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関連審決 不服2004-1518
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  翻訳文提出 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10350号 審決取消請求事件
原告エスシーエー・ハイジーン・ プロダクツ・アーベー
訴訟代理人弁理 士風早信昭
同 浅野典子
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人溝渕良一
同 寺本光生
同 高木彰
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-1518号事件について平成18年3月23日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告(旧商号メールンリユーケアーベー)は,平成6年11月14日,名称を「弾性化された脚カフを有する使い捨ておむつ」とする発明について,優先権(優先日1993年[平成5年]11月15日スウェーデン国)を主張して,国際特許出願(請求項1〜8。以下「本願」という。平7-514383号。翻訳文提出日平成8年[1996年]5月14日。公表特許公報は特表平9-504978号[甲5])をしたが,平成15年10月28日拒絶査定を受けた。
そこで原告は,平成16年1月22日付けで不服の審判請求を行い,特許庁は,同請求を不服2004-1518号事件として審理した。その中で原告は,平成18年2月2日付けで特許請求の範囲変更する補正をした(以下「本件補正」という。甲6)が,特許庁は,平成18年3月23日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決を行い,その謄本は平成18年4月4日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜7から成り,そのうち請求項1(以下,これに記載された発明を「本願発明」という。)は,下記のとおりである。
記表シート(34)と裏シート(36)との間に配置された吸収性芯(38)を含む使い捨ておむつ(10)であって,前記おむつは中央に配置された細い股部分(18)と前記股部分の一方の横方向端区域に配置された前方ウエスト部分(20)と前記股部分の他方の横方向端区域に配置された後方ウエスト部分(22)とを有する砂時計形状であり,前記ウエスト部分は前記股部分よりも幅広であり且つ前記ウエスト部分は着用者の周りにおむつを取り付けるための取付手段(30;32)を備え,前記おむつは前記おむつの縦方向縁部分(25)に沿って配置される予め伸張された弾性手段(24)を更に含み,前記弾性手段(24)は所定のギャザーを作る区域を前記縁部分に沿って提供する使い捨ておむつ(10)に於て,前記弾性手段(24)は前記前方ウエスト部分(20)の前記取付手段(30)から前記後方ウエスト部分(22)の前記取付手段(32)まで全面的に前記縦方向縁部分(25)の実質的に全長に沿って延びること,及び前記前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)の幅(a)の前記後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)の幅(b)に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること,及びこれらの取付手段(30;32)はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであることを特徴とする使い捨ておむつ。
(3) 審決の内容ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は,下記引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
記・特開昭61-239001号公報(甲1。以下「第1引用例」といい,そこに記載された発明を「第1引用発明」という。)・実願昭58-115560号公報(実開昭60-25701号。甲2。以下「第2引用例」という。)イなお,審決は,本願発明と第1引用発明の一致点及び相違点を次のとおり認定している。
〈一致点〉「表シートと裏シートとの間に配置された吸収性芯を含む使い捨ておむつであって,前記おむつは中央に配置された細い股部分と前記股部分の一方の横方向端区域に配置された前方ウエスト部分と前記股部分の他方の横方向端区域に配置された後方ウエスト部分とを有する砂時計形状であり,前記ウエスト部分は前記股部分よりも幅広であり且つ前記ウエスト部分は着用者の周りにおむつを取り付けるための取付手段を備え,前記おむつは前記おむつの縦方向縁部分に沿って配置される予め伸張された弾性手段を更に含み,前記弾性手段は所定のギャザーを作る区域を前記縁部分に沿って提供する使い捨ておむつに於て,前記弾性手段は前記前方ウエスト部分の前記取付手段から前記後方ウエスト部分の前記取付手段まで全面的に前記縦方向縁部分の実質的に全長に沿って延びる使い捨ておむつ。」である点〈相違点〉本願発明は,「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること,及びこれらの取付手段はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであること」としているのに対し,第1引用発明は,ウエスト部分に取付手段を備えているものの,その取付手段の幅が本願発明のような比率を有するものではなく,しかも,その取付手段はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであるとはいえない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(相違点の認定の誤り)(ア)審決は,第1引用発明の「出っ張り部分50,50」は,伸縮性部材38,40がおむつの側端部から張り出して,ファスナーとしての機能を有するものであるので,本願発明の「着用者の周りにおむつを取り付ける取付手段」に相当する旨の認定をしている(4頁19行〜22行)。
(イ)しかし,第1引用発明において,本願発明の「取付手段」に相当するのは,上記「出っ張り部分50,50」のうち,感圧性接着剤を塗布された部分のみであり,「出っ張り部分50,50」自体は本願発明の「取付手段」には相当しない。なぜならば,「出っ張り部分50,50」は伸縮性部材であり,それ自体は接着性や引っかかりを有さないため,「出っ張り部分50,50」のうち接着剤を塗布されていない部分は取付手段として機能することができないからである。また,第1引用例のおむつの「出っ張り部分50,50」自体は弾性を有するという点で本願発明の取付手段とはみなすことができない。同様の理由から,第1引用例のおむつの「伸縮性部材38,40」も本願発明の取付手段とはみなすことができない。第1引用例の「伸縮性部材38,40」はウエスト周りに設けられたウエスト伸縮性部材であると明記されており(4頁右上欄6行及び図面),それに対応する部分は本願発明の取付手段ではなく,ウエスト部分の弾性手段26,28であるからである。
そして,「出っ張り部分50,50」のうち接着剤を塗布された部分の位置は第1引用例の記載からは明らかでないが,合理的に考えると,「出っ張り部分50,50」の先端になる。仮に,「出っ張り部分50,50」のうち接着剤を塗布された部分が,第1引用例のウエスト伸縮性部材38,40と側縁伸縮性部材34,36の交差点であったり,その交差点よりさらにおむつの中央寄りであったりすると,「出っ張り部分50,50」は何の機能も有しなくなり,「出っ張り部分50,50」を設ける意義がなくなるからである。また,第1引用例では「出っ張り部分50,50」を従来のテープファスナーの代用として設けていることからも,「出っ張り部分50,50」のうち接着剤を塗布された部分は従来のテープファスナーと同様,「出っ張り部分」の先端であると考えられる。
そうすると,第1引用発明において側部伸縮性部材34,36と交差して重なり合い接着剤接合しているのはウエスト伸縮性部材38,40であるか,又は,仮にこの交差点の部分のウエスト伸縮性部材が「出っ張り部分50,50」に含まれるとしても,「出っ張り部分50,50」のうち接着剤を塗布されていない部分,すなわち本願発明の「取付手段」以外の部分であるから,側縁伸縮性部材34,36と「取付手段」は直接的に接続されていない。
(ウ)したがって,第1引用例は,本願発明の「おむつの縦方向縁部分(25)に沿って配置される予め伸張された弾性手段(24)は前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)から後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)まで全面的に縦方向縁部分(25)の実質的に全長に沿って延びること」を満たさないのであり,本願発明と第1引用発明の間には,審決で認定されている相違点に加えて,下記の相違点が存在する。
記本願発明は,「おむつの縦方向縁部分(25)に沿って配置される予め伸張された弾性手段(24)は前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)から後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)まで全面的に縦方向縁部分(25)の実質的に全長に沿って延びること」としているのに対し,第1引用発明は,おむつの縦方向縁部分に沿って配置される予め伸張された弾性手段(側縁伸縮性部材34,36)は前方ウエスト部分のウエスト伸縮性部材38又は40から後方ウエスト部分のウエスト伸縮性部材40又は38まで全面的に縦方向縁部分の実質的に全長に沿って延びているものの,前方ウエスト部分の取付手段(ウエスト伸縮性部材38又は40の出っ張り部分50のうち接着剤を塗布されている部分)から後方ウエスト部分の取付手段(ウエスト伸縮性部材40又は38の出っ張り部分50のうち接着剤を塗布されている部分)まで全面的には延びていない点。
(エ)上記(ウ)の相違点は,以下のとおり,顕著な効果の違いを本願発明にもたらす実質的な相違点である。
a本願発明では,おむつの縦方向縁部分(25)に沿って配置される予め伸張された弾性手段(24)を,前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)から後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)まで全面的に延びるように配置しているので,前記弾性手段(24)は前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)と後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)の両方と直接的に接続されている。しかも,取付手段は支持体にフック・アンド・ループファスナや剥離可能接着剤が設けられたものであり,弾性を有さない。したがって,おむつを着用者に取付ける取付け操作中に前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)をおむつの縦方向(取付手段の幅方向)に引っ張ると,この縦方向の張力は前記弾性手段(24)に伝えられて前記弾性手段(24)をおむつの縦方向に直接膨張(伸張)させることができるから,着用者の寸法に応じて弾性手段(24)をおむつの縦方向に伸張させることができる。その結果として様々な寸法の着用者の脚の周りにおむつの脚カフをきっちりと嵌合させることができ,排泄物が着用者の脚とおむつの脚カフの間の隙間から漏洩する危険性を様々な寸法の着用者において大幅に減少させることができる(本願の公表特許公報[甲5]3頁(6)左上欄19行〜23行参照)。
特に,本願発明が主対象とする大人用のおむつの分野においては,この着用者の寸法に応じたおむつの縦方向の長さ調節はおむつの販売価格を抑える点で極めて有利である。なぜならば,幼児用おむつでは着用者である幼児の寸法は年齢に応じてほぼ決まっているので,新生児用,歩き初めの幼児用などの各年齢の幼児に対する一定の寸法範囲のおむつを提供することにより着用者の寸法変化に十分対応できるが,大人用のおむつでは着用者の寸法に大きな個人差があるため,幼児用おむつと同様におむつ自体の寸法を変化させることにより着用者の寸法変化に対応しようとすると広範囲の各種寸法のおむつを製造することが要求されることになり,これはおむつの販売価格を上昇させるからである。実際のところ,大人用のおむつの分野では,大部分の大人に適合する単一寸法を有するおむつを製造することが費用有効性の点で最適である(本願の公表特許公報[甲5]2頁(4)左下欄6行〜11行参照)。
bこれに対し,第1引用例では,取付手段に相当する位置に存在するものはウエストの伸縮部材38,40の延長部である出っ張り部分50,50であり,この出っ張り部分50,50はウエストの伸縮部材38,40と同じく弾性を有する素材から構成される。このような弾性素材からなる「出っ張り部分50,50」をおむつの縦方向に引っ張った場合,「出っ張り部分50,50」自身のみがその弾性によって伸張するだけであり,仮にそれにつられて側縁伸縮性部材34,36が引張られたとしてもその程度は極めて小さく,側縁伸縮性部材34,36の縦方向の長さ調節は極めて困難である。したがって,おむつを着用者に取付ける取付け操作中に前方ウエスト部分の取付手段をたとえおむつの縦方向に引っ張ったとしても側縁伸縮性部材34,36を縦方向に伸張させることができないので,様々な寸法の着用者の脚の周りでの脚カフの確実な嵌合を達成することができず,様々な寸法の着用者における排泄物の漏洩の危険性も減少させることができない。
なお,第1引用例には,ウエスト伸縮性部材38,40と側縁伸縮性部材34,36の役割について,これらの伸縮性部材は共にそれぞれ股部シールとウエストシールに直接的な元応力と引張力を与えるように働くので心地良いぴったり感を保証したり,幼児におむつを着ける際に都合の良いように耳部14,16,18,20を起立位置に保持する旨の記載がある(第1引用例4頁左上欄16行〜右上欄4行)が,これらの記載は一定寸法範囲の幼児におけるおむつのフィットや,幼児へのおむつの着用の容易さに関する記載にすぎず,本願発明のような様々な寸法を有する大人のためのおむつの(おむつの縦方向の)寸法調節に関するものではない。
(オ) 以上のとおり,審決は,相違点の認定に誤りがある。
イ 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)(ア)審決は,審決が認定した本願発明と第1引用発明との前記(3)イの相違点(以下「本件相違点」という。)は,第2引用例に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうるものであり,本願発明の効果は,第1,第2引用例に記載された発明及び周知技術から当業者であれば予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない旨の判断をしている(5頁16行〜6頁3行)。
(イ)しかし,本件相違点のうち「本願発明は,『前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること…』としているのに対し,第1引用発明は,ウエスト部分に取付手段を備えているものの,その取付手段の幅が本願発明のような比率を有するものではなく…」については,以下のとおり,第2引用例には,「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という事項は開示されていないし,また,第1引用発明と第2引用例に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けは存在せず,組み合わせたとしても,本願発明の効果を奏しない。
a本願発明のおむつでは,おむつの取付け操作中に前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)をおむつの縦方向に引っ張ることによりおむつの縦方向縁部分(25)の弾性手段(24)をおむつの縦方向に伸張させることができる。これにより,本願発明のおむつでは,様々な寸法の着用者の脚の周りにおむつの脚カフをきっちりと嵌合させることができ,排泄物の漏洩の危険性を大幅に減少させることができるのであるが,これらの効果を実現させるためには,おむつの縦方向縁部分(25)の弾性手段(24)のおむつの縦方向への伸張状態を,おむつの取付け操作中のみならず着用者のおむつ着用中にも維持する必要がある。本願発明のおむつにおいて後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくしているのはこのためであり,様々な寸法の着用者に応じて様々な度合いでおむつの縦方向に引張られた状態で前方ウエスト部分の取付手段を後方ウエスト部分の取付け部分の広い受入幅の対応する位置に固定することにより,前方ウエスト部分の取付手段のおむつの縦方向への様々な引っ張り度合い,すなわち,様々な寸法の着用者に応じて様々な度合いでおむつの縦方向に取付け操作中に伸張された弾性手段(24)の伸張状態を,おむつ着用中も維持することができるのである。このように,本願発明は,「前記弾性手段(24)は前記前方ウエスト部分(20)の前記取付手段(30)から前記後方ウエスト部分(22)の前記取付手段(32)まで全面的に前記縦方向縁部分(25)の実質的に全長に沿って延びること」と「前記前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)の幅(a)の前記後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)の幅(b)に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という二つの要件が組み合わされて初めて所望の効果を発揮することができるものであって,これらの要件は不可分一体の関係にある。
b第2引用例の第2図には広い幅のベルト5A,5Bと狭い幅の接着紙4が示されているが,第2引用例の明細書を精査する限り,広い幅のベルト5A,5Bに対して狭い幅の接着紙4の取付け位置を調節することは記載も示唆もされていない。第2引用例(甲2)では,ベルト5A,5Bは,4頁14行〜16行に記載されているように幼児や病人の胴を帯のように巻くものであるので,その性質上図面では強調して幅広く描かれているにすぎず,一方接着紙4はベルト5Bの先端に設けられた接着紙6と同様に,ベルトへの容易な取付け及び取りはずしのために,更には材料の節約のために,幅が狭く小さいことが従来から好ましいことが図示されているにすぎない。このことは,第2引用例の考案の従来例を表わす第1図の紙おむつの接着紙4も幅が狭く小さいものとして描かれていることからも明らかである。また,第2引用例の紙おむつでは,第2図に示されるようにおむつの縦方向縁部分に沿って配置される弾性手段はおむつの中央部にしか設けられておらず,この弾性手段は接着紙4及びベルト5A,5Bと接続していないので,着用者の脚の周りの弾性手段の伸張の程度を調節するためにベルト5A,5Bの幅に渡って接着紙4の取付け位置を調節する理由が全く存在しない。ましてや,第2引用例には,本願発明のように縦方向縁部分の弾性手段の伸張の調節に適したベルト5A,5Bの幅と接着紙4の幅の百分率も全く示唆されていない。
したがって,第2引用例には,本願発明の「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」を開示するものとしての適格は全くない。
c前記ア(エ)bのとおり,第1引用発明では前方ウエスト部分の取付手段をおむつの縦方向へ引っ張ってもおむつの側縁伸縮性部材をおむつの縦方向に伸張させることができないため,おむつの縦方向の長さ調節は行うことができない。
したがって,第1引用発明では前方ウエスト部分の取付手段の後方ウエスト部分の取付手段上での取付位置をおむつの縦方向(後方ウエスト部分の取付手段の幅方向)にわたって変動させる必要性は存在せず,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくして受入幅を広げる必要性も存在しない。
それゆえ,第2引用例に後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくしたおむつが開示されているとしても,この第2引用例に記載された技術的事項を第1引用発明と組み合わせる動機付けは存在しない。
また,この第2引用例に記載された技術的事項を第1引用発明と組み合わせたとしても,第1引用発明のおむつではおむつの縦方向の長さ調節はできないので,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節することができるという本願発明の効果を奏することができない。
(ウ)次に,本件相違点のうち「本願発明は,『…これらの取付手段はフック・アンド・ループファスナ又は剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであること』としているのに対し,第1引用発明は,…その取付手段はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであるとはいえない点。」については,以下のとおり,第1引用発明と周知技術を組み合わせる動機付けが存在しないし,組み合わせたとしても,本願発明の効果を奏しない。
a本願発明でウエスト部分の取付手段としてフック・アンド・ループファスナ又は剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナを採用するのは,おむつ着用者の脚の周りの脚カフの嵌合具合をおむつの着用中にも再調節することを可能にするためである。
おむつ着用後しばらくすると排泄物の重みなどによりおむつの股部分が垂れ下がっておむつ着用者の脚の周りの脚カフの嵌合具合がゆるくなる場合があるが,この場合,本願発明のおむつでは,取付手段が再閉鎖可能なファスナであるため,前方ウエスト部分の取付手段を後方ウエスト部分の取付手段から一旦剥離させて前方ウエスト部分の取付手段をおむつの縦方向にさらに引っ張って弾性手段(24)をおむつの縦方向にさらに伸張させ,その状態で前方ウエスト部分の取付手段を後方ウエスト部分の取付手段の対応する位置(この位置は初めの固定位置とは異なる)に再固定(再閉鎖)することにより,おむつ着用者の脚の周りに脚カフが再びきっちりと嵌合するように再調節することができる。
bこれに対し,前記ア(エ)bのとおり,第1引用発明では,おむつの縦方向の長さ調節は行うことができないので,おむつ着用者の脚の周りの脚カフの嵌合具合をおむつ着用中に再調節することもできない。
cそれゆえ,フック・アンド・ループファスナの形を持つ再閉鎖可能なファスナを採用することが周知技術であるとしても,この周知技術を第1引用発明と組合せる動機付けは存在しない。また,この周知技術を第1引用発明と組み合わせたとしても,第1引用発明のおむつではおむつの縦方向の長さ調節はできないので,脚カフの嵌合具合をおむつ着用中に再調節することができるという本願発明の効果を奏することができない。
(エ)以上のとおり,「本件相違点は,第2引用例に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到しうるものであり,本願発明の効果は,第1,第2引用例に記載された発明,及び周知技術から,当業者であれば予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない」とした審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア第1引用例(甲1)には,「ウエストの伸縮部材38,40はおむつの側端部から50の部分で張り出してもよく,剥離可能なリリースペーパーによって保護された感圧性接着剤を塗布することもあるが,この場合耳部14,16,18,20を起立位置に保持することがより大きな意味を持つ。これにより出っ張り部50がおむつを幼児に調整可能に着けるための便利な伸縮性を与えられたファスナーとして機能することが可能となる。」(4頁右上欄6行〜14行)と記載されており,「出っ張り部分50」はおむつのファスナーとして機能することが述べられている。さらに,第1引用例には,「本発明では,あらかじめ引っ張り力を与えられた伸縮性部材34,36と38,40が耳部で交差しているので,耳部は起立位置に保持され,出っ張り部50は合わせ易く容易に幼児におむつを着け固定することができる。」(4頁左下欄1行〜5行)と記載されており,「出っ張り部分50」は幼児におむつを着け固定する機能を有することが述べられている。これらの記載を考慮すると,「出っ張り部分50」の感圧性接着剤を塗布された部分を含めた「出っ張り部分50」自体をおむつの取付手段として把握することが,自然な解釈である。
このことは,本願の「特許請求の範囲」請求項1における「前記ウエスト部分は着用者の周りにおむつを取り付けるための取付手段(30;32)」との記載,及び本願の公表特許公報(甲5)の【図1】において,「取付手段30,32」を,接着性や引っかかりを有さない,すなわち取付手段として機能しない部分(【図1】における「取付手段30,32」の破線部分)を含めて総称していることからも理解される。
加えて,第1引用例(甲1)には,「伸縮性部材38,40は物理的に伸縮性部材34,36と交差し,重なり合い接着接合している。」(4頁左上欄13行〜15行)と記載されており,さらに図において,出っ張り部分50,50を含む伸縮性部材34,36が伸縮性部材38,40と交差している点が示されているから,「伸縮性部材34,36」と「出っ張り部分50,50を含む伸縮性部材38,40」とは直接接続されていることとなり,このことは,伸縮性部材34,36と「取付手段」が直接的に接続されていることに他ならない。
したがって,原告が主張する前記1(4)ア(ウ)の相違点は存在しない。
イ仮に,原告が主張する上記相違点が存在したとしても,これは,以下のとおり,形式的な相違点であって,顕著な効果の相違を本願発明にもたらすものではない。
(ア)第1引用例(甲1)には,「伸縮性部材38,40は物理的に伸縮性部材34,36と交差し,重なり合い接着剤接合している。」(4頁左上欄13行〜15行),「ウエストの伸縮部材38,40はおむつの側端部から50の部分で張り出してもよく」(4頁右上欄6行〜7行)と記載され,また,図には,出っ張り部分50,50を含む伸縮性部材34,36が伸縮性部材38,40と交差している点が示されているから,「出っ張り部分50,50」をおむつの縦方向に引っ張ると,この縦方向の張力は側縁伸縮性部材34,36にも伝えられ,側縁伸縮性部材34,36を縦方向に伸張できることは,技術常識である。そうすると,第1引用発明も,おむつの縦方向の寸法調節が可能であるといえる。
また,原告が前記1(4)ア(エ)aで主張するように,本願発明が大人用のおむつにおける問題点を克服したものであるとしても,第1引用発明も本願発明と同様に,側縁伸縮性部材34,36を縦方向に伸長することができ,おむつの縦方向の寸法調節が可能である以上,両者に格別な効果の差異は見受けられない。
(イ)したがって,原告が主張する上記相違点が存在したとしても,これは,形式的な相違点であって,顕著な効果の相違を本願発明にもたらすものではない。
(2) 取消事由2に対しア第2引用例には「着用者の周りにおむつを取り付けるための手段として,背中側1の左右両側に取り付けられたベルト5A,5Bの幅が,腹側3の左右両側に取り付けられた接着紙4の幅より大である」技術的事項が記載されている。
上記(1)イ(ア)のとおり,第1引用発明においても,おむつの縦方向の長さ調節を行うことができるから,第2引用例に記載の上記技術的事項を第1引用発明に適用することを妨げる特段の事情は見受けられない。また,第1引用発明がおむつの縦方向の長さ調節を行うことができるものである以上,その適用の結果,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節できるという本願発明の効果は,当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものではない。
イ着用者の周りにおむつを取り付けるための手段としてフック・アンド・ループファスナの形を持つ再閉鎖可能なファスナを採用することは周知技術である。
上記(1)イ(ア)のとおり,第1引用発明においても,おむつの縦方向の長さ調節を行うことができるから,上記周知技術を第1引用発明に適用することを妨げる特段の事情は見受けられない。また,第1引用発明がおむつの縦方向の長さ調節を行うことができるものである以上,その適用の結果,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節できるという本願発明の効果は,当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものではない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(相違点の認定の誤り)について(1) 本願発明の「取付手段」につきア(ア)前記第3の1(2)のとおり,本願の「特許請求の範囲」請求項1には,「取付手段」について,「着用者の周りにおむつを取り付けるための取付手段(30;32)」,「前記弾性手段(24)は前記前方ウエスト部分(20)の前記取付手段(30)から前記後方ウエスト部分(22)の前記取付手段(32)まで全面的に前記縦方向縁部分(25)の実質的に全長に沿って延びること」,「前記前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)の幅(a)の前記後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)の幅(b)に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」,「これらの取付手段(30;32)はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであること」が記載されている。
(イ) 本願の「発明の詳細な説明」(甲5)には,次の各記載がある。
「快適さと嵌合の理由で,各種寸法のおむつを提供することは日常普通のことである。例えば,幼児のおむつは新生児,歩き初めの幼児などを含む一定の寸法範囲のものが入手可能である。失禁に悩まされる大人にとって,大人のサイズに大きな個人差があること並びにおむつに対する各種吸収性要件に起因して,広範囲の各種寸法のおむつが要求される。費用有効性の点では,大部分の大人に適合する単一寸法を有することが最適である。」(2頁左下欄6行〜11行)「おむつを着用者の回りに取り付けることができるようにすべく,取付手段はウエスト部分に設けられる。第1図に示す如く,通常は着用者の前部に配置される前方ウエスト部分20はフック部材30の如き一対の取付手段を備えることができ,各フック部材30はおむつの縦方向縁部分25から実質的に直角に延びる。取付手段は更にベルト32を含むことができ,このベルトは使用時に通常は着用者の背中で配置される後方ウエスト部分22から実質的に直角に延びる。第1図に示す如く,ベルトは二つの半分体にでき,各半分体はおむつの対向する縦方向縁部分25から延びる。二つのベルト半分体は着用者の腰のまわりを通るよう意図されており,またフック・アンド・ループファスナの如き任意の適当な手段により着用者の前部で共に取り付けられる。好ましくは,ベルトはフック部材30用のループファスナとして作用する不織材料から作られる。」(2頁右下欄17行〜27行)「本発明によると,弾性手段24は前方及び後方ウエスト部分20,22のそれぞれの取付手段間で実質的に縦方向縁部分25の全長に沿って延びる。これはおむつを着用者へ取り付けるとき,前方ウエスト部分20の取付手段30に取付操作中に発生する張力が弾性手段24を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証されることを暗示する。
おむつの着用者の快適性を更に高めるために,後方ウエスト部分22の取付手段32が前方ウエスト部分20の取付手段を収容するための比較的大きな係合面を呈すれば有利である。しかして,好ましくは前方ウエスト部分20の取付手段30はおむつの縦方向縁部分25から実質的に直角に突出し,取付手段は所定幅aを有する。同様に,後方ウエスト部分22の取付手段32はおむつの縦方向縁部分25から実質的に直角に突出し,取付手段は所定幅bを有する。好ましくは前方ウエスト部分20の取付手段30の幅aの後方ウエスト部分22の取付手段32の幅bに対する百分率比は約10%ないし約30%の間,最も好ましくは約25%である。
前方ウエスト部分20の取付手段30が一対の対向フック部材から成るとき,前記幅aは約15mmないし約45mmの間,好ましくは約30mmにできる。
後方ウエスト部分22の取付手段32が一対の対向ループファスナであるとき,幅bは約50mmないし約150mmの間,好ましくは約120mmにできる。有利には対向ループファスナは不織ベルト形態であるが,ループファスナは後方ウエスト部分22へ取り付けられた又はこれへ組み込まれたフック係合材料の区域から成ることができる。
しかして,おむつが着用者の回りに取り付けられるとき,脚弾性体24が十分に伸張されるまで張力が前方ウエスト部分20の取付手段30へ付与される。次いで取付手段30は後方ウエスト部分の取付手段32へ取り付けることができる。張力は後方ウエスト部分の取付手段32の幅にわたり取付手段30を動かすことにより容易に調節できる。」(3頁左上欄19行〜右上欄17行)(ウ)本願の「図1」(甲5)は,本願発明に係る使い捨ておむつの平面図である。同図によると,「取付手段30」については,@一対の取付手段30が,おむつの縦方向縁部分25の下部から左右に突き出していること,A一対の取付手段30は,おむつの中では,縦方向縁部分25に沿って配置されている弾性手段24を越えて存在する(「図1」下部の点線部分参照)が,横方向に延びた弾性手段26の部分までは延びていないことが見てとれる。また,「取付手段32」については,@一対の取付手段32が,おむつの縦方向縁部分25の上部から左右に突き出していること,A一対の取付手段32は,おむつの中では,縦方向縁部分25に沿って配置されている弾性手段24を越えて存在する(「図1」上部の点線部分参照)が,横方向に延びた弾性手段28の部分までは延びていないことが見てとれる。
イ上記アの記載によると,@本願発明の「取付手段30,32」は,着用者の周りにおむつを取り付けるためのものであること,A縦方向縁部分25に沿って配置されている弾性手段24が,前方ウエスト部分の「取付手段30」から,後方ウエスト部分22の「取付手段32」までの間に全面的に延びていること,B前方ウエスト部分20の「取付手段30」の幅の後方ウエスト部分22の「取付手段32」の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること,C「取付手段30,32」はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであること,D本願発明においては,弾性手段24が,前方ウエスト部分の「取付手段30」から,後方ウエスト部分22の「取付手段32」までの間に全面的に延びているので,おむつを着用者へ取り付けるとき,前方ウエスト部分20の取付手段30に取付操作中に発生する張力が弾性手段24を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証されること,が認められる。
ウ上記アの記載によると,本願の「発明の詳細な説明」及び「図1」には,「取付手段30,32」が,おむつの中で,弾性手段24を越えて存在するが,横方向に延びた弾性手段26,28の部分までは延びていない態様のものが記載されていることが認められる。本願の「特許請求の範囲」請求項1には,上記ア(ア)のとおり,「取付手段30,32」はフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤のいずれかの形を持つ再閉鎖可能なファスナであると記載されているが,上記「発明の詳細な説明」及び「図1」記載の態様のものにおいては,接着手段であるフック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤は「取付手段30,32」のおむつの中に存する部分にまで付ける必要がないことは明らかであるから,本願発明における「取付手段30,32」は,フック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤が付けられていない,おむつの中まで延びる部分をも含めていうものであって,フック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤が付けられている部分のみをいうものではないと解することができる。
(2) 本願発明の「取付手段」の第1引用発明との対比につきア 第1引用例(甲1)には,次の各記載がある。
「本発明は使い捨ておむつに関するものである。」(2頁左下欄18行)「おむつ10はまた部分12のために砂時計のような形状をなしており,4つの広い部分は耳部14,16,18,20を形成している。上記おむつは不浸透性のポリエチレンやポリプロピレン等でできたバッキングシート22を有する。トップシート24は不織のポリエチレン繊維かまたはポリプロピレン繊維,あるいはこれらの混合であることが望ましく,おむつ10の周縁に沿つてバッキングシート22に固着されている。吸収…パッド26がトップシート24とバッキングシート22との間に配されており,この吸収パッド26は木質フラツフ等のものでもよい。」(3頁左下欄末行〜右下欄13行)「1対の伸縮性を与えられたストリップ34,36が取付けられている。バッキングシート22の表面に粘着性の線または点25が設けられており,これによりストリップ34,36は,いつぱいに伸ばされた状態でバツキングシート22におむつの全長にわたつて接合される。そしてストリップ34,36は,おむつの輪郭とだいたい一致する。」(3頁右下欄15行〜4頁左上欄1行)「もう1対の伸縮性を与えられた部材がいつぱいに伸ばされた状態で38,40で示されている。この部材38,40はバツキングシート22に接合されるが,流体障壁を形成するよう水を通さないものであり,バツキングシート22とトップシート24の間に接着剤やヒートシーリングによつて固着され,ウエストシールを形成するのに役立つ。伸縮性部材38,40は物理的に伸縮性部材34,36と交差し,重なり合い接着剤接合している。
伸縮性部材38,40は伸縮性部材34,36にほぼ直角に延び,バツキングシート22にわずかの元引張力で接合する。したがって,ストリップ38,40とストリップ34,36は共にそれぞれまた部シールとウエストシールに直接的な元応力と引張力を与えるように働くので心地良いぴったり感を保証したり,また一方,幼児におむつを着ける際に都合の良いように耳部14,16,18,20を起立位置に保持する。」(4頁左上欄7行〜右上欄4行)「ウエストの伸縮部材38,40はおむつの側端部から50の部分で張り出してもよく,剥離可能なリリースペーパーによって保護された感圧性接着剤を塗布することもあるが,この場合耳部14,16,18,20を起立位置に保持することがより大きな意味を持つ。これにより出っ張り部50がおむつを幼児に調整可能に着けるための便利な伸縮性を与えられたフアスナーとして機能することが可能となる。」(4頁右上欄6行〜14行)また,4頁右下欄には使い捨ておむつの平面図が記載されており,同図には,@また部分12の一方の横方向端区域に配置された耳部18,20を含む部分とまた部分12の他方の横方向端区域に配置された耳部14,16を含む部分は,また部分12より幅広であること,Aウエストの伸縮性部材38,40がおむつの上部と下部に全面的に存在し,出っ張り部50で左右に張り出していること,B伸縮性部材34,36がおむつの縦方向縁部分に沿って配置されており,伸縮性部材38,40とほぼ直角に交差していること,が示されている。
イ原告は,第1引用発明において,本願発明の「取付手段」に相当するのは「出っ張り部分50,50」のうち,感圧性接着剤を塗布された部分のみであるところ,「出っ張り部分50,50」のうち接着剤を塗布された部分の位置は,合理的に考えると,「出っ張り部分50,50」の先端になるので,「出っ張り部分50,50」の先端のみが本願発明の「取付手段」に相当すると主張する。
しかし,前記(1)ウのとおり,本願発明における「取付手段30,32」は,フック・アンド・ループファスナまたは剥離可能接着剤が付けられている部分のみをいうものではないから,第1引用発明において「出っ張り部分50,50」の先端部分のみに感圧性接着剤が塗布されているとしても,第1引用発明において,本願発明の「取付手段30,32」に相当する部分を「出っ張り部分50,50」の先端部分のみに限定する理由はない。前記(1)ウのとおり,本願発明には,「取付手段30,32」が,おむつの中で,弾性手段24を越えて存在する態様のものも含まれていることからすると,第1引用発明のウエストの伸縮性部材38,40のうち,「出っ張り部分50,50」のみならず,おむつの中で,伸縮性部材34,36を越えた部分までも,本願発明の「取付手段30,32」に相当すると解することができるというべきである。
もっとも,第1引用発明は,本願の「発明の詳細な説明」及び「図1」記載の態様のものとは,「取付手段30,32」に相当する部分と,本願発明の「横方向の弾性手段26,28」に相当する伸縮性部材38又は40とが一体となっている点が異なるが,本願の特許請求の範囲「請求項1」には,「横方向の弾性手段26,28」を設けること自体規定されておらず,「取付手段30,32」と「横方向の弾性手段26,28」を別に設けるというような限定はないから,この点を本願発明と第1引用発明の相違点ということはできない。また,原告は,第1引用発明の「出っ張り部分50,50」や「ウエストの伸縮性部材38,40」は,弾性を有する点において,本願発明の「取付手段30,32」とは異なると主張する。しかし,本願の特許請求の範囲「請求項1」には,「取付手段30,32」について,弾性を有しないという限定はないから,第1引用発明の「出っ張り部分50,50」や「ウエストの伸縮性部材38,40」は,弾性を有する点において,本願発明の「取付手段30,32」とは異なるということはできないし,第1引用発明の「出っ張り部分50,50」や「ウエストの伸縮性部材38,40」が弾性を有するからといって,「おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38または40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される」という,本願発明と同様の作用効果を奏するといって差し支えないことは,後記のとおりである。したがって,第1引用発明の「出っ張り部分50,50」や「ウエストの伸縮性部材38,40」は,弾性を有する点において,本願発明の「取付手段30,32」とは異なるということはできない。
そうすると,第1引用発明の出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38,40は,本願発明の「取付手段30,32」に当たるということができる。
そして,上記アの記載によると,第1引用発明では,伸縮性部材34,36がおむつの縦方向縁部分に沿って配置されており,伸縮性部材38,40とほぼ直角に交差しているから,おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部分50を含むウエストの伸縮性部材38又は40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される,という本願発明と同様の効果を奏するということができる。この点について,原告は,「出っ張り部分50,50はウエストの伸縮部材38,40と同じく弾性を有する素材から構成される。このような弾性素材からなる『出っ張り部分50,50』をおむつの縦方向に引っ張った場合,『出っ張り部分50,50』自身のみがその弾性によって伸張するだけであり,仮にそれにつられて側縁伸縮性部材34,36が引っ張られたとしてもその程度は極めて小さく,側縁伸縮性部材34,36の縦方向の長さ調節は極めて困難である」と主張する。しかし,出っ張り部分50,50が弾性を有する素材から構成されるとしても,同部分は,主としておむつを横方向(着用者のウエストに沿った方向)に伸縮させるための弾性を有するものと考えられる。したがって,仮に「出っ張り部分50,50」をおむつの縦方向(着用者の股方向)に引っ張る際に,同部分が多少変形しながら伸長することがあるとしても,横方向(着用者のウエストに沿った方向)に引っ張るのではないから,伸長の程度はきわめて小さいものにすぎず,「出っ張り部分50,50」をおむつの縦方向に引っ張れば,それにつられて側縁伸縮性部材34,36が引っ張られることになるのは明らかであり,その程度がきわめて小さいなどとみるべき根拠はないから,原告の上記主張は採用することができない。
なお,原告は,本願発明は,サイズに大きな個人差がある大人用おむつの発明であるとも主張するが,上記のとおり第1引用発明においても本願発明と同様の効果が生ずるから,第1引用発明も,本願発明と同様に大人用おむつにも適した発明であって,この点に本願発明と違いがあるということはできない。
(3)以上のとおり,第1引用発明は,本願発明の「取付手段30,32」を備えているから,その旨の審決の判断に誤りはなく,本願発明と第1引用発明は,その効果の点においても違いがないというべきである。
したがって,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について(1)原告は,第2引用例には,「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という事項は開示されていないと主張するとともに,「第1引用発明では前方ウエスト部分の取付手段をおむつの縦方向へ引っ張ってもおむつの側縁伸縮性部材をおむつの縦方向に伸張させることができないため,おむつの縦方向の長さ調節を行うことができない」との主張を前提として,@第2引用例に後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくしたおむつが開示されているとしても,この第2引用例に記載された技術的事項を第1引用発明と組み合わせる動機付けは存在しないし,また,この第2引用例に記載された技術的事項を第1引用発明と組み合わせたとしても,第1引用発明のおむつではおむつの縦方向の長さ調節はできないので,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節することができるという本願発明の効果を奏することができない,Aフック・アンド・ループファスナの形を持つ再閉鎖可能なファスナを採用することが周知技術であるとしても,この周知技術を第1引用発明と組み合わせる動機付けは存在しないし,また,この周知技術を第1引用発明と組み合わせたとしても,第1引用発明のおむつではおむつの縦方向の長さ調節はできないので,脚カフの嵌合具合をおむつ着用中に再調節することができるという本願発明の効果を奏することができない,と主張する。
(2)第2引用例(甲2)の「考案の詳細な説明」には,「本考案ではその矢印1で示す背中側に当てる一端側の左右にそれぞれベルト5A,5Bを取り付け,第3図のごとくベルト5A,5Bを小児または病人の腹側で重ね合…せて接合した後,第4図に示すごとく,帯状の紙おむつの他端3側を腹側に当てたのち,矢印3の他端側の左右両側に取付けた接着紙4によりベルト5A,5Bの外面側に接合するようにしている。」と記載されており(3頁13行〜4頁6行),その第2図及び第3図には,ベルト5A,5Bの幅が,接着紙4の幅より大きい図が記載されているから,第2引用例には,「着用者の周りにおむつを取り付けるための手段として,背中側の左右両側に取り付けらえたベルト5A,5Bの幅が,腹側の左右両側に取り付けられた接着紙4の幅より大である」という技術的事項が記載されているものと認められる。
第2引用例には,広い幅のベルト5A,5Bに対して狭い幅の接着紙4の取付け位置を調節することが記載されているわけではないが,第2引用例には,上記のとおり「着用者の周りにおむつを取り付けるための手段として,背中側の左右両側に取り付けらえたベルト5A,5Bの幅が,腹側の左右両側に取り付けられた接着紙4の幅より大である」という技術的事項が記載されているのであるから,この記載に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,広い幅のベルト5A,5Bに対して狭い幅の接着紙4の取付け位置を調節することができることを認識することができるというべきである。
原告は,ベルト5A,5Bは,幼児や病人の胴を帯のように巻くものであるので,その性質上図面では強調して幅広く描かれているにすぎず,一方,接着紙4はベルトへの容易な取付け及び取りはずしのために,更には材料の節約のために,幅が狭く小さいことが従来から好ましいことが図示されているにすぎない,と主張するが,第2引用例には,原告の主張に沿う記載はなく,原告の上記主張は,推測に過ぎないというほかないから,採用することができない。
また,原告は,第2引用例の紙おむつでは,おむつの縦方向縁部分に沿って配置される弾性手段はおむつの中央部にしか設けられておらず,この弾性手段は接着紙4及びベルト5A,5Bと接続していないので,着用者の脚の周りの弾性手段の伸張の程度を調節するためにベルト5A,5Bの幅に渡って接着紙4の取付け位置を調節する理由が全く存在しない,と主張する。確かに,第2引用例の第2図では,おむつの縦方向縁部分に沿って配置される弾性手段はおむつの中央部にしか設けられていないが,そうであるとしても,広い幅のベルト5A,5Bに対して狭い幅の接着紙4の取付け位置を調節することによって,着用者の脚の周りの弾性手段の伸張の程度を調節することができると解される。
(3)また,特開平5-192368号公報(甲3)及び特開平2-5947号公報(甲4)には,フック・アンド・ループファスナの形を持つ再閉鎖可能なファスナが記載されているから,フック・アンド・ループファスナの形を持つ再閉鎖可能なファスナを採用することは,周知技術であったと認められる。
(4)前記2のとおり,第1引用発明は,おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38又は40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される,という本願発明と同様の効果を奏するから,原告の上記(1)@Aの主張は,「第1引用発明では前方ウエスト部分の取付手段をおむつの縦方向へ引っ張ってもおむつの側縁伸縮性部材をおむつの縦方向に伸張させることができないため,おむつの縦方向の長さ調節を行うことができない」との前提において失当であるというほかない。
そして,上記のとおり,第1引用発明は,おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38又は40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される,という本願発明と同様の効果を奏するから,おむつの縦方向の長さ調節のために,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくするという,第2引用例に開示されている上記(2)の技術的事項を第1引用発明と組み合わせる動機付けが存在するということができるし,また,第2引用例に記載された上記(2)の技術的事項を第1引用発明と組み合わせることによって,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節することができるという効果を奏することができるというべきである。
なお,第2引用例には,「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という,本願発明の数値は記載されていないが,おむつの縦方向の長さ調節のために,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくするに際して,前方ウエスト部分の取付手段の幅の後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する割合をどの程度にするかは,当業者が適宜選択すべき事項であって,本願の発明の詳細な説明(甲5)にも,前記2(1)ア(イ)のとおり,この数値が好ましいと記載されているのみであるから,この数値について当業者が容易に想到し得るものではないということはできない。
(5)前記2のとおり,第1引用発明は,おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38又は40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される,という本願発明と同様の効果を奏するから,おむつの縦方向の長さ調節のために,フック・アンド・ループファスナの形を持つ再閉鎖可能なファスナという上記(3)の周知技術を第1引用発明と組合せる動機付けが存在するし,また,この周知技術を第1引用発明と組み合わせることによって,脚カフの嵌合具合をおむつ着用中に再調節することができるという効果を奏することができる。
(6)したがって,原告の上記(1)の各主張を採用することはできず,本件相違点は,第2引用例に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうるものであり,本願発明の効果は,第1,第2引用例に記載された発明,及び周知技術から当業者であれば予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえないとする審決の判断に誤りはない。
なお,原告は,本願発明は,「前記弾性手段(24)は前記前方ウエスト部分(20)の前記取付手段(30)から前記後方ウエスト部分(22)の前記取付手段(32)まで全面的に前記縦方向縁部分(25)の実質的に全長に沿って延びること」と「前記前方ウエスト部分(20)の取付手段(30)の幅(a)の前記後方ウエスト部分(22)の取付手段(32)の幅(b)に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という二つの要件が組み合わされて初めて所望の効果を発揮することができるものであって,これらの要件は不可分一体の関係にある,とも主張するが,以上述べたところからすると,これらの要件が組み合わされて一体となった本願発明を容易に想到することができるということができるのであって,審決が,これらの要件が不可分一体の関係にあることを看過しているということはない。
(7) 以上のとおり,取消事由2は理由がない。
4よって,原告主張の取消事由はいずれも理由がないことになるから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一