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関連ワード 創作性(創作) /  29条の2(拡大された先願の地位) /  同一の発明 /  技術的手段 /  技術常識 /  択一的 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10152号 審決取消請求事件
原告日本パルスモーター株式会社
訴訟代理人弁理士西納航平
被告株式会社ステップテクニカ
訴訟代理人弁理士沢田雅男
同弁護士木下洋平
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2005-80158号事件について平成18年2月27日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告が特許権者である後記特許に関し,原告が特許無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,請求人たる原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯被告は,平成8年6月7日,名称を「サイクリック自動通信による電子配線システム」とする発明について特許出願をし,平成11年10月22日,特許第2994589号として設定登録を受けた(請求項の数は6。以下「本件特許」という。甲4の1〔特許公報〕)。
しかるに平成12年6月27日に至り,本件特許の請求項1ないし4に係る発明について第三者から特許異議の申立てがなされ,同申立ては異議2000-72568号事件として特許庁に係属したが,原告は,同事件の中で,本件特許の請求項4〜6を削除し請求項1〜3の特許請求の範囲減縮する訂正請求(以下「本件訂正」という。)をしたところ,特許庁は,平成14年5月28日,上記訂正を認めた上,本件特許の請求項1〜3に係る特許を維持する旨の決定をした(甲4の2〔特許決定公報〕)。
その後本件特許について,平成17年5月27日付けで原告から特許無効審判請求がなされ,特許庁は,同請求を無効2005-80158号として審理した上,平成18年2月27日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成18年3月9日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件訂正後の本件特許は,請求項1〜3から成り,その発明の内容は,次のとおりである(甲4の2〔特許決定公報〕。以下,請求項の番号順に「本件特許発明1」等といい,A以下の分節符号を付加して「構成要件A」のようにいう。)。
【請求項1】A.1台のIC化された中央装置(1)と1台又は複数台のIC化された端末装置(2)とがデジタル通信回線(3)を介して,相互接続されて構成され,上記中央装置(1)から上記端末装置(2)宛に,出力データの組み込まれたコマンドパケットを一斉にサイクリックに自動的に送信し,1台又は複数台の端末装置(2)の中から順次に択一的に選択される1台づつの上記端末装置(2)から上記中央装置(1)宛に,入力データの組み込まれたレスポンスパケットを逐次にサイクリックに自動的に送信するサイクリック自動通信方式の電子配線システムであって,B.上記中央装置(1)は,上記出力データと上記入力データとを読み取り可能に記憶するメモリ(4)と,上記コマンドパケットの送信と上記レスポンスパケットの受信とを,プログラムによる通信制御に基づかないで,回路の駆動で制御するステートマシーンとから成り,C.上記メモリ(4)は,i番目のコマンドパケットに組み込まれるi番目の出力データをi番目対応の出力データ記憶領域に読み取り可能に記憶し,i番目のレスポンスパケットに組み込まれていたi番目の入力データをi番目対応の入力データ記憶領域に読み取り可能に記憶するメモリであり,D.上記ステートマシーンは,i-1番目の端末装置(2)宛の(D-1) i-1番目のコマンドパケットの送信が完了した直後に,(D-2)又は,i-1番目のコマンドパケットの送信が完了してから,i-1番目のレスポンスパケットの受領期間が経過した直後に,(D-3)上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域から読み取られたi番目の出力データとi番目の端末装置アドレス符号とが組み込まれたi番目のコマンドパケットをデジタル通信回線(3)経由で送信し,該i番目のコマンドパケットの送信が完了した後に,i番目の入力データの組み込まれたi番目のレスポンスパケットをi番目の端末装置からデジタル通信回線(3)経由で受信し,(D-4)該i番目の入力データを上記メモリ(4)のi番目対応の入力データ記憶領域に書き込むことを特徴とし,E.上記端末装置(2)は,デジタル通信回線(3)経由で受信した上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の端末装置アドレス符号が自己の端末装置アドレス符号として設定されているi番目の端末装置アドレス符号と一致するときに,上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の出力データを出力ポート(22)でのポート出力データとして出力するとともに,入力ポート(21)からのポート入力データがi番目の入力データとして組み込まれた上記i番目のレスポンスパケットをデジタル通信回線(3)経由で送信することを特徴とし,さらに,F.上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域に読み取り可能に記憶されている出力データのビット群の構成と上記出力ポート(22)から出力されるポート出力データのビット群の構成とが同一形態であり,上記メモリ(4)のi番目対応の入力データ記憶領域に読み取り可能に記憶されている入力データのビット群の構成と上記入力ポート(21)から入力されるポート入力データのビット群の構成とが同一形態であり,G.前記メモリ(4)内のデータビット群が,前記複数の端末装置毎にメモリ領域を分割して設定したことを特徴とするサイクリック自動通信方式の電子配線システム。
【請求項2】H.上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域からのi番目の出力データの読み取り動作と,該i番目対応の出力データ記憶領域へのユーザインターフェースPCからのi番目の出力データの書き込み動作と,該メモリのi番目対応の入力データ記憶領域へのi番目の入力データの書き込み動作と,該i番目対応の入力データ記憶領域からのユーザインターフェースPCへのi番目の入力データ読み取り動作とが,それぞれ,別個独立に実行可能である請求項1に記載のサイクリック自動通信方式の電子配線システム。
【請求項3】I.前記端末装置(2)毎に分割されたメモリ領域内のデータビット群は,送受信単位毎のフィールドに設定し,該設定されたフィールド単位で送受信するようにした請求項2に記載のサイクリック自動通信方式の電子配線システム。
(3) 審決の内容審決の内容は,後記相違点等の認定も含め,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本件特許発明1は,本件特許出願の日前の他の特許出願で本件特許出願後に公開された特願平7-21367号・特開平8-195682号公報(甲1。以下「甲第1号証」という。)に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるとはいえないから,特許法29条の2の規定に違反するとはいえない,等としたものである。
(4) 審決の取消事由しかしながら審決は,以下に述べるとおり,先願発明の認定を誤った結果,相違点4,5に係る本件特許発明1の構成は先願発明には見いだすことができず,両者は同一の発明とはいえない,と誤って判断したものであり,違法として取消しを免れない。
ア 取消事由1(ポート設定パターン3の看過)先願発明の記載された甲第1号証の第3実施例に関する記載事項によれば,甲第1号証には,ポートの入出力設定の構成について,別紙図面(本訴甲5と同じ)のポート設定パターン1(甲第1号証の図2,7及び8から直接導かれるもの)だけではなく,ポート設定パターン2及びパターン3も実質的に開示されている。しかるに,審決は,相違点4,5の認定において,先願発明として基本的にパターン1の構成のみを認定しているの「………請求人が主張するように,………CH0であって,パターン2についてはとCH1を出力向けとし,CH2とCH3(判決注:「CH3とCH4」は誤記」)を入と認定する力向けに設定することもできないわけではない」(17頁下3行〜18頁2行)にとどめ,また,パターン3についてはこれを全く想起しなかったことは,誤りである。
すなわち,甲第1号証の段落【0026】及び【0048】の記載によれば,入出力ポートP0〜P3のそれぞれは,「使用/不使用の設定」と「入力/出力のポート使用の設定」が自由に行えるものであり,かつ,同一の端末装置において入力ポートと出力ポートを組とする設定が行える技術手段も開示されているものである。したがって,別紙図面に示すように,甲第1号証には,4つの入出力ポートを全て用いて設定したパターン2に加え,2つのポートP0,P1を使用に,ポートP2,P3を不使用に設定したパターン3とすることができ,かかる設定構成を含め多数の組合せ設定によりサイクリック通信ができる技術手段が開示されている。ことに,端末装置において,入力ポートと出力ポートを一対として構成することは,特開昭60-201462号公報(以下「甲6公報」という。)の第1図,第2図からも明らかなように周知慣用の技術常識であって,当業者にとって自明な構成であるから,ポート設定パターン2及びパターン3は,甲第1号証に記載されているに等しい事項である。
このように,審決が,甲第1号証の第3実施例におけるポート(P0〜P3)の入出力設定としてはポート設定パターン1の設定構成のみが開示されているにとどまると解して先願発明を認定し,これに基づく相違点4,5の認定を行ったことは,ポート設定パターン2及びパターン3等による多様な設定を看過したものであり,特に,ポート設定パターン3による設定が本件特許発明1と全く同一の構成となるにもかかわらず,このことを無視したものであって,誤りである。
イ 取消事由2(伝送データの送信方法の認定の誤り)(ア)審決は,先願発明における伝送データの送信方法について,次のとおり認定した。
「実際の通信手順としてCH4〜CH7のaポート設定パターン1について,4つの伝送データが一つに纏められて送信されるのか又はCH4,CH5,CH6,,CH7のチャンネル単位で逐次に送信されるのか定かではない」(17頁第1段落)「ベースターミナル単位のアドレスに加え,何らかの形でチャンネルCHを単位とした処理も必要となる」(同第2段落)「請求人は『CH4〜CH7の一括送信後,,ACKが返信される。』と主張するが,CH4,CH5,CH6,CH7のチャンネル単位で送信される場合,通信手順を明示する図4の記載によれば,CH4,ACK,CH5,ACK,CH6,ACK,CH7,ACKのような通信手順になると解釈す。
る方が自然でもある」(同第3段落)「例えばCH0とCH1を纏めて送信するbポート設定パターン2について,ことについては上記CH0〜CH3の場合よりも更に根拠がないというべきである」(18頁第2段落)「仮にCH0とCH1を纏めて送信ができたとしても,その後,に『ACKとCH2とCH3の3者を纏めて(ACKにCH2,3のデータを含ん。
で)返信する』ということについて,図5には記載も示唆もない」(同第3段落)(イ)しかし,上記(ア)のa,bの認定は,次のとおり,いずれも誤りである。
a甲第1号証の図7,図8においては,「CH4〜CH7」や「#0〜#3 ↓↑チャンネルCH0〜CH3」等の表記態様をもって書き表され,図7の端末装置を単位としてデータが「まとめて取り扱われて,送信される」状態で[入力]↑[出力]↑[出力]↑[入力]と続く実施例3に固有の通信手順の開示があり,また,まとめてデータ送信された際に,セレクタがチャンネルアドレスに基づき各ポートに振り分け処理できる機能(項目【0021】)の開示がある。
さらに,本件特許発明及び先願発明が属する技術分野において,信号やデータがまとめて扱われる状態を示す場合には,通信方向を示す1本の矢印と共に書き表すことが表記の常識であり,実施例3のMPUモードで制御されるシリアル通信ボード(中央装置)がベースターミナル(端末装置)を管理する接続構成では,伝送データをまとめて取り扱う方が極めて高速に通信が行われ合理的であるとする経験則がある。
そして,甲第1号証記載の発明においてACK信号の返送は当業者が採用/不採用を任意に選択できる事項であることに照らせば,先願発明においても,各チャンネルについての伝送データはベースターミナル単位で一括して(まとめて)送信されるものと解釈するのが当然である。
bACK信号の返送は,自局宛ての送信データが正常に受信できた時にだけ行うことが技術常識であるから,ポート設定パターン2の構成の通信手順について,CH0,CH1の入力データの受信後にACK信号の返送を行うことは,甲第1号証に開示されていたに等しい自明事項である。
また,ACK信号の返送が,データ通信を行う際に通信の信頼性を高めるために付加的に用いられる技術的手段であり,その使用・不使用が任意であることは技術常識である。このことは,ACKを使用することが特開昭61-230446号公報(甲2)に,使用しないことが特開昭58-116897号公報(甲8)に,それぞれ開示されていることから明らかである。
「……を示そして,甲第1号証には,かかる技術常識を前提として,すACK信号を返送するようにしてもよい。」(段落【0009】)「……,ACK信号を返送する場合,………信頼性を高めることができ」る(段落【0014との記載がされているのである。このような記載によれば,】,下線付加)甲第1号証に記載されたACK信号の返送という技術的手段を使用するか否かは当業者が任意に選択できる事項であり,甲第1号証には,ACK信号の返送を行わない構成についても開示がなされているに等しい。
ウ取消事由3(自局の送信順番の際に,自局のポート入力データの組み込まれた伝送データを送信することについての認定の誤り)審決は,甲第1号証におけるポート設定パターン3の開示を看過し(取消事由1),甲第1号証において伝送データがベースターミナル単位で一括して送信されることを看過し(取消事由2),その結果,ACK信号と伝送データとを不離一体のものとして誤って把握し,甲第1号証において「ベースターミナル51A〜51Bの何れを取っても,シリアル通信ボード55からベースターミナルに送信される伝送データとその逆方向のベースターミナルからシリアル通信ボード55に向かって送信される伝送データの双方を含んだ組み合わせは見いだすことがとの誤った認定に至ったものである。
できない」(16頁第2段落)ACK信号を返送しない場合を念頭に,甲第1号証の図4,図5からACK信号に関する記載を消去すれば,これらの図面は,CH0からCHNまでを連続して1サイクルの通信を行うことができ,また,<アドレス比較・格納判断>↑<データ格納・I/O出力>↑<送信アドレスチェック>↑<データ送信・トリガ出力>と進む通信手順を開示しているということができる。このような通信手順は,端末装置がデータを受信した後,サイクリック通信で不可欠な自局のアドレスチェックを行い,自局と判断した場合は,出力ポートからデータを出力するとともに,自局の入力データを送信するという通信手順にほかならない。このような通信手順を,甲第1号証の段落【0016】,図5,図7の記載に即してポート設定パターン2,3において行うと,シリアル通信ボード(55)のデータレジスタが管理するデータの送受信は,ベースターミナル(51A)へ送信用の伝送データを送信し,その同じベースターミナル(51A)から「応答用の伝送データ」を受信して,これをレジスタに格納する,という手順で行われることになる。
したがって,審決の上記認定が誤っていることは明らかである。
エ取消事由4(ポート設定パターン3の構成を前提とする判断を行わなかったことの誤り)甲第1号証には,別紙図面のポート設定パターン3が実質的に開示されていることは上記ア(取消事由1)のとおりであり,かかるポート設定パターン3の構成によれば,その通信構成が本件特許発明1のものと全く同一の通信構成となる。したがって,審決が,ポート設定パターン3の設定構成についての技術判断を全く行わなかったことが,誤りであることは明白である。
2 請求原因に対する認否請求の原因(1)(2)(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決には,原告主張の違法はない。
(1)取消事由1に対し原告は,甲第1号証にはポート設定パターン2,3も開示されていると主張するが,甲第1号証においては,その図7に明示されるように,入力データに対応する入力機器が接続されたベースターミナルのポートには,出力データに対応する出力機器は接続されていない。したがって,甲第1号証には,ポート設定パターン2,3のように,各端末装置に入力ポートと出力ポートが一対で設けられている構成は開示されていない。
また,原告は,入力ポートと出力ポートを一対として構成することは,甲6公報に開示されていると主張するが,甲6公報は,CPUバスを外部に引き出して,I/Oを外部に増設したCPUに関する発明を開示したものにすぎず,本件特許発明1とも甲第1号証記載の発明とも全く関係のない発明である。
(2)取消事由2に対し原告は,甲第1号証における矢印や「〜」の記号が,各チャンネルについての伝送データが一括して送信されることを明らかにしていると主張するが,甲第1号証の発明が属する技術分野において,伝送データが一括して送信されるのか個別に送信されるのかは,矢印や記号の種類のみによって明らかになるものではなく,これを説明する文章を参照することによって初めて明らかになるものである。
また,原告は,甲第1号証には,ACK信号の返送を行わない構成についても実質的に開示がなされていると主張する。しかし,甲第1号証記載の発明においては,各チャンネルデータが送られるたびに,そのデータを受領したチャンネルは,そのデータが正常に受領されたことを示すACK信号を返送し,このACK信号が返信されたことが確認されると次の番号のチャンネルがデータを送信する,という通信手順が採用されており,自己の1個前のチャンネル番号のチャンネルがデータ送信を完了したことをACKに基づいて確認した後に自己のチャンネルのデータを送信するので,甲第1号証記載の発明は,ACK信号の返送なしには機能しないのであり,ACK信号の返送は,必須の構成である。さらに,甲第1号証の特許出願人が,平成13年12月10日付けの手続補正書(乙4)により,「前記送信側の送受信部に正常受信であることを示すACK信号を返送する」という限定を請求項1に加えていることからも,甲第1号証記載の発明にACK信号の返送という構成が必須であることは明らかである。
(3)取消事由3に対し原告の主張は,甲第1号証記載の発明において,各チャンネルについての伝送データが一括して送信されると解されること,及びACK信号の返送という構成は必須でないことを前提とするものであるが,かかる前提自体が失当であることは上記(2)のとおりである。
(4)取消事由4に対し原告の主張は,甲第1号証にはポート設定パターン3が実質的に開示されていることを前提とするものであるが,かかる前提自体が失当であることは上記(1)のとおりである。
当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告の主張する審決の取消事由について順次判断する。
2 取消事由1について(1)原告は,甲第1号証には,別紙図面(本訴甲5)に示したポート設定パターン3も実質的に開示されているところ,審決にはこれを看過した誤りがあると主張する。
そこで,甲第1号証の内容を検討すると,甲第1号証には入出力ポートの設定に関して以下の記載がある。
@「【0026】また,入出力ポートP0乃至P3に付随して入出力制御部12が設けられている。………入出力制御部12は各入出力ポートP0乃至P3の使用,不使用の設定信号を端子PEN0乃至PEN3で受け,各入出力ポートP0乃至P3を入力ポートとして使用するか出力ポートとして使用するかを設定する信号を端子IOM0乃至IMO3で受ける。」A「【0048】なお,第2実施例において,1個のベースターミナル内の固定チャンネル型ゲートアレイGAの入出力ポートP0乃至P3は全て入力ポートとして使用するか,あるいは全て出力ポートとして使用するようにしたが,同一ゲートアレイGA内の入出力ポートP0乃至P3のなかで入力ポートとして使用するものと出力ポートとして使用するものとが混在してもよい。………」(2)上記(1)@の記載によれば,甲第1号証の装置においては,各入出力ポートの使用/不使用が選択できること,及び,各入出力ポートを入力/出力のいずれとして使用するかが選択できることが認められる。また,上記Aの記載によれば,1個のベースターミナル内の複数の入出力ポートのうち,入力ポートとして使用するものと出力ポートとして使用するものとが混在してもよいことが認められる。これらの記載によれば,原告が主張するポート設定パターン3も,4つの入出力ポート(ベースターミナル51AについていえばP0〜P3)のうち,P2,P3を不使用とし,使用するP0及びP1をそれぞれ出力ポート及び入力ポートとして使い分けるものとして,甲第1号証が許容するポート設定の一つの態様であるということはできる。しかし,上記@及びAの記載によって許容されるポート設定パターンは原告が挙げるパターン1〜3以外にも多数存在するのであるし,以下に述べる点も考慮すれば,ポート設定パターン3が,甲第1号証に記載されているに等しい事項あるいは甲第1号証の記載から自明な事項であるとまでいうことはできない。
すなわち,ポート設定パターン3は,出力機器,入力機器のそれぞれが4台ずつある場合において,4台のベースターミナル51A〜51Dそれぞれの各4個の入出力ポートP0〜P4のうち,P2及びP3を不使用にして,P0及びP1のみを使用し,ベースターミナル51A〜51DそれぞれのP0及びP1をそれぞれ出力ポート及び入力ポートとして,ベースターミナル51A〜51Dの順にチャンネルCH0〜CH7を割り当てるというものである。しかし,出力機器,入力機器のそれぞれが同数ずつ存在するという仮定自体が,実際に起こり得る事例の一つにすぎない上,多数の入出力機器に対する入出力データを,4個の入出力ポートを有するベースターミナルを経由して伝達するに当たって通常想起し得るポート設定パターンとしては,各ベースターミナルの4個の入出力ポートに対して,順にチャンネルCH0〜CH#(#は,使用するチャンネル総数-1)を割り当てていき,その最後のチャンネルCH#がP0〜P3のどの入出力ポートに対応するかによって,残りを不使用に設定することが,一般的かつ合理的と認められるところである(例えば,入出力機器が7台であれば,ベースターミナル2台を用意し,1台目のベースターミナルのすべてのポートと2台目のベースターミナルのP0〜P2を使用して接続し,2台目のベースターミナルのポートP3を不使用とする。)。入出力機器が8台であれば,ベースターミナル2台を用意し,2台のベースターミナルのすべてのポートを使用して接続するものとするのが合理的であって,ポート設定パターン3のように,各ベースターミナルが4個の入出力ポートを備えているにもかかわらず,すべてのベースターミナルにおいて,2個の入出力ポートのみを使用し残り2個を不使用とすることは,いわばリソース(資源)の有効活用に反する利用形態といえるものであり,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって想起し難い特殊なポート設定パターンであるといわざるを得ない。
そして,このことは,本件の審判手続における原告(審判請求人)の主張の経緯に照らしても明らかである。すなわち,原告は,審判事件弁駁書(甲9)の5頁において,甲第1号証から把握できるポート設定パターンとしてパターン1及び2を主張するにとどまっており,パターン3は,本件訴訟に至って初めて主張するに至ったものである。このような経緯からみても,ポート設定パターン3が,甲第1号証の記載から自明な事項であるということはできない。
(3)したがって,甲第1号証にポート設定パターン3が実質的に開示されているということはできず,審決にはポート設定パターン3を看過した誤りがあるとする取消事由1の主張は,採用することができない。
2 取消事由2について(1)原告は,審決には,先願発明における伝送データの送信方法の認定に誤りがあると主張し,具体的には,以下の点を指摘する。
ア 伝送データの一括送信につき甲第1号証の属する技術分野において,信号やデータが一括して扱われる状態を示す場合には,通信方向を示す1本の矢印と共に書き表すことが表記の常識であること,甲第1号証の実施例3のようにMPUモードで制御されるシリアル通信ボードがベースターミナルを管理する接続構成では,伝送データを一括して取り扱う方が極めて高速に通信が行われ合理的であること,後記イのとおり,甲第1号証においてACK信号の返送は当業者が採用/不採用を任意に選択できる事項であることに照らせば,先願発明においても伝送データの送信はベースターミナルの出力データ/入力データごとに一括して行われると解される。
イ ACK信号の返送につき(ア)ACK信号は,特開昭61-230446号公報(以下「甲2公報」という。)に「ACKコマンド:ステーション制御装置1又はワークステーション2〜4が自己宛のDATAフレームを正しく受容したことを報知するときに用いられるコマンド」(2頁左下欄3〜6行)とあるとおり,自局宛の送信データが正常に受信できた時にだけ返送することが技術常識であり,かかる技術常識参酌すれば,例えば,ポート設定パターン2の構成の通信手順において,CH0,CH1の入力データの受信後にACK信号の返送を行うことは,甲第1号証に開示されているに等しい事項である。
(イ)ACK信号の返送が,データ通信を行う際に,通信の信頼性を高めるために付加的に用いられ,採用/不採用が任意である周知慣用の技術手段である。このことは,ACK信号の返送を採用した技術が上記甲2公報に,採用しない技術が特開昭58-116897号公報(以下「甲8公報」という。)に記載されているようにそれぞれ周知であることから明らかである。
「……を示すACK信号を返送するようにしてもよい。」(下線付(ウ)甲第1号証の加。段落【0009】)「……ACK信号を返送する場合,………信頼性を高めるこ,との記載によれば,甲第1号証にとができ」る(下線付加。段落【0014】)は,ACK信号の返送という構成の採用/不採用は任意であることが開示されているとともに,当該構成を採用しない場合の構成についても開示されている。
(2)原告の上記(1)の主張のうち,アにおいても,ACK信号の返送という構成の採用/不採用が当業者の任意に選択できる事項であることが前提となっているので,まず,当該構成の採用/不採用に関する上記(1)イの主張について検討する。
甲第1号証には,ACK信号の返送について,次の記載がある。
@【請求項2】前記送信ブロックは,前記シリアル送信出力信号のビット列を多項式とみなし,特定の多項式である生成多項式で割り切れる構成とするために伝送データに誤り検出用ビットを付加して前記シリアル送信出力信号として送信し,前記受信ブロックは前記シリアル送信出力信号を前記生成多項式で割り算し,割り切れたときに誤り無しとして正常に受信するとともに,前記送信側の送受信部に正常受信であることを示すACK信号を返送する請求項1記載のシリアル通信方法。
A【0009】本発明のシリアル通信方法において,前記送信ブロックは,前記シリアル送信出力信号のビット列を多項式とみなし,特定の多項式である生成多項式で割り切れる構成とするために伝送データに誤り検出用ビットを付加して前記シリアル送信出力信号として送信し,前記受信ブロックは前記シリアル送信出力信号を前記生成多項式で割り算し,割り切れたときに誤り無しとして正常に受信するとともに,前記送信側の送受信部に正常受信であることを示すACK信号を返送するようにしてもよい。
B【0014】また,………前記受信ブロックが前記シリアル送信出力信号を前記生成多項式で割り算し,割り切れたときに誤り無しとして正常に受信するとともに,送信側の送受信部に正常受信であることを示すACK信号を返送する場合,シリアル通信におけるデータ伝送の信頼性を高めることができ,誤った伝送データで出力機器が誤動作する事態の発生を未然に防止できる。
C【0035】………特定の多項式である生成多項式で割り切れる構成とするために伝送データに誤り検出用ビットを付加して送信ブロック2から前記シリアル送信出力信号として送信し,前記受信ブロック1は前記伝送データを前記生成多項式で割り算し,割り切れたときに誤り無しとして正常に受信するとともに,送信側の送受信部の受信ブロック1に正常受信であることを示すACK信号を返送する。
D【0036】………データ伝送回線としてのシリアルラインを通った送信データは受信ブロック1の復号化回路に入力され,CRCチェックが行われる。すなわち,{P′(X)+R(X)}/G(X)が行われ,余りの有無が判定される。余り=0であれば,正常受信と判定して出力データP(X)を出力するとともに送信側に受信結果「良」のACK信号を出す。余り≠0であれば,通信エラーと判定して出力データは出力せず,送信側に受信結果「不良」のACK信号を出す。
E【0038】………図4のように,サイクリック通信方式でチャンネルCH0の伝送データを含むシリアル送信出力信号の送信を固定チャンネル型ゲートアレイGA内の送信ブロック2から始めて,チャンネルCH0の出力側(右側の送受信部30B)からの正常に受信できたことを示す応答(正常受信を表すACK信号)を受信ブロック1で確認し,以下同様にしてチャンネルCH1,CH2,CH3の送信を順次行う(通信データバス4に接続する入出力ポートをセレクタ3で順次切り換えることで実施できる。)。
………受信側(右側の送受信部30B)は,キャリア有りで,データチェックにより正常データ受信と判断されたときにアドレス比較により自分のチャンネルアドレスのパケットデータのみを受け取り,所定の入出力ポートに出力する(例えば図1では左側の送受信部30Aの入出力ポートP0に入力されたチャンネルCH0の伝送データを右側の送受信部30Bの入出力ポートP0に出力する)とともに,正常に受信できたときは正常受信を表すACK信号を相手側に送信する。
F【0042】………また,1個の入出力ポートのデータを送信後,相手側より正常に受信されたことを示す信号(正常受信を表すACK信号)が返ってきたことを確認して,次の1個の入出力ポートのデータを順次送信する受信応答確認方式でデータ送受信を行うため,高い障害検出機能を持つ。この結果,誤った伝送データで出力機器等が誤動作する事態の発生を未然に防止できる。
G図4(第1実施例の通信方式を示す説明図),図5(図4の如き通信方式の場合における状態遷移図)には,いずれも,ACK信号の返送を含む処理が図示されている。
(3)甲第1号証の上記@〜Gの記載及び図示内容によれば,ACK信号は,1個の入出力ポートについての伝送データの送信後,受信側から正常に受信されたことの応答信号として返送されるものであり,甲第1号証記載の技術においては,ACK信号の返送があったことを確認して,次の1個の入出力ポートのデータを順次送信することにより,受信応答確認方式でデータ送受信を行う構成を採用しているものと認められる。
(4)そこで,上記(3)に認定したことを前提に,原告の上記(1)イの(ア)〜(ウ)の各主張について検討する。
ア 原告の主張(ア)につき原告は,ポート設定パターン2において,CH0とCH1の出力データを一括して送信してからACK信号が返送されると主張するが,上記(3)に認定したとおり,甲第1号証には,1個の入出力ポートのデータ送信につき受信応答確認としてACK信号の返送を行う手順が繰り返し説明されているのであって,複数の入出力ポートのデータが一括して送信された後にACK信号も一括して返送されるという手順を採ることについては,これを示唆する記載は見当たらない。また,複数の入出力ポートについて一括して伝送データが送信されてからその受信応答確認としてACK信号が返送されるという手順を採るとすれば,例えば,ポート設定パターン1であれば4個の伝送データが送信されてからACK信号が返送され,パターン2であれば2個の伝送データが送信されてからACK信号が返送され,パターン3であれば1個の伝送データの送信ごとにACK信号が返送される,というように,各パターンごとに,送受信の手順について異なった制御を行うことが必要になるから,かえってMPU(中央処理装置)による制御が複雑化し,通信の高速化という目的に反することとなりかねないことは明らかである。
確かに,原告の指摘する甲2公報の記載等を考慮すれば,連続する出力ポート又は入力ポートについて一括して伝送データが送信された直後にその受信応答確認としてACK信号を返送する,という通信手順も本件出願時(平成8年6月9日)に周知ないし公知であったことがうかがわれ,当該通信手順を甲第1号証記載の技術に適用することも当業者が容易に想到できる程度のことであるかもしれない。しかし,そうであるとしても,当該通信手順を甲第1号証記載の技術に適用したものは,甲第1号証記載の技術とは別個の発明なのであって,甲第1号証自体に記載されているに等しい事項又は甲第1号証の記載から自明な事項であるとまでいうことはできない。
よって,原告の上記主張(ア)は採用することができない。
イ 原告の主張(イ)につき原告は,ACK信号の返送という構成を採用するか否かは当業者が任意に選択する事項であるとして,同構成を採用した公知文献(甲2公報)と同構成を採用しない公知文献(甲8公報)とがあることを援用する。
しかし,これらの文献の記載から,ACK信号の返送という構成を採用する技術と採用しない技術との双方がいずれも公知ないし周知であると認められるとしても,両者の技術的意義は明らかに異なるものである。すなわち,ACK信号の返送という構成を採用すれば,個々のデータ伝送ごとに受信応答確認がなされることによって安定性は高まることになるが,その反面,通信速度はある程度犠牲にされることになる。逆に,当該構成を採用しなければ,通信速度は向上するが安定性が犠牲にされることになる。
このように,両者の技術的意義が異なる以上,そのいずれを採用するかは,期待する作用効果を考慮しつつ選択されるものであるといえる。甲第1号証についてACK信号の返送を行う構成を採用しているのも,かかる考慮に基づく選択の結果であると解するのが相当である。
そうすると,ACK信号の返送を行う甲第1号証記載の技術を,ACK信号の返送を行わない構成に変更することは,異なる技術的意義を有する別個の発明の創作であるというべきである。仮に,かかる創作が当業者にとって容易であるとしても,甲第1号証に,ACK信号の返送を行わない構成が実質的に開示されているとまでいうことはできない。
ウ 原告の主張(ウ)につき原告は,甲第1号証の段落【0009】【0014】は,甲第1号証記載の技術において,ACK信号の返送という構成を採用しない場合を前提にした記載であると主張する。
「本発明のシリアル通信方法において,前記送信ブしかし,段落【0009】のロックは,前記シリアル送信出力信号のビット列を多項式とみなし,特定の多項式である生成多項式で割り切れる構成とするために伝送データに誤り検出用ビットを付加して前記シリアル送信出力信号として送信し,前記受信ブロックは前記シリアル送信出力信号を前記生成多項式で割り算し,割り切れたときに誤り無しとして正常に受信するとともに,前記送信側の送受信部に正常受信であることを示すACK信号を返送するようにしてもよとの記載は,ACK信号の返送という構成の採用自体を前提とした上で,い」ACK信号の返送に先立つ正常受信か否かの判断を,伝送データへの誤り検出用ビットの付加等の手段によって行う「ようにしてもよい」旨を示し「前記受たものであると解するのが自然である。また,段落【0014】の信ブロックが前記シリアル送信出力信号を前記生成多項式で割り算し,割り切れたときに誤り無しとして正常に受信するとともに,送信側の送受信部に正常受信であることを示すACK信号を返送する場合,シリアル通信におけるデータ伝送の信頼性を高めることがでとのき,誤った伝送データで出力機器が誤動作する事態の発生を未然に防止できる。」記載も,伝送データへの誤り検出用ビットの付加という手段を採用した「場合」の効果を述べているのであり,ACK信号の返送という構成自体は当然の前提とされていることが明らかである。
よって,原告の上記主張も採用することができない。
(5)上記(2)〜(4)のとおり,甲第1号証記載の技術において,一つの入出力ポートについての伝送データの送信がされるごとにその受信応答確認としてACK信号を返送するという構成は,必須の要件であるというべきである。
そうすると,甲第1号証記載の技術において,複数の入出力ポートについて一括して伝送データが送信されるようにすることも,当該構成を欠く別個の発明への変更になるといえるから,これが,甲第1号証に記載されているに等しい事項であるということはできない。よって,原告の前記(1)アの主張も採用することはできない。
したがって,原告の取消事由2の主張は,いずれも理由がない。
4 取消事由3について原告の取消事由3の主張は,甲第1号証記載の技術の通信手順において,ACK信号を返送しない構成を採用した場合を前提にしたものである。しかるに,上記3で述べたとおり,甲第1号証には,ACK信号を返送しない構成が実質的に開示されているとはいえないのであるから,原告の取消事由3の主張は前提を欠き,理由がない。
5 取消事由4について原告の取消事由4の主張は,甲第1号証にはポート設定パターン3が実質的に開示されているといえることを前提にしたものである。しかるに,上記2で述べたとおり,甲第1号証には,ポート設定パターン3が実質的に開示されているとはいえないのであるから,原告の取消事由4の主張も前提を欠き,理由がない。
6 結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉
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