関連審決 | 無効2005-80026 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10420審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10067審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10704審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10332審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10325審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 物の発明 / 新規性 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 複写物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的範囲 / 技術常識 / 明確性 / 発明を特定する事項 / 発明の詳細な説明 / 発明が明確 / 優先権 / 特許出願日 / 優先日 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 侵害 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10815号
審決取消請求事件
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原告X 被告オイレス工業株式会社 訴訟代理人弁理士高田武志 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/03/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
本判決においては,審決や書証等を引用する場合に,公用文の表記法に従い,あるいは,本文中に指定した略称を用いた箇所がある。 第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2005-80026号事件について平成17年10月21日にした審決を取り消す 」との判決。。 第2事案の概要本件は,原告が,被告を特許権者とする「免震装置」の特許について,無効審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲2)特許権者:オイレス工業株式会社(被告)発明の名称: 免震装置」「特許出願日:平成8年7月30日(特願平8-216604号,優先権主張平成7年8月4日)設定登録日:平成12年9月29日特許番号:第3114624号(2)本件手続審判請求日:平成17年1月27日(無効2005-80026号)審決日:平成17年10月21日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。 審決謄本送達日:平成17年10月27日(原告に対し)2本件発明の要旨(以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという )。 【請求項1】柱状鉛と,弾性材料層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と,少なくともこの弾性体の内周面で規定された中空部とを具備している免震装置であって,柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されてなり,前記積層方向の荷重を支持するようにした免震装置。 【請求項2】前記比Vp/Veが,1.02〜1.07である請求項1に記載の免震装置。 【請求項3】前記中空部を規定する弾性体の内周面は,柱状鉛が弾性体の弾性材料層に食い込んで,当該弾性材料層の位置で凹面になっている請求項1又は2に記載の免震装置。 【請求項4】前記中空部を規定する弾性体の内周面は,柱状鉛が弾性体の弾性材料層に食い込んで,剛性材料層の位置で凸面になっている請求項1から3のいずれか一項に記載の免震装置。 【請求項5】前記剛性材料層は,弾性体におけるその各端面側にそれぞれ配された厚肉剛性板を具備しており,前記柱状鉛の一端部は,一方の厚肉剛性板の内周面によって規定された中空部の一端部に密に配されており,前記柱状鉛の他端部は,他方の厚肉剛性板の内周面によって規定された中空部の他端部に密に配されている請求項1から4のいずれか一項に記載の免震装置。 【】 , , 請求項6前記弾性材料層は弾性板からなり 前記剛性材料層は鋼板からなり当該鋼板の内周面は,弾性板の内周側の一部が流動して形成された極めて薄い円筒状被覆層によって覆われている請求項1から5のいずれか一項に記載の免震装置。 3審決の理由の要点審決は,以下のとおり,請求人(原告)の主張した無効理由によっては本件特許を無効とすることができないとした(甲2の特許公報に記載された明細書を「本件明細書」という。。)(1)無効理由1(1-1)本件明細書の特許請求の範囲には,本件発明1ないし6について,特許を受ける発明が明確に記載されていないから,本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 (1-2)本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1ないし6を当業者が実施をすることができる程度に記載されておらず,本件特許は,特許法36条4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 (2)無効理由2(2-1)本件発明1,3及び4は,審判甲2(本訴甲8)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の発明に該当する。 (2-2)本件発明1ないし4は,審判甲2(本訴甲8)及び審判甲5(本訴甲11)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また,本件発明5及び6は,審判甲2及び審判甲5,又は,審判甲2及び審判甲6(本訴甲12)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 甲1:特許第3114624号特許掲載公報甲2(本訴甲8 :UNIVERSITY OF AUCKLAND, SCHOOL OF ENGINEERING, DEPARTMENT OF CIVIL )ENGINEERING 「REPORT No.289, LEAD RUBBER DISSIPATORS FOR THE BASE ISOLASION OF BRIDGESTRUCTURES」BY S.M.Built, August,1982前書,目次,1 〜 12 頁,82,83 頁甲3(本訴甲9 :”BULLETIN OF THE NEW ZEALAND NATIONAL SOCIETY FOR EARTHQUAKE )ENGINEERING,Vol.17,NO.2 JUNE 1984 90-104 頁の HIGH-STRAIN TESTS ON LEAD-RUBBER BEARINGS ””FOR ERTHQUAKE LOADINGS”甲4(本訴甲10 :特公平4-19407号公報 )()「 」,, 甲5 本訴甲11 :平成3年度 土木研究所講演会講演集 77 〜 80 頁 平成4年2月7日建設省土木研究所発行甲6(本訴甲12 :実公平4-42363号公報 )(以下,審決の引用部分も含め,本訴の証拠番号(3)無効理由1に対する審決の判断で表記する )。 ア無効理由(1-1)(特許法36条6項2号違反)について「本件発明1ないし6は,その発明を特定する事項のうち,特に『柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されて,』( ),,『, なりとの構成 被請求人の分節による事項C により 少なくとも小さな振動入力では高い剛性を示し,大きな振動入力では,低い剛性を示す機能,いわゆるトリガ機能を有して大振幅の地震動に好ましく対応できる』及び『弾性板の劣化をなくして,耐久性を向上でき,製造においては,鉛を弾性体を損壊させないで中空部に圧入できる』という格別の効果を奏するものである・・・。 そして,この効果は本件明細書段落【0020】に 『図5に示すような無負荷状態におけ ,る・・・免震装置5に対して,鉛直荷重57tonf(面圧30kgf/cm)〜342t2onf(面圧180kgf/cm)を加えて,水平方向の変位と水平方向力との関係を実験2により求めた。これを図6〜図9に示す 』と記載されているように,免震装置5が支承する 。 鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12であることによって生じる効果であることが理解できる(本件明細書段落【0021】参照 。)そうすると,本件特許においては,積層方向の荷重の値にかかわらず,Vp/Veの値を所,, , 定範囲とすれば免震効果 耐久性 製造性に優れる免震装置とすることができるとの知見を得その内容を含んだ技術的思想として表現したものが本件発明1ないし6であるということができるから,積層方向の荷重の大きさを特定することは本件発明1ないし6の技術思想を表現する上では必要なものではなく,該特定がないと特許を受けようとする発明が明確でないとはいえない 」。 「したがって,本件明細書の特許請求の範囲は,本件発明1ないし6について,特許を受ける発明が明確に記載されていないものではないから,本件特許は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとすることはできない 」。 イ無効理由(1-2)(特許法36条4項違反)について「そこで,判断するに,参考図4の測定装置のガラス計測管の強度上の問題に対しては,適宜支持板等で補強できることであり,測定管の長さについては,1m近い測定管が実現不可能なものといえる根拠はない上に,目視に用いる測定管よりも直径が大きい測定管を連結配置して長さを短縮することも可能であることなどから,これらの点に関する請求人の主張には根拠がない。また ・・・種々の形状をもったものの体積(容積)を求めるために水を用いること ,は例示するまでもなく一般常識といえ,本件発明が対象とする『弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積』を測定するに際して該一般常識を適用するとともに適宜工夫, , すれば 参考図4のような測定方法に想到することが当業者にとって容易かどうかはさておきなし得ないことではない。してみると,本件明細書に基づき 『弾性体に積層方向の荷重が加 ,えられた状態での中空部の容積Ve』を求めることも当業者にとってなし得ないこととまではいえない 」。 「したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし6を当業者が実施をすることができる程度に記載されていないものではないから,本件特許は特許法36条4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものとすることはできない 」。 (4)無効理由2に対する審決の判断ア無効理由(2-1)(29条1項3号該当)について「まず甲8が特許法29条1項3号に規定の刊行物に該当するか否かについて当事者間に争いがあるので,この点について検討する。 特許法29条1項3号にいう刊行物とは,公衆に対し頒布により公開を目的として,複製された文書・図画その他これに類する情報伝達媒体であって,頒布されたものを指すとされ・・・ a)右原本自体が公開されて(b)公衆の自由な閲覧に供され,かつ (c)その複写物が ( ,公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整っているならば,公衆からの要求をまってその都度原本から複写して交付されるものであっても差し支えないと解される (最高。 裁昭和53(行ツ)69昭和55年7月4日判決参照)この点に関連して甲8には以下の記載がある。 (A 「August,1982 (第1頁及び第3頁) ) 」(B 「オークランド大学学位(または卒業証書)のために提出された論文の本コピーは,貴 )方の要求に応じて,1994年の著作権法56条に基づき,貴方に提供される(2頁抄訳)。」また,甲9の文献には,1984年6月の日付があり,参考文献として甲8の論文が引用されている ・・・。 さらに,甲10である特公平4-19407号公報には平成4年(1992)3月30日の日付があり,同じく参考文献として甲8の論文が引用されている。 甲8の記載(A)からは,甲8の論文原本が1982年8月に作成されたことを推定できるが,論文原本は通常公衆に対し頒布により公開を目的として作成されたものではないから,特許法29条1項3号にいうところの刊行物ということはできない。また同記載(B)からは,複製物である甲8自体が少なくとも1994年以降に作成されたことを推定できるが,本件特許の出願日(本件特許の場合は優先日である平成7年(1995)8月4日,以下同様 )以。 前に作成されたことを示す記載はない。そして,甲8のその他の記載からも,本件特許の出願日以前に,甲8の論文原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供されていたことを示す記載もなく,かつその複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整っていたことを示す記載もない。 次に請求人は 『甲8をもって,オークランド工科大学の土木工学科におけるレポートの存 ,在と,その内容を立証し,甲9及び甲10をもって,当該レポートの複製物が不特定のものに交付された事実を立証しようとするものである・・・と主張しているので,この点について 。』検討する。 甲9及び甲10には参考文献として甲8の論文が引用されているが,このことから甲8の論文の複製物が交付されたとは必ずしもいえず,その論文が収蔵されている図書館でそれを閲覧して引用する場合やその論文の著作者から直接聞き取って論文を引用する場合等も考えられる。請求人は 『研究者が技術的な文献に他の文献を引用する際には,他の文献を十分に理解 ,して引用することが普通である。甲8は,その目次に示されたページ数から判るように100頁にも及ぶ技術文献である。甲8の論文は,希望するものには,写しが提供されていたのであるから,甲9及び甲10の文献の著者は,その論文の作成前に写しを入手していたとするのが自然である 』等主張するが,上記のとおり甲8には本件特許の出願日以前に希望するものに 。 は写しが提供されていたことを示す記載はない。 また,甲9の文献で甲8の論文を引用するところは,導入部(甲9第1頁「INTRODUCTION」参照)の一箇所のみであって,導入部における単なる紹介程度の引用では,他の文献を十分に理解することが普通ともいいきれないから,これによって甲9の文献の著者は,その論文の作成前に写しを入手していたとは必ずしもいえない。 さらに,甲10の特公平4-19407号公報には,発明者としてイアン・ジョージ・バックル及びステイーブン・メアデイテイ・ビルトと記載されているが,この両名は甲8の論文の著者であるS.M.Built及び指導者であるIanG.Buckleと同一人と認められる。そうすると,甲10に自分自身の甲8の論文を引用したこととなり,その際にはわざわざ写しを入手する必要はなかったとするのが自然である。 よって,甲9及び甲10には本件特許の出願日以前に甲8の論文の複製物が不特定のものに交付されたとする根拠はないといわざるを得ない。 以上の点からみて,甲8の論文原本は特許法29条1項3号に規定する刊行物に該当せず,その複製物も本件特許出願前に頒布された刊行物とはいえないのであるから,結局甲8は特許法29条1項3号に規定する刊行物に該当しない 」。 イ無効理由(2-2)(29条2項違反)について(ア)「上記のとおり,甲8は本件特許の出願前に頒布された刊行物ではない。 ・・・本件発明1と甲11に記載された発明は 『柱状鉛と,弾性材料層及び剛性材料層が交互に ,積層されてなる弾性体と,少なくともこの弾性体の内周面で規定された中空部とを具備している免震装置であって (柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積 ,層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして)柱状鉛が中空部に密に配されてなり,前記積層方向の荷重を支持するようにした免震装置 』である点で一致し,以下の点で相違する。 。 (相違点)本件発明1が 『柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方 ,向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして』いるのに対し,甲11に記載された発明では,柱状鉛の体積が中空部の体積よりも1%程度大きめであるものの,柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veの値は不明である点。 上記相違点について検討すると,本件発明1は先に指摘したとおり,該相違点を含む構成により 『小さな振動入力では,高い剛性を示し,大きな振動入力では,低い剛性を示す機能, ,いわゆるトリガ機能を有して大振幅の地震動に好ましく対応できる』及び『弾性板の劣化をなくして,耐久性を向上でき,製造においては,鉛を弾性体を損壊させないで中空部に圧入できる』という格別の効果を奏するものである(・・・本件明細書段落【0013【0014】】,及び【0021】参照)のに対し,甲11及び甲12には該相違点にかかる本件発明1の構成を示唆するような記載がないし,そもそも弾性体の中空部に柱状鉛を挿入するタイプの免震装置において,柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veの値を考慮することが本件特許の出願前に当業者に知られた技術事項であったものでもない。 そうすると,上記相違点にかかる本件発明1の構成が甲11及び甲12に記載された発明から容易に想到できたものとはいえない 」。 「本件発明2ないし6は,本件発明1を引用し,更にその構成を限定し,あるいは他の構成要件を付加したものである。そして,本件発明1が本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲8,甲11及び甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明1の構成をすべて具備した本件発明2ないし6は本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲8,甲11及び甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない 」。 (イ)「以下,甲8が特許法29条1項3号に規定の刊行物に該当すると仮定した場合について念のため検討する 」。 「本件発明1と,甲8の鉛ゴムエネルギー吸収装置に係る発明とは 『柱状鉛と,弾性材料 ,層及び剛性材料層が交互に積層されてなる弾性体と,この弾性体の内周面で規定された中空部とを具備している免震装置であって,柱状鉛が中空部に密に配され,前記積層方向の荷重を支持するようにした免震装置 』である点で一致し,以下の点で相違する 」 。 。 (相違点)「本件発明1が 『柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層 ,方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにし たのに対し 甲8にかかる発明は 柱状鉛の体積Vpと 柱状鉛が未挿入であっ 』,,,て,弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態における中空部の容積Veとの関係を具備しているか不明である点 」。 「この相違点に関して,請求人は・・・甲8の鉛ゴムエネルギー吸収装置の荷重を加えた状態での中空部の容積Veを近似的に演算によって求め,Vp/Veを算出している 」。 「ここで,請求人が近似的に求めたVeに基づくVp/Veの値の正当性について当事者間に争いがあるので,この点について検討する。 (a)請求人は,中空部の孔径の変化を考慮した場合 『矩形状断面の弾性支承では,計算 ,が難しいので,弾性支承の上面の面積が等しいリング状の弾性支承を仮想し,ゴム層の部分が均一に上面と平行な面内で膨張するとして近似的にその量を計算する』としている・・・が,この仮想による誤差がどの程度か不明である。 (b)請求人は 『49.6kNの荷重を加えた場合の中空部容積の減少率は,496kN ,の荷重が加えられた場合の概ね10分の1である』としている・・・。 ・・・審判乙7「免震用積層ゴムの利用技術に関する研究報告書」160頁7〜8行によれば ・・・面圧20kgf/cm 未満では圧縮剛性は線形でないことが理解できるので 『4 , ,29.6kN(5.25kgf/cm )の荷重を加えた場合の中空部容積の減少率は,4962kN(52.5kgf/cm )の荷重が加えられた場合の概ね10分の1である』とはいえ2ず,このように仮定した場合の誤差がどの程度か不明である 」。 「そうすると,上記相違点にかかる本件発明1の構成を甲8の鉛ゴムエネルギー吸収装置にかかる発明も備えているとはいえないから,請求人の『本件発明1は甲8に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の発明に該当する』との主張は採用できない 」。 「また ・・・本件発明1は・・・ 小さな振動入力では,高い剛性を示し,大きな振動入力 , 『では,低い剛性を示す機能,いわゆるトリガ機能を有して大振幅の地震動に好ましく対応できる』及び『弾性板の劣化をなくして,耐久性を向上でき,製造においては,鉛を弾性体を損壊』 ,, させないで中空部に圧入できる という格別の効果を奏するものである・・・のに対し 甲8甲11及び甲12には該相違点にかかる本件発明1の構成を示唆するような記載がないし,そもそも弾性体の中空部に柱状鉛を挿入するタイプの免震装置において,柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veの値を考慮することが本件特許の出願前に当業者に知られた技術事項であったものでもない。 そうすると,上記相違点にかかる本件発明1の構成が甲8,甲11及び甲12に記載された発明から容易に想到できたものとはいえない 」。 (5)本件発明2ないし6について「本件発明2ないし6は,本件発明1を引用し,さらにその構成を限定し,あるいは他の構成要件を付加したものである。そして,本件発明1が甲8に記載された発明でなく,甲8,甲11及び甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件発明1の構成を全て具備した本件発明2ないし6は甲8に記載された発明でなく,甲8,甲11及び甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない 」。 第3原告の主張(審決取消事由)の要点審決は,原告が審判において主張した無効理由(1-1)に関して,特許法36条6項2号に規定する要件についての判断を誤り(取消事由1 ,無効理由(1-2)に関し )て,特許法36条4項に規定する要件についての判断を誤り(取消事由2 ,無効)理由(2-1)及び(2-2)に関して,甲8が本件特許の出願前に頒布された刊行物に該当するか否かについての認定を誤り(取消事由3 ,さらに,甲8が本件特許の出願 )前に頒布された刊行物に該当すると仮定した場合の特許法29条1項3号該当性,同条2項該当性についての判断も誤りであるから(取消事由4 ,取り消されるべ)きである。 1取消事由1(特許法36条6項2号の要件についての判断の誤り)(1)審決は,本件発明1ないし6の発明を特定する事項について 「本件特許に,, , , おいては 積層方向の荷重の値にかかわらず Vp/Veの値を所定範囲とすれば免震効果,耐久性,製造性に優れる免震装置とすることができるとの知見を得,その内容を含んだ技術的思想として表現したものが本件発明1ないし6であるということができるから,積層方向の荷重の大きさを特定することは本件発明1ないし6の技術思想を表現する上では必要なものではなく,該特定がないと特許を受けようとする発明が明確ではないとは言えない(審決書5頁10〜16行)と判断して 。」いる。 , ,, しかしながら 本件発明1ないし6はいずれも物の発明であるから その効果は特定の物(免震装置)の効果でなければならない。審決は 「免震装置5が支承す ,る鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12であることによって生じる効果であることが理解できる(審決書5頁6〜9行)とするが,免震装 。」置が特定されたとき,Veは免震装置が支承する鉛直荷重が変化すればそれに伴って変化するものであるから,鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12となることはない。 本件特許の出願手続において出願人が提出した平成12年5月2日付の意見書(甲6)には,本件明細書に記載された免震装置に3種類の体積の柱状鉛を配した,, , 免震装置が示されているが 同じ免震装置であっても 鉛直荷重の大きさによってVp/Veが1.02〜1.12の範囲内にあったり,1.02〜1.12の範囲から外れていたりすることになる。そのような免震装置は 「免震装置5が支承す ,る鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12である」免震装置であるとはいえない。 本件明細書が開示するのは,積層方向の荷重の値に応じてVp/Veの値を所定範囲とするようにすれば,免震効果,耐久性,製造性に優れる免震装置となるという知見を得たということであって,免震装置5が支承する鉛直荷重の値にかかわらず,免震効果,耐久性,製造性に優れる(すなわちVp/Veが1.02〜1.12の)免震装置が得られるというものではない。 そうすると 「積層方向の荷重の値にかかわらず,Vp/Veの値を所定範囲と ,すれば,免震効果,耐久性,製造性に優れる免震装置とすることができるとの知見を得,その内容を含んだ技術的思想として表現したものが,本件発明1ないし6であるということができる」との審決の認定は誤りである。 (2)審決は 「 一つの免震装置であっても,その免震装置が支承する荷重が定 ,「まらない場合には,その免震装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かが定まらないから,そのような免震装置を生産,譲渡することは,本件特許を侵害する行為であるか否かが特定できない 」ことは,特許法36条6項2号に規定された特許 。 請求の範囲の記載の明確性の要件を直接阻害するものではない(審決書5頁17。」〜22行)と判断している。 しかしながら 「柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,積層体に ,積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして」の事項は,これによっては物の構成が特定されないものであるから,免震装置の発明を特定する事項としては不適当である。 発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであり,特許請求の範囲は,第三者により製造等された物がその特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断できるものでなければならない。一つの免震装置は必ず一つの値の荷重しか支承できないように設計・製造されるというものではないから,一つの免震装置であっても,その免震装置が支承する荷重が定まらない場合には,その免震装置装置を生産,譲渡することが本件発明1を侵害する行為となるか否かが特定できないことになる。このような特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件に反する。 (3)以上のとおり,本件発明1にかかる特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件に反しないとした審決の判断は誤りであるから,取り消されるべきである。 2取消事由2(特許法36条4項の要件についての判断の誤り)審決は 「乙1〜5に,参考図4のように,容器とこれに接続された測定部に, ,, , 所定の水を入れ 容器の容積を求めるような方法自体は開示されていないとしても種々の形状をもった物の体積(容積)を求めるために水を用いることは例示するまでもなく一般常識と言え,本件発明1が対象とする「弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積」を測定するに際して該一般常識を適用すると共に適宜工夫をすれば ・・・なし得ないことではない。してみると,本件明細書に基 ,づき 「弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Ve」を求め ,ることも当業者にとってなし得ないこととまでは言えない(審決書6頁20〜2 。」9行)とする。 しかしながら,本件発明1の「弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Ve」は 「Vp/Veの値が1.02〜1.12」にあることが求め ,ることが可能な程度に測定されなければならないから,Veの値は,1%以内の誤。, , 差の範囲で測定できなければならない 一方 容積の測定方法に関する一般常識は甲5に示されるように,メスシリンダ等で計測した水を容器内に移してゆき,メスシリンダ内に残った水の量をもとに容器の容積を求めるものである。一般にメスシリンダの測定精度には±0.5%程度の誤差があり(甲7 ,また,測定対象を直 )接測定する場合(例えば,コップの中にある水の体積の測定)には,測定器(メスシリンダ)自体の測定精度で測定できるものであるが,測定対象の測定のために間接的に水の体積を利用するような測定の場合(コップの容積の測定)には,測定器の精度よりも測定精度が悪くなるのが普通である。中空部に水を満たしたとき,水の表面は表面張力により盛り上がるからこれによっても誤差が生ずる。 本件発明1のように弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積を測定するためには,弾性体に荷重が加えられた状態を実現しなければならないから,弾性体は荷重試験機等に置かなければならず,弾性体の中空部の測定に当たっては,測定器が荷重試験機の構成部材と干渉しないようにしなければならない。本件発明1の「弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積」は,当業者が一般常識をもとに測定し得るものではなく,甲4の参考図4に示されるような測定装置を工夫しない限り測定し得ないものである。 審決は 「参考図4のような測定方法に想到することが当業者にとって容易かど ,うかはさておき (審決書6頁25〜26行目)として,参考図4のような測定方 」法が当業者が容易に想到することができたか否かの判断をしていないが,特許権者は 「弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積」を測定する手 ,段として,参考図4に示されるものを挙げるのみであるから,本件明細書の記載に基づいて当業者が「弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積」を測定することができるというためには,参考図4に示された測定装置が容積の測定の一般常識から当業者が容易に考えつくものでなければならない。審決が,参考図4に示された測定方法について,当業者が容易に想到することができたか否かの判断をしないまま,本件明細書の記載が特許法36条4項記載の要件に反するとはいえないとしたことは誤りである。 3取消事由3(甲8の出願前頒布刊行物性についての認定の誤り)審決は 「甲3及び甲4には,参考文献として甲2の論文が引用されているが, ,このことから甲2の論文の複製物が交付されたとは必ずしもいえず,その論文が収蔵されている図書館でそれを閲覧して引用する場合等も考えられる(審決書7頁。」38行〜8頁3行)及び「また,甲3の文献で甲2の論文を引用するところは,導入部(甲3の1頁「INTRODUCTION」参照)の一箇所のみであって,導入部における単なる紹介程度の引用では,他の文献を十分に理解することが普通とも言い切れないから,これによって甲3の文献の著者は,その論文の作成前に写しを入手していたとは必ずしも言えない(審決書8頁11〜15行目)とする。 。」しかしながら,論文の著者が文献を引用する場合は,論文を見た第三者が引用した文献を入手することができることを確認した上で引用するものである。 甲2は,オークランド工科大学の土木工学科におけるレポートであるから,一般の刊行物のように入手できるものではないことは,当然に認識されるものである。 このような文献を引用する際に,その文献の著作者から聞き取っただけで,その文献が入手できるか否かの確認もせずにその文献を自らの論文に引用することはあり得ない。 したがって,審決の上記判断は,少なくとも甲3については誤りであり,これを理由として甲2の原本の複製物が本件特許出願前に頒布されていないとする審決の認定判断は誤りである。 4取消事由4(甲8が出願前頒布刊行物に当たるとした場合の,特許法29条1項3号該当性,同条2項該当性についての判断の誤り)(1)審決は,甲8が出願前頒布刊行物に当たると仮定した場合についての判断において 「上記(a (弾性支承の上面の面積が等しいリング状の弾性支承を仮想 ,)し,ゴム層の部分が均一に上面と平行な面内で膨張するとして近似的にその量を計算したときの誤差 (b (面圧20kgf/cm 未満では圧縮剛性は線形でない ))2ことによる49.6kN(5.25kgf/cm )の荷重を加えた場合の中空部2の容積の減少率における誤差)が不明である以上,Vp/Veの上限値,下限値自体もその誤差の程度が不明であることとなるから 「甲2の鉛ゴムエネルギー吸収 ,装置の弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veは,1.081〜1.12の範囲内のいずれかの値をとることとなる」とは言えない(審決書18頁24〜28行)とする。 。」しかしながら,甲8の鉛ゴムエネルギー吸収装置の弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積を計算により正確に求めることが困難であるため,計算値が中空部の容積の実際の値より必ず小さくなる計算式,及び計算値が中空部の容積の実際の値より必ず大きくなる計算式により,496kN,49.6kNについてVp/Veを求め,これから,実際のVp/Veが存在する範囲を推定すると,496kNから49.6kNのいずれかの荷重において,Vp/Veが本件発明1で限定する数値の範囲内にある。 このとき,弾性支承の上面の面積が等しいリング状の弾性支承を仮想したことにより多少の誤差が生じたとしても,また,面圧20kgf/cm 未満では圧縮剛2性は線形でないために,49.6kNの荷重を加えた場合の中空部の容積の減少率が496kNの荷重を加えた場合の10分の1であることが正確でないとしても,技術常識からみれば,原告の前記計算結果に影響を与えるものではない。 (2)また,審決は 「甲8,甲11及び甲12には該相違点に係る本件発明1の ,構成を示唆するような記載がないし,そもそも弾性体の中空部に柱状鉛を挿入するタイプの免震装置において,柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veの値を考慮することが本件特許の出願前に当業者に知られた技術的事項であったものでもない(審決書19頁5〜10行)とする。 。」しかしながら,本件発明1において特定されているパラメータが引用刊行物に記載されていないことは,本件発明1が新規性,進歩性を有することの根拠とはならない。甲8をみた当業者は,この鉛プラグとして同じ鉛ゴム積層体である甲11の大きさの鉛プラグを使用することを試みるものである。そして,甲8に甲11に記載された技術を適用したときのVp/Veの値は,適宜の荷重を加えたとき本件発明1で限定されたVp/Veの範囲内にあるから,少なくとも,本件発明1は甲8及び甲11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5取消事由5(本件発明2〜6についての判断の誤り)審決の本件発明2ないし6についての判断は,本件発明1に関する誤った判断を前提とするものであるから,当然に誤りである。 第4被告の反論の要点1取消事由1(特許法36条6項2号の要件についての判断の誤り)に対して本件発明1は,弾性体に加えられる積層方向の荷重の値にかかわらず,Vp/Veの値が所定範囲内にあれば,免震効果,耐久性,製造性に優れた免震装置が得られるという技術思想によるものである。したがって 「積層方向の荷重の大きさを ,特定することは本件発明1ないし6の技術思想を表現する上では必要なものではなく,該特定がないと特許を受けようとする発明が明確でないとは言えない 」とし。 た審決の前記判断に,誤りはない。 原告は 「鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12となる ,ことはない」として審決の判断の誤りを主張するが,審決は 「鉛直荷重の値にか,かわらず,Vp/Veが1.02〜1.12となる」としているのではなく,積層方向の荷重の値を特定しないでも,Vp/Veの値が所定範囲内であれば,免震効果,耐久性,製造性に優れた免震装置が得られると判断しているのであるから,原告の主張は,審決の内容を正しく理解しないものである。 本件発明1の免震装置は,ある特定の構造物に用いられ,その構造物によって特定される積層方向の荷重を支持するものであり,この特定の荷重を前提としたVp。, /Veの値が所定範囲内となっていればよいとするのが本件発明1である 原告は免震装置を構造物を支承するように設置したときに初めて定まるパラメータ値で特定することが問題であると主張するが,原告の主張は,ある免震装置が本件特許の特許請求の技術的範囲に属するか否かを確定する場面での問題であって,技術的思想を特定する発明の明確性とは何ら関係のないものである。本件発明1は,ある特定の構造物を支承するように設置したときにVp/Veが1.02〜1.12となるというものであって,技術思想としては十分に特定されており,発明の明確性に欠けるところはない。 2取消事由2(特許法36条4項の要件についての判断の誤り)に対して種々の形状を有する物の体積ないし容積を求めるために水を用いること,また,(,,,) 特定の状態に設定された空間 例えば 鉄製型枠内 ガソリンタンク内 風呂桶等に,流体(例えば,コンクリート,ガソリン,水等)を供給するために,輸送管,給油ホース,水道管等の通路を介することは,甲5,乙3〜6に示されているとおり,一般常識である。 また,本件発明1における「前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Ve」を求めるために,弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態にする程度のことは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみれば,格別の工夫を必要とするものではない。 そこで,弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態とした上で,上記の一般常識をもって合目的的に適宜工夫すれば,例えば甲4の参考図4に示されるような測定器具をもって,本件発明1における容積Veを計測することが可能である。 そして,測定の誤差に対しては,高精度な電子はかりの使用,ガラス計測管を作成する際の工夫等により,1%以内の誤差とすることは十分に可能であり,本件発明1における容積Veを精度よく求めることは,当業者には自明なことである。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が発明を実施できる程度に記載されていないものではないとした審決の判断に,誤りはない。 3取消事由3(甲8の出願前頒布刊行物性についての認定の誤り)に対して原告は,甲8が甲9の論文に引用されていることから,第三者が甲8を入手できることが確認されていたと主張するが,論文で文献を引用するに当たっては,当該文献の写しを第三者が入手できる場合に限らず,当該文献を図書館等で閲覧することができる場合であれば,当該論文を引用することはあり得るのであるから,甲8を甲9の論文に引用するに当たって,第三者による入手可能性が確認されていたとは必ずしもいえない。 なお,甲9の論文の著者は,オークランド大学に学び,鉛プラグ入り積層ゴムの分野で学問的業績をなしたことが紹介されている(乙13)ことから,甲8の論文の著者と甲9の論文の著者とは,師弟関係,研究者仲間等の個人的な関係を有している可能性があり,甲9の論文の著者が,甲8の論文の著者から個人的に甲8の論文の内容を教示されていた可能性も否定できない。 したがって,甲8は本件特許の出願前に頒布された刊行物とはいえないとした審決の判断に誤りはない。 4取消事由4(甲8が出願前頒布刊行物に当たるとした場合の,特許法29条1項3号該当性,同条2項該当性についての判断の誤り)に対して甲8には,少なくとも本件発明1の請求項1の「柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12であるようにして柱状鉛が中空部に密に配されてなり」との構成は,記載されていない。 特許法29条1項3号は,刊行物に出願にかかる発明が記載されていることを要件とするものである。原告は,甲8の鉛ゴムエネルギー吸収装置の弾性体に積層方向の荷重を加えた状態での中空部の容積Veを計算により近似的に求め,本件発明1の構成は甲8に記載されていると主張するが,このような計算は,本件特許の出, ,, 願時において周知ではなく 甲8の記載から自明でもないのであるから 甲8には原告が主張するような容積Veの値が記載されているとはいえない。 また,原告が計算により近似的に求めたVeの値は,技術常識に反する仮定や,誤った認定に基づくものであって,結局,甲8においては弾性体に積層方向の荷重を加えた状態での中空部の容積Veの値は不明であるから,甲8には,本件発明1の構成であるVp/Veの値については記載されていないものである。 すなわち,本件発明1において,柱状鉛が未挿入の状態で弾性体に加えられる荷重と,免震装置が支持する荷重とは一致するのに対して,原告の計算においては,弾性体に加えられる荷重と,鉛ゴムエネルギー吸収装置に加えられる荷重は異なるものであるから,原告の計算によって得られた甲8の容積Veは,本件発明1の容積Veとは異なるものである。また,通常,ゴム材料からなる弾性支承の圧縮鋼性は非線形であるが,原告の計算は,弾性支承の圧縮鋼性が線形であることを前提としたものであり,技術常識に反するものである。さらに,そもそも甲8記載の支承全体の圧縮剛性は,中空部を有さないゴム支承の圧縮剛性であって,中空部を有するゴム支承の圧縮剛性ではない(甲8の10頁の表2.2には 「Plainb,earing (何も加工されていない支承)と記載されている )から,かかる弾 」 。 性支承全体の圧縮剛性をそのまま用いて中空部容積の減少率を求める原告による計算は,技術常識に反したものである。 5取消事由5(本件発明2〜6についての判断の誤り)に対して, , 以上のとおり 本件発明1についての審決の認定判断に誤りはないのであるからこの認定判断を前提として本件発明2〜6についての判断の誤りをいう原告の主張には理由がない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(特許法36条6項2号の要件についての判断の誤り)について(1)原告は,請求項1の記載のうち 「柱状鉛の体積Vpと,前記柱状鉛が未挿 ,入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12である」との点につき,免震装置が支承する鉛直荷重の値が変化すれば,それに伴ってVeは変化するものであるから,本件発明1が「免震装置5が支承する鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12である」免震装置であることを前提とする審決の認定判断は誤りであると主張する。 アこの点に関し,本件明細書(甲2)には以下の記載がある。 (ア)「 0010】本発明は,中空部に配された柱状鉛の体積Vpと,弾性体の内周面で規 【定される中空部の容積,具体的には,柱状鉛を配する前,換言すれば柱状鉛を形成するための鉛を圧入する前であって,弾性体に積層方向の荷重を加えた状態での中空部(以下,縮小中空部という)の容積Veとが一定の関係にある免震装置では,耐久性及び免震効果並びに製造性に特に優れているという知見に基づいてなされたものである。 【0011】すなわち本発明の免震装置では,中空部に配された柱状鉛の体積Vpと,縮小中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12である。縮小中空部の容積Veは,弾性体に加えられる鉛直方向荷重である弾性材料層と剛性材料層との積層方向の荷重によって,換言すれば免震装置が支持する構造物の重量によって増減し,また縮小中空部の容積Veに対して1.00倍を越える体積の柱状鉛が配された状態における中空部の容積とも異なる。 ・・・【】 .(.) 0012 ところで円柱状鉛4を縮小中空部の容積の1 00倍 比Vp/Ve=1 00よりも少なく配した場合には,弾性体3の内周面9と,内周面9に対面してこれに接する円柱状鉛4の外周面との間に隙間が生じ易くなり,したがって免震装置5の作動中に,すなわち免震装置5に繰り返し横方向力Fが加わっている間に,容易に弾性体3の内周面9と円柱状鉛4, 。 の外周面との間に隙間が生じ 履歴曲線21で示すような不安定な免震特性を示すことになる・・・【】, .(.) 0013 一方 円柱状鉛4を縮小中空部の容積の1 12倍 比Vp/Ve=1 12よりも多く配した場合には,円柱状鉛4が大きく弾性板1に食い込んで,図4の符号41で示すように,弾性体3の内周面9が過度に凹面になり,この部位の近傍での弾性板1と剛性板2との間の剪断応力が大きくなり過ぎることとなる。このように過度に応力が生じた状態であると,弾性板1の劣化を早め,耐久性が劣ることになる。また,免震装置5の製造において,中空部12に円柱状鉛4を形成するために,鉛を縮小中空部の容積の1.12倍より多く圧入することは,その圧入力を極めて大きくしなければならない上に,圧入により弾性体3を損壊してしまう虞があり,困難であることも判った。 【0014】なお,以下の実施例からも明らかであるように,小さな振動入力では,高い剛性を示し,大きな振動入力では,低い剛性を示す機能,いわゆるトリガ機能が特に要求され,かつ大振幅の地震動に特に好ましく対応し得るためには,比Vp/Veが1.02以上であることがよい ・・・」。 (イ)「 0020】図5に示すような無負荷状態における弾性体3の高さが240mmの免 【震装置5であって,鋼板2,15及び16の外径を500mm,内径を90mmとした免震装置5に対して,鉛直荷重57tonf(面圧30kgf/cm)〜342tonf(面圧1280kgf/cm)を加えて,水平方向の変位と水平方向力との関係を実験により求めた。 2これを図6〜図9に示す。図6〜図9において (a)は,免震装置5の全弾性板1自体の横 ,変位(水平方向変位)が10%の場合 (b)及び(c)は,同じく50%及び100%の場 ,合である。図6に示す鉛直荷重57tonf(面圧30kgf/cm)を加えた場合におけ2る比Vp/Veは1.03,図7に示す鉛直荷重114tonf(面圧60kgf/cm)2を加えた場合における比Vp/Veは1.00,図8に示す鉛直荷重228tonf(面圧120kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.02及び図9に示す鉛直荷重2342tonf(面圧180kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.112であった。 【0021】図6,図8及び図9から明らかであるように,比Vp/Veが1.02以上で, , 。, は トリガ機能が特に要求され 大振幅の地震に対して好ましく対応し得ることが判る また図7から明らかであるように,比Vp/Veが1.00〜1.02未満の場合には,トリガ機能を好ましく得ることができないといえる。なお,比Vp/Veが1.07以下であれば,製造において中空部12への鉛の圧入が容易であり,それほど困難を伴わないことが判明した。 また,比Vp/Veが1.12以上になるように,中空部12へ鉛を圧入しようとしたが,弾性体3の損壊なしに,これを行うことは困難であることが判明した 」。 イ上記記載によれば,本件発明1は,柱状鉛の体積Vpと,柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12の範囲となるように調整すれば,免震効果,耐久性等が良好な免震装置が得られるという技術思想に基づく発明であり,比Vp/.. , Veが1 02〜1 12の範囲となるように調整して荷重を加えるのであるからその荷重の数値がいかなるものであっても,比Vp/Veが1.02〜1.12の。【】, 範囲となるものではないことは明らかである 本件明細書の段落 0020 にも「図6に示す鉛直荷重57tonf(面圧30kgf/cm)を加えた場合にお2ける比Vp/Veは1.03,図7に示す鉛直荷重114tonf(面圧60kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Veは1.00,図8に示す鉛直荷重2228tonf(面圧120kgf/cm)を加えた場合における比Vp/Ve2は1.02及び図9に示す鉛直荷重342tonf(面圧180kgf/cm)2を加えた場合における比Vp/Veは1.11であった 」と記載され,異なる鉛 。 直荷重を免震装置に加えて比Vp/Veを測定した上で,その効果が対比検討されている。 原告は,審決の「鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12」,「」 , である との記載をもって 審決は 積層方向の荷重 がいかなる数値であっても比Vp/Veが1.02〜1.12となることを前提としていると理解する。しかしながら,審決は「積層方向の荷重の大きさを特定することは・・・必要なものではなく,該特定がないと特許を受けようとする発明が明確でないとはいえない」とも説示しているのであり,審決の関係部分の全体を読めば,審決の「免震装置5が支承する鉛直荷重の値にかかわらず,Vp/Veが1.02〜1.12である」との記載は,加える積層方向の荷重の数値ないしその範囲を具体的な数字として特定していないとしても明確性を欠くとはいえないと判断しているにすぎず,積層方向の荷重がどのような値であっても比Vp/Veが1.02〜1.12であることを前提としているとは理解できない。 したがって,この点についての原告の主張は,審決を正解しないものであって,失当である。 (2)次に,原告は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項に規定する要件を満たすには,第三者が特許請求の範囲の記載によってその技術的範囲を正確に認識できることが必要であるところ,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば,構造が全く同じ免震装置であっても,支承する荷重が定まらない限り本件発明1の技術的範囲に属するかどうか明らかではないのであるから,このような特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしているとはいえないと主張する。 確かに,原告の指摘するとおり,一つの免震装置は必ずしも一つの値の荷重しか支承できないように設計・製造されるものとは限らないので,免震装置が生産,譲渡される際には,支承する荷重が定まらず,当該免震装置が本件発明1の技術的範囲に属するかどうかを特定できない場合も考えられなくはないが,特許を受けようとする発明としての技術的思想が明確かどうかと,第三者が免震装置を製造等する行為が当該発明の技術的範囲に属するかどうかは,異なる観点から検討すべき事項である 「物の発明」は,作用,機能,性質,特性,方法,用途等を用いて特定す 。 ることもできるのであるから,本件発明1に係る請求項1「中空部の容積Ve」を「前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部Ve」として,一定状態で使用された場合の容積としてVeを規定することも可能であり,また,そのような特許請求の範囲の記載に照らし,第三者が免震装置を製造等した時点で本件発明1の構成要件を充足するかどうかの判断が困難であるとしても,そのことから,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が明確ではないという結論が導き出されるものでもない。 本件発明1に係る請求項1の「柱状鉛の体積Vpと,中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02〜1.12である」との記載のうち 「柱状鉛の体積Vp 「前 ,」記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Ve 「比Vp/Veが1.02〜1.12である」との表現は,それ 」ぞれその意義に不明確な点はなく,前記判示のとおり,弾性体に加えられる「積層方向の荷重」は,比Vp/Veが1.02〜1.12となるように定められることは明らかであるから 「前記柱状鉛が未挿入であって,前記弾性体に積層方向の荷 ,重が加えられた状態での中空部の容積Ve」という表現にも不明確な点はないというべきであり,請求項1に記載された本件発明1が不明確であるということはできない。 (3)以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由1には理由がなく 「積,層方向の荷重の大きさを特定することは本件発明1ないし6の技術思想を表現する上では必要なものではなく,該特定がないと特許を受けようとする発明が明確でないとは言えない 」との審決の判断に誤りがあるということはできない。 。 2取消事由2(特許法36条4項の要件についての判断の誤り)について原告は 「比Vp/Veが1.02〜1.12」かどうかを測定するためには, ,弾性体の積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veを1%以内の誤差範囲で測定することが必要であるが,容積の測定方法の一般常識に照らし,そのような測定精度で容積Veを求めることは困難であるにもかかわらず,その測定方法が発明の詳細な説明には記載されていないから,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が実施できる程度に発明が記載されているとはいえないと主張する。 (1)しかしながら,本件明細書の「 0020】図5に示すような無負荷状態に 【おける弾性体3の高さが240mmの免震装置5であって,鋼板2,15及び16の外径を500mm,内径を90mmとした免震装置5に対して,鉛直荷重57t()( ) onf 面圧30kgf/cm〜342tonf 面圧180kgf/cm2 2を加えて,水平方向の変位と水平方向力との関係を実験により求めた ・・・」に。 は,実施例として,無負荷状態における弾性体3の高さが240mm,内径を90mmとした免震装置が例示されており,この実施例の無負荷状態における中空部の容積Veは,1526cm 程度( 90mm/2) ×π×240mm≒153 2(26814.02mm)であるから,測定対象となる中空部の容積Veは,13500mL程度のものを含むということができる。その場合,容積比として,比Vp/Veが1.02〜1.12の範囲内であることを正確に測定するため,比Vp/Veを1%以内の誤差で測定するには,1500mL程度の容積においては,その1%が1500×0.01=15mLであるから,1mL程度の目盛りで精度よく測定することで1%以内の誤差で測定することが十分に可能であるといえる。 (2)また,空間の容積を求めるに当たり,当該空間に水を充填し,充填された,, 水の体積を測定することにより空間の容積を求めることができることは 乙3〜5甲5などにも示されているとおり,一般常識ということができる。そして,パイプを用いて中空部内に水を送水することや,パイプにより送水した水の体積を測定することも常套手段にすぎないから,本件発明1の中空部に対して,水を充填することや,その充填量を測定する装置を作成することは適宜なし得る程度のことであるといえる。 甲7には,容量が2000mLの「メスシリンダースーパーグレード」について,許容誤差が±6.0mL(0.03%)のものが開示され,また,乙7の1には,容量が100mLの「ビュレットスーパーグレードガラスコック付き」について,許容誤差が±0.1mL(0.1%)のものが開示されており,水の体積をガラス管に目盛りを付した測定器を用いて測定するに当たり,許容誤差が0.1%以内のものは,通常市販されている程度の精度であると認められる。さらに,乙7の1には,100mLの容量で,0.2mLが最小目盛りであるものが開示されており,そうすると,水の体積測定を行うガラス管を用いた測定器に,その許容誤差を0.1%以内で,1mLを最小目盛りとする目盛りを付したものは,技術常識からみて,容易に入手し,又は作成し得るものというべきである。 (3)水の体積の測定誤差について上記(2)の技術常識を前提とすると,許容誤差を0.1%以内とし,1mLを最小目盛りとする測定器を入手ないし作成することに困難性は認められず,また,そのような測定器を用いて水の体積を測定する場合に,測定値の読取りは,目盛りの1/10まで読み取ることが一般的であるから,1500mL程度の容積を測定す, 。, るにおいては 十分1%以内の誤差で測定し得ることは明らかである したがって本件発明1の実施例の1500mL程度の容積の中空部に充填する水の体積を測定するに当たり,測定誤差を1%以内の精度で測定することが困難であるということはできない。 3取消事由3(甲8の出願前頒布刊行物性についての認定の誤り)について審決は,甲8(「 UNIVERSITY OF AUCKLAND SCHOOL OF ENGINEERING DEPARTMENT OFCIVIL ENGINEERING 「 REPORT No.289 LEAD RUBBER DISSIPATORS FOR THE BASE,), ISOLASION OF BRIDGE STRAUCTURES 」,BY S.M.Built AUGUST,1982 」 甲8 について「甲8の記載(A)からは,甲8の論文原本が1982年8月に作成されたことを推定できるが,論文原本は通常公衆に対し頒布により公開を目的として作成されたものではないから,特許法29条1項3号にいうところの刊行物ということはできない。また同記載(B)からは,複製物である甲8自体が少なくとも1994年以降に作成されたことを推定できるが,本件特許の出願日(本件特許の場合は優先日である平成7年(1995)8月4日,以下同様 )以前に作成されたことを示す 。 記載はない。そして,甲8のその他の記載からも,本件特許の出願日以前に,甲8の論文原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供されていたことを示す記載もなく,かつその複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整っていたことを示す記載もない 」として,特許法29条1項3号にいうところの刊行 。 物には該当しないと認定判断した。 原告は この認定判断を争わないものの 甲8が 甲9HIGH-STRAIN TESTS ON , ,,(「“LEAD-RUBBERBEARINGS FOR ERTHQUAKE LOADINGS”BULLTIN OF THE NEW ZEALANDNATIONAL SOCIETY FOR EARTHQUAKE ENGINEERING VOL.17,No.2,JUNE,1984 ,甲9)に 」おいて引用されていることに関し,論文の著者が文献を引用する場合は,論文を見た第三者が引用した文献を入手することができることを確認した上で引用するものであることを理由として,甲8の原本の複製物が本件特許出願前に頒布されていないとした審決の認定判断は誤りであると主張する。 (1)甲8は 「オークランド工科大学土木工学部レポートNo.289橋 ,梁構造物のための鉛・ゴムエネルギー吸収装置」という表題の論文の複写物であって,その2頁には 「オークランド大学学位(または卒業証書)のために提出され ,た論文の本コピーは,貴方の要求に応じて,1994年の著作権法第56条に基づき,貴方に提供される 」と記載されている。上記記載によれば,甲8の原本は, 。 オークランド大学図書館に所蔵されている論文であって,要求に応じて,その複写物が提供される態勢にあると認められるものの,甲8の原本が,いつから,公衆の閲覧に供され,要求に応じてその複写物が提供される態勢にあったのかは,不明といわざるを得ず,複製物としての甲8についても,少なくとも平成6年(1994年)以降に作成されたことは推認できるが,本件特許出願に係る優先日前に作成されたことを示す証拠はない。 (2)他方,甲9は 「地震荷重に関する鉛-ゴム支承の高ひずみ試験 (ニュー , 」ジーランド国地震工学会会報第17巻,第2号)の複写物であって,甲9の最下行には 「JUNE1984」と記載されていることから,その発行日は,19 ,84年6月 甲9の1頁最下行 であると認められる 甲9の1頁の「 INTRODUCTION 」 ()。 ,「 , において鉛プラグによって与えられる減衰作用を有する積層ゴム支承の使用はウエリントンのウイリアムクレイトンビルディングの建造物に至るというニュージーランドにおける先駆的な仕事に続き,現在ビィルディング及び橋桁の基礎の分離として世界中に受け入れられた技術である。(1-8 」と記載され,105頁の右 )欄に甲8の原本が引用されている。 原告は,論文の著者が文献を引用する場合は,論文を見た第三者が引用した文献を入手することができることを確認した上で引用するものであると主張するが,論文を引用する場合において,第三者の入手が困難なものであっても,内容的に重要な論文などを引用することは十分に考えられることであり,必ずしも,論文の著者が文献を引用する場合に,引用した文献を第三者が入手できることを確認した上で引用するものであるということはできない。また,甲9の著者が甲8を入手の上,, 「」 引用したとしても その文献の複製物が特許法29条1項3号に規定する 刊行物に該当するものでもない。 (3)したがって,原告の主張する取消事由3には理由がなく,甲8の原本の複製物が本件特許出願前に頒布されていないとした審決の認定判断が誤りであるということはできない。 4取消事由4(甲8が出願前頒布刊行物に当たるとした場合の,特許法29条1項3号該当性,同条2項該当性についての判断の誤り)について原告は,甲8が特許法29条1項3号にいう頒布された刊行物に該当することを前提とした上で 「甲2の鉛ゴムエネルギー吸収装置の弾性体に積層方向の荷重が ,加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veは,1.081〜1.12の範囲内のいずれかの値をとることとなる」とは言えない 」との審決の判断は誤 。 りであり,また,甲8をみた当業者は,この鉛プラグとして同じ鉛ゴム積層体である甲11の大きさの鉛プラグを使用することを試みるものであるなどと主張する。 しかしながら,甲8が特許法29条1項3号にいう頒布された刊行物に該当するものとはいえないことは,上記3において判示したとおりであるから,原告の主張する取消事由4は,前提を欠くものである。 したがって,原告の主張する取消事由4は,理由がない。 5取消事由5(本件発明2〜6についての判断の誤り)について本件発明1についての審決の認定判断には誤りがないことは以上のとおりであり,同発明についての審決の判断が誤っていることを前提として本件発明2〜6の進歩性にの判断についての誤りをいう取消事由5には理由がない。 6結論原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 佐藤達文 |