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事件 平成 18年 (行コ) 10001号 裁決取消等請求控訴事件
控訴人ガンブロ ホスパル(シュバイツ) アクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士小池恒明
同 後藤晴男
訴訟代理人(特許管理人)浅村皓
同 浅村肇
同 歌門章二
同 小堀貞文
被控訴人国 代表者法務大 臣長勢甚遠処分庁・裁決 庁特許庁長官中嶋誠
指定 代理人立野み すず
同 海老 原明
同 五十 嵐伸司
同 駒崎利徳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審における控訴人の請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
1 控訴の趣旨(1)原判決を取り消す。
(2)特許庁長官が,異議申立人である控訴人から平成16年7月15日付けで提出された行政不服審査法による異議申立て(16行服特許第23号事件)について,平成17年6月20日付けでした棄却決定を取り消す。
2 当審における請求特許庁長官が,平成9年特許願第514879号に関し平成16年4月28日付けでした,平成15年10月14日付け控訴人提出の出願審査請求書に係る手続を却下する旨の処分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
事案の概要
1スイス法人である控訴人(一審原告)は,平成8年(1996年)10月10日,名称を「透析における廃液サンプル収集装置」とする発明につき国際出願をし,平成9年(1997年)4月17日には特許法(以下「法」ということがある。)184条の4に基づき日本国特許庁に翻訳文を提出し,上記出願は平成10年(1998年)10月20日に特表平10-510747号として公表されていたところ,上記出願に適用される平成11年法律第41号による改正前の法48条の3によれば出願審査請求期間は7年であったことから,上記出願の7年後である平成15年の10月11日は土曜日,10月12日は日曜日,10月13日は祝日(体育の日)であったこと等もあって,その翌日の平成15年10月14日に特許庁に法48条の3に基づく出願審査の請求(以下「本件出願審査請求」という。)を行った。
これに対し,被控訴人の機関である特許庁長官は,却下理由通知を行った上,期限経過後の提出を理由に,平成16年4月28日付けで,本件出願審査請求を却下する処分(本件処分)を行った。
2そこで控訴人は,本件処分を不服として行政不服審査法による異議申立てを行ったが,これを受けた特許庁長官は,平成17年6月20日,別添決定写しのとおり,上記異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件異議決定」という。)を行った。
3これを受けた控訴人は,平成17年12月19日付けで,本件異議決定の取消しと本件処分の無効確認を求めて東京地方裁判所に訴訟を提起したが,同裁判所は平成18年8月4日,@ 行政事件訴訟法10条2項によれば裁決の取消しの訴えにおいては原処分の違法を理由とすることはできないとされているところ,本件異議決定が違法とされる事由は原処分たる本件処分の違法事由であって裁決固有の違法ではない,A 本件決定をした特許庁長官の判断に法解釈の誤りはない,等として,控訴人の請求をいずれも棄却した。
4そこで控訴人は,上記判決を不服として当庁に控訴を提起したが,当審に至り,(1)前述した本訴請求のうち,本件処分の無効確認を求める部分につき請求の放棄をし,(2)当審における新たな請求として,本件処分の取消を求める部分を追加した。
当事者の主張
当事者双方の主張は,以下のとおり付加するほか,原判決の第2「事案の概要」の記載のとおりであるから,これを引用する。
1 当審における控訴人の主張原判決は,出願審査請求期間の性質,経過措置に関する基本原則,法律不遡及の原則,特許出願手続の特質にかんがみた従来の特許庁及び裁判所の運用の違反等についての控訴人の主張について一顧だにしていないもので,判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があるほか,審理不尽の違法な判決である。また,平成年特許法改正法附則2条4項,特許法3条2項等の11解釈も不合理であって妥当性を欠いているから,取消しを免れない。
その理由を具体的に述べると,以下のア〜クのとおりである。
(1)本件処分の違法性ア 理由付記の不備行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする行政手続法の趣旨に照らせば,本件のような重大な案件については行政処分の理由を付記することを当然に予定し,前提としているものと解すべきである。また,処分を受けた者の意見陳述の機会の付与の実効性を担保するためにも,理由付記は不可欠である。
かかる観点からすれば,本件処分をするに当たっては,特許庁長官が本件出願審査請求を却下するとの結論に到達した理由を明らかにすべきであるところ,本件処分に付記された理由は単に「期間経過後の提出です」というだけのものであり,本件出願審査請求がいかなる理由により期間経過後であるのかについては全く記載されておらず,特許庁長官の却下の意思決定の内容・過程が明らかになっているとはとてもいえないものであって,実質的には理由付記を欠く違法な処分である。
イ 改正前の特許法48条の3第1項,3条2項及び祝日法違反平成11年特許法改正法による改正前の特許法48条の3第1項は,出願審査請求期間を特許出願の日から「7年以内」と定めている。具体的案件としての特許出願についての出願審査請求期間の末日は,その出願日が確定することにより自動的に定まり,7年の期間の途中の法律の改正によっても,別段の定めがない限り,出願審査請求期間に何らの影響をも及ぼすものではないと解釈するのが妥当である。
本件国際特許出願についての審査請求期間の終期は,本件出願時(国際出願時,平成8年(1996年)10月10日)の特許法48条の3第1項及び3条2項,国民の祝日に関する法律(以下「祝日法」という。),行政機関の休日に関する法律(以下「行政機関休日法」という。),特許協力条約に基づく規則に従い,平成15年10月13日となるのであるから,その日に行われた本件出願審査請求を期間経過後の提出であるとして却下した本件処分は違法である。
ウ 改正後の祝日法の遡及適用の違反平成10年祝日法改正法には,体育の日の日付を定める規定を遡及して適用する旨の規定がないし,改正に当たっての経過措置を何ら定めていないから,同法施行前に出願がなされ既に進行している出願審査請求期間については適用されないものと解するのが合理的である。したがって,同法の改正後の規定を適用した本件処分は,国際的にも承認されている法律不遡及の原則(条約法に関するウィーン条約(昭和56年条約第16号)28条)にも反し,違法である。
エ 特許法3条2項の趣旨違反特許法3条2項の規定は,期間の末日を繰り延べることによって,手続をする者の利益を守るための規定であり,手続についての期間の末日を繰り上げることは想定していないところであるから,当該期間の末日を繰り上げて適用することは特許法3条2項の趣旨と相容れない。これを本件についてみるに,本件国際特許出願の出願審査請求期間については,平成15年10月14日が満了日となるべきところ,平成10年祝日法改正法による改正後の規定を適用し,これを短縮して平成15年10月10日を満了日としたものであるから,特許法3条2項の趣旨に反し,違法である。
オ 特許法の改正の際の経過措置解釈の誤り(ア)特許法の改正においては不遡及を基本としていることとの不整合そもそも,特許法等の改正において,改正法を遡及適用しない扱いを原則とすることとなったのは,特許法の昭和45年改正の審議の際の貴重な経験に基づくものである。
すなわち,昭和45年の特許法改正に当たり,国会に提出された政府案には,改正法の規定は別段の定めがある場合を除き改正法の施行前に生じた事項にも適用するとの経過規定が置かれていた。しかし,国会での審議において,改正法の規定をその施行時既に特許庁に係属中の特許出願にも適用することは財産権の保護という見地から必ずしも適切ではない,との考慮から,政府案の経過規定は修正され,改正法施行前の出願に対しては改正法の規定を適用せず,従前の例によることとされたのである。
この結果,財産権の保護という見地から適当でないと考えられる場合には,改正法の施行前の出願に対しては,改正法の規定を適用せず従前の例による,という基本的考え方(法律不遡及の原則)が打ち出されたこととなる。かかる基本的考え方は,その後の特許法の改正においても踏襲されている。
このように,特許法の改正においては法律不遡及の原則を基本としているのである。そうすると,平成10年祝日法改正法が経過措置の規定を何ら置いていない以上,同法による祝日の変更が特許法上の期間の定めに影響する本件のような場合も,特許法の改正の際の基本的な取扱いと同じように,平成10年祝日法改正法による祝日の変更に伴う出願審査請求期間の短縮という効果は,既に係属している本件国際特許出願には及ばないと解するのが相当である。
したがって,これと反対に,平成10年祝日法改正法による祝日の変更遡及的に適用した点において,本件処分には,経過措置の解釈・適用を誤った違法がある。
(イ)経過措置規定のない空白範囲に属する事案の運用事例との不均衡昭和34年に現行特許法(昭和34年法律第121号)及び現行実用新案法(昭和34年法第123号)が制定された際,これらの制定に伴い廃止された旧法に基づいてなされた特許出願を現行法に基づく実用新案登録出願に変更できるか,旧法に基づく特許出願を現行法に基づき分割の上現行法に基づく実用新案登録出願に変更できるか,等の問題が生じた。旧法下の出願に係る分割・変更について定める旧法の規定が,現行法の制定に伴い廃止され,経過規定が置かれなかったためである。
特許庁及び東京高等裁判所は,このような問題がある事案について,現行特許法及び実用新案法に明文の根拠がなかったにもかかわらず,出願の分割や変更を許容し,また,設定後の実用新案権の存続期間についても旧法によって定まることを認めている。
このような運用との均衡という点からも,平成11年特許法改正法及び平成10年祝日法改正法についても,既に特許庁に係属中の出願に係る出願審査請求期間に対して,出願人に不利な影響を与えることのないように解釈すべきである。本件国際特許出願の審査請求期間は,本件国際特許出願時(平成8年(1996年)10月10日)に効力を有した特許法,行政機関休日法及び祝日法の規定により,平成15年10月13日に定まっているのであるから,これが事後的に変更されることはない。
本件処分は,上記のことに反して行われたものであって,違法である。
(ウ)特許出願取下擬制の法的効果の重大性の看過本件出願審査請求が,審査請求期間を徒過したとの理由で却下されると,再度の出願をした場合にも,本件国際特許出願が既に国際公開及び国内公表されているので,その国際公開国内公表されている発明との関係において新規性進歩性の欠如を理由として拒絶され,特許されないことになる。また,本件国際特許出願に基づき保護されている「特許を受ける権利」も消滅に帰することとなる。このように,本件処分は,出願人である控訴人にとって極めて苛酷な結果をもたらすこととなるのである。
このような事情を一顧だにすることなくなされた本件処分には,憲法13条及び29条1項の規定にも反する重大な違法がある。
(エ)信義則違反特許庁の編集にかかる「工業所有権法逐条解説〔第15版〕」(1999年(平成11年)8月30日・社団法人発明協会発行。甲13)には,平成11年特許法改正法の内容は盛り込まれているが,平成10年祝日法改正法の影響については,同書籍の発行時点で既に改正法が成立していたにもかかわらず,何ら触れられていない。また,同書籍の第16版(2001年(平成13年)8月20日発行。甲14)では,平成10年祝日法改正法によって体育の日の日付が変更されたことは記載されているが,そのことが,既に特許庁に係属中の出願の審査請求期間に及ぼす影響についての説明はない。
特許庁が編集した同書籍の記載内容は,国民の間に,これらの法改正によっても,既に係属中の出願に係る審査請求期間には変更がないという信頼を生ぜしめるものである。本件処分は,特許行政の運営に対する国民のこのような信頼に反するものであり,信義誠実の原則に照らして違法である。
カ 平成11年特許法改正法附則2条4項違反(ア)出願人の法的地位を剥奪するについての法的根拠を欠くこと特許出願人は,出願審査請求期間の満了までは,出願審査の請求をするかしないかを自由に決定することができるという法的地位を有しているのである。本件国際特許出願についても,出願人たる控訴人は,出願に係る発明の重要性や,日本国特許庁の審査状況などを考慮しながら,審査請求期間を最大限に活用し,その最終日に審査請求を行うこととしたものである。
本件処分は,かかる特許出願人(控訴人)の法的地位を,正当な法的根拠なく奪うものであって,違法である。
(イ)平成11年特許法改正法附則2条4項についての解釈の誤り平成11年特許法改正法附則2条4項(以下,単に「附則2条4項」という。)は,「前条第4号に掲げる規定の施行の際現に特許庁に係属している特許出願に係る特許出願に係る出願審査の請求については,新特許法第48条の3第1項の規定にかかわらず,なお従前の例による」と定めている。平成11年特許法改正法の制定時には既に平成10年祝日法改正法も成立していたのであるから,附則2条4項において「従前の例による」というのは,単に,審査請求期間を3年から7年に変更するとの改正点にとどまらず,期間の計算をも含めて,特段の規定がない限り一切が従来どおりという趣旨に解するべきである。
本件処分は,附則2条4項のこのような趣旨にも反するものであって,違法である。
キ 行政手続法の趣旨違反行政手続法12条によって,行政機関が不利益処分を行うに当たっては,その処分基準を具体的に定めて公表することが義務付けられている。また,同法第6章(平成17年法律第73号により追加された章)の各規定の趣旨によれば,行政機関が処分基準等を定めるに当たっては事前に一般の意見を求める等の適正手続を経ることが要請されるというべきである。
本件国際出願手続は,その後に行われた平成10年祝日法改正法や平成11年特許法改正法によって出願審査請求期間の終期について影響を受けるものであるから,本件処分のような判断基準に基づく解釈・運用をするのであれば,当該判断基準を事前に公表し,または個別に出願人に通知する等の手続を踏むべきであった。かかる公表及び通知を欠いたまま行われた本件処分は,行政手続法の趣旨に違反するものであって,違法である。
ク 国際協調の観点からの違法平成10年祝日法改正法による祝日の変更によって出願審査請求期間の終期に影響を受けるのは,外国官庁又は政府間機関が受理官庁となった国際特許出願だけである。なぜなら,体育の日に関していえば,同改正法施行前には,10月10日に我が国の特許庁は執務をしていなかったので,10月10日を審査請求期間の終期とする国内出願は存在しないからである。
したがって,平成10年祝日法改正法による祝日の変更によって審査請求期間の終期に生ずる影響については,我が国の関係官庁から外国官庁及び政府間機関に周知徹底すべきであった。また,これによって直接に影響を受ける国際特許出願の数はごくわずかなのであるから,特許庁は,個別に検索の上出願人に通知すべきであった。
かかる手続を欠いたことは,国際出願を国内出願と同一に扱うべきことを要求する特許協力条約の規定等に照らして違法である。
(2) 本件異議決定の固有の違法性本件異議決定は,本件処分には何ら示されておらず本件異議決定において初めて示した理由によって,本件異議申立てを棄却したものである。すなわ「………国民の祝日に関する法律』については,『国民の祝日に関する法律の一部ち,『を改正する法律(平成10年法律第141号)』により,『体育の日』を『10月10日』から『10月の第2月曜日』とするなどの改正がなされ,平成12年1月1日から施行されたものであるが,同改正法において経過措置は設けられておらず,関係法令に関する整備法令も定められていない。そうすると,当該改正法施行後にあっては,一律当該新法が適用される………」のくだりは,本件異議決定特有の法的解釈・判断であり,(4頁2行〜8行)下記の理由により違法である。
ア 解釈条理違反平成10年祝日法改正法において経過措置が設けられていないことが,直ちに,旧法が適用されるという選択肢を否定する根拠となるものではない。そのような結論を導くためには,当該法律の規制対象との関係を全体的に考察し,新法主義又は旧法主義のいずれが,より当該規制対象の種類,特質・範囲等からみてよく適合するものであるかによって決すべきであるところ,短絡的に「一律当該新法が適用される」と解釈するのは法令解釈の条理に反する。
イ 法律不遡及の原則違反明文の根拠なしに新法が一律に適用されるとの解釈は法律不遡及の原則に反するものである。すべての法律は,その効力を生じた時以降に発生した事実についてだけ適用されるというのが法解釈及び立法における原則であり,このような法律不遡及の原則は,条約法に関するウィーン条約28条等によって国際的にも承認されている。
本件異議決定は,「経過措置規定がない」とか「整備法令がない」と述べるにとどまり,遡及適用を是認する法的根拠を何ら示すことなく,本件国際特許出願の審査請求期間に平成10年祝日法改正法の改正後の規定の適用を認めているものであり,法律不遡及の原則に反し,違法である。
2 当審における被控訴人の主張(1)控訴人の主張(1)に対しア 控訴人の主張(1)のアにつき控訴人は,本件処分について特許庁長官の意思決定の内容・過程が明らかになっていないから違法である旨主張しているが,本件処分を行うに当たり特許庁長官は,却下理由を通知し弁明書を提出する機会を与えているのであるから,法18条の2に規定された手続に従ったものである。また,本件処分に付された理由は,法18条の2により求められている理由の程度を満たしている。
イ 控訴人の主張(1)のイ〜カにつき平成11年特許法改正法は,出願審査請求期間を出願から3年以内と改定し,同法附則1条4号においてその改正規定の施行期日を平成13年10月1日とするとともに,同法附則2条4項において「前条第4号に掲げる規定の施行の際現に特許庁に係属している特許出願に係る出願審査の請求については,新特許法第48条の3第1項の規定にかかわらず,なお従前の例による」と規定しているが,同法附則2条4項は,同規定の施行の際現に係属中の出願の審査請求期間を7年としたにとどまるものであり,それ以外を定めたものではない。
そして,法3条2項は,手続について期間の末日が行政機関の休日に当たるときは,その日の翌日をもってその期間の末日とする旨規定しており,当該期間の末日が行政機関の休日であるか否かは,当該日における法律によって判断すべきである。
この点,平成10年祝日法改正法は改正に当たっての経過措置を何ら定めておらず,平成15年10月10日は行政機関の休日ではなかった。
したがって,本件国際特許出願の出願審査請求期間は,平成15年10月10日がその末日であり,同月14日にされた本件出願審査請求出願審査請求期間を徒過したとの判断につき取消事由たる違法はなく,控訴人の主張は理由がない。
ウ 控訴人の主張(1)のキ,クにつき本件処分について,行政手続法の趣旨違反及び国際協調の観点からの違法がないことは,原判決の判示するとおりであり,控訴人の主張は理由がない。
(2)控訴人の主張(2)に対し控訴人が主張する本件異議決定の取消事由は,いずれも,実質的には本件処分の違法を主張するものであり,本件異議決定の固有の瑕疵を主張するものではない。したがって,本件異議決定の取消しを求める控訴人の主張に理由がないことは明らかである。
当裁判所の判断
1当裁判所も,本件処分及び本件異議決定に控訴人主張の違法はなく,控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決の「第3当裁判所の判断」の説示のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人の主張(1)についてア 同アにつき控訴人は,本件処分には特許庁長官の意思決定の内容・過程が明らかにされていないから,いわゆる理由付記の違法がある旨主張する。
しかし,行政処分に付記すべき理由の記載の程度は,事案の内容に応じて相対的に定まるものであって,必ずしも,処分庁の意思決定の内容・過程が詳細にわたって明らかにされなければならないものではない。これを本件について見るに,平成16年4月28日付けでなされた本件処分(甲8)は,まず「期間経過後の提出です」との平成15年11月19日付け却下理由通知書(甲6)記載の理由を引用しており,当該記載は,本件出願審査請求がなされた平成15年10月14日には,本件出願時から7年間の出願審査請求期間の終期である平成15年10月10日(金曜日)が既に経過していたことを意味することは,容易に了知し得る事柄であるから,これ以上に詳細な理由を付することが求められるものではないというべきである。また,平成15年12月26日付け弁明書(甲7)に記載された弁明の内容についての判断についても,当該弁明の内容は,要するに平成11年特許法改正法附則2条4項が平成10年祝日法改正法による体育の日の変更をも対象とすると解するべきである,というものであって,特許法及び祝日法に対する独自の解釈に基づくものであるから,かかる弁明を排斥する理由としては,本件処分(甲8)に記載された程度のもので足りると認めるのが相当である。
よって,控訴人の上記主張アは採用することができない。
イ 同イにつき控訴人は,本件国際特許出願に係る出願審査請求期間は,本件出願時の特許法,行政機関休日法,祝日法の規定に従って自動的に定まっており,その後の法律の改正によって影響されるものではないと主張する。
しかし,平成11年特許法改正法の附則2条4項が,出願審査請求期間を改正前の7年から改正後の3年に変更した同改正法の48条の3第1項の規定を,同条項「の規定にかかわらず」,同条項の施行時において特許庁に係属中の出願には適用しないと定めているのは,このような附則の定めを置かない限り,同条項は係属中の出願にも適用されることを前提とするものであると解される。
よって,控訴人時の上記主張イは採用することができない。
ウ 同ウにつき控訴人は,平成10年祝日法改正法には,体育の日の日付を定める改正法の規定を遡及して適用する旨の規定がないし,改正に当たっての経過措置を何ら定めていないのであるから,同法施行前に出願がなされ既に進行している出願審査請求期間については適用されない旨主張する。
しかし,平成10年祝日法改正法による体育の日の日付けの変更について,その効果の遡及の有無についての定めや経過措置が置かれていないのは,当該変更に伴い必要となる法律上の手続関係の措置については,同改正法によって体育の日が改正法に定められた日(10月の第2月曜日)となることを前提とした所要の措置が当該手続の当事者に期待されており,また,同改正法の公布(平成10年10月21日)から施行(平成12年1月1日)まで,国民への周知に十分な期間がとられていることにかんがみ,そう期待することに無理はないとの考慮によるものと解される。したがって,効果の遡及の有無についての定めや経過措置が置かれていないことが,本件国際特許出願の出願審査請求期間の終期を定めるに当たっては平成10年祝日法改正法の定めを前提とすべきである,との結論を左右するものではない。
よって,控訴人の上記主張ウは採用することができない。
エ 同エにつき控訴人は,法3条2項は期間の末日の繰延べのみを予定した規定であり,期間の末日の繰上げは想定していないから,本件処分は同条項の趣旨に反するものであると主張する。
しかし,法3条2項は,期間の末日が行政機関の休日に当たる場合に期間の末日を繰り延べる旨の規定である。そして,行政機関の休日に当たるか否かは,行政機関休日法及び祝日法の規定に従って定まる性質の事柄である。
そうすると,本件のように,期間の末日が,そもそも行政機関休日法及び祝日法の規定によれば,行政機関の休日には当たらない場合には,法3条2項の規定を考慮する余地はないというべきである。
よって,控訴人の上記主張エは採用することができない。
オ 同オにつき(ア)控訴人の主張オの(ア),(イ)につき控訴人は,本件処分のような取扱いをすることは,特許法の改正においては改正法を遡及適用しない扱いを原則としていることに反し,また,経過措置規定のない空白範囲に属する事案の運用事例との不均衡を生じると主張する。
しかし,本件国際特許出願について,出願審査請求期間の終期が控訴人主張の平成15年10月13日ではなく平成15年10月10日となることは,特許法の改正との直接の関係はなく,平成10年祝日法改正法の施行に伴うものである。そうすると,特許法の改正について控訴人が主張するような遡及適用の扱いや運用事例があったことは,本件処分の適否に影響を及ぼすものではない。
(イ)控訴人の主張オの(ウ)につき控訴人は,本件処分のような取扱いをすることは,出願審査請求期間の経過により特許出願の取下げが擬制されることの法的効果の重大性を看過したものであると主張するが,特許法上定められた期間の経過によって出願人又は権利者等に種々の不利益が課せられることは,出願審査請求期間の経過に限られないのであるから,控訴人の主張は,本件処分の適否に影響を及ぼすものではない。
(ウ)控訴人の主張オの(エ)につき控訴人は,特許庁が編集した「工業所有権法逐条解説」(社団法人発明協会発行)の第15版(1999年(平成11年)8月30日発行。甲13)及び第16版(2001年(平成13年)8月20日発行。甲14)には,平成10年祝日法改正法及び平成11年特許法改正法に伴う出願審査請求期間の終期への影響について本件処分のとおりに取り扱う旨の記載がないから,本件処分のとおりの取扱いとすることは,信義則に反すると主張する。
しかし,「工業所有権法逐条解説」は,これらの法改正に伴う出願審査請求期間の終期への影響を直接に明らかにしたものではないから,これに接する一般の読者が,本件処分のとおりの取扱いにはならない旨の信頼を抱くものとまでは認められない。
(エ)以上のとおりであるから,控訴人の主張オは採用することができない。
カ 同カにつき控訴人は,平成11年特許法改正法の附則2条4項は,同法による改正点である出願審査請求期間の7年から3年への変更だけではなく,平成10年祝日法改正法による出願審査請求期間への影響についても,平成11年特許法改正法の施行時において現に特許庁に係属中の特許出願には適用されないことを定めたものである,と主張する。
しかし,平成11年特許法改正法の附則2条4項が,出願審査請求期間を7年から3年に変更した「新特許法第48条の3第1項」の適用に関するものであることは条文の体裁上明らかである。
よって,控訴人の上記主張カは採用することができない。
キ 同キにつき控訴人は,本件処分は,行政機関の行う不利益処分についての処分基準を事前に公表する等の手続を欠いたまま行われたものであって,行政手続法12条等の規定の趣旨に反すると主張する。
しかし,平成10年祝日法改正法の施行によって,体育の日が10月10日ではなく10月の第2月曜日となることは解釈の余地なく明確である。そして,これに伴い行政機関の休日が変更され,既に係属中の特許出願に関して出願審査請求期間の終期に影響が及ぶことも,特許庁等の行政機関が何らかの処分基準等で明示するまでもなく,当然に理解できる程度の事柄であるというべきである。
よって,控訴人の上記主張キは採用することができない。
ク 同クにつき控訴人は,本件処分は,国際特許出願の出願人に対して特別な不利益を課するものであり,国際協調の観点からも違法であると主張する。
しかし,平成10年祝日法改正法によって出願審査請求期間の終期に影響を受けるのが,外国官庁又は政府機関が受理官庁となった国際出願だけであるとしても,それは,同改正前には10月10日を出願日とする国内出願が事実上存在し得なかったという事情によるものにすぎず,国際出願の出願人に対して特別の不利益を課するものとはいえない。また,在外者は日本国内に住所を有する特許管理人によらなければ特許法上の手続をすることができないとされている(法8条)のであるから,平成10年祝日法改正法による出願審査請求期間の終期への影響は,特許管理人が適切に在外者たる出願人に了知させるべきであり,控訴人が主張するような特許庁による外国官庁への通知や出願人への個別の通知を要するものではない(ちなみに,控訴人知財部から本件出願の日本における特許管理人の所属する浅村内外特許事務所あての平成15年(2003年)10月10日付けファクシミリである甲4によれば,同事務所担当者が控訴人に対し,本件出願審査請求期限である同年10月10日より14日前の同年9月26日に,出願審査請求の要否に関する催促状を発していることが認められるから,これを受けた控訴人又は同事務所担当者において,その頃,本件出願審査請求の期限につき改めて検討することも十分可能であったということもできる。)。
よって,控訴人の上記主張クは採用することができない。
3 控訴人の主張(2)について控訴人は,本件異議決定は,本件処分には何ら示されておらず本件異議決定において初めて示した理由によって,本件異議申立てを棄却したものであるから,本件異議決定に固有の違法があると主張する。
しかし,本件異議決定において初めて示されたと控訴人が主張する理由は,別紙として添付する本件異議決定(甲10)の記載によれば,ごく簡潔なものにとどめられていた本件処分(甲8)の理由の記載を,異議申立書(甲9)に記載された主張に即して詳細に展開したものにすぎないと認められる。そして,これらの本件処分の実質的な理由に,事実認定又は法令解釈の誤り等の違法事由がないことは,原判決の判断及び上記2のとおりである。
よって,本件異議決定に固有の違法があるということはできず,控訴人の上記主張(2)は採用することができない。
4 結語以上によれば,本件決定及び本件異議決定に違法事由はないとした原判決は相当である。よって,原判決のうち本件異議決定の取消請求を棄却した部分の取消しを求める本件控訴は理由がないから棄却し,当審における新たな請求である本件処分の取消請求も理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉
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