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関連審決 無効2005-80121
関連ワード 補正要件 /  文言解釈 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10842号 審決取消請求事件
平成 17年 (行ケ) 10847号 審決取消請求事件
第1事件原告・第2事件被告 日立工機株式会社 両事件訴訟代理人弁護士 井坂光明,弁理士 井沢博 第1事件被告・第2事件原告 マックス株式会社 両事件訴訟代理人弁理士 高田修治 第2事件訴訟代理人弁護士 田倉保,弁理士 七條耕司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2005−80121号事件について平成17年11月8日にした審決を取り消す。
訴訟費用は,第1事件及び第2事件ともに,第1事件原告・第2事件被告の負担とする。
事実及び理由
全容
1 本件は,第1事件原告・第2事件被告が有する特許権(特許第2842215号)について,第1事件被告・第2事件原告から無効審判請求がされた事案であり,審決は,無効審判における訂正請求を認めた上で,@同特許の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とし,A同請求項8に係る発明についての審判請求は成り立たないとした。そこで,第1事件原告・第2事件被告は,本件審決全体の取消しを求めて出訴し(第1事件),第1事件被告・第2事件原告は,審決の上記Aの部分のみの取消しを求めて出訴した(第2事件)。
2 本件特許の特許権者である第1事件原告・第2事件被告は,第1事件の訴えを提起した後,本件特許の特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判を請求した。そして,第1事件原告・第2事件被告は,第1事件(併合前)において,当裁判所に対し,特許法(以下,単に「法」という。)181条2項により審決全体を取り消すよう上申した。当裁判所は,第1事件に第2事件を併合した上で,当事者双方の意見を聴いたところ,当事者双方ともに,事件を審判官に差し戻すため,審決全体を取り消すことに異議がないとの意見が述べられた。
3 そこで,当裁判所は,請求項1ないし8に係る各発明の関連性,審決が認めた無効理由(補正要件違反),訂正審判請求における訂正内容,当事者の意見,その他本件に関する諸事情にかんがみ,本件特許を無効とすることについて特許無効審判においてさらに審理させることが相当であると認め,事件を審判官に差し戻すため,審決全体を取り消すこととする。
4 本決定に際して考慮した問題点につき,補足して説明する。
(1) 本決定に際しては,第2事件が審決の上記Aの無効審判請求を不成立とした部分の取消しを求める訴訟であるところ,法181条2項は,無効不成立審決の取消訴訟にも適用があるのか否かという問題があり得る。
以下の理由により,適用があるものと解するのが相当である。
まず,法181条2項は,その文言解釈上,無効不成立審決の取消訴訟における適用を除外するものとは解されない。すなわち,法181条2項では,「特許無効審判の審決に対する第178条第1項の訴えの提起があった場合において」とされているところ,特許法における「特許無効審判の審決」という文言は,無効審決のみならず無効不成立審決をも含む概念として規定されている(例えば,法134条の3第1項の規定と対比すると明らかである。)。
次に,法181条2項は,特許庁の無効審判及び裁判所の審決取消訴訟という手続において,特許無効の審理をより適切にするために,当該事案の諸事情を勘案した裁判所の裁量により,実体判断に入ることなく審決を取り消して,特許無効審判においてさらに審理させるために事件を審判官に差し戻す余地を認めた趣旨であると解される。そして,審決で無効と判断された請求項と無効不成立とされた請求項とが密接に関連している場合などのように,両者を併せ検討しつつ各請求項の発明に係る特許を無効にすることについて,特許無効審判においてさらに審理させることが相当であると認められるような事案も想定されるのであって,法181条2項は,無効不成立審決の取消訴訟への適用を排除する趣旨とは解されない。
(2) 以下の点についても検討したが,結果的には本決定の結論に影響がなかった。問題点のみ指摘しておく。
(a) 第1事件において,審決全体を取り消すことができるかという問題があり得る。すなわち,第1事件原告・第2事件被告は,審決の上記Aの判断部分(請求項8に係る部分)については,訴えの利益がないものと解されるが,法181条2項による取消しにおいては,この点との関係をどのように解すべきかという問題があり得る(本件では,第1事件で審決の上記@の部分を,第2事件で審決の上記Aの部分を取り消すことで,審決全体を取り消したことになる。)。
(b) 本件のように,審判においてされた訂正請求を認めた上で,一部を無効,一部を無効不成立とした審決につき,当事者双方からそれぞれ審決取消訴訟が提起された場合において,裁判所として,無効とした審決部分は,法181条2項によって取り消し,無効不成立とした審決部分は,取り消すことなく訴訟を進行させることが相当であると判断したときに,そのような措置をとることで支障はないのかが問題となり得る。
134条の2第4項のいわゆるみなし取下げの規定によれば,無効とした審決部分のみが取り消され,無効審判が再開された場合には,審判においてされた先の訂正請求が取り下げられたものとみなされ,無効不成立部分について審決取消訴訟の審理中であるにもかかわらず,審決の無効不成立判断の前提となった訂正請求が取下げとみなされて欠けることになりはしないかとの疑問の余地がある。
みなし取下げの効果が請求項ごとに生じると解すれば,その懸念は一応なくなるが(事後処理は複雑になろう。),同条の文言をみる限り,必ずしも明らかではない。
特許庁においては,いわゆる改善多項制が導入されたり,請求項ごとに無効判断がされる制度に変わった後も,訂正の扱い,複数の請求項に係る無効審判の審決の一部について取消訴訟が提起された場合の審決の確定に関する扱い,複数当事者が関与する審決について一部の者が取消訴訟を提起した場合の審決の確定に関する扱いなど,不可分一体的な扱いが根強く,法134条の2第4項の立法過程にも影響した可能性がある。一方,審決取消訴訟は,訴訟手続法によって規律されており,審決の一部を取り消すという裁判所の措置は,当然に許容されることのように思われるが,訂正等に関する特許庁の不可分一体的な扱いとは整合しないおそれがある。今後,法181条2項との関係でも,特許庁における行政手続と裁判所における訴訟手続の整合性が問われることになるものと思われる。
5 以上の検討をふまえ,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法64条ただし書を適用して,主文のとおり決定する。
平成18年1月30日
裁判長裁判官 田中昌利
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文