運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2004-11464
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10094審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  優先権 /  存続期間 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 18年 (行ケ) 10166号 審決取消請求事件
原告インターディジタル テクノロジー コーポレーション
訴訟代理人弁護士中島和雄
訴訟代理人弁理士内原晋
同 船山武
同 渡邉隆
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理 人井関守三
同 長島孝志
同 橋本正弘
同 小池正彦
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-11464号事件について平成17年11月29日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,昭和61年2月26日(優先権主張1985年3月20日,アメリカ合衆国)に出願した特願昭61-39331号(以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成9年7月11日に新たな特許出願とした特願平9-236592号の一部を更に分割して,平成11年2月5日に新たな特許出願とした特願平11-65355号の一部をまた更に分割して,平成12年5月15日に新たな特許出願とした特願2000-142479号の一部をまた更に分割して,平成13年8月15日に新たな特許出願とした特願2001-246767号の一部をまた更に分割して,平成15年1月15日に,発明の名称を「多重音声通信やデータ通信を複数チャンネルにより同時に行う無線通信システム」とする新たな特許出願(特願2003-7452号,以下「本願」という。)をし,この出願は,平成15年8月29日,出願公開された(特開2003-244756号)。
原告は,本願について,平成16年3月5日付けで拒絶査定を受けたので,同年6月4日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,本願に係る明細書の特許請求の範囲の記載を補正する手続補正(以下,この補正を「本件補正」といい,本件補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をした。特許庁は,上記請求を不服2004-11464号事件として審理し,平成17年1月28日付け(審決書1頁末行に「平成17年1月20日付け」とあるのは,「平成17年1月28日付け」の誤記と認める。)で原告に対し拒絶理由通知をした上,同年11月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(附加期間90日)をし,同年12月14日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を請求項に対応してそれぞれ「本願発明1」などといい,これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって複数の順方向周波数のうちの割り当てられた一つの周波数の順方向チャンネルおよび複数の逆方向周波数のうちの割り当てられた一つの周波数の逆方向チャンネルをそれぞれ通じて各発信元からの複数の情報信号を送信先の移動加入者局ユニットにそれぞれ送信するとともに発信元の移動加入者局ユニットから送信先への情報信号をそれぞれ受信する無線通信システムにおいて,前記順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルをそれぞれ通じて送信される前記情報信号の各々にある時間長,すなわち同一フレームの中の一つ以上の時間スロットの長さに等しい時間長を前記情報信号の符号化速度または前記情報信号の変調の種類に基づき割り当てできる遠隔接続中央処理装置を含むとともに,前記遠隔接続中央処理装置からの割当てに応答して逆方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットに情報信号を配置し前記割当てに応答して順方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットから情報信号を受信するセット・アップ手段を各々が備える複数の移動加入者局ユニットを含み,同じフレーム中で他の発信元からの他の情報信号に異なる長さの時間スロットを割り当てできる無線通信システム。
【請求項2】前記情報信号が一つの符号化速度を有し,互いに異なる情報信号が互いに異なる符号化速度をそれぞれ有する請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】前記情報信号で前記順方向チャンネルの搬送波周波数を変調するとともに,前記逆方向チャンネルの搬送波周波数から情報信号を復調し,他の情報信号で異なる種類の変調をかけることもできる請求項1記載の無線通信システム。
【請求項4】前記移動加入者局の各々が直線増幅器を備える直線変調器を有する変調器をさらに含む請求項3記載の無線通信システム。
【請求項5】前記情報信号が音声信号やデータ信号などである請求項1記載の無線通信システム。
【請求項6】前記変調の種類の一つが位相偏移(PSK)変調である請求項3記載の無線通信システム。
【請求項7】一つの同期したフレームを互いに相続く一つの群で画定する一連の互いに同期した繰返し時間スロットに分割された複数の周波数のうちの割当て周波数のチャンネルを通じて発信元から送信先の移動加入者局ユニットに少なくとも一つの情報信号を無線通信システムで伝達する方法であって,発信元からの前記情報信号にチャンネルを割り当てる過程と,同じフレーム中の一つ以上の前記時間スロットの長さに等しい時間長を前記情報信号の各々にその情報信号の符号化速度またはその情報信号の変調の種類に基づき割り当てる過程と,前記割り当てられた周波数および時間スロットの情報を送信先の移動加入者局ユニットに伝達する過程と,前記割り当てられた周波数を通じ前記割り当てられた時間スロットを用いて前記情報信号を前記送信先の移動加入者局ユニットに送信する過程と,他の加入者局ユニットあての他の情報信号に同じフレーム中の他の長さの時間スロットを割り当てる過程とを含む方法。
【請求項8】前記情報信号が一つの符号化速度を有し,互いに異なる情報信号がそれぞれ異なる符号化速度を有することもでき,互いに異なる符号化速度を有する情報信号を同じフレーム中の時間スロットに割り当てる過程をさらに含む請求項7記載の方法。
【請求項9】一つの種類の変調による前記チャンネルに割り当てられた周波数の前記搬送波を前記情報信号で変調する過程と,他の発信元から他の送信先加入者局ユニットへの他の情報信号で同じ搬送波を同じフレーム中の他の時間スロットで変調する過程とをさらに含む請求項7記載の方法。
【請求項10】前記変調の種類の一つが位相偏移(PSK)変調である請求項9記載の方法。
【請求項11】前記情報信号が音声信号やデータ信号などである請求項7記載の方法。
【請求項12】複数の移動加入者局ユニットとの間の無線交信のための基地局であって,切換装置と,一つの同期したフレームを互いに相続く一つの群で画定する互いに同期した一連の繰返し時間スロットに分割された複数の周波数のうちの割当て周波数のチャンネルを通じて発信元から送信先の前記移動加入者局ユニットの一つに情報信号を伝達する送信装置とを含む基地局において,前記一つの送信先加入者局ユニットへの情報信号の各々に同一フレーム中の一つ以上の時間スロットの長さに等しい時間長をその情報信号の符号化速度またはその情報信号の変調の種類に基づき割り当てできる遠隔接続中央処理装置であって,各チャンネルの各フレーム中のどのスロットが割当てずみであるかを示すメモリを維持しそのメモリを調べて前記割当てを供給する遠隔接続中央処理装置と,前記割り当てられたチャンネルに前記情報信号を多重化するマルチプレクサと,前記割り当てられたチャンネルを通じ前記フレーム中の前記割り当てられた時間スロットを用いて前記情報信号を前記送信先の移動加入者局に送信する送信機とを含み,同じフレーム中で他の発信元からの他の情報信号に他の長さの時間スロットを割り当てる基地局。
【請求項13】前記遠隔接続中央処理装置が互いに異なる符号化速度を有する情報信号を同一フレーム中の時間スロットに割り当てできる請求項12記載の基地局。
【請求項14】前記情報信号で前記チャンネルの搬送波周波数を変調し,互いに異なる情報信号で互いに異なる種類の変調をかける請求項12記載の基地局。
【請求項15】直線増幅器を備える直線変調器をさらに含む請求項12記載の基地局。
【請求項16】複数の周波数のうちの割り当てられた一つの周波数のチャンネルであって基地局により割り当てられた特定のチャンネル,すなわち互いに同期しており互いに相続く一つの群で互いに同期したフレームを画定する一連の時間スロットに分割されているチャンネルを通じて情報信号を伝送できる無線通信システム用の移動加入者局において,前記情報信号を,その情報信号への時間スロット割当ての前記移動加入者局による受信に応答してその情報信号の符合化速度またはその信号の変調の種類に基づき割り当てられた一つ以上の時間スロットの長さに等しいフレーム中の時間スロットに配置するセット・アップ手段と,前記割り当てられた周波数の前記チャンネルを通じた前記基地局への前記情報信号の送信を他の加入者局からの他の情報信号が他の長さの時間スロットを割り当てられるように行う送信機とを含む移動加入者局。
【請求項17】前記セット・アップ手段が互いに異なる符号加速度の情報信号を受け入れできる請求項16記載の移動加入者局。
【請求項18】互いに異なる種類の変調を一つのフレームの中で受け入れるように互いに異なる種類の変調を前記情報信号によりかけることのできる変調器をさらに含む請求項17記載の移動加入者局。
【請求項19】前記変調器が直線増幅器を備える直線変調器を含む請求項18記載の移動加入者局。」3本件審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願は,特許法36条3項,4項の規定(原出願は昭和61年2月26日に出願されたものであるから,審決にいう上記規定は,昭和62年法律第27号による改正前の特許法におけるものをいうと解される。以下,本判決におけるこれら規定についても,同様である。)を満たさず(下記(1)),仮にそうでないとしても,本願発明1は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(下記(2))から,拒絶をするべきものである,としたものである。。
(1)本願は,次のア〜キの点(審決書7頁4行〜11頁15行,2頁18行〜7頁2行)で明細書及び図面の記載が不備であって,特許法36条3項,4項の規定を満たしていない(以下「理由(1)」という。)。
ア本願発明1に関し,次の点が不明りょうないし明細書の記載に基づかないものである(本願発明7についても同様である。)。
(ア)「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレーム」(イ)「……フレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された……」(ウ)「……それぞれ通じて各発信元からの複数の情報信号を送信先の移動加入者局ユニットにそれぞれ送信するとともに発信元の移動加入者局ユニットから送信先への情報信号をそれぞれ受信する無線通信システム……」(エ)「……,前記順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルをそれぞれ通じて送信される前記情報信号の各々にある時間長,すなわち同一フレームの中の一つ以上の時間スロットの長さに等しい時間長を前記情報信号の符号化速度または前記情報信号の変調の種類に基づき割り当てできる遠隔接続中央処理装置を含むとともに,前記遠隔接続中央処理装置からの割当てに応答して逆方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットに情報信号を配置し前記割当てに応答して順方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットから情報信号を受信するセット・アップ手段を各々が備える複数の移動加入者局ユニットを含み,同じフレーム中で他の発信元からの他の情報信号に異なる長さの時間スロットを割り当てできる無線通信システム。」(オ)明細書の【0054】との関係イ請求項2〜3,請求項6の記載に関し,動作の主体が不明である。
ウ請求項4の記載に関し,「……直線増幅器を備える直線変調器を有する変調器をさらに含む……」とあるが,発明の詳細な説明の欄に記載されていない。
エ本願発明12に関し,次の点が不明りょうないし明細書の記載に基づかないものである。
(ア)「……,切換装置と,……」(イ)「……一つの同期したフレームを互いに相続く一つの群で画定する互いに同期した一連の繰返し時間スロットに分割された複数の周波数のうちの割当て周波数のチャンネルを通じて発信元から送信先の前記移動加入者局ユニットの一つに情報信号を伝達する送信装置とを含む基地局において,……」(ウ)「……前記一つの送信先加入者局ユニットへの情報信号の各々に同一フレーム中の一つ以上の時間スロットの長さに等しい時間長をその情報信号の符号化速度またはその情報信号の変調の種類に基づき割り当て……」オ請求項15の記載に関し,「直線増幅器を備える直線変調器をさらに含む……」とあるが,発明の詳細な説明の欄に記載されていない。
カ本願発明16に関し,次の点が不明りょうないし明細書の記載に基づかないものである。
(ア)「……特定のチャンネル,すなわち互いに同期しており互いに相続く一つの群で互いに同期したフレームを画定する一連の時間スロットに分割されているチャンネル……」(イ)「……前記情報信号を,その情報信号への時間スロット割当ての前記移動加入者局による受信に応答してその情報信号の符号化速度またはその信号の変調の種類に基づき割り当てられた一つ以上の時間スロットの長さに等しいフレーム中の時間スロットに配置するセット・アップ手段と,……」(ウ)「前記割り当てられた周波数の前記チャンネルを通じた前記基地局への前記情報信号の送信を他の加入者局からの他の情報信号が他の長さの時間スロットを割り当てられるように行う送信機」(エ)明細書の【0054】との関係キ請求項19の記載に関し,「変調器が直線増幅器を備える直線変調器を含む……」とあるが,発明の詳細な説明の欄に記載されていない。
(2)本願発明1は,木下耕太ほか2名「TD-FDMA移動通信方式の検討」(電子通信学会論文誌(J64-B)第9号(昭和56年9月25日社団法人電子通信学会発行)1016頁〜1023頁。以下「引用例」という。審決における「刊行物1」(甲1))に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである(以下「理由(2)」という。)。
審決は上記判断をするに当たり,引用発明の内容を下記アのとおり,本願発明1と引用発明との一致点・相違点を下記イのとおり,それぞれ認定した。
ア引用発明の内容「一つの無線通信システム内でフレームの各々を互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって複数の順方向周波数のうちの割り当てられた一つの周波数の順方向チャンネル及び複数の逆方向周波数のうちの割り当てられた一つの周波数の逆方向チャンネルをそれぞれ通じて各発信元からの複数の情報信号を送信先の移動加入者局ユニットにそれぞれ送信するとともに発信元の移動加入者局ユニットから送信先への情報信号をそれぞれ受信する無線通信システムであって,前記順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルをそれぞれ通じて送信される前記情報信号の各々にある時間長,すなわち同一フレームの中の一つ時間スロットの長さに等しい時間長を情報信号の符号化速度または前記情報信号の変調の種類に基づき割り当てできる遠隔接続中央処理装置を含むとともに,前記遠隔接続中央処理装置からの割当てに応答して逆方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットに情報信号を配置し前記割当てに応答して順方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットから情報信号を受信するセット・アップ手段を各々が備える複数の移動加入者局ユニットを含む無線システム。」イ一致点・相違点次の(ア)ないし(ウ)において相違し,その余は一致する。
(ア)本願発明1においては,フレーム全部が互いに同期し,フレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割されたとしているのに対し,引用例にはその点についての記載がない点(以下「相違点(a)」という。)。
(イ)時間スロット割り当てに関し,本願発明1においては,一つ以上の時間スロットの長さに等しい時間長を割り当てるとしているのに対し,引用発明においては,一つの時間スロットの長さに等しい時間長を割り当てるとしている点(以下「相違点(b)」という。)。
(ウ)本願発明1においては,同じフレーム中で他の発信元からの他の情報信号に異なる長さの時間スロットを割り当てできるとしているのに対し,引用例にはその点についての記載がない点(以下「相違点(c)」という。)。第3原告主張の取消事由の要点本願が特許法36条3項,4項に規定する要件を満たさないとした審決の理由(1)の認定判断は誤りであり(取消事由1),また,本願発明1が進歩性を有しないとした審決の理由(2)の認定判断も誤りであって(取消事由2),これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
なお,原告は,本願に関する権利存続期間の満了にかかわらず,特許法65条1項の規定による請求権の行使に必要な特許権の設定の登録を受けるため,本願につき実体審査を受ける利益を有するから,本訴における訴えの利益を有する。
1取消事由1(理由(1)の認定判断の誤り)(1)理由(2)との矛盾について審決は,理由(1)において,特許請求の範囲の文言を恣意的に分断した上,その文言が意味不明りょうである,あるいは当該構成が明細書に記載されていないなどと認定判断した。しかし,審決は,理由(2)では,本願発明1と引用発明とは,相違点(a),(b),(c)を除き,一致する旨認定判断しており,かかる認定判断は特許請求の範囲の文言の然るべき理解を前提にしているから,理由(1)において,特許法36条3項及び4項違反をいうのは矛盾であり,誤りである。
(2)請求項1について本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された文言の意味は,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,いずれも明らかであり,また,その根拠となる記載が明細書にあることも明らかである。審決は,特許請求の範囲の文言を恣意的に分断した結果,記載不備と認定判断したものであり,誤りである。
ア順方向(周波数)チャンネルと逆方向(周波数)チャンネルとの間のフレーム相互間の同期及び時間スロット相互間の同期についての本願明細書(甲8)の記載(段落【0050】〜【0054】,【0058】,【0060】,【0066】,【0069】〜【0075】,【0077】〜【0082】(【表1】〜【表5】を含む。),【0084】,【0092】〜【0094】,【0105】〜【0116】)は,本願発明1における基地局でみた順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間のフレーム相互間の同期及びスロット相互間の同期が,次のとおり達成されていることを示している。
(ア)基地局と複数の加入者局とを含む全システムに対するマスタ・タイミング・ベースを基地局が発生し,システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングをこの基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させる(段落【0050】〜【0054】,【0060】,【0105】〜【0116】,【表1】〜【表5】など)。
(イ)基地局内の複数の周波数チャンネルはすべて同一の時間基準を用いる。したがって,基地局内の複数のチャンネル制御手段CCU18のからの音声信号送信は同一タイミングで行われ,互いに同期している(段落【0051】)。
(ウ)基地局内の受信タイミングと基地局の送信タイミングとを同一にする。すなわち,フレーム開始(SOF)マーカ信号及びシンボル・クロック信号は送信信号と受信信号との間で時間軸上で正確に並んでいる必要がある,そのため,基地局のモデム19の受信タイミングを加入者局からの受信入力シンボルに整合させる(段落【0052】)。
(エ)システム内のすべての加入者局の時間基準を基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させる。この同期の達成のため,加入者局は基地局から送られてくるRCCメッセージを用いて基地局時間基準をまず捕捉し(段落【0053】),加入者局受信タイミングを正確に保持する。
一方,加入者局は自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進める。これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようにする(段落【0054】,【0052】など)。
(オ)各加入者の時間基準を基地局タイミングに合致させたのち,加入者局・基地局間のタイミング情報の授受,すなわち,周期的交換は,上記のRCCの先頭スロット経由から音声スロット,すなわち,信号伝送用スロット経由に切り換えられ,加入者局・基地局間距離変動追跡のための「精密調整」に引き継がれる(段落【0115】,【0116】など)。
(カ)上記のとおり,システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングを基地局時間基準に合致させ,その合致状態をタイミング情報の周期的交換により維持しているので,順方向チャンネルのスロットと逆方向チャンネルのスロットとは基地局でみて時間軸長で一致する。したがって,逆方向チャンネルのスロットの各々にガードタイムGを設ける必要はない。なお,シンボル・タイミングが順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間で同期するので,所定数のシンボルも順方向周波数チャンネルと逆方向周波数チャンネルとの間で同期する(【表1】〜【表5】,段落【0066】,【0069】など)。
イ上記アを前提として,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,特許請求の範囲の請求項1の文言の意味は,次のとおり,明らかである。また,その根拠となる記載が本願明細書にあることも明らかである。
(ア)「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との文言は,@順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含む,Aそれら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期している,という意味である。
なお,被告は,スロット相互間の同期に関することは明確に開示されていない旨主張するが,本願明細書の段落【0060】,【0066】及び【0069】は,順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間のシンボルタイミング同期を明記しているから,所定数のシンボルを各々が包含するスロット及びフレーム(【表1】〜【表5】)のタイミングも上記両周波数チャンネルの間で必然的に一致することは,自明である。
(イ)「複数の順方向周波数のうちの割り当てられた一つの周波数の順方向チャンネルおよび複数の逆方向周波数のうちの割り当てられた一つの周波数の逆方向チャンネルをそれぞれ通じて各発信元からの複数の情報信号を送信先の移動加入者局ユニットにそれぞれ送信するとともに発信元の移動加入者局ユニットから送信先への情報信号をそれぞれ受信する無線通信システム」との文言は,上記割り当てられた一つの周波数の順方向チャンネル及び割り当てられた一つの周波数の逆方向チャンネルをそれぞれ通じて発信元または送信先と送信先または発信元の移動加入者局ユニットとの間の交信を行う無線通信システムを意味する。
(ウ)「前記順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルをそれぞれ通じて送信される前記情報信号の各々にある時間長,すなわち同一フレームの中の一つ以上の時間スロットの長さに等しい時間長を前記情報信号の符号化速度または前記情報信号の変調の種類に基づき割り当てできる遠隔接続中央処理装置を含む」との文言は,上記順方向チャンネル及び逆方向チャンネルを通じて送信される情報信号に,その情報信号の符号化速度及び変調の種類に応じて,同一フレームの中の一つの時間スロットまたは二つ以上の時間スロットの時間長に等しい時間長を遠隔接続中央処理装置が割り当てできることを意味する。
(エ)「前記遠隔接続中央処理装置からの割当てに応答して逆方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットに情報信号を配置し前記割当てに応答して順方向チャンネルで割り当てられた時間長に対応するフレーム中の時間スロットから情報信号を受信するセットアップ手段を各々が備える複数の移動加入者局ユニットを含み」との文言は,移動加入者局ユニットの加入者電話インタフェースユニット(STU)27が,遠隔接続中央処理装置(RPU)20からの割当てに応答して逆方向(周波数)チャンネルを選択するとともにチャンネル制御ユニット(CCU)29を通じて時間スロットを選択して,音声符復号器(VCU)28でディジタル化したユーザ電話機からの音声信号,すなわち情報信号をその逆方向チャンネル/時間スロットに配置し,一方,STU27が遠隔接続中央処理装置(RPU)20からの割当てに応答して順方向チャンネルを選択するとともにCCU29を通じて時間スロットを選択して順方向チャンネルで割当て時間長対応のフレーム中の時間スロットから情報信号を受信することを意味する。
(オ)「同じフレーム中で他の発信元からの他の情報信号に異なる長さの時間スロットを割り当てできる無線通信システム」との文言は,順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々の一つのフレームの中で一つの情報信号への割当て時間スロット長が単一の基本スロット長でありもう一つの情報信号への割当て時間スロット長が二つまたはそれ以上の基本スロット長である態様の動作が可能である無線通信システムを意味する。
(3)請求項2,3,6について請求項2,3,6における動作の主体は情報信号である。請求項2,3は請求項1を引用しており,請求項6は請求項3を引用しているから,そのように解することに何ら問題はない。
(4)請求項4について本願明細書の段落【0480】の「線形振幅及び周波数変換機構としてのRFU機能はチャンネル・データ及び変調特性に対してトランスペアレントである」との記載は,RFU機能が線形(直線)振幅変換機構すなわち線形(直線)増幅機構及び線形(直線)周波数変換機構によりもたらされ,その機構を通過するデータ及び信号の直線性が維持されることを意味することは明らかであるから,上記線形(直線)増幅機構及び線形(直線)周波数変換機構が請求項4「直線増幅器を備える直線変調器を有する変調器」との文言の根拠となることは明らかである。
(5)請求項12における「切換装置」について請求項12の「切換装置」が本願明細書の図1のスイッチマトリクス25に対応し,複数の周波数のうちの一つを一つの情報信号に割り当てる基地局の機能を担うことは明らかである。
(6)その余の記載不備の指摘について記載不備に関する審決のその余の指摘は,前記(2)と同様の理由で,誤りである。
2取消事由2(理由(2)の認定判断の誤り)(1)認定判断手法の誤り進歩性の有無は,引用例の記載と特許を受けようとする発明との間の距離の大小に関わる判断であるから,引用例の記載内容は客観的に認定されるべきである。
しかるに,審決は,「上記刊行物1の記載(A〜P)を整理する」(審決書18頁30行)として,引用例の記載内容A〜P(審決書12頁8行〜18頁29行)を,審判官の主観的評価を加えた(@)〜(B)(審決書18頁31行〜19頁24行)に置き換えている。
また,審決における引用例の記載内容M〜P(図7の記載内容)の認定は,それ自体が客観的なものでなく,審判官の主観的評価を加えたものである。
このように,二重に主観的評価を加えることにより,引用例の記載内容を本願発明1に近づけて認定し,これを本願発明1と対比して進歩性の判断を行うという手法によれば,引用例の記載と本願発明1との距離を実際よりも過小に見積もることとなり,進歩性判断の客観性が担保されないから,審決の認定判断手法は全体として,違法である。
(2)一致点の認定の誤りア審決における引用例の記載内容M〜P(審決書18頁7行〜29行)の認定はいずれも根拠を欠き,また,審決における引用例の記載内容に関する認定判断(i)〜(B)(審決書18頁31行〜19頁24行)はいずれも根拠を欠くから,審決における引用発明の認定は誤りである。
イ審決における一致点の認定は,引用発明の上記誤った認定を前提とするものであるから,誤りである。
(3)相違点の判断の誤りア審決は,相違点(a)に係る本願発明1の構成の容易想到性を導くに当たり,@「TD-FDMA方式に用いられる移動機において,フレーム信号を検出し,受信系,送信系の双方をそのフレーム信号に基づき同期を取るといったことは,本件出願前普通に知られたことである」(審決書20頁23行〜26行),A「刊行物6(特に,第1図の記述を参照する)には,基地局と移動局との間でフレームの所定の割当時間帯を使って(同期が取られて)通信が行われることが記載されている」(審決書20頁31行〜33行),B「送信フレームと受信フレームのスロット数を同一としスロット位置を揃えるとするといったことは,本件出願前普通に知られたことである(上記刊行物6の第1図に関する記述を参照されたい。)」(審決書21頁2行〜5行)と認定した(判決注:審決にいう「刊行物6」とは,特開昭56-75741号公報〔甲6〕である。)。
しかし,本願発明1は,移動機が基地局からのフレーム同期信号を検出して自らのフレーム同期をとること自体を構成要件としているわけではないから,上記@の認定は,相違点(a)に係る本願発明1の構成の容易想到性の根拠となることはあり得ないし,引用発明では,下り回線のスロットと上り回線のスロットとの間で同期をとることはできず,下り回線のフレームと上り回線のフレームとの間で同期をとることができないから,引用発明における「同期」と本願発明1における「同期」とは異なるものであり,このことは,甲7(Kota Kinoshita, et al. 「Digital Mobile Radio Telephone System Using TD/FDMA Scheme」(IEEE International Conference on Cmmunications (Denver, Colorado June14-18, 1981) Coference Record Vol.2 of 4, 23.4.1-23.4.5)のFig.2の記載からも明らかである。したがって,審決の上記@の認定は誤りである。
また,甲6は,アップリンクとダウンリンクとの間の同期について記載しておらず,両リンクのフレーム相互間の同期及びスロット相互間の同期を示唆していないから,審決の上記A及びBの認定は誤りである。
したがって,審決における相違点(a)の判断は,誤りである。
イ審決は,相違点(b)及び(c)に係る本願発明1の構成の容易想到性を導くに当たり,「情報信号の符号化速度等に応じて1フレーム中に適宜の時間スロット長を与えるといったことが本件出願前普通に知られたこと(上記刊行物3乃至6)である」(審決書21頁25行〜27行)と認定した(判決注:審決にいう「刊行物3乃至6」とは,特開昭57-143954号公報〔甲3〕,特開昭57-097238号公報〔甲4〕,特開昭59-214342号公報〔甲5〕,特開昭56-75741号公報〔甲6〕である。)。
しかし,審決が例示した甲3〜6には,時間スロットの単一個または複数個を同一フレームの中で割り当てることは記載も示唆されていないから,審決の上記認定は誤りである。
審決における相違点(b),(c)の判断は,周知技術についての上記誤った認定を前提とするものであるから,誤りである。
第4被告の反論の要点本件審決の理由A,理由Bのいずれの認定判断にも,違法や誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(理由(1)の認定判断の誤り)について(1)理由(2)との矛盾について審決は,理由(1)において,特許請求の範囲の記載について適切に検討するためこれを分説した上で,各記載について検討してその不備を指摘したものであり,特許請求の範囲の記載を恣意的に分断したものではない。また,審決は,理由(2)において,本願発明1について特許請求の範囲の記載に基づいて理解できる範囲で検討し,仮に理由(1)で指摘した不備が解消しているとしても,引用発明に基づき周知技術参酌して当業者が容易に発明をすることができたと判断したものである。したがって,審決に,原告主張の矛盾や誤りはない。
(2)請求項1について明細書の発明の詳細な説明発明が明確に記載されているからといって,直ちに特許請求の範囲が明確に記載されていることにはならない。
原告は,本願発明1における「同期」の内容に関し,本願明細書の発明の詳細な説明における複数の段落を挙げて説明しようとしているが,原告が指摘するいずれの段落においても,特許請求の範囲における「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレーム」や「同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰り返し時間スロット」などの文言の意味内容について,明確に定義した明りょうな説明はなされていない。
原告は,請求項1の内容を,その記載とは相当に異なる表現に言い換えており,そのように表現を変更したとしても請求項1の記載内容と同一のものであるとする根拠が具体的に明確に示されておらず,本願発明1の構成要件を規定する文言の意味内容は,発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,依然として不明りょうである。
(3)請求項2,3,6について請求項1は「無線通信システム」という「物」に係る発明であるので,その構成要素である「物」が動作の主体になるものと考えられるところ,「情報信号」は「物」とは認められないものであって,動作の「客体」となるものが主体となるのことは不可解であり,他に「情報信号」が動作の主体となるという根拠となる説明はなされていないから,原告の主張は失当である。
(4)請求項4について原告が指摘する本願明細書の段落【0480】の「線形振幅及び周波数変換機構としてのRFU機能はチャンネル・データ及び変調特性に対してトランスペアレントである。」という記載においては,「直線増幅器」という文言だけではなく,「直線」や「増幅器」という文言も存在しないから,本願明細書に記載されたRFUが「直線増幅器」や「直線変調器」を備えているものとは認められず,原告の主張は失当である。
(5)請求項12における「切換装置」について原告が指摘する図1には,スイッチマトリクス25は記載されていない。
請求項12においては,単に「切換装置」と独立して記載されているだけで,何をどのように切り換える装置であるのかその構成が明確に記載されておらず,かつ他の装置との関係が何ら記載されていない。したがって,請求項12の記載から,「切換装置」が原告主張の構成を備えていることが明らかであるとは認められず,原告の主張は失当である。
(6)その余の記載不備の指摘について上記(2)と同様の理由で,審決が本願発明7,12,16に関して記載不備を指摘したことが誤りであるとする原告の主張も失当である。
2取消事由2(理由(2)の認定判断の誤り)について(1)認定判断手法の誤りについて審決は,引用例の記載内容を当業者の観点に立って客観的に把握認定した上,これと本願発明1とを対比し,当業者の周知技術を踏まえて,進歩性判断をしたものであり,その客観性は担保されている。すなわち,引用例の記載から当業者にとって自明な事項を認定判断することは,特許法29条2項の規定に沿うものであり,原告の主張は失当である。
(2)一致点の認定の誤りについて原告は,審決における引用例の記載内容の認定,引用例の記載内容に関する認定判断に誤りがある旨主張するが,審決の認定判断はいずれも引用例に記載された事項に基づくものであり,誤りはない。
したがって,審決における引用発明の認定には誤りはなく,一致点の認定の誤りもない。
(3)相違点の判断の誤りについて原告の主張は,本願発明1の構成を発明の詳細な説明の記載に基づいて限定解釈することを前提とするものであって,特許請求の範囲の記載に基づくものではないから,根拠がない。
第5当裁判所の判断1訴えの利益について本願が平成15年8月29日に出願公開されたことは当事者間に争いがなく,また,平成18年2月26日をもって原出願の出願日から20年が経過したことは当裁判所に顕著である。しかしながら,本願に関する権利存続期間が満了したとしても,原告は,特許法65条1項の規定による請求権の行使に必要な特許権の設定の登録を受けるため,本願につき実体審査を受ける利益を有するから,本訴における訴えの利益を有するものと認められる。
2取消事由1(理由(1)の認定判断の誤り)について原告は,本願が特許法36条3項,4項に規定する要件を満たさないとした審決の理由(1)の認定判断が誤りである旨主張するので,検討する。
(1)ア審決は,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1における「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって」との記載について,@「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレーム」とあるが,順方向の送信フレーム,順方向の受信フレーム,逆方向の送信フレーム,逆方向の受信フレームのすべてが同期しているといったことは明細書に説明されていない,A「……フレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された……」とあるが,「互いに相続く一つの群」,「それぞれ確定する」,「一連の繰り返し時間スロット」,「それぞれ画定する一連の繰り返しスロット」とはどういうことか内容不明確であるなどと認定判断した。
イこれに対し,原告は,「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との文言は,@順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含む,Aそれら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期している,という意味である旨主張する。
(2)ア原告の上記(1)イの主張は,基地局において,順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間のフレーム相互間の同期及びスロット相互間の同期が達成されていることを前提とするものであるが,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって」との記載から,そのような前提を読み取ることはできない。
イ原告は,本願明細書(甲8)の発明の詳細な説明の記載から,@システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングが基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させていること,A基地局内の複数の周波数チャンネルはすべて同一の時間基準を用いていること,B基地局内の受信タイミングと基地局の送信タイミングが同一であること,C加入者局は自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること,D加入者局・基地局間距離変動追跡のための「精密調整」がなされていることが理解できるとし,これらの記載内容を参酌すれば,請求項1の前記記載の意味は明確である旨主張する。
しかし,請求項1における他の構成をみても,加入者局が,自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること等を示唆する記載はなく,そのような理解の手掛かりとなる記載もない。
ウ要するに,原告は,特許請求の範囲に記載も示唆もない事項について,本願明細書の発明の詳細な説明における記載内容を,発明の構成として読み込むことを主張するものであり,採用することができない。
エ上記アないしウのほか,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載から,@順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含む,Aそれら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期している,との理解が当然に導けるとする積極的理由(例えば,時間スロットに分割された順方向チャンネルと逆方向チャンネルを有する無線通信システムでは,基地局において,順方向周波数チャンネルと逆方向チャンネルとの間のフレーム相互間の同期およびスロット相互間の同期が達成されていることが周知であり,請求項1においても当然の前提とされていることが当業者にとって明らかである,といった事情)は,本件記録を検討してもこれを見いだすことができない。
(3)そうすると,請求項1における「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネルであって」との記載の意味が明確であるとする原告の主張は理由がなく,この記載が不明りょうであるとした審決の認定判断は,本願明細書(甲13,8)の記載に照らし,これを是認することができる。
付言するに,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載が,@順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含むこと,Aそれら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期していること,を意味しているというのであれば,特許請求の範囲に直截に記載すべきである。特許請求の範囲の記載内容が,明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌・総合して初めて理解できるようなものは,特許法36条3項,4項の要件を満たすものとはいえない。
原告の上記主張によれば,請求項1の記載は,本来,簡明直截に記載できる内容をことさら不自然に表現したものであって,第三者の理解を妨げるものといわざるを得ない。
(4)以上によれば,審決が記載不備として指摘したその余の点について検討するまでもなく,本願が特許法36条3項,4項に規定する要件を満たさないことは明らかである。したがって,本願を拒絶すべきであるとした審決の理由(1)の認定判断は,これを是認することができる。
3結論上記検討したところによれば,「本件審判の請求は,成り立たない。」とした審決の結論は,審決の理由(2)の認定判断の当否を検討するまでもなく,これを是認することができる。よって,原告主張の取消事由2(理由(2)の認定判断の誤り)について検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。