関連審決 | 不服2003-890 |
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関連ワード | 発明者 / 物の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 技術的意義 / 発明の要旨認定 / 置換 / 実施 / 加工 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10226号
審決取消請求事件
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原告株式会社日本吸収体技術研究所 訴訟代理人弁理士西村教光 同 鈴木典行 被告特 許庁長 官中嶋誠 指定代理人溝渕良一 同 寺本光生 同 高木彰 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/02/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2003-890号事件について平成18年3月22日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成12年2月24日,発明の名称を「吸収体製品の表面被覆シート」とする発明について特許出願(特願2000-47837号,以下,「本件出願」という。)をしたが,平成14年12月6日に拒絶査定を受けたので,平成15年1月15日,拒絶査定に対する不服の審判を請求し,同年2月12日付け手続補正書により特許請求の範囲の記載等について補正(以下「本件補正」という。)をした。 特許庁は,これを不服2003-890号事件として審理して,平成18年3月22日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年4月12日,原告に送達された。 2特許請求の範囲の記載( )平成14年8月5日付け手続補正書により補正された明細書(甲7,8)1の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下,同請求項1に記載された発明を「本願発明1」という。)【請求項1】吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形された孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート。 ( ) 本件補正後の明細書(甲7ないし9。以下,本件出願の願書に添付した図2面〔甲10〕を含め,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下,同請求項1に記載された発明を「本願補正発明1」という。)【請求項1】吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,かつ前記山部および前記谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート。 3審決の理由( )審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願補正発明1が,特開平9-1299402号公報(甲1,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件補正は,同法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものとして,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものであるとした上,本願発明1も,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 ( )審決が認定した,本願補正発明1と引用発明の一致点及び相違点はそれぞ2れ次のとおりである(審決謄本4頁下から第2段落)。 ア一致点「吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート」を具備する点イ相違点本願補正発明1の,表面シートは,山部および谷部に開口が設けられているのに対し,引用発明の液透過性表面層は,溝部に開口を設けており,畝部には開口が設けられていない点第3原告主張の審決取消事由審決は,本願補正発明1の認定を誤り(取消事由1),本願補正発明1と引用発明の一致点の認定を誤り(取消事由2),その結果,本願補正発明1と引用発明との相違点を看過して,相違点についての認定判断のないまま結論に至ったものであり,違法であるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(本願補正発明1の認定の誤り)(1)審決は,「引用発明の液透過性表面層は,・・・吸収体製品において着用者の皮膚に接触した状態で使用されるのであり,本願補正発明1の『表面シート』に相当し,引用発明の『畝部』及び『溝部』は,それぞれ,本願補正発明1の『山部』及び『谷部』に相当するので,引用発明の液透過性表面層も本願補正発明1でいうひだ状に形成されているということができ」(審決謄本4頁第5段落)として,本願補正発明1の「表面シート」の「山部」及び「谷部」について,引用発明の「液透過性表面層」の「畝部」及び「溝部」と同様の意義のものであると解釈して,本願補正発明1を認定したが,誤りである。 (2)本願補正発明1の「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た疎水性表面シートについて,そこで使用されている「山部」,「谷部」及び「ひだ状」といった用語は,技術的に特定された専門用語であるとは必ずしもいえないため,特許請求の範囲の記載のみによって,同シートが,いかなる形態の原材料から,いかなる手段により,いかなる形状,構造を有するものとして「成形され」て得られた構造を有するものであるのか,一義的に明確に理解することが困難であるといわざるを得ない。 そこで,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌すると,本件明細書の「本発明の表面被覆シートにおいて,表面シート1に上記のような山部Aおよび谷部Bを形成するためには,・・・成形ロールを使用することができる。・・・この溝付きロール21,22間のニップ間に,疎水性の孔あきシート材料通過させることにより,図1および図2に示したような山部Aおよび谷部Bを有する表面シート1を得ることができる。」(段落【0013】)との記載,「〈開口不織布の波形成形〉図7に示した構造の溝付きロール対を準備する。・・・ニップ間に,前記のカードウェブ不織布を通過させることにより,・・・溝付きロールの表面形状に対応して,山部Aと谷部Bからなる波形に成形される。」(段落【0020】)との記載,並びに,【図1】,【図2】及び【図7】によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,開口表面シートを原材料とし,これを【図7】に示された成形ロールに通して,山部と谷部を成形し,ひだ状(波形)とする旨の記載のみが存在する。他方,本件明細書を精査しても,「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形」するための手法として,上記手法以外の手法は記載されていない。 次に,本願補正発明1の「表面被覆シート」に加工する前の「表面シート」についてみると,展開平面図を示した本件明細書の【図2】及びその調整方法を記載した段落【0008】によれば,同「表面シート」は,「P.P, P.E, PET等の合成繊維あるいはその混合繊維からなる疎水性不織布にその製造過程あるいは製造後に高圧水流あるいは,機械的パンチング等の手段で開口を施したシート,または疎水性不織布でも開口を施したのちにシリコン系やテフロン系等の撥水剤で疎水化表面加工を施したシート」,「P.E,P.P, EVA等のフィルム,あるいはフィルムと不織布の複合体に熱エアとサクションを組み合わせて漏斗状の開口を施したシート」,又は,「P.E,P.P, ナイロン等の合繊繊維フィラメントを編織したネット状シート」であり,他方,「表面被覆シート」に加工する前の「表面シート」について,上記以外のシートについての記載はない。 これらによれば,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造とは,本件明細書の【図2】の展開平面図に示すような高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなる表面シートについて,さらに,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものであって,成形ロールにより山谷構造の波形に加工する前の,開口を施したシート自体の構造とは関係がないことが明らかである。 (3)他方,引用例には,「上記液透過性表面層12は,図3及び図4に示すように,熱可塑性合成繊維を融着させて形成された不織布からなるシートである。そして,該シートの表面の一部又は全部は,多列の畝部30と溝部32とが交互に組み合わされており,且つ該畝部30は凸状に湾曲し該溝部32は凹状に湾曲しており,該溝部32に間隔をおいて多数の開孔部34を設けると共に該開孔部34の周縁部36に上記シートの表面から裏面に向けて起立する立体的リブ38を設け」(段落番号【0012】)との記載がある。この記載と,引用例の段落【0013】,同【0023】の記載,並びに,引用例の段落【0023】において引用されている特開昭62-125061号公報(甲3,以下「甲3公報」という。),特公平6-38818号公報(甲4,以下「甲4公報」という。)及び特開平6-330443号公報(甲5,以下「甲5公報」という。)の記載によれば,引用例の「液透過性表面層」は,公知の不織布形成方法において,高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等によって開口を形成したものであって,本願補正発明1の加工前の上記「表面シート」に相当するものであり,引用例における「液透過性表面層」の「畝部」及び「溝部」は,開孔処理の際に必然的に生じる開口部と未開口部の厚み差に基づく凹凸である。ここで,本願補正発明1においても,成形ロールにより山谷構造の波形に加工する前の「表面シート」は,開口の形成に伴って同様な凹凸を生じるものと理解される。 したがって,引用発明に係る,開口の加工に伴って生じた凹凸を有するものである「液透過性表面層」と,本願補正発明1に係る,開口の加工に伴って生じた凹凸を有する表面シートを,さらに成形ローラで山部と谷部のひだ状に成形してなる「表面被覆シート」とは,全く構造の異なるものであって,本願補正発明1の「表面シート」を成形ローラで形成した「山部」及び「谷部」について,引用発明の「液透過性表面層」の開口形成に伴い生じた「畝部」及び「溝部」と同様の意義を持つものと解釈することは,誤りである。 (4)審決は,「吸収性コアの周囲から全方向に延出する引用発明の『液透過性表面層』は,吸水性コアと同寸法の『液濾過層』とともに本願補正発明1でいう『表面被覆シート』を形成するものということができ,本願補正発明1(注,「引用発明」の誤記と認められる。)の親水性の『液濾過層』は,本願補正発明1の『親水性層』に相当する」(審決謄本4頁第6段落)として,本願補正発明1の「親水性層」について,引用発明の「液濾過層」と同様のものであると解釈して,本願補正発明1を認定したが,誤りである。 引用例には,「図1及び図2に示す本実施形態の使い捨ておむつ10は,液透過性表面層12と,液不透過性裏面層14と,該表面層12及び裏面層14の間に介在する吸液コア16と,該表面層12及び該吸液コア16の間に介在し且つ該吸液コア16と同寸法の液濾過層18とを有する。」(段落【0011】)との記載があるところ,同記載を引用例の図1及び図2を参酌して解釈すると,引用発明における「液透過性表面層12」は,「液濾過層18」の上面に全面にわたって重ねられ,その開口の形成に伴い生じた「溝部」ないし「溝部」に形成された「立体的リブ38」をもって,「液濾過層18」の上面に全面にわたって接触していることが明らかである。すなわち,引用例には,本願補正発明1のような,「液透過性表面層12」に成形ローラで「山部」及び「谷部」を形成するとともに,「谷部」のみを「液濾過層18」の上面に接触させるといった構成は,全く記載されていない。したがって,引用発明において,「液濾過槽」に接触しているのは,「溝部」(本願補正発明1において不織布等からなるシートに開口を形成することで生じたもの)であって,「溝部」を有するシートを成形ロールによって,畝部及び溝部よりも大きくひだ状に成形した場合に生じる,本願補正発明1の「谷部」ではない。 これに対し,本願補正発明1の「表面被覆シート」は,前記(2)のとおり,開口の加工に伴って生じた凹凸を有する「表面シート」を,さらに成形ローラで「山部」及び「谷部」が生じるように成形したものであり,「親水性層」は,特許請求の範囲に記載されているように「この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された」ものである。 したがって,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」は,本願補正発明1でいう「表面被覆シート」を形成するものということはできず,本願補正発明1の「前記谷部にのみ接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層」は,引用発明の「液透過性表面層」が重ねられて接触した「液濾過層」に相当するものではないから,これを相当すると解釈して,本願補正発明1の認定をした審決は誤りである。 (5)被告は,広辞苑第4版を引用して,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語の意義を,それぞれ,「谷と谷との間に挟まれた凸起部」,「地表の隆起部の間にある細長く凹んだ地形」及び「襟・衣服類に細く折り畳んである細長い折目」と限定的に解釈して,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載が,吸収体製品の表面シートにおける凸部,凹部及び折目状を示すことは,通常の日本語の意味として理解できるものであり,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載の技術的意義は,一義的に明確に理解することができるので,発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されない旨主張し,また,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の上記解釈は,本件明細書の段落【0007】の記載と【図1】の記載から裏付けられる旨主張する。 しかし,被告が,本願補正発明1における「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語の意義を,それぞれ,「谷と谷との間に挟まれた凸起部」,「地表の隆起部の間にある細長く凹んだ地形」及び「襟・衣服類に細く折り畳んである細長い折目」と限定的に解釈する根拠は,用語の定義を異にする様々な辞書中,単に一辞書の記載にあるにすぎない。加えて,この解釈を根拠として,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載を,本願補正発明1とは技術的意味が異なる引用文献に記載された吸収体製品の表面シートにおける,「凸部」,「凹部」及び「折目状」と解することは,単に対応するこれらの語が通常の日本語として類語に近いものであるという程度の意味しかなく,高度に専門的で口語とは異なる点において必ずしも被告の主張する通常の日本語とはいえない特許請求の範囲における技術的用語の解釈としては,はなはだ妥当性を欠くものであり,特許請求の範囲における技術的用語の意味の解釈として,「一義的に明確なもの」とはいえない。 また,被告が指摘する本件明細書の記載及び図面は,被告の解釈を裏付けるものではなく,かえって,引用発明とは異なる本願補正発明1における「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の技術的意義を明確にするものである。 (6)被告は,特許請求の範囲の記載には,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形方法を特定する記載がない旨主張する。 しかし,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載には,「山部」「谷部」「ひだ状」といった用語の技術的意義を一義的に明確には理解できないという特段の事情があり,発明の要旨認定に当たっては,発明の詳細な説明の記載の参酌が許され,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造は,【図2】の展開平面図に示すような高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなるシートを,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものと解釈される。 2取消事由2(一致点の認定の誤り)審決は,前記第2の3(2)のとおり,本願補正発明1と引用発明が,「吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート」を具備する点において一致すると認定した。 しかし,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載には,「山部」「谷部」及び「ひだ状」との用語の意義を一義的に明確には理解できないという特段の事情があり,発明の要旨認定に当たっては,発明の詳細な説明の記載の参酌が許されるところ,それを参酌すると,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造は,【図2】の展開平面図に示すような高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなるシートを,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものと解釈すべきものである。 そうすると,引用発明の「液透過性表面層」の開口形成に伴い生じた「畝部」及び「溝部」は,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」に相当すると解釈する余地はないし,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」の組合せが本願補正発明1の「表面被覆シート」に相当すると解釈する余地もない。したがって,審決が一致点として認定した構成は,本願補正発明1と引用発明との相違点であり,審決は,本願補正発明1と引用発明との相違点を看過して,相違点についての認定判断のないまま結論に至ったものであり,審決の一致点についての認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。 第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1取消事由1(本願補正発明1の認定の誤り)について( )原告は,審決が,本願補正発明1の「表面シート」の「山部」及び「谷1部」について,引用発明の「液透過性表面層」の「畝部」及び「溝部」と同様の意義のものであると誤って解釈して,本願補正発明1を認定したとして,審決の本願補正発明1の認定に誤りがある旨主張するが,失当である。 ( )原告は,本願補正発明1の「多数の山部と,隣接する山部間に形成され2た谷部とを有するようにひだ状に成形され」た疎水性表面シートについて,そこで使用されている「山部」,「谷部」及び「ひだ状」といった用語は,技術的に特定された専門用語であるとは必ずしもいえないため,特許請求の範囲の記載のみによって,同シートが,いかなる形態の原材料から,いかなる手段により,いかなる形状,構造を有するものとして「成形され」て得られた構造を有するものであるのか,一義的に明確に理解することが困難であるとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌している。 しかし,発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行われることが原則であり,発明の詳細な説明の記載の参酌が許されるのは,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとき,一見してその記載が誤記であることが明らかであるときなど特段の事情があるときに限定される。 本願補正発明1は,前記第2の2( )記載のとおりに特定されており,こ2こでいう「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載について検討すると,これらの記載が専門用語であるとは必ずしもいえないとしても,「山」とは,「谷と谷との間に挟まれた凸起部」,「谷」とは,「地表の隆起部の間にある細長く凹んだ地形」,「ひだ」とは,「襟・衣服類に細く折り畳んである細長い折目」を意味するものである(広辞苑第4版)から,上記の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載が,吸収体製品の表面シートにおける凸部,凹部及び折目状を示すことは,通常の日本語の意味として理解できるものである。 そして,上記の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載が,前記凸部,凹部及び折目状を示すことは,本件明細書に,「【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態による面被覆シートの構造について図1を参照して説明する。図1において,符号1は波形に成形された孔あきの表面シートで,相互に平行な突条により,山部Aおよび谷部Bを形成するように波形に成形されている。また2は親水性層を示し,この親水性層2は,孔あきの表面シート1の谷部Bにおいて,接着剤層3を介して接着されている。図2は開口部を持った表面シート1の展開平面図を示している。この例の表面シート1は疎水性繊維からなる不織布に任意のパターンで多数の開口11を形成したものである。」(段落【0007】)との記載があり,また,本件明細書の図面の図1に,山部として「A」,谷部として「B」の符号が,それぞれ付されていることからも裏付けられる。 したがって,本願補正発明1は,「吸収体製品の表面被覆シート」という「物の発明」として,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができるものであり,明細書の発明の詳細な説明の記載の参酌が許される特段の事情は存在せず,原告の主張は,その前提において誤りである。 ( )原告は,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,3隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造とは,本件明細書の【図2】の展開平面図に示すような高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなる表面シートについて,さらに,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものである旨主張する。 しかし,本願補正発明1の特許請求の範囲においては,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」について,「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,かつ前記山部および前記谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性」と記載されているにすぎず,上記特許請求の範囲には,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」に関して,その成形方法については何ら記載はなく,加えて,本件明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載されているような,山部の高さ,同請求項9に記載されているような,線状の弾性ラインに関しては,何らの記載もない。 したがって,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造について,原告の主張のように解釈しなければならない特段の事情は認められない。 ( )引用例には,「また,図3及び図4から明らかなように,上記畝部30は4凸状に湾曲し,且つ上記溝部32は凹状に湾曲している。そして,上記畝部30及び上記溝部32は交互に組み合わされて,上記液透過性表面層12の肌当接面(即ち,吸収表面)が平面部を有しないように配列されているので,本実施形態の使い捨ておむつ10においては,上記液透過性表面層12が肌に接する面積が小さくなる結果,肌へのベタツキが少なく,ドライ感(サラット感)が向上する。」(段落【0016】)との記載がある。これによれば,引用例記載の「畝部」が凸部,すなわち山部を,また,「溝部」が凹部,すなわち谷部を形成していることは明らかであり,しかも,「液透過性表面層」はドライな状態を保持するものである。 原告は,引用例の「液透過性表面層」は,公知の不織布形成方法において,高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等によって開口を形成したものであって,本願補正発明1の加工前の上記「表面シート」に相当するものであり,引用例における「液透過性表面層」の「畝部」及び「溝部」は,開孔処理の際に必然的に生じる開口部と未開口部の厚み差に基づく凹凸であるとして,本願補正発明1の「表面シート」を成形ローラで形成した「山部」及び「谷部」について,引用発明の「液透過性表面層」の開口形成に伴い生じた「畝部」及び「溝部」と同様の意義を持つものと認定することは,誤りである旨主張する。 しかし,本願補正発明1の特許請求の範囲においては,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」に対して,「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,かつ前記山部および前記谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層」と記載されているにすぎず,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」に関して,その成形方法については何らの記載はなく,加えて,本件明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載されているような,山部の高さ,同請求項9に記載されているような,線状の弾性ラインにしては何らの記載もないのであるから,原告主張のように,本願補正発明1の「表面シート」を開口の加工に伴って生じた凹凸を有する疎水性表面シートをさらに成形ローラで山部と谷部のひだ状に成形してなるものと,解釈しなければならない特段の事情は認められない。 ( )原告は,審決が,本願補正発明1の「親水性層」について,引用発明の5「液濾過層」と同様のものであると解釈して,本願補正発明1を認定したが,誤りである旨主張する。 しかし,本願補正発明1の「表面シート」を開口の加工に伴って生じた凹凸を有する疎水性表面シートをさらに成形ローラで山部と谷部のひだ状に成形してなるものと解釈しなければならない特段の事情は認められない。 そして,引用例記載の「液濾過層」は,尿等を吸収体へ濾過させるという機能を有する点で,本願補正発明1の「親水性層」に相当するものであり,引用例の「立体的リブ38」は,「溝部」に形成されているのであるから,「立体的リブ38」をもって,「液濾過槽18」に接触しているということは,「溝部」のみを「液濾過槽18」に接触していることにほかならず,引用例の【図2】及び【図3】には,液透過性表面層12の下面に,該液透過性表面層12の溝部に設けられた開口部のみに接触するように液濾過層18が接合されている態様が示されている。 したがって,審決の,「吸収性コアの周囲から全方向に延出する引用発明の『液透過性表面層』は,吸収性コアと同寸法の『液濾過層』とともに本願補正発明1でいう『表面被覆シート』を形成するものということができ,引用発明の親水性の『液濾過層』は,本願補正発明1の『親水性層』に相当する。」(審決謄本4頁第6段落)との認定に誤りはない。 2取消事由2(一致点の認定の誤り)について原告は,審決が一致点として認定した構成は,本願補正発明1と引用発明との相違点であるとして,審決の一致点の認定に誤りがある旨主張する。 しかし,「引用発明の『畝部』及び『溝部』は,それぞれ,本願補正発明1の『山部』及び『谷部』に相当する」(審決謄本4頁第5段落)との認定,及び「上記摘示記載(ロ)に示されるように,吸収性コアの周囲から全方向に延出する引用発明の『液透過性表面層』は,吸収性コアと同寸法の『液濾過層』とともに本願補正発明1でいう『表面被覆シート』を形成するものということができ,引用発明の親水性の『液濾過層』は,本願補正発明1の『親水性層』に相当する。」(同第6段落)との審決の認定に誤りはないので,「引用発明は,本願補正発明1でいう『吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート』を具備することになり,この点で両者は一致しており」(同第7段落)との審決の一致点の認定に誤りはなく,原告の主張は失当である。 第5当裁判所の判断1取消事由1(本願補正発明1の認定の誤り)について( )原告は,審決が,本願補正発明1の「谷部」,「山部」及び「ひだ状」の1解釈を誤った結果,本願補正発明1の認定を誤ったとして,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造は,本件明細書の【図2】の展開平面図に示すような高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなる表面シートを,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものである旨主張する。 ( )前記第2の2( )のとおり,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載は,22「吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,かつ前記山部および前記谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート。」であり,同記載によれば,本願補正発明1は,@吸収体製品における,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,A多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に形成されており,B山部及び谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,C表面シートの谷部のみに接触するように,表面シートの下面に接合された親水性層とを備えているものであると規定されている。 したがって,本願補正発明1は,吸収体製品における,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートにつき,「山部」及び「谷部」を有するように「ひだ状」に成形されるものであるが,特許請求の範囲の記載には,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」という用語の意義を定義する記載はないし,また,それらの成形方法を特定する記載もない。 ここで,広辞苑第五版によれば,「山」は,「@平地よりも高く隆起した地塊。谷と谷との間に挟まれた凸起部。・・・F山形になった所。」であり,「谷」は,「@地表の隆起部の間にある細長く凹んだ地形。A波形の凹んだ所。」であり,「ひだ」は,「@袴・衣服類に細く折り畳んである細長い折目。ひだめ。また,そのように見えるもの。」であり,また,大辞林第三版によれば,「山」は,「@周りの土地より著しく高くなった所。・・・D物の一部で,高くなっている所。」であり,「谷」は,「@山または丘にはさまれた細長い溝状の低地。A高い所にはさまれた低い部分。」であり,「ひだ」は,「@衣服などで,布を折りたたんだ部分。A@のように見えるもの。」である。 そして,特許請求の範囲の記載によれば,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が,吸収体製品における,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートの形状に関して,用いられているものであること,表面シートの下面に接合された親水性層に対し,表面シートの谷部のみが接触するものであると規定されていることを併せ考慮すれば,本願補正発明1の「山部」は,吸収体製品の表面シートにおいて相対的に高くなっている部分であり,使用時に着用者の皮膚に常に接触する部分であり,「谷部」は,「山部」すなわち相対的に高くなっている部分にはさまれて存在する,同シートの相対的にくぼんだ部分であって,表面シート下面に接合された親水層と接触している部分であるととらえることができる部分であり,「ひだ状」とは,同シートにおいて,上記「山部」と「谷部」とがそれぞれ交互に線状に存在することにより,シートが細長い折目状に見える形状をいうものとして,それぞれ,容易に理解でき,また,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形方法についての記載はなく,それらの成形について,特定の成形方法によるとの限定はないと理解できるものである。 他方,本願補正発明1に係る技術分野における技術常識によって,その表面シートの形状に係る「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語について,普通に理解されるのとは異なった意義に解釈されるものであると認めることはできないし,それらが,特定の意味で使用される用語であることを定義した本件明細書の記載もみいだせないのであり,下記( )のとおり,本件明細3書の記載は,上記解釈を裏付けるものである。 したがって,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」とは,表面シートにおいて,「山部」とは,相対的に高くなっている部分であり,「谷部」とは,相対的に高くなっている山部にはさまれて存在する,相対的にくぼんだ部分であり,それらの「山部」及び「谷部」は,交互に線状に存在するものであると認めることができ,他方,それらの成形方法について,特段の限定のないものであると認めることができるものである。 ( )本件明細書には,以下の記載がある。 3ア「【従来の技術】吸収体製品において,着用者の皮膚に直接に接触する表面シートには,排出された液体を速やかに透過させてその下方の吸収体に移行させる,優れた液体透過性とともに,着用者が常にドライな感触を得られるということが望まれる。このような要求を満足させる目的で,従来,液体透過性の親水性表面シートを波形に成形して吸収体製品のトップシートとして使用した例があるが,その場合,シート全体が液体で濡れ,波形表面の谷の部分では液体が移動して乾いてくるが,山の部分は吸収体との接触がないため液体がその位置に留まり,濡れた状態が長時間に渡って継続することになり,好ましくない。一方,本発明者らは,液体不透過性の疎水性不織布を波形に成形し,谷の部分に親水性繊維との溶結構造を形成する技術を提案した(特開平8-216319号公報参照)。」(段落【0002】,【0003】)イ「【課題を解決するための手段】本発明の表面被覆シートは,吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,かつ前記山部および前記谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする。この構造により,液体の物理的な透過を可能にし,これにより親水性繊維との溶結構造を形成しなくても,親水性層と接触させるだけで,液体の透過が阻害されることなく,また親水性不織布で生じるシート全体の濡れも有効に防止することが可能になる。特に,山部は,表面被覆シートが吸収体製品に組み込まれた状態では,着用者の皮膚に常に接触しているが,この部分は疎水性であるために,尿,便,血液などの液体が排出されても,この山部では吸収されず,谷部に流れ込むために,常にドライな状態に保たれる。しかも開口が設けられて透気性があるために空気層を保有しまた空気置換が行われているので,ムレやカブレを生じる恐れはきわめて小さい。」(段落【0005】)ウ「本発明の表面被覆シートでは,山部Aおよび谷部Bを有するようにひだ状に成形された表面シート1に,谷部Bのみに接触した状態で,親水性層2が接着剤層3を介して接合されている。山部Aは,表面被覆シートが吸収体製品に組み込まれた状態では,着用者の皮膚に常に接触しているが,この部分は疎水性であるために,尿,便,血液などの液体が排出されても,この山部Aでは吸収されず,谷部Bに流れ込むために,常にドライな状態に保たれ,しかも透気性があるために空気層を保有しまた空気置換が行われているので,ムレやカブレを生じる恐れはきわめて小さい。一方,谷部Bは,液の透過の役割を持つ部分で,親水性層2と接しているため,排出液は開口を通じて背面側に排出され,谷部B間に溜まった液はこの谷部Bを通じて素速く親水性層2からその下方の吸収体(図示せず)へと移動し,そこに吸収固定される。 」(段落【0010】)エ「つぎに,表面シート1に設けられる山部Aと谷部Bの形態について説明する。本例では,図3に模式的に示すように,高さHを有する山部Aがほぼ等間隔で配置され,隣接する山部Aの間に,幅Lの谷部Bが形成されている。図3の例では,山部Aの高さHの値に対して谷部Bの幅は約1/2となっているが,この両者の比率は,表面シート1の性質,これに形成される開口11の大きさおよび形状,ならびに所望の液体吸収性能等の条件で適切な値に選ばれる。表面シート1は,柔軟な不織布で形成されているので,山部Aは,常に図1のように所定の形状を保持して起立しているとは限らないが,高さHの実際の寸法は,山部Aが起立している状態で1mm以上,好ましくは3mm以上50mm以下が好ましい。低すぎると山谷の効果が薄れ,高すぎると山部の形状を維持するのが難しい。山部の形状を維持したい場合は,図4のように,山部Aの内側にウレタン弾性繊維のような弾性体4を挿入することもよい方法である。・・・谷部Bの幅Lは,特に制限はないが,この部分で親水性層2と接するため,好ましくは2mm以上,さらに好ましくは5mm〜30mmの範囲が望ましい。ただし,あまり広すぎると,それに反比例して山部Aが形成される領域が少なくなる。また各山部Aは,すべて同一の形状,高さのものであってもよいし,形状,高さの異なる複数種の山部を任意の配置で設けることが可能であり,隣接する山部A間に形成される谷部Bの幅も,一定であってもよいし,異なる幅の谷部Bを任意に組み合わせてもよい。」(段落【0011】)オ「図5および図6は,相互に異なる形状,サイズの山部Aを相互に異なる間隔の谷部Bを介して連続させた例を示している。すなわち図5の例では,表面被覆シート1の両縁部に近い位置に,それぞれ2つの高さHの低い山部Aを狭い間隔の谷部Bを挟んで設け,表面シート1の中央部近傍では,高さHの高い山部Aを,比較的広い間隔の谷部Bを挟んで設けた構造を有する。また図6に示した例では,相互に高さの異なる2種の山部Aを,狭い間隔の谷部Bを介して交互に配置した構造を有する。」(段落【0012】)カ「本発明の表面被覆シートにおいて,表面シート1に上記のような山部Aおよび谷部Bを形成するためには,すでに一般に知られている手段から適当なものを選択して使用することができるが,好ましい例として,図7示したような構造の成形ロールを使用することができる。この成形ロールは,一対の溝付きロールからなり,その各々は,例えば深さ10mm,底部の幅5mmの横断面V字型の多数のリング状溝を5mm間隔で軸方向に並設した第1の溝付きロール21と,これと同一の構造の第2の溝付きロール22とを,各々の突起と溝とが微少間隔でかみ合うように配置した構造のものである。この溝付きロール21,22間のニップ間に,疎水性の孔あきシート材料通過させることにより,図1および図2に示したような山部Aおよび谷部Bを有する表面シート1を得ることができる。」(段落【0013】)キ「【実施例】(実施例1)<開口不織布の準備>PE/PP複合繊維(2d×35mm)を用い,25g/m のカードウェブ不織布を用意し2た。このウェブを20kg/cm の水流を全面に噴射して予備交絡処理2を行った後,突起付きの微細開口サクションシリンダー上で,60kg/cm の高圧水流を用いて,交絡と同時に開口処理を行い,図2に示すよ2うな開口パターンを有する開口不織布を得た。・・・<開口不織布の波形成形>図7に示した構造の溝付きロール対を準備する。この溝付きロール対は,深さ10mm,底部の幅5mmの横断面V字型の多数のリング状溝を5mm間隔で軸方向に並設した第1の溝付きロールと,これと同一の構造の第2の溝付きロールとを,各々の突起と溝とが微少間隔でかみ合うように配置した構造のものである。この2本の溝付きロールを相互に反対の方向に回転させ,そのニップ間に,前記のカードウェブ不織布を通過させることにより,カードウェブ不織布は,図1に示すように,溝付きロールの表面形状に対応して,山部Aと谷部Bからなる波形に成形される。」(段落【0019】,【0020】)ク【図1】として,表面被覆シートを示す部分斜視図が示され,山部A及び谷部Bを有し,山部A及び谷部Bがそれぞれ線状に交互に存在する表面シートが示されている。 これらによっても,本願補正発明1における,表面シートの「山部」とは,「高さH」(上記エ,オ)を有するなどと説明され,「表面被覆シートが吸収体製品に組み込まれた状態では,着用者の皮膚に常に接触している」(同イ)ように,表面シートにおいて,相対的に高くなっている部分であり,その高さについて,「山部Aが起立している状態で1mm以上,好ましくは3mm以上50mm以下が好ましい。」(同エ)などと説明されるものである。 また,「谷部」は,排出された液体が,「山部Aでは吸収されず,谷部Bに流れ込(み)」,表面シートの下面に接合された親水性層が,「表面シートの前記谷部のみに接触する」もので,「谷部B間に溜まった液はこの谷部Bを通じて素速く親水性層2からその下方の吸収体」に吸収される(同ウ)ように,相対的に低くなってくぼんでいる部分であり,その幅について,「谷部Bの幅Lは,特に制限はないが,この部分で親水性層2と接するため,好ましくは2mm以上,さらに好ましくは5mm〜30mmの範囲が望ましい。」(同エ)などと説明されるものである。さらに,「ひだ状」とは,山部と,隣接する山部間に形成された谷部とによりなるもので,図面をみても,山部及び谷部がそれぞれ線状に交互に存在するものである。 他方,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との形状の成形方法について,実施例において,一対の溝付きロールからなる成形ロールによる成形をした旨の記載がある(同キ)が,「本発明の表面被覆シートにおいて,表面シート1に上記のような山部Aおよび谷部Bを形成するためには,すでに一般に知られている手段から適当なものを選択して使用することができるが,好ましい例として,図7示したような構造の成形ロールを使用することができる。 この成形ロールは,一対の溝付きロールからなり,・・・」(同カ)との記載に照らして自明なとおり,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形を溝付きロールからなる成形ロールによって行ったことは,一実施例として記載されているのであり,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形方法は,それに限定されるものではなく,すでに知られている手段を選択して使用することができるものである。 したがって,本件明細書の発明な詳細な説明等の記載は,表面シートにおける「山部」,「谷部」及び「ひだ状」についての上記( )の理解を裏付け2るといえるものである。 ( )他方,引用例には,以下の記載がある。 4ア「【特許請求の範囲】【請求項1】液透過性表面層と,液不透過性裏面層と,該表面層及び裏面層の間に介在する吸液コアと,該表面層及び該吸液コアの間に介在する液濾過層とを有する吸収性物品において,上記表面層は熱可塑性合成繊維を融着させて形成された不織布からなるシートであり,該シートの表面の一部又は全部は,多列の畝部と溝部とが交互に組み合わされており,且つ該畝部は凸状に湾曲し該溝部は凹状に湾曲しており,該溝部に間隔をおいて多数の開孔部を設けると共に該開孔部の周縁部に上記シートの表面から裏面に向けて起立する立体的リブを設け,30g/cm 加圧時における該開孔部の平均孔径を1.0mm以2上とすると共に上記シート全体の開孔率を5%以上とし,上記液濾過層は,30g/cm 加圧時における厚さが1.0mm以上であり,且つ繊2維間平均距離が150μm以上であることを特徴とする吸収性物品。」イ「【発明の属する技術分野】本発明は,吸収性物品に関するものであり,特に,軟便,経血のような高粘性体液の吸収に好適に用いられる吸収性物品に関する。」(段落【0001】)ウ「【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】・・・本発明の目的は,高粘性体液を吸収するための嵩高な構造を維持しつつ,製品全体の厚みが低減され,且つ携帯性や廃棄性にも優れた吸収性物品を提供することにある。」(段落【0002】〜【0005】)エ「【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討した結果,吸収性物品の構造中に高粘性体液の濾過機構及び低粘性体液の透過・拡散機構を付与すると共に,吸収性物品の肌への接触面積を低下させることで,上記目的が達成されることを知見した。本発明は上記知見に基づきなされたものであり,液透過性表面層と,液不透過性裏面層と,該表面層及び裏面層の間に介在する吸液コアと,該表面層及び該吸液コアの間に介在する液濾過層とを有する吸収性物品において,上記表面層は熱可塑性合成繊維を融着させて形成された不織布からなるシートであり,該シートの表面の一部又は全部は,多列の畝部と溝部とが交互に組み合わされており,且つ該畝部は凸状に湾曲し該溝部は凹状に湾曲しており,該溝部に間隔をおいて多数の開孔部を設けると共に該開孔部の周縁部に上記シートの表面から裏面に向けて起立する立体的リブを設け,30g/cm 加圧時における該開孔部の平均孔径を1.0mm以上とすると共に上22記シート全体の開孔率を5%以上とし,上記液濾過層は,30g/cm加圧時における厚さが1.0mm以上であり,且つ繊維間平均距離が150μm以上であることを特徴とする吸収性物品を提供することにより,上記目的を達成したものである。」(段落【0006】,【0007】)オ「【作用】本発明の吸収性物品においては,体液,特に軟便のような高粘性体液が排泄されると,該高粘性体液は主に上記表面層における開孔部を通して,その下層に位置する液濾過層に素早く透過する。該液濾過層は,その繊維間距離が比較的大きいので,粘性の高い体液がこれに選択的に捕捉されると共に,粘性の低い液体はその下層に位置する吸液コアに素早く透過する。該吸液コアは繊維が密に存在しており液体の拡散性に優れるので,上層から透過してきた上記粘性の低い体液を該吸液コアの全域に拡散させ,該粘性の低い液体を吸液コア中に含まれている吸水ポリマーによって効率的に保持することができる。しかも,本発明の吸収性物品においては,吸収表面が平面部を有しないように形成されるので,接触面積が小さく,表面のサラット感に優れたものとなる。」(段落【0009】)カ「図1及び図2に示す本実施形態の使い捨ておむつ10は,液透過性表面層12と,液不透過性裏面層14と,該表面層12及び裏面層14の間に介在する吸液コア16と,該表面層12及び該吸液コア16の間に介在し且つ該吸液コア16と同寸法の液濾過層18とを有する。更に,図1に示すように,上記使い捨ておむつ10は,上記吸液コア16の長手方向対向縁側から外方へ延出し且つ上記表面層12及び上記裏面層14によって形成される背側フラップ部20,20・・・上記吸液コア16の長手方向対向縁側から外方へ延出する上記表面層12及び上記裏面層14の間には・・・上記吸液コア16の幅方向対向縁側から外方へ延出する上記表面層12及び上記裏面層14の間には・・・」(段落【0011】)キ「上記液透過性表面層12を構成する上記熱可塑性合成繊維としては,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル及びナイロンのようなポリアミド等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。」(段落【0014】)ク「また,図3及び図4から明らかなように,上記畝部30は凸状に湾曲し,且つ上記溝部32は凹状に湾曲している。そして,上記畝部30及び上記溝部32は交互に組み合わされて,上記液透過性表面層12の肌当接面(即ち,吸収表面)が平面部を有しないように配列されているので,本実施形態の使い捨ておむつ10においては,上記液透過性表面層12が肌に接する面積が小さくなる結果,肌へのベタツキが少なく,ドライ感(サラット感)が向上する。」(段落【0016】)ケ「該液濾過層18は,上記液透過性表面層12から透過してきた体液,特に幼児の軟便のような高粘性体液における粘性の高い体液を捕捉すると共に,粘性の低い体液をその下層に位置する吸液コア16に素早く透過させる濾過目的のために用いられるものである。」(段落【0025】)コ「上記液濾過層18は親水性であることが好ましい。この目的のために,上記液濾過層18は,親水性の繊維から構成されるか又は疎水性の繊維から構成される場合にはその表面を界面活性剤処理して親水性にすることが好ましい。なお,上記液濾過層18を構成する繊維の具体例は,上記液透過性表面層を構成する繊維の具体例として挙げたものと同種のものである。これらの条件を満たせば,該液濾過層18を構成する繊維の材質に特に制限はなく,上述の通り親水性の表面を持つ繊維が好ましく用いられ,一層好ましくは,耐剛性に優れる点から,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂及びナイロンのようなポリアミド系樹脂等からなる熱可塑性合成繊維を親水化処理した繊維が用いられる。」(段落【0027】)サ【図2】及び【図3】には,液透過性表面層12が,畝部30が凸状に湾曲し,溝部32は凹状に湾曲しており,全体として波形であること,及び液透過性表面層12の下面においては,該液透過性表面層12の溝部に設けられた開口部立体リブに液濾過層18が接触されているが,畝部には,液濾過層18は,接触していない態様が示されている。 上記アないしサによれば,引用例には,「液透過性表面層と液不透過性裏面層と,該表面層及び裏面層の間に介在する吸液コアと,該表面層及び該吸液コアの間に介在する液濾過層とを有する吸収性物品であって,該液透過性表面層は,熱可塑性合成繊維を融着させて形成された不織布からなるシートであって,その表面の一部又は全部に,多列の凸状に湾曲した畝部30と凹状に湾曲している溝部32が交互に組み合わされた波形形状となっており,液透過性表面層の溝部には,間隔をおいて多数の開口部が設けられているとともに,液濾過層18は,溝部に設けた開口部の立体リブのみ接触している吸収性物品」との引用発明が記載されているものと認められる。 そして,上記イ,エ及びオによれば,引用発明の「液透過性表面層」は,利用者の皮膚に接触した状態で使用されるものであり,本願補正発明1の「表面シート」に相当すると認められる。 そうすると,引用例の「畝部」は,吸収性物品の表面シートにおいて,凸状部であって,相対的に高くなっている部分であり,「溝部」は,「畝部」間に存在する,同シートにおけるくぼんだ部分であって,液濾過層に接触している部分であり,「溝部」と「畝部」は,多列に交互に組み合わされたものであり,交互に,列状,すなわち線状に存在しているものであることが認められる。 ( )以上によれば,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」は,それぞれ,引 5用発明の「畝部」及び「溝部」に相当するものであるといえるのであり,また,引用発明は,「山部」及び「谷部」を有し,本願補正発明1と同様,「ひだ状」に成形されていると認められるものであるから,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」について,それぞれ引用発明の「畝部」及び「溝部」と同様の意義のものであると解釈して,本願補正発明1の認定を行った審決に原告主張の誤りはない。 ( )原告は,本願補正発明1における,「多数の山部と,隣接する山部間に6形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た疎水性表面シートについて,そこで使用されている「山部」,「谷部」及び「ひだ状」といった用語の内容が技術的に特定された専門用語であるとは必ずしもいえないため,特許請求の範囲の記載のみによって,いかなる形態の原材料から,いかなる手段により,いかなる形状,構造を有するものとして「成形され」て得られた構造を有するものであるのか,一義的に明確に理解することが困難であり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部感に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造は,高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなる表面シートを,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものである旨主張する。 しかし,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載の「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」たとの記載は,前記( )のとおり,一義的に明確に理解することができるもので2あるから,それを一義的に明確に理解することが困難であるとする原告の主張は,その前提において誤りである。 また,前記( )及び( )のとおり,本願補正発明1における,「表面被覆23シート」の「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造において,その成形方法については,特段の限定がないものであり,特定の成形ロールによる成形に限られるものであることをいう原告の主張も,失当というほかない。原告の主張は,特許請求の範囲には,成形方法についての記載がなく,本件明細書の発明の詳細な説明において,一実施例として示されているにすぎない成形方法について,本件明細書自身に,それが,一実施例であって,成形方法が同方法に限定されるものでないことが明記されているにもかかわらず,成形方法が一実施例として記載された方法に限定される旨を発明の要旨として取り込むものにほかならない。 また,原告は,被告が辞書を引用するなどして,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載を解釈したことに対し,本願補正発明1とは技術的意味が異なる引用文献に記載された吸収体製品の表面シートにおける,「凸部」,「凹部」及び「折目状」と解釈することは,単に,対応するこれらの語が通常の日本語として類語に近いものであるという程度の意味しかなく,高度に専門的で口語とは異なる点において,必ずしも通常の日本語とはいえない特許請求の範囲における技術的用語の解釈としては,はなはだ妥当性を欠くものであり,特許請求の範囲における技術的用語の意味の解釈として,一義的に明確ではない旨主張する。 しかし,特許請求の範囲で使用する用語は,原則として,その有する普通の意味で使用しなければならず,特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用することを要する(特許法施行規則24条の4,様式第29の2備考9参照)ところ,本願補正発明1に係る技術分野において,何らかの技術常識によって,その表面シートの「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が,普通に理解されるのとは異なった意義に理解されるものであると認めることはできず,特定の意味で使用される用語であることを定義した記載も見いだせないのであって,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が有する普通の意味において,その内容が,技術的に一義的に明確であるといえることは,前記( )のとおりであり,原告の主張は採用の限り2ではない。 なお,原告の準備書面(第1回,第2回)中には,本願補正発明1の発明者の意見として,引用例の畝・溝構造は,開孔処理の際に必然的に生じる開孔部と未開孔部の厚み差に基づく凹凸であるのに対し,本願補正発明1は,そのように開孔処理の際に生じた凹凸を有するシートをさらに山谷状に波形成形したものに相当するものであり,また,引用例のシートの畝の高さは最大でも2.5ミリメートル程度であるのに対し,本願補正発明1の山谷の程度は,3〜50ミリメートルと10倍以上の大きな襞である旨の記載がある。 しかし,本件明細書には,前記( )エのとおり,「表面シート1は,柔軟な3不織布で形成されているので,山部Aは,常に図1のように所定の形状を保持して起立しているとは限らないが,高さHの実際の寸法は,山部Aが起立している状態で1mm以上,好ましくは3mm以上50mm以下が好ましい。」(段落【0011】)との記載があり,本願補正発明1は,特許請求の範囲において,山部の高さを何ら限定していないものであるから,本件明細書の記載に照らしても,山部の高さが1ミリメートル以上のものが含まれるのであって,そうとすれば,発明者の意見として記載されている上記の引用例におけるシートの畝の高さと重なり合うものであり,上記発明者の意見の記載は,本願補正発明1と引用発明との相違を主張する根拠となるものではない。 ( )原告は,引用発明の「液透過性表面層」は,開口の加工に伴って生じた凹7凸を有するシートであるのに対して,本願補正発明1の「表面被覆シート」は,開口の下降に伴って生じた凹凸を有する「表面シート」をさらに成形ローラで「山部」及び「谷部」が生じるように成形したものであり,本願補正発明1の「親水性層」は,そのように形成された谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合されたものであるから,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」が,本願補正発明1の「表面被覆シート」を形成するものということができないと主張する。 原告の主張は,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」が,成形ロールにより成形されて形成されたものに限定して解釈されることを前提とする主張であるところ,そのように限定して解釈することができないこと,引用発明の「畝部」及び「溝部」が本願補正発明1の「山部」及び「谷部」にそれぞれ相当すると認められることは,いずれも前記説示のとおりであるから,原告の主張は,前提において誤りであるといわざるを得ない。 そして,引用例には,「液濾過層」が,親水性であることが好ましいことが記載されている(前記( )コ)から,引用発明の「液濾過層」を親水性と4することが開示されているに等しいものというべきである。 そうすると,引用発明の「液透過性表面層」は,液透過性表面層の下面に接合された親水性層である液濾過層からなるシートと,液透過性表面層の溝部に形成された開口部のリブのみと接し,また,引用発明の「溝部」は,本願補正発明1の「谷部」に相当するのであるから,引用発明の「液濾過層」は,本願補正発明1の「親水性層」に相当し,引用発明の「液透過性表面層」は,「液濾過層」とともに,本願補正発明1の「表面被覆シート」を形成するものであるといえるから,同旨の解釈を前提として本願補正発明1の認定を行った審決に誤りはない。 ( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。 82取消事由2(一致点の認定の誤り)について原告は,審決が,本願補正発明1と引用発明の一致点として,「吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート」を具備する点を認定したのに対し,引用発明の「液透過性表面層」の開口形成に伴い生じた「畝部」及び「溝部」は,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」に相当すると解釈する余地はないし,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」の組合せが本願補正発明1の「表面被覆シート」に相当すると解釈する余地はなく,審決の一致点の認定には誤りがある旨主張する。 しかし,引用発明の「畝部」及び「溝部」が,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」に相当し,また,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」の組合せが,本願補正発明1の「表面被覆シート」に相当することは,前記1のとおりであるから,審決の一致点の認定に原告主張の誤りはない。 したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。 3以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |