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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ネ35職務発明の対価請求控訴事件 判例 特許
平成11ネ3208補償金請求控訴事件 判例 特許
平成17ワ14399職務発明対価請求事件 判例 特許
平成15ワ29080補償金請求事件 判例 特許
平成11ワ12699売買代金等請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  職務発明 /  業務範囲 /  現在または過去の職務(現在又は過去の職務) /  相当の対価(相当な対価) /  技術的思想 /  創作性(創作) /  新規性 /  共同発明 /  進歩性(29条2項) /  寄せ集め /  技術的範囲 /  技術情報 /  着想 /  実施料相当額 /  数値限定 /  特許発明 /  実施 /  業として /  侵害 /  乗じた額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  共同発明者 /  対価 /  減縮 /  不実施 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 2790号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人(原審原告) A
同訴訟代理人弁護士 海渡雄一
同 戸田綾美
被控訴人(原審被告) 東燃化学株式会社
被控訴人(原審被告) 東燃ゼネラル石油株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 山内信俊
同 森 雄一郎
同 小山修司
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審で追加された控訴人の予備的請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は全部控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) (主位的請求)被控訴人らは、控訴人に対し、各自金1億0170万円及びこれに対する平成14年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)被控訴人らは、控訴人に対し、各自金6508万円を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら 主文同旨
事案の概要
1 控訴人は、原審において、@本件出願発明(原判決12頁24行目以下)は本件原告提案(原判決12頁11行目以下)の技術的範囲に属し、控訴人がその共同発明者の一人であるにもかかわらず、被控訴人東燃化学株式会社(以下「被控訴人東燃化学」という。)は本件出願発明につき特許の出願をするに当たり共同発明者から控訴人を除外して出願をしたとし、同被控訴人のこの行為は、控訴人の発明者としての名誉権等の人格権及び特許を受ける権利侵害に当たると主張するとともに、A被控訴人東燃化学が、控訴人に実施料を支払わずに本件原告提案に係る発明ないし一連の技術ノウハウ(***************************************************************************************以下「本件ノウハウ」という。)を使用していると主張して、共同不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求として、被控訴人らに対し、包括的な損害金として各自金1億5256万円及びこれに対する平成14年7月30日(原審訴状送達の日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原判決は、控訴人が本件出願発明の発明者とはいえないから、被控訴人東燃化学が本件出願発明につき特許出願をするに当たり、共同発明者から控訴人を除外して出願したことは、控訴人の発明者としての名誉権等の人格権及び特許を受ける権利侵害するものではなく、また、本件出願発明及び本件ノウハウは、被控訴人東燃化学に帰属するから、同被控訴人が実施料を支払わずに本件出願発明及び本件ノウハウを実施したとしても、不法行為及び不当利得を構成せず、したがってまた、被控訴人東燃ゼネラル石油株式会社(以下「被控訴人東燃ゼネラル」という。)についても同様に共同不法行為及び不当利得は成立しないとして、控訴人の請求を棄却した。
これに対し、控訴人は、原判決の取消しを求めて本件控訴を提起し、本件出願発明及び本件ノウハウの全体に対する控訴人の貢献度は3分の2であるとして、
金1億0170万円(本件出願発明に関しては、全体の2割である金2034万円、本件ノウハウに関しては、全体の8割である金8136万円)及びこれに対する前同日以降の遅延損害金の支払を求め(請求を減縮)るとともに、追加的な予備的請求として、本件ノウハウについて職務発明対価請求(特許法35条3項)が認められるべきであるとして、被控訴人らに対し、金6508万円の支払を求めた。
2 争いのない事実等、本件の争点は、次のとおり、補正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の1、3」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁11行目から12行目にかけての「所属する社員であり、」を「所属し、平成15年1月末に退職するまで、」と、同行目から13行目にかけての「従事している。」を「従事していた。」と、同14行目から15行目にかけての「属していない。」を「属したことがない。」と改める。
(2) 同7頁18行目の「及び」を「並びに」と改める。
(3) 同8頁7行目の「本件原告提案に係る発明ないし一連の技術ノウハウ」を「本件ノウハウ」と改め、同11行目末尾の次に改行の上、「(8) 本件ノウハウが職務発明に該当するとした場合、控訴人は被控訴人らに対し特許法35条に基づく相当の対価の請求権を有するか。」を加える。
争点に関する当事者の主張
本件の争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決9頁9行目の「本件原告提案は」を「本件原告提案の内容となっている事項は」と改め、同17行目の「提出されるまでは、」の次に「*****************************として」を加え、同19行目及び22行目の各「上記実習生報告書」をいずれも「実習生報告書」と改める。
2 同12頁24行目の「本件原告提案に係る一連の技術」、同25行目の「本件原告提案に係る発明ないし一連の技術ノウハウ」、同末行から同13頁1行目にかけての「このような発明ないし技術ノウハウ」、同23行目の「上記一連のノウハウ」、同14頁9行目の「上記一連の技術」、同21行目から22行目にかけての「本件原告提案に係るノウハウ」をいずれも「本件ノウハウ」と改める。
3 同15頁16行目の「上記実習生報告書」を「実習生報告書」と改める。
4 同23頁21行目の「本件原告提案に係る一連の技術」、同22行目、同24頁18行目、同25頁9行目及び同11行目から12行目にかけての各「「一連の技術」」」をいずれも「本件ノウハウ」と改める。
5 同28頁2行目及び10行目の各「出願」をいずれも「本件出願」と改める。
6 同29頁15行目の「本件原告提案に係る技術ノウハウ」、同18行目の「一連の技術ノウハウ」、同19行目の「これら一連の技術」、同21行目の「上記の一連の技術」、同30頁7行目の「本件原告提案に係る技術ノウハウ」をいずれも「本件ノウハウ」と改める。
7 同33頁14行目の「本件原告提案に係る発明及び技術ノウハウ」を「本件ノウハウ」と、同34頁2行目の「本件原告提案」から同3行目の「支払うべきである」までを「本件ノウハウの全体に対する控訴人の貢献度は3分の2であるというべきところ、被控訴人らはこれらを実施するに当たり、その実施料相当額の3分の2に相当する1億0170万円を控訴人に支払うべきである」と、同6行目の「1億5256万円」を「1億0170万円」と改める。
8 同34頁11行目の次に改行の上、以下のとおり加える。
「8 争点(8)(本件ノウハウが職務発明に該当するとした場合、控訴人は被控訴人らに対し特許法35条に基づく相当の対価の請求権を有するか)について[控訴人の主張] (1) 本件ノウハウは、以下に詳述するとおり、*********をもたらした画期的ノウハウであり、新規性進歩性を有する発明に該当するものである。これは、控訴人が直接の職務命令を受けて発明したものではないが、被控訴人東燃化学の工場の運転管理を務めるオペレーターとしての控訴人の職務内容に含まれるものであるから、控訴人の職務発明となる。
そして、本件ノウハウは、控訴人の着想を主要な内容としているところ、
控訴人は自らの着想を被控訴人東燃化学の設備や人的資源を利用することなく独自に考案しており、本件ノウハウに対する控訴人の貢献度は80%を下らない。また、控訴人が本件ノウハウを提案した後、担当者らによって検証実験が行われたが、これは運転の条件などを確認したものにすぎず、その内容に格別の独自性は存しないので、本件ノウハウの共同発明者の中における控訴人の貢献度は、少なくとも3分の2は下らない。
したがって、本件訴訟において請求した本件ノウハウの実施料相当額(全請求額1億5256万円の80%)に、共同発明者としての貢献割合の3分の2を乗じた額のうち、少なくとも80%(被控訴人らの貢献度を20%とみてこれを控除したもの)である6508万円を、本件ノウハウについて職務発明対価として請求する。
(2) 本件ノウハウに新規性があることは、被控訴人らが本件ノウハウの実施前に行った先行特許の調査(甲23、24)において明らかである。また、本件ノウハウの進歩性も、その効果の顕著性、非予測性、構成の困難性、長年にわたる「発明の不実施」などから明らかである。
現代においては、様々な技術を組み合わせ、結合して新たな技術を作り出し、顕著な効果を生み出す点に発明の進歩性が認められるところ、本件ノウハウは、有機的一体的な重要な技術であり、そこに技術の組合せによる発明の進歩性が認められる。このことは、プロセス設計の専門家であるBが本件出願発明及び本件ノウハウについて評価をまとめた書面(甲39の1、甲49、以下「B書面」という。)からも明らかである。
さらに、ノウハウを提案した従業員に対価請求が認められることは、東京地裁昭和58年12月23日判決(無体集5巻3号844頁、以下「参考判決」という。)が、「特許法35条職務発明は、特許発明に限定されてはいないから、
発明でありさえすれば特許されたものであろうとなかろうと同条の適用がある。いわゆるノウ・ハウも、発明の実質を備えるものであれば・・・同条の職務発明となりうる。」と判示するとおりである。しかも、本件では、被控訴人らが、他社への技術漏洩を避けるために、出願の範囲を限定し、出願されたDIBの精製技術は、
控訴人が提案した********全体の一部にすぎず、控訴人が提案した技術の重要な部分は、ノウハウとして社内に留保されたものである。
[被控訴人らの主張] (1) 職務発明とは、「その性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」(特許法35条1項)をいうところ、本件ノウハウとは本件原告提案のことであり、そもそも本件原告提案は「発明」ではなく、職務発明の成立要件の1つである「従業者等のなした発明であること」を満たさないから、控訴人の職務発明対価請求に関する予備的主張は、理由のないことが明らかである。
(2) 控訴人は「本件ノウハウ」も共同発明であるとしているようであるが、本件ノウハウには控訴人が自らの着想でないと自認している水の添加比に関する数値限定が含まれていないのであるから、控訴人の主張を前提とすれば共同発明とならないということとなり矛盾している。また、控訴人は、本件ノウハウの進歩性及び新規性などと称し、従来どおりの主張を重複させているが、いずれも理由がない。なお、被控訴人東燃化学が行った先行特許調査は、特許出願準備作業として企業において通常行われるものにすぎないのであって、それを行ったという事実は、本件原告提案の「進歩性ないし新規性」を基礎付けるものではない。
本件原告提案は、実習生報告書の域を超えるものではない上、「発明」にすら該当しない要素を単に寄せ集めたものであり、それに新規性進歩性が認められないことは明らかである。B書面に依拠した控訴人の主張も、本件紛争の争点の判断に何ら新たな視点を提供するものではない。
なお、本件原告人提案は「発明」ではないのであるから、控訴人が参考判決を挙げて自己の見解の論拠としているのは当を得ないものである。また、控訴人は、本件原告提案のいかなる部分が本件出願発明に含まれていないと主張するのか明らかではないし、被控訴人らが当該部分をノウハウとして社内に留保したという主張は、具体的な主張立証を欠くものである。」
当裁判所の判断
(主位的請求について) 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する主位的請求は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1ないし6の記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決34頁20行目の「記載されている。」の次に「そして、乙15及び弁論の全趣旨によれば、下記(ア)の******************************************************************************************」を加え、同35頁9行目冒頭から同11行目末尾までを削除する。
(2) 同35頁13行目及び14行目の各「報告書」をいずれも「実習生報告書」と改め、同15行目の「上昇時、」の次に「************を保つためには」を加える。
(3) 同36頁14行目の「上記実習生報告書」を「実習生報告書」と改める。
(4) 同37頁12行目の「によれば、」を「には、製造技術課においては、」と、同18行目の「判明した。」を「判明したこと、」と、同21行目から22行目にかけての「運転指針が立てられた。」を「運転指針が立てられたことが記載されている。」と改める。
(5) 同40頁1行目の「3000円であったが、」を「3000円であった(乙9)が、」と改める。
(6) 同41頁5行目の「によれば、」を「には、」と、同6行目の「検討していた。」を「検討していたこと、」と、同8行目の「配布されていた。」を「配布されていたこと、」と、同10行目の「検討していたものである。」を「検討していたことが記載されている。」と、同末行の「によれば、」を「には、」と、同42頁2行目の「考えられた。」を「する検討結果が出されたことが記載されている。」と改める。
(7) 同43頁25行目の「内容から、******には」を「内容には、*******に、」と、同末行の「存在していた。」を「存在することを前提とするものが含まれている。」と改める。
(8) 同45頁7行目から8行目にかけての「被告東燃化学がその再提案という形で提出した」を「被控訴人東燃化学は、控訴人に94年提案書に係る提案を再提案という形で提出させた」と、同14行目の「甲19」を「甲19、乙9」と、同16行目の「平成8年7月8日、被告東燃化学、」は、「被控訴人東燃化学においては、平成8年6月20日付けの技開センターからの依頼により、技術情報関連グループが、」と、同19行目の「調査を行った。」を「調査を行い、同年7月8日、その内容を報告した。」と、同20行目の「同被告は、同年9月18日には、」を「技術情報関連グループは、同年7月16日付けの技開センター・化成品開発グループの依頼により、」と、同21行目の「調査を行った」を「調査を行い、同年9月18日にその内容を報告した」と改める。
(9) 同49頁21行目の「意義を有する。」を「意義を有するにとどまるものである。」と改める。
(10) 同53頁25行目の「また、」を「したがって、本件原告提案のうちでは、」と、同54頁1行目から2行目にかけての「貢献したものである。もっとも、本件原告提案Bは、」を「貢献したものといえるが、同提案が」と、同3行目の「該当しないものである。」を「該当しないことは既に説示したとおりである。」と改める。
2 控訴理由について、以下付言する。
(1) 控訴人は、94年提案書において、*********************************を提案するとともに、***************を水洗塔にて洗浄しDIBを精製する方法を指摘し、これを受けて被控訴人東燃化学の製造1課と化成品開発グループが協同開発業務を開始し、さらに、95年補足説明書において、WATER WASH MIXER SETTLERシステムを活用するDIB精製方法を提案し、その直後から検証実験が行われて本件出願発明及び本件ノウハウが完成しており、控訴人が着想の提供を行い、化成品開発グループ等のメンバーが検証実験を行ったのであるから、控訴人と上記メンバーは共同発明者に該当すると主張する。
しかしながら、*********における*******としてDIBを活用することと、***************を水洗浄しDIBを精製する方法とは、既に実習生報告書に記載されていた事項であり、94年提案書における新たな提案が、水を添加してTBAを除去する方法として水洗塔を利用する点にすぎないこと、また、95年補足説明書は、TBAを除去する方法として、水を添加して撹拌した後これを静置する液-液平衡に基づく抽出操作を前提としてWATER WASH MIXER SETTLERシステム活用を提案するものであるところ、被控訴人東燃化学は95年補足説明書が提出されるまでに既に同システムと同様の水抽出方法によるTBAの除去の実験を行ってたものであり、95年補足説明書は、上記除去方法を実用化できる既存設備を指摘したにとどまることは、原判決説示(47頁5行目ないし53頁6行目)のとおりであり、本件原告提案が、本件出願発明の着想を提供したものと認められないことは明らかであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
なお、控訴人は、原判決が、実習生報告書と上記の協同開発業務との関係について、被控訴人らから何らの主張立証もないのに、上記業務が実習生報告書に基づくものであると認定しており、審理不尽であると主張する。
しかしながら、原判決は、その説示において、被控訴人東燃化学においては、遅くとも平成3年から、*****のためのアプローチの仕方として、a *****************で多く生成させる方法と、b *******************から導入する方法の両方が検討課題とされ、実習生報告書も、******の導入の可能性について言及し、今後の検討課題として上記の両方のアプローチを掲げていたとの認定を前提とし、同社は、当初は、TBA除去の具体策を欠いたため、bのアプローチよりaのアプローチが優先して進められていたとした上、実習生報告書の研修課題とされていた上記のbのアプローチについて、これに関する実験を復活させる契機となったのは、控訴人の94年提案書であると認定しており、控訴人主張の協同開発業務の開始が実習生報告書自体に基づくものであると認定しているわけではないから、控訴人の上記主張は、原判決を正解しないで非難するものであり、失当といわなければならない。
(2) 控訴人は、実習生報告書の提出時から本件原告提案がなされるまでの間、
被控訴人東燃化学において、******導入の研究開発は全く行われておらず、
*****に必要な*******は、***********で生成させるという方向での対策が行われており、このことは、******を生成増加する対策を採用していた被控訴人東燃化学の製造技術課が、本件原告提案の検討を拒否し、当初、上記の協同開発業務に参加していなかったことからも明らかであると主張する。
しかしながら、被控訴人東燃化学において、94年提案書の提出に至るまで上記bのアプローチが無視されていたわけではないことは、原判決説示(47頁6行目ないし48頁13行目)のとおりであり、また、被控訴人東燃化学の製造技術課が、本件原告提案の検討を拒否したことを認めるに足りる客観的証拠はない(この点に関する控訴人の陳述書(甲25)は措信できない。)。控訴人の上記主張は、採用することができない。
(3) 控訴人は、94年提案書の原案(乙12)における上司所見には、記入した日付けの記載がなく、同原案提出時には、******導入の可能性は確認されておらず、しかも、上記所見を記載した製造1課のC課長は、上記の導入の可能性を協同開発業務の開始により平成7年1月に初めて知ったのであるから、上記所見は、その時点で記載されたものであると主張する。
しかしながら、94年提案書の原案の記載に不合理な点は認められず、また、被控訴人東燃化学において、遅くとも平成3年から、上記aのアプローチとともにbのアプローチも検討課題とされており、実習生報告書も******導入の可能性について言及し、今後の検討課題として両方のアプローチを掲げていたことは既に説示したとおりであり、前記引用に係る原判決第4の1(1)ウの認定事実をも考え併せれば、***製造の関係部署である製造1課のC課長はかかる経緯を認識していたと認めるのが相当である。同原案の上司所見が平成7年1月に記載されたものであるとする控訴人の主張は、独自の憶測に基づくものであって、到底、採用することができない。
さらに、原告は、本当に実習生報告書により協同開発業務が開始されていたのなら、94年提案書(甲1)の上司所見欄に実習生報告書についてのコメントがないことはあり得ないと主張するが、94年提案書の原案に上司所見として指摘した事項を94年提案書に改めて記載しなかったとしても、不合理であるとは認められず、控訴人のこの点の主張も採用することができない。
(4) 控訴人は、原判決が、94年提案書の提出に至るまで実習生報告書が無視されていなかったことの根拠として、「94年提案書の上司所見で「**********************の一部に使用可能か検討を進めているところである」との記載があり、委員会審査においても、化成品開発グループと共同でラボテストを含めて検討を進めている旨の記載もある」と判示したことについて、上記の上司所見及び提案小委員会所見は、94年提案書の6か月ないし10か月後の平成6年11月ころ化成品開発グループと製造第1課によって開始された協同開発業務の結果を反映してなされたものであり、しかも、上記両所見は、控訴人の提案を被控訴人東燃化学が再評価した再提案書(乙7)によって否定されていると主張する。
しかしながら、上記の上司所見及び提案小委員会所見が、被控訴人東燃化学において*****のため上記aのアプローチだけでなくbのアプローチも検討課題とされてきた前記説示の経緯を踏まえたものであることは明らかであって、94年提案書提出の6か月ないし10か月後の平成6年11月ころ開始された協同開発業務の結果を反映したものであるとする控訴人の主張は、独自の憶測に基づくものというほかなく、また、再提案書は、控訴人の94年提案書を協同開発業務の契機となった点から再評価されたものであり、その再評価により、上記両所見自体が否定されたというものではないから、控訴人の上記主張を採用する余地はない。
(5) 控訴人は、その他、******、水の添加比、ミキサー・セトラー等の技術的争点について縷々主張するが、これらはいずれも原判決を正解せずに論難するか、又は独自の見解に基づいてこれを非難するものであって、採用の限りではない。
(当審において追加された予備的請求について) 1 控訴人は、被控訴人ら各自に対し、本件ノウハウについて職務発明対価請求(金6508万円)が認められるべきであると主張する(なお、控訴人の上記主張は、本件ノウハウが、被控訴人東燃化学に単独で帰属することを前提としているのか、同被控訴人と被控訴人東燃ゼネラルの双方に帰属することを前提としているのか明らかではないが、主位的請求と同様に、被控訴人両名各自に対し上記金員を請求するものと善解することとする。)。
2 そこで検討するに、控訴人主張の本件ノウハウとは、本件原告提案(原判決4頁11行目以下)と同旨であるところ、本件原告提案@及びAの「******************************************************************粗DIBに水を添加してTBAを除去し生成する方法」が、既に実習生報告書において報告された技術事項であることは、原判決認定(35頁12行目ないし36頁19行目、47頁6行目ないし49頁21行目)のとおりである。そうすると、上記@及びAのノウハウが特許要件を具備するものか否か、特許発明に至らない程度の一定の技術的ノウハウに関して、特許法35条所定の職務発明対価請求の規定の(類推)適用があるか否かの議論はさておき、上記@及びAのノウハウを控訴人が新規に提案したものでないことは明らかであるから、その対価請求が認められないことは当然といえる。
また、本件原告提案Bの「WATER WASH MIXER SETTLERシステムを使用して精製する方法」は、控訴人の提案に係るものと認められるが、これは、原判決認定(50頁6行目ないし同頁26行目、52頁1行目ないし同頁23行目、53頁8行目ないし同頁14行目)のとおり、既存の遊休設備「WATER WASH MIXER SETTLERシステム」(*********************)の利用の可能性を指摘したものにすぎない(本件ノウハウに、******の使用や2段工程の水洗浄によるTBAの除去方法が含まれていないことは、控訴人も自認している。)。同提案は、このように技術的思想創作と関わりのない業務改善的な指摘事項であって、特許出願をしても特許を受ける余地のないものであり、同提案について職務発明対価請求の規定の(類推)適用がないことは明らかである。
したがって、控訴人の予備的請求に関する主張は、採用することができない。
(結論) 以上のとおり、控訴人の主位的請求にはいずれも理由がないと判断した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、また、当審で追加された控訴人の予備的請求も理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 青柳馨
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人