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追加

関連審決 訂正2003-39151
訂正2005-39167 訂正2003-39242
訂正2001-39153 無効2000-35241
関連ワード 容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  同意 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  国際公開 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10177号 審決取消請求事件
原告テルモ株式会社
訴訟代理人弁護士吉原省三
同 小松勉
同 三輪拓也
訴訟代理人弁理士中澤直樹
訴訟復代理人弁理士向山正一
被告株 式会社グッドテック
訴訟代理人弁理士石田喜樹
同 斉藤純子
同 園田清隆
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告(1)特許庁が無効2000-35241号事件について平成15年5月26日にした審決中「特許第2528011号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする」との部分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文同旨第2当事者間に争いのない事実1手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「カテーテル」とする特許第2528011号(平成元年12月20日出願,平成8年6月14日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は3である。)の特許権者である。
(2)被告は,平成12年5月2日,本件特許を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2000-35241号事件として審理した。上記審理の過程で,原告は,平成12年8月21日,本件特許に係る明細書の訂正(請求項1の訂正を含む。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成13年7月18日,「訂正を認める。特許第2528011号の請求項1に係る発明についての審判請求は,成り立たない。特許第2528011号の請求項2,3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした(第1次審決中,請求項1に係る発明についての審判請求は成り立たないとした部分については,平成17年9月28日,審決取消の判決がされ(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10171号),この判決は確定した。)。
(3)原告は,平成13年8月29日,第1次審決中「特許第2528011号の請求項2,3に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消を求めて,東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起した(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第386号)。原告は,上記訴訟の係属中である平成13年9月6日,本件特許に係る明細書の請求項2,3を訂正することについて審判を請求し,特許庁は,この請求を訂正2001-39153号として審理した上,同年11月2日,上記訂正を認める旨の審決をした(以下,上記訂正後の本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)。上記訂正審決があったため,東京高等裁判所は,平成13年12月27日,第1次審決中「特許第2528011号の請求項2,3に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消すとの判決(以下「第1次判決」という。)をし,この判決は確定した。
(4)特許庁は,第1次判決をうけて,さらに審理をした結果,平成15年5月26日,「特許第2528011号の請求項2ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(第2次審決。以下「本件審決」という。)をし,同年6月5日,その謄本を原告に送達した。
原告は,本件審決の取消を求めて本訴を提起した後,平成15年7月30日,請求項2,3の訂正を含め本件明細書を訂正する審判を請求した(訂正2003-39151号)が,同年11月17日,改めて本件明細書(請求項2,3の訂正を含む。)を訂正する審判を請求し(訂正2003-39242号),同年12月4日,先の請求(訂正2003-39151号)を取り下げた。その後,特許庁は,訂正2003-39242号事件について,審理した上,平成16年7月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。原告は,上記審決の取消を求めて,東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起した(東京高等裁判所平成16年(行ケ)第382号(平成17年4月1日付けで知的財産高等裁判所に回付,知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10215号))が,知的財産高等裁判所は,平成17年9月14日,原告の請求を棄却する判決をした。原告は,平成17年9月22日,上記訂正審判請求(訂正2003-39242号)を取り下げ,同月26日,上記審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10215号)を取り下げた(同訴訟の被告特許庁長官は,同月27日,取下に同意。)。
原告は,平成17年9月22日,改めて請求項3の訂正を含め本件明細書を訂正することについて審判を請求し(訂正2005-39167号),同審判事件は,現在,特許庁に係属中である(なお,原告の平成18年1月12日付け上申書によれば,上記審判事件については,平成17年12月5日付けで訂正拒絶理由が通知された。)。
なお,原告は,本訴の第8回弁論準備手続期日(平成17年12月5日)において,本件審決中「特許第2528011号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする」との部分の取消を求めた部分について,訴えを取り下げ,被告はこれに同意した。
2特許請求の範囲本件明細書の請求項3の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。
「(3)本体部と先端部とを有し,先端が開口する第1のルーメンを有する内管と,該内管に同軸的に設けられ,本体部と先端部とを有し,前記内管の先端より所定長後退した位置に設けられ,該内管の外面との間に第2のルーメンを形成する外管と,先端部および基端部を有し,該基端部が前記外管に取り付けられ,該先端部が前内管に取り付けられ,該基端部付近にて第2のルーメンと連通する収縮あるいは折り畳み可能な拡張体と,該内管の基端部に設けられた,前記第1のルーメンと連通する第1の開口部と,前記外管の基端部に設けられた前記第2のルーメンと連通する第2の開口部とを有し,前記内管および前記外管の少なくとも一方の本体部は,カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性を高めるために超弾性金属管により形成されていることを特徴とするカテーテル。」3本件審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開昭61-193670号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。),特開昭60-249788号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び特開平1-121066号公報(以下「刊行物4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。)並びに特開昭60-63065号公報(以下「刊行物5」という。)に示された知見に基づいて当業者が容易に発明することができたものである,というものである。
本件審決が上記結論を導くに当たり認定した引用発明1と本件発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)「ルーメンを有する本体部の管状部材は,超弾性金属管により形成されているカテーテル。」である点。
(相違点(1)〔本件審決における「相違点C」〕)本体部の管状部材として,本件発明においては,「管」を用い,「カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性を高めるため」に,「内管および外管の少なくとも一方」を,超弾性金属により形成しているのに対し,引用発明1においては,内外二重構造を有しない「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を用い,これを超弾性金属により形成している点。
(相違点(2)〔本件審決における「相違点D」〕)本件発明は,「本体部と先端部とを有し,先端が開口する第1のルーメンを有する内管と,該内管に同軸的に設けられ,本体部と先端部とを有し,前記内管の先端より所定長後退した位置に設けられ,該内管の外面との間に第2のルーメンを形成する外管と,先端部および基端部を有し,該基端部が前記外管に取り付けられ,該先端部が前記内管に取り付けられ,該基端部付近にて第2のルーメンと連通する収縮あるいは折り畳み可能な拡張体と,該内管の基端部に設けられた,前記第1のルーメンと連通する第1の開口部と,前記外管の基端部に設けられた前記第2のルーメンと連通する第2の開口部とを有」するものであるのに対し,引用発明1は,かかる構造を有するかどうか明らかでない点。
第3原告主張の取消事由の要点1取消事由1(本件発明と引用発明1の対比の誤り)(1)一致点について本件審決は,引用発明1において,「内部にルーメンを形成し,超弾性金属の管状部材により形成された本体部を有する」ことは,「ルーメンを有する本体部の管状部材は,超弾性金属管により形成されている」ことにほかならないとし,本件発明と引用発明1が,「ルーメンを有する本体部の管状部材は,超弾性金属管により形成されているカテーテル。」である点で一致する旨認定したが,誤りである。
本件審決が,引用発明1を「内部にルーメンを形成し,超弾性金属の網部材1またはヘリカルコイル2からなる管状部材により形成された本体部を有するカテーテル4。」と認定し,「管状部材」とは「管」そのものを指すのではなく,管のような形状の部材を指すものと解される旨説示した(審決書10頁29行〜34行)とおり,引用発明1における「超弾性金属の管状部材」は「管」ではないから,これを「超弾性金属管」ということはできない。
本件審決は,本件明細書の請求項3に記載のない「管状部材」という曖昧な表現を用いることにより,本件発明と引用発明1の対比に際して曖昧さを助長させた点に,問題がある。
(2)相違点(1)について本件審決は,相違点(1)の認定において,本件発明の「超弾性金属管」と対比すべき引用発明1の構成として,「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を超弾性金属により形成している点を摘示したが,誤りである。
引用発明1は,「網部材1またはヘリカルコイル2」からなる液体又は気体が漏れる構造のものに,ポリエチレン被覆をすることによって,液体又は気体が漏れないようにした管状部材によって形成されているのであって,液体又は気体が漏れない金属管からなるものではない。カテーテルにおいて「管状部材」という場合,液体又は気体を漏れなく移送できるものでなければならないが,引用発明1における「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」は,それのみでは,液体又は気体が漏れたり,必要な物性が得られなかったりするため,カテーテルとして用いることができない。これらをカテーテルとして用いるには,刊行物1の実施例にあるように,ポリエチレン被覆膜が必須である。
これに対し,本件発明の「超弾性金属管」は,それのみで,カテーテルとして用いることができる。
したがって,「管状部材」として対比するのであれば,本件発明の「超弾性金属管」と引用発明1の「ポリエチレン被覆膜」を対比すべきものである。
2取消事由2(相違点判断の誤り)(1)相違点(1)について本件審決は,カテーテル本体部の管状部材として,引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」に代えて,「管」を用いることが当業者に容易に想到され得るものであるから,相違点(1)には,格別の技術的意義は見出せない旨判断したが,誤りである。
ア引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」は,超弾性金属により形成されているものの,軸方向に隙間を有し,不連続な形態をしていおり,曲がり易く,柔軟性及びしなやかさを有するものであるから,「カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性を高めるため」に,「内管および外管の少なくとも一方」を,超弾性金属により形成している本件発明とは,正反対の効果が期待されている。
そして,引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」が,引用発明2の「管」よりも構造的変形性が良いことが当業者に自明である以上,この構造的変形性を阻害することを無視して,引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を引用発明2の「管」に置き換えることは,当業者が到底考えつかないことである。
イ本件審決は,刊行物2には,医療機器に用いられる可撓性管としてカテーテルを排除する記載は見られない以上,刊行物2に記載の医療機器用可撓性管がカテーテルにも適用できることは,当業者ならばただちに認識し得ることである旨説示した。
しかし,医療機器における冷塩水の送液管として利用される引用発明2は,患者の体外で使用される以上,カテーテルー般に求められるほどの可撓性は必要とされない。すなわち,人体の外で用いられるものと,人体内に挿入するカテーテルとでは求められる機能が異なり,医療機器に用いられる可撓性管を取り外して,血管に挿入すれば,血管は引き裂けてしまう。
したがって,当業者は,引用発明2をカテーテルに適用することを容易に想起できるものではない。
国際公開第89/08472号パンフレット(1989年)(以下「刊行物3」という。)には,バルーンカテーテルに関する発明が記載されているが,カテーテルの本体部を超弾性金属管とすることについては,記載されていない。
一方,本件発明は,「カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性を高めるため」に,「内管および外管の少なくとも一方」を,超弾性金属により形成している。
したがって,引用発明1の押し込み力の伝達性の劣る「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を,刊行物3記載の発明に使用したところで,押し込み力の伝達性が高まることはありえないので,これらを組合わせることが容易であるということはできない。
エ刊行物5は,カテーテルのガイドワイヤを超弾性金属とするものであって,カテーテル自体を超弾性金属とするものではない。すなわち,刊行物5においては,カテーテル自体を超弾性金属とするという技術思想はなく,カテーテルは従来の構成のものを用い,ガイドワイヤを超弾性金属とすることによって問題を解決しようとしたものであって,技術思想が異なっている。
カテーテルのような中空の部材と,ガイドワイヤのような中実の部材では,たとえ同じ材料から形成されたとしても,挙動,物性が異なり,中空の管としたときの耐キンク性,柔軟性,押し込み性が十分となるかどうかは,刊行物5から窺い知れるものではない。
(2)相違点(2)について本件審決は,引用発明1において,引用発明4のような形状,構造を採用することは当業者ならば適宜設計変更し得ることというべきであるから,相違点(2)には,格別の技術的意義は見出せない旨判断したが,誤りである。
刊行物4に,「第2のルーメン内に極細の金属パイプが気泡除去用に設けられている」(甲5の4,2頁右上欄4行〜6行)と記載されているとおり,本件特許の出願前は,内管と外管を備える二重管構造の拡張カテーテルにおける金属管は,気泡除去用にルーメン内に設置するのが当業者の常識であった。
したがって,本件発明のように,内管と外管の本体部自体を「金属管」で構成することは,当業者に容易ではなかったものというべきである。
(3)本件発明の目的効果について本件発明は,二重管のバルーンカテーテルにおいて内管及び外管の少なくとも一方のカテーテル本体部を超弾性金属管とすることによってその目的効果を達しようとするものである。本件発明は,血管挿入用カテーテルに関するものであるが,血管は複雑に分岐し曲がっている。そこで,バルーンカテーテルは患部に到達するまでに屈曲を繰り返し,血管の屈曲に応じて屈曲し,その部分を通過すればまたもとの形状にもどって,基端部で与えた押し込み力を伝達しながら先端が患部に進んでいくのである。しかも,1mmに満たない細い血管内を二重管のカテーテルが進んで行くためには,カテーテル本体自体が超弾性を有することが必要である。
本件発明の技術的意義は上記の点にあるのであり,これは,刊行物1ないし5に記載された発明によってはもちろん,その組み合せによってもなし得ないことである。
したがって,これを当業者が容易に発明することができるとした本件審決の判断は誤りである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(本件発明と引用発明1の対比の誤り)について(1)一致点について原告は,本件審決が,本件明細書の請求項3に記載のない「管状部材」という曖昧な表現を用いることにより,本件発明と引用発明1の対比に際して曖昧さを助長させた点に,問題がある旨主張する。
しかし,「管状部材」という用語は,刊行物1に用いられている用語であり,その外延は明確であって,暖味さはない。
(2)相違点(1)について原告は,「管状部材」として対比するのであれば,本件発明の「超弾性金属管」と引用発明1の「ポリエチレン被覆膜」を対比すべきものである旨主張する。
しかし,刊行物1の記載によれば,引用発明1における「管状部材」は,「網部材1またはヘリカルコイル2」であり,「熱可塑性樹脂」のコーティングや「ポリエチレン被覆膜3」ではないことは明らかである。原告の主張は,刊行物1の記載を曲解するものであり,失当である。
2取消事由2(相違点判断の誤り)について(1)相違点(1)についてア刊行物3に「カテーテルの押し動かし性能を犠牲にせずに可撓性を良くする要求がある」(訳文に相当する特表平3-504204号公報2頁右下欄11行〜12行)と記載されているように,カテーテルにおいて,柔軟性(しなやかさ,構造的変形性,可撓性)と押し込み力の伝達性(押し動かし性能)とのバランスを適宜最適なものとすることは周知の課題である。
したがって,柔軟性をある程度阻害することとなっても,押し込み力の伝達性を高めるために設計変更を施すことも周知であり,柔軟性と押し込み力の伝達性とが相反する性質であることをもって,当業者が到底考えつかないことであると結論付ける原告の主張は,失当である。
イカテーテルは医療機器分野に属するものであり,刊行物1には,カテーテルの本体部を超弾性金属製の「管状部材」により形成することが示唆されている(なお,カテーテルの本体部において,超弾性金属管が用いられていることは,特開昭60-100956号公報(乙1)にも記載されているところである。)。
したがって,刊行物1の示唆に基づき,引用発明2の「Ni-Ti系合金からなる医療機器用可撓性管」を,引用発明1のカテーテルに適用することは,当業者が容易に想起できるものである。
なお,原告は,医療機器に用いられる可撓性管を取り外して,血管に挿入すれば,血管は引き裂けてしまう旨述べるが,本件審決は,カテーテルに超弾性金属管を用いることの容易性を指摘するため,医療機器に超弾性金属管が用いられることを刊行物2により立証したものであって,当業者が,刊行物2に実施例として記載されたものをそのまま,カテーテルに用いようとする旨判断したものではないから,原告の主張は失当である。
ウ原告は,引用発明1の押し込み力の伝達性の劣る「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を,刊行物3記載の発明に使用したところで,押し込み力の伝達性が高まることはあり得ないので,これらを組合わせることが容易であるということはできない旨主張する。
しかし,本件審決は,引用発明2を引用発明1に適用することの容易性を立証するために,刊行物3の記載を用いているのであるから,引用発明1と刊行物3記載の発明の組合わせを云々する原告の主張は失当である。
エ原告は,カテーテルのような中空の部材と,ガイドワイヤのような中実の部材では,たとえ同じ材料から形成されたとしても,挙動,物性が異なり,中空の管としたときの耐キンク性,柔軟性,押し込み性が十分となるかどうかは,刊行物5から窺い知れるものではない旨主張する。
しかし,刊行物5には,「押し込み力の伝達性を高めるために」,超弾性金属を用いることが明示されており,超弾性金属を用いて押し込み性の向上を図る技術思想は,本件特許の出願前に公知となっているものである。
中実で用いられた押し込み性の向上技術を中空において適用する場合において,後者の方が押し込み力が逆に低減してしまうならともかく,両者とも向上するものである以上,「押し込み力の伝達性を高めるために」,超弾性金属を使用することは至極当然のことであり,原告の主張は失当である。
(2)相違点(2)について刊行物4には,気泡除去用の金属管の有無にかかわらず,本体部を二重管とするバルーンカテーテルという周知技術が記載されている。原告の主張は,刊行物4の実施例の記載に拘泥するものであって,失当である。
(3)本件発明の目的効果について引用発明1,4に係るカテーテルは,血管挿入用として用いることができるものであって,血管の分岐ないし屈曲や血管内における進行を考慮しており,また気管用を初めとするカテーテルー般においても当然に分岐,屈曲や進行を考慮するものであって,何も本件発明だけが殊更にこの点を考慮していたものではない。
したがって,本件発明は当業者が容易に発明することができたとする本件審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件発明と引用発明1の対比の誤り)について(1)一致点について原告は,引用発明1における「超弾性金属の管状部材」は「管」ではないから,これを「超弾性金属管」ということはできず,本件審決が,「ルーメンを有する本体部の管状部材は,超弾性金属管により形成されているカテーテル。」である点を,本件発明と引用発明1の一致点と認定したことは,誤りである旨主張する。
本件審決は,引用発明1を「内部にルーメンを形成し,超弾性金属の網部材1またはヘリカルコイル2からなる管状部材により形成された本体部を有するカテーテル4。」と認定しているところ(審決書10頁29行〜32行),甲5の1(刊行物1)によれば,本件審決の上記認定に誤りはない(なお,原告も,本件審決の上記認定について争っていない。)。そして,引用発明1における「管状部材」を構成する「網部材1またはヘリカルコイル2」は,「管」そのものとはいえないが,全体として管のような形状を有する部材であることは,明らかである。
一方,本件発明は,内管と外管はいずれも管状部材であって,その内部にルーメンを有するものであり,その少なくとも一方の本体部は,超弾性金属管により形成されているものということができる。
また,「管状」とは,「くだのような形」(広辞苑第五版)のことであるから,「管状部材」とは,「管のような形状を有する部材」を意味し,「管」をも包含する上位概念の用語と理解することができる。
そうすると,本件発明と引用発明1は,「ルーメンを有する本体部の管状部材は,超弾性金属により形成されているカテーテル。」であるとの点で一致するものと認めるのが相当である。
したがって,本件審決が認定した本件発明と引用発明1の一致点のうち「超弾性金属管」とあるのは「超弾性金属」の誤りであるというべきであるが,本件審決は,他方で,「『管状部材』とは『管』そのものではなく,管のような形状の部材を指すものと解される」(審決書10頁32行〜34行)と説示しており,また,「本体部の管状部材」として,本件発明においては,「管」を用い,「カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性を高めるため」に,「内管および外管の少なくとも一方」を,超弾性金属により形成しているのに対し,引用発明1においては,内外二重構造を有しない「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を用い,これを超弾性金属により形成している点を,本件発明と引用発明1の相違点(1)として認定し判断していることからすると,本件審決の上記誤りは,単なる誤記と認めるのが相当であるし,少なくとも本件審決の結論に影響を及ぼすものではないということができる。
また,「管状部材」とは,「管のような形状を有する部材」を意味し,「管」をも包含する上位概念の用語と理解することができることは,上記のとおりであるから,本件審決が,一致点の認定に当たり,「管状部材」という用語を用いたことを誤りということはできない。
(2)相違点(1)について原告は,カテーテルにおいて「管状部材」という場合,液体又は気体を漏れなく移送できるものでなければならないから,「管状部材」として対比するのであれば,本件発明の「超弾性金属管」と引用発明1の「ポリエチレン被覆膜」を対比すべきものである旨主張する。
刊行物1(甲5の1)には,次の記載がある。
「熱弾性マルテンサイト変態を示す形状記憶合金線によって網状に編まれたあるいはコイル状に形成された管状部材に熱可塑性樹脂がコーティングされて構成されていることを特徴とするカテーテル。」(1頁左下欄5行〜9行)「Ti-Ni合金線……を用いて網形状に編んだ管状部材……及びヘリカルコイル状に成形された管状部材」(2頁右上欄18行〜左下欄2行)「上記の網部材1及びヘリカルコイル2をそれぞれポリエチレン融液槽の中に浸漬して,薄くコーティング処理を施し,即ち網部材1及びヘリカルコイル2にポリエチレン被覆膜3を施し,カテーテル4を製作した。」(2頁左下欄19行〜右下欄4行)刊行物1の上記記載に照らせば,引用発明1において,「管状部材」とは,Ti-Ni合金線などの合金を網状あるいはヘリカルコイル状とし全体として管状に形成した部材をいうのであって,「熱可塑性樹脂」のコーティングや「ポリエチレン被覆膜3」をいうのではないことは明らかである。
確かに,カテーテルにおいて液体又は気体を移送する「管」として対比する場合には,引用発明1における「超弾性金属の網部材1またはヘリカルコイル2」にポリエチレン被覆膜を施したものが,本件発明の「超弾性金属管」に対応するともいえる。しかし,前記(1)で検討したとおり,「管状部材」とは,「管のような形状を有する部材」を意味し,「管」をも包含する上位概念の用語と理解することができ,本件発明の「超弾性金属管」が「管状部材」であることは明らかであるから,これと対比すべき引用発明1の構成として,本件審決が,「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を超弾性金属により形成している点を摘示したことに誤りがあるということはできない。
2取消事由2(相違点判断の誤り)について(1)相違点(1)についてア原告は,引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」は,超弾性金属により形成されているものの,曲がり易く,柔軟性及びしなやかさを有するものであるから,「カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性を高めるため」に,「内管及び外管の少なくとも一方」を超弾性金属により形成している本件発明とは,正反対の効果が期待され,引用発明1の構造的変形性を阻害することを無視して,引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」を引用発明2の「管」に置き換えることは,当業者が到底考えつかない旨主張する。
しかし,後記イのとおり,引用発明2の「医療機器用可撓性管」も「しなやかに変形する」との機能を備えるものと認められるものであるし,引用発明1の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」よりしなやかさの程度において劣るところがあるとしても,刊行物3(甲5の3)に「カテーテルの押し動かし性能を犠牲にせずに可撓性をよくする要求がある」(訳文に相当する特表平3-504204号公報2頁右下欄11行〜12行)と記載されているように,柔軟性(しなやかさ,構造的変形性,可撓性)と押し込み力の伝達性(押し動かし性能)のいずれもカテーテルに要求される機能であることは,技術常識といえるから,これらのバランスをどのように取るかは,当業者が設計上適宜定めることができる事項といえ,押し込み力の伝達性を相対的に重視して引用発明2の「管」構造を採用することに格別の妨げがあるということはできない。
イ原告は,医療機器における冷塩水の送液管として利用される引用発明2は,人体の外で用いられるものであり,人体内に挿入するカテーテルとでは求められる機能が異なるから,引用発明2をカテーテルに適用することを容易に想起できるものではない旨主張する。
刊行物2(甲5の2)には,次の記載がある。
「(1)少なくとも一部が,使用温度域にて外力が加えられると応力誘起マルテンサイト変態を生じて変形し,外力を除去すると元の相に戻ることにより超弾性挙動を示す熱弾性型マルテンサイト変態を生じる合金部材により構成されていることを特徴とする,可撓性管。」(1頁左下欄5行〜10行)「この発明は,たとえば医療機器においてガスもしくは液体等の流体を送排するのに使用されているような可撓性管の構造の改良に関する。」(1頁左下欄17行〜19行)「また,『超弾性挙動を示す熱弾性型マルテンサイト変態を生じる合金』としては,たとえばNi-Ti系合金,・・・を用いることができる。」(2頁右上欄7〜12行)「この発明は,上記したように超弾性挙動を利用するものであり,したがって通常の弾性変形を利用するものに比べてはるかにしなやかに変形することが可能である。」(2頁左下欄2〜5行)刊行物2の上記記載によれば,引用発明2は,「医療機器用可撓性管」であり,医療機器において流体を移送するものである点において,本件発明の「カテーテル」と共通するものである。しかも,刊行物2記載の「しなやかに変形する」との機能は,カテーテルにも要求されるものであることは明らかである。したがって,「しなやかに変形する」という機能に着目して,引用発明2の「管」である構造を,引用発明1のカテーテルに適用することは,当業者が容易に想起し得る程度のことというべきである。
そうすると,カテーテル本体部の管状部材として,引用発明1における超弾性金属の「網部材1」又は「ヘリカルコイル2」に代えて「超弾性金属管」を用いることは,当業者に容易に想到され得るものといえる。
原告は,人体の外で用いられるものと,人体内に挿入するカテーテルとでは求められる機能が異なり,医療機器の可撓性管を取り外して,血管に挿入すれば,血管は引き裂けてしまうから,当業者は,引用発明2をカテーテルに適用することを容易に想起できない旨主張するが,引用発明2の「管」である構造を,引用発明1のカテーテルに適用するに際して,カテーテルに適した特性をもたせることは,当業者が設計上当然考慮する程度の事項というべきであるから,引用発明2の「管」である構造を,引用発明1のカテーテルに適用することに格別の妨げがあるということもできない。
ウそして,刊行物5(甲5の5)に,カテーテル用ガイドワイヤを超弾性金属体によって形成することにより,押し込み力やトルクの伝達性が向上することが記載されており,内管と外管を備える二重管構造の引用発明4の構成を引用発明1に適用する際にも,内外管いずれの管を超弾性金属としても,カテーテルの基端部で与えた押し込み力の伝達性が高まるであろうことは容易に推測できるから,内管及び外管の少なくとも一方の本体部を超弾性金属により形成することに格別の困難を要するものとはいえない。
原告は,刊行物5はカテーテル自体を超弾性金属とするものではないと主張するが,カテーテル用ガイドワイヤ(甲5の5,1頁右下欄7行〜11行参照)も,カテーテルも,いずれも血管に挿入されるものであり,押し込み等に関して要請される特性が共通することは当業者にとって明らかであるから,原告主張の点は,上記判断を何ら左右するものではない。なお,原告は,引用発明1と刊行物3記載の発明を組み合わせることは容易でないとも主張しているが,本件審決は,本件発明について,引用発明1に刊行物3記載の構成を組み合わせて容易想到性を判断しているわけではないから,原告の主張は失当である。
エ以上によれば,相違点(1)には格別の技術的意義は見出せない,とする本件審決の判断に誤りがあるということはできず,その誤りをいう原告の主張は採用することができない。
(2)相違点(2)についてア刊行物4(甲5の4)には,「本体部と先端部とを有し,先端が開口する第1のルーメンを有する内管と,該内管に同軸的に設けられ,本体部と先端部とを有し,前記内管の先端より所定長後退した位置に設けられ,該内管の外面との間に第2のルーメンを形成する外管と,先端部および基端部を有し,該基端部が前記外管に取り付けられ,該先端部が前記内管に取り付けられ,該基端部付近にて第2のルーメンと連通する収縮あるいは折り畳み可能な拡張体と,該内管の基端部に設けられた,前記第1のルーメンと連通する第1の開口部と,前記外管の基端部に設けられた前記第2のルーメンと連通する第2の開口部とを有するカテーテル。」との発明(引用発明4)が記載されており,この点は原告も争わないところである。
そして,引用発明4は,相違点(2)に係る本件発明の構成を有するものであって,引用発明1と同じく,カテーテルに関するものであるから,かかる構成を引用発明1に適用し,相違点(2)に係る本件発明の構成を得ることは,当業者が適宜なし得る程度のことであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ原告は,刊行物4の「第2のルーメン内に極細の金属パイプが気泡除去用に設けられている」(甲5の4,2頁右上欄4行〜6行)との記載に照らせば,本件特許の出願前は,内管と外管を備える二重管構造の拡張カテーテルにおける金属管は,気泡除去用にルーメン内に設置するのが当業者の常識であったから,本件発明のように,内管と外管の本体部自体を「金属管」で構成することは,当業者に容易ではなかった旨主張する。
しかし,刊行物3(甲5の3)には,「バルーンカテーテルであって,近端から遠端まで内部を延長するルーメンを有し細長中空薄壁の管と,第1端を金属管の遠端に接続し管のルーメンに連通する内部連通流通ルーメンを有する中空可撓性トルク伝達軸と,軸の第2の端部から遠端方向に延長するコアと,近端を軸の第2の端部に接着し遠端をコアに接着しコアを囲む膨張可能バルーンとを含み,バルーンの内部を流通ルーメンに連通させたことを特徴とするバルーンカテーテル。」(訳文に相当する特表平3-504204号公報,1頁左下欄2行〜10行)が記載されており,内管と外管を備える二重管構造ではないが,ルーメンを有する管状部材の本体部が金属管で構成されるカテーテルが,本件特許の出願前に存在したことが認められる。
そうすると,刊行物4に原告が指摘する「第2のルーメン内に極細の金属パイプが気泡除去用に設けられている」との記載があるからといって,内管と外管の少なくとも一方の本体部を「金属管」で構成することに格別の妨げがあるということはできない。
(3)本件発明の目的効果について原告は,本件発明は血管挿入用カテーテルに関するものであるが,血管は複雑に分岐し曲がっており,1mmに満たない細い血管内を二重管のカテーテルが進んで行くためには,カテーテル本体自体が超弾性を有することが必要であって,このことは,各刊行物に記載された発明によってはもちろん,その組み合せによってもなし得ないことである旨主張する。
しかし,刊行物1の「本発明は造影剤注入等に用いるカテーテルの構造に関するものである。」との記載(甲5の1,1頁右下欄3行〜4行),刊行物4の「本発明は,血管内狭窄部を治療するために,狭窄部を拡張し,狭窄部末梢側における血流の改善を図るための拡張体付カテーテルに関するものである。」(甲5の4,2頁左上欄3行〜6行)との記載に照らせば,引用発明1,引用発明4とも,血管挿入用カテーテルに関する技術であって,複雑に分岐,屈曲した血管内に押し進めていくものである点は,本件発明と変わるところがない。
そして,内管と外管を備える二重管構造のカテーテルにあっても,内管及び外管の少なくとも一方の本体部を超弾性金属により形成することに格別の困難を要するものとはいえないことは,前記(1)のとおりであり,そのことにより奏される効果も,当業者にとって予測の域を超えるものということはできないから,本件発明が,二重管構造の血管挿入用カテーテルにおいて,内管及び外管の少なくとも一方の本体部が超弾性を有するようにしたことに,引用発明1,2及び4並びに刊行物5から当業者が予測し難い程の,格別の技術的意義がある,ということはできない。
よって,原告の主張は採用の限りでない。
3結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,本件審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
なお,原告は,平成17年9月22日,訂正2003-39242号に係る訂正審判請求を取り下げるとともに,本件明細書を訂正する審判を新たに請求し(訂正2005-39167号),上記新たな訂正審判請求についての審決があるまで本訴についての判断を待つよう求めたが,上記新たな訂正審判請求の内容及び原告の平成18年1月12日付け上申書等を検討しても,本訴の完結をさらに遅延させてまで,当該審決を待つ必要があるものとは認められない。