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関連審決 無効2005-80161
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10043審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10632特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10031審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 方法の発明 /  頒布された刊行物 /  容易に発明 /  周知技術 /  先願発明との同一性 /  遡及 /  分割出願 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10124号 審決取消請求事件
原告東 海光学株式会社
訴訟代理人弁護 士高橋譲二
同 川崎修一
訴訟代理人弁理 士石田喜樹
同 園田清隆
被告H OYA株式会社
訴訟代理人弁護 士吉澤敬夫
同 牧野知彦
訴訟代理人弁理 士岩田弘
同 新井全
同 岡崎信太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2005-80161号事件について平成18年2月10日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成4年6月24日にした特許出願(特願平4-165912号。以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成11年7月27日に発明の名称を「眼鏡レンズの供給システム」とする発明につき特許出願(特願平11-212631号。以下「本件出願」という。)をし,平成14年4月5日,特許第3294825号として特許権の設定登録(設定登録時の請求項の数2。以下,この特許を「本件特許」という。)を受けた。
これに対し被告から本件特許のうち,請求項1に係る発明の特許について無効審判請求がされ,特許庁は,これを無効2005-80161号事件として審理した結果,平成18年2月10日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同年2月23日原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件出願の願書に添付した明細書(以下,この明細書を図面と併せて「本件明細書」という。甲8)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え,前記発注側コンピュータが前記眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有し,前記製造側コンピュータが前記眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する眼鏡レンズの供給システムにおいて,前記発注側コンピュータにおいて,眼鏡レンズ情報,3次元的枠形状情報及び枠材質情報を含む眼鏡フレーム枠情報,処方値及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力する一方,前記製造側コンピュータにおいて,前記入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し,この演算処理結果に基づき,レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより,前記発注側コンピュータにおいて,少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき,かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにした眼鏡レンズの供給システムであって,前記発注側コンピュータには,3次元フレーム枠形状測定装置が接続されており,この3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果が前記3次元的枠形状情報として当該発注側コンピュータに入力されるようになっており,前記発注側コンピュータには,表示装置が接続され,該表示装置の画面には,前記3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示されることにより,当該出力結果が確認できるようになっていることを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,本件発明が,本件出願の出願日前の他の出願であって,本件出願の出願後に特許公報(特開平5-212661号公報。以下「刊行物2」という。)が発行されたもの(特願平4-54214号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,これらを併せて「先願明細書」という。甲2)に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるということはできず,また,本件出願は,原出願と分割出願の要件を満たすので,本件出願の出願日は原出願の出願日(平成4年6月24日)に遡及し,原出願に係る公開公報である特開平6-34923号公報(以下「刊行物1」又は「原明細書」という。甲1)は本件出願前に頒布された刊行物に該当するものではなく,本件発明は,特開昭59-93420号公報(以下「刊行物3」という。甲3),特開平4-13539号公報(以下「刊行物4」という。甲4),特開平3-149169号公報(以下「刊行物5」という。甲5),特開昭58-196407号公報(以下「刊行物6」という。甲6),特開昭62-215814号公報(以下「刊行物7」という。
甲7)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないというものである。
審決が認定した本件発明と刊行物3に記載された発明(以下「刊行物3発明」という。)との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを有する眼鏡レンズの供給システムであって,前記発注側コンピュータは,眼鏡レンズ情報,眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報,処方値,及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し,発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し,一方,製造側コンピュータは,前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い,眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能と備え,発注側コンピュータは枠データに基づいて眼鏡レンズ枠のフレームPDを求め,これを前記製造側コンピュータに送信することを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。
(相違点1)本件発明では,3次元的フレーム枠形状測定装置が発注側コンピュータに接続され,この3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果が前記3次元的枠形状情報として発注側コンピュータに入力されるようになっているのに対し,刊行物3発明には3次元的眼鏡枠測定装置について明示的な記載はない点。
(相違点2)本件発明では,発注側コンピュータに表示装置が接続され,該表示装置の画面には,3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示されることにより,当該出力結果が確認できるようになっているのに対し,刊行物3発明では,表示装置及び表示項目についての記載がなく,したがって,出力結果の確認についても記載がない点。
(相違点3)本件発明に係る眼鏡レンズの供給システムは,製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し,この演算処理結果に基づき,レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより,発注側コンピュータにおいて,少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき,かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにしたのに対し,刊行物3発明には,そのような構成について記載がない点。
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張本件発明の内容と刊行物3発明との一致点,相違点1,2についての審決の認定に誤りのないことについては認める。
しかし,審決は,本件発明と先願発明との同一性の判断を誤るとともに(取消事由1),本件出願の分割要件の判断を誤ったため本件出願の出願日の認定を誤り(取消事由2),相違点3の認定及び判断を誤った結果(取消事由3,4),当業者が容易に本件発明に想到し得たと認められないとの誤った判断をしたから,違法として取消しを免れない。
(1) 取消事由1(本件発明と先願発明との同一性の判断の誤り)審決は,「先願発明に係るレンズの供給システムは,図1からわかるように眼鏡枠保持部,測定部,入力部,表示部,及びレンズ研削部,等,眼鏡レンズの供給システムを構成する各部材が全体として一つの装置になっているものである。このような装置において,発注側に測定値を処理し,表示機能を制御するコンピュータが備わっているとしても,製造側すなわち研削部側にコンピュータは必要とはしないものである。一方,本件発明は,発注側コンピュータとは別個に,発注側コンピュータへ情報交換可能に接続され,眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する製造側コンピュータを有することを構成要件とするものであり,製造側コンピュータを有さない先願発明のものとは,あきらかに発明の構成を異にするものである。」(審決書15頁28行〜末行)として,製造側コンピュータを有さない先願発明は,発注側コンピュータとは別個に製造側コンピュータを有することを構成要件とする本件発明とは同一ではないと判断している。
しかし,先願明細書(甲2)の図20に明示されているとおり,先願発明は,トレーサ演算制御回路と主演算制御回路とを有し,トレーサ演算制御回路は,トレースデータメモリと接続されるものであるから,発注側コンピュータに相当し,主演算制御回路は,モータドライバを介して砥石モータと接続されるものであるから,製造側コンピュータに相当するものである。
また,先願明細書記載の請求項2は,「レンズ周縁加工機は,・・・眼鏡枠形状測定装置と・・・インターフェイスを介して結合している」というものであり(2頁左欄11行〜14行),トレーサ演算制御回路と主演算制御回路との個別性に言及するものである。
そして,主演算制御回路に入力部及び表示部が接続されているとしても,主演算制御回路は砥石モータとも接続されている以上,主演算制御回路を製造側コンピュータと同視し得る点を妨げるものではない。また,本件発明(請求項1)においては「この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え」と特定されているから,製造側コンピュータは発注側コンピュータに情報交換可能に接続されていればよいのであって,装置として一体か別体かは関係がない。
したがって,先願発明は,発注側コンピュータと製造側コンピュータを併せ持つものであるから,先願発明が製造側コンピュータを有さないことを前提に本件発明と先願発明の同一性を否定した審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(本件出願の分割出願の要件の判断の誤り)審決は,「原出願には,3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角,が表示されることが開示されている。」,「当該各要素はいずれも当初明細書に記載されているから,これらは当初明細書に記載された事項の範囲内のものである。」,「原出願の当初明細書・・・を参照すれば,レンズ加工が可能か否かの判断に際して,傾斜角を含めたレンズ枠情報が必要であることが実質的に開示されており,その際,それらの情報を正確に把握すべきであることは,当然の技術的事項である。」(以上,審決書16頁32行〜17頁4行)として,本件出願は,原出願との関係で分割出願の要件を満たすと判断している。
しかし,発明は特定事項の結合によって表されるものであるから(特許法36条5項),発明において,多くの技術要素のうちどれを採用し,どのような組合せで特定事項の結合とするかは極めて重要な事項である。
そして,本件発明の3次元フレーム枠形状測定装置の「出力結果」の構成要素として,「フレームカーブ」,「ヤゲン溝の周長」,「瞳孔間距離」及び「傾斜角」が選択され,この組合せで特定されているのに対し,原明細書には,出力結果として多数の構成要素が挙げられているが,その構成要素を選択する基準については一切記載も示唆もなく,「出力結果」につき本件発明の上記構成要素の組合せを選択することについては全く開示されていないから,原明細書にフレームカーブ等の構成要素が個別に開示されているとしても,本件発明が原明細書に実質的に開示されているとはいえない。
したがって,原明細書においては,「出力結果」の構成要素を本件出願の上記組合せで選択する旨の記載はなく,本件出願は分割出願の要件を満たさないから,これを満たすとした審決の判断は誤りである。したがって,本件出願の出願日は,原出願の出願日に遡及せず,現実の出願日である平成11年7月27日であるから,原明細書(刊行物1)は本件出願前に頒布された刊行物に該当するというべきである。そうすると,本件発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,審決の上記判断の誤りは,審決の結論に影響することは明らかである。
(3) 取消事由3(本件発明と刊行物3発明との相違点3の認定の誤り)審決は,本件発明と刊行物3発明との相違点3として,「本件発明に係る眼鏡レンズの供給システムは,製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算・・・できるようにしたのに対し,刊行物3発明には,そのような構成について記載がない点」を認定している。
しかし,審決の上記認定は,以下のとおり誤りである。
まず,刊行物3において,レンズは最終的に「枠入れ加工」されるものであり,「眼鏡枠にレンズ固定用の溝が存在すること」は周知であり,「この溝に固定すべく玉型加工の際にはレンズに突起即ちヤゲンを立てること」も周知であるから,少なくとも当業者においては,刊行物3発明における製造側コンピュータは,枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいて,ヤゲン形状を含めてレンズ形状を演算している技術が実質的に開示されているとみるべきである。
また,刊行物3には,ラボ方式について「視力検定医(optometrist)が,レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行い,完成品を視力検定医へ送付する方式」とあるところ(2頁左上欄4行〜9行),「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」(3頁左下欄13行〜16行)との記載があることからすれば,刊行物3発明において枠入れ加工即ちヤゲン加工を行っていることは明らかである。
そして,刊行物3発明では,製造側コンピュータが発注側コンピュータと通信する以上,不適切な発注をやり直して発注内容を変更できることは当然である。
以上のとおり,刊行物3には,「製造側コンピュータにおいてヤゲン形状を含めたレンズ形状を演算する」構成が実質的には記載されているというべきである。
したがって,刊行物3発明に上記構成の記載がないとした審決の認定は誤りである。
(4) 取消事由4(本件発明と刊行物3発明との相違点3の判断の誤り)仮に,刊行物3発明には,「製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算・・・できるようにした」構成の実質的な記載がなかったとしても,審決が,本件発明は,刊行物3ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないと判断した点(審決書19頁29行〜20頁3行)には,以下のとおり,誤りがある。
すなわち,刊行物5(甲5)には,独立した単体のレンズ加工可否判定装置が記載されており,加工不可の場合の再入力・情報表示が記載されており,この再入力・情報表示は,発注内容の変更を開示・示唆するものである。そして,刊行物5の当該装置において枠入れ加工が可能であり,レンズの加工可否においてヤゲン形状の情報を用いることは周知である以上,当該装置における演算は,ヤゲン形状を含めたレンズ形状についての演算が含まれているとみるべきである。
そして,刊行物5,甲21(特開昭61-274859号公報),甲22(特開平3-20602号公報),甲23(特開平3-135711号公報)に記載があるように,ヤゲン加工を含めたレンズ加工の可否を事前に確認することができ,これに基づいて形状情報等の当初の入力内容を変更(修正)可能にすることは,本件出願前の周知技術であり,この加工前の可否の確認・入力内容の変更を発注側コンピュータで可能にすることは,単なる設計事項といえる。
そうすると,相違点3に係る本件発明の構成は,刊行物3,5記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(なお,相違点1に係る本件発明の構成は,当業者が刊行物3発明及び周知技術(周知例として,特開昭62-169009号公報(判決注・甲15),特開昭62-215814号公報(判決注・甲7),特開平1-305308号公報(判決注・甲16),特開平3-20605号公報(判決注・甲17))から当業者が容易に発明をすることができたものであり,相違点2に係る本件発明の構成は,刊行物3,6,7に記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり,いずれも審決の判断のとおりである。
したがって,本件発明は,刊行物3,6,7,甲15ないし17,21ないし23記載の周知技術が奏する効果より優れた顕著な効果が見受けられないから,本件発明は,当業者が容易に発明をすることができたものである。)2 被告の反論(1) 取消事由1に対し本件発明(請求項1)における「発注側コンピュータ」とは,「眼鏡レンズの発注側に設置されている」コンピュータであり,「製造側コンピュータ」とは,このような「発注側コンピュータと情報交換可能に接続された」コンピュータであるのに対し,先願発明では,眼鏡レンズの供給システム全体が一つの装置となっており,発注側と受注側(製造側)とが区別されていない以上,先願発明において発注側コンピュータと区別された「製造側コンピュータ」がないことは明らかである。また,仮に先願発明のトレーサ演算制御回路と主演算制御回路が別個のコンピュータであるとしても,本件発明における「発注側コンピュータ」や「製造側コンピュータ」は,明細書の特許請求の範囲により特定されていない。
したがって,先願発明は本件発明と同一といえないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し原明細書(甲1)の段落【0018】以下の実施例の記載と本件明細書(甲8)の段落【0018】以下の実施例の記載とは全く同一であり,本件出願は原明細書の実施例を基礎とした分割出願であって,本件発明の各技術的要素はすべて原明細書に記載されているから,本件発明は原出願の適法な分割出願であるとした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3に対し審決は,相違点3として,「本件発明に係る眼鏡レンズの供給システムは,製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算・・・できるようにしたのに対し,刊行物3には,そのような構成について記載がない点」と認定している。審決の示した相違点の趣旨は,本件発明は製造側コンピュータと発注側コンピュータとの役割の相違に関して記載があるのに対して,刊行物3には,そのような構成に関する実質的な記載がないという点である。したがって,刊行物3に「眼鏡レンズにレンズ固定用の溝が存在すること」や「この溝に固定すべく玉型加工の際にはレンズに突起即ちヤゲンを立てること」が周知であるという事情が存在するか否かによって,審決がした相違点3の認定に誤りが生ずる余地はない。
そもそも,刊行物3は,アンカット方式(「眼鏡店がレンズの処方値や種類をレンズ製造工場,若しくは,レンズ問屋に伝え,縁摺り加工をしていないアンカットレンズ(「生地のレンズ」)を入手し,眼鏡店において,これにヤゲン加工をし,使用する眼鏡枠に枠入れ加工を施し,完成させる方式」)において,眼鏡店に製造側が供給するアンカットレンズのレンズ肉厚を眼鏡店が枠入れ加工するのに適したものとするため,眼鏡店からの情報に基づき加工側でアンカットレンズのレンズ肉厚を決定し,アンカットレンズを製造するというものであり,ヤゲン加工は製造側ではなく,眼鏡店で行うことを前提としたものである。
したがって,刊行物3には,相違点3に係る本件発明の「製造側コンピュータにおいてヤゲン形状を含めたレンズ形状を演算」する構成の記載がないとした審決の認定に誤りはない。
(4) 取消事由4に対しア本件発明は,ラボ方式を更に進化させ,ラボ方式において必要不可欠とされていた眼鏡枠の配送を必要とせずに,製造工場において,ヤゲン加工まで行い,当該ヤゲン加工済みレンズ(玉型加工済みレンズ)を眼鏡店に供給する通信玉型加工システムに関する発明である。
これに対して,刊行物3発明は,アンカット方式に関する発明であり,最適な肉厚のアンカットレンズ(生地レンズ)を眼鏡店に供給するための発明であるため,刊行物3には,通信玉型加工についてはおろか,通常の眼鏡店で行われる玉型加工に関する記載もなく,玉型加工のためのヤゲンのモードを含むヤゲン情報が一切開示されておらず,刊行物3における「レンズ製造工場」がヤゲン加工を行うものではない。
このように刊行物3発明では,レンズ製造工場から眼鏡店に送付されるのはアンカットレンズにすぎず,本件発明のように玉型加工済みレンズを眼鏡店に供給する発明とは,異なる技術分野に属する発明である。
のみならず,刊行物3には,「日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり,容認され難いであろう。」(2頁左下欄12行〜16行)と記載があるように,ラボ方式でさえ「容認され難い方式」とし,刊行物3発明は,「レンズ製造工場において枠入れ加工をする技術」を否定する発明であるから,刊行物3発明に,相違点3に係る本件発明の構成を付加することには阻害要因がある。
イ刊行物5には,確かに,通信玉型加工ではない技術に関する加工可否判定装置が記載されている。しかし,刊行物5の加工可否判定装置で使用されるフレーム形状情報は,2次元フレーム形状測定装置を用いて測定し,「ヤゲン溝の周長」及び「左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」を表示する機能は一切有しないものである。また,刊行物5の加工可否判定は,発注後に(ヤゲン加工を行う前段階として)行われる可否判断であるから,「少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認できる」ものでも,「当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できる」ようにしたものでもなく,刊行物5の「可否判断」は,本件発明の「可否判断」とは,判断内容が異なる。
また,甲21ないし23は,従来のアンカット方式において,ヤゲン加工を行う眼鏡店が,フレームを手元においたままでそのフレームの形状状態を確認しながらヤゲン加工を行うための同一切削装置(エッジャー)の発明であり,フレーム形状情報としても「ヤゲン溝の周長」及び「左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」を表示する機能を有しないだけでなく,発注側コンピュータと区別された製造側コンピュータにおいて,製造側がコンピュータが発注側コンピュータから入力,伝送された情報に基づいて演算し加工可否判断結果を発注側コンピュータに出力し,修正するものではない。
以上のとおり,刊行物5,甲21ないし23に示されている加工前のレンズ加工可否判断ないし演算は,本件発明のものとは全く異なるものであるから,加工前の可否の確認・入力内容の変更を発注側コンピュータで可能にすることは,単なる設計事項であるとはいえない。
ウ刊行物6には,眼鏡フレーム枠V状溝の内周長を測定する測定装置が記載されているが,その測定方法は,回転子17をフレーム枠23に沿って転がした上,回転子17の円周長に回転数を掛け合わせることでフレーム枠23の内周長を測定するというものである。フレームのV状溝は,眼鏡レンズは完全な円形ではないため,高さ方向である上下に変位しているが,この上下方向の変位に対しては,平行リンク14,バランスバネ19の作用によって回転子17を追従させる構成となっており,上下方向の変位量を測定していないため,測定される長さは,フレーム枠内周の投影図の長さにあたる2次元的な値である。これに対して,本件発明では,「3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として,・・ヤゲン溝の周長・・が表示される」のであるから,本件発明のヤゲン溝の周長が,高さ方向の変位を考慮する3次元データに基づく「周長」であることは明らかである。
以上のとおり,刊行物6の内周長と本件発明における「ヤゲン溝の周長」とは異なる概念である。
また,刊行物7における「傾き」とは,測定台に対するフレームの傾きを意味しており,本件発明の「左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」とは異なる概念であるから,刊行物7に「左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」が開示されているとはいえない。
エ本件発明は,「3次元形状測定装置によって得た3次元的枠形状情報を発注側コンピュータに入力するようにしたことにより,眼鏡レンズの発注及び受注処理を極めて効率的に行うことを可能にしている。また,エラーメッセージを表示することにより,無駄な処理を行う危険性を著しく軽減することを可能にしている。」(本件明細書の段落【0085】)という,通信玉型加工において必須の顕著な効果を奏する。したがって,アンカット方式に関する発明である刊行物3に刊行物5,6,7などを組み合わせることにより,このような効果を導くことはできない。
オしたがって,相違点3に係る本件発明の構成は,刊行物3ないし7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
本件の主要な争点は,取消事由3及び4(本件発明と刊行物3発明との相違点3の認定及び判断の誤り)である。そこで,この点を先に判断し,補充的な争点は後に判断することとする。
1取消事由3(本件発明と刊行物3発明との相違点3の認定の誤り)について(1)原告は,刊行物3には,「入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算・・・できるようにした」との構成が実質的に記載されているというべきであると主張する。
ア 刊行物3の記載刊行物3(甲3)には,以下のとおりの記載がある。
(ア)特許請求の範囲の請求項1として,「(1)レンズの処方値と,レンズの種類と,使用する眼鏡枠の種類と形状についての情報と及び該眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報とを眼鏡店頭に於いて把握し,レンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場ではその情報を基に該眼鏡枠に適したレンズ肉厚を決定し,該レンズを製造,供給する眼鏡レンズの供給方法。」(1頁左下欄)(イ)「本発明は眼鏡レンズの供給方法に関し,各々の眼鏡装用者の使用する眼鏡枠の種類及び形状に対し,最適な肉厚を有する眼鏡レンズを提供することを目的とする。現在,世界各国に於いて,眼鏡レンズを供給する方式は大別して2つの方式に分類される。1つは眼鏡店がレンズの処方値や種類をレンズ製造工場,若しくはレンズ問屋に伝え,縁摺り加工をしていない生地のレンズを入手し,眼鏡店に於いて使用する眼鏡枠に枠入れ加工を施し,完成させる方式で,日本,東南アジア,ヨーロッパ等で主に用いられており,アンカット方式と呼ばれている。他の1つは,視力検定医(optometrist)が,レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行ない,完成品を視力検定医へ送付する方式で,北米で主に用いられており,ラボ方式と呼ばれている。」(1頁右下欄11行〜2頁左上欄10行)(ウ)「少なくともラボ方式に於いては,使用する眼鏡枠の種類や形状について,レンズ製造工場側が把握しており,その眼鏡枠に最も適した厚みを有する眼鏡レンズを準備しうる点に於いて,アンカット方式と決定的に異なる。」(2頁左上欄16行〜右上欄1行),「ラボ方式では前述の如く,使用する眼鏡枠の種類や形状について,レンズ工場側が把握しており,各々の眼鏡枠に対し,最も適した厚みを有する眼鏡レンズを製造することが出来る。」(2頁左下欄5行〜9行)(エ)「ところが,ラボ方式に於いては,高価なフレームの輸送という工程がある為,破損や遺失による大きなリスクを伴なうという欠点がある。又,例えば現在の日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり,容認され難いであろう。」(2頁左下欄9行〜16行)(オ)「この点に鑑み,本発明は従来には無かった全く新しい発想に依り,アンカット方式が主流の市場にあってもラボ方式の長所を有し,前述の欠点を全て除去した全く新しい眼鏡レンズ供給方法を提供しようとするものである。」(2頁左下欄17行〜右下欄1行),「本発明による方法が従来の方式と最も異なるところは,眼鏡店に於いて眼鏡枠に関する情報を把握し,レンズ製造工場に伝えることにある。」(2頁右下欄2行〜4行)(カ)「眼鏡枠に関する情報としては次のものがある。
(イ) 眼鏡枠の種類即ち,合成樹脂製か,金属製か,ナイロン糸等で固定する方式か,等に関する情報であり,縁摺りされたレンズの最も薄い周辺の厚みを決定する際に必要となる情報である。又,眼鏡枠の品番等,後述の眼鏡枠の形状に関する情報を兼ねている場合もありうる。
(ロ) 眼鏡枠の形状眼鏡枠の大きさを正確に把握する為の情報であり,左右それぞれの眼鏡枠内の中心(フレーム・センターと呼ばれる。)相互の距離(フレ-ムPDと呼ばれる。),鼻幅(レンズ間距離とも呼ばれる。),枠の片眼の横幅(一般にAで表わされ,レンズサイズと呼ばれる。),及び縦幅(一般にBで表される。),更にフレ-ムセンタ-を中心として,眼鏡枠の縁までの距離を種々の方向に対して測定した寸法(即ち,フレ-ムセンタ-を中心とした眼鏡枠の極座標表示)等の情報である。この他,眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報,即ち,装用者の角膜頂点間距離(PDと呼ばれる。左右眼が対称で無いときは,左右一対の片眼PDと呼ばれる数値で表現されることもある。),又,レンズの光学中心や多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内に於ける配置を指定することもある。」(2頁右下欄5行〜3頁左上欄11行)(キ)「最適肉厚を備えた眼鏡レンズを供給する方法として次の態様がある。
(1)先ず,眼鏡枠の形状に関する豊富なデータをレンズ製造工場のコンピュータに予め蓄積しておく,・・・次に眼鏡店では顧客の選択した眼鏡枠に付された品番と,前述の主要寸法,すなわちレンズサイズや鼻幅等をレンズ製造工場に伝達する。その伝達手段としては,コンピュータ用オンラインや,ファクシミリあるいは電話通信等の手段がある。
(2)眼鏡枠の種類は,・・・それらを類型化して大きく分類すれば,・・・「なす型」や「四角型」等の数種のものとなる。そこで,これらの眼鏡枠の標準類型を型番号で表わしたデータをレンズ製造工場のコンピュータに蓄積しておき,眼鏡店では装用者の好みによって選択した型番号とその装用者のレンズ処方値および眼鏡枠の寸法情報すなわち横幅(A),縦幅(B)や枠内の瞳孔の位置を表すデータ(ED)等をレンズ製造工場に伝達する。
(3)眼鏡店に於いて第3図の2で示すような例えば格子状のチャート(又はこれに相当する測定器)が予め準備されており,装用者の好みによって或る眼鏡枠が決まると,その枠3をチャート2の所定位置に乗せ,枠中心O’から枠上の複数点n1,n2・・・nnまでのそれぞれの距離データを眼鏡枠形状データとして,前頂(2)で述べたレンズ処方値および眼鏡枠の寸法情報とともにレンズ製造工場に伝送する。」(3頁左上欄16行〜左下欄12行)(ク)「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない。即ち,眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨することにより,所望のレンズが得られるのである。」(3頁左下欄13行〜右下欄1行)イ 刊行物3の記載内容の検討(ア)上記記載によれば,刊行物3には,@刊行物3記載の眼鏡レンズの供給方法の発明は,アンカット方式が主流の市場にあっても,ラボ方式の長所を生かした眼鏡レンズの供給方法を提供しようとするものであり,眼鏡店において眼鏡枠に関する情報(眼鏡枠の種類及び形状)を把握し,これをレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場では,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう,所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造するものであること,A刊行物3記載の眼鏡レンズの供給方法が従来の方式と最も異なるところは,眼鏡店において眼鏡枠に関する情報を把握し,レンズ製造工場に伝えることにあること,B他方で,眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は,眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨することにより,所望のレンズを得るもので,従来のラボ方式による方法と何ら変る点はないこと,C眼鏡店からレンズ製造工場に伝達する眼鏡枠の形状情報としては,左右それぞれの眼鏡枠内の中心(フレーム・センター)相互の距離(フレ-ムPD),鼻幅(レンズ間距離),枠の片眼の横幅(レンズサイズ)・縦幅,フレ-ムセンタ-を中心とした眼鏡枠の極座標表示,眼鏡枠内におけるレンズ処方値の位置情報である装用者の角膜頂点間距離(PD),レンズの光学中心や多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内における配置等の情報があることが記載されている。
しかし,刊行物3には,眼鏡店からレンズ製造工場に伝達する眼鏡枠の情報として眼鏡枠の「ヤゲン溝の周長」についての直接の記載はないのみならず,全体を通してみても,「ヤゲン溝の周長」その他ヤゲン形状に係る情報について眼鏡店からレンズ製造工場に伝達したり,レンズ製造工場において枠入れ加工やヤゲン加工が行われることを開示ないし示唆する記載はない。
この点は,そもそも,刊行物3発明は,レンズ製造工場は,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造する役割を担うにとどまり,供給されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工を行うのは,眼鏡店であることを前提とした「眼鏡レンズの供給システム」に関する発明であることに由来する。
(イ)以上によれば,刊行物3記載の眼鏡レンズの供給方法は,「製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算」するという相違点3に係る本件発明の構成を備えていないというべきである。
そうすると,刊行物3発明に上記構成の記載がないとした審決の相違点3の認定に誤りはない。
ウこれに対し原告は,@レンズは,最終的に「枠入れ加工」されるものであり,「眼鏡枠にレンズ固定用の溝が存在すること」は周知であり,「この溝に固定すべく玉型加工の際にはレンズに突起即ちヤゲンを立てること」も周知であるから,少なくとも当業者においては,刊行物3発明における製造側コンピュータは,枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいて,ヤゲン形状を含めてレンズ形状を演算しているものと理解されること,A刊行物3には,ラボ方式について「視力検定医(optometrist)が,レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行ない,完成品を視力検定医へ送付する方式」とあるところ(前記ア(イ)),「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」(同(ク))との記載があることを根拠に挙げて,刊行物3には,本件発明に係る「製造側コンピュータにおいてヤゲン形状を含めたレンズ形状を演算」する構成が実質的に記載されていると主張する。
しかし,本件出願当時,「眼鏡枠にレンズ固定用の溝が存在すること」及び「この溝に固定すべく玉型加工の際にはレンズに突起即ちヤゲンを立てること」が周知であったとしても,前記認定のとおり,刊行物3には,刊行物3記載の眼鏡レンズの供給方法において「ヤゲン溝の周長」その他ヤゲン形状に係る情報について眼鏡店からレンズ製造工場に伝達したり,レンズ製造工場において枠入れ加工やヤゲン加工が行われることを開示ないし示唆する記載はなく,むしろレンズ製造工場では,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造するにとどまり,製造されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工は,眼鏡店,すなわち「発注側」において行うことが予定されていると理解されるから,刊行物3が「刊行物3発明における製造側コンピュータは,枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいて,ヤゲン形状を含めてレンズ形状を演算しているもの」ことを開示していると理解することはできない。
また,前記ア(ク)のとおり,刊行物3には,刊行物3記載の眼鏡レンズの供給方法について,「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」との記載があるが,その記載に続く部分(前記ア(ク))によれば,「従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」のは,「即ち,眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨することにより,所望のレンズが得られる」点であると理解することができるから,上記記載を根拠として刊行物3に「製造側コンピュータにおいてヤゲン形状を含めたレンズ形状を演算」する構成が実質的に記載されているとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
2取消事由4(本件発明と刊行物3発明との相違点3の判断の誤り)について(1)原告は,本件発明の相違点3に係る構成について,刊行物3,5記載の発明と刊行物5,甲21ないし23記載の周知技術(「ヤゲン加工を含めたレンズ加工の可否を事前に確認することができ,これに基づいて形状情報等の当初の入力内容を変更(修正)可能にすること」)から当業者が容易に想到できたものであり,また,本件発明では,刊行物3,6,7,甲15ないし17,21ないし23記載の周知技術が奏する効果より優れた顕著な効果が見受けられないことを前提として,本件発明は当業者が容易に発明をすることができたものではないとした審決の判断に誤りがあると主張する。
アまず,本件発明における「本件発明に係る眼鏡レンズの供給システムは,製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算・・・できるようにした」(相違点3)の目的について検討する。
(ア) 本件明細書(甲8)には,以下の記載がある。
@「【従来の技術】従来,眼鏡店舗等において,レンズがフレームに枠入れされた眼鏡を眼鏡注文者に提供するまでの作業は,まず,眼鏡店舗が,眼鏡注文者の処方および使用する眼鏡フレームの形状やサイズに基づき,眼鏡レンズを決定し,そのレンズをレンズ製造者に注文する。そして,眼鏡店舗は,製造者から届いたレンズを種々の加工機器を操作して,処方とレンズ情報と眼鏡フレーム情報とに基づき縁摺り加工およびヤゲン加工を行い,その加工されたレンズを眼鏡フレームに枠入れしている。なお,以下,レンズを眼鏡フレーム枠形状に合わせて研削加工することを「縁摺り加工」と定義し,また,縁摺り加工されたレンズにヤゲンを設ける加工を「ヤゲン加工」と定義する。」(段落【0002】)A「また,上記縁摺り加工およびヤゲン加工に関しては,眼鏡店舗で行われる縁摺り加工およびヤゲン加工を集約化して,加工センタで行うようにし,しかも眼鏡店舗と加工センタとを公衆通信回線で接続した眼鏡レンズ加工システムが,例えば特開平4-13539号公報に開示されている。」(段落【0005】),「これによれば,フレーム形状測定機を各眼鏡店舗に設置して眼鏡フレーム形状データを作成し,そのデータを公衆通信回線により加工センタに転送する。加工センタでは,予め指定されたレンズに対・・・し,眼鏡フレーム形状データに従い縁摺り加工およびヤゲン加工を行うようにしている。」(段落【0006】)B「【発明が解決しようとする課題】しかし,従来の眼鏡レンズの決定では,熟練者によるものはあったとしても装置によって,ヤゲン加工を考慮した上で眼鏡レンズを決定することはなされていなかった。」(段落【0007】),「すなわち,従来,ヤゲン加工の完了時におけるレンズ形状までの予測計算はなされておらず,したがって,ヤゲン加工をした結果,レンズ形状(レンズ外形,レンズ表面およびレンズ裏面の形状,レンズ厚さ等)が不適当なためにヤゲンを最適な位置に設けることができないという問題点があった。」(段落【0008】),「例えば,ヤゲン位置の選択によっては,眼鏡フレーム枠のカーブに比べ,眼鏡レンズのヤゲンカーブが浅くなる場合があるが,この場合には眼鏡フレームをヤゲンカーブに合わせるため変形させることになるが,この変形により,ヤゲン位置選択時の計算より眼鏡フレームのサイズが大きくなり,レンズ外径が不足したり,コバ厚が不足する事態が発生する。」(段落【0009】),「また,眼鏡フレームが変形できないものでは,眼鏡レンズのヤゲンは,眼鏡フレームの3次元形状に合わせねばならないが,眼鏡レンズの厚みや眼鏡フレームの形状によっては,ヤゲンカーブが眼鏡レンズの縁からはみ出てしまい,ヤゲンが立たないという事態も生じる。」(段落【0010】),「さらに,眼鏡レンズを眼鏡フレームに枠入れすることはできるものの,ヤゲン位置あるいはレンズ形状が適当でないため,枠入れ完了後の眼鏡の見栄えが悪く,眼鏡注文者に不満が残るということがある。すなわち,例えば,仕上がりの眼鏡レンズのコバ厚が厚過ぎたり,また,眼鏡フレームからのレンズの表面の出っ張りが目立ち過ぎるという不満が生じる。」(段落【0011】)C「こうした不満に対処するために,事前に仕上がり予想形状を確認でき,かつ,その確認の結果,例えば屈折率の高い材質のレンズに変更したり,また,表面カーブの浅いレンズに変更したりというレンズの変更ができるシステムが求められる。このようなシステムを実現するためには,左右フレーム枠のなす角度である傾斜角の情報を含む3次元的枠形状情報を正確に把握する必要がある。」(段落【0012】)D「本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり,3次元形状測定装置によって得た3次元的枠形状情報を発注側コンピュータに入力するようにし,眼鏡レンズの発注及び受注処理を極めて効率的に行うことを可能にした眼鏡レンズの供給システムを提供することを目的とする。」(段落【0013】),「上記課題を解決するための第1の手段は,眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え,前記発注側コンピュータが前記眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有し,前記製造側コンピュータが前記眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する眼鏡レンズの供給システムにおいて,前記発注側コンピュータにおいて,眼鏡レンズ情報,3次元的枠形状情報及び枠材質情報を含む眼鏡フレーム枠情報,処方値及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力する一方,前記製造側コンピュータにおいて,前記入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し,この演算処理結果に基づき,レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより,前記発注側コンピュータにおいて,少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき,かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにした眼鏡レンズの供給システムであって,前記発注側コンピュータには,3次元フレーム枠形状測定装置が接続されており,この3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果が前記3次元的枠形状情報として当該発注側コンピュータに入力されるようになっており,前記発注側コンピュータには,表示装置が接続され,該表示装置の画面には,前記3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示されることにより,当該出力結果が確認できるようになっていることを特徴とする眼鏡レンズの供給システムである。」(段落【0014】E「上述の第1の手段(判決注・本件発明(請求項1)と同一の構成である。)によれば,3次元形状測定装置によって得た3次元的枠形状情報を発注側コンピュータに入力するようにしたことにより,眼鏡レンズの発注及び受注処理を極めて効率的に行うことを可能にしている。また,3次元形状測定装置によって得た3次元的枠形状情報として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が,発注側コンピュータの表示装置に表示されるので,当該出力結果を確認することもできる。」(段落【0016】)F「【発明の効果】以上説明したように本発明は,3次元形状測定装置によって得た3次元的枠形状情報を発注側コンピュータに入力するようにしたことにより,眼鏡レンズの発注及び受注処理を極めて効率的に行うことを可能にしている。また,エラーメッセージを表示することにより,無駄な処理を行う危険性を著しく軽減することを可能にしている。」(段落【0085】)(イ)上記記載によれば,各眼鏡店舗に設置されたフレーム形状測定機により眼鏡フレーム形状データを作成し,そのデータを公衆通信回線により加工センタに転送し,加工センタでは,予め指定されたレンズについて上記データに従い縁摺り加工及びヤゲン加工を行うようにして,眼鏡店舗で行われる縁摺り加工およびヤゲン加工を集約化した眼鏡レンズ加工システムが従来技術として存在していたが,ヤゲン加工の完了時におけるレンズ形状までの予測計算はされていなかったため,ヤゲン加工をした結果,レンズ外径やコバ厚が不足したり,ヤゲンカーブが眼鏡レンズの縁からはみ出てしまいヤゲンが立たないという事態や,仕上がりの眼鏡レンズのコバ厚が厚過ぎたり,眼鏡フレームからのレンズの表面の出っ張りが目立ちすぎるなど,ヤゲンを最適な位置に設けることができないという問題点があったことから,本件発明は,「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え,前記発注側コンピュータが前記眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有し,前記製造側コンピュータが前記眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する眼鏡レンズの供給システム」において,相違点3に係る本件発明の構成(「製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し,この演算処理結果に基づき,レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより,発注側コンピュータにおいて,少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき,かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにした」構成)を採用することにより,ヤゲン加工の完了時におけるレンズの形状を考慮した上で発注する眼鏡レンズを決定することがされていなかったため生じていた従来技術における上記問題点を解決し,眼鏡レンズの発注及び受注処理を効率的に行うようにしたものであることが認められる。
そして,本件発明は,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」とを明確に区別し,製造側において枠入れ加工ないしヤゲン加工まで行うことを前提として,製造側コンピュータでヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し,この演算処理結果に基づく処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより,発注側においてレンズ加工の可否を発注前に確認できるようにしたものと認められる。
このように本件明細書には,相違点3に係る本件発明の構成を採用することにより,製造側コンピュータでヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算するとともに,この演算処理結果に基づいた可否判断処理を行い,その結果を発注側コンピュータに出力し,発注側コンピュータにおいてレンズ加工の可否を眼鏡レンズの発注前に確認できるようにするという効果を奏することが記載されているものといえる。
以上を前提に,審決における相違点3に関する判断の誤りの有無について検討する。
イ原告は,刊行物5(甲5)には,独立した単体のレンズ加工可否判定装置において,加工不可の場合の再入力・情報表示が記載されているが,この再入力・情報表示は,発注内容の変更を開示・示唆するものであり,刊行物5の当該装置において枠入れ加工が可能であり,レンズの加工可否においてヤゲン形状の情報を用いることは周知である以上,当該装置における演算は,ヤゲン形状を含めたレンズ形状についての演算を含んでいるとみるべきであると主張する。
(ア) 刊行物5(甲5)には,次のような記載がある。
@特許請求の範囲の請求項1として,「(1)被加工レンズが枠入れされる眼鏡フレームのレンズ枠またはそれから倣い加工された型板の形状を表すレンズ枠画像を画像表示する画像表示手段と;前記レンズ枠の幾何学中心に対する前記被加工レンズの光学中心位置を入力する位置入力手段と;前記被加工レンズの直径または半径値を入力するレンズ径入力手段とを有し;前記画像表示手段が前記光学中心位置に中心を有し前記直径または半径値を有するレンズ画像を前記レンズ枠画像と共に画像表示するよう構成されたことを特徴とするレンズの加工可否判定装置。」(1頁左下欄),請求項4として,「(4)被加工レンズが枠入れされる眼鏡フレームのレンズ枠またはそれから倣い加工された型板の形状データを入力し,その形状データに基いて被加工レンズを研削加工する玉摺機において,前記請求項第1項ないし第3項いずれかのレンズの加工可否判定装置を有することを特徴とする玉摺機。」(1頁右下欄)A「本発明は,玉摺機による未加工レンズの研削加工時に,未加工レンズから所望のレンズ枠形状のレンズが取れるか否かを,研削加工前に,判定できるレンズの加工可否判定装置およびそれを有する玉摺機に関する。」(2頁左上欄2行〜6行)B「さらに,レンズ加工工程の分業化,すなわち生地レンズの印点と吸着盤の吸着を含む軸出し作業と吸着後の生地レンズの玉摺機による加工工程の分業化,が進む今日では実際に加工してみたら所望のレンズ枠形状が取れなかったという失敗をまねくことがあった。通常一度加工を失敗した生地レンズは二度と加工に供することが不可能なことを考えれば,これは眼鏡店にとって大きな損失となる。」(2頁左下欄9行〜17行)C「フレーム形状測定装置10で眼鏡フレーム500のレンズ枠501の形状が測定され,その動径情報(ρ ,θ )がレンズ枠形状メ11モり101に記憶されると,操作者は・・・眼鏡フレームのフレームPD値FPDを入力し・・・『FPD』表示部221bに数値表示させる。次に,操作者は・・・装用者の瞳孔間距離値PDを入力し・・・さらに,上寄せ量UPを入力する必要があるときは,操作者は・・・上寄せ量UPを入力し・・・また,・・・右眼円柱軸角度α ,・・・左眼円柱軸角度α を入力し・・・数値表示させr lる。」(4頁右上欄3行〜左下欄8行)D「以上説明した実施例における加工可否判定装置や,これを有する玉摺機において,レンズ枠形状情報はフレーム形状測定装置10からのレンズ枠501の計測データが利用されるが,本発明はこれに限定されることはなく,レンズ枠形状情報は予めフロッピーディスクやICカード等の記憶媒体に記憶された情報を利用してもよいし,フレームメーカーや代理店とのオンライン情報を利用してもよい。」(8頁左上欄1行〜9行)(イ)上記(ア)@の記載によれば,刊行物5には,レンズの加工可否判定装置及びこの加工可否判定装置を有する玉摺機に係る発明が記載されている。
しかし,刊行物5の「通常一度加工を失敗した生地レンズは二度と加工に供することが不可能なことを考えれば,これは眼鏡店にとって大きな損失となる。」(上記(ア)B),「本発明は・・・フレームメーカーや代理店とのオンライン情報を利用してもよい。」(同D)との記載,及び刊行物3の「眼鏡レンズを供給する方式は大別して2つの方式に分類される。1つは眼鏡店がレンズの処方値や種類をレンズ製造工場,若しくはレンズ問屋に伝え,縁摺り加工をしていない生地のレンズを入手し,眼鏡店に於いて使用する眼鏡枠に枠入れ加工を施し,完成させる方式で,日本,東南アジア,ヨーロッパ等で主に用いられており,アンカット方式と呼ばれている。」(前記1(1)ア(イ))との記載や,刊行物4(特開平4-13539号公報。甲4)の「従来は,上記玉摺機と眼鏡フレーム形状測定装置を一体にして,または1セツトにして眼鏡店舗に設置し,顧客の選んだ眼鏡フレームに処方レンズを加工して枠入れしメガネを供給する方法が一般的であった。」(2頁左下欄13行〜17行)との記載に照らすならば,眼鏡店において,生地のレンズを入手してレンズ加工をし,枠入れ加工を行っていたことが,本件出願当時の通常の形態であったことが窺われる。
そうすると,刊行物5に記載されたレンズの加工可否判定装置を有する玉摺機は,眼鏡店に設置されることを前提としており,眼鏡店において,被加工レンズを研削加工するに際して,レンズの加工可否判定をするものであるのに対して,本件発明においては,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」とを明確に区別した上で,受注側において枠入れ加工ないしヤゲン加工まで行うことを前提とするものであることにおいて,両者は相違する。
(ウ)刊行物5には,レンズの加工可否判定の基礎となるレンズ枠形状情報として,動径情報(ρ ,θ ),フレームPD値FPD等を挙げ11るにとどまり(上記(ア)C),刊行物5全体をみても,ヤゲン形状を含めて演算したレンズ形状に基づいて加工可否を判断することについては記載も示唆もないから,刊行物5に記載されたレンズの加工可否判定装置を有する玉摺機において,ヤゲン形状を含めたレンズ形状についての演算が行われているものと理解することはできない。
したがって,刊行物5記載のレンズの加工可否判定装置における演算は,ヤゲン形状を含めたレンズ形状についての演算が含まれているとの原告の主張は,採用することができない。
ウ原告は,刊行物5,甲21ないし23に記載があるように,ヤゲン加工を含めたレンズ加工の可否を事前に確認することができ,これに基づいて形状情報等の当初の入力内容を変更(修正)可能にすることは,本件出願前の周知技術であり,この加工前の可否の確認・入力内容の変更を発注側コンピュータで可能にすることは,単なる設計事項といえるから,相違点3に係る本件発明の構成は,刊行物3,5記載の発明及び上記周知技術から当業者が容易に想到できたものであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,(ア)前記認定のとおり,@刊行物3記載の眼鏡レンズの供給方法は,眼鏡店において眼鏡枠に関する情報(眼鏡枠の種類及び形状)を把握し,これをレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場では,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう,所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造するものであるが,レンズ製造工場では枠入れ加工やヤゲン加工が行われるものではなく,製造されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工は,眼鏡店,すなわち「発注側」において行うことが予定されているものであるのに対して,本件発明は,「製造側」において枠入れ加工ないしヤゲン加工まで行うことを前提とするものである点において相違し,また,A刊行物5に記載されたレンズの加工可否判定装置を有する玉摺機は,眼鏡店において設置され,レンズの加工可否判定した上で,被加工レンズを研削加工するものであるのに対して,本件発明は,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」とを明確に区別し,受注側において枠入れ加工ないしヤゲン加工まで行うことを前提とするものである点において相違し,さらに,B刊行物3,5には,ヤゲン形状を含めたレンズ形状を演算したり,その演算に基づいてレンズの加工可否を判断することについて記載も示唆もない点で,本件発明と相違する。
(イ)そうすると,「ヤゲン加工を含めたレンズ加工の可否を事前に確認することができ,これに基づいて形状情報等の当初の入力内容を変更(修正)可能にすること」は周知技術であり,刊行物3に,上記周知技術と刊行物5に記載されたレンズの加工可否判定装置を有する玉摺機に係る技術を組み合わせたとしても,せいぜい,枠入れ加工ないしヤゲン加工を行う眼鏡店,すなわち「発注側」において,ヤゲン形状の情報を用いてレンズの加工可否判定を行うとの構成が導かれるにとどまり,「製造側」において枠入れ加工ないしヤゲン加工まで行うことを前提とした上での「製造側コンピュータにおいて,入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し,この演算処理結果に基づき,レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより,発注側コンピュータにおいて,少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき」るという構成を当業者が容易に想到できたものと解することはできない。
したがって,相違点3に係る本件発明の構成について,刊行物3,5記載の発明と上記周知技術から当業者が容易に想到できたとの原告の主張は採用することができない。
エまた,原告は,本件発明では,刊行物3,6,7,甲15ないし17,21ないし23記載の周知技術が奏する効果より優れた顕著な効果が見受けられないと主張する。
しかし,相違点3に係る本件発明の構成により奏する効果(「製造側コンピュータでヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算するとともに,この演算処理結果に基づいた可否判断処理を行い,その結果を発注側コンピュータに出力し,発注側コンピュータにおいてレンズ加工の可否を眼鏡レンズの発注前に確認できるようにするという効果」)は,刊行物3ないし7に記載された発明や上記周知技術からは予測できるものではないから,原告の上記主張は採用することができない。
(2)したがって,相違点3についての審決の判断に誤りはなく,本件発明は,刊行物3ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないとした審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由4は理由がない。
3 取消事由1(本件発明と先願発明との同一性の判断の誤り)について(1)原告は,審決が,先願発明は製造側コンピュータを有しないのに対して,本件発明は発注側コンピュータとは別個に製造側コンピュータを有する点で構成を異にし,先願発明と本件発明とは同一ではないと判断した点に誤りがあると主張する。
ア 先願発明の内容(ア) 先願明細書の記載先願明細書(甲2)には,次のような記載がある。
@特許請求の範囲として,「【請求項1】眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工機において,立体計測された眼鏡枠のレンズ枠形状を入力する入力手段と,該入力手段により入力された3次元レンズ枠形状からレンズ枠の周長を求める算出手段と,レンズのヤゲン先端軌跡がなすカ-ブ値を決定するヤゲンカ-ブ決定手段と,前記算出手段により求められたレンズ枠の周長に略一致するようなレンズのヤゲン先端の軌跡を演算する演算手段と,を有することを特徴とするレンズ周縁加工機。」,「【請求項2】請求項1のレンズ周縁加工機は,眼鏡枠のレンズ枠を立体計測する眼鏡枠形状測定装置と一体又はインタ-フェイスを介して結合していることを特徴とするレンズ周縁加工機。」A「【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基いて詳細に説明する。
(1)装置の全体構成図1は本発明に係るレンズ研削装置の全体構成を示す斜視図である。1は装置のベースでレンズ研削装置を構成する各部がその上に配置されている。2はレンズ枠及び型板形状測定装置で装置上部に内蔵されている。その前方には測定結果や演算結果等を文字またはグラフィックにて表示する表示部3と,データを入力したり装置に指示を行う入力部4が並んでいる。装置前部には未加工レンズの仮想コバ厚等を測定するレンズ形状測定装置5がある。6はレンズ研削部で,ガラスレンズ用の荒砥石60aとプラスティック用の荒砥石60bとヤゲン及び平加工用60cとから成る砥石60が回転軸61に回転可能に取付けられている。回転軸61はベース1にバンド62で固定されている。回転軸61の端部にはプーリ63が取付けられている。プーリ63はベルト64を介してACモータ65の回転軸に取付けられたプーリ66と連結されている。このためモータ65が回転すると砥石60が回転する。7はキャリッジ部で,700はキャリッジである。」(段落【0009】)B「(3)装置全体の電気制御系以上のような機械的構成を持つ本実施例の電気制御系を説明する。
第20図は装置全体の電気系ブロック図である。主演算制御回路は例えばマイクロプロセッサで構成され,その制御は主プログラムに記憶されているシーケンスプログラムで制御される。主演算制御回路はシリアル通信ポートを介して,ICカード,検眼システム装置等とデータの交換を行うことが可能であり,レンズ枠及び型板形状測定部のトレーサ演算制御回路とデータ交換・通信を行う。主演算制御回路には表示部3,入力部4及び音声再生装置が接続されている。また,測定用のホトスイッチ504,505,加工終了状態を検知する加工終了ホトスイッチ等の各ホトスイッチユニットやカバー開閉用・加工圧用・レンズチャック用の各マイクロスイッチユニットも主演算制御回路に接続されている。被加工レンズの形状を測定するポテンショメータ506はA/Dコンバータに接続され,変換された結果が主演算制御回路に入力される。主演算制御回路で演算処理されたレンズの計測データはレンズ・枠データメモリに記憶されている。キャリッジ移動モータ714,キャリッジ上下モータ728,レンズ回転軸モータ721はパルスモータドライバ,パルス発生器を介して主演算回路に接続されている。パルス発生器は主演算回路からの指令を受けて,それぞれのパルスモータへ何Hzの周期で何パルス出力するか,即ち各モータの動作をコントロールするための装置である。加工圧モータ733,レンズ計測モータ503及びカバー開閉用の各モータは主演算制御回路の指令を受けたドライブ回路により駆動される。磁石モータ65(判決注・「砥石モータ65」の誤記と認める。)及び給水ポンプモータは交流電源により駆動され,その回転・停止のコントロールは主演算制御回路からの指令で制御されるスイッチ回路により制御される。」(段落【0026】)C「次にレンズ枠及び型板形状測定部について説明する。レンズ枠・型板の形状を測定するポテンショメータ2130,2134及びフレームのリム厚を測定するポテンショメータ2046の出力はA/Dコンバータへ接続され,変換された結果はトレーサ演算制御回路へ入力される。フレーム確認用のマイクロスイッチ等の各マイクロスイッチユニットもトレーサ演算制御回路に接続されている。トレーサ回転モータ2107はパルスモータドライバを介して,トレーサ演算制御回路により制御される。またトレーサ移動モータ2152,フレーム固定ソレノイド64,測定子固定ソレノイド2164はトレーサ演算制御回路よりの指令を受けた各ドライブ回路により駆動される。トレーサ演算制御回路は例えばマイクロプロセッサで構成され,その制御はプログラムメモリに記憶されているシーケンスプログラムで制御される。また,測定されたレンズ枠・・・の形状データは一旦トレースデータメモリに記憶され,主演算制御回路に転送される。」(段落【0027】)D「(ニ)表示部及び入力部第18図は本実施例の表示部3及び入力部4の外観図で,両者は一体に形成されている。本実施例の入力部は各種のシートスイッチからなり,電源の入・切をコントロールするメインスイッチ400,各種の加工情報を入力する設定スイッチ群401及び装置の操作方法を指示する操作スイッチ群410とからなる。設定スイッチ群401には,被加工レンズの材質がプラスチックかガラスかを指示するレンズスイッチ402,フレームの材質がセルかメタルかを指示するフレームスイッチ403,加工モードを平加工かヤゲン加工かを選択するモードスイッチ404,被加工レンズが左眼用か右眼用か選択するR/Lスイッチ405,レンズ光心の上/下レイアウト及びPD値の遠用・近用変換を行う遠/近スイッチ406,設定データの変更項目を選択する入力切換スイッチ407,入力切換スイッチ407により選択された項目のデータを増減する+スイッチ408及び-スイッチ409が配置されている。操作スイッチ群410には,スタートスイッチ411,ヤゲンシュミレーション表示への画面切換スイッチも兼ねる一時停止用のポーズスイッチ412,レンズチャック開閉用のスイッチ413,カバー開閉用のスイッチ414,仕上げ二度摺い用の二度摺いスイッチ415,レンズ枠,型板トレースの指示をするトレーススイッチ416,レンズ枠及び型枠形状測定部2で測定したデータを転送させる次データスイッチ417がある。表示部3は液晶ディスプレイにより構成されており,加工情報の設定値,ヤゲン位置やヤゲンとレンズ枠との嵌合状態をシュミレーションするヤゲンシュミレーションや基準設定値等を後述する主演算制御回路の制御により表示する。第19図は表示画面の例であり,第19-1図はレンズの加工情報を設定するための画面で,第19-2図はヤゲンシュミレーションの画面である。」(段落【0025】)(イ) 先願発明先願明細書の上記記載によれば,先願発明に係るレンズ周縁加工機ないしレンズ研削装置は,装置を構成する各部(レンズ枠及び型板形状測定部(装置),表示部,入力部,レンズ形状測定部(装置),レンズ研削部,キャリッジ部)が一つのベース上に配置されており,装置を電気制御する主演算制御回路及びトレーサ演算制御回路は,例えばマイクロプロセッサで構成され,主演算制御回路は,電源の入・切をコントロールするメインスイッチ400,各種の加工情報を入力する設定スイッチ群401及び装置の操作方法を指示する操作スイッチ群410とからなる入力部4から入力された各種データ・指令に基づいて,レンズ研削加工に必要な情報を処理したり,レンズ形状測定装置5,レンズ研削部6の動作を制御する指令を出すとともに,表示部3における加工情報の設定値等の情報の表示を制御する機能を有し,トレーサ演算制御回路は,入力部3の操作スイッチ群410中のトレーススイッチ416から入力された指令を主演算制御回路を介して受け,その指令に基づいて,レンズ枠及び型板測定部2の動作を制御する指令を出し,その測定の結果得られたレンズ枠の形状データを,次データスイッチ417から入力された指令に基づいて,主演算制御回路に転送(入力)する構成を有していることが認められる。
イ 本件発明と先願発明との同一性前記のとおり,特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明は,「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え,前記発注側コンピュータが前記眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有し,前記製造側コンピュータが前記眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する」との構成を備えた「眼鏡レンズの供給システム」の発明であるから,本件発明においては,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」とが明確に区別され,それぞれの側に別個のコンピュータ(発注側コンピュータ及び製造側コンピュータ)が設置されていることを前提とした発明である。
これに対して,先願発明は,前記ア(イ)のとおり,レンズ研削加工のための各種条件の設定入力,加工情報等の表示,レンズ形状の測定,レンズ枠の測定,レンズ研削加工等レンズ研削加工のための条件設定からレンズ研削までの各処理が,一つの装置の中で一体として行われているレンズ周縁加工機ないしレンズ研削装置の発明であることが認められ,そもそも,先願発明においては,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」との明確な区別をしていないことを前提とした発明であり,本件発明は先願発明と同一でない。
仮に審決が摘示するように「レンズ研削部に研削・加工の指示を出す発注側とそれらの指示を受け取るレンズ研削部すなわち製造側」(審決書15頁24行〜25行)と理解して「発注側」と「製造側」とを区別するとしても,前記ア(イ)のとおり,先願明細書記載の主演算制御回路は,レンズ研削加工に必要な情報を処理し,その情報を表示部に表示させるとともに,レンズ研削加工の動作を制御する指令を出す機能を有するのであるから,上記区別に従えば,「発注側」に設置された制御回路に該当するというべきである。また,先願明細書記載のトレーサ演算制御回路は,前記ア(イ)のとおり,レンズ枠測定部の動作を制御する指令を出し,測定したレンズ枠の形状データを主演算制御回路に転送(入力)する機能を有するものであり,この機能はメガネレンズの発注に必要な情報の一つを処理する機能であるから,「発注側」に設置された制御回路に該当するというべきである。
このように審決がいう「発注側」と「製造側」の区別に従っても,先願明細書記載の主演算制御回路及びトレーサ演算制御回路は,いずれも発注側に設置されたものであって,本件発明の「製造側コンピュータ」に相当するものでないことは明らかである。
そうすると,先願発明と本件発明の同一性を否定した審決の認定判断に誤りはない。
(2)これに対して,原告は,以下のとおり主張するが,いずれも採用できない。
アまず,原告は,先願明細書記載のトレーサ演算制御回路は,製造側コンピュータに相当し,主演算制御回路は,モータドライバを介して砥石モータと接続されるので,製造側コンピュータに相当し,また,先願明細書記載の請求項2は,「レンズ周縁加工機は,・・・眼鏡枠形状測定装置と・・・インターフェイスを介して結合している」というもので,トレーサ演算制御回路と主演算制御回路との個別性に言及しているものであり,先願発明は,発注側コンピュータと製造側コンピュータを併せ持つと主張する。
しかし,前記認定のとおり,先願発明においては,レンズ研削加工のための条件設定からレンズ研削までの各処理が,一つの装置の中で一体として行われており,本件発明のように,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」とを画然と区別したものではなく,また,主演算制御回路は,レンズ研削加工に必要な情報を処理し,その情報を表示部に表示させるとともに,レンズ研削加工の動作を制御する指令を出す機能を有するもので,眼鏡レンズの発注に必要な処理を行うものであるから,「発注側」とは別個の「製造側」に設置されたコンピュータであるとはいえない。このことは,主演算制御回路がモータドライバを介して砥石モータと接続されていることや,レンズ周縁加工機が眼鏡枠形状測定装置とインターフェイスを介して結合していることによって,何ら左右されるものではない。
したがって,先願発明は発注側コンピュータと製造側コンピュータを併せ持つとの原告の主張は,採用することができない。
イまた,原告は,本件発明は「この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え」と特定されているから,製造側コンピュータは発注側コンピュータに情報交換可能に接続されていればよいのであって,装置として一体か別体かは関係がないと主張する。
しかし,先に説示したとおり,本件発明は,眼鏡レンズを発注する「発注側」と,これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」とが明確に区別され,それぞれの側に別個のコンピュータ(発注側コンピュータ及び製造側コンピュータ)が設置されている構成を備え,このように発注側コンピュータと製造側コンピュータとが別個に設置されたことを前提として,製造側コンピュータと発注側コンピュータが情報交換可能に接続されたものというべきであるから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。
(3) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(本件出願の分割出願の要件の判断の誤り)について(1)原告は,本件発明は,3次元フレーム枠形状測定装置の「出力結果」の構成要素として「フレームカーブ」,「ヤゲン溝の周長」,「瞳孔間距離」及び「傾斜角」を選択し,この組合せで構成要素が特定されているのに対して,原明細書には,出力結果として多数の構成要素が挙げられ,本件発明の上記組合せで選択する旨の記載はないので,本件出願は,原出願に実質的に開示されていない事項を付加したものであり,分割出願の要件を満たさず,したがって,本件出願の出願日は,原出願の出願日に遡及せず,現実の出願日(平成11年7月27日)であり,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1(原明細書)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと主張する。
ア しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
(ア)原明細書(甲1)には,「〔S6〕測定すべき眼鏡フレームをフレーム形状測定器102に固定して測定を開始する。フレーム形状測定器102は,眼鏡フレームの左右枠のヤゲン溝に測定子を接触させ,その測定子を所定点を中心に回転させてヤゲン溝の形状の極座標値を3次元的に測定し,データを得る。つぎに,それらのデータのスムージングを行い,フレームカーブCV,ヤゲン溝の周長L,フレームPD(瞳孔間距離)FPD,フレーム鼻幅DBL,フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ,有効径ED,左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILTを算出する。そして,フレーム形状測定器102は,これらの算出されたデータを端末コンピュタ101に送り,画面表示装置に表示させる。なお,データに大きな乱れがあったり,左右フレーム枠の形状に大きな差があったりした場合には,その旨のエラーメッセージを画面表示装置に表示する。」(段落【0035】)との記載がある。
上記記載及び図1(甲1)によれば,原明細書には,フレーム形状測定器102において算出された眼鏡フレームの「フレームカーブCV,ヤゲン溝の周長L,フレームPD(瞳孔間距離)FPD,フレーム鼻幅DBL,フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ,有効径ED,左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILT」の各データが,フレーム形状測定器102から端末コンピュタ101に送られ,その画面表示装置に表示されることが記載されているものと認められる。
(イ)そして,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明においては,「発注側コンピュータには,表示装置が接続され,該表示装置の画面には,前記3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示される」構成を有するものであるところ,その3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として表示装置の画面に表示される「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」の各データは,いずれも原明細書において端末コンピュタ101の画面表示装置に表示されるデータに含まれているから,本件発明の上記構成は原明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
また,本件明細書(甲8)には,前記ア(ア)の原明細書の記載部分と同一の記載(段落【0035】)のほかに,「また,3次元形状測定装置によって得た3次元的枠形状情報として,少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が,発注側コンピュータの表示装置に表示されるので,当該出力結果を確認することもできる。」(段落【0016】)との記載があるが,表示装置の画面に表示されるデータを「少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」と特定したことによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することについての記載はない。
(ウ)加えて,原明細書の段落【0001】,【0002】,【0035】,【0036】,【0039】,【0040】ないし【0042】,【0085】ないし【0088】等には,本件発明(請求項1)の各構成要件が開示されているものと認められる。
(エ)そうすると,本件出願は原出願との関係で特許法44条1項分割出願の要件を満たすというべきであり,同条2項の規定により,本件出願の出願日は原出願の出願日である平成4年6月24日に遡るものと認められる。
イこれに対し原告は,原明細書には,画面表示装置に表示されるデータとして,「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」(本件発明のもの)のほかに,多数の構成要素が挙げられ,本件発明のデータの組合せを選択する旨の記載はないから,本件出願は分割出願の要件を満たさないと主張する。
しかし,前記ア(イ)のとおり,本件明細書には,本件発明で特定されたデータによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することの記載はなく,このような作用効果を奏するものとは認められないので,原明細書に,本件発明で特定されたデータの組合せを選択する旨の記載はないからといって,本件出願は分割出願の要件を満たさないということはできず,原告の上記主張は採用することができない。
(2)したがって,本件出願は原出願との関係で分割出願の要件を満たすとした審決の判断に誤りはないから,本件出願が分割出願の要件を欠くことを前提とする原告主張の取消事由2は,理由がない。
5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀
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