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関連審決 訂正2005-39123
無効2004-80101
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  周知技術 /  公知技術 /  課題の共通性 /  実質的同一 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  実質的同一性 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10167号 審決取消請求事件
原告三 谷セキサン株式会社
訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同 富岡英次
同 外村玲子
同 奥村直樹
同弁理士鈴木正次
同 涌井謙一
同 山本典弘
被告株 式会社ジオトップ
訴訟代理人弁護士山上和則
同 藤川義人
同弁理士森 治
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2004−80101号事件について平成18年3月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「既製コンクリート杭の埋設方法及び基礎杭の構造並びに既製コンクリート杭」とする特許第3531099号の発明(平成11年1月28日特許出願〔国内優先権主張・平成10年1月28日,以下「本件特許出願」という。〕,平成16年3月12日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は,平成16年7月12日,上記特許を無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,これを無効2004-80101号事件として審理した上,平成17年4月4日,「特許第3531099号の請求項1〜10に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。
これに対し,原告は,同年5月12日,第1次審決の取消しを求めて訴え(当庁平成17年(行ケ)第10473号)を提起するとともに,同年7月12日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正を求める訂正審判請求をしたところ(訂正2005-39123号事件),同月15日,第1次審決を取り消す旨の決定を受けた。
上記取消決定を受けて,本件審判事件は特許庁審判官に差し戻され,同年8月22日,原告において上記明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正の請求をしたところ(これにより上記訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた。),特許庁は,本件審判事件について更に審理した上,平成18年3月7日,「訂正を認める。特許第3531099号の請求項1〜10に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月17日,その謄本を原告に送達した。
2訂正後の明細書(甲19,36添付,以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】ないし【請求項10】に係る発明の要旨【請求項1】拡底部を有する杭穴を掘削し,次に該杭穴内に,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭を下降沈設すると共に,前記拡底部内にセメントミルクを注入し,前記既製杭の最下端面と前記拡底部の支持地盤との間に間隙を設けて,前記既製杭の下端部を杭穴拡底部に定着させる既製コンクリート杭の埋設方法であって,前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ,鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD までの値とするように,前記杭穴拡底部を構成するこA Cとを特徴とした既製コンクリート杭の埋設方法。
但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記支持地盤にA円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底 C部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。
【請求項2】拡底部を有する杭穴を掘削し,次に該拡底部内に,セメントミルクを注入し,前記杭穴内に,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭を下降沈設すると共に,前記既製杭の最下端面と前記拡底部の支持地盤との間に間隙を設けて,前記既製杭の下端部を杭穴拡底部に定着させる既製コンクリート杭の埋設方法であって,前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ,鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD までの値とするように,前記杭穴拡底部を構成するこA Cとを特徴とした既製コンクリート杭の埋設方法。
但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記支持地盤にA円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底 C部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。
【請求項3】拡底部内に,杭穴拡底部の固化強度が支持地盤と力学的に同質以上となるようなセメントミルクを注入する請求項1又は2記載の既製コンクリート杭の埋設方法。
【請求項4】所定外径寸法の拡底部を有する杭穴を掘削し,次に杭穴内にセメントミルクを注入しソイルセメントとし,該杭穴の拡底部内に,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭を沈設する方法であって,前記拡底部内の地盤底面と前記既製杭の最下端面との間にソイルセメント層を形成すると共に,前記既製杭の下端部外周の突起を,前記杭穴の拡底部内に埋設し,前記突11 起を前記拡底部内に上下方向で複数配置させると共に,前記拡底部外径寸法Dを,下記Bの値以上で且つCの値以下とすることを特徴とする既製コンクリート杭の埋設方法。
但し,B,Cは下記値である。
B={既製杭の突起部外径}+{[(既製杭の最下端面より拡底部内の最下端に位置する突起までの高さ)+(既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ)]÷√3}×2C={既製杭の突起部外径}+{[(既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ)+(既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ)]÷√3}×2【請求項5】杭穴の軸部の外径の1.2乃至2.5倍程度の外径の拡底部を掘削して杭穴を構成する請求項1乃至請求項4のいずれか一項記載の既製コンクリート杭の埋設方法。
【請求項6】杭穴の拡底部のソイルセメント中に,少なくとも下端部に環状リブを有するコンクリート製の既製杭の,該下端部を定着させてなる基礎杭構造であって,前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ,鉛直荷重が作用した際に,前記環状リブの下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD まA Cでの値とするように,前記杭穴の拡底部を構成したことを特徴とする基礎杭構造。
但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記支持地盤にA円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底 C部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。
【請求項7】既製杭の環状リブであって,杭穴の拡底部のソイルセメント内に定着される複数の突起の間隔を,少なくとも「前記既製杭の軸部外径から突起の先端までの高さ」の√3倍より大きくした請求項6記載の基礎杭構造。
【請求項8】環状リブを下方に向けて順に外径が小さくなるように形成した請求項6又は7記載の基礎杭の構造。
【請求項9】ソイルセメントが充填され,かつ径をD からD までの値で形成した拡底部A Cを有する杭穴内に埋設する既製杭であって,同一径で形成した杭の軸部の下端部外周に所定高さ毎に環状リブを形成し,該環状リブを前記杭穴の拡底部内に上下方向で複数配置して,鉛直荷重が作用した際に,前記拡底部内で,前記環状リブの下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,前記杭の下端部を構成したことを特徴とする既製コンクリート杭。
但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記支持地盤にA円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底 C部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。
【請求項10】環状リブは,杭の軸部と一体に形成すると共に,既製コンクリート杭に鉛直荷重が作用した際に,前記環状リブのみが破壊されない限度において,前記環状リブの外周径を大きく形成した請求項9記載の既製コンクリート杭。
(以下,請求項1ないし10に係る発明を,それぞれ,「本件訂正発明1」などという。)3本件審決の理由( ) 本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,@本件訂正発明1は,特開1昭54-3314号公報(以下「引用例1」という。)記載の後記( )アの 2発明(以下「引用発明1( )」という。)及び特開平6-280261号公 1報(以下「引用例2」という。)記載の発明(以下「引用発明2」という。),並びに,周知技術に基づき,A本件訂正発明2は,引用発明1( )1及び周知技術に基づき,B本件訂正発明3は,引用発明1( )及び2,特開 1昭64-1823号公報(以下「引用例6」という。)記載の発明(以下「引用発明6」という。),並びに,周知技術に基づき,C本件訂正発明4は,引用発明1( ),引用発明2,並びに,周知技術に基づき,D本件訂正1発明5は,引用発明1( )及び2,6,並びに,周知技術に基づき,E本件 1訂正発明6は,引用例1記載の後記( )イの発明(以下「引用発明1( )」と 2 2いう。)及び周知技術に基づき,F本件訂正発明7は,引用発明1( )及び 2引用発明2並びに周知技術に基づき,G本件訂正発明8は,引用発明1( ) 2及び2,特開平5-9933号公報(以下「引用例7」という。)記載の発明(以下「引用発明7」という。),並びに,周知技術に基づき,H本件訂正発明9,10は,引用例1記載の後記( )ウの発明(以下「引用発明12( )」という。)及び周知技術に基づき,いずれも,当業者が容易に発明で 3きたものであり,本件訂正発明1ないし10についての特許は,特許法29条2項に違反してされたものであるから,同法123条1項2号の規定により無効にすべきものであるとした。
( ) 本件審決が認定した引用発明1( )ないし( )は,それぞれ次のとおりであ2 13る。
ア引用発明1( )1「所定外径寸法の拡大部Aを有する掘孔Hを掘削し,次に該拡大部Aを含む掘孔H内に,セメントミルク等の充填材Bを注入した後,前記拡大部Aを有する掘孔H内に,少なくとも下端部外周に段部を有するコンクリート製既製段付杭Nを下降沈設すると共に,前記既製段付杭Nの最下端面と前記拡大部Aの底部との間に間隙を設けて,前記既製段付杭Nの下端部外周の段部を掘孔Hの拡大部Aに埋設して定着させるコンクリート製既製段付杭Nの埋設方法。」(審決謄本21頁下から第3段落)イ引用発明1( )2「掘孔Hの所定外径寸法の拡大部Aのセメントミルク等の充填材B中に,少なくとも下端部に段部を有するコンクリート製既製段付杭Nの,該下端部を定着させてなる基礎杭構造。」(同頁下から第2段落)ウ引用発明1( )3「セメントミルク等の充填材Bが充填された所定外径寸法の拡大部Aを有する掘孔H内に埋設するコンクリート製既製段付杭Nであって,コンクリート製既製段付杭Nの軸部の下端部外周に所定高さ毎に段部を形成し,該段部を前記掘孔Hの拡大部A内に配置して構成したコンクリート製既製段付杭N。」(同頁最終段落ないし22頁1行目)( ) 本件審決が本件訂正発明1ないし10と引用発明1( )ないし( )とを対比3 13して認定した一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
ア本件訂正発明1と引用発明1( )との対比1(一致点)「拡底部を有する杭穴を掘削し,該杭穴内に,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭を下降沈設し,前記拡底部内にセメントミルクを注入し,前記既製杭の最下端面と前記拡底部の支持地盤との間に間隙を設けて,前記既製杭の下端部を杭穴拡底部に定着させる既製コンクリート杭の埋設方法。」(相違点)「本件訂正発明1が,『該杭穴内に・・・コンクリート製の既製杭を下降沈設すると共に,前記拡底部内にセメントミルクを注入し』ているのに対して,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))では,拡大部A11(拡底部)を含む掘孔H(杭穴)内にセメントミルク等の充填材B(セメントミルク)を注入した後,掘孔H(杭穴)内にコンクリート製既製段付杭N(コンクリート製の既製杭)を下降沈設した点。」(相違点1)「本件訂正発明1が,『コンクリート製の既製杭』の下端部外周に設けた『突起』を『前記拡底部内に上下方向で複数配置させ』ているのに対して,刊行物1記載の発明( )では,コンクリート製既製段付杭N(コンク1リート製の既製杭)の下端部外周に設けた段部(突起)を拡大部A(拡底部)内に1つ配置した点。」(相違点2)「本件訂正発明1が,『鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD までの値とするA C(「但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記支 A持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支持C地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」との付随事項含む。)ように,前記杭穴拡底部を構成』したのに対して,刊行物1記載の発明( )では,既製段付杭N(既製杭)の最下端面と掘孔拡大部Aの1底部(杭穴拡底部の支持地盤)との間に間隙が設けてあるものの,掘孔拡大部A(杭穴拡底部)を,鉛直荷重が作用した際に,段部(突起)の下面からせん断力が円錐状に底部(支持地盤)に伝搬して,前記円錐状の底面で底部(支持地盤)に支持面を形成するように,かつ拡大部A(拡底部)の径をD からD までの値とする(上記付随事項含む。)ように構成したA Cのか否か定かでない点。」(相違点3)イ本件訂正発明2と引用発明1( )との対比1(一致点)「拡底部を有する杭穴を掘削し,次に該拡底部内に,セメントミルクを注入し,前記杭穴内に,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭を下降沈設すると共に,前記既製杭の最下端面と前記拡底部の支持地盤との間に間隙を設けて,前記既製杭の下端部を杭穴拡底部に定着させる既製コンクリート杭の埋設方法。」(相違点)相違点2及び3に同じ。
ウ本件訂正発明3と引用発明1( )との対比1(一致点)本件訂正発明1又は2と引用発明1( )との各一致点に同じ。
1(相違点)相違点2,3で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明3が,『拡底部内に,杭穴拡底部の固化強度が支持地盤と力学的に同質以上となるようなセメントミルクを注入する』との構成を有するのに対し,引用発明1( )では,そのような構成を有するかどうか1が定かでない点。」(相違点4)エ本件訂正発明4と引用発明1( )との対比1(一致点)「所定外径寸法の拡底部を有する杭穴を掘削し,次に杭穴内にセメントミルクを注入し,該杭穴の拡底部内に,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭を沈設する方法であって,前記拡底部内の地盤底面と前記既製杭の最下端面との間にセメントミルクからなる層を形成すると共に,前記既製杭の下端部外周の突起を,前記杭穴の拡底部内に埋設した既製コンクリート杭の埋設方法。」(相違点)相違点2で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明4が,『杭穴内にセメントミルクを注入しソイルセメントとし,・・・前記拡底部内の地盤底面と前記既製杭の最下端面との間にソイルセメント層を形成する』のに対して,刊行物1記載の発明( )(注,1引用発明1( ))では,拡大部A(拡底部)を含む掘孔H(杭穴)内に注 1入したセメントミルク等の充填材B(セメントミルク)をソイルセメントとしたのか否か定かでない点。」(相違点5)「本件訂正発明4が,『前記拡底部外径寸法Dを,下記Bの値以上で11且つCの値以下とする』,『但し,B,Cは下記値である。B={既製杭の突起部外径}+{[(既製杭の最下端面より拡底部内の最下端に位置する突起までの高さ)+(既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ)]÷√3}×2C={既製杭の突起部外径}+{[(既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ)+(既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ)]÷√3}×2』としたのに対して,刊行物1記載の発明( )では,拡大部A1(拡底部)の外形寸法について何ら規定していない点。」(相違点6)オ本件訂正発明5と引用発明1( )との対比1(一致点)本件訂正発明1ないし4のいずれかの発明と引用発明1( )との各一致1点に同じ。
(相違点)本件訂正発明1ないし4のいずれかの発明と引用発明1( )との各相違1点のほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明5が,『杭穴の軸部の外径の1.2乃至2.5倍程度の外径の拡底部を掘削して杭穴を構成する』との構成を有するのに対し,引用発明1( )では,そのような構成を有するかどうかが定かでない点。」1(相違点7)カ本件訂正発明6と引用発明1( )との対比2(一致点)「杭穴の拡底部のセメントミルク中に,少なくとも下端部に環状リブを有するコンクリート製の既製杭の,該下端部を定着させてなる基礎杭構造。」(相違点)相違点2で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明6が,『杭穴の拡底部のソイルセメント中に』であるのに対して,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))では,拡大部A22(拡底部)を含む掘孔H(杭穴)内に注入したセメントミルク等の充填材B(セメントミルク)をソイルセメントとしたのか否か定かでない点。」(相違点8)「本件訂正発明6が,『鉛直荷重が作用した際に,前記環状リブの下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD までの値とすA Cる(「但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記 A支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支C持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」との付随事項含む。)ように,前記杭穴の拡底部を構成』したのに対して,刊行物1記載の発明( )では,既製段付杭N(既製杭)の最下端面と掘孔拡大部2A(杭穴拡底部)の底部(支持地盤)との間に間隙が設けてあるものの,掘孔拡大部A(杭穴拡底部)を,鉛直荷重が作用した際に,段部(環状リブ)の下面からせん断力が円錐状に底部(支持地盤)に伝搬して,前記円錐状の底面で底部(支持地盤)に支持面を形成するように,かつ拡大部A(拡底部)の径をD からD までの値とする(上記付随事項含む。)ようA Cに構成したのか否か定かでない点。」(相違点9)キ本件訂正発明7と引用発明1( )との対比2(一致点)本件訂正発明6と引用発明1( )との一致点に同じ。
2(相違点)相違点2,8,9で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明7が,『既製杭の環状リブであって,杭穴の拡底部のソイルセメント内に定着される複数の突起の間隔を,少なくとも「前記既製杭の軸部外径から突起の先端までの高さ」の√3倍より大きくした』との構成を有するのに対し,引用発明1( )では,そのような構成を有するか2どうかが定かでない点。」(相違点10)ク本件訂正発明8と引用発明1( )との対比2(一致点)本件訂正発明6と引用発明1( )との一致点に同じ。
2(相違点)相違点2,8ないし10で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明8が,『環状リブを下方に向けて順に外径が小さくなるように形成した』との構成を有するのに対し,引用発明1( )では,その2ような構成を有するかどうかが定かでない点。」(相違点11)ケ本件訂正発明9と引用発明1( )との対比3(一致点)「セメントミルクが充填された拡底部を有する杭穴内に埋設する既製杭であって,同一径で形成した杭の軸部の下端部外周に所定高さ毎に環状リブを形成し,該環状リブを前記杭穴の拡底部内に配置して構成した既製コンクリート杭。」(相違点)相違点2で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明9が,『ソイルセメントが充填され・・・た拡底部を有する杭穴』であるのに対して,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明13( ))では,拡大部A(拡底部)を含む掘孔H(杭穴)内に注入したセメ 3ントミルク等の充填材B(セメントミルク)をソイルセメントとしたのか否か定かでない点。」(相違点12)A C 「本件訂正発明9が,『鉛直荷重が作用した際に』,『径をD からDまでの値で形成した(「但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面かAらせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底部内の最上位に位置する突起の下面からCせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」との付随事項含む。)』拡底部内で,前記環状リブの下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,前記杭の下端部を構成」したのに対して,刊行物1記載の発明(3)では,既製段付杭N(既製杭)の最下端面と掘孔拡大部A(杭穴拡底部)の底部(支持地盤)との間に間隙が設けてあるものの,杭の下端部を,鉛直荷重が作用した際に,径をD からD までの値で形成A Cした(上記付随事項含む。)掘孔拡大部A(杭穴拡底部)内で,段部(環状リブ)の下面からせん断力が円錐状に底部(支持地盤)に伝搬して,前記円錐状の底面で底部(支持地盤)に支持面を形成するように,構成したのか否か定かでない点。」(相違点13)コ本件訂正発明10と引用発明1( )との対比3(一致点)本件訂正発明9と引用発明1( )との一致点に同じ。
3(相違点)相違点2,12及び13で相違するほか,次の点で相違する。
「本件訂正発明10が『環状リブは,杭の軸部と一体に形成すると共に,既製コンクリート杭に鉛直荷重が作用した際に,前記環状リブのみが破壊されない限度において,前記環状リブの外周径を大きく形成した』との構成を有するのに対し,引用発明1( )では,そのような構成を有するかど3うかが定かでない点。」(相違点14)第3原告主張の審決取消事由本件審決は,本件訂正発明1の進歩性についての認定判断において,本件訂正発明1と引用発明1( )の相違点を看過し(取消事由1( )),相違点2につ1 1いての認定判断を誤り(取消事由1( )),相違点3についての認定判断を誤 2り(取消事由1( )),顕著な作用効果を看過し(取消事由1( )),また,本 3 4件訂正発明2ないし10の進歩性についての認定判断を誤り(取消事由2ないし10),その結果,本件訂正発明1ないし10がいずれも進歩性を欠くとの誤った結論を導いたものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件訂正発明1の進歩性についての認定判断の誤り)( ) 取消事由1( )(本件訂正発明1と引用発明1( )の相違点の看過)11 1ア本件審決は,「本件訂正発明1と刊行物1記載の発明( )(注,引用発 1明1( ))とを対比すると,・・・刊行物1記載の発明( )の『拡大部Aの1 1底部』が・・・本件訂正発明1の『拡底部の支持地盤』に相当」(審決謄本26頁第1ないし第2段落)するとした上,「両者は,『・・・少なくとも下端部外周に突起を有する・・・』の点で一致」(同頁第2ないし第3段落)すると認定したが,誤りである。
イ本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」は,既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力の支持面の範囲に合わせて調整することを可能にしたものであるから,本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」は,既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力を,円錐状の底面で支持するように構成するものである。要するに,本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」は,既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力の支持面の範囲に応じて広狭を調整され得る構成のものでなければならない。
これに対し,引用発明1( )の「拡大部A」は,「ケーシング内にスク1リューオーガーを挿入し,該スクリューオーガーとケーシングとを夫々反対方向に回転させながら所定地盤を掘削し,所定深さまで掘削したならば前記ケーシングを逆回転せしめて該ケーシング先端に設けた拡開刃を略々水平方向に開き,該拡開刃にて前記掘削した掘孔の先端部を横方向に掘削して」(甲1の特許請求の範囲1)造成されるものであるから,引用発明1の「拡大部Aの底部」は,単に拡開刃にて掘削した掘孔の先端部を横方向に掘削して充填材・芯材を注入・挿入して造成された基礎杭の下端面にすぎない。
ウなお,被告は,本件訂正発明1の構成要件の根幹をなす円錐の角度θについての特定が必要であるところ,本件訂正発明1の特許請求の範囲には,「拡底部の径をD からD までの値とするように,前記杭穴拡底部を構成A Cする」と記載されているだけで,具体的にどのように広狭を調整するのか不明なままであって,発明が特定されていない旨主張する。
しかし,D 及びD は,それぞれ前者が「拡底部内の既製杭の下端面か A Cらせん断力が・・・支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径」,後者が「拡底部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が・・・支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径」として,本件訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に明確に特定されている。また,そのD 及びD の具体的数値についても,当業者であれば,拡底部内に充A C填されたソイルセメントの強度,杭の強度,地盤条件,上載荷重等の諸要素に基づき,模型実験及び/又はFEM数値解析により,せん断力の伝播する方向(θ)を特定し,拡底部内での杭の下端及び突起の位置により算出することが可能である。そうすると,円錐の角度θの数値的な特定がされていない旨の被告の主張は,失当である。
エしたがって,引用発明1( )の「拡大部Aの底部」が本件訂正発明1の1「拡底部の支持地盤」に相当するとした審決の認定は誤りであり,本件訂正発明1が「拡底部」の構成を有するのに対し,引用発明1( )はそれを1有しない点で相違することを看過したものである。
( ) 取消事由1( )(相違点2についての認定判断の誤り)22ア周知技術の誤認(ア) 本件審決は,相違点2に係る本件訂正発明1の「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ」との構成について,「当該記載と図1の記載(注,いずれも引用例2の記載)によれば,既成杭外周面に設けた突起は,拡径部である根固め部2の範囲内に複数配置されているものと認められるところ,このようなものは,例えば,特公平1-25848号公報(注,甲10,以下「甲10公報」という。)・・・,特開昭64-75715号公報(注,甲12,以下「甲12公報」という。)・・・に示すように周知技術にすぎないものと認められるのであり」(審決謄本28頁第2段落)と認定したが,誤りである。
(イ) 確かに,引用例2(甲2)には,「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ」るという技術(以下「本件突起技術」という。)が記載されており,中空コンクリートパイルを先端根固め杭の素材として使用する例があるかのような記載が存在するが,実際には,鋼管杭であることを前提とした記載のみが存在するので,引用例2に接する当業者は,本件突起技術は,鋼管杭のみに関するものであると理解し,コンクリート杭に係る技術であるとは理解しない。
また,甲10公報に記載されているのは,杭鋼管部分に複数突起がリング状に溶着されたことを特徴とする発明であって,コンクリート杭にコンクリート製の突起が設けられた発明ではなく,甲12公報も,鋼管杭に関する発明であって,杭に溶着される突起は,極めて小さいもので,わずかな間隔を置くだけで杭部に複数突起を配置することが可能であり,現に,拡底部内には複数の突起が容易に配置されており,コンクリート杭に係る技術ではない。
(ウ) 被告は,引用発明1( )には,コンクリート製既製段付杭N(コンクリ1ート製の既製杭)の外周に設けた複数の段部(突起)を拡大部A,A’,A”内に配置することが記載されているところ,平成6年4月1日社団法人コンクリートパイル建設技術協会発行「SPECIALコンクリNO. ートパイルに関する材料評定・評価及び工法認定1994.4.12」(甲8,以下「甲8文献」という。),特公平5-75848号公報(甲9,以下「甲9公報」という。)にも記載されているように,拡底部の杭軸方向長を長く形成することは極めて一般的に行われていることであるから,「突起」を「拡底部内に上下方向で複数配置させ」るという本件突起技術を引用発明1( )(コンクリート製の既製杭)に適1用することについて,何らの阻害要因も存在しない旨主張する。
しかし,引用発明1( )においては,「拡底部」を複数設けることに1意義があるのであって,複数存在する拡底部を一つにまとめることは,明らかに引用発明1( )の技術的思想に反するものである。また,甲81文献及び甲9公報には,単に拡底部を若干長く描いた図が数枚描かれているだけであって,描かれている拡底部が具体的にどれだけの長さを有するか,拡底部に突起が複数収容可能であるかなどといった重要な事項について全く明らかではないから,到底,「杭軸方向長を」拡底部が複数収容可能であるだけ「長く形成することはきわめて一般的に行われている」などといえるものではない。
(エ) したがって,引用例2,甲10及び甲12公報の記載から,コンクリート杭について,本件突起技術が周知であるとした本件審決の認定は,誤りである。
容易想到性判断の誤り(ア) 引用発明2の突起は,「引抜き抵抗を確保」することを目的とし,さらに,引用発明1( )も芯材としての杭Pの表面積を増加させることに1より,充填材に対する摩擦力を増加させることを目的としている。また,甲10及び甲12公報記載の発明における突起は,いずれも鋼管杭の充填材に対する付着力を高めることを目的とし,それに応じた構成を採用している。これに対して,本件訂正発明1における突起は,その下面から生じるせん断力を活用して支持地盤に支持面を形成することにより基礎杭が負担できる垂直荷重を増大させることを目的としているから,その技術的思想は,引用発明2の突起等とは全く異なっている。このような顕著な技術的思想の相違にかんがみると,引用発明1( )の突起部を,1引用発明2の突起に置換することは,当業者において,著しく困難であるというべきである。
(イ) 引用発明1( )において,突起を複数とするためには,複数の突起が1入るだけの大きな容量の拡底部を造成する必要があるが,一方,引用発明1( )は,掘孔柱体が円形柱状では支持力が極めて低いという問題に1ついて,地盤中に複数の「拡大部」を設けることによって,強固な基礎杭を造成しようとするものであるから,掘孔を複数突起が入るだけ大きく造成することは,従来技術において課題とされている円形柱状に近づけることになるものであり,また,拡大部の数を減少させることにもつながるが,これは,引用発明1( )の技術的思想に反するものである。
1そうすると,当業者において,引用発明1( )に,本件突起技術を適用 1する動機付けは存在しないものというべきである。
( ) 取消事由1( )(相違点3についての認定判断の誤り)33ア本件審決の相違点3についての認定判断は,論理的なつながりに不明な部分が多く,理解することが容易でないが,一応,杭穴拡底部(引用発明1( )の「掘孔拡大部A」)を,「鉛直荷重が作用した際に,前記突起1(注,引用発明1( )の「段部」)の下面からせん断力が円錐状に支持地 1盤(注,引用発明1( )の「底部」)に伝搬して,前記円錐状の底面で支 1持地盤に支持面を形成するように」構成したか否か(以下「相違点3( )」という。),「拡底部の径をD からD までの値とするように」1 A C(「但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせん断力が前記支 A持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支持C地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」を含む。以下「本件附随事項」という。)構成したのか否か(以下「相違点3( )」2という。)に整理することができる。
次に,本件審決は,相違点3( )及び3( )について,刊行物1にこれら12が開示されているか否か定かではないと認定した上で,引用発明2,並びに,甲3ないし甲5文献に記載された周知の技術事項,すなわち,「杭鉛直線に対して分散鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝播して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」(以下「本件伝播技術」という。)を考慮して引用発明1( )をみると,本件訂正発明11と引用発明1( )との間に実質的な差異はない,換言すると,本件出願 1時の公知技術及び周知の技術事項を参照すると,本件訂正発明1の構成は,刊行物1に実質的にすべて開示されていると判断し,予備的に,引用発明1( )に,引用発明2,本件伝播技術を組み合わせて,相違点3に係る本1件訂正発明1の構成に想到することが容易であるとも判断しているものということができる。そこで,上記の理解に立って,本件審決の認定判断の誤りを明らかにすることにする。
イ本件伝播技術について本件審決は,「単杭或いは群杭において,杭鉛直線に対して分散角の範囲内で荷重が分散すること」と「鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝搬して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成することすることが,刊行物3〜5に示すように当業者に周知の事項」を「即ち」という語で結んで同義として述べているが(審決謄本29頁第1段落),次のとおり,失当である。
昭和63年1月25日社団法人日本建築学会発行「建築基礎構造設計指針1988改定」(甲3,以下「甲3文献」という。)の記載内容は,杭の許容鉛直耐力に沈下を考慮する必要があり,支持杭の沈下は杭先端から地盤に伝わる沈下量として計算し,他方,群杭として多く用いられる摩擦杭は,図示されたような仮想作用面を設定して計算するということである。
「第29回土質工学研究発表会(盛岡)平成6年6月群杭基礎のミンドリン解に基づく地盤内応力分布とその簡便法」(甲4,以下「甲4文献」という。)の記載内容は,摩擦杭は圧密沈下量を検討する必要があり,その際には,仮想載荷面を想定し,地表面から杭長3分の2の位置にある直接基礎の底面から分散角が発生すると仮定して計算するというものである。
昭和12年8月20日発行「日,英,米,獨,佛,加奈陀,伊,其他特許武智式基礎工に就て」(甲5,以下「甲5文献」という。)の武智杭の杭径は,突縁により杭周にある砂利の最大縁をもって表すことができ,そして,杭荷重は,杭軸に対して,所定の摩擦角(分布角)で分布し,武智杭の杭半径及び摩擦角を増大することにより応力分布を拡散させ得ることが記載されているから,武智杭の突縁は,砂利と相まって杭径を増大させる機能を有するにすぎず,杭荷重はこの杭径と摩擦角により分布することが認められる。
以上,甲3ないし甲5文献によると,「杭鉛直線に対して分散鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝播して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」(本件伝播技術)は,開示されておらず,その示唆もされていない。
ウ相違点3( )について1本件審決は,引用例1(甲1)の「特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。」(3頁左下欄第3段落)との記載及び第10図の図示によれば,「刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))は,段付杭11Nの各段部の下面周縁と掘孔Hの(各段部の周囲に位置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ,前記各段部の下面からのせん断力が円錐状に拡大部A(A’,A”)の下側壁面に伝搬することで基礎杭上部の上載荷重を支持しているものと推認することができ」(審決謄本28頁最終段落)ると認定した。
しかし,引用発明1( )の「基礎杭」は,杭Pを挿入して周囲にセメン1トミルク等の充填剤を充填した掘孔Hと同一の形状をした全体をいうものであり,段付杭Nを含む杭Pは,単に掘孔内の充填物の形を整え,曲げ補強,せん断補強をするために使用するものにすぎないから,引用例1の「基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり」という記載は,この全体としての「基礎杭」から周囲の地盤に対する応力伝達が良好となるというように理解するのが相当である。そして,引用例1及びその他の周知技術参酌しても,本件訂正発明1のように,鉛直荷重が作用した際に,段部(突起)の下面からせん断力が円錐状に底部(支持地盤)に伝播して,前記円錐状の底面で底部(支持地盤)に支持面を形成し,この支持面によって,杭の先端支持力を増加させるという本件伝播技術の技術的思想を見いだすことはできない。
エ相違点3( )について2本件審決は,引用例2の「本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化剤からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し」等の記載を根拠として,「これらの記載において,『拡径した根固め部2』の『1 5D〜4D』との.外径が,本件特許明細書に実施例として挙げられた,既製杭4の軸部8の外径D を60cmとし,杭穴1の拡底部3の外径Dを150cmとし0 11た場合・・・における,軸部8の外径D に対する拡底部3の外径Dの 0 11比率のものを包含するものであることは明らかであ」(審決謄本28頁最終段落ないし29頁第1段落)ると判断した。
しかし,引用発明2のDは,単なる杭径にすぎず,突起部の先端の径ではないから,仮に,このような杭と孔の外径との相対関係が存在することを当業者がたまたま知っていたとしても,引用発明1( )に接した当業者1が,「D は,拡底部内の既成杭の下端面からせん断力が前記指示地盤に A円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面をいう。かつ,前記D は,拡底 C部内の最上位に位置する突起の下面からせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」ものであることを前提として,「拡底部の径をD からD までの値とする」ものであると認識するA Cことはあり得ない。
被告は,本件訂正明細書には,上記円錐の角度θについて,その実施例において,30°程度と記載されているのみで,それ以上の説明は何ら記載されていないし,間隙距離(ソイルセメントの厚さ)についても何ら特定されていないから,本件訂正発明1は,拡底部の径を実質的に何ら特定されない値をもって表したものにすぎない旨主張する。
しかし,被告の上記主張が失当であることは,前記( )ウのとおりであ1る。
容易想到性判断の誤り(ア) 引用発明1( )及び2には,せん断力が支持地盤に伝わる底面におい1て,拡底部に支持面を形成するという技術的思想が存在しないから,上記発明から,拡底部の径を,既製杭下端面からのせん断力伝播時の底面の径と,拡底部内の最上位に位置する突起の下面からのせん断力伝播時の底面の径を考慮して調整するという本件訂正発明1の構成を想到することは不可能である。
しかも,引用発明2において規定されているのは,「杭径D」と根固め部の外径との相関関係のみであって,杭下端面及び杭外周突起部から伝播するせん断力を考慮して杭穴拡底部を構成することを特徴としている本件訂正発明とは,技術課題が全く異なっており,その意味でも,引用発明2を引用発明1( )に組み合わせることは,困難である。
1(イ) 上記のとおり,本件伝播技術は,周知でないことに加え,引用発明1( )に本件伝播技術を適用するための課題の共通性もない。すなわち,1引用発明1( )は,「拡大部を造成し」,「充填材Bの未硬化のうちに 1その掘孔H内にコンクリート製円筒杭又は段付杭或は型鋼,鋼管,鉄筋籠等の杭を挿入」することで,「杭Pを芯材とした先端に拡大部を持つ強力な基礎杭」を得,さらに,第10図は,「段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。」というものである。他方,甲3,甲4文献の記載内容は,摩擦杭の沈下について検討する場合に,節の位置に関係なく,単純に杭長3分の1の位置から仮想荷重面を仮定して計算するというものであるから,引用発明1( )とでは,共通する技術課題が皆無である。仮に,引用発明1( )1 1に甲3,甲4文献の沈下に関する技術を適用したとしても,引用発明1( )の杭における仮想荷重面から下方に拡がる摩擦による応力の分布範1囲は,拡底部とは何ら関係を持ち得ない。
(ウ) したがって,相違点3に係る本件審決の認定判断は,全くの誤りである。
( ) 取消事由1( )(顕著な作用効果の看過)44ア本件審決は,「本件訂正発明1によって奏する作用効果については,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))及び刊行物2記載の発明(注,11引用発明2)並びに刊行物3〜5(注,甲3ないし5文献)等に記載の周知技術から普通に予測できる範囲内のものであって格別なものがあるとは認められない」(審決謄本29頁第2段落)と判断したが,誤りである。
イ本件訂正発明1は,引用発明1( )と比較すると,杭(引用発明1( )の1 1「杭P」)自体を拡底部で支持し,節の支持地面までの間隙を考慮し,さらに節から円錐状に伝播するせん断力による支持面の広狭の調整により杭の支持地盤に対する支持力を増減することに想到したもので,@拡底掘削した杭穴内に,下端部に突起を有する既製コンクリート杭を埋設して杭を構成するので,突起の下面周縁からもせん断力が支持地盤に伝播し,A所定角度で円錐状の底面で,支持地盤に支持面を形成できるので,1本の杭が負担すべき垂直荷重を大幅に増加させることができる,という顕著な作用効果を奏するものである。
その結果,本件訂正発明1における杭基礎の支持力は,大幅に増大し,これにより一定の荷重を支持するために要する杭の本数を著しく減少することができ,その結果,掘削孔数,排土量を減少することができるとともに,工期の短縮,コストの大幅削減等をもたらしたものである。
これらの作用効果は,従来のストレート杭を使用した先端支持力による基礎杭と段付杭を使用した周面摩擦力による基礎杭,及び,引用発明1( )の拡大した底部をもつ杭穴を単純に組み合わせることによって予想さ1れる作用効果をはるかに超える顕著な作用効果である。
ウこの顕著な作用効果は,次の目覚しい商業的成功によっても裏付けられる。
すなわち,コンクリートパイル総出荷量が全国的に過去16年間で3分の1以下に減少する中で,本件訂正発明1ないし10を実施する原告のSKW工法用のコンクリートパイルは,平成12年に出荷を開始してから平成16年までのわずか5年の間で出荷開始時の●●●●に成長し,平成16年度における全国総出荷量比占有率が著しく上昇している。また,SKW工法用コンクリートパイルの総出荷量及び占有率が伸びるに伴い,原告のコンクリートパイル総出荷量が市場において占める占有率も平成12年度から平成16年度のわずか4年間の間で,●●●●に上昇している。このような事実は,原告のSKW工法がコンクリートパイル市場において大きな支持を得ていること,ひいては,本件訂正発明1を実施する同工法が従来の既製杭埋設方法に比較して目覚しい効果を有することを裏付けるものである。2取消事由2(本件訂正発明2の進歩性についての認定判断の誤り)本件審決は,本件訂正発明2に係る相違点2,3について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,この認定判断が誤りであることは,前記1( ),( )のとおりである。
23また,本件審決は,本件訂正発明2の顕著な作用効果を看過しており,誤っていることは,前記1( )のとおりである。
43取消事由3(本件訂正発明3の進歩性についての認定判断の誤り)本件審決は,本件訂正発明3に係る相違点2ないし4について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2,3の認定判断が誤りであることは,前記1( ),( )のとおりである。
23また,本件審決は,本件訂正発明3の顕著な作用効果を看過しており,誤っていることは,前記1( )のとおりである。
44取消事由4(本件訂正発明4の進歩性についての認定判断の誤り)( ) 本件審決は,本件訂正発明4に係る相違点2,5,6について,当業者が1容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2の認定判断が誤りであることは,前記1( )のとおりであり,相違点6の認定判断が誤りであ2ることは,次のとおりである。
( ) 相違点6について2ア本件審決は,本件訂正明細書実施例の記載において環状リブの外径に対し拡底部の外径が2倍の大きさとなっていることを指摘し,「刊行物1(注,引用例1)の『段付杭N』の例を示す第10図の記載」(審決謄本33頁最終段落),引用例2の「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である」(同34頁第1段落)及び「ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さ約4Dである。」(同)との記載があり,当該技術を引用発明1( )に適用することに何ら阻害要因がないことを根1拠として,「相違点6に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更による」(同)と認定判断したが,誤りである。
イ引用例1の「段付杭N」の例を示す第10図はもとより,その他の部分においても,軸部の外径,環状リブの外径,環状リブのピッチ及び拡底部の外径の具体的数値,比率,割合等を示唆する記載は一切なく,また,このような比率が問題となることの示唆もされていない。
引用例2の記載は,根固め部の外径を,杭径を基に,1.5〜4D(D:杭径)と算出する(段落【0017】)方法又は硬化材としてのソイルセメントの強度が100kgf/cm 程度の場合,3D(D:杭径)と2するもの(段落【0018】),及び,「ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さが約4Dである。」(段落【0020】)との内容であり,杭径と根固め部の比率が示されているにすぎない。
ウこれに対し,本件訂正発明4は,既製杭の最下端の突起部と最上段の突起部の大きさ,既製杭の最下端面側のソイルセメントの厚さ等により規定された特殊な形状の拡底部を規定している。
エこのように,引用例1の第10図には,環状リブ,杭径の各大きさ,拡大部の径との比率及びこれらが支持力の増減に影響を与えるという示唆もなく,引用例2は,単に杭径と拡径した根固め部との割合が記載されているにすぎず,拡径した根固め部と突起との関係について示唆する記載もない。しかも,1.5D〜4Dとすることについての具体的な理由及び意味は全く記載されていない。
本件訂正発明4の拡底部外径は,既製杭の突起部外径,既製杭の最下端面より拡底部内の最下端(及び最上部の突起)に位置する突起までの高さ,既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さを基に算出する方法であるが,これは全荷重に対し支持する面積を算出して地盤からの高低を調整する考えに基づくものであり,引用発明1( )及び21とは全く異なる。
5取消事由5(本件訂正発明5の進歩性についての認定判断の誤り)( ) 本件審決は,本件訂正発明5に係る,本件訂正発明1ないし4のいずれか1の発明と引用発明1( )との各相違点について,当業者が容易に想到し得る 1ものであると認定判断したが,この認定判断が誤りであることは,前記1ないし4のとおりであり,相違点7の認定判断が誤りであることは,次のとおりである。
( ) 相違点7について2本件訂正発明5については,引用例1の第10図には,環状リブの外径と拡底部の径の数値上の相関関係を示唆する記載がなく,軸部と拡底部の数値上の相関関係という課題すら提供されていない。したがって,本件訂正発明5と引用発明1( )に実質的差異がないというのは誤りである。
1また,引用例2には,杭穴軸部の記載がなく,また,杭穴軸部の径と拡底部径の関係を課題としてもいない。
6取消事由6(本件訂正発明6の進歩性についての認定判断の誤り)本件審決は,本件訂正発明6に係る相違点2,8(相違点5と同様である。),9(相違点3と同様である。)について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2,9の認定判断が誤りであることは,前記1( ),( )のとおりである。
237取消事由7(本件訂正発明7の進歩性についての認定判断の誤り)本件審決は,本件訂正発明7に係る相違点2,8(相違点5と同様である。),9(相違点3と同様である。),10について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2,9についての認定判断が誤りであることは,前記1( ),( )のとおりである。
238取消事由8(本件訂正発明8の進歩性についての認定判断の誤り)本件訂正発明8は,「環状リブを下方に向けて順に外径が小さくなるように形成した請求項6又は7記載の基礎杭の構造。」であるところ,本件審決は,相違点2,8(相違点5と同様である。),9(相違点3と同様である。),10,11について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2,8,9についての認定判断が誤りであることは,上記7のとおりである。
9取消事由9(本件訂正発明9の進歩性についての認定判断の誤り)本件審決は,本件訂正発明9に係る相違点2,12(相違点5と同様である。),13(相違点3と同様である。)について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2,13の認定判断が誤りであることは,前記1( ),( )のとおりである。
2310取消事由10(本件訂正発明10の進歩性についての認定判断の誤り)本件審決は,本件訂正発明10に係る相違点2,12(相違点5と同様である。),13(相違点3と同様である。),14について,当業者が容易に想到し得るものであると認定判断したが,相違点2,13の認定判断が誤りであることは,前記1( ),( )のとおりである。
23第4被告の反論本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(本件訂正発明1の進歩性についての認定判断の誤り)について( ) 取消事由1( )(本件訂正発明1と引用発明1( )の相違点の看過)につい11 1て原告は,本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」は,既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力の支持面の範囲に応じて広狭を調整され得る構成のものでなければならない旨主張する。
原告の主張は,本件訂正発明1の特許請求の範囲中の本件附随事項に関係するものである。
ところで,本件訂正発明1の「拡底部」の径の値であるD 及びD を決定A Cするためには,少なくとも,せん断力が支持地盤に円錐状に伝播する際の円錐の角度,及び,既製杭の最下端面と拡底部の支持地盤との間の間隙距離(ソイルセメントの厚さ)が特定される必要があるが,本件訂正明細書には,上記円錐の角度について,その実施例において,30°程度と記載されているのみで,それ以上の説明は何ら記載されていないし,間隙距離(ソイルセメントの厚さ)についても何ら特定されていない。そうすると,本件訂正発明1は,拡底部の径を実質的に何ら特定されない値をもって表したにすぎないものであって,本件訂正発明1の特許請求の範囲において,D からD まA Cでの値として規定される拡底部の径の範囲Raは,当業者が必要に応じて適宜設定し得る範囲のものであって,特定の法則を持つことなく大きく変動することになる。
なお,本件特許発明1の「拡底部の支持地盤」は,原告が主張するような「既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝搬するせん断力の支持面の範囲に応じて広狭を調整され得る構成のものでなければならない」というようなものではなく,その構成要件の根幹をなす円錐の角度θについての特定が必要である。ところが,本件訂正発明1の特許請求の範囲には,「拡底部の径をD からD までの値とするように,A C前記杭穴拡底部を構成する」と記載されているだけで,具体的にどのように広狭を調整するのか不明なままであって,発明が特定されていない。
そうすると,本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」について,既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力の支持面の範囲に応じて広狭を調整され得ることに格別の技術的意義をいう原告の主張は,失当であって,本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」と引用発明1( )の「拡大部Aの底部」との間には実質的な差異は1ないから,引用発明1( )の「拡大部Aの底部」が本件訂正発明1の「拡底 1部の支持地盤」に相当するとした本件審決の認定に誤りはない。
( ) 取消事由1( )(相違点2についての認定判断の誤り)について22ア周知技術の誤認について原告は,コンクリート杭について,「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ」るという本件突起技術が周知であるとした本件審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,引用例2(甲2)には,「本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,・・・この既成杭の先端部を拡径部内に設置し,拡径部の上端から1D以上下がった位置から下側の範囲で既成杭外周面に突起を設けたことを特徴とする」(段落【0009】)と明確に記載されている。
また,引用発明1( )には,コンクリート製既製段付杭N(コンクリート1製の既製杭)の外周に設けた複数の段部(突起)を拡大部A,A’,A”内に配置していることが記載されているところ,甲8文献及び甲9公報から拡底部の杭軸方向長を長く形成することはきわめて一般的に行われていることであるから,「突起」を「拡底部内に上下方向で複数配置させ」るという本件突起技術をコンクリート製の既製杭である引用発明1( )に適1用することについて,何らの阻害要因も存在しない。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
容易想到性判断の誤りについて原告は,引用発明1( )が,引用発明2,甲10及び甲12公報に記載 1された技術とは異質であるから,引用発明1( )の突起部を,引用発明2 1の突起に置換することは,当業者において,著しく困難である旨主張する。
しかし,上記のとおり,甲8文献及び甲9公報から拡底部の杭軸方向長を長く形成することはきわめて一般的に行われていることであるから,引用発明1( )において,「突起」を「拡底部内に上下方向で複数配置さ1せ」る構成(本件突起技術)及び作用効果を参酌し,拡大部A(拡底部)の杭軸方向長を長く形成することにより,「突起」を「拡底部内に上下方向で複数配置させ」るように構成することは,当業者が容易になし得ることであって,原告の主張は,失当である。
( ) 取消事由1( )(相違点3についての認定判断の誤り)について33ア実質的同一性判断の誤りについて(ア) 本件伝播技術について原告は,甲3ないし甲5文献によっても,「杭鉛直線に対して分散鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝播して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」(本件伝播技術)は,記載されておらず,その示唆もされていない旨主張する。
しかし,甲3ないし5文献には,一般的なコンクリート製の既製杭(摩擦杭)について,鉛直線に対して一定の角度(具体的には,30°の角度)を有する荷重の仮想作用面が記載されており,その荷重の仮想作用面によって囲まれた範囲を荷重が一様に分布する範囲とされていることから,少なくとも下端部外周に突起を有するコンクリート製の既製杭に鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝播して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,前記杭穴拡底部を構成することは,通常の基礎杭において,特段の条件を設定せずとも当然に発生する状態であるということができる。
(イ) 相違点3( )について 1原告は,引用発明1及びその他の周知技術参酌しても,本件訂正発明1のように,鉛直荷重が作用した際に,段部(突起)の下面からせん断力が円錐状に底部(支持地盤)に伝播して,前記円錐状の底面で底部(支持地盤)に支持面を形成し,この支持面によって,杭の先端支持力を増加させるという本件伝播技術の技術的思想を見いだすことはできない旨主張する。
しかし,本件訂正発明1の構成は,引用発明1( )の構成にない特段1の技術的事項を構成要件として備えているというものではないから,本件訂正発明1に記載された既製コンクリート杭の埋設方法によって築造された基礎杭の構造と,引用発明1( )の基礎杭の構造とは,実質的に1異なるところがないのであり,原告が主張しているのは,一般的なコンクリート製の既製杭に鉛直荷重が作用した際に,特段の条件を設定せずとも当然に発生する状態を構成として記載したものにすぎない。
(ウ) 相違点3( )について2( ) 前記( )のとおり,本件訂正発明1は,拡底部の径を実質的に何ら a1特定されない値をもって表したにすぎないものであるから,その値の範囲自体,引用例2(甲2)の「本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し」との記載,及び,「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である」との記載等からして,当業者が必要に応じて容易に採用し得る程度の設計的事項にすぎないものである。
( ) 引用例2には,「本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリ bートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成」(段落【0009】)及び「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である。」(段落【0017】)との記載がある。一方,特開平8-209689号公報(以下「乙6公報」という。)には,「拡底部2は,後に掘削孔1内に埋設する中空プレキャストコンクリート柱体3の材料強度及び鉛直耐力と同等以上の地盤耐力が得られるような掘削底面積,即ち一般的には埋設する中空プレキャストコンクリート柱体3の外径の1.1〜3.2倍の面積(有効拡底面積)を確保する。」(段落【0013】)との記載があり,ここにいう中空プレキャストコンクリート柱体3の外径の1.1〜3.2倍の面積(有効拡底面積)とは,中空プレキャストコンクリート柱体3の外径の1.05〜1.8倍の直径に該当するものである。
また,特開平3-25121号公報(以下「乙7公報」という。)には,図面上で,杭の突起部外径D1に対し,拡径部の外径を2.2D1にした基礎杭構造が,特公平5-75848号公報(以下「乙8公報」という。)には,図面上で,杭の突起部外径D1に対し,拡径部の外径を1.9D1にした基礎杭構造が,それぞれ記載されている。
ところで,本件特許発明実施態様であるSKW工法(甲25)において,拡底部の径が1.4D1程度に設定されているから,引用例2,乙6ないし乙8公報に記載された拡径部の数値と重複しているこA とは明白であり,したがって,本件訂正発明1の「拡底部の径をDからD までの値」の構成は,公知技術に基づいて当業者が容易に設C定し得る程度の設計的事項にすぎないものということができる。
容易想到性判断の誤りについて(ア) 引用例2(甲2)には,次の記載がある。
( ) 杭外周面の突起から伝達される上向きの力(段落【0005】)は,a斜め上方向き(段落【0013】)と記載されているから,その力は円錐状に作用するものである。
( ) 伝達された力により根固め部の上端面で地盤反力が生じ(段落【0b005】),また,力の鉛直成分は根固め部の上端に面する地盤により支持される(段落【0013】)と記載されているから,根固め部上端面に支持面が形成される。
( ) 拡径量が小さいと地盤の支圧強度の安全性が確保できない(段落c【0005】),根固め部の上端面積が広いと安全性が確保される(段落【0022】),拡径した根固め部と杭の荷重伝達特性(斜め上方に伝達するという特性)を考慮して根固め部の形状を限定することで,根固め部のみで引き抜き力に対し十分抵抗させることができる(段落【0027】)などと記載されているから,突起から根固め部上端面に円錐状に伝達される荷重伝達特性を考慮して,根固め部の拡径量を決定する。
( ) 内外周面の突起は鉛直力も伝達するので,この発明の先端根固め杭dは鉛直力に対しても使用できる(段落【0025】)と記載されているから,鉛直力に対しては,突起から根固め部底面に円錐状に伝達される荷重伝達特性を考慮して,根固め部の拡径量を決定する。
(イ) 上記記載を総合すると,引用例2には,単に,「杭径D」と根固め部の外径との相関関係のみならず,直接的な記載ではないものの,原告が主張する「せん断力が支持地盤に伝わる底面において,拡底部に支持面を形成するという技術的思想」及び「杭外周突起部,及び,杭下端面から出るせん断力を考慮して,杭穴拡底部を構成すること」が示唆されているということができる。
(ウ) そして,上記のような示唆がある以上,引用発明1( )において,拡1径範囲をどのようにするか,すなわち,拡径範囲をD からD にするか A Cということは,単なる設計事項にすぎないものである。
(エ) 原告は,甲3ないし甲5文献により,「杭鉛直線に対して分散角の範囲内で荷重が分散すること,即ち,鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝搬して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」が周知技術でないことに加え,引用発明1( )に甲3ないし甲15文献記載の技術を適用する課題の共通性はなく,さらに,仮に,甲3ないし甲5文献記載の技術を引用発明1( )に適用しても,本件訂正発1明1の構成は得られない旨主張する。
しかし,原告が主張する「杭鉛直線に対して分散角の範囲内で荷重が分散すること,即ち,鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝搬して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」が,一般的なコンクリート製の既製杭に鉛直荷重が作用した際に,特段の条件を設定せずとも当然に発生する状態であるにすぎないことは,上記のとおりである。
要するに,本件訂正発明1に記載された既製コンクリート杭の埋設方法によって築造された基礎杭の構造と,引用発明1( )に記載された基1礎杭の構造とは,実質的に異なるところがないことから,原告が主張している点は,一般的なコンクリート製の既製杭に鉛直荷重が作用した際に,特段の条件を設定せずとも当然に発生する状態を構成として記載したものにすぎない。したがって,原告が主張する本件訂正発明1と引用発明1( )との相違点は実質的な相違点とはいえず,原告の主張は失当1である。
( ) 取消事由1( )(顕著な作用効果の看過)について 44ア本件訂正発明1は,「拡底部の径をD からD までの値とするように, A C前記杭穴拡底部を構成する」ものであることから,例えば,技術的範囲に含まれる拡底部の径をD に設定した場合,原告の論理に従えば,杭の下A端面から生じるせん断力を活用して支持地盤に支持面を形成することはできても,本件訂正発明1の特徴点として原告が主張する「突起部の下面から生じるせん断力を活用して支持地盤に支持面を形成すること」ができないことになる。また,原告が本件訂正発明1の実施態様であると主張するSKW工法において,本件訂正明細書に記載されている角度θ=30°では,杭の下端面から生じるせん断力を活用して支持地盤に支持面を形成することすらできないことになる。したがって,本件訂正発明1の特徴点として原告が主張する「突起部の下面から生じるせん断力を活用して支持地盤に支持面を形成すること」に基づく,本件訂正発明1と各引用例との技術的思想に関する原告の主張は,本件訂正発明1が特定する「拡底部の径をD からD までの値とするように,前記杭穴拡底部を構成する」との間A Cで整合性を欠き,論理に破綻を来しているといわざるを得ない。
イ従来,業界各社は,先端支持力係数αを250kN/m に統一するな2ど,各工法の鉛直支持力は横並びであったが,これを打破して大きな支持力の工法を最初に開発したのは,旭化成建材のDynaBIG工法であり,原告のSKW工法はこれに次ぐものであった。しかし,長年の業界慣行のため,両工法とも開発当初は需要が伸びず,需要が増大したのは,被告等の数社が支持力の大きい工法を開発し,これらが一般化してから後のことである。ちなみに,被告においても,ビジネス上の観点から,平成10年から杭径を大きくした節杭の製造を開始したが,これによって,節杭が支持杭的に使用される割合が増大するとともに,施工実績も著しく増大している。このように,節杭を支持杭的に使用することによって需要が増大しているのは,原告が実施するSKW工法に限ったことではなく,その点では被告が実施するMEGATOP工法も同様である。
したがって,原告が実施するSKW工法の需要が増大していることを本件特許発明1の作用効果に結びつけようとする原告の主張は,失当である。
2取消事由2(本件訂正発明2の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明2の進歩性についての認定判断の誤りについては,本件訂正発明1について述べたところと同様である。
3取消事由3(本件訂正発明3の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明3の進歩性についての認定判断の誤りについては,本件訂正発明1について述べたところと同様である。
4取消事由4(本件訂正発明4の進歩性についての認定判断の誤り)について( ) 相違点6の認定判断の誤りについて1相違点6に係る構成は,引用例1の「段付杭N」の例を示す第10図の記載から把握できるものであり,また,そもそも,既製杭の最下端面より拡底部内の突起までの高さ,及び,既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さについての規定自体,例えば,引用例2の「本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し」(段落【0009】),「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である」(段落【0017】),「ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さ約4Dである」(段落【0020】)との記載等からして,当業者が必要に応じて容易に採用し得る程度の設計的事項にすぎないものである。
したがって,本件審決が,「本件訂正発明4の上記相違点6に係る構成において,本件訂正発明4と刊行物1記載の発明( )との間に実質的な差異は1ないものといわざるをえない。仮にそうでないとしても,・・・相違点6として摘記した本件訂正発明4の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件訂正発明4の上記相違点6に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更によるものといわざるをえない」(審決謄本33頁最終段落ないし34頁第1段落)としたことに誤りはない。
( ) その余の相違点2は,前記のとおりであって,本件審決の認定判断に誤り2はない。
5取消事由5(本件訂正発明5の進歩性についての認定判断の誤り)について( ) 相違点7の認定判断の誤りについて1相違点7に係る構成は,引用例1の「段付杭N」の例を示す第10図の記載から把握できるものであり,また,そもそも,引用例2の「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である。」及び「ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さ約4Dである」との記載等からして,当業者が必要に応じて容易に採用し得る程度の設計的事項にすぎないものである。
したがって,本件審決が,「本件特許発明5の上記相違点6(注,「相違点7」の誤記と認める。)に係る構成において,本件訂正発明5と刊行物1記載の発明( )との間に実質的な差異はないものといわざるをえない。仮に1そうでないとしても,・・・相違点7として摘記した本件訂正発明5の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件訂正発明5の上記相違点7に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更によるものといわざるをえない」としたことに誤りはない。
( ) その他は,本件訂正発明1ないし4について述べたところと同様である。
26取消事由6(本件訂正発明6の進歩性についての認定判断の誤り)について相違点2,8,9についての本件審決の認定判断に誤りがないことは,前記のとおりである。
7取消事由7(本件訂正発明7の進歩性についての認定判断の誤り)について相違点2,9についての本件審決の認定判断に誤りがないことは,前記のとおりである。
8取消事由8(本件訂正発明8の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明8は,「環状リブを下方に向けて順に外径が小さくなるように形成した請求項6又は7記載の基礎杭の構造。」であるところ,本件訂正発明6及び7の進歩性についての認定判断が誤りであることは,上記6及び7のとおりである。
9取消事由9(本件訂正発明9の進歩性についての認定判断の誤り)について相違点2,12,13についての本件審決の認定判断に誤りがないことは,前記のとおりである。
10取消事由10(本件訂正発明10の進歩性についての認定判断の誤り)について相違点2,12,13についての本件審決の認定判断に誤りがないことは,前記のとおりである。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件訂正発明1の進歩性の認定判断の誤り)について( ) 取消事由1( )(本件訂正発明1と引用発明1( )の相違点の看過)につい11 1てア本件審決は,「本件訂正発明1と刊行物1記載の発明( )(注,引用発1明1( ))とを対比すると,・・・刊行物1記載の発明( )の『拡大部Aの1 1底部』が・・・本件訂正発明1の『拡底部の支持地盤』に相当」(審決謄本26頁第1ないし第2段落)するとしたのに対し,原告は,これを争い,引用発明1( )の「拡大部Aの底部」が本件訂正発明1の「拡底部の支持1地盤」に相当するとの認定は誤りであり,本件訂正発明1が「拡底部」の構成を有するのに対し,引用発明1( )はそれを有しない旨主張する。
1イ本件訂正発明1の特許請求の範囲には,「拡底部を有する杭穴を掘削し」,「前記拡底部内にセメントミルクを注入し,前記既製杭の最下端面と前記拡底部の支持地盤との間に間隙を設けて」,「前記既製杭の下端部を杭穴拡底部に定着させる」,「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ」,「拡底部の径をD からD までの値とするように,前記杭A C穴拡底部を構成する」との記載があるから,本件訂正発明1の「拡底部」は,杭穴の下方に形成され,横方向においては,拡底部の径が,本件附随事項,すなわち,「但し,前記D は,拡底部内の既製杭の下端面からせAん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底部内の最上位に位置する突起の下面からせんC断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」に基づく所定の広さを有し,上下方向においては,既製杭に配置された複数の突起をすべて収容するほどの高さを有するものであることが認められる。
なお,この点について,原告は,本件訂正発明1の「拡底部の支持地盤」は,既製杭の最下端面,及び,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力の支持面の範囲に応じて広狭を調整され得る構成のものでなければならない旨主張する。
しかし,拡底部内の最上位に位置する突起の下面から円錐状に伝播するせん断力の支持面の範囲に応じて広狭を調整され得る構成とは,具体的には,本件訂正発明1の「拡底部の径をD からD までの値とするように,A C前記杭穴拡底部を構成する」に係る相違点3で議論されるべき問題であるから,原告の上記主張は,理由がない。
ウ引用例1(甲1)には,次の記載がある。
(ア) 「ケーシング内にスクリユーオーガーを挿入し,該スクリユーオーガーとケーシングとを夫々反対方向に回転させながら所定地盤を掘削し,所定深さまで掘削したならば前記ケーシングを逆回転せしめて該ケーシング先端に設けた拡開刃を略々水平方向に開き,該拡開刃にて前記掘削した掘孔の先端部を横方向に掘削して拡大部を造成した後,前記スクリユーオーガーの先端部よりセメントミルク等の充填材を注入し,その注入に伴つて前記ケーシングを元の回転方向に戻して,前記拡開刃を閉じて該ケーシングとスクリユーオーガーとを引き抜き,しかる後に前記掘孔内に杭を挿入してなる拡大杭工法。」(1頁左下欄,特許請求の範囲の第1項)(イ) 「施工に際しダブル掘削オーガMを杭打機・・・に昇降自在に吊下げ,ケーシングC内にスクリユーオーガーSを挿入した状態でスクリユーオーガーSのフランジ7を回転軸1に,またケーシングCの連結部10を回転軸2に夫々連結し,所定地盤Eに立て込む。掘削オーガーMを駆動し,夫々ケーシングCとスクリユーオーガーSの回転が互いに反対方向に回転する。この場合スクリユーオーガーSは掘削方向に回転し,またケーシングCは拡開刃11,11’が閉じた状態を維持する方向に回転される。スクリユーオーガーSが所定深さまで掘孔Hを掘削したならば,ケーシングCのみを逆回転する。拡開刃11,11’は土圧抵抗により拡開し,掘孔Hの先端部を横方向に掘削し,そこに拡大部Aを造成する。
拡大部Aの土砂は切欠き窓15を通じてケーシングC内に導入される。
拡大部Aを造成したならば中空シヤフト5の内孔を通じてノズル孔9よりモルタル,セメントミルク等の充填材Bを注入する。ケーシングCを正転に戻し,拡開刃11,11’を閉じ,更に充填材Bの注入を続けて掘孔Hの先端部又は掘孔Hの略々全部に充填材Bを充填するよう注入しながらケーシングC及びスクリユーオーガーSを抜去する。充填材Bの未硬化のうちにその掘孔H内にコンクリート製円筒杭又は段付杭或は型鋼,鋼管,鉄筋籠等の杭Pを挿入し,杭Pを芯材とした先端に拡大部を持つ強力な基礎杭が造成される。」(3頁左上欄最終段落ないし左下欄第2段落)(ウ) 「またケーシングC及びスクリユーオーガーSを抜き上げるときに第9図,第10図に示す如く,掘孔Hの任意の個所に適時拡大部A’,A”・・・を造成し,杭Pを挿入すれば更に強力な基礎杭が造成される。特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。」(同頁左下欄第3段落)(エ) 「以上説明した如くこの発明は先端部に拡大部を有する基礎杭を造成するものであるから従来の先掘りミルク注入工法,PIP工法等による基礎杭に比べて先端支持力が極めて大きく強固なものとすることができる。また拡大部を適宜数設けることで,より一層の強固な基礎杭を造成できる。」(同頁左下欄最終段落ないし右下欄第1段落)。
(オ) 第10図には,掘孔Hに挿入された段付杭Nの四つの段部の周囲の掘孔壁のそれぞれに拡大部A,A’,A”を造成したものが示されている。
エ引用例1の上記記載によると,引用発明1( )においては,杭Pとして1段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成したものが開示されており,本件審決は,その拡大部A,A’,A”のうち最下段の拡大部Aを,本件訂正発明1の「拡底部」に対応させているものである。
そうすると,引用発明1( )の「拡大部A」は,本件訂正発明1の「拡 1底部」と対比すると,杭穴の下方に形成される点で一致するが,横方向の広さについて格別の限定がなく,上下方向においては,既製杭に配置された一つの突起を収容するほどの高さを有する点で相違することが認められる。
オところで,本件審決は,本件訂正発明1と引用発明1( )との対比にお1いて,上記のとおり,引用発明1( )の「拡大部A」を本件訂正発明1の 1「拡底部」に対応させて一致するものと認定しているが,一方で,後記( )で検討するとおり,相違点3についての認定判断において,「刊行物31(注,引用例1)には,『特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。』・・・と記載されており,当該記載と第10図の記載によれば,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))は,段付杭Nの各段部11の下面周縁と掘孔Hの(各段部の周囲に位置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ,前記各段部の下面からのせん断力が円錐状に拡大部A(A’,A”)の下側壁面に伝搬することで基礎杭上部の上載荷重を支持しているものと推認することができ」(審決謄本28頁最終段落)ると認定し,本件訂正発明1の「拡底部」を,引用発明1( )の拡大部A(A’,A”)と対応させているところからすると,本件1審決は,結局は,引用発明1( )の拡大部A,A’,A”の全体について 1考察しているものとみるのが相当である。
そうすると,本件審決は,対比の認定において,引用発明1( )の「拡1大部A」を本件訂正発明1の「拡底部」に対応させて一致するものと認定するにとどめ,相違点3についての判断において,拡大部A’,A”も含めて具体的な検討をしているのであるから,相違点3に係る取消事由において検討すれば足りるものというべきであり,引用発明1( )の「拡大部 1A」が本件訂正発明1の「拡底部」に相当するとの認定は誤りであるとする原告の主張は,理由がない。
( ) 取消事由1( )(相違点2についての認定判断の誤り)について22ア周知技術の誤認について(ア) 本件審決は,相違点2に係る本件訂正発明1の「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ」との構成について,「当該記載と図1の記載(注,いずれも引用例2の記載)によれば,既成杭外周面に設けた突起は,拡径部である根固め部2の範囲内に複数配置されているものと認められるところ,このようなものは,例えば,特公平1-25848号公報(注,甲10公報)・・・,特開昭64-75715号公報(注,甲12公報)・・・に示すように周知技術にすぎないものと認められるのであり」(審決謄本28頁第2段落)と認定したのに対し,原告は,これを争うので,検討する。
(イ) 引用例2には,「【課題を解決するための手段】本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し,この既成杭の先端部を拡径部内に設置し,拡径部の上端から1D以上下がった位置から下側の範囲で既成杭外周面に突起を設けたことを特徴とする。」(段落【0009】),「内外周面の突起4,5は鉛直力も伝達するので,本発明の先端根固め杭は鉛直力に対しても使用でき,鉛直力と引抜き力に対して合理的な杭の使用が可能となる。」(段落【0025】)との記載があり,図1には,地盤3内に,中空既成杭1として鋼管杭を使用し,ソイルセメント6からなる根固め部2に杭を沈設し,上記杭の内外周面に多数の小さな突起4,5が設けられているものが図示されている。
(ウ) 甲10公報には,「少なくとも先端部が鋼管よりなり,この先端部がセメントミルク等の固化剤で根固めされる中空杭であって,前記鋼管からなる先端部の内外周に,それぞれ複数の略リング状をなす支圧用の凸起が内外相互に杭軸心方向に位置をずらせて溶着により配設されてなることを特徴とする鋼管杭等の杭。」(1頁の特許請求の範囲第1項),「本発明(注,甲10公報に係る発明)においては,杭10の先端部11の内外周に,それぞれ複数の支圧用の凸起12,13が設けられているため,杭が構造物荷重を受けると,前記内外の凸起12,13のそれぞれ下面が支圧面として作用し,モルタル等の根固め用球根部aに荷重が分散伝達されることとなり,構築物の荷重Wが杭先端に集中負荷するのを防ぐとともに,杭壁に対するモルタル等の付着力をも増大できる。」(3頁5欄下から第2段落)との記載がある。
(エ) 甲12公報には,「地盤の地中内に形成され,底端が拡径で所定長さの杭底端拡径部を有するソイルセメント柱と,硬化前のソイルセメント柱内に圧入され,硬化後のソイルセメント柱と一体の底端に所定長さの底端拡大部を有する突起付鋼管杭からなることを特徴とするソイルセメント合成杭。」(1頁の特許請求の範囲),「また,突起付鋼管杭としているので,ソイルセメント柱に対して付着力が高まり,引抜き力及び押込み力に対しても抵抗が大きくなるという効果がある。」(6頁左上欄第2段落)との記載がある。
(オ) 上記によれば,荷重を分散伝達したり,付着力を高めたりするために,既成杭先端に形成した拡径部内の杭外周面に複数の突起を上下方向に設けること,すなわち,本件突起技術は,本件特許出願前に,周知の技術事項であったものと認められる。
(カ) 原告は,コンクリート杭について,本件突起技術が周知であったとはいえない旨主張する。
しかし,前記(イ)のとおり,引用例2には,「本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において」との記載があるから,引用発明2において,コンクリート杭を除外していないことは明らかである。しかも,付着力を高めたりするために,既成杭先端に形成した拡径部内の杭外周面に複数の突起を上下方向に設けるという本件突起技術は,専ら突起自体の問題であり,突起を設置した杭の材質を問題にしているわけではないのであって,甲10,12公報から,コンクリート杭が除外されるべき格別の事情を見いだすこともできない。
したがって,原告の上記主張は,採用の限りでない。
容易想到性判断の誤りについて(ア) 引用発明1( )の「拡大部A」は,コンクリート製既製段付杭Nとこ1れにかかる上載荷重を支持するものであって,荷重を分散伝達し,付着力等を高めるという技術課題を有しているから,そこで,段付杭N下端部に設けた段部を拡大部A内に複数配置し,相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者において,容易に想到し得るものというべきである。
(イ) 原告は,本件訂正発明1は,突起から生じるせん断力を活用して支持地盤に支持面を形成することにより杭の垂直荷重を増大させることを目的としているから,引用発明1( )における段部,甲10及び甲12公1報に記載されている突起とは,その技術的思想を大きく異にしているところ,本件審決は,その差異について何ら具体的検討を行なわないまま,相違点2について容易想到との判断をしており,失当である旨主張する。
しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲には,「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ,鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD まA Cでの値とするように,前記杭穴拡底部を構成することを特徴とした既製コンクリート杭の埋設方法。」と記載されているように,複数配置された「突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐A 状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をDからD までの値とするように,前記杭穴拡底部を構成すること」を特C徴としているのであり,「突起」については,それが「拡底部内に上下方向で複数配置」(相違点2)されている以外に,格別の限定はされていない。念のため,本件訂正明細書発明の詳細な説明をみても,「突起」についての定義あるいは説明は見当たらない。
そうすると,本件訂正発明1の突起が,引用発明1( )における段部1等と技術的思想を異にしているとする原告の主張は,失当である。
(ウ) 原告は,引用発明1( )は,掘孔柱体が円形柱状では支持力が極めて1低い問題について,地盤中に複数の「拡大部」を設けることによって,強固な基礎杭を造成しようとするものであるから,掘孔を複数突起が入るだけ大きく造成することは,従来技術において課題とされている円形柱状に近づけることになるものであり,また,拡大部の数を減少させることにもつながるが,これは,引用発明1( )の技術的思想に反するも1のである旨主張する。
しかし,原告の主張は,引用例1の第10図に示される段部(突起)を,図示されたままの大きさ,間隔で一つの拡大部(拡底部)に複数設置する場合の不都合をいうものと思われるが,引用例1から抽出されるべき構成は,本件訂正発明1の「前記突起は前記拡底部内に上下方向で複数配置させ」という相違点2に対応したものであって,上記のような具体的な事情を捨象したものである。
したがって,原告の上記主張は,その前提において誤りであって,採用の限りでない。
(エ) そうすると,引用発明1( )において,本件突起技術を参酌して,相1違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
( ) 取消事由1( )(相違点3についての認定判断の誤り)について33ア本件審決は,相違点3について,「刊行物1,2(注,引用例1,2)をみると,刊行物1には,『特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。』・・・と記載されており,当該記載と第10図の記載によれば,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))は,段付杭Nの各段部11の下面周縁と掘孔Hの(各段部の周囲に位置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ,前記各段部の下面からのせん断力が円錐状に拡大部A(A’,A”)の下側壁面に伝搬することで基礎杭上部の上載荷重を支持しているものと推認することができ,また,刊行物2には,支持杭的に用いることもできる『先端根固め杭』について,『本発明の先端根固め杭は,鋼管杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し,』・・・及び,『拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である。』・・・と記載されており,これらの記載において,『拡径した根固め部2』の『1.5D〜4D』との外径が,本件特許明細書に実施例として挙げられた,既製杭4の軸部8の外径D を60cmとし,杭穴1の拡底部3の外径Dを150 110cmとした場合(段落【0033】,【0034】参照。)における,軸部8の外径D に対する拡底部3の外径Dの比率のものを包含するも0 11のであることは明らかであり,そして,単杭或いは群杭において,杭鉛直線に対して分散角の範囲内で荷重が分散すること,即ち,鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝搬して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成することが,刊行物3〜5(注,甲3ないし甲5文献)に示すように当業者に周知の事項にすぎないものと認められ,また,例えば,特公平1-25848号公報(注,甲10)・・・に『内外の凸起・・・のそれぞれ下面が支圧面として作用し,モルタル等の根固め用球根部aに荷重が分散伝達される』・・・と記載されていること等を考慮すると,本件訂正発明1の上記相違点3に係る構成における,『拡底部の径をD かAらD までの値とする』ことをも含め,本件訂正発明1と刊行物1記載の C発明( )との間に実質的な差異はないものといわざるをえない。仮にそう1でないとしても,上記周知技術或いは当業者に周知の事項を刊行物1記載の発明( )に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,1且つ,当該技術に基づき相違点3として摘記した本件訂正発明1の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件訂正発明1の上記相違点3に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更によるものといわざるをえない。」(審決謄本28頁最終段落ないし29頁第1段落)と認定判断した。
イ本件審決の推論の過程は,必ずしも明確ではないが,相違点3に係る本件訂正発明1の構成である「鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD までの値とするA C(注,ただし書の本件附随事項を含む。)」を,「鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,」(相違点3( ))と, 1「かつ拡底部の径をD からD までの値とする(注,ただし書の本件附随 A C事項を含む。)」(相違点3( ))に分けた上で,@まず,甲3ないし甲 25文献から,「鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝播して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」(本件伝播技術)は周知であるとし,A次に,引用発明1( )の段部と拡大部A’,A”1の関係に着目して,引用発明1( )においても,段付杭Nの各段部の下面 1からのせん断力が円錐状に拡大部A’,A”の下側壁面に伝播しているから,引用発明1( )に,相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成が開示さ11れているとし,Bさらに,相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成は, 2引用発明2に開示又は示唆されているとして,C本件伝播技術及び甲10公報を考慮して引用発明1( )をみると,相違点3に係る本件訂正発明11と引用発明1( )とが実質的に同一であるとし,D予備的に,本件伝播技 1術及び甲10公報を引用発明1( )に適用することについては何ら阻害要 1因もなく,相違点3に係る本件訂正発明1の構成は,当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更の程度の事柄である,としたものである。
ウ本件伝播技術について(ア) 証拠(甲30の1ないし3,甲31の2,甲35)によると,一般に,基礎工法は,建造物の規模・用途・構造及び地盤に応じて安全性・経済性・施工方法を検討しつつ最適な基礎工法が選定されるものであるが,支持形式による杭の分類としては,大別して支持杭と摩擦杭とがあること,支持杭は,軟弱な地層を貫いて硬い層まで到達し,主としてその先端抵抗で支持させる杭であり,主にストレート杭が用いられていたこと,一方,摩擦杭は,主として杭周面の摩擦力で支持する杭であり,支持層がない場合や支持層が深い位置にあって容易に杭が届かないような場合に使用され,節杭が代表的な摩擦杭の一つとして使用されていること,その他,両者の性質を併せ持った先端・摩擦支持杭も多用されていることが認められる。
(イ) 甲3文献には,次の記載がある。
( ) 「杭の許容鉛直耐力とは直接基礎を設計するときの許容地耐力に相a当する概念である。すなわち杭の許容鉛直支持力以下の値であり,かつ杭の沈下量または杭基礎の不同沈下量が許容値以内に納まるような荷重の値を,杭の許容鉛直耐力と定義する。」(241頁「1.杭の許容鉛直耐力」の項,第1段落)( ) 「摩擦杭は当然のこととして,支持杭であっても荷重が掛かれば杭bは沈下する。・・・杭基礎の設計においての杭の本数は,杭基礎に作用する設計荷重を杭の許容鉛直支持力(6 2節)で除した値ではなく,.杭の許容鉛直耐力(6 3節)で除した値で決まることになる。すな .わち,杭の本数を決めるためには,杭の沈下量を計算しておくことが必ず必要である。杭の沈下量の計算方法の原理は直接基礎の場合と同じである。杭頭に作用した荷重が杭体から地盤に伝わり,その結果として生じた地中応力を算出し,地中応力の増加に対応する地盤のひずみを積分して沈下量を求めればよい。理論的に厳密に考えると,直接基礎と杭基礎とでは地中応力を計算する方法が異なるといえる。地中応力を弾性論により計算する方法は,例えば,Poulosの著書に記述されているが,地盤,とくに軟弱地盤は弾性体とは非常に異なった挙動を示すので,詳細な計算を行うことは実用的にはあまり意味がない。
通常の設計においては,後述の荷重の仮想作用面〔図6.3.2( ),a( )参照〕を地表面と仮定して4.3節の計算式により地中応力を計 b算すればよい。・・・摩擦杭は群杭として使われることが多いので,3項に示す沈下の計算方法に基づいて検討する。支持杭の場合には,杭周面の摩擦力により荷重が地盤に伝わる部分を無視し,杭頭に作用する設計荷重のすべての値が杭先端部から地盤に伝わると仮定して,沈下量を計算すれば,一般に安全側の値を求めることができる。この場合,群杭であれば,近似的には杭群を囲んだ杭先端位置での面積を考えればよいと思われるが,・・・具体的には,1)杭伏図に杭先端部分の形(面積)を記入し,杭先端面積に設計荷重を分布荷重として与える。2)4.3節『沈下量の計算』と同じ方法で沈下量を求める。
3)求めた沈下量が4 4節『許容沈下量』以下であることを確認する,.という順序で計算を行えばよい。」(241ないし242頁「2.杭の沈下量計算」の項)( ) 「群杭の場合には図6.3.2に示す荷重の仮想作用面に関してはcいくつかの提案があるが,いずれも略算的なものである。杭間隔が杭径の約3倍以下の場合には,図6.3.2に示すような荷重の仮想作用面を設定し,地中応力は図に示す断面の四角錘台の底面に一様に分散すると仮定し,2項に記した計算方法で群杭の沈下量を計算すればよい。摩擦群杭を中間砂層で支持した場合,図6.3.2(b)に示すような荷重の仮想作用面を想定して求めた計算法が現場実測値とよい一致を示したという報告がある。」(242頁「3.群杭の沈下」の項の第2段落)( ) 243頁の図6.3.2( )には,摩擦群杭が軟弱粘性土層で支持d aされている場合として,杭長Lの群杭の,下からL/3の位置における杭の外周で囲まれた面積を荷重の仮想作用面とし,この位置から下方に30°広がった範囲を荷重が一様に分散する範囲として示されており,図6.3.2( )には,摩擦群杭が中間砂層で支持されているb場合として,砂層に位置する群杭の下端部における杭の外周で囲まれた面積を荷重の仮想作用面とし,この位置から下方に30°広がった範囲を荷重が一様に分散する範囲として示されている。
甲3文献の上記記載によると,摩擦群杭が軟弱粘性土層あるいは中間砂層で支持されている場合に,群杭の下方に荷重の仮想作用面を想定して,そこから下方に荷重が一様に分散することにして求めた沈下量の計算法が記載されている。
(ウ) 甲4文献には,次の記載がある。
( ) 「いわゆる摩擦杭(friction pile)あるいは浮き杭(flaoating pile)を群杭基礎として用いる場合,圧密沈下量の検討が必要となる。その際,Terzaghi-Peck法(以降T-P法と記す)またはその修正法がよく用いられる。」(1445頁,「1.まえがき」の項,第1段落)( ) 「T-P法は,equivalent raft( or footing )methodbとも呼ばれる。 図-1に示すように,z=2L/3の位置に仮想載荷面を想定し,その面上の群杭外周を囲む部分に上載荷重を等分布荷重として加える。それ以浅の部分の地盤および杭全体の存在を無視して,仮想載荷面を地表面と見なし,それ以深の地盤の圧密沈下量を直接基礎と同じ方法で計算する。したがって,地盤内応力増分は,プシネスク解に基づく弾性理論あるいは簡便法として荷重分散法が用いられる。一般的には後者が用いられるが,分散角として日本ではθ=30°欧米ではθ=tan(1/2)=26.6°とすることが多-1い。」(同頁,「2.1概要」の項,第1段落)( ) 「いわゆる摩擦杭を採用する場合には,群杭基礎としての沈下の検c討が必要とされる。しかしながら,その検討法には,多くの問題点が残されている。必要とされる事項を自信を持って検討できない状況が,支持杭偏重の傾向に影響を及ぼしている要因の一つであるといえよう。
既往の実測データをよく説明できるとともに,合理的かつ簡便な沈下計算法が必要とされる。その試みの一つとして,地盤内鉛直応力についての検討を行った。重要な結論の一つとして,摩擦杭の場合でも,杭先端レベルでの応力が最も大きくなる可能性があることが指摘される。」(1448頁,「5.あとがき」の項)( ) 図-1(1445頁)には,equivalent raft 法(T-Pd法)として,想定した荷重仮想載荷面から杭の鉛直線に対して分散角θの範囲内で荷重が分散することが記載されている。なお,同図において,q(z)は深度zでの鉛直応力増分である(1448頁,「4.簡便法」の項参照。)。
甲4文献の上記記載においても,上記(イ)と同様に,摩擦群杭における沈下量の計算において,群杭の下方に荷重の仮想作用面を想定して,そこから下方に荷重が一様に分散することにして求めた沈下量の計算法が記載されており,上記(ア)を考慮すると,その地盤は,上記(イ)と同様に軟弱層であるものと認められる。
(エ) 甲5文献には,次の記載がある。
( ) 「武智杭の特長は杭幹中に突縁を有し,之を砂利と共に打ち込む事aに在って,其の為に杭徑は杭周に在る砂利の最外縁を以て表し得る。
即ち他の杭に比して支持力を増大せしむる一原因なり。・・・最近の研究に依れば,杭荷重は杭軸と摩擦角θなる分布角を為して杭端水平面に分布し,最大壓力強度pはmax.P1p=max.πr(r+ tanθ) □にて示さる。
茲にP=杭荷重=杭半径=杭長θ=地盤の摩擦角r □なりとす。
壓力分布は図の如く鐘状を呈する。武智杭は他の同長同体積の杭に比してr及θを増大すること甚しきを以て,壓力分布は杭端水平面に廣く擴散し,從つて最大壓力強度は普通杭の僅に數分之一である。・・・又杭の限界支持力は土の單位重量をとすればwπ πθwP=r(r+ tanθ)tan (+) □□22 42にて與へらるゝを以て,杭徑r摩擦角θの増加は急激に支持力の増大すべき所以を知るを得べし。」(51頁,「二,武智杭の支持力の研究」の項)( ) 第二図(同頁)には,普通杭では,杭荷重が地表面杭軸からθb(地盤の摩擦角)なる分布角をなし杭端水平面に鐘状を呈して分布するのに対し,杭幹中に突縁を有する武智杭では,杭荷重は地表面における砂利の外縁からθ (>θ)なる分布角をなし杭端水平面に0鐘状を呈して分布する様子が示されている。
甲5文献の上記記載によると,地面に打ち込まれた杭は,これに垂直な荷重が加えられると,当該荷重が地表面から下方に向かってある摩擦角(分布角)で円錐状に広がって分布し,杭端において最大圧力強度となり,杭端から水平方向に離れるに従って減衰して,鐘状の圧力分布となること,このことは,杭の側面に突起を設けた場合も,突起を設けない場合も同様であることが記載されていることが認められる。
(オ) 上記(エ)の記載によると,摩擦杭において,地面に打ち込まれた杭に垂直な荷重が加えられると,当該荷重が下方に向かってある摩擦角で円錐状に広がって分布すること,上記(イ)及び(ウ)の記載によると,地面に打ち込まれた群杭に垂直な荷重が加えられた場合に,個別的な杭の応力分布ではなく,群杭を一体として取り扱うとともに,地表面の下方に荷重の仮想作用面を設定して,この仮想作用面からその下方に向けて所定の角度で広がる範囲に地中応力が等分布で分散すると仮定して地盤の沈下量を計算する技術が記載されていることが認められる。
ところで,上記(イ)ないし(エ)の杭は,いずれも摩擦杭であり,軟弱な地層を貫いて硬い層まで到達し,その先端抵抗で支持させる支持杭ではなく,したがって,応力が下方に分散した場合に,これを受ける支持地盤というものは,存在していないものである。
そうすると,甲3ないし甲5文献には,単杭あるいは群杭において,杭鉛直線に対して分散角の範囲内で荷重が分散すること及び鉛直荷重が作用した際に,応力が錐状に伝播することが開示されているとしても,それ以上に,上記応力,特にせん断力が支持地盤に伝播することも,底面で支持地盤に支持面を形成することも開示されていないというべきである。そして,他に,本件伝播技術,すなわち,「杭鉛直線に対して分散鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝播して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成すること」が,本件特許出願前に,当業者に周知の技術事項であったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,「単杭或いは群杭において,杭鉛直線に対して分散角の範囲内で荷重が分散すること,即ち,鉛直荷重が作用した際にせん断力が錐状に支持地盤に伝搬して前記錐状の底面で支持地盤に支持面を形成することが,刊行物3〜5(注,甲3ないし甲5文献)に示すように当業者に周知の事項にすぎない」(審決謄本29頁第1段落)とした本件審決の認定は,誤りである。
エ相違点3( )について1(ア) 本件審決は,「刊行物1(注,引用例1)には,『特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。』・・・と記載されており,当該記載と第10図の記載によれば,刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))は,段付杭Nの各段部の下面周縁と掘孔H11の(各段部の周囲に位置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ,前記各段部の下面からのせん断力が円錐状に拡大部A(A’,A”)の下側壁面に伝搬することで基礎杭上部の上載荷重を支持しているものと推認することができ」(審決謄本28頁最終段落)と認定した上,引用発明1( )に,相違点3( )に係る本11件訂正発明1の構成が開示されていると判断しているので,この点について検討する。
(イ) 本件訂正明細書(甲36添付)には,突起の下面からのせん断力の伝播に関連して,次の記載がある。
( ) 「【実施の態様】( )掘削ロッドを正転して,通常の杭穴と同等a1の杭穴1の軸部(穴径D)2を掘削する。( )掘削ロッドを逆転 00 2して(あるいは他の拡大掘削用の掘削ロッドを使用して),杭穴1に拡底部3を掘削し(図1(a)),拡底部3内にセメントミルク2(支持地盤の強度に対応した固化強度100〜400Kg/cm程度)を注入する。拡底部3の穴径Dである。( )注入したセメ11 3ントミルクをソイルセメント化した後に,次に杭穴1内に,下端部に環状リブ(外径D )5,6,7を形成したコンクリート製の既1製杭(軸径D )4を下降させる(図1(b))。前記環状リブは下 0から順に5,6,7とする。( )杭穴1の拡底部3内であって,拡 4底部3の地盤底面から所定高さD に,最下端面が位置するように H既製杭4を埋設して杭10を構築する。ここで,環状リブ5,6が杭穴1の拡底部3内に配置される。( )ここで,既製杭4に垂直荷5重が作用した際,既製杭4の軸部8の下端面8a,のみならず,既製杭4の側面の環状リブ5,6の下面5a,6aの周縁で,せん断力が伝搬して,夫々角θ(30°程度)の角度で円錐状の底面に相当する部分で支圧力が生じ,支持地盤(地盤底面)11では,順にD ,D,Dに作用する。・・・杭穴の拡底部径をD にすればABC A(D =Aの値),既製杭の下端部に伝搬されるせん断力を全て固 A化されたソイルセメントと地盤で支持でき,既製杭の下端部の最大支持力が得られる。・・・拡底部の径をD (D =Bの値)に拡大BBすれば,既製杭の下端部の支持力と共に最下端に位置する環状リブ5の最大支持力が得られる。・・・拡底部の径をD まで大径にすCれば(D =Cの値),環状リブ6の支持力は最大になる。従って, C杭強度及び建物等の構造設計上の必要性により拡底部径をD から AD の最上位の突起の支持力まで変更して対応することが可能であ Cる。」(段落【0019】〜【0026】)( ) 「また,前記埋設方法では,拡底部3内にソイルセメントを形成bした後に,既製杭4を下降したが,・・・要は,拡底部3内に,固化後に所定強度となるソイルセメントが形成されればよい。」(段落【0031】( ) 「【発明の効果】拡底掘削した杭穴内に,下端部に突起を有するc既製コンクリート杭を埋設して杭を構成するので,突起の下面周縁からもせん断力が支持地盤に伝搬し,所定角度で円錐状の底面で,支持地盤に支持面を形成できるので,1本の杭が負担すべき垂直荷重を大幅に増加させることができる。」(段落【0045】)(イ) 上記記載によれば,本件訂正発明1の「突起」に当たる環状リブ5,6が杭穴1の拡底部3内に配置されるように既製杭4が固化されたソイルセメントが充填された拡底部内に埋設された場合,この既製杭4に垂直荷重が作用すると,既製杭4の軸部8の下端面8a及び既製杭4の側面の環状リブ5,6の下面5a,6aの周縁からそれぞれθ(30°程度)の角度をもって円錐状にせん断力が伝播するものと認められる。
(ウ) ところで,前記1( )ウ(ア)の「所定地盤を掘削し,所定深さまで掘1削したならば前記ケーシングを逆回転せしめて該ケーシング先端に設けた拡開刃を略々水平方向に開き,該拡開刃にて前記掘削した掘孔の先端部を横方向に掘削して拡大部を造成」,同(エ)の「この発明は先端部に拡大部を有する基礎杭を造成するものであるから・・・先端支持力が極めて大きく強固なものとすることができる。」等の記載によれば,引用発明1( )は,節杭を用いているが,その掘孔が硬い地盤1にまで到達し,その先端抵抗で支持させる支持杭の役割を担っていることが認められる。
また,前記1( )ウ(ア)の記載によれば,引用例1には,拡大部Aを1有する掘孔Hを掘削し,次に該拡大部Aを含む掘孔H内に,セメントミルク等の充填材Bを注入した後,充填材Bの未硬化のうちに掘孔H内にコンクリート製段付杭等の杭Pを下降沈設する拡大杭工法が記載されているところ,同工法は,「充填材Bの未硬化のうちにその掘孔H内にコンクリート製円筒杭又は段付杭或は型鋼,鋼管,鉄筋籠等の杭Pを挿入し,杭Pを芯材とした先端に拡大部を持つ強力な基礎杭が造成される。」(前記1( )ウ(イ)),「この発明は先端部に拡大部を1有する基礎杭を造成するものであるから従来の先掘りミルク注入工法,PIP工法等による基礎杭に比べて先端支持力が極めて大きく強固なものとすることができる。」(前記1( )ウ(エ))と記載されているよ1うに,芯材である杭Pを挿入してその周囲にセメントミルク等の充填剤を充填し,掘孔と同一の形状をした外形を有する基礎杭を造成し,この基礎杭によって,大きく強固な先端支持力を得ようとするものである。
加えて,引用例1には,前記1( )ウ(ウ)のとおり,「またケーシン1グC及びスクリユーオーガーSを抜き上げるときに第9図,第10図に示す如く,掘孔Hの任意の個所に適時拡大部A’,A”・・・を造成し,杭Pを挿入すれば更に強力な基礎杭が造成される。特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。」との記載があり,第10図には,掘孔Hに挿入された段付杭Nの四つの段部の周囲の掘孔壁のそれぞれに拡大部A,A’,A”を造成したものが示されているところ,第10図の段付杭Nについても,上記(イ)の拡大杭工法の一形態であるから,第10図の段付杭Nに係る引用発明1( )は,1基本的に,掘孔と同一の形状をした外形を有する基礎杭を造成し,この基礎杭によって,大きく強固な先端支持力を得ようとするものであるが,さらに,掘孔内の先端部のほか,掘孔内の適宜の箇所にも拡大部を設けるとともに,同一の形状をした外形を有する基礎杭を造成し,より強固な支持力を得るというものである。
そうすると,「基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好とな」るとの記載は,掘孔内の先端部のほか,掘孔内の適宜の箇所にも拡大部を設けるとともに,同一の形状をした外形を有する基礎杭を造成することによって,基礎杭とその周囲及び下部の掘孔との間の応力の伝達のことを述べているものであって,芯材である段付杭Nとその周囲の充填物との応力の関係を述べているものではないと理解するのが相当である。
したがって,引用例1は,芯材である段付杭Nと掘孔内の適宜の箇所に設けられた拡大部A’,A”との応力の関係については,何らの開示も示唆もないというべきである。
なお,後記キ(イ)のとおり,甲10公報には,「鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬」するという公知技術が開示されているから,段付杭Nの段部の下面からせん断力が円錐状に伝播することは明らかであり,段付杭Nの杭先から伝播するせん断力を拡大部Aが支持していることも明らかであるが,杭先を除く段部の下面から伝播するせん断力を,拡大部A’,A”に係る地盤が支持するという技術的思想は,引用例1には記載も示唆もされているといえない。
(エ) この点について,本件審決は,「刊行物1には,『特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。』・・・と記載されており,当該記載と第10図の記載によれば,刊行物1記載の発明( )は,段付杭Nの各段部の下面周縁と掘孔Hの(各段部の周囲に位1置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ」(審決謄本28頁最終段落)として,第10図の記載から,段付杭Nの各段部の下面周縁と掘孔Hの拡大部A’,A”の下側壁面との間で応力伝達が図られることが読み取れるかのような説示をしている。
しかし,上記のとおり,引用例1は,芯材である段付杭Nと掘孔内の適宜の箇所に設けられた拡大部A’,A”との関係については,何らの開示も示唆もしていない。しかも,第10図の記載は,設計図ではなく,引用例1の「またケーシングC及びスクリユーオーガーSを抜き上げるときに第9図,第10図に示す如く,掘孔Hの任意の個所に適時拡大部A’,A”・・・を造成し,杭Pを挿入すれば更に強力な基礎杭が造成される。特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。」(3頁左下欄第3段落)という記載の理解を助けるための略図にすぎないのであって,このような図面を根拠に,短絡的に,段付杭Nの各段部の下面周縁と掘孔Hの拡大部A’,A”の下側壁面との間で応力伝達が図られることを読み取ることができるとするのは,失当というほかない。
(オ) そうすると,側面に段部を有する杭においては,甲10公報に開示されている「鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬」するという公知技術を前提としても,引用発明1( )は,「段付杭Nの各段部の下面周縁と掘孔Hの(各段部1の周囲に位置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ,前記各段部の下面からのせん断力が円錐状に拡大部A(A’,A”)の下側壁面に伝搬することで基礎杭上部の上載荷重を支持しているものと推認することができ」るとし,本件伝播技術を参酌すると,引用発明1( )に相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成11が開示されているとした本件審決の認定は,誤りである。
(カ) 被告は,本件訂正発明1の構成は,引用発明1( )の構成にない特1段の技術的事項を構成要件として備えているというものではないから,本件訂正発明1に記載された既製コンクリート杭の埋設方法によって築造された基礎杭の構造と,引用発明1( )の基礎杭の構造とは,実1質的に異なるところがないのであり,原告が主張しているのは,一般的なコンクリート製の既製杭に鉛直荷重が作用した際に,特段の条件を設定せずとも当然に発生する状態を構成として記載したものにすぎない旨主張する。
しかし,前示1( )オのとおり,相違点3においては,本件訂正発1明1の「前記拡底部」と引用発明1( )の「拡大部A(A’,A”)」 1との相違点をも併せて考察すべきところ,本件訂正発明1に記載された既製コンクリート杭の埋設方法によって築造された基礎杭の構造と,引用発明1( )の基礎杭の構造とは,本件訂正発明1が,拡底部内に1上下方向で複数の突起を配置した既製杭を包含するとともに(相違点2),拡底部の径をD からD までの値とし(相違点3( )),鉛直A C 2荷重が作用した際に,段部(突起)の下面からせん断力が円錐状に底部(支持地盤)に伝搬して,前記円錐状の底面で底部(支持地盤)に支持面を形成するような構成(相違点3( ))となっているのに対し,1引用発明1( )の「拡大部A(A’,A”)」においては,これらの 1いずれの構成をも欠いているものである(なお,相違点2のみを取り上げれば,前記( )イで判示したとおり,容易想到であるということ2ができる。)。
そして,上記のとおりの構成の相違によって,本件訂正発明1においては,その構成により,「拡底掘削した杭穴内に,下端部に突起を有する既製コンクリート杭を埋設して杭を構成するので,突起の下面周縁からもせん断力が支持地盤に伝搬し,所定角度で円錐状の底面で,支持地盤に支持面を形成できるので,1本の杭が負担すべき垂直荷重を大幅に増加させることができる。」(( )エ(イ)( ))という作用効3c果を奏するものと認められるのに対し,前記(ウ)のとおり,引用発明1( )は,その拡大部A’,A”において,掘孔内の先端部のほか,1掘孔内の適宜の箇所にも拡大部を設けるとともに,同一の形状をした外形を有する基礎杭を造成し,より強固な支持力を得るというものであるから,本件訂正発明1とは,作用効果を異にするものである。
したがって,本件訂正発明1の構成は,引用発明1( )の構成にな1い特段の技術的事項を構成要件として備えているものではないとか,基礎杭の構造が実質的に異なるところがない旨の被告の上記主張は,採用の限りでない。
オ相違点3( )について2(ア) 審決は,相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成は,引用発明2 2に開示又は示唆されているとしているので,引用例2(甲2)についてみると,次の記載がある。
( ) 「【従来の技術】従来,杭の引抜き抵抗は杭軸部の周面抵抗によaって得ているが,同一杭長で引抜き抵抗を増加させるためには杭径を大きくする必要があり,鉛直支持力に対して過剰な杭径を与えざるを得ない場合があるので,必ずしも合理的でない。これに対し,特公平1-25848号公報には,杭に作用する鉛直力を根固め部に伝達して先端地盤で支持させることを目的として,図4に示すように鋼管杭等の杭11の先端部の内外周面に突起14,15を設け,杭11の先端部をセメントミルク等による根固め部12に設置したものが開示されている。また,特開平1-75715号公報には,図5に示すように鋼管杭21の外周面に突起24を設け,ソイルセメント26との合成を図るとともに,底部に鋼管杭とソイルセメントを拡径した拡径部22を設け,引抜き力に対してソイルセメント柱の周面摩擦力と拡径部22上端面での支圧反力を利用して引抜き抵抗を確保するようにしたものが開示されている。」(段落【0002】〜【0004】)( ) 「【課題を解決するための手段】本発明の先端根固め杭は,鋼管b杭,中空コンクリートパイル,複合パイル等の中空既成杭の先端に硬化材からなる拡径部を形成した先端根固め杭において,杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し,この既成杭の先端部を拡径部内に設置し,拡径部の上端から1D以上下がった位置から下側の範囲で既成杭外周面に突起を設けたことを特徴とする。」(段落【0009】)( ) 「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強c度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である。また,硬化材としてのソイルセメント6の強度が100kgf/cm 程度の場合,1D以2上あれば付着力による設計引抜き力の伝達が可能であるので,根固め部2への杭1の埋込み長は突起4のない部分も含めると,設計荷重を考慮しながら少なくとも2D以上を確保する。従って,鉛直力を支持する場合も考慮すると,根固め部2の高さは3D以上となる。」(段落【0017】,【0018】)( ) 「【実施例】本発明の先端根固め杭は,オーガーを用いた先掘りdあるいは中掘りにより地盤内に設置される中空既成杭に使用し,所定の位置でオーガーからセメントミルク等の硬化材を噴出することによって,ソイルセメント状に地盤を拡径掘削し,その中へ既成杭を沈設したもので,硬化材の硬化により荷重伝達が可能となる。図1は中空既成杭1として鋼管杭を使用し,ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さ約4Dである。」(段落【0019】,【0020】)( ) 「また,外周面の突起4は根固め部2の上端から1D以上あけてeその下方に設けてあるので,根固め部2に発生する周方向引張応力も緩和され,ソイルセメント6の引張強度に対して安全性が確保されている。この例ではソイルセメント6の圧縮強度は100kgf/cm 程度である。」(段落【0023】)2( ) 「また,内外周面の突起4,5は鉛直力も伝達するので,本発明 fの先端根固め杭は鉛直力に対しても使用でき,鉛直力と引抜き力に対して合理的な杭の使用が可能となる。また,既成杭1の外周面あるいは内周面にセメントミルク注入管7を固定した場合には,既成杭1自体を所定位置まで回転圧入し,さらに回転させながら杭先端付近の注入管ノズル7aからセメントミルクを噴出させて,拡径した根固め部2を形成させることも可能である。図3に杭1の先端部における外周面突起4と注入管7の設置状況の実施例を示す。」(段落【0025】,【0026】)( ) 「【発明の効果】・・・鉛直力の支持と,引抜き力に対する抵抗gにより,杭体の合理的な使用が可能となった。」(段落【0029】)(イ) 上記記載によれば,引用例2には,杭に作用する鉛直力を根固め部に伝達して先端地盤で支持させることを目的として,鋼管杭等の杭の先端部の内外周面に突起を設け,杭の先端部をセメントミルク等による根固め部に設置するという従来技術に対し,「杭径Dに対し,拡径部の外径を4D以下,高さを3D以上の略円筒状に形成し」,「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である」との技術が開示されているが,杭径Dに対して拡大部の外径を「1.5D〜4D」の範囲とすることが開示されているにすぎず,段部の外径や,杭Nの最下端面あるいは段部と拡大部Aの底部との距離をどのように定めるかについて,ひいては,相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成は何らの記載も示唆もない。
2相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成は,「拡底部の径をD か 2 AらD までの値とする(注,ただし書の本件附随事項を含む。)」とい Cうものであり,本件附随事項は,「但し,前記D は,拡底部内の既製 A杭の下端面からせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。かつ,前記D は,拡底部内の最上位に位置Cする突起の下面からせん断力が前記支持地盤に円錐状に伝搬した際,その円錐状の底面の径をいう。」ものである。そうすると,円錐状の底面で支持地盤に形成される支持面は,円錐状に広がる角度,杭あるいは突起の外径,拡底部の径の大きさに加えて,杭の下端面あるいは突起と拡底部の支持地盤との距離によっても左右されることとなるから,外周面の突起を含めた外径を考慮していない引用発明2において,相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成が開示されているとはいえな2い。
なお,この点について,被告は,乙6公報において,中空プレキャストコンクリート柱体3の外径の1.05〜1.8倍の直径の拡底部が開示されており,乙7公報には,図面上で,突起部外径に対し,拡径部の外径を2.2倍にした基礎杭構造が,乙8公報には,図面上で,杭の突起部外径に対し,拡径部の外径を1.9倍にした基礎杭構造が,れぞれ記載されている旨主張する。
しかし,乙6公報には,突起部はなく,乙7,乙8公報は,いずれも図面上の推定値であって,段部の外径や,杭の突起部外径と拡径部の外径との距離をどのように定めるかについては,何ら記載も示唆もないから,引用例2と同様であって,相違点3( )に係る本件訂正発明21の上記構成を記載するものでも示唆するものでもない。
(ウ) 被告は,本件訂正明細書には,上記円錐の角度θについて,その実施例において,30°程度と記載されているのみで,それ以上の説明は何ら記載されていないし,間隙距離(ソイルセメントの厚さ)についても何ら特定されていないため,本件訂正発明1は,拡底部の径を実質的に何ら特定されない値をもって表したものにすぎないものであり,また,その値の範囲自体も,当業者が必要に応じて容易に採用し得る程度の設計的事項にすぎない旨主張する。
しかし,相違点3に係る本件訂正発明1の構成は,「鉛直荷重が作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬して,前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成するように,かつ拡底部の径をD からD までの値とする(注,本件付随事項を含A Cむ。)」ように,前記杭穴拡底部を構成したというものであって,拡底部の径を,せん断力が支持地盤に伝播する円錐状の底面の径との関係において特定したものであるから,その値自体が特定されないのはむしろ当然であり,その値が特定されないことをもって,本件訂正発明1における拡底部の径の値の範囲が設計的事項にすぎないということはできない。
(エ) 被告は,引用発明2には,「杭径D」と根固め部の外径との相関関係のみならず,直接的な記載ではないものの,原告が主張する「せん断力が支持地盤に伝わる底面において,拡底部に支持面を形成するという技術的思想」及び「杭外周突起部,及び,杭下端面から出るせん断力を考慮して,杭穴拡底部を構成すること」が示唆されている旨主張する。
しかし,前記のとおり,引用例2には,段部の外径や,杭Nの最下端面あるいは段部と拡大部Aの底部との距離をどのように定めるかについては何ら記載も示唆もない。要するに,引用発明2は,側面に段部を有する杭において,その下端面及び段部の下面からせん断力が円錐状に伝播するという技術とは関係がない。被告の上記主張は,引用例2から恣意的に寄せ集めた事柄を前提とする独自の解釈であって,採用の限りでない。
実質的同一性の誤認について以上検討したところによると,本件審決は,引用発明1( )に相違点 13( )に係る本件訂正発明1の構成が開示されているとし,引用発明2 1に相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成が開示されているとした点 2において誤りであるから,甲10公報を検討するまでもなく,相違点3に係る本件訂正発明1と引用発明1( )とが実質的に同一であるとした1本件審決の認定判断は,誤りである。
容易想到性判断の誤りについて(ア) 甲10公報には,次の記載がある。
( ) 「少なくとも先端部が鋼管よりなり,この先端部がセメントミルaク等の固化剤で根固めされる中空の杭であって,前記鋼管からなる先端部の内外周に,それぞれ複数の略リング状をなす支圧用の凸起が内外相互に杭軸心方向に位置をずらせて溶着により配設されてなることを特徴とする鋼管杭等の杭。」(1頁1欄,特許請求の範囲第1項)( ) 「本発明においては,杭10の先端部11の内外周に,それぞれb複数の支圧用の凸起12,13が設けられているため,杭が構造物荷重を受けると,前記内外の凸起12,13のそれぞれ下面が支圧面として作用し,モルタル等の根固め用球根部aに荷重が分散伝達されることとなり,構築物の荷重Wが杭先端に集中負荷するのを防ぐとともに,杭壁に対するモルタル等の付着力をも増大できる。」(3頁5欄下から第2段落)( ) 「杭先端部内外周に有する支圧用の凸起12,13の部分で荷重cを伝達するために,モルタル等の根固め用球根部aがせん断破壊するとした場合のせん断面は,杭先端下方でなく,複数段の各凸起12,13の先端下方に生じることとなり,それゆえ前記凸起を有さず杭先端下方にせん断面が生じる場合に比してせん断長が長くなり,その結果,荷重伝達時のせん断抵抗も増大してせん断破壊することがなく,上記のように凸起部分での支圧により良好かつ安全に荷重伝達できることになる。」(同頁6欄第3段落)(イ) 上記記載によれば,少なくとも先端部が鋼管でなる中空杭の先端部の内外に突起が設けられ,杭が構造物荷重を受けると突起の下面が支圧面として作用することにより,モルタル等の根固め用球根部aに構築物の荷重が分散伝達され,荷重が杭先端に集中負荷するのを防ぐ,とされること及び突起の先端下方にせん断面が生じることが記載されており,側面に段部を有する杭においては,その下端面及び段部の下面からせん断力が円錐状に伝播すること,その場合,下端面のみからせん断面が生じる場合に比して,せん断長が長くなるので,荷重伝達時のせん断抵抗が増大して,せん断破壊に良好な効果があることが認められる。
そうすると,甲10公報には,相違点3( )のうち,「鉛直荷重が1作用した際に,前記突起の下面からせん断力が円錐状に支持地盤に伝搬」することは把握することができるが,根固め用球根部aにおける伝播を問題にしているのみであって,「前記円錐状の底面で支持地盤に支持面を形成する」との構成の開示はない。
そして,前記エ(オ)のとおり,引用発明1( )は,本件審決のいうよ1うな「段付杭Nの各段部の下面周縁と掘孔Hの(各段部の周囲に位置する)拡大部A(A’,A”)の下側壁面との間で応力伝達が図られ,前記各段部の下面からのせん断力が円錐状に拡大部A(A’,A”)の下側壁面に伝搬することで基礎杭上部の上載荷重を支持しているものと推認することができ」るものではないところ,このような引用発明1( )に,甲10公報の上記技術及び周知の本件伝播技術をどのよ1うに組み合わせると,相違点3( )に係る本件訂正発明1の構成にな 1るのか不明であり,しかも,本件訂正発明1の技術的思想についての考慮もないから,当業者が各構成部分の寄せ集めで相違点3( )に係1る本件訂正発明1の構成に至ることは考えられない。
加えて,上記のとおり,引用発明2には,相違点3( )に係る本件2訂正発明1の構成が開示されていないところ,引用発明1( ),2, 1甲10公報記載の上記技術,本件伝播技術を寄せ集めたとしても,相違点3に係る本件訂正発明1の構成にはなっていない。
( ) 以上によれば,本件訂正発明1と引用発明1( )との相違点3についての4 1本件審決の認定判断が誤りであり(取消事由1( )),この誤りがその結論 3に影響を及ぼすことは,明らかであるから,原告主張の取消事由1は,取消事由1( )について検討するまでもなく,理由がある。
42取消事由2(本件訂正発明2の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明2と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( )1 3イのとおりであるところ,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,上記1( )のとおりであるから,原告主張の4取消事由2は,理由がある。
3取消事由3(本件訂正発明3の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明3と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( )1 3ウのとおりであるところ,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前示のとおりであるから,原告主張の取消事由3は,理由がある。
4取消事由4(本件訂正発明4の進歩性についての認定判断の誤り)について( ) 本件訂正発明4と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の31 1( )エのとおりである。3( ) 相違点6に係る本件訂正発明4の構成は,「前記拡底部外径寸法Dを, 2 11下記Bの値以上で且つCの値以下とする」,「但し,B,Cは下記値である。
B={既製杭の突起部外径}+{[(既製杭の最下端面より拡底部内の最下端に位置する突起までの高さ)+(既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ)]÷√3}×2C={既製杭の突起部外径}+{[(既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ)+(既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ)]÷√3}×2」とした」というものである。
( ) 実質的同一性判断の誤りについて3ア本件審決は,相違点6について,「本件特許明細書には,実施例として,『前記既製杭は,軸部8の外径D =60cm,各環状リブの外径D =70 15cm,環状リブのピッチP=100cmで形成されている(図2)。』(段落【0033】参照。),『次に,軸部2の外径D(80cm),00拡底部3の外径D(150cm)の杭穴1を掘削する(図3( ))。』 11 a(段落【0034】参照。),及び,『続いて,杭穴1内に既製杭4を下降させ,杭穴1の拡底部3内に,既製杭4の下端部9を保持する。ここで,既製杭4の底面(最下端部面)8aは,拡底部3の地盤底面11より高さD (60cm。既製杭4の底面8aと地盤底面11と間のソイルセメンHト層の厚さ)に位置している。ソイルセメントの固化後に,杭穴1内に既製杭4が埋設された杭構造10を構築する(図3(a))。』(段落【0035】参照。)と記載されており,この場合,『環状リブの外径D =175cm』に対して『拡底部3の外径D(150cm)』は2倍の大き 11さとなっているところ,このようなものは,刊行物1(注,引用例1)の『段付杭N』の例を示す第10図の記載からも一応把握できるものではあるが,既製杭の最下端面より拡底部内の突起までの高さ,及び,既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さについての規定は,当業者が必要に応じて随時決定できる事項であると推認できるから,本件訂正発明4の上記相違点6に係る構成において,本件訂正発明4と刊行物1記載の発明( )(注,引用発明1( ))との間に実質的な差異はない 11ものといわざるをえない。」(審決謄本33頁第2段落)と認定判断したのに対し,原告は,これを争うので検討する。
イ本件訂正発明4の「前記拡底部外径寸法」は,上記( )のとおり,「既2製杭の突起部外径」のみならず,「既製杭の最下端面より拡底部内の最下端に位置する突起までの高さ」,「既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ」,「既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ」によって規定されているものである。
ウ一方,引用例1は,段付杭Nについて,前記1( )ウ(ウ)(エ)のとおり,1「またケーシングC及びスクリユーオーガーSを抜き上げるときに第9図,第10図に示す如く,掘孔Hの任意の個所に適時拡大部A’,A”・・・を造成し,杭Pを挿入すれば更に強力な基礎杭が造成される。特に第10図に示すように杭Pとして段付杭Nを用い,挿入した段部の周囲に拡大部A,A’,A”を造成すれば基礎杭上部の上載荷重による応力伝達が良好となり,より一層強力な基礎杭が得られる。」(3頁左下欄第3段落)との記載があり,第10図に,掘孔Hに挿入された段付杭Nの四つの段部の周囲の掘孔壁のそれぞれに拡大部A,A’,A”を造成したものが示されて,掘孔Hの底部に形成した拡大部A内に段付杭Nの下端部外周に設けた段部が位置し,段付杭Nの最下端面は拡大部Aの底部との間に間隙をおいて位置する様子が明らかにされているのみであって,その他の記載部分をみても,上記「前記拡底部外径寸法」,「既製杭の突起部外径」,「既製杭の最下端面より拡底部内の最下端に位置する突起までの高さ」,「既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ」,「既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ」に対応する記載を見いだすことができない。また,これらの点について,引用発明1( )1が,相違点6に係る本件訂正発明4の構成を持つものとみるべき根拠となり得るような技術常識が存在することを認めるに足りるような証拠もない。
エ上記のとおり,本件訂正発明4の「前記拡底部外径寸法」は,「既製杭の突起部外径」のみならず,「既製杭の最下端面より拡底部内の最下端に位置する突起までの高さ」,「既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さ」,「既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ」によって規定されているものであるから,仮に,「前記拡底部外径寸法」と「既製杭の突起部外径」との関係において,本件訂正発明4と引用発明1( )とが共通しているとしても,その余の規定を考1慮しておらず,まして,本件審決の説示するように,「既製杭の最下端面より拡底部内の突起までの高さ,及び,既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さについての規定は,当業者が必要に応じて随時決定できる事項であると推認できる」ものでもない。
なお,本件審決は,「既製杭の最下端面より拡底部内の最上部の突起までの高さ」についての考慮をした形跡もない。
オそうすると,相違点6について,本件訂正発明1と引用発明1( )との1間に実質的な差異はないと認定判断した本件審決の認定判断は,誤りである。
( ) 容易想到性判断の誤りについて4ア本件審決は,「仮にそうでないとしても,上記したように,既製杭の最下端面より拡底部内の突起までの高さ,及び,既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さについての規定は,当業者が必要に応じて随時決定できる事項であると推認できること,また,刊行物2(注,引用例2)には,『拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である。』・・・,及び,『ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さ約4Dである。』・・・と記載されていることからみて,これらの技術事項に基づき相違点6として摘記した本件訂正発明4の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件訂正発明4の上記相違点6に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更によるものといわざるをえない。」(審決謄本33頁第2段落ないし34頁第1段落)と認定判断したのに対し,原告は,これを争うので検討する。
イ本件審決のいうように「既製杭の最下端面より拡底部内の突起までの高さ,及び,既製杭の最下端面と拡底部の地盤底面との間のソイルセメントの厚さについての規定は,当業者が必要に応じて随時決定できる事項である」と仮定しても,突起の外径や,突起と拡底部との距離をどのように定めるかについては,何ら示唆するものではない。
ウ引用例2には,本件審決の摘示するとおり,「拡径した根固め部2の外径は上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して,1.5D〜4Dが適当である。」(段落【0017】),「ソイルセメント6からなる地盤3内に杭1よりも拡径した根固め部2に杭を3D程度(D:杭径)沈設した実施例である。根固め部2の寸法は,外径が約3D,高さ約4Dである。」(段落【0020】)との記載があるが,これら記載は,拡径部である根固め部の外径が,上端の支持面での硬化材の圧縮強度,地盤の圧縮強度,その上層の地盤のせん断強度および施工性を考慮して定められ,杭径の1.5倍〜4倍が適当である(さらに具体的には3倍)ことを示すにすぎず,突起の外径や,突起と拡底部との距離をどのように定めるかについては何らの記載も示唆もない。
エしたがって,上記技術事項から,相違点6に係る本件訂正発明4の構成を想到することは困難であるというほかなく,「相違点6として摘記した本件訂正発明4の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件訂正発明4の上記相違点6に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更による」とした本件審決の認定判断は,根拠を欠き,しかも,誤った推論に基づくものであって,違法である。
( ) 以上によれば,本件訂正発明4の相違点6についての本件審決の認定判断5が誤りであり,この誤りがその結論に影響を及ぼすことは,明らかであるから,原告主張の取消事由4は,理由がある。
5取消事由5(本件訂正発明5の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明5と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( )1 3オのとおりであるところ,本件訂正発明1ないし3について,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前記1( )に判示したとおりであり,本件訂正発明4について,相違点6についての4本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前記4( )に 7判示したとおりであるから,相違点7について判断するまでもなく,原告主張の取消事由5は,理由がある。
6取消事由6(本件訂正発明6の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明6と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( )2 3カのとおりであるところ,相違点9は,相違点3と同じであり,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前記1( )に判示したとおりであるから,原告主張の取消事由6は,理由がある。
47取消事由7(本件訂正発明7の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明7と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( )2 3キのとおりであるところ,相違点9は,相違点3と同じであり,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前示のとおりであるから,原告主張の取消事由7は,理由がある。
8取消事由8(本件訂正発明8の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明8と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( ) 2 3クのとおりであるところ,相違点9は,相違点3と同じであり,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前示のとおりであるから,原告主張の取消事由8は,理由がある。
9取消事由9(本件訂正発明9の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明9と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の3( )3 3ケのとおりであるところ,相違点13は,相違点3と同じであり,相違点3についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前示のとおりであるから,原告主張の取消事由9は,理由がある。
10取消事由10(本件訂正発明10の進歩性についての認定判断の誤り)について本件訂正発明10と引用発明1( )との一致点及び相違点は,前記第2の33( )コのとおりであるところ,相違点13は,相違点3と同じであり,相違点 33についての本件審決の認定判断には結論に影響を及ぼす誤りがあることは,前示のとおりであるから,原告主張の取消事由10は,理由がある。
11以上検討したところによれば,原告主張の取消事由1ないし10はいずれも理由があり,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明