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関連審決 不服2003-11568
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  相違点の認定 /  周知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  先願発明との同一性 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  パリ条約 /  優先権 /  技術的意義 /  均等 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  相当期間 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 289号 審決取消請求事件
原告 トムソンライセンシング ソシエテ アノニム
同訴訟代理人弁理士 川上光治
同 田中 浩
被告 特許庁長官小川 洋
同指定代理人 杉山 務
同 橋本恵一
同 小曳満昭
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2003-11568号事件について平成16年2月23日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1,2項と同旨
事案の概要
1 本件は,アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき組織され存続する法人であり,アメリカ合衆国 ニュージャージー州 08540 プリンストン インデペンデンス・ウエイ 2に事務所を有する訴外アールシーエー トムソンライセンシング コーポレイション(以下「訴外会社」という。)が,その特許出願につきなされた拒絶査定を不服として審判の請求をしたところ,審判不成立の審決を受けたため,同審決後の平成16年(西暦2004年)6月21日に訴外会社から特許を受ける権利の譲渡を受けた原告が,同審決の取消しを求めた訴訟である。
2 特許庁における手続の経緯(証拠を掲記した箇所以外は当事者間に争いがない。) (1) 訴外会社は,平成5年3月25日,発明の名称を「テレビジョン信号受信システム」とする発明につき特許出願(パリ条約による優先権主張平成4年3月26日,米国。平成5年特許願第92374号。以下「本件出願」という。)をし,平成12年3月17日付け及び平成14年3月26日付け各手続補正書(甲3,4)により本件出願の願書に添付された明細書の「特許請求の範囲」を補正した。
これに対し,特許庁は,平成15年3月18日,本件出願につきこれを拒絶すべき旨の査定をした。
(2) 訴外会社は,上記拒絶査定を不服として,平成15年6月23日,本件審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2003-11568号事件として審理した上,平成16年2月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年3月9日に訴外会社に送達された。
(3) 訴外会社は,本件審決後の平成16年6月21日,原告に対し,本件出願に係る特許を受ける権利を譲渡し,同年7月2日に特許庁長官にその旨を届け出た。原告は,同月3日,本件審決を不服として本訴を提起した。
3 平成12年3月17日付け及び平成14年3月26日付け各手続補正書(甲3,4)による補正後の請求項1(以下「本願請求項1」という。)に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨は,同補正後の明細書(甲2なし4。以下「本願明細書」という。)の「特許請求の範囲」に記載された,次のとおりのものである。
【請求項1】 中央画像領域を表す画像情報と,上下のバー領域に含まれ,所要の表示走査フォーマットで画像を組み立てるのを助ける補助情報とを有するテレビジョン信号を受信するシステムであって,上記画像情報を処理するための画像情報路と,上記補助情報を処理するための補助情報路と,上記画像情報路と補助情報路からの各出力信号を合成して出力信号を生成する手段と,ビデオ信号処理手段と,上記画像情報から動きを表す制御信号を取り出す手段と,上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に(a)画像に動きがある場合は上記合成手段からの上記出力信号を供給し,(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段と,を有し,上記システムのノイズ不感性を増強するために,上記制御信号は,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるものである,テレビジョン信号受信システム。
4 本件審決の理由の要旨 (1) 特願平3-8917号(特開平4-252688号。公開日・平成4年9月8日)の出願当初の明細書(甲5。以下「先願明細書」という。)又は図面には,名称を「走査変換回路」とする発明であって,「受像機側での走査変換のための補強情報を送信側より伝送するテレビジョン方式における受像機側処理回路において,静止画時には,補強信号を用いない走査変換を行い,動画時には,補強信号を用いた走査変換を行う」ようにしたもの(以下「先願発明」という。)が記載されている。
(2) 本願発明と先願発明とを対比すると,本願発明では,その対象装置を「中央画像領域を表す画像情報と,上下のバー領域に含まれ,所要の表示走査フォーマットで画像を組み立てるのを助ける補助情報とを有するテレビジョン信号を受信するシステム」としているところ,先願発明も,受像機側での走査変換のための補強情報(本願発明でいう補助情報に相当)を送信側から伝送するテレビジョン方式における受像機側処理回路を対象とするもので,特に,これをレターボックス方式のテレビジョン信号に適用した場合についてみると,本願発明でいう上記テレビジョン信号を受信するシステムと格別変わりがないものということができる。
また,本願発明でいう「上記画像情報を処理するための画像情報路」と「上記補助情報を処理するための補助情報路」について,先願発明も,フィールド内隣接走査線C,Dの平均値信号(C+D)/2を生成するとともに,補強信号Y(上記補強情報)を263H遅延器109で遅延調整して遅延補強信号Yを得ているのであるから,本願発明でいう上記画像情報路と補助情報路を有しているものといえ,また,本願発明でいう「上記画像情報路と補助情報路からの各出力信号を合成して出力信号を生成する手段」,「ビデオ処理手段」,「上記画像情報から動きを表す制御信号を取り出す手段」について,これらはそれぞれ先願発明における加算器110(上記平均値信号(C+D)/2と補強信号Yとの加算手段),倍速変換器114(順次走査出力を得る手段),減算器111と2値化器112(動き情報としてフレーム間差信号を求めこれを2値化して切り替え器制御信号を得る手段)と格別変わりがないものである。
さらに,本願発明でいう「上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に(a)画像に動きがある場合は上記合成手段からの上記出力信号を供給し,(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」について,先願発明でも,上記切り替え器制御信号により,上記動画時の補間信号(上記加算器110の出力)と静止画時の補間信号とを切り替え器113で切り替え,その切り替え出力を倍速変換器114に通すことにより順次走査出力を得ているのであるから,先願発明も本願発明でいう上記手段を備えているといえる。
そうすると,本願発明と先願発明とは,前者が「上記システムのノイズ不感性を増強するために,上記制御信号は,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるものである」点を要件としているのに対し,後者はそのような要件を開示するものではない点で一応相違するものの,他に格別の違いはないものと認められる。 (3) そこで以下,上記一応の相違点について検討すると,同相違点に関し,特開平2-222283号公報(甲6。以下「文献1」という。)には,テレビジョン画像の動き検出回路において,テレビジョン信号の高域成分を除いた低域成分から画像の動きを検出するようにし,これにより高域成分に重畳されたノイズの影響を受けずに画像の動きを検出できるようにすることが記載され(3頁右下欄下から3行目〜4頁右上欄5行目,及び第2図),特開昭62-51390号公報(甲7。以下「文献2」という。)には,MUSE方式テレビジョン信号のデコーダで用いる動き検出回路において,画像データ(サブサンプル・フィルタ16,2次元フィルタ17と18からそれぞれ出力される現フレームのデータ,現フレームと1フレーム前のデータ,1フレーム前と2フレーム前のデータ)の低域成分から画像の動きを検出するようになすことが記載されている(第2図とその説明,特に2頁右下欄4〜6行目)。
また,特開昭63-197184号公報(甲8。以下「文献3」という。)には,MUSE方式テレビジョン信号の復調系で用いる画像の動き検出回路において,ローパスフィルタを経た入力映像信号から画像の動きを検出するようになすことが記載されており(第1図とその説明,特に3頁右下欄下から4行目〜4頁左上欄8行目),これら文献1ないし3の記載によれば,画像情報の低域成分から画像の動きを検出する(結果としてノイズ等の不要信号成分に対する不感性が増強される)ようにした動き検出手法は,画像情報から画像の動きを検出する上での周知手法というべきものと認められ,かかる動き検出手法は本願発明でいう上記相違点に係る要件と格別変わりがないものである。
先願発明では,前記したように,画像情報からの画像の動き検出を行ってはいるが,そのために上記のような動き検出手法を採用することについては開示がなく,むしろ図4に例示された構成では,画像情報そのもの(高域成分をも含む画像情報)から動き検出を行うようになされている。
しかしながら,先願発明は,先願明細書記載の趣旨に照らすと,画像の動きを特に上記画像情報そのものから検出することを必須の要件とするものではなく,動き検出手法として種々の手法を採用し得るものであることが明らかであり,先願発明でもその一実施態様として適宜上記周知の動き検出手法を採用し得,特にこれを排除するものではないと解するのが相当である。 そうすると,上記相違点に係る本願発明の要件は,先願発明で採用し得る種々の動き検出手法を上記周知の動き検出手法に特定したというにすぎないものというべきであるから,かかる特定において本願発明が先願発明とは異なる別の発明であるとすることはできない。 (4) 以上のとおりであるから,本願発明は先願発明と同一であり,かつ,本願発明の発明者及び出願人が先願発明の発明者及び出願人と同一でもないことが認められ,したがって,本願発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 本件審決は,ア.本願発明と先願発明との一致点,相違点の認定を誤り,また,イ.相違点についての判断を誤り,その結果,本願発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとしたものであり,その誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点,相違点の認定の誤り) (1) 本件審決は,先願発明が,本願発明の「上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に(a)画像に動きがある場合は上記合成手段からの上記出力信号を供給し,(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」を備えていると認定しているが,先願明細書には,先願発明が「上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に・・・(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」を備えることについては何ら記載されておらず,本件審決の上記認定は誤りである。
すなわち, ア 本願発明では,画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給するが,先願発明では,画像に動きがない場合は前後のフィールド間の対応走査線の平均値に基づく補間を行って補間走査線を生成する。したがって,この点に関して,本願発明と先願発明は相違する。その結果,先願発明では,例えば,画像の再構成のために2フィールド分のフィールドメモリを必要とするが,本願発明では,1フィールド分のフィールドメモリで十分である。
本願発明の「繰り返された画像情報を供給する手段」は,本願発明の実施例における「フィールド繰り返しルミナンス情報」を供給するユニット38を上位概念で表現したものである。先願発明の,前後のフィールド間の対応走査線の平均値に基づく補間を行って補間走査線を生成する点を,上位概念で表現すると,先願発明は画像情報間の平均値を供給するものといえる。本願発明の「繰り返された画像情報を供給する手段」と,先願発明の画像情報間の平均値を供給する点とを比較すると,両者は,文言上だけでなく技術的にも相違することは明らかである。
イ 本願発明の「上記取り出された制御信号」は,「高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるもの」なのであるから,「上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に(a)画像に動きがある場合は上記合成手段からの上記出力信号を供給し,(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」は,正確には,「高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出される制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に(a)画像に動きがある場合は上記合成手段からの上記出力信号を供給し,(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」を意味する。このような手段は,先願明細書には記載されていない。したがって,この点に関しても,本願発明と先願発明は相違する。
(2) 次に,被告は,仮に,本願発明でいう「繰り返された画像情報を供給する手段」を,「単一フィールドの画像情報を供給するもの(本願実施例のような構成)」に限定して解釈することができたとしても,原告主張の点が格別の相違点でないと主張し,その理由として,先願発明も,前後の2つのフィールドの画像情報の平均値を供給する構成を必須の構成としているわけではないのであり,先願発明に接した当業者は,その目的を達成し得る構成として,「繰り返された画像情報として単一フィールドの画像情報を供給する構成(本願実施例のような構成)」をも直ちに想起し得るからであると主張している。
しかし,先願発明の必須の構成とは,単に先願明細書の特許請求の範囲に記載された構成であり,先願の出願人が先願発明の特徴点であると判断した構成であるというだけであって,先願発明の画像情報間の平均値を供給する点が先願発明の先願特許請求の範囲に記載されていないということは,それが先願発明の特徴点でないということにすぎない。被告は,先願発明に接した当業者は,その目的を達成し得る構成として,「繰り返された画像情報として単一フィールドの画像情報を供給する構成(本願発明の実施例のような構成)」をも直ちに想起し得ると主張しているが,その主張には根拠がなく,本願発明から得た知識に基づいて事後的にかつ主観的に主張しているにすぎない。
2 取消事由2(一応の相違点についての判断の誤り) 本件審決の「上記相違点に係る先願発明の要件は,先願発明で採用し得る種々の動き検出手法を上記周知の動き検出手法に特定したというにすぎないものというべきものであるから,かかる特定において本願発明が先願発明とは異なる別の発明であるとすることはできない」という判断は誤りであり,本願発明が,先願発明とは異なる別の発明であることは明らかである。
(1) 文献1ないし3に記載の技術事項についての認定誤り ア 文献2及び3には,画像の動き検出において,高周波数画像情報より高い周波数成分を除去するローパスフィルタを介して不要成分を除去した画像情報から動きを検出する方法が記載されているといえるが,画像情報の動きを高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から検出する手法は開示されていない。
本件審決は,「文献1ないし3の記載によれば,画像情報の低域成分から画像の動きを検出する・・・ようにした動き検出手法は,画像情報から画像の動きを検出する上での周知手法というべきものと認められ」ると認定しているが,この認定は誤りである。文献1ないし3からは,画像の動き検出において,高周波数画像情報より高い周波数成分を除去するローパスフィルタを介して不要成分を除去した画像情報から動き検出を行うことが周知であるといえるにとどまる。
イ 本件審決は,文献1に関して,文献1記載の画像の動き検出に関する一部分の記載のみを引用して,「テレビジョン信号の高域成分を除いた低域成分から画像の動きを検出するようにし,これにより高域成分に重畳されたノイズの影響を受けずに画像の動きを検出できるようにすることが記載されている」と認定しているが,文献1に記載のテレビジョン信号には,本願発明のような,上下のバー領域に含まれ,所要の表示走査フォーマットで画像を組立てるのを助ける補助情報が含まれていない。したがって,文献1に記載の発明では補助情報がノイズによって崩れるという問題は生じない。
文献1記載の発明では,補助情報を用いて表示画像の画質を向上させることがないので,ノイズによって崩れた補助情報を用いると表示画像の画質が向上するか又は逆に低下するかといったことを考慮する必要はなく,単純に輝度信号の低域部成分の動きに応じてフレーム間補間またはフィールド内補間のみによる走査変換を行うものである。したがって,本願発明と異なり,文献1記載の発明には,輝度信号の低域部成分の動きに応じて補助情報を用いて表示画像の画質を向上させるという技術思想はない。
文献2及び3に記載のテレビジョン信号にも,本願発明のような,上下のバー領域に含まれ,所要の表示走査フォーマットで画像を組立てるのを助ける補助情報が含まれておらず,文献2及び3に記載の発明では補助情報がノイズによって崩れるという問題は生じない。したがって,文献2及び3記載の発明においても,輝度信号の低域部成分の動きに応じて補助情報を用いて表示画像の画質を向上させるという技術思想はない。
したがって,仮に,画像情報の低域成分のみから画像の動きを検出するようにした動き検出手法が周知であるとしても,その手法は,先願発明の画像の動き検出手法とは均等なものではない。
(2) 本件審決は,「先願発明は,先願明細書記載の趣旨に照らすと,画像の動きを特に上記画像情報そのものから検出することを必須の要件とするものではない」と判断しているが誤りである。先願発明では,既に追加的なノイズ対策が施されているから,先願発明に文献1記載のノイズ対策を施すことは考えられない。
先願発明では,追加的なノイズ対策として,低周波数信号と高周波数信号を含む伝送信号のノイズを積極的に検出して,伝送信号にノイズが検出されたときは,動画時には補強信号を用いてフィールド内補間の走査信号を選択し,静止画時には補強信号を用いずにフレーム間補間の走査信号を選択するか,又は,動画時か又は静止画時かに関係なく,補強信号を用いずにフレーム間補間の走査信号を選択し,一方,ノイズが検出されないときは,動画時か又は静止画時かに関係なく,補強信号を用いてフィールド内補間の走査信号を選択する構成が採用されている。したがって,先願発明では,高周波数信号にノイズが多くかつ静止画であるときは,ノイズが検出されて,補強信号を用いない補間走査信号が選択され,一方,高周波数信号にノイズが多くかつ動画であるときは,ノイズが検出されて,補強信号を用いた補間走査信号が選択されるか又は補強信号を用いない補間走査信号が選択される。このように,先願発明では,既に追加的なノイズ対策を施し,伝送信号がノイズを含んでいるか又は動きを含んでいるのかを区別できるようになっており,それとは別途にノイズ対策を施すことは考えられない。仮に,先願発明に文献1のノイズ対策を加えるとすると,それは先願発明の内容とは異なった別の発明になる。
先願発明において,仮に,ノイズを検出せずに画像の動き検出を低周波数信号のみから行うとすると,ノイズがなくかつ動画であるときにも,画像の動き検出手段が動画を静止画と誤認し,静止画時と同様に補強信号を用いずにフレーム間補間の走査信号を生成する場合があるので,動画時の画質が低下するという欠点が生じると常識的には考えられる。したがって,先願発明において,ノイズ検出器を設けることが記載されているにもかかわらず,ノイズを検出せずに画像の動き検出を低周波数画像信号のみから行うことは,常識的には考えられず,先願発明の技術思想との間に一貫性がない。先願発明において,高周波数のノイズの影響をなくすのであれば,むしろ,ノイズ検出器401の前に周波数フィルタを設けて伝送信号の高周波数ノイズを積極的に検出し,高周波数信号と低周波数信号を含む主信号から漏れなく動きを検出し,その高周波数ノイズの検出の結果と,その動きの検出の結果とに応じて,補強信号を用いてフィールド内のライン間内挿による補間を行い,又は,補強信号を用いずにフレーム間内挿による補間を行うと考えるのが自然である。
(3) 本件審決は,「動き検出手法として種々の手法を採用し得るものであることが明らかであり,先願発明でもその一実施態様として適宜上記周知の動き検出手法を採用し得,先願発明でもその一実施態様として適宜上記周知の動き検出手法を採用することを特に排除するものではない」と判断している。 しかし,低周波数画像情報のみから動きを検出する手法が周知技術ではないことは既に述べたとおりである。また,仮に,その手法が周知であったとしても,その手法は,先願発明の画像の動き検出手法の均等手段ではなく,後記のとおり,先願発明においてそのような手法を組み合わせて用いることは,先願発明の技術的思想との間に一貫性がない。したがって,先願発明において,一実施態様として適宜採用し得るものではない。
(4) 本件審決の相違点についての判断は,本願発明の知識に基づいて,先願発明及び文献1を事後的に分析し,本願発明の知識に基づいて,発明の技術的思想を構成する追加的なノイズ対策の部分を切り離して,先願発明のうちの一部の構成に,先願発明の画像の動き検出手法の均等手段ではない,文献1中の低周波数画像情報のみから動きを検出する手法を追加的なノイズ対策として組み合わせるという,高度の創意工夫によって得られた発想に基づいており,本願発明の知識なしでは,そのような発想が得られないことは明らかである。
先願明細書に追加的なノイズ対策を施した構成が記載されているにもかかわらず,先願明細書に,追加的ノイズ対策として,先願発明の手法とは異なる文献1の低域部成分から動きを検出する手法を,先願発明の一部の構成と組み合わせることが記載されているかのように扱うことは,先願発明と組み合わせることが不自然な,先願明細書に記載されていない文献1の技術的事項までも,先願明細書に記載されているものとして扱うことになる。そのような扱いは,特許法第29条の2の規定の趣旨に反する。
公知でない先願発明に,文献1を組み合わせて本願発明に到達するには,先願発明の技術的思想との整合性を無視して,先願明細書に記載の構成のうちの,伝送信号のノイズを検出して,その検出結果に応じて補間走査信号を選択する手法を除外して,ノイズと動きを区別できないようにし,先願明細書に記載の構成のうちの,高周波数及び低周波数の主信号の動きを検出して動画時には補強信号を用いてフィールド内補間の走査信号を選択し,静止画時には補強信号を用いずにフレーム間補間の走査信号を選択する部分に,低周波数の主信号の動きのみに応じて補強信号を用いて表示画像の画質を向上させる可能性を高めるために,その高周波数の主信号の動きを検出しないことによって生じる画質の低下の可能性を甘受しつつ,先願発明の画像の動き検出手法と均等手段ではない文献1に記載の主信号の低周波数画像領域だけから動きを検出する手法を,追加的なノイズ対策として組合せ,先願明細書に記載の構成のうち,補強信号を用いずにフレーム間のラインの平均値を用いる補間走査信号を用いる構成を,繰り返された画像情報を供給する構成に変更するという創作を行う必要があり,このような創作は,高度の創意工夫なしでは行えない。まして,本願発明が,先願明細書に記載された発明と同一でないことは明らかである。
(被告の反論) 原告の主張はいずれも理由がなく,本審決の認定ないし判断に誤りはない。
1 取消事由1(一致点,相違点の認定の誤り)について (1) 原告の取消事由1の主張は,「本願発明でいう「繰り返された画像情報を供給する手段」は,単一フィールドの情報を供給するもの(本願発明の実施例のような構成)に限定される」ということを前提にしているものと考えられるが,その前提が誤っている。
本願請求項1には,「繰り返された画像情報を供給する手段」が単一フィールドの画像情報を供給するものである旨の限定はないのであるから,該「繰り返された画像情報を供給する手段」には,先願発明の実施例のように繰り返された前後のフィールド間の対応走査線の平均値に基づく補間を行って補間走査線を生成し,供給するものも当然に含まれるというべきであり,「画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」を具備する点を本願発明と先願発明の一致点とした本件審決の認定に誤りはない。
(2) 仮に,本願発明でいう「繰り返された画像情報を供給する手段」を,「単一フィールドの画像情報を供給するもの(本願発明の実施例のような構成)」に限定して解釈することができたとしても,原告主張の点が格別の相違でないことには変わりがない。なぜならば,先願発明も,前後の2つのフィールドの画像情報の平均値を供給する構成を必須の構成としているわけではないのであり,先願発明に接した当業者は,その目的を達成し得る構成として,「繰り返された画像情報として単一フィールドの画像情報を供給する構成(本願発明の実施例のような構成)」をも直ちに想起し得るからである。
2 取消事由2(一応の相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,@文献2及び3には低周波数画像情報のみから動きを検出する手法は開示されておらず,該手法は周知ではないと主張し,また,A文献1ないし3に記載の発明には,輝度信号の低域成分の動きに応じて補助信号を用いて表示画面の画質を向上させるという技術思想はないと主張しているが,この点に関する原告の主張が失当であることは,次に述べるとおりである。
ア 原告の上記主張@について (ア) 文献2ではフィルタ16はその出力から動画用画像信号が生成され,フィルタ17,18はその出力から静止画用画像信号が生成されているのであるから(2頁左下欄下から5行目〜同頁右下欄3行目),これらフィルタ16ないし18は原告主張のとおり低周波数画像情報を生成するものではないが,文献2には,動き検出回路22が「各フィルタ16,17,18の低域成分から1フレーム間または2フレーム間の動き量を検出する」ものであるとの記載があり(2頁右下欄4〜6行目),同記載からすると,文献2では,上記フィルタ16ないし18の出力,すなわち画像情報中の低域成分(高周波数画像情報を含まない低周波数画像情報)から動きの検出を行うようにしていることは明らかである。
(イ) また,文献3での低域濾波は,確かにその技術的意義について特段の説明がないから,原告主張のように,画像情報以外の高域ノイズを除去するだけのものである場合がないとはいえないが,画像情報を低域濾波するものである以上,特段の説明がない限り,高周波数画像情報を含まない低周波数画像情報を得る通常の低域濾波を行うものと解するのが相当である。
(ウ) 本件審決が,文献1ないし3を引用した趣旨は,文献1には,「テレビジョン画像の動き検出回路において,テレビジョン信号の高域成分を除いた低域成分から画像の動きを検出するようにし,これにより高域成分に重畳されたノイズの影響を受けずに画像の動きを検出できるようにすること」が開示されているということであり,文献2には,「MUSE方式テレビジョン信号のデコーダで用いる動き検出回路において,画像データ(サブサンプル・フィルタ16,2次元フィルタ17と18からそれぞれ出力される現フレームのデータ,現フレームと1フレーム前のデータ,1フレーム前と2フレーム前のデータ)の低域成分から画像の動きを検出するようになすこと」が開示されているということであり,文献3には,「MUSE方式テレビジョン信号の復調系で用いる画像の動き検出回路において,ローパスフィルタを経た入力映像信号から画像の動きを検出するようになすこと」が開示されているということである。 本件審決は,「これら文献1ないし3の記載によれば,画像情報の低域成分から画像の動きを検出する(結果としてノイズ等の不要信号成分に対する不感性が増強される)ようにした動き検出手法は,画像情報から画像の動きを検出する上での周知手法というべきものと認められ」と判断したものであり,この判断に誤りはない。
イ 原告の上記主張Aについて 文献1ないし3が開示する画像の動き検出技術は,確かに本願発明のような補助情報を利用する走査変換を前提とするものではないが,画像の動き検出技術自体は,その前提が本願発明のような補助情報を利用する走査変換であるか否かによって格別異なる技術的意義を有するものではなく,動き適応制御を行う上で共通の技術であることは明らかであるから,上記各文献の開示から動き検出技術の一般的技術水準を判断し,本願発明と先願発明との同一性を論ずることが誤りであるとはいえない。
(2) 原告は,先願発明では,既に追加的なノイズ対策が施されているから,先願発明に文献1に記載のノイズ対策を施すことは考えられないと主張しているが,この主張は,先願発明がノイズを検出して処理を切り替えるものであることを前提としている。
しかしながら,先願明細書には,「ノイズを検出して,処理を切り替えることも可能である。」との記載等からも明らかなように,ノイズ検出をしない発明も記載されており(【請求項1】,段落【0016】),本件審決は,そのような発明を先願発明として認定しているものである。したがって,原告の上記主張は,その前提において失当である。
また,仮に,先願発明としてノイズ検出の構成を具備したものを想定した場合であっても,本件審決の結論は変わらない。なぜならば,本願発明は「ノイズを検出した上で,SNRが悪い時のみ動き適応処理を行うもの」を排除してしていないところ,先願明細書には,ノイズを検出した上で,SNRが悪い時のみ動き適応処理を行うことも記載されており(段落【0016】,段落【0018】等),その場合の動き適応処理のための動き検出にも,「輝度信号の低域成分から動きを検出する」という周知技術は,当然に利用可能だからである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点,相違点の認定の誤り)について (1) 原告は,本願発明では,画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給するのに対し,先願発明では,画像に動きがない場合は前後のフィールド間の対応走査線の平均値に基づく補間を行って補間走査線を生成する点で,両発明は相違すると主張する。
ア そこで,検討するに,先願発明が,画像に動きがない場合は前後のフィールド間の対応走査線の平均値に基づく補間を行って補間走査線を生成するものであること,先願発明の「倍速変換器114」が,本願発明の「ビデオ信号処理手段」に対応するものであることについては,当事者間に争いはない。
イ 本願請求項1には,「・・・上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に(a)画像に動きがある場合は上記合成手段からの上記出力信号を供給し,(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段と,を有し,上記システムのノイズ不感性を増強するために,上記制御信号は,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるものである,・・・」と記載されており,また,本願明細書の「発明の詳細な説明」欄には,「画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する」ことについて,次の記載がある。
(ア) 「【発明の概要】・・・画像に動きが含まれている場合には,画像情 報と補助情報は組み合わされてビデオプロセッサに送られる。動きがない場合には,他の画像情報,例えば,フィールド繰り返し画像情報がビデオプロセッサに送られる。ビデオプロセッサに送られる情報は,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報を検出する動き検出器からの制御信号によって決められる。」(段落【0008】) (イ) 「「ソフト」スイッチ42は,その一方の入力にユニット40からのルミナンス画像情報を受け,別の入力にユニット38からのフィールド繰り返しルミナンス情報を受け取る。ユニット38は,フィールド記憶メモリ装置を含むものを用いることができる。ユニット38は,失われた線が前のフィールドから,繰り返しの形で得られるルミナンス情報を含む出力信号を生成する。従って,ユニット38からの出力信号は,順に,その時のフィールドからの線情報,それに続いてその前のフィールドからの線情報,等々と続く線情報を含んでいる。スイッチ42の動作は動き検出器45からの制御信号によって制御される。」(段落【0019】) (ウ) 「・・・制御信号の一方の極限値は動きのある画像を表し,その場合は,その時のフィールドの再構成された順次走査ルミナンス信号がスイッチ42の出力に現れる。制御信号の他方の極限値は動きのない画像を表し,この場合は,ユニット38からの出力信号がスイッチ42の出力に現れる。これらの両極限値の間の中間の値により,合成されたルミナンス信号またはフィールド繰り返しルミナンス信号の所定部分がスイッチ42の出力に現れるようにされる。・・・」(段落【0020】) ウ 上記イ認定の本願明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載を参照すれば,本願発明にいう「画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する」とは,画像に動きがない場合には,その時のフィールドからの線情報と,その前のフィールドからの線情報等に基づいて該前のフィールドからの線情報等を含む画像情報を生成し供給することを意味するものであり,したがって,本願発明にいう「繰り返された画像情報」とは,少なくとも「前のフィールドからの情報」を要素として含む画像情報というにとどまるものであり,上記「繰り返された画像情報」について,これをその時のフィールドからの情報に「前のフィールドの情報」のみが付加された画像情報に限定されると解する根拠はないというべきである。
そうすると,前記ア記載のとおり,先願発明でも,画像に動きがない場合には,「前のフィールドの情報」をも用いて補間走査線を生成しているのであり,その「前のフィールドの情報」を含む画像情報が,「倍速変換器114」(本願発明の「ビデオ信号処理手段」に対応)に供給されているのであるから,本願発明の「画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する」構成を,先願発明が有していることは明らかである。
したがって,「画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」を具備する点を本願発明と先願発明の一致点とした本件審決の認定に誤りがあるということはできない。
(2) 原告は,「上記取り出された制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に・・・(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」は,正確には,「高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出される制御信号に応答して,上記ビデオ信号処理手段に・・・(b)画像に動きがない場合は繰り返された画像情報を供給する手段」を意味するところ,このような手段は,先願明細書には記載されていないから,この点に関しても,本願発明と先願発明は相違すると主張する。
しかしながら,原告主張の上記相違点は,結局のところ,本願発明では,上記制御信号が,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるものであるのに対し,先願発明では,同様の制御信号についてそのような構成が要件とされていないという点に帰着するというべきところ,この点は既に本件審決が一応の相違点として取り上げ,その一応の相違点が実質的にも相違点といえるか否かについて判断を示しているところである(前記第2の4)。
したがって,本件審決に,原告主張の上記相違点を看過した誤りがあるということはできない。
(3) 以上のとおり,本件審決の一致点,相違点の認定に誤りがあるということはできない。
2 取消事由2(一応の相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,@文献2及び3には低周波数画像情報のみから動きを検出する手法は開示されておらず,該手法は周知ではないと主張し,また,A文献1ないし3に記載の発明には,輝度信号の低域成分の動きに応じて補助信号を用いて表示画面の画質を向上させるという技術思想はないと主張するので,以下検討する。
ア 本願発明の低周波数画像情報について (ア) 本願明細書には,制御信号が,「高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるものである」ことについて,次の記載がある。
a 「・・・上記制御信号は,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報から取り出されるものである,・・・」(【請求項1】) b 「【発明の概要】・・・ビデオプロセッサに送られる情報は,高周波数画像情報を実質的に含まない低周波数画像情報を検出する動き検出器からの制御信号によって決められる。」(段落【0008】) c 「例示した実施例においては,受信テレビジョン信号は,画像領域と圧縮された形の補助情報を含んでいる上下バー領域とを有する郵便受けフォーマットの信号である。この補助情報は順次走査画像の生成を助け,また制御信号は低域通過濾波された分離されたルミナンス成分から取り出される。」(段落【0009】) d 「動き検出器45は,クロミナンス情報を含む高周波数情報を除いて,低周波数ルミナンス信号YL(約0〜1.4MHz)に伴う低周波数画像情報を感知して,画像の動きがあるかないかを検出する。信号YLは分離されたルミナンス成分から水平低域通過フィルタ(水平LPF)34によって取り出される。・・・フィルタ34の遮断周波数は,ノイズの効果を減じるための特定のシステムに必要とされる場合はそれに応じて低くしたり,あるいは,例えば,4.0MHzまで高くすることができる。」(段落【0020】) e 「以上説明したシステムは,順次走査ルミナンス信号の再構成がノイズによる悪影響を受けるという可能性を減じる効果を持つ。ノイズがあると,動き検出器は動き,特に静止画像領域中の動きの存在を誤って表示してしまう可能性がある。動き検出器45によって低周波数ルミナンス情報を検出するようにすることにより,動き検出器45がノイズによる影響を受けて,動きを誤って表示したり,スイッチ42が,ノイズによる汚染を受けている可能性のあるヘルパ信号を含む合成器40からの出力信号を出力してしまうというようなことが減少する。また,ここに開示した検出構成は,ノイズに似ているようなクロミナンス情報によって,特に静止画像がある時に,動き検出器45から誤った出力が生成される可能性を減じるという効果もある。」(段落【0021】) (イ) 上記(ア)認定の本願明細書の記載によれば,本願発明の「高周波数画像 情報を実質的に含まない低周波数画像情報」とは,ノイズの効果を減じるための特定のシステムに必要とされる場合に,それに応じて最高で4.0MHz以下の周波数を含む情報を想定しているものと解される。
イ 文献1に記載の技術事項について (ア) 文献1には,以下の記載がある。
a 「この発明は,例えば,インターレース方式テレビジョン信号を画像の動きに応じたライン補間によりノンインターレース方式のテレビジョン信号に変換する動き適応順次走査変換回路において,画像の動き量を検出する動き検出回路及びこの動き検出回路の検出出力に従ってライン補間用の補間信号を生成する補間信号生成回路に関する。」(2頁左下欄7〜13行) b 「この発明は,小さいメモリ容量で動き検出を行なうことが可能で,かつ,受信S/Nが低下してもノイズによって動き検出が誤動作することを防止可能な動き検出回路及び補間信号生成回路を提供することを目的とする。」(4頁左上欄4〜8行) c 「また,フレーム間差を求めるのに水平方向の高域部に位置する成分(以下,高域部成分と記す)を使わないので,動き検出動作がこの高域部に重畳されたノイズ成分の影響を受けることがない。これにより,受信S/Nが低下しても,動き検出動作の誤動作を少なくすることができる。」(4頁左上欄20行〜同頁右上欄5行) d 「輝度信号Yは,例えば,メモリから成るフィールド遅延回路32により・・・遅延される。この遅延出力はローパスフィルタ(以下,LPFと記す)と減算回路34から成る分離回路により,低域部成分と高域部成分に分離される。第2図にLPF33から出力される低域部成分(図中,斜線を付す)と減算回路34から出力される高域部成分の空間周波数を示す。」(4頁右上欄20行〜同頁左下欄7行) e 「これにより,減算回路42には,現フレームFaの低域部成分とこれより1フレーム分前のフィールドFcの低域部成分が供給される。減算回路42はこれら2つの入力信号を減算処理することにより,画像の動き量を示すフレーム間差分信号を得る。」(5頁左上欄9〜14行) f 「以上述べたように,この実施例は,輝度信号Yの低域部成分のみを使って,フレーム間差分信号を得ることにより,画像の動き量を検出するようにしたものである。」(5頁左下欄3〜6行) g 「このような構成によれば,動き検出回路をこの実施例のように補間信号発生回路の動き検出回路として構成し,この補間信号発生回路との間で遅延用のメモリを共用する場合であっても,少なくとも1フィールド分の遅延に関しては,低域部成分だけ遅延すればよいので,従来に比べメモリ容量を大幅に削減することができる。具体的には,低域部成分として先の第2図に示す2MHz以下の成分を用いる場合,メモリ容量を従来の3/4に削減することができる。」(5頁左下欄7〜16行) h 「また,上記のような構成によれば,第2図の高域部(斜線以外の部分)に存在するノイズの影響を受けることなく,画像の動き量を検出することができるので,受信S/Nが低下しても,動き検出動作が誤動作することを極力防止することができる。さらに,水平方向の同期信号にゆらぎ(ジッタ)が存在する場合,水平方向の高域部成分を有する画像は,従来のように,全帯域で動き検出を行なうと,第3図に示すように,誤検出される可能性があるが,上記のように低域部成分のみを用いて動き検出を行なう場合は,第4図に示すように,動き検出の誤検出がなくなる。」(5頁左下欄20行〜同頁右下欄12行) (イ) 上記認定の文献1の記載によれば,文献1には,2MHzより高い周波数の成分を除去するローパスフィルタを介して,高域部成分を除去した低域部成分の画像情報から,動き検出を行うことが開示されているということができる。
ウ 文献2及び3に記載の技術事項について (ア) 文献2には,MUSE方式テレビジョン信号のデコーダに関して,次 の記載がある。
a 「本発明は,帯域圧縮された高品位テレビ信号を元の広帯域なテレビ信号にデコードするテレビ受像機の信号処理回路に係り,特にこのテレビ受像機に好適なフリーズ機能を設けるに適した信号処理回路に関する。」(1頁右下欄8〜12行) b 「第2図に,このミューズ方式により帯域圧縮された高品位テレビ信号(以後 ミューズ信号と記す。)を元の広帯域な高品位テレビ信号に戻す受像機のデコーダ部分の構成を示す。このデコーダの特徴は,1フレーム前の信号と現フィールド信号を交互に記憶して1フィールド遅延させるフィールドメモリ14,15及び1フレーム前の信号と現フィールドの信号を画像の動きに応じて内挿した信号を1フィールド遅延させるフィールドメモリ24を用いて,4フィールド分の画像を内挿することにより,元の広帯域なテレビ信号に戻していることである。以下,このデコーダについて説明する。」(2頁左上欄6〜18行) c 「第1と第2のスイッチ回路12,13は,入力端子7から与えられるサブサンプルクロックでスイッチングされ,第1のフィールドメモリ14,サブサンプルフィルタ16及び第1の2次元フィルタ17に,NR回路11から供給される現ミューズ信号と,第2のフィールドメモリ15から供給される1フレーム前の信号を交互に出力する。また,第2のフィールドメモリ15には,第1のフィールドメモリ14からの現ミューズ信号に対して1フィールド前と3フィールド前の信号が,交互に入力される。さらに第2フィールドメモリ15では,ミューズ信号に入力端子8からの動きベクトル信号により動き補正が施される。サブサンプルフィルタ16に導かれた信号は,ここでサブサンプルクロックにより現ミューズ信号のみが取り出され,フィルタ処理される。また,第1の2次元フィルタ17に導かれた現ミューズ信号と1フレーム前の信号に対し,ここで垂直と水平の2次元フィルタ処理が施される。同様に,第2のフィールドメモリ15から2次元フィルタ18に供給された1フレーム前と2フレーム前の信号は,ここで,2次元フィルタ処理される。19は,低域通過型フィルタ(以下,LPFと記す。)であり,サブサンプルフィルタ16からの現ミューズ信号に水平方向のフィルタ処理を施し,動画用の信号として混合器21に導く。一方,20は低域通過フィルタからなる準静止処理回路であり,第1,第2の2次元フィルタ17,18からの信号を用いて静止画処理を施し,静止画用の信号として混合器21に導く。混合器21では各フィルタ16,17,18の低域成分から1フレーム間または2フレーム間の動き量を検出する動き検出回路22と,この動き量をテンポラルに引き伸ばすテンポラルフィルタ23からの動き量信号により,上記の動画処理された信号と静止画処理された信号の混合比が定められる。すなわち,動き適応処理が施される。
25は内挿フィルタであり,混合器21からの動き適応処理された信号と,第3のフィールドメモリ24からの1フィールド前の信号とをフィールド内挿し,ここで元の広帯域な信号を発生する。」(2頁右上欄13行〜同頁右下欄14行) (イ) 文献3には,MUSE方式テレビジョン信号の復調系に関して,次の記載がある。
a 「高品位テレビ信号を12GHz帯の衛星放送で放送可能にするMUSE・・・方式が提案されている・・・。MUSE方式では,連続する4フィールドの画面をフィールド毎に位置を変えて1/4に画素を間引いて伝送することで帯域を1/4に圧縮する(第6図)。同図において,×は伝送されない画素を示し,この伝送されない画素は,受信側で,動き補正及び動き検出を伴った時間及び空間的な補間により再現される。すなわち,MUSE方式では,動きのある部分では4フィールドの重ね合わせでは不自然な画像となるので,動き領域ではその時に送られてくる1フィールド分のデータのみを使用して画像の復元を行なう。従って,受信側で,画面内の各位置において動き領域があるか否かの判定を行なわなければならない(動き検出)。」(2頁左上欄3行〜同頁右上欄1行) b 「以下,本発明の実施例を図に基づいて詳細に説明する。・・・本発明による動き検出回路5において,LPF(ローパスフィルタ)50を経た現信号とフレームメモリ51で1フレーム相当期間だけ遅延されかつLPF52を経た1フレーム前の信号との差分が減算器53でとられ,更に絶対値回路54で正値化されることによって1フレーム差分信号となる。また,LPF50を経た現信号とフレームメモリ51及び55で2フレーム相当期間だけ遅延されかつLPF56を経た2フレーム前の信号との差分が減算器57でとられ,更に絶対値回路58で正値化されることによって2フレーム差分信号となる。2フレーム差信号は最大値選択回路59の一入力となるとともに,フレームメモリ60で1フレーム相当期間だけ遅延されて最大値選択回路59の他入力となる。最大値選択回路59は2入力のうち信号レベルの大きい方を選択し,次段の最小値選択回路の一入力とする。最小値選択回路61の他入力としては1フレーム差分信号が供給され,最小値選択回路61は2入力のうち信号レベルの小さい方を選択し,これを動き情報として混合回路6に供給する。」(3頁左下欄7行〜4頁左上欄18行) (ウ) 上記(ア)及び(イ)認定の文献2及び3の記載によれば,文献2には,MUSE方式テレビジョン信号のデコーダで用いる動き検出回路において,サブサンプル・フィルタ16,2次元フィルタ17,18からそれぞれ出力される現フレームのデータ,現フレームと1フレーム前のデータ,1フレーム前と2フレーム前のデータの低域成分から画像の動きを検出するようになすことが記載され,また,文献3には,MUSE方式テレビジョン信号の復調系で用いる画像の動き検出回路において,ローパスフィルタを経た入力映像信号から画像の動きを検出するようになすことが記載されているものと認められる。
要するに,文献2及び3には,画像の動き検出において,高周波数画像情報より高い周波数の成分を除去するローパスフィルタを介して,不要成分を除去した画像情報から動き検出を行う技術事項が開示されており,このことは本件出願当時において当業者に周知の事柄であったと認められる(このことは,原告も自認するところである)。
そして,高周波数画像情報の周波数成分を含め,どの程度の高周波数成分から不要成分とするかは,本願明細書にも,「フィルタ34の遮断周波数は,ノイズの効果を減じるための特定のシステムに必要とされる場合はそれに応じて低くしたり,あるいは,例えば,4.0MHzまで高くすることができる。」(段落【0020】)と記載されているように,除去するノイズの周波数成分を考慮して,適宜決めればよい技術的な設計事項にすぎない。画像の動き検出において,この判断が妥当であることは,文献1に,本願発明の遮断周波数として許容されている4MHzよりも低い周波数の2MHzで,不要成分を除去した画像情報から動き検出を行うことが記載されていることからも明らかである。
エ 上記イ認定の文献1記載の技術事項に上記ウで検討したところを併せ考えれば,本件出願当時,画像情報の低域成分(低周波数画像情報)から画像の動きを検出する動き検出手段は,画像情報から画像の動きを検出する手法として当業者に周知の事柄であったと認めるのが相当である。
(2) 原告は,文献1ないし3に記載の発明には,輝度信号の低域成分の画像の動きに応じて補助信号を用いて表示画面の画質を向上させるという技術思想はなく,上記各文献に記載の画像の動き検出手法は先願発明の画像の動き検出手法の均等手段ではないと主張する。
確かに,文献1ないし3が開示する画像の動き検出手法は,本願発明のような補助情報を利用する走査変換に用いることを前提とするものではない。しかしながら,画像の動きを検出する手法自体は,本願発明のような補助情報を利用する走査変換に用いるものであるか否かによってその技術的意義に違いが生ずるというものではなく,画像の動きに対応した制御を行う上ではその制御を行う目的いかんにかかわらず共通の技術として適用が可能なものというべきであるから,上記各文献に基づいて画像の動き検出の手法の一般的技術水準を認定し,これをもって,本願発明と先願発明の一応の相違点が実質的な相違点であるか否かを論ずることが誤りであるとはいうことはできない。
(3)ア 先願明細書には,先願発明の実施例として,画像の動きを高域成分をも含む画像情報から検出することが記載されている(段落【0021】,【0022】)ものの,本件審決の説示するとおり,先願明細書の記載の趣旨からすれば,先願発明は,上記の実施例記載の動き検出手法を必須の要件とするものではなく,動き検出手法として,種々の手法を採用し得ることを前提としているというべきであり,したがって,前記(1)エ認定の周知の画像の動き検出手法を採用することも排除されていないと解するのが相当である。
そうすると,本願発明の一応の相違点に係る構成は,先願発明で採用し得る種々の動き検出手法を上記周知の動き検出手法に特定したにすぎないものというべきであり,先願発明との実質的な相違点とはいえないから,一応の相違点の存在をもって,本願発明が先願発明とは異なる別の発明であるということはできない。
イ 原告は,先願発明では,動きのみに応じて補強信号を用いるか否かを判定する方法(第1の技術思想)では不十分であると考えて,追加的ノイズ対策としてノイズ検出に応じて補強信号を用いるか否かを判定する方法(第2の技術思想)を開示しているのであるから,先願発明に文献1に記載のノイズ対策を施すことは考えられないと主張するので,以下検討する。
(ア) 先願明細書には,追加的ノイズ対策について,次の記載がある。
a 「受信機側での走査変換のための補強情報を送信側より伝送するテレビジョン方式における受像機側処理回路において,静止画時には,補強信号を用いない走査変換を行い,動画時には,補強信号を用いた走査変換を行うことを特徴とする走査変換回路。」(【請求項1】) b 「受像機側処理回路において,伝送ノイズを検出し,その出力に応じて,補強信号を全く使わない走査変換をするか,請求項1に示した処理をするか,あるいは,静止,動画に関わらず,補強信号による走査変換をするか,3つの手段のうち,少なくとも2つの手段を切り替えることによって走査変換出力を得ることを特徴とする走査変換回路。」(【請求項4】) c 「また,ノイズを検出して,処理を切り替えることも可能である。
SNRが悪いときには,上記の処理,あるいは,全く補強信号を用いない走査変換を行い,SNRが良い時には,補強信号を用いた走査変換を行う。この時,ノイズの検出としては,例えば,垂直ブランキング期間のようなレベル一定の信号部分を用いて検出することができる。」(段落【0016】) d 「また,上記の処理は,SNR対策であるので,ノイズを検出し,その検出出力に応じて,処理を切り替えることもできる。SNRが悪いときには,上記のSNR対策の処理を行い,SNRが良いときには,静動によらず,補強信号を用いた走査変換を行う。これにより,SNRに応じた最適な処理が行われることになる。」(段落【0018】) e 「本発明の他の一実施例を図7を用いて説明する。ここでは,図6の実施例をもとに,異なる部分のみを説明する。ノイズの大小に応じて,上記の処理と補強信号による補間の固定モードの間を切り替えることにする。よって,ノイズ検出器401により伝送信号からノイズを検出し,その出力に応じ,切り替え器309出力(上記処理出力)と加算器307出力(固定モード出力)を切り替え器402で切り替え,補間走査線信号とすることになる。」(段落【0030】) f 「以上では,フレーム間補間信号と補強信号からの補間信号を2値で切り替えているが,動き情報に応じて,重み付け加算することもできる。」(段落【0031】) (イ) 上記(ア)認定の先願明細書の記載によれば,先願明細書には,第1の技 術思想による上記請求項1に係る発明と,第2の技術思想によるノイズ対策を加えた上記請求項4に係る発明とが開示されていることが明らかである。
しかして,本件審決は上記請求項1に係る発明を先願発明として本願発明との同一性につき判断をしているものであり,その場合において,第2の技術思想によるノイズ対策を講じるか否かは関係のないことであり,上記同一性の判断をするにつき,この点について考慮する必要がないことは明らかである。
本件審決も同様の見解に立つものと解される。原告の上記主張は,本件審決を正解せず,独自の見解に立ってこれを論難するものといわざるを得ない。
(ウ) また,上記のとおり,第2の技術思想による追加的ノイズ対策は,上記請求項4に係る発明であって,上記請求項1に係る発明(第1の技術思想によるもの)を,3つの切り替え可能な手段のうちの1つとする発明である。また,この追加的ノイズ対策は,「ノイズの検出としては,例えば,垂直ブランキング期間のようなレベル一定の信号部分を用いて検出する」というものであって,選択肢として「動き情報に応じて,重み付け加算することもできる」のであるから,通常は動き情報を用いないで,処理を切り替えていると解される。したがって,この追加的ノイズ対策が,通常は画像の動き検出とは直接関係のないSNR対策を意味していることは明らかである。
他方,画像の動き検出は第1の技術思想に係る事項であるところ,動き検出の手法において,高周波数画像情報の周波数成分を含め,どの程度の高周波数成分から不要成分とするかは,除去するノイズの周波数成分を考慮して,当業者が必要に応じ適宜選択し得る技術的な設計事項であることは,前示のとおりである。そうすると,画像の動き検出におけるノイズ対策は,第1の技術思想による請求項1に係る発明が,そもそも備えていておかしくないと解される構成要素であるから,これに加え,更なる別のSNR対策として,第2の技術思想による追加的ノイズ対策を行うことに,何ら問題は生じないというべきである。
先願明細書に第2の技術思想による追加的ノイズ対策が開示されていることを根拠として,第1の技術思想による上記請求項1に係る発明におい文献1に記載のノイズ対策を講じることは考えられないとする原告の主張は,この観点からしても採用することができない。
(エ) いずれにしても,原告の上記主張は失当として採用することができない。
3 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,その他,本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見出せない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人
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