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関連審決 不服2003-14578
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10259号 審決取消請求事件
原告コーニンクレッカ フィリップス
同 エレクトロニクス エヌ ヴィ
訴訟代理人弁理士津軽進
同 宮崎昭彦
同 笛田秀仙
被告特許庁長官 中嶋誠
指定 代理人田口英雄
同 佐藤敬介
同 立川功
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-14578号事件について平成18年1月17日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が同請求不成立の審決をしたため,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1)特許庁における手続の経緯原告は,名称を「X線検査装置」とする発明につき,平成6年3月28日(パリ条約による優先権主張1993年〔平成5年〕3月30日,オランダ国)に特許出願(特願平6-82506号,以下「本件出願」という。甲1)をした。
その後原告は,平成13年3月28日に手続補正(第1次補正,甲4)を,平成15年3月18日に手続補正(第2次補正。請求項の数15。甲2)をしたが,拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-14578号事件として審理した上,平成18年1月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年1月31日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。
(2)発明の内容第2次補正により補正された特許請求の範囲に記載された請求項の数は前記のとおり15であるが,そのうち請求項1は,下記のとおりである(甲2。
以下,ここに記載された発明を「本願発明」という。)。
記【請求項1】被検査体に照射することによりX線画像を生成するX線源と,前記X線画像を可視画像に変換する放射線変換手段を備えた画像化部と,前記可視画像の一部分のサブ画像を基本電子サブ画像に変換する複数の画像センサと,前記基本電子サブ画像から再合成電子画像を生成する画像処理手段と,を有するX線検査装置であって,前記画像処理手段は,それぞれの基本電子サブ画像にそれぞれ幾何学的変換処理を行うことにより変換電子サブ画像を生成する変換手段を含み,前記変換手段は,それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,それぞれの変換電子サブ画像の画素に対する画素値を決定する画素値補間手段を含むことを特徴とするX線検査装置。
(3)審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,その出願前に頒布された下記引用例1〜3に基づき当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,等としたものである。
記引用例1:米国特許第4503460号明細書(発行日1985年[昭和60年]3月5日。甲5)引用例2:特開平5-56251号公報(甲6)引用例3:特開平1-228069号公報(甲7)イ上記判断をするに当たり,審決は,引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)を次のとおり認定した上,本願発明との一致点及び相違点を,次のとおりとした。
(引用発明1)「X線管1を含むX線診断装置であって,X線管1はX線発生器2によつて動作し,X線管1からの照射ビームは患部3を通り,高電圧発生器5に接続された映像増倍装置4の入力蛍光面上にX線像を形成し,複数のレンズ6,8から成る光学結合装置により,映像増倍装置4の出力像は半導体イメージセンサ7,9に伝達され,その際,レンズ6,8は,X線映像増倍装置の出力蛍光面の各々の区域の像がそれぞれのイメージセンサ上に映されるように配置され,結果的に出力蛍光面全体が走査されるが,この半導体イメージセンサは例えばセンサエレメントとしてフオトダイオードまたはCCDイメージコンバータのマトリクスで構成され,イメージセンサ7,9の出力は回路10へ供給され,回路10は,イメージセンサの出力信号を映像信号に変換し,イメージセンサの位置誤差を検知して排除し,映像信号はビデオアンプ11で増幅され,モニタ12に示されるX線診断装置」(一致点)「被検査体に照射することによりX線画像を生成するX線源と,前記X線画像を可視画像に変換する放射線変換手段を備えた画像化部と,前記可視画像の一部分のサブ画像を基本電子サブ画像に変換する複数の画像センサと,前記基本電子サブ画像から再合成電子画像を生成する画像処理手段と,を有するX線検査装置。」である点(相違点1)本願発明は,「前記画像処理手段は,それぞれの基本電子サブ画像にそれぞれ幾何学的変換処理を行うことにより変換電子サブ画像を生成する変換手段を含み」という構成を備えるのに対して,引用発明1では,その構成が備えられていない点。
(相違点2)本願発明は,「変換手段は,それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,それぞれの変換電子サブ画像の画素に対する画素値を決定する画素値補間手段を含む」構成を備えるのに対して,引用発明1では,その構成が備えられていない点。
(4)審決の取消事由しかしながら,審決は,以下のとおり,本願発明の認定を誤った結果,相違点2についての判断を誤ったものであり,違法として取消しを免れない。
ア 本願発明の「変換手段」の意義本願発明によるX線検査装置は,可視画像を,例えば,左上部分,右上部分,左下部分及び右下部分といった複数の領域に分け,分けられたそれぞれの領域の可視画像を,それぞれの領域の基本電子サブ画像として記録する。各基本電子サブ画像間の配置方向のずれ及び光学歪によるずれを補正するために,幾何学的変換処理を画像処理手段内の変換手段により実行する。これらの変換後の変換電子サブ画像から,可視画像全体を表わす再合成電子画像を作成する。
本願発明では,幾何学的変換処理が,各基本電子サブ画像間の配置方向のずれを補正するだけでなく,非線形な光学歪についても補正できるようにした。具体的には,ピンクッション歪又は樽型歪のような非線形歪は,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理により補正されるのである。例えば,基本電子サブ画像が他の基本電子サブ画像に対して左にずれていて,当該基本電子サブ画像の光学歪が樽型歪だとする。
この場合,当該基本電子サブ画像を右に移動させるだけの幾何学的変換処理では不十分である。樽型歪によるずれは,基本電子サブ画像の真ん中の部分が上下の部分より,ずれが大きく膨らんでいるからである。単に基本電子サブ画像全体を右に移動させるという配置方向のずれを補正するための幾何学的変換は,画素アドレスに依存していない。一方,非線形な光学歪を補正するため,当該基本電子サブ画像内のどの画素アドレスをどれだけ幾何学的変換処理しなければならないかを,それぞれの画素アドレス毎に決める。このように,単に基本電子サブ画像全体のずれ補正のためだけでなく,各画素アドレス毎に割り当てられる樽型歪修正を含む幾何学的変換処理により,ずれがなく,光学歪を補償した再合成電子画像が得られる。
このことは,本件明細書(甲2の全文補正明細書)の段落【0011】の「前記変換手段が,各基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,変換された,段落各電子サブ画像の画素に対し,画素値を決定する画素値補間手段を有している」「本発明のX線検査装置の別の望ましい実施例が特徴とする点は,前記幾何【0027】の,段学的変換処理が,基本サブ画像の画素の画素アドレスに依存している点である。」「レンズ系から成るような光学結合手段は,基本電子サブ画像に光学歪落【0028】のを発生させることがある。このような歪は非線形である。つまり,基本電子サブ画像内の画素位置は,変換された電子画像内の画素位置とは非線形の関係にある。このような,ピンクッション歪又は樽型歪のような,非線形歪は,問題の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を利用することにより補正される。特に,幾何学的変換処理が変換マトリクスにより決定される場合には,必要とされる依存性は,画素アドレス値に依存するマトリクス要素を利用することにより導入される。」 「レンズ9a,段落【0045】の-dがその原因となる光学歪も又,画素アドレスの値,つまり変換されるサブ画像内の位置,に対応する幾何学的変換処理を採用することにより補正することが可能である。
このことは,例えば,位置に依存するマトリクス要素を有する変換マトリクスを有する幾何学的変換処理を使用することにより達成される。」,「レンズ系段落【0048】のにより生じる歪は非線形特性を有している場合がある。このような歪は,変換される画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を使用することにより補正することができる。
このことは,例えば,変換される画素の座標に依存する,マトリックスU及びマトリックス要素とベクトル成分とを各々有しているベクトルtを採用することにより得られ,という各記載から明らかである。
る。」イ 審決の相違点2の判断の誤り「幾何学変換処理において,変換された画素位置が審決は,相違点2について,割り当てられた整数値の画素位置と一致しない場合,画素値補間手段を用いて,割り当てられた整数値の画素位置での画素値を決定することは常套手段であり(特開平4-88578号公報,特開平4-268975号公報,特開平5-73529号公報),引用発明1の画像処理手段に,『それぞれの基本電子サブ画像にそれぞれ幾何学的変換処理を行うことにより変換電子サブ画像を生成する変換手段』を含むようにする際,該常套手段を含むようと判断にすることは,当業者が,格別困難なくなし得たことである」(7頁第2段落)したが,上記アのとおりの本願発明の「変換手段」の意義を看過した判断であって,誤りである。
審決が,相違点2についての発明が常とう手段であることを示す具体例として例示した特開平4-88578号公報(甲8),特開平4-268975号公報(甲9)及び特開平5-73529号公報(甲10)は,いずれも単に補間手段を述べただけであり,それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられて当該画素アドレスに基づいた幾何学的変換がなされることの開示も示唆もない。よって,「それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,それぞれの変換電子サブ画像の画素に対する画素値を決定する画素値補間手段」は,周知でない。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)(2)(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の判断には,原告主張の誤りはない。
(1)原告は,本願発明は,「基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する」幾何学的変換処理を行うことにより,「非線形な光学歪についても補正」することを可能にしたものであると主張するが,本願発明(請求項1)には,これらの旨の記載がなされていないことは明らかである。
また,本願発明の構成中,「前記変換手段は,それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,それぞれの変換電子サブ画像の画素に対する画素値を決定する画素値補間手段を含む」は,幾何学的変換一般における画素値補間手段のことを意味すると解されるのであって,原告が主張するように,「非線形な光学歪についても補正」するための幾何学的変換における画素値補間手段や,「基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する」幾何学的変換における画素値補間手段であると解釈することはできない。
むしろ,原告のいう本願発明の「変換手段」の意義なるものは,第2次補正後の本件出願の【請求項10】「請求項9記載のX線検査装置であって,前記幾何学的変換処理は,基本サブ画像の画素の画素アドレスに依存することを特徴とするX線検査装置。」に対応するものであり,本願発明(請求項1)の特徴といえないのは明らかである。原告が援用する本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載も,本願発明ではなく,請求項10に記載された発明をサポートするものであると解釈するのが自然であり,合理的である。
したがって,本願発明における「変換手段」の意義についての原告の主張は,誤っているというほかない。
(2)上記のとおり,本願発明では,幾何学的変換の方法について,「それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられて当該画素アドレスに基づいた幾何学的変換がなされること」との限定はなされていない。原告は,審決が例示した周知例(甲8〜10)には,上記のように限定された態様の幾何学的変換がなされることの開示も示唆もないことを理由に,相違点2についての審決の判断が誤りであると主張しているが,原告の主張は前提を欠き,失当である。
当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。そこで,以下,原告主張の取消事由に即して審決の適否について判断する。
2 取消事由について(1)本願発明の「変換手段」の意義につきア原告は,本願発明における「変換手段」は,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を意味するところ,審決は,この点につき発明の認定を誤った結果,相違点2の判断を誤ったものであると主張するので,まず,本願発明における「変換手段」の意義について検討する。
特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどの特段の事情がない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであると解される(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。かかる観点に立って検討すると,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,幾何学的変換処理について,「それぞれの基本電子サブ画像にそれぞれ幾何学的変換処理を行うことにより変換電子サブ画像を生成する」と記載されているにとどまり,幾何学的変換処理の具体的方法については何らの限定がない。そうすると,本願発明における幾何学的変換処理の方法は,原告が主張するような,非線形の光学歪によるずれを補正するための「基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理」に限定されるものではなく,そのほかに,計算式を用いた計算による幾何学的変換処理をも含むことは明らかである。
したがって,審決が,「変換手段」の意義を,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存して幾何学的変換処理が行われることに限定して認定しなかったことに,原告主張の誤りはない。
イ原告は,本件明細書(甲2)の段落【0011】,【0027】,【0028】,【0045】,【0048】等の記載によれば,本願発明の幾何学的変換処理の特徴は,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を行うことにある,と主張する。上記アのとおり,本願発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきものではあるが,念のため,発明の詳細な説明におけるこれらの記載を参酌しても,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。
「本発明のX線検(ア)まず,段落【0011】,【0027】,【0028】はいずれもについての記載であるから,これらの段落の査装置の別の望ましい実施例」記載をもって,本願発明全体の特徴であるとすることはできない。
「レンズ9a-dがその原因となる光(イ)次に,段落【0045】について,原告は,学歪も又,画素アドレスの値,つまり変換されるサブ画像内の位置,に対応する幾何学的変換処理を採用することにより補正することが可能である。この事は,例えば,位置に依存するマトリックス要素を有する変換マトリックスを有する幾何学的変換処との記載を援用する。しかし,段落理を使用する事により達成される。」「………各々のサブ画像には,数多くの処【0045】には,同記載に先立って,理オペレーション,つまり,半導体画像センサとレンズ9a-dとの配置方向のずれを補との記載もあるから,段落【0045】正する幾何学的変換処理,が行われる。」の記載を全体としてみれば,本願発明における幾何学的変換処理が,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存して行われるものに特定されているということはできない。
「レンズ系(ウ)さらに,段落【0048】については,原告は,同段落の後半のにより生じる歪は非線形特性を有している場合がある。このような歪は,変換される画素アドレスに依存する幾何学的変換処理を使用することにより補正することができる。このことは,例えば,変換される画素の座標に依存する,マトリックスU及びマトリックス要素とベクトル成分とを各々有しているベクトルtを採用することにより得との記載を援用し,当該記載は,「画素アドレスに依存する」られる。」幾何学的変換処理について述べたものであると主張する。しかし,段落「………画像変換をアフィン変換により行うこともでき【0048】の前半には,る。この方法はメモリ容量が少なくて済むという特徴を有している。このアフィン変換の特徴は,変換函数Fの形態が,F(x1,x2)=U(x1,x2)+tである(Uはスケーリングを伴った回転を表し,tは並進ベクトルである)点である。全ての座標を直接テーブルから得ることに代えて,各組の座標は専用の処理ユと記載されている。アフィン変換は,乙1文献ニットにより計算される。」(1990年11月30日発行 社団法人テレビジョン学会編「テレビジョン画像情報工学ハンドブック」オーム社)の408頁左欄15行〜23行の記載によれば,本件優先権主張日(1993年[平成5年]3月30日)において周知の幾何学的変換処理の一例であって,計算式に基づき線形変換をするものであると認められるから,段落【0048】の記載を全体としてみれば,本願発明における幾何学的変換処理が,基本電子サブ画像の画素アドレスに依存して行われるものに特定されているということはできない。
(エ)以上のとおり,明細書の詳細な説明の記載を参酌しても,本願発明における「変換手段」を,画素アドレスに依存する幾何学的変換処理に限定して解釈することはできない。
(2)相違点2の判断につきア相違点2に係る本願発明の構成は,「変換手段は,それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,それぞれの変換電子サブ画像の画素に対する画素値を決定する画素値補間手段を含む」というものである。この構成において,変換電子サブ画像の「画素」に,基本電子サブ画像の「画素アドレス」が割り当てられるものとされているが,これは,幾何学的変換処理において一般的に行われることであると認められ(乙1文献の408頁(7・49)式参照),特段の技術的意義はない。そうすると,結局,相違点2に係る本願発明の構成は,幾何学的変換処理の具体的方法を特段限定することなく,本願発明が,幾何学的変換処理によって得られる変換電子サブ画像の画素値を決定する画素値補間手段を有することをいっているにすぎないこととなる。
原告は,「変換手段は,それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられる,それぞれの変換電子サブ画像の画素に対する画素値を決定する画素値補間手段を含む」とは,「それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが指定されて変換されたそれぞれの電子サブ画画素に対し,画素値を決定する画素値補間手段を有している」と解釈すべきである,と主張するが,特許請求の範囲の記載を離れた主張というほかなく,採用することができない。
イ原告は,審決が引用する周知例(甲8〜10)には,「それぞれの基本電子サブ画像の画素アドレスが割り当てられて当該画素アドレスに基づいた幾何学的変換がなされること」の開示も示唆もないから,審決が,これらの周知例に示された常とう手段に基づいて,相違点2に係る本願発明の構成を得ることは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得たことであると認定したのは誤りである,と主張する。しかし,原告の主張は,上記のとおり,本願発明の構成を特許請求の範囲の記載に基づかずに認定すべきことを前提とするものであって,採用することはできない。
そして,審決が周知技術の例として引用した甲8公報(特開平4-88578号公報)には,幾何学的変換の一例であるアフィン変換に線形補間補正を適用した画像処理技術が記載されており(2頁右下欄2行〜3頁左上欄19行),甲9公報(特開平4-268975号公報)には,画像を拡大したときに補間処理を行う技術が記載されており(段落【0010】),甲10公報(特開平5-73529号公報)には,画像を拡大縮小した場合に,画素位置が整数値でなくなるので,双線形補間により,画素の値を補間補正することが記載されている(3頁右欄3行以下の「(b)拡大縮小率の指定」の段の説明)。また,乙1文献にも,幾何学変換した場合に画素位置が整数画素位置とはならないので濃度補間により補間補正をすることが記載されている(408頁左欄「2.9.2濃度補間」以下の説明)。これらの記載からすれば,画像に各種の幾何学的変換処理を行った場合に,変換後の画像の画素値を決定するための画素値補間手段を設けるべきことが,当業者の技術常識であったことは明らかである。
「幾何学変換処理において,変換さしたがって,審決が,相違点2について,れた画素位置が割り当てられた整数値の画素位置と一致しない場合,画素値補間手段を用いて,割り当てられた整数値の画素位置での画素値を決定することは常套手段」(7であることを前提に,相違点2に係る本願発明の構成も当業頁6行〜9行)者が容易に想到し得たものであると判断したことに,誤りはない。
3 結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉