関連審決 |
異議2003-723394 異議2003-73394 |
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関連ワード | 発明者 / インターネット / 技術的範囲 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 発明が明確 / 発明が不明確 / 参酌 / 技術的意義 / 均等 / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10099号
特許取消決定取消請求事件
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原告大 王製紙株式会社 原告エリエールペーパーテック株式会社 両名訴訟代理人弁理士和泉久志 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 被告特 許庁長 官中嶋誠 指定代理人石井淑久 同 野村康秀 同 唐木以知良 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/12/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が異議2003-73394号事件について平成18年1月13日にした特許第3473561号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す旨の決定を取り消す。 第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯( )原告らは,平成12年7月28日,発明の名称を「ウェットティッシュ用1不織布」とする特許出願(特願2000-228755号,以下「本件出願」という。)をし,同出願について,特許庁は,特許をすべき旨の査定をし,平成15年9月19日,特許第3473561号として設定登録がされた(以下,この特許を「本件特許」という。)。 ( )その後,本件特許については特許異議の申立てがされ,異議2003-723394号事件として特許庁に係属したところ,原告らは,平成17年8月1日付けで訂正請求をした。特許庁は,上記事件について審理した結果,平成18年1月13日,「訂正を認める。特許第3473561号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年2月3日,原告らに送達された。 2上記訂正後の明細書(甲32,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載(以下,請求項1に記載された発明を「本件発明1」といい,各請求項に記載された発明を一括して「本件各発明」という。)【請求項1】少なくとも,親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維とを含み,繊維が三次元的に交絡するとともに,前記熱融着性を示す第2繊維の融着により繊維同士が結合された不織布であって,前記不織布は,相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部と,相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部とが交互に存在し,前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が,他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し,前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3〜9本/cmであり,かつ前記凸条部と凹条部との高低差は,50〜300μmであることを特徴とするウェットティッシュ用不織布。 【請求項2】前記親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維と,熱捲縮性を示す熱可塑性繊維との3種類の繊維から構成され,高圧水流の投射により繊維を交絡させた後,熱処理により前記熱融着性を示す第2繊維により繊維同士を結合すると同時に,前記熱可塑性繊維を捲縮させて嵩高性を付与している請求項1記載のウェットティッシュ用不織布。 【請求項3】前記親水性を示す第1繊維を50〜70重量%,前記熱融着性を示す第2繊維を10〜30重量%,前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を40重量%以下含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布。 【請求項4】前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維がポリエステル繊維である請求項3記載のウェットティッシュ用不織布。 3決定の理由決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明1について,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから,本件各発明に係る特許は,特許法(注,平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)36条4項及び同条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条1項4号に該当し,取り消されるべきものであるとした。 第3原告ら主張の決定取消事由決定は,本件発明1の特許請求の範囲にいう「線状模様の線本数」に係る記載について,特許法36条4項及び同条6項2号の判断を誤り(取消事由1),また,同じく「凸条部と凹条部との高低差」に係る記載について同様に判断を誤り(取消事由2),本件各発明に係る特許は,取り消されるべきものであると誤って判断したものであって,違法であるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(「線状模様の線本数」に係る特許法36条4項及び同条6項2号の判断の誤り)( )決定は,「『線状模様の「線」』本数が明確でなく,また,請求項1に記1載の『杉綾模様』を呈する『線状模様の線本数』を計数する方向についての特許権者の主張には,技術的根拠があるとは認めることができないから,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記『線状模様の線本数』が明確であるとはいえないし,その測定方法が明りょうであるともいえない。よって,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(注,本件発明1)が,明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(決定謄本9頁第6段落〜最終段落)と判断したが,誤りである。 ( )決定は,「線状模様の線本数」が明確であるとはいえず,その測定方法が2明りょうであるともいえないと判断するに当たり,「『線状模様の線本数』の定義がなく,特許権者(注,原告ら)の主張どおり,凸条部,凹条部,それぞれの本数を『線』本数として数えるのか,1本の凸条部と1本の凹条部とから形成される線状模様を『線』として認識し,線状模様を1本と数え,その本数を数えるのかなど,訂正明細書(注,本件明細書)の記載からは『線状模様の線本数』の『線状模様の「線」』とは何か明確に導き出せるものではないので,いずれの解釈が合理的な根拠を有するものと判断できず,一義的に定まるものとはいえない」(決定謄本7頁第5段落)としたが,誤りである。 ア「線状模様の線本数」にいう「線状模様」は,特許請求の範囲の請求項1及び本件明細書の段落【0017】,【0021】及び【0022】において,「凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様」と説明され,本件明細書の段落【0019】において,「不織布の表面形態を凸状部2,2…と,凹状部3,3…とが交互に存在する筋模様とする」と説明されている。 このように,「線状模様」は,凸条部と凹条部とによって形成されるものであって,凸条部が線状模様の一構成要素をなし,凹条部が線状模様の一構成要素をなすことが,文言上,明らかである。 ここで,凸条部と凹条部とは,曲率や曲率の方向,光の反射や吸収等によって見え方が異なるものであり,両者の違いが視覚的に明確に認識されることによって,線状模様を呈するものである。すなわち,凸条部は,両側に存在する2本の凹条部によって画されることによって,1本の線(筋)として視覚的に認識され,凹条部は,両側に存在する2本の凸条部によって画されることにより,1本の線(筋)として視覚的に認識される。 つまり,前記凸条部と凹条部は,隣接する部位との相対の関係で,それぞれが,線(筋)として認識される。 このことは,仮に,断面が波状に形成された不織布を想定し,この波状模様について,波の凸部と凹部とがそれぞれ稜線を持つ程度に鋭角的であるか,あるいは,視覚的に稜線と見える程度に凸条部の頂部と,凹条部の底部の曲率が小さい場合,これを平面的に見ると,凸条部が1本の線(筋)を構成し,凹条部が1本の線(筋)を構成するように見えることからも,明らかである。本件発明1は,このような視覚的に見える線状模様の線本数を規定するものである。 したがって,本件発明1において,凸条部と凹条部によって形成される線状模様にいう凸条部と凹条部は,それぞれ,独立の存在であるから,線状模様の線本数を計測するに当たっては,凸条部,凹条部のそれぞれを1本の「線」ととらえ,線本数を計測することが,本件明細書の記載から明らかであり,どの部分を「線」ととらえるかについて,不明確なところはない。 被告は,原告らの上記主張が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づかないものである旨主張するが,凸条部が1本の線をなし,凹条部が1本の線をなすことは,本件明細書の「線状に形成された凸条部2,2…と,・・・線状に形成された凹条部3,3…とが交互に存在し,」(段落【0017】)等の記載から明らかである。 イ被告は,「凸条部と凹条部とによって形成された線状模様の線本数」にいう「線」については,原告らが主張する「線」のとらえ方のほか,凸条部と凹条部とを1組とした「模様」を「線」と認識するなど,複数のとらえ方があり得る旨主張するが,誤りである。 被告の上記主張は,「凸条部と凹条部とによって形成された線状模様」を「模様の線本数」と誤って解釈したものである。「凸条部と凹条部とによって形成された線状模様」の「線状模様」とは,文字通り「線状」の「模様」をいうのであって,「線状の模様」とは,本件明細書の段落【0017】において,凸条部2が線状をなし,凹条部3が線状をなすことが明示されているとおり,凸条部と凹状部とがなす,それぞれの「線」による模様を意味するものである。 また,例えば,サイン曲線,コサイン曲線等の周期曲線の計測に当たっては,1周期分を1サイクルとして計測することは合理的であるが,本件発明1においては,凸条部と凹条部は,それぞれ,独立の存在であるから,凸条部と凹条部を1組の組合せとし,それを1本の「線」として扱う合理的理由は存在しない。 ( )決定は,「線状模様の線本数」が明確であるとはいえないし,その測定方3法が明りょうであるともいえないと判断するに当たり,「『杉綾模様』を呈する『線状模様の線本数』を計数する方向についての特許権者の主張には,技術的根拠があるとは認めることができない」(決定謄本9頁第6段落)としたが,誤りである。 ア本件発明1に係るウェットティッシュ不織布と従来不織布とを用いた拭き取り試験についての本件明細書の記載(段落【0035】ないし【0040】)において,不織布の拭き取り方向として,ウエブ方向とウエブ直交方向とを想定し,これら2方向に拭き取り試験を行ったことが記載されている。ここで,ウエブ方向とは,製造ラインの流れ方向(MD:)を意味し,ウエブ直交方向とは,製造ラインの流れ方Machine Direction向に対し直交する方向(CD:)を意味する。 Cross Directionそして,特開2002-30557号公報(甲5)において,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向がCD方向(ウエブ直交方向)と設定され,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向に対して直交する方向がMD方向(ウエブ方向)と設定されているとおり,製造法上の観点から,少なくとも当業者であれば,杉綾模様をなすV字状模様を横断する方向は,ウエブ方向かウエブ直交方向のどちらかであると理解し,それと直交する方向も,ウエブ方向かウエブ直交方向のどちらかであると理解する。 したがって,当業者にとり,ウエブ方向及びウエブ直交方向の一方が,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向を意味し,他方が,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向に対して直交する方向を意味するものであることは,自明の事項である。 また,本件明細書において,拭き取り方向として,ウエブ方向とウエブ直交方向とを想定したのは,本件発明1に係るウェットティッシュは,その平面写真から明らかなように,杉綾模様に対して,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する対向2辺と,これに直交する対向2辺を外縁とした方形シートとして提供され,使用者はウェットティッシュを広げて使用したり,あるいは,矩形状に折り畳んで使用する傾向にあることから,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向又はこれに直交する方向の2方向が,拭き取り方向となることが多いためである。 そして,線状模様の線本数は,本件明細書に,「線本数が3本/cm未満の場合には,不織布が平坦に近づくことで,一旦捕捉された排泄物が転着し易くなり,線本数が9本/cmを超える場合には,凸条部2と凹条部3とで形成される空間の容積が小さくなり過ぎるため,前記凹条部3に所望の量の排泄物を確保出来なくなり望ましくない。」(段落【0022】)と記載されるように,拭き取り性に大きく関連するものである。すなわち,ウェットティッシュで排泄物等を拭き取る際に,凸条部と凹条部との間隔(線状模様の線本数)は拭き取り方向との関係で考える必要があり,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向(ウエブ方向又はウエブ直交方向)を拭き取り方向として想定した場合,拭き取り方向と凸条部(凹条部)の方向とは所定角度(α)で交差する関係になる。そこで,ウェットティッシュを拭き取り方向に移動させた場合,実質的に,凹部(或いは凸部)として機能する区間長は,凸条部間の垂線距離をLとした場合,L/αとなる。 sin以上を総合すると,本件発明1は,拭き取り方向としてウエブ方向とウエブ直交方向とを想定し,これは,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向とそれに直交する方向を意味するところ,線状模様の線本数は,拭き取り方向に対して意味を有するものであるから,本件発明1における,線状模様の線本数の計測方向は,ウエブ方向及びウエブ直交方向,すなわち,杉綾模様をなすV字状模様を水平方向に横断する方向及びそれに直交する方向であることが,本件明細書に直接的な明示がなくても明白であるといえる。 イ被告は,本件明細書の段落【0021】,【0022】等の記載を挙げて,本件明細書には,どの方向に拭き取りを行ってもよいことが記載されている旨主張するが,上記段落の記載は「線状模様の線本数」の限定や「凸条部と凹条部との高低差」の限定がない発明に対応した記載である。 すなわち,同記載は,凸条部と凹条部とが平行に形成された従来のウェットティッシュ不織布に対して,凸条部と凹条部とが,杉綾模様,格子模様,菱形模様等の交差模様を呈している場合には,どの方向に拭き取りを行ったとして筋ムラを生じさせることなく拭き取りが行えることを述べたものであり,本件発明1において,拭き取り方向を「ウエブ方向」と「ウエブ直交方向」に限定していない根拠とはなり得ないものである。 2取消事由2(「凸条部と凹条部との高低差」に係る特許法36条4項及び同条6項2号の判断の誤り)( )決定は,「請求項1に記載の『凸条部と凹条部との高低差』とは,どの高1低差か一義的に定まらず,また,具体的にどのようにして『凸条部と凹条部との高低差』を測定するのか訂正明細書に記載がなく,その測定方法が明りょうであるとはいえない。よって,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(注,本件発明1)が,明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(決定謄本12頁第2段落〜第3段落)と判断したが,誤りである。 ( )決定は,本件発明1の「凸条部と凹条部との高低差」が,どの高低差か一2義的に定まらないとしたが,本件発明1は,特許請求の範囲において,「凸条部と凹条部の高低差は,50〜300μmである」と記載されているのであり,「凸条部と凹条部との高低差」という文言の意味するところは明確であって,特許を受けようとする発明は明確である。 また,本件明細書には,本件発明1のウェットティッシュ用不織布の凸条部2と凹条部3との高さ(厚さ)に関して,「図2および図3に示されるように,前記凸条部2の裏面からの高さ(厚さ)H は,300〜800μm,m好ましくは450〜650μm,前記凹条部3の裏面からの高さ(厚さ)Hは,100〜500μm,好ましくは200〜400μmとするのが望まdしい。別の視点から言えば,前記凸条部2と凹条部3との高低差は,50〜300μm,好適には75〜150μm程度とするのが望ましい。」(段落【0023】)との記載があり,この記載によれば,凸条部2と凹条部3との高低差とは,凸条部2の裏面からの高さ(厚さ)H と,凹条部3の裏面mからの高さ(厚さ)H との差として示されることは明らかである。 dしたがって,実際の計測に当たっては,凸条部2の裏面からの高さ(厚さ)H を計測するとともに,凹条部3の裏面からの高さ(厚さ)H を計測m dし,高低差を演算で求めればよいのであるから,凸条部と凹条部との高低差が,どの高低差であるか及び高低差を求めるために測定すべき箇所は,文言上,明確である。 ( )決定は,具体的にどのようにして「凸条部と凹条部との高低差」を測定す3るのかが本件明細書に記載がないとしたが,当業者は,自己の保有する技術常識に基づき,不織布を扱う業界で一般的に採用されている断面拡大測定法を採用して,不織布の厚さを計測することが容易であり,凸条部と凹条部との高低差の測定は,再現性のある条件で行うことができる。 ア本件発明1の厚さ計測は,基本的には単純な寸法計測であり,測定方法自体を明確に明細書に記載しなければ,特許発明の技術的範囲が確定しないものではない。 そして,本件出願当時,不織布の厚さ測定方法としては,主として,JIS規格による方法,ISO規格による方法,断面拡大測定法が存在していた。このうち,JIS規格による方法及びISO規格による方法は,表面に凹凸を有しない均等厚の不織布の厚さを計測するものである。これに対し,断面拡大測定法は,不織布を鋭利なカッター等で裁断し,その断面をマイクロスコープ又は電子顕微鏡などによる拡大映像や拡大写真で寸法を計測し,その厚さを求める方法であり,凹凸を有する不織布全般を対象として,その厚さを計測することが可能なものである。 そして,本件発明1は,凸条部と凹条部との高低差の計測が問題となるので,当業者は,必然的に,断面拡大測定法を採用する。 この点について,被告は,ピアノ線を測定手段としたKES法,針状の触針式の測定手段を用いた表面粗さ計などの測定方法もあることを挙げ,断面拡大測定方法以外の測定方法が存在することを主張するが,被告が掲げる上記方法において,触針等を繊維密度が低く(剛性が低い),裏面側に空間を有する凹条部に押圧状態で当接させると,凹条部が沈み込むように大きく変形してしまうことから,これらの方法は,本件の高低差の測定方法としては到底採用し得ない測定方法である。 イ断面拡大測定法は,本件出願当時から現在に至るまで,不織布の断面測定方法として,一般的に多用ないし認知され,当業者においてごく一般的に採用されている測定方法であって,このことは,不織布の厚さを断面拡大測定法で測定した特開2005-95209号公報等の公開公報(甲6ないし甲18)からも明らかである。 この点について,被告は,上記公報に,いわゆる「断面拡大測定法」という測定法は記載されていないし,特許庁のサーチツールやインターネットを用いて「断面拡大測定法」を調査しても,1件も検索できない旨主張する。しかし,「断面拡大測定法」とは,今回の訴訟に当たり,原告らが便宜的に名称を付けたもので,規格化されていないものであるから,名称自体が使われていなくとも,周知の手法であることには変わりない。 ウ本件出願前の特許公報(甲19ないし甲27)によれば,本件と同様,特許請求の範囲に不織布の厚さを規定している発明に対し,不織布の厚さについての具体的な測定方法を記載することなく,特許査定が与えられた実例が多数存在する。不織布の厚さに関しては,具体的な測定方法を明細書に特定しなくても,発明が不明確となるものではなく,当業者が発明を実施するに当たっては,当業者の保有する技術常識に従い,業界で一般的に行われている自明の測定方法を採用すれば足りる。 エ決定は,原告らが提出した実験報告書(甲34)に対し,「厚みが厚くても約0.8mm程度のμm単位の不織布の断面写真を撮影するというのであれば,不織布の適切な断面構造・寸法を保持した状態の試料をどのように調製するかということは,実験の客観性・信頼性を担保する上で重要であると解されるにもかかわらず,該『実験報告書』には試料調製について何ら具体的記載がない。」(決定謄本11頁第1段落)とする。 しかし,断面拡大測定方法は,本件出願当時から現在に至るまで,不織布の断面計測の一技術として,一般的に多用ないし認知されている手法であり,形状を壊さないように配慮しながら鋭利な刃物で行う裁断手順,拡大写真による撮影手順及びスケール計測手順を経ればよいのであって,断面拡大測定法を採用した例においても,特別な試料の調整の記載がないように(甲6ないし甲18),当業者の技術常識ないし認識として,特別な試料調製を必要とするものではない。 オ決定は,原告らが提出した上記実験報告書につき,その写真によれば,不織布表面から突出した繊維端や繊維ループ等の識別,排除や,凸条部及び凹条部との界面の認定が客観的に実施し得るものでなく,また,「凸条部」及び「凹条部」の「界面」であると実験報告書において認定した箇所の補助「線」の位置及び長さが妥当なものであると判断できないとする。 しかし,不織布に限らず,フィルム等であっても,表面粗さが存在し,また,完全な一定形状を保つことはなく,すべての測定には,測定精度誤差が存在するものであり,決定の指摘するところは,測定精度誤差の問題にすぎない。本件発明1の厚さ計測は,基本的には単純な距離計測であり,その測定方法自体を明確に明細書に記載しなければ,特許発明の技術的範囲が確定しないような問題でないし,測定誤差の問題は,一般的な技術者にとって周知の測定方法の採用や統計学的な見地からの分析により解決できるものである。上記実験報告書の実験結果のばらつきについての検証実験(甲29)の結果のとおり,不織布の厚さ計測を断面拡大測定法で行った場合,多少のばらつきは存在するが,決して計測不能となるものではない。 第4被告の反論決定の認定判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。 1取消事由1(「線状模様の線本数」に係る特許法36条4項及び同条6項2号の判断の誤り)について( )決定は,「線状模様の線本数」が明確であるとはいえず,その測定方法が1明りょうであるともいえないと判断するに当たり,「線状模様の線本数」の「線」の意義が明確でないとしたのに対し,原告らは,それが明確である旨主張するが,失当である。 ア本件発明1は,ウェットティッシュ用不織布を特定するため,凸条部と凹条部によって形成される線状模様の線本数について,3〜9本/cmと規定しているところ,「線状模様の線本数」がいかなるものか,また,どのように測定したものか,本件明細書には明りょうに定義して記載しておらず,一般技術常識を考慮しても,「線状模様の線本数」の「線」が何か導き出せるものではなく,「線状模様の線本数」が一義的に定まらない。 イ原告らは,凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数を計測するに当たり,凸条部,凹条部のそれぞれを1本の「線」ととらえることが,本件明細書の記載から明らかである旨主張する。 しかし,「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数」という,「模様の線本数」という記載からは,凸条部を1本と数え,凹条部を1本と数えるとも解せるし,あるいは,凸条部と凹条部とを1組とした「模様」を「線」と認識して,1本の「線」ととらえたり,凸条部と凹条部とにより形成された「線状模様」の両者の境界に形成される線について,1本の「線」ととらえたりするなど,凸条部と凹条部とを1組として計測して「線」をとらえることが可能である。結局,「線状模様の線本数」の「線」とは何を指すのかがあいまいであり,また,どの解釈が合理的であるとも直ちにいえない。 したがって,凸条部,凹条部のそれぞれを1本の「線」ととらえることが本件明細書の記載から明らかであり,技術内容に照らして最も合理的であるとの原告らの主張は,特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載に基づかないものである。 ( )決定は,「線状模様の線本数」が明確であるとはいえないし,その測定方2法が明りょうであるともいえないと判断するに当たり,線状模様を計測する方向が明確でないとしたのに対し,原告らは,それが明確である旨主張するが,失当である。 本件明細書において,本件発明1の不織布の使用における拭き取り方向について,原告らが主張する2方向,すなわち,「ウエブ方向」と「ウエブ直交方向」に限定して使用するとの記載はなく,線本数の計測方向として「ウエブ方向」と「ウエブ直交方向」に限定する記載もなく,拭き取り方向に合わせて,線本数を計測するとの記載もない。 また,本件明細書においては,請求項1,段落【0021】,段落【0022】,段落【0035】〜【0039】及び表1の各記載に照らしても,拭き取り方向は,任意の方向であることが記載され,「拭き取り試験」において,不織布の拭き取り性を判断するために,「ウエブ方向」と「ウエブ直交方向」に拭き取って比較したことが記載されているにすぎない。 したがって,ウェットティッシュ用不織布の拭き取り方向について,原告らが主張するように「ウエブ方向」及び「ウエブ直交方向」に限られないことは,本件明細書から明らかであるし,計測方向として,拭き取り方向の2方向に限定されることは,本件明細書に記載も示唆もされておらず,原告らの主張は,本件明細書の記載に基づかない主張である。 2取消事由2(「凸条部と凹条部との高低差」に係る特許法36条4項及び同条6項2号の判断の誤り)について( )決定は,本件発明1の「凸条部と凹条部との高低差」が,どの高低差か一1義的に定まらないとしたのに対し,原告らは,それが定まる旨主張するが,失当である。 ア本件各発明の測定対象は,不織布の「厚さ」ではなく,不織布に形成される表面の凹凸の高低差,すなわち,「凸条部と凹条部との高低差」であるところ,本件明細書には,「本件高低差」を測定する方法につき,測定対象(試料)の準備等の測定条件,測定手段及び「高低差」をどのように求めるのかなどが記載されていない。したがって,凸条部と凹条部との高低差がどの高低差か一義的に定まらず,また,その測定方法が明りょうであるとはいえない。 イ原告らは,「凸条部と凹条部との高低差」について,実際の計測に当たっては,凸条部2の裏面からの高さ(厚さ)H を計測するとともに,凹条部m3の裏面からの高さ(厚さ)H を計測し,高低差を演算で求めればよい旨 d主張する。 しかし,原告らは,「本件高低差」について,凸条部の裏面からの高さ(厚さ)H と,凹条部の裏面からの高さ(厚さ)H の差,すなわち,m d「H とH の差」を意味する旨の主張をするが,片面凹凸であれば,それ mdが,結果として「本件高低差」となるが,両面に凹凸条部を有する場合,H とH の差は,凹凸条部の高低差の2倍の値をとることとなり,その意md味するところが異なってくる。 ( )決定は,本件明細書に,凸条部と凹条部との高低差の測定方法の記載が存2在しないとしたのに対し,原告らは,その測定方法としては,不織布を扱う分野においては断面拡大測定法がごく一般的であり,当業者であるならば,自己の保有する技術常識に基づき,不織布を扱う業界で一般的に採用されている断面拡大測定法を採用して,不織布の厚さを計測することは容易である旨主張するが,失当である。 ア厚さを測定する方法は,JIS規格,ISO規格等のように種類があり,また,直接表面粗さ・うねり計により凹凸の測定が行われており,凹凸の高低差を直接求めることも可能である。 本件においては,不織布の凹凸の高低差を測定できればよいのであるから,JIS規格,ISO規格等の規格化された厚さ測定方法に限る必要はなく,むしろ,それらの規格等に規定される,試料調製(どこから,どのように切り出したものか)や試料の加圧の有無等の測定条件の規定が,再現性のある結果を得るために重要である。それにもかかわらず,本件明細書には,再現性を担保するのに必要な測定条件等の記載がないから,どのような高低差であるかが,客観的に定まらない。 イ原告らは,凹凸を有する不織布の厚さ計測は,断面拡大測定法で計測されるとする。しかし,水平板を用いるJIS規格をそのまま微細な表面の凹凸の高低差である「本件高低差」の測定に適用することはできないが,ピアノ線を測定手段とするKES法,針状の触針式の測定手段を用いる表面粗さ計などが存在し,それらの測定手段においては,触針等を繊維表面に一定圧力で押しつけて測定することが行われているところ,触針等の太さ及び針の先端の大きさ等により測定可能範囲等が決まることは技術常識であり,触針式のような針状,針金状の測定手段を用いることにより,凸条部にも凹条部にも圧力を作用させて測定することが可能であるから,原告ら主張のように,本件発明1の不織布が,当然に断面拡大測定法で計測されることにならない。 ウ原告らは,断面拡大測定法は,本件出願当時から,不織布の断面測定方法として,一般的に多用ないし認知されている測定方法である旨主張するが,誤りである。 原告らが提示した証拠には,いわゆる「断面拡大測定法」という測定法は記載されていないし,特許庁のサーチツール,インターネットを用いて「断面拡大測定法」を調査しても1件も検索できない。そして,原告らが,断面拡大測定法が周知である根拠として提示したいずれの公報にも,試料調製,測定状態などの測定条件が記載され,その条件の内容も異なるのであって,「厚さ測定」であることにより,測定条件の記載が不用となるものでないことは明らかである。 エ原告らは,特許公報(甲19ないし甲27)を提示し,特許請求の範囲に不織布の厚さを規定した発明に対して,具体的な測定方法を記載することなく特許査定が与えられた実例が多数存在するとし,具体的な測定方法が記載されていなくとも,自明の測定方法を採用すればよい旨主張する。 しかし,明細書が記載不備であるかどうかは,各案件ごとに,特許明細書の記載に基づいて判断されるべきものであるし,特許請求の範囲に不織布の厚さを規定した発明に対して,具体的な測定方法を記載することなく特許査定が与えられた実例が多数存在することにより,本件明細書の記載不備が許されるものではない。 オ原告らは,当業者の技術常識ないし認識として,断面拡大測定方法の採用に当たって,特別な試料調製は必要としない旨主張する。 しかし,本件発明1の不織布の凹条部,凸条部の表面は,繊維の自由端,繊維ループの集合体として形成されるものであるから,試料調製の際,押圧力がかかることで変形したり,つぶれたりするので,切断時の厚さ及び凹・凸条部の形状の変形が生じる。原告らが提示した断面拡大測定法を用いたとされる公報(甲6等)においても,それぞれ異なる試料調製が記載されている。 カ原告らは,「バラツキ検証実験報告書」(甲29)を提出し,繊維端や繊維ループ等により,「界面が一義的かつ明確に定まらない」とすることは誤りである旨主張する。 しかし,原告らは,界面が一義的に定まらないのは,測定精度誤差の問題とするが,原告らのいう断面拡大測定法においては,界面の繊維端や繊維ループが拡大され,目視的に界面から除外すべきものと界面の対象とすべきものとの区別を付け難いから,界面を一義的に定めることができない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(「線状模様の線本数」に係る特許法36条4項及び同条6項2号の判断の誤り)について( )決定は,「『線状模様の「線」』本数が明確でなく,また,請求項1に記1載の『杉綾模様』を呈する『線状模様の線本数』を計数する方向についての特許権者の主張には,技術的根拠があるとは認めることができないから,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記『線状模様の線本数』が明確であるとはいえないし,その測定方法が明りょうであるともいえない。よって,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(注,本件発明1)が,明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(決定謄本9頁第6段落〜最終段落)としたのに対し,原告らは,「線状模様の線本数」の「線」の意義も,その測定方法も明確である旨主張する。 ( )まず,「線状模様の線本数」の「線」の意義について検討する。 2ア本件発明1の特許請求の範囲には,ウェットティッシュ用不織布において,「相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部」と,「相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部」とが交互に存在すること,「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様」について,他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈すること,「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数」は3〜9本/cmであることが記載されている。 したがって,本件発明1は,「線状模様の線本数」の単位長さ当たりの本数により規定されるものであるところ,「線状模様の線本数」を計測するに当たり,不織布のどの部分を1本の「線」ととらえるかについて,特許請求の範囲には記載がない。 ここで,「線状に形成された凸条部」及び「線状に形成された凹条部」との記載そのものは,線本数の計測に当たって,不織布のどの部分を「線」ととらえるかを示すものではないものの,同記載によれば,本件の凸条部及び凹条部は,いずれも「線状」に形成されているというのであり,これは,線本数の計測において,凸条部及び凹条部のそれぞれが,1本の「線」ととらえられて,線本数が計測されることを示唆するものいうこともできる。 他方,「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3〜9本/cmである」との記載に注目すると,「線状模様」は,「凸条部と凹条部」とによって「形成」されているのであり,交互に存在する凸条部と凹条部の双方が存在することによって,立体的な線が形成され,線状模様が形成されていると理解することも可能であり,このような理解をすると,「線状模様の線本数」は,凸条部及び凹条部のそれぞれを1本の「線」ととらえるのではなく,凸条部と凹条部が1組となった,その凸条部について,1本の「線」ととらえるなど,凸条部と凹条部を組としたものについて,「線」ととらえると解釈することができるものである。 この点について,原告らは,「凸条部と凹条部とによって形成された線状模様」の「線状模様」とは,凸条部と凹状部とがなす,それぞれの「線」による模様を意味するものである旨主張するが,原告ら主張のように解釈できる一方で,上記のように,凸条部と凹条部によって,立体的な線状模様の「線」が形成されるととらえることも可能なのであり,同文言の解釈が原告ら主張の解釈に限定されるものではない。また,原告らは,本件発明1においては,凸条部と凹条部はそれぞれ独立の存在であり,これを1組の組合せとするのは相当でない旨も主張するが,本件発明1においては,凸条部と凹条部が交互に存在することによって,立体的な線が形成され,線状の模様が形成されると解釈することも可能なのであり,凸条部と凹条部を組としてとらえる解釈が成り立たないわけではない。 そうすると,特許請求の範囲の記載をみる限り,「線状模様の線本数」について,不織布のどの部分を「線」ととらえるかにつき,複数の解釈が可能であるものといえる。 イそこで,「線状模様の線本数」の意味について,本件明細書(甲32)の発明の詳細な説明及び図面にどのように開示されているかについてみると,以下の記載がある。 (ア)「【従来の技術】従来より,赤ちゃん用のお尻拭き,大人用の身体またはお尻拭き,ウェットワイプなどの用途として,種々の構造または成分のウェットティッシュ用不織布が提案されている。」(段落【0002】)(イ)「不織布表面に凹凸を形成するようにしたものとしては・・・不織布表面にクレープを形成したもの・・・熱収縮性シートと,非熱収縮性シートとを部分的に結合して一体化した後,熱処理を行い前記結合部間に凸部を形成した不織布・・・不織布の両面に不規則に多数の畝を形成した不織布・・・さらに,特開平11-48381号公報には,畝状の山部と溝状の谷部とが交互に並列した表面形態を成すワイパー用積層物が開示されている。」(段落【0006】)(ウ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,不織布表面にクレープ,凸部,畝状の凹凸を形成するようにした前記不織布の場合,拭取り面部では面圧が加えられることにより,実質的に不織布面が平坦化されてしまい,所望の拭取り効果を期待することは出来ないことがある。 また,お尻拭き用の場合,大量の汚物が局部的に集中する傾向にあり,許容量を超えた不織布の凹部から汚物の戻りが生じて綺麗に拭取りが出来なかったり,拭取り時の不織布の移動方向によっては,汚物が筋ムラとなって残るなどの問題があった。」(段落【0008】)(エ)「本発明の主たる課題は,排泄物などの汚物や量のある汚れ等を拭き取った際,これら汚物や汚れを筋ムラを残すこと無く,完全に綺麗に拭き取ることができるようにするとともに,柔軟性および風合いに優れると共に,べた付き感が無く,しかも適度のコシを備えて湿潤時のへたりが無い,そして必要な湿潤時強度を兼ね備えるなどのトータルバランスに優れたウェットティッシュ用不織布を提供することにある。」(段落【0011】)(オ)「【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として,少なくとも,親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維とを含み,繊維が三次元的に交絡するとともに,前記熱融着性を示す第2繊維の融着により繊維同士が結合された不織布であって,前記不織布は,相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部と,相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部とが交互に存在し,前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が,他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し,前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3〜9本 cmであり,かつ前記凸条部と凹条部との高低差は,50〜30/0μmであることを特徴とするウェットティッシュ用不織布が提供される。」(段落【0012】)(カ)「【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。本発明に係るウェットティッシュ用不織布1は,図1〜図3に示されるように,レーヨンなどの親水性繊維と,ポリエチレン,ポリプロピレンなどの熱融着性繊維と,ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維とを含み,これら各繊維が三次元的に交絡するとともに,前記熱融着性繊維の融着により繊維同士が結合された不織布として製作されたものであって,特に相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部2,2…と,相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部3,3…とが交互に存在し,かつ前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が,他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差する交差模様を呈している。前記凸条部2と凹条部3とによる線状模様は,図2に示されるように片面のみに形成しても良いし,図3に示されるように両面に形成してもよい。」(段落【0016】〜【0017】)(キ)「本発明者等は,拭取り時に汚物や汚れなどを残さず綺麗に除去できる不織布の表面形態について,種々の検討を行った結果,不織布の表面形態を凹凸状として,拭取り性を向上させるようにした従来の不織布は,主に凹部の窪み部分を排泄物の捕捉部として拭取りを行うものであり,拭取り初期は前記凹部に排泄物が堆積する一方,拭取り面には凸部が主に接触するため,ムラなく拭取りが可能であるが,前記凹部での堆積量が許容量を超えると,一旦拭き取られた排泄物が逆に拭取り面に転着して拭取りムラが生じる現象が見られるようになることを知見した。そこで,不織布の表面形態を凸状部2,2…と,凹状部3,3…とが交互に存在する筋模様とするとともに,特に凹部での繊維密度を相対的に小さくなるようにした。」(段落【0018】,【0019】)(ク)「凸状の畝と,凹状の溝とが単に一方向に沿って形成されている従来の不織布の場合,この畝・溝方向に直交または交差する方向に沿って拭取りが行われた場合には,排泄物が凹状溝内に集積する一方,拭取り面とは凸状の畝が接触するようになる。すなわち,凸状畝の存在によって排泄物が凹状溝内に押し込められるとともに,凸状畝によってすくい取られるため綺麗な拭取りが可能であるが,前記畝・溝方向に沿って拭取りが行われたとすると,前記凹状溝内に集積した排泄物は,拭取り当初から最後まで肌面と接触する状態となり,凸状畝によってすくい取られるということが無く,排泄物が筋状の拭取りムラとなって残ることが判った。そこで,前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が,他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差する交差模様,図示例では杉綾模様を呈するようにした。その結果,どの方向に拭取りを行っても,凸条部2の存在によって排泄物が凹条部3内に押し込められるとともに,最後は凸条部2によって排泄物がすくい取られるようになるため,筋ムラを生じさせることなく綺麗に拭取りが行えるようになる。前記交差模様としては,前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が,他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差していれば良く,前記杉綾模様以外に,格子模様,菱形模様等種々の模様とすることができる。前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様の線本数は3〜9本/cmであることが望ましい。線本数が3本/cm未満の場合には,不織布が平坦に近づくことで,一旦捕捉された排泄物が転着し易くなり,線本数が9本/cmを超える場合には,凸条部2と凹条部3とで形成される空間の容積が小さくなり過ぎるため,前記凹条部3に所望の量の排泄物を確保出来なくなり望ましくない。」(段落【0020】〜【0022】)(ケ)本件特許の特許公報(甲30)には,図1として,本件発明に係るウエットティッシュ用不織布の要部平面図が,図2として,線状模様を片面に形成したものの断面構造を示す図が,図3として,線状模様を両面に形成したものの断面構造を示す図が,それぞれ記載されている。 ウ上記イによれば,本件発明1は,凸状の畝と凹状の溝が一方向に沿って形成されている従来技術の不織布では,拭き取り方向によっては,筋状の拭き取りムラが残るという欠点があるため,凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が杉綾模様を呈するようにして,どの方向に拭き取りを行っても,筋ムラを生じさせることなくきれいに拭き取りが行えるようにしたものと認められる。さらに,凸条部と凹条部とによって形成される「線状模様の線本数」について,3本/cm未満の場合には,いったん捕捉された排泄物が転着しやすくなり,また,9本/cmを超える場合には,凹条部に所望の量の排泄物を確保できなくなるなど,いずれも望ましくないので,これを3〜9本/cmとすると説明されている。 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明の記載等においても,「線状模様の線本数」の計測に当たり,どの部分を「線」ととらえて,その本数を計測するかの具体的な記載は全くない。かえって,上記計測に当たり,どの部分を「線」とするかにつき,特許請求の範囲の記載と同じく,「相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部2,2…と,相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部3,3…とが交互に存在」(前記イ(カ)),「不織布の表面形態を凸状部2,2…と,凹状部3,3…とが交互に存在する筋模様とする」(同(キ))との記載のように,凸条部,凹条部について,それぞれ「線」ととらえることができる記載もあり,また,「凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様」(同(カ) (ク))という,前記アのように,凸条部と凹条部を組としたものを,「線」ととらえる解釈が可能な記載もある。 したがって,「線状模様の線本数」の計測に当たり,どの部分を「線」ととらえて,その本数を計測するかは,本件明細書の記載上,明確でないといわざるを得ない。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記のとおり,単位長さ当たりの「線状模様の線本数」を定める技術的意義が記載されているのであるが,その技術的意義を参酌したとしても,本件発明1のように凸条部と凹条部とが交互に存在する場合に,不織布のどの部分を「線」ととらえるかが,技術常識に照らして定まるものとも認められない。 エ以上によれば,本件発明1は,交互に並んだ凸条部と凹条部とにより線状模様が形成され,その「線」の単位長さ当たりの本数により規定されているものであるところ,不織布のどの部分を「線」ととらえるかについて,特許請求の範囲,本件明細書の詳細な説明等の記載及び技術常識を勘案しても,複数の解釈が可能であり,結局,不明確である。したがって,単位長さ当たりの線本数により規定されている本件発明1の不織布において,どの部分が「線」であるかが不明確なのであるから,「線状模様の線本数」の「線」の意義について,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分なものではないと認められる。 ( )次に,「線状模様の線本数」の測定方法について検討する。 3ア本件発明1の不織布について,特許請求の範囲には,「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数」が,「3〜9本/cm」であることが記載されている。 そして,特許請求の範囲の「前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が,他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し」との記載によれば,本件発明1は,凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が,他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈するものである。 ここで「杉綾模様」とは,上記( )イ(ク)の記載に本件特許の特許公報2(甲30)の図1も参酌すると,斜行する線状模様の領域が,ウエブ幅方向に,右上がり線状模様の領域,左上がり線状模様の領域,右上がり線状模様の領域,左上がり線状模様の領域というように繰り返すものであり,各線状模様が斜行しているものである。なお,その斜行の角度についてこれを限定する記載はない。 このような線状模様における単位長さ当たりの線本数を計測する場合,計測方向により,その本数は,当然に変化するものである。そして,計測方向を線状模様の垂線方向とすると,数値は最大となり,他の計測方向で計測すると,上記垂線方向との角度の開きに応じ,その数値が変わるが,本件明細書には,計測方向について,何ら記載がなく,また,その示唆もない。 そして,杉綾模様について,「線状模様の線本数」を単位長さ当たりの本数の観点から計測する場合,例えば,凸状部及び凹状部から線状模様ができているという不織布の幾何学的構造に着目し,線状部の斜行の角度にかかわらない線本数を問題とするならば,線状模様の垂線方向に計測することが考えられる。他方,例えば,杉綾模様におけるV字状模様に着目し,また,製造工程との関係に注目するなどして,V字状模様を水平方向に横断する方向,又は,V字状模様を水平方向に横断する方向に対して直交する方向を,計測方向とする方法とすることも考えられる。 したがって,杉綾模様を呈する線状模様の線本数の計測方向が,何らかの技術常識により,当然に決まるものとは認められない。 イ原告らは,線本数の計測方向が,拭き取り方向と関係する旨主張する。 確かに,前記( )ウのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において,2本件発明1における線状模様の単位長さ当たりの線本数の技術的意義について,拭き取り機能との関係で説明されている。 しかし,そもそも,ウェットティッシュ用不織布の使用者は,通常,任意の方向に拭き取りを行うものであって,その拭き取り方向が一義的に定まるものではないことは明らかであり,拭き取りの機能と線本数との関係が説明されていたとしても,不織布において,実際の拭き取り方向が任意の方向なのであるから,上記説明により,直ちに,単位長さ当たりの線本数の計測方向が明らかになるものではない。 この点について,原告らは,本件発明1は,拭き取り方向として,ウエブ方向及びウエブ直交方向とが想定されている旨主張する。 確かに,本件明細書の段落【0035】ないし【0040】には,本件発明1のウェットティッシュ用不織布と従来不織布とを用いた拭き取り試験についての記載が存在し,本件発明1の不織布と従来不織布について,拭き取り方向としてウエブ方向とウエブ直交方向とを想定した上,これらの2方向について,拭き取り試験を行った結果が記載されている。 しかし,上記の拭き取り方向は,拭き取り試験を行うに当たって,その条件を記載したものにすぎず,これら不織布の拭き取りがその方向のみに想定し得ることを記載したものでないことは明らかである。 かえって,本件明細書には,前記( )イ(ク)のとおり,「凸状の畝と,凹2状の溝とが単に一方向に沿って形成されている従来の不織布の場合,この畝・溝方向に直交または交差する方向に沿って拭取りが行われた場合には,排泄物が凹状溝内に集積する一方,拭取り面とは凸状の畝が接触するようになる。すなわち,凸状畝の存在によって排泄物が凹状溝内に押し込められるとともに,凸状畝によってすくい取られるため綺麗な拭取りが可能であるが,前記畝・溝方向に沿って拭取りが行われたとすると,前記凹状溝内に集積した排泄物は,拭取り当初から最後まで肌面と接触する状態となり,凸状畝によってすくい取られるということが無く,排泄物が筋状の拭取りムラとなって残ることが判った。そこで,前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が,他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差する交差模様,図示例では杉綾模様を呈するようにした。その結果,どの方向に拭取りを行っても,凸条部2の存在によって排泄物が凹条部3内に押し込められるとともに,最後は凸条部2によって排泄物がすくい取られるようになるため,筋ムラを生じさせることなく綺麗に拭取りが行えるようになる。」(段落【0020】,【0021】)との記載があり,そこにおいては,ウェットティッシュ用不織布においては,さまざまな方向に拭き取りが行われ得ること,本件発明1に係るウェットティッシュ用不織布は,どの方向に拭き取りを行っても,その効果が発揮できるとされているのであり,本件発明1のウェットティッシュ用不織布において,拭き取り方向が限定されていないことは明らかである。 この点についても,原告らは,上記記載は,「線状模様の線本数」の限定や「凸条部と凹条部との高低差」の限定がない発明に対応した記載である旨主張するが,上記記載は,その記載内容からも,ウェットティッシュ用不織布は,どの方向にも拭き取りを行うことがあること,本件発明1もその前提に立っていることが明らかになるものであり,原告らの主張は採用できない。 したがって,本件発明1の不織布の拭き取り方向として,ウエブ方向及びウエブ直交方向が想定されている旨の原告らの主張は,前提を欠くものである。 ウ以上によれば,本件発明1は,「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3〜9本/cm」として,線状模様の線本数について,単位長さ当たりの線本数により規定されているものであるところ,単位長さ当たりの線本数は,計測方向によって変わるものであるにもかかわらず,その計測方向は,本件明細書に記載も示唆もなく,また,技術常識によって定まるものではないから,不明確というほかない。したがって,「線状模様の線本数」の測定方法が明りょうであるとはいえないから,この点についても,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分なものではないと認められる。 ( )以上のとおり,本件発明1の特許請求の範囲にいう「線状模様の線本数」4に係る記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分なものではないから,原告らの取消事由1の主張は,理由がない。 2以上によれば,本件発明1及び本件発明1を直接又は間接に引用する,本件明細書の特許請求の範囲の請求項2ないし4記載の発明に係る特許は,特許法113条1項4号に該当するものとして,取り消されるべきものであるから,これと同旨の決定の判断に誤りはない。 よって,原告らの請求は,取消事由2について判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |