定の適用対象とはならない。また,本件F発明に係る特許は,出願公告が昭和53年11月6日になされ,設定登録は昭和54年7月20日になされているから,出願公告日を基準とすると,平成5年度の特許表彰の対象特許となるものの,既に特許表彰委員会による選考会開催前に権利が消滅している。また,仮に登録年を基準とすると,平成6年度の特許表彰の対象特許となるものの,これも既に同選考会開催前に権利が消滅している。したがって,本件F発明に係る特許権は,いずれにせよ本件特許取扱規定の適用を受けない。
したがって,原告は,これらの各発明に関しては,いずれも設定登録時又は実施開始時のいずれか遅い時点において,対価請求権の実績補償分についての権利行使が可能となったということができる。そして,弁論の全趣旨によれば 「ダイナック」は,呉羽テックにおいて昭和53年4月か ,ら売上げが計上され始め,遅くともこのときまでには実施されていたと認められる。
よって,原告は,上記各発明についての特許を受ける権利承継による対価請求権を,上記実施開始時より遅く,かつ最も遅く設定登録がなされた本件G発明に係る特許権の登録日(昭和54年10月19日)の翌日である同月20日には行使することができる状態になったというべきである。
そして,本件A発明ないし本件G発明に係る対価請求権は,本件訴訟の提起があった平成16年9月30日までに,その時効起算点から既に10年以上が経過しており,被告の消滅時効援用により消滅したものというべきである。
4争点(1)(被告が原告に対して支払うべき相当の対価の額)について前記3で検討したとおり,原告の被告に対する本件特許@ないしE,G,I,KないしQ及びSに関する対価請求権は,時効により消滅しており,これ以上の検討を進めるまでもなく同請求権に基づく相当の対価の支払を求める原告の請求は理由がないので,以下,本件特許J及び同Rに関する相当の対価の額について検討する。ただし,本件において,原告は,被告の不法行為により相当の対価の額に相当する損害を被ったとも主張するので,上記各特許以外の本件各特許の実施の有無についても検討することとする。また,事案の内容にかんがみ,これらのうち防衛特許網を構築したと原告が主張する本件特許J,L,NないしSに関する相当の対価の額についても検討する。
(1)相当の対価算定方法について本件各発明は,原告を含む複数の者の共同による職務発明であること,被告は,本件発明の特許を受ける権利の譲渡を受け,その特許出願をし,特許登録を受けたこと,原告は,被告から本件各発明に係る特許を受ける権利(共有持分)の承継(譲渡)の対価として,各特許取扱規定に基づき,別紙「今までに得た奨励金」記載のとおりの出願奨励金及び登録奨励金として2万5076円の支給を受けたことは,前記前提となる事実のとおりである。
そして,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が特許法35条4項の規定に従って定められる相当の対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づいて,その不足額に相当する対価の支払を求めることができるものと解される(前記最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決 。)そこで,本件特許J及び同Rに係る相当の対価の額について検討し,原告において受領した奨励金の額に不足額があるかどうかを判断する。
ア特許法35条3項は 「従業者等は,…職務発明について使用者等に特 ,許を受ける権利…を使用者等に承継させ…たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する 」と規定し,同条4項は,その対価の額を「その発 。
明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない 」としている。。
イしかし,使用者等は,職務発明について特許を受ける権利承継しなくても,その特許発明について通常実施権を有する(特許法35条1項)ことにかんがみれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,単に当該特許発明実施することにより得るべき利益であれば足りるものではなく,これを超えて特許発明実施を排他的に独占することによって得られる利益,すなわち,使用者等が従業者等から特許を受ける権利承継して特許を受けた結果,特許権による法的独占権又は特許を受ける権利については補償金請求権ないしはその登録後に生じる法的独占権に由来する独占的実施の利益あるいは第三者に対する実施許諾による実施料収入等の利益(以下,単に「独占の利益」ともいう )であ。
ると解するのが相当である。
ウそして,独占の利益とは,使用者等が他社に当該特許発明実施許諾していない場合には,特許権の効力として他社に当該特許発明実施を禁止したことに基づいて使用者等があげた利益がこれに該当する。
また,従業者等が,職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させた場合には,その承継のときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得するものであるから(前記最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決参照 ,相当の対価の額の算定の基準とすべき時点は,その承継時 )であるというべきである。そして,相当の対価の算定に当たって考慮すべき使用者等の「受けるべき利益」とは,その文言が「受けた利益」とはされていないことからして,使用者等が権利承継後に現実に取得した利益ではなく,権利承継時に客観的に見込まれる利益の額のことを指すと解される。ただし,特許権は,その存続期間を通じて特許発明実施を独占することのできる権利であるから,独占の利益も,特許権の存続期間が終了するまでの間に使用者が上げる超過売上高等に基づく利益を指すものであり,当該利益の認定に当たって,事実審口頭弁論終結時までに生じた一切の事情をしん酌することができるのは当然である。
なお,使用者等が職務発明について特許を受ける権利承継した場合は,特許を受ける前においてもその職務発明実施を黙示的に許諾されているのが通常であり,この場合において,実施により上げた利益が通常実施権によるものを超えるときには,当該発明が貢献した程度を勘案して「その発明により使用者等が受けるべき利益」を定めることができる。
そして,この「独占の利益」に加え 「その発明がされるについて使用 ,者等が貢献した程度 (特許法35条4項)や,共同発明者が存在する場 」合には各共同発明者の寄与度も考慮して,相当の対価が算定されることになる。
(2)N2100の製造販売につき,本件特許権J及び同Rが存在することによる独占の利益の有無についてア被告が本件発明J及び同Rを実施しているか否か,より具体的には,N2100の製造方法が本件発明J及び同Rの技術的範囲に属するか否かについては,本件ベスタミドが特定ダイアミドであるか否かという点をはじめとして争いがある。しかし,仮に,N2100の製造方法が本件発明J及び同Rの技術的範囲に属するとしても,本件特許権J及び同RがN2100の売上げについて独占の利益を生じさせたとは認められないか,あるいは,相当の対価の不足額が既に受領した奨励金の額を超えるとは認められないのであれば,これらの各発明の実施の有無について判断するまでもなく,同発明についての対価請求権の不足額は存在しないと判断することが可能である。そこで,以下,N2100の製造販売につき,本件特許権J及び同Rが存在することによる独占の利益の有無等について検討する。
イ証拠(甲8,19ないし45,56,乙2,3,27の2,38の1ないし4,47の1,48,49,57ないし76,77の2,78の2,79の1,80の1,81,82の1,83の1,101ないし103,130,131)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)ONyフィルム市場の市場構造についてaわが国におけるONyフィルム市場の市場構造わが国において,ONyフィルム事業を行っているのは,ユニチカ,興人,被告,三菱モンサント化成,出光石油化学である(なお,興人と三菱モンサント化成は,平成8年10月1日,三菱化学興人パックス株式会社を設立し,同社を通じて販売していた。。)この5事業者のONyフィルムに関する出荷シェアは,平成7年の総合包装出版株式会社の推定によれば,年間生産量が合計3万905), 0トンであり,そのうちユニチカが1万7600トン(45.0%) . 被告が1万1300トン(28.9% ,興人が5200トン(133% ,三菱化学が3800トン(9.7% ,出光石油化学が115 ) )0トン(2.9%)であった。また,同じく平成9年の推定では,年間生産量が合計3万8550トンであり,そのうちユニチカが1万8300トン(47.5% ,被告が1万0500トン(27.2% , ) )三菱化学興人パックスが8900トン(23.0% ,出光石油化学)が850トン(2.2%)であった。
上記各事業者の中で,ONyフィルムの製造を最も早く開始したのがユニチカである。同社は,昭和43年にONyフィルムの製造を開始したが,ONyフィルムの製造方法については,フラットなフィルムの両耳をつかんで拡伸(横延伸)するテンター方式で,横延伸と同時に縦延伸も行う同時二軸延伸法を採用している。
興人は,昭和45年にフィルムをチューブ状に押し出し,内圧によって膨張させて延伸するチューブラー法による二軸延伸単膜ナイロンフィルムの操業を開始している。同社のシェアは,被告に次いで3位である。
被告は,昭和51年8月からハーデンの商品名でONyフィルムの量産化を行っている。被告の採用しているONyフィルム製造法は,ブレンドによるテンター方式逐次二軸延伸法である。
次に,ONyフィルム事業を行ったのは,三菱モンサント化成(現在,同事業は三菱樹脂に引き継がれている )であり,同社は,昭和 。
62年にテンター方式逐次二軸延伸法によるONyフィルムの開発に成功し,市場参入している。同社のONyフィルムは,ブレンドによらない逐次二軸延伸法である(争いがない。なお,ブレンドによら 。)ないONyフィルムの逐次二軸延伸法に関する発明としては,特開昭50-55679公報に係る発明がある。同出願は後に拒絶査定が確定している(乙55,56の1・2 。)また,出光石油化学も,昭和62年にインフレーション法によるONyフィルムで市場参入している。
b各製造方法の特徴等について上記製造方法のうち,一般にテンター方式のほうが設備費は高く,またフィルムの端部が耳くずとなるので,この部分の再生又は有効活用を図らないとコスト高となることが指摘されている。他方,製品の特性や厚みの多様化及び厚みむらや平面性など品質の高度化にはテンター方式のほうが対応しやすいとされている。また,ナイロンはテンター方式の逐次二軸延伸法では二軸配向しにくく,同時二軸延伸法のほうが延伸しやすい。
c製品であるONyフィルムについて以上のとおり,わが国では少なくとも5社がONyフィルム事業を行っており,そこで採用されている製膜方法はそれぞれ独自のものである。ただし,得られるONyフィルムの物性自体は,いずれもナイロン6フィルム固有の特性を有し,品質面での微差はあるにしても,基本的な特性(物性)には実質的な差異がない。したがって,ONyフィルムの用途は,5社とも,一般包装用,特に,冷凍食品包装用が主体である。このように,被告の製造販売するONyフィルムの各銘柄は,他社と市場において競合している。
(イ)被告におけるフィルム製膜工程及びその技術の推移上記(ア)のとおり,被告が採用しているONyフィルム製造法は,ブレンドによるテンター方式逐次二軸延伸法であり,その製膜工程の概要は,以下のとおりである。
まず,ナイロン6等の脂肪族ポリアミドに,ブレンド成分となる樹脂(SM樹脂や特定ダイアミドなど製品によって異なる )を一定の割合。
で混合した後溶融し,これを押出機のTダイより冷却ロール上へフィルム状に押し出して,フィルムのガラス転移点以下の温度に冷却固化し,未延伸フィルムを作成する(この工程をキャスティングという。その。)後,フィルムのガラス転移点以上の温度に加熱しながら縦延伸機で縦延伸を行い,さらに高い温度に加熱して横延伸機で横延伸を行う。本件発明J及び同Rや [V]発明 [Y]発明は,いずれもブレンドによるO ,,Nyフィルムの製造法に関する発明であり [W]各発明は,キャステ ,ィング法に関する発明である [W]各発明が出願されるまでの公知技 。
術としては,エアーナイフ法,静電印加法(甲19)などがあった。
(ウ)本件発明J及び同Rの出願当時の被告における位置付け原告は,昭和49年6月以降,堅田研究所プラスチック研究所B研究室においてFSMフィルム等の研究に従事していたが,昭和50年5月に同研究所のC研究室長となり,新規機能材料の研究に従事していた。
同年2月6に [V]発明に係る特許出願(MSM樹脂のブレンドによ ,るONyフィルム製造法)がなされ,さらに昭和56年2月3日,[Y]発明(SM樹脂のブレンドによるONyフィルム製造法)に係る特許出願がなされた。
[V]発明及び[Y]発明は,被告におけるONyフィルム製造法の基本特許とされたが,本件発明J及び同Rは,被告において具体的な製品の開発過程で見出された技術内容ではなく,上記発明の周辺技術と位置付けられていた。
また,N2100の生産開始時期は,昭和61年11月ころであったが,本件発明J及び同RがN2100の開発に貢献したとして特許表彰等の対象となったこともなかった。
(エ)本件特許J及び同Rの明細書の実施可能要件充足性についてa被告は,平成17年12月5日から平成18年1月13日にかけて,本件発明J及び同Rに規定する重量比の範囲内でブレンドした樹脂を用いて製造したフィルムが,両発明の明細書に記載された効果(ナイロン6樹脂単体で製造する場合と異なり,逐次二軸延伸法で工業的にポリアミドフィルムの製膜が可能となること)が得られるか否かを確認するための実験をした。
その結果,キャスティングの方法(以下「キャスト法」という )。
としてコロナ放電技術を用いず,従来技術であるチルロール冷却法に耳エアーノズル法(冷却空気を溶融シートの両端部に吹き付ける方法)を併用して,ナイロン6樹脂に特定ダイアミドを3重量%混合した場合(試料B)とナイロン6樹脂を単独で用いた場合(試料C)とでは,1水準の縦延伸温度(55℃)においてのみ,引き続く横延伸が可能であり,逐次二軸延伸のしやすさにおいて同等であった。
また,キャスト法にコロナ放電技術を用いて同様の実験をしたところ,試料B及び試料Cのいずれにおいても55℃及び65℃の縦延伸温度において,引き続く横延伸が可能となり,逐次二軸延伸のしやすさにおいて同等であった。
ナイロン6樹脂90重量%にナイロン12樹脂を10重量%混合した物(試料A1)と,ナイロン6樹脂97重量%にナイロン12樹脂を3重量%混合した物(試料A2)を用いて,上記従来技術によるキャスト法を用いて製造した場合と,試料Cを用いて製造した場合とを比較すると,前二者は,2水準の縦延伸温度(55℃及び65℃)において引き続く横延伸が可能になるのに対し,後者は1水準(55℃)においてのみ引き続く横延伸が可能であった。
b被告は,平成17年8月9日から同年10月30日にかけて,本件発明Rの製造法によって製造されるフィルムが,同発明による効果である透湿度及び耐湿性(耐水性)を向上させる効果があるか否かを確認する実験を行った。
実験に当たっては,ナイロン6樹脂80重量%にナイロン12樹脂を20重量%混合した物(試料A1 ,ナイロン6樹脂97重量%に )ナイロン12樹脂を3重量%混合したもの(試料A2 ,ナイロン6)樹脂97重量%に特定ダイアミドを3重量%混合した物(試料B ,)ナイロン6樹脂のみを組成物とする物(試料C)を原料樹脂とし,コロナ放電技術を用いて製造した。
その結果,試料Bを用いて製造されたフィルムは,試料Cを用いて製造されたフィルムと比較して,透湿度及び濡れ張力(耐水性)において同等であった。試料A1及びA2を用いて製造されたフィルムは,試料Cを用いて製造されたフィルムと比較すると,ナイロン12樹脂のブレンド比率が高い試料A1に関しては,透湿度及びフィルム幅方向の破断強度が向上していることが確認され,試料A2を用いて製造されたフィルムは,試料A1を用いて製造されたフィルムと比較すると,改良の程度において劣っていたことが確認された。
また,試料Bを用いて製造されたフィルムのみが,試料Cを用いて製造したフィルムよりも屈曲ピンホール特性が改善していた。
c被告は,平成18年4月20日,同月25日,同年5月8日から19日にかけて,上記aの実験の追試実験を行った。なお,上記aの実験との相違点は,Tダイ押出温度を270℃(上記aの実験においては280℃であった )とした点である。。
被告が,原料樹脂の樹脂組成としてナイロン6樹脂(被告製「T814」相対粘度2.8)を97重量%,特定ダイアミドを3重量%用いた場合(試料A)と,ナイロン6樹脂を単独で用いた場合(試料B)における逐次二軸延伸のしやすさを比較する実験を行った。冷却ドラム表面へのシート密着手段には,耳エアーノズル法(冷却空気を溶融シートの両端部に吹き付ける方法)を用い,横延伸温度は95℃では横延伸時の応力が高すぎるため,115℃に設定した。
その上で,逐次二軸延伸したところ,試料Aについては2回中2回とも横延伸工程で破断が生じ,製膜することができなかった。他方,試料Bについては,2回中2回とも破断は生じたが,製膜は可能であった。
d被告は,平成18年4月20日,同月25日,同年5月8日から19日にかけて,上記bの実験の追試実験を行った。なお,上記bの実験との相違点は,Tダイ押出温度を270℃(上記bの実験においては280℃であった )とし,未延伸フィルムの厚さを120μm 。
(上記bの実験では170μmであった,縦延伸を60℃で3.0 。)倍,横延伸を135℃で3.5倍とした点である。これらの変更点は,本件特許Rの明細書記載の実施例1の条件に合わせたものである。
被告は,上記cと同じく,原料樹脂の樹脂組成としてナイロン6樹脂(被告製「T814」相対粘度2.8)を97重量%,特定ダイアミドを3重量%用いた場合(試料A)と,ナイロン6樹脂を単独で用いた場合(試料B)における透湿度,濡れ張力,破断強度,衝撃強度及び屈曲ピンホールが95□中,何個できるかを実験により調査した。
なお,シート密着手段には,コロナ放電技術を用いた。そうすると,試料Aと試料Bの透湿度,濡れ張力(耐水性)衝撃強度のいずれもほぼ同程度であった。破断強度については,試料Aを用いた物は,縦方向240MPa,横方向320MPaであったのに対し,試料Bを用いた物は,縦方向270MPa,横方向290MPaであった。屈曲ピンホールについては,試料Aを用いた物は0.3個であったのに対し,試料Bを用いた物は,2.7個であった。
e被告は,平成18年4月20日及び同月25日に,本件特許Jの明細書の実施例1につき,第2表の最下行の条件(ポリマー混合比,ナイロン6樹脂,95%:ナイロン12樹脂,5%)に従い,追試実験を行った。なお,シート密着手段には,耳エアーノズル法を用いた。
その結果,縦延伸はできたものの,引き続く横延伸工程では,フィルム破断が生じて,逐次二軸延伸フィルムを製造することはできなかった。
さらに,被告は,本件特許Rの明細書の実施例1の試料A(ナイロン6樹脂,60%:ナイロン12樹脂,40%)につき,同明細書記載の条件で追試実験を行ったところ,Tダイから溶融押出される無定形溶融シートが激しく波打って吐出したため,チルロール表面上に均一密着(均一冷却)することができず,縦延伸工程へ供給すべき未延伸フィルムを取得することができなかった。
ウ上記認定事実によれば,本件発明J及び同RのN2100の売上げに関する独占の利益については,以下のようにいうことができる。
(ア)本件発明Rの明細書の実施可能要件充足性について上記イ(エ)によれば,本件発明Rは,唯一の実施例を追試したところ,Tダイから溶融押出される無定形溶融シートが激しく波打って吐出し,チルロール表面上に均一に密着することが全くできなかったというのであるから 「延伸ポリアミドフィルムの製造法」に関する同発明の出願 ,前に,出願内容に関して果たしてその実施が可能であることを確認する実験が行われたのか疑問を持たざるを得ない。
また,原告が主張する出願経緯は,昭和51年4月ころ,ONyフィルムが逐次延伸で容易に得られることを〈P6〉らが見出したのを知り,取り急ぎ特許出願用の原稿シートを自主的に勤務時間外に作り,まず本件発明L,NないしQに関する発明を昭和51年5月に出願し,これをベースに分析センターの〈P10〉室長や,フィルム研究室〈P5〉室長にも含環ポリアミドを含む特許出願を依頼し,昭和51年8月に本件特許J及び同Rを出願したというのである。しかし,まず本件特許L,NないしQについて,わずか1か月ほどの期間にフィルムを製造する実験を行い,好ましい原料組成や製膜条件等を検討することができるとは到底推認できないし,本件特許Rについては,原告によれば,原告と〈P5〉室長以外は誰の関与もなかったので即決で方針や中味の変更をし,出願に時間もかからなかったというのであるから,同特許についても,フィルムを製造する実験を行い,好ましい原料組成や製膜条件等を検討した上で出願したとはにわかに認めることができない。
また,本件発明Rは,その特許請求の範囲によれば 「ε-カプロア,ミド単位を分子鎖中に80モル%以上含有するポリアミド又は/及びヘキサメチレンアジポアミド単位を80モル%以上含有するポリアミド(A成分ポリアミド)50〜97重量%と吸水率が1.0%以下の値を有する脂肪族系ポリアミド(B成分ポリアミド)50〜3重量%とから成る重合体混合物」を原料樹脂とするものである。そして,前記のとおり,特定ダイアミドが本件発明Rの特許請求の範囲に規定されているブレンド成分であるか否かに争いがあるものの,特定ダイアミドが該当するブレンド成分でなければ,N2100の製造方法は本件発明Rの実施に該当しないのであって,その対価請求権が時効により消滅していることは明らかである。そこで,ここではひとまず,特定ダイアミドが本件発明Rの規定するブレンド成分であると仮定して判断すると,特定ダイアミド3重量%を,ナイロン6樹脂97重量%に配合した原料樹脂の配合割合は,上記特許請求の範囲における数値限定の範囲内であるが,ナイロン6樹脂のみを原料樹脂として製造したフィルムと比較して逐次二軸延伸が容易になるという効果が生じたと認めるに足りる証拠はなく,本件特許Rの明細書を見ても,上記の配合割合の原料樹脂を用いた場合に,逐次二軸延伸性を向上させることのできる技術内容の開示はない。
よって,仮に,特定ダイアミドが本件特許Rの特許請求の範囲にいうブレンド成分であったとしても,その明細書には,当業者が明細書記載の効果を生じさせることができる条件の記載がないか,その請求項記載の構成を採用することによる効果を明細書に記載せずに,それ以外の効果を記載したことが認められるから,本件特許Rの明細書は実施可能要件を充足しておらず,本件特許Rには無効理由が存在するものと認められる(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項,123条1項3号 。)(イ)本件発明Jの明細書の実施可能要件充足性について本件発明Jは,その原料樹脂の組成が 「α型脂肪族ポリアミド(ま ,たはそれらのポリアミド混合物)97〜80(重量)%と(1)γ型脂肪族ポリアミドまたは/および(2)非晶性脂肪族ポリアミドまたは/および(3)キシリレンジアミン残基を分子鎖中に70モル%以上含有しない含環ポリアミド3〜20(重量)%とを混合したポリアミド混合物」( 請求項1 )及び「α脂肪族ポリアミド(またはそれらのポリアミド 【】混合物)97〜80(重量)%とポリアミド以外の熱可塑性ポリマー3〜20(重量)%の重合体混合物 ( 請求項2 )を特許請求の範囲と 」【】するものであり,混合するポリマーの範囲の広い発明である。同発明に係る明細書についても,記載要件を充足するためには,同明細書記載の効果を奏するための製造条件についての記載がなされていることが必要である。
しかし,上記のとおり,被告がその明細書記載の実施例のうちの一つを追試実験したところ,縦延伸はできたものの,横延伸工程ではフィルムが破断し,逐次二軸延伸することができなかったものである。また,原告は,本件特許Jについては 〈P10〉室長に本件特許L,Nないし ,Qの特許出願や,ホットメルト接着剤や透明ナイロンの研究開発での知見を基に,・A(CL/Ny66塩/LL=30/30/40重量%)・B(CL/Ny610塩/TMD10塩 =30/30/40重量%)・C(TMD-T)・D(Ny6/6T塩/6I塩=10/10/80重量%)・E(CL/Ny66塩/MBCA6塩=30/35/35重量%)・F(CL/CBM6塩=13/87重量%)の案を提示したと主張するのであるが,原告の主張する経緯によっても,本件特許Jの出願前に,原告がフィルムを製造する実験を行い,好ましい原料組成や製膜条件等を検討したとの説明は一切なく,かつ,そのような実験をしたことを示す証拠もない。さらに 〈P10〉室長の陳述 ,書(乙111)においても,犬山工場の破断試料のサンプル(実施された[Y]特許によるものと思われる )を依頼し,研究の結果,破断の 。
原因を究明したことについての説明はあるものの,更にフィルムを製造する実験を行った上で好ましい原料組成や製膜条件等を検討したとの具体的記述はない。
以上によれば,本件特許Jの出願に当たり,被告において実験による出願内容の裏付けが行われたとは認めることができないものであって,そもそも,本件特許Jの特許請求の範囲の数値の範囲内の組成である原料樹脂を組み合わせることによって,本件特許Jの明細書に記載された効果を奏することができるのかは,明らかではないといわざるを得ない。
そして,仮に,特定ダイアミドが本件特許Jの特許請求の範囲に規定されるブレンド成分であるとしても,上記のとおり,本件発明Jについても,ナイロン6樹脂のみを原材料とする場合と比較して,ナイロン6樹脂97重量%に特定ダイアミドを3重量%混合した原材料樹脂を用いてフィルムを製造した場合に,逐次二軸延伸性が向上したと認めるに足りる結果が出ておらず,かつ上記配合割合の原料樹脂を用いた場合に,逐次二軸延伸性を向上することを可能とする技術の開示がないことによれば,本件特許Jについても,その明細書に記載されている効果を当業者が生じさせることができる条件の記載がないか,その請求項記載の構成を採用することによる効果を明細書に記載せず,それ以外の効果を記載したことが認められる。よって,仮に,特定ダイアミドが本件特許Jの特許請求の範囲にいうブレンド成分であるとしても,本件特許Jの明細書については,実施可能要件を充足せず,本件特許Jには無効理由が存在するものと認められる(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項,123条1項3号 。)(ウ)無効理由がある特許について一律に独占の利益がないとまでいうことは相当ではないが,本件特許権Rに関しては,実施例を追試しさえすれば,無効理由の存在に気付き得るものであって,本件特許権Rが同業他社にとって無視できない存在であるならば,当業者として容易にその存在に気付き,異議あるいは無効審判請求を提起し,これによって特許が無効とされていたことが充分予想されるところである。
また,本件特許権Jについても,同様に,同業他社にとって技術開発上無視できない存在であるならば,同業他社において数値限定の範囲内で追試することにより,出願当時の技術水準では実施することが困難であったことや,数値範囲内のいくつかの該当するブレンド成分を混合した樹脂を原材料として逐次二軸延伸フィルムを製造すれば,実験結果について同特許の明細書記載の効果を奏さないこと,あるいは同効果を奏するために必要な条件の記載がないことに容易に気付き,異議あるいは無効審判請求を提起し,これによって特許が無効とされていたことが推察されるところである。
しかるに,本件特許R及び同Jについて同業他社が異議あるいは無効審判請求を提起するような措置をとった形跡はない。このことは,上記各特許がいずれも同業他社にとって無視し得るような特許であること,すなわち,前記認定のとおり同業他社において同各特許に抵触しない他の代替技術を用いて同等のナイロンフィルムを製造販売しており,本件発明R及び同Jを実施する必要を感じていなかったからであると推認させる。
そして,製造方法によっては製品の品質に明らかな優劣がつかないのであれば,製造方法としての優劣は,製造コスト(生産能力も含まれる )の優劣が大きな比重をもって決せられると考えることができると 。
ころ,製造コストの優劣について,原告は,被告の内部資料である「ONY技術の再構築プロジェクト(案(甲18)に,被告のONyフィ )」ルム製造方法による製造コストは,ユニチカの製造コストよりも優れているとの資料が掲載されていることをもって,ブレンドによるONyフィルム製造方法が市場において優位な地位にあったと主張する。
しかしながら,被告の採用する製造方法がユニチカと比較して1kg当たりで約118円のコスト削減を図ることが可能であったとの上記資料の記載は,ユニチカがその後もシェアにおいて圧倒的に優位な地位に立っていることや,昭和54年12月18日付けの発明改善審査申請書(乙6,115の1)には,被告のONyフィルムについて「先発二社,同時二軸延伸法のユニチカエンブレム及びインフレーション法の興人ボニールに対して品質・コストの面で優るとも劣らない」と記載されているにとどまることからすると,ただちに信用することはできない。
また,本件発明J及び同Rが,他社が既に投資した設備投資額を考慮しても採用すべきと判断されるような製造方法に関する特許発明であるならば(特に,両発明の権利範囲は広く,回避困難と判断する場合も生じることが容易に想定される,他社は,両発明について被告に実施許 。)諾を申し出るか,あるいは,これらの特許権の消滅を待ってブレンドによるONyフィルムを事業化することとなるのが通常であると考えられるのに,結局,両発明に関して第三者から実施許諾の申出が一切なかったこと,両特許権が権利消滅した後においても,同業他社は,ブレンドによるONyフィルムを事業化しておらず,ナイロンフィルム分野ではユニチカが圧倒的に優位な地位にあることがそれぞれ弁論の全趣旨によって認められる。
さらに,被告と同じ逐次二軸延伸法を採用している三菱モンサントも,昭和62年にはブレンドによらない逐次二軸延伸法によりナイロンフィルムを工業的に生産し,市場に参入しているのであって,被告がN2100の生産を開始して間もなく,ブレンドによらない逐次二軸延伸法が商業的に採算のとれる方法として採用されていたのである。
これらの事情によれば,むしろ,同業他社は,被告とは異なる独自の技術をもってONyフィルム製造事業に進出し(前記のとおり,ブレンド法によらなくとも,同時二軸延伸法を採用したり,逐次二軸延伸法を採用することができたものである,製造規模や製造方法によってコス 。)トも多少は異なり,品質面においても若干の差は生じるとしても,前記認定のとおり,各社ともそれぞれ一定のシェアを確保していることによれば,いずれかの製造方法が圧倒的に有利であるとまでは認められず,かつ,それゆえに,被告以外の同業他社があえて被告の採用する製造方法への切替えまではしていないものと推察される。そして,このように,同業他社が上記各発明とは全く異なる技術によって同等の製品を製造販売している場合には,本件特許権に抵触することなく,同業他社は同等品の製造販売が可能なのであり,現に同等品の製造販売をしていたのであるから,このような場合には,他社に特許発明実施を禁止したことによって得られる利益を算定することが困難であることは明らかである。
以上のほか,もともと本件発明J及び同Rは [V]発明及び[Y] ,発明が公開される前に,これらの周辺の技術的範囲をカバーするために出願されたものであって,事業実施が可能なブレンドによるONyフィルムの開発というブレークスルーを見出した〈P6〉らの寄与がほとんどであるというべきであり,原告を含む上記各発明の発明者の寄与は相対的に低いものと考えるのが相当である。また,N2100の生産に関しては,特定ダイアミドを混合することによって耐ピンホール性が向上したことが付加価値を与えているのに対し,本件発明J及び同Rにおいては耐ピンホール性の向上が意図されていない点も,独占の利益の算定においては考慮されるべきである。
以上によれば,本件特許権J及び同Rにより,同業他社がその特許発明実施を禁止されたことによって被告が得た独占の利益は,算定が極めて困難であり,これがN2100の売上げに占める割合を認定することも極めて困難である。
よって,仮にN2100の製造方法が,本件発明J及び同Rの技術的範囲に属するとしても,それらの特許を受ける権利を譲渡したことによる相当の対価は,原告がこれまでに被告から受領した出願時奨励金及び登録奨励金の合計額を超えるものとは認められない。なお,本件発明Rに関しては登録奨励金の支給はないが,その点を考慮しても同様である。
なお,原告は,本件特許J及び同Rの出願後の技術であるコロナ放電技術を用いて逐次二軸延伸性を向上させるという効果が生じた場合も,明細書記載の効果を奏したというべきであると主張するが,明細書の記載要件は,出願当時の平均的能力を有する当業者の技術水準において,実施が可能であるか否かを判断するのであるから,原告の上記主張は相当でない。
(エ)以上は,特定ダイアミドが本件特許J及び同Rの特許請求の範囲に規定されたブレンド成分であると仮定した場合の結論であるところ,逆に,特定ダイアミドが同ブレンド成分ではないと仮定した場合には,上記各特許はせいぜい原告のいうところの防衛特許にすぎず,特許表彰規定第4条Aに規定する実施された特許とはいえないので,遅くとも設定登録日の翌日が消滅時効の起算点となる。よって,本件特許Jについては昭和57年7月31日,本件特許Rについては昭和62年8月12日が消滅時効の起算点となり,いずれも本件訴訟が提起された平成16年9月30日までに10年が経過しているから,被告の各消滅時効援用により,原告の被告に対する本件特許J及び同Rに係る相当の対価請求権は,時効により消滅していることになる。
よって,いずれにせよ,原告の被告に対する本件特許J及び同Rに係る相当の対価請求は理由がない。
エ原告の主張するONyフィルムの製造に関する防衛特許(本件特許L,NないしQ,S。これに,特許Jを付加したものが本件ONyフィルム関連特許である )について。
原告は,ONyフィルム(ここでは,フィルム製膜方式のいかんを問わ。 , ず,二軸延伸ポリアミドフィルムを指す )の製造に関して,本件特許LNないしQ及びSにより特許防衛網を構築したと主張し,これらの各特許によって被告は市場を独占することができたのであるから,独占の利益を想定することができると主張する(もっとも,原告は,これら防衛特許網の存在によって被告にもたらされた具体的な利益の額を明らかにしていない。。)確かに,企業が自ら実施することを目的とせず,第三者の権利取得を妨げることのみを目的に,いわゆる防衛特許として特許出願することがしばしばあり,また,それら防衛特許を,主たる発明である他の特許発明の周辺技術について網羅的に多数特許出願し,いわば防衛特許網というべきものを形成する例もままあることである。そして,これらは主として,主たる発明の市場への他社の参入を阻止するための特許出願戦略として利用されるものであることは,周知の事実である。
そのようないわゆる防衛特許は,出願した企業が自ら実施しているわけではないが,その独占的排他的効力によって主たる発明の市場への他社の参入を阻止して主たる発明に対する独占力を強め,そのことによって,主たる発明の実施によって得られる利益の額を向上させたと認めることができる場合には,その主たる発明の実施によって得られた独占の利益のうちの一部は,いわゆる防衛特許を出願登録したことによって得られた独占の利益であると認定し得る場合もあるということができる。
しかしながら,主たる発明の実施そのものは,主たる発明に係る特許権によって禁止し得るのであって,上記のような認定が可能な場合であっても,その利益額向上に対する寄与はごくわずかなものと判断されることが多いと考えられる。また,同業他社が主たる発明と同等の製品を全く別の技術によって製造販売している場合には,防衛特許の有無にかかわらず当該同業他社は同等品の製造販売が可能であるから,このような場合には防衛特許が主たる発明の実施による売上げの向上に寄与した割合を認定することは極めて困難である。
そして,本件ONyフィルム関連特許の出願登録によって,独占の利益が発生したと認められるか否かについては,前記ウにおいて検討したとおり,ユニチカ,興人等の同業他社は,各社がそれぞれの技術を用いて同等のONyフィルムを製造販売しており,結局,本件ONyフィルム関連特許に係る特許権がすべて消滅した現在においても,未だにブレンドによる逐次二軸延伸法を採用するに至っていないことにかんがみても,本件ONyフィルム関連特許が原告の独占の利益に何らかの寄与をしたと認めることは困難であるといわざるを得ない。
以上によれば,原告が本件ONyフィルム関連特許によって受けるべき相当の対価の額についても,受領済みの出願時奨励金及び登録奨励金の額を超えるものと認めることはできない。
(3)被告における本件発明の実施の有無ところで,原告は,本件各発明のうち,被告が実施している発明は従前,N2100に関する本件発明J及び同Rのみであると主張していたところ,審理終結直前になって,下記アないしオのとおり,発明及びこれを実施したという商品を追加した。これらの主張が時機に後れた攻撃方法であるか否かはひとまず措くとしても,下記のとおり,いずれも採用できない。
アN1100について原告は,N1100において本件発明Bが実施されていると主張するが,仮に上記主張どおりであったとしても,同発明についての対価請求権が時効により消滅していることは前記のとおりである。また,その実施の有無について原告は何ら根拠を示しておらず,本件各証拠を検討しても,本件発明BがN1100において実施されていたと認めるに足りる証拠はないから,いずれにしても原告の主張は採用できない。
さらに,原告は,N1100において本件発明Jが実施されているとも主張する。しかしながら,弁論の全趣旨によれば,N1100のブレンド成分として使用するSM樹脂及びMSM樹脂は,SM樹脂単独あるいはMSM樹脂からなる芳香族ポリアミド樹脂(これらは,ジアミン残基としてキシリレンジアミン残基を分子鎖中に100モル%含有する含環ポリアミドである )であると認められる。他方,本件特許Jの特許請求の範囲
(請求項1及び2)にいうブレンド成分は 「(1)γ型脂肪族ポリアミドま ,たは/および(2)非晶性脂肪族ポリアミドまたは/および(3)キシリレンジアミン残基を分子鎖中に70モル%以上含有しない含環ポリアミド」である。このように,N1100のブレンド成分であるSM樹脂及びMSM樹脂は,芳香族ポリアミド樹脂であるから,上記「(1)」及び「(2)」に該当せず,キシリレンジアミン残基を分子鎖中に100モル%含有するから,上記「(3)」にも該当せず,また,ポリアミド樹脂であるから,請求項2に規定するブレンド成分「ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー」でもない。
したがって,N1100のブレンド成分が本件特許Jの特許請求の範囲(請求項1及び2)にいうブレンド成分であると認めることはできず,被告がN1110において本件発明Jを実施しているという原告の主張は採用できない。
イFSMフィルムについて原告は,FSMフィルムにおいて,本件発明Mのほかに本件発明Kが実施されていると主張するので,この点について検討するに,前記前提となる事実の本件特許Kの特許請求の範囲によれば,本件発明Kは,概要,共重合された所定のブロックポリエーテルアミドフィルムに,低融点のポリオレフィン系樹脂を積層した熱接着性積層ポリアミドフィルムに係る発明である。
しかしながら,本件証拠上,ポリオレフィン系樹脂を積層した熱接着性積層ポリアミドフィルムを被告が製造していると認めるに足りる証拠はない。原告の指摘する「’90-11<包装材料レポート>フイルム産業の需給と用途別市場動向 (乙3)の「OSM(FSMフィルム)/CPP 」(無延伸ポリプロピレンフイルム「OSM/ONY(汎用の二軸延伸 )」,ポリアミドフィルム)/CPP「ONY/OSM/CPP」の使用状況 」,に関する記述も,これらの積層フィルムが市場においてレトルト袋やレトルト容器の蓋材に用いられていることが認められるにとどまり,被告が自ら積層フィルムを製造していることの根拠となるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
ウ積層容器について原告は,積層容器の実績は不明であるとしながらも,本件発明Iが実施されており,かつその材料たるMSM樹脂が積層ペットボトルの材料であるとして,MSM樹脂に係る本件発明Eも実施されていると主張するが,原告の主張の前提となるMSM樹脂が積層ペットボトルに使用されていることについては,何ら原告による立証はなく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。さらに,本件発明Iに係る積層容器が被告において製造されたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
エSMレジン(外販用)について原告は,SMレジン(外販用)において本件発明Cが実施されていると主張するが,外販用のSMレジンに本件特許Cの特許請求の範囲に規定される化合物が使用されている根拠を一切示していない。また,他にこれを認めるに足りる証拠もないから,SMレジン(外販用)において本件発明Cが実施されていると認めることはできなず,原告の上記主張は採用できない。
オダイナックについて証拠(乙122)及び弁論の全趣旨によれば,ダイナックは,全部で9銘柄あり,いずれも原材料樹脂はナイロン6とナイロン12を共重合成分として含むことが認められる。
しかしながら,前記前提となる事実のとおり,本件A発明ないし本件G発明においては,ナイロン12成分(弁論の全趣旨によれば,ω-カプロラクタム)を必須の共重合成分としない特定の三元共重合体に係る発明である。したがって,ダイナック(又はその製造方法)は,本件A発明ないし本件G発明の技術的範囲に属さない。
カ小括以上のとおり,上記各発明が,被告において上記製品に関して実施されたと認めることはできない。
5争点(4)(不法行為)について(1)評価対象となる特許の選択について原告は,被告が,特許表彰制度の実施に当たり,被告保有の全特許を出願公告年に応じて3グループに分割し,年度末から遡って過去3年間の実績を評価対象としたことによって,評価対象とならない期間が生じる不都合を生じさせ,これが不法行為を構成すると主張する。
しかしながら,本来,相当の対価は,特許を受ける権利承継した時点において算定可能であり,被告においては本件特許取扱規定が制定される以前は,実績補償の支払時期を一義的に定めた規定がなく,対価請求権の消滅時効の起算点は,設定登録日又は実施開始時となることは前記判示のとおりである。よって,被告が特許表彰制度を発足させたことにより,むしろ原告を含む被告の従業員(及び元従業員)にとっては,対価請求権の行使について有利な取扱いが行われるようになったものである。
また,実績補償に関していかなる定めを設けるかは,企業の裁量に委ねられるところであって,その定めに基づく対価額に不足があれば,従業員は相当の対価請求権を行使することが可能となるのであるから,本件特許取扱規定及び特許表彰規定の内容に違法な点があるということはできない。また,たとえ評価期間が区分されることによって,評価対象外の期間の実績については,消滅時効の起算点が特許登録日又は実施開始時となるとしても,それは本件特許取扱規定及び特許表彰規定の施行の有無と関わりはないのであるから,これをもって違法であるということもできない。
なお,原告は,乙17通知の内容を了知していなかった旨主張するが,この点については,前記のとおり,乙17通知と特許表彰規定と矛盾する点については,特許表彰規定の文言のとおりに適用することとしたから,原告に損害が発生しているとはいえない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2)特許表彰制度の評価基準について原告は,被告における特許表彰制度の評価基準が公平さを欠くと主張し,これが不法行為に該当すると主張するので,以下検討する。
ア(ア)原告は,平成6年度の第3回特許表彰において,被告が[Y]発明を表彰の対象にしながら,表彰の対象とすべき本件ONyフィルム関連特許(本件特許J,L,NないしS)を対象にしなかったと主張する。
しかし [Y]発明が被告におけるONyフィルム製造技術の基本特許 ,であるのに対し,本件ONyフィルム関連特許は,前記認定のとおり,被告において実施していたとは認められないのであるから,その取扱いに差が生じるのは当然であると考えられ,他に特段の事情の認められない本件においては,本件ONyフィルム関連特許を表彰の対象にしなかった被告の行為をもって不法行為に当たるということはできない。
(イ)原告は,被告がFSMフィルムに関する本件特許Mを平成6年度の第2回特許表彰の対象としなかったことが違法であると主張するが,証拠(乙117の1ないし10)によれば,FSMフィルムの生産量は,第2回表彰の評価対象期間である平成3年度はゼロ,平成4年度は25トン,平成5年度は43トンであり,売上高はそれぞれ3900万円と6600万円であったことが認められるところ,これは他のONyフィルム製品と比較してもごく少ない額に止まっているといわざるを得ず,その後,製品であるN3100は,販売数量の減少により平成16年12月をもって製造が中止されている(乙28の1・2 。)以上の事情にかんがみると,本件特許Mが,特許表彰規定第4条Bの「選考前3年間の業績への寄与が一定以上であること」との要件を満たさず,それゆえに被告が第2回表彰の対象としなかったことが推認されるのであり,被告の上記行為が不法行為を構成するとは認めることができない。
(ウ)さらに,原告は,独自の基準に基づいて,本件各特許が第1回特許表彰ないし第5回特許表彰において表彰対象とされるべきであったと主張し,特に被告も実施を認める本件発明Eは第2回特許表彰の対象とすべきであったと主張するが,前記(1)のとおり,被告における特許表彰規定による対象特許の選択基準に違法な点はない。その他の被告が実施を認める特許についても同様である。
よって,原告の上記主張は採用できない。
(エ)次に,原告は,第5回と第8回の表彰において [W]発明@及び,[W]発明Aに係る特許並びに感光性樹脂凸版印刷材「プリンタイト」に関する特許が表彰されたことについて,上記各[W]発明よりも原告のなした発明を評価するべきであると主張する。
原告が,表彰対象となった特許と比較する「基本特許」と称する特許のうち「SM樹脂の工業生産技術」に当たるものは本件特許@を,そのフィルムとしての欠陥を改良した「MSM樹脂の製造技術」に当たるものは本件特許D,E及びMを 「ONyフィルム製造におけるブレンド ,材料に関する技術」に当たるものは本件特許J,L,NないしSをそれぞれ指すとものと推察される。
このうち,本件特許@に係るSM樹脂のゲル化防止に関する発明については,本件特許権@が,被告の特許表彰規定が制定された平成4年11月1日より前の平成3年7月23日に存続期間満了により消滅しており,同規定による特許表彰の適用対象にはなり得なかったものである。
本件発明D,E及びMは,MSM延伸フィルム(FSMフィルム)用の原料樹脂に係る発明であるから,その業績への評価は 「MSM延伸,フィルム(FSMフィルム 」の評価によりなされるべきところ,同フ )ィルムの売上げは決して高くはないことは前記のとおりであるから,特許表彰の資格要件( 選考前3年間の業績への評価が一定以上であるこ 「と )を満たさなかったといわざるを得ない。したがって,同規定によ 」る特許表彰の対象とならなかったことは,やむを得ないものというべきである。
本件発明J,L,NないしSのうち,本件発明J及び同Rについては,N2100の製造方法がそれらの発明の技術的範囲に属するか否かにかかわらず,独占の利益を観念することが困難であり,これらの特許発明が基本となってN2100が開発されたとも考え難いことによれば,表彰の対象とならなかったことはやむを得ないものというべきである。その余の特許は,いわば防衛のために出願されたものであって,実施したとはいえないものであるから,特許表彰の資格要件( 社内又はユーザ「ーにおいて実施していること )を欠き,表彰の対象にならないのは当 」然である。また,原告が後に,被告において実施されていると主張した特許発明は,いずれも実施されていると認めることができないことは前記のとおりである。
同様に,原告は「プリンタイト 「スパンボンド」に関する特許と本 」件各特許を比較しているが,既に検討したとおり,表彰対象となり得る本件各特許において表彰されるべきであったと認めるに足りる特許発明は見当たらないことによれば,被告における第5回及び第8回の特許表彰制度の運用に何ら違法な点は認められない。
イホットメルト接着剤「ダイナック」の研究開発に関する原告の主張については,原告の主張するいずれの特許も「ダイナック」の生産において実施されたと認められないことは,前記のとおりである。
したがって,本件A発明ないし本件G発明に関する業績が放置されたとの原告の主張は理由がない。
ウその他,原告は,本件発明@ないしE,I,K及びMの被告の業績に対する貢献を考慮すれば,今までに一度も発明改善の対象にも特許表彰の対象にもなっていないのは片手落ちであると主張するが,いかなる特許を表彰の対象あるいは発明改善提案表彰の対象とするかは,私企業である被告の合理的な裁量に委ねられているというべきであるところ,本件全証拠によっても,何ら被告の対応に違法な点は見当たらない。
原告は,素材の開発研究に対する公正な評価が欠如している,評価しやすい特許ばかり表彰しているなどと主張しているが,これらの点に関しても,特許表彰の対象となり得る本件発明J,M及びRが被告の利益に貢献した程度は極めて限られたものであったことは,前記認定判断したとおりであるから,被告の特許表彰制度の評価等において不公平な点があったと認めることはできない。
エ特許に関連する業績以外の原告の業績に基づく主張は,特許表彰制度の運用等の適否とは関連性を欠くものであって,同制度の運用等に関する不法行為の主張としてはそれ自体失当というべきである。
(3)研究所の出向者,退職研究者に対する差別について原告は,退職者や出向者に対する差別の例として,ONyフィルムの基礎研究で功績のあった元フィルム研究室長の〈P5〉氏が出向していたために社長賞の対象外とされたと主張する。
しかし,そもそも同氏が,昭和55年の表彰当時に出向していたかは明らかではなく(被告は,同氏は昭和52年10月15日付けで別会社へ転籍のため解職となっている旨主張している,また,弁論の全趣旨によれば,社 。)長賞の対象者は,対象技術の開発に対する貢献度を基準とし,関係諸部署の長の推薦に基づき,発明改善審査等所轄の選考委員会において決定される仕組みになっていると認められるところ,証拠(乙6,115の1)によれば,同氏は発明改善審査申請書の提出当初から考案者及び協力者の中に含まれていなかったことが認められるから,同氏が受賞対象者にならなかったのは,関係諸部長等が対象技術の開発に対する貢献度が低いと判断したことによるものと推認するのが相当であって,同氏が出向者あるいは退職者であったことが関係していると認めることはできない。
原告は,登録奨励金の支給に関しても退職者差別があったと主張する。確かに,旧特許取扱規定においても,発明者が退職又は死亡しているときは,奨励金に相当する金額を本人又は遺族に支給することが規定されており(第11条。乙8 ,退職者であっても,登録奨励金に相当する額の支給を受け )ることができるほか,仮に支給がなければ請求も可能である。原告が,登録奨励金の支給を受けていないと主張する本件特許権Nないし同Sのうち,本件特許権N及び同Sに関しては,前記認定のとおり,昭和63年1月1日以降に特許登録された特許権については,同日施行の特許取扱規定第9条及び同日付けの「特許取扱規定内規」において 「商業的に実施されているこ ,と」が登録奨励金の支給要件とされるようになったため,同日以降に特許登録された本件特許権N及び同Sについては,前記認定のとおり,商業的に実施されていたとは認められないから,同各特許権について原告が登録奨励金に相当する金員の支給を受けることができなかったこともやむを得ない。他方,本件特許権Oないし同Rに関しては,実施の有無にかかわらず登録奨励金が支給されることとなっていたので(旧特許取扱規定第8条 ,原告も,)退職後であっても登録奨励金に相当する金員の支給を受けることができたはずであるが,これが支給されたことを認めるに足りる証拠がないことは,既に述べたとおりである。また,原告は,退職後である昭和60年10月8日に,登録奨励金を本件特許権L及び同Mについて受領したことを認めていることや,前記前提となる事実記載のように,被告を退職した後も,被告との間で再々嘱託契約をするなどしており,被告から充分な待遇を受けていたことによれば,上記3つの特許に関する登録奨励金に相当する金員の支給がなかったことをもって,退職者に対する差別の一環であるとは認めることができず,このことを捉えて不法行為が成立するとも認めることはできない。
なお,原告は,平成元年9月に被告の特許部から入手した特許登録記録における発明者の記載順序が,出願時の願書に記載された発明者の順位と変わっており,担当者が退職者や出向者を在籍者より順位を下げ別管理をしていると説明した旨主張し,このことをもって,被告が退職者や出向者を差別していることの根拠としているようである。しかし,発明者を管理するにあたって,記載順序が入れ替わったとしても,そのことと,退職者に対する処遇との間に何らかの関連があったと認めるに足りる証拠はなく,むしろ平成元年以降にも出願時又は登録奨励金を支給された退職者がいること(乙88,90,弁論の全趣旨)によれば,特許登録記録における発明者の記載順序の入替えは,原告のいう退職者差別を裏付けるものであると認めることはできない。
以上のほか,原告は,被告を退職した後も再々にわたって被告と雇用契約ないし顧問契約を締結して報酬を得ているほか,感光性樹脂凸版印刷材「プリンタイト」の発明者である〈P25〉が被告を退職した後,特許表彰制度により奨励金を受け取っていることを原告も自認しているところである。
これらの事情にかんがみれば,被告による退職者に対する差別があるとの原告の主張は採用できない。
(4)小括以上によれば,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
第5結論よって,本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 西理香
裁判官 西森みゆき
  • この表をプリントする