運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2005-80113
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10383審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10485審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10661特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10404審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10098審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明が不明確 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  補助参加 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10749号 審決取消請求事件
原告株式会社システックキョーワ
訴訟代理人弁護士辰巳和男
同弁理士高田修治
原告補助参加 人株式会社ムラコシ精工
訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
同 丸山隆
同 中澤歩
被告Y
訴訟代理人弁護士山元眞士
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2005−80113号事件について平成17年9月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯(1)被告は,発明の名称を「地震時ロック方法及び地震対策付き棚」とする特許第3650955号発明(平成11年3月18日出願〔以下「本件出願」という。〕,平成17年3月4日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2)原告は,平成17年4月12日,被告を被請求人として,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求をした。
特許庁は,上記請求を無効2005-80113号事件として審理した上,同年9月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
2本件出願の願書に添付した明細書(甲2,以下,願書添付の図面も含め,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載(以下,請求項1に記載された発明を「本件発明1」などといい,これらを一括して「本件各発明」という。)【請求項1】地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法【請求項2】請求項1の地震時ロック方法を用いた地震対策付き開き戸【請求項3】請求項1の地震時ロック方法を用いた地震対策付き引き出し【請求項4】請求項1の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚3審決の理由( )審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,@本件各発明は,特許請求の範1囲の記載について,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されていないものであるとはいえず,また,特許を受けようとする発明が不明確であるともいえないから,特許法(注,平成14年法律第24号による改正前のもの)36条6項1号,2号(以下「特許法旧36条6項1号,2号」という。)違反の無効理由(以下「無効理由1」という。)はない,A本件各発明は,特開平10-115140号公報(審判甲1,本訴甲3,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)であるとも,特開平10-317772号公報(審判甲2,本訴甲5,以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)であるともいえないから,特許法29条1項違反の無効理由(以下「無効理由2」という。)はない,B本件各発明は,引用発明1,引用発明2及び特開平9-78925号公報(審判甲3,本訴甲6,以下「引用例3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,同条2項違反の無効理由(以下「無効理由3」という。)はない,Cしたがって,請求人(注,原告)の主張する理由及び提出した証拠によっては,本件各発明を無効とすることはできないとした。
( )審決が無効理由2,3に関して認定した,本件発明1と引用発明1との一2致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
ア一致点地震時に扉等がロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法イ相違点(ア)相違点1本件発明1は,地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法であるのに対し,引用発明1は,地震時に扉等がばたつきのほとんどないロック状態となるロック方法である点。
(イ)相違点2(通常使用時に)係止体が,本件発明1では,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体であるのに対し,引用発明1では,扉等が閉じられた状態から全開されるまで一切当たらない係止体である点。
( )審決が無効理由2,3に関して認定した,本件発明1と引用発明2との一3致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
ア一致点地震時に扉等がロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法イ相違点(ア)相違点3本件発明1は,地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法であるのに対し,引用発明2は,地震時に扉等がばたつきのほとんどないロック状態となるロック方法である点。
(イ)相違点4(通常使用時に)係止体が,本件発明1では,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体であるのに対し,引用発明2では,扉等が閉じられた状態で当たっている係止体である点。
( )審決が無効理由3に関して認定した,本件発明1と引用発明3との一致点 4及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
ア一致点地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法イ相違点(ア)相違点5(通常使用時に)係止体が,本件発明1では,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体であるのに対し,引用発明3では,扉等が閉じられた状態から全開されるまで一切当たらない係止体である点。
(イ)相違点6本件発明1では,地震のゆれがなくなることにより前記係止体は動き可能な状態になるのに対し,引用発明3では,地震が終わって使用者が隙間から地震時に落下した係止体を持ち上げ静置させることにより前記係止体は動き可能な状態になる点。
第3原告及び補助参加人主張の審決取消事由審決は,無効理由1に関し,本件発明1の特許請求の範囲の記載について,特許法旧36条6項2号適合性の判断を誤り(取消事由1),また,無効理由2,3に関し,本件発明1と引用発明1ないし3の相違点1ないし6の認定判断を誤り(取消事由2ないし8),その結果,本件各発明の特許を無効とすることはできないとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから取り消されるべきである。
1取消事由1(特許法旧36条6項2号適合性の判断の誤り)(原告及び補助参加人)(1)本件発明1は,地震時に,「扉等がばたつくロック状態となるロック方法」に係る発明であるところ,審決は,「『扉等がばたつくロック状態』とは,扉等が係止されることなく単に開く方向に停止されることであり,図19のように,球(9)が係止体(6)の後部(6f)の下方に位置したままであることにより,係止体(6)の係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)に嵌入したままで持ち上げられない状態,即ちロック状態となっており,かつ,係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)内を相対的に往復動可能,即ち扉等がばたつける状態であることを意味することは明らかである。」(審決謄本4頁第5段落)として,「扉等がばたつくロック状態」の意味は明確であるとしたが,誤りである。
ロック状態等の意義について,仮に,審決の判断が正しいとの前提に立っても,「往復動可能」とは,どの程度の往復動があればよいのかは全く不明であり,また,どの程度の往復動があれば「ばたつく」といえるかが明らかでなく,「扉等がばたつくロック状態」の意義が,不明確である。
そして,本件明細書において,「扉等がばたつくロック状態」が持つ技術的意義はどこにも説明されていないから,本件各発明の前提として「扉等がばたつくロック状態」が規定されている理由を当業者が理解することはできない。
したがって,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,「扉等がばたつくロック状態」との構成において,特許法旧36条6項2号の規定に適合していないから,これに適合しているとした審決の判断は誤りであり,この誤りが,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2)さらに本件発明1は,「棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」になるとの構成を有するものであるところ,審決は,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」とは,「係止体が係止具(7)の開口(7a)の先端側の内壁に当たらないの意味であることは明らかである。」(審決謄本5頁第2段落)として,上記構成は,明確であるとしたが,誤りである。
本件発明1の「わずかに開かれるまで」という要件における「わずかに」がどの程度を意味するかについて,本件明細書には何らの記載もなく,不明確である。
例えば,引用例2の【図6】において,球形ストッパー(5)の左側には隙間があり,戸又は引き出し(E)がわずかに右側に移動しない限り,球形ストッパー(5)が凹部(B)の左側の壁に当たることはなく,球形ストッパー(5)が本件発明の係止体に該当するか否かは,戸又は引き出し(E)がわずかに右側に移動した状態が「わずかに開かれた」といえるか否かにかかっている。しかし,本件明細書の「わずかに」の程度が不明であるから,引用例2において,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」が存在するか否かについて,認定,判断することができない。
したがって,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」との構成において,特許法旧36条6項2号の規定に適合しないから,これに適合しているとした審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2取消事由2(相違点1の認定の誤り)(原告)( )審決は,本件発明1と引用発明1の相違点1として,「本件発明1は,地1震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法であるのに対し,甲第1号証に記載された発明(注,引用発明1)は,地震時に扉等がばたつきのほとんどないロック状態となるロック方法である点。」(審決謄本14頁第2段落)を認定したが,誤りである。
( )本件発明1の特許請求の範囲において,「扉がばたつく」という用語があ2るところ,「ばたつく」の反対概念は,「ばたつかない」である。そして,係止を伴わないものが「ばたつく」であり,本件明細書の7頁8行目〜12行目及び18行目〜21行目の記載も参酌すると,「扉等がばたつくロック状態」というのは,「扉等が係止されることなく単に開く方向に停止されること」を意味することは明らかであり,それ以上,その意味を限定することは相当でない。
( )一方,引用例1の段落【0033】ないし【0037】の記載によれば,3引用発明1は,「地震時に,扉等が係止されることなく単に開く方向に停止される」構成を備える。
したがって,引用発明1は,「地震時に扉等のばたつくロック状態となるロック方法」であると解されるので,審決が,引用発明1を地震時に扉等がばたつきのほとんどないロック状態となるロック方法であるとして,相違点1を認定したことは誤りである。
3取消事由3(相違点2の認定の誤り)(原告)( )審決は,本件発明1と引用発明1の相違点2として,「(通常使用時に)係1止体が,本件発明1では,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体であるのに対し,甲第1号証に記載された発明(注,引用発明1)では,扉等が閉じられた状態から全開されるまで一切当たらない係止体である点。」(審決謄本14頁第3段落)を認定したが,誤りである。
( )審決は,本件発明1の係止体を「扉等が閉じられた状態からわずかに開か2れるまで当たらない係止体である」とするが,これは本件発明1の「棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり」という一つの構成要件の一部分のみを抜き出したものである。
しかし,この構成要件は,全体として,係止体の構成を特定するための記載であるから,本来一体のものとして理解すべきであり,また,この構成要件の記載は,技術的にも日本語としても,きわめて不正確なものであって,そのような場合には,その一部分のみを抜き出して相違点を認定することは妥当ではなく,前記構成要件を全体として,その作用・効果との関係で意味・内容を明らかにしなければならない。
前記構成要件を全体として,その意味・内容を検討すると,地震時ロック方法において,係止体が扉等が開くときに当たるという技術は,特開平7-30551号公報(甲4,以下「甲4公報」という。),引用例2に記載されているとおり,周知・慣用技術であること,地震時において,係止体がロック状態に入るまでの時間差を稼ぐため,地震時に扉等が閉じられた状態から扉等がわずかに開き,係止体に当たって停止される状態までの間隔をとっておく必要があることからすると,扉等がわずかに開かれるまで係止体が扉等の係止具に当たらないという構成は,地震が起きて,係止体がロック状態に入る前に扉等が開く動きを始めることにより係止体が扉等の開く動きを停止させることができなくならないよう,係止体がロック状態に入るまでの時間差を稼ぐための構成を表すものであり,扉等と係止具との位置関係を規定したものとみるのが妥当である。
( )地震時ロック方法において,係止体と扉等との間隔をとっておくことによ3って,地震時に係止体がロック状態に入るまでの時間差を稼ぐための技術は,引用例1(図1,5,6)だけでなく,引用例3(図1〜6),特開平9-310550号公報(甲7,以下「甲7公報」という。)(図2,3),特開平10-252337号公報(甲8)(図2〜4),特開平10-266674号公報(甲9)(図2,3),特開平10-30372号公報(甲10,以下「甲10公報」という。)(図5,18,19,21,22,23,27),特開平10-238197号公報(甲11)(第6図(A)(B)(C)),特開平10-266676号公報(甲12)(図5,6)に開示されているとおり,本件出願時において,既に周知・慣用技術であった。
そうすると,相違点2は相違点ではなく,課題解決のための具体化手段における設計上の微差であり,実質的に同一である。
したがって,相違点2についての審決の認定は誤りである。
4取消事由4(相違点3の認定の誤り)(原告及び補助参加人)( )審決は,本件発明1と引用発明2の相違点3として,「本件発明1は,地1震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法であるのに対し,甲第2号証に記載された発明(注,引用発明2)は,地震時に扉等がばたつきのほとんどないロック状態となるロック方法である点。」(審決謄本14頁第7段落)を認定したが,誤りである。
( )本件発明1にいう「扉等がばたつくロック状態」の意味は,特許請求の範2囲の記載だけから理解することはできない。そして,本件明細書の発明の詳細な説明参酌すると,「扉等がばたつくロック状態」というのが,扉等が係止(封殺)されることなく単に開く方向に停止されることを意味することは理解できるが,閉じる方向にどのくらいの長さ動くことを許容する意味なのかについて,全く記載がされていない。
引用発明2においては,家具の上板(D)の前方側下面に埋設固定して取り付けられた自動解施錠具本体(A)に設けられた球形ストッパー(5)と家具の戸の上面に形成された凹部(B)との作用によって,家具の戸は開く方向に停止され,球形ストッパー(5)と凹部(B)によって形成される隙間の範囲において,わずかではあるが閉じる方向への動きが可能である。すなわち,引用例2の図6及び図7からみて,凹部(B)はやや長孔として形成されており,球形ストッパー(5)は,凹部(B)との間で形成される隙間の範囲内において移動することができ,家具の戸は地震時に開く方向に停止された位置から閉じる方向にわずかではあるが動くことができる。
そうすると,引用発明2は,球形ストッパー(5)と凹部(B)との作用によって,地震時に球形ストッパー(5)がロック状態になると,家具の戸の開く方向への動きは停止され,また,戸の閉じる方向への動きはわずかではあっても許容される構成のものであることから,本件発明1にいう「扉等がばたつくロック状態」に該当するものである。
したがって,引用発明3も「扉等がばたつくロック方法」であるので,相違点3についての審決の認定は誤りである。
5取消事由5(相違点4の認定の誤り)(原告及び補助参加人)( )審決は,本件発明1と引用発明2の相違点4として,「(通常使用時に)係1止体が,本件発明1では,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体であるのに対し,甲第2号証に記載された発明(注,引用発明2)では,扉等が閉じられた状態で当たっている係止体である点。」(審決謄本14頁最終段落)を認定したが,誤りである。
( )引用発明2においては,前記4( )のとおり,凹部(B)がやや長孔とし2 2て形成されているため,通常使用時に家具の戸がわずかに開かれたときに,球形ストッパー(5)が凹部(B)の開き方向と反対側の内壁に当たる。
そして,このことは,本件発明1において,通常使用時に扉等がわずかに開かれたときに係止体が係止具(7)の開口(7a)の先端側の内壁に当たるのと一致している。
そうすると,引用発明2の球形ストッパー(5)は,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」に該当するということができるから,相違点4についての審決の認定は誤りである。
6取消事由6(相違点3,4の判断の誤り)(原告及び補助参加人)( )審決は,「本件発明1ないし4は,甲第1ないし3号証に記載された発明1(注,引用発明1ないし3)であるとも,甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえない」(審決謄本16頁第2段落)として,本件発明1が,引用発明2と同一であることのみならず,引用発明2から容易になし得たことも否定したが,誤りである。
( )相違点3及び4は,実質的に,2個の相違点ではなく,要するに,引用例22の【図6】において,球形ストッパー(5)の左側と凹部(B)壁との隙間がわずかであるのに対して,本件明細書の,例えば,【図7】において,係止部先端6dと係止具7との間に比較的大きな隙間があるという1個の相違点があるにすぎない。
そして,地震時ロック方法について,引用例2に記載された,戸棚等の枠内に開き戸や引き出しが引き込まれる構造とともに,戸棚等の家具の枠に開き戸や引き出しが突き当たるような構造があることは,特開平10-266674号公報(甲9,以下「甲9公報」という。)に照らしても,当業者に周知である。したがって,扉が家具上板に突き当たる形式の家具に,引用例2の球形ストッパー(5)を利用しようと当業者が考えた場合,引用例2の開き戸又は引き出し上部に設けられた凹部(B)に代えて,甲9公報のフック受け6のような部品を扉の裏側に設けることは容易に思いつくことである。
そして,その場合には,当然,球形ストッパーがフック受けに当たって停止するまで扉がわずかに開くことが許容される結果となる。また,扉は,閉じられた位置と停止位置との間で「ばたつく」ことにもなるのであり,引用発明2に基づいて,当業者が本件発明1の構成を想到することは,容易である。
7取消事由7(相違点5の認定判断の誤り)(原告)( )審決は,本件発明1と引用発明3の相違点5として,「(通常使用時に)係1止体が,本件発明1では,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体であるのに対し,甲第3号証に記載された発明(注,引用発明3)では,扉等が閉じられた状態から全開されるまで一切当たらない係止体である点。」(審決謄本15頁第4段落)を認定し,「甲第1,2号証(注,引用例1,2)にも,本件発明1の相違点5に係る構成に該当するものは何も記載されていない。そして本件発明1は,相違点5に係る構成を有することにより,甲第1ないし3号証に記載された発明とは異なる,本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】に記載の『解除機構を単純に出来る』という作用効果を奏するものと認められる。従って,・・・本件発明1は,甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。また,本件発明2ないし4は,本件発明1を引用するものであるので,甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。」(同頁第6段落〜16頁第1段落)と判断したが,誤りである。
( )前記3のとおり,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当た2らない係止体」というのは,単に,通常使用時に扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまでの間に係止体が扉等に当たるとか当たらないということではなく,係止体と扉等が,地震時に,扉等がわずかに開かれたときに,係止体と当たるという位置関係にあることを意味する。
そして,引用発明3は,地震時に開き戸がわずかに開かれたとき,棒3がフック4の鍵状の突起に当たる位置関係にあることから,本件発明1にいう「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」に該当する。
したがって,相違点5についての審決の認定は誤りである。
( )仮に,相違点5が審決の認定したとおり相違点であるとしても,前記33のとおり,(通常使用時に)扉等が開かれたときに扉等又は扉等に設けられた係止具に当たる係止体を有する地震時ロック方法は,甲4公報,引用例2等にみられるように,本件特許の出願時において周知・慣用技術であったのであるから,引用発明3にこれら周知・慣用技術を適用することは単なる設計変更にすぎない。
したがって,相違点5の認定を前提として本件各発明の容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。
8取消事由8(相違点6についての容易想到性の判断の誤り)(原告)( )審決は,「本件発明1では,地震のゆれがなくなることにより前記係止体1は動き可能な状態になるのに対し,甲第3号証に記載された発明(注,引用発明3)では,地震が終わって使用者が隙間から地震時に落下した係止体を持ち上げ静置させることにより前記係止体は動き可能な状態になる点。」(審決謄本15頁第5段落)を相違点6として認定し,「甲第1,2号証(引用例1及び2)にも,本件発明1の相違点5に係る構成に該当するものは何も記載されていない。」(同第6段落)ことから,「相違点6について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第1ないし3号証に記載された発明(注,引用発明1ないし3)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」(同最終段落)と判断したが,誤りである。
上記7のとおり,相違点5は相違点ではないか,相違点であるとしても容易に想到できた構成であるから,相違点5だけをとらえて,本件発明1が引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができなかったと判断することはできない。
( )そして,相違点6に係る,地震のゆれがなくなることにより係止体が動き2可能な状態になる構成については,甲4公報,引用例2に記載されており,これらを引用発明3に適用することは単なる設計変更にすぎない。
したがって,相違点5及び6があるとしても,本件発明1の容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。
第4被告の反論1取消事由1(特許法旧36条6項2号適合性の判断の誤り)について( )原告は,本件発明1の特許請求の範囲の記載中,「扉等がばたつくロック1状態となるロック方法」,「棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」との構成が不明確であり,特許法旧36条6項2号の規定に違反する旨主張するが,いずれも,明確であり,何ら不明りょうな点はない。
( ) 「ばたつくロック状態となるロック方法」とは,本件明細書の図18及び2図19の実施例及びその説明を参照すれば,一般用語の「ばたつく」状態であって,扉等が「係止されることなく単に開く方向に停止される」ロック方法であることは明らかであって,何ら不明りょうではない。
また,本件明細書においては,「ばたつくロック状態」と「ばたつきのほとんどないロック状態」が,特許請求の範囲及び明細書において対照的に区別され,係止した場合における「遊び」の存在は暗示されているのであるから,「ばたつく」という動きは,「ほとんどない」又は「ほとんど開かない」に相当する「遊び」に起因する動きとは質的に異なるものであることが明らかである。
( )本件発明1の特許請求の範囲の「扉等が閉じられた状態からわずかに開か3れるまで当たらない係止体」にいう「わずかに開かれるまで当たらない」は,本件明細書の図18及び図19の実施例並びにその説明を参照すれば,「装置本体の係止体」が,閉止状態において,閉じる方向にも開く方向にも,扉等に「当たらない」ことを含めて,わずかに開かれるまでは,いかなるものにも当たっていないことをいうことが明らかであり,何ら不明りょうでない。
そもそも,「ほとんどない」又は「ほとんど開かない」の概念と,「わずかに開かれる」という概念は,日本語の表現として区別可能な概念であり,それを特許請求の範囲に用いることは,何ら問題がない。
また,「ばたつく」及び「わずかに開かれる」という用語は,多数の特許公報(乙1,乙2の1ないし8)に用いられているとおり,技術分野を問わず特許請求の範囲の記載に一般的に用いられるものであり,何ら問題のない用語である。
2取消事由2ないし8(相違点1ないし6の認定判断の誤り)について( )原告は,要するに,本件発明1と引用発明1の相違点1及び2は,いずれ1も存在せず,両発明が同一であって本件発明1に新規性がない旨主張し,本件発明1と引用発明2の相違点3及び4がいずれも存在せず,両発明が同一であって本件発明1に新規性がなく,また,引用発明2から本件発明1が容易に想到できたとして本件発明1に進歩性がない旨主張し,さらに,引用発明3から本件発明1が容易に想到できたとして,本件発明1に進歩性がない旨主張するが,いずれも失当である。
( )審判段階において提出された公知例は,引用例2,甲4公報,特開平102-25945号公報(乙1),甲10公報の図29ないし31に示されたグループ(以下,これらを「Aグループの公知例」という。)と,引用例1,引用例3,甲7公報,甲10公報(図29ないし31を除く),特開平10-238197号公報(甲11),特開平10-252337号公報(甲8),特開平10-266674号公報(甲9),特開平10-266676号公報(甲12)に示されたグループ(以下,これらを「Bグループの公知例」という。)に分類できる。
Aグループの公知例の係止体は,通常使用時に閉止状態で扉等に当たり,地震時に閉止状態で扉等に当たり,通常使用時に扉等の開く動きを許容して動くものである。そして,Aグループの係止体が,通常使用時に閉止状態で扉等に「当たる」のは,係止体が,戸当たり機能を持っているからである。
Aグループの公知例の係止体は,通常使用時に閉止状態で扉等に当たっている係止体であり,地震時に移動しなくてよく,また,戸当たり機能が要求されるので,閉止状態で当たっていなければならない。このグループにおいて,戸当たり構成は,その機能と一体になった構成であり,適宜変更可能な単なる設計事項ではない。そして,戸当たり機能を持った係止体を用いる場合には,地震時にそのまま扉等をロックすることが,当業者にとって自然な発想であり,また,「ばたつかない」ロック状態は,「ばたつく」ロック状態よりも地震時の状態だけを比較すれば,使用者にとり,静かで恐怖感を伴わない望ましいロック方法である。他方,このグループの係止体は,地震時に移動する必要のない係止体であるから,係止体について,「移動のための時間差を稼ぐ」という技術課題は存在しないし,本件出願前には,「時間差を稼ぐ」ことは,戸当たり機能を否定してまで必要とされる技術課題ではなかった。
これらに対して,Bグループの公知例の係止体は,通常使用時に閉止状態から全開状態まで扉等に一切当たらず,地震時にわずかに開かれた位置で扉等に当たり,通常使用時に扉等の開く動きがあっても一切動かない係止体であり,通常使用時には,閉止状態から全開状態まで扉等に一切「当たらない」ものであり,通常使用時に扉等の開く動きがあっても一切動かない係止体である。このグループの係止体は,扉等の開閉の動きに当たらないところに待機しているから,地震時に移動する必要があり,移動のための時間差を稼ぐという技術課題が存在し,係止体が,通常使用時に扉等に一切「当たらない」のは,地震時に移動するという機能を持っているからである。
Aグループの公知例とBグループの公知例の係止体は,それぞれ異なった機能に伴って生じた,異なった構成を有していて,その構成を組み合わせることは,各々の機能の否定を意味し,また,そのような機能の否定を伴う組合せは,当業者にとって,想到が容易ではない。
( )本件発明1の係止体は,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるま3で当たらない係止体」であり,「地震のゆれがなくなる・・・扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」もの,すなわち,@通常使用時に閉止状態では当たらず,わずかに開かれた位置で扉等に当たり,A地震時に閉止状態では当たらず,わずかに開かれた位置で扉等に当たり,B通常使用時(地震終了時)に,扉等の開く動きを許容して動くものである。
本件発明1は,Aグループの公知例と比較して,閉止状態で扉等に「当たる」ものでないから,通常使用時に不必要な衝撃を受けず,閉止状態で扉等に「当たる」ものでないから,扉等の浮き上がりがあっても,地震時に確実作動し,通常使用時も誤作動せず,閉止状態で扉等に「当たる」ものでないから,地震終了時に確実に解除され,解除機構を単純にできるというものである。また,本件発明1は,Bグループの公知例と比較して,地震時に係止体は移動しないから,移動のために「時間差を稼ぐ」ことは必要なく,応答が早く,地震時に係止体は移動しないから単純な機構となる。
( )Bグループの公知例である引用発明1及び引用発明3は,係止体が,通常4使用時には,閉止状態から全開状態まで扉等に一切「当たらない」係止体であるところ,本件発明1の係止体は,それと異なり,通常使用時に「わずかに開かれるまで当たらない」(わずかに開けば当たる)係止体であり,本件発明1と引用発明1及び引用発明3に相違点があると認定した審決に誤りはない。
Aグループの公知例である引用発明2は,係止体が,通常使用時に閉止状態で扉等に「当たる」ものであり,本件発明1は,係止体が通常使用時に扉等に「わずかに開かれるまで当たらない」(わずかに開けば当たる)ものであり,本件発明1と引用発明2に相違点があるとした審決に誤りはない。
そして,Aグループの公知例の係止体とBグループの公知例の係止体を組み合わせても,本件発明1のように,通常使用時に「わずかに開かれるまで当たらない」係止体とはならない。しかも,Aグループの公知例の係止体とBグループの公知例の係止体とは,異なった機能を有しているのであり,異なった機能に伴って生じた構成を組み合わせることは,各々の機能の否定を意味し,その組み合わせは,当業者にとって想到が容易ではない。
すなわち,審判で問題とされた公知例は,上記のとおり,Aグループの公知例とBグループの公知例とに分類されるが,いずれにも,本件発明1の重要な技術課題の開示がないから,これらから,本件発明1の進歩性を否定することはできず,開閉のたびに動く係止体は,従来は戸当たり機能を前提としたところ,本件発明1のように戸当たりを否定することは,意外性があり,当業者にとって想到が容易ではなく,本件発明1は,Aグループの公知例と比較して,ロック作動を確実にして誤作動なく解除機構を単純にできるという著しい効果があり,Bグループの公知例と比較して,応答が速く単純な機構になるという著しい効果があり,当業者にとって想到が容易ではない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(特許法旧36条6項2号適合性の判断の誤り)について( )本件発明1は,「地震時に扉等がばたつくロック状態となる方法」に係る1発明であるところ,審決は,「『ばたつく』は,乙第1号証の1ないし7にみられるように一般用語であり往復動することである。」(審決謄本4頁第2段落),「『扉等がばたつくロック状態』とは,扉等が係止されることなく単に開く方向に停止されることであり,図19のように,球(9)が係止体(6)の後部(6f)の下方に位置したままであることにより,係止体(6)の係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)に嵌入したままで持ち上げられない状態,即ちロック状態となっており,かつ,係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)内を相対的に往復動可能,即ち扉等がばたつける状態であることを意味することは明らかである。」(同頁第5段落)としたが,原告及び補助参加人は,仮に,審決の判断が正しいとの前提に立っても,「往復動可能」とはどの程度の往復動があればよいのかは全く不明であり,また,どの程度の往復動があれば「ばたつく」といえるかが明らかでないと主張する。
さらに,本件発明1は,「棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」になるとの構成を有するものであるところ,審決は,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」とは,「係止体が係止具(7)の開口(7a)の先端側の内壁に当たらないの意味であることは明らかである。」(審決謄本5頁第2段落)として,上記構成は,明確であるとしたが,原告及び補助参加人は,「わずかに開かれるまで」という要件における「わずかに」がどの程度を意味するかについて,本件明細書には何らの記載もなく,不明確であると主張する。
本件発明1の特許請求の範囲には,「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において」との記載があるところ,「扉等がばたつくロック状態」について,これを限定する格別の記載は見当たらない。
一般的な用語例に従うと,「ロック」とは,「錠をおろすこと。鍵をかけること。錠。」(広辞苑第5版)とされ,扉についていえば,「ロック状態」とは,鍵をかけるなどして開かない状態をいうと解される。また,「ばたつく」とは,「ばたばたする。騒がしく動きまわる。じたばたする。」(同)などの意味を有する。そうすると,「扉等がばたつくロック状態」とは,「扉等がばたばたした状態にありながら,かつ,鍵をかけるなどして開かない状態」であると,一応理解することができるのであって,審決のいうように,本件発明1の特許請求の範囲の「ばたつく」が「往復動すること」を,「扉等がばたつくロック状態」が「扉等が係止されることなく単に開く方向に停止されること」を意味するものとして一義的に理解されるとは,直ちに断定し難いところである。したがって,本件発明1が,これらの語のみで,特許請求の範囲が一義的に発明として特定されるのかは明らかではない。
( )本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。
2ア「【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の従来の課題を解決し地震時に係止体が扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず地震時にロック位置に到って振動し又はロック位置を保持する構成にすることにより解除機構を単純に出来る扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚の提供を目的とする。更に本発明の他の目的は係止体が扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる構成にすることにより解除機構を単純に出来る扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚の提供を目的とする。」(段落【0003】)イ「【課題を解決するための手段】本発明は以上の目的達成のために:地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法等を提案するものである。」(段落【0004】)ウ「以上で明らかな通り図1乃至図5の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(2)が地震時に扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置へと動き,前記係止体(2)は扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず地震時にロック位置に到って振動し又はロック位置を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(2)は待機位置へと戻る扉等の地震時ロック方法である。そして図示のものは地震時に装置本体(1)の係止体(2)が扉等の係止具(5)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法であった。」(段落【0005】【発明の実施の形態】,5頁7行目〜14行目)エ「その結果係止具(7)の絞り(7c)を係止部(6b)(溝を有するため溝が縮まって)は通過し開口端(7b)に到ることになる。開口端(7b)において係止部(6b)は段(6c)で係止保持力(係止解除力でもある)が確保される。すなわち段(6c)における係止保持力(係止解除力でもある)以下であれば開き戸(91)は地震のゆれの戻りから受ける力によっては解除されない。すなわち開き戸(91)が隙間を有した状態でロックされることは図1乃至図5の実施例のものと同様である。地震が終わると使用者は隙間を有してロックされている図10及び図11の状態の開き戸(91)を係止保持力以上の力で押す。これにより係止状態が解除され図10及び図11の状態から図6及び図7に示す様に係止体(6)は係止具(7)の絞り(7c)を通過し開口(7a)へと戻り開き戸(91)の開閉は自由になる。」(同段落,6頁37行目〜49行目),オ「以上で明らかな通り図6乃至図11の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(6)が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体(6)は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(6)は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法である。そして図示のものは地震時に装置本体(1)の係止体(6)が扉等の係止具(7)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法であった。」(同段落,7頁2行目〜9行目)カ「すなわち図1乃至図11の扉等の地震時ロック方法に共通することは地震時に装置本体(1)の係止体(2)(6)が扉等の係止具(5)(7)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となることであった。以上の地震時ロック方法のいずれかに適用が可能な振動エリアAの他の実施例(但しこれに限るものではない)を図12乃至図17に示す。」(同段落,同頁10行目〜14行目)キ「次に図18及び図19の実施例は図6乃至図11に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。すなわち係止体(6)の係止部(6b)は扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止されるものであり地震時に扉等がばたつくロック状態となる。次に図20の実施例は図1乃至図5に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。すなわち係止体(2)の係止部(2e)は扉等の係止具(5)の係止部(5a)に係止することなく単に停止されるものであり地震時に扉等がばたつくロック状態となる。」(同段落,同頁18行目〜25行目)ク「【発明の効果】本発明の扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚の実施例は以上の通りでありその効果を次に列記する。本発明の地震時ロック方法は特に係止体が扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる構成にすることにより解除機構を単純に出来る。」(段落【0006】)( )上記によれば,本件明細書の図1ないし図17に示されたロック方法は,3地震時に扉等のばたつきのほとんどないロック状態となるものに係り(上記( )ウないしカ),本件発明1の実施例に相当するものではない。これに対2し,図18ないし図20に示されたロック方法のみが,地震時に扉等がばたつくロック状態となるものであり(同キ),本件発明1の実施例に相当するものである。
そして,本件明細書において,本件各発明について説明する部分は,発明が解決しようとする課題(上記ア),課題を解決するための手段(上記イ),発明の効果(上記ク)び上記キの実施例の説明と図18ないし図20しかない。
本件明細書には,前記のとおり,本件発明1の特許請求の範囲にいう「扉等がばたつくロック状態」について直接定義する記載はないものの,「地震時に扉等のばたつきのほとんどないロック状態」と「地震時に扉等がばたつくロック状態」を明確に区別しており,そのうちの「地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法」に係る発明が本件発明1であるから,「ばたつきのほとんどない」構成と「ばたつく」構成との間にどのような相違があるのかが明確にされる必要がある。
この点について,上記( )ウの「そして図示のものは地震時に装置本体2(1)の係止体(2)が扉等の係止具(5)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法であった。」との記載や同カの「すなわち図1乃至図11の扉等の地震時ロック方法に共通することは地震時に装置本体(1)の係止体(2)(6)が扉等の係止具(5)(7)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となることであった。」との記載によれば,「扉等のばたつきのほとんどないロック状態」とは,「装置本体(1)の係止体(2)が扉等の係止具(5)に係止」するものであることが分かる。
また,「扉等がばたつくロック状態」とは,上記( )キによれば,実施例2の図18,19及び図20で示されるものであり,棚の本体側に設けられた係止体について,「その係止体(6)の係止部(6b)が,扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止される」ロック状態(図18,19),ないしは,「係止体(2)の係止部(2e)が,扉等の係止具(5)の係止部(5a)に係止することなく単に停止される」というロック状態(図20)を意味するものをいうと理解することができる。
以上によれば,係止体との関係で,「扉等のばたつきのほとんどないロック状態」は,扉等の係止具に「係止」するのに対し,「扉等がばたつくロック状態」は,扉等の係止具の係止部に「係止」するのでなく,単に「停止」するものをいうと認められる。
したがって,本件発明1にいう「扉等がばたつくロック状態」は,棚本体に設けられた係止体を用いて扉等の開閉を制御している状態であるが,係止体の存在にもかかわらず,扉等に設けられた係止具に「係止」せず,単に「停止」される状態をいうものと認められる。
そこで,さらに,「係止」と「停止」の技術的意義及び区別がどのようなものであるかが明らかにされる必要がある。
本件明細書の発明の詳細な説明において,この点に関する記載としては,「係止体(6)の係止部(6b)が,扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止される」,「係止体(2)の係止部(2e)が,扉等の係止具(5)の係止部(5a)に係止することなく単に停止される」があるが,これらはいずれも「係止体の係止部」の機能,作用が記載されているのみである。
一般に,「係止」とは,「係わり合って止まること。」(平成12年8月28日日刊工業新聞社発行特許技術用語集-第2版-,甲19)などとされており,上記( )ウないしカを併せ考えると,本件明細書において,「係2止」とは,扉等が「開く方向にも閉じる方向にも動きが封殺されていること」を意味するものと理解できる。また,本件明細書においては,「停止」という用語が,「係止」と対比して使用されていることから,「停止」は,上記の「係止」とは異なる意味を有するものと理解することができる。このことに,「扉等がばたつくロック状態」が,前記( )のとおり,一般的な用 1語例に従うと,「扉等がばたばたした状態にありながら,かつ,鍵をかけるなどして開かない状態」にあることを意味していることを併せ考えると,「扉等のばたつきのほとんどないロック状態」とは,「扉等が係止された状態」すなわち「扉等が,開く方向にも閉じる方向にも動きが封殺されるロック状態」をいうのに対し,本件発明1における「扉等がばたつくロック状態」とは,「扉等が,係止されることなく単に停止されるロック状態」であり,「扉等が,ロック位置からそれ以上開く方向への動きが封殺されるが,ロック位置から閉じる方向については,開く方向及び閉じる方向の動きが許容され,往復動可能となるロック状態」をいうものと,一応解釈することができる。
そして,扉等は,技術常識によれば,通常は,閉じられているものであるから,「扉等がばたつくロック状態」において,地震時において,通常時に閉じられている位置と前記ロック位置との間を往復動可能であるといえる。
上記( )クには,発明の効果として,「解除機構を単純に出来る」旨の記2載があるが,同効果は,地震時において,「扉等のばたつきのほとんどないロック状態」と対比される「扉等がばたつくロック状態」の効果とは認められず,「扉等がばたつくロック状態」により,どのような効果を奏するかについて,本件明細書には,何らの記載もない。
( )審決は,「『扉等がばたつくロック状態』とは,扉等が係止されることな4く単に開く方向に停止されることであり,図19のように,球(9)が係止体(6)の後部(6f)の下方に位置したままであることにより,係止体(6)の係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)に嵌入したままで持ち上げられない状態,即ちロック状態となっており,かつ,係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)内を相対的に往復動可能,即ち扉等がばたつける状態であることを意味することは明らかである。」(審決謄本4頁第5段落)とする。
しかし,後記( )のとおり,本件発明1の特許請求の範囲の記載において,8構成として表れるのは,「扉等」,「棚本体側」,「棚本体側に取り付けられた装置本体」及び「係止体」のみであって,その余はすべて機能的記載となっており,しかも,上記のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件各発明の具体的構成,作用を説明している部分が上記( )キのみで2ある本件において,図19から,「球(9)が係止体(6)の後部(6f)の下方に位置したままであることにより,係止体(6)の係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)に嵌入したままで持ち上げられない状態,即ちロック状態となっており,かつ,係止部(6b)は係止具(7)の開口(7a)内を相対的に往復動可能,即ち扉等がばたつける状態である」との事実を読み込んで,本件発明1の要旨を特定することは,本件明細書及び図面の参酌の範囲を超えるものであり,許されないものというべきである。
( )本件発明1は,特許請求の範囲の記載から明らかなとおり,「扉等が閉じ5られた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」が,「地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」になるというものである。
そして,「扉等のばたつきのほとんどないロック状態」を,一応上記のように解釈すれば,本件発明1は,装置本体に設けられた係止体を用い,「地震時に扉等の開く動き」,すなわち,地震時に扉等の開く方向への動きを許容しない状態になるものであると理解することができる。
ここで,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」との記載について,特許請求の範囲には,同機能的記載と「ばたつくロック状態」との関連を示す記載はなく,その関係は不明である。
もっとも,前記のように明細書の発明の詳細な説明等を参酌し,また,「ばたつくロック状態」において,扉がロック状態となるのは係止体の存在によるものであり,その係止体が扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで扉等に当たらないという構成を有することにかんがみ,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで開かない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは,一応,「ばたつくロック状態」を,「係止体」を主体として規定したものと理解することができないものではなく,仮に,そのように理解したとするならば,同記載は,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで,扉に当たらないとの構成を有する係止体を用い,扉等が閉じられた状態からわずかに開かれたときに当たる係止体が,扉がわずかに開かれたとき,地震時にそれ以上の扉等の開く方向への動きを許容しない状態になることをいうものと,一応理解することができないわけではない。
しかし,本件発明1は,係止体を用いて地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になるものであるが,係止体が,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない」という機能的記載を採用していることの効果の記載は,本件明細書において皆無であり,上記( )ク記載の効果も,上記2機能による効果であるとは認められない。
念のため,本件明細書において,「扉等がばたつかないロック状態となるロック方法」を説明する部分についてみると,以下の記載がある。
「以上で明らかな通り上昇した状態を継続している係止体(2)の係止部(2e)は開く方向の動きを継続する開き戸(91)の係止具(5)の係止部(5a)に係止し開き戸(91)は隙間を有してロックされる(図4から図5に到るのである)。開き戸(91)は地震のゆれの戻りの際に開き戸(91)の重量と地震の加速度に応じて係止を外そうとする力を係止部(2e)(5a)に作用する。この係止を外そうとする力が係止体(2)の係止部(2e)の近くに設けられた弾性部(2f)の弾性抵抗(係止保持力)(係止解除力でもある)以下であれば係止状態は保持される。すなわち開き戸(91)の重量と予想される地震の加速度の両者から係止部(2e)(5a)の(係止保持力)(係止解除力でもある)を設定しておくことにより予想される範囲の地震においては地震が終了するまで係止状態が保持される。
地震が終わると使用者は隙間を有してロックされている図5の開き戸(91)を係止保持力以上の力で押す。これにより係止状態が解除され図5の状態から図1に示す様に係止体(2)の係止部(2e)は下降し開き戸(91)の開閉は自由になる。ここで球(9)については地震が終わると係止状態の解除と関係なく装置本体(1)の振動エリアAの床面の傾斜により中央後端の安定位置に戻る。」(段落【0005】【発明の実施の形態】,4頁41行目〜5頁6行目)上記記載によれば,「扉等がばたつかないロック状態となるロック方法」において,扉等は,「隙間」を有してロックされ,使用者が隙間を有してロックされている扉等を係止保持力以上の力で押して,係止状態が解除されることが記載されている。これによれば,このような「隙間」の存在が,係止状態の解除のために利用されているといえる。
しかし,このような記載によっても,なお,「地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法」に係る発明である本件発明1において,係止体が,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない」という機能的記載がいかなる技術的意義を有し,また,いかなる効果を奏するのかが不明である。
すなわち,上記記載によれば,「扉等がばたつかないロック状態となるロック方法」において,「球(9)については地震が終わると係止状態の解除と関係なく装置本体(1)の振動エリアAの床面の傾斜により中央後端の安定位置に戻る」ものであり,使用者が隙間を有してロックされている扉等を押して,係止状態が解除されるのは,係止部における係止保持力以上の力を加えることによる。ところが,本件発明1は,「扉等がばたつくロック状態となるロック方法」すなわち「扉等が,係止されることなく単に停止されるロック状態」であって,係止部において,係止されていないのであるから,「隙間」の存在や使用者が扉を押すことは,ロック状態の解除にはなんら関係せず,本件発明1における係止体が,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない」ことによる効果は依然として不明である。
( )以上を総合すると,本件発明1は,前記のとおり,「地震時に扉等がばた6つくロック状態となるロック方法」において,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態にな(る)」ものである。ここにおいて,「ばたつく」状態にあるロック状態と,係止体が「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない」状態との関係は,特許請求の範囲の記載からは,明らかでない。
また,仮に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,上記( )及3び( )のように一応,理解して,本件発明1は,地震時において,本体側に 5設けられた係止体が,扉等がわずかに開かれるまで当たらないが,扉等がわずかに開いて係止体が扉に当たり,それ以上,扉等が,開かないようにするものの,扉等の動きを完全に封殺するものではなく,扉等が閉じられた状態からわずかに開いて係止体が扉に当たるまでの間は,往復動可能であることをいうものとして,「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法」及び「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態にな(る)」に係る構成を理解したとしても,係止体が扉に当たるまでの距離及び扉が往復動可能に開く程度については,特許請求の範囲の記載において,「わずかに」とされているのみで,きわめて抽象的な表現であって,特許請求の範囲の他の記載を参酌しても,その内容が到底明らかになるものではない。技術常識によれば,扉のロック方法において,製造誤差,組付誤差が生じることがあるほかに,ロック状態を確実にするため,一定のいわゆる「遊び」が設けられることもあるのであるが,それらを「わずかに」との表現が含むのかは全く不明である。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明中にも,「わずかに」で表される程度を説明したり,その程度について示唆するような具体的な記載はない(なお,「ばたつきのほとんどないロック状態」という表現が存在することについては,後記( )参照)。加えて,係止体が「わずかに」開かれるまで7当たらないことや扉等が「ばたつく」ことによる効果についても,本件明細書の発明の詳細な説明には,何ら記載されていない。
そうすると,当業者にとって,その技術常識を勘案しても,本件発明1の「わずかに」で表される,係止体が扉に当たるまでの距離及び地震時に扉が往復動可能に開く程度を理解することは,困難であるといわざるを得ない。
( )被告は,「扉等がばたつくロック状態となるロック方法」である本件発明71と対比されるのが「ばたつきのほとんどないロック状態」であり,本件明細書においては,「ばたつくロック状態」と「ばたつきのほとんどないロック状態」が,特許請求の範囲及び明細書において対照的に区別され,係止した場合における「遊び」の存在は暗示されているのであるから,「ばたつく」という動きは,「ほとんどない」又は「ほとんど開かない」に相当する「遊び」に起因する動きとは質的に異なるものである旨主張する。
しかし,本件明細書中において,「ばたつきのほとんどない」の用語を説明する記載も「遊び」に触れた記載も,一切ないのであって,「扉等がばたつくロック状態となるロック方法」が,直ちに,原告主張のように,「遊び」に起因する動きとは質的に異なるものと解釈できるかについては,疑問の余地がないわけではない。そして,仮に,本件発明1において,「ばたつくロック状態」で示される程度について,「ほとんどない」との比較において,「遊び」として存在するものより大きいとしても,他に本件明細書中にその程度に関する記載がないことから,その上限は不明であり,範囲は,依然として,不明確であるといわざるを得ない。
被告は,また,「ばたつく」及び「わずかに開かれる」という用語は,多数の特許公報(乙1,乙2の1ないし8)に用いられているとおり,技術分野を問わず特許請求の範囲の記載に一般的に用いられるものであり,何ら問題のない用語である旨主張する。しかし,本件においては,「ばたつく」及び「わずかに開かれる」という文言を使用していることから,直ちにその記載が不明確となるとされるのではなく,特許請求の範囲の他の記載や本件明細書の発明の詳細な説明に照らしても,当業者にとって,その内容が理解できず,不明確であるといわざるを得ないことが問題なのであって,被告が挙げる公報等に記載の発明と本件とは事案を異にするのであり,被告の主張は,理由がない。
なお,被告は,本件発明1の特許請求の範囲の「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」にいう「わずかに開かれるまで当たらない」は,本件明細書の図18及び図19の実施例並びにその説明を参照すれば,「装置本体の係止体」が,閉止状態において,閉じる方向にも開く方向にも,扉等に「当たらない」ことを含めて,わずかに開かれるまでは,いかなるものにも当たっていないことをいうことが明らかであり,何ら不明りょうでない旨主張する。しかし,本件においては,上記のとおり,「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体」という場合の「わずかに」の程度が明確でないことが問題となっているのであり,被告の上記主張はその程度を明らかにするものではないから,そもそも,採用できない。
( )審判段階で,原告(請求人)は,「構造が何も特定されていない『係止8体』が,『地震時に』若しくは『地震のゆれがなくなること』によって,『扉等の開く動きを許容しない』,『扉等の開く動きを許容しない状態を保持』若しくは『扉等の開く動きを許容』という状態になると記載されているのみであり,当該各状態を実現するための手段,手順等が一切記載されていない。したがって,特許請求の範囲が不明確であり特許法第36条第6項第2号に違反し無効理由を有するものである。」と主張したのに対し,審決は,「これらの地震時若しくは地震のゆれがなくなることに伴う係止体の状態の記載は,発明を特定するために必要な事項として記載されたものであり,特許請求の範囲が不明確であるとはいえない。」(審決謄本5頁第5段落)とするのみである。
本件発明1の特許請求の範囲の記載は,「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法」というものであるところ,ここに表れる構成は,「扉等」,「棚本体側」,「棚本体側に取り付けられた装置本体」,「係止体」のみであって,その余はすべて機能的記載である。
そして,前記( )ないし( )のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明及び36図面を参酌しても,依然として,「係止体」における「扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない」との機能的記載の意義,「わずかに」の意義などが明らかではない。
したがって,原告の指摘する点について,「発明を特定するために必要な事項として記載されたものであり,特許請求の範囲が不明確であるとはいえない。」とした審決の認定判断は誤りというほかない。
( )以上によれば,本件発明1は,特許請求の範囲の記載が明確でないという9ことができ,また,本件発明1を引用する本件発明2ないし4も,特許請求の範囲の記載が明確でないということができる。
そうすると,本件明細書は,特許法旧36条6項2号に規定する記載要件を満たしておらず,本件各発明に係る特許は,特許法123条1項4号に該当するものとして,無効とされるべきものであるから,上記記載要件に適合しているとした審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであって,原告の取消事由1の主張は理由がある。
2以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明