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関連審決 無効2003-35369
関連ワード 創作性(創作) /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及効 /  遡及 /  抵触 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  要旨変更 /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10206号 審決取消請求事件
原告大 昭和精機株式会社
訴訟代理人弁護士比嘉廉丈
同 筒井豊
同弁理士蔦田璋子
同 蔦田正人
同 中村哲士
同 富田克幸
同 夫世進
被告株 式会社日研工作所
訴訟代理人弁理士安田敏雄
同 吉田昌司
同 安田幹雄
同 山本淳也
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/12/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2003-35369号事件について平成18年3月23日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「工具ホルダー取付装置」とする特許第2571325号発明(平成4年4月14日特許出願,平成8年10月24日設定登録。以下「本件特許」といい,その出願を「本件出願」という。)の特許権者である。
被告は,平成15年9月3日,本件特許を無効とすることにつき審判請求をし,同請求は,無効2003-35369号事件(以下「本件審判事件」という。)として特許庁に係属した。特許庁は,本件審判事件につき審理した上,平成16年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をした。
被告は,前審決の取消しを求める訴え(当庁平成17年(行ケ)第10317号)を提起したところ,平成17年9月13日,前審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)が言い渡され,これに対し,原告において,上告及び上告受理の申立てをしたが,平成18年1月19日,上告棄却及び不受理の決定がされ,前判決は確定した。
前判決の確定を受けて,特許庁は,本件審判事件について更に審理した上,同年3月23日,「特許第2571325号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年4月4日,その謄本が原告に送達された。
2平成7年3月17日付け及び平成8年2月21日付け手続補正書(以下,平成8年2月21日付けの手続補正を「本件第2補正」という。)によって補正された明細書(甲10,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の要旨【請求項1】回転又は非回転主軸(以下,主軸という)1に設けたテーパ孔2に,鍔部5を有する工具ホルダー3のテーパシャンク部4を嵌合して主軸1に工具ホルダー3を取付けるようにした工具ホルダー取付装置であって,主軸1のテーパ孔2及びこれに嵌合される工具ホルダー3のテーパシャンク部4の最大径D,主軸側端面1aとこれに対向する鍔部端面5aとの間の許容の対向間隙Yが工業規格で定められた数値の範囲内で製作される工具ホルダーの取付装置において,上記主軸側端面1aと,これに対向する鍔部端面5aとの夫々を,工業規格で定められた許容の製作誤差Δiの数値より多く延出すると共に,両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の範囲内で,互いに対向方向に延出して夫々延出端面1b,5bに形成し,しかして,両延出端面1b,5bが互いに吻合するようにして,主軸1に工具ホルダー3を取付けることが可能となっている工具ホルダー取付装置。
3本件審決の理由本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,( )本件第2補正は,本件出1願の願書に最初に添付した明細書等(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてされておらず,明細書の要旨の変更に当たるので,本件出願は,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条(以下「特許法旧40条」という。)の規定により,本件第2補正に係る手続補正書を提出した時である平成8年2月21日(注,審決謄本8頁第4段落に「平成8年8月21日」とあるのは明白な誤記と認め,以下,誤記訂正がされたものとして引用する。)にしたものとみなされるところ,本件発明は,本件出願についての公開特許公報である特開平5-285715号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,また,( )本件特許は,平成5年法律第226号による改正前の特許法36条4項(以下「特許法旧36条4項」という。)及び同条5項2号(以下「特許法旧36条5項2号」という。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,本件特許は無効にされるべきものであるとした。
第3原告主張の審決取消事由本件審決は,本件第2補正が当初明細書等の要旨変更に当たると誤認して(取消事由1),その遡及効を否定し,ひいては,本件発明の進歩性を否定し,特許法旧36条4項及び同条5項2号の記載要件についての判断を誤り(取消事由2,3),その結果,本件特許が無効であるとの誤った結論を導き出したものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(当初明細書等の要旨変更の誤認等)( ) 本件審決は,前判決の認定判断に従って,「当初明細書等には,対向間隙1Yと両端面からの突出量α1,α2が『α1+α2=Y』の関係にあることが記載されており,前記対向間隙Yは,テーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が密着嵌合した状態における間隙を意味するというべきであるから,本件出願当時上記技術常識(注,後記の本件技術常識)が存在したとしても,当初明細書等に『α1+α2請求の範囲請求項1には,『α1+α2変更に当たるというべきである。」(同8頁第4段落)と判断したが,誤りである。
当業者にとって自明のJIS規格に関する事項及び本件審決が指摘する上記技術常識に照らせば,本件第2補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり,当初明細書等の要旨の変更には当たらない。
すなわち,当初明細書等に記載された「対向間隙Y」は,JIS規格により規格化されたものであるところ,そのJIS規格である「JISB6339(マシニングセンタ-ツールシャンク及びプルスタッド)」(甲7),「JISB6340(マシニングセンタ-主軸端の形状・寸法)」(甲8),「JISB0616(円すいはめあい方式)」(甲9,以下,それぞれ「甲7文献」〜「甲9文献」という。)をみると,当初明細書等に記載された「対向間隙Y」と同じ概念であるJIS規格における対向間隙yの記載がある。ところで,上記対向間隙yは,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部が密着嵌合している状態ではなく,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接している状態での対向間隙を表している。
一方,本件審決が指摘するとおり,「主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させる際に,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接する状態から,工具ホルダーを主軸奥側に引き込み,工具ホルダーを主軸奥側に移動することにより,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合させることは本件出願時の技術常識である。」(審決謄本7頁第2段落,以下「本件技術常識」という。)。
このように,当初明細書等の「対向間隙Y」が,規格化された許容の対向間隙,すなわち,JISにより規格化された対向間隙であるとすると,当初明細書等の「対向間隙Y」において,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部とが接している状態から両者を密着嵌合させるためには,工具ホルダーのテーパシャンク部を主軸のテーパ孔の奥側に引き込む必要があり,そのためには,所要の引き込み量が確保されていなければならない。
「対向間隙Y」がJIS規格における規格化された対向間隙yと同じ概念であるとすれば,当初明細書等の「対向間隙Yは,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合する前の接する状態における間隙を意味する」ものと解すべきであり,本件審決のように,「対向間隙Yは,テーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が密着嵌合した状態における間隙を意味する」ものと解すると,JIS規格において示されている「対向間隙y」の数値と明らかに矛盾し客観的真実に反することになる。
したがって,対向間隙Yは,両端面からの突出量の合計(α1+α2)より大きいものでなければならないことが明らかであって,工具ホルダー取付装置の両端面からの突出量の合計(α1+α2)が両端面間の対向間隙Yに一致するとした本件審決の判断は,誤りである。
( ) その他,本件審決は,「上記技術常識(注,本件技術常識)については・2・・弾性変形による移動量もわずかであることから,当初明細書等がこのわずかな移動量を考慮して『対向間隙Y』と『所要の突出量』を定めていると直ちにいえるものではない。」(審決謄本7頁第3段落),「当初明細書等には,上記技術常識の存在はもとより,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部4を密着嵌合させる際に,弾性変形による移動量が発生する旨の記載は一切なく,またこのような移動量が発生することを前提とする記載もない。」(同段落),「実施例にも『α1+α2=Y』の関係が示されているにすぎず,弾性変形による移動量が考慮されている形跡はない。」(同段落)などと説示しているが,いずれも,JIS規格及び本件技術常識に照らすと,誤りであることが明らかである。
( ) 本件審決は,本件第2補正が当初明細書等の要旨の変更に当たることを前3提に,本件出願が本件第2補正に係る手続補正書を提出した時にしたものとみなされるとした上で,本件第2補正前に頒布された本件出願の公開特許公報である引用例1(甲1)に記載された引用発明1から容易に発明をすることができたものであるか否かを検討している。
しかし,上記( )のとおり,本件第2補正は,当初明細書等の要旨を変更1するものではないから,本件出願が本件第2補正の時にしたものとみなされるとする本件審決の判断は,前提において誤りであり,引用例1は,本件出願日より前に頒布されたものではないから,これを引用発明として容易想到性の判断をすることはできない。
( ) 被告は,本件審決の,本件第2補正が当初明細書等の要旨の変更に当たる4とした判断は,前判決の判示に基づくものであり,確定した取消判決の拘束力に従ったものであるから,本件審決の判断に違法はない旨主張する。
しかし,本件は,特定の引用例との対比における発明の進歩性に関する審決取消判決がされた後の再度の審理・審決に対する拘束力が問題となる事案ではない。そして,最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁は,原判決に関して,「本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かを認定判断する際の独立した無効原因たり得るものとして,あるいは第二引用例を単に補強するだけではなくこれとあいまって初めて無効原因たり得るものとして,検討されているのでなく,原判決は,第二引用例を主体として,本件発明の進歩性の有無について認定判断をしているものにほかならない。」と判示しているから,その反対解釈として,引用例を単に補強するだけではなく,これとあいまって初めて無効原因たり得る場合には,前判決の拘束力の問題は生じないことになる。
本件についてみると,甲7〜9文献は,いずれもJIS規格であり,本件出願当時の技術常識あるいは周知慣用の技術事項を証明し,ひいては,本件審決の判断の誤りを主張立証する資料であって,引用例1を単に補強するだけでなく,これとあいまって初めて無効原因たり得る場合に該当するから,前判決の拘束力の問題は生じないことになる。また,審判段階での主張立証を繰り返し,補強し,又は,蒸し返すものでもない。
したがって,本訴において,甲7〜9文献に基づく原告の主張立証は,許されるべきである。
2取消事由2(特許法旧36条4項の記載要件の判断の誤り)本件審決は,前判決のなお書の部分を前提として,「特許明細書等には,前記両延出端面1b,5bをどのように吻合させるかについて記載されていないから,当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的,構成及び効果を記載したものとすることができない」(審決謄本11頁下から第2段落)ことを理由に,本件特許は特許法旧36条4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると判断したが,誤りである。
上記1( )のとおり,規格化された対向間隙である「対向間隙Y」について,1本件審決のように,「対向間隙Yは,テーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が密着嵌合した状態における間隙を意味する」ものと解することなく,「対向間隙Yは,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合する前の接する状態における間隙を意味する」ものと解すると,上記の接する状態から工具ホルダーのテーパシャンク部を所定量主軸のテーパ孔の奥側へ引き込むことにより,テーパシャンク部をテーパ孔に密着嵌合させて,両延出端面を吻合させることが可能であるとともに,引き込む量は任意であり設計事項である。
そうすると,前記両延出端面1b,5bをどのように吻合させるかが記載されるまでもなく,当業者が容易にその実施をすることができるから,特許法旧36条4項の記載要件違反に当たらない。
3取消事由3(特許法旧36条5項2号の記載要件の判断の誤り)上記2と同様,「対向間隙Yは,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合する前の接する状態における間隙を意味する」ものと解すると,上記の接する状態から工具ホルダーのテーパシャンク部を所定量主軸のテーパ孔の奥側へ引き込むことにより,テーパシャンク部をテーパ孔に密着嵌合させて,両延出端面を吻合させることが可能であるとともに,引き込む量は任意であり設計事項であるとするならば,両延出端面1b,5bをどのように吻合させるかは,明記するまでもなく明らかな事項である。
したがって,本件特許は,特許法旧36条5項2号の記載要件違反には当たらない。
第4被告の反論本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(当初明細書等の要旨変更の誤認等)について( ) 原告は,本件第2補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内において 1されたものであり,当初明細書等の要旨の変更には当たらないから,明細書の要旨の変更に当たるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,本件審決の上記判断は,「補正が当初明細書等の要旨の変更にあたる」とされた前判決の判示に基づくものであり,確定した取消判決の拘束力に従ったものであるから,本件審決の判断に違法はない。
( ) 原告は,「対向間隙Y」がJIS規格における規格化された対向間隙yと2同じ概念であるとして,当初明細書等の「対向間隙Yは,主軸のテーパ孔に工具ホルダーのテーパシャンク部を密着嵌合する前の接する状態における間隙を意味する」ものと解すべきであり,本件審決のように,「対向間隙Yは,テーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が密着嵌合した状態における間隙を意味する」ものと解すると,JIS規格において示されている「対向間隙y」の数値と明らかに矛盾し客観的真実に反する旨主張する。
しかし,本件第2補正の問題点は,弾性変形の範囲内のものを,弾性変形の範囲外のものまで含むように拡張する補正をしたことにある。前判決は,この点について,「さらに,本件明細書等の記載によれば,本件発明は,例えば『対向間隙Yが3mm,延出量αがそれぞれ0.5mm』のものも含み得ることになり,この場合,本件審決の認定した技術常識を前提とすれば,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態から密着嵌合する際に,工具ホルダーは2mmも移動することになる。しかしながら,審決も弾性変形による移動量は『わずか』であるとし,甲14でも主軸の引き込み前の隙間は0.02mmであるとされているように,2mmという移動量は弾性変形によるわずかな移動量とは到底いえないものである。そうすると,本件明細書等における『対向間隙Y』を主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態における間隙であると理解することは困難である。以上によれば,本件明細書等における『対向間隙Y』も,当初明細書等における『対向間隙Y』と同様,主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態における対向間隙を意味するのではなく,テーパ孔とテーパシャンク部が密着嵌合した状態における対向間隙を意味するというべきである。」(前判決26頁下から第2段落〜27頁第1段落)と判示し,本件発明が弾性変形の範囲外の技術であることを明らかにしている。
ところが,甲7〜9文献に示されるものは,すべて弾性変形の範囲内のものであって,弾性変形範囲内の証拠である甲7〜9文献により,弾性変形の範囲外の技術を論ずることはできない。
2取消事由2(特許法旧36条4項の記載要件の判断の誤り)について本件審決の特許法旧36条4項の記載要件についての判断は,前判決の判示事項に基づくものであり,確定判決の拘束力に従ったものであって,それがなお書きの部分であるとしても,本件審決の判断に違法はない。
3取消事由3(特許法旧36条5項2号の記載要件の判断の誤り)について本件審決の特許法旧36条5項2号の記載要件についての判断も,上記2と同様であり,本件審決の判断に違法はない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(当初明細書等の要旨変更の誤認等)について( ) 原告は,本件第2補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内において1されたものであり,当初明細書等の要旨の変更には当たらないから,当初明細書等の要旨の変更に当たるとした本件審決の判断は誤りである旨主張するのに対し,被告は,本件審決の上記判断は,「補正が当初明細書等の要旨の変更にあたる」とされた前判決の判示に基づくものであり,確定した取消判決の拘束力に従ったものであるから,本件審決の判断に違法はない旨主張するので,前判決が確定するまでの経緯についてみると,当事者間に争いのない前記第2の1の事実,証拠(甲11〜13)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりである。
ア被告は,平成15年9月3日,本件発明を無効とすることについて審判請求をした。被告主張の無効理由は,以下のとおりであった。
(ア) 本件第2補正は,当初明細書等の要旨を変更するものであるから,本件出願は,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされ,その結果,本件発明は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである(以下「無効理由1」という。)。
(イ) 本件特許は,特許法旧36条4項,同条5項1号又は同条5項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下「無効理由2」という。)。
イ特許庁は,上記請求を無効2003-35369号事件として審理した結果,無効理由1については,本件第2補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内の事項であるから,当初明細書等の要旨の変更に当たらないとし,また,無効理由2のうち,@特許法旧36条4項違反の点については,本件出願時の技術常識であるから,当初明細書等の発明の詳細な説明には,当業者が本件発明を容易に実施することができる程度に記載されていないとすることはできない,A同条5項1号違反の点については,当初明細書等の発明の詳細な説明に記載したものである,B同条5項2号違反の点については,明記するまでもなく明らかな事項であるから,当初明細書等の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないとすることはできないとして,平成16年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との前審決をした。
ウ被告は,前審決の取消しを求める訴え(当庁平成17年(行ケ)第10317号)を提起し,平成17年9月13日,前審決を取り消す旨の前判決が言い渡された。前判決の認定判断は,無効理由1について前審決の認定判断が誤っているというものであり,その内容は,以下のとおりであった。
(ア) 当初明細書等に記載された工具ホルダー取付装置の両端面からの突出量の合計(α1+α2)は,両端面間の対向間隙Yに一致すると理解すべきである一方,当初明細書等に,「対向間隙Y」が主軸のテーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が接する状態における間隙であることを示唆する記載は存在しないので,当初明細書等には,対向間隙Yと両端面からの突出量α1,α2が「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されている。
(イ) 他方,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「α1+α2(ウ) したがって,本件第2補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではなく,当初明細書等の要旨の変更に当たるというべきであり,そうすると,本件出願は,本件第2補正に係る手続補正書を提出した時にしたものとみなされるから,本件第2補正が当初明細書等の要旨の変更に当たらないとした前審決の判断は誤りである。
エ原告は,前判決を不服として上告及び上告受理の申立てをしたが,平成18年1月19日,上告棄却及び不受理の決定がされ,前判決は確定した。
( ) ところで,特許無効審判事件についての本件審決の取消訴訟において審決2取消しの判決が確定したときは,審判官は,特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行って審決をすることになるが,審決取消訴訟は,行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文のみならず,判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対しても及ぶものと解すべきであるから,審判官は,上記事実認定及び法律判断に抵触する認定判断をすることは許されないものである(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。そして,このことは,本件のように,特許法旧40条の規定の適用をめぐり,補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるか否かについてされた審決取消しの確定判決についても同様である。
この点について,原告は,本件は,特定の引用例との対比における発明の進歩性に関する審決取消判決がされた後の再度の審理・審決に対する拘束力が問題となる事案ではなく,本件出願当時の技術常識あるいは周知慣用の技術事項を証明し,ひいては,本件審決の判断の誤りを主張立証するものであって,引用例1を単に補強するだけでなく,これとあいまって初めて無効原因たり得るものであるから,前記最高裁判決の射程には入らず,前判決の拘束力の問題は生じない旨主張する。
しかし,行政事件訴訟法33条1項は,「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」と規定しており,「処分又は裁決を取り消す判決」に格別の限定を付しているわけではないから,上記最高裁判決が,発明の進歩性に関する取消判決を対象にしているからといって,その射程が発明の進歩性に関する取消判決に限られるものではなく,特許法旧40条の規定の適用をめぐり,補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるか否かについてされた前判決についても拘束力が及ぶことは,上記のとおりである。
そうすると,本件第2補正が当初明細書等の要旨の変更に当たるとした前判決について,新たな証拠を提出して当該判断を争うことは,再度,確定した取消判決の拘束力が及ぶ判断事項を蒸し返えそうとするものにほかならず,許されないものというべきである。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
( ) 本件についてみると,上記( )ウ認定の事実によれば,前判決は,@当初 3 1明細書等には,対向間隙Yと両端面からの突出量α1,α2が「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されていること,A他方,本件特許請求の範囲請求項1には,「α1+α2変更に当たること,Cそうすると,本件出願は,特許法旧40条の規定により,本件第2補正に係る手続補正書を提出した時にしたものとみなされるから,無効理由1についての前審決の認定判断は誤りであると判断したことが明らかであり,上記認定判断は,前審決を取り消す旨の前判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断であったことが明らかである。
そうすると,確定した前判決の拘束力は,上記事実認定及び法律判断に及ぶものというべきである。
( ) 一方,本件審決は,無効理由1について,次のとおり認定判断した。
4ア当初明細書等には,対向間隙Yと両端面からの突出量α1,α2が「α1+α2=Y」の関係にあることが記載されており,前記対向間隙Yは,テーパ孔と工具ホルダーのテーパシャンク部が密着嵌合した状態における間隙を意味するというべきであるから,本件出願当時上記技術常識が存在したとしても,当初明細書等に「α1+α2請求の範囲請求項1には,「α1+α2変更に当たる。
イそうすると,本件出願は,特許法旧40条の規定により,平成8年2月21日にしたものとみなされるところ,本件発明と引用発明1を対比すると,本件発明においては,「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の範囲内」(すなわちα1+α2容易に発明をすることができたものと認められるので,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
( ) したがって,本件審決中,本件第2補正についての判断は,確定した前判5決の上記拘束力に従って,当初明細書等の要旨の変更に当たるとしたものであることが本件審決の記載自体から明らかであるから,原告は,この認定判断について,違法であるとして非難することはできない。
そうすると,平成6年法律第116号附則6条1項及び平成5年法律第26号附則2条2項の適用を受ける本件出願は,特許法旧40条の規定により,本件第2補正に係る手続補正書を提出した時,すなわち平成8年2月21日にしたものとみなされる。
( ) そこで,本件発明の引用発明1に基づく容易想到性について検討する。
6ア引用例1(甲1,本件発明に係る当初明細書等)の【実施例】欄には,「図1は本発明の一実施例たる工具ホルダー取付装置を示すものであって,主軸1に設けたテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4を嵌合させると共に,図2にも示すように,上記主軸1の既存の基準端面1aと,これに対向する工具ホルダー3の既存の鍔部端面3aとを,互いの対向方向に所要の突出量α(通常規格における対向間隙Yの2分の1)延出して延出端面1b,3bを形成し,両延出端面1b,3bを互いに吻合させている。この突出量αは,両者同一であることが好ましいが,必ずしもその必要はなく互いの突出量αが異なっていてもよい。なお,鍔部端面3aは工具ホルダー3のマニピュレータ保持用鍔部5に形成される。上記構成によれば,主軸1のテーパ孔2に工具ホルダー3のテーパシャンク部4が密着嵌合すると同時に,主軸1の延出端面1bに工具ホルダー3の延出端面3bが密着するように特殊な精密加工を施しているため,切削負荷を両延出端面1b,3bでも受けるようになり,テーパ孔2とテーパシャンク部4との間に切削負荷が集中してかかることがないから,そのテーパ孔2とテーパシャンク部4との密着面がフレッティングコロージョン現象等により磨耗される恐れがない。ここで具体的寸法の一例を示すと,JIS規格の呼び番号BT50では,テーパ孔2及びテーパシャンク部4の最大径Dが69.850mm,テーパ孔2の長さLが100.8mm,対向間隙Yが3mmと規定されており,既存の基準端面1aまたは鍔部端面3aに対する両延出端面1b,3bの突出量αは1.5mmとなる(ISO規格でもほぼ同じ寸法である)。次に,本発明の特殊精密加工を施して延出端面1bを形成した主軸1に通常規格の鍔部端面3aを有する工具ホルダー3を取付けたり(図3),同じく本発明の特殊精密加工して延出端面3bを形成した工具ホルダー3を通常規格の基準端面1aを有する主軸1に取付けて(図4),使用したとしても,その主軸1の延出端面1bまたは基準端面1aと工具ホルダー3の鍔部端面3aまたは延出端面3bとの間に,例えばJIS規格の呼び番号BT50では,1.5mmの隙間γが生じ,その隙間γで通常規格で許容されている0.4mmの製作誤差(Δi)が吸収されるため,テーパ孔2にテーパシャンク部4を確実に密着嵌合させることができる。」(段落【0012】〜【0015】)との記載がある。
イ上記記載によれば,引用例1には,「回転又は非回転主軸(以下,主軸という)1に設けたテーパ孔2に,鍔部5を有する工具ホルダー3のテーパシャンク部4を嵌合して主軸1に工具ホルダー3を取付けるようにした工具ホルダー取付装置であって,主軸1のテーパ孔2及びこれに嵌合される工具ホルダー3のテーパシャンク部4の最大径D,主軸側端面1aとこれに対向する鍔部端面5aとの間の許容の対向間隙Yが工業規格で定められた数値の範囲内で製作される工具ホルダーの取付装置において,上記主軸側端面1aと,これに対向する鍔部端面5aとの夫々を,工業規格で定められた許容の製作誤差Δiの数値より多く延出すると共に,両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値と等しく,互いに対向方向に延出して夫々延出端面1b,5bに形成し,しかして,両延出端面1b,5bが互いに吻合するようにして,主軸1に工具ホルダー3を取付けることが可能となっている工具ホルダー取付装置。」(審決謄本9頁下から第3段落)との引用発明1が記載されているものと認められる。
ウ本件発明と引用発明1とを対比すると,本件発明においては,「両延出量α1,α2の合計が上記許容の対向間隙Yの数値の範囲内」(すなわちα1+α2そこで,相違点について検討すると,本件発明に係る技術分野において,対向間隙Yとの関係で「α1+α2」の数値設定を工夫し,最適なものを探究することは,当業者の通常の創作能力の範囲内であって,格別の技術力を要するものではない。したがって,日常的な試行錯誤の結果,引用発明1の「α1+α2=Y」との数値範囲の設定を「α1+α2変更することは,当業者において容易にし得たことというべきである。
エそうすると,「本件発明は,甲第1号証発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決謄本10頁第4段落)とした本件審決の判断は相当である。
2以上によれば,本件出願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,無効理由1は理由があるから,無効理由2について検討するまでもなく,本件特許は無効にされるべきものであるとした本件審決の判断は正当というべきであり,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明
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