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関連審決 無効2004-80204
関連ワード 方法の発明 /  周知技術 /  下位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  優先権 /  分割出願 /  特許出願日 /  参酌 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10832号 審決取消請求事件
原告アエロテルリミテッド
訴訟代理人弁護士竹田稔,川田篤,大野聖二,森崎博之,根本浩
訴訟復代理人弁護士佐藤公亮
訴訟代理人弁理士小栗久典,田中久子,稲葉良幸,大貫敏史
被告KDDI株式会社
訴訟代理人弁護士大場正成,牧野利秋,尾崎英男,那須健人
訴訟代理人弁理士田中香樹,田邉壽二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/12/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2004-80204号事件について平成17年7月29日にした審決を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告の無効審判請求を受けた特許庁により,本件特許を無効とする旨の審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯( )本件特許(甲第1号証)1特許権者:アエロテルリミテッド(原告)原告は,本件特許の設定登録後に,設定登録時の特許権者であったツヴィカミルから,特許権の譲渡を受け,特許庁長官に対する届出を行った者である。
また,本件特許に係る出願は,特願昭61-6163号による出願(以下「原出願」という )の一部を新たな出願としたものである。 。
発明の名称: 電話の通話制御方法」 「特許出願日:平成9年5月7日(特願平9-117138号)原出願に係る特許出願日:昭和61年1月13日(特願昭61-6163号)同優先権主張日:1985年(昭和60年)1月13日(イスラエル国 ,同年)11月10日(イスラエル国)手続補正日:平成9年6月6日(乙第1号証。以下「本件第1補正」という )。
(。「」。) 手続補正日:平成11年7月5日 乙第2号証 以下 本件第2補正 という設定登録日:平成11年11月5日特許番号:特許第2997709号( )本件手続2審判請求日:平成16年10月25日(無効2004-80204号)審決日:平成17年7月29日審決の結論: 特許第2997709号の請求項に係る発明についての特許を無 「効とする 」。
審決謄本送達日:平成17年8月10日(原告に対し )。
2特許請求の範囲( , ( )本件特許に係る特許請求の範囲 本件第2補正後の特許請求の範囲であり1その第1項に記載された発明を,以下「本件発明」という )の記載は,以下のと 。
おりである。
「1.特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって,(a) この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b) 前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ,(c)発呼者の電話()から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送81, (), 信し (d) 前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部 A が受信し(e) この受信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し,(f) 前記受信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し (g) () ,81前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の 81電話に接続し,(h) 前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話()が被呼者の電話と接続を開始してから遮断される81まで通話費用をモニターする,電話の通話制御方法。
2.前記特殊な交換部(A)が,使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する請求項1記載の電話の通話制御方法。
3.前記特殊な交換部(A)が,受信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え,この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する請求項1記載の電話の通話制御方法。
4.前記発呼者の電話()を被呼者の電話に接続可能な最大通話時間を,通話の81ために必要な費用と通話開始時の前記預託金額の残高とに基づいて決め,通話時間をモニターし,この通話時間が上記最大通話時間に達した時に発呼者と被呼者の通話を切るようにした請求項1記載の電話の通話制御方法。
5.前記発呼者の電話()が,特別な電話番号を入力することによって,前記特81殊な交換部(A)に接続される請求項1記載の電話の通話制御方法。
6.前記預託金額の残高が,通話費用を支払うのに十分であるかどうかを連続的に測定し,預託金額の残高が,通話費用を支払えなくなった時には,通話を自動的に終了させる請求項1記載の電話の通話制御方法。
7.前記発呼者の電話()が被呼者の電話と通話接続を遮断した後に,前記預託81金額から通話費用を差し引く請求項1記載の電話の通話制御方法。
8.前記発呼者の電話()と被呼者の電話との通話を接続している間に,通話を81継続/延長させるために別の特殊コードの追加入力を認める請求項1記載の電話の通話制御方法。
9.前記発呼者の電話()と特殊な交換部(A)の接続を保持したまま,発呼者81の電話()と被呼者の電話との通話接続が遮断された後に,発呼者が別の被呼者 81の電話番号を入力することを可能にする請求項1記載の電話の通話制御方法。
10.特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって,(a) この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b) 前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ,(c)発呼者の電話()から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送81, (), 信し (d) 前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部 A が受信し(e) この送信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し,(f) 前記送信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し (g) () ,81前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の 81電話に接続し,(h) 前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話()が被呼者の電話と接続を開始してから遮断される81まで通話費用をモニターし,(i) 前記特殊な交換部(A)が,使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する,電話の通話制御方法。
11.前記特殊コードが,預託金額の残高が所定金額より少なくなった時に使用不能とされる請求項10記載の電話の通話制御方法。
12.前記発呼者の電話()が,特別な電話番号を入力することによって,前記81特殊な交換部(A)に接続される請求項10記載の電話の通話制御方法。
13.前記預託金額の残高が,通話費用を支払うのに十分であるかどうかを連続的に測定し,預託金額の残高が,通話費用を支払えなくなった時には,通話を自動的に終了させる請求項10記載の電話の通話制御方法。
14.前記発呼者の電話()が被呼者の電話と通話接続を遮断した後に,前記預81託金額から通話費用を差し引く請求項10記載の電話の通話制御方法。
15.前記発呼者の電話()と被呼者の電話との通話を接続している間に,通話81を継続/延長させるために別の特殊コードの追加入力を認める請求項10記載の電話の通話制御方法。
16.前記発呼者の電話()と特殊な交換部(A)の接続を保持したまま,発呼81者の電話()と被呼者の電話との通話接続が遮断された後に,発呼者が別の被呼 81者の電話番号を入力することを可能にする請求項10記載の電話の通話制御方法。
17.特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって,(a) この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b) 前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ,(c)発呼者の電話()から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送81, (), 信し (d) 前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部 A が受信し(e) この送信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し,(f) 前記送信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し (g) () ,81前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の 81電話に接続し,(h) 前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話()が被呼者の電話と接続を開始してから遮断される81まで通話費用をモニターし,(i) 前記特殊な交換部(A)が,送信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え,この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する,電話の通話制御方法。
18.前記特殊コードが,預託金額の残高が所定金額より少なくなった時に使用不能とされる請求項17記載の電話の通話制御方法。
19.前記発呼者の電話()が,特別な電話番号を入力することによって,前記81特殊な交換部(A)に接続される請求項17記載の電話の通話制御方法。
20.前記預託金額の残高が,通話費用を支払うのに十分であるかどうかを連続的に測定し,預託金額の残高が,通話費用を支払えなくなった時には,通話を自動的に終了させる請求項17記載の電話の通話制御方法。
21.前記発呼者の電話()が被呼者の電話と通話接続を遮断した後に,前記預81託金額から通話費用を差し引く請求項17記載の電話の通話制御方法。
22.前記発呼者の電話()と被呼者の電話との通話を接続している間に,通話81を継続/延長させるために別の特殊コードの追加入力を認める請求項17記載の電話の通話制御方法。
23.前記発呼者の電話()と特殊な交換部(A)の接続を保持したまま,発呼81者の電話()と被呼者の電話との通話接続が遮断された後に,発呼者が別の被呼 81者の電話番号を入力することを可能にする請求項17記載の電話の通話制御方法。
24.特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって,(a) この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b) 前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ,(c)発呼者の電話()から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送81, (), 信し (d) 前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部 A が受信し(e) この送信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し,(f) 前記送信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し (g) () ,81前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の 81電話に接続し,(h) 前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話()が被呼者の電話と接続を開始してから遮断される81まで通話費用をモニターし,(i) 通話費用を預託金額から差し引く,電話の通話制御方法。
25.前記特殊コードが,預託金額の残高が所定金額より少なくなった時に使用不能とされる請求項24記載の電話の通話制御方法。
26.前記発呼者の電話()が前記特殊な交換部(A)に接続され,前記預託金81額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者の電話()と特殊な交換部(A)との接続を遮断する請求81項24記載の電話の通話制御方法。
27.前記特殊な交換部(A)が,使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する請求項24記載の電話の通話制御方法。
28.前記特殊な交換部(A)が,受信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え,この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する請求項24記載の電話の通話制御方法。
29.前記発呼者の電話()が,特別な電話番号を入力することによって,前記81特殊な交換部(A)に接続される請求項24記載の電話の通話制御方法。
30.前記預託金額の残高が,通話費用を支払うのに十分であるかどうかを連続的に測定し,預託金額の残高が,通話費用を支払えなくなった時には,通話を自動的に終了させる請求項24記載の電話の通話制御方法。
31.前記発呼者の電話()が被呼者の電話と通話接続を遮断した後に,前記預 81託金額から通話費用を差し引く請求項24記載の電話の通話制御方法。
32.前記発呼者の電話()と被呼者の電話との通話を接続している間に,通話81を継続/延長させるために別の特殊コードの追加入力を認める請求項24記載の電話の通話制御方法。
33.前記発呼者の電話()と特殊な交換部(A)の接続を保持したまま,発呼81者の電話()と被呼者の電話との通話接続が遮断された後に,発呼者が別の被呼 81。」 者の電話番号を入力することを可能にする請求項24記載の電話の通話制御方法( )原出願に係る願書に最初に添付した明細書(原出願に係る願書に最初に添2付した明細書は,願書である甲第2号証の1添付の明細書であるが,その記載を引用するときは,内容を変更せず,浄書のみをした昭和61年4月9日付け手続補正書添付の明細書である甲第2号証の2によって行う )の特許請求の範囲第1項の 。
記載は,以下のとおりである。
「1.使用可能ないずれの電話機からでも電話通話をなしうる方法であって,下記段階:前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;電話呼出し接続が必要な時,前記特別交換局をダイアルし;確認のため前記特別のコードを入力し;相手先の番号を入力し;メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し,そして,クレジット残額がなくなった時は前記通話を断線する;段階を含む方法 」。
( )本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲(請求3項の数は9個である )の請求項1の記載は,上記( )の特許請求の範囲第1項の記 。 2載と同一である。
3審決の理由の要点審決の理由は,要するに,本件発明(本件第2補正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明)は,原出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,原出願に係る願書に最初に添付した明細書を「原出願の当初明細書」といい,同願書に最初に添付した明細書又は図面を「原出願の当初明細書又は図面」という )。
に記載又は示唆されていない事項を含むものであり,本件特許出願は,原出願の一部を新たな特許出願とした,適法な分割出願とは認められないから,出願日の遡及はなく,平成9年5月7日に出願したものというべきところ,本件第1補正及び本件第2補正は,本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面を「本件当初明細書又は図面」という )に記載した事項の範囲内においてなされたものとは認められず, 。
特許法17条の2第3項の規定に適合しないから,特許請求の範囲第1〜第33項に対する特許は,同法123条1項1号に該当し,無効とすべきものである,というものである。
審決の理由のうち,本件第2補正後の特許請求の範囲第1項に係る発明が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示唆されていない事項を含むものであり,本件特許出願は,原出願の一部を新たな特許出願とした,適法な分割出願とは認められないとの判断に係る部分は,以下のとおりである(審決の「親出願」との表記を,本判決の表記に合わせて「原出願」と改めてある。。)「( )本件特許出願が適法に分割されたものであるか否かについて 1()本件特許請求の範囲第1項に係る発明における「(a)この特殊な交換部(A)において 1-1所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ 」との記載(本件第2補正による補正事項3に係る記載)について ,まず,上記記載における(a),(b)の構成要件は,本件特許請求の範囲第1項第1〜2行の「 ,」 , 次のステップを含む電話の通話制御方法であってに続いて記載されているものであって通常,特殊な事情がない限り,方法におけるステップは,時系列的に記載されているものと解されるから,上記記載において,(a)のステップに続いて(b)のステップが行われると解釈するのがごく普通の解釈である。
そして,上記(b)のステップにおいて「使用可能とされ」るのは 「支払いを条件として」 ,であり 「預託金額の支払い」という行為は,上記(b)のステップにおいてなされる行為であ ,ると解される。
してみると,上記(a)のステップ中にある「予め」という表現は,上記(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為がなされる時点よりも前の時点で,(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作を「予め」行うという意味で用いられていると解釈するのが相当である。
なお,被請求人は,補正事項1(本件第1補正の第0007段落の第7〜9行において 「上,記預託金額は,各預託金額毎に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に,通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録される 」とした補。
正)にいう「メモリー手段に予め記憶されている」とは,取得者の電話使用に先だってメモリ, 「」 ー手段に記憶されているという意味である旨の主張をし 上記(a)のステップ中にある 予めという表現も,上記(b)のステップよりも前という意味での「予め」ではない旨の主張をしているが,上記(b)のステップよりも前という意味での「予め」と解釈した方が自然であることは,補正事項2(本件第1補正の第0023段落の第1〜3行において 「また,特殊な交換部 ,に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので,特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない 」と。
した補正)を参酌しても明らかである。
すなわち,上記補正事項2においても 「特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記 ,憶してある」との記載があり,この記載中の「予め」が,上記(a)のステップ中に記載されて「」 ,, いる 予め と同じ意味で用いられていると解するのが普通の解釈であって そう解釈すれば「 」, 上記補正事項2中の 特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけでよい 旨の記載は「対応する金額」の支払い時点には,もうすでに「予め預託金額及び特殊コードを記憶してある」から 「入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない」ということ ,を意味することとなり,全く矛盾のない記載となるのである。
そこで,特願昭61-6163号(原出願)の出願当初の明細書又は図面において,上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことについて記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する。
原出願における上記事項に関連する記載について,まず,原出願の出願当初の明細書第12頁第6〜9行の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」との記載。
について検討する。
上記記載を普通に読めば,前段の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる 」との記載は 「支払われた額」がどのようなものであるかの説明で 。,あり,後段の「クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」。
との記載の最初に出てくる「クレジット額」は,前段の記載中の「支払われた額」を指すものと解されることから,該「クレジット額」は 「支払われた」後に「特別のコードと共に特別 ,の中央局のメモリーに記憶される」ものと解される。
仮に,上記出願当初の明細書第12頁第6〜9行の記載が 「クレジット額」が「特別のコ ,ードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」動作がいつ行われるのかを特定したものでないのだとしても,到底,上記(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為に対応する「クレジット額の支払い」という行為がなされる時点よりも前の時点で,上記(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作に対応する「特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶」するという動作を「予め」行うということが記載ないし示唆されていたものとは認められない。
次に,原出願の出願当初の明細書第1頁第7〜9行の「前払いにより特別のコードを取得し;, 」 特別交換局のメモリーに 呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;との記載について検討する。
上記記載も,普通に解釈すれば 「前払いにより特別のコードを取得し」た後に「特別交換 ,局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入」するのであり,この記載が時系列を特定するものではないのだとしても,到底,上記(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為に対応する「前払い」という行為がなされる時点よりも前の時点で,上記(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作に対応する「特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入」するという動作を「予め」行うということが記載ないし示唆されていたものとは認められない。
そして,原出願の出願当初の明細書の他の記載や図面を見ても,上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことについて記載ないし示唆されていたものとは認められない。
次に,上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことが,原出願の出願当初の明細書又は図面では特定されていなかったことを単に特定したものにすぎないものであるか否かについて検討すると,本件特許明細書の第0023段落における「また,特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので,特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない 」との記載(本件第1補正による補正事項2に係る記載)は,まさに,上記(b)のステップ 。
よりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことによる効果として,原出願の出願当初の明細書又は図面には記載も示唆もされていなかった新たな効果を追加するものであり,このような新たな効果を奏する事項を特定することが,単に特定したことに該当するとは,到底認めることはできない。
()本件特許請求の範囲第1項に係る発明における「(f)前記受信された特殊コードの預1-2託金額の残高と,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較 81し,(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の電話に 81接続し 」との記載(本件第2補正による補正事項5に係る記載)について ,まず,上記(g)の記載中の「前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に 」は,(f)の,「 , ,」 , ・・・預託金額の残高と ・・・必要な最小費用とを比較しとの記載を受けたものであり「」 ,「」 。 (g)の記載中の 必要な費用 は (f)の記載中の 必要な最小費用 をさすものと解されるそこで,原出願の出願当初の明細書又は図面において 「受信された特殊コードの預託金額 ,の残高と,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し,前81記預託金額の残高が必要な最小費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続」 81することが記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する。
上記記載事項は 「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続」するための条件であるが,該 ,81条件に関連する原出願の出願当初の明細書の記載は次のようなものである。
記載A: メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレ 「ジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し」(原出願の出願当初の明細書の第1頁第14〜17行)記載B: 呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であっ 「て,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段;」(原出願の出願当初の明細書の第3頁第17行〜第4頁第3行)記載C: 呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを 「持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;」(原出願の出願当初の明細書の第9頁第12〜18行)記載D: 十分であり確かなものであることが確認されると,即ち呼出者が適切なコード番 「号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には,通常の発信音が呼出局に送られる 」(原出願の出願当初の明細書の第11頁第9〜13行) 。
記載E: そしてまだクレジットが残っている場合,彼は再び通常の発信音に接続し」(原出 「願の出願当初の明細書の第16頁第13〜15行)記載F: この手順はクレジットが残っている限り繰り返される 」(原出願の出願当初の明 「 。
細書の第17頁第4〜6行)上記記載A〜C,E,Fからは 「クレジット」の額がいくらあれば被呼者との通話が接続 ,されることになるのかは特定されないが,上記記載Dを参酌すると 「クレジット」の額は, ,通話できる十分な場合に被呼者との通話が接続されることになる。
それでは 「預託金額の残高が発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最 ,81小費用より多い」という条件が 「クレジット」の額が「通話できる十分な場合」という条件 ,と同じもの,あるいは下位概念に含まれるものなのかどうかを検討する。
「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」といった場合,例え81ば,日本の公衆電話であれば「10円」という額が「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続 81するために必要な最小費用」であり 「通話できる十分な」額といった場合は,どのぐらいの ,時間通話することができれば十分なのかは,個人個人の主観により異なるものであり,また,たとえ多数の人間の平均をとって十分な通話時間を想定したとしても,通話相手との距離に応じてどれだけの額が十分なものなのかは異なってくるものと解される。よって,原出願の出願当初の明細書において明確に記載はされていないが,原出願の出願当初の明細書では,通話を開始させる「クレジット」の額は,想定される通話相手がかなり遠距離である場合も十分な通話ができるように 「最小費用」よりも多い額を想定していたものと解される。 ,してみると 「預託金額の残高が発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な ,81最小費用より多い」という条件は 「クレジット」の額が「通話できる十分な場合」という条 ,, ,, 。 件とは 全く異なる概念であり 同じもの あるいは下位概念に含まれるようなものではないさて,上記記載D以外の上記記載A〜C,E,Fでは 「クレジット」の額がいくらあれば ,被呼者との通話が接続されることになるのかは特定されておらず 「クレジット」の額が少し ,でもあれば,すなわち 「最小費用」に満たない場合でも,被呼者との通話接続を許容するこ ,とを含む記載となっているものと解される。しかし,その場合は,課金をすることができなくなってしまうという不都合が生じることから,その不都合を避けるために,原出願の出願当初の明細書にはない「最小費用」という文言を入れた補正をしたものと解される。
ただし 「最小費用」に満たない場合に被呼者との通話接続を許容しても,後から料金を請 ,求しさえすれば,課金をすることは全く不可能ではないのであるから,上記のように「最小費用」という文言を入れることが,直ちに自明な補正であるとまでは言えない。
そして,原出願の出願当初の明細書の他の箇所の記載や図面を見ても 「発呼者の電話() ,81を被呼者の電話に接続」するための条件を「預託金額の残高が発呼者の電話()を被呼者の電 81話に接続するために必要な最小費用より多い」こととすることは,記載も示唆もされていないことである。
以上,(),()で検討したとおり,本件特許請求の範囲第1項に係る発明は,(b)のス1-11-2テップ中にある「預託金額の支払い」という行為がなされる時点よりも前に「予め ,(a)の」ステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作を行うようにした点,及び 「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続」するための条件を「預託金額の残高が発呼 ,81者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用より多い」こととした点におい81て,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載も示唆もされていなかった事項を含むものであり,原出願の一部を新たな特許出願としたもの,すなわち適法に分割されたものとは認められず,出願日の遡及は認められない。
なお,被請求人は,分割出願当初の明細書は,原出願に比べ,原出願の特許請求の範囲第10項〜第23項が特許請求の範囲から削除され,削除された内容が段落0030に移動され,原出願の9頁9行〜10頁9行の「本発明の広い局面…接続しうるようにする 」が削除され。
ているだけにすぎないから,分割出願自体は適法である旨の主張をしているが,その後の補正により,分割の要件を満たさなくなった場合には,適法でないことは明らかである 」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点審決は,本件発明が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示唆されていない事項を含むもので,本件特許出願は適法な分割出願とは認められないと誤って判断し,本件特許出願を平成9年5月7日に出願したものとした結果,本件第1,第2補正が,本件当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとは認められず,特許法17条の2第3項の規定に適合しないので,特許請求の範囲第1〜第33項に対する特許は無効とすべきものである,との誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件発明の「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ 」との規定が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示唆されていな ,い事項を含むとの認定の誤り)( )審決は,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の「次のステップを含む電1話の通話制御方法であって 」との規定に続く「(a)この特殊な交換部(A)におい ,て所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ 」との規定につき,ステップ(a)の「預託金額及び特 ,殊コードの複数組合わせを記憶」する動作が,ステップ(b)の「対応する預託金額の支払」よりも前に行われるもの(ステップ(a)の「予め」との語句は,かかる意味を表すもの)と解釈した上で,ステップ(a)の「記憶」する動作をステップ(b)の「支払」よりも前に行うことは,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったと認定したが,以下のとおり,誤りである。
( )まず,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の規定につき,ステップ(a)2の「記憶」する動作は,ステップ(b)の「使用可能」となる時点より前であれば足りるものであって,ステップ(b)の「支払」よりも前でなければならないと,限定的に解釈する理由はない。そして 「記憶」する動作が 「使用可能」となる時点よ ,,り前であることは,原出願の当初明細書において,明らかに記載されている事項であるから,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の規定が,分割要件に違反したということはできない。
審決は,ステップ(a)の「記憶」する動作がステップ(b)の「支払」よりも前に行われるとの解釈の根拠として,@特殊な事情がない限り,方法の発明におけるステップは,時系列的に記載されているものと解されること,Aステップ(b)の「使用可能」となることは 「預託金額の支払を条件」とするものであり 「預託金額の , ,支払」はステップ(b)でなされる行為であることを挙げる。
しかしながら,上記@の理由に関しては,ステップ(b)の「使用可能とされ」る前に,ステップ(a)が「予め」行われるとはいえても,ステップ(b)の途中の条件として規定されている「預託金の支払」とステップ(a)との前後関係まで,この理由によって,限定できるものではない。
また,上記Aの理由は 「条件として」という文言に,本来含まれていない時間 ,, ,。, 的な限定要素を 根拠なく取り込むものであって 明らかに誤りである すなわち「条件」の語義は 「ある物事の成立または生起のもととなることがらのうち,そ ,れの直接の原因ではないが,それを制約するもの (広辞苑第五版)であるから, 」「支払いを条件として使用可能とされ」との文言は,支払をしなければ使用可能とならないということを意味し,支払をすると同時に使用可能とされるなどと解釈されるものではない。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲第1項は,ステップ(a)の「記憶」する動作を,ステップ(b)の「使用可能とされ」る時点より前に「予め」行うことと 「預託金額の支払」がなければ「使用可能とされ」ないということは,規定さ ,れているが 「預託金額の支払」と預託金額及び特殊コードの「記憶」との間の時 ,間的前後関係を限定するものではない。
なお,審決は,本件特許に係る明細書(甲第1号証。本件第2補正後のものであって,以下「本件明細書」という )の発明の詳細な説明の「また,特殊な交換部 。
に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので,特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない(段落【)との記載(本件第1補正によって加えられたも 。」】0023のである )が,対応する預託金額の「支払」の時点で,すでに預託金額及び特殊 。
コードを「記憶」してあることを意味するとも主張するが,本件発明は 「支払」,「」 ,「」「」 の時点ですでに 記憶 がなされている実施態様と支払 を受けてから 記憶する実施態様の双方を含み得るものであって,上記段落【】の記載は,前者の0023実施態様の効果を述べたものにすぎず,この記載が,本件発明を 「支払」の時点,ですでに「記憶」がなされている態様に限定するものではない。
( )仮に,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の,ステップ(a)の「預託金3額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」する動作が,ステップ(b)の「対応する預託金額の支払」よりも前に行われるものに限定されるものとしても,以下のとおり,原出願に係る優先権主張日(昭和60年1月13日)において,当業者が,原出願の当初明細書を客観的に判断すれば 「預託金額及び特殊コードの複数組合わ ,せを記憶」する動作が 「対応する預託金額の支払」と同時,またはそれよりも前 ,に行われる態様が記載してあると理解するものであるから,この点が,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったと認定した点においても,審決は誤りである。
ア発明の本質原出願に係る優先権主張日当時,電話料金の課金システムとして,後払い方式である「自動クレジット方式」も前払い方式である「テレホンカードシステム」も,ともに周知であった。
原出願に係る発明及び本件発明は,自動クレジット方式を否定した上で,前払い方式でありながら,磁気カード読み取り機能のない電話機からでも通話ができるようにするという技術的課題を解決するために, @「前払い」に係る額(クレジット額)が,使用者の手元に置かれるテレホンカードに記憶されるのではなく,電話システム内に置かれる「特別交換局」のメモリーに 「特別のコード」とともに記 ,憶されるようにし, A電話の呼出し接続時には,相手先に接続する前に,特別交換局に接続して,電話機が備えるダイアル手段により使用者に特別のコードを入力させ, Bこの特別のコードと対応しているクレジットを,電話機ではなく特別交換局に確認させ,電話機ではなく特別交換局が,クレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を行うようにしたものであり,これらの部分が発明の本質である。原出願に係る発明及び本件発明のうち「記憶」に関しては,前払いの額が記憶される場所を,使用者の手元のテレホンカードではなく,電話システム内の特別交換局とした点が,発明の本質であり,その額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しない。
イ原出願の当初明細書の記載原出願の当初明細書には,原出願に係る発明の実施例として,まず 「取得」さ,れるものが「特別のコード,クレジット額及び電話番号」がセットになったものであることが記載されており 11頁17行〜12頁2行これらが セットで 取 ( ),,「得」される時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されていることが示されている。そうすると,メモリーへ記憶する動作は,顧客が特別のコードを取得する以前に行われることになるから,クレジット額の「支払」時点とメモリーへの「記憶」時点の関係については,(A)「支払」↑「記憶」↑「取得」(↑「電話使用」)という態様(B)「記憶」↑「支払」及び「取得」(↑「電話使用」)という態様の2通りが理論的にあり得ることになる(以下,上記(A)の態様を「A態様」といい,上記(B)の態様を「B態様」という。そして,原出願に係る出願当時の当業 。)者は,原出願の当初明細書又は図面から,A態様のみならずB態様も,明らかに読み取ることができる。
すなわち,原出願の当初明細書の「実施例」についての記載には,顧客が特別のコードを取得する形態に関し 「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は現 ,金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する(11頁17〜末行「コード,クレ 。」),ジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい(11頁末行〜12頁3行 , 。」 )「或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい(12頁3〜6行)と 。」の3通りの実施形態が挙げられている。このうちの「特別の中央局」で取得する場合には,まず,顧客が「支払」をすると,中央局の職員がメモリーへの「記憶」を行い,その後,特別のコードを含むセットがその場で「取得」できるということが考えられ,A態様が示唆されているといえるが,この実施形態でも 「支払」のあ,る前から上記セットを用意(すなわちメモリーへ「記憶 )しておき,特別の中央 」,「」, 「」 局において 顧客が 支払 をすると同時に 用意されていた上記セットが 取得できるようにすることも可能であり,B態様も示唆されているといえる 「クレジ。
ットカード会社」を通じて取得する場合には,顧客が「特別のコード,クレジット額及び電話番号」のセットを「取得」すると同時に,クレジットカードによる「支払」が行われるから 「支払」と「取得」の間に 「特別の中央局」におけるメモリ , ,ーへの「記憶」を介在させる余地はなく 「支払」のある前から上記セットは用意 ,(すなわちメモリーへ「記憶 )されていなければならない。したがって,この実 」施形態は,B態様を記載しているものといえる。さらに 「空港,ホテル,レンタ ,カー事務所等の販売地点」で取得する場合には,仮に,A態様を採用し 「販売地,点」において,顧客がまず「支払」をし,販売員が「特別の中央局」の職員へ連絡をしてメモリーへの「記憶」を行ってもらい,その後顧客が上記セットを「取得」するという方法を採ったとすると,販売地点と特別の中央局との間の連絡のセキュリティの確保が困難である上に,多数の連絡が特別の中央局に集中して処理不能となり,上記セットを「取得」できるまでに長時間かかる結果,顧客の利便性に全く資するところのないサービスとなってしまい,現実には機能し得ない。他方,B態様を採用した場合には,特別の中央局でメモリーへの「記憶」がなされた後に,販売地点に,特別のコード,クレジット額及び電話番号のセットが送付され,これを顧客が「購入 ( 支払」及び「取得 )するものであって,現実に機能し得るもの 」「」であり,かつ,セキュリティ確保の難しい「連絡」という工程は存在しない。したがって,原出願に係る出願当時の当業者は,B態様が記載されているものと理解するものである。
また,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第8項には 「特別交換局に接続し ,ている間にクレジットを加える手段を有するシステム」という記載があるが,これは,顧客が使用中の「特別のコード」とは別の新たな「特別のコード」を取得していれば,それを入力させる(図面第1図ブロック33「新しい番号」)というYESものであり,古い「特別のコード」に対してクレジット額を増加させるわけではない。すなわち,特別のコードは,テレホンカードと同様に,使い捨てであることになり,そうであれば,各「特別のコード」に対応付ける「クレジット額」を任意に設定できる必要など全くないから,テレホンカードと同様,定額にして,メモリーへの「記憶」を行った後に,販売,購入( 支払「取得 )するものと考えるの 「」,」が,自然である。
さらに,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第10項には 「利用可能なあら,ゆる呼出局からなされる市外通話を含む電話通話を容易にする電話方式であって;呼出局を特別交換局と接続する手段;特別予約者コードとクレジットの情報を記憶するための,特別交換局のメモリー手段;呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であって,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段;とを含む電話システム」との記載, 。 があって 支払と記憶についての時間的順序には関係しない発明が開示されているそして,発明の詳細な説明の「問題点を解決するための手段」の欄には 「本発明,の広い局面においては,電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され,このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局に送られるコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;とを含む(9頁9〜18行)と記載され 。」ているから,当業者は,記憶が支払より先である場合でも,支払が記憶より先である場合でも 「前払い電話通話のためいずれの電話機でも使用できる」という原出 ,願に係る発明の目的が達成できるものと理解することができ,したがって,いずれの経時的順序も,原出願の当初明細書に記載されているものと同視されるものである。
ウ審決の理由の誤り,「 () 審決は 原出願の当初明細書の 支払われた額は取得者のクレジット 信用貸しとなり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される(12頁6〜9行。後記被告主張の「記載β )との 。」 」記載につき,第2文の「クレジット額」が第1文の「支払われた額」を指すから,「支払われた」後に,その額が特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに「記憶される」ものであると解したが,上記イの3通りの実施形態のうち,少なくとも2つがB態様を示唆していることを無視するものであって,誤りである。B態様については 「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり」との記載の ,「支払われた」額が,そこではじめてメモリーに「記憶」されてクレジットとなるという意味には理解できない。この場合には,この記載は,メモリーに「記憶」されているクレジットは支払 があるまでは誰のものでもなかったが 顧客が 支 ,「」 ,「払」をすることにより,その顧客のものとなるということを 「取得者のクレジッ,トとなり」という表現を用いて説明しているのである。そして,上記記載のうち,「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる 」との部分は,A態様,B態様を通じて,特別のコード,クレジット額及び電 。
話番号を取得した者が 「取得」の時点で実現される状態,すなわち 「今後の電話 , ,使用ができる」ことを記述したものであり,また 「クレジット額は特別のコード ,と共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」との部分は,A態様,B態様を通 。
じ,時間的には遡って,メモリーに記憶される内容,すなわち,それがクレジット額及び特別のコードであることを説明したものである。
審決は,さらに,原出願の当初明細書の特許請求の範囲に係る「前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;」との記載が 「前払いにより特別のコードを取 ,得し」た後に「特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用す」, , るよう前払い額を挿入 するものと解したが 原出願の当初明細書の記載全体から「」 ,「」 , メモリーへの 記憶 は取得 の前に行われるものと理解されるのであるから上記2つの工程の記載の順序は,時系列を特定するものではあり得ない。上記2つの工程の記載は,顧客によって行われる動作が 「前払いにより特別のコードを取 ,得し」とまとめられ,特別の中央局の職員により行われる動作が 「特別交換局の,メモリーに・・・前払い額を挿入し」と記述されているものである 「記憶」する。
動作は,使用者が特別のコードを「取得」する以前になされていれば 「支払」よ,り前であっても,後であっても,磁気カード読み取り機能のない電話機からでも通話することができる「前払い方式」が実現されるのであり 「記憶」する時点が正 ,確にいつであるかは,発明の本質に全く影響しないのである。
( )なお,明細書又は図面の補正に関し,平成5年法律第26号による改正前4の特許法においては,当初明細書に記載されていない事項(新規事項)を追加する補正であっても,明細書又は図面の記載から見て自明である事項であれば,明細書の要旨を変更するものに当たらないと解されていたところ,同改正により,当初明細書又は図面の記載から見て自明な事項であっても,当初明細書又は図面の記載から,当業者が直接的かつ一義的に導き出せない場合には,新規事項の追加として許容されないこととなったが,これに伴って,分割の要件である「原出願の一部を新たな特許出願とした」という点に関しても,同改正前は,原出願の当初明細書の記, , 載から見て自明な事項であれば 原出願の当初明細書に記載されている事項であり「」,, , 原出願の一部 とされていたのが 同改正後は 原出願の当初明細書の記載から当業者が直接的かつ一義的に導き出し得る事項でなければ 「原出願の一部」と認 ,められないというように,判断基準が実質的に変更された。しかるところ,本件特許出願は,同改正前の特許法が適用される原出願の分割出願であって,同改正前の判断基準が適用されるべきところ,審決は,実質的に同改正後の判断基準に依拠して 「預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」する動作が 「対応する預託 , ,金額の支払」と同時,またはそれよりも前に行われる態様が,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったとの,誤った結論に至ったものである。
2取消事由2(本件発明の「(f) 前記受信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較81し,(g) 前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を 81被呼者の電話に接続し 」との規定が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示 ,唆されていない事項を含むとの認定の誤り)( )審決は,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の「(f) 前記受信された特1殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するため 81に必要な最小費用とを比較し,(g) 前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続し 」との規定について,(g) の規81 ,定中の「必要な費用」が(f) の規定中の「必要な最小費用」を指すものとし 「発,呼者の電話()を被呼者の電話に接続」するための条件に関連する原出願の当初81明細書の記載として,記載A〜F(審決書12頁32行〜13頁14行)を摘示した上 「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続」するための条件を「預託金額 ,81の残高が発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用より 81多い」こととすることは,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていないと認定した。
しかしながら,(g) の規定中の「必要な費用」が(f) の規定中の「必要な最小費用」を指すこと,原出願の当初明細書に記載A〜Fがあることは,審決の説示のとおりであるが 「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続」するための条件を ,81「預託金額の残高が発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最 81小費用より多い」こととすることが,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていないとする認定は,誤りである。
( )すなわち,原出願の当初明細書に記載された「通話できる十分なクレジッ2トをもっている (記載D「クレジットと通話経費を比較することにより・・・ 」),確認 (記載A「残額のあるクレジットを有する (記載B「前払いクレジッ 」), 」),トを持っている (記載C「クレジットが残っている (記載E,F)という各 」), 」条件は,以下のとおり 「発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するための最 ,81小費用より多い」という条件と同じ概念である。
,「() 」 , アまず発呼者の電話を被呼者の電話に接続するための最小費用 が81審決が認定するように 「電話システムの接続をする場合に必要とされる『最小費 ,』『』」()。 用 あるいは 必要な費用 であることは明らか17頁11〜12行 であるまた,この額は,対象となる「電話システム」がどのような運用されているかによ,,「」 って変わり得る額であって 一定不変の額ではないが 対象となる 電話システムとそのシステムにおける運用が定まれば,客観的に定まる額である。
イ次に,原出願の当初明細書の記載Dは 「十分であり確かなものであること ,が確認されると,即ち呼出者が適切なコード番号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には,通常の発信音が呼出局に送られる(11頁第9。」〜13行)というものであるところ 「十分」の語義は 「物事が満ち足りて,不足 ,,・欠点のないさま(広辞苑第5版「条件を満たして,不足がないさま(大 。」), 。」辞林第2版)であるから 「通話できる十分なクレジット」とは 「通話するのに不 , ,足のないクレジット」ということになる。そして,通話するのに不足するかどうかは,電話システムによって,客観的に判断されるのであるから 「通話できる十分,なクレジット」かどうかが,個人個人の主観によって異なることはあり得ず,審決の「 通話できる十分な』額といった場合は,どのぐらいの時間通話することがで 『きれば十分なのかは,個人個人の主観により異なるものであり」との認定は誤りである。
また,クレジットが通話するのに不足するか否かが,電話システムによって,客観的に判断されるとした場合,電話システムは,判断時において得ている情報に基づいて,その判断をすることになる。そうすると,電話システムは,その通話がどの程度の時間継続するのかという情報は通常得ていないから,通話のため接続するのに不足するか否かを判断するのみである。同様に,電話システムが,判断時に,通話の相手方との距離に関する情報を得ているようにシステムを運用すれば,その距離に応じて変動する額との比較で不足するか否かを判断できるが,判断時には,相手方との距離に関する情報を得ていないようにシステムを運用すれば,その距離に関係しない額との比較で不足するか否かを判断せざるを得ない。そして,原出願に係る図面第1図では,コードとクレジットの確認(通話できる十分なクレジットをもっているか否かの判断)を行うブロック18及び通常の発信音が送られるブロック19が,コード及び相手先番号をダイアルするブロック17の後に置かれているから,電話システムは,判断時に相手方との距離に関する情報を得ており,したがって,相手先までの距離に対応する額との比較で,不足するか否かを判断できるが,原出願の当初明細書には 「呼出者のあらかじめダイアルした番号はブロック ,21で示されるように伝送される。勿論このシステムは,呼出者が通常の発信音を受取ることに対応して相手先をダイアルするように構成することもできる (13」頁12〜16行)との記載があって,相手先番号のダイアルを通常の発信音が送られるブロック19の後(ブロック21)で行う構成(ブロック17では相手先番号のダイアルをしない構成)も記載されており,この場合は,十分なクレジットをもっているか判断する時点(ブロック18)では,相手先までの距離に関する情報を得ておらず,相手先までの距離とは関係のない額との比較で,不足するか否かが判断されることになる。すなわち,原出願の当初明細書及び図面には,クレジットが通話するのに不足するか否かを,通話の相手方との距離に応じて変動する額との比較によって判断する態様と,相手先までの距離とは関係のない額との比較によって,,「『」 判断する態様の両方が開示されており したがって 審決の通話できる十分な額といった場合は ・・・通話相手との距離に応じてどれだけの額が十分なものな ,のかは異なってくるものと解される。よって ・・・原出願の出願当初の明細書で ,は,通話を開始させる『クレジット』の額は,想定される通話相手がかなり遠距離である場合も十分な通話ができるように 『最小費用』よりも多い額を想定してい ,たものと解される 」との認定も誤りである。 。
以上のとおり,記載Dは,被呼者(相手方)との通話を接続するための条件を,メモリー手段に記憶されたクレジット額又はその残高が 通話を開始するための 最 ,「小費用」より多いこととすることを記載したものである。
,, ,,,, ウ次に 記載A〜C E Fのうち 記載A〜Cには クレジットを確認してその確認により,通話の相手方(相手先局)とを接続することが記載されているのであるから,その「クレジットの確認」とは,最小費用より多いクレジットが残っていることを確認するものであると解さなければ,確認の意味がなく,不合理である。また,記載E,Fには,クレジットが残っている場合に,再度通常の発信音に接続し,あるいは「この手順」が繰り返されるのであるから,同様に 「クレジッ,トが残っている場合」とは,最小費用より多いクレジットが残っている場合を意味するものと解さなければ,不合理である。
したがって,記載A〜C,E,Fは,クレジットが,通話を開始するための最小費用より多いということを記載したものである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(本件発明の「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ 」との規定が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示唆されていな ,い事項を含むとの認定の誤り)に対し( )原告は 本件特許に係る特許請求の範囲第1項の規定につき ステップ(a)1 , ,の「記憶」する動作は,ステップ(b)の「使用可能」となる時点より前であれば足り,ステップ(b)の「支払」よりも前でなければならないと解釈する理由はなく,「記憶」する動作が 「使用可能」となる時点より前であることは,原出願の当初 ,明細書に記載されている事項であると主張する。
しかしながら,上記規定において,ステップ(a)によって所定の預託金額と特殊コードの組合せが生成されないと,ステップ(b)の特殊コードに対応する預託金額の支払を行うことはできないから,預託金額の「支払」が,預託金額と特殊コードの組合せの「記憶」より後であることは明らかであり,原告の上記主張は誤りである。
( )原告は,原出願に係る優先権主張日において,当業者が,原出願の当初明2細書を客観的に判断すれば 「預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」す ,る動作が 「対応する預託金額の支払」と同時,またはそれよりも前に行われる態 ,,,。 様が記載してあると理解するものであると主張するが 以下のとおり 誤りであるア原出願の当初明細書及び図面において,特別のコードとクレジット額とを特別の中央局のメモリーに記憶させる動作について記述しているのは,原出願の当初明細書の以下の2か所のみである。
α「使用可能ないずれの電話機からでも電話通話をなしうる方法であって,下記段階:前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;・・・段階を含む方法(特許請求の範囲第1項。以下「記載α」という ) 。」 。
β「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードとともに特別の中央局のメモリーに記憶される(12頁6〜9行。以下「記載β」という ) 。」 。
上記いずれの記載においても 「支払(前払い 」の後にメモリーへの「記憶」が ,)なされることが記載されている。特に,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第1項は 「下記段階」として,記載αを含む各段階を全体として経時的順序で記載し ,ており,したがって 「前払いにより特別のコードを取得」する段階の後に 「特別 , ,交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入」する(記憶する)段階があることを記載しているものである。
原出願の当初明細書は 「前払い額」についての具体的記載は全くないが,任意 ,の額を前払いしてクレジット額とすることができると解するのが自然であり,そうとすれば 前払い 支払 によって クレジット額が特定されるのであるから支 ,(), ,「払」の後にクレジット額等の「記憶」がなされることは当然のことである。
イ原告は,原出願に係る発明及び本件発明のうち「記憶」に関しては,前払いの額が記憶される場所を,使用者の手元のテレホンカードではなく,電話システム内の特別交換局とした点が,発明の本質であり,その額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないと主張する。
しかしながら,原出願の当初明細書には,一般の加入電話と公衆電話の「いずれの電話機・・・からでも電話通話のための前払いを利用して行われるような電話方式が提供される (22頁18〜末行)との記載があるが,この点で原出願に係る 」発明と近接しているのは「自動クレジット通話方式 (加入者電話の加入者ではな 」い者が当該電話機を使用して通話する場合に,電話会社との契約により予め割り当てられたコード番号等をダイヤルし,電話会社は,自動で,メモリーに記憶してあるコード番号等と照合して,一致していれば,通話接続を行った上,その通話料を, ),, 当該加入者電話の加入者ではなく 当該契約者に課金する方式 であり 当業者は「 」 , 。 後払い方式である 自動クレジット通話方式 を 前払い式とすることを想起するこれに対し 「テレホンカードシステム」は,公衆電話機におけるコイン使用の不 ,便さを解消することを目的とするものであって,あらゆる電話機を使用できるとされている原出願に係る発明を理解する上での前提となるものではない。また 「テ,レホンカードシステム」の課金システムは 「自動クレジット通話方式」と根本的 ,に異なり,原出願に係る発明とも異なるものである。したがって 「テレホンカー,ドシステム」に関する周知技術は,原出願の当初明細書の記載の解釈に当たって,参酌すべき当業者の技術常識には当たらない。
また,原出願の当初明細書には,電話システム内の「特別交換局」がどのようなものであるかについて全く説明がないから,原告主張の発明の本質なるものは,出願当時の当業者に理解不能である。のみならず,発明の本質は,特許請求の範囲に記載された事項によって特徴付けられるものであるところ,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第1項には 「支払」の後に「記憶」がなされるものに限定された ,記載があるから 「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に関わるも ,のである。そして,本件明細書は,特許請求の範囲に 「支払」と「記憶」の前後 ,関係を逆転させる記載をしたものであり,発明の本質に関わる変更がされたものである。
ウ原告は,原出願の当初明細書の「実施例」に記載された,顧客が特別のコードを取得する3通りの形態のうち 「特別の中央局」で取得する場合は,A態様と ,B態様の双方を示唆し 「クレジットカード会社」を通じて取得する場合及び「空 ,港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点」で取得する場合は,当業者は,B態様が記載されているものと理解すると主張する。
しかしながら,原告主張のA態様及びB態様の分類は,原出願の当初明細書に,「取得」の前に「記憶」がなされることが記載されていることを前提とする点において,そもそも誤りである。原告は,原出願の当初明細書の「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し (11頁1」7行〜12頁2行)との記載に基づき,特別のコード,クレジット額及び電話番号が,セットで「取得」される時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されていることが示されていると主張するが,上記記載は,顧客が支払をして特別のコード,クレジット額及び電話番号を取得することを述べているだけで,その時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されていることなど,記載も示唆もされていない。むしろ 原出願の当初明細書には 上記記載の直後に 記載βがあるのであるから取 ,,, ,「得」の時点では「記憶」がなされていないことが明らかである。
そして,原出願の当初明細書には 「特別の中央局」で取得する場合 「クレジッ , ,トカード会社」を通じて取得する場合及び「空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点」で取得する場合のいずれについても,特別のコード,クレジット額及び, (「」 電話番号を取得する場所 あるいは取得及び支払の方法クレジットカード会社を通じて取得する場合)について記載してあるだけで,これらの記載は,特別のコード及びクレジット額のメモリーへの記憶については全く触れていない。そして,メモリーへの記憶については,これらの記載の直後にある記載βに記載されている。,「」,「」 のである したがって特別の中央局 で取得する場合クレジットカード会社を通じて取得する場合及び「空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点」で取, 「」,「」, 得する場合のいずれであっても これらの販売地点における 支払取得 の後特別のコード及びクレジット額が,特別の中央局のメモリーに「記憶」されるというのが,原出願の当初明細書の記載である。上記の取得場所等の記載にB態様が示唆されているなどというのは,現在の実用化されているシステム(例えば,被告の「 」) 。 KDDIスーパーワールドカード サービス を知った上での後知恵にすぎない原告は,また,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第8項に関連して 「特別,のコード」は使い捨てであるから,各「特別のコード」に対応付ける「クレジット額」を任意に設定できる必要は全くなく,テレホンカードと同様,定額にして,メモリーへの「記憶」を行った後に,販売,購入( 支払「取得 )するものと考 「」,」えるのが,自然であると主張するが,原出願の当初明細書には,特別のコードが使い捨てであることは記載されていない。上記特許請求の範囲第8項は 「特別交換,局に接続している間」におけるクレジットの追加に関するものであって,一般の場合に,ある「特別のコード」の残額がなくなったときに,当該「特別のコード」に対し新しい「クレジット額」を付与することは,原出願の当初明細書において否定されていない。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
エなお,原告は,審決が,実質的に,審決は,実質的に平成5年法律第26号による特許法の改正後の判断基準に依拠して 「預託金額及び特殊コードの複数組 ,合わせを記憶」する動作が 「対応する預託金額の支払」と同時,またはそれより ,も前に行われる態様が,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったとの結論に至ったと主張する。
しかしながら,同改正前の特許法の規定に基づく分割出願の判断基準において,「原出願の当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内」には,出願時の当業者が当該当初明細書の記載から見て自明な事項が含まれるとされていたとしても,原出願の当初明細書に記載も示唆もされていないのみならず,これに記載されていたことと逆の内容で,しかも新たな作用効果を奏するような事項が,ここにいう「原」 , 出願の当初明細書の記載から見て自明な事項 に当たるということはできないから審決は,同改正前の特許法の規定に基づく「分割出願」の判断基準を正当に適用したものであり,原告の上記主張は誤りである。
2取消事由2(本件発明の「(f) 前記受信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話()を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較81し,(g) 前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話()を 81被呼者の電話に接続し 」との規定が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示 ,唆されていない事項を含むとの認定の誤り)に対し原告は,原出願の当初明細書の記載D,A〜C,E,Fは 「通話を開始するた,」 ,, めの最小費用より多い という条件と同じ概念であると主張するが 以下のとおり誤りである。
「通話を開始するための最小費用」とは,当該電話システムにおける最小通話単位の料金ということであり,これには,所定の時間(例えば6秒)を最小通話単位とする課金方式と,所定の金額(例えば10円)を最小通話単位とする課金方式とがある。前者の方式では当該所定時間当たりの料金が定められ,後者の方式では当該所定金額当たりの通話時間が定められる。最小通話単位の料金未満の費用では電話をかけることはできず,したがって 「通話を開始するための最小費用」とは,通 ,話接続条件としての最小通話単位の料金を表しており 「通話を開始するための最 ,小費用より多い」とは 「最小通話単位の料金より多い」ということを意味する。 ,これに対し,記載Dの「十分であり確かなものであることが確認されると,即ち呼出者が適切なコード番号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には,通常の発信音が呼出局に送られる 」との記載中 「通話できる十分なク 。,レジット」という表現は,特定の判断指標を表したものではなく,したがって,記載Dは,通話接続条件を記載したものではない。すなわち 「通話できる十分なク ,」 ,, , レジット は 審決の説示のとおり 個人個人の主観によって異なるものであって接続の有無の判断条件となるような概念ではない。
原告は,記載Dに関し 「通話できる十分なクレジット」を「通話するのに不足 ,のないクレジット」と言い換えた上 「通話を開始するための最小費用より多い」 ,という条件と同じ概念であると主張するが,何を以て 「不足のない」と判断する ,かも,客観的に不明確である。
次に,原告は,記載A〜C,E,Fのうち,記載A〜Cは,最小費用より多いクレジットが残っていることを確認するものであると解さなければ,不合理であり,記載E,Fは,最小費用より多いクレジットが残っている場合を意味するものと解さなければ,不合理であるから,記載A〜C,E,Fは,クレジットが,通話を開始するための最小費用より多いということを記載したものであると主張する。
しかしながら,記載A〜C,E,Fには 「最小費用より多いクレジットが残っ ,ている」という,条件を特定した記載されておらず,これらも通話接続条件を記載したものとは,到底いうことができない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件発明の「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ 」との規定が,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示唆されていな ,い事項を含むとの認定の誤り)について( )まず 本件特許に係る特許請求の範囲第1項の (a)この特殊な交換部(A)1 , 「において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ 」との規定につき,審決が 「(b)のステップ中 , ,にある『預託金額の支払い』という行為がなされる時点よりも前の時点で,(a)のステップにおける『特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶』するという動作を『予め』行う」ものと認定した点について,原告は,ステップ(a)の「記憶」する動作は,ステップ(b)の「使用可能」となる時点より前であれば足りるものであって,ステップ(b)の「支払」よりも前でなければならないと,限定的に解釈する理由はなく 「記憶」する動作が 「使用可能」となる時点より前であることは,原 ,,出願の当初明細書に記載されている事項であるから,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の規定が,分割要件に違反したということはできないと主張する。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明の「また,特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので,特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない(段落【)との記載(乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば,本件 。」】0023第1補正によって加えられたものと認められるに関連して ステップ(b)の 対 。),「応する預託金額の支払」の時点で,すでにステップ(a)の「預託金額及び特殊コードの記憶」がなされている実施態様が本件発明に含まれていることは,原告が自認するところである しかるところ 審決は 原告主張のとおり ステップ(a)の 記 。,,,「憶」する動作をステップ(b)の「支払」よりも前に行うことは,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったと認定しているのであるから,仮にこの認定に誤りがなければ 上記特許請求の範囲第1項の規定は ステップ(a)の 記 , ,「憶」する動作がステップ(b)の「支払」よりも前であることを限定したものであるか,あるいは,これと,ステップ(b)の「支払」を受けてからステップ(a)の「記憶」をする態様の双方を規定したものであるかを問わず,分割出願の要件を満たさないことは明らかである。
そこで,上記原告の主張に対する判断はしばらく措き,まず,原出願の当初明細書又は図面に,ステップ(a)の「記憶」する動作をステップ(b)の「支払」よりも前に行うことが,記載又は示唆されていたか否かにつき,判断する。
( )原出願の当初明細書には,メモリー手段への記憶と支払に関して,以下の2記載がある。
ア特許請求の範囲第1項「使用可能ないずれの電話機からでも電話通話をなしうる方法であって,下記段階:前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;電話呼出し接続が必要な時,前記特別交換局をダイアルし;確認のため前記特別のコードを入力し;相手先の番号を入力し;メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し,そして,クレジット残額がなくなった時は前記通話を断線する;段階を含む方法 」。
イ「発明が解決しようとする問題点」として「市外電話を行い支払うこれら現在の方法は著しい難点をもっている。例えば通話料がホテルの室の電話機について請求される場合,ホテル側は通話料に経費を加算するため通話にかかる。 。 費用は不釣合なほどに大きくなる公衆電話から長距離通話をすることは極めて困難であるなぜなら大量のコインを必要とするからであり,通常は持っておらず,特に旅行中,或いは業務旅行中そうである。クレジットカードの使用による通話はしばしば誤って電話クレジットカード番号について経費が請求される結果となる。更に電話クレジットを得るためには,クレ, 。 ジットのチェックが必要であり しばしばクレジットの設定を得ることが不可能な場合があるセールスマンも同様にその勤務先に電話をするために客先の電話機を,その通話料について客先に支払うことなく借りることがあるが,このことは不都合であり,またその通話料を勤務先に請求するようにする場合には先述の難点がありまた経費が加算される。従って,市内或いは市外通話を含む電話通話を容易に,安価にかつどの電話機からでもできるようにする方式の必要性が長い間感じられていた。即ち,呼出者が通話をしたいと考えた時,それが市内通話であれ,長距離国内或いは国際通話であれ,もっとも手近の電話機から通話を可能ならしめる(7頁末行〜9頁7行) ような方式である。」ウ「問題点を解決するための手段」として「本発明の広い局面においては,電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され,このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続(9頁9行〜18行) を可能にする手段;とを含む。」エ「実施例」として「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい。支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される。コード及び電話番号は第1図のブロック12に示されている。次いで,取得者が市内電話或いは市外電話をしたい事態が生ずる。取得者,即ち電話使用者は受送話機をはずし,ブロック13及び14に示すように特別の中央局にダイアルする。この場合の電話機は私用電話機であってもよい。特別な中央局(旅行者用電話サービス局)或いは交換局に接続すると,14,特別の発信音がこの特別の中央局或いは交換局から呼出局に送信される。呼出者が,交換局のコンピュータがOKであることを示す特別の発信音を聴きとると,呼出者はブロック14に示すように,本人特定コード及び呼出者の望む相手先番号をダイヤルする。特別の交換局のコンピュータがコードをチェックし呼出者の望む相手先番号を記録する。コード番号が真正のコードであり,クレジットが有効なものであるなら,ブロック18及び19に示すように,相手先の電話機に接続した時に通常の発信音が呼出局に送られる。特別の交換局のコンピュータはもっとも経済的に得られる線を接(11頁17行〜13頁10行) 続する。」オ「発明の効果」として「かくして前払い電話通話のためのいずれの電話機でも使用できるようにした方法が提供され(24頁8〜9行) る。」( )上記( )のア〜オの各記載によれば,原出願の当初明細書には,@現金又は 32クレジットカードによる支払いにより あらかじめ 特別のコードと特別交換局 特 ,, (別の中央局。本件発明の「特殊な交換部(A)」に相当する )に接続するための電 。
話番号を取得し,A特別交換局のメモリーに特別のコード(本件発明の「特殊コード」に相当する )とクレジット額(前払い額。本件発明の「預託金額」に対応す 。
る )が記憶され,B次いで,特別交換局にダイアルする,という経時的な構成に 。
より,前払いでどのような電話機でも使用できるようにした発明,すなわち,クレジット額の 支払特別交換局のメモリーへの特別のコードとクレジット額の 記 「」, 「」 。 憶 という時間的順序でのみ成る発明が記載されているものと認めることができる( )これに対し,原告は,特別交換局のメモリーへの特別のコードとクレジッ4ト額の「記憶」を,クレジット額の「支払」と同時か,それよりも前に行う実施態様は,原出願に係る優先権主張日において,当業者が,原出願の当初明細書の記載から自明に読み取れるものである旨主張するので,以下,この主張について検討する。
アまず,原告は,テレホンカードシステムと対比した上,原出願に係る発明及び本件発明は,前払いの額(クレジット額)が記憶される場所を,テレホンカードではなく,電話システム内の「特別交換局」とし,クレジットの確認及びクレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を,電話機ではなく特別交換局にさせるようにしたことが,発明の本質であり,クレジット額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないと主張する。
しかしながら,原出願の当初明細書には,テレホンカードシステムの技術を参酌して原出願に係る発明を理解すべきであるとする記載も示唆もなく,そもそも,テレホンカードないしテレホンカードシステムについては何らの記載もない。そうすると,たとえ,原出願に係る優先権主張日(昭和60年1月13日)当時,テレホンカードシステム自体が周知であったとしても,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,原出願に係る発明を理解すべきものであると考える理由はなく,そうであれば,原告の主張するように,クレジット額が記憶される場所を,電話システム内の「特別交換局」とし,クレジットの確認及びクレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を,特別交換局にさせるよう, ,「」 「」 にしたことが 原出願に係る発明の本質であり クレジット額の 支払 と 記憶の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないことが,原出願の当初明細書の記載から直ちに読み取れるものということはできない。
すなわち,明細書又は図面の記載から見て,ある事項が自明であるというためには,ある周知技術を前提とすれば,当業者が,明細書又は図面の記載から,当該事項を容易に理解認識できるというだけでなく,たとえ周知技術であろうと,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であると解すべきである。しかるところ,テレホンカードシステムは,電話利用のために,磁気カード読み取り機能を有する専用の公衆電話機しか使用できないシステムであるから 「どのような電話機でも使用できる」原出願に係る発明との ,間には本質的な相違があるというべきであり,たとえ,前払い方式の課金システムを伴うものであっても,そのことのみによって,かかる示唆があるということはできない。そうすると,原出願の当初明細書に,テレホンカードないしテレホンカードシステムについて何らの記載もない以上,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,原出願に係る発明を理解する契機はないといわざるを得ない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
,,,, 「」 イ次に 原告は 顧客が 特別のコード クレジット額及び電話番号を 取得する前に,メモリーに特別のコードとクレジット額(預託金額)が「記憶」されていることを前提として,クレジット額の「支払」時点とメモリーへの「記憶」時点の関係につき,A態様( 支払」↑「記憶」↑「取得」(↑「電話使用」))とB態 「様( 記憶」↑「支払」及び「取得」(↑「電話使用」))の2通りが理論的にあり 「得るとした上,実施例の記載(上記( )のエ)のうち 「特別の中央局」で取得する2 ,場合には,A態様及びB態様の双方が 「クレジットカード会社」を通じて取得す ,「,, 」, る場合及び 空港 ホテル レンタカー事務所等の販売地点 で取得する場合にはB態様が示唆されていると主張する。
しかしながら,原出願の当初明細書上,顧客が,特別のコード,クレジット額及び電話番号を取得する前に,メモリーに特別のコードとクレジット額(預託金額)が記憶されていることが記載されているものと直ちに認めることはできず,原告の上記主張は,その前提を欠くものである。
すなわち,原出願の当初明細書には 「顧客・・・は現金或いはクレジットカー ,ド支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する(11頁17〜末行。上記( )のエ)との記載があるところ,原 。」2告は 「取得」されるものが「特別のコード,クレジット額及び電話番号」がセッ ,トになったものであることを理由に,これらが,セットで「取得」される時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されていることが示されていると主張するが,原出願の当初明細書には,顧客が取得する時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されているとの記載はなく,また,顧客が特別のコード,クレジット額及び電話番号を「セット」で取得するからといって,その取得時に「特別のコード」と「クレジット額」とが,一連でメモリーに「記憶」されていなければならないと考える理由もない。かえって,上記記載を含む,上記( )のエの「顧客,例えば正規の電話使2用者或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい ・・・クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメ 。
。」,,「」, モリーに記憶されるとの記載は その文言上特別の中央局 で取得する場合「クレジットカード会社」を通じて取得する場合及び「空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点」で取得する場合のいずれであっても,顧客が「支払」により取得した(購入した ,そのクレジット額(顧客の個別の支払額)が特別の中央局 )のメモリーに記憶されるとの趣旨であるものと理解するのが,自然であり,したがって 「取得」も 「支払」とともに,時間的に「記憶」に先立つものであることが ,,記載されているというべきである。
原告は 「クレジット額,電話番号及び本人特定コード(特別のコード 」のセッ , ),「,, 」, トを空港 ホテル レンタカー事務所等の販売地点で購入 した場合においてA態様を採用したとすると,販売員がメモリーへの「記憶」のために「特別の中央局」に連絡するために,セキュリティの確保が困難である上に,多数の連絡が「特別の中央局」に集中して,顧客が上記セットを「取得」できるまでに長時間かかるなどの不都合があると主張するが 上記主張は A態様において メモリーへの 記 ,,,「憶」が,時間的に顧客の「取得」に先立つことを前提とするものであるところ,その前提自体が採用し得ないものであることは上記のとおりである。もっとも,顧客が「支払」及び「取得」をした後に,メモリーへの「記憶」がなされるとしても,当該「記憶」が完了し,クレジットを使用した電話の利用が可能となるまでに,ある程度の時間がかかるなどの不都合が生ずることは予想される。しかしながら,上記( ),( )のとおり,原出願に係る発明は,前払いでどのような電話機でも使用で23, , きるという効果を奏するものであり 当該効果を享受することのいわば代償として上記のような不都合を受忍するか否かは,顧客の判断にかかるものであって,上記のような不都合があるからといって,一義的に,原出願に係る発明の実施が困難であるとか,不可能であるということはできない。したがって,上記のような不都合があるゆえに,原出願に係る出願当時の当業者は,原出願の当初明細書には 「支,払」と「記憶」の時間的前後関係を逆にした発明までが記載されているものと理解するということはできず,原告の上記主張は,いずれにしてもこれを採用することはできない。
なお,原出願の当初明細書には,上記( )のエのとおり 「顧客,例えば正規の電2 ,話使用者或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい 」との記載と 「クレジット額は特別のコードと共に特 。,別の中央局のメモリーに記憶される 」との記載の間に 「支払われた額は取得者の 。,クレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる 」との記載があるが, 。
この記載は,その前後の記載と併せ読めば,取得者(顧客)の支払額が「クレジッ」, ,「」 ト額 となることと 原出願に係る発明における電話利用は その クレジット額(信用貸しの額,すなわち前払い額)を料金に充当することによってなされるとの趣旨であることが明らかであり 「今後の電話使用ができる」と記載されているか ,らといって 「支払」の直後から,クレジットを使用した電話利用が可能となるこ ,とを意味するものと解することはできない。
ウ次に,原告は,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第8項の「特別交換局に接続している間にクレジットを加える手段を有するシステム」という記載が,古い「特別のコード」に対してクレジット額を増加させるという意味ではなく 「特,」 ,,, 「」 別のコード は テレホンカードと同様に 使い捨てであって 各 特別のコードに対応付ける「クレジット額」を任意に設定できるようにする必要はないから,テレホンカードと同様,定額にして,メモリーへの「記憶」を行った後に,販売,購入( 支払「取得 )するものと考えるのが,自然であると主張する。 「」,」しかしながら,仮に,原出願の当初明細書の特許請求の範囲第8項の「特別交換局に接続している間にクレジットを加える手段を有するシステム」という記載が,古い「特別のコード」に対してクレジット額を増加させるという意味ではないとしても,それは 「特別交換局に接続している間」の追加システムに関する上記特許 ,請求の範囲第8項の記載が,そのような趣旨であるというだけのことであり,そう,()「」 であるからといって 残額が少なくなった あるいは0となった特別のコードに対し,クレジット額を増加させるシステムが必然的に否定されることにはならない。もとより,原出願の当初明細書に,残額が少なくなった「特別のコード」に対しクレジット額を増加させるシステムを否定するような記載や 「特別のコード」,が使い捨てであるというような記載もない。
したがって,原告の上記主張を採用することもできない。
エまた,原出願の当初明細書の特許請求の範囲の第10項には 「利用可能な,あらゆる呼出局からなされる市外通話を含む電話通話を容易にする電話方式であって;呼出局を特別交換局と接続する手段;特別予約者コードとクレジットの情報を記憶するための,特別交換局のメモリー手段;呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であって,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段;とを含む電話システム」との記載があり 発明の詳細な説明の 問題点を解決するための手段 の欄には本 ,「 」,「発明の広い局面においては,電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され,このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局に送られるコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;とを含む(9頁9〜18行)との記 。」載があるところ,原告は,上記特許請求の範囲第10項の記載は 「支払」と「記,憶」についての時間的順序には関係しない発明を開示するものであり,上記発明の詳細な説明の記載により,当業者は,記憶が支払より先である場合でも,支払が記,「 」 憶より先である場合でも前払い電話通話のためいずれの電話機でも使用できるという原出願に係る発明の目的が達成できるものと理解することができから,いずれの経時的順序も,原出願の当初明細書に記載されているものと同視されると主張する。
しかしながら,上記特許請求の範囲第10項の記載が 「支払」と「記憶」につ ,いての時間的順序を規定していないからといって,直ちに,同項に,時間的に「支払」に先立って,所定の預託金額に対し特別のコードを割り当て,これら預託金額と特別のコードの複数組合わせを「記憶」しておくという,原告主張の実施態様を含む発明が記載されているといい得るものではない。また,このことは,上記発明,,「」 「」 の詳細な説明の記載についても同様であって 当該記載が 上記 記憶 が 支払に時間的に先立つ実施態様を含めて発明を開示しているものと解する根拠はない。
したがって,原告の上記主張も失当である。
( )なお,原告は,平成5年法律第26号による明細書又は図面の補正に係る5,「 」 特許法の改正に伴って 分割の要件である 原出願の一部を新たな特許出願としたという点に関しても,同改正前は,原出願の当初明細書の記載から見て自明な事項であれば,原出願の当初明細書に記載されている事項であり 「原出願の一部」と,されていたのが,同改正後は,原出願の当初明細書の記載から,当業者が直接的かつ一義的に導き出し得る事項でなければ 「原出願の一部」と認められないという ,ように,判断基準が実質的に変更されたところ,審決は,実質的に同改正後の判断基準に依拠して 「預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」する動作が, ,「対応する預託金額の支払」と同時,またはそれよりも前に行われる態様が,原出願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったとの判断を行った旨主張する。
しかしながら,審決が,同改正前の明細書又は図面の補正に係る「要旨変更」の基準を参酌して,分割出願の要件について検討していることは,例えば 「特願昭,61-6163号(原出願)の出願当初の明細書又は図面において,上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことについて記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する(審決書11頁1〜3行)などの説示に見ら 。」れる「記載ないし示唆されていた」との文言から窺われるところであり,また,原出願の当初明細書の記載から見て自明な事項が「原出願の一部」に含まれることを踏まえて判断しても 「預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」する動作 ,が 「対応する預託金額の支払」と同時,またはそれよりも前に行われる態様が, ,原出願の当初明細書又は図面に記載又は示唆されていたとは認められないことは上記のとおりであるから,審決の判断は内容的にも誤りはなく,原告の上記主張を採用することはできない。
( )以上のとおり,原出願の当初明細書又は図面に 「預託金額及び特殊コード6 ,の複数組合わせを記憶」する動作が 「対応する預託金額の支払」と同時,または ,それよりも前に行われる態様が記載又は示唆されていたとは認められないから,本件特許に係る特許請求の範囲第1項の「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し,(b)前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされとの規定が ステップ(a)の 記憶 する動作がステップ(b) ,」,「」の「支払」よりも前であることを限定したものであるか,あるいは,これと,ステップ(b)の「支払」を受けてからステップ(a)の「記憶」をする態様の双方を規定したものであるかについて判断するまでもなく,本件特許出願が分割出願の要件を満たさないことは明らかである。
2結論よって,取消事由2について判断するまでもなく,原告の主張は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 高野輝久