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関連審決 異議1998-70682
関連ワード 創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  実質的に同一 /  債務不履行 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  実施 /  権原 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  既判力 /  請求の範囲 /  変更 /  釈明 /  要旨変更 /  同一事実(同一の事実) /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 22355号 損害賠償請求事件
平成 18年 (ワ) 26612号 損害賠償請求事件
神奈川県相模原市<以下略>
本訴原告(反訴被告)株式会社イー・ピー・ルーム (以下「原告」という。) 東京都港区<以下略>
本訴被告(反訴原告)住 友石炭鉱業株式会社(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士冨永敏文
同 尾原央典
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えをいずれも却下する。
2原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
3原告は,被告に対し,金10万5000円及びこれに対する平成18年11月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4訴訟費用は,本訴反訴を通じ原告の負担とする。
5この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1本訴請求2(1)被告は,原告に対し,原告の特許第2640694号「放電焼結装置」に対する異議申立ては,特許出願前の特許第96574号「硬質金属合成物製造装置」公報及び実公昭46-5289号「直接通電式加圧焼結炉」公報に基づき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,原告に対し,原告の特許第2640694号「放電焼結装置」に対する異議申立ては,判例東京高裁判決昭和32年()33号に基行ナづき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告は,原告に対し,原告の特許第2640694号「放電焼結装置」に対する異議申立ては,特許出願前の実公昭46-5289号「直接通電式加圧焼結炉」公報に基づき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告は,原告に対し,原告の特許第2640694号「放電焼結装置」に対する異議申立ては,判例東京高裁判決昭和32年()58号に基行ナづき取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告は,原告に対し,原告の特許第2640694号「放電焼結装3置」に対する異議申立ては,上記(1)ないし(4)のとおり本件取消決定要旨変更に基づく取消理由は全部無効であるところ,無効な要旨変更に基づいてした刊行物特開平4-9405号に記載された発明,及び対比・判断には取消決定無効事由を有することが明らかであり,特許法に認められた本件異議申立ては権利の濫用として許されないから,権利濫用による損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被告は,原告に対し,取引基本契約の債務不履行により原告に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)被告は,原告に対し,原告の著作権を侵害して原告に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)被告は,原告に対し,原告の放電焼結装置の設計図,部品図一式貸してくれといって占有し,原告に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)被告は,原告に対し,被告が占有する原告の放電焼結装置の設計図,部品図一式により放電焼結装置を製造販売して原告に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(10)被告は,原告に対し,部品図の署名「酒寄」を切り取り,設計図に切り貼りし,偽造して原告に被らせた損害金の一部金5万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2本訴請求に対する答弁4主文第1項及び第2項と同旨3反訴請求主文第3項と同旨4反訴請求に対する答弁反訴請求を棄却する。
第2事案の概要本訴は,原告が,被告に対し,原告が有していた放電焼結装置についての特許に対して被告がした異議申立ては権利の濫用であって不法行為に当たる(本訴請求(1)ないし(5)),また,被告に,原告被告間で締結した契約の債務不履行,及び原告が作成した設計図の著作権(複製権)侵害等があった(本訴請求(6)ないし(10))と主張して,それぞれについて,損害15億円のうち5万円(ただし,本訴請求(1)ないし(5)については,請求として同一であると解されるので,一部請求額は,合計25万円となる。)及びこれらに対する平成18年11月7日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告が,本訴請求(1)ないし(5)については,実質的には関連訴訟で認められなかった請求及び主張を蒸し返すもので信義則に反して許されないとして却下を求めるとともに,本訴請求(6)ないし(10)については,主張されている事実はないとして,棄却を求めた事案である。
反訴は,被告が,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,関連訴訟の確定判決等により認められなかった請求と実質的に同一の請求を行うもので,これに係る訴訟の提起が不法行為に該当するとして,再度の応訴のために委任した弁護士に支払った費用10万5000円及び平成18年11月30日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,原告が,棄却を求めた事案である。
1前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)5(1)当事者原告は,機械設計を業とする会社であり,被告は,放電プラズマ焼結装置の製造・販売等を業とする会社である(甲29,弁論の全趣旨)。
(2)原告の有していた特許権原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権の特許請求の範囲請求項1ないし3に係る特許を「本件特許」,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)を有していた(甲9,12)。
特許番号第2640694号発 明 の 名 称放電焼結装置出 願 年 月 日平成2年9月18日優先日平成2年2月2日公開日平成4年1月14日公開番号特開平4-9405号登 録 年 月 日平成9年5月2日(3)被告による特許異議の申立て被告は,平成10年2月13日,本件特許に対し,特許異議の申立てをした(平成10年異議第70682号,以下「本件特許異議申立て」という。)。特許庁は,平成13年7月4日,本件特許を取り消す旨の決定をした(以下「本件取消決定」という。)。
原告は,平成13年8月21日,本件取消決定の取消しを求めて,東京高等裁判所に取消訴訟を提起した。同裁判所は,平成15年4月9日,原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
本件取消決定は,平成15年10月9日,上告不受理決定等により確定した。
同月22日,本件特許の登録を抹消する旨の登録がされた(甲12)。
(4)関連訴訟6ア東京地方裁判所平成18年( )第4428号・同年( )第6631号事ワ ワ件(乙1,以下「前訴@」という。)原告は,被告に対し,本件特許異議申立てが不法行為に当たると主張して,損害賠償の一部請求として10万円の支払等を求めるとともに,本件取消決定の取消理由は無効であることの確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成18年( )第4428号・同年( )第663ワ ワ1号)。
同訴訟において,原告は,請求を基礎付ける事実として,被告による本件特許異議申立てが,実公昭46-5289号公報(甲15,以下「昭46公報」という。)が存在するにもかかわらずされた違法なものであるとして不法行為が成立する旨を主張したが,同裁判所は,平成18年6月30日,10万円の支払等の請求を棄却し,無効確認を求める訴えを却下する旨の判決をした(乙1)。
この判決は,確定している。
イ東京地方裁判所平成18年( )第11210号事件(乙2,以下「前訴ワA」という。)原告は,被告に対し,前訴@と同様に,本件特許異議申立てが不法行為に当たると主張して,15億円の損害の一部請求として10万円の支払を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成18年( )第11ワ210号)。
同訴訟において,原告は,請求を基礎付ける事実として,本件発明についての出願に関する平成7年3月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,昭46公報や,東京高裁昭和32年()第58号同行ナ39年6月2日判決(甲20の2,以下「昭和39年判決」という。)などに照らせば,要旨変更に該当せず,本件取消決定における本件特許を取り消した理由は存在しないのであって,本件特許異議申立てが権利の濫用7として許されない旨を主張したが,同裁判所は,平成18年8月31日,原告の請求を棄却する旨の判決をした(乙2)。
この判決は,確定している。
ウ東京地方裁判所平成18年( )第17644号事件(乙3,以下「前訴ワB」という。)原告は,被告に対し,主位的に,前訴@及びAと同様に,本件特許異議申立てが不法行為に当たると主張して,15億円の損害の一部請求として10万円の支払を求め,予備的に,被告が原告の著作権を侵害したと主張して,1億円の損害の一部請求として10万円の支払を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成18年( )第17644号)。
ワ同訴訟において,原告は,請求を基礎付ける事実として,昭46公報により本件補正後の構造は公知であり,本件補正は要旨変更に当たらず,本件取消決定における取消理由も理由がないから,本件特許異議申立ては権利の濫用として許されない旨を主張した。しかし,同裁判所は,平成18年9月22日に口頭弁論を終結し(なお,本件訴訟は同年10月9日に提起された。),同年10月24日,主位的請求,予備的請求に係る訴えをいずれも却下する旨の判決をした(乙3)。主位的請求については,前訴@及びAにおける損害賠償請求と同一の理由に基づく損害賠償請求権の残部を請求するものであり,信義則に反し,許されない旨判示された(乙3)。
この判決に対しては,原告が控訴を提起している(甲34の1,34の2)。
2当事者の主張(1)本訴請求(1)ないし(5)について(原告の主張)ア本件取消決定における取消理由8本件取消決定における取消理由は,本件発明についての本件補正が,明細書又は図面の要旨を変更するものであり,本件発明についての出願日は,平成7年3月14日とみなされるから,本件発明は,本件特許の公開公報であり,その出願前に頒布された特開平4-9405号公報(甲4,以下「平4公報」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,本件特許は,特許法29条2項の規定に反してなされたというものである。
本件取消決定は,本件補正について,放電焼結装置において,チャンバーを電極に対して相対的に移動させるために,一方の電極に固定したフランジにベローズを介してチャンバーの一端部を支持する構造(以下「ベローズを有する本件補正前の構造」という。)の代わりに,電極に嵌合したチャンバーフランジにチャンバーの一端部を支持する構造(以下「ベローズを省略した本件補正後の構造という。)とすることを内容とするものであって,要旨変更に当たると判断している。
イ本件取消決定は無効であること( )本訴請求(1)についてアベローズを有する本件補正前の構造は,特許第96574号公報(甲14,以下「本件周知公報」という。)により,出願時において周知,慣用技術であり,他方,ベローズを省略した本件補正後の構造は,昭46公報により,出願時において周知,慣用技術であった。
そうすると,本件補正は,出願時における周知,慣用技術を,同様に,出願時における周知,慣用技術に補正するものであり,要旨変更に当たらず,本件取消決定は,無効となる事由を有する。このような場合の本件特許異議申立ては,権利の濫用として許されない。
( )本訴請求(2)についてイ本件取消決定は,ベローズを省略した本件補正後の構造は,出願時に9おいて周知,慣用技術であったとは認められず,また,当業者にとって当初明細書等の記載からみて自明な事項であるとも認められない旨判断しているが,他方で,ベローズを有する本件補正前の構造から,電極に嵌合したチャンバーフランジにチャンバーの一端部を支持する構造(ベローズを省略した本件補正後の構造)とすることは,当業者が容易に想到し得るものである旨認定しており,ベローズを省略した本件補正後の構造が出願前に公知であれば,同構造に代えることは自明な事項である。
そして,ベローズを省略した本件補正後の構造は,上記( )記載のとおアり,出願前に公知である。
東京高裁昭和32年()第33号同37年6月28日判決(甲20行ナの1,以下「昭和37年判決」という。)では,「特許請求の範囲に単なる従来の公知技術方法を補足記載し,出願の方法もこれによるものであることを明らかにするものであるにすぎないような場合には,明細書が不完全に作製された場合における不明瞭な記載の釈明と解すべく,これによって,実施不可能なものを実施可能なものとしたもの(要旨の変更)と解すべきではない」旨判示しているから,この判決に照らし,本件補正が自明な事項でないとの本件取消決定における判断は,誤りであって,無効となる事由を有する。このような場合の本件特許異議申立ては,権利の濫用として許されない。
( )本訴請求(3)についてウベローズを省略した本件補正後の構造は,上記( )記載のとおり,昭ア46公報により出願前に公知であるから,本件補正は要旨変更とはならず,本件取消決定は,同公報に基づいて無効となる事由を有する。このような場合の本件特許異議申立ては,権利の濫用として許されない。
( )本訴請求(4)についてエ本件取消決定は,ベローズを有する本件補正前の構造から,電極に嵌10合したチャンバーフランジにチャンバーの一端部を支持する構造(ベローズを省略した本件補正後の構造)とすることは,当業者が容易に想到し得るものである旨認定しているところ,これは,ベローズを省略した本件補正後の構造が出願前に公知であれば,明細書中に示唆されていると認定しているものである。しかるところ,ベローズを省略した本件補正後の構造は,上記( )記載のとおり,出願前に公知である。
ア昭和39年判決では,「補正前の明細書に明らかに示唆するものと解することができる記載の補正は,要旨変更ではない」旨判示しているから,この判決に照らし,明細書中に示唆されているところに従ってなされた本件補正を要旨変更である旨判断した本件取消決定は,無効となる事由を有する。このような場合の本件特許異議申立ては,権利の濫用として許されない。
( )本訴請求(5)についてオ本件取消決定が取消理由としている要旨変更の記載全部が,上記( )アないし( )のとおり無効なものであり,平4公報を刊行物として行ったエ取消理由の判断も無効となるから,本件取消決定は,無効となる事由を有する。このような場合の本件特許異議申立ては,権利の濫用として許されない。
( )損害についてカ原告は,被告の権利濫用不法行為により,損害を被ったが,その額は,特許法により,被告が本件発明の技術的範囲に属する機械を製造販売して得た利益15億円であると推定される。
原告は,このうち,本訴請求(1)ないし(5)について,それぞれ,一部請求として5万円(総額25万円)を請求する。
( )被告の本案前の答弁についてキa本訴請求(1)ないし(4)は,本件取消決定が取消しの事由とし11ている要旨変更に関する記載の段落ごとに取消決定無効事由があるとして,損害金の一部を請求するものである。
本訴請求(5)は,本訴請求(1)ないし(4)に係る主張に基づいて,本件取消決定全体に無効事由があるとして損害金の一部を請求するものである。
したがって,既判力に反するか信義則に反する旨の被告の主張は失当である。
b被告は,前訴Bの判決が,1個の金銭債権の数量的一部請求で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されない旨判示した最高裁平成9年( )第849号オ同10年6月12日第二小法廷判決(民集52巻4号1147頁,甲37)を引用して判断したことをもとに,本訴請求は信義則に反して許されない旨主張する。
しかし,知的財産権に関する本訴は,被告が製造販売した放電焼結装置の1個ごとに損害賠償請求権,差止請求権が成立するから,本訴に上記判決を適用することは失当である。
また,前訴Bは,その他にも事実誤認,理由齟齬,法判断の誤りがあるから,この判決に基づく被告の主張も理由がない。
(被告の主張-本案前の答弁)ア既判力違反又は重複する訴え本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,本件特許に対し被告が特許異議を申し立てたことが権利の濫用であると主張するものであるが,前訴@及びAの事案と同一の事実を審判の対象とし,同一の理由に基づいて再度裁判所の判断を求めようとするものであって,既判力に反する。
また,前訴Bの判決は,原告の控訴提起によって確定していないが,そうであれば,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,前訴@ないしB12と重複する訴えとなる。
信義則違反本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,上記アのとおりであり,前訴@ないしBで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであるから,信義則に反して許されない。
ウまとめしたがって,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,却下されるべきである。
(2)本訴請求(6)ないし(10)について(原告の主張)ア本訴請求(6)について原告と被告は,取引基本契約(甲6,以下「本件基本契約」という。)を締結した。その上で,原告と被告は,原告作成の設計図による製品を,原告が有限会社北栄興業(以下「北栄興業」という。)において製造して被告に納入する旨の合意(以下「本件製造納入合意」という。)をした。
そして,放電焼結機に大きな焼結品を出し入れするワークローダーについては,本件製造納入合意に基づいて,原告が設計し,北栄興業が製造して,被告に納入された。
ところが,原告作成の設計図(甲8の1,以下「本件原告設計図」という。)による放電焼結装置については,本件製造納入合意が履行されず,被告は,原告が作成した図面一式を詐欺に当たる手段で取得し,株式会社A(以下「A」という。)に交付して放電焼結装置()(甲2SPS-510L9)を製造させた。被告のこの行為は,原告被告間の本件製造納入合意に反する債務不履行となる。
被告は,これにより少なくとも1億円の利益を得ているものと推測され,同額は特許法により原告が被った損害の額と推定される。原告は,このう13ち,一部請求として5万円の支払を求めるものである。
イ本訴請求(7)について被告は,本件原告設計図の原告代表者署名部分を切り取り,被告の名称欄を貼り付けて,設計図を作成した(甲8の2,以下「本件被告設計図」という。)。その上で,本件被告設計図を複写して,Aに交付した。
本件原告設計図は,著作権法2条1項1号に規定する思想を創作的に表現したものであって,学術の範囲に属するものであるから,著作権法10条1項6号規定の著作物である。したがって,被告の上記行為は,複製権侵害に該当する。
ウ本訴請求(8)について被告は,被告の方式で図面番号を付したいから,本件原告設計図,部品図を貸してくれと言って占有し,原告に損害を被らせた。被告のこの行為は,詐欺に該当する不法行為となる。
エ本訴請求(9)について被告は,被告が占有する本件原告設計図により放電焼結装置を製造販売し,原告に損害を被らせた。被告のこの行為は,横領に該当する不法行為となる。
オ本訴請求(10)について被告は,本件原告設計図の原告代表者署名部分を切り取り,被告の名称欄を切り貼りして,本件被告設計図を作成した。被告のこの行為は,私文書偽造に該当する。
カ本訴請求(7)ないし(10)の損害について原告は,本訴請求(7)ないし(10)に係る被告の不法行為により,損害を被ったが,その額は,特許法により,被告が本件発明の技術的範囲に属する機械を製造販売して得た利益15億円であると推定される。
原告は,このうち,本訴請求(7)ないし(10)について,それぞれ,14一部請求として5万円を請求する。
(被告の主張)ア本訴請求(6)について原告の主張は否認する。被告が,本件原告設計図に基づき甲29の装置を製造・販売した事実はない。また,被告は同装置の製造・販売により1億円の利益を得ていない。
イ本訴請求(7)について原告の主張は否認する。被告が,本件原告設計図に被告の名称欄を貼り付けて本件被告設計図とした事実はない。原告は,著作権法違反を主張するが,前訴Bの判決において判示されているように,本件原告設計図は著作権法上保護される著作物ではないから,原告の主張は失当である。
ウ本訴請求(8)について原告の主張は否認する。また,仮に,被告が,原告から部品図の交付を受けたとしても,その行為は詐欺ではないし,原告に損害も発生していない。
エ本訴請求(9)について原告の主張は否認する。上記アのとおり,被告が,本件原告設計図に基づいて放電焼結装置を製造・販売した事実はない。
オ本訴請求(10)について原告の主張は否認する。被告は,原告代表者署名部分の切り取りや被告の名称欄の切り貼りをしておらず,私文書偽造行為をしていない。
(3)反訴について(被告の主張)前訴Bの判決は,以下のとおり判示している。
「これを本件についてみるに,本訴における主位的請求は,前訴における損害賠償請求と同一の理由に基づく損害賠償請求権の残部を請求するもので15あり,前訴における損害賠償請求と同一の事実を審判の対象とし,同一の理由に基づいて再度裁判所の判断を求めようとするものであって,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものと評価せざるを得ない。
また,本訴における主位的請求は,前訴の確定判決により当該損害賠償請求権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。前訴においても,本件特許異議の申立てが権利の濫用に当たるか否かが主な争点となり,原告は同争点について前訴で主張,立証を尽くしたものであって,原告が前訴において訴訟活動を充分になし得なかった事由は存しないから,原告の本訴における主位的請求を認めないと当事者間の公平を害するような特段の事情もない。
そうすると,前訴で敗訴した原告が,本訴において本件特許異議の申立てが不法行為に当たることを理由とする損害賠償請求をすることは,信義則に反し,許されないというべきである。
以上のとおり,主位的請求に係る訴えは,信義則に反し許されないから,却下を免れない。」本訴請求(1)ないし(5)についても,前訴Bにおいて上記のとおり判断されたにもかかわらず,前訴Bにおける請求及び主張と同様に,前訴@及びAにおける損害賠償請求と同一の理由に基づく損害賠償請求の残部を請求するものであり,実質的に前訴@及びAで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであるから,信義則に反し,被告に応訴の負担を強いる不法行為を構成する。
被告は,本訴の対応及び反訴請求について,弁護士を委任せざるを得ず,その費用として21万円を支出した。本訴請求(1)ないし(10)のうち,前訴@及びAの蒸し返しに当たるのは本訴請求(1)ないし(5)であるから,上記費用の半額である10万5000円が,上記原告の不法行為により被告が受けた損害となる。
16したがって,10万5000円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成18年11月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(原告の主張)前訴@の判決において,「本件異議申立てが権利の濫用に当たることを認めるに足りる事実の主張立証はない。」旨判示しているにもかかわらず,確定していない前訴Bの判決の判示を援用し,「本件特許異議申立てが権利の濫用に当たる主張を前訴で尽くした」旨主張するのは,失当である。
確定した前訴Aの判決においては,「本訴は,前記不法行為による損害金15億円の一部である10万円を請求するというものであるから,直ちに前訴の訴訟物と本訴の訴訟物とが同一のものであるということはできない。」旨判示しているにもかかわらず,確定していない前訴Bの判決の判示を援用した「前訴を蒸し返す」旨の主張は失当である。
また,訴訟は本人訴訟が建前であり,被告が訴訟行為を委任した訴訟代理人との委任契約により訴訟代理人に支払う料金を,原告が負担する義務はない。
第3当裁判所の判断1本訴請求(1)ないし(5)について(1)本訴請求(1)ないし(5)に係る主張の概要原告は,上記第2,2(当事者の主張)(1)(原告の主張)イ( )ないアし( )のとおり,本訴請求(1)ないし(4)に関し,本件補正が要旨変更エに該当するとの本件取消決定の判断に誤りがあることの理由として,本件周知公報(甲14)及び昭46公報(甲15)の記載に照らせば,本件補正前後の構成はいずれも周知,慣用技術であること(本訴請求(1)),本件補正後の構成が周知,慣用技術であることを前提に,昭和37年判決(甲20の1)に照らして誤りがあること(本訴請求(2)),本件補正後の構成が17昭46公報(甲15)により出願前に公知であること(本訴請求(3)),本件補正後の構成が公知であり,明細書に示唆されているので,昭和39年判決(甲20の2)に照らして誤りがあること(本訴請求(4))を主張し,さらに,上記第2,2(当事者の主張)(1)(原告の主張)イ( )のとおオり,本訴請求(5)に関し,本訴請求(1)ないし(4)に係る主張を前提とすれば,本件取消決定の取消理由の記載全部が無効となり,本件取消決定自体も無効となる旨主張している。
これら本訴請求(1)ないし(5)に係る原告の主張は,本件取消決定の取消理由の誤りを指摘し,これによって本件取消決定が無効となるとし,そのような状況における本件特許異議申立ては,権利の濫用として許されず,原告に対する不法行為を構成する,というものであると認められる。しかしながら,上記の各主張の内容からすれば,結局,各請求は,不法行為の前提となる,本件取消決定の判断の誤り,あるいは,無効理由に対応し,一部請求の金額において分割されているにすぎないものであって,請求権としては,同一というべきである。
(2)前訴@及びAにおける,本件特許異議申立てに関する原告の主張他方,前訴@において,原告は,本件特許異議申立てが不法行為を構成する旨主張し,その理由として,同申立てが,昭46公報が存在するにもかかわらずされた違法なものであることを主張した(乙1)。
また,前訴Aにおいても,原告は,昭46公報や,昭和39年判決などに照らせば,本件補正は要旨変更に該当せず,本件取消決定における本件特許を取り消した理由は存在しないのであって,本件特許異議申立ては権利の濫用として許されない旨主張した(乙2)。
(3)本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えの許否ア本訴請求(1)ないし(5)と前訴@及びAにおける請求との関係上記(1)及び(2)のとおり,本訴請求(1)ないし(5)と,前訴18@及びAにおける請求とは,本件特許異議申立てが,本件補正について要旨の変更があったとの誤った判断に基づく本件取消決定を導くこととなったので,権利の濫用であって不法行為を構成するとし,同不法行為による損害賠償請求権に基づいて請求しているという点で同一の請求を含むものであり,ただ,いずれも損害額として主張する金額の数量的な一部請求をしていることから,訴訟物としては別個のものであると解されるにすぎない。
イ金銭債権の数量的一部請求訴訟後の残部請求の訴えの許否について一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して上記額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。そうすると,数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって,当該判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの訴訟の相手方の合理的期待に反し,同者に二重の応訴の負担を強いるものというべきであって,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した者が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解される(最高裁平成9年( )第849号同10年6オ月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁)。
本訴請求(1)ないし(5)についてみると,上記アで認定したとおり,前訴@及びAにおける請求と同一の不法行為による損害賠償請求権に基づく請求であり,前訴@及びAにおいて数量的一部請求であったことから,19その残部請求(残部のうちの一部請求)をしているものであって,実質的に,前訴@及びAで認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであるといわざるを得ず,前訴@及びAの確定判決によって同請求権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものということができる。そして,原告において,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えを提起することがやむを得ないといった特段の事情も認められない。
そうすると,前訴@及びAにおいて敗訴した原告が,本件特許異議申立てが不法行為を構成すると主張する損害賠償請求の訴えを提起することは,信義則に反して許されないというべきである。
ウ原告の反論について原告は,本訴請求(1)ないし(4)は,本件取消決定要旨変更に関する記載の段落ごとに取消決定無効事由があるとして損害金の一部を請求するものであるし,本訴請求(5)は,上記に基づいて全体として本件取消決定に無効事由があるとして損害金の一部を請求するものであって,既判力信義則には反しない旨主張する。原告の上記主張は,必ずしも明確ではないが,本件取消決定の記載ごとに損害金請求の根拠が生ずる旨の主張と解すると,これが失当であることは明らかであるから,被告の二重の応訴の負担をも踏まえた上記の判示を覆すものではなく,原告の主張を採用することはできない。
さらに,原告は,本訴は知的財産権に関するもので,被告が製造販売した放電焼結装置の1個ごとに損害賠償請求権が成立するから,本訴に,前記最高裁平成10年判決の判断を適用することは失当である旨を主張するが,本訴請求(1)ないし(5)は,上記のとおり,被告による本件特許異議申立てが不法行為を構成するとして,同不法行為に基づく損害賠償を請求するものであり,不法行為に基づく損害賠償請求権という1個の金銭20債権であるから,被告が製造販売した製品ごとに損害賠償請求権が成立するものではなく,原告の主張を採用することはできない。
(4)まとめ以上から,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,信義則に反して許されず,不適法であるから,却下されるべきものである。
2本訴請求(6)ないし(10)について(1)本訴請求(6)について原告は,原告被告間で,本件基本契約(甲6)を締結した上で,原告作成の設計図による製品を,原告が製造して(具体的には北栄興業に製造させて)被告に納入する旨の本件製造納入合意をしたにもかかわらず,被告が本件製造納入合意に反して,本件原告設計図(甲8の1)を含む図面一式を原告から詐欺に当たる手段で取得し,これらを用いて,Aに放電焼結装置()(甲29)を製造させたと主張する。
SPS-510Lしかし,原告被告間で,本件基本契約が締結されたことは認められる(甲6)ものの,原告の主張する本件製造納入合意がされたこと,被告が,本件原告設計図を含む図面一式を原告から詐欺に当たる手段で取得し,これらの図面を用いて,Aに放電焼結装置()(甲29)を製造させたことSPS-510Lを裏付ける証拠は,何ら提出されておらず,これらの事実を認めることはできない。また,本件基本契約においても,本件製造納入合意をうかがわせるような条項はないし,仮に,ワークローダーについて原告が北栄興業に製造させて被告に納入した事実が認められるとしても,そのことをもって,本件製造納入合意があったことを認めることはできない。
よって,本訴請求(6)に係る主張は認められない。
(2)本訴請求(7)について原告は,被告において,本件原告設計図(甲8の1)の原告代表者署名部分を切り取り,被告の名称欄を貼り付けて本件被告設計図(甲8の2)を作21り,それをAにも交付したとして,著作権(複製権)侵害を主張する。
しかし,本件原告設計図(甲8の1)が著作物といえるかどうかについての判断をひとまず措くとしても,被告が,本件原告設計図の原告代表者署名部分を切り取り,これに被告の名称欄を貼り付けて本件被告設計図を作成したことを認めるに足りる証拠はなく,この事実を認めることはできない。また,本件原告設計図(甲8の1)と本件被告設計図(甲8の2)とは,細部において異なるものであり,本件被告設計図が本件原告設計図を複写して作成された複製物であるということもできない。
よって,本訴請求(7)に係る主張は認められない。
(3)本訴請求(8)について原告は,被告が,被告の方式で図面番号を付したいから,本件原告設計図,部品図を貸してくれと言ってこれらを占有し,原告に損害を被らせているのであり,詐欺に該当する不法行為が成立する旨主張するところ,これを裏付ける証拠はない上,その他,詐欺の不法行為の成立を基礎付ける具体的な主張もないから,原告の主張を認めることはできない。
よって,本訴請求(8)に係る主張は認められない。
(4)本訴請求(9)について原告は,被告が,その占有する本件原告設計図により放電焼結装置を製造販売して原告に損害を被らせており,横領の不法行為が成立する旨主張するが,これを裏付ける証拠は提出されておらず,原告の主張する不法行為の成立を認めることはできない。
よって,本訴請求(9)に係る主張は認められない。
(5)本訴請求(10)について原告は,被告において,本件原告設計図の原告代表者署名部分を切り取り,被告の名称欄を切り貼りして,本件被告設計図を作成したものであり,私文書偽造の不法行為に該当する旨主張するが,これを裏付ける証拠は提出され22ておらず,原告の主張する不法行為の成立を認めることはできない。また,被告において作成したと原告が主張する本件被告設計図(甲8の2)の右下隅には,図面の番号や型式番号等が記載されるとともに,被告の名称が大きく英語表記で記載されており,これによって,本件被告設計図は,被告作成名義のものであると解されるところ,被告が被告作成名義のものを作成したとすれば,偽造の問題が生じる余地はなく,この点においても原告の主張は認められない。
よって,本訴請求(10)に係る主張は認められない。
(6)まとめ以上から,本訴請求(6)ないし(10)に係る請求は,いずれも認めることができない。
3反訴について民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,当該訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解される(最高裁昭和60年( )第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1オ頁)。そして,上記判示は,当該敗訴の確定判決に係る訴えの提起自体についての不法行為の該当性を判断する場合だけではなく,当該敗訴の確定判決後の,実質的に同一の訴訟の提起及び同訴訟の維持に係る不法行為の該当性を判断する場合についても,同様に適用されると解するのが相当である。
そこで,本件についてみると,本訴請求(1)ないし(5)に係る請求は,前記1(3)アにおいて認定したとおり,本件特許異議申立てが,本件補正について要旨の変更があったとの誤った判断に基づく本件取消決定を導くことと23なったので,権利の濫用であって不法行為を構成するとし,同不法行為による損害賠償請求権に基づいて請求しているという点で,前訴@及びAにおける請求と実質的に同一の請求を含むものである。また,前訴Bにおいても,原告は,前記第2,1(前提となる事実等)(4)ウのとおり,昭46公報(甲15)により本件補正後の構造は公知であり,本件補正は要旨変更に当たらず,本件取消決定における取消理由も理由がないから,本件特許異議申立ては権利の濫用として許されない旨を主張しており,本訴請求(1)ないし(5)に係る請求は,前訴Bとも実質的に同一の請求を含むものである。
そうすると,原告は,前訴@における敗訴判決だけでなく,再度,前訴Aにおいて敗訴判決を受け,いずれの判決も確定しているにもかかわらず,実質的に同一の請求を含む前訴Bを提起し,その口頭弁論終結後,判決言渡前に本訴請求(1)ないし(5)を含む本件訴訟を提起し,前訴Bにおいて,主位的請求に係る訴えを,前記1(3)イと同様に,信義則に反するとして却下する旨の判決が言い渡された後も,(少なくとも反訴提起時まで)本訴を維持しているということができるのであって,本訴請求(1)ないし(5)を基礎付ける法律関係が,事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,あえて訴訟を提起し,維持しているものと評価することができる。したがって,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えの提起及び反訴提起時までの同訴訟の維持は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものというべきであり,被告に対する不法行為を構成すると解するのが相当である。
被告は,原告の本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えにより,応訴を余儀なくされ,そのために被告訴訟代理人に訴訟の追行を委任し,弁護士費用として21万円を支払った(乙4の1,4の2)。同費用は,本訴全体についての応訴に係る費用であり,本訴請求(1)ないし(5)に係る費用としては,その2分の1の金額が,上記不法行為相当因果関係のある損害と認められる。
これについての原告の前記反論は,いずれも失当であって上記認定を覆すも24のではなく,到底,採用することができない。
したがって,原告は,被告に対する不法行為に基づく損害賠償義務として,10万5000円及びこれに対する不法行為(本訴の提起及び反訴提起時までの同訴訟の維持)後である反訴状送達の日の翌日である平成18年11月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務があると認められる。
第4結論以上の次第で,本訴請求のうち,本訴請求(1)ないし(5)に係る訴えは,信義則に反する許されないもので,不適法な訴えであるから,却下し,その余の請求はいずれも理由がないので棄却し,反訴請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 片山信