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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ11007不当利得返還等請求事件 判例 特許
平成17ネ10125補償金請求控訴事件 判例 特許
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 判例 特許
平成17ワ2997特許権譲渡対価請求事件 判例 特許
平成15ワ23981補償金請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  考案者 /  職務発明 /  業務範囲 /  相当の対価(相当な対価) /  創作性(創作) /  共同発明 /  分割出願 /  意匠登録出願 /  時効 /  意匠権 /  援用権(援用) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  侵害 /  共同発明者 /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 4183号 職務発明の対価請求事件
原 告P1
訴訟代理人弁護 士筒井豊
被 告グンゼ株式会社
訴訟代理人弁護 士畑郁夫
同 金井美智子
同 重冨貴光
同 藤本英二
同 佐藤俊
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年5月4日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,被告ないし被告に合併された新大阪造機株式会社(以下「新大阪造機」という。)の従業員であった原告が,新大阪造機に対し,同社に在職中にした職務発明ないし職務考案(以下「職務発明等」という。)に係る特許ないし実用新案登録を受ける権利(以下「特許等を受ける権利」という。)を譲渡したとして,合併により新大阪造機から上記権利及びその譲渡に係る相当対価の支払義務を承継した被告に対し,特許法35条3項,実用新案法11条3項に基づき,上記各譲渡に対する相当対価及び弁済期後である訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠等により認められる。)1当事者(1)原告原告は,昭和46年,新大阪造機に就職し,新大阪造機が被告に合併された後は,雇用契約を承継した被告に勤務し,平成17年9月20日に被告を退職した。
(2)被告被告は,衣料品及び繊維原料の製造・加工・販売その他の事業を営む株式会社である。被告と新大阪造機は,平成元年11月30日,被告を存続会社として合併した(以下「本件合併」という。)。
2特許及び実用新案登録(以下「特許等」という。)次の特許等について,被告は,特許権者ないし実用新案権者であるか,あったもの(抹消登録されているものにつき)である(以下,その特許等を順に「本件特許1」,「本件特許2」,「本件特許3」,「本件特許4」,「本件実用新案登録」といい,これらを併せて「本件特許等」という。また,その特許発明ないし考案を順に「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」,「本件発明4」,「本件考案」といい,これらを併せて「本件発明等」という。)。
原告は,本件特許等の特許公報ないし実用新案公報において,発明者又は共同発明者ないし共同考案者として氏名が記載されている。新大阪造機は,本件発明等の発明者ないし考案者(以下「発明者等」という。)から,本件発明等に係る特許等を受ける権利(以下「本件特許等を受ける権利」という。)を承継し,その後出願を行ったものであり,被告は,本件合併により,新大阪造機から,これらの権利(本件特許1については登録後の特許権)を承継したものである。
(1)本件特許1発明の名称折丁結束前処理装置出願日昭和58年1月10日(特願昭58-2483)登録日平成元年10月12日特許番号特許第1522317号特許請求の範囲別紙「特許権及び実用新案権目録」記載1(1)のとおり抹消登録日平成15年9月24日(2)本件特許2発明の名称折丁結束前処理装置出願日昭和62年1月7日(特願昭62-2035)登録日平成7年7月28日特許番号特許第1952907号特許請求の範囲別紙「特許権及び実用新案権目録」記載1(2)のとおり抹消登録日平成17年5月18日(3)本件特許3発明の名称折丁結束前処理装置出願日昭和61年2月17日(特願平4-290014)分割の表示特願昭61-32649の分割登録日平成8年2月26日特許番号特許第2025996号特許請求の範囲別紙「特許権及び実用新案権目録」記載1(3)のとおり(4)本件特許4発明の名称折丁結束前処理装置出願日昭和61年2月17日(特願平6-086105)分割の表示特願昭61-32649の分割登録日平成9年2月27日特許番号特許第2614591号特許請求の範囲別紙「特許権及び実用新案権目録」記載1(4)のとおり(5)本件考案考案の名称折り帖ターンテーブル出願日昭和61年2月17日(実願昭61-21128)登録日平成6年8月4日実用新案登録番号実用新案登録第2027905号実用新案登録請求別紙「特許権及び実用新案権目録」記載2のとおりの範囲抹消登録日平成13年5月2日3本件発明等の実施新大阪造機ないし被告は,本件発明等をいずれも本件特許等の各登録時までに実施している。
4職務発明等に関する規程(1)被告における職務発明等に関する規程ア職務発明取扱規程と発明考案奨励規程被告には,昭和35年4月1日制定の職務発明取扱規程及び昭和37年12月1日制定の発明考案奨励規程がある。(制定年月日につき乙1の1・2。
以下,併せて「被告の規程」ということがある。)イ職務発明取扱規程の改正経過職務発明取扱規程は,平成元年10月1日,平成10年10月1日,平成14年10月1日,平成17年4月1日,同年10月1日にそれぞれ改正された。(以下,平成元年10月1日の改正により改正された職務発明取扱規程を「元年取扱規程」,平成10年10月1日の改正により改正された職務発明取扱規程を「10年取扱規程」という。)ウ発明考案奨励規程の改正経過発明考案奨励規程は,平成元年10月1日,平成10年10月1日,平成14年10月1日にそれぞれ改正された。(以下,平成元年10月1日の改正により改正された発明考案奨励規程を「元年奨励規程」,平成10年10月1日の改正により改正された発明考案奨励規程を「10年奨励規程」という。また,元年取扱規程と元年奨励規程を併せて「元年規程」,10年取扱規程と10年奨励規程を併せて「10年規程」という)(2)元年取扱規程元年取扱規程には,次の規定がある。なお,実績補償金についての規定はない。また,改正前にされた職務発明等について改正後の規程の適用を除外する旨の定めもない。(乙1の1)第1章総則第1条(目的)この規程は会社の業務範囲に属し,従業員のなしたものであって,かつ特許法,実用新案法,意匠法に基づく発明,考案および創作(以下発明という)の取扱い並びにその補償金を定めることにより,従業員に発明を奨励し,もって独占技術に基づく会社の競争力を強化するとともに会社の発展に資することを目的とする。
第2条,第3条,第2章・第4条ないし第10条は省略〕第3章補償第11条(出願補償金)会社は従業員から承継した発明を登録出願したときは,その発明者に対して次の出願補償金を支払う。
(1)特許出願1件2000円(2)実用新案登録出願1件1000円(3)意匠登録出願1件1000円2前項の規定による出願補償金は分割又は変更した出願に対しては支払わない。
〔3項以下は省略〕第12条(登録補償金)会社が承継した発明若しくは実施する発明が工業所有権として登録されたときは,発明考案審査委員会において,その発明により会社が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて,会社が貢献した程度を審査し,社長の決定により,下記の区分に従って発明者に登録補償金を支払う。
ただし意匠権が類似意匠である場合は本意匠とあわせ,分割出願の場合は原出願による権利とあわせて,夫々1件とみなし登録補償金を支払う。
尚外国出願による工業所有権に対しては,原則として払わない。
推定効果ランク 登録補償金有形無形11億円/年以上非常に効果がある 100,000円以上25千万円/年以上相当に効果がある50,000円以上31千万円/年以上かなり効果がある30,000円以上4100万円/年以上 効果がある10,000円以上5100万円/年以下 効果が認められる2,000円以上〔第13条ないし第15条は省略〕第16条(功労金の支給)会社は実施効果が特に顕著であり,会社の業績に著しく寄与したと認めた発明に対しては,関係所属長の申請にもとづき,発明考案審査委員会の審議を経て社長の決定により,発明者に功労金を支給する。
〔2項は省略〕〔第4章・第17条以下は省略〕附則〔第1条,第2条は省略〕第3条(規程の実施)〔1項ないし4項は省略〕5この規程は,1989年10月1日から改正実施する。
(3)元年奨励規程元年奨励規程には,次の規定がある。なお,改正前にされた職務発明等について改正後の規程の適用を除外する旨の定めはない。(乙1の2)第1条(目的)この規程は従業員が会社の業務に関し,発明及び考案をすることを奨励するため,従業員の成した発明考案の取扱いについて規定する。
第2条ないし第8条は省略〕第9条(賞状及び賞金)社長は審査の都度,有効と認めた発明考案に対して次の等級に従って賞金及び3等以上には賞状を授与する。
特等100,000円以上1等80,000円2等50,000円3等30,000円4等8,000円5等4,000円第10条(追賞)一度受賞した発明考案が長期に亘る実施の結果,更にその結果が顕著であると認めたものに対しては所属長の申請に基づき,委員会の審査を経て社長の決定により追賞することができる。
第11条以下は省略〕附則〔第1条,第2条は省略〕第3条(規程の実施)〔1項ないし5項は省略〕6この規程は,1989年10月1日から改正実施する。
(4)10年取扱規程10年取扱規程には,次の規定がある。なお,改正前にされた職務発明等について改正後の規程の適用を除外する旨の定めはない。(乙2の1)第1章総則第1条(目的)この規程は,グンゼ株式会社(以下,会社という)の業務範囲に属し従業員のなしたものであって,かつ特許法,実用新案法,意匠法,種苗法に基づく発明,考案,創作及び育成品種(以下発明という)の取扱い並びにその補償金を定めることにより,従業員に発明を奨励し,もって独占技術に基づく会社の競争力を強化するとともに会社の発展に資することを目的とする。
第1条2項,第2条,第3条,第2章・第4条ないし第10条は省略〕第3章補償第11条(出願補償金)会社は,従業員から承継した発明を出願したときは,その発明者に対して次の出願補償金を支払う。
(1)特許出願1件4,000円(2)実用新案登録出願1件2,000円(3)意匠登録出願1件2,000円(4)品種登録出願1件4,000円(5)(準用基準)1件4,000円2前項の規定による出願補償金が支払われた後,分割,変更又は国内優先等の手続が行われた出願に対しては支払わない。
〔3項以下は省略〕第12条(登録補償金)会社が承継した発明が工業所有権として登録されたときは,下記の区分に従って発明者に登録補償金を支払う。
(1)特許権1件5,000円(2)意匠権1件3,000円(3)品種登録願1件5,000円2意匠権が類似意匠である場合は本意匠に合併し,又分割出願の場合は原出願による権利に合併し,それぞれ1件とみなして登録補償金を支払う。
尚国内出願を基礎にする外国出願による工業所有権に対しては,原則として払わない。
第13条(実績補償金)会社は,工業所有権として登録され,かつ現在実施中もしくは過去に実施したことのある発明に対し,発明考案審査委員会において,会社が受けるべき利益額(有形,無形)及びその発明の効果を審査し,社長の決定により下記の区分に従い,発明者に実績補償金を支払う。
2実績補償金の査定は登録時以降とし,原則として一回限りの実績補償とする。
3実績補償の対象は,例えば基本特許に対する周辺発明の如く,関連する発明若しくは同一の範疇に属すると思われる発明は,1件として取り扱うものとする。
4実施効果が特に顕著であり,会社の業績に著しく寄与したと認められる場合は,関係所属長の申請に基づき発明考案審査委員会の審議を経て社長の決定により追加補償金を支給することができる。
〔5項は省略〕基準推定効果(百万円/年以上)ランク 実績補償金有形無形(円以上)1利益100非常に効果がある 200,000又は限利500又は売上 3,0002利益50 相当に効果がある100,000又は限利250又は売上 1,5003利益10 かなり効果がある30,000又は限利50又は売上3004利益1 効果が認められる10,000又は限利5又は売上30〔第14条ないし第17条,第4章・第18条は省略〕附則〔第1条,第2条は省略〕第3条(規程の実施)〔1項ないし5項は省略〕6この規程は,1998年10月1日から改正実施する。
(5)10年奨励規程10年奨励規程には,次の規定がある。なお,改正前にされた職務発明等について改正後の規程の適用を除外する旨の定めはない。(乙2の2)第1条(目的)この規程は,従業員が会社の業務に関し,発明,考案,創作,新規な種苗育成及びコンピュータプログラム,半導体集積回路の回路配置等を創作することを奨励するため,職務発明取扱規程に基づき従業員の成した発明考案の表彰について規定する。
第2条ないし第7条は省略〕第8条(賞状及び賞金)社長は審査の結果,有効と認めた発明考案に対して下記の等級区分に従って3等以上の受賞者に賞状及び賞金を授与する。
但し,4等,5等については委員長より通知し,事務局より賞金を支払う。
特等100,000円以上1等80,000円2等50,000円3等30,000円4等8,000円5等4,000円第9条(追賞)受賞済の発明考案が長期に亘る実施の結果,更にその効果が顕著であると認めたものに対しては所属長の申請に基づき,委員会の審査を経て社長の決定により追賞を受けることができる。
第10条は省略〕附則〔第1条,第2条は省略〕第3条(規程の実施)〔1項ないし6項は省略〕7この規程は,1998年10月1日から改正実施する。
(6)本件に適用される被告の規程少なくとも本件においては,本件発明等に係る職務発明等について,元年規程以降の被告の規程の適用がある。
(7)新大阪造機における職務発明等に関する規定新大阪造機が,本件発明等についてその発明者等から特許等を受ける権利(以下「本件特許等を受ける権利」という。)を承継した当時,新大阪造機には,昭和59年8月21日改正実施の職務褒賞内規(乙7),昭和62年1月21日改正実施の提案制度取扱規程(乙8)は存在したものの,いずれも特許等を受ける権利の譲渡の対価の支払時期を定めたものではなく,これを定めた勤務規則その他の定め(以下「勤務規則等」という。)は存在しなかった。
(弁論の全趣旨)5特等賞の授与原告は,平成3年2月20日,「発明考案奨励規程」により,原告の発明した「スタッカーバンドラー刷本集積装置他」について,被告から特等賞及び報奨金10万円を授与された。(甲11)6本件訴訟の提起原告は,平成18年4月25日,本件訴訟を提起した。(訴訟上顕著な事実)7時効援用被告は,原告に対し,平成18年6月8日の本件第1回口頭弁論期日において,原告の本件特許等を受ける権利の譲渡に対する相当対価の支払請求権(以下「本件対価請求権」という。)につき,消滅時効援用するとの意思表示をした。
第4争点1本件対価請求権の発生の有無及びその額(争点1)2本件対価請求権の消滅時効の成否(争点2)第5争点に対する当事者の主張1本件対価請求権の発生の有無及びその額(争点1)(1)原告の主張ア発明ないし考案(以下「発明等」という。)原告は,新大阪造機に勤務していた当時,2,3人のスタッフの中心となって印刷関連機械の設計業務に専念し,スタッカーバンドラーについて本件発明等を発明ないし考案した。
原告は,新大阪造機が本件発明1の実施品であるスタッカーバンドラーの製造販売を開始したときから昭和63年12月に病気により休職するまで,客先との交渉,仕様の決定,改善検討,設計業務の総まとめ,設計図の出図日程管理,装置のトラブル対応等をすべて担当した。被告において,原告が前記第3の5記載の特等賞を受賞した以前に,特等賞を受賞した者は1名しかおらず,上記特等賞の受賞は,原告による本件発明等の被告の業績に対する貢献度について被告が極めて高く評価していたことを示している。
イ特許等を受ける権利の承継本件発明等は,いずれも特許法35条,実用新案法11条3項(以下,特許法35条について言及する場合は,実用新案法11条3項により準用される職務考案も含む。)の職務発明等であり,原告は,本件特許等の出願時までに,本件特許等を受ける権利を新大阪造機に譲渡した。被告は,本件合併により,新大阪造機から本件特許等を受ける権利を承継した。
ウ独占の利益新大阪造機及び被告において,本件発明等に係るスタッカーバンドラー装置の製造販売の事業は,非常に好調に推移しており,現在までに少なくとも1500台以上が販売されたと推測され,当業界における被告のシェアは,現在まで概ね95パーセントを占めていると推測される。
被告が平成7年度から平成16年度までに製造販売した本件発明等の実施品であるスタッカーバンドラー装置は,概ね400台であり,1台当たりの販売価格は概ね3000万円で,総販売価格は120億円である。上記製造販売により被告が得た独占の利益は,上記総販売価格の4パーセントを下ることはない。なお,被告は,平成14年3月ころ,本件特許4に係る特許権の侵害を理由として第三者との間で和解契約をし,特許侵害に対する実質的な損害賠償にあたる和解金として約3500万円の支払を受けたことがあり,同和解金は本件発明等により被告が受けた独占の利益に相当する。
被告が上記の独占の利益を得るのに,本件特許等が寄与した割合は,当該利益の30パーセントをくだらない。
エ相当対価の額以上より,原告は,被告に対し,特許法35条3項に基づき,本件特許等を受ける権利の譲渡の相当対価(以下「本件相当対価」という。)として1億4400万円の支払を請求できる。
(2)被告の主張争う。
2本件対価請求権の消滅時効の成否(争点2)(1)被告の主張ア本件対価請求権の消滅時効の起算点元年取扱規程12条本文は,登録補償金について規定しているところ,同規定は,最高裁平成15年4月22日判決の「勤務規則等の定めによる支払時期」の定めにあたる。
したがって,本件発明等に係る職務発明等に元年規程以降の被告の規程が適用されることを前提とすると,本件発明等はすべて本件特許等の登録以前から実施されているので,本件対価請求権の消滅時効の起算点は,それぞれ本件特許等に係る特許権ないし実用新案権の設定登録がされた時点となる。
また,元年取扱規程12条ただし書は,分割出願の場合は原出願と1件とみなして登録補償金を支払うと規定しているので,分割出願の場合は,原出願の登録時が本件対価請求権の消滅時効の起算点となる。
イ本件発明等の具体的な消滅時効の起算日(ア)本件特許1本件特許1は,平成元年10月12日に登録されているので,本件特許1に係る職務発明対価請求権の消滅時効の起算日は,同月13日である。
(イ)本件特許2本件特許2は,平成7年7月28日に登録されているので,本件特許2に係る職務発明対価請求権の消滅時効の起算日は,同月29日である。
(ウ)本件特許3及び本件特許4本件特許3及び本件特許4は,いずれも特願昭61-32649の分割出願であり,原出願である特願昭61-32649は,特許第1943363号として,平成7年6月23日に登録されている。したがって,本件特許3及び本件特許4に係る職務発明対価請求権の消滅時効の起算日は,同月24日である。
(エ)本件実用新案登録本件実用新案登録は,平成6年8月4日に登録されているので,本件実用新案登録に係る職務考案対価請求権の消滅時効の起算日は,同月5日である。
ウ功労金の規定と本件対価請求権との関係元年取扱規程16条には功労金の規定があるが,功労金は,「実施効果が特に顕著であり,会社の業績に著しく寄与した」と被告が認めた発明等に対して被告側の意思で設権的ないし恩恵的に支給されるものであって,登録補償金のように,職務発明等をした発明者が権利として使用者等に当然請求しうるものとは法的性質が異なる。したがって,上記規定は,特許法35条3項により従業者等に認められた法定の請求権である職務発明等の対価請求権に関する規定ではなく,これをもって,職務発明等の対価請求権についての「勤務規則等の定めによる支払時期」の定めであるとして,同時期が登録時より後の時点になることはない。
時効中断事由の有無被告は,平成3年2月20日に,原告に対して10万円の支払をしているが,仮に,同金額が本件相当対価の額に満たないものであるとしても,当該10万円の支払は,本件相当対価の額に満たないことを知りつつされたものではないので,その支払は時効の中断事由である「承認」(民法147条3項)にはあたらない。
オ原告の主張について原告は,10年取扱規程において,実績補償金を支払う旨の規定が新設されたことにより,本件相当対価の最後の支払時期を延長する法的効果が発生したと主張する。
しかし,元年取扱規程の「登録補償金」は,いずれも発明等の実施及び実施による実績を対価支払の要件とはせず,登録だけを要件とし,発明等による「推定効果」のランクに応じて補償金を支払うという内容であるところ,10年取扱規程の「実績補償金」も同じ内容であり,両者の違いは,単に支払金額について見直しをした点にすぎない。また,元年取扱規程の「功労金」は,実施効果が顕著な場合に支払うという面をみれば,10年取扱規程の「追加補償金」と本質的に同じ性質を有する。したがって,10年取扱規程は,新たな対価請求権を新設するものではない。そして,10年取扱規程によっても,本件相当対価の支払時期は,本件特許等の各登録時である。
よって,元年取扱規程が改正されても,本件相当対価の最後の支払時期を延長する法的効果は発生しない。
(2)原告の主張ア勤務規則等の改正と対価請求権の消滅時効の起算点(ア)使用者である被告が定める勤務規則等に対価の支払時期の定めがある場合は,その支払時期が職務発明等の対価請求権の消滅時効の起算点となる。
経過規定が設けられることなく勤務規則等が改正された場合,規定の文言上,改正後の勤務規則等が改正前にされた職務発明等に適用されないことが明らかな場合を除き,改正後の勤務規則等は,改正前に特許出願等がされた職務発明等にも適用される。そして,勤務規則等の改正により,相当対価の名目,額,支払時期等に関して実質的な変更がされている場合は,従業者等に対して新たな相当対価を受ける権利を付与するものとして,相当対価の支払時期を延長する法的効果が生じる。
(イ)原告が本件発明等を発明ないし考案した当時,新大阪造機には,職務発明等に係る特許を受ける権利等の承継,その対価の額,支払時期等に関する勤務規則等の規定は存在せず,本件対価請求権の消滅時効の起算点は,各出願日であった。しかし,本件合併により,原告が本件合併前にした職務発明等についても,元年規程以降の被告の規程が適用されることとなり,その結果,本件対価請求権の消滅時効の起算点は,本件特許等の設定登録時(登録補償金の支払時期)となった。
このように,本件合併により元年規程が適用されるという法律事実の発生により,本件対価請求権の消滅時効の起算点は,本件合併前は本件発明等の各出願時であったものが,本件合併後は本件発明等の各設定登録時となり,出願日より後の日に繰り下がった。とすれば,同様に,10年取扱規程が改正実施されたことにより,同規程により新設された実績補償金の支払時期まで,本件対価請求権の最後の支払時期は繰り下がると解するべきである。
(ウ)現に,被告は,元年取扱規程の適用により本件対価請求権の支払時期は本件発明等の各設定登録時であると主張しているが,これは,新たな規程の適用により,消滅時効の起算点が後の日に繰り下がることを承認したものである。
(エ)そして,使用者等は,改正後の勤務規則等が適用される対象として,改正前に特許出願等がされた職務発明等を除外する旨の経過規定を置くことが可能であるにもかかわらず,あえてそのような措置をとらなかったのであるから,上記のとおり考えることは不合理ではない。
イ本件対価請求権の消滅時効の起算点元年取扱規程によれば,本件相当対価の最後の支払時期は,本件特許等の各登録日である。
10年取扱規程の改正実施時において,本件対価請求権は,元年取扱規程の適用による消滅時効が完成していなかったところ,10年取扱規程は,出願補償金,登録補償金に加えて実績補償金,追加補償金を新設した。同規程の実績補償金,追加補償金は,本件対価請求権にも適用されるので,原告は,同規程の実施により,本件相当対価の一部である実績補償金及び追加補償金の支払を受ける権利を付与されたこととなる。
原告が,10年取扱規程に基づいて,同規程により新設された本件発明等の実績補償金の支払を請求できるのは,同規程が改正実施された平成10年10月1日以降であるから,同規程の改正実施は,本件相当対価の最後の支払時期を少なくとも同日まで延長する法的効果を生じる。
よって,本件対価請求権の消滅時効の起算点は,早くても平成10年10月1日である。
ウ被告の主張について被告は,次の主張を前提として,10年取扱規程に改正されても,本件相当対価の最後の支払時期を延長する法的効果は発生しないと主張するが,次のとおり誤りである。
(ア)被告は,元年取扱規程の「登録補償金」は,発明等による「推定効果」のランクに応じて補償金を支払うという内容において,10年取扱規程の「実績補償金」と同じであると主張する。
しかし,両者は,名目も金額も同じではない。また,元年取扱規程の登録補償金は,登録時に当該職務発明等により被告が受ける利益の額等を推定し,その推定効果のランクにより金額が決定されるのに対し,10年取扱規程の実績補償金は,被告が現在実施し又は過去に実施したことのある職務発明等について被告が受ける利益額(有形・無形)及び発明等の効果を審査して,より実績額に近い推定効果のランクにより金額が決定される。
そして,各規定の表中の推定効果ないし基準推定効果と補償金の区分をみても,各区分の内容,ランク数も異なるし,実績補償金の区分は,利益,限利又は売上を有形の推定効果の基準として挙げるなど,より実績に近い推定効果を基準としている。
このように元年取扱規程の登録補償金と10年取扱規程の実績補償金は性質が異なる。現に,10年取扱規程の付則には,元年取扱規程の登録補償金の支払を受けた発明者等に,10年取扱規程の実績補償金を支払わないこと等を定めた経過規定はない。
(イ)次に,被告は,元年取扱規程の功労金は,実施効果が特に顕著であり,会社の業績に著しく寄与した発明等につき補償金を支払うという点で,10年取扱規程の追加補償金と同じであると主張する。
しかし,10年取扱規程の追加補償金は実績補償金の支払を前提とする点で,元年取扱規程の功労金と異なるし,両者は名目も異なる。また,その金額の決定は被告の自由裁量に任されているので,両者が同じ性質を有するか否かを判断することは不可能である。
(ウ)また,被告は,元年取扱規程の功労金は,同規程の登録補償金とは法的性質が異なり,設権的ないし恩恵的なものであって,職務発明等の発明者等が被告に当然に請求し得るものではないと主張する。
しかし,元年取扱規程12条本文と同規程16条とを比較すると,登録補償金と功労金は,その支払要件は異なるが,いずれも発明考案審査委員会の審査,審議を経て社長の決定により支払うことが定められており,規定の形式からみれば,被告が主張するように,両者の法的性質が異なり,功労金が設権的,恩恵的なものであるとはいえない。
第6当裁判所の判断1まず,原告が本件発明等の発明者等として本件特許等を受ける権利を新大阪造機に譲渡したことを前提として,本件対価請求権の消滅時効の成否(争点2)について判断する。
(1)相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点従業者等が特許等を受ける権利を使用者等に承継させたときの相当の対価の支払を受ける権利について,「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」は,勤務規則等の定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができない。したがって,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
(2)本件特許等を受ける権利の承継と勤務規則等の適用本件においては,本件発明等は,新大阪造機の従業者等による職務発明であり,新大阪造機が本件発明等の発明者等から本件特許等を受ける権利を承継した当時,新大阪造機には,特許等を受ける権利の譲渡の対価の支払時期を定めた勤務規則等は存在しなかったものの,新大阪造機の従業者等である本件発明等の発明者等は,「契約,勤務規則その他の定め」(特許法35条3項)により,本件特許等を受ける権利を使用者等である新大阪造機に承継させ,相当の対価の支払を受ける権利を取得したと推認される。その後,前記第3の2のとおり,被告は,本件合併により,新大阪造機から本件特許等を受ける権利及び本件発明等の発明者等に対し相当の対価を支払う義務を承継した。そして,本件合併後は,前記第3の4(6)のとおり,少なくとも本件においては,本件発明等に係る職務発明等に,元年規程以降の被告の規程の適用がある。
(3)元年規程における相当の対価の支払時期の定めア元年取扱規程における相当の対価の支払に関する定め元年規程の内容は,前記第3の4(2)及び(3)のとおりであり,元年取扱規程11条は,「会社は従業員から承継した発明を登録出願をしたとき」に支払われる出願補償金,同規程12条は,「会社が承継した発明若しくは実施する発明が工業所有権として登録されたとき」に支払われる登録補償金について定めている。
出願補償金は,会社が従業員から承継した発明等について,従業者たる発明者等に対し,その出願を前提として支払うものであり,登録補償金は,会社が承継した発明等ないし実施する発明等について,従業者たる発明者等に対し,その発明等の工業所有権としての登録を前提として支払うものであり,両者はいずれも元年取扱規程の「第3章補償」の中に規定されているから,上記各規定に定められた出願補償金及び登録補償金は,いずれも「従業者等が職務発明等について使用者等に特許を受ける権利…を承継させ,又は使用者等のため専用実施権を設定したとき」に有することとなる「相当の対価の支払を受ける権利」(特許法35条3項)を行使して請求することのできる相当対価の一部を構成するものである。
イ消滅時効の起算点(分割出願ではない場合)上記各規定は,出願補償金及び登録補償金の支払時期について,それぞれ出願時,登録時と定めるものであるから,元年規程の適用がある本件発明等においては,「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」に該当し,各支払時期である出願時あるいは登録時が到来するまでの間,発明者等たる従業者は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができない。したがって,相当対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点は,出願補償金及び登録補償金のそれぞれに相当する部分は,それぞれの支払時期すなわち出願時及び登録時となる。
ウ消滅時効の起算点(分割出願の場合)分割出願の場合は,出願補償金は,元年取扱規程11条2項によれば,分割した出願に対しては支払われない。また,登録補償金は,同規程12条ただし書にあるとおり,原出願とあわせて1件とみなして支払うとしている。
この意味は,10年取扱規程12条2項と同様に,分割出願の場合は原出願に合併(併合)して1件とみなして登録補償金を支払うというものと解される。そうだとすると,本件対価請求権のうち登録補償金に相当する部分については,原出願の登録時が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。
なお,仮に,元年取扱規程12条ただし書の趣旨を,分割出願に対しては,登録補償金を全く支払わないとの趣旨とすれば,分割出願では,相当の対価の支払時期が全く定められていないことになるから,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害はないことになる。したがって,その消滅時効の起算点は,分割出願時である。
(4)10年規程における相当の対価の支払時期の定めア相当の対価の支払に関する定め10年規程の内容は,前記第3の4(4)及び(5)のとおりであり,10年取扱規程11条は,「会社は,従業員から承継した発明を登録出願したとき」に支払われる出願補償金,同規程12条は,「会社が承継した発明が工業所有権として登録がされたとき」に支払われる登録補償金,同規程13条は,「工業所有権として登録され,かつ現在実施中もしくは過去に実施したことのある発明」に対して,審査,登録時以降の査定を経て支払われる実績補償金について定めている。
出願補償金は,会社が従業員から承継した発明等について,従業者たる発明者等に対し,その出願を前提として支払うものであり,登録補償金は,会社が承継した発明等について,従業者たる発明者等に対し,その発明等の工業所有権としての登録を前提として支払うものであり,実績補償金は,会社が利益を受けた発明等について,従業者たる発明者等に対し,その発明等の工業所有権としての登録及び会社による実施を前提として支払うものであり,これらはいずれも10年取扱規程の「第3章補償」の中に規定されているから,上記各規定に定められた出願補償金,登録補償金及び実績補償金は,いずれも「従業者等が職務発明について使用者等に特許を受ける権利…を承継させ…たとき」に有することとなる「相当の対価の支払を受ける権利」(特許法35条3項)を行使して請求することのできる相当対価の一部を構成する。
イ出願補償金及び登録補償金に各相当する部分の消滅時効の起算点(ア)分割出願ではない場合10年取扱規程は,出願補償金,登録補償金の各支払時期について,それぞれ出願時,登録時と定めるから,10年規程の適用がある本件発明等においては,「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」に該当し,各支払時期である出願時,登録時までの間,発明者等たる従業者は,相当の対価の支払を受ける権利のうち,出願補償金,登録補償金,に相当する部分の行使につきそれぞれ法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができない。したがって,相当対価の支払を受ける権利のうち,出願補償金,登録補償金に各相当する部分の消滅時効の起算点は,それぞれ出願時,登録時となる。
(イ)分割出願の場合分割出願の場合,出願補償金は,10年取扱規程11条2項によれば,出願補償金が支払われた後に分割の手続が行われた出願については支払われないとされている。したがって,出願補償金が支払われる前に分割の手続がされた出願については,同規程11条1項により,分割された当該出願がされたときに支払われることとなるから,そのときが,相当対価の支払いを受ける権利のうち,出願補償金に相当する部分の消滅時効の起算点となる。
分割出願の場合,登録補償金は,同規程12条2項にあるとおり,原出願による権利に合併され,1件とみなされて登録補償金が支払われる。したがって,分割出願の場合,相当対価の支払を受ける権利のうち,登録補償金に相当する部分の消滅時効の起算点は,原出願の登録時となる。
ウ実績補償金に相当する部分の消滅時効の起算点実績補償金は,10年取扱規程13条3項によれば,「例えば基本特許に対する周辺発明の如く,関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」は,1件として取り扱われる。この趣旨は,例えば,関連する発明や同一の範疇に属すると思われる複数の発明のうち,一つの発明が実施されかつ特許登録されたという要件を満たした場合は,その際に実績補償の対象となるが,その後に他の発明が実施されかつ特許登録されたという要件を満たしても,すでに実績補償については判断済みであるから,改めて実績補償の検討対象とはしないというものと解される。したがって,実績補償金の支払時期は,「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」である限り,それらのいずれか一つが実施されかつ登録されたときとなる。よって,実績補償金に相当する部分についての相当対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点は,次のとおりとなる。
(ア)「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」に該当する場合は,それらの発明のいずれか一つが実施されかつ登録されたとき(イ)「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」に該当しない場合は,当該発明に係る実績補償金の支払時期,すなわち当該出願に係る発明が実施されかつ登録されたとき(5)本件における事実関係これを本件発明等について具体的にみると,前記第3の2(1),(2),(5)及び同3のとおり,本件発明1は平成元年10月12日,本件発明2は平成7年7月28日,本件考案は平成6年8月4日にそれぞれ登録され,いずれも各登録時までに実施されている。
また,前記第3の2(3),(4)のとおり,本件発明3及び4は,いずれも特願昭61-32649の分割出願であるところ,@特願昭61-32649は,特許第1943363号として平成7年6月23日に登録されていること,A特願昭61-32649に係る発明について本件発明3,4に係る分割出願の前に出願補償金は原告に対し支払われていないことがいずれも弁論の全趣旨により認められる。
(6)本件対価請求権の支払時期(元年規程を適用した場合)元年規程を適用した場合,本件対価請求権の支払時期は,出願補償金に相当する部分は各発明等に係る工業所有権の出願日,登録補償金に相当する部分は登録日(本件発明3及び4については原出願に係る発明の工業所有権の出願日,登録日)である。したがって,遅い方の支払時期となる登録日についてみると,本件発明1が平成元年10月12日,本件発明2が平成7年7月28日,本件発明3及び4が平成7年6月23日,本件考案が平成6年8月4日である。
なお,仮に,元年取扱規程12条ただし書の趣旨を,分割出願に対しては,登録補償金を全く支払わないとの趣旨と解釈した場合(前記(3)ウ参照),本件発明3及び4に係る本件対価請求権の支払時期は,いずれも分割出願時である昭和61年2月17日となり,上記時期より更に早まる。したがって,以下に検討するとおり,本件発明3及び4に係る本件対価請求権は,その支払時期を平成7年6月23日とした場合にさえ,時効により消滅している以上,元年取扱規程12条ただし書の趣旨を,分割出願に対しては登録補償金を全く支払わないとの趣旨と解釈した場合でも,結論は変わらないこととなる。
(7)本件対価請求権の支払時期(10年規程を適用した場合)ア出願補償金及び登録補償金に相当する部分について10年規程を適用した場合,本件対価請求権の支払時期は,出願補償金に相当する部分は各発明等に係る工業所有権の出願日,登録補償金に相当する部分は登録日(本件発明3及び4については,その工業所有権の出願日,原出願に係る発明の工業所有権の登録日)である。したがって,遅い方の支払時期となる登録日についてみると,元年規程を適用した場合と同じである。
イ実績補償金に相当する部分について(ア)10年取扱規程の改正実施前10年取扱規程が改正実施されるまでは,実績補償金の支払に関する規定は存在せず,本件対価請求権の支払時期として勤務規則等に定められている最も遅い時期は,前述のとおり,元年取扱規程により,本件特許等の登録日(本件発明3及び4については,原出願に係る発明の工業所有権の登録日)であった。したがって,本件対価請求権のうち実績補償金に相当する部分については,「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」には該当せず,対価請求権を行使する上で法律上の障害はなかったから,原告は,本件特許等を受ける権利を譲渡した時点,あるいは遅くとも本件特許等の登録時点(本件発明3及び4については原出願に係る特許の登録日),具体的には,本件発明1は平成元年10月12日,本件発明2は平成7年7月28日,本件発明3及び4は平成7年6月23日,本件考案は平成6年8月4日において,その支払を求めることができたというべきである。
そうだとすれば,本件対価請求権のうち実績補償金に相当する部分については,10年取扱規程の改正実施前に支払時期が到来し,権利行使が可能となるのであり,その消滅時効が進行している最中に10年取扱規程が改正実施されるという関係になり,同改正実施後は,同規程13条1項に従って支払時期が定められることとなる。
(イ)10年取扱規程の改正実施後(本件発明1,2及び本件考案)10年取扱規程13条1項による支払時期は,本件発明1,2及び本件考案については,当該発明等が実施されかつその工業所有権が登録されたときである。そして,本件特許等はすべてその登録前に実施されている本件においては,10年取扱規程に従った実績補償金の支払時期は,遅くとも各発明等の工業所有権の登録時となる。
(ウ)10年取扱規程の改正実施後(本件発明3,4)本件発明3,4がいずれもその特許登録までに実施されている本件においては,本件発明3,4の実績補償金の支払時期は,次のとおりとなる。
これらの日はいずれも10年取扱規程の改正実施日(平成10年10月1日)より前に到来する日である。
a本件発明3,4が原出願に係る発明と併せて全体で「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」である場合,本件発明3,4の実績補償金の支払時期は,a)原出願に係る発明の実施日又はその特許の登録日(平成7年6月23日)のうちのいずれか遅い方の日と,b)本件発明3が実施されかつ登録された平成8年2月26日のうち,いずれか早い方の日(したがって,最も遅くとも平成8年2月26日)である。
b本件発明3,4が「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」である場合,本件発明3,4の実績補償金の支払時期は,本件発明3,4のいずれか一つの発明が,実施されかつ工業所有権が登録されたとき,すなわち,本件発明3の登録日である平成8年2月26日である。
c本件発明3と原出願に係る発明とが,「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」である場合,本件発明3の実績補償金の支払時期は,a)原出願に係る発明の実施日又はその特許の登録日(平成7年6月23日)のうちのいずれか遅い方とb)本件発明3が実施されかつ登録された平成8年2月26日のうち,いずれか早い方の日(したがって,最も遅くとも平成8年2月26日)である。
d本件発明4と原出願に係る発明とが,「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」である場合,本件発明4の実績補償金の支払時期は,a)原出願に係る発明の実施日又はその特許の登録日(平成7年6月23日)のうちのいずれか遅い方とb)本件発明4が実施されかつ登録された平成9年2月27日のうち,いずれか早い方の日(したがって,最も遅くとも平成9年2月27日)である。
e本件発明3,4が,「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」ではなく,かつ,そのいずれもが,原出願に係る発明と「関連する発明若しくは,同一の範疇に属すると思われる発明」ではない場合,本件発明3の実績補償金の支払時期は,同発明が実施され特許が登録された日(平成8年2月26日)であり,本件発明4の実績補償金の支払時期は,同発明が実施され特許が登録された日(平成9年2月27日)である。
(エ)小括以上の次第であって,本件においては,10年取扱規程の改正実施(平成10年10月1日)の前後を通じて,上記に述べた10年取扱規程の改正実施前に到来する各支払時期以降は中断されることなく継続して,本件対価請求権のうち実績補償金に相当する部分を行使することは可能であって,同規程の改正前後を通じて同権利を行使する上での法律上の障害は生じていない。
(8)本件対価請求権の消滅時効の成否本件対価請求権を行使することができた時期についてまとめると,本件合併後についてのみ検討しても,10年規程改正実施前は,支払時期の最も遅い登録補償金に相当する部分の支払時期が,本件発明1が平成元年10月12日,本件発明2が平成7年7月28日,本件発明3及び4が平成7年6月23日であり,これらの日以降,各発明等について登録補償金に相当する部分も含めた本件対価請求権の全体を行使することができた。そして,10年規程改正実施後は,支払時期の最も遅い実績補償金に相当する部分の支払時期についてみても,本件発明1,2及び本件考案は,元年規程を適用した場合と同じであり,本件発明3,4については,最も遅い場合でも,本件発明3が平成8年2月26日,本件発明4が平成9年2月27日であって,いずれも平成10年取扱規程の改正実施日前に到来しており,同改正実施の時点では既に権利行使できるものである。
したがって,本件対価請求権のうち,支払時期の最も遅い実績補償金に相当する部分でさえ,10年取扱規程の改正実施前後を通じて,遅くとも各特許等登録時(本件発明3,4については,原出願の特許登録時)以降は中断されることなく継続して権利行使できたものであるから,これらの日以降は,実績補償金に相当する部分も含めた本件対価請求権の全体を行使することが可能であったということができる。
そうである以上,10年取扱規程の改正実施前後を通じて,本件対価請求権の全体を行使することが可能となった最も遅い日は,本件発明1が平成元年10月12日,本件発明2が平成7年7月28日,本件発明3及び4が平成7年6月23日である。原告が本件対価請求権の行使をしたのは,これらの日からいずれも10年を経過した日より後の日である平成18年4月25日であるから,本件対価請求権はいずれも時効により消滅している。
(9)その他の相当の対価の支払に関する定めア追加補償金追加補償金に関する10年取扱規程13条4項は「実施効果が特に顕著であり,会社の業績に著しく寄与したと認められる場合は,関係所属長の申請に基づき発明考案審査委員会の審議を経て社長の決定により追加補償金を支給することができる。」と規定しており使用者側の裁量により任意に支払の可否を決定することができるものと解される一方で,一義的な支払回数や支払時期の定めがあるものではない。したがって,上記の追加補償金に関する規定をもって「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」ということはできず,同規定の存在は本件対価請求権を行使する上での法律上の障害とはならないから,その時効の進行に影響を及ぼすものではない。
イ功労金功労金に関する元年取扱規程16条1項は「会社は実施効果が特に顕著であり,会社の業績に著しく寄与したと認めた発明に対しては,関係所属長の申請にもとづき,発明考案審査委員会の審議を経て社長の決定により,発明者に功労金を支給する。」と規定しており,10年取扱規程の追加補償金と同様,使用者側の裁量により任意に支払の可否を決定することができるものと解される一方で,一義的な支払回数や支払時期の定めがあるものではない。
したがって,上記の功労金に関する規定をもって「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」ということはできず,同規定の存在も,本件対価請求権の時効の進行に影響を及ぼさない。
ウ賞状,賞金,追賞元年奨励規程及び10年奨励規程がそれぞれ定める賞状,賞金,追賞については,賞状,賞金について元年奨励規程9条では「社長は審査の都度,有効と認めた発明考案に対して次の等級に従って賞金及び3等以上には賞状を授与する。」,追賞について同規程10条では「一度受賞した発明考案が長期に亘る実施の結果,更にその結果が顕著であると認めたものに対しては所属長の申請に基づき,委員会の審査を経て社長の決定により追賞することができる。」,賞状,賞金について10年奨励規程8条では「社長は審査の結果,有効と認めた発明考案に対して下記の等級区分に従って3等以上の受賞者に賞状及び賞金を授与する。」,追賞について同規程9条では「受賞済の発明考案が長期に亘る実施の結果,更にその効果が顕著であると認めたものに対しては所属長の申請に基づき,委員会の審査を経て社長の決定により追賞を受けることができる。」とそれぞれ規定されており,使用者側の裁量により任意に支払の可否を決定することができるものと解される一方で,一義的な支払回数や支払時期の定めがあるものではない。したがって,上記各規定があることをもって「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」に該当するということはできず,元年奨励規程及び10年奨励規程の賞状,賞金,追賞に関する規定は,本件対価請求権の時効の進行に影響を及ぼさない。
エその他元年規程及び10年規程のいずれにおいても,上記に検討したものの他に,職務発明等の譲渡の対価の支払時期に関する規定の存在を認めることはできない。
(10)原告の主張についてア原告は,元年取扱規程が適用されると本件対価請求権の消滅時効が未だ完成していないこととなる10年取扱規程の改正実施時において,10年取扱規程は,本件対価請求権の一部となる実績補償金及び追加補償金の支払を受ける権利を従業者等に新たに付与したもので,相当対価の支払時期を延長する法的効果を生じさせる結果,原告が実績補償金の査定を請求できるのは10年取扱規程が改正実施された平成10年10月1日以降であるから,本件対価請求権の消滅時効の起算点は,早くても同日であると主張する。
イしかし,相当対価の額は,勤務規則等の定めの内容に従って決定されるものではなく,その発明等により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明等がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定められるものである(平成16年法律第79号による改正前の特許法35条4項)。したがって,特許等を受ける権利を使用者等に承継させることにより,発明者等たる従業者が取得する使用者等に対する相当対価の支払を求める権利は,勤務規則等により支払時期の定めがある場合は,その権利の行使において法律上の障害となるが,勤務規則等に対価となるべき金銭の種類,名目の定めがないことは,相当対価の支払を請求する上で法律上の障害とはならない。よって,本件対価請求権のうち実績補償金及び追加補償金に相当する部分は,10年取扱規程の改正実施により実績補償金及び追加補償金に関する規定が新設されるまでは請求できなかったという原告の主張は失当である。
ウなお,10年取扱規程における追加補償金に関する規定の存在をもって「勤務規則等に対価の支払時期が定められているとき」であるということはできず,10年取扱規程の追加補償金に関する規定は,本件対価請求権の時効の進行に影響を及ぼさないことは,前記のとおりである。
2よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 村上誠子
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