関連審決 |
無効2004-80148
無効2005-80090 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 参酌 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10013号
審決取消請求事件
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原告日本製紙株式会社 訴訟代理人弁理士大塚明博,小林保,小島猛,小田淳子 被告ヒサゴ株式会社 訴訟代理人弁理士筒井大和,小塚善高,筒井章子,菅田篤志,岩崎吉信 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/03/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2004-80148号事件について平成17年11月30日にした審決を取り消す。」との判決。 第2事案の概要本件は,特許を無効とした審決の取消しを求める事案であり,原告は無効とされた特許の特許権者,被告は無効審判の請求人である。 1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「小紙片印刷用積層シート」とする特許第3424212号(平成5年5月21日に出願,平成15年5月2日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲8)。 (2)被告は,平成16年9月8日,本件特許について無効審判の請求をし(無効2004-80148号事件として係属),また,Aは,平成17年3月25日,本件特許について無効審判の請求をし(無効2005-80090号事件として係属),これに対し,原告は,同年6月20日,明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。 (3)特許庁は,上記審判について審理の併合をした上,平成17年11月30日,「特許第3424212号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年12月12日,その謄本を原告に送達した。 2特許請求の範囲の記載(1)本件訂正前のもの(甲8)【請求項1】印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して,一体的に積層接着してなる積層シートであって,前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5〜200g/cmであると共に,前記印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする小紙片印刷用積層シート。 【請求項2】印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として2層以上の熱可塑性樹脂を挟持して,一体的に積層接着してなる積層シートであって,前記中間層における熱可塑性樹脂相互間のうちの1箇所の層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5〜200g/cmであると共に,前記印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする小紙片印刷用積層シート。 【請求項3】前記印刷用基材層が紙であり,前記中間層がポリオレフィンである請求項2に記載の小紙片印刷用積層シート。 【請求項4】前記紙製の印刷用基材層の外表面に感熱発色層,自己発色性感圧記録層,熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の小紙片印刷用積層シート。 (2)本件訂正後のもの(本件訂正は,発明の名称を「カード印刷用積層シート」に訂正し,訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4について,2,3を削除して,4を2に繰り上げ,下線部のように変更することを内容とする。)【請求項1】カード印刷用の紙基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して,一体的に積層接着してなる積層シートであって,前記カード印刷用の紙基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5〜200g/cmであると共に,前記カード印刷用の紙基材層に所定形状のカードを輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とするカード印刷用積層シート。 【請求項2】前記カード印刷用の紙基材層の外表面に感熱発色層,自己発色性感圧記録層,熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカード印刷用積層シート。 3審決の理由の要点審決の理由は,要するに,本件訂正請求は認められないとした上,本件訂正前の請求項1ないし4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである,というのである。 (1) 本件訂正の適否について本件訂正は,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項及び4項の規定に適合しないので,認めることができない。 (2) 審決の判断ア 甲各号証の記載(ア) 審判甲1(本訴甲1,以下「甲1」という。):実願平3-20399号(実開平4-109182号)のマイクロフィルム甲1に記載された発明は,小紙片であるカード8に印刷を施すためのカード付きメール帳票に関するものであり,帳票への印字とカード部分への印字を同時に行うこと,ノンインパクト型プリンター及びインパクト型プリンターでの印字を可能とすること,帳票の大きさを葉書サイズとすること,接着剤使用の問題点を解消すること等を解決課題とし(段落0002〜0007),以下の事項が記載されている。 (ア-1) 「【請求項1】疑似接着層を有する積層シートよりなるメール帳票本体の表面側より少なくとも前記疑似接着層を貫通し,帳票本体を貫通しない切込みを設け,該切込みによって区画され,疑似接着層において帳票本体より剥離可能なカード部を形成したことを特徴とするカード付きメール帳票。」(実用新案登録請求の範囲)(ア-2) 「図2に示す態様のカード付きメール帳票1の帳票本体11は,紙,プラスチック,合成紙やこれらの積層体等からなる基材シート12とアルミニウム蒸着層等の金属蒸着層13,フィルム14,疑似接着層9,フィルム15とからなる積層シート16を,接着剤層17を介して帳票基材10の裏面側に貼着してなる構成を有している。」(段落0013)(ア-3) 「図1において,1は本考案のカード付きメール帳票で,該帳票1はミシン目2を介して複数連続した連続帳票として構成され,両端縁部にはプリンターのトラクターピンに係止する複数の穴3を設けたトラクターピン係止片4がミシン目5によって切取り可能に設けられている。帳票1の表面の右側の略半分には,送り先の住所,氏名等の固有情報を印字するための宛名欄6が設けられており,該宛名欄6の左側には切込み7によって区画されたカード8が形成されている。 本考案の帳票1におけるカード8は,図2に示すように疑似接着層9を有する積層シートよりなるメール帳票本体11の表面側に位置する帳票基材10に,表面側から少なくとも疑似接着層9を貫通し,メール帳票本体11は貫通しない切込み7を設けることによって形成されている。」(段落0011,0012)(ア-4) 「上記,帳票基材10としては通常の葉書等として用いられている,紙,合成紙,合成樹脂フィルム,金属薄板等が用いられる。帳票基材10の表面側には印字適性を付与するためにマット処理等を施しておくこともできる。帳票基材10の厚みは,通常,50〜300μ程度が好ましい。 また帳票基材10の裏面側(積層シート16が貼着される側),特にカード8と対応する部分には必要に応じて印刷や,プリンターにより印字を施しておくこともできる。」(段落0014)(ア-5) 「本考案のカード付きメール帳票1は,メール帳票本体11として,図3に示すように帳票基材10の裏面に,フィルム14,疑似接着層9,フィルム15とからなる積層シート18を接着剤層17を介して接着した構成のものを用いることもできる。・・・本考案のカード付きメール帳票は,切込み7によって区画されたカード8を,疑似接着層9を界面として帳票本体11より容易に剥離することができる。」(段落0018,0019)(ア-6) 「帳票基材10の裏面に貼着される積層シート16におけるフィルム14,15としては,通常,相互間の接着性が低い材質のものが用いられ,例えばポリエチレンテレフタレート(PET)とポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP)とPE,ポリブチレンテレフタレート(PBT)とPE,PETとPP,PBTとPP等,オレフィン系樹脂とエステル系樹脂等の組み合わせが挙げられる。・・・フィルム14と15との間に設けられる疑似接着層9は,フィルム14とフィルム15の一方と同じ材質の樹脂により構成することができる。例えばフィルム14がPEよりなり,フィルム15がPETよりなる場合,PE或いはPETをエクストルージョンコートしてフィルム14と15とを積層することにより,両フィルム14,15を疑似接着することができる。フィルム14と15とはエクストルージョンコートされた樹脂の濡れによって疑似接着される。またフィルム14を設けずに,金属蒸着層13表面に,該金属蒸着層13に対する接着性が低い樹脂をエクストルージョンコートしてフィルム15と擬似接着層9とを設けても良い。」(段落0015,0016)(ア-7) 「【考案の効果】 以上説明したように本考案のカード付きメール帳票は,カード部が表面に突出することがないから,カードを帳票に取り付けた状態でプリンターに取り付けて帳票の固有情報印字欄へ印字を行っても,プリンターのヘッド等にカードが引っ掛かる虞がなく,帳票の固有情報印字欄への印字と同時にカード表面への固有情報の印字を行うことができる。また帳票本体とカードとは疑似接着層によって疑似接着されており,印字の際にカードが剥離する虞もない。」(段落0020)(イ) 審判甲2(本訴甲2,以下「甲2」という。):実願昭60-87925号(実開昭61-204729号)のマイクロフィルム甲2に記載された発明は,化粧品容器の中蓋等に用いられる,通常その加工及び取扱いが困難な極めて薄いフィルム材料に関するものであり,以下の事項が記載されている。 (イ-1) 「(1)フィルムシート2および前記フィルムシート2を支持案内するための支持シート4をこれらシート間で溶融固化された熱可塑性樹脂の結合層3を介して互いに剥離可能に結合させ,かつ前記熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面処理層5を前記フィルムシート2および支持シート4のいずれか一方のシートの前記熱可塑性樹脂の結合層3と接する側の面に設けてなることを特徴とする支持リード付フィルム。・・・(5)前記熱可塑性樹脂がポリエチレンである前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の支持リード付フィルム。 (6)前記フィルムシート2が紙,金属ホイル紙および樹脂フィルムからなる群より選ばれている前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の支持リード付フィルム。 (7)前記支持シート4が紙,金属ホイル紙および樹脂フィルムからなる群より選ばれている前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の支持リード付フィルム。」(実用新案登録請求の範囲)(イ-2) 「前記紙シート4の表面側に表面処理層5として施される熱可塑性樹脂は結合層3の熱可塑性樹脂が溶融固化する際にこれと相溶して一体化する材料から形成される。」(10頁15〜18行)(イ-3) 「フィルムシートおよび支持シートはそれらの間で溶融固化された熱可塑性樹脂の結合層を介して結合されているので,両シートは常時の取扱い時に加わる程度の外力では互いに剥離したり位置ずれを生じるようなことはないが,これは単に熱可塑性樹脂の溶融時の”濡れ”による接着に過ぎないので,たとえばフィルムシートを支持シートから90°ないし180°方向に剥ぎ起すことは極めて容易である。・・・かかる接着力は前記表面処理層の熱可塑性樹脂としてたとえばポリエチレンを用いた場合,ほゞ50mmのシート試料について180°剥離力として測定して(剥離速度500mm/min,23℃,65°RH)約10〜20g程度であった。これは通常の接着剤による剥離強度に比較して著しく低く,シート剥離時にほとんど抵抗感を与えない程度の値である。以下本明細書中ではこのような特別な結合状態を「疑似接着」という。」(6頁15行〜7頁13行)(イ-4) 「紙シート4に対して結合層3を介して”疑似接着”により結合されたフィルムシート2からなる支持リード付フィルム1を得ることができる。」(12頁5〜8行)(イ-5) 「本考案の支持リード付フィルムにおいては,支持シートをフィルムシートから剥離する際に熱可塑性樹脂の結合層をフィルムシートに残存させず必ず常に支持シート側(目的によってはフィルム支持シート側)に移行させることが必要である。 この点について,本考案の支持リード付フィルムでは前記結合層の熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面処理層を前記支持シート(またはフィルムシート)の結合層に接する側に施してある。したがって前記結合層の熱可塑性樹脂がその溶融固化時にこれと同種の熱可塑性樹脂からなる表面処理層と相溶して一体化され,支持シートの剥離時には必ず表面処理層を設けた支持シート(またはフィルムシート)の側のみに確実に移行する。」(8頁11行〜9頁6行)(イ-6) 「本例では長尺のフィルムシート4を長尺の紙シート4上に熱可塑性樹脂の結合層3を介して連続的に一体化し,次いで抜き加工によって所望パターン(図示例では円形)のフィルム部分2,2,・・・を所定間隔で形成した後抜きかすを除去する(図中表面処理層5はこれと一体化した結合層3によって覆われている)。尚この場合シール印刷機を用いて印刷と抜き加工を同時に施すことも可能である。」(13頁14行〜14頁2行)(ウ) 審判甲3(本訴甲3,以下「甲3」という。):特開昭63-115191号公報甲3に記載された発明は,開封防止シール等に用いる複合表示用ラベルに関するものであり,以下の事項が記載されている。 (ウ-1) 「(1)3〜18重量%の酢酸ビニルと残部のエチレンを含むEVA組成物を約120〜210℃の間温度で加熱融解して得られるフィルムを相互に剥離可能に圧着し,一体に積層したことを特徴とする剥離可能なフィルム積層体を備えた複合表示用ラベル。」(特許請求の範囲(1))(ウ-2) 「このようなEVAの・・・融解してフィルム成形し相互に圧着させると両フィルムは全体にわたって均一に融着一体化し,かつ必要に応じて互いに剥離させる際には180°剥離抵抗に換算して約3〜40g/cmの剥離力で容易に剥離することが判明した。」(2頁右下欄11〜17行)(エ) 審判甲4(本訴甲4,以下「甲4」という。):実願昭60-66725号(実開昭61-182579号)のマイクロフィルム甲4に記載された発明は,上下2層の表示ラベルを備えた複合表示ラベル用粘着シートに関するものであり,以下の事項が記載されている。 (エ-1) 「(1)上層側の表示ラベル1と,前記表示ラベル1の裏面に熱可塑性樹脂層3を介して溶融時の樹脂のぬれによって繋着された下層側の表示ラベル2と,前記表示ラベル2の裏面に粘着剤層4を介して貼着された剥離ライナ5とを備えていることを特徴とする複合表示ラベル用粘着シート。 (2)前記表示ラベル1および2の間の前記熱可塑性樹脂層3による繋着力が180°方向の剥離抵抗に換算して約3〜40g/cmの範囲であることを特徴とする前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の複合表示ラベル用粘着シート。」(実用新案登録請求の範囲)(オ) 審判甲3B(本訴甲7,以下「甲3B」という。):特開平4-223190号公報甲3Bに記載された発明は,インクジェット記録紙及びそれを用いたインクジェット記録用ラベルに関するものであり,以下の事項が記載されている。 (オ-1) 「以下,本発明のインクジェット記録紙及びそれを用いたインクジェット記録用ラベルについて図面を用いて詳述するが,本発明はこれによって限定されるものではない。図1は本発明のインクジェット記録紙の断面構成図である。図中符号(1)はインクジェット記録層,(2)はほう砂又はほう酸処理層,(3)は支持体を示す。」(段落0008)(オ-2) 「本発明において使用できる支持体(3)は,公知の材料の中から適宜選択して使用することができるが,特に上質紙,中質紙,及び再生紙等の紙類が好適である。」(段落0009)(オ-3) 「図2は本発明のインクジェット記録用ラベルの断面構成図であり,図1に示した本発明のインクジェット記録紙の支持体(3)に粘着剤層(4),剥離紙(5)を設けたインクジェット記録用ラベルである。」(段落0018)イ 対比・判断摘示(ア-1)〜(ア-7)から,甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 「帳票基材層,帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層及び基材シート層よりなるカード付きメール帳票であって,帳票の表面側から帳票基材層及び疑似接着層を貫通し基材シート層は貫通しない切込みによってカード部が区画され,疑似接着層において帳票本体より剥離可能なカードが形成されたカード付きメール帳票。」(ア) 本件発明1について甲1発明は,甲1の図2を参酌すると,以下のとおりの態様を含むものである。 カード付きメール帳票において,カード部に着目すると,カード自体は,切込みで区画された帳票基材層(10),接着剤層(17)及びフィルム(15)からなる積層体であり,帳票基材層と基材シート層との間の積層シート層は疑似接着層(9)及びフィルム(14)を含み基材シート(12)以外の層であり,疑似接着層(9)は摘示(ア-6)から基材シート層側のフィルム(14)との間又はカードのフィルム(15)との間のいずれかの間で剥離するように構成されるものである。 そうすると,甲1発明におけるカードは印刷を施す層(帳票基材層)を含む層であるから(摘示(ア-4)),カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当し,甲1発明における「基材シート層」は本件発明1の「支持用基材層」に相当する。 甲1発明において,カードを形成するために「帳票の表面側から帳票基材層及び疑似接着層を貫通し基材シート層は貫通しない切込みによってカード部が区画され」る点は,本件発明1の「印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたこと」に相当する。 また,甲1発明の「帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層」におけるフィルムは,オレフィン系樹脂(ポリエチレン等)フィルム,エステル系樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレート等)及びその間に形成される一方のフィルムと同じ材質の樹脂からなることが例示されており(摘示(ア-6)),1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂に該当するから本件発明1の中間層に相当するものである。 そして,甲1発明は,疑似接着層を界面として帳票本体からカードを剥離するものである(摘示(ア-5),(ア-6))から,疑似接着層が基材シート層側のフィルム(14)に付着して剥がれる場合は,本件発明1の「印刷用基材層と中間層との層間の接着強度が支持用基材層と中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」の要件と一致する。 したがって,本件発明1と甲1発明とは,「印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して,一体的に積層接着してなる積層シートであって,前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ,前記印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする積層シート。」である点で一致し,以下の(1)本件発明1では,上記の印刷用基材層と中間層との層間の接着強度が剥離強度0.5〜200g/cmと規定されているのに対し,甲1発明では剥離強度の数値が規定されていない点で相違し(以下「相違点1」という。),(2)本件発明1は,その用途が「小紙片印刷用積層シート」であるのに対して,甲1発明では「カード付きメール帳票」であり,表現上用途が異なる点で一応相違する(以下「相違点2」という。)ものと認める。 以下,上記相違点1,2について検討する。 a 相違点1本件発明1において,剥離強度を特定の範囲に規定する理由は,「剥離強度が大きい場合には実質的に剥離困難となり,また剥離強度が小さすぎる場合には意図しない剥離が起こるおそれがある」(段落0008)である。 一方,甲1発明においても,カードは帳票本体から剥離するものであり,「帳票本体とカードとは疑似接着層によって疑似接着されており,印字の際にカードが剥離する虞もない。」(摘示(ア-7))ものであることから,必要とされる剥離強度の程度については本件発明1と共通の認識を有しているものと認められ,具体的なその範囲を定めることは,実験等を通じて当業者が容易になし得る程度のことと認められる。 実際,甲2〜4においても,測定条件は一部相違するものの,剥離強度が定められており(摘示(イ-3),(ウ-2),(エ-1)),このことは,剥離強度の範囲の設定が当業者にとって容易である旨の上記の判断を裏付けるものである。 b 相違点2本件発明1は,「本発明は,殊更に専用印刷装置を用いずとも小紙片への印刷を可能にすることを目的としている。また,従来の汎用印刷装置を用いることは,印刷した後に切断しなければならず,一方,タック加工を行なうことは,紙基材層の裏面に糊の残存による埃が付着したり,予め施した切込み部分が印刷装置中で剥離を起こし,支持シート上の接着剤層が印刷ロールに付着しトラブルを起こす等の問題があった。本発明はこのようなトラブルを起こす恐れがなく,パソコン,ワープロ等のプリンタによって,簡単に小紙片に印刷を行うことのできるシートの提供を目的としている。」(段落0003)を,その解決しようとする課題とするものである。 一方,甲1発明も,通常の印刷装置で印刷できること,接着剤使用による印刷時等の不都合を解決することを課題としており,本件発明1と甲1発明とは共通する課題を有するものである。 そして,甲1発明は,帳票本体から剥離可能なカードを有しており,このカードは本件発明1の小紙片に相当するものであるから,その小紙片に印刷する積層シートであることも両者で一致している。 さらに,製品の形状も甲1発明のカード付きメール帳票は複数連続した連続帳票であり(摘示(ア-3)),本件発明1の小紙片印刷用積層シートがロールシートでもよいこと(段落0012)とも一致している。 そうすると,本件発明1と甲1発明とは解決しようとする課題,剥離可能な小紙片を有し,製品形状もロールシートである点で共通していることから,甲1発明のカード付きメール帳票も小紙片印刷用のシートとも見ることができ,表現上の相違はあるとしても,実質的な差異があるものとは認められず,相違点2は実質的な相違点とはいえない。 そして,本件発明1の効果である「作成されたカ-ド類を使用する際に埃の付着することがなく,他の用紙に付着することもなく,積み重ねて保管することもできる。また,万一フィ-ドミスなどで印刷中に剥離が起こっても印刷機内部ではりついてしまうような心配も無い。」との点は,甲1発明からも当然予想されるものであり,本件発明1が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。 以上のとおり,本件発明1は,甲1〜4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ) 本件発明2について本件発明2では,各層間の接着強度が「中間層における熱可塑性樹脂相互間のうちの1箇所の層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さく」と規定されている。 しかし,甲1発明においても,疑似接着層(9)がカードのフィルム(15)と付着して剥離する場合は,中間層である疑似接着層(9)とフィルム(14)との層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さくなり,本件発明2の上記要件と一致するものである。 また,甲1発明においても,中間層が2層以上の熱可塑性樹脂を挟持するものであることは明らかである。 したがって,本件発明2と甲1発明とは,上記本件発明1における,相違点1及び相違点2で相違するものと認められ,その判断は上記本件発明1における相違点1及び相違点2で記載したとおりである。 以上のとおり,本件発明2は,甲1〜4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ) 本件発明3について本件発明3は,本件発明2の構成要件に対して,「印刷用基材層が紙であり」との要件及び「中間層がポリオレフィンである」との要件がさらに付加されたものである。 しかし,甲1発明において,カードの印刷を施す層である「帳票基材」層としては紙を使用できることが開示されており(摘示(ア-4)),カードは紙の層を有するものである。 そして,カードを紙単独の層とすることも,剥離して使用するカードの用途に応じて,当業者が適宜なし得る程度のことと認める。 また,甲1発明においても,中間層としてはオレフィン系樹脂が使用できるものであり(摘示(ア-6)),この点は新たな相違点とはならない。 そして,それ以外の要件については,本件発明2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本件発明3は,甲1〜4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 (エ) 本件発明4について本件発明4は,本件発明1又は2の構成要件に対して,「紙製の印刷用基材層の外表面に感熱発色層,自己発色性感圧記録層,熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていること」との要件がさらに付加されたものである。 しかし,甲1発明や甲3Bの記載からも明らかなように(摘示(ア-4),(オ-1)〜(オ-3)),印刷を施す層に対して,印字方法に応じた処理を施すことは通常行われており,甲1発明においても,インクジェット記録受理層等の層を設けることは,周知の技術と認める。そして,それ以外の要件については,本件発明1又は2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本件発明4は,甲1〜4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3) 審決のむすび上記のとおり,本件発明1〜4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。 第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(本件発明1と甲1発明との一致点の認定の誤り)審決は,「前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」との点で一致すると認定したが,以下のとおり,誤りである。 ア審決は,「カード部に着目すると,カード自体は,切込みで区画された帳票基材層(10),接着剤層(17)及びフィルム(15)からなる積層体であ(る)」とし,「甲1発明におけるカードは印刷を施す層(帳票基材層)を含む層であるから(摘示(ア-4)),カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」すると認定した。 イ甲1発明は,審決が認定するように,「帳票基材層,帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層及び基材シート層」よりなり,帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層は,本件発明1の「中間層」に相当する。そして,甲1には,帳票基材層10,接着剤層17及びフィルム15からなる積層体がカード8であることを示す記載はなく,むしろ,フィルム15は,帳票基材層10とは別の構成要素として扱われ,疑似接着層9及びフィルム14と一体となって積層シート16を構成し,接着剤層17を介して帳票基材層10の裏面側に貼着されるのであって,甲1発明のカード8,すなわち帳票基材層10が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するから,甲1発明のカード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するとした審決の認定は誤りである。 そして,審決は,「甲1発明の「帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層」におけるフィルムは,オレフィン系樹脂(ポリエチレン等)フィルム,エステル系樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレート等)及びその間に形成される一方のフィルムと同じ材質の樹脂からなることが例示されており(摘示(ア-6)),1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂に該当するから本件発明1の中間層に相当するものである。」として,フィルム14,疑似接着層9及びフィルム15が本件発明1の「中間層」に相当すると認定する。しかし,「カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」するとした審決の上記認定によれば,フィルム15は本件発明1の「印刷用基材層」に含まれるから,審決の認定は整合性を欠く。 ウそうであれば,甲1発明のカード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するとした審決の認定は誤りであり,正しくは,甲1発明のカード8,すなわち帳票基材層10が本件発明1の「印刷用基材層」に相当すると認定すべきであるから,上記の誤った認定に基づき,「前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」との点で一致するとした審決の認定は,誤りである。そして,本件発明1では,「前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」のに対し,甲1発明では,中間層を構成するフィルム15と疑似接着層9との間又は疑似接着層9とフィルム14との間の接着強度がカード8,すなわち帳票基材層10と中間層との層間及び基材シートと中間層との層間の接着強度よりも小さい点で相違するものであるところ,審決は,この点について判断をしていない。 (2)取消事由2(本件発明1と甲1発明との相違点2の判断の誤り)審決は,「本件発明1と甲1発明とは解決しようとする課題,剥離可能な小紙片を有し,製品形状もロールシートである点で共通していることから,甲1発明のカード付きメール帳票も小紙片印刷用のシートとも見ることができ,表現上の相違はあるとしても,実質的な差異があるものとは認められず,相違点2は実質的な相違点とはいえない。」,「本件発明1が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。」と認定判断したが,誤りである。 ア本件発明1の「小紙片印刷用積層シート」は,小紙片の使用だけをその用途としているのに対し,甲1発明の「カード付きメール帳票」は,住所,氏名等の固有情報を印字した帳票の余白部分に剥離可能なカード部を形成したものであって,カード部以外の部分も印刷され帳票として使用されているから,本件発明1の用途とは実質的に相違している。このように,本件発明1と甲1発明とは構成上明確な相違があり,甲1発明に甲2ないし4に記載された発明を適用しても,本件発明1を構成するものとはならない。 イ甲1発明で得られたカード8は,その剥離面に必ずフィルム15又は疑似接着層9が露出するから,カード8の裏面への筆記は困難であり,本件発明1で得られた小紙片に比べて,はるかに利便性が劣る。また,甲1発明は,フィルム14,疑似接着層9とともに中間層を構成するフィルム15が接着剤層17を介して帳票基材10に接着されているから,製造工程において接着剤層17を形成する接着剤が製造設備に付着等してトラブルを起こすおそれがあり,本件発明1に比べて加工性が劣る。 このように,甲1発明からは本件発明1のような作用効果が生じない。 ウしたがって,「相違点2は実質的な相違点とはいえない。」,「本件発明1が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。」とした審決の認定判断は,誤りである。 (3)取消事由3(本件発明2ないし4と甲1発明との相違点2の判断の誤り)審決は,本件発明2につき,「本件発明2と甲1発明とは,上記本件発明1における,相違点1及び相違点2で相違するものと認められ,その判断は上記本件発明1における相違点1及び相違点2で記載したとおりである。」,本件発明3につき,「本件発明2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。」,本件発明4につき,「本件発明1又は2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。」と認定判断した。 上記(2)のとおり,本件発明1における相違点2の判断は誤りであるから,本件発明2における相違点2の判断も誤りであり,また,本件発明3は本件発明2に従属するものであり,本件発明2における相違点2の判断は誤りであるから,本件発明3における相違点2の判断も誤りであり,さらに,本件発明4は本件発明1又は2に従属するものであり,本件発明1又は2における相違点2の判断は誤りであるから,本件発明4における相違点2の判断も誤りである。 2被告の反論(1)取消事由1(本件発明1と甲1発明との一致点の認定の誤り)に対してア甲1発明のカード付きメール帳票は,熱可塑性樹脂層を介して基材シート層12と帳票基材層10とを疑似接着の技術により接着し,帳票基材層10にカード8を輪郭付ける切込み7を設けることにより,帳票基材層10におけるカード8を基材シート層12から剥離するようにしたものである。そして,甲1発明のようにカード8の裏面に接着剤層17とフィルム層15とを貼り付けてこれらととともにカード8を剥離するようにした技術から,接着剤層17とフィルム層15とを取り除いて,本件発明1のように小紙片2のみを剥離させるようにすることは,積層シートの製造者が必要に応じて選択する事項であるから,小紙片2のみを剥離させるようにした本件発明1は,審決が認定した一致点を有しているといわざるを得ない。 イ審決は,甲1発明の「帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層」におけるフィルムが本件発明1の中間層に相当すると認定したが,甲1発明の帳票基材層10が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するとは認定していないから,「カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」するとした審決の上記認定と整合性を欠くものではない。 甲1発明のフィルム14,15及び疑似接着層9として例示された樹脂材料がいずれもプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂であるから,フィルム14は1層もしくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂に該当し,本件発明1の中間層に相当することになるから,疑似接着層9を中間層に含めれば,疑似接着層9は本件発明1の熱可塑性樹脂層4に相当し,フィルム14は本件発明1の熱可塑性樹脂層5に相当するのである。 ウしたがって,「前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」との点で一致するとした審決の認定に誤りはない。 (2)取消事由2(本件発明1と甲1発明との相違点2の判断の誤り)に対してアカード以外の部分にも印字するか否かは,製造者が任意に決定する事項であるから,本件発明1の小紙片印刷用積層シートは,甲1発明のカード付きメール帳票と実質的な相違点はない。 イしたがって,「相違点2は実質的な相違点とはいえない。」とした審決の判断に誤りはない。 (3)取消事由3(本件発明2ないし4と甲1発明との相違点2の判断の誤り)に対して本件発明1における相違点2の判断に誤りはないから,本件発明2における相違点2の判断に誤りはなく,また,本件発明3は本件発明2に従属するものであり,本件発明2における相違点2の判断に誤りはないから,本件発明3における相違点2の判断に誤りはなく,さらに,本件発明4は本件発明1又は2に従属するものであり,本件発明1又は2における相違点2の判断に誤りはないから,本件発明4における相違点2の判断に誤りはない。 したがって,本件発明2につき,「本件発明2と甲1発明とは,上記本件発明1における,相違点1及び相違点2で相違するものと認められ,その判断は上記本件発明1における相違点1及び相違点2で記載したとおりである。」,本件発明3につき,「本件発明2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。」,本件発明4につき,「本件発明1又は2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の認定判断に誤りはない。 第4当裁判所の判断1取消事由1(本件発明1と甲1発明との一致点の認定の誤り)について(1)原告は,甲1発明において,フィルム15は,帳票基材層10とは別の構成要素として扱われ,疑似接着層9及びフィルム14と一体となって積層シート16を構成し,接着剤層17を介して帳票基材層10の裏面側に貼着されるのであって,甲1発明のカード8,すなわち帳票基材層10が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するから,甲1発明のカード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。 しかしながら,審決は,甲1発明が,「帳票基材層,帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層及び基材シート層よりなるカード付きメール帳票であって,帳票の表面側から帳票基材層及び疑似接着層を貫通し基材シート層は貫通しない切込みによってカード部が区画され,疑似接着層において帳票本体より剥離可能なカードが形成されたカード付きメール帳票。」であると認定した上,「甲1発明は,・・・以下のとおりの態様を含むものである。カード付きメール帳票において,カード部に着目すると,カード自体は,切込みで区画された帳票基材層(10),接着剤層(17)及びフィルム(15)からなる積層体であり,帳票基材層と基材シート層との間の積層シート層は疑似接着層(9)及びフィルム(14)を含み基材シート(12)以外の層であり,疑似接着層(9)は摘示(ア-6)から基材シート層側のフィルム(14)との間又はカードのフィルム(15)との間のいずれかの間で剥離するように構成されるものである。」と認定した。この審決の説示によれば,審決が認定した甲1発明のカードは,カード付きメール帳票において,切込みによって区画され,疑似接着層において剥離可能に形成され,その表面に印刷が施されるというものであるから,甲1においてカード8として記載されたものではなく,「疑似接着層において帳票本体より剥離可能なカード」,すなわち,カード8と一体に剥離するように構成された接着剤層17及びフィルム15を含む積層体であって,これがカードとして一体化し,疑似接着層によって帳票に取付けられた状態で,剥離することなく帳票に印字され,印字後も一体化した積層体のままの形態を維持して疑似接着層で剥離されるものであると理解することができる。そうであれば,「カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」するとした審決の認定が誤りであるということはできない。 原告の上記主張は,審決を独自の理解に基づいて批難するものであるから,採用することができない。 (2)また,原告は,審決は,フィルム14,疑似接着層9及びフィルム15が本件発明1の「中間層」に相当すると認定するが,「カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」するとした審決の認定によれば,フィルム15は本件発明1の「印刷用基材層」に含まれているから,審決の認定は整合性を欠くと主張する。 確かに,審決は,「甲1発明の「帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層」におけるフィルムは,オレフィン系樹脂(ポリエチレン等)フィルム,エステル系樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレート等)及びその間に形成される一方のフィルムと同じ材質の樹脂からなることが例示されており(摘示(ア-6)),1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂に該当するから本件発明1の中間層に相当するものである。」というように,摘示(ア-6)を引用して認定しているから,甲1発明の「帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層」におけるフィルムがフィルム14のみならず,フィルム15をも意味すると考えられなくもない。しかしながら,上記(1)のとおり,審決は,カード8と一体に剥離するように構成された接着剤層17及びフィルム15を含む積層体が甲1発明のカードであると認定しているのであるから,このことにかんがみると,審決は,フィルム15以外のフィルム14が,1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂に該当するものとして,本件発明1の中間層に相当すると認定したと理解することができる。そうであれば,審決の認定に矛盾はないといわなければならない。 原告の上記主張は,採用の限りでない。 (3)したがって,「カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」するとした審決の認定に誤りはなく,「前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」との点で一致するとした審決の認定が誤りであるということはできないから,原告主張の取消事由1は,理由がない。 (4)なお,上記のように,「カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当」するとした審決の認定が誤りであるということはできないが,確かに,原告が主張するように,仮に甲1発明のカード8,すなわち帳票基材層10が本件発明1の「印刷用基材層」に相当すると認定することも考えられないでもない(ここでいう認定は,ある具体的な事実の存在というような純粋な認定問題ではなく,ある事項がどの事項に相当するとみるべきかという評価を伴う認定問題である。)。 しかしながら,そのように認定したとしても,以下のとおり結論に影響がない。 アカード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するとしたとしても,また,カード8,すなわち帳票基材層10が本件発明1の「印刷用基材層」に相当するとしたとしても,基材シート層と帳票基材層との間には,熱可塑性樹脂に相当する層が挾持されて,一体的に積層接着してなる積層シートが構成される点で,両者は共通する。そして,いずれも,印字の際には一体化した積層シートの形態を維持するが,印字後,その積層シートから切込みによって区画された小片部分を熱可塑性樹脂層の界面で剥離して利用するものであるから,小片部分の熱可塑性樹脂層界面における剥離強度に関して,印字の際には,剥離を生じないで積層シートの形態を維持し得るが,印字後,剥離させたいときには容易に剥離し得るような強度で一体化された積層シートを志向する点で共通する。 イそうすると,甲1に接した当業者は,このような剥離を実現したい層間位置においてのみ,適度な剥離強度が得られる熱可塑性樹脂層を介在させ,剥離に関与させない層間についてはより強い接着強度となるような積層シートを介在させれば,目的とする技術効果を奏することができるから,剥離に関与させない層間の接着手段は設計的事項にすぎないものといわなければならない。そして,審決が一致点と認定した甲1発明の接着剤層17及びフィルム15については,カード8をフィルム14との界面で剥離させ得る手段である限りにおいては,他の手段に置き換えることが可能であって,接着剤層17を介在させずにカード8をフィルム15だけと積層接着すること,さらには,フィルム15をも介在させずにカード8を擬似接着層17に直接積層接着することも容易に想到することができるのであって,いずれの場合においても目的とする技術効果を奏するものである。 ウそうであれば,甲1発明における帳票基材層が本件発明1における印刷用基材層に相当し,甲1発明における基材シート層が本件発明1における支持用基材層に相当するものであって,本件発明1では,「前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」のに対し,甲1発明では,中間層を構成するフィルム15と疑似接着層9との間又は疑似接着層9とフィルム14との間の接着強度がカード8,すなわち帳票基材層10と中間層との層間及び基材シートと中間層との層間の接着強度よりも小さい点で相違するものであるとしても,上記のとおり,剥離を実現したい層間位置においてのみ,適度な剥離強度が得られる熱可塑性樹脂層を介在させ,剥離に関与させない層間についてはより強い接着強度となるような積層シートを介在させる程度のことは設計的事項であって,甲1発明において上記相違点に係る構成を本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到することができることが明らかであるから,直ちに結論に影響を及ぼすものではない。 2取消事由2(本件発明1と甲1発明との相違点2の判断の誤り)について(1)原告は,本件発明1の「小紙片印刷用積層シート」は,小紙片の使用だけをその用途としているのに対し,甲1発明の「カード付きメール帳票」は,住所,氏名等の固有情報を印字した帳票の余白部分に剥離可能なカード部を形成したものであって,カード部以外の部分も印刷され帳票として使用されているから,本件発明1の用途とは実質的に相違していると主張する。 しかしながら,本件明細書には,「【作用】前述のようにして,切込みを施された小紙片印刷用積層シートは,B4,B5,A3,A4等の規定寸法又は不定寸法のカットシート或いは適宜幅のロールシートとして作製される。この小紙片印刷用積層シートは,作製しようとする小紙片の形状或いは使用する印刷装置の形式に応じて,選択して使用される。印刷装置は,専用の印刷装置,コンピュータやワープロのプリンタ等,任意である。印字情報は予め小紙片の形状に合わせてレイアウトされ,上記のカットシート又はロールシートとして供給される小紙片印刷用積層シートにおいて切込みで輪郭付けられた小紙片対応位置に印刷される。そして,印刷後に,切込みを利用して小紙片を剥離することで,所望のカード類が作製される。」(段落【0012】)との記載があるところ,これは,本件発明1の小紙片印刷用積層シートの使用の一態様であって,具体的な使用態様がこれに限られるわけではない。すなわち,本件発明1は,印刷用基材層のどの部分に何を印刷するのかを構成要件とするものではなく,特に,所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みと印刷部分との関係を構成要件とする発明ではないから,本件発明1において,印刷用基材層のどの部分に何を印刷するかは,任意の事項である。 そうであれば,甲1発明において,カード部以外の部分も印刷され帳票として使用されているとしても,本件発明1においても,そのような使用の態様を採ることも可能であるというだけのことであるから,本件発明1の小紙片印刷用積層シートの用途と相違するということはできない。 原告の上記主張は,採用することができない。 (2)原告は,甲1発明で得られたカード8は,その剥離面に必ずフィルム15又は疑似接着層9が露出するから,カード8の裏面への筆記は困難であり,本件発明1で得られた小紙片に比べて,はるかに利便性が劣り,また,甲1発明は,フィルム14,疑似接着層9とともに中間層を構成するフィルム15が接着剤層17を介して帳票基材10に接着されているから,製造工程において接着剤層17を形成する接着剤が製造設備に付着等してトラブルを起こすおそれがあり,本件発明1に比べて加工性が劣るから,甲1発明からは本件発明1のような作用効果が生じないと主張する。 しかしながら,本件発明1の小紙片印刷用積層シートは,印刷用基材層と支持用基材層との間の中間層として,1層の熱可塑性樹脂が挟持され一体的に積層接着されてなる積層シートに限定されるものではなく,その中間層として,2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂が挟持され一体的に積層接着されてなる積層シートをも含むのである。そして,本件明細書には,「なお,樹脂相互の層間で剥離させる場合には,作製されたカード類の裏面側に樹脂層が積層されていることになる。この樹脂層に鉛筆,ボールペン,万年筆等による筆記性を付与するためには,炭酸カルシウム,二酸化チタン等の添加剤を加えることが有効である。」(段落【0010】)との記載があり,この記載によれば,樹脂層の筆記性は必ずしも十分ではないとも考えられるのである。 また,実願昭60-87925号(実開昭61-204729号)のマイクロフィルム(甲2)及び実願平2-2893号(実開平3-95269号)のマイクロフィルム(甲5)によれば,熱可塑性樹脂層を介して積層体を製造することにより,粘着剤や接着剤の積極的使用を回避することができるものと認められるから,本件発明1における,粘着剤や接着剤を使用しないことによるトラブル回避の効果は,格別顕著な効果であるということはできない。 原告の上記主張は採用することができない。 (3)したがって,「相違点2は実質的な相違点とはいえない。」,「本件発明1が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。」とした審決の認定判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は,理由がない。 3取消事由3(本件発明2ないし4と甲1発明との相違点2の判断の誤り)上記2のとおり,本件発明1における相違点2の判断に誤りはないから,本件発明2における相違点2の判断に誤りはない。 また,本件発明3は本件発明2に従属するものであるところ,本件発明2における相違点2の判断に誤りはないから,本件発明3における相違点2の判断に誤りはない。 さらに,本件発明4は本件発明1又は2に従属するものであるところ,本件発明1又は2における相違点2の判断に誤りはないから,本件発明4における相違点2の判断に誤りはない。 したがって,本件発明2につき,「本件発明2と甲1発明とは,上記本件発明1における,相違点1及び相違点2で相違するものと認められ,その判断は上記本件発明1における相違点1及び相違点2で記載したとおりである。」,本件発明3につき,「本件発明2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。」,本件発明4につき,「本件発明1又は2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした審決の認定判断に,誤りはないから,原告主張の取消事由3も,理由がない。 第5結論以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 高野輝久 |
裁判官 | 佐藤達文 |