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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10072審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10070審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 18年 (行ケ) 10071号 審決取消請求事件
原告エイディシーテクノロジー株式会社
訴訟代理人弁護士三木浩太郎,弁理士毛利大介
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人江畠博,山田洋一,小池正彦,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/01/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が訂正2005−39066号事件について平成18年1月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決。
第2事案の概要本件は,特許権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁等における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「放送内容受信装置」とする特許(特許番号第3219751号。請求項の数1。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,昭和63年6月6日に出願した特願昭63-138679号の一部を新たな特許出願(特願平10-58567号)とし,さらに,その一部を新たな特許出願(特願2000-135905号)とし,平成12年9月27日にその一部を新たな特許出願(特願2000-294017号)として,平成13年8月10日に設定登録を受けたものである(甲1)。
(2)本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2002-70966号事件として係属),原告は,平成16年3月17日,上記手続において,明細書の訂正を請求したところ,特許庁は,平成17年1月20日,「訂正を認める。特許第3219751号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をした(甲2)。
(3)原告は,平成17年4月20日,上記決定に対する取消訴訟(平成17年(行ケ)第10154号事件)の係属中に,明細書の特許請求の範囲について,後記2(2)記載のとおり訂正する旨の訂正審判の請求をした(訂正2005-39066号事件として係属)ところ,特許庁は,平成18年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月18日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の記載(1)特許査定時のもの(甲1)【請求項1】受信された,テレビの放映内容から,指定されたチャンネルを抽出するチューナを備えた放送内容受信装置において,少なくともテレビの各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネルとを含む情報を,外部から当該放送内容受信装置に取り込む入力手段と,前記入力手段により取り込まれた上記情報から,当該放送内容受信装置の電源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容を取り出して,チャンネルの違い毎にテレビ受像機に縦もしくは横の内の1方向に並べて表示するチャンネル表示手段と,当該放送内容受信装置の電源を投入した日の,前記入力手段により取り込まれた上記情報中の同一チャンネルの番組を,その放送順に,上記1方向と垂直な方向に並べて,上記テレビ受像機に表示する放送順序表示手段と,該放送順序表示手段及び上記チャンネル表示手段により上記テレビ受像機に表示されたテレビの番組内容の中から任意の番組内容が表示されている位置を指定するための位置指定手段と,該位置指定手段により指定された位置に表示されている番組内容を,指定されなかった位置の番組内容と識別可能に表示する識別表示手段と,該識別表示手段にて識別可能に表示された箇所に対応する番組内容を所望の番組として設定するための設定手段と,該設定手段にて設定された箇所に対応する番組のチャンネルを上記情報から取り出して,所望の番組のチャンネルとして設定するチャンネル補完手段と,上記設定手段にて設定された箇所に対応する番組の開始時刻を上記情報から取り出して,所望の番組の情報として設定する開始時刻補完手段と,該開始時刻補完手段により設定された開始時刻になると,上記チャンネル補完手段により設定されたチャンネルを上記チューナに抽出させる放送内容出力手段とを備えたことを特徴とする放送内容受信装置。
(2)訂正審判請求書添付の訂正明細書のもの(甲4添付の全文訂正明細書。下線部分はその訂正箇所であり,訂正事項aがこれに該当する。)【請求項1】受信された,テレビの放映内容から,指定されたチャンネルの映像信号を抽出するチューナ及び録画再生部を備えた放送内容受信装置において,少なくともテレビの各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネルとを含む情報を,外部から当該放送内容受信装置のRAMに取り込む入力手段と,前記入力手段によりRAMに取り込まれた上記情報から,当該放送内容受信装置の電源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容を取り出して,チャンネルの違い毎にテレビ受像機に縦もしくは横の内の1方向に並べて表示するチャンネル表示手段と,当該放送内容受信装置の電源を投入した日の,前記入力手段により取り込まれた上記情報中の同一チャンネルの番組を,その放送順に,上記1方向と垂直な方向に並べて,上記テレビ受像機に表示する放送順序表示手段と,該放送順序表示手段及び上記チャンネル表示手段により上記画面に表示される番組表を上記画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定する限定手段と,上記放送順序表示手段,上記チャンネル表示手段及び上記限定手段により上記テレビ受像機に表示された上記番組表の中から任意の番組内容が表示されている位置を,上記チャンネルの方向及び上記放送順の方向それぞれ独立に移動可能なカーソルにより指定するための位置指定手段と,該位置指定手段により指定された位置に表示されている番組内容を,指定されなかった位置の番組内容と識別可能に表示する識別表示手段と,該識別表示手段にて識別可能に表示された箇所に対応する番組内容を所望の番組として設定するための設定手段と,該設定手段にて設定された箇所に対応する番組のチャンネルを上記情報から取り出して,所望の番組のチャンネルとして設定するチャンネル補完手段と,上記設定手段にて設定された箇所に対応する番組の開始時刻を上記情報から取り出して,所望の番組の情報として設定する開始時刻補完手段と,該開始時刻補完手段により設定された開始時刻になると,上記チャンネル補完手段により設定されたチャンネルを上記チューナに抽出させる放送内容出力手段と,上記テレビ受像機に表示された上記番組表を,上記カーソルの移動に伴い移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カーソルの移動に伴い上記カーソルの位置情報を上記RAMに記憶させてその情報を更新させる更新手段と,上記チューナにより復調された映像信号,録画再生部により再生された映像信号,上記チャンネル表示手段,上記放送順序表示手段及び上記限定手段によって上記テレビ受像機に表示される番組表の映像信号,のうちの何れか一つの映像信号を選択して上記テレビ受像機に出力する映像信号出力部と,を備えたことを特徴とする放送内容受信装置。
3審決の理由の概要審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正は,実質上特許請求の範囲変更するものであるから,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項の規定に適合しない,というものである。
( ) 訂正拒絶の理由1平成17年8月17日付で通知した訂正拒絶理由の概要は,次のとおりである。
ア 訂正事項aについて,特許査定時の明細書の請求項1(以下「訂正前の請求項1」という。)について,「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加するとともに,「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」にさらに限定を付すことは,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を拡張乃至変更するものであり,実質上特許請求の範囲拡張乃至変更するものであることは明白である。
イ したがって,上記訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる上記改正法による改正前の特許法126条2項の規定に適合しないので,当該訂正は認められない。
( ) 特許請求の範囲拡張変更についての審決の判断2訂正事項aは,訂正前の請求項1について,「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加するとともに,「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」にさらに限定を付すものであるので,これについて検討する。
ア 「録画再生部」については,訂正前の請求項1には,何ら記載が無く,新たに構成要件を付加するものであり,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」が当然に具備する構成とも認められず,このような新たな構成要件の付加自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,本発明は「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」をその目的とすることが記載されているものの,この目的から,訂正前の請求項1に係る発明が上記「録画再生装置」を備えるものであるとは到底いえない。
そして,後述する新たに追加された「映像信号出力部」において,上記「録画再生部」により再生された映像信号が選択的に出力されることが追加されており,これは訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を拡張乃至変更するものであり,実質上特許請求の範囲拡張乃至変更するものであることは明白である。
イ 「限定手段」については,当該手段自体が訂正前の請求項1には何ら記載が無く,新たに構成要件を付加するものである。しかも,当該手段により表示される番組表が画面上に表示可能な一画面分の番組のみに限定されることなど,訂正前の請求項1には何ら示されていなかったものであるから,このような働きをする「限定手段」を新たに付加すること自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものと言うべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,本発明は「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」をその目的とすることが記載されているものの,この目的から,訂正前の請求項1に係る発明が上記「限定手段」を備えるものであるとは到底いえない。
すなわち,訂正前の請求項1には,番組表が画面上でどのように表示されるものであるかについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを具体的に示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
ウ 「位置指定手段」については,訂正前の請求項1には,単に,「該放送順序表示手段及び上記チャンネル表示手段により上記テレビ受像機に表示されたテレビの番組内容の中から任意の番組内容が表示されている位置を指定するための」手段としか記載されていなかったものであり,これを新たに追加した上記「限定手段」と関連付け,番組表の中から番組内容が表示されている位置を「上記チャンネルの方向及び上記放送順の方向それぞれ独立に移動可能なカーソルにより指定」することなど,訂正前の請求項1には何ら示されていなかったものであるから,このような限定自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,本発明は「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」をその目的とすることが記載されているものの,この目的から,訂正前の請求項1に係る発明において上記「限定手段」と関連付けられた「位置指定手段」の指定の仕方まで導出されるものとは到底いえない。
すなわち,訂正前の請求項1には,番組内容がどのように指定されるものであるかについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを上記新たに追加した「限定手段」と関連付けた上で,具体的に番組表上でカーソル移動により行うことを明示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
エ 「更新手段」についても,訂正前の請求項1には,何ら記載が無く,新たに構成要件を付加するものであり,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」が当然に具備する構成とも認められない。しかも,当該手段により,上記「位置指定手段」において新たに追加したカーソルの移動後の位置に応じた番組表に更新し,カーソルの位置情報を上記RAM(「上記RAM」とは,具体的にはRAMのことであり,カーソルの位置情報を記憶させるのはRAMであるから,誤記であ53 33る。)に記憶させることなど,訂正前の請求項1には何ら示されていなかったことは明らかであるから,新たにこのような「更新手段」を付加すること自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものというべきである。
一方,明細書の段落【0004】には,本発明は「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」をその目的とすることが記載されているものの,この目的から,訂正前の請求項1に係る発明が上記「更新手段」を備えるものであるとは到底いえない。
すなわち,訂正前の請求項1には,番組表の更新,さらにはカーソルの位置情報をRAM( )に33記憶させて更新することについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを具体的に示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明白である。
オ 「映像信号出力部」については,訂正前の請求項1には,何ら記載が無く,新たに構成要件を付加するものであり,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」が当然に具備する構成とも認められない。
そして,当該「映像信号出力部」が,少なくとも新たに追加された上記「録画再生部」により再生された映像信号を選択的にテレビ受像機に出力することは訂正前の請求項1には何ら示されていなかった事項であるから,新たにこのような「映像信号出力部」を付加すること自体,特許請求の範囲の技術事項を変更するものである。
一方,明細書の段落【0004】には,本発明は「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」をその目的とすることが記載されているものの,この目的から,訂正前の請求項1に係る発明が上記「録画再生部」と関連付けられた「映像信号出力部」を備えるものであるとは到底いえない。
すなわち,訂正前の請求項1には,どのような映像信号を出力するかについては全く示されていなかったにも拘わらず,訂正によりそのことを新たに追加した「録画再生部」との関連で行うことを明示したものであるから,形式的(文言的)には(文言の追加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に係る「放送内容受信装置」の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を拡張乃至変更するものであり,実質上特許請求の範囲拡張乃至変更するものであることは明白である。
結局,上記訂正事項aは,訂正前の請求項1に対し,訂正前の請求項1には何ら記載のなく自明でもなかった「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加するとともに,さらにその付加した事項に基づいて「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の付加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明らかである。
( ) 審決のむすび3以上のとおりであって,本件審判の請求に係る訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる上記改正法による改正前の特許法126条2項の規定に適合しない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(審判手続の法令違背)特許庁は,原告に上記第2の3(1)記載の理由を通知したものの,原告が拒絶理由について十分に弁明するための意見書を提出する機会を与えなかったから,審判手続には,特許法165条の規定に違反する瑕疵がある。
ア特許査定時の請求項に示されていなかった構成要件の付加は,特許請求の範囲減縮する手法の一つであり,新たな構成要件の付加そのものが,直ちに,特許請求の範囲の技術事項ないし当該特許発明技術的範囲変更することにはならない。
イ訂正前の請求項1に記載のない「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加し,また,「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」にさらに限定を付したことが,「実質上特許請求の範囲変更するものである」というためには,少なくとも訂正前の請求項1に係る発明の技術的範囲と請求項1に係る発明の技術的範囲を対比検討し,具体的にいかなる点において後者が前者の範囲から逸脱しているか,すなわち,各構成の付加ないし限定が,訂正前の課題(目的)とは別個の,これと異なる課題(目的)を解決し,これによって訂正前の作用効果と異なる作用効果を奏するものであるかが示されなければならないのに,特許庁が通知した拒絶理由は,単に「実質上特許請求の範囲変更するものである」との結論を示しただけである。
ウ特許庁は,原告に明確かつ具体的な拒絶理由を通知せず,拒絶理由について十分に弁明するための意見書を提出する機会を与えないまま,審決をしたものであるから,審判手続には,特許法165条の規定に違反する瑕疵がある。
(2)取消事由2(訂正事項aについての判断の誤り)審決は,訂正事項aについて,「訂正前の請求項1には何ら記載のなく自明でもなかった「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加するとともに,さらにその付加した事項に基づいて「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の付加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明らかである。」と判断したが,誤りである。
ア審決は,新たに付加した「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」は訂正前の請求項1に記載がなく,また,「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」に付加した限定も訂正前の請求項1に記載がないから,このような新たな付加や限定は,それ自体,特許請求の範囲の技術事項を変更すると説示する。
(ア)「技術事項の変更」との用語は,特許法にないものであり,その内容は一義的に明確なものではない。
(イ)「技術事項」が構成要素ないし構成要件を意味するものであると解釈するとすれば,特許法126条,134条の2が規定する訂正は,法定の要件のもとに構成要素ないし構成要件変更するものであるから,常に「技術事項の変更」に当たることになるのであって,新たな付加及び限定が特許請求の範囲の技術事項を変更することは当然のことであり,訂正を拒絶する理由とはなり得ない。
(ウ)他方,「技術事項」が特許権の効力が及ぶ範囲,すなわち特許の技術的範囲を意味するものであると解釈するとすれば,「特許請求の範囲の技術事項を変更する」とは「特許請求の技術的範囲変更する」ことを意味し,特許法126条2項にいう「実質上特許請求の範囲変更する」ことと同義であると理解することができるが,訂正前の請求項に示されていなかった構成要件を付加することは,特許請求の範囲減縮する手法の一つであり,特許請求の範囲に新たな構成要件を付加したこと自体が,直ちに,実質上特許請求の範囲技術的範囲変更することに当たるものではないから,明らかに誤りである。
イまた,審決は,出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)の段落【0004】に,訂正前の請求項1に係る発明は「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」をその目的とすることが示されているものの,この目的から,訂正前の請求項1に係る発明が「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を備えるものであるとはいえず,また,「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」に新たに付加した限定が導出されるものであるともいえないから,請求項1に係る発明が訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱すると説示する。
(ア)請求項1に係る発明が「訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱する」というためには,訂正前の請求項1に係る発明の目的と請求項1に係る発明の目的とをそれぞれ具体的に認定した上,両発明の目的を直截に対比,検討すべきであるが,審決は,訂正前の請求項1に係る発明の目的については,当初明細書の段落【0004】の記載のみに基づいて形式的に認定したに止まり,請求項1に係る発明の目的については何ら言及していないのであって,訂正前の請求項1に係る発明の目的と請求項1に係る発明の目的とを具体的に対比,検討していない。
(イ)しかも,審決は,訂正前の請求項1に係る発明の目的から請求項1に係る発明の構成要件を導出できるかといったおよそ見当違いの手法を用いて,「本件発明の目的を逸脱する」か否かを判断している。
ウ特許法126条2項が,特許請求の範囲等の訂正が実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものであってはならないとした趣旨は,第三者がある技術を実施していた場合に,訂正前の発明の技術的範囲には属していなかったのに,訂正後の発明の技術的範囲に属することになるという不測の損害を避け,明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を保護することにあるから,「実質上特許請求の範囲変更する」とは,訂正後における特許権の及ぶ範囲が訂正前におけるそれよりも広いために,当初明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を害する場合をいうと解すべきである。
そして,当初明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を害するか否かを判断するためには,当該訂正により新たに付加又は限定を付した構成要件が第三者にとって自明であるか否か,より具体的には,新たに付加又は限定を付した構成が当初明細書に開示されているか否か,また,新たに付加又は限定を付した構成要件周知技術であるか否かなどが具体的に検討されなければならないところ,審決は,このような検討をすることなく,本件訂正は「実質上特許請求の範囲変更する」と判断したのである。
なお,本件訂正において新たに付加又は限定を付した各構成は,すべて当初明細書に記載されているから,明細書の記載を信頼する一般第三者の利益を害することにはならない。すなわち,「録画再生部」は例えば当初明細書の段落【0013】及び【0024】の記載に,「限定手段」は例えば当初明細書の段落【0014】及び【0023】の記載に,「更新手段」は例えば当初明細書の段落【0015】及び【0023】の記載に,「映像信号出力部」は例えば当初明細書の段落【0013】の記載に,「位置指定手段」は例えば当初明細書の段落【0015】及び【0024】の記載にそれぞれ基づくものである。
エ以上のとおりであって,審決は,訂正前の請求項1に係る発明の目的と請求項1に係る発明の目的を具体的に対比,検討せず,また,本件訂正の前後において特許権の技術的範囲に差異を生じ,もって第三者に不測の損害を生ぜしめるか否かを実質的に判断しないものであって,明らかな誤りがある。
2被告の反論(1)取消事由1(審判手続の法令違背)に対して特許庁は,原告に上記第2の3(1)記載の理由を通知し,発送の日から30日という期間を指定して意見書を提出する機会を与えたものであって,通知した理由の趣旨は明確であるから,審判手続に特許法165条の規定に違反する瑕疵はない。
(2)取消事由2(訂正事項aについての判断の誤り)に対してア本件訂正において,「録画再生部」を備えることにより,番組を録画し再生するという具体的な目的が,「限定手段」を備えることにより,画面表示する番組表を一画面分の番組に限定するという具体的な目的が,「更新手段」を備えることにより,該番組表を更新するという具体的な目的が付加されたことは特許請求の範囲の記載自体から明らかであり,また,「映像信号出力部」を備えることにより,少なくとも録画再生部により再生された映像信号を含む映像信号をテレビ受像機に出力するという具体的な目的が新たに付加されたことも明らかである。
当初明細書には,訂正前の請求項1に係る発明の目的について,「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」と示されているだけであり,このような極めて一般的な目的から,請求項1における,番組を録画し再生するという具体的な目的,番組表を画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定するという具体的な目的,番組表を更新させるという具体的な目的及び少なくとも録画再生部により再生された映像信号を含む映像信号をテレビ受像機に出力するという具体的な目的が直ちに導出されるということはできない。
そうである以上,請求項1において,「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加し,さらに,その付加した事項に基づき「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」を新たに限定したことは,訂正前の請求項1に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱するというべきであって,本件訂正は,形式的には特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術的事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものである。
イ訂正前の請求項1に係る発明の目的は,「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」であるところ,請求項1に係る発明について,訂正明細書の段落【0004】には,訂正前の請求項1に係る発明と同様の記載しかないものの,上記アのとおりの具体的な目的ないし効果が新たに付加されたことは明らかである。
そうすると,請求項1に係る発明は,訂正前の請求項1に係る発明に対し,新たに「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」が付加されたことにより,訂正前の請求項1に係る発明の目的に加え,新たに,番組を録画再生し,表示可能な一画面分の番組のみに限定して番組表を出力し,その番組表を更新し,各映像信号を選択してテレビ受像機に出力するという(具体的な)目的が併せて付加されたものとなることは明らかであり,このような新たな構成要件の付加は,訂正前の請求項1に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱するものというべきである。
ウ当初明細書及び図面には,第5図のステップ120(カーソル位置に応じた領域のデータおよびカーソル位置データを出力),ステップ150(カーソル位置情報を番組表に応じて更新)等については示されているものの,請求項1において新たに付加された「限定手段」,「更新手段」という構成要件については,その用語自体,当初明細書には何ら記載されていなかったものであって,訂正明細書の段落【0014】,【0015】において,上記ステップ120の処理を「限定手段」,上記ステップ120から150に至る処理を「更新手段」として,それぞれ新たに定義し直し,明細書に初めて出現させたものである。
特許権が設定された後も,特許請求の範囲に記載されている構成要件以外の明細書の記載されている事項の全てが無条件に随時訂正可能であるとすると,特許権の設定登録時の特許請求の範囲の記載を信頼する一般第三者の利益を損なう場合があり得ることは明らかであり,明細書に記載されているからといって,必ずしもその全てが訂正可能であるとは限らない。
エ以上のとおりであって,審決が,訂正事項aについて,「訂正前の請求項1には何ら記載のなく自明でもなかった「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」を新たに付加するとともに,さらにその付加した事項に基づいて「入力手段」,「チャンネル表示手段」及び「位置指定手段」の内容を新たに具体的に限定したものであるから,形式的(文言的)には(文言の付加という意味で)特許請求の範囲減縮を目的とするものといえるとしても,訂正前の請求項1に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明らかである。」と判断したことに誤りはない。
第4当裁判所の判断便宜,取消事由2(訂正事項aについての判断の誤り)についてまず判断する。
1「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」について(1)「録画再生部」についてア当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【0013】一方,VTR3の内部には,バス45により相互に接続された周知のCPU51,ROM52,RAM53,タイマ55のほか,アンテナ57を介してテレビ放送電波を受け映像・音声信号を復調するチューナ60,復調した信号をビデオテープに録画しあるいは再生する録画再生部65,映像信号をテレビ5に出力する映像信号出力部70等を備える。(中略)選択されたチャンネルの復調された映像信号は,録画再生部65に出力されるが,この録画再生部65には,CPU51の制御信号も出力されており,録画再生部65はこの信号を受けて,映像信号の録画・再生に応じて,図示しない録画再生用ヘッドの駆動,テープリール駆動用モータの制御等を行なう。・・・」「【0024】(2)所望の番組を反転表示させた状態で録画予約カード1の「設定」キー11を操作すると,その番組の日付を含む開始時刻とチャンネルおよび終了時刻が記憶され,VTR3はその開始時刻がくると,記憶されたチャンネルを,チューナ60にて受信・復調して出力し,録画再生部65は録画を開始し,終了時刻がくると録画を終了する。つまりこの部分の処理は,本発明の放送内容出力手段に相当する処理に,録画再生部65を制御する処理を加えた処理となっている。」イ上記アの記載によれば,当初明細書に記載された放送内容受信装置は,「録画再生部」を有していることが明らかである。
(2)「限定手段」(該放送順序表示手段及び上記チャンネル表示手段により上記画面に表示される番組表を上記画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定するための手段)についてア当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【0014】次に,第4図に示す番組表の説明図,第5図,第6図に示すフローチャートに従って,録画予約カード1およびVTR3の各CPU31,51が実行する処理について説明する。録画予約カード1は,VTR3に装着されて電源が投入されると,第5図に示すカード側処理ルーチンを開始し,まず,カーソル位置の初期化等の処理を行なう(ステップ100)。カーソルの初期位置は,予め定めた原点であり,第4図に示す番組表では,最も小さな番号のチャンネルでかつ最も早い時間帯の番組(本実施例では番組A1)に対応した位置である。その後,ROM32から番組表を読み出し(ステップ110),このうちカーソル位置に応じた領域の番組データおよびカーソル位置のデータを入出力ポート38を介してVTR3に出力する処理を行なう(ステップ120)。即ち,テレビ受像機5には,番組表の全てを一度に表示することができないので,カーソルの位置を中心に一画面分の番組データを出力するのである。出力された番組データは,コネクタ30を介して一旦RAM53に記憶され,後でCPU51の制御により映像信号出力部70に送られ,ここで映像信号に変換された後,テレビ受像機5に出力される。つまり,接続部10及び接続部10から番組データを取り込む処理を行なうCPU51は,これらの外部にあるROM32からコネクタ30等を介して放送内容に関する情報を取り込むので,本発明の入力手段に相当する。続いて,録画予約カード1の表面に設けられたキーが操作されるのを待ち(ステップ130),その入力キーに応じてステップ140以下の処理に移行する。」「【0023】(1)まず,VTR3に録画予約カード1を装着し電源を投入すると,テレビ受像機5にその日の番組表の一部が,第4図に示すように,表形式で表示される。これが本発明のチャンネル表示手段と放送順序表示手段を兼ねた処理である。カーソルキー21ないし24を操作することにより,所望の番組を反転表示させることができ,現在表示されている領域の外に反転表示部を移動するようなカーソル操作がされた場合には,表示領域が更新される。尚,その日の番組表以外の番組表を表示させる処理は,特に説明しなかったが,専用のキーを設けてもよいし,カーソルキー21,22と他のキーとの組合せにより,前日もしくは翌日の番組表を表示するよう構成することも好適である。」イ上記アの記載によれば,当初明細書に記載された放送内容受信装置は,「放送順序表示手段及びチャンネル表示手段により画面に表示される番組表を画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定するための手段」,すなわち,「限定手段」を有していることが理解できる。
(3)「更新手段」(上記番組表出力手段が出力する番組表を,上記カーソルの移動に伴い移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カーソルの移動に伴い上記カーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報を更新させるための手段)についてア当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【0015】入力されたキーがカーソルキーの場合には,操作されたキー21ないし24のいずれかに応じたカーソルデータを出力し(ステップ140),RAM33に記憶されるカーソル位置情報を番組表の構成に応じて更新する処理を行なう(ステップ150)。例えば,カーソルが第4図に示す番組C3の位置にある場合に,上向き矢印のカーソルキー21が操作されたときには,そのデータをVTR3の映像信号出力部70に出力すると共に,録画予約カード1内のカーソル位置情報を番組C3から番組C2の位置に更新するのである。また,右向き矢印のカーソルキー24が操作された場合には,カーソル位置情報は,番組C3から番組D3の位置に更新される。以上の処理の後,ステップ120に戻り再びステップ120以下の処理を実行する。従って,カーソルが現在表示している領域の外に移動された場合には,ステップ120の処理により,表示される番組の領域も更新される。」「【0023】(1)まず,VTR3に録画予約カード1を装着し電源を投入すると,テレビ受像機5にその日の番組表の一部が,第4図に示すように,表形式で表示される。これが本発明のチャンネル表示手段と放送順序表示手段を兼ねた処理である。カーソルキー21ないし24を操作することにより,所望の番組を反転表示させることができ,現在表示されている領域の外に反転表示部を移動するようなカーソル操作がされた場合には,表示領域が更新される。尚,その日の番組表以外の番組表を表示させる処理は,特に説明しなかったが,専用のキーを設けてもよいし,カーソルキー21,22と他のキーとの組合せにより,前日もしくは翌日の番組表を表示するよう構成することも好適である。」イ上記アの記載によれば,当初明細書に記載された放送内容受信装置は,「番組表出力手段が出力する番組表を,カーソルの移動に伴い移動後のカーソル位置に応じた番組表に更新させると共に,カーソルの移動に伴いカーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報を更新させるための手段」,すなわち,「更新手段」を有していることが理解できる。
(4)「映像信号出力部」(上記チューナにより復調された映像信号,録画再生部により再生された映像信号,上記チャンネル表示手段,上記放送順序表示手段及び上記限定手段によって上記テレビ受像機に表示される番組表の映像信号,のうちの何れか一つの映像信号を選択して上記テレビ受像機に出力するための手段)についてア当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【0013】一方,VTR3の内部には,バス45により相互に接続された周知のCPU51,ROM52,RAM53,タイマ55のほか,アンテナ57を介してテレビ放送電波を受け映像・音声信号を復調するチューナ60,復調した信号をビデオテープに録画しあるいは再生する録画再生部65,映像信号をテレビ5に出力する映像信号出力部70等を備える。タイマ55は,年月日を管理するカレンダ機能および24時間の時計機能を備え,予め内部バス45を介してCPU51により設定された時刻なるとこれをCPU51に割込として報知すると共に,時刻表示部8に現在時を表示する。また,チューナ60は,CPU51の指令を受けて復調するチャンネルを選択することができる。選択されたチャンネルの復調された映像信号は,録画再生部65に出力されるが,この録画再生部65には,CPU51の制御信号も出力されており,録画再生部65はこの信号を受けて,映像信号の録画・再生に応じて,図示しない録画再生用ヘッドの駆動,テープリール駆動用モータの制御等を行なう。更に,映像信号出力部70は,チューナ60により復調されたあるチャンネルの映像信号,録画再生部65により再生された映像信号,CPU51がRAM53に記憶した画像データを読み出して生成する映像信号のうちの何れかひとつの映像信号を選択し,これを一旦図示しない内部のビデオメモリに蓄えた後,テレビ受像機5に常時出力する。」イ上記アの記載によれば,当初明細書に記載された放送内容受信装置は,「チューナにより復調された映像信号,録画再生部により再生された映像信号,チャンネル表示手段,放送順序表示手段及び限定手段によってテレビ受像機に表示される番組表の映像信号,のうちの何れか一つの映像信号を選択してテレビ受像機に出力するための手段」,すなわち,「映像信号出力部」を有していることが理解できる。
(5)そうであれば,訂正事項aに係る「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているということができる。
2訂正事項aについて(1)当初明細書(甲1)には,次の記載がある。
「【従来の技術】所望のテレビ番組を,見損ねるという失敗は,テレビが登場して久しい今日においてもよくあることである。この失敗は,放送日時を間違えたり,他のことに気を取られて忘れてしまう等が主な原因である。また,放送時間に間にあうようにテレビの電源を入れたものの,チャンネルを間違え,しかもこれに気が付かないこともある。この場合,所望の番組とは異なる番組が画面に出力されてから正しいチャンネルに直すことになるので,冒頭の部分を見損ねてしまう。この対策として,見たい番組をビデオ録画装置(いわゆるビデオテープレコーダ)に録画予約しておくという方法がある。しかしこうした録画装置では,録画開始時刻や収録番組のチャンネルの設定や録画終了時刻等,設定内容が多岐に亘り,設定にはかなりの手間と慣れとを要する。そこで,機械の操作に慣れない老人等でも簡易に録画予約の設定ができるよう,バーコードを使って録画開始時刻を読み込ませたり,一週間を単位として毎週同時刻に同じ番組を録画する機能を備えた録画装置も提案されている。」(段落【0002】)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,こうした録画装置でも,バーコードといったいわば約束事を用いるため,操作が直感的ではなく,しかもその操作が煩雑であるという問題があった。特に,放映時間が連続する異なるチャンネルの番組を録画する場合や,同じ番組が週によって異なる時間帯に放映されるといった場合には,バーコードを使用してもその設定は極めて煩雑なものになってしまう。また,バーコードの場合,読み取りミスもあり得る。
本発明は上記課題を解決し,見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】,【0004】)「【発明の効果】以上詳述したように,本発明の放送内容受信装置によれば,番組内容がテレビ受像機に表形式にて視覚的に表示される。これにより,チャンネルや開始時刻といった,抽象的で誤り易い情報を操作者に認識させることなく,異なるチャンネルの番組内容や同じチャンネルの前後に放映される番組内容と対比させることにより操作者に認識させることができる。従って,異なるチャンネルや隣接する時刻の類似番組と誤っていないか,といった注意事項が直観的に喚起されることとなる。そして番組の内容の予約は,表形式で表示された番組内容の中から所望の番組内容が表示されている位置を位置指定手段にて指定し,設定手段を操作すれば完了する。この間,チャンネルや開始時刻といった抽象的な情報を取り扱う必要がない。開始時刻は,開始時刻補完手段によって補われ,チャンネルはチャンネル補完手段によって補われる。つまり,当該放送内容受信装置の操作者は,新聞などの番組欄を見て所望の番組を選ぶのと同じ感覚で予約を行なうことができる。すなわち,テレビ受像機に表形式で表示された番組内容を見て,所望の番組内容を位置指定手段で指定し,設定手段で設定すればよい。しかも位置指定手段にて指定した位置は,識別表示手段により他の位置と識別可能に表示される。・・・」(段落【0029】)(2)上記(1)の記載によれば,従来,見たい番組を録画予約する場合,録画予約の設定にバーコードを使って録画開始時刻を読み込ませたり,一週間を単位として毎週同時刻に同じ番組を録画予約することで,簡易に録画予約をする方法があったが,これらの方法は操作が煩雑であり,特に,放映時間が連続する異なるチャンネルの番組を録画する場合や同じ番組が週によって異なる時間帯に放映される場合にはその設定が煩雑なものになるという問題(課題)があったところ,このような課題を解決し,見たいテレビ番組を見逃すことがなく,容易に操作が可能な放送内容受信装置を提供することが,訂正前の請求項1に係る発明の目的であり,そのための構成が,訂正前の請求項1に規定した放送内容受信装置の構成であるものと認められる。
(3)そして,訂正事項aにおける「録画再生部」は,訂正前の請求項1に明示の記載はないものの,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれるということができる。
3そうであれば,訂正事項aは,訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項aに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲変更するものではない。
4被告の主張について(1)被告は,当初明細書には,訂正前の請求項1に係る発明の目的について,「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」と示されているだけであり,このような極めて一般的な目的から,請求項1における,番組を録画し再生するという具体的な目的,番組表を画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定するという具体的な目的,番組表を更新させるという具体的な目的及び少なくとも録画再生部により再生された映像信号を含む映像信号をテレビ受像機に出力するという具体的な目的が直ちに導出されるということはできないから,訂正事項aは,訂正前の請求項1に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱すると主張する。
しかしながら,発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当でない。そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であり,本件においては,上記2のとおり,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれる。
被告の上記主張は,採用することができない。
(2)また,被告は,請求項1に係る発明は,新たに「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」が付加されるたことにより,訂正前の請求項1に係る発明の目的に加え,新たに,番組を録画再生し,表示可能な一画面分の番組のみに限定して番組表を出力し,その番組表を更新し,各映像信号を選択してテレビ受像機に出力するという(具体的な)目的が併せて付加されたものとなることは明らかであり,このような新たな構成要件の付加は,訂正前の請求項1に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱すると主張する。
しかしながら,訂正事項aに係る「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項aにおける「録画再生部」は,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれるということができる。
被告の上記主張も,採用することができない。
(3)さらに,被告は,請求項1において新たに付加された「限定手段」,「更新手段」という構成要件については,その用語自体,当初明細書には何ら記載されていなかったものであって,訂正明細書の段落【0014】,【0015】において,上記ステップ120の処理を「限定手段」,上記ステップ120から150に至る処理を「更新手段」として,それぞれ新たに定義し直し,明細書に初めて出現させたものであるところ,明細書に記載されているからといって,必ずしもその全てが訂正可能であるとは限らないと主張する。
しかしながら,特許請求の範囲減縮する場合には,新たな構成要件を付加したり,構成を新たに具体的に限定するのが通常であるから,新たな構成要素を付加したり,構成要素を新たに具体的に限定することが,直ちに,実質上特許請求の範囲変更することに当たるものでないことは明らかである。訂正事項aに係る「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項aにおける「録画再生部」は,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,明細書に接した第三者であれば,訂正が可能であることを予測することができるのであって,訂正事項aによる訂正が一般第三者の利益を損なうものとはいえない。
被告の上記主張は,採用の限りでない。
5上記3のとおり,訂正事項aは,訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項aに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲変更するものではないから,「訂正前の請求項1に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲変更するものであることは明らかである。」とした審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由2は理由がある。
第5結論以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由2は理由があるから,その余について判断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文
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