関連審決 | 訂正2005-39142 異議2002-71331 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成10行ケ230審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10436審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 物の発明 / 製造方法 / 発明特定事項 / 公知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 設定登録 / 訂正審判 / 誤訳の訂正 / 訂正の目的 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10177号
審決取消請求事件
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原告ダイワ精工株式会社 代理人弁理士青木宏義,水野浩司,中村俊郎 被告特許庁長官中嶋誠 指定代理人石井淑久,澤村茂実,唐木以知良,田中敬規 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/12/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が訂正2005−39142号事件について,平成18年3月10日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決。 第2事案の概要本件は,特許権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1特許庁等における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「釣り・スポーツ用具用部材」とする特許第3233576号(請求項の数6。平成8年6月24日に出願,平成11年3月17日及び平成13年7月16日に明細書の補正,同年9月21日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 (2)本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2002-71331号事件として係属),原告は,平成15年9月16日,上記手続において,明細書の訂正(特許請求の範囲の請求項5を削除し,請求項6の項数を繰り上げるとともに,その記載を訂正することを内容とする。)を請求したところ,特許庁は,平成17年6月10日,「訂正を認める。特許第3233576号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との決定をした。 (3)原告は,平成17年8月8日,上記決定に対する取消訴訟(平成17年(行ケ)第10591号事件として係属)の係属中に,明細書の特許請求の範囲について,請求項1を後記2の(3)記載のとおり訂正する旨の訂正審判の請求をした(訂正2005-39142号事件として係属)ところ,特許庁は,平成18年3月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月23日,その謄本を原告に送達した。 2特許請求の範囲の記載(1)平成11年3月17日付補正後のもの(甲3,請求項2以下の記載は省略。)【請求項1】特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており,前記強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。 (2)設定登録時(平成13年7月16日付補正後)のもの(甲5,請求項2以下の記載は省略。下線部分が変更箇所である。)【請求項1】特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており,前記本体部材の表面は研磨されて,前記強化繊維が露出するとともに,前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されていることを特徴とする竿管。 (3)本件訂正審判請求に係るもの(甲8,下線部分が訂正箇所である。)【請求項1】特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており,前記本体部材の表面は研磨されて,前記強化繊維が露出するとともに,前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており,表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。 【請求項2】前記本体部材の表面は,光輝性を示すことを特徴とする請求項1に記載の竿管。 【請求項3】前記本体部材の表面は,鏡面研磨されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の竿管。 【請求項4】前記本体部材の外側に,金属材料又はセラミック材料で構成されている厚さ1ミクロン以下の薄膜を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの項に記載の竿管。 【請求項5】請求項1ないし4のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣り竿。 3審決の理由の概要審決の理由は,別紙のとおりであるが,要するに,訂正事項1(請求項1の訂正)は,その訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法126条5項の規定に適合しないものであり,また,訂正事項2及び3(明細書の段落【0005】及び【0019】の記載の訂正)は,訂正の目的が同法126条1項ただし書のいずれにも該当するものではない,というのである。 第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由審決(審決が引用する平成17年11月30日付で通知した訂正拒絶の理由を含む。以下同じ。)は,平成13年7月16日付手続補正により補正された「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」との補正事項について,当初明細書又は図面に記載されていない事項であって,かつ,当初明細書又は図面の記載から自明であるとも認められないと判断したが,以下のとおり,誤りである。 (1)審決は,「部材本体の表面の研磨をする際に研磨されるのは,部材本体の表面に被着した合成樹脂であって,強化繊維自体が研磨されてなるとは記載されていない。」,また,「「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」との記載の「表面」とは,「部材本体」の表面を意味するものであり,図3に示されている個々の強化繊維については,「微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている」と記載するのみである。また,「研磨された面の強化繊維2には」との記載の「研磨された面」とは,部材本体の研磨された面という意味であって,強化繊維を研磨することで生じる面という意味ではないから,強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。」と説示する。 ア当初明細書には,段落【0008】及び図3に,合成樹脂を被着した後に研磨を施し,その後の強化繊維の表面状態(個々の強化繊維が研磨されている状態)が明示されている。 なお,当初明細書の段落【0007】には,最初に,強化繊維2の表面が粗い状態となるように研磨し,その後,合成樹脂4を被着し,更に,その合成樹脂4を研磨すると記載されているところ,段落【0009】に記載されているバフ研磨や鏡面研磨等によって,合成樹脂4のみを研磨すること,換言すれば,粗い状態となっている強化繊維の表面を全く削ることなくそのまま露出させることは,通常のバフ研磨や,鏡面研磨等の技術常識を考慮すると,不可能である。 イ当初明細書の段落【0008】の記載によれば,「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」との記載の「表面」とは,部材本体に関し,研磨がされて最終的に露出する部分(表面粗さが5μm以下となる部分)であることは明白であり,また,図3には,部材本体の最終形態となる「表面」構造が明示されているのであって,バフ研磨や鏡面研磨等により,個々の強化繊維自体が研磨されることで生じる表面構造にほかならない。 ウしたがって,当初明細書及び図面には,強化繊維が研磨されてなることが記載されているものである。 (2)審決は,「「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」との記載は,強化繊維自体を研磨する製法によって,「平坦部が形成されている,」という「竿管」の表面構造を達成する,「製法により表面構造を特定された物」を記載したものと解される。」とした上,「当初明細書又は図面には,露出する強化繊維自体を研磨する製法が記載されているとは認められないから,「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。」と説示する。 「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」との補正事項は,明らかに,視認可能な外観を呈する最終的な部材本体の露出する強化繊維の表面状態(微視的な表面構造)を示したものでしかなく,製法によって表面状態を特定したものではない。最終的に,露出する強化繊維自体が研磨されており,かつ,研磨された個々の強化繊維表面に平坦部が形成された状態になっていることで,発明の目的が達成されるのである。 したがって,補正事項は,製法に関係がなく,最終的に露出する強化繊維自体の表面構造を特定したものにすぎない。そして,最終的な表面状態に至る,露出する強化繊維自体を研磨する手法として,当初明細書の段落【0009】には,バフ研磨や鏡面研磨等が示されているのである。 2被告の反論「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」との補正事項は,当初明細書又は図面に記載されていない事項であって,かつ,当初明細書又は図面の記載から自明であるとすることもできないから,審決の判断に誤りはない。 (1)「強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。」との説示についてア審決が説示するように,当初明細書には,合成樹脂を被着した後,合成樹脂を研磨することで強化繊維が露出することは記載されているが,強化繊維自体も研磨されるとまでは記載されていない。 イ図1は,表面に合成樹脂を被着した後の状態を表しているような図でありながら,合成樹脂を適用する前のプリプレグの表面を強化繊維が露出するように研磨した時の図と説明する(段落【0007】)など,図面と説明が一致していないし,細い強化繊維が表現され,かつ,強化繊維毎の表面を2つの鋸歯状の突起で表現していることからみて,単に,明細書に記載した工程からなる第1の実施形態についての製造方法をわかりやすく説明し,理解しやすいようにポンチ絵として描かれたものであって,「図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。」(段落【0007】)との記載の「かなり粗い状態」を強調するために強化繊維毎の表面を2つの鋸歯状の突起で表現しているものと解するのが妥当であり,図1に描かれたものにおいて,これから読み取って何らかの主張の根拠とするだけの信頼性も精度もない。図3も,あくまでも釣り・スポーツ用具用部材における表面状態に特に着目して図示したものであって,「研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている」(段落【0008】)という強化繊維の微視的な状態を強調するための単なる模式図であると解すべきものであるから,図1と同様に,これから読み取って何らかの主張の根拠とするだけの信頼性も精度もない。このように,図面は,単なる概念的な模式図にすぎないから,これをもって,合成樹脂を研磨する際に個々の強化繊維自体が研磨されたことを示しているということはできない。 なお,強化繊維自体は研磨されずに合成樹脂を研磨することが可能なことは,別紙審決の3-1(4)で説示するとおりである。 ウしたがって,当初明細書及び図面には,強化繊維が研磨されてなることが記載されていないのである。 (2)「「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。」との説示について「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」との補正事項は,強化繊維自体を研磨という製法で実現し得られる構造,表面状態に特定するものである。 確かに,出願当初(平成11年3月17日付補正後のもの)の請求項1は,「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」という形状,構造そのものを表す記載により竿管表面の構造を特定しようとしていたといえるが,上記補正事項は,拒絶の理由を回避するために,平成13年7月16日付補正の際に導き出された事項であり,上記補正後の請求項1に係る発明は,「軽量で,しかも優れた外観を有する釣り・スポーツ用具用部材を提供することを目的とする」という一定の目的に向けて,「前記露出する強化繊維自体も研磨されて」との研磨工程という製法を,発明を特定するために必要とする事項として備え,その研磨工程の結果として,「研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」ものとなるから,必然的に経時的な要素を包含するものとして記載されているということができるのであって,「製法により表面構造を特定された物」として記載された発明というほかない。そして,当初明細書には,粗研磨を施す工程,樹脂を塗布する工程の後に研磨という工程を順次経由する方法によって,はじめて所望の外観,表面形状の部材本体を得る旨が記載されている(段落【0007】)ものの,各工程を経ることなく,単に研磨という加工の工程で所望の外観,表面形状の部材本体を得る製法については記載されていないことが明らかであり,当初明細書に記載されていない製法により構造を特定した物の発明である上記補正後の請求項1は,当初明細書に記載されていなかったものである。 したがって,当初明細書には,上記補正事項に係る特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」は記載されていない。 第4当裁判所の判断1「強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。」との説示について(1)当初明細書(甲2)には,次の記載がある。 「本発明の釣り・スポーツ用具用部材は,次のようにして製造することができる。例えば,部材本体1が引き揃えられたカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき,図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで,この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。このようにして,強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」(段落【0007】)「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面は,図3に示すような概略形状を有している。すなわち,研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは,1μm程度であるが,5μm以下であれば特に限定されない。なお,窪み部6の幅は,表面の平滑性を考慮すると,平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また,平坦部7においては,装飾性を考慮すると,部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」(段落【0008】)また,図面には,図1に本件発明の釣り・スポーツ用具用部材の一実施形態が示され,図3に本件発明の釣り・スポーツ用具用部材における表面状態が示されている。 (2)上記(1)の記載によれば,図1には,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨して,強化繊維2の表面がかなり粗い状態となった後に,部材本体1の表面上に合成樹脂4を被着した状態が示され,また,図3には,図1のラインAまで研磨して,「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」の概略形状が示されているということができる。そして,段落【0008】の「すなわち,研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは,1μm程度であるが,5μm以下であれば特に限定されない。なお,窪み部6の幅は,表面の平滑性を考慮すると,平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また,平坦部7においては,装飾性を考慮すると,部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」との記載から,図3に記載された「平坦部7」が部材本体の表面の平坦部分を構成していると理解することができる。 そうであれば,図1のラインAまで研磨することにより,かなり粗い状態であった強化繊維2の表面が,微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成された状態になるのであって,図3はこの状態を示しているから,図面を参酌しつつ,明細書全体の記載をみるならば,当初明細書又は図面には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体をも研磨することが記載されているということができる。 (3)被告は,当初明細書には,合成樹脂を被着した後,合成樹脂を研磨することで強化繊維が露出することは記載されているが,強化繊維自体も研磨されるとまでは記載されていないし,図面は単なる概念的な模式図にすぎないから,これをもって,合成樹脂を研磨する際に個々の強化繊維自体が研磨されたことを示しているということはできないと主張する。 ア確かに,当初明細書には,「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」(段落【0007】),「強化繊維2が露出するようにして合成樹脂4を研磨する方法としては,バフ研磨,その他の鏡面研磨等を挙げることができる。」(段落【0009】)と記載されていて,強化繊維自体が研磨されてなるとは記載されていない。しかし,上記(1)のとおり,図面を参酌しつつ,明細書全体の記載をみるならば,当初明細書には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体も研磨することが記載されているということができるのである。 イ上記(2)のとおり,図1には,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨して,強化繊維2の表面がかなり粗い状態となった後に,部材本体1の表面上に合成樹脂4を被着した状態が示されているところ,当初明細書の段落【0007】の「図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。」との記載は,図1が合成樹脂を被着する前のプリプレグの表面を強化繊維が露出するように研磨した時の図であると説明しているのではなく,合成樹脂を被着した後の図である図1においても,合成樹脂4を被着する前の「強化繊維2が露出するように研磨する」工程によって形成された強化繊維2の表面の粗い表面状態が,合成樹脂4と強化繊維2との境界に形成された凹凸として示されていることから,図1を利用して説明したにすぎないのであって,図面と説明とが一致していないわけではない。 また,確かに,図面は,発明の内容を理解しやすくするために,明細書の補助として使用されるものであって,発明の内容を理解するのに十分な程度の正確さと精度があれば足り,設計図面のように詳細かつ厳密なものまでは必要でない。しかしながら,当初明細書の図面の簡単な説明には,図1が断面図,図3が拡大断面図と記載されているから,図3は,図1の部材本体の表面側に位置する(ラインA位置に存在する)強化繊維2とそれに隣接する強化繊維2が存在する部分を拡大した図であると解釈するのがもっとも自然であるところ,上記(2)のとおり,図3は,図1のラインAまで研磨することにより,かなり粗い状態であった強化繊維2の表面が,微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成された状態になることを示していて,合成樹脂を研磨する際に個々の強化繊維自体が研磨されたことを示しているということができるのである。 ウ被告の主張は,図面の記載を顧慮することなく,当初明細書の文言に拘泥して,その趣旨を正解しないものであるといわざるを得ないから,採用の限りでない。 (4)そうであれば,当初明細書又は図面には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体も研磨することが記載されているということができるから,「強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。」とした審決は,誤りである。 2「「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。」との説示について(1)訂正後の請求項1は,上記第2の2(3)のとおりであるところ,「研磨」という工程に格別の意義があるかどうかはともかくとして,露出した強化繊維自体を研磨する製法により,個々の強化繊維表面に平坦部が形成された「竿管」の表面構造を達成するという「製法により表面構造を特定された物」が記載されているということができる。 (2)ところで,審決は,「当初明細書又は図面には,研磨された面に露出した強化繊維には「微視的に見て窪み部および平坦部が形成」される製法として,繊維強化プリプレグを巻回した後にそのプリプレグ表面を強化繊維が露出するように研磨し,強化繊維の表面をかなり粗い状態とし,次いで,合成樹脂を被着して,その後強化繊維が露出するように,被着した合成樹脂を研磨する製法が記載されていて,単に露出する強化繊維自体を研磨する製法が記載されているとは認められない。」と説示する。 製法により特定された物の発明において,製法は,あくまでも物を特定するために記載されているのであるから,当初明細書又は図面に当該発明が記載されているか否かは,発明の対象となっている物が当初明細書又は図面に記載されているか否かで判断されるものであり,審決のような説示は,「繊維強化プリプレグを巻回した後にそのプリプレグ表面を強化繊維が露出するように研磨し,強化繊維の表面をかなり粗い状態とし,次いで,合成樹脂を被着して,その後強化繊維が露出するように,被着した合成樹脂を研磨する製法」により特定された物の発明と「単に露出する強化繊維自体を研磨する製法」により特定された物の発明とが異なるものであるということができて初めて成り立つものである。上記1(1)の当初明細書の記載によれば,当初明細書には,粗研磨を施す工程及び樹脂を塗布する工程の後に研磨という工程を順次経由する方法が記載されているが,これは,「微視的に見て窪み部および平坦部が形成」される製法の一例を示したものであって,粗研磨を施す工程及び樹脂を塗布する工程が発明の対象物となっている物の表面状態を特定するために必須のものであることは何ら記載されていないから,上記2つの物の発明が異なるとする根拠はない。 そして,上記1(2)のとおり,当初明細書又は図面には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体をも研磨することが記載されているから,「単に露出する強化繊維自体を研磨する製法」もまた,当初明細書又は図面に記載されているということができる。 (3)そうであれば,「「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。」とした審決は,誤りである。 3したがって,審決の認定,判断には誤りがあり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の審決取消事由は,理由がある。 第5結論以上のとおりであって,原告の審決取消事由は理由があるから,審決は取り消されるべきである。 |
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(別紙)1訂正拒絶の理由平成17年11月30日付で通知した訂正拒絶の理由の概要は以下のとおりである。 「2.当審の判断2-1.訂正事項1について(1)訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否訂正事項1は,訂正前の請求項1の「個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」との記載の,「強化繊維表面には」と「平坦部」の間に「窪み部および」という記載を追加して,強化繊維表面が「窪み部および平坦部」が形成された形状であることを規定するとともに,訂正前の「形成されている」との記載を「形成されており,表面粗さが5μm以下であること」と,表面粗さの規定を付加したものだから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして訂正事項1は,願書に添付した明細書の段落【0008】「すなわち,研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。」および段落【0007】の「このようにして,強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」と記載されていることに基づくから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (2)独立特許要件について上記訂正事項1に係る訂正は,(1)で検討したように,特許請求の範囲の減縮を目的とするから,次いで,訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし5に記載されている事項により特定される発明が,独立して特許を受けることができるものかどうかを検討する。 訂正後の請求項1ないし5に係る発明は,下記の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており,前記本体部材の表面は研磨されて,前記強化繊維が露出するとともに,前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており,表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。 【請求項2】前記本体部材の表面は,光輝性を示すことを特徴とする請求項1に記載の竿管。 【請求項3】前記本体部材の表面は,鏡面研磨されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の竿管。 【請求項4】前記本体部材の外側に,金属材料又はセラミック材料で構成されている厚さ1ミクロン以下の薄膜を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの項に記載の竿管。 【請求項5】請求項1ないし4のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣り竿。」)訂正後の請求項1の「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個i々の強化繊維表面には窪み部及び平坦部が形成されており,表面粗さが5μm以下である」という発明特定事項は,平成13年7月16日付の手続補正により補正された「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」という補正事項に,「窪み部および」と「表面粗さが5μm以下である」という事項を付加したものである。 そこで,まず,上記補正事項について検討する。 願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「当初明細書又は図面」という。)には,「竿管」の表面の製法について,段落【0007】に「例えば,部材本体1が引き揃えられたカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき,図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで,この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」,同じく段落【0009】に「強化繊維2が露出するようにして合成樹脂4を研磨する方法としては,バフ研磨,その他の鏡面研磨等を挙げることができる。」と記載されている。これらの記載によれば,部材本体の表面の研磨をする際に研磨されるのは,部材本体の表面に被着した合成樹脂であって,強化繊維自体が研磨されてなるとは記載されていない。またその製法によって得られる「竿管」の表面構造については,段落【0008】に記載されているが,当該段落中「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」との記載の「表面」とは,「部材本体」の表面を意味するものであり,図3に示されている個々の強化繊維については,「微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている」と記載するのみである。また,「研磨された面の強化繊維2には」との記載の「研磨された面」とは,部材本体の研磨された面という意味であって,強化繊維を研磨することで生じる面という意味ではないから,強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。 したがって,上記の補正事項は,当初明細書又は図面には記載されておらず,且つ自明な事項であるとは認められない。 )上記補正事項の,「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強ii化繊維表面には平坦部が形成されている」との記載は,強化繊維自体を研磨する製法によって,「平坦部が形成されている,」という「竿管」の表面構造を達成する,「製法により表面構造を特定された物」を記載したものと解される。 当初明細書又は図面では,「竿管」の製法について,前記段落【0007】に,「繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき,図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態になる。次いで,合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂を研磨する(図中ラインAまで)。このようにして,強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」と記載されている。そして,当該製法では,まず,強化繊維が露出するように研磨をするが,この段階で露出した強化繊維の表面はかなり粗い状態であると記載があるのみである。その後「合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂を研磨する」ことで,はじめて,前記段落【0008】に記載のとおり研磨された面の強化繊維に「微視的に見て窪み部および平坦部が形成」されると認められる。 すなわち,当初明細書又は図面には,研磨された面に露出した強化繊維には「微視的に見て窪み部および平坦部が形成」される製法として,繊維強化プリプレグを巻回した後にそのプリプレグ表面を強化繊維が露出するように研磨し,強化繊維の表面をかなり粗い状態とし,次いで,合成樹脂を被着して,その後強化繊維が露出するように,被着した合成樹脂を研磨する製法が記載されていて,単に露出する強化繊維自体を研磨する製法が記載されているとは認められない。 このように当初明細書又は図面には,露出する強化繊維自体を研磨する製法が記載されているとは認められないから,「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。 してみると,上記補正事項は当初明細書又は図面に記載されていない事項であり,且つ同明細書又は図面の記載から自明であるとも認められない。 )請求項2ないし5についてiii請求項2ないし5は請求項1を引用する形式で記載された発明だから,請求項1の発明特定事項をすべて含む発明である。そして上記i)及び)で検討したように,請求ii項1に係る発明は当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない補正事項を含むから,請求項2ないし5にかかる発明も,請求項1に係る発明と同様に当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 )上記i)ないし)で検討したように,平成13年7月16日付でされた補正は,iviii当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。そして,訂正後の請求項1ないし5に係る発明は,上記補正事項に係る「前記露出する強化繊維自体も研磨されて」及び「前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており」という発明特定事項を含むから,同様に当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない補正を含むものであり,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 したがって,その特許出願の願書に添付した明細書又は図面についてした補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1ないし5に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2-2.訂正事項2及び3について訂正事項2及び3は,発明の詳細な説明の記載を,訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものであるが,(1)で検討したように訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正が不適法なものであるから,訂正事項2及び3は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。また,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正のいずれを目的とするものではないことは明らかである。 3.むすび以上のように,上記訂正事項1は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法126条5項の規定に適合しないものであり,また上記訂正事項2及び3は,訂正の目的が同法126条1項ただし書のいずれにも該当するものではないから,本件審判の請求は認められない。」2請求人の主張これに対して請求人は,平成18年1月4日付で意見書及び資料1(小野昌孝・小川弘正共著「複合材料のおはなし[改訂版]」日本規格協会,改訂版,1998年3月27日,121〜123頁),資料2(木下直治監修高沢孝哉編著「表面研磨・仕上技術集成」日経技術図書株式会社,第1版,昭和59年5月20日,333〜336頁),資料3(間宮富士雄他2名「化学研磨と電解研磨」槇書店3〜6頁)を提出し,訂正拒絶の理由は解消された旨の主張をする。 上記意見書の「5.意見の内容(4)新規事項であると判断したことによる反論」において,請求人のする主張の概要は以下イ)〜リ)のようなものである。 イ)繊維強化材は,引き揃えた状態の強化繊維同士の隙間及びその表面にプラスチック材料が充填された状態となったものであります。当初明細書に添付した図面の図1及び図2の断面図からも,強化繊維同士の隙間などにマトリクス材料である合成樹脂が充填された構造は明らかであります。 そして,その表面側は,引き揃えられている強化繊維の断面が円形状(略円形状)である以上,図1及び図2に示す強化繊維2の2段目にあるように,その表面は,強化繊維の上半円部分が凹凸状に連続することから,一定(平坦面)になるということは有り得ません。すなわち,このような状態のプラスチック系複合材料から,強化繊維を露出して表面の合成樹脂のみを研磨し,かつ,表面を平滑又は鏡面状にするということは,一般的な研磨技術に関する常識を考慮した場合,到底不可能であります。 ロ)「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂を研磨する(図中ラインAまで)。」(同【0007】)と記載されているように,強化繊維が露出するようにラインAまで研磨するためには,単に合成樹脂4のみではなく,強化繊維で構成された本体部材をも含めて研磨しなければ強化繊維は露出しません。すなわち,この「合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)」というのは,部材本体の表面を平滑にすることを意味しており,この目的を達成するためには,当然に合成樹脂4のみではなく,強化繊維で構成された本体部材をも含めて研磨しなければなりません。 ハ)合成樹脂のみを研磨したと仮定すると,断面円形(楕円形)の強化繊維がランダムに突出した凹凸表面の部材本体が現出することになります。また,当初明細書の図1に示すように,加工した強化繊維の表面は,かなり粗い表面状態にありますが,この表面の合成樹脂のみを強化繊維が露出するように研磨した場合,強化繊維がさらに突出した凹凸表面の部材本体が現出することになります。これでは,部材本体の表面が平滑にならないばかりか,繊維強化材を巻回成形しただけの全く研磨しない部材本体の表面より粗悪な凹凸表面になってしまいます。よって,合成樹脂を研磨するという解釈は,「表面の平滑性,鏡面化」を前提とする限り無意味であります。 ニ)当初の明細書の段落【0009】には,「強化繊維2が露出するようにして合成繊維4を研磨する方法」として,「バフ研磨,その他の鏡面研磨等」が例示されています。 ここで,「バフ研磨」とは,添付資料2「表面研磨・仕上技術集成木下直治監修,高沢孝哉編著日経技術図書株式会社333〜336頁」のB-1部の上段落にありますように,「バフ加工…(中略)…高速度で回転するバフと加工物との圧力によって金属または非金属の表面を機械的に加工する方法である」とあります。そして,添付資料2のB-1部の下段落にありますように,「バフ加工は…(中略)…その適用範囲は極めて広範囲にわたる。」とあります。このように一般的に知られているバフ研磨をプラスチック系複合材料に施せば,必然的に,強化繊維も研磨されてしまうことから,その表面の合成樹脂のみを削ること,すなわち,強化繊維の表面を露出させるように,かつ,平滑や鏡面状態に研磨状態を制御することは不可能と考えられます。 ホ)添付資料2の334頁のB-2部には,バフ研磨剤を用いて行う狭義のバフ加工の加工機構に関する作用と現象について,「1.研磨材…(中略)…平滑化助長作用。」が説明されています。 この上記作用によって,繊維強化材の表面においても,合成樹脂だけでなく表面に露出している強化繊維自体も研磨されて,部材本体の表面が平滑化されていることは明らかであります。 へ)少なくとも,バフ研磨が「強化繊維自体は研磨せずに合成樹脂を研磨する」製造方法に限定される根拠はないばかりか,請求人は,バフ研磨が「強化繊維自体は研磨せずに合成樹脂を研磨する」方法を採用して平滑に研磨する方法は全く不知であります。 ト)当初明細書の【0009】には,確かに,「強化繊維が露出するようにして合成繊維4を研磨する方法」と記載されていますが,ここでの「露出」は,合成樹脂のみを研磨して強化繊維を露出するのではありません。この部分を含めた一連の記載は,当初明細書の【0007】で製法と構成を説明し,さらに【0008】で具体的な表面の構造を詳細に説明した上で,【0009】に「なお,この場合,」と,【0008】等に記載した構造の具体的な製法として説明しているものであります。したがって,これら一連の記載から当業者の技術常識によれば,強化繊維が削られた状態で「露出」していることは明白であり,その表面(あるいは表面側)にある合成樹脂のみを除去して強化繊維を「露出」させることは,技術常識から大きく逸脱するものであって平滑又は鏡面状の表面を実現することは不可能と思慮致します。 チ)【0008】に記載された「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」とは,その記載の通り,強化繊維における表面を意味しており,この表面は合成樹脂4を研磨することにより強化繊維も研磨されたことにより生じた表面であります。また,図3から明らかなように,強化繊維2に窪み部6及び平坦部7が形成されています。このような記載や図面から,「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」という補正事項が,当初明細書又は図面に記載された事項又はそれらの事項から自明な事項であることは,当業者であれば明らかであります。 リ)「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」という記載は,当初明細書の段落【0007】〜【0009】の記載から当業者により自明な事項であり,この記載により表面構造を特定したものであり,製造工程を特定したものではありません。したがって,「製法により表面構造を特定された物」を記載したという解釈も誤りであります。 3審決の判断3-1訂正事項1について(1)主張イ)について当初明細書では竿管を研磨する技術について,第1の実施の形態に係る段落【0007】〜【0009】にのみ記載されている。その段落【0007】には「繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき,図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで,この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。」と記載されているから,研磨する竿管の最も外周側に位置する強化繊維は,一旦強化繊維の表面をかなり粗い状態とした形状のものが唯一開示されていることになる。そうすると,当初明細書の記載では竿管の最も外周側には,請求人の主張に係る強化繊維の上半円部分が凹凸状に連続する構造が生じることはなく,請求人の主張イ)は,その前提からして妥当なものではないから,主張イ)は容認できない。 (2)主張ロ)について当初明細書の記載は,「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」ものだから,図1のラインAのとおりに合成樹脂を研磨したとすると,部材本体の表面構造は,ラインAに示される輪郭のように合成樹脂が研磨された部分と,ラインAより上に示されていて合成樹脂を研磨した結果,露出する強化繊維からなる部分とからなると認められるものであり,この表面構造は上記の「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」との記載されているとおりの構造と解することができる。そして強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨してなる部材本体の表面と,合成樹脂4を被着する前の部材本体の強化繊維の露出したかなり粗い表面とを比較すると,相当に平滑化されると認められるから,当初明細書の記載と齟齬も認められない。 そして,願書に添付した図面は,そもそも,当該発明の具体的構成を図示してその技術的内容を理解しやすくするため,明細書の補助手段として使用される任意書面であって,明細書の記載を補完するものであり,設計図面に要求されるような正確性をもって図示されるとは限らない。実際,図1も竿管を構成する強化繊維など各部分の寸法が記載されているわけではなく,各部分の寸法の比率やラインAの位置も,当初明細書の実施の形態に係る竿管を忠実に反映したものとする根拠はないから,図1はやはり明細書の記載を補完するものであり,図中ラインAは,強化繊維が露出するように合成樹脂を研磨すること,及び研磨は竿管の断面でみてラインAで示したような表面輪郭を持つようにすることが示されていると解釈すべきものであり,明細書の記載を離れて図1を根拠として強化繊維が研磨されているとの主張は妥当ではない。 (3)主張ハ)について当初明細書の記載では,加工した強化繊維の表面は段落【0007】に記載されているようにかなり粗い表面状態にあり,その上に被着した合成樹脂を,「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。」というものである。図面は,上記(2)にて検討したように設計図面のような正確性を有するものではないが,そうであっても竿管の断面でみてラインAで示したような表面輪郭を持つように合成樹脂を研磨するものと解される。これに対して請求人の主張ハ)では,強化繊維のかなり粗い表面状態のとおりに合成樹脂を研磨した状態を前提とすると解される。しかし,このような前提は当初明細書における合成樹脂の研磨に関する唯一の記載内容と異なり,当初明細書の記載に基づくものとはいえないから,主張ハ)は妥当なものとはいえない。 (4)主張ニ)について当初明細書には「合成樹脂4を研磨する方法としては,バフ研磨,その他の鏡面研磨等」(段落【0009】)と記載されており,研磨する方法はバフ研磨及び鏡面研磨に限定されるものではない。 一方で,釣り竿の加工に関する技術について,本願出願前に頒布された特開平6-327380号公報(以下「刊行物1」という。)には,「……図5に示すように,研磨材8の層内に竿素材5を装入して,研磨材8に振動によって流動性を与え,研磨材8と竿素材5との相対運動によって研磨加工を施すようにしてある。 研磨材8としては,粒状でプリプレグ4の熱硬化性樹脂3の硬度より高硬度であって,強化繊維2より低硬度の研磨材8を使用する。 このような仕上げを施した竿素材5の表面状態は,図6に示すように,樹脂3の間より強化繊維2が突出している。この突出状態は,樹脂3がその断面の全体を突出させる状態ではなく,断面の一部を突出させている。したがって,樹脂3と強化繊維2との一体化状態は損なわれてはなく,それだけ,強度上は十分である。しかも,強化繊維2はその引き揃え(配向)状態を維持して,その竿素材5の略全長に亘って切断されない連続状態にあり,強化繊維2としての強化機能を発揮している。……」(3頁4欄27〜42行)と記載されている。この技術によると,強化繊維はその引き揃え(配向)状態を維持して,その竿素材の略全長に亘って切断されない連続状態にあるとともに,樹脂の間より強化繊維が突出している状態であるから,「強化繊維自体は研磨されずに合成樹脂を研磨する」製造方法は公知の技術といえる。 上記の,本件出願時点の公知技術及び研磨に関する技術常識を勘案すると,「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」ことは不可能とはいえず,上記の主張は妥当なものではない。 (5)主張ホ)について請求人の提示する資料2第334頁21〜25行にはバフ研磨の研磨機構に関する作用と現象として,下記の1.ないし3.(以下「作用1ないし3」という。)が記載されている。 「1.研磨材(砥粒)による研磨(切削)作用。 2.加工時に作用する圧力と研磨熱によって加工物表面に塑性変形ないし溶融現象を起こして平滑化をもたらす作用。 3.研磨熱と研磨圧力の存在下で主としてバフ研磨剤中の媒体(脂肪酸など)と金属表層とが反応し,除去されやすい化合物を生成する化学変化による平滑化助長作用。」そこで,繊維強化材をバフ研磨すると,これらの作用でどのような表面構造となるかについて以下で検討する。 作用1の研磨(切削)作用は,使用する研磨材の硬度に依存する事項と解されるが,上記刊行物1に記載のように,研磨材としては,プリプレグの熱硬化性樹脂の硬度より高硬度であって,強化繊維より低硬度の研磨材を選択すれば,バフ研磨であっても,「強化繊維自体は研磨されずに合成樹脂を研磨」し得ると推認されるから,バフ研磨では強化繊維自体は研磨されずに合成樹脂を研磨することが不可能とはいえない。 次に,作用2についてみると,作用2は研磨する材料が圧力と熱によって塑性変形ないし溶融現象を生じる材料であることが前提条件と解されるが,本件特許発明では「強化繊維」と記載されていて,塑性変形ないし溶融現象を生じる材料に特定されておらず,実施の形態において強化繊維として記載されているカーボン繊維も,周知のように炭素化,黒鉛化された繊維であることから,加圧,加熱で塑性変形,溶融現象を起こす材料とは認められず,作用2が生じないことは明らかといえる。 さらに作用3についてみると,研磨する表層が金属表層であることを前提とする作用と解される。 しかし,本件特許発明は「強化繊維」は表層が金属表層という特定はなく,また実施の形態における強化繊維はカーボン繊維だから,作用3は生じないことは明らかである。 このように,資料2をみても,合成樹脂だけでなく表面に露出している強化繊維自体も必然的に研磨されて,部材本体の表面が平滑化されるものとは認められず,請求人の主張を立証するものではなく,上記の主張は妥当なものとはいえない。 (6)主張ヘ)について主張ヘ)のように,「バフ研磨」が「強化繊維自体は研磨されずに合成樹脂を研磨する」製造方法に限定される根拠はないといくら主張しても,当初明細書には「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。」と,合成樹脂を研磨することが明記されている。そして,バフ研磨は,請求人の提示した上記資料2の334〜336頁1.3「バフ加工作業」の記載によると実際のバフ加工では,加工物の性状に応じて,バフ,バフ研磨剤,バフ研磨機等を選択または選定することが技術常識といえるから,当初明細書の竿管の研磨に関する記載は,上記のバフ研磨の技術常識を勘案すると「〜被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。」ことができるように,バフ研磨の様々な条件を選択し適用したものといえる。 そして,上記(5)で検討したように研磨材の選択によっては,バフ研磨により「強化繊維自体は研磨されずに合成樹脂を研磨」することが可能と推認されるから,この点からも主張ヘ)は妥当なものではない。 (7)主張ト)について当初明細書において「表面粗さが5μm以下である表面」とは,段落【0007】に「繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する……部材本体1の表面上にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。 このようにして,強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」と記載されていることからみて,部材本体の表面であることは明らかである。 したがって,段落【0008】の「研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。」という記載の,「研磨された面」とは,被着した合成樹脂を研磨した結果,得られる面であると解するのが妥当である。 また,上記(2)において検討したように,図面は明細書の記載を補完するもので,必ずしも設計図面とはいえないものである。「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下」である表面についての図面である図3は,「概略形状」と明記されていて図1のラインAまで研磨した後の忠実な拡大図面ではなく,概念的に部材本体の表面を示しているに過ぎない。当初明細書の記載から「表面粗さが5μm以下である表面」とは前記したとおり部材本体の表面状態を説明しているし,そのように解釈しても矛盾も無く,「表面」とは個々の強化繊維表面と明示する記載もない以上は,図面を根拠に,「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」という概念を導き出すことはできない。 また,上記(1)〜(6)において検討したように,強化繊維自体が研磨されたことは当初明細書及び図面の記載から自明な事項とは認められない。 以上のとおり,主張ト)は容認できない。 (8)主張チ)について上記(2)で検討したように,当初明細書の段落【0007】の記載からは,強化繊維が研磨されているとは認められない。また,段落【0008】においても部材本体の表面については,「研磨された面の強化繊維には,微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成されている」と記載されているのみであって,「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維には平坦部が形成されている」とは記載されていない。そして,段落【0009】も「強化繊維2が露出するようにして合成樹脂4を研磨する方法としては〜」と記載されているから,段落【0007】の記載と本質的に同様のものであり,やはり強化繊維が研磨されているとは認められない。 請求人は,これらの段落の記載に加えて,「当業者の技術常識」なるものを根拠にして上記の主張をするが,上記(4)ないし(6)で検討したように,本件出願前の公知技術及び添付資料2から把握されるバフ研磨の技術常識を勘案すると,当初明細書の記載からは,強化繊維が削られた状態で「露出」していることが明白であるとは認められず,合成樹脂のみを除去して強化繊維を「露出」させることは,技術常識から大きく逸脱するとも認められないから,主張チ)は妥当ではない。 (9)主張リ)について当初明細書において,竿管表面の形状,構造を形容した記載として,「強化繊維が露出する」,「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」という記載が存在し,また強化繊維表面の形状,構造については,「強化繊維2には,微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成されている」という記載が存在する。 しかし,上記補正事項に係る特許請求の範囲請求項1では,当初明細書の上記の形状,構造そのものを表す記載のみで竿管表面の構造を特定するのではなく,「本体部材の表面は研磨されて,前記強化繊維が露出する」,また「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」という記載により特定するものである。これらの記載は,「強化繊維が露出する」状態が,「研磨」することによって形成されるものであることを規定し,また強化繊維表面の「平坦部」が,やはり露出する強化繊維自体が「研磨され」た結果として形成されたものであることを,特許請求の範囲において規定したものと解される。 竿管表面の「強化繊維が露出する」,「個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」るという形状,構造自体は,「研磨」という製法に限ることなく,様々な製法によって製造しうると解されるものであるが,本件発明では様々な製法の中で「研磨」に特定することによって,竿管表面の形状,構造をさらに特定しているものであり,「製法により表面構造を特定された物」と解するのが特許請求の範囲の記載に則った解釈である。 そうすると,上記補正事項の「前記露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」とは,「研磨」という製法により,「個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」るとの記載である。一方で当初明細書には,上記(1)で検討したように「繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき,図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで,この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」(段落【0007】)という一連の工程を経る製法により,「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」とすることのみが記載されているから,上記補正事項は当初明細書に記載されていない事項であり,自明な事項とすることもできない。 したがって,主張リ)についても認められない。 (10)まとめ上記(1)ないし(9)で検討したように上記意見書にて請求人のする主張は認められないものであり,また意見書に添付された資料1ないし3をみても,平成13年7月16日付でされた補正に係る「前記露出する強化繊維自体も研磨されて」及び「前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」という事項は,当初明細書又は図面に記載されたものとは認められない。そして,訂正後の請求項1ないし5に係る発明は,上記補正事項を包含する「前記露出する強化繊維自体も研磨されて」及び「前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており」という発明特定事項を含むから,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正したものではない。 したがって,その特許出願の願書に添付した明細書又は図面についてした補正は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1ないし5に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3-2訂正事項2及び3について上記3-1で検討したように訂正事項1に係る訂正は認められないから,訂正事項2及び3は,明細書の記載を特許請求の範囲に整合させるものではなく,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとは認められず,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正のいずれを目的とするものではないことは明らかである。 4むすび以上のように,上記訂正事項1は,その訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法126条5項の規定に適合しないものであり,また上記訂正事項2及び3は,訂正の目的が同法126条1項ただし書のいずれにも該当するものではない。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 高野輝久 |
裁判官 | 佐藤達文 |