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関連審決 不服2002-24714
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 判例 特許
平成14行ケ199特許取消決定取消請求事件 判例 特許
不服20058936 審決 特許
関連ワード 29条1項3号 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10371号 審決取消請求事件
原告ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士阿部隆徳
同弁理士青山葆
同 岩崎光隆
同 伊藤晃
被告特 許庁長 官中嶋誠
指定代理人吉住和之
同 森田ひとみ
同 徳永英男
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2002-24714号事件について平成18年4月5日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「バルサルタンの固体経口剤形」とする発明につき,平成9年6月18日(パリ条約による優先権主張1996年6月27日,英国)の国際出願(以下「本願」という。)をし,平成14年6月10日付け手続補正書による補正を行ったが,同年9月13日付け拒絶査定を受け,同年12月24日,審判請求を行うとともに,平成15年1月23日付けで手続補正書を提出した。
特許庁は,この審判請求を不服2002-24714号事件として審理し,その結果,平成18年4月5日,平成15年1月23日付けの手続補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成18年4月18日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲平成14年6月10日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1(以下,この請求項に係る発明を「本願発明」という。なお,請求項の数は全部で6項である。)は,次のとおりである。
a)バルサルタンもしくは薬学的に許容されるその塩の有効量を含む活性成分およびb)圧縮法による固体経口剤形の製造に適当な薬学的に許容される添加剤を含み,活性成分が固体経口剤形の全重量に対し35(重量)%以上の量で存在する圧縮固体経口剤3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平4-235149号公報(甲第1号証。以下,審決と同様に「引用例1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)と同一であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用例1の次の記載を引用し,本願発明と引用発明を次のとおり対比した。
(1)引用例1の例93の記載「例93各々100mgの有効成分,例えば(S)-N-(1-カルボキシ-2-メチル-プロプ-1-イル)-N-ペンタノイル-N-〔2′-1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イルメチル〕-アミンを次のように調製できる;組成(10,000個の錠剤)有効成分 100.0gラクトース 100.0gコーンスターチ 70.0gタルク 8.50gステアリン酸マグネシウム1.50gヒドロキシプロピルメチルセルロース2.36gセラック 0.64g水 適量塩化メチレン 適量有効成分,ラクトース,および40gのコーンスターチを混合し,ペースト(15gのコーンスターチおよび水から加温してうる)で湿潤化し次いで造粒する。顆粒を乾燥し,残りのコーンスターチ,タルクおよびステアリン酸カルシウムを添加し,顆粒と混合する。混合物を圧縮し,錠剤(重量:280mg)を得,これをヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびセラックの塩化メチレン溶液でコートする,被覆錠剤の最終重量:283mg」(段落【0060】,47頁91欄25行〜92欄22行)(2)本願発明と引用発明との対比引用例1の例93(上記(1))には,バルサルタンを有効成分として100.0g,および添加剤であるラクトース100.0g,コーンスターチ 70.0g,タルク 8.50g,ステアリン酸マグネシウム1.50gを含む,バルサルタンが全重量283.0gに対し35.3重量%存在する圧縮固体錠剤すなわち圧縮固体経口剤が記載されており,引用発明は本願発明と同一である。
第3原告主張の取消事由の要点審決は,本願発明と引用発明との次の相違点を看過し(取消事由1),引用発明が実施不能のものであることを看過した(取消事由2)ために,本願発明と引用発明とが同一であると判断したものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
なお,平成15年1月23日付けの手続補正を却下した点については,原告はこれを争っておらず,取消事由を主張していない。
1取消事由1(相違点の看過)本願の明細書(甲第2号証。以下「本願明細書」という。)には,「圧縮法」について,具体的かつ好ましい方法として記載があるのは,乾式法による間接打錠法のみであり,請求項1に記載の「圧縮法」は,乾式法による間接打錠法であると理解することができる。一方,引用例1(甲第1号証)の例93に記載の錠剤の製造法は,「湿式法による間接打錠法」である。したがって,本願発明と引用発明とは,製造法において相違する。
2取消事由2(引用発明の実施不能)引用例1の例93の記載では,「組成(10,000個の錠剤)」と記載されているが,「錠剤(重量:280mg)」及び「被覆錠剤の最終重量:283mg」との記載と矛盾しており,引用発明は実施不能のものである。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(相違点の看過)について圧縮固体経口剤の典型である錠剤の製造分野において,錠剤の「圧縮」という用語は「間接圧縮(間接打錠)」及び「直接圧縮(直接打錠)」を含み,「間接圧縮(間接打錠)」には「乾式」と「湿式」の両方が含まれると,一般に理解されている。本願明細書中にある「乾式圧縮法」は,好ましい実施態様として記載されているにすぎず,請求項1の「圧縮法」を当業者が理解する上記の意味以外に解すべき理由もない。
2取消事由2(引用発明の実施不能)について当業者は,引用例1の例93の「組成(10,000個の錠剤)」との記載が「組成(1000個の錠剤)」の誤記であると理解することができるから,引用発明は実施可能のものである。
第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点の看過)について(1)乙第1号証(3頁)によれば,「錠剤製造法の分類」として,「圧縮錠剤」は「間接圧縮錠剤」と「直接圧縮錠剤」に区分され,さらに,前者は「乾式錠剤」と「湿式錠剤」に分けられることが認められる。甲第14号証(136頁表II-4.)によれば,「圧縮錠剤」の打錠法は「直接打錠法」と「間接打錠法」に,そして後者はさらに「乾式」と「湿式」に分類されていることが認められる。したがって,圧縮固体経口剤の典型である錠剤の製造分野において,錠剤の「圧縮」という用語は,「間接圧縮(間接打錠)」及び「直接圧縮(直接打錠)」を含み,「間接圧縮(間接打錠)」には,「乾式」と「湿式」の両方が含まれると,一般に理解されていることが認められる。これによれば,本願の請求項1の「圧縮法」という用語に接した当業者は,これを上記の意味に理解するものと認められ,「乾式法による間接打錠法」のみに限定して理解することはないというべきである。
(2)原告は,本願明細書中に好ましい実施態様として記載されているのが「乾式圧縮法」だけであることから,請求項1の「圧縮法」が「乾式圧縮法」を意味すると主張する。
しかし,「乾式圧縮法」は,本願明細書において「好ましい実施態様」(7頁5〜15行)とされているにすぎず,本願明細書の発明の詳細な説明中に,請求項1の「圧縮法」の意味が上記の通常の意味ではなく,「乾式法による間接打錠法」に限定されることを定義した記載はない。したがって,原告の主張を採用することはできない。
(3)以上のとおり,審決に本願発明と引用発明との相違点を看過した誤りはない。
2取消事由2(引用発明の実施不能)について原告は,引用発明が実施不能のものであると主張する。
しかし,引用例の実施例93における「錠剤及び被覆錠剤1錠の重量及びその中のバルサルタン量」と「各原料成分の量及びその総量」の数値は合理的に対応しており(被覆錠剤1錠の重量283mgと原料成分の総量283.0g。
被覆錠剤1錠のバルサルタン量100mgと原料バルサルタン量100g),原料成分の総量を被覆錠剤1個の重量(又は原料バルサルタン量を被覆錠剤1錠の中のバルサルタン量)で除して求められる「錠剤数」は「10,000個」ではなく「1000個」となる。
また,引用例1の関連特許である米国特許第5399578号明細書及び欧州特許出願公開第443983号の実施例93(乙第4号証63欄,乙第5号証44頁1行)には,いずれも「組成(1000個の錠剤)」と記載されており,引用例1の実施例93の錠剤数が「1000個」の誤記であることと符合する。
以上のとおり,当業者は,引用例1の例93の「組成(10,000個の錠剤)」との記載が「組成(1000個の錠剤)」の誤記であることを容易に理解することができるものと認められる。したがって,引用発明を実施不能ということはできず,原告の主張は失当である。
3結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀