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関連審決 不服2002-9858
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  出願公開 /  優先権 /  一般承継 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 276号 審決取消請求事件
原告 コーニンクレッカフィリップス エレクトロニクス N.V.
訴訟代理人弁理士 津軽進,宮崎昭彦,笛田秀仙
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 田中純一,片岡栄一,高橋泰史,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/01
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2002−9858号事件について平成16年2月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件特許出願2000-133455号「情報キャリア」は,平成1年1月19日に出願した特願平1-8736号の一部を平成12年5月2日に新たな特許出願としたものである。
本件特許出願は,1988年(昭和63年)1月19日及び同年5月18日西ドイツにおいてした特許出願に基づく優先権を主張するものである。
当初の出願人は,フィリップス アンド デュ ポン オプティカル コンパニーであり,その後オプティカル マニュファクチュアリング アンド ホールディング コンパニー ベスローテン フェンノートシャップが特許を受ける権利一般承継し,2002年(平成14年)6月28日原告がその権利を譲り受け,同年7月29日特許庁長官にその旨の届出がされた。
平成14年3月5日送達の拒絶査定があり,出願人は,同年6月3日不服の審判請求をし,不服2002-9858号事件として審理されたが,平成16年2月17日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同月26日原告に送達された(出訴期間90日附加)。
2 本願発明(請求項1に係る発明)の要旨(平成15年9月11日付け手続補正書によるもの) 各フレームの第1部分に位置する主情報が記録された第1記録部分と,各フレームの第2部分に位置するサブディジタル情報が記録された第2記録部分と,各フレームの前に位置する各自のフレーム同期情報が記録されたフレーム同期記録部分とを含み,第1及び第2記録部分が前記フレーム同期記録部分に対し所定のビット位置を占め,第2記録部分に記録されたサブディジタル情報の所定のビットがサブ情報チャネルを形成し,主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを含み前記主カテゴリコードと前記サブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され得るパケットが前記第2記録部分に交互に記録されていることを特徴とする情報キャリア。
3 審決の理由の要点 (1) 公知刊行物(引用例)に記載された発明 審判における拒絶の理由で引用された,特開昭62-229591号公報(昭和62年10月8日出願公開。引用例1。本訴甲第4号証)には,「デジタルオーディオデータと,1フレーム(588ビット)当たり8ビット(P,Q,R,S,T,U,V,W)のデータから構成されるサブコードデータとが記録され,サブコードデータの所定のビットにチャネル番号CH0〜CH15を指定するコードデータが記録され,チャネル番号の組み合わせにより有効及び無効の指示ができるパックが交互に記録されているコンパクトディスク。」の発明が記載されている。
(2) 対比 本願発明と,引用例1に記載された発明とを対比する。
@ 引用例1に記載された発明における「デジタルオーディオデータ」及び「サブコードデータ」は,それぞれ,本願発明の「主情報」及び「サブデジタル情報」に相当するものである。
A 引用例1に記載された発明における「サブコードデータ」の所定のビットに記録されている「チャネル番号CH0〜CH15を指定するコードデータ」は,それぞれの「チャネル番号」に対応する「画像データ」等の種類すなわち「カテゴリ」を識別するものである。したがって,引用例1に記載された発明の「チャネル番号CH0〜CH15を指定するコードデータ」は,本願発明の「サブディジタル情報」の所定のビットで形成される「サブ情報チャネル」,更には,そこに含まれている「カテゴリコード」に相当するものである。
B 引用例1に記載された発明における「コンパクトディスク」は,本願発明の「情報キャリア」に相当するものである。
したがって,本願発明と引用例1に記載された発明とは,次の点で一致する。
「各フレームに主情報と,サブディジタル情報が記録され,記録されたサブディジタル情報の所定のビットがサブ情報チャネルを形成し,カテゴリコードを含む情報キャリア。」 一方,両者は,以下の点で相違している。
(a)相違点1 本願発明においては,「主情報」及び「サブディジタル情報」が,各「フレーム」の「第1記録部分」と「第2記録部分」にそれぞれ記録され,各「フレーム」の前の「フレーム同期記録部分」には「フレーム同期情報」が記録され,更に,「第1及び第2記録部分」が「フレーム同期記録部分」に対し所定のビット位置を占めるとの,「フレーム」を構成する各情報の記録位置に関する記載があるのに対し,引用例1に記載された発明には,「デジタルオーディオデータ」(「主情報」)及び「サブコードデータ」(「サブディジタル情報」)を「フレーム」に記録する点については記載があるものの,「フレーム同期情報」を記録すること,更には,それぞれの情報の「フレーム」内における記録位置に関しては特に記載がない点。
(b)相違点2 本願発明においては,「サブ情報チャネル」に含まれる「カテゴリコード」が,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」との2種類のカテゴリを識別するものであるのに対し,引用例1に記載された発明の「チャネル番号CH0〜CH15を指定するコードデータ」(「サブ情報チャネル」及び「カテゴリコード」)には,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを識別することについて明確な記載がない点。
(c)相違点3 本願発明においては,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」との組み合わせによって識別されるのが「パケット」であり,この「パケット」が交互に記録されているのに対し,引用例1に記載された発明では,「チャネル番号CH0〜CH15を指定するコードデータ」(「サブ情報チャネル」及び「カテゴリコード」)の組み合わせによって識別されるのが「パック」であり,この「パック」が交互に記録されている点。
(3) 相違点1についての審決の判断 本願発明において記載された「主情報」,「サブディジタル情報」,及び「フレーム同期情報」の「フレーム」内における記録位置に関する技術は,「コンパクトディスク」方式のシステムで標準化されている周知慣用技術であり,例えば,特開昭62-217468号公報(昭和62年9月24日出願公開,引用例2)(特に,第3図に記載されたフレームのレイアウトを参照)に記載された「データ・シンボル」,「サブコード・シンボル」,及び「同期パターン」が,それぞれ,本願発明の「主情報」,「サブディジタル情報」,及び「フレーム同期情報」に相当するものである。そして,引用例1に記載された発明も「コンパクトディスク」に関する発明であり,このような「フレーム」内における記録位置に関する周知慣用の技術を含むものである。
(4) 相違点2についての審決の判断 「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想である。例えば,特開昭61-77184号公報(周知例1。本訴甲第5号証)には,「コンパクトディスク」のディスク中に収録されている全曲目情報を,「曲別」,「歌手別」,「ジャンル別」ごとにリスト化することが記載されており,周知例1の「ジャンル」及び「歌手」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。また,特開昭60-263236号公報(周知例2。本訴甲第6号証)には,「コンパクトディスク」に記録されたデータをディレクトリ形式で記録するとともに,そのディレクトリをツリー構造とする点が記載されており,周知例2の「第1のディレクトリ」及び「第2のディレクトリ」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。
そして,このような周知の技術思想を,引用例1に記載された発明の「チャネル番号CH0〜CH15を指定するコードデータ」(「サブ情報チャネル」及び「カテゴリコード」)に適用し,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」とを含む本願発明の構成とすることに,格別の困難性はない。
(5) 相違点3についての審決の判断 本願明細書には,「ブロック」を構成する「フレーム」内のR〜Wチャネルビット(計6ビット)で1つの「シンボル」を構成し,この「シンボル」96個で1つの「パケット」が構成され,また,1つの「パケット」は,各々が24個の「シンボル」から成る4個の「パック」で構成されていることが示されている。
引用例1に記載された発明の「パック」は,本願発明において「パケット」を構成している「パック」に相当するものである。
また,引用例2(第3図参照)や周知例2(第2図参照)にも記載があるように,「コンパクトディスク」においては,連続する「98フレーム」で「1ブロック」が構成され,この「1ブロック」単位で各種の処理が行われている。そして,この「1ブロック」内にある「96フレーム」分の「サブコードチャンネルR〜W」が,本願発明の1つの「パケット」に相当し,その中には,4つの「パック」が含まれている。
以上のことから,引用例1に記載された発明において,「カテゴリコード」の組み合わせによって識別される情報の単位を,記載の「パック」に替えて,この「パック」4つで構成され,処理単位である「1ブロック」に対応する「パケット」とし,この「パケット」を交互に記録することに,格別の困難性はない。
(6) 審決のむすび 以上のとおりであって,本件出願の請求項1に係る発明は,上記引用例1及び引用例2に記載された発明並びに周知の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって,本件出願は,その余の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 相違点の看過 本願発明には,「主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを含み,前記主カテゴリコードと前記サブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され得るパケット」という特徴がある。引用例1記載の発明には,主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを含み,「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」との組み合わせによって識別され得る,という構成はなく,この点も相違点に当たる。審決は,この相違点を看過し,その容易推考性の有無を判断していない。
2 相違点2の判断(周知例1に関する)について 審決は,相違点2につき,「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想である。」とし,具体例として周知例1(甲第5号証)を例示し,「ディスク中に収録されている全曲目情報を,「曲別」,「歌手別」,「ジャンル別」ごとにリスト化することが記載されており,周知例の「ジャンル」及び「歌手」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。」と判断している。
しかしながら,「ジャンル」及び「歌手」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」には相当するものではない。周知例1では,「ジャンル」についてリスト化されているものと「歌手」についてリスト化されているものとがあるだけである。また,「ジャンル」及び「歌手」で1つの曲名が識別できるわけでもない。すなわち,「ジャンル」と「歌手」との組み合わせで何ものをも識別しない。
さらに,周知例1では,全曲目情報というのは複数のディスクについての曲目情報であり,当該全曲目情報を「曲別」,「歌手別」,「ジャンル別」ごとにリスト化したものは,ディスクではなくRAMに記録されている。周知例1は,本願発明とは関係がない発明である。
3 相違点2の判断(周知例2に関する)について 相違点2の判断では,別の具体例として周知例2(甲第6号証)が例示され,「データをディレクトリ形式で記録するとともに,そのディレクトリをツリー構造とする点が記載されており,周知例2の「第1のディレクトリ」及び「第2のディレクトリ」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。」としている。
しかしながら,「第1のディレクトリ」及び「第2のディレクトリ」は,それぞれ本願発明の「主カテゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するものではない。周知例2は,コンパクトディスクを使用して辞書を構成し,単語の早い検索のために,単語のディレクトリのツリー構造を開示している。例えば周知例2の第5図を参照すると,単語の最初の文字に対応させた「第1のディレクトリ」,単語の次の文字に対応させた「第2のディレクトリ」等のツリー構造である。「第1のディレクトリ」と「第2のディレクトリ」との組み合わせで一つの単語が識別されるわけではない。第1のディレクトリは,最初の単語の文字とアドレスとのテーブルで構成されていて,「主カテゴリコード」に対応するはずもない。第2のディレクトリともなると,非常に多くのテーブルの集合体となってしまい,最初の文字というカテゴリを表す第1のディレクトリのテーブルと決められた最初の文字に次ぐ2番目の文字というカテゴリを表す第2のディレクトリの非常に多くのテーブルの集合体との組み合わせで何ものをも識別しない。単語の文字に基づく「ディレクトリ」と本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」とは,全く別である。
審決取消事由に対する被告の反論
1 相違点の看過に対し 審決においては,引用例1に記載された発明を認定した後,本願発明と引用例1に記載された発明の一致点を,「各フレームに主情報と,サブディジタル情報が記録され,記録されたサブディジタル情報の所定のビットがサブ情報チャネルを形成し,カテゴリコードを含む情報キャリア。」と認定している。すなわち,情報キャリアが「カテゴリコードを含む」ことのみを一致点としているのであるから,その余の,パケットが「主カテゴリコードとサブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され得る」点を相違点と認定していることは,明らかである。
そして,審決は,相違点2の判断として,「「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想である。」として,周知例1及び周知例2を提示し,このような周知の技術思想を引用例1に記載された発明に適用して本願発明の構成とすることに格別の困難性はないと,判断している。主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを組み合わせて識別するとは明記していないが,カテゴリコードを組み合わせることについては引用例1にも記載があるところ(3頁右下欄19行〜4頁左上欄20行),主カテゴリコードとサブカテゴリコードを用いる場合に両者を組み合わせて識別することは明らかであり,周知例においても,組み合わせて識別できるものである。さらには,主カテゴリコードとサブカテゴリコードとを組み合わせて識別することが周知の技術であることは,後記の乙第1号証や乙第2号証からも明らかである。したがって,審決の相違点2の判断において,「主カテゴリコードとサブカテゴリコードとの組み合わせによって識別され得る」ことが当業者が容易に想到できることを判断していることも,明らかである。
2 相違点2の判断(周知例1に関する)に対し 周知例1には「記録された曲目」を「ジャンル」及び「歌手」を用いて分類することが示されているということができる。周知例1には実施例として,「記録された曲目」を「ジャンル別」又は「歌手別」にリスト化することが記載されているが,両者を組み合わせ得ることは当業者に明らかであり,その場合には,「記録された曲目」は,「ジャンル」によって分類され,更に「ジャンル」内で「歌手」によって分類されることとなり,「ジャンル」及び「歌手」は,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。そして,引用例1に記載された発明も,周知例1に記載されたものも,光学式コンパクトディスクに情報を記録するものであり,引用例1に記載された発明に,周知例1の技術を適用することに阻害要因は見当たらない。
原告は,全曲目情報をリスト化したものはディスクではなくRAMに記録されているから,周知例1は本願発明とは関係ないとも主張しているが,サブ情報をディスク(情報キャリア)に記録することは引用例1に記載されており,審決でも相違点とはしていないから,原告の主張は審決の論旨を正解しないものである。
3 相違点2の判断(周知例2に関する)に対し 本願発明は,「カテゴリ」を「主カテゴリ」と「サブカテゴリ」との2種類に分け,「主カテゴリ」によって「情報」を分類し,「主カテゴリ」内の「情報」を「サブカテゴリ」によって,更に分類しているものである。そして,周知例2においては,「ディスク」に記録された「単語」は,単語の第1文字目である「第1のディレクトリ」で分類され,更に単語の第2文字目である「第2のディレクトリ」で分類されるものであり,周知例2の「第1のディレクトリ」及び「第2のディレクトリ」は,それぞれ本願発明の「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」に相当するものである。そして,引用例1に記載された発明も,周知例2に記載されたものも,光学式コンパクトディスクに情報を記録するものであり,引用例1に記載された発明に,周知例2の技術を適用することに阻害要因は見当たらない。
4 相違点2の判断(周知技術に関する)に対し 審決は,「「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想である。」(引用例1の9頁27〜29行)とするものであるが,このことは,上記周知例に限らず,以下の乙第1号証及び乙第2号証からも明らかである。
例えば,乙第1号証(特開昭61-188792号公報)には,「建築作品あるいは建材群を,第1の分類に区分し,更に各区分を第2の分類に区分してその順に並べて録画したデータ画面群と,各データの第1の分類と第2の分類とを検索する信号部分,とを有するレーザーディスクより構成した,建築作品,建材等の検索閲覧システム」(特許請求の範囲)の発明が記載されており,「第1の分類」と「第2の分類」との組み合わせによって「建築作品あるいは建材群」を識別するものであるから,乙第1号証における「第1の分類」及び「第2の分類」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するものである。
また,乙第2号証(特開昭61-15276号公報)には,「光ディスク」に記録された「文書」を,「大分類」,「中分類」,及び「小分類」の階層構造に分類し管理する「文書ファイル装置」の発明が記載されており,乙第2号証における「大分類」及び「中分類」が,それぞれ本願発明の「主カテゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するものである。
上記周知例や乙第1,2号証にみられる周知の技術思想を,引用例1に記載された発明に適用するのに阻害要因はなく,相違点2は容易に想到し得るとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 まず,本願発明の技術的課題等をみるに,本願発明を含む本件特許出願に係る発明の目的は,「再生装置のユーザとのコミュニケーションを改善し得る・・・情報キャリアを提供することにある。」(本願明細書(甲第2号証)【0003】) 課題を解決するための手段として,本願発明は,「主情報が記録された主記録領域とサブディジタル情報が記録されたサブ記録領域とを具え,サブディジタル情報の所定のビットがサブ情報チャネルを形成している情報キャリアであって,前記サブ記録領域が,少なくとも一つのカテゴリコードにより識別し得る種々のサブ情報チャネルパケットが交互に記録された部分を具えていることを特徴とする。」(本願明細書【0004】) 「ユーザはカテゴリの選択により,サブ記録領域の,カテゴリコードで識別し得る種々のパケットが記録されている部分から,所望のテキスト情報を選択することができる。」(本願明細書【0005】) 「好適例では,主カテゴリコードとサブカテゴリコードの組合せで識別し得る・・・パケットに,例えば種々の言語の種々のタイプのテキスト情報(アルバムタイトル,曲目,解説,アーチスト名等)を記録しておくことにより,ユーザは主カテゴリコードとサブカテゴリコードの選択により,サブ記録領域の,主カテゴリコードとサブカテゴリコードで識別し得る種々のパケットが交互に記録されている部分から,所望の言語の所望のタイプのテキスト情報を比較的短い平均待ち時間で選択することができる。」(本願明細書【0006】) 本願発明の目的及びその解決手段等は以上認定の明細書記載のとおりであるところ,原告が審決取消事由の1として主張するところは,相違点2として審決が認定したところに帰着することは明らかであるから,相違点2に係る本願発明の構成が容易想到であるとした審決の判断に誤りがあるか否かについて,以下に検討する。
2 審決は,「「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想である。」と認定し,その根拠として,特開昭61-77184号公報(周知例1。甲第5号証)と特開昭60-263236号公報(周知例2。甲第6号証)を挙げている。
まず,周知例1についてみるに,そこに記載の発明は,多数のディスクの中から所望の再生データを自動的に再生するマルチディスク自動再生装置に関するものであるが,所定の形態でリスト化した検索用データが格納される記憶手段と,このデータを所定の形態で区分けして読み出す手段と,このデータを所定の形態で画像表示する手段を具備するものが特許請求の範囲として記載されている。しかしながら,そこには,曲別,歌手別,ジャンル別のほか,作詞者,作曲者,発売日のデータが例示され(2頁右下欄〜3頁左上欄),これら例示されたデータはそれぞれがカテゴリを成しているものであるものの,各カテゴリを関連づける構成についての開示はない。
周知例2は,多数のデータが記録され,このデータに対するキーワードと,データが記録されているアドレスとのディレクトリが記録されているとともに,ディレクトリがツリー構造とされているデータ記憶素子(特許請求の範囲)に関する発明に関する公開特許公報であるが,そのデータはツリー構造で管理されているにとどまり,本願発明のように,主カテゴリとサブカテゴリとを具えているものではない。
したがって,審決が掲げた周知例からは,「コンパクトディスク」に記録されている情報の「カテゴリ」として,「主」及び「サブ」の2種類のカテゴリを用いることは,当該技術分野において周知の技術思想であったと認めることはできない。
3 そこで,被告が本訴で提出した書証によって上記技術的事項が周知の技術思想であったことが認められるかについてみるに,まず,特開昭61-188792号公報(乙第1号証)には,「建築作品あるいは建材群を,第1の分類に区分し,更に各区分を第2の分類に区分してその順に並べて録画したデータ画面群と,各データの第1の分類と第2の分類とを検索する信号部分,とを有するレーザーディスクより構成した,建築作品,建材等の検索閲覧システム」(特許請求の範囲)の発明が記載されている。ここでは,「第1の分類」と「第2の分類」との組み合わせによって「建築作品あるいは建材群」を識別しており,それぞれ本願発明の「主カテゴリコード」及び「サブカテゴリコード」に相当するものということができる。
次に,特開昭61-15276号公報(乙第2号証)には,「光ディスク」に記録された「文書」を,「大分類」,「中分類」,及び「小分類」の階層構造に分類し管理する「文書ファイル装置」の発明が記載されている。しかしながら,光ディスク全体にわたって一括して「中分類」や「小分類」の分類体系を管理するという事項はそこには示されていない。ここには,本願発明の「主カテゴリコード」と「サブカテゴリコード」とによって記録されているものということはできない。
4 以上みたとおり,相違点2に係る事項が周知であったことを裏付けているのは,乙第1号証の公開特許公報のみである。しかしながら,そこに示されているのは,建築作品建材等の検索システムに関する事項であって,上記事項が本願発明の技術分野である情報キャリアの分野において周知の事項であったと認めるには,その適性があるとはいい難いものである。そして,本訴に至ってもなお,「主カテゴリ」及び「サブカテゴリ」によってデータが記録されるという事項が,本願発明の技術分野とは隔たった分野に関する乙第1号証の公報によってしか証明されていないということは,本願発明の技術分野において,この技術的事項が,相違点2に係る本願発明の構成が容易想到であったと認めるほどに周知であったとすることはできないといわざるを得ない。
したがって,本願発明は,引用例との対比において容易想到であったものということはできず,これに反する審決の認定判断は誤りである。
結論
以上のとおりであり,原告の請求は認容されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久