関連審決 | 不服2003-13834 |
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関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 物の発明 / 方法の発明 / 使用方法 / 物質発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明が明確 / 明細書の記載要件 / 着想 / 抵触 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 発明の範囲 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
298号
審決取消請求事件
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原告 有限会社ユース北浦 訴訟代理人弁理士 大森泉 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 橋祐介 同 田中弘満 同 高木進 同 岡田孝博 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/02/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2003-13834号事件について平成16年6月1日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年6月28日,発明の名称を「壁用パネル状材の取付金具」とする特許出願(特願平11-182344号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成15年6月26日に拒絶の査定を受けたので,同年7月18日,これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は,同請求を不服2003-13834号事件として審理した結果,平成16年6月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。 2 本件出願の願書に添付した明細書(平成15年3月20日付け手続補正書による補正に係るもの。以下,願書に添付した図面と併せて,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項4】記載の発明の要旨 【請求項1】隣り合う壁用パネル状材を端部同士を互いに突き合わせた状態で壁下地材に取り付ける壁用パネル状材の取付構造において,前記隣り合う壁用パネル状材の突き合わせ部に介装されて各壁用パネル状材を前記壁下地材に取り付ける取付金具であって,前記隣り合う壁用パネル状材のうちの一方のものの裏面に対向され,該壁用パネル状材の前記壁下地材側への移動を阻止する第一の台座部と,前記隣り合う壁用パネル状材のうちの他方のものの裏面に対向され,該壁用パネル状材の前記壁下地材側への移動を阻止する第二の台座部と,前記一方の壁用パネル状材の一端部を係合され,該壁用パネル状材の前記他方の壁用パネル状材側への移動および前記壁下地材から遠ざかる向きへの移動を阻止する第一の係合部と,前記他方の壁用パネル状材の一端部を係合され,該壁用パネル状材の前記一方の壁用パネル状材側への移動および前記壁下地材から遠ざかる向きへの移動を阻止する第二の係合部と,前記第二の係合部と前記第二の台座部との間に設けられており,前記第二の台座部より低く落ち込んでいる凹部とを有してなり,当該取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになっており,かつ前記凹部の底部のうちの前記第二の係合部に隣接する部分は,前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く登坂部を構成していて,この登坂部は前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するようになっている壁用パネル状材の取付金具。 【請求項4】前記第一の係合部は雌実を形成された前記一方の壁用パネル状材の一端部を係合され,前記第二の係合部は雄実を形成された前記他方の壁用パネル状材の一端部を係合される請求項1,2または3記載の壁用パネル状材の取付金具。 (以下,上記請求項4に係る発明のうち,請求項1を引用した発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平11-81615号公報(甲2,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明を検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものであるとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との相違点1,2に関する判断を誤った(取消事由1,2)上,本願発明の作用効果に関する判断を誤った(取消事由3)ものであり,また,特許法159条2項,50条に違反する手続違背を犯した(取消事由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点1の判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点1として認定した,「本願発明においては,取付金具に壁用パネル状材を取り付けるにあたって,前記取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになっているのに対して,引用例に記載された発明(注,引用発明)では,取付金具への壁用パネル状材の取り付け方は記載されていない点」(審決謄本5頁第2段落,以下「相違点1」という。)について,「物の発明においては,原則として,物の構成をもってその内容を把握すべきであり,構成要件の中に,物の客観的な構成のほかに,当該構成の用途や使用方法等が記載されていたとしても,その用途や使用方法等に適するようにするために当該構成が特定の構成に限られることがなければ,それらの用途や使用方法等の記載は,発明の構成を更に限定するものではないというべきである。そして,そのような場合,発明の構成は,物の客観的な構成を記載した部分によって明らかにされているものと解すべきである」(同頁最終段落〜同6頁第1段落)とした上,「そこで,本願発明をみると,上記相違点1に係る記載は,壁用パネル状材の取付金具への取付方法に関する記載であり,前記の取付方法に関する記載が物の構成である取付金具の構造ないし性質,性状その他構成自体を特定する要件として特段の意味を有するとは認められず,この記載の有無によって,『取付金具』である両者の構成に実質的な差異があるとは認められない」(同頁第2段落)と判断した。 (2) しかしながら,審決は,以下のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲の記載に関する認定判断を誤ったものである。 ア 特許請求の範囲の記載は,保護を受けようとする発明を特定していれば足り,その表現形式は特定の表現形式に制限されるべきものではない。このことは,「明細書及び特許請求の範囲の記載要件の改訂審査基準」(甲5添付,以下「審査基準」という。)においても,「(留意事項)@第36条第5項の『特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載』すべき旨の規定の趣旨からみて,出願人が請求項において特許を受けようとする発明について記載するにあたっては,種々の表現形式を用いることができる。例えば,『物の発明 』の場合 に,発明 を特定 するための 事項 として 物の結合 や物の構造の表現形式 を用いることができる 他,作用 ・機能 ・性質 ・特性 ・方法 ・用途 ・その他のさまざまな 表現方式 を用いることができる 。同様に,『方法(経時的要素を含む一定の行為又は動作)の発明』の場合も,発明を特定するための事項として,方法(行為又は動作)の結合の表現形式を用いることができる他,その行為又は動作に使用する物,その他の表現形式を用いることができる」(7頁第1段落〜第2段落,下線付加)と記載されているとおりである。 なお,審査基準は,「A他方,第36条第6項第2号の規定により,請求項は,一の請求項から発明が明確に把握されるように記載すべきであるから,出願人による前記種々の表現形式を用いた発明の特定は,発明が明確である限りにおいて許容されるにとどまることに留意する必要がある。例えば,物の有する作用,機能,性質又は特性(以下,「機能・特性等」という。)からその物の構造を予測することが困難な技術分野では,請求項が機能・特性等による物の特定を含む結果,発明の範囲が不明確となる場合が多い(例:化学物質発明)ことに留意する必要がある。また,請求項が,達成すべき結果や特殊パラメータ・・・による物の特定を含む場合も同様の留意が必要である」(同頁第3段落〜第4段落)とするが,本件明細書(甲3,4)の特許請求の範囲の請求項1の記載における方法的表現部分,すなわち,「当該取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになっており,かつ前記凹部の底部のうちの前記第二の係合部に隣接する部分は,前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く登坂部を構成していて,この登坂部は前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するようになっている」(以下「本件方法的表現部分」という。)との記載は,発明を明確に特定しているから,許容されるものであることは明白である。 にもかかわらず,審決は,上記のとおり,本件方法的表現部分のうち,「上記相違点1に係る記載は,壁用パネル状材の取付金具への取付方法に関する記載であり,前記の取付方法に関する記載が物の構成である取付金具の構造ないし性質,性状その他構成自体を特定する要件として特段の意味を有するとは認められ」ないなどとして,当該記載を殊更に無視したものであって,審査基準にも反し,誤りというほかはない。 これに対し,被告は,審決は,特許請求の範囲の記載が不明確であって,発明を特定することができないとしているのではない旨主張する。しかしながら,審決は,進歩性の判断に際し,特許請求の範囲の記載のうち,相違点1及び2に係る記載部分,すなわち,本件方法的表現部分を実質的に排除して判断しているのであるから,審決が,本件方法的表現部分について,少なくとも,進歩性の判断に関しては発明を特定するものではないと判断したことは明らかである。そして,そうとすれば,そのような判断は,「発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載しなければならないとしていた平成6年法律第116号による改正(以下「平成6年改正」という。)前の特許法36条5項2号を改正し,新たに同法36条4項において,「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」と規定し,さらに同法36条5項2号において,「特許を受けようとする発明が明確であること」を特許請求の範囲の記載要件とした平成6年改正の趣旨に反し,違法といわざるを得ない。 イ また,審決の論理は,事実上,パネル状材の形状,寸法が特定されていないことを大きな理由にして,本願発明の進歩性を否定するものであると解されるが,不当である。 本願発明の技術的思想の本質は,取付金具の凹部及び登坂部に特定の機能を果たさせるようにしたことにあるのであって,このような発明の本質上,さらには,取付金具の形状,寸法とパネル状材との形状,寸法との間に存在する相対性のゆえに,特許請求の範囲においてパネル状材の形状,寸法自体を特定する意味はない。仮に,特許請求の範囲において,パネル状材の形状,寸法自体を特定するならば,第三者は,特定された形状,寸法ではないパネル状材を使用する一方,本願発明と同様の凹部及び登坂部を取付金具に設け,これらの凹部及び登坂部に本願発明と完全に同一の機能を果たさせることが可能であり,本願発明の保護範囲が不当に狭くなってしまう。そこで,原告は,本件方法的表現部分により,パネル状材の形状,寸法自体は特定することなく,取付金具の形状,寸法とパネル状材の形状,寸法との相対的な関係を定義することによって,本願発明を特定したものである。 なお,本願発明の本質上,それによって不当に保護範囲が広がるおそれはない。すなわち,本願発明においては,本件方法的表現部分により,取付金具の形状,寸法とパネル状材の形状,寸法との間には,本件方法的表現部分によって規定される取付金具の機能が実現されるような相対関係が成り立つことが明確に示されており,本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,正当な保護範囲に対応して,本願発明を十分特定しているということができる。例えば,引用発明の取付具のようなものは,本件方法的表現部分の規定する機能を実現し得る相対関係を有するパネル状材と組み合わせて使用されるものでない以上,本願発明の技術範囲に入らないことは明らかである。 ウ 審決は,「パネル状材の・・・端部の形状や大きさが変われば」(審決謄本6頁第4段落)との説示に見られるとおり,パネル状材の形状,寸法が変更され得るとの仮定に基づいた論理を展開している。しかしながら,こうした論理は,本願発明という正解を先に見て,本願発明の技術的思想を参考にしているからこそ採り得る後知恵にすぎず,不当である。 同様に,被告は,引用発明に係る従来技術においても,パネル状材の形状,寸法を変更すれば,本願発明の作用効果が得られる旨主張する。しかしながら,取付金具の形状,寸法とパネル状材との形状,寸法との間に存在する相対性を考えれば,被告の上記主張は,それ自体は当然であり,かつ,全く無意味なことを主張しているにすぎない。 また,被告の上記主張にいうパネル状材の形状,寸法の変更を行う場合,特定の壁用パネル状材のうちの特定の端部のみを変更することはできないから,結局,引用発明の取付具及びパネル状材が本願発明の取付金具及びパネル状材にすべて置き換えられることになってしまう。しかも,本願発明が属する技術分野においては,パネル状材は,取付金具に比して,形状,寸法の自由度が非常に小さい上,実際上も,どのパネル状材を使用するかが先に決められ,使用するパネル状材が決まると,パネル状材のメーカーや住宅メーカーがそのパネル状材に対して指定している特定の金具が使用されることになるというが実情であって,パネル状材の形状,寸法は容易に変えられるものではない。したがって,被告の主張に係るパネル状材の形状,寸法の変更は,単なる設計変更などではなく,結局,本願発明を新たに発明するのと同じことであり,当業者が容易に想到することができないことは明らかである。 更に言えば,発明者が本願発明のような着想を得て,本願発明に沿う取付金具を試作したとしても,実際には,最初はその凹部及び登坂部に所期の機能をうまく果たさせることはできないのが通常であり,実際に作業を行ってみて,不具合が解消されるように取付金具の具体的な形状,寸法の細かい設計変更を何度も繰り返した後,初めて所期の機能が十分に果たされるようになるというのが通常である。したがって,仮に,引用発明に基づいてパネル状材の形状,寸法を変更しようとしたとしても,本願発明の凹部及び登坂部の機能を果たすことが予定されていない引用発明の取付具の凹状部及び傾斜部がそのまま本願発明の凹部及び登坂部の機能を果たせるようになるものではない。 なお,引用発明の取付具が本願発明の取付金具として機能し得るから,本願発明は進歩性がないと考えるとすれば,それは誤りである。そもそも,引用発明には,本願発明の技術的思想は全く存在しないのであるから,単に凹状部があるからといって,当業者が,引用発明に基づいて本願発明を容易に発明できるはずはない。 エ 被告は,原告の主張によれば,本願発明は,取付金具と壁用パネル状材(の端部)との組合せに特徴があるのであるから,本願の特許請求の範囲を,取付金具と壁用パネル状材(の端部)との組合せとして記載することにより,より適切に発明を特定することができたはずである旨主張する。 しかしながら,本願発明においては,壁用パネル状材の方は,従来構造のものをそのまま使用できるのであるから,本願発明は,専ら取付金具の構造に特徴があるものであり,被告の上記主張は,そもそも,その前提において失当である。 また,本願発明の場合,発明の種類としては,@方法の発明,A取付金具と壁用パネル状材との組合せ,すなわち取付構造の発明,B取付金具の発明という三様の特許請求の範囲の記載をすることが可能である。もとより,いずれの種類の発明として出願するかによって,保護範囲が異なってくる可能性がある以上,出願人が選択する発明の種類において特許を受け得るとすべきであり,上記Aがより適切であるとする被告の上記主張には,何らの根拠もない。更に言えば,本願発明について,仮に,被告の上記ウの論理に従ってパネル状材の形状,寸法を限定することとしたとしても,取付金具の発明として表現すること自体は,例えば,「・・・の形状,寸法のパネル状材と組み合わされる取付金具であって」等の表現を採ることによって可能であるから,この点からも,被告の上記主張は失当というべきである。 (3) 他方,引用例(甲2)の図9,10(第5実施例)に示される引用発明の取付具においては,上係合片18aと上背面受け部4aとの間に設けられ,上背面受け部4aより低く落ち込んでいる凹状部は,本願発明における凹部とは機能を根本的に異にするものであり,引用発明のものが,本願発明のように,「取付金具が壁下地材に取り付け済みの状態において,他方の壁用パネル状材を,壁下地材に対して傾けた状態で一端部をいったん凹部に挿入してから壁下地材に対し実質的に平行な状態」とすることができないことは明白である。 すなわち,引用発明の取付具においては,上記凹状部に係る開放空間を設けたことにより,第1実施例に係る図19に示される状態と同様に,後から取り付ける壁用パネル状材10Bを,壁下地材12に対して傾けて取り付けることはできる。しかしながら,図10及び図19から明らかなように,引用発明においては,本願発明とは異なり,後から取り付けるパネル状材10Bの下端部に設けられた溝部を,斜め上外方から,直接,上係合片に係合する構成となっており,上記パネル状材10Bの端部をいったん凹状部に挿入した上,しだいに傾きをなくしていって壁下地材12に対し実質的に平行な状態とするとともに,係合部にパネル状材10Bの一端部を係合するという構成にはなっていない。言い換えれば,本願発明においては,後から取り付けるパネル状材の端部をとりあえず凹部に挿入し,該凹部の底部に端部が当接された状態としてから,該端部を取付金具の係合部に導くのに対し,引用発明においては,空中に浮かせたパネル状材10Bの下端部の溝部を,まず最初に係合部に係合する構成となっている。 このように,引用発明が,相違点1に係る本願発明の構成を有しないことは明らかであって,審決の上記判断は誤りである。 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「本願発明においては,前記『傾斜した部分』は,前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するように,登坂部として構成されているのに対し,引用例に記載された発明(注,引用発明)における『傾斜した部分』に相当する傾斜突出部9は,そのような機能を有していない点」(審決謄本5頁第3段落,以下「相違点2」という。)について,「上記相違点1においても述べたように,本願発明は物の発明であるので,発明の構成は,物の客観的な構成を記載した部分によって明らかにされているものと解すべきである」(同6頁第3段落)とした上,「そこで,本願発明をみると,前記『傾斜した部分』である登坂部の客観的な構成は,『前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く』点のみしか限定されていない。そして,前記登坂部の機能である『前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内する』とした点は,他方の壁用パネル状材の端部が特定の形状,大きさを取ることによってもたらされる機能であって,端部の形状や大きさが変われば,その機能を果たさないものである。よって,本願発明における登坂部と,引用例に記載された発明における傾斜部は,実質的な差異とは認められない」(同頁第4段落〜第5段落)と判断したが,誤りである。 (2) 審決は,上記のとおり,「前記登坂部の機能である『前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内する』とした点は,他方の壁用パネル状材の端部が特定の形状,大きさを取ることによってもたらされる機能であって,端部の形状や大きさが変われば,その機能を果たさないものである。よって,本願発明における登坂部と,引用例に記載された発明における傾斜部は,実質的な差異とは認められない」とするが,これは論理が逆転している。取付金具の形状,寸法が同一であっても,該取付金具を使用して取り付けられる壁用パネル状材の端部の形状,寸法が異なれば,本願発明に該当する場合と該当しない場合が生じるからこそ,本願発明においては,本件方法的表現部分によって,本願発明に係る取付金具を特定しているのであり,本件方法的表現部分は,発明の構成を更に限定し,かつ,物の客観的な構成を記載しているものというべきである。 にもかかわらず,ここでも審決は,相違点1についてと同様,本件明細書の特許請求の範囲の記載中,相違点2に係る記載を殊更に無視しているが,このような認定判断が誤りであることは,上記1(2)のとおりである。 3 取消事由3(作用効果に関する判断の誤り) (1) 審決は,本願発明の作用効果について,「本願発明が奏する作用効果も,引用例に記載された発明(注,引用発明)に比べ格別のものとはいえない」(審決謄本6頁下から第3段落)と判断した。 (2) しかしながら,本件明細書(甲3,4)に記載されているとおり,本願発明の取付金具は,「既に壁下地材に取り付けられた取付金具の第二の係合部に壁用パネル状材の一端部を係合させる作業を非常に容易に,能率良く行うことができる」(段落【0011】)等の格別の作用効果を奏するものである。壁用パネル状材は一般に長さ何メートルもあり,作業者はこのように大きく重い壁用パネル状材を持って,その端部を小さな取付金具の係合部に係合しなければならないため,従来,壁用パネル状材の取り付け作業は非常に困難なものであったところ,そうした困難を克服した本願発明の上記作用効果は,正に格別な作用効果というべきである。 したがって,審決の上記判断は誤りである。 4 取消事由4(手続違背) (1) 審決は,特許請求の範囲の記載要件における発明の特定と,進歩性の判断における事実上の発明の特定とを別次元の問題と解した上,進歩性の判断に際しては,事実上,本件方法的表現部分は発明を特定するものではないと判断しながらも,特許請求の範囲の記載要件違反(特許法36条6項2号)としては拒絶理由を発しなかったものであると理解される。しかしながら,審決の上記のような判断は,平成6年改正の趣旨を没却するものであるのみならず,実質的にも,次のような極めて重大な問題を生じさせるものである。すなわち,特許請求の範囲の記載要件違反という拒絶理由を受けた場合,出願人は,それに対して意見書で反論したり,記載要件違反を解消するための手続補正を行うことが可能であるが,審決のように,特許請求の範囲の記載要件違反という拒絶理由は発しないで,進歩性の判断に際し,特許請求の範囲の記載の一部を事実上除外して本願発明を把握した場合には,そのことが拒絶理由通知書に明示されない結果,「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」を特許請求の範囲に記載したと信じている出願人にはそのことが分からず,事実上の拒絶理由の核心部分を知らされないまま,出願を最終的に拒絶されてしまうことになる。 (2) 本件において,原告は,審決の送達を受けて初めて,審判体が進歩性の判断に際し,特許請求の範囲の一部を事実上除外して本願発明を把握したことにより,進歩性が否定されたことを知ったものである。しかしながら,この段階では,既に意見書や手続補正書を出すことはできないから,原告は,事実上,特許法159条2項において準用する同法50条に規定する意見書提出の機会を与えられないまま,審判請求不成立の審決を受けたものであって,これは,手続上の重大な瑕疵というべきである。 |
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被告の反論
審決に原告主張の違法はなく,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。 1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について (1) 原告は,審査基準を引用しつつ,本件方法的記載部分により,物の発明を方法的に表現しても,発明を明確に特定しているから,許容されるものである旨主張する。 しかしながら,審決は,物の発明を方法的に表現したことをもって,特許請求の範囲の記載が不明確であって,発明を特定することができないとしているものではないから,原告の上記主張は当を得ないものである。 (2) 本願発明は,「壁用パネル状材の取付金具」という「物」の発明であるから,本件方法的表現部分によって,「物」としての金具自体の構成が特定される限りにおいて,本件方法的表現部分に係る事項を考慮する必要があると考えられる。 しかしながら,相違点1に係る本件方法的表現部分の,「本願発明においては,取付金具に壁用パネル状材を取り付けるにあたって,前記取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになっている」という事項は,取付金具と壁下地材,壁用パネル状材との取付方法を記載しているにすぎない。もとより,この場合でも,壁用パネル状材の形状,寸法に依存して,取付金具の構成が特定されることもあり得るが,本願発明の要旨においては,そもそも壁用パネル状材の形状,寸法が規定されていないのであるから,結局,本願発明の取付金具の構成は,上記事項によって何ら特定ないし限定されるものではない。 したがって,審決の「上記相違点1に係る記載は,壁用パネル状材の取付金具への取付方法に関する記載であり,前記の取付方法に関する記載が物の構成である取付金具の構造ないし性質,性状その他構成自体を特定する要件として特段の意味を有するとは認められず,この記載の有無によって,『取付金具』である両者の構成に実質的な差異があるとは認められない」(審決謄本6頁第2段落)との判断に誤りはない。 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について (1) 本願発明は物の発明であるから,発明の構成は,物の客観的な構成を記載した部分によって明らかにされているものと解すべきである。 相違点2に係る本件方法的表現部分の,「傾斜した部分」が「他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するように,登坂部として構成されている」という事項は,他方の壁用パネル状材の端部の形状を,実施例に記載されたような特定の形状とすることによって初めて奏することができる作用を記載するものであって,当該作用は,端部の形状が実施例に記載されたものと異なった場合には奏し得ないものである。そうすると,本願発明の物としての構成を特定する事項としては,「傾斜した部分」である登坂部の「前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く」構成のみであるということになる。 そして,当該「前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く」構成は,引用発明における傾斜部と同じであるから,審決における「本願発明における登坂部と,引用例に記載された発明における傾斜部は,実質的な差異とは認められない」(審決謄本6頁第6段落)との判断に誤りはない。 (2) なお,原告の主張によれば,本願発明は,取付金具と壁用パネル状材(の端部)との組合せに特徴があるのであるから,本願の特許請求の範囲を,取付金具と壁用パネル状材(の端部)との組合せとして記載することにより,より適切に発明を特定することができたはずである。 3 取消事由3(作用効果に関する判断の誤り)について 原告主張の作用効果は,取付金具と壁用パネル状材の端部との関係において初めて奏する作用効果であるから,そもそも,本願発明の取付金具が奏する作用効果であるということはできない。 また,引用発明も,本願発明の凹部18,登坂部15,第2の係合部7に各々対応する凹状部(上背面受け部4aより低く落ち込んでいる凹状の部分),傾斜突出部9,上係合片18aを有しており,引用発明の取付具を用いても,本願発明と同様,この取付具を先に建築構造体12に取り付けておき,次に取り付ける上方パネル10Bの端部を凹状部に傾斜した状態で挿入してから,上係合片18aに係合させることができるのであって,基本的な取付方法において差異はなく,上方パネル10Bの端部の形状を変えることによって本願発明と同様の作用を奏することができるものである。つまり,引用発明においても,取付金具に設けられた傾斜部を,本願発明と同様に「(他方の)壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するように」作用させることができるのである。 したがって,審決の「本願発明が奏する作用効果も,引用例に記載された発明に比べ格別のものとはいえない」(審決謄本6頁下から第3段落)との判断に誤りはない。 4 取消事由4(手続違背)について 原告の取消事由4の主張は争う。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点1として認定した,「本願発明においては,取付金具に壁用パネル状材を取り付けるにあたって,前記取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになっているのに対して,引用例に記載された発明(注,引用発明)では,取付金具への壁用パネル状材の取り付け方は記載されていない点」(審決謄本5頁第2段落)について,「物の発明においては,原則として,物の構成をもってその内容を把握すべきであり,構成要件の中に,物の客観的な構成のほかに,当該構成の用途や使用方法等が記載されていたとしても,その用途や使用方法等に適するようにするために当該構成が特定の構成に限られることがなければ,それらの用途や使用方法等の記載は,発明の構成を更に限定するものではないというべきである。そして,そのような場合,発明の構成は,物の客観的な構成を記載した部分によって明らかにされているものと解すべきである」(同頁最終段落〜同6頁第1段落)とした上,「そこで,本願発明をみると,上記相違点1に係る記載は,壁用パネル状材の取付金具への取付方法に関する記載であり,前記の取付方法に関する記載が物の構成である取付金具の構造ないし性質,性状その他構成自体を特定する要件として特段の意味を有するとは認められず,この記載の有無によって,『取付金具』である両者の構成に実質的な差異があるとは認められない」(同頁第2段落)と判断した。 これに対し,原告は,審決は,本願発明に係る特許請求の範囲の記載に関する認定判断を誤ったたものであるなどとして,審決の上記判断は誤りである旨主張する。 (2) 本願発明の要旨は,上記第2の2のとおりであり,これを分説すると,次のようになる(なお,下線部は,請求項1に係る発明と請求項4に係る発明を架橋するために便宜上付加した。)。 A 隣り合う壁用パネル状材を端部同士を互いに突き合わせた状態で壁下地材に取り付ける壁用パネル状材の取付構造において,前記隣り合う壁用パネル状材の突き合わせ部に介装されて各壁用パネル状材を前記壁下地材に取り付ける取付金具であって, B 前記隣り合う壁用パネル状材のうちの一方のものの裏面に対向され,該壁用パネル状材の前記壁下地材側への移動を阻止する第一の台座部と, C 前記隣り合う壁用パネル状材のうちの他方のものの裏面に対向され,該壁用パネル状材の前記壁下地材側への移動を阻止する第二の台座部と, D 前記一方の壁用パネル状材の一端部を係合され,該壁用パネル状材の前記他方の壁用パネル状材側への移動および前記壁下地材から遠ざかる向きへの移動を阻止する第一の係合部と, E 前記他方の壁用パネル状材の一端部を係合され,該壁用パネル状材の前記一方の壁用パネル状材側への移動および前記壁下地材から遠ざかる向きへの移動を阻止する第二の係合部と, F 前記第二の係合部と前記第二の台座部との間に設けられており,前記第二の台座部より低く落ち込んでいる凹部とを有してなり, G 当該取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになっており, H かつ前記凹部の底部のうちの前記第二の係合部に隣接する部分は,前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く登坂部を構成していて,この登坂部は前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するようになっている壁用パネル状材の取付金具であって, I 前記第一の係合部は雌実を形成された前記一方の壁用パネル状材の一端部を係合され,前記第二の係合部は雄実を形成された前記他方の壁用パネル状材の一端部を係合される J 壁用パネル状材の取付金具。 (以下,上記A〜Jの各構成要件を「構成要件A」〜「構成要件J」ということがある。) このうち,本願発明の客観的構成部分を規定する構成要件A〜Fについては,引用発明の取付具との一致点であることは当事者間に争いがなく,また,構成要件Iに係る相違点3については,「当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない」(審決謄本6頁下から第4段落)ことにつき,当事者間に争いがない。 そこで,以下,本願発明の要旨が規定する本件方法的表現部分のうち,相違点1に係る構成要件Gの有無によっては,「取付金具」である本願発明と引用発明との構成に実質的な差異があるとは認められないとした審決の判断の当否について検討する。 (3) 上記本願発明の要旨から明らかなとおり,本願発明においては,取付金具と係合されるパネル状材の形状,寸法等について何ら規定するところはなく,構成要件Gは,形状,寸法等の規定されないパネル状材一般を前提にするものであると理解するほかはないから,形状,寸法等の規定されないパネル状材一般を前提に,構成要件Gに規定する「当該取付金具が前記壁下地材に取り付け済みの状態において,前記他方の壁用パネル状材を,前記壁下地材に対して傾けた状態で一端部を一旦前記凹部に挿入してから前記壁下地材に対し実質的に平行な状態として,前記第二の台座部に前記壁下地材側への移動を阻止される状態とするとともに該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部に係合できるようになって」いるとの作用を果たすものであれば足りるということになる。 他方,引用発明の取付具は,構成要件A〜Fを満たすものであることにつき当事者間に争いがないことは上記のとおりであるから,構成要件Gに係る作用を果たすために必要な客観的構成である「凹部」,「第二の台座部」及び「第二の係合部」を有するものであることは明らかである。そうすると,引用発明の取付具の具体的な形状を,仮に,審決が引用する引用例(甲2)の第9図及び第10図に記載されたものに限定されると解したとしても,パネル状材の端部の形状につき,例えば,本件明細書(甲3)の図11に記載されたもののようになったものを採用することとすれば,上記構成要件Gに規定する作用を果たし得ることも明らかというべきである。 以上によれば,相違点1に係る構成要件Gの有無によって,同じく「取付金具」である本願発明と引用発明との構成に実質的な差異があるということはできない。 (4) これに対し,原告は,@審決は,本願発明に係る特許請求の範囲の記載に関する認定判断を誤ったものであり,本件方法的表現部分のうち,相違点1に係る記載事項を殊更に無視したものであって,審査基準及び平成6年改正の趣旨に反する,A審決の論理は,パネル状材の形状,寸法が特定されていないことを大きな理由にして,本願発明の進歩性を否定するものであり,不当である,B審決の判断は,パネル状材の形状,寸法が変更され得るとの仮定に基づいた論理を展開しているが,本願発明という正解を先に見て,本願発明の技術的思想を参考にしているからこそ採り得る後知恵にすぎず,不当であるなどと主張する。 ア しかしながら,まず,上記@の主張については,構成要件Gの規定内容は上記(3)で判示したとおりであって,そこでは,パネル状材の形状,寸法等について何ら規定されていない以上,結果として,引用発明との関係では,本願発明を何ら特定,限定する機能を果たしていないというほかはないから,審決の「そこで,本願発明をみると,上記相違点1に係る記載は,壁用パネル状材の取付金具への取付方法に関する記載であり,前記の取付方法に関する記載が物の構成である取付金具の構造ないし性質,性状その他構成自体を特定する要件として特段の意味を有するとは認められず,この記載の有無によって,『取付金具』である両者の構成に実質的な差異があるとは認められない」(審決謄本6頁第2段落)との説示は,これと同旨をいうものとして是認することができる。 原告は,審決の判断が審査基準及び平成6年改正の趣旨に反するともいうが,審決は,構成要件Gを含む本件方法的表現部分につき,明細書の記載要件違反としたものではなく,あくまで当該記載の適法性を前提とした上で,当該記載に沿った内容として本願発明を理解した結果,引用発明との対比において,本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの判断をしたものであって,その判断に誤りはないというべきであるから,原告の主張は失当というほかはない。 イ 次に,上記Aの主張についてみると,本願発明においては,本件方法的表現部分により,パネル状材の形状,寸法自体については特定することなく,取付金具の形状,寸法とパネル状材の形状,寸法との相対的な関係を定義することによって発明を特定したものであって,本願発明の特定としては,それで足りるとするものであると解される。 しかしながら,原告の主張によっても,取付金具の形状,寸法とパネル状材の形状,寸法との「相対的な関係」を定義しただけでは,およそ,一般に存在するパネル状材の形状,寸法を前提に,そのうちの一つにでも対応する取付金具であれば,本願発明の要件を満たすことになってしまうことは明らかであり,そのように解される結果,引用発明の取付具も,本願発明の要件を満たすものとなっていることは上記(3)で判示したとおりであるから,原告の上記主張は採用の限りではない。 ウ さらに,上記Bの主張については,パネル状材の形状,寸法に多種多様なものがあることは明らかであるところ,引用発明の取付具は,それとの対応において,構成要件Gに規定する作用を果たし得るパネル状材として,例えば,本件明細書(甲3)の図11に記載されたような端部の形状を有するものを採用することによって,構成要件Gを満たすものであることは,上記(3)で判示したとおりである。この点について,原告は,本願発明が属する技術分野においては,パネル状材は,取付金具に比して,形状,寸法の自由度が非常に小さいなどとも主張するが,当該主張を裏付ける証拠は何ら提出されておらず,少なくとも,引用発明の取付具が,本願発明の取付金具の構成を満たし得ることを疑わせるに足りる事情は何ら明らかにされていないというほかはないから,失当である。 また,この点に関連し,原告は,引用発明の取付具が本願発明の取付金具として機能し得るから,本願発明は進歩性がないと考えるとすれば,誤りであると主張して,そもそも,引用発明には,本願発明の技術的思想は全く存在しないことをも指摘するが,引用例においては,引用発明の取付具が「物」として開示されており,それが本願発明の要件を満たす以上,本願発明を取付金具という「物」の発明として特許することができないことも当然というべきであるから,原告の上記主張は採用の限りではない。 エ 原告は,以上に加え,本願発明の場合,発明の種類としては,@方法の発明,A取付金具と壁用パネル状材との組合せ,すなわち取付構造の発明,B取付金具の発明という三様の特許請求の範囲の記載をすることが可能であるところ,いずれの種類の発明として出願するかによって,保護範囲が異なってくる可能性がある以上,出願人が選択する発明の種類において特許を受け得るとすべきであるとも主張する。 しかしながら,出願人が上記@〜Bのいずれを選択するかによって,特許権としての保護範囲や,先行発明との抵触によって特許を受け得なくなる範囲が異なってくることも当然であり,正に,本件は,上記Bの形での出願を選択したことにより,引用発明の取付具との抵触が生じたものであると解されるから,原告の主張は,上記(3)の判断を何ら左右するものではない。なお,原告は,本願発明について,パネル状材の形状,寸法を限定することとしたとしても,取付金具の発明として表現すること自体は,例えば,「・・・の形状,寸法のパネル状材と組み合わされる取付金具であって」等の表現を採ることによって可能であるとも指摘するが,そのようにパネル状材の形状,寸法を特定すれば,引用発明との抵触が解消され得る余地があることは格別,本願発明について,現実にそのような特定がされたものではないことは明らかであるから,やはり,上記(3)の判断を左右するものではないというべきである。 (5) 原告は,他方において,引用発明の取付具は,本願発明のように,構成要件Gに規定する作用を果たすことができないことは明白である旨主張する。 しかしながら,原告の主張は,引用発明の取付具を,引用例(甲2)の第10図及び第19図に示される形態のパネル状材と組み合わせることを前提にするものであることが明らかであるところ,上記(3)で判示したとおり,相違点1に係る構成要件Gの有無によって,本願発明と引用発明との構成に実質的な差異があるということができるか否かは,引用例(甲2)に記載された特定のパネル状材との関係のみではなく,形状,寸法の特定されないパネル状材一般との関係で,構成要件Gに規定する作用を果たすことができるか否かによって判断すべきものであるから,原告の上記主張は,その前提において失当であるというほかはない。 (6) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点1は,実質的な相違点ではないというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「本願発明においては,前記『傾斜した部分』は,前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するように,登坂部として構成されているのに対し,引用例に記載された発明(注,引用発明)における『傾斜した部分』に相当する傾斜突出部9は,そのような機能を有していない点」(審決謄本5頁第3段落,以下「相違点2」という。)について,「上記相違点1においても述べたように,本願発明は物の発明であるので,発明の構成は,物の客観的な構成を記載した部分によって明らかにされているものと解すべきである」(同6頁第3段落)とした上,「そこで,本願発明をみると,前記『傾斜した部分』である登坂部の客観的な構成は,『前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く』点のみしか限定されていない。そして,前記登坂部の機能である『前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内する』とした点は,他方の壁用パネル状材の端部が特定の形状,大きさを取ることによってもたらされる機能であって,端部の形状や大きさが変われば,その機能を果たさないものである。よって,本願発明における登坂部と,引用例に記載された発明における傾斜部は,実質的な差異とは認められない」(同頁第4段落〜第5段落)と判断した。 (2) これに対し,原告は,取付金具の形状,寸法が同一であっても,該取付金具を使用して取り付けられる壁用パネル状材の端部の形状,寸法が異なれば,本願発明に該当する場合と該当しない場合が生じるからこそ,本願発明においては,本件方法的表現部分によって,本願発明に係る取付金具を特定しているのであり,本件方法的表現部分は,発明の構成を更に限定し,かつ,物の客観的な構成を記載しているものというべきであるとした上,審決は,本件明細書の特許請求の範囲の記載中,相違点2に係る記載を殊更に無視したものであって,誤りである旨主張する。 そこで検討すると,本願発明においては,上記1(3)のとおり,取付金具と係合されるパネル状材の形状,寸法等について何ら規定されていないから,相違点2に係る構成要件Hも,形状,寸法等の規定されないパネル状材一般を前提にするものであると理解するほかはなく,形状,寸法等の規定されないパネル状材一般を前提に,構成要件Hに規定する「前記凹部の底部のうちの前記第二の係合部に隣接する部分は,前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く登坂部を構成していて,この登坂部は前記他方の壁用パネル状材の一端部を前記凹部に侵入させた後,前記第一の台座部側に移動させると,該壁用パネル状材の一端部を前記第二の係合部へ案内するようになっている」との作用を果たすものであれば足りるということになる。 他方,本願発明と引用発明とが,「隣り合う壁用パネル状材を端部同士を互いに突き合わせた状態で壁下地材に取り付ける壁用パネル状材の取付構造において,前記隣り合う壁用パネル状材の突き合わせ部に介装されて各壁用パネル状材を前記壁下地材に取り付ける取付金具であって,前記隣り合う壁用パネル状材のうちの一方のものの裏面に対向され,該壁用パネル状材の前記壁下地材側への移動を阻止する第一の台座部と,前記隣り合う壁用パネル状材のうちの他方のものの裏面に対向され,該壁用パネル状材の前記壁下地材側への移動を阻止する第二の台座部と,前記一方の壁用パネル状材の一端部を係合され,該壁用パネル状材の前記他方の壁用パネル状材側への移動および前記壁下地材から遠ざかる向きへの移動を阻止する第一の係合部と,前記他方の壁用パネル状材の一端部を係合され,該壁用パネル状材の前記一方の壁用パネル状材側への移動および前記壁下地材から遠ざかる向きへの移動を阻止する第二の係合部と,前記第二の係合部と前記第二の台座部との間に設けられており,前記第二の台座部より低く落ち込んでいる凹部とを有してなり,前記凹部の底部のうちの前記第二の係合部に隣接する部分は,前記第二の台座部側から前記第一の台座部側に向かって高くなって行く傾斜した部分が構成された壁用パネル状材の取付金具」(審決謄本4頁最終段落〜5頁第1段落)である点で一致することは,当事者間に争いがないから,引用発明の取付具は,構成要件Hに係る作用を果たすために必要な客観的構成である「凹部」,「第二の係合部」,「第二の台座部」及び「第一の台座部」を有し,さらに,「第二の台座部側から第一の台座部側に向かって高くなって行く傾斜した部分」(引用例〔甲2〕の第9図及び第10図における「傾斜突出部(9)」)を有するものである。 そうすると,パネル状材の端部の形状につき,例えば,本件明細書(甲3)の図11に記載されたもののようになったものを採用すれば,後から取り付けるべき「他方のパネル状材」を「第二の係合部」に侵入させた際,当該パネル状材の端部が上記「傾斜した部分」に当接することにより,引用発明の取付具が構成要件Hに規定する作用を果たし得るものであることは明らかというべきである。 したがって,本願発明における登坂部と,引用発明における傾斜部との間に,実質的な差異があるとは認められない。 (3) このほか,上記判断に反する原告の主張がいずれも失当であることは,上記1(4)において判示したとおりである。 (4) 以上によれば,相違点2は実質的な相違点ではないというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 取消事由3(作用効果に関する判断の誤り)について (1) 原告は,本件明細書(甲3,4)に記載されているとおり,本願発明の取付金具は,「既に壁下地材に取り付けられた取付金具の第二の係合部に壁用パネル状材の一端部を係合させる作業を非常に容易に,能率良く行うことができる」(段落【0011】)等の格別の作用効果を奏するものである旨主張する。 しかしながら,相違点1及び2に係る本願発明の構成が,引用発明との実質的な相違点でないことは上記1及び2のとおりであるところ,当該各構成は,原告主張に係る上記作用を方法的な表現によって記述したものにすぎないと解されることからすれば,原告主張の上記作用効果が,相違点1及び2に係る本願発明の構成から当然に予測可能なものであることは,むしろ,当然のことというべきである。 (2) そうすると,本願発明の作用効果について,「本願発明が奏する作用効果も,引用例に記載された発明(注,引用発明)に比べ格別のものとはいえない」(審決謄本6頁下から第3段落)とした審決の判断に誤りはないというべきであるから,原告の取消事由3の主張は理由がない。 4 取消事由4(手続違背)について (1) 原告は,審決は,進歩性の判断に際しては,事実上,本件方法的表現部分は発明を特定するものではないと判断しながらも,特許請求の範囲の記載要件違反(特許法36条6項2号)としては拒絶理由を発しなかったことにより,原告は,事実上,特許法159条2項において準用する同法50条に規定する意見書提出の機会を与えられないまま,審判請求不成立の審決を受けたものであって,これは,手続上の重大な瑕疵というべきである旨主張する。 (2) しかしながら,上記1(4)アにおいて判示したとおり,審決においては,本件方法的表現部分につき,明細書の記載要件違反としたものではなく,あくまで当該記載の適法性を前提とした上で,当該記載に沿った内容として本願発明を理解した結果,引用発明との対比において,本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの判断をしたものであって,その判断に誤りはないというべきである。原告の上記主張は,審決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,失当というほかはない。 (3) 以上によれば,原告の取消事由4の主張も理由がない。 5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 早田尚貴 |