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関連審決 無効2003-35528
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  慣用技術 /  先行技術 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正要件 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10210号 審決取消請求事件
原告株 式会社堀場製作所
同訴訟代理人弁護士伊原友己
同加古尊温
同訴訟代理人弁理士西村竜平
同角田敦志
被告株 式会社小野測器
同訴訟代理人弁護士吉原省三
同小松勉
同三輪拓也
同訴訟代理人弁理士中澤直樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/10/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告(1)特許庁が無効2003-35528号事件について平成16年7月7日にした審決中「特許第2797095号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「一軸シャシダイナモメータ」とする発明につき,平成4年12月26日に出願し,平成10年7月3日に設定登録された特許(特許第2797095号。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,本件特許の請求項1ないし4項全部について無効とするとの審判を請求し,特許庁は,これを無効2003-35528号事件として審理した。
審理の過程において,原告は,平成16年3月26日,請求項2及び4を削除し,請求項3を請求項2とすることを含む明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は,平成16年7月7日,本件訂正を認めた上で,「特許第2797095号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし(同年10月26日付け更正決定により「訂正を認める。」との結論部分が追加された。),同月16日,その謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲本件訂正による訂正後の本件特許の請求項1及び2(以下,請求項1記載の発明を「本件発明1」といい,同2記載の発明を「本件発明2」という。)は,下記のとおりである。
記【請求項1】床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて,前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され,かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で,その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する,床板上側の位置と,駆動車輪から離れた,床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに,前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ,更に,前記一対の車輪支承部材が,床板下側に設けられ前記頂上部方向にスライド可能な凹形状のスライド部材の上方側にそれぞれ設けられ,前記駆動手段が前記スライド部材をスライドさせるエアシリンダで構成され,そのシリンダロッドが前記スライド部材に連結され,前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて,その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して,その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。
【請求項2】床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて,前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され,かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で,その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と,駆動車輪から離れた,床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに,前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ,更に,前記一対の車輪支承部材がドラム頂上部の方向に付勢ばねで付勢されており,前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向にスライドさせて,その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して,その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を車輪解放位置にスライドさせることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。
3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明1及び2は,いずれも特開平3-293536号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1の発明」という。)と,特開昭54-53401号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2の発明」という。)及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件発明1及び2と刊行物1の発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)本件発明1と刊行物1の発明との対比ア一致点両者は,「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて,前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され,かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で,その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する,床板上側の位置と,駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置との間を移動可能にあるとともに,前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ,駆動手段が前記一対の車輪支承部材を床板上側の位置に移動させて,その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して,その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。」として一致する。
イ相違点1本件発明1では,「一対の車輪支承部材が,ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する床板上側の位置と,駆動車輪から離れた,床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに,前記一対の車輪支承部材が床板下側に設けられ前記頂上部方向にスライド可能な凹形状のスライド部材の上方側にそれぞれ設けられ,エアシリンダのシリンダロッドが前記スライド部材に連結され,前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせることを特徴とする」のに対し,刊行物1の発明では,「一対の車輪支承部材が,ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する,床板上側の位置と,駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置(ピットカバーの一部に設けたセットローラ控え部)との間を移動可能にあるとともに,前記一対の車輪支承部材が駆動手段のロッドと連結され,前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向に床板上側まで移動させて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする」点において相違する。
(2)本件発明2と刊行物1の発明との対比ア一致点両者は,「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて,前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され,かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で,その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と,駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置との間を移動可能にあるとともに,前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ,前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向に移動させて,その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して,その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。」として一致する。
イ相違点2本件発明2では,「一対の車輪支承部材が,ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と,駆動車輪から離れた,床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに,前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせることを特徴とする」のに対し,刊行物1の発明では,「一対の車輪支承部材が,ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する,床板上側の位置と,駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置(ピットカバーの一部に設けたセットローラ控え部)との間を移動可能にあるとともに,前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向に床板上側まで移動させて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする」点において相違する。
ウ相違点3本件発明2では,一対の車輪支承部材につき,「更に,前記一対の車輪支承部材がドラム頂上部の方向に付勢ばねで付勢されており,」と規定されているのに対し,刊行物1の発明では,その規定が記載されていない点において相違する。
第3原告主張の取消事由の要点本件の審決は,その手続において重大な手続違背があり(取消事由1),本件発明1及び2について,刊行物2の発明の認定を誤るなどして容易推考性の判断を誤った(取消事由2,3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(重大な手続違背)原告は,審決の謄本の送達と同時に,被告が提出した弁駁書(以下「本件弁駁書」という。)及びそれに添付された参考資料3(以下「本件報告書」という。)の送達を受けた。したがって,原告は,審判手続において,本件弁駁書及び本件報告書について意見を述べる機会を与えられなかった。そのため,審決には重大な手続違背があるから,違法として取り消されるべきである。
2取消事由2(本件発明1における容易推考性の判断の誤り)(1)刊行物2の発明の認定の誤り審決は「刊行物2の前記記載と第1乃至3図の図示によれば,エアシリンダのシリンダロッドが一対の車輪支承部材のそれぞれに連結され,それらの車輪支承部材が車輪解放位置,すなわち,車輪支承部材がピット1の上面よりも下側で車輪支承部材の一部(ローラ22,22’)がピット1の上面よりもわずかに下側となる位置,からドラムに沿ってドラムの頂上部方向にピット1の上面よりも上側まで斜め方向に平行移動させて車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記一対の車輪支承部材およびその一部(ローラ)を前記車輪解放位置に平行移動させる構成が記載・図示されている」(審決書10頁〜11頁)と認定している。
しかし,刊行物2の発明には,「ピット1の上面」という概念は存在しない。
また,刊行物2においては,車輪支承部材の車輪解放位置がピット1との関係でどの位置に設定されているかが特定されていない。
したがって,刊行物2には,車輪支承部材を車輪解放位置(車輪支承部材がピット1の上面よりも下側で車輪支承部材の一部(ローラ22,22’)がピット1の上面よりもわずかに下側となる位置)から平行移動させる構成が記載又は図示されているとはいえない。
(2)刊行物2の発明を刊行物1の発明に適用する困難性刊行物2の発明は自動車車輪横滑り測定装置に関するものであり,刊行物1の発明は一軸シャシダイナモメータに関するものであるところ,いずれの装置においてもドラムを回転させ始める前にドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットする(以下「センタリング」という。)ことが要請される点において共通することは,審決の認定するとおりであるが,センタリング技術として要求される具体的技術内容,特にセンタリングの精度は,両装置で全く異なる。
一軸シャシダイナモメータは,自動車が高速走行するのと同じ状態を作り出し,走行中の排気ガスの質量の計測等を行う装置であり,高速走行時であっても適切な走行負荷を与えることが要求されているため,特に高いセンタリング精度(米国環境保護庁の仕様書では,±0.5インチ以内)が要求されている。これに対し,自動車車輪横滑り測定装置は,車輪が横滑りする寸法の計測をするものであり,走行負荷を与えるものではないため,センタリング精度は特に問題とならない。
このように,刊行物1の発明と刊行物2の発明とでは,その属する技術分野が異なり,測定・試験内容が相違し,これに起因して技術的内容も異なるから,当業者が後者(刊行物2の発明)を前者(刊行物1の発明)に適用しようと試みるはずはなく,前者の技術の改良のために後者の分野の技術をサーチすることもない。したがって,両者がセンタリングを行う点において一致するとしても,刊行物2の発明を刊行物1の発明に適用することは容易ではない。
(3)本件発明1の構成に至る困難性審決は,刊行物2の構成を刊行物1の構成として採用するに際し,「床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置とすること」(以下「A構成」という。)や「車輪支承部材を床板下側から,床板と床板におけるドラムを表出させるための開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向に平行移動させること」(以下「B構成」という。)は,当業者が自然となすことであると判断している。このうち,A構成はドラム表出用の開口部の開口面積を実質的に縮小化し得るという作用効果に関するものであり,B構成はドラム表出用の必要最小限の開口部を設けるだけで,センタリング機構を併設し得るという作用効果に関するものである。両者は異なる技術的意義を有するものであり,これらが有機的に結合して,極めて簡単な構成でドラム周辺の床面を可及的に平らにすることができ,車外での作業の容易性及び安全性を向上させることができる。
ところが,審決は,A構成及びB構成を峻別せず,各々の技術的意義について全く検討しないで,両構成の容易推考性を一括して判断しており,実質的な検討・判断をしていない。
刊行物2には,床面の開口部の面積を縮小するためのA構成に係る技術思想や必要最小限の開口でセンタリング機構の併設を可能にするB構成に係る技術思想は,いずれも開示されていないし,示唆されてもいない。刊行物1についても同様に,A構成,B構成のいずれの技術思想も存在しない。したがって,A構成,B構成のいずれも,刊行物1又は2にその技術思想が現れていないから,刊行物2の構成を刊行物1の構成として置き換えるに際し,「当業者が自然となすことである」とはいえない。
被告提出の本件弁駁書の参考図1及び2においても,車輪解放位置として車輪支承部材が全く見えない位置から全部見える位置まで種々の位置があり得ることが記載されており,これは,当業者が「自然と」A構成を採用するものではないことを示している。また,B構成についても刊行物1のようにドラム表出用開口とは別に床面に車輪支承部材を突没させるための開口部を付加することがあり得るのであり,B構成も当業者が「自然と」なし得るものではない。本件発明1は,B構成に加えて車輪支承部材の車輪解放位置をA構成のようにしたことにより,一軸シャシダイナモメータに必須のセンタリング機構を最小限の面積のドラム表出用開口部を開けるだけで併設することを可能にし,ドラム周辺の床面を可及的に平らにすることができ,車外での作業の容易性及び安全性を向上させ,高精度な温度調節を可能にしたものであり,当業者が自然に想到し得るものではない。
(4)スライド部材の形状選択の困難性審決は,本件特許出願前の周知慣用技術としてエアシリンダとスライド部材を組み合わせる技術が開示されているとして特開昭63-231048号公報(甲第13号証)を挙げる。しかし,この技術は,車輪支承部材との組合せを示すものではなく,スライド部材を凹形状とするものではない。スライド部材を設け,かつ,それを凹形状とすることによって,無理のない構造で車輪支承部材を平行移動させ,一軸シャシダイナモメータに要求されるセンタリング精度を満たすことができるのである。この構成によれば,車輪が左右に若干ずれて配置され,車輪支承部材にねじれる力が作用しても,車輪支承部材は平行を維持するから,高いセンタリング精度が得られる。したがって,「スライド部材を凹形とすることは,当業者が適宜設計変更できることである」とはいえない。
3取消事由3(本件発明2における容易推考性の判断の誤り)(1)相違点2について「凹形状のスライド部材」との限定を欠く点を除けば,審決が本件発明2と刊行物1の発明との対比により認定した相違点2は,本件発明1と刊行物1の発明との対比により認定した相違点1と同じであるから,本件発明2における取消事由としても,前記2(1)から(3)までと同一の事由を主張する。
(2)相違点3について特開昭57-103947号公報(甲第8号証。以下「刊行物3」という。),特開平2-284773号公報(甲第15号証)等には,エアシリンダにバネを併用することが開示されているが,これらの技術は,車輪支承部材がドラムの頂上部方向に付勢ばねによって付勢されているものではなく,各車輪支承部材が駆動車輪に当接したときのショックを付勢ばねによって吸収緩和し,駆動車輪をスムーズに移動させて,高精度にセンタリングを行うことができるものではない。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(重大な手続違背)について原告が意見を述べる機会を与えられなかったと主張するのは,無効審判手続において被告が提出した本件弁駁書及び本件報告書についてである。しかし,これらは無効審判手続における証拠ではなく,本件発明1及び2の進歩性の判断材料となった刊行物1ないし3については,十分原告に反論の機会が与えられていた。したがって,本件審判手続に手続違背の違法はない。
2取消事由2(本件発明1における容易推考性の判断の誤り)について(1)刊行物2の発明の認定の誤りについて刊行物2の第1図には,ピット1の位置が「1」と表示され,その上面は,タイヤの接地面とほぼ水平な線として明瞭に描かれている。また,第2図及び第3図にも,同様の線が明瞭に記載されている。したがって,審決が「ピット1の上面」という構成を前提にして,車輪支承部材の車輪解放位置を「ピット1の上面」との関係で特定し判断したことは不当ではない。
(2)刊行物2の発明を刊行物1の発明に適用する困難性についてア自動車車輪横滑り測定装置も,自動車の性能を適正に試験する測定装置であるから,センタリングが不正確でもよいとはいえないのであり,ローラ(ドラム)の頂上にタイヤの中心を合わせる点では,一軸シャシダイナモメータと全く同じ技術である。現に,刊行物2において,「測定ドラム12,12’の軸芯直上の周面上に誘導定置させる」と記載されている。逆に,本件特許に係る明細書(甲第3号証)には,「ドラムの頂上部のほぼ定位置に常に駆動車輪を置く」(3頁【0004】)や「駆動車輪19を常に頂上部2のほぼ定位置に配置する」(9頁【0017】)などの記載があり,高いセンタリング精度を要求していない。
イ本件発明1及び刊行物1の発明と刊行物2の発明とでは,その属する技術分野は異ならない。特許の先行技術の検索を行う際に用いる国際特許分類において,本件発明1と刊行物2の発明とは,いずれも「G01M17/00車両の試験」という同一の技術分野に属している。また,特許庁の審査等に用いる検索方法であるFタームにおいても,本件発明1と刊行物2の発明とではテーマコードが同一であり,両者の技術分野は共通である。
(3)本件発明1の構成に至る困難性について審決における判断は,A構成とB構成を分けた上でいずれの構成も当業者が自然となす構成であるというものであって,両構成を峻別しないでされたものではない。また,A構成,B構成のいずれも,車輪支承部材を設置する際の一態様にすぎないから,当業者が自然となすとの認定も相当である。
原告は,A構成及びB構成に特徴的作用効果があると主張するが,開口部の形状,大きさ等を規制せずに,A構成のみによって開口面積を狭くすることができるものではないし,B構成のみによって必要最小限の開口を実現することができるものでもないのであって,いずれの作用効果も,本件訂正後の特許請求の範囲記載の構成のみで達成し得るものではない。
刊行物1の発明には,セットローラ控部という開口部が付加されている。
しかし,本件訂正後の特許請求の範囲記載の構成のみで開口部の面積を縮小するものでないことは前述のとおりであって,刊行物1の発明に余計な控部があったとしても,それが審決の誤りを指摘する根拠とはならない。
なお,床面の下から車輪支承部材が床面の上に斜めに飛び出す構成があるとき,車輪解放位置としては,天井からみて車輪支承部材が「全部見える位置」,「一部しか見えない位置」又は「全部床下にあって,全く見えない位置」のいずれかを選ばざるを得ないことは,常識である。
車輪支承部材の一部が真上から見える位置を車輪解放位置とする構成を採ったとしても,この構成を採らなかった場合と比較して,室内の温度管理上ほとんど差異がなく,作用効果の上で格別の意味を持たない。したがって,作用効果の上で格別意味を持たない構成であれば,その構成を選択することに何ら困難性はない。
(4)スライド部材の形状選択の困難性について本件特許に係る明細書(甲第3号証)においても,スライド部材のどの部分を「凹形」とするかが明確でない。原告の主張する作用効果が認められるのは,車輪支承部材のうち車輪に接する部分を「両持ち」状に支持するという意味であると解されるが,車輪支承部材をこのような形状とすることは,あらゆる分野において利用されている慣用技術である。
3取消事由3(本件発明2における容易推考性の判断の誤り)について(1)相違点2について前記2(1)から(3)までと同旨(2)相違点3について刊行物3及び甲第15号証におけるバネの用途が本件発明2におけるものと異なるとしても,付勢力を利用するためにバネを用いることは,その用途に関わりなく常識である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(重大な手続違背)について原告は,審決の謄本の送達と同時に,本件弁駁書及び本件報告書の送達を受けたため,審判手続において,本件弁駁書及び本件報告書について意見を述べる機会を与えられなかったことが重大な手続違背であると主張する。
しかし,甲第10号証によれば,本件弁駁書は,本件訂正の請求が訂正要件を満たしていないとし,仮に本件訂正が認められるとしても,訂正後の本件発明1及び2は,依然として訂正前のものと同様に進歩性を欠如するものである旨主張を補足したものであり,また,本件報告書は,現に使用されているシャシダイナモメータの設置状況について報告するものであって,いずれも本件発明1及び2の容易推考性の主張として,それまでの刊行物1及び2の各発明等に基づくものに新たに加えたものがあるわけではないし,また,審決は,その結論を導くために本件報告書を用いていないこともその説示に照らし明らかである。なお,審判手続において,被告は,当初から刊行物1及び2の各発明等に基づく容易推考性について主張していたものであり(乙第6号証の1),この点については,原告に十分反論の機会が与えられていたものである。したがって,本件弁駁書及び本件報告書について原告に意見を述べる機会を与えられなかったことをもって,審決の結論に影響を及ぼす手続違背の違法があるとはいえない。
2取消事由2(本件発明1における容易推考性の判断の誤り)について(1)刊行物2の発明の認定の誤りについて原告は,審決が「刊行物2の前記記載と第1乃至3図の図示によれば,エアシリンダのシリンダロッドが一対の車輪支承部材のそれぞれに連結され,それらの車輪支承部材が車輪解放位置,すなわち,車輪支承部材がピット1の上面よりも下側で車輪支承部材の一部(ローラ22,22’)がピット1の上面よりもわずかに下側となる位置,からドラムに沿ってドラムの頂上部方向にピット1の上面よりも上側まで斜め方向に平行移動させて車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し,自動車を固定したのち,前記一対の車輪支承部材およびその一部(ローラ)を前記車輪解放位置に平行移動させる構成が記載・図示されている」(審決書10頁〜11頁)と認定したことについて,刊行物2の発明には,「ピット1の上面」という概念は存在せず,車輪支承部材の車輪解放位置がピット1との関係でどの位置に設定されているかが特定されていないと主張する。
しかし,甲第7号証によれば,刊行物2の第1図には,ピット1の位置が「1」と表示され,その上面は,タイヤの接地面とほぼ水平な線として明瞭に描かれ,第2図及び第3図にも,同様の線が明瞭に記載されており,刊行物2の発明の実施例では,「床面に溝設したピット1内に設置した装置本体2の基枠3上にレール4を敷設し」との記載(同号証2頁左上欄12行〜14行)があり,この「床面」が「ピット1の上面」に該当することが認められる。したがって,審決が,刊行物2の発明において,車輪支承部材の車輪解放位置を「ピット1の上面」との関係で特定し判断したことは不当ではない。
そして,刊行物2の,「エアシリンダ23,23’に圧縮空気を供給すると,前後の誘導ローラ23,23’(判決注・「22,22’」の誤記と認める。)が夫々同調しながら車輪W,W’を前後から挟持して測定ドラム12,12’の軸芯直上の周面上に誘導定置させる。」(甲第7号証2頁左下欄16行〜20行)との記載及び第2図からは,刊行物2の発明の車輪支承部材(誘導ローラ22,22’)が車輪を前後から挟持して支持するときは,ピット1の上面より上に位置することが明らかであるとともに,「更に前記ドラム12,12’上の被測定車体aのバンパ24を車体固定装置26,26’によって左右から挟持して固定した後誘導ローラ23,23’(判決注・「22,22’」の誤記と認める。)を元の位置に戻し,・・・」(同頁右下欄1行〜4行)との記載及び第1図ないし第3図からは,このローラ22,22’は,車輪に接触していない状態,すなわち車輪解放位置では,ピット1の上面のわずかに下側の位置にあることも明らかである。
以上のとおりであるから,原告の主張は採用できない。
(2)刊行物2の発明を刊行物1の発明に適用する困難性について原告は,刊行物2の発明は自動車車輪横滑り測定装置に関するものであり,刊行物1の発明は一軸シャシダイナモメータに関するものであるところ,一軸シャシダイナモメータでは,特に高いセンタリング精度(米国環境保護庁の仕様書では,±0.5インチ以内)が要求されているのに対し,自動車車輪横滑り測定装置では,センタリング精度は特に問題とならないから,刊行物1の発明と刊行物2の発明とでは,その属する技術分野,技術的内容が異なり,刊行物2の発明を刊行物1の発明に適用することは容易ではないと主張する。
刊行物1の発明は「シャシーダイナモメータ用車両セツト装置」(甲第6号証1頁「発明の名称」)であって,その目的は「車両セットを試験員の手を掛けることなく,自動で精度よく迅速に行なうことのできる・・・」(同号証2頁左上欄11行〜12行),「車両タイヤの軸中心と回転ドラムの軸中心とを鉛直線上に一致させる。」(同頁右上欄16行〜17行)というものであり,刊行物2の発明は「自動車車輪の横滑り測定装置」(甲第7号証1頁「発明の名称」)であって,(1)において摘示したとおり,その車輪支承部材は,車輪を測定ドラムの軸芯直上の周面上に定置させるというものである。したがって,両者が,測定の対象を異にするものであり,仮に,要求される車輪のセンタリング精度を異にするものであるとしても,いずれも測定のために,回転するドラム頂上部の所定の位置に車輪を定置させることが要求される装置であることからすれば,当業者が,前者の発明(刊行物1の発明)の改良について後者(刊行物2の発明)を参酌することは,当然なすことであると認められる。
原告は,一軸シャシダイナモメータにおいては,特に高いセンタリング精度(米国環境保護庁の仕様書では,±0.5インチ以内)が要求されているのに対し,自動車車輪横滑り測定装置においては,センタリング精度は特に問題とならないと主張するが,本件訂正後の明細書には,センタリング精度について具体的数値は記載されておらず,「一軸シャシダイナモメータのドラム頂上部に対する駆動車輪の位置設定は,・・・ドラムの頂上部のほぼ定位置に常に駆動車輪を置くことが困難な課題がある」(甲第5号証の明細書3頁【0004】),「駆動車輪19を常に頂上部2のほぼ定位置に配置することが可能である」(同7頁【0014】)との記載からは,本件発明1においても特に高いセンタリング精度が要求されているとも認められないのであり,また,刊行物2の前記「測定ドラム12,12’の軸芯直上の周面上に誘導定置させる」との記載からすれば,自動車車輪横滑り測定装置においてはセンタリング精度が問題とならないといえないことも明らかであって,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,刊行物1の発明と刊行物2の発明とでは技術分野等が異なり,当業者が刊行物1の技術の改良のために刊行物2の発明の分野の技術をサーチすることはないと主張する。
しかし,刊行物1の発明と刊行物2の発明は,いずれもセンタリングを行って自動車の性能を測定する装置に関するものとして共通するものであり,また,甲第6,7号証,乙第3ないし5号証によれば,特許の先行技術の検索を行う際に用いる国際特許分類において,刊行物1の発明と刊行物2の発明とは,いずれも「G01M17/00車両の試験」という同一の分類に属しており,特許庁の審査等に用いる検索方法であるFタームにおいても,刊行物1の発明と刊行物2の発明とではテーマコードが同一であることが認められる。したがって,当業者が刊行物1の技術の改良のために刊行物2の発明の分野の技術をサーチすることは自然に行うことである。
(3)本件発明1の構成に至る困難性についてア刊行物1には「・・・本発明のシャシーダイナモメータの車両セット装置においては,通常車両セットローラ4aがセットローラ控部8に格納されており,ローラ4aはピット上部と同一面となっているため,抵抗なく乗り込みが可能である。」(甲第6号証2頁右下欄5行〜9行)との記載があり,床面の凹凸が少ないと装置への車両の乗り入れがスムーズに行え,好ましいことが開示ないし示唆されているといえる。そして,刊行物1の上記記載及び第1図によれば,刊行物1の発明では,車輪解放位置において,車輪支承部材はセットローラ控部に格納されているものの,床面で覆われず(これを床面で覆ってしまうと車輪をセットする動作ができなくなる。),試験車両の車輪に接触するものであるのに対し,刊行物2の発明は,刊行物2の前記記載及び第1図ないし第3図からすれば,車輪支承部材が斜め方向に移動して,車輪解放位置ではピット1の上面の下側に位置する構成であり,セットローラ控部を有していないから,フラットな床面を設けることが可能であり,かつ,その構造上刊行物1の発明と比較して,測定ドラムにより近接したところまでフラットな床面を設けることが可能であることを理解することができる。
そうすると,刊行物1の発明において,装置への車両のよりスムーズな乗り入れを追求するために,セットローラ控部を廃止して,刊行物2の発明の上記構成を採用し,ドラムの周辺の床面をよりフラットなものとすることは,当業者であれば容易に思い付くことができるといえる。そして,その場合に,車輪解放位置において,車輪支承部材が真上からみて全部見えるようにするか,一部見えるようにするか,全く見えないようにするかは,当業者において適宜選択し得る設計事項にすぎないものと認められる(このことは,車輪支承部材の移動範囲(ストローク)にも関係するものであり,床面開口部の広さだけで決まるものではない,すなわち,A構成を採用すれば,床面開口部を縮小化できるとは必ずしもいえない。)。
以上からすると,A構成及びB構成は,刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用して容易に推考できるものと認められ,この点に関する審決の判断に誤りはない。
イ原告は,A構成はドラム表出用の開口部の開口面積を実質的に縮小化し得るという作用効果に関するものであり,B構成はドラム表出用の必要最小限の開口部を設けるだけで,センタリング機構を併設し得るという作用効果に関するものであって,異なる技術的意義を有するものであるのに,審決は各々の技術的意義について全く検討しないで容易推考性を判断している旨主張する。
しかし,前記のとおり,A構成を採用すれば,ドラム表出用開口部の開口面積を縮小化できるとは必ずしもいえないのであり,車輪解放位置において,車輪支承部材の位置をどのようにするかは設計事項にすぎず,A構成それ自体に格別の技術的意義があるとは認められない。そして,刊行物2の発明に,車輪支承部材を斜め方向に移動させ,フラットな床面を設けることを可能にする構成が開示されている以上,刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用してA構成及びB構成のようにすることは,容易に推考できるものであって,審決の判断に誤りがないことは,前記のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
ウ原告は,刊行物1及び2のいずれにも,床面の開口部の面積を縮小するためのA構成に係る技術思想や必要最小限の開口でセンタリング機構の併設を可能にするB構成に係る技術思想は,開示されていないし,示唆されてもいないから,刊行物2の構成を刊行物1の構成として置き換えることは,当業者が自然となすことではないと主張する。
しかし,前記のとおり,刊行物1には,床面の凹凸が少ないと装置への車両の乗り入れがスムーズに行え,好ましいことが開示ないし示唆されており,刊行物2の発明においてそのことを可能にする構成が開示されているのであるから,これを刊行物1の発明に適用することは,当業者において容易に想到し得るものであって,その置換えを困難とする格別の事情は認められず,原告の上記主張は採用できない。
エ原告は,本件発明1は,B構成に加えてA構成のようにしたことにより,ドラム周辺の床面を可及的に平らにすることができ,車外での作業の容易性及び安全性を向上させ,高精度な温度調節を可能にしたものであり,当業者が自然に想到し得るものではないと主張する。
刊行物1には,装置への車両のスムーズな乗り入れのために床面をフラットにすることが好ましいことが開示ないし示唆されており,刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用して,そのことを実現できることは,前記のとおりである。そして,原告主張の車外での作業の容易性及び安全性を向上させることができるということは,床面がフラットであることから当然予測できる効果にすぎないものであり,そのことはA構成及びB構成の容易想到性を否定する理由となるものではない。
また,本件訂正後の明細書(甲第5号証の明細書)には,試験室内の温度調節の効果を得るために開口面積を縮小し,そのような効果が奏されたとの記載はなく,A構成及びB構成により高精度な温度調節を可能にしたとの原告の主張は,明細書に基づかないもので,失当である(なお,開口面積を縮小したとしても,開口部がある以上,床板の上と下の空気は流通するから,Aの陳述書(甲第12号証)にあるような床板下のモータやセンサー等の電子機器類に影響を及ぼすのを防止するという目的との関係では,開口面積の縮小は不完全な方法であり,A構成及びB構成によって顕著な作用効果を奏するとは認め難い。)。
(4)スライド部材の形状選択の困難性について原告は,本件特許出願前の周知慣用技術の例として審決が挙げた甲第13号証は,周知例として適切でなく,本件発明1では,スライド部材を凹形状とし,無理のない構造で車輪支承部材を平行移動させていることにより,車輪が左右に若干ずれて配置され,車輪支承部材にねじれる力が作用しても,車輪支承部材は平行を維持し,高いセンタリング精度が得られるから,スライド部材を凹形とすることは,当業者が適宜設計変更できることであるとはいえないと主張する。
しかし,審決は,エアシリンダとスライド部材を組み合わせる技術が本件特許出願前の周知慣用技術であることを示すものとして甲第13号証を例示したものであり,このような技術が開示されている以上,実施形態が車輪支承部材でなく,スライド部材を凹形状とするものではないとしても,周知例として不適切ではない。
また,スライド部材を凹形状とし,車輪支承部材のうち車輪に接する部分を「両持ち」状にして,2本のエアシリンダによって支持するという構成は,ありふれたものである上,スライド部材の形状は,車輪支承部材にかかる荷重を考慮して,当業者が適宜選択し,設計する事項である。車輪が左右に若干ずれて配置され,車輪支承部材にねじれる力が作用した場合においても,ねじれに耐え得るスライド部材を用いれば,凹形状(両持ち)でなく,刊行物2(甲第7号証)のように逆L字形(片持ち)の部材を1本のエアシリンダで支持したとしても,センタリング精度において顕著な差は生じないと推認される。したがって,スライド部材を凹形とすることは,当業者が適宜設計変更することができるものと認められ,審決の判断に誤りはない。
(5)以上のとおり,本件発明1は,刊行物1及び2の各発明並びに周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。
3取消事由3(本件発明2における容易推考性の判断の誤り)について(1)相違点2について「凹形状のスライド部材」との限定を欠く点を除けば,審決が本件発明2と刊行物1の発明との対比により認定した相違点2は,本件発明1と刊行物1の発明との対比により認定した相違点1と同じであるから,本件発明2における相違点2についての取消事由に対する判断は,前記2(1)から(3)までと同旨である。
(2)相違点3について原告は,刊行物3及び甲第15号証におけるバネの用途が本件発明2におけるものと異なると主張する。
しかし,付勢力を利用するためにバネを用いることは,その用途に関わりなく常識である。審決は,エアシリンダにバネを併用することが本件特許出願前の周知慣用技術であることを示すものとして刊行物3(甲第8号証)及び甲第15号証を例示したものであり(いずれも付勢力を利用するためにバネを用いた技術を開示するものである。),その用途が本件発明2と異なったとしても,その周知慣用技術を用いて相違点3に係る本件発明2の構成とすることは,当業者であれば容易に推考し得ることと認められる。
4結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決に,その他の取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二