審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ネ6451各補償金請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ4556職務発明譲渡対価請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ワ23981補償金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 職務発明 / 改良発明 / 無償の通常実施権 / 相当の対価(相当な対価) / アクセス / 技術情報 / 発明の利用 / 実施料相当額 / 時効 / 存続期間 / 参酌 / 均等 / 置換 / 特許発明 / 実施 / 算定方法 / 実施料 / 営業秘密 / 実施権 / 専用実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 対価 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
18年
(ネ)
10025号
職務発明の対価請求控訴事件
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控訴人X 被控訴人積 水化学工業株式会社 訴訟代理人弁護 士小松陽一郎 同 福田あや こ 同 辻村和彦 同 井崎康孝 同 井口喜久 治 同 川端さと み 同 森本純 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/01/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1本件控訴を棄却する。 2控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人は控訴人に対し,9億9972万2364円を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 |
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事案の概要
1本件は,被控訴人の従業員である控訴人がした職務発明につき,特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)35条3項に基づいて,特許を受ける権利を使用者である被控訴人に承継させたことに対する相当な対価(以下単に「相当の対価」ということがある。)の未払分及び平成16年11月29日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求した事案である。 2原審において控訴人は,相当の対価の未払分55億8000万円の一部請求として20億円の支払を請求したが,原判決(平成18年2月21日言渡)は,27万7636円の限度でこれを認容した。そこで控訴人は,原判決を不服として,9億9972万2364円の支払を求める限度で本件控訴を提起した。 |
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当事者の主張
1当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決記載のとおりであるから,これを引用する。なお,以下においては,原判決の略語表示は,当審においてもそのまま用いる。 2 当審における控訴人の主張当審における控訴人の主張の要旨は,別紙「控訴理由書」「控訴理由書補正書」「準備書面甲控1」のとおりであり,その後の控訴人主張書面(口頭弁論終結時までのもの)を含めた主張の要点は,次のとおりである。 (1)相当の対価の計算方法についてア 基本的な考え方につき原判決は,次の式@,Aに具体的数値を当てはめて,相当の対価を計算している。 @ 独占の利益= 削減されるコスト額×(1/利益率)× 実施料率A 相当の対価= 独占の利益× 原告らの貢献度× (原告の貢献/原告らの貢献)特許の利用状況を証拠立てる上で,売上は客観性が高い(立証しやすい)尺度なので,実施料を決めるに当たって利用される。その基本になるのは次の式Bである。 B 実施料= 売上× 実施料率原判決は,仮定される実施料によって独占の利益を決めている。即ち,C 独占の利益= 実施料そして,式B,Cから,D 独占の利益= 売上× 実施料率となる。なお,上記式B,Cにおける「実施料」は,控訴人が特許を保有すると仮定し,被控訴人に実施許諾した場合の実施料に対応すると見るべきであり,その実質的効果は独占的な実施許諾といえる。 さて,利益率の定義は,E 利益率= 利益/売上であるので,式D,Eから以下の式Fが導かれる。 F 独占の利益= 利益× (1/利益率) × 実施料率式E,Fの中の「利益」は,あくまで特許が活用される事業(製品売上)全体の利益であることは言うまでもない。ただし,実施料控除以前の粗利である。 式Fを式@と比べると,両者は右辺第1因子のみが異なる式であるが,「削減されるコスト額」と「利益」とは明らかに別物であるから,式Fが正しい以上は,式@は誤りである。また,あくまで式@を用いたいのであれば,その右辺第3因子に来るのは,世間で用いられる「実施料率」とは意味の異なる係数であり,混乱を避けるために別の言葉で呼ばれる係数でなければならない。 本件発明が関わる製品につき,特許出願から権利が切れるまでの20年間に見込まれる売上は,1000億円を,また,利益でも●●億円をはるかに超えるものである(「シード品」は除いてのもの)。ここから「独占の利益」を求めるとなると,売上及び利益があまりに大きく,また,被控訴人が主張するように,本件発明,特に,控訴人が関わったところのいわゆる「改良発明」が貢献するところの部分は,利益が得られている原因の一部にすぎない可能性は確かにあり,これを算出するための有効な「実施料率」の根拠を見いだすことは難しい。そこで,やはり「削減されるコスト額」を算出の基礎としながら,式@ではない,次の式Gを用いることが提案される。 G 独占の利益(= 仮定される実施料)= 削減されるコスト額×「特許権者還元率」上記の式Gで係数として用いている「特許権者還元率」は,削減されるコスト額に付随する利益分の配分割合を定義し,決して100%を超えることがないものである。なぜなら,これが100%を超えるなら,実施者は,実施許諾を得るよりは,当該技術を避けて実施した方が,自分の利益を多くできるからである。逆に言えば,これが100%を切るならば,実施許諾が申し込まれる可能性は十分にあり,100%から実施のリスク分等を控除して適当に決められる率が,この「特許権者還元率」になり得る。また,リスク(設備投資の必要額等)の多寡にもよるが,「特許権者還元率」がゼロに近い値になることもまた考えにくい。なぜならば,その場合には,他者に許諾するよりは,自分が独占実施して利益のすべてを獲得することを考えるのが自然だからである。 イ 削減されるコスト額の認定につき(ア)生産性向上の倍率a原判決は,削減されるコスト額を認定するに当たり,その根拠となる改良発明による生産性向上率は1.5倍であると認定したが,5倍であると見るのが妥当であって,原判決の認定は誤りである。 控訴人は,原審において,乙第35号証添付書類1の効果計算書におけるステップ1に述べられるところの,2002年から2004年までの期間についての,SP+SPN+SPSの中に占めるSPの割合への疑義を述べている。これらの中で価格の高いのは,より精度の高いSPSといったグレードであるが,その出荷量はこれ程に少なくはないはずであり(乙第26号証に述べられる生産量は各グレードにつき大差ない。),出荷金額で重みづけするなら,金額的にはSPSが主位を占め,これに関する生産性の向上を最も重視しなければならない。原判決は単にその総量が妥当であるから,主張全体が妥当であるという訳の分からない論理を用いているが,出荷金額が少ないSPの生産性向上率(それはSPN及びSPSほどに向上しているとはいえない。)を根拠に全体の生産性向上率を評価するのは妥当でない。 被控訴人が生産性向上率として1.5倍を主張し,これを証明しようとするのであれば,現に然るべき数量のSPが出荷されていること,また,被控訴人から購入している主要な大口ユーザーは,SPを合わせた全体の中で各1割程度のSPN及びSPSしか購入していないことを,伝票などから証明すれば十分なわけであり,被控訴人の主張が事実であるなら,その証明は難しいことではない。 生産性を5倍にするということについては,乙第5号証(平成6年1月24日の第2回微粒子連絡会の記録)において,「現状」●●kg/月のSPSの生産性を5倍に上げるという目標が述べられている。 b原判決が,改良発明による生産性向上率は1.5倍であると認定するに当たり,その根拠として用いた生産量等のデータについて,被控訴人は控訴人の照会に対してなすべき回答をせず,原審裁判所はなすべき審理をしなかったものである。 生産量と生産性に関する原審における主張立証の経過は下記@〜Hのとおりである。 記@控訴人は平成17年2月6日付けの「照会書甲1」によって,分級の仕込み量,回収量,分級操作の延べバッチ数,売上,費用といったデータの開示を求めたが,被控訴人はこれらを速やかに開示しなかった。今に至っても,売上高などは,きちんと示されていない。なお,控訴人から被控訴人に照会すべき事項はその後も生じたが,照会書を再び用いることはなかった。これは,照会書に対する回答の義務につき原審裁判所が適切な措置を採らないため,さらにこうした形式を用いることによる特別な効果は期待できないからであった。 A控訴人が平成17年4月25日ごろ提出した甲第15号証(新聞記事)は,被控訴人における生産量の示唆を与えるデータを含んでいた。また,同日付けの準備書面甲2では,分級工程の1ロットの出来高が増えることによって,続く工程が合理化される可能性を主張した。 B被控訴人が平成17年4月28日ごろ提出した乙第26号証は,同日付けの被告第2準備書面によれば,「平成13年10月以降現在までの間に,被告が実際に商品であるスペーサを製造するために行った150L分級器による粒径6ミクロンの粒子についての分級作業のデータを全てピックアップし」たものとされる。該当する期間は3年余りである。 C被控訴人が平成17年6月9日ごろ提出した乙第33号証は,上記Aの準備書面甲2の主張に対する反論として,スペーサ製造に関わる各工程の1ロットの出来高とトータルの出来高とを表にしている。それは,「乾燥解砕機」や「反応機」の容量が分級器の能力を大きく上回るものではないという主張に基づく議論であるが,これは,生産量の向上が5倍程度のものであった場合には変わってくる事柄である。また,販売時の1ロットの重量を増やせることによるサービス上の付加価値については,控訴人が明確に主張していなかったこととはいえ,考慮されていない(後処理のバッチが別々であっても,合わせれば良いのだから)。乙第33号証にはまた,分級の前工程である溶剤置換と分級との各工程の出来高が含まれる。また,細かに見ると,表中に用いられる矢印は,溶剤置換機の各バッチの成果物を(直接に)分級器の各バッチの原料としているように見える。もう一つの留意事項として,同日付けの被告第3準備書面では,特に4頁の表に,SP,SPN,SPSのグレードごとの粒径範囲と加重平均粒子径とが記載されている。SPの粒径範囲は●●●●●●●●●●●●●と,他と比べて広いことは事実である。 D平成17年7月18日付けの準備書面甲4で,控訴人は,分級工程の「歩留まり」につき,上記Bの乙第26号証に述べられたことと,上記Cの乙第33号証の記載からから導かれるものとの間に矛盾があることを指摘している。 E被控訴人が平成17年7月20日ごろ提出した乙第35号証及び同日付けの被告第4準備書面は,各年におけるSP,SPN,SPSの生産量のデータを含む。おそらく,既に提出された資料との矛盾を生じないように,かなりの気遣いのもとに作られてはいる。 F被控訴人が平成17年9月30日ごろ提出した乙第40号証及び同日付けの被告第5準備書面は,上記Dで控訴人が指摘した点に答えるものである。ここでは,ある分級バッチの成果物が他の分級バッチの原料とされる使い回しの存在が主張される。これに基づくなら,上記Cの乙第33号証で用いられた矢印の使い方は正確さを欠くことになる。また,分級バッチの中で,溶剤置換機からの無垢の原料によらないバッチがあったことになり,上記Bの被告第2準備書面2頁に記述された「全て」という言葉は,こうした再分級の場合を含んでのものかどうか,改めて不確定となる。仮に,文字どおり「全て」,即ち再分級の場合が含まれるとしたら,かなり性格の異なるバッチを一まとめに報告していることになり,乙第26号証を作った時点で,いったい何を説明するつもりで,読者のどういう理解を狙っていたのか,あわよくば誤読を狙っていなかったか,作成者の誠意が疑われるものである。このことは,乙第26号証に限らず,本件訴訟の提起以降に作成された他の資料の多くについても当てはまるものである。 G控訴人の平成17年10月29日付け準備書面甲6は,それまでの被控訴人の主張立証を総合し,被控訴人が主張立証しようとした事実は何であったかを改めて問うものであった。上記Eの乙第35号証のデータは,上記B,Cのそれぞれと比較して論理的な矛盾はないようにはなっているが,数値的に相当な無理がある。控訴人は準備書面甲6で,被控訴人の主張立証を総合した複雑な推論によってやっと明らかになる事実があることを明らかにするとともに,その事実の確認と,実際の生産状況及び製品出荷量に関する確認を求めている。製品出荷量については,「SPに限れば,5〜7ミクロンの範囲では●●kg程度しか出ていないのに,4ミクロン付近と8ミクロン付近とを合わせて●●kgもの出荷がなされているということになる」(準備書面甲6の8頁)から,このような無視できない出荷について,「用途はそれぞれ何か,どのようなユーザーが買うのか,ぜひとも説明を聞きたくなる」(同9頁)と問を投げ,また,「乙第40号証の説明は未だ曖昧なものを残す。即ち,この再定義によって,乙第26号証のデータは被告第2準備書面の2頁に述べられたままに,1.……なのか,それとも2.……を示すのかが改めて不確定となる」(同7頁)とも指摘した。 Hこの後,被控訴人が準備書面を提出することがないまま平成17年11月25日の結審を迎え,裁判官は平成18年2月21日に判決を出すまで,民事訴訟法による基準の2か月を超える期間,判決文を練りに練った。つまり,事業的な概要がほとんど説明されることなく,大きな不明をそのままに,逃げ切るような形で判決がなされたというべきなのである。 上記の被控訴人の主張立証を総合すれば,乙第35号証においてはSPSおよびSPNを大きく上回る生産量を持つSPに関し,生産の平均は6ミクロンであるとしても,粒子径範囲ごと(5ミクロン未満,5〜7ミクロン,7ミクロンより上)の生産量を考えた場合,5〜7ミクロンは全体からすればごくわずかな部分でしかないことが推論されるのである。しかし,実際はそうではないはずで,このことを通じ,被控訴人の提出したデータの虚偽が濃厚に疑われるものである。 被控訴人は原審において,6ミクロンのスペーサの重量が全体に占「比較すめる割合等を明らかにする必要性はないと主張し,原判決も,る適切なデータの存在しない粒径6ミクロンの粒子以外の粒子の分級生産性についとしている。しかし,控訴人て,さらに資料を提出する必要はない」(48頁)は,6ミクロン近辺とそれ以外とでは分級器改良による生産性向上率が大きく違うであろう,などということを主張しているわけではない。控訴人は,上記Gの準備書面甲6で述べた複雑な推論によってやっと明らかになる事実があることに当然の疑問を抱き,そのことの確認と,場合によっては,現場における生産状況の確認や,製品出荷量に関する証拠の提出を求めるものである。 端的にいえば,被控訴人の提出したデータはおかしいというのが控訴人の主張である。おかしくないと被控訴人が主張するなら,その根拠たる数字を当然示すことは容易なことであるはずなのに,被控訴人はそれをしていないのだから,このことが,むしろ控訴人による矛盾の指摘は正しく,利益に関連して控訴人が提出した数値でさえ,すべての数値が明らかにされた場合と比べれば控え目な見積もりであることを証拠立てるものである。 cまた,改良発明による生産性向上の倍率を「多粒径回収」に則して検討すれば5.4倍であり,これが実製造に関わる生産性向上の倍率であるから,生産性向上の倍率は,原審以来控訴人が主張してきたとおり,少なくとも5倍であると考えられる。 すなわち,改良発明の前後において,単一粒径回収と多粒径回収の場合について妥当と考えられる生産性は下の表のとおりである。このように,SPSに関し,単一粒径回収における生産性の向上率は被控訴人の主張どおり●●倍であるが,被控訴人社内で実際に行われている多粒径回収においては5.4倍であると考えられる。 (表) SPSに関する150L分級器一台当たりの生産性単一粒径回収多粒径回収従来型装置●●kg/月0.65kg/月改良発明の装置●●kg/月3.5kg/月向上倍率●● 倍5.4 倍上記表に示した数値の根拠は下記のとおりである。 記@従来型装置で単一粒径回収の場合乙第4号証,乙第5号証,乙第12号証,乙第27号証,乙第28号証等を通じ,SPSに関して●●kg/月と見ることができる。 A従来型装置で多粒径回収の場合従来型装置の運転条件では,回収に多くの時間がかけられている。乙第4号証の2頁の表によると,所要日数●●の中で回収に占める日数が●●となっている。従って,最初の一粒径,即ち,単一粒径の回収に要する日数は●●であるが,かなり多くの粒径品を続けて採取できた場合,粒径当たりの日数は最小で●●となるので,単一粒径と多粒径とで,所要期間の比は●●,生産性の比は●●になる。単一粒径の生産性●●kg/月に●●を掛けることにより,●●kg/月と見積もった。 B改良発明の装置で単一粒径回収の場合被控訴人より乙第26号証などを通じて主張されているとおり,0.724kg/月とした。 C改良発明の装置で多粒径回収の場合6ミクロンの単一粒径に限っての生産量は乙第26号証に示されており,これは3年間で●●kgであるが,他の粒径も合わせてこの操作で実際に得られているのは,原審の準備書面甲6の7頁で主張したとおり,乙第35号証の表1に示された●●kgであると考えられる。そうすると,単一粒径回収に対する前記●●kg/月に●●を掛けることによって得られる3.5kg/月が多粒径回収におけるSPSの生産性となり,これが実生産に即した生産性と見られる。 上記のとおり,単一粒径回収における生産性向上の倍率は●●倍であっても,多粒径回収における倍率は5.4倍になる。実際の生産に密接なのは後者なので,後者の倍率が採用されるべきである。 (イ)削減されるコスト額上記(ア)のとおり,改良発明による生産性向上率は5倍と見るのが相当であるから,これを前提にして,削減されるコスト額を検討する。 式Gにおける「独占の利益」を振り返ると,これはあくまで「改良発明」に対応するものであるが,生産性向上率の見直しは,「削減されたコスト額」の見直しを促す。もし,従来法が現在も用いられた場合の分級コスト額は,H従来法の分級コスト額= 現在の分級工程コスト額× 生産性向上率であり,また,削減されたコスト額は,I削減されたコスト額= 従来法の分級コスト額- 現在の分級工程コスト額であるから,式HとIから,J削減されたコスト額= 現在の分級工程コスト額×(生産性向上率-1)となる。 式Jに出てくる因子である,(生産性向上率-1)は,生産性向上率が1.5の場合は0.5に過ぎないが,生産性向上率が5の場合は4になる。 即ち,8倍にまで違ってくる。 また,この倍率認定は控訴人らの寄与の割合を変えるだけではない。 現在の生産に関わる金額の認定を左右するものである。これは「現在の分級工程コスト額」が生産性向上率の見直しと平行して見直されるべきことに由来する。 ただし,この主張は,出荷される製品の総重量に関して異議を唱えるものではなく,原判決の48頁や54頁の説示は不当である。すなわち,原「原告は,同表記載のスペーサの生産量は過小であるなどと主張するが……… 判決はと認定したが,これは全く当を得信用し得る数値であると認められる」(54頁)ないものである。控訴人が製品の総重量に関して異議を唱えていないのは,初めからである。そして,総重量に問題がないから,その中身の配分にも問題がない(もしくは考慮する必要がない)とするのが原判決(54頁)の論旨であるとすれば,そこには,何らの論理的正当性もな「乙第35号証のデータは,SPSとSPNのデータを過 い。原審において,控訴人は,小申告しながら,全体の数量を新聞記事と整合させるために,量の合わない部分を,価格の安い(具体的な価格はまだ聞いていないが)SPに持たせることを考えた『力作』でと主張したのであるが,原判決はこの論旨のツ ある」(準備書面甲6の11頁)ボを全く捉えていない。 スペーサ製品はその径のばらつき(CV値)によってグレード分けされ,SP,SPN,SPSに分かれるわけであるが,乙第26号証に主張されている数値には誇張があるとしても,グレード間で分級生産性に差があることは事実であり,よりばらつきの少ないグレードに利用者側から見たデメリットがあるとしたら価格だけであるから,グレード間にはそれなりの価格差があって当然なのである。まして,乙第35号証に主張されるようにSPSの生産量が少ないとしたら,そうした「高嶺の花」には高い値段がついて当然である。こうしたことは,どのような分野の製品にも当てはまることであろう。製造コストが多くかかり,世間の人気が集中する製品には高い単価がつくという当たり前のことを,原判決は全く考慮していないのである。高い価値の製品を,より少ない手間で製造できるのが本件発明のメリットであり,発明の価値を判断するに当たっても,製品の価値の差は欠かせない観点である。原判決は,グレード間の価格差が主張立証されていないからこれを考慮する必要がないとするが,そもそも被控訴人にこの点につき主張立証を命じなかったのが裁判官の意図によるものだから,その結果資料がないので考慮を要しないというのであれば,裁判を行う意味は,裁判官に賄賂を提供できない立場の者にはないというのと同じことである。 売上と分級工程の上で最も重きを持つSPSグレード(乙第26号証に示されるバッチ数全体の実に●●%がSPSである)につき,出荷数量と「現在の分級工程コスト額」との上方修正をするべきなのである。SPSについては,5/1.5=3.3倍となる。SPについては若干減るとしても,本来が,かかる手間の少ないものなので,平均して,全体の「現在の分級工程コスト額」につき,少なくとも●倍を見るのが妥当だと考える(ここの論旨はやや不明朗であろうが,準備書面甲6において,乙第26号証に現れないバッチがかなりあることの指摘をしており,被控訴人はこれに反論していない。)。 「現在の分級工程コスト額」を●倍に修正し,(生産性向上率-1)を先に述べたとおり×倍に修正すると,式Jの左辺である「削減されるコスト額」は●倍に修正すべきことがわかる。判決で認定された同じ額は,●●億円であるが,これを●倍することにより,次の金額を得る。 K削減されるコスト額(訂正値)= ●●億円× ●● = 45.44億円ウ 独占の利益の算定につき式D又は式Fによって独占の利益を算定する場合,本来,被控訴人が主張する「実施料率」3.25%を用いるべきものではないが,仮にこれを用いるとした場合,20年間の売上は1000億円を超えるものである(シード品を除く。)から,独占の利益は次のようになる。 L独占の利益= 1000億円× 3.25% = 32.5億円式Gを通じ,式Kと式Lとから「特許権者還元率」を逆に見積もると約72%となる。これは,あり得ないことはない数字である。 エ 控訴人らの貢献度につき原判決は「原告らの貢献度」を5%としたが,この数字自体には根拠がなく,本来は掛算でなく引算であるものを,あえて掛算の形に書くことを試みた結果にすぎない。すなわち,判決では「独占の利益」を709万円余りとしているから,ここから,控訴人の仕事に必要であった「Rフロー」の価格4500万円などを差し引いてなおかつ5%が残るという論理は,裁判官の温情の結果であると見なければならないが,「独占の利益」を上記ウの議論で得た32.5億円と考えるなら,この額は原判決に対して桁はずれのものであるから,原判決が認定したのと同じ率の貢献度を用いるべき根拠は全くない。 また,「原告らの貢献度」を規制する理由として,原判決は,控訴人らが積水ファインケミカル株式会社で先に実施されていた技術情報に触れたこと等を指摘する。そのような事実があったことは認めるが,当該事実を「改良発明」に対する「原告らの貢献度」を割り引く根拠とするならば,その一方で,控訴人らの貢献による「改良発明」があって初めて,「原発明」も特許の形になり得た事実をも指摘しなければならない。すなわち,「原発明」があってこそ控訴人らが「改良発明」をなし得た事実と,「改良発明」に沿って分級の技術思想が完成されることによって,従来積水ファインケミカル株式会社の社内で秘匿によって実施されていた「原発明」をも含めて特許出願し得るきっかけが得られたこととは,少なくとも互いに相殺されるべき留意事項である。「原発明」の価値をもし評価するならば,「改良発明」にも増して莫大なものである。 以上によれば,控訴人らの貢献度は50%を下ることはない。 オ 小括以上述べたところから,M 対価= 独占の利益× 原告らの貢献度×(原告の貢献/原告らの貢献)N= 32.5億円×50/100×80/100=13億円となる。 (2)シード品の価値に関する主張(シード品を原料とする分級は,従来のいわゆる分級品にCV値が匹敵する製品を狙う限り,生産性を全く向上させないこと)についてア被控訴人は,原審において,シード品は,重合時点である程度良好なCV値を持っているため,ごく短時間の「簡易分級」のみによって,分級作業は完了する旨主張する。このこと自体は事実であるが,このようにCV値に優れたシード品を使うことにより分級自体の生産性が大幅に向上するわけではない。 短期間で終了する「簡易分級」においては,粒径の分布において極端な裾の部分,すなわち,極端に細かい部分と極端に粗い部分のわずかなフラクションだけを分離することのみが可能である。裾を除いた実質部分のCV値を向上させようとすると,もともとの分布が狭い場合には,分布が広い原料を使った場合にも増して時間が掛かってしまうのである。 このことを,具体的な例で説明すると以下のとおりである。 イ 分布が広い原料と狭い原料として次の二つを仮定する。 A:4〜5ミクロン,5〜6ミクロン,6〜7ミクロンに各1kgずつ均等に分布する原料3kgB:5〜6ミクロンにのみ均等に分布する原料3kgここで,原料A,Bから,それぞれ5.25〜5.75ミクロンという狭い分布幅の製品を得るとする。 分級においては,分級器の中で,粒子がその径に応じて上から下まで分布するのを待つ「リードタイム」という期間が必要であり,この期間が分級日数の大半を占める。この「リードタイム」においては,分級器の中には装置からの粒子の流出がないように調整された上昇流が維持され,この状態で粒子の分離を待つ。 分級器の有効な高さを約●●とすると,「リードタイム」の最終局面において,原料Aでは,4〜5ミクロン,5〜6ミクロン,6〜7ミクロンの各フラクションがほぼ均等に,すなわち,約●●ずつ,上,中,下の空間を占めることになる。原料Bでは,5〜6ミクロンの粒子が約●●の高さの全体を占める。このような最終局面において,例えば,装置高さの中央(そこは5.5ミクロンの粒子が落ち着くべき位置である)にたまたま紛れ込んでいた例えば5.0ミクロンの粒子には,より上の方の層に出て行ってもらわないといけない。 装置内の該当する高さの空間には,その場所のスラリー密度との関連において,5.5ミクロンの粒子が,それ自体の沈降速度と釣り合い,ちょうど,上にも下にも移動しないように支えられるだけの上昇流が存在している。同じ上昇流のもとでは,自身の沈降速度がより小さい5.0ミクロンの粒子は上昇流に負け,上に移動することになる。しかし,この一定の粒径差に基づく移動速度は,原料Aの仕込みの場合も,原料Bの仕込みの場合も変わらない恒数である。 狙いとする,5.25〜5.75ミクロンに対応する層自体が,原料Aの場合は薄く(●●),原料Bの場合は厚い(●●)ので,邪魔な5.0ミクロンの粒子が層から出て行ってくれるためには,原料Bの場合の方が,移動すべき距離が長いだけに,より多くの日数を要する。 このように,仕込みの粒径分布幅が広がると,これに反比例するように,所定の分布幅に対応する分級器中の層は薄くなり,分級の生産性は向上し,分級に必要な日数は減る。だから,粒径分布の狭い原料Bを原料にすると,分級生産性はむしろ低くなるのである。 もちろん,原料Bでは分級の1バッチに,より日数がかかるとしても,5.25〜5.75ミクロンといった単一のフラクションに対する生産性だけを問題にするのなら,その回収量は多いわけだから,単位時間当たりの生産性は原料Aの場合と同じである。しかし,原料Aでは,5.25〜5.75ミクロンを得るのと同じバッチで,4.75〜5.25ミクロン,5.75〜6.25ミクロン等々の別のフラクションも得られてしまうので,それらに利用価値がなくて捨てるのでない以上は,原料Aによる方が,単位時間当たりのトータルの生産性が高くなる。 ウ以上の次第で,分散重合による樹脂を原料とするいわゆる分級品には,生産性と品質の両面で利用価値があり,シード品は,「簡易分級」のみで使用に耐えるようなグレードの低い分野以外には,利用は広がらないのである。 なお付言すれば,控訴人は原審においてSPグレードの「分級1回」と「分級3回」とが別に行われているとは思えないと主張したが,これも,既に品質を高められたフラクションを取り出して再度分級するのは,効率が悪いやり方だからである。少なくとも経験的に高められているはずの実工程が極端に不合理なものになっているとは考えにくいがゆえの推定であるが,控訴人のこの見方に対して被控訴人の反論は出されていない。 (3)原判決のその他の誤り等についてア 権利範囲につき「流出口の形状の変更に関しては,原告は職務発明届を提出していない」 原判決は,と摘示するが,職務発明届及び明細書において,すべての図と実施(45頁)例は変更後の流出口の形状に基づいて記載されている。ただし,その際に,会社側の要望もあり,変更前の流出口の形状も論理的に含むように請求項を書いたのである。原判決は,流出口の形状の変更の前と後とについて請求項が分かれていないことを,権利範囲が分けられないとする暗黙の論拠にしているようであるが,誤りである。実務的には,請求項は極力分けて書かれる場合が多いが,これは,明細書が不特定多数の目に触れるものである以上,特許査定の範囲が微妙な場合,一請求項の一部のみが特許され得るというケースにおいて,公開後に請求項の中身を修正するということが非常にしづらいための配慮である。 本件の場合は全体が特許されると予測されたし,結果的にもそうなったのだから,本件訴訟において,一請求項の中に立ち入って権利範囲を論じることに意味があるとはいえない。変更前の流出口の形状について明細書中であえて触れなかったのは,最良でない形状について触れることは読む側に不必要であるためと,開発の苦労をむしろ表には出さず,いわば,明細書の内容を極力深みのないものに見せたいとする会社側の戦略的要請に応えた結果である。本件特許の出願の後において,改良発明の出願がごく少ないのも,同じ配慮の結果である。 「上部の流出口の形状の工夫について,原告は職務発明届を提出しておら 原判決は,ず……,何ら権利化されずに本件特許の明細書に記載され,平成8年12月17日に発行された公開公報によって,流出口を平板状とする技術は,同業他社において公然と知るところとなったのであり,かかる自由技術には,相当の対価を評価すべき価値はないものというと説示するが,全く意味不明である。 べきである」(64頁)イ 立証責任につき「流量を一定に保った上での生産性の向上の程度を立証する責任は原告に 原判決は,とするが,●●を使用した分級実験を行うことは,控訴人の自ある」(47頁)宅では不可能であり,工業地域において敷地を借り,実験設備を建設する必要がある。しかも,そのようにして実験の結果を得たとしても,その結果が証拠として証明力を認められるためには,被控訴人の立会いが必要になってくるであろう。それなら,被控訴人の既存設備を利用して,両当事者が立ち会った上で実験をするのがはるかに合理的である。控訴人に実費が請求されるのは仕方がないことであるが,合理的な司法判断が求められるところである。 ウ 相当の対価の算定方法につき(ア)特許法35条1項が定める通常実施権の扱いにつき「使用者等は,従業者等の職務発明に関する特許権について無償の通常 原判決は,実施権を有し(同条1項),もともと当該特許権に係る特許発明を無償で実施し得る権とするが,特許法35条1項が定め 利を有するから,………」(49頁下第2段落)る通常実施権の意義についての誤った理解に基づくものである。 すなわち,職務発明について使用者等が通常実施権を有するのは,従業者等が特許権の自己保有を許される場合に限られ,いわばそのことと引換えなのであるから,もともと職務発明につき従業員が自己で出願することが許されていない被控訴人社内の状況には,特許法35条1項は直接には当てはまらない。 (イ)独占の利益の算定方法につき「独占の利益とは,使用者等が他社に当該特許発明を実施許諾していな原判決は,い場合には,特許権の効力として他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者等があげた利益がこれに該当するが,その算定方法としては,@使用者等が当該発明を他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と,実施許諾せずに自ら独占して実施している場合に上げている売上高とを比較することにより得られる超過売上高に基づく収益と把握する方法と,A当該特許発明を第三者に実施を許諾したと仮定した場合に得られる実施料相当額をもって,当該職務発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得したことによって得られる利益とみなすことにより算出する方法が考えられる。」とするが,@については,上記(ア)に述べた(49頁最終段落〜50頁第1段落)ところに照らし,「超過売上高に基づく収益」に「通常実施権許諾の実施料」を少なくとも加える必要があり,Aにおける「実施料」とは,あくまで専用実施権の実施料である。 「使用者等が職務発明について特許を受ける権利を承継した場また,原判決は,合は,特許を受ける前においても実施する権利を黙示に許諾されているのが通常であり,この場合において,実施により上げた利益が通常実施権によるものを超えるときには,当該発明が貢献した程度を勘案して『その発明により使用者等が受けるべき利益』とするが,上記(ア)の誤った理解を定めることができる。」(50頁下第2段落)に起因する誤りがある。ここで「使用者等が受けるべき利益」としては,原判決が述べているのとは異なり「A.通常実施の実施分」も含むはずであるし,特許法35条1項では前提となっている従業者等の特許権を取り上げているわけであるから,「B.従業者等が他社に実施許諾して得られたはずの実施料」も加算しなければならない。さらに,使用者がこれを独占しているのは,(実施料を取って)通常実施を広く許した場合よりも独占の方がさらに有利であるとの判断によるのであるから,「C.独占に基づく利益追加分」も当然加算されるべきである。 エ 原審における審理の不公正につき(ア)原審裁判官の審理の偏向原審裁判官には,別紙「準備書面甲控1」(控6)記載のとおり,@時効に関する審理,A判決に至るまでの「慎重」な検討と訴訟費用に関する裁判,B審理の進め方全般等について,それぞれ多くの偏向があった。 (イ)原審裁判官の偏向は違法行為の結果と考えられること原審裁判官とりわけ田中裁判官には,別紙「準備書面甲控1」(控7)記載のとおり,一審被告(被控訴人)側から,会食・買収等の汚職行為を受けた状況証拠がある。 3 当審における被控訴人の主張控訴人の当審における主張の多くは,主として生産及び販売の現場を知らないことに起因する誤解に基づくものであり,いちいち反論の必要はないが,念のため再度主張する部分は,以下のとおりである。 (1)控訴人の主張(1)(相当の対価の計算方法)に対する反論ア控訴人は,被控訴人が作成した乙26と乙35との間で,生産量の数値に矛盾があることを指摘するが,そもそも,乙26と乙35とは,立証趣旨を全く異にしていることから,そこに記載されている数値の意味合いも全く異なっており,それぞれの数値の間には厳密な意味での対応関係はない。 また,控訴人は,乙26に記載された数値と乙35に記載された数値との差が,SPS,SPNに比べてSPで特に大きくなっているということを疑問視している。しかし,SPS及びSPNは,●●●●●●●に使用されているため,粒径6ミクロンがボリュームゾーンとなるのに対して,SPは,他の用途にも使用されていることから,●●●●●●●といった幅広い粒径のものが生産されており,このことが,粒径6ミクロンのものを集計した乙26と,すべての粒径のものを集計した乙35との数値の差になって現われているのであり,何ら不自然な点はない。 イ控訴人は,多粒径回収に即して本件各発明による生産性向上の倍率を把握すべきであると主張するが,被控訴人の生産の現場では,多粒径回収に伴う回収機洗浄の必要をなくす等の配慮から単一粒径回収を基本としているので,多粒径回収に即して生産性向上の倍率を把握すべきものではない。 (2)原判決が独占の利益を肯定したことの誤りについて本件各発明は原発明の利用発明にすぎないから,本件各発明がなくとも原発明さえあれば,第三者の実施に対する排他的効力を及ぼすことは可能である。そして,原発明は控訴人が全く寄与していない発明であるから,本件各発明を被控訴人が承継することによって,新たに獲得される独占の利益は全く存在しないのである。 原判決は,本件各発明の独占の利益を認めているが,その理由として説示するところは,利用発明の一般論として,抽象的な推論を重ねているにすぎず,具体的に本件各発明に独占の利益が存することを何ら明らかにするものではない。原判決の説示は,本件各発明の独占の利益を肯定したいがために,現実的には考えられない仮定を重ねて理論立てているにすぎないものと思われ,到底承服することはできない。 (3)原審裁判官の措置に関する主張(控訴人の主張(3)エ)に対し控訴理由書中には,感情的な主張がまま見受けられるが,かかる主張は,以後,でき得る限り控えられるべきものと思料する。とりわけ,控訴理由書中に見られる,何らの根拠もなく原審裁判官を個人的に中傷するような内容の記載については,不穏当であるので陳述を控えられるべきではないかと思料する。 |
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当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求を27万7636円の限度で認容した原判決は相当であり,控訴人の控訴は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり原判決を訂正し,控訴人及び被控訴人の当審における主張に対する判断を加えるほか,原判決の記載のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の訂正原判決46頁2行目「SPSについては1.81倍」とあるを「SPについては1.81倍」と,49頁6行目に「前記1認定の」とあるを「前記(1)認定の」,56頁7〜8行目に「平成8年(1995年)」とあるを「平成8年(1996年)」と,それぞれ訂正する。 3 当審における控訴人の主張に対する判断(1)相当の対価の計算方法についてア 基本的な考え方につき(使用者等が従業者等から特許を控訴人は,原判決が,被控訴人の独占の利益受ける権利を承継して特許を受けた結果,特許発明の実施を排他的に独占することによっを算定するに当たり,本件各発明て得られる利益をいう。原判決49頁下第2段落)による独占の利益を,下記の式@によって計算したのは誤りであり,正しくは式F又は式Gを用いるべきであったと主張する。 @独占の利益= 削減されるコスト額×(1/利益率)× 実施料率F独占の利益= 利益× (1/利益率) × 実施料率G独占の利益(=仮定される実施料)=削減されるコスト額×「特許権者還元率」しかし,以下のとおり,控訴人の主張する式F又は式Gによって独占の利益を算定することは相当なものとはいえない。 すなわち,まず,式Fのうち,「利益×(1/利益率)」は売上にほかならないから,式Fを用いると,被控訴人のスペーサの売上全体に実施料率を乗じたものをもって,被控訴人の独占の利益として把握することになる。しかし,被控訴人のスペーサの売上全体に実施料率を乗じたものとは,第三者が本件各発明にかかる特許を保有していると仮定した場合に被控訴人が控訴人に支払うべき実施料にほかならないから,このような算定方法は,使用者等が従業者等の職務発明に関する特許権について無償の通常実施権を有すること(特許法35条1項)と相容れない。 また,式Gは,「特許権者還元率」を含むものであるが,控訴人の主張によっても「特許権者還元率」の内容は明らかでなく,このように内容の不明確な項を含む式によって独占の利益を算定することはできない。 イ 削減されるコスト額の認定につき(ア)生産性向上の倍率a控訴人は,原判決が,本件各発明によって分級の生産性がおおむね1.5倍向上したと認定したことにつき,原判決はその計算根拠となるスペーサの生産量のデータを被控訴人作成の資料(乙26の1〜3,乙35)によっているが,データの相互間に矛盾があるからこれらの資料の内容は信用することはできず,原判決の上記認定は不当であると主張する。そして,その矛盾の具体的内容としては,乙26の1〜3に示された粒径6ミクロンのスペーサの生産量に対するSPの生産量の割合に比べて,乙35に示された全粒径のスペーサの生産量に対するSPの割合が異常に高い,ということを指摘する。 しかし,証人Aの証言及び同証人の陳述書(乙43)によれば,SPS及びSPNは●●●を主たる用途とするために粒径6ミクロンがボリュームゾーンとなるのに対し,SPは,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●も用途に含まれ,●●●を用途とするものは一部にとどまると認められるから,SPについて6ミクロン以外の粒径のものの生産量が多いことが,格別不自然であるということはできない。 b控訴人は,本件各発明による生産性の向上の倍率は,被控訴人の社内で実際に行われている多粒径回収に則して検討すべきであり,例えばSPSについては,単一粒径回収によれば原判決認定のとおり●●倍となるとしても,多粒径回収によれば5.4倍になるから,この点からしても,生産性向上の倍率は5倍を下らないと主張する。 しかし,証人Aの証言及び同証人の陳述書(乙44)によれば,多粒径回収を行うと,分級作業終了後に回収機の入念な洗浄が必要になる上に,実際に需要のない粒径のスペーサを回収すると不要な在庫を抱えることになるから,経営上も望ましくなく,被控訴人は基本的に多粒径回収を行っていないことが認められる。したがって,控訴人の上記主張は前提を欠き,採用することができない。 (イ)削減されるコスト額控訴人は,本件各発明によって削減されるコスト額は,下記の式Jによって計算すべきであると主張する。 J削減されたコスト額= 現在の分級工程コスト額×(生産性向上率-1)その上で控訴人は,式Jのうち「現在の分級工程コスト額」は原判決の認定した少なくとも●倍であり,「生産性向上率」は原判決の認定した1.5倍ではなく5倍であるから「(生産性向上率-1)」は8倍となり,その結果,本件各発明によって削減されるコスト額は,下記の式Kのとおり,原判決の認定した●●億円の●●倍である45.44億円に上ると主張する。 K削減されるコスト額(訂正値)= ●●億円× ●● = 45.44億円しかし,控訴人の主張する式Jの計算方法によるとしても,まず,「現在の分級工程コスト額」が原判決の認定した額の●倍に上るとの点を認めるに足る証拠はない。控訴人は,乙26の1〜3に現れないバッチがかなりあること等を指摘するが,証人Aの証言及び同証人の陳述書(乙43)によれば,乙26の1〜3は,該当期間における粒径6ミクロンのスペーサの分級についてすべてのデータをまとめたものであると認められ,控訴人の指摘する点は,現在の分級工程コスト額についての原判決の認定を左右するものではない。 また,「生産性向上率」が原判決の認定した1.5倍ではなく5倍であるとの控訴人の主張が採用できないことは,前記(ア)に説示したとおりである。 したがって,削減されるコスト額について,控訴人の上記主張を採用することはできない。 ウ 独占の利益の算定につき控訴人は,式Fによって独占の利益を算定する場合,本件特許の存続期間(20年間)中の売上げは1000億円を超えるものであり,被控訴人の主張する実施料率3.25%を用いたとしても,独占の利益は下記の式Lのとおり32.5億円に上ると主張する。 L独占の利益= 1000億円× 3.25% = 32.5億円しかし,式Fによって独占の利益を算定するのが相当でないことは,前記アに説示したとおりであるから,控訴人の上記主張も採用することができない。 エ 控訴人らの貢献度につき控訴人は,本件各発明に対する控訴人ら発明者の貢献度は50%を下ることはなく,原判決が被控訴人の貢献度を95%(発明者の貢献度は5%)と認定したのは誤りであると主張する。 しかし,本件各発明に至る経過,特に,原判決が@〜Dとして指摘する事情(64頁最終段落〜65頁第1段落)に照らせば,原判決が被控訴人の貢献度を95%と認定したのは相当である。控訴人は,原判決が指摘する事情(「本件各発明は,原発明の改良発明であるところ,原発明は,原告が被告CADセのCンターに異動してくる前から被告内で蓄積されてきたノウハウ(営業秘密)であり,原告はこのノウハウに容易にアクセスすることができたために,本件各発明をするに至ったもについて,控訴人らの本件各発明があったことによって原発のであること」)明を特許化することができたという事情と相殺して評価されるべきであると主張するが,当該事情を控訴人の有利に参酌するとしても,原判決が明示的に指摘する@〜Dの事情のみならず,本件各発明に至る経過の全体を参酌して被控訴人の貢献度を95%であるとした原判決の認定は左右されるに足るものではない。 (2)シード品の価値に関する主張について控訴人は,シード品を原料とする分級は,従来のいわゆる分級品にCV値が匹敵する製品を狙う限り,生産性を全く向上させないと主張する。原判決が,シード品を原料とする簡易分級が主流となりつつあるから,懸濁重合による樹脂を原料とするいわゆる分級品について,本件各発明によって分級の生産性が向上したことの意義が小さいと判断したのであれば,原判決の当否に影響を及ぼすこととなる。 「シード品や導電性微粒子の占める割合が増加しているという事情しかし,原判決のはあるものの,生産量が増加しており被告が今後シフトしていく予定であると主張するシード品においても,その製造原価(指数)は,懸濁重合が●であるのに対し,シード重合では●であるという程度の差に止まっていること,導電性微粒子は既に売上構成比率において高い割合を占めていることによれば,今後もそれらの製品の製造が増加する傾向が続く可能性があることを考慮しても,平成27年までには,少なくとも平成16年において必要な分級装置の台数の2倍の分級装置が必要になると認めるのが相当である」(59頁最終段落〜60頁第1との判示に照らせば,原判決は,シード品を原料とする簡易分級が主流段落)となりつつあることを,分級品について本件各発明によって分級の生産性が向上したことの意義を減殺する事由として評価しているものではない。したがって,控訴人の上記主張は,原判決の当否に影響を及ぼすものではない。 (3)控訴人のその他の主張についてア控訴人は,原判決が,控訴人がなした発明のうち流出口の形状変更の点を相当の対価の算定において考慮しなかったのは不当であると主張する(控訴人の主張(3)ア)。 確かに,相当の対価の算定の対象となる「発明」は,特許法35条3項の規定の体裁からして,特許化されたものに限られるわけではなく,使用者が特許を受ける権利を譲り受けながらあえて特許出願をせずノウハウとして秘匿した場合も,相当の対価の算定の対象となり得るものである。しかし,本件における流出口の形状変更の工夫のように,それ自体について特許出願もノウハウとしての秘匿もなされず,公開特許公報の図面への記載によって一般に開放される程度の発明については,使用者の独占の利益は法律上も事実上も生じないというべきであるから,当該発明について相当の対価の支払義務が使用者に生じることはないといわざるを得ない。したがって,原判決の判断に誤りはなく,控訴人の主張は採用することができない。 「流量を一定に保った上での生産性の向上の程度を立証する責イ控訴人は,原判決がと判示したことについて,実験等によって分級の生任は原告にある」(47頁)産性を明らかにすることは控訴人にとって事実上不可能であると主張する(控訴人の主張(3)イ)。 しかし,そのような事情は,立証責任を相手方たる被控訴人に負わせることの根拠となるものではない。また,被控訴人も営利企業である以上,生産性を最大限向上させるために●●●の流量等の条件を最適化しているものと推認されるから,原判決が,被控訴人の実際の生産におけるデータ(乙26)に基づいて生産性向上の程度(倍率)を認定したことに,不合理な点があるということはできない。 ウ控訴人は,特許法35条1項が定める通常実施権の意義や,独占の利益の算定方法について,原判決の理解には誤りがあるとも主張するが(控訴人の主張(3)ウ),これらの点について原判決に誤りがないことは,上記(1)において説示したとおりである。 エ 原審裁判官の審理方法に関する控訴人の主張について(ア)控訴人は,原審裁判官には,別紙「準備書面甲控1」(控6)記載のとおり,@時効に関する審理,A判決に至るまでの「慎重」な検討と訴訟費用に関する裁判,B審理の進め方全般等について,それぞれ多くの偏向があった旨主張する。 しかし,控訴人の上記主張は,原審裁判所の裁判長であった田中裁判官の訴訟指揮の当否を問題とするものであるところ,原審記録を精査しても,田中裁判官による訴訟指揮権の行使につき,原判決を違法ならしめる訴訟手続違背があったとは到底認めることができない。したがって,控訴人の上記主張は採用しない。 (イ)次に控訴人は,原審裁判官とりわけ田中裁判官には,別紙「準備書面甲控1」(控7)記載のとおり,一審被告(被控訴人)側から,会食・買収等の汚職行為を受けた状況証拠がある等と主張する。 しかし,別紙「準備書面甲控1」(控7)の記載及び控訴人X本人尋問の結果によっても,控訴人の上記主張は,いずれも憶測に基づく主張の域を出ないものであり,その他本件訴訟記録を精査しても,田中裁判官等に上記事実があったとは,到底認めることができない。したがって,控訴人の上記主張は採用しない。 4 被控訴人の当審における主張について被控訴人は,本件各発明により被控訴人に独占の利益が生じたという原判決の判断はそもそも誤りであると主張する。しかし,被控訴人の上記主張を参酌しても,原判決の判断はこれを変更する必要を認めないと判断する。したがって,被控訴人の上記主張は採用しない。 5 結語以上によれば,原判決は正当として是認することができる。よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |