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関連審決 無効2005-80254
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  クレーム /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10415号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士大山健 次郎
同小山有
被告株 式会社SUMCO
訴訟代理人弁護士寿原孝満
同弁理士杉村興作
同徳永博
同来間清志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2005-80254号事件について平成18年8月17日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告の有する後記特許の請求項1ないし4について原告が無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯被告(旧商号 三菱住友シリコン株式会社)は,名称を「欠陥検査方法及び欠陥検査装置」とする発明につき,平成13年6月8日特許出願(特願2001-174233号。以下「本願」という。)し,平成16年11月26日特許庁から設定登録を受けた(特許第3620470号。請求項1ないし4。以下「本件特許」という。甲15)。
これに対し原告は,特許無効審判請求をしたため,特許庁は,同請求を無効2005-80254号事件として審理することとしたが,被告は,平成17年11月15日付けで特許請求の範囲減縮等を内容とする訂正請求(以下「本件訂正」という。乙1)をし,かつ平成18年6月2日付けで本件訂正につき手続補正(乙2)をした。
そして特許庁は,平成18年8月17日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年8月28日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件訂正により訂正(ただし,平成18年6月2日付け補正後のもの)された特許請求の範囲の請求項1ないし4記載の発明(以下順に「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は,下記のとおりである。
記【請求項1】検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によって表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法において,前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項2】請求項1に記載の欠陥検査方法において,撮影画像に対して空間フィルタを適用して,前記凹部において輝度が変化する部分を強調し,当該強調した部分を,さらに2値化することによって明確化して検出し,その検出した部分の特徴量を基に欠陥かノイズかを判別して欠陥個数を計数することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項3】検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によって表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査装置において,前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する欠陥検出部を備えて構成されたことを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項4】請求項3に記載の欠陥検査装置において,撮影画像に対して空間フィルタを適用して,前記凹部において輝度が変化する部分を強調すると共に,その強調した部分を,さらに2値化することによって明確な欠陥画像にする境界強調部と,当該境界強調部で強調されて明確化された欠陥を検出する欠陥検出部と,当該欠陥検出部で検出した部分の特徴量を基に欠陥かノイズかを判別して欠陥個数を計数する欠陥計数部とを備えて構成されたことを特徴とする欠陥検査装置。
(3) 審決の内容ア 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,本件発明1ないし4は,請求人たる原告の提出した下記引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできず,本件特許を無効とすることはできないとしたものである。
記@特開2001-4331号公報(審判甲1・本訴甲1。以下「甲1公報」又は「引用文献」といい,同記載の発明を「甲1発明」という。)A特開2000-338047号公報(審判甲2・本訴甲2。以下「甲2公報」といい,同記載の発明を「甲2発明」という。)B特開2000-258140号公報(審判甲3・本訴甲3。以下「甲3公報」といい,同記載の発明を「甲3発明」という。)C特開平9-264730号公報(審判甲4・本訴甲4。以下「甲4公報」という。)D特開2000-98253号公報(審判甲5・本訴甲5。以下「甲5公報」という。)E「Si3N4セラミックにおける微視破壊の微分干渉顕微鏡観察」日本金属学会誌57巻11号(1993)1258頁〜1267頁(審判甲6・本訴甲6。以下「甲6刊行物」という。)イなお,本件審決は,甲1発明の内容を次のとおり認定した上,本件発明との一致点と相違点を下記のように摘示した。
記<甲1発明の内容>「検査対象物であるウェハの表面を微分干渉顕微鏡で撮像し,該撮像した画像について微分処理及び2値化処理を行って表面に観察される欠陥を検出し,該検出された欠陥の個数を計数する欠陥検査方法。」及び「検査対象物であるウェハの表面を微分干渉顕微鏡で撮像し,該撮像した画像について微分処理を行い該微分処理された信号について2値化処理を行ってウェハ表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査装置。」<一致点>「検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によって表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法。」である点<相違点>甲1発明には,「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」構成が記載されていない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,以下に述べるとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(引用文献に記載された発明の認定の誤り)(ア) 甲1発明の認定の誤りa甲1公報には,微分干渉画像を撮像するための視野移動に関して,段落【0016】に「また,本発明に係るDZ幅の計測方法(5)は,上記DZ幅の計測方法(1)〜(4)のいずれかにおいて,ウェーハ表面に沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくことを特徴としている。上記DZ幅の計測方法(5)によれば,ウェーハ表面に沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくので,ウェーハの半径方向に関するすべての領域において,DZ幅を計測してゆくことができ,ウェーハ全体に関するDZ幅をより正確に評価することができることとなる」と,段落【0035】に「…次にステップ16では,DZ幅の算出処理がウェーハの劈開面2aの半径方向全体に関して終了したか否かを判断し,終了したと判断すると算出を終了し,終了していないと判断するとステップ17に進み,XYステージ4を所定距離YdだけY方向(ウェーハ2の半径方向)に移動させた後ステップ1に戻り,次の視野の撮影に移り,以後,半径方向全体に関して終了するまで上記ステップを繰り返し行う」と記載されている。このように,甲1公報に記載された欠陥検査方法及び装置では,ウェーハを一方向に移動させて得られた撮影画像について画像処理が行われている。
したがって,画像処理の対象となる撮像画像に関して,「一方向に移動させて得られた撮像画像」である点において,本件発明1と甲1発明とは一致している。
bしかし,審決は,上記(3)イのとおり甲1発明を認定し,画像処理の対象となる「撮像画像」について「一方向に移動させて得られた撮影画像」である点を認定せず,この点を本件発明1と甲1発明の一致点として認定しなかった点において,認定に誤りがある。
(イ) 甲2発明の認定の誤りa甲2公報には,発明が解決しようとする課題として,段落【0007】に「…結晶欠陥が重なった状態で発生することもあり,かかる場合,これらの結晶欠陥は結晶欠陥と認識されずにカウントが行われ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまい,後にユーザからクレームが出てくるといった課題を有していた」と,段落【0011】に「…上記結晶欠陥の検査方法(2)によれば,結晶欠陥が重なった状態で発生しているような場合でも,かかる場合の欠陥を正確にカウントすることができ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまうことはなく,後にユーザからクレームが出てくるといった事態の発生を阻止することができる」と記載されている。このように,甲2公報には,ウェーハの結晶欠陥を検査する技術分野において,重なり合う複数の結晶欠陥を正確に検出することが従来からの課題であることが明示されており,この課題は,本件発明1の課題と同一である。また,甲2公報には,段落【0037】に「この計数工程においては,結晶欠陥が重なった状態で発生しているような場合でも,かかる場合の結晶欠陥の数を正確にカウントすることができ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハ2に与えてしまうことはなく,また,結晶欠陥以外の傷等の凹凸を計数から排除することができる」と記載され,重なり合う複数の結晶欠陥を正確に計数できる作用効果についても記載されている。
bしかし,審決は,「甲第2〜6号証のいずれにおいても,「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題は記載も示唆もされておらず,…」(審決17頁36行〜37行)とし,本件発明1の課題と同一の課題が甲2公報に開示されている事実を誤認したものであり,結論に影響を与える重大な瑕疵がある。
(ウ) 甲3発明の認定の誤りa甲3公報には,画像データの処理に関し,段落【0036】ないし【0039】に,検査すべき電子部品の外観をCCDカメラで撮像し,得られた濃淡画像データについて微分処理を行って微分画像データを形成し,微分画像データについて2値化処理を行い,得られた2値化データに基づいて欠陥検出を行うことが記載されている。すなわち,段落【0036】に「微分手段110は,ディジタル濃淡画像データDbとボイド候補領域拡張データDfが供給され,ボイド候補領域拡張データDfが表す各ボイド候補拡張領域Re2,Re3(図7(a),(b))内のディジタル濃淡画像データDbについて,各座標Cにおける濃淡レベルLを微分して濃淡レベルLの変化量である微分濃淡レベルをそれぞれ求め,微分画像データDgとして出力する」と記載され,ここで「微分濃淡レベル」は画像データの濃淡レベルの変化量を表すデータであり,「濃淡レベル」は本件発明1における「輝度」に相当する。したがって,検査対象物の撮像画像について微分処理及び2値化処理を行って画像データの輝度の変化に基づいて欠陥検出を行うことは,本願の出願前から公知の技術である。
bしかし,審決は,本件発明1の「輝度変化に基づいて欠陥を検出する」構成が甲3公報に記載されていることを認定しておらず,この誤認は審決の結論に影響を与える重大な瑕疵である。
イ 取消事由2(本件発明1と甲1発明との対比の誤り)(ア) 課題の対比a甲2公報の「…結晶欠陥が重なった状態で発生することもあり,かかる場合,これらの結晶欠陥は結晶欠陥と認識されずにカウントが行われ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまい,後にユーザからクレームが出てくるといった課題を有していた」(段落【0007】)との記載,特開平4-313253号公報(甲7。以下「甲7公報」という。)の「【発明が解決しようとする課題】従来の検査装置の場合,欠陥が単独で存在していれば充分な検出精度が得られるが,欠陥が複数,重なり合った場合,計測される特徴量からでは重なり合った欠陥を構成している一つ一つの欠陥の特徴量を正しく計測することができない。そのため,欠陥が重なり合っている場合に,個々の欠陥の個数を計数することができないという問題があった」(段落【0003】)との記載,特開昭60-101942号公報(甲8。以下「甲8公報」という。)の「本発明は,単結晶ウェハーのエッチピットの上述の如き特性に基き,部分的に重なり合ったエッチピットをも個々のエッチピットに分離して測定することのできるエッチピットの測定方法およびそのための装置を提供するものである」(2頁左下欄第2段落)との記載,特開昭59-75640公報(甲9。以下「甲9公報」という。)の「しかしながらエッチピットの個数を測定して密度を補外するという従来方法によれば,エッチピットの凝集や重なりが多くてそれらの個々のエッチピットを計数することは多大な労力を要し,能率が著しく悪くなる。このため画像解析装置で自動計測することも行われたが,凝集や重なりを生じているエッチピットを単独に分離して計数することが実際上できず,このような場合には凝集した多数のエッチピットを1個として計数してしまうので精度が著しく悪くなる。このために1つの手法として凝集したものを1つのグループと見做し,その中の1つのエッチピットを抽出して面積を求め,これを基にしてそのグループのエッチピット数を推定する方法も考えられている。しかしこれにおいては凝集部の抽出するエッチピットの大きさ,取り方等によって精度が悪くなることを避け得ない。このように多くの問題点があった」(1頁右下欄第2段落〜2頁左上欄第2段落)との記載によれば,ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題は,本願出願前からウェーハの欠陥検査の分野において当業者に周知の事項である。
bしたがって,甲1公報には,重なり合う複数の欠陥を計数する技術的課題が直接記載されてはいないが,甲1発明のDZ幅計測装置においても,欠陥の個数を正確に計数する必要性が認められるから,「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する課題」は共通である。
(イ) 本件発明1と甲1発明との構成上の対比a本件発明1の構成要件を分節すると,@「検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によって表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法において,」(以下「構成A」という。),A「前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,」(以下「構成B」という。),「欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出することを特徴とする欠陥検査方法。」(以下「構成C」という。)となる。
bそして,本件発明1と甲1発明を対比すると,構成A,Bで一致し,構成Cにおいても,結晶欠陥による輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において共通するが,甲1発明は,欠陥のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明1は,欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎない。
(ウ) 本件発明1と甲1発明との相違点a上記(イ)のとおり,本件発明1と甲1発明とは,甲1発明は,欠陥のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明1は,欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎない。
bそこで,上記相違点の技術的意義について検討する。
(a) まず,ウェーハ上に存在する結晶欠陥の形状であるが,甲8公報の第1図(6頁)には,2つの重なり合うエッチピットの形状が線図的に記載され,「図面の簡単な説明」には,「第1図は本発明の原理を説明するためのもので,2つのエッチピットが部分的に重なった凹部からエッチピット毎に分離された反射光が得られる状態を示すものである」(5頁右下欄第2段落)と記載されており,これらの記載によれば,ウェーハの結晶欠陥は,断面として見た場合2つの傾斜面により構成されるすり鉢状の凹部であると認められ,また,本願に係る拒絶査定不服審判における原告の審判請求書(甲10)にも,ウェーハ上に重なり合って存在する2つの結晶欠陥の構造形態が参考図面(10頁)に図示され,同参考図面に関して,「1つの欠陥に通常有する1つの凹部の変化状態を,例えば左から右へ向けて検査した場合,最初は右下がりの傾きを有するが,次第に水平になり,次いで右上がりの傾きになる。これは,シリコンウェーハ等の欠陥すべてに共通した構造で,凹部において底部があればその両側に必ず傾斜が存在する。この欠陥の構造的特徴は,当業者にとって周知のものであるため,本願明細書中には特に記載していない」(5頁下第2段落)と記載されている。これらの記載によれば,ウェーハ上に存在する結晶欠陥の構造は,断面として見た場合右下がり及び右上がりの2つの斜面により構成されるすり鉢状の凹部であると認められ,当該構造形態は当業者にとって周知慣用事項であったと認められる。
(b) 次に,ウェーハ上に存在する結晶欠陥を微分干渉顕微鏡で撮像した場合に得られる欠陥画像であるが,甲5公報には,試料表面を微分干渉顕微鏡で撮像した場合に得られる微分干渉画像の特性について,「微分干渉顕微鏡は観察物体面上の位相変化を画像における濃淡の分布に変換している。逆に,微分干渉画像における濃淡の分布を解析することにより,観察物体面上の位相変化を検出することができると考えられている。また,観察物体の段差のエッジ部は急激な位相変化を伴うことから,画像の濃淡値にも急激な変化が生じるので,微分干渉画像から濃淡値が急激に変化する部分を抽出することにより観察物体の段差の位置を検出できることが,特開平7-239212号公報等に示されている」(段落【0005】),「また,観察物体の段差等のエッジ部の検出では,凸部から凹部に変わる部分と凹部から凸部に変わる部分とでは,微分干渉画像の濃淡の分布が反転する。…」(段落【0007】)と記載されて,これら記載によれば,ウェーハ表面に存在するすり鉢状の結晶欠陥を微分干渉顕微鏡で撮像した場合,欠陥の底部における傾斜面の傾斜方向の反転によって濃淡分布が反転するから,明るい画像部分(白の部分)と暗い画像部分(黒の部分)とが結合した画像として撮像されることは,微分干渉顕微鏡の原理に基づき当業者が容易に想到することである。
そして,本件訂正明細書(乙2添付)の「…欠陥の凹凸部分では輝度が変化する。即ち,ウェーハ7に発生する欠陥の場合,通常1つの欠陥に1つの凹部があるため,その1つの欠陥において凹部の最も底の部分を境に傾斜角度が反転する。例えば図3において欠陥の部分を微分干渉顕微鏡で左から右方向に走査すると,凹部においては,初めは右下がり方向に傾斜し,凹部の最も底の部分を境にして,右上がり方向に傾斜する。この傾斜を微分干渉顕微鏡で計測した場合,傾斜方向が反転すると輝度が変化する。図3においては,右下がりの方向の傾斜を白,右上がりの傾斜を黒として検出されるため,凹部の最も底の部分を境にして,左側が白,右側が黒となっている。このように,凹部の最も底の部分を境にして,輝度が変化している。…」(段落【0017】)との記載から明らかなように,本件発明1では,結晶欠陥の傾斜面の傾斜方向が反転した場合,微分干渉画像上では,各傾斜面が白(明)又は黒(暗)の画像として撮像されることに基づき,結晶欠陥の画像が白の画像部分と黒の画像部分との結合画像として撮像され,得られた欠陥画像に基づいて欠陥検出が行われているが,結晶欠陥の傾斜面の傾斜方向が反転した場合,微分干渉画像上において各傾斜面が白(明)又は黒(暗)の画像として撮像されることは,甲5公報に記載されており,本願出願前から当業者に公知である。
(c) 次に,2値化処理についてであるが,デジタル画像処理の分野において,各種画像情報を2値化処理することは技術常識として一般的に広く実施されており,2値化処理における閾値レベルの設定は,画像処理の目的,検出すべき欠陥の形状,及び欠陥画像の形態等に応じて当業者により適宜設定される設計的事項であると一般的に理解され,欠陥内部の輝度変化が顕在化するように2値化処理の閾値レベルを変更することは,当業者にとって設計的事項にすぎないものである。本件訂正明細書(乙2添付)の特許請求の範囲には,2値化処理の閾値レベルの設定に関して全く言及されてなく,発明の詳細な説明においても,段落【0030】に「…この強調画像に対して,所定しきい値で2値化して,図5(d)(g)のように,欠陥を明確なコントラストの画像として表示させる」と記載されているだけで,2値化処理の閾値レベルをどの様に設定すれば明確なコントラストの画像が得られるか,閾値レベルを適宜設定することにより,結晶欠陥のエッジ部の輝度変化だけが顕在化されたり,欠陥内部の輝度変化だけが顕在化されること等について,何ら記載されていないのであるから,本件発明1において,2値化処理の閾値レベル設定は格別な技術的意義を有しないものと認められる。
特開平5-209732号公報(甲13。以下「甲13公報」という。)の検査装置では,微分処理を行った後閾値+Thで閾値処理(2値化処理)され,その結果に基づいて欠陥検出が行われるが,当該閾値レベル+Thで2値化処理した場合,欠陥のエッジ部に起因する輝度変化が消滅し,欠陥内部の輝度変化だけが抽出され,閾値処理後の2値化画像は欠陥の内部の輝度変化だけが顕在化された2値化画像となる。一方,閾値レベル-Thで閾値処理を行った場合,欠陥内部の輝度変化は消滅し,欠陥のエッジ部の輝度変化が抽出され,欠陥のエッジ部の輝度変化に基づいて欠陥検出が行われることになる。このように,ウェーハ表面に存在する結晶欠陥の微分干渉画像のように,欠陥に起因する輝度変化が欠陥のエッジ部と欠陥内部の両方で発生する場合,閾値レベルを適宜設定することによりいずれの輝度変化も顕在化されるので,いずれの輝度変化を用いて欠陥検出を行うかは,欠陥検査の目的,検出すべき欠陥の形状又は欠陥画像の形態等に応じて決定されるものである。欠陥内部の輝度変化が抽出されるように2値化処理の閾値レベルを設定した場合,欠陥のエッジ部の輝度変化情報が消滅し欠陥内部の輝度変化情報だけが抽出されるため,複数の欠陥が重なり合っている場合でも,各欠陥が個別に分離して検出されることになる。
(d) 以上述べたとおり,上記相違点である欠陥内部の輝度変化に基づいて欠陥検出を行うか又は欠陥のエッジ部の輝度変化に基づいて欠陥検出を行うかは,微分処理した後に行われる2値化処理の閾値レベルの設定条件の差異だけである。一方,デジタル画像処理の分野においては,2値化処理の閾値レベル設定は,欠陥検査の目的,検出すべき欠陥の形状,欠陥画像の形態等に応じて適宜設定される設計的事項である。
したがって,本件発明1と甲1発明との相違点は,当業者にとって設計的事項と認識されている技術的事項にすぎないものである。
ウ 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)(ア) 本件発明1上記のとおり,本件発明1と甲1発明との相違点は,微分処理した後に行われる2値化処理の閾値レベルの設定条件の差異だけであり,2値化処理の閾値レベル設定は,欠陥検査の目的,検出すべき欠陥の形状,欠陥画像の形態等に応じて適宜設定される設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到できたものである。
したがって,「本件発明1が甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない」(18頁第3段落)とした審決の判断は,誤りである。
(イ) 本件発明2本件発明2は,本件発明1を引用して限定するものであり,本件発明1が甲各号証に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,本件発明2も同様に甲各号証に基づいて容易に想到できた発明である。
したがって,「本件発明2も同様に甲各号証から容易に発明できたものとすることはできない」(18頁第4段落)とした審決の判断は,誤りである。
(ウ) 本件発明3本件発明3は,本件発明1と同様に甲各号証に基づいて当業者が容易に想到できた発明である。
したがって,「本件発明3が甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない」(20頁第2段落。「本件発明1」は「本件発明3」の誤り)とした審決の判断は,誤りである。
(エ) 本件発明4本件発明4は,本件発明3を引用して限定するものであり,本件発明3が甲各号証に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,本件発明2も同様に甲各号証に基づいて容易に想到できた発明である。
したがって,「本件発明4も同様に甲各号証から容易に発明できたものとすることはできない」(20頁第3段落)とした審決の判断は,誤りである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対しア 甲1発明の認定の誤りの主張につき審決は,甲1公報から,「(甲1g)「次にこの撮影画像内にDZ幅の算出に必要な所定数,例えば3個の欠陥dが存在しているか否かを判断する(ステップ12)。所定数の欠陥dが存在していると判断するとステップ13に進んで所定数の欠陥dのそれぞれの重心位置座標を計算する一方,所定数の欠陥dが存在していないと判断するとステップ14に進んでXYステージ4を所定距離x1だけX方向に移動させた後ステップ1に戻る。」(段落【0033】)」と引用している(審決12頁第2段落)のであるから,甲1公報に「一方向に移動させて得られた撮影画像」が記載されている点を認定していることが読み取れる。
したがって,審決の甲1発明の認定に,原告主張の誤りがあるということはできない。
イ 甲2発明の認定の誤りの主張につき審決が「甲第1号証記載の発明に甲第2〜6号証に記載されている構成をどのように組み合わせても,上記相違点の構成が容易とすることはできない」(審決18頁第1段落)とした趣旨は,「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題を解決するために「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」という構成を採用することが記載されていないので,甲1発明に甲2公報ないし甲6刊行物に記載されている構成をどのように組み合わせても相違点の構成が容易とすることはできないということであって,甲2公報に「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題が記載されているか否かの認定が審決の結論に影響を与えるとは考え難く,甲2発明の認定誤りをいう原告の主張は,当を得たものではない。
ウ 甲3発明の認定の誤りの主張につき甲3公報の段落【0067】に「以上のように,本実施の形態では,(1)ボイドが存在する可能性のあるボイド候補領域を抽出し,(2)これらボイド候補領域をそれぞれ拡張して各ボイド候補拡張領域を求め,(3)各ボイド候補拡張領域内の各座標における濃淡レベルを微分して濃淡レベルの変化量を求め,(4)この変化量が大きい微分領域の面積を求め,(5)この面積が一定以上の場合に,当該ボイド候補領域内にボイドが存在すると判断するようにしたので,むらの影響を排除して,ボイド等の欠陥の有無を確実に検出でき,誤判定を大幅に低減できる」と記載されていることからも明らかなように,甲3公報は,濃淡レベルの変化量が大きい微分領域の面積に基づいて,むらか,ボイド等の欠陥かを確実に判別できることが記載されているのであって,本件発明1のように「欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」構成については記載されていない。
したがって,甲3発明の認定誤りをいう原告の主張は,当を得たものではない。
(2) 取消事由2に対しア 課題の対比の主張につき甲1公報の【請求項3】には,「前記顕微鏡に微分干渉顕微鏡を用い,撮影画像に微分処理,2値化処理,及び穴埋め,ノイズ除去処理を施して欠陥の座標を求める…」という具体的な構成が記載されており,欠陥の座標を求める工程として,欠陥のエッジを強調するため,微分処理,2値化処理,及び穴埋め,ノイズ除去処理の3つの工程が必須の工程である。また,甲1発明は,DZ幅を正確かつ迅速に計測できるようにすることを課題としており,本件発明1のように,複数の欠陥が重なっていて個々の欠陥のエッジが明確に分離されていない場合に,従来の欠陥検査方法ではこれらの欠陥を1個の欠陥と判断されてしまっていたのを,正確に分離した欠陥として識別できるようにするという課題はない。
したがって,甲1発明は,欠陥の座標を正確に求めるため,欠陥のエッジを強調するための手段として,欠陥以外を検出しないように欠陥のエッジの内側,すなわち,欠陥の凹部に埋め込み処理を施す穴埋め,ノイズ除去処理が必須であるため,甲1発明に「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する課題」を適用したとしても,本件発明1のように「欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」という構成に想到できるはずがない。
イ 本件発明1と甲1発明との構成上の対比の主張につき本件発明1と甲1発明との構成上の相違点は,正しくは,甲1発明が「欠陥のエッジ部に起因する輝度変化に基づいて欠陥検出を行う」構成であるのに対し,本件発明1は「欠陥のエッジ部を除く凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う」構成である点に加えて,本件発明1が必要としない構成要件である,@ウェーハの劈開面を上とした撮影画像の所定位置を中心にして該撮影画像を所定の角度ピッチで水平方向に回転させ,回転させた各撮影画像毎にこれら撮影画像の縦方向あるいは横方向に関する輝度値の合計値を求め,これら各撮影画像における前記輝度値の最大値の比較に基づいてウェーハ表面を前記撮影画像の縦方向あるいは横方向と平行に設定する工程,A前記縦方向あるいは横方向と平行に設定された前記ウェーハの表面座標と検出された欠陥の座標とからDZ幅を求める工程,を必須の構成要件とすることであり,さらに,甲1発明が微分処理であるのに対して,本件発明1は【図4】に示すような空間フィルタ処理である点においても異なり,原告は両発明の構成を正しく対比していない。
ウ 本件発明1と甲1発明との相違点の主張につき(ア) 甲8公報に記載された発明は,エッチピットの存在する単結晶表面に一方向から光を照射し,検知装置で受光した反射光の光線束の数(より厳密には,凹部を形成する2つの傾斜面のうちの一方の傾斜面のみからの反射光の光線束の数)を測定することにより,反射面の数,すなわちエッチピットの数を算出するものであって,本件発明1の欠陥検出とは構成が大きく異なるものである。
(イ) また,原告が引用する甲5公報の段落【0007】の記載は,【図3】と【図2】(a)ないし(c)を見比べれば明らかなように,1個の凹部とその両側にある2個の凸部に対応して,微分干渉画像の濃淡の分布が単に反転することを述べているにすぎず,本件発明1のように,欠陥の凹部の最も底の部分における傾斜面の傾斜方向の反転によって輝度変化が反転することを示したものではない。したがって,甲5公報には,欠陥の凹部の最も底の部分における傾斜面の傾斜方向の反転によって輝度変化が反転することについては示唆や開示はない。
(ウ) 原告は,甲13公報を引用するが,甲13公報が周知技術であるという立証はない。
仮に甲13公報が周知技術であるとしても,本件発明1と甲13公報記載の発明とは次の点で相違するから,甲1発明に甲13公報記載の発明を適用したとしても,当業者が本件発明1に想到することはない。すなわち,甲13公報記載の技術は,自動車の塗装表面に存在する凹凸等の塗装欠陥を検出することを目的とする点で,シリコンウェーハの表面の欠陥,特に欠陥が重なって検出されることが多い欠陥(特にBMD)の個数を正確に計数することができる欠陥検査技術である本件発明1とは目的が異なる。また,甲13公報は,欠陥の発生位置を検出するために,単に凹状欠陥や凸状欠陥の輝度変化を利用したものにすぎず,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出することにより,特に欠陥のエッジ部が明確に分離されていないような複数の近接した重なった欠陥(の集合体)についても正確に分離した欠陥として識別することができるという本件発明1の技術的思想は存在しない。
(3) 取消事由3に対しア甲1発明に,甲2公報ないし甲6刊行物を適用したとしても,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出することにより,特に欠陥のエッジ部が明確に分離されていないような複数の近接した重なった欠陥(の集合体)についても正確に分離した欠陥として識別することができるという本件発明1の技術的思想に想到することはできず,本件発明1の進歩性を否定することはできない。
イまた,本件発明1と本件発明3は,それぞれ本件発明2と本件発明4の上位クレームに係る発明であり,上位クレームに係る発明である本件発明1と本件発明3が容易想到であるとしても,それだけを理由として下位クレームに係る発明である本件発明2と本件発明4が容易想到であるとすることはできない。
当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2 取消事由1(引用文献に記載された発明の認定の誤り)について(ア) 甲1発明の認定の誤りにつきア 審決は,第3,1(3) イのとおり甲1発明を認定したものであるが,原告は,審決の甲1発明の認定は,画像処理の対象となる「撮像画像」について「一方向に移動させて得られた撮影画像」である点を認定せず,この点を本件発明1と甲1発明の一致点として認定しなかった点において誤りがあると主張する。
イ 甲1公報には,次の記載がある。
@「【0016】また,本発明に係るDZ幅の計測方法(5)は,上記DZ幅の計測方法(1)〜(4)のいずれかにおいて,ウェーハ表面に沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくことを特徴としている。上記DZ幅の計測方法(5)によれば,ウェーハ表面に沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくので,ウェーハの半径方向に関するすべての領域において,DZ幅を計測してゆくことができ,ウェーハ全体に関するDZ幅をより正確に評価することができることとなる。」A「【0035】次にステップ15において,ステップ9で検出した撮影画像の縦方向に平行なウェーハ表面2bの位置座標とステップ13で算出した所定数の欠陥dの重心位置座標とからDZ幅の算出を行う。この場合,縦方向に平行なウェーハ表面2bと3個目までの欠陥dとの距離をDZ幅としてもよく,あるいは縦方向に平行なウェーハ表面2bと3個の欠陥dとの平均距離をDZ幅としてもよい。次にステップ16では,DZ幅の算出処理がウェーハの劈開面2aの半径方向全体に関して終了したか否かを判断し,終了したと判断すると算出を終了し,終了していないと判断するとステップ17に進み,XYステ-ジ4を所定距離YdだけY方向(ウェーハ2の半径方向)に移動させた後ステップ1に戻り,次の視野の撮影に移り,以後,半径方向全体に関して終了するまで上記ステップを繰り返し行う。」ウ上記イの記載によれば,甲1公報には,「一方向に移動させて得られた撮像画像について画像処理」が行われる点が記載されているものと認められる。そして,本件発明1の「一方向に移動させて得られた撮像画像」は,本件訂正明細書(乙2添付)の段落【0036】,【0041】の記載から,微分干渉顕微鏡により静止画像を撮影した後に,XYステージ等を駆動させて,検査対象物の表面上を一方向に順次移動させて多数の静止画像を撮影することであると認められる。
そうすると,審決が本件発明1と甲1発明が共に「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像について画像処理を行うものである」点を一致点として認定しなかったことは,誤りであるといわざるを得ない。
しかしながら,審決は,本件発明1と甲1発明の相違点として,「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」構成が記載されていない点を認定し,一致点の認定に上記の誤りがあるとしても,両者は,甲1発明が「撮影画像中で,欠陥エッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する構成」を有しない点で相違することに変わりはない。そして,この点が容易想到でない以上,本件発明1の進歩性は否定されないから,上記一致点の認定誤りは審決の結論に影響を及ぼさないところ,上記の点が容易想到とすることができないことは,後述するとおりである。
エしたがって,甲1発明の認定の誤りをいう原告の主張は,採用することができない。
(2) 甲2発明の認定の誤りにつきア原告は,甲2公報には,重なり合う複数の結晶欠陥を正確に計数できる作用効果についても記載されているから,「甲第2〜6号証のいずれにおいても,「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題は記載も示唆もされておらず,…」(審決17頁36行〜37行)とした審決の認定は,甲2公報に開示されている事実を誤認したものであると主張する。
イ甲2公報には,段落【0007】に「…特公平6-71038号公報に係る提案では,矩形状の像を検査対象としており,結晶欠陥には図5に示したように,結晶欠陥が重なった状態で発生することもあり,かかる場合,これらの結晶欠陥は結晶欠陥と認識されずにカウントが行われ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまい,後にユ-ザからクレ-ムが出てくるといった課題を有していた」として,特公平6-71038号公報に記載された先行技術が「矩形状の像」を検査対象とし,【図5】(甲2の7頁)のような「結晶欠陥が重なった状態で発生する結晶欠陥」は,結晶欠陥と認識されずにカウントが行われるという課題が存在したことが記載され,続いて,段落【0011】に「…本発明に係る結晶欠陥の検査方法(2)は,上記結晶欠陥の検査方法(1)において,前記結晶欠陥の個数の計数が,撮影画像を所定の閾値で2値化した後,各画素に関して水平及び垂直方向それぞれに輝度値の合計を求め,これらの合計値に基づいて行われることを特徴としている。上記結晶欠陥の検査方法(2)によれば,結晶欠陥が重なった状態で発生しているような場合でも,かかる場合の欠陥を正確にカウントすることができ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまうことはなく,後にユ-ザからクレ-ムが出てくるといった事態の発生を阻止することができる」とし,甲2発明の方法(2)を用いることにより,結晶欠陥が重なった状態で発生しているような場合でも,かかる場合の欠陥を正確にカウントすることができることが記載されている。
しかし,甲2公報の上記段落【0011】,【0023】の記載によれば,甲2公報の検査方法(2)は,縦方向と横方向の輝度を積算して一定値以上である場合に欠陥と認識するものであるから,本件発明1のように,エッジが重なって同じ方向に並列する欠陥が一つの欠陥と誤認識されてしまうという課題を解決するものではない。すなわち,甲2発明は,結晶欠陥が重なり合った結果矩形状とならない欠陥を認識することができないということを課題とするものであり,結晶欠陥が重なった状態のミスカウントを防止するものではあるが,そのミスカウントの対象となる欠陥の重なりは,本件発明1が課題とする欠陥の重なりとは異なるものである。
したがって,甲2発明の課題と本件発明1の課題が同じであるということはできない。
ウしたがって,審決が甲2公報に開示されている事実を誤認したということはできず,甲2発明の認定の誤りをいう原告の主張は,採用することができない。
(3) 甲3発明の認定の誤りにつき原告は,本件発明1の「輝度変化に基づいて欠陥を検出する」構成が甲3公報に記載されていることを認定していない点において,審決には誤りがあると主張する。
しかし,審決は,「…欠陥の凹部の輝度が変化する点を検出するか,欠陥のエッジ部を検出するかなどの違いによって,2値化処理の閾値を変更することが必要であって,甲第1号証に記載の発明は,エッジ部を含めて検出するものであり,また甲第2〜6号証にも欠陥の凹部の輝度が変化する点を検出することは記載もしくは示唆されていないものであるから,欠陥の凹部の輝度が変化する点を検出することが明らかということはできず…」(18頁第2段落)と説示しているものであり,この説示から,審決は,甲3公報に「輝度変化に基づいて欠陥を検出する」構成が記載されていないとしているのではなく,「凹部」の「輝度変化に基づいて欠陥検出をする」ことが記載されていないと認定していることが読み取れる。そして,甲3公報には「凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」ことは記載されていないから,甲3発明の認定の誤りをいう原告の主張は,審決を正しく理解しないものというほかなく,採用することができない。
3 取消事由2(本件発明1と甲1発明との対比の誤り)について(1) 課題の対比につきア原告は,甲2公報,甲7公報,甲8公報及び甲9公報を引用して,ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題は,本願出願前からウェーハの欠陥検査の分野において当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)に周知の事項であると主張する。
イしかし,甲2公報の課題と本件発明1の課題が同じであるということはできないことは,上記1(1)イのとおりである。
また,甲7公報には,「【0003】【発明が解決しようとする課題】従来の検査装置の場合…欠陥が複数,重なり合った場合,計測される特徴量からでは重なり合った欠陥を構成している一つ一つの欠陥の特徴量を正しく計測することができない。そのため,欠陥が重なり合っている場合に,個々の欠陥の個数を計数することができないという問題があった」,「【0005】【課題を解決するための手段】被検査体の複合欠陥の画像が入力されて,その画像信号を出力する画像信号出力手段と,この画像信号出力手段の出力する画像信号により形成される画像を細線化処理して骨格画像を得る画像処理手段と,この骨格画像の交点を検出する交点検出手段と,この検出された交点で,骨格画像の骨格を分離する骨格分離手段と,この分離された骨格の特徴量を計測する特徴量計測手段と,この計測された個々の骨格の特徴量に応じて,分離した骨格を連結する骨格連結手段と,この連結された骨格および分離されたままの骨格の個数を計数し,この値を複合欠陥を構成する欠陥数として出力する計数手段とを有することを特徴としたものである」との記載がある。これらの記載よれば,甲7公報には,複数の欠陥を分離して検出するという課題が記載されていることが認められるが,この課題の解決手段としては,段落【0005】に記載されている手法を用いるものであって,凹部の輝度変化に基づいて欠陥を検出するものではない。
次に,甲8公報には,「本発明は,単結晶ウエハーのエッチピットの上述の如き特性に基き,部分的に重なり合ったエッチピットをも個々のエッチピットに分離して測定することのできるエッチピットの測定方法およびそのための装置を提供するものである」(2頁左下欄第2段落)と記載され,複数の重なり合った欠陥を分離して検出するという課題が記載されている。しかし,甲8公報の検出方法は,エッチピットの検出を,斜め方向から光線を照射して,エッチピットの斜面において反射した光に基づいて検出するものであって,凹部の輝度変化に基づいて検出するものではない(3頁左上欄最終段落〜左下欄第1段落)。
甲9公報には,複数の欠陥を分離して検出することができないという課題が記載されている(1頁右欄最終段落〜2頁左上欄第2段落)。しかし,甲9公報の検出方法は,複数の欠陥を分離して,正確に計数するために,あらかじめ1個相当,凝集された2個,3個,4個等に相当する面積及び形状を定めておき,個々のエッチピットの面積,形状を,それらと比較して個数に換算するものであり(2頁左上欄最終段落〜右上欄第1段落),凹部の輝度変化に基づいて検出するものではない。
ウ以上に検討したところによれば,原告が引用する甲2公報,甲7公報,甲8公報及び甲9公報には,ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題が記載されているが,当該課題に対応する検出方法は,本件発明1のように「凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」ものではないから,その対象となる欠陥の重なりは本件発明1が課題とする欠陥の重なりと同じではない。したがって,上記各公報に記載された課題と本件発明1の課題が同じであるということはできず,ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題が周知であるからといって,そのことから,本件発明1の「凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」構成に想到することが容易であるとすることはできない。
(2) 本件発明1と甲1発明との構成上の対比につき原告は,本件発明1と甲1発明を対比すると,構成Cにおいて,甲1発明は,欠陥のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明1は,欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎないと主張する。
確かに,審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点「甲1発明には,「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」構成が記載されていない点。」のうち,「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像について画像処理を行うものである」は一致点として認定すべきであり,両者は,甲1発明が「撮影画像中で,欠陥エッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する構成」を有しない点で相違するにすぎないことは,上記2(1)ウのとおりである。しかし,当該相違点が容易想到とすることができないことは,後述するとおりである。
(3) 本件発明1と甲1発明との相違点ア原告は,本件発明1と甲1発明とは,甲1発明は,欠陥のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明1は,欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎず,この点は,当業者にとって設計的事項と認識されている技術的事項にすぎないと主張し,その根拠として,@甲5公報に記載されているように,微分干渉顕微鏡においては,傾斜面の傾斜方向の反転によって濃淡分布が反転することが周知であること,A甲13公報には,微分処理後の2値化の閾値を設定して凹部の輝度変化のみを抽出する点が記載されていることを挙げる。
イ本件発明1と甲1発明とは,甲1発明が「撮影画像中で,欠陥エッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する構成」を有しない点で相違することは,上記2(1)ウのとおりである。
そこで,この相違点が容易想到とすることができるかについて検討する。
(ア) 確かに,甲5公報には,「観察物体の段差等のエッジ部の検出では,凸部から凹部に変わる部分と凹部から凸部に変わる部分とでは,微分干渉画像の濃淡の分布が反転する」(段落【0007】)と記載されており,傾斜方向が変化すると濃淡が反転することは公知であったと認められる。しかし,甲5公報には,重なり合う欠陥を正確に認識するために,「凹部の輝度変化」,すなわち,凹部位置の情報のみに基づいて欠陥検出を行うという技術的思想は記載されていない。
(イ) また,甲13公報には,次の記載がある。
「【0021】…光照射手段14からは光射出面14a におけるX方向に沿って輝度が徐々に変化する(本実施例では図4,5中においてX方向左端から右端に向けて輝度が小さくなる,なお図中線分mの長さは輝度の大きさを表わす)明暗光が被検査面6上に照射され,該被検査面6からの反射光が撮像手段16によって受光されてその反射光による被検査面6の画像(受光画像)が形成される。図中Sは光照射手段14による光照射領域であり,Fは撮像手段16の視野であり,撮像手段16においてはこの視野Fの受光画像が形成される。」「【0024】上記の如き受光画像36において,被検査面6上に欠陥32,34が存在すると,この欠陥32,34によって光照射手段14からの光の正反射方向が変換し,それによって受光画像36中の欠陥32,34に対応する領域32A,34Aにおける輝度は周囲の輝度とは異なると共に輝度変化状態も周囲の輝度変化状態とは異なることとなる。
【0025】即ち,欠陥が凸状欠陥32の場合,図4に示す様に,その凸状欠陥32はいわゆる凸面鏡として作用し,欠陥32の左面32a からは光照射手段14の輝度が大きい部分38からの明光が正反射して撮像手段16に入射し,一方欠陥32の右面32b からは光照射手段14の輝度の小さい部分40からの暗光が正反射して撮像手段16に入射し,その結果図6に示す様に受光画像36中の凸状欠陥対応領域32Aは,受光画像36全体の輝度がX1方向に向って小さくなっていく中で該領域32Aの左側領域(凸状欠陥32の左面32a 対応領域)は周囲よりも輝度が大きくなり,領域32Aの右側領域(凸状欠陥32の右面32b 対応領域)は周囲よりも輝度が小さくなる。
【0026】また,欠陥が凹状欠陥34の場合,図5に示す様に,その凹状欠陥34はいわゆる凹面鏡として作用し,欠陥34の左面34a からは光照射手段14の輝度が小さい部分40からの暗光が正反射して撮像手段16に入射し,一方欠陥34の右面34b からは光照射手段14の輝度の大きい部分38からの明光が正反射して撮像手段16に入射し,その結果図7に示す様に受光画像36中の凹状欠陥対応領域34Aは,受光画像36全体の輝度がX1方向に向って小さくなっていく中で該領域34Aの左側領域(凹状欠陥34の左面34a 対応領域)は周囲よりも輝度が小さくなり,領域34Aの右側領域(凸状欠陥34の右面34b 対応領域)は周囲よりも輝度が大きくなる。」「【0030】従って,画像処理手段20により受光画像36を走査し,各主走査ライン上の輝度を微分し,その微分値が所定のしきい値(+Th,-Th)を超えた場合(図9,11参照)に,その超えた位置に欠陥が存在し,かつ微分値が+Thを超えた場合は凸状欠陥であり,-Thを超えた場合は凹状欠陥である旨を検出することができる。」【図4】【図5】(ウ) 上記記載によれば,甲13公報に記載の検査方法は,凹部の輝度変化に基づいて検出するものではあるものの,凹形状のみを検出する本件発明1や甲1発明とは異なり,凹凸形状を区別して検出するためのものであり,また,重なり合う欠陥を検出するためのものではないから,甲1発明のように凹部のみから成る欠陥を検出するものに結びつくものではない。
ウ以上検討したところによれば,原告が引用するいずれの刊行物にも,本件発明1の「重なり合った複数の欠陥を正確に計数するために凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」技術的思想が開示ないし示唆されていると認めることはできず,本件発明1の相違点に係る構成が当業者に容易想到であるとすることはできない。
4 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について(1) 原告は,本件発明1と甲1発明との相違点は設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到できたものであるから,本件発明1の容易想到性を否定した審決は誤りであると主張する。
しかし,本件発明1と甲1発明との相違点の構成を容易想到とすることができないことは,上記3のとおりである。
(2) また原告は,本件発明2ないし4も,本件発明1と同様に容易想到であると主張するが,本件発明1を容易想到とすることができないことは上記のとおりであり,本件発明2ないし4についての原告の主張は,前提において誤りである。
(3) したがって,本件発明1ないし4の容易想到性についての審決の判断に,原告主張の誤りはない。
5 結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉