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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ネ3208補償金請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10008職務発明対価支払等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ6451各補償金請求控訴事件 判例 特許
平成16ネ2790損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  相当の対価(相当な対価) /  外国の特許 /  準拠法 /  黙示の合意 /  自然法則 /  技術的思想 /  有用性 /  創作性(創作) /  物の発明 /  共同発明 /  物質発明 /  技術的範囲 /  共有 /  着想 /  置換 /  特許発明 /  実施 /  共同発明者 /  混同 /  対価 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (ネ) 10074号 職務発明対価請求控訴事件
控訴人(原告)X ,,,,,, 訴訟代理人弁護士飯沼春樹 児玉譲 黒澤基弘 竹山拓 櫻井和子 武内正樹 平田啓子,長町真一,
被控訴人(被告)大塚製薬株式会社
訴訟代理人弁護士松本司,山形康郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1控訴人の求めた裁判1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成17年7月28日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要, 「」,「」,「」,「」, 本判決においては 原判決と同様に又はこれに準じて 本件特許本件発明AB「C「本件誘導体「本件製剤「本件研究「合成部門月報「生物部門月報「甲10 」,」,」,」,」,」,出願「甲10実験「甲12特許」等の略称を用いる。 」,」,1本件は,被控訴人の有していた,テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体とそれを含有する医薬成分に関する米国特許権(本件特許権)に係る発明について,被控訴人の元従業員である控訴人が,同発明は,被控訴人会社在職中に生物系研究者として化合物の生物活性測定等に関与した控訴人を含む複数の発明者による職務発明であり,控訴人は,発明者の一人として,被控訴人に特許を受ける権利(共有持分)を承継させたものであるとして,特許法35条3項(予備的に,被控訴人の発明考案取扱規程11条1項)に基づいて,その相当の対価として内金1億円及びこれに対する,本訴状送達の日の翌日である平成17年7月28日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
これに対し,原判決は,主位的請求については,外国の特許を受ける権利について特許法35条3項の適用はないと判断し,予備的請求については,控訴人は本件発明の発明者ではないとして,控訴人の請求を棄却した。
そこで,控訴人は,原判決を不服として控訴をした。
本件における当事者の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要 「3争点についての当事者の主張」記載のとおり 」であるから,これを引用する。
2当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)(1)外国の特許を受ける権利承継について外国の特許を受ける権利承継についての特許法35条3項の適用の有無に関しては,最高裁平成18年10月17日判決において,同条3項及び4項の規定の趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼすべき状況が存在し,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求について,これらの規定が類推適用されるとの判断が示された。したがって,特許法35条3項に基づく対価請求権は認められないものとした原判決の判断は当該規定の法令解釈の誤りがあるというべきである。
(2)発明者の認定について控訴人には物質の創製及び有用性の発見のいずれに対する貢献も認められないとした原判決の判断には,以下のとおり,重大な事実誤認がある。
ア物質の創製への貢献について(ア)直接的な貢献の有無生物系研究者として物質の生物活性測定及びその分析等に従事した控訴人には医薬品の合成作業への貢献がないことは,原判決認定のとおりである。
しかしながら,医薬品発明は,構造を比較できる対としてサンプリングされた化合物について生物活性を測定し,活性の弱い方をふるい落とし,残った化合物について構造要素が異なる次の対を合成,比較し,弱いものをふるい落とすというように,筋道立てて合成と活性比較を繰り返し,段階的に構造の方向性を決定し,目的とする活性を有する化合物に近づいていく手法(スクリーニング)により完成される。目的とする活性を有する化合物の創製までには 「合成↑合成された化合物の ,スクリーニング↑構造活性相関の検討による次なる合成の方向性の示唆↑示唆された方向性に従った合成↑合成された化合物のスクリーニング↑構造活性相関の検討による次なる合成の方向性の示唆・・・」という連続したサイクルを何度も繰り返す。
これを研究者の役割ごとにみると 合成系研究者は 生物系研究者によるスクリー ,,ニング及び構造活性相関の検討に伴う次なる合成の方向性の示唆に従って合成を行い,一方,生物系研究者は,合成系研究者により合成された化合物をスクリーニングにかけ,目標とする活性の弱いものをふるい落とすとともに,専門の生物学的知見に基づき次なる合成の方向性を検討し示唆するという業務を繰り返すのであり,一方の役割が主で,他方が従という関係に立つものではない。医薬品発明は,合成系担当者と生物系担当者との協働により初めて実現し得る。
原判決は 「スクリーニング」という医薬品発明の根幹をなす作業の意義及びそ ,れに対する控訴人の直接的寄与を誤って評価したものである。
(イ)合成の方向性の示唆の有無医薬品発明は,前記サイクルを何度も繰り返すことにより初めて完成されるものであり,生物系研究者が一定の構造上の方向性を示唆することがないとすれば,合成系研究者が化合物を絞り込んで目標とする活性を有する化合物に近づくことなどおよそ不可能となる。
生物部門月報(乙7)の記載(乙7-8の5頁,同12の3頁,同13-2の3,,,,, 頁 同14-2の3頁 同15-1の3頁 同19-1の4頁 同19-2の1頁同22-1の4頁,同22-2の5頁,同25-1の3頁,同26-2の3頁,同33-3の2頁,同34-3の2頁,同35-2の3頁,同45-2の3頁,同46-1の3頁 同51-2の2頁 によれば 控訴人が 生物的知見・実験デー ,),,タなどを踏まえた検討を積極的に行い,一定の構造上の方向性を示し,生物学的知見に基づく一定の有意な選択肢を提示したことは明らかである。
(ウ)測定方法の工夫原判決は,控訴人が血小板凝集阻害作用を測定するにあたり,実験系に施した工夫(@使用する専用試験管及び攪拌子のサイズを統一することによる血液攪拌速度の一定化,A披検サンプルと対象サンプルとを常に時間的に「対」として実験を行うことによる凝集活性における時間的影響の排除,B測定機器の改良による実験の効率化,C適切な実験素材の選択)について 「公知の実験方法に近似した方法に ,従(ったもの「当業者が通常行う程度の工夫 「 公知の)測定方法における基 )」, 」(本的枠組を変更するものではない」等の評価を下し,測定方法の観点からも控訴人による合成への貢献を認めることはできないと判断した。
しかしながら,1つの新薬を開発するためには数百から数千もの化合物がスクリーニングテストにかけられながら合成されるのであって,優良な生物活性測定系がなければ,一連のスクリーニングに供さねばならない合成個数は増加の一途をたどることになる。本件発明は,公知の方法によっては完成し得なかったのであり,控訴人の行った工夫は「当業者が通常行う程度の工夫」などではない。
有用性の発見への貢献について原判決は,本件発明の有用性が,血小板凝集阻害作用,血管拡張作用,心拍数増加抑制作用にあると認定した上で,これらの目標設定につき控訴人の関与は認められないと判示する。
(ア)カルテオロールの血小板凝集阻害作用の発見甲10実験の結果は,科学的に看過できない全く誤ったものである。かかる結果をスタートとして,目標とする活性を有する化合物の合成にたどり着くことはあり得ない。本件発明の出発点は,カルテオロールではなくカルボスチリル骨格であり(甲8の1248頁 ,カルテオロールには弱い抗血小板作用しかないという控訴 )人による正しい実験結果に基づき開始されたものである。
原判決は,誤った実験結果に基づく発見であっても,目標設定の出発点として評価し得るとするが,かかる判断は,目標設定が,有用性の発見には絶対に結びつき得ないものであっても発明への貢献があるとするものであり,不当である。
(イ)血管拡張作用及び心拍数増加抑制作用の目標設定a原判決は,TXA 及び PGI の発見,並びに脈管系の恒常性が TXA -PGI の両物2 2 22質のバランスにより保たれていることの解明を契機として,本件研究において血管拡張作用が目標に加えられたと考えられると認定したが,このような認定をなすべき根拠はない。
甲7(88頁)及び甲8(1251頁)には,血小板凝集阻害作用を持つ本件発明の目標として,TXA 受容体拮抗剤,安定な PGI 誘導体の構造を目標には取り入2 2れないことと決定されたこと,及び,血管拡張作用の目標設定が,TXA ,PGI の発 22見とは全く関連性なく,当時の医学的常識から抗血栓剤の対象疾患の症状改善に必須の作用として,プロジェクトチームによりなされたものであることが明記されている。そして,控訴人が当該プロジェクトチームの主導的地位にあったことは,甲7,8,11,14に照らし,明らかである。
当該プロジェクトチームは,当時の科学的発見などと本件発明の方向性を関連付けて抗血小板剤探索研究をコントロールしていたものであるところ,同チームとしては,発明過程にある1群の化合物の最終的な働きは,正常な体の中で血栓を抑制する大事な物質である PGI と同じ作用(血小板の cAMP を増やす作用)を持つこと2から,PGI の構造を参考にしなくてもよいとの判断を示したもので,かかる判断を 2主導したのは,化合物群の生物活性を正しく測定・検討する役割を担っていた控訴人以外にはあり得ない。
さらに,PGI の発見以前には,PGI と構造が類似し,同じく強力な抗血小板作用2 2を持つ PGE が発見されており,当該物質が抗血小板薬開発のモデルとなっていた 1ものであるが,控訴人が,発明過程の初期から継続して,その PGE と本件発明の 1方向性を関連付けて抗血小板剤探索研究をコントロールしていたことは,先に引用(,,, した生物部門月報 乙7-19-1の4頁 同19-2の1頁 同22-2の5頁同25-1の3頁,同35-2の3頁,同46-1の3頁等)において 「PGE ,,」1「phosphodiesterase」及びその略語である「PDE」や「cAMP」といった専門用語を用い記録されているとおりである。
b心拍数増加抑制作用の目標設定については,本件発明に係るプロジェクトチームによりなされたものであるところ,前記のとおり,控訴人が当該チームの主導的地位にあったことは明らかであり,それにもかかわらず,当該目標設定が控訴人の関与なしに行われたとする原判決の認定は不当である。
c本件発明の特徴は,1つの化合物につき1つの活性ではなく,血小板凝集阻害作用,血管拡張作用,心拍数増加抑制作用の3つを併せ持つところにあり,これが本件発明の有用性を高めている。1つの活性を目標として設定した場合でも,スクリーニングに供される化合物の数は数百から数千に上ることが通常であり,3つの目標に向けて構造活性相関研究を行うことは,一般には極めて困難である。このような複数の要件(目標)を掲げたスクリーニングの過程で,最適な化合物のふるい分けを主導したのが控訴人であることは,3要件の関係を明解に表した「代表的化合物のスクリーニング結果」の図(甲9 「薬学と医学の接点」シンポジウム講 ,演録34頁左上図,以下「甲9図」という )が控訴人の手になることから明らか 。
である。甲9図は,本件発明において行われたスクリーニングの成果をまとめた図であり,1化合物につき1つの円が記入され,その円が,図の右へ行くほど抗血小板作用が強くなり,上へ行くほど脳血流増加作用が強くなり,円が大きくなるほど心拍数増加作用が少ないという作用を見極め,他化合物と比較することで構造と活性の関連性を評価できるようにして次なる構造変換を示唆している。
原判決は,甲9図の示す,3つの活性を目標に掲げた本件発明における極めて複雑・困難なスクリーニングに関して控訴人が果たした役割を全く評価していないもので,医薬品発明におけるスクリーニングの重要性についての認識及び証拠の評価を誤ったものである。
ウ控訴人の共同発明者性を証する他の事実について(ア)原判決は,本件発明と同様の過程をたどって完成された甲12特許において控訴人が発明者とされている点について,同特許において発明者とされているとしても本件特許において発明者とされるべき合理性はないものと判示している。
しかしながら,完成した化合物群の構造が異なるからといって,各発明において控訴人を含む生物系研究者の果たした役割が異なるものではなく,いずれの発明においても,控訴人の果たした役割は,生物活性の測定・考察による化合物の選別・合成の方向性示唆であり,用いた測定方法も同様のものである。甲12特許に係る発明と本件発明とでは,目標として付加された作用において,血管内膜肥厚抑制作用(甲12)か血管拡張作用(本件発明)かの違いはあるものの,いずれも主たる目標を抗血小板作用とするもので,新規化合物創製のためのスクリーニングの基本が血小板凝集抑制作用である点で共通しており,用いられた実験系も同様のものである。
甲13に示されているとおり,平成元年(1989年)以降の物質特許においては,ほぼ全ての特許について,生物系研究者が発明者に加えられているという事実がある。同時期の前後において,医薬品発明における生物系研究者の果たす役割が変わったわけではない。それにもかかわらず,同年以前の物質特許においては,生物系研究者が発明者とされず,同年より後の物質特許においては,ほとんど全てにつき生物系研究者が発明者とされるようになっている。その理由としては,同年以前の被控訴人における発明者の取扱いが誤っており,被控訴人においてその誤りを認め取扱いを正したこと以外には考えられない。
(イ)原判決は,本件発明の共同発明者とされているA及びBが,本件発明における控訴人の貢献は多大であるとの認識を示していることについて,共同発明者の認識という主観的事情に基づいて発明者かどうかを判断することは相当でないとする。
しかしながら,Aの陳述書(甲14)は,同人ら合成系研究者による合成が,控訴人による実験系の確立とそれによるスクリーニング及び検討により示された次なる合成の方向性の示唆を受けて行われたものであり,かかる控訴人らの貢献が本件発明の完成に不可欠であったことを明確に述べるものである。
また,Bの著書「創薬 (甲11)には,本件発明がAを中心とする合成系研究 」者と,控訴人を中心とする生物系研究者の協働によりなし得たものであることが明らかにされている 甲11の Xが中心となり 開発の方向を模索しながらスクリー 。「,ニングを行い (53頁6〜7行)との記載は,控訴人が,医薬品発明の根幹たる 」スクリーニングを実施し,合成の方向性の示唆・目標の設定を行ったことを端的に示している。
(ウ)原判決は,控訴人が,プレタールないしシロスタゾールの研究開発に関し表彰等を受けていること(甲15 ,及び,シロスタゾールを含む化合物群の物質 )特許に関する学術論文を著していることについて,かかる受賞等及び学術論文の著作から本件発明への貢献が直ちに導き出されるものではないとする。
しかしながら,甲15の「血小板凝集作用の生化学的な解明」とは,本件発明の完成後になされたものではなく,あくまで本件発明における目標設定,ないし設定された目標に向けた合成の方向性を示唆する過程でなされたものであって,まさしく本件発明における新規物質の合成及び有用性の発見において控訴人が果たした役割そのものである。
また,シロスタゾールとは,本件発明により合成された新規化合物の中から実際の薬剤の有効成分たるべき化合物として選択されたものであり,当該物質(を有効成分とするプレタール錠)に係る特性の解明とは,すなわち,本件発明に至る過程で行われた,化合物の生物活性の測定・検討の成果の集積を指すものにほかならないのであって,かかる研究開発をもって本件発明とはその内容を異にするものであるとする原判決の判断は誤りである。
3当審における被控訴人の主張の要点(1)外国の特許を受ける権利承継について争う。
(2)発明者の認定について控訴人は,本件誘導体の構造上の方向性ないし合成の方向性の決定に関与せず,有用な用途を見出したものでもない。したがって,控訴人は本件特許の発明者ではない。
ア物質の創製への貢献について(ア)合成の方向性の示唆の有無本件誘導体の開発は,昭和48年11月,既にβ- Blocker として合成に成功していたカルテオロールに抗血小板作用があることが発見されたことから開始され,カルボスチリル骨格の6位の側鎖をエステルとするエステル体(代表的な化合物はOPC-3162)が合成されたが,動物生体内では抗血小板作用が不活性となり,腎毒性が発現するという問題があった。そこで,生物的等価性の知見から,エステル基をアミド基に置換したアミド体が合成された。しかしながら,このアミド体のうち,昭和52年3月に合成され,開発化合物の候補として最有力であったシロスタミド(OPC-3689,乙4)には心拍数増加作用があったため,開発は断念された(甲8の1250頁左欄下から5行から末行 。)その後,甲8(1251頁)に記載されているとおり,創製する化合物の目標が再考され,血栓形成に関与する血小板のみに作用する薬剤を目標とすることから,脳血流増加作用(脳血管拡張作用)をも有する化合物を目標とすることとなった。
また,シロスタミドで見られた心拍数増加作用も同時に測定し,その作用の弱い化合物を選択することが目標に掲げられ,本件研究は,血小板凝集阻害作用,脳血管拡張作用,心拍数増加抑制作用の3つを目標として掲げることとなった。
この目標に従い,昭和53年6月ころから,生物学的等価性の知見から,エステル基のカルボキシル基をテトラゾールに置換するテトラゾール体の合成が試みられ,昭和54年7月,シロスタゾール(OPC-13013)の合成に至った。
本件発明の発明者であるAの月報には,エステル体からアミド体への合成目標の変更(乙6-21の2頁,同22の2頁,同23の2〜4頁 ,アミド体からテト)ラゾール体への合成目標の変更(乙6-38の2〜3頁,同39の2頁)などについての記載がある。Aは,控訴人の所属していた生物部門に対して,合成した化合物のバイオアッセーを依頼することはあっても,合成する物質の構造の方向性につ, , 。 いては 自ら検討しているのであり その決定は控訴人の示唆によるものではない合成研究者は 自らが合成した化合物の薬効を in vitro であれば自ら測定し in , , ,vivo の測定は生物研究者に依頼するが,その測定結果から,薬効と構造との関係を推定することで次の合成に活用する。これに対して,生物研究者は,その化合物の構造を知ることなく,薬効を測定し,その結果を合成研究者に報告するのが通常である。控訴人は,生物部門月報(乙7)の記載を根拠として挙げるが,原判決も判示するとおり,これらの記載は測定結果から直接的に読み取れることができる見解を示したものにすぎず,一定の構造上の方向性を示すものではない。
(イ)測定方法の工夫控訴人は,血小板凝集阻害作用を測定するために独自の工夫をし,本件発明に貢献したと主張する。
しかしながら,データ分析を効率化,迅速化させる方法は,本件誘導体の構造決定を思索する際の支援にはなっても,構造決定を想定すること自体ではない。しかも,控訴人の主張する測定方法及び甲9図は,本件特許の出願明細書にはまったく反映されておらず,いずれの工夫も,透過度を測定し対比するという基本枠組みを変更するものでない。他の作用についての測定方法も,公知又はこれに準ずる方法がとられており,また,3つの要件の関係を甲9図のような形で示すことは,通常なされている分析手法にすぎない。
有用性の発見への貢献について(ア)控訴人は,甲10実験の結果は誤りであると主張するが,カルテオロールには弱いとはいえ,血小板凝集阻害作用があるのであり,カルテオロールに血小板凝集阻害作用があることを発見したのがCであるという事実に変わりはない。その作用を測定することは,公知の通常の試験方法で確認できることである。また,控訴人が被控訴人会社に入社したのは,カルテオロールの化合物群の創製後であるから,控訴人がカルテオロールの抗血小板作用があることを最初に見出したとは考えられない。
(イ)心拍数増加抑制作用を有する物質合成が目標となったのは,シロスタアミドが心拍数増加作用が強いため,開発が断念されたという経緯があるからであり,控訴人がそのような作用を有する物質を合成目標としたわけではない。また,原判決は,TXA 及び PGI の発見及び両物質のバランスに脈管系の恒常性が保たれてい2 2, , るという知見を利用して 血管拡張作用を目標に加えたと判示しているのではなくそのような知見が発表されたことが原因となって,血管拡張作用が目標に加えられたと判示しているのであるから,控訴人の主張は原判決を正解しないものである。
ウ控訴人の共同発明者性を証する他の事実について控訴人は,甲12特許の発明者とされていることから,本件発明についても発明者と認定されるべきであると主張するが,甲12特許は,本件発明のテトラゾール誘導体とは異なる構造のテトラゾール誘導体を対象とし,本件発明にはない「内膜肥厚抑制作用」を有効性として掲げている発明である。
本件発明の化合物は,一群の化合物であるテトラゾール誘導体であり,開発化合物に選定されたのが,シロスタゾールである。控訴人は,本件発明の完成に加担し, , たのではなく シロスタゾールを有効成分とする医薬品プレタールの開発に関与しその作用ないし薬理機序の研究において成果を上げた者である。控訴人の主張は,本件発明の完成後の開発段階での研究,貢献に基づくものであり,発明の完成と医薬品の開発を混同している。
社長賞の表彰もシロスタゾール又はこれを有効成分とする医薬品の特性を発見したことに対する表彰であって,本件物質を合成したことに対する表彰ではない。
第3当裁判所の判断1準拠法について控訴人は,主位的に,特許法35条3項に基づいて,米国特許である本件特許を受ける権利を被控訴人に承継させたことによる対価の支払いを請求し,予備的に,被控訴人規程11条1項に基づく実績補償金の請求をするところ,当事者はいずれの請求についてもその準拠法を我が国の法律とすることを争わず,その旨の黙示の合意が存在したものということができるので,その準拠法は日本法とされるべきである。
2本件発明の発明者について控訴人の請求は,いずれも,控訴人が本件発明の共同発明者であることを前提とするものであるので,この点につき,まず判断する。
発明とは,自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項 ,特許発明技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めな )ければならない(現行の同法70条1項参照 。したがって,発明者と認められる )ためには,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想創作行為に現実に加担したことが必要であり,仮に,当該創作行為に関与し,発明者のために実験を行い,データの収集・分析を行ったとしても,その役割や行為が発明者の, 。 補助をしたにすぎない場合には 創作行為に現実に加担したということはできない本件発明は,物質発明及び当該物質の特定の性質を専ら利用する物の発明(用途発明。請求項25ないし28)であるところ,本件の用途発明(請求項25ないし28)は,既に存在する物質の特定の性質を発見し,それを利用するという意味での用途発明ではなく,物質発明に係る物質についてその用途を示す,いわば物質発明に基づく用途発明であり,その本質は,物質発明の場合と同様に考えることができる。
本件発明に係る化合物に関し,控訴人は,生物系研究者として,その生物活性測定及びその分析等に従事していたものの,当該化合物の合成そのものを担当していたのがAやBらの合成系研究者であることは,当事者間に争いがない。本件においては,控訴人が本件発明の技術的思想創作行為に現実に加担した者といえるかどうかは,@本件発明に係る化合物の構造の研究開発に対する貢献,A生物活性の測定方法に対する貢献,B本件研究における目標の設定や修正に対する貢献を総合的に考慮し,認定されるべきである。
以上の観点から検討するに,当裁判所も,控訴人は,本件発明の共同発明者ということはできないと判断する。その理由は,以下のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断 「2 争点2(原告は,本件発 」明の共同発明者であるか )について (ただし,(3)の「ア 共同発明者の意義」を 。」除く )記載のとおりであるから,これを引用する。 。
(1)化合物の構造の研究開発や研究目標の設定に対する貢献についてア控訴人は,目的とする活性を有する化合物を創製するには 「合成↑合成さ,れた化合物のスクリーニング↑構造活性相関の検討による次なる合成の方向性の示」 , 唆↑示唆された方向性に従った合成 というサイクルを何度も繰り返す必要があり生物系研究者と合成系研究者は,一方の役割が主で,他方が従という関係に立つものではないから,本件発明に係る化合物の創製に対する控訴人の貢献は大きいと主張する。
確かに,創薬(医薬品の発見,開発)は,一般に,@対象疾患の選択,A薬物標的 酵素 受容体 細胞等 の選択 Bバイオアッセイ テスト系 の確立 Cリー (,,),(),ド化合物(目的とする薬物活性のある化合物)の発見,D構造活性相関の検証(スクリーニングテスト ,Eファルマコホア(生物活性に必要で重要な官能基とそれ )ら相互の相対的な空間配置を要約したもの。基本骨格 )の同定,F標的との相互 。
作用の向上,G薬理学的特性の向上,との段階を経て行われるものであり(甲6,27 ,合成された化合物のスクリーニングテストは,化合物の合成の過 )程において,不可欠かつ重要な役割を担うものであるということができる。
しかしながら,前記判示のとおり,本件発明は,物質発明及び当該物質の特定の性質を専ら利用するという物の発明であり,本件の用途発明(請求項25ないし28)もその本質は物質発明の場合と同様に考えることができるところ,本件で, , は 発明に係る化合物の合成そのものを担当していたのは合成系研究者であるから生物系研究者である控訴人が本件発明の技術的思想創作行為に現実に加担したというには,単に本件発明に係る化合物の生物活性の測定及びその分析等に従事しただけでは足りず,その測定結果の分析・考察に基づき,新たな化合物の構造の選択や決定の方向性について示唆を与えるなど,化合物の創製に実質的に貢献したと認められることを要するというべきである。
イ本件では,@カルテオロールに抗血小板作用があることの発見,Aカルボスチリル骨格の測鎖にエステル基を有する化合物(OPC-3162 等)の合成,Bエステル基の腎毒性に対応するためにエステル基からアミド基に置換してなされたシロスタミド(OPC-3689)などのアミド体の合成,Cシロスタミドが心拍数増加作用を有することからなされた創製する化合物の目標の再考,Dシロスタミドに代わる化合物としてのテトラゾール誘導体の合成,などの経緯を経て,本件発明に係る化合物の合成に至ったものと認められる。
控訴人は,上記@からDのうち,@については,甲10の実験が示す結果は科学的に誤ったものであるから,カルテオロールを発見したのがCとはいえないと主張し,A〜B,Dについては,控訴人が化合物の構造等についての方向性を示したものであると主張し,Cについては,控訴人が主導的立場にあるプロジェクトチームが新たな目標を設定したものであると主張する。つまり,控訴人は,本件研究の当初から実質的に関与し,化合物の構造選択・決定の方向性,新たな目標の設定に多大な貢献をしたと主張する。
そこで,これらの点について,順に検討する。
(ア)控訴人は,甲10の実験が示す結果は,科学的に看過できない全く誤ったものであり,本件発明は,カルテオロールには弱い抗血小板作用しかないという控訴人による正しい実験結果に基づき,開始されたものであると主張する。
しかしながら,Cを発明者とする甲10出願の明細書には,カルテオロールに血小板凝集阻害作用があることの着想は示されており,弱いとはいえカルテオロールに実際に血小板凝集阻害作用があることは控訴人も認めるところであるから(控訴理由書17頁10〜11行 ,甲10実験の結果が誤りを含み,控訴人が独自の工 )夫を施した実験方法により正しい結果を測定したとしても,なお,本件研究の契機となったのは,甲10出願の明細書に示されたCの着想であるというべきであり,控訴人の上記測定結果をもって本件研究の端緒ということはできない。
(イ)控訴人は,生物部門月報(乙7)の前記記載(乙7-8の5頁等)に基づき,控訴人が生物的知見・実験データなどを踏まえた検討を積極的に行い,化合物の構造等についての方向性を示し,また,生物学的知見に基づく一定の有意な選択肢を提示したと主張する。
なるほど,控訴人の指摘する生物部門月報(乙7)の該当部分には,控訴人を含む生物系研究者が行った生物活性測定の単なる方法や結果の記述にとどまらず,そのような結果が生じた理由の分析や,今後の検討事項なども記載されており,このような測定結果や分析は,合成系研究者にとって不可欠であり,本件発明に係る化合物の合成を進める基礎となったものと認められる。
しかしながら,乙7の上記記載は,本件発明に至る過程において,合成系研究者が創製した化合物の生物活性測定の結果やその分析,検討事項の指摘にとどまるものであり,このような結果や分析に基づき,新たな化合物の構造の選択や決定の方向性について示唆し,新たな化合物の創製に至ったことを示す記載は存在しない。
かえって,原判決の摘示する合成部門月報(乙6)の該当部分の記載によれば,カルボスチリル骨格の測鎖にエステル基を有する化合物(OPC-3162 等 ,エステル)基の腎毒性に対応するために,エステル基からアミド基に置換してなされたシロスタミド(OPC-3689)などのアミド体,シロスタミドに代わる化合物としてのテトラゾール誘導体など,本件発明に至る経緯における重要な化合物は,いずれも合成系研究者により着想され,検討・工夫され,創製されたものと認められるのであり,化合物の構造の選択や決定の方向性について,生物系研究者から合成系研究者に示唆がされ,それが新たな化合物の創製に至ったと認めるに足る的確な証拠は存在しない。
(ウ)控訴人は,本件研究において血管拡張作用や心拍数増加抑制作用が目標に加えられたのは,控訴人が主導的地位にあるプロジェクトチームよりなされたものであると主張する。
しかしながら,甲7,8によれば,昭和50年から昭和51年にかけて,海外における研究開発が進み,アラキドン酸代謝物として,TXA (血小板で産生され,血2小板凝集作用と血管収縮作用を示す )と,この作用に拮抗する PGI (血管内皮細 。 2胞で産生され,血小板凝集阻害作用と血管拡張作用を示す )が発見され,脈管系 。
の恒常性は,TXA -PGI の両物質のバランスにより保たれていることが判明したた22め,これを踏まえて,被控訴人会社内のプロジェクトチームにおいて,従来どおり血小板のみに作用する薬剤とするか,血管拡張作用を付加した薬剤とするかが議論されたものと認められる。そうすると,本件研究の目標が再検討された際には,血管拡張作用という目標は既に知られていたのであり,控訴人が新たに着想し,提唱したものということはできない。
また,心拍数増加抑制作用という目標も,シロスタミドが心拍数増加作用を有することへの対応として設定されたものであり,控訴人が新たに着想し,設定したものであるということはできない。
(エ)以上によれば,控訴人は,本件発明のきっかけとなるカルテオロールの抗血小板作用の発見,本件発明に至る経緯における重要な化合物の合成,化合物の創製の目標の設定のいずれにおいても,生物活性の測定及びその分析等に従事したにすぎず,本件研究の端緒を与え,化合物の構造選択・決定の方向性を示唆し,新たな研究目標を設定するなどの貢献をしたということはできない。
(2)測定方法の開発に対する貢献についてア控訴人は,控訴人が血小板凝集阻害作用を測定するにあたり研究開発した測定方法(@使用する専用試験管及び攪拌子のサイズを統一することによる血液攪拌速度の一定化,A被検サンプルと対象サンプルとを常に時間的に対として実験を行うことによる凝集活性における時間的影響の排除,B測定機器の改良による実験の効率化,C適切な実験素材の選択)は,独自の工夫に基づくものであり,当業者が通常行う程度の工夫ではないと主張する。
しかしながら,原判決も判示するとおり,上記の各工夫のうち,@及びAは,再現性の向上のために当業者が通常行う程度の工夫であり,B及びCについても,多くの試料を短時間に効率よく測定するための効率性,迅速性の改良に係る工夫にすぎず,これらをもって,控訴人が測定方法を独自に考案したと評価することはできない。
イ控訴人は,本件発明のように,血小板凝集阻害作用,血管拡張作用,心拍数増加抑制作用の3つの目標に向けて構造活性相関研究を行うことは,一般には極めて困難であり,このような複数の要件(目標)を掲げたスクリーニングの過程で,最適な化合物のふるい分けを主導したのが控訴人であることは,3要件の関係を明解に表した甲9図(控訴人作成)からも明らかであると主張する。
しかしながら,上記3つの目標に向けて構造活性相関研究を行うことが困難であるとしても,その研究が,合成系研究者が合成した化合物の生物活性測定の結果やその分析,検討事項の指摘にとどまる以上,本件発明の技術的思想創作行為に現実に加担したということはできず,また,甲9図は,作成時点や作成経過は明らかではなく,その内容もスクリーニング結果を示すものにすぎないのであって,控訴人が本件発明の技術的思想創作行為に現実に加担したことを基礎付けるに足るものとはいえない。
(3)控訴人主張に係る他の事実についてア控訴人が発明者とされている甲12特許と本件発明とは,いずれも主たる目標を抗血小板作用とするもので,新規化合物創製のためのスクリーニングの基本も共通しており,用いられた実験系も同様であるから,両発明とも発明者は控訴人であると主張する。
しかしながら,甲12特許は,本件特許と同様,カルボスチリル誘導体に関するものであるが,本件発明の誘導体群とは構造が異なっており,甲12特許の明細書においては,本件特許にはない「血管内膜肥厚抑制作用」が掲げられているのであるから(甲12の段落【0026 【0027,原告が甲12特許において共同 】】)発明者とされたからといって,直ちに本件発明の共同発明者であると認められるものではない。
イ被控訴人会社における平成元年(1989年)以前の物質特許においては,生物系研究者が発明者とされなかったが,同年より後の物質特許においては,ほとんど全てにつき生物系研究者が発明者とされるようになったのは,同年以前の被控訴人における発明者の取扱いが誤っていたことを示すものであると主張するが,そもそも発明者は各発明ごとに個別的に認定されるべきものである上,同年以前の物質特許についての被控訴人の発明者の取扱いが誤っていたと認めるに足る的確な証拠もない。
ウ控訴人は,控訴人が本件発明の発明者であることを基礎付ける事実として,A及びBが控訴人が本件発明に多大な貢献をしたとの認識を示していることを指摘する。
確かに,本件発明に至る過程において,控訴人を含む生物系研究者が生物活性測定やその分析等において一定の役割を果たしていたことは前記判示のとおりであり,A及びBがこれらの役割を評価していたことはうかがわれるが,Bの著作に係る文献(甲11)には,その末尾に 「薬理生化学分野ではXが中心となり,開発 ,の方向を模索しながらスクリーニングを行い抗血小板剤として仕上げた 」と記載。
されているのみで,具体的にいかなる役割を果たしたかについての記載はなく,Aの陳述書(甲14)にも「Xから「血小板凝集阻害作用を,以前はうまく測定できなかったが,改良して再現性のある良い試験法が確立できた 」との報告を受けま。
した 」などの記載があるにすぎず,これをもって,控訴人が本件発明の技術的思 。
想の創作行為に現実に加担したと認めることもできない。
エ控訴人は,発明者であることを基礎付ける事実として,控訴人がプレタール(),, ないしシロスタゾールの研究開発に関し社長表彰等を受けたこと 甲15及び控訴人がシロスタゾールを含む化合物群の特許について学術論文(甲17の1)を著していることを指摘する。
しかし,被控訴人会社による表彰は 「血小板凝集抑制作用の生化学的な解明に ,つとめ抗血小板薬プレタールの特性を発見」したことが受賞内容となっている(甲15)ところ,血小板凝集抑制作用の生化学的な解明やプレタールの特性の発見は,本件発明における新規物質の合成や有用性の発見ということとは異なるものであり,また,社内での表彰された事実から控訴人が本件発明の共同発明者であるとの結論を導くことができるものではない。
また,同様に,控訴人がシロスタゾールを含む化合物群の物質特許に関する学術論文等を著作しているとしても,そのことから,控訴人が本件発明の共同発明者であるとの結論が導かれるものでもない。
(4)以上によれば,控訴人が本件発明の技術的思想創作行為に現実に加担し, 。 たということはできず 控訴人を本件発明の発明者であると認めることはできない3結論したがって,控訴人の本件請求はいずれも理由がなく棄却を免れないから,原判決は結論において正当であり,控訴については,理由がないものとして,これを棄却することとする。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 佐藤達文
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