関連審決 | 無効2004-80203 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 下位概念 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先権 / 特許出願日 / 参酌 / 実施 / 交換 / 設定登録 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / 要旨変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10831号
審決取消請求事件
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原告アエロテルリミテッド 訴訟代理人弁護士竹田稔,川田篤,大野聖二,森崎博之,根本浩 訴訟復代理人弁護士佐藤公亮 訴訟代理人弁理士小栗久典,田中久子,稲葉良幸,大貫敏史 被告KDDI株式会社 訴訟代理人弁護士大場正成,牧野利秋,尾崎英男,那須健人 訴訟代理人弁理士田中香樹,田邉壽二 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/12/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2004-80203号事件について平成17年7月29日にした審決を取り消す 」との判決。。 第2事案の概要本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告の無効審判請求を受けた特許庁により,本件特許を無効とする旨の審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1特許庁における手続の経緯( )本件特許(甲第1号証)1特許権者:アエロテルリミテッド(原告)原告は,本件特許の設定登録後に,設定登録時の特許権者であったツヴィカミルから,特許権の譲渡を受け,特許庁長官に対する届出を行った者である。 発明の名称: 電話の通話制御システム」 「特許出願日:昭和61年1月13日(特願昭61-6163)優先権主張日:1985年(昭和60年)1月13日(イスラエル国 ,同年1)1月10日(イスラエル国)手続補正日:平成9年5月7日(乙第1号証。以下「本件補正」という )。 設定登録日:平成9年7月11日特許番号:特許第2672085号( )本件手続2審判請求日:平成16年10月25日(無効2004-80203号)審決日:平成17年7月29日審決の結論: 特許第2672085号の特許請求の範囲に記載された発明につ 「いての特許を無効とする 」。 審決謄本送達日:平成17年8月10日(原告に対し)2特許請求の範囲( )本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。 1「1.特殊な交換部(A)を有する電話の通話制御システムであって,特殊な交換部(A)は,メモリー手段()とコード確認手段()と預託金額確8683認手段()と制御手段()とを有し, 8488メモリー手段()は,特殊コードが所定の預託金額と一連で記憶され,通話費用 86を差し引いた預託金額の残高が記録され,その特殊コードは預託金額に対応する支払いがあった時から,通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされるものであり,コード確認手段()は,発呼者の入力する特殊コードを確認し,83預託金額確認手段()は,メモリー手段()に記憶された預託金額またはその 8486残高を確認し,制御手段()は,接続・遮断手段()と比較手段()とを有し,88 9293比較手段()は,メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高と, 9386通話を開始するための最小費用またはその後の通話費用とを比較し,接続・遮断手段()は,発呼者の入力した特殊コードがメモリー手段()に記92 86憶されたものと一致したときにおいて,メモリー手段()に記憶された預託金額 86またはその残高が,通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し,その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する電話の通話制御システム。 2.比較手段()は,ペグカウンター手段を有する特許請求の範囲第1項に記載93の電話の通話制御システム。 3.制御手段()は,タイミング手段を有し,タイミング手段は,発呼者が被呼88者との通話を終了した後,発呼者と特殊な交換部(A)との接続を一定時間保持する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 4.制御手段()は,特殊な交換部(A)と発呼者との接続を示す特別音発生手88段を制御する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 5.制御手段()は,複数の特殊な交換部(A)間に亙って特殊コード及び預託88金額の情報を相互に交換可能に接続する手段を有する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 6.特殊な交換部(A)は,接続・遮断手段()が発呼者と被呼者との通話を接92続している間に,別の特殊コードの追加入力を認める手段を有する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 7.特殊な交換部(A)は,同時に二つの相異なる発呼者から同一の特殊コードの使用を阻止する手段を有する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 8.特殊な交換部(A)は,コード確認手段()が,発呼者の入力した特殊コー83ドがメモリー手段()に記憶されたものと一致したことを確認した後に,発呼者 86の電話番号の入力を許可する手段を有する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 9.特殊な交換部(A)は,発呼者と特殊な交換部(A)の接続を保持したまま,被呼者との接続を切る一方,発呼者が別の被呼者の電話番号を入力可能にする手段を有する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 10.特殊な交換部(A)は,報知手段()を有し,報知手段()は,使用可8787能な預託金額の残高を発呼者に報知する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 11.特殊な交換部(A)は,報知手段()を有し,制御手段()は,預託金8788額またはその残高に対応する使用可能な通話時間を計算し,報知手段()は,使 87用可能な通話残り時間を発呼者に報知する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 .() ,(),() 12 特殊な交換部 A は 再ダイアル手段を有し 再ダイアル手段89 89は,コード確認手段()が発呼者の入力した特殊コードがメモリー手段()に 83 86記憶されたものと一致したことを確認した後に,特殊コードの入力に続けて入力された被呼者の電話番号をダイアルする特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム。 .() ,(),() 13 特殊な交換部 A は ルート選定手段を有し ルート選定手段91 91は,最も安価なルートを選定する特許請求の範囲第1項に記載の電話の通話制御システム 」。 ( )願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲第1項の記載は,以下のと2おりである。 「1.使用可能ないずれの電話機からでも電話通話をなしうる方法であって,下記段階:前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;電話呼出し接続が必要な時,前記特別交換局をダイアルし;確認のため前記特別のコードを入力し;相手先の番号を入力し;メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し,そして,クレジット残額がなくなった時は前記通話を断線する;段階を含む方法 」。 3審決の理由の要点審決の理由は 要するに 本件補正は 願書に最初に添付した明細書又は図面 以 ,,, (下,願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」といい,願書に最初に添付した明細書又は図面を「当初明細書又は図面」という )に記載した事項の範囲内にお 。 いて特許請求の範囲を増加し,減少し,又は変更した補正であるとは認められず,明細書の要旨を変更するものであるから,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条(以下,平成5年法律第26号による特許法の改正を「本件改正」といい,本件改正前の特許法及びその規定を「改正前特許法「改正前40条」などと 」,いう )の規定により,本件特許出願は,本件補正日である平成9年5月7日に出 。 願したものとみなされるところ(したがって,優先権主張日から12か月を経過した日の後の出願ということになるので,パリ条約に基づく優先権主張の効果は認められない,特許請求の範囲第1〜第13項に係る各発明は,特開昭61-210 。)(,。 ), 754号公報 審決甲第1号証 本訴甲第23号証 本件特許出願に係る公開公報特開平5-284257号公報(審決甲第2号証,本訴甲第24号証)及び特開平() , 7-212504号公報 審決甲第3号証 にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許請求の範囲第1〜第13項に係る特許は,特許法29条2項に違反してなされたものであるから,同法123条1項2号に該当して無効とすべきものである,というものである。 審決の理由のうち,本件補正が当初明細書の要旨を変更するとの判断に係る部分は,以下のとおりである。 「4.当審の判断(1)平成9年5月7日付け手続補正(本件補正)が要旨変更に該当するか否かについて(1-1)特許請求の範囲第1項において 「その特殊コードは預託金額に対応する支払いが ,, ,」 あった時から 通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされるものでありとした補正(補正事項1)についてこの補正事項1は,該補正事項1よりも前の「メモリー手段()は,特殊コードが所定の86預託金額と一連で記憶され 通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録されとの記載記 , ,」(「載A」という )に続く記載であるが,上記記載Aと上記補正事項1とを合わせて見ると,ま 。 ず,上記記載Aは,メモリー手段()に何が記憶ないし記録されるのかを示す記載であり,86この記載自体では,いつの時点でメモリー手段()への記憶ないし記録動作が行われるのか 86は明らかでない (ただし 「記録」されるのは 「通話費用を差し引いた預託金額」であり, 。,,少なくとも1回目の通話が開始した時点以降であることは理解される )。 しかしながら,上記補正事項1によると 「特殊コード」は 「預託金額に対応する支払いが ,,あった時」から使用可能とされるものであり,そのようにするためには,メモリー手段() 86への特殊コードと所定の預託金額とを一連で記憶する動作は,少なくとも「預託金額に対応する支払いがあった時」と同時ないしはそれよりも前でなければならないことは明らかである。 , , 。 さて 上記補正事項1に関連する発明の詳細な説明の補正事項2は 次のようなものである補正事項2:出願当初の明細書第12頁第6〜9行の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」を 「上記預託金額は,各預託金額毎に附される特殊コードと 。,共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に,通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録される 」に変更する補正。 。 上記補正事項2の補正前の記載,すなわち出願当初の明細書又は図面において 「特殊コー,ド」が「預託金額に対応する支払いがあった時」から使用可能とされるようにするために,メモリー手段への特殊コードと所定の預託金額とを一連で記憶する動作を 少なくとも 預 () ,「86託金額に対応する支払いがあった時」と同時ないしはそれよりも前とすることが記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する。 出願当初の明細書第12頁第6〜9行の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」との記載は,素直に読めば,前段の「支払われた額は取得者のクレジット 。 (信用貸し)となり,今後の電話使用ができる 」との記載は 「支払われた額」がどのような 。,ものであるかの説明で,後段の「クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」との記載の最初に出てくる「クレジット額」は,前段の記載中の「支払われ 。 た額」を指すものと解されることから,該「クレジット額」は 「支払われた」後に「特別の ,コードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」ものと解される。 仮に,上記出願当初の明細書第12頁第6〜9行の記載が 「クレジット額」が「特別のコ ,ードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」動作がいつ行われるのかを特定したものでないのだとしても,到底,メモリーへの「特別のコード (補正後は「特殊コード )と「クレ 」 」ジット額補正後は 預託金額とを一連で記憶する動作を 少なくとも クレジット額 預 」(「」) ,「(託金額)に対応する支払いがあった時」と同時ないしはそれよりも前とすることが記載ないし示唆されていたものとは認められない。 これは,出願当初の明細書第1頁第7〜9行の「前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;」との記載を見ても同様であり,素直に解釈すれば 「前払いにより特別のコードを取得し」た後 ,「 , 」 に 特別交換局のメモリーに 呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入するのであり,この記載が時系列を特定するものではないのだとしても,到底,メモリーへの「特別のコード (補正後は「特殊コード )と「前払い額 (補正後は「預託金額 )とを一連 」 」」 」で記憶する動作を,少なくとも「前払い額(預託金額)に対応する支払いがあった時」と同時ないしはそれよりも前とすることが記載ないし示唆されていたものとは認められない。 , , , そして 出願当初の図面を見ても 電話をかける時のフローチャートは示されているものの「特別のコード」と「クレジット額」とを一連で記憶する動作を,少なくとも「クレジット額(預託金額)に対応する支払いがあった時」と同時ないしはそれよりも前とすることは記載も示唆もされていない。 これに対して,上記補正事項2の補正後の記載は 「上記預託金額は,各預託金額毎に附さ ,れる特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に,通話費。」,「」 用を差し引いた預託金額の残高が記録されるであり 上記記載中の 予め記憶されているの「予め」を 「預託金額に対応する支払いがあった時」よりも前と解すれば 「預託金額に対 , ,」「」 「 」 応する支払いがあった時 よりも前に予め 特殊コード を 特殊な交換部のメモリー手段に記憶してあるために,補正事項1に見られるように 「特殊コードは預託金額に対応する支払 ,いがあった時から,通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされる」ものと解される。 ここで,被請求人は 『補正事項2にいう「メモリー手段に予め記憶されている」とは,取 ,得者の電話使用の前にメモリー手段に記憶されている,という意味である』旨の主張をしている。しかしながら,次の補正事項3と合わせて鑑みれば,上記「メモリー手段に予め記憶されている」の意味は 「預託金額に対応する支払いがあった時」よりも前に予めメモリー手段に ,記憶する意味であると解するのが相当である。 すなわち,補正事項3は次のようなものである。 補正事項3:本件補正の第10頁第21〜23行において 「また,特殊な交換部に予め預 ,託金額及び特殊コードを記憶してあるので,特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけでよく,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない 」を新たに追。 加する補正。 ,「 」 上記補正事項3においても特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるとの記載があり,この記載中の「予め」が,上記補正事項2における「予め」と同じ意味で用いられていると解するのが素直な解釈であり,そう解釈すれば,上記補正事項3中の「特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけでよい」旨の記載は 「特殊コードの取得時に対 ,応する金額を支払った時」には,もうすでに「予め預託金額及び特殊コードを記憶してある」から 「入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない」ことを意味する ,ことになり,全く矛盾のない記載となるのである。 以上のとおり,上記補正事項1は,出願当初の明細書又は図面では,メモリー手段()へ86の特殊コードと所定の預託金額とを一連で記憶する動作を 「預託金額に対応する支払いがあ ,った時」よりも後に行うかもしくはその時期を特定していなかったものを 「預託金額に対応,する支払いがあった時」と同時ないしはそれよりも前に行うことを特定するものであり,しかも上記「同時ないしはそれよりも前」のうちの「それよりも前」に対応する「特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してある」という実施例は 「特殊コードの取得時には対 ,応する金額を支払うだけでよく,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない」という出願当初の明細書には記載されていない新たな作用効果を奏するのである。 したがって,上記補正事項1は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められない。 (1-2)特許請求の範囲第1項において 「比較手段()は,メモリー手段()に記憶 ,93 86された預託金額またはその残高と,通話を開始するための最小費用またはその後の通話費用とを比較し,接続・遮断手段()は,発呼者の入力した特殊コードがメモリー手段()に記 92 86憶されたものと一致したときにおいて,メモリー手段()に記憶された預託金額またはその 86残高が,通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し,その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」とした補正(補正事項4)について上記補正事項4において 「メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高が, ,86通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し」と記載されており 「被呼者との通話を接続」するための条件として 「メモリー手段()に記憶された預託 , ,86金額またはその残高」が「通話を開始するための最小費用より多い」ことが挙げられているので,出願当初の明細書又は図面において,そのことが記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する。 上記補正事項4の「被呼者との通話を接続」するための条件に関連する出願当初の明細書の記載は次のようなものである。 記載B: メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレ 「ジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し (出願当初の明細書の第1頁第14 」〜17行)記載C: 呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であっ 「て,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段; (出願当初」の明細書の第3頁第17行〜第4頁第3行)記載D: 呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを 「持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段; (出願当初の明細書の第9頁第12〜18行) 」記載E: 十分であり確かなものであることが確認されると,即ち呼出者が適切なコード番 「号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には,通常の発信音が呼出局に送られる(出願当初の明細書の第11頁第9〜13行) 。」記載F: そしてまだクレジットが残っている場合,彼は再び通常の発信音に接続し (出願 「 」当初の明細書の第16頁第13〜15行)記載G: この手順はクレジットが残っている限り繰り返される(出願当初の明細書の第 「 。」17頁第4〜6行)上記記載B〜D,F,Gからは 「クレジット」の額がいくらあれば被呼者との通話が接続 ,されることになるのかは特定されないが,上記記載Eを参酌すると 「クレジット」の額は, ,通話できる十分な場合に被呼者との通話が接続されることになる。 それでは 「メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高」が「通話を開始す ,86るための最小費用より多い」という条件が 「クレジット」の額が「通話できる十分な場合」 ,という条件と同じもの,あるいは下位概念に含まれるものなのかどうかを検討する。 「通話を開始するための最小費用」といった場合,例えば,日本の公衆電話であれば「10円」という額が「通話を開始するための最小費用」であり 「通話できる十分な」額といった ,場合は,どのぐらいの時間通話することができれば十分なのかは,個人個人の主観により異なるものであり,また,たとえ多数の人間の平均をとって十分な通話時間を想定したとしても,通話相手との距離に応じてどれだけの額が十分なものなのかは異なってくるものと解される。 よって,出願当初の明細書において明確に記載はされていないが,出願当初の明細書では,通話を開始させる「クレジット」の額は,想定される通話相手がかなり遠距離である場合も十分な通話ができるように 「最小費用」よりも多い額を想定していたものと解される。 ,してみると 「メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高」が「通話を開始 ,86」,「」「 」 するための最小費用より多い という条件はクレジット の額が 通話できる十分な場合という条件とは,全く異なる概念であり,同じもの,あるいは下位概念に含まれるようなものではない。 さて,上記記載E以外の上記記載B〜D,F,Gでは 「クレジット」の額がいくらあれば ,被呼者との通話が接続されることになるのかは特定されておらず 「クレジット」の額が少し ,でもあれば,すなわち 「最小費用」に満たない場合でも,被呼者との通話接続を許容するこ ,とを含む記載となっているものと解される。しかし,その場合は,課金をすることができなくなってしまうという不都合が生じることから,その不都合を避けるために,出願当初の明細書にはない「最小費用」という文言を入れた補正をしたものと解される。 ただし 「最小費用」に満たない場合に被呼者との通話接続を許容しても,後から料金を請 ,求しさえすれば,課金をすることは全く不可能ではないのであるから,上記のように「最小費用」という文言を入れることが,直ちに自明な補正であるとまでは言えない。 そして,出願当初の明細書の他の箇所の記載や図面を見ても 「被呼者との通話を接続」す ,るための条件を「メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高」が「通話を開始86するための最小費用より多い」こととすることは,記載も示唆もされていないことである。 したがって,上記補正事項4は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められない。 以上 (1-1(1-2)で検討したとおり,本件補正は,出願当初の明細書又は図面に ,),記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められず,明細書の要旨を変更するものである 」。 第3原告の主張(審決取消事由)の要点審決は,本件補正に係る補正事項1,4が,いずれも出願当時の当業者が当初明細書の記載から自明なものに当たる点を看過し,本件補正が当初明細書の要旨を変更するものと誤って判断したものであり,その結果,本件特許出願に係る出願日を本件補正日に繰り下げ,特許請求の範囲第1〜第13項に係る発明が審決甲第1〜第3号証記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(補正事項1を要旨変更とした判断の誤り)( )本件補正に係る補正事項1は,特許請求の範囲第1項において「その特殊1コードは預託金額に対応する支払いがあった時から,通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされるものであり 」とした補正である。 ,補正事項1が 「メモリー手段()は,特殊コードが所定の預託金額と一連で ,86記憶され,通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録され 」との記載に続く記,載であり,また,発明の詳細な説明において,当初明細書(当初明細書は,願書である甲第2号証の1添付の明細書であるが,その記載を引用するときは,内容を変更せず,浄書のみをした昭和61年4月9日付け手続補正書添付の明細書である甲。) 「 () 第2号証の2によって行うの 支払われた額は取得者のクレジット 信用貸しとなり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される(12頁6〜9行)との記載を,本件補正後の明細書 。」(乙第1号証。以下「補正明細書」という )の「上記預託金額は,各預託金額毎 。 に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に,通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録される(5頁24〜26。」行)との記載に変更する補正(補正事項2 ,及び補正明細書に「また,特殊な交 )換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので,特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけでよく,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない(10頁21〜23行)との記載を新たに追加する補正(補 。」正事項3)と関連するものであって,メモリー手段()に,特殊コードと所定の86預託金額とを一連で記憶する動作が,少なくとも「預託金額に対応する支払があった時」と同時か,あるいはそれより前になされることを示すものであることは,審決の説示のとおりである。 しかるところ,審決は,上記のとおり,当初明細書又は図面には,特別のコード(補正後は「特殊コード )及びクレジット額(補正後は「預託金額 )を一連でメ 」 」モリー(補正後は「メモリー手段 )に記憶する動作を,少なくとも,クレジット 」額に対応する支払があった時と同時ないしはそれよりも前とすることは,記載も示唆もされていなかったところ,補正事項1は,メモリー手段へ特殊コードと所定の預託金額とを一連で記憶する動作を 「預託金額に対応する支払いがあった時」と ,同時ないしはそれよりも前に行うことを特定するものであり,しかも「それよりも」((「」,「」, 前 に対応する実施例 特殊な交換部 補正前は 特別交換局特別の交換局「特別な交換局」又は「特別の中央局 )に予め預託金額及び特殊コードを記憶し 」てあるという実施例)は 「特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで ,よく,入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない」という当初明細書には記載されていない新たな作用効果を奏するものであるから,補正事項1は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められない,と判断した。 ( )しかしながら,以下のとおり,メモリー手段()への特殊コードと所定2 86の預託金額とを一連で記憶する動作を 「預託金額に対応する支払があった時」と ,同時か,それよりも前に行う実施態様は,本件特許出願当時の当業者が,当初明細書の記載から自明に読み取れるものであり,審決の上記判断は誤りであって,補正事項1は,当初明細書の要旨を変更するものではない。 ア本件発明の本質本件特許出願に係る優先権主張日(昭和60年1月13日)当時,電話料金の課金システムとして,後払い方式である「自動クレジット方式」も前払い方式である「テレホンカードシステム」も,ともに周知であった。 本件発明は,自動クレジット方式を否定した上で,前払い方式でありながら,磁気カード読み取り機能のない電話機からでも通話ができるようにするという技術的課題を解決するために, @「前払い」に係る額(クレジット額)が,使用者の手元に置かれるテレホンカードに記憶されるのではなく,電話システム内に置かれる「特別交換局」のメモリーに 「特別のコード」とともに記憶されるようにし, A ,電話の呼出し接続時には,相手先に接続する前に,特別交換局に接続して,電話機が備えるダイアル手段により使用者に特別のコードを入力させ, Bこの特別のコードと対応しているクレジットを,電話機ではなく特別交換局に確認させ,電話機ではなく特別交換局が,クレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を行うようにしたものであり,これらの部分が本件発明の本質である。本件発明のうち「記憶」に関しては,前払いの額が記憶される場所を,使用者の手元のテレホンカードではなく,電話システム内の特別交換局とした点が,発明の本質であり,その額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しない。 イ当初明細書の記載当初明細書には,本件発明の実施例として,まず 「取得」されるものが「特別 ,のコード,クレジット額及び電話番号」がセットになったものであることが記載されており(11頁17行〜12頁2行 ,これらが,セットで「取得」される時点 )で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されていることが示されている。そうすると,メモリーへ記憶する動作は,顧客が特別のコードを取得する以前に行われることになるから,クレジット額の「支払」時点とメモリーへの「記憶」時点の関係については,(A)「支払」↑「記憶」↑「取得」(↑「電話使用」)という態様(B)「記憶」↑「支払」及び「取得」(↑「電話使用」)という態様の2通りが理論的にあり得ることになる(以下,上記(A)の態様を「A態様」とい,「」。)。, , い 上記(B)の態様を B態様 というそして 本件特許出願当時の当業者は当初明細書又は図面から,A態様のみならずB態様も,明らかに読み取ることができる。 すなわち,当初明細書の「実施例」についての記載には,顧客が特別のコードを取得する形態に関し 「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は現金或いは ,クレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する(11頁17〜末行「コード,クレジット額 。」),及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい(11頁末行〜12頁3行「或いは 。」 ),クレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい(12頁3〜6行)との3通り 。」の実施形態が挙げられている。このうちの「特別の中央局」で取得する場合には,まず,顧客が「支払」をすると,中央局の職員がメモリーへの「記憶」を行い,そ, 「」 , の後 特別のコードを含むセットがその場で 取得 できるということが考えられA態様が示唆されているといえるが,この実施形態でも 「支払」のある前から上 ,(「」),, 記セットを用意 すなわちメモリーへ 記憶しておき 特別の中央局において顧客が「支払」をすると同時に,用意されていた上記セットが「取得」できるようにすることも可能であり,B態様も示唆されているといえる 「クレジットカード。 会社」を通じて取得する場合には,顧客が「特別のコード,クレジット額及び電話番号」のセットを「取得」すると同時に,クレジットカードによる「支払」が行われるから 「支払」と「取得」の間に 「特別の中央局」におけるメモリーへの「記 , ,憶」を介在させる余地はなく 「支払」のある前から上記セットは用意(すなわち ,メモリーへ「記憶 )されていなければならない。したがって,この実施形態は, 」B態様を記載しているものといえる。さらに 「空港,ホテル,レンタカー事務所 ,等の販売地点」で取得する場合には,仮に,A態様を採用し 「販売地点」におい,て,顧客がまず「支払」をし,販売員が「特別の中央局」の職員へ連絡をしてメモリーへの「記憶」を行ってもらい,その後顧客が上記セットを「取得」するという方法を採ったとすると,販売地点と特別の中央局との間の連絡のセキュリティの確保が困難である上に,多数の連絡が特別の中央局に集中して処理不能となり,上記セットを「取得」できるまでに長時間かかる結果,顧客の利便性に全く資するところのないサービスとなってしまい,現実には機能し得ない。他方,B態様を採用した場合には,特別の中央局でメモリーへの「記憶」がなされた後に,販売地点に,特別のコード,クレジット額及び電話番号のセットが送付され,これを顧客が「購入 ( 支払」及び「取得 )するものであって,現実に機能し得るものであり,か 」「」つ,セキュリティ確保の難しい「連絡」という工程は存在しない。したがって,本件特許出願当時の当業者は,B態様が記載されているものと理解するものである。 また,当初明細書の特許請求の範囲第8項には 「特別交換局に接続している間 ,にクレジットを加える手段を有するシステム」という記載があるが,これは,顧客が使用中の「特別のコード」とは別の新たな「特別のコード」を取得していれば,それを入力させる(図面第1図ブロック33「新しい番号」)というものであYESり,古い「特別のコード」に対してクレジット額を増加させるわけではない。すなわち,特別のコードは,テレホンカードと同様に,使い捨てであることになり,そうであれば,各「特別のコード」に対応付ける「クレジット額」を任意に設定できる必要など全くないから,テレホンカードと同様,定額にして,メモリーへの「記憶」を行った後に,販売,購入( 支払「取得 )するものと考えるのが,自然 「」,」である。 さらに,当初明細書の特許請求の範囲第10項には 「利用可能なあらゆる呼出 ,局からなされる市外通話を含む電話通話を容易にする電話方式であって;呼出局を特別交換局と接続する手段;特別予約者コードとクレジットの情報を記憶するための,特別交換局のメモリー手段;呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であって,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認に」, より呼出局を相手先局と接続する手段;とを含む電話システム との記載があって支払と記憶についての時間的順序には関係しない発明が開示されている。そして,発明の詳細な説明の「問題点を解決するための手段」の欄には 「本発明の広い局,面においては,電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され,このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局に送られるコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;とを含む(9頁9〜18行)と記載されているか 。」ら,当業者は,記憶が支払より先である場合でも,支払が記憶より先である場合でも 「前払い電話通話のためいずれの電話機でも使用できる」という本件発明の目 ,的が達成できるものと理解することができ,したがって,いずれの経時的順序も,当初明細書に記載されているものと同視されるものである。 なお,本件特許出願当時 「前払い方式」として周知であったテレホンカードシ ,ステムにおいては,カードの種類が,500円,1000円,3000円,5000円の4種類が販売されていたところ(甲第12号証 ,当初明細書には,本件発 )明が,前払い方式でありつつも,あらゆる電話機が使用できることが記載されているのだから(6頁11〜15行 ,顧客から見れば,使用可能ないずれの電話機か )らでもかけられることを除いてテレホンカードと類似したものになり 「クレジッ,ト額」も,テレホンカードのように数種類の定額のものが用意されるものと考えるのが自然である。そうとすれば,顧客の支払を待たず,その額のメモリーへの記憶ができるのであるから,B態様のように 「支払」より前に「記憶」がされている ,と理解されるのである。 ( )審決は,当初明細書の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)3となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される(12頁6〜9行。後記被告主張の「記載β )との 。」 」記載につき,第2文の「クレジット額」が第1文の「支払われた額」を指すから,「支払われた」後に,その額が特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに「記憶される」ものであると解したが,上記( )のイの3通りの実施形態のうち,少な2くとも2つがB態様を示唆していることを無視するものであって,誤りである。B態様については 「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり」との ,記載の「支払われた」額が,そこではじめてメモリーに「記憶」されてクレジットとなるという意味には理解できない。この場合には,この記載は,メモリーに「記憶」されているクレジットは 「支払」があるまでは誰のものでもなかったが,顧 ,客が「支払」をすることにより,その顧客のものとなるということを 「取得者の,クレジットとなり」という表現を用いて説明しているのである。そして,上記記載のうち 「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使 ,用ができる 」との部分は,A態様,B態様を通じて,特別のコード,クレジット 。 額及び電話番号を取得した者が 「取得」の時点で実現される状態,すなわち 「今 , ,後の電話使用ができる」ことを記述したものであり,また 「クレジット額は特別 ,のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される 」との部分は,A態様,B 。 態様を通じ,時間的には遡って,メモリーに記憶される内容,すなわち,それがクレジット額及び特別のコードであることを説明したものである。 審決は,さらに,当初明細書の特許請求の範囲に係る「前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;」との記載が 「前払いにより特別のコードを取得し」た ,後に「特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入 するものと解したが 当初明細書の記載全体から メモリーへの 記 」, ,「憶」は 「取得」の前に行われるものと理解されるのであるから,上記2つの工程 ,, 。, の記載の順序は 時系列を特定するものではあり得ない 上記2つの工程の記載は顧客によって行われる動作が 「前払いにより特別のコードを取得し」とまとめら ,れ,特別の中央局の職員により行われる動作が 「特別交換局のメモリーに・・・ ,前払い額を挿入し」と記述されているものである 「記憶」する動作は,使用者が 。 特別のコードを「取得」する以前になされていれば 「支払」より前であっても, ,後であっても,磁気カード読み取り機能のない電話機からでも通話することができる「前払い方式」が実現されるのであり 「記憶」する時点が正確にいつであるか ,は,発明の本質に全く影響しないのである。 ( )なお,改正前特許法の下では,当初明細書に記載されていない事項(新規4事項)を追加する補正であっても,明細書又は図面の記載から見て自明である事項, , であれば 明細書の要旨を変更するものに当たらないと解されていたところであり特許庁の審査基準もこれに則っていた(甲第3号証 。しかるところ,本件改正に )より,改正前41条及び同53条が削除され,新たに17条2項に「前項本文の規定により明細書又は図面について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない 」との規定が設け。 られた。この規定の「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」とは,新規事項の追加をしてはならないということであって,当初明細書又は図面の記載から見て自明な事項であっても,当初明細書又は図面の記載から,当業者が直接的かつ一義的に導き出せない場合には,新規事項の追加として許容されないこととなったのである。しかしながら,本件特許出願は,補正について改正前特許法の規定が適用される事案であり,したがって,補正の適否は,改正前特許法に係る判断基準に従うべきところ,審決は,実質的に,本件改正後の規定に基づく判断基準に依拠して,補正事項1が,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められないとの,誤った結論に至ったものである。 2取消事由2(補正事項4を要旨変更とした判断の誤り)( )本件補正に係る補正事項4は,特許請求の範囲第1項において「比較手段1()は,メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高と,通話を開 9386始するための最小費用またはその後の通話費用とを比較し,接続・遮断手段() 92は,発呼者の入力した特別のコードがメモリー手段()に記憶されたものと一致 86したときにおいて,メモリー手段()に記憶された預託金額またはその残高が, 86通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し,その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」とした補正である。 補正事項4において,被呼者との通話を接続するための条件として,メモリー手() ,「」 段に記憶された預託金額又はその残高が 通話を開始するための 最小費用86より多いことが挙げられていること,被呼者との通話を接続するための条件に関連して,当初明細書に 「メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより ,特別のコード及びクレジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し特」(許請求の範囲第1項。記載B「呼出局から特別交換局に送られるコードに応動し ),て呼出者を確認する手段であって,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段:特許請求の範囲第10項 記載C呼 」( 。),「出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段; (9頁12〜18行。記載D「十分であり確か 」 ),なものであることが確認されると,即ち呼出者が適切なコード番号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には,通常の発信音が呼出局に送られる(11頁9〜13行。記載E「そしてまだクレジットが残っている場合, 。」 ),彼は再び通常の発信音に接続し (16頁13〜15行。記載F「この手順はク 」 ),レジットが残っている限り繰り返される(17頁第4〜6行。記載G)との各記 。」載があることは,審決の説示のとおりである。 しかるところ,審決は,上記のとおり,当初明細書又は図面には,被呼者との通話を接続するための条件を,メモリー手段に記憶された預託金額又はその残高が,通話を開始するための「最小費用」より多いこととすることは,記載も示唆もされていないとして,補正事項4は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められない,と判断した。 ( )しかしながら,以下のとおり,当初明細書に記載された「通話できる十分2な場合 (記載E「クレジットと通話経費を比較することにより・・・確認 (記 」), 」載B「残額のあるクレジットを有する (記載C「前払いクレジットを持って ), 」),いる (記載D「クレジットが残っている (記載F,G)という各条件は 「通 」), 」 ,話を開始するための最小費用より多い」という条件と同じ概念であるから,審決の上記判断は誤りであって,補正事項4は,当初明細書の要旨を変更するものではない。 アまず 「通話を開始するための最小費用」が,審決が認定するように 「電話 , ,システムの接続を開始する場合に必要とされる『最小費用』であることは明らか」(31頁17〜18行)である。また,この額は,対象となる「電話システム」がどのような運用されているかによって変わり得る額であって,一定不変の額ではないが,対象となる「電話システム」とそのシステムにおける運用が定まれば,客観的に定まる額である。 ,,「 」, イ次に 記載Eには通話できる十分なクレジット との記載があるところ「」,「,。」(), 十分 の語義は物事が満ち足りて 不足・欠点のないさま広辞苑第5版「条件を満たして,不足がないさま(大辞林第2版)であるから 「通話できる 。」 ,十分なクレジット」とは 「通話するのに不足のないクレジット」ということにな ,る。そして,通話するのに不足するかどうかは,電話システムによって,客観的に判断されるのであるから 「通話できる十分なクレジット」かどうかが,個人個人 ,の主観によって異なることはあり得ず,審決の「 通話できる十分な』額といった 『場合は,どのぐらいの時間通話することができれば十分なのかは,個人個人の主観により異なるものであり」との認定は誤りである。 また,クレジットが通話するのに不足するか否かが,電話システムによって,客観的に判断されるとした場合,電話システムは,判断時において得ている情報に基づいて,その判断をすることになる。そうすると,電話システムは,その通話がどの程度の時間継続するのかという情報は通常得ていないから,通話のため接続するのに不足するか否かを判断するのみである。同様に,電話システムが,判断時に,通話の相手方との距離に関する情報を得ているようにシステムを運用すれば,その距離に応じて変動する額との比較で不足するか否かを判断できるが,判断時には,相手方との距離に関する情報を得ていないようにシステムを運用すれば,その距離に関係しない額との比較で不足するか否かを判断せざるを得ない。そして,本件特許出願に係る図面第1図では,コードとクレジットの確認(通話できる十分なクレジットをもっているか否かの判断)を行うブロック18及び通常の発信音が送られるブロック19が,コード及び相手先番号をダイアルするブロック17の後に置か,, , れているから 電話システムは 判断時に相手方との距離に関する情報を得ておりしたがって,相手先までの距離に対応する額との比較で,不足するか否かを判断できるが,当初明細書には 「呼出者のあらかじめダイアルした番号はブロック21 ,で示されるように伝送される。勿論このシステムは,呼出者が通常の発信音を受取ることに対応して相手先をダイアルするように構成することもできる (13頁1」2〜16行)との記載があって,相手先番号のダイアルを通常の発信音が送られるブロック19の後(ブロック21)で行う構成(ブロック17では相手先番号のダイアルをしない構成)も記載されており,この場合は,十分なクレジットをもっているか判断する時点(ブロック18)では,相手先までの距離に関する情報を得ておらず,相手先までの距離とは関係のない額との比較で,不足するか否かが判断されることになる。すなわち,当初明細書及び図面には,クレジットが通話するのに不足するか否かを,通話の相手方との距離に応じて変動する額との比較によって判断する態様と,相手先までの距離とは関係のない額との比較によって判断する態様の両方が開示されており,したがって,審決の「 通話できる十分な」額といった 『場合は ・・・通話相手との距離に応じてどれだけの額が十分なものなのかは異な ,ってくるものと解される。よって ・・・出願当初の明細書では,通話を開始させ ,る『クレジット』の額は,想定される通話相手がかなり遠距離である場合も十分な通話ができるように 『最小費用』よりも多い額を想定していたものと解される 」 , 。 との認定も誤りである。 以上のとおり,記載Eは,被呼者(相手方)との通話を接続するための条件を,メモリー手段に記憶されたクレジット額又はその残高が 通話を開始するための 最 ,「小費用」より多いこととすることを記載したものである。 ,, ,,,, ウ次に 記載B〜D F Gのうち 記載B〜Dには クレジットを確認してその確認により,通話の相手方(相手先局)とを接続することが記載されているのであるから,その「クレジットの確認」とは,最小費用より多いクレジットが残っていることを確認するものであると解さなければ,確認の意味がなく,不合理である。また,記載F,Gには,クレジットが残っている場合に,再度通常の発信音に接続し,あるいは「この手順」が繰り返されるのであるから,同様に 「クレジッ,トが残っている場合」とは,最小費用より多いクレジットが残っている場合を意味するものと解さなければ,不合理である。 したがって,記載B〜D,F,Gは,クレジットが,通話を開始するための最小費用より多いということを記載したものである。 第4被告の反論の要点1取消事由1(補正事項1を要旨変更とした判断の誤り)に対し( )本件補正のうち,補正事項1が,当初明細書又は図面に記載した事項の範1囲内において,特許請求の範囲を増加し,減少し,又は変更した補正であるとは認められないとした審決の判断に対し,原告は,メモリー手段()への特殊コード86と所定の預託金額とを一連で記憶する動作を 「預託金額に対応する支払があった ,時」と同時か,それよりも前に行う実施態様は,本件特許出願当時の当業者が,当初明細書の記載から自明に読み取れるものであって,補正事項1は当初明細書の要旨を変更するものに当たらないと主張するが,以下のとおり,誤りである。 ( )当初明細書及び図面において,特別のコードとクレジット額とを特別の中2央局のメモリーに記憶させる動作について記述しているのは,当初明細書の以下の2か所のみである。 α「使用可能ないずれの電話機からでも電話通話をなしうる方法であって,下記段階:前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;・・・(特許請求の範囲第1項。以下「記載α」という ) 段階を含む方法。」 。 β「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレ(。 ジット額は特別のコードとともに特別の中央局のメモリーに記憶される。」 12頁6〜9行以下「記載β」という )。 上記いずれの記載においても 「支払(前払い 」の後にメモリーへの「記憶」が ,)なされることが記載されている 特に 当初明細書の特許請求の範囲第1項は下 。, ,「記段階」として,記載αを含む各段階を全体として経時的順序で記載しており,したがって 「前払いにより特別のコードを取得」する段階の後に 「特別交換局のメ , ,モリーに 呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入 する 記 , 」(憶する)段階があることを記載しているものである。 当初明細書は 「前払い額」についての具体的記載は全くないが,任意の額を前 ,,, 払いしてクレジット額とすることができると解するのが自然であり そうとすれば前払い(支払)によって,クレジット額が特定されるのであるから 「支払」の後,にクレジット額等の「記憶」がなされることは当然のことである。 ( )原告は,当初明細書に,クレジット額と特別のコードがメモリーに記憶さ3れた後に支払がなされる態様(原告主張のB態様)が示唆されているとするが,以下のとおり,誤りである。 ア原告は,まず,本件発明の「記憶」に関しては 「前払い」の額が記憶され ,る場所を,使用者の手元の「テレホンカード」ではなく,電話システム内の「特別交換局」とした点が,発明の本質であり,その額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないと主張する。 しかしながら,当初明細書には,一般の加入電話と公衆電話の「いずれの電話機・・・からでも電話通話のための前払いを利用して行われるような電話方式が提供される (22頁18〜末行)との記載があるが,この点で本件発明と近接してい 」るのは「自動クレジット通話方式 (加入者電話の加入者ではない者が当該電話機 」を使用して通話する場合に,電話会社との契約により予め割り当てられたコード番号等をダイヤルし,電話会社は,自動で,メモリーに記憶してあるコード番号等と照合して,一致していれば,通話接続を行った上,その通話料を当該加入者電話の加入者ではなく,当該契約者に課金する方式)であり,当業者は,後払い方式である「自動クレジット通話方式」を,前払い式とすることを想起する。これに対し,「テレホンカードシステム」は,公衆電話機におけるコイン使用の不便さを解消することを目的とするものであって,あらゆる電話機を使用できるとされている本件。,「 」 発明を理解する上での前提となるものではない またテレホンカードシステムの課金システムは 「自動クレジット通話方式」と根本的に異なり,本件発明とも ,。,「 」, 異なるものである したがってテレホンカードシステム に関する周知技術は, 。 当初明細書の記載の解釈に当たって 参酌すべき当業者の技術常識には当たらないまた,当初明細書には,電話システム内の「特別交換局」がどのようなものであるかについて全く説明がないから,原告主張の発明の本質なるものは,出願当時の当業者に理解不能である。のみならず,発明の本質は,特許請求の範囲に記載された事項によって特徴付けられるものであるところ,当初明細書の特許請求の範囲第1項には 「支払」の後に「記憶」がなされるものに限定された記載があるから, ,「」 「」, 。, 支払 と 記憶 の時間的前後関係は 発明の本質に関わるものである そして補正事項1は,特許請求の範囲に 「支払」と「記憶」の前後関係を逆転させる記 ,載をしたものであり,発明の本質に関わる変更がされたものである。 イ原告は,当初明細書の「実施例」に記載された,顧客が特別のコードを取得する3通りの形態のうち 「特別の中央局」で取得する場合は,A態様とB態様の ,双方を示唆し 「クレジットカード会社」を通じて取得する場合及び「空港,ホテ ,ル,レンタカー事務所等の販売地点」で取得する場合は,当業者は,B態様が記載されているものと理解すると主張する。 しかしながら,原告主張のA態様及びB態様の分類は,当初明細書に 「取得」,の前に「記憶」がなされることが記載されていることを前提とする点において,そもそも誤りである。原告は,当初明細書の「顧客,例えば正規の電話使用者或いは,, 旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で 特別のコードクレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し (11頁17行〜12頁2行) 」,, ,「」 との記載に基づき 特別のコード クレジット額及び電話番号が セットで 取得される時点で 既に 特別のコード と クレジット額 とが一連でメモリーに 記 ,「」 「」「憶」されていることが示されていると主張するが,上記記載は,顧客が支払をして特別のコード,クレジット額及び電話番号を取得することを述べているだけで,そ,「」 「」「」 の時点で 既に 特別のコード と クレジット額 とが一連でメモリーに 記憶されていることなど,記載も示唆もされていない。むしろ,当初明細書には,上記記載の直後に,記載βがあるのであるから 「取得」の時点では「記憶」がなされ ,ていないことが明らかである。 そして,当初明細書には 「特別の中央局」で取得する場合 「クレジットカード , ,」 「,, 」 会社 を通じて取得する場合及び 空港 ホテル レンタカー事務所等の販売地点で取得する場合のいずれについても,特別のコード,クレジット額及び電話番号を取得する場所,あるいは取得及び支払の方法( クレジットカード会社」を通じて 「取得する場合)について記載してあるだけで,これらの記載は,特別のコード及びクレジット額のメモリーへの記憶については全く触れていない。そして,メモリー, 。 への記憶については これらの記載の直後にある記載βに記載されているのであるしたがって 「特別の中央局」で取得する場合 「クレジットカード会社」を通じて , ,取得する場合及び「空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点」で取得する場合のいずれであっても,これらの販売地点における「支払「取得」の後,特別の 」,, 「」, コード及びクレジット額が 特別の中央局のメモリーに 記憶 されるというのが当初明細書の記載である。上記の取得場所等の記載にB態様が示唆されているなどというのは,現在の実用化されているシステム(例えば,被告の「KDDIスーパーワールドカード」サービス)を知った上での後知恵にすぎない。 ,, ,「」 原告は また 当初明細書の特許請求の範囲第8項に関連して特別のコードは使い捨てであるから,各「特別のコード」に対応付ける「クレジット額」を任意に設定できる必要は全くなく,テレホンカードと同様,定額にして,メモリーへの「記憶」を行った後に,販売,購入( 支払「取得 )するものと考えるのが, 「」,」自然であると主張するが,当初明細書には,特別のコードが使い捨てであることは。 ,「 」 記載されていない 上記特許請求の範囲第8項は特別交換局に接続している間におけるクレジットの追加に関するものであって,一般の場合に,ある「特別のコード」の残額がなくなったときに,当該「特別のコード」に対し新しい「クレジット額」を付与することは,当初明細書において否定されていない。 さらに,原告は,本件発明が,顧客から見れば,使用可能ないずれの電話機からでもかけられることを除いて周知の「テレホンカード」と類似したものになるところ,テレホンカードにおいては,4種類の定額のカードが販売されていたのであるから,本件発明の「クレジット額」も,数種類の定額のものが用意されるものと考えるのが自然であり 「支払」より前に「記憶」がされていると理解されるとも主 ,張するが,上記のとおり 「テレホンカードシステム」に関する周知技術は,当初 ,明細書の記載の解釈に当たって,参酌すべき当業者の技術常識には当たらない。また,当初明細書及び図面には,前払いをするクレジットの額についての具体的な記載は一切なく,まして,数種類の定額のものを用意することなどは,記載も示唆もない。 したがって,これらの主張も,誤りである。 ( )なお,原告は,審決が,実質的に,本件改正後の規定に基づく判断基準に4依拠して,補正事項1が,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められないとの判断に至ったと主張する。 しかしながら,改正前特許法の規定に基づく「明細書の要旨変更」の判断基準において 「出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内」には,出願時の当 ,業者が当初明細書の記載から見て自明な事項が含まれるとされていたとしても,当初明細書に記載も示唆もされていないのみならず,当初明細書に記載されていたことと逆の内容で,しかも新たな作用効果を奏するような事項が,ここにいう「当初明細書の記載から見て自明な事項」に当たるということはできないから,審決は,改正前特許法の規定に基づく「明細書の要旨変更」の判断基準を正当に適用したものであり,原告の上記主張は誤りである。 2取消事由2(補正事項4を要旨変更とした判断の誤り)に対し( )本件補正のうち,補正事項4が,当初明細書又は図面に記載した事項の範1囲内において,特許請求の範囲を増加し,減少し,又は変更した補正であるとは認められないとした審決の判断に対し,原告は,当初明細書の記載E,B〜D,F,Gは 「通話を開始するための最小費用より多い」という条件と同じ概念であるか ,ら,補正事項4は当初明細書の要旨を変更するものに当たらないと主張するが,以下のとおり,誤りである。 ( )「通話を開始するための最小費用」とは,当該電話システムにおける最小2通話単位の料金ということであり,これには,所定の時間(例えば6秒)を最小通話単位とする課金方式と,所定の金額(例えば10円)を最小通話単位とする課金方式とがある。前者の方式では当該所定時間当たりの料金が定められ,後者の方式では当該所定金額当たりの通話時間が定められる。最小通話単位の料金未満の費用では電話をかけることはできず,したがって 「通話を開始するための最小費用」 ,とは,通話接続条件としての最小通話単位の料金を表しており 「通話を開始する,ための最小費用より多い」とは 「最小通話単位の料金より多い」ということを意 ,味する。 これに対し,記載Eの「十分であり確かなものであることが確認されると,即ち呼出者が適切なコード番号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には,通常の発信音が呼出局に送られる 」との記載中 「通話できる十分なク 。,レジット」という表現は,特定の判断指標を表したものではなく,したがって,記載Eは,通話接続条件を記載したものではない。すなわち 「通話できる十分なク ,」 ,, , レジット は 審決の説示のとおり 個人個人の主観によって異なるものであって接続の有無の判断条件となるような概念ではない。 原告は,記載Eに関し 「通話できる十分なクレジット」を「通話するのに不足 ,のないクレジット」と言い換えた上 「通話を開始するための最小費用より多い」 ,という条件と同じ概念であると主張するが,何をもって 「不足のない」と判断す ,るかも,客観的に不明確である。 ( )次に,原告は,記載B〜D,F,Gのうち,記載B〜Dは,最小費用より3多いクレジットが残っていることを確認するものであると解さなければ,不合理であり,記載F,Gは,最小費用より多いクレジットが残っている場合を意味するものと解さなければ,不合理であるから,記載B〜D,F,Gは,クレジットが,通話を開始するための最小費用より多いということを記載したものであると主張する。 しかしながら,記載B〜D,F,Gには 「最小費用より多いクレジットが残っ ,ている」という,条件を特定した記載されておらず,これらも通話接続条件を記載したものとは,到底いうことができない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(補正事項1を要旨変更とした判断の誤り)について( )本件補正に係る補正事項1が,補正事項2及び補正事項3と関連するもの1であって,メモリー手段()に,特殊コードと所定の預託金額とを一連で記憶す 86る動作が,少なくとも「預託金額に対応する支払があった時」と同時か,あるいはそれより前になされることを示すものであることは,当事者間に争いがない。 しかるところ,原告は,メモリー手段()への特殊コードと所定の預託金額と86を一連で記憶する動作を 「預託金額に対応する支払があった時」と同時か,それ ,よりも前に行う実施態様は,本件特許出願当時の当業者が,当初明細書の記載から自明に読み取れるものであり,補正事項1は,当初明細書の要旨を変更するものではないと主張する。 ( )当初明細書には,メモリー手段への記憶と支払に関して,以下の記載があ2る。 ア特許請求の範囲第1項「使用可能ないずれの電話機からでも電話通話をなしうる方法であって,下記段階:前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに,呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;電話呼出し接続が必要な時,前記特別交換局をダイアルし;確認のため前記特別のコードを入力し;相手先の番号を入力し;メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し,そして,クレジット残額がなくなった時は前記通話を断線する;段階を含む方法 」。 イ「発明が解決しようとする問題点」として「市外電話を行い支払うこれら現在の方法は著しい難点をもっている。例えば通話料がホテルの室の電話機について請求される場合,ホテル側は通話料に経費を加算するため通話にかかる。 。 費用は不釣合なほどに大きくなる公衆電話から長距離通話をすることは極めて困難であるなぜなら大量のコインを必要とするからであり,通常は持っておらず,特に旅行中,或いは業務旅行中そうである。クレジットカードの使用による通話はしばしば誤って電話クレジットカード番号について経費が請求される結果となる。更に電話クレジットを得るためには,クレ, 。 ジットのチェックが必要であり しばしばクレジットの設定を得ることが不可能な場合があるセールスマンも同様にその勤務先に電話をするために客先の電話機を,その通話料について客先に支払うことなく借りることがあるが,このことは不都合であり,またその通話料を勤務先に請求するようにする場合には先述の難点がありまた経費が加算される。従って,市内或いは市外通話を含む電話通話を容易に,安価にかつどの電話機からでもできるようにする方式の必要性が長い間感じられていた。即ち,呼出者が通話をしたいと考えた時,それが市内通話であれ,長距離国内或いは国際通話であれ,もっとも手近の電話機から通話を可能ならしめる(7頁末行〜9頁7行) ような方式である。」ウ「問題点を解決するための手段」として「本発明の広い局面においては,電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され,このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続(9頁9行〜18行) を可能にする手段;とを含む。」エ「実施例」として「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい。支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される。コード及び電話番号は第1図のブロック12に示されている。次いで,取得者が市内電話或いは市外電話をしたい事態が生ずる。取得者,即ち電話使用者は受送話機をはずし,ブロック13及び14に示すように特別の中央局にダイアルする。この場合の電話機は私用電話機であってもよい。特別な中央局(旅行者用電話サービス局)或いは交換局に接続すると,14,特別の発信音がこの特別の中央局或いは交換局から呼出局に送信される。呼出者が,交換局のコンピュータがOKであることを示す特別の発信音を聴きとると,呼出者はブロック14に示すように,本人特定コード及び呼出者の望む相手先番号をダイヤルする。特別の交換局のコンピュータがコードをチェックし呼出者の望む相手先番号を記録する。コード番号が真正のコードであり,クレジットが有効なものであるなら,ブロック18及び19に示すように,相手先の電話機に接続した時に通常の発信音が呼出局に送られる。特別の交換局のコンピュータはもっとも経済的に得られる線を接(11頁17行〜13頁10行) 続する。」オ「発明の効果」として「かくして前払い電話通話のためのいずれの電話機でも使用できるようにした方法が提供され(24頁8〜9行) る。」( )上記( )のア〜オの各記載によれば,当初明細書には,@現金又はクレジッ 32トカードによる支払いにより,あらかじめ,特別のコードと特別交換局(特別の中央局)に接続するための電話番号を取得し,A特別交換局のメモリーに特別のコー(),, , ドとクレジット額 前払い額 が記憶され B次いで 特別交換局にダイアルするという経時的な構成により,前払いでどのような電話機でも使用できるようにした発明,すなわち,クレジット額の「支払 ,特別交換局のメモリーへの特別のコー 」ドとクレジット額の「記憶」という時間的順序でのみ成る発明が記載されているものと認めることができる。 ( )これに対し,原告は,特別交換局のメモリーへの特別のコードとクレジッ4ト額の「記憶」を,クレジット額の「支払」と同時か,それよりも前に行う実施態様は,本件特許出願当時の当業者が,当初明細書の記載から自明に読み取れるものである旨主張するので,以下,この主張について検討する。 アまず,原告は,テレホンカードシステムと対比した上,本件発明は,前払いの額(クレジット額)が記憶される場所を,テレホンカードではなく,電話システム内の「特別交換局」とし,クレジットの確認及びクレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を,電話機ではなく特別交換局にさせるようにしたことが,発明の本質であり,クレジット額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないと主張する。 しかしながら,当初明細書には,テレホンカードシステムの技術を参酌して本件発明を理解すべきであるとする記載も示唆もなく,そもそも,テレホンカードないしテレホンカードシステムについては何らの記載もない。そうすると,たとえ,本件特許出願に係る優先権主張日(昭和60年1月13日)当時,テレホンカードシステム自体が周知であったとしても,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,本件発明を理解すべきものであると考える理由はなく,そうであれば,原告の主張するように,クレジット額が記憶される場所を,電話システム内の「特別交換局」とし,クレジットの確認及びクレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を,特別交換局にさせるようにしたことが,本件発明の本質であり,クレジット額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないことが,当初明細書の記載から直ちに読み取れるものということはできない。 すなわち,明細書又は図面の記載から見て,ある事項が自明であるというためには,ある周知技術を前提とすれば,当業者が,明細書又は図面の記載から,当該事項を容易に理解認識できるというだけでなく,たとえ周知技術であろうと,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であると解すべきである。しかるところ,テレホンカードシステムは,電話利用のために,磁気カード読み取り機能を有する専用の公衆電話機しか使用できないシステムであるから 「どのような電話機でも使用できる」本件発明との間には本 ,質的な相違があるというべきであり,たとえ,前払い方式の課金システムを伴うものであっても,そのことのみによって,かかる示唆があるということはできない。 そうすると,当初明細書に,テレホンカードないしテレホンカードシステムについて何らの記載もない以上,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,本件発明を理解する契機はないといわざるを得ない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 ,,,, 「」 イ次に 原告は 顧客が 特別のコード クレジット額及び電話番号を 取得する前に,メモリーに特別のコードとクレジット額(預託金額)が「記憶」されていることを前提として,クレジット額の「支払」時点とメモリーへの「記憶」時点の関係につき,A態様( 支払」↑「記憶」↑「取得」(↑「電話使用」))とB態 「様( 記憶」↑「支払」及び「取得」(↑「電話使用」))の2通りが理論的にあり 「得るとした上,実施例の記載(上記( )のエ)のうち 「特別の中央局」で取得する2 ,場合には,A態様及びB態様の双方が 「クレジットカード会社」を通じて取得す ,「,, 」, る場合及び 空港 ホテル レンタカー事務所等の販売地点 で取得する場合にはB態様が示唆されていると主張する。 しかしながら,当初明細書上,顧客が,特別のコード,クレジット額及び電話番号を取得する前に,メモリーに特別のコードとクレジット額(預託金額)が記憶されていることが記載されているものと直ちに認めることはできず,原告の上記主張は,その前提を欠くものである。 すなわち,当初明細書には 「顧客・・・は現金或いはクレジットカード支払い ,により特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する(11頁17〜末行。上記( )のエ)との記載があるところ,原告は 「取 。」 ,2得」されるものが「特別のコード,クレジット額及び電話番号」がセットになったものであることを理由に,これらが,セットで「取得」される時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されていることが示されていると主張するが,当初明細書には,顧客が取得する時点で,既に「特別のコード」と「クレジット額」とが一連でメモリーに「記憶」されているとの記載はなく,また,顧客が特別のコード,クレジット額及び電話番号を「セット」で取得するからといって,その取得時に「特別のコード」と「クレジット額」とが,一連でメモリーに「記憶」されていなければならないと考える理由もない。かえって,上記記載を含む,上記( )のエの「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は2現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例,, 。 えば空港 ホテル レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい。」 ・・・クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶されるとの記載は,その文言上 「特別の中央局」で取得する場合 「クレジットカード会 , ,社」を通じて取得する場合及び「空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点」,「」(), で取得する場合のいずれであっても 顧客が 支払 により取得した 購入したそのクレジット額(顧客の個別の支払額)が特別の中央局のメモリーに記憶される,,,「」 ,「」 との趣旨であるものと理解するのが 自然であり したがって取得 も支払とともに,時間的に「記憶」に先立つものであることが記載されているというべきである。 原告は 「クレジット額,電話番号及び本人特定コード(特別のコード 」のセッ , ),「,, 」, トを空港 ホテル レンタカー事務所等の販売地点で購入 した場合においてA態様を採用したとすると,販売員がメモリーへの「記憶」のために「特別の中央局」に連絡するために,セキュリティの確保が困難である上に,多数の連絡が「特別の中央局」に集中して,顧客が上記セットを「取得」できるまでに長時間かかるなどの不都合があると主張するが 上記主張は A態様において メモリーへの 記 ,,,「憶」が,時間的に顧客の「取得」に先立つことを前提とするものであるところ,その前提自体が採用し得ないものであることは上記のとおりである。もっとも,顧客が「支払」及び「取得」をした後に,メモリーへの「記憶」がなされるとしても,当該「記憶」が完了し,クレジットを使用した電話の利用が可能となるまでに,ある程度の時間がかかるなどの不都合が生ずることは予想される。しかしながら,上記( ),( )のとおり,本件発明は,前払いでどのような電話機でも使用できるとい23う効果を奏するものであり,当該効果を享受することのいわば代償として,上記のような不都合を受忍するか否かは,顧客の判断にかかるものであって,上記のような不都合があるからといって,一義的に,本件発明の実施が困難であるとか,不可能であるということはできない。したがって,上記のような不都合があるゆえに,本件特許出願当時の当業者は,当初明細書には 「支払」と「記憶」の時間的前後 ,関係を逆にした発明までが記載されているものと理解するということはできず,原告の上記主張は,いずれにしてもこれを採用することはできない。 なお,当初明細書には,上記( )のエのとおり 「顧客,例えば正規の電話使用者2 ,或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい 」との記載と 「クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局 。,のメモリーに記憶される 」との記載の間に 「支払われた額は取得者のクレジット 。,(),。」,, 信用貸し となり 今後の電話使用ができるとの記載があるが この記載はその前後の記載と併せ読めば,取得者(顧客)の支払額が「クレジット額」となることと,本件発明における電話利用は,その「クレジット額 (信用貸しの額,す」なわち前払い額)を料金に充当することによってなされるとの趣旨であることが明らかであり 「今後の電話使用ができる」と記載されているからといって 「支払」 , ,の直後から,クレジットを使用した電話利用が可能となることを意味するものと解することはできない。 ウ次に,原告は,当初明細書の特許請求の範囲第8項の「特別交換局に接続している間にクレジットを加える手段を有するシステム」という記載が,古い「特別のコード」に対してクレジット額を増加させるという意味ではなく 「特別のコー,ド」は,テレホンカードと同様に,使い捨てであって,各「特別のコード」に対応付ける「クレジット額」を任意に設定できるようにする必要はないから,テレホンカードと同様 定額にして メモリーへの 記憶 を行った後に 販売 購入支 ,,「」,,(「払「取得 )するものと考えるのが,自然であると主張する。 」,」しかしながら,仮に,当初明細書の特許請求の範囲第8項の「特別交換局に接続している間にクレジットを加える手段を有するシステム」という記載が,古い「特別のコード」に対してクレジット額を増加させるという意味ではないとしても,それは 「特別交換局に接続している間」の追加システムに関する上記特許請求の範 ,囲第8項の記載が,そのような趣旨であるというだけのことであり,そうであるか,()「」, らといって 残額が少なくなった あるいは0となった特別のコード に対しクレジット額を増加させるシステムが必然的に否定されることにはならない。もとより,当初明細書に,残額が少なくなった「特別のコード」に対しクレジット額を増加させるシステムを否定するような記載や 「特別のコード」が使い捨てである ,というような記載もない。 したがって,原告の上記主張を採用することもできない。 エまた,当初明細書の特許請求の範囲の第10項には 「利用可能なあらゆる ,呼出局からなされる市外通話を含む電話通話を容易にする電話方式であって;呼出局を特別交換局と接続する手段;特別予約者コードとクレジットの情報を記憶するための,特別交換局のメモリー手段;呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であって,コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び,前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段;とを含む電話システム」との記載があり,発明の詳細な説明の「問題点を解決するための手段」の欄には 「本発明の広,い局面においては,電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され,このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって,呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局に送られるコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び,前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;とを含む(9頁9〜18行)との記載がある 。」ところ,原告は,上記特許請求の範囲第10項の記載は 「支払」と「記憶」につ ,いての時間的順序には関係しない発明を開示するものであり,上記発明の詳細な説明の記載により,当業者は,記憶が支払より先である場合でも,支払が記憶より先である場合でも 「前払い電話通話のためいずれの電話機でも使用できる」という ,本件発明の目的が達成できるものと理解することができるから,いずれの経時的順序も,当初明細書に記載されているものと同視されると主張する。 しかしながら,上記特許請求の範囲第10項の記載が 「支払」と「記憶」につ ,いての時間的順序を規定していないからといって,直ちに,同項に,時間的に「支払」に先立って,所定の預託金額に対し特別のコードを割り当て,これら預託金額と特別のコードの複数組合わせを「記憶」しておくという,原告主張の実施態様を含む発明が記載されているといい得るものではない。また,このことは,上記発明,,「」 「」 の詳細な説明の記載についても同様であって 当該記載が 上記 記憶 が 支払に時間的に先立つ実施態様を含めて発明を開示しているものと解する根拠はない。 したがって,原告の上記主張も失当である。 オさらに,原告は,本件発明が,顧客から見れば,使用可能ないずれの電話機からでもかけられることを除いてテレホンカードと類似したものになり 「クレジ,ット額」も,テレホンカードのように数種類の定額のものが用意されるものと考えるのが自然であると主張する。しかしながら,上記のとおり,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,本件発明を理解するような契機はない,,,「」, というべきであり もとより 当初明細書及び図面にはクレジット額 につき数種類の定額のものが用意される旨の記載があるわけでもない。したがって,上記主張も失当である。 カ以上のとおり,特別な交換局のメモリーへの特別のコードとクレジット額の「記憶」を,クレジット額の「支払」と同時か,それよりも前に行う実施態様が,本件特許出願当時の当業者において,当初明細書の記載から自明に読み取れるものであるとの主張を裏付ける根拠として,原告が挙げる事由はすべて理由がなく,上記主張を採用することはできない。 ( )なお,本件特許出願は,補正について改正前特許法の規定が適用される事5案であり,したがって,補正の適否は,改正前特許法に係る判断基準に従うべきと,,,, , ころ 原告は 審決が 実質的に 本件改正後の規定に基づく判断基準に依拠して補正事項1が,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められないとの,誤った結論に至ったものであると主張する。 しかしながら,審決が,改正前特許法に係る判断基準に従ったものとして 「明,細書の要旨変更」についての判断を行っていることは,例えば,審決が「当審の判断」の部分の冒頭において,章のタイトルとして付した「平成9年5月7日付け手() 」() 続補正 本件補正 が要旨変更に該当するか否かについて審決書9頁5〜6行との記載や,この章の末尾にある「以上・・・検討したとおり,本件補正は,出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められず,明細書の要旨を変更するものである(同13頁37行〜14頁2行)との説示(結語)における表現の仕方などに 。」照らして明らかであり,また,改正前特許法に係る判断基準に従い 「出願当初の,明細書又は図面に記載した事項の範囲内」には,出願時の当業者が当初明細書の記載から見て自明な事項が含まれるということを踏まえて判断したとしても,補正事項1が出願時の当業者が当初明細書の記載から見て自明な事項に当たるといえないことは,上記のとおりであるから,審決の判断は,改正前特許法に係る判断基準に従ったものであって,内容的にも誤りはない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 2結論以上によれば,取消事由2について判断するまでもなく,原告の請求は,理由がないから,棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 高野輝久 |