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関連審決 無効2001-35559
関連ワード 物の発明 /  方法の発明 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 610号 審決取消請求事件
原告 蛇の目ミシン工業株式会社
訴訟代理人弁護士 山田克巳
同 山田勝重
同 山田博重
訴訟代理人弁理士 山田智重
同 辻實
同 岩堀邦男
被告 アイダエンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 福田親男
訴訟代理人弁理士 武井秀彦
同 吉村康男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2001-35559号事件について平成14年10月29日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「電動プレス」とする特許第2533486号の特許(昭和61年4月4日出願(以下「本件出願」という。),平成8年6月27日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
被告は,平成13年12月28日,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,この請求を無効2001-35559号事件として審理し,その結果,平成14年10月29日,「特許第2533486号の特許請求の範囲第1項,第2項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,審決の謄本を同年11月8日に原告に送達した。
2 特許請求の範囲(以下,審決と同様に【請求項1】及び【請求項2】の発明を「本件発明1」及び「本件発明2」という。ただし,AないしJの符号は,審決と同様に,便宜上付したものであり,以下「構成A」,「構成B」などという。別紙図面A参照) 「【請求項1】 A 被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け, B 該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え, C 前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し, D 前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定し, E 該記憶設定された位置間の速度を制御することを特徴とする電動プレス。
【請求項2】 F 被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け, G 該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え, H 前記モータの回転量を検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段と, I その回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段と,該設定したデータを複数記憶する記憶手段とを備え, J 記憶された位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御することを特徴とする電動プレス。」 3 審決の理由 (1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,@本件発明1は,特開昭58-199699号公報(本訴甲2号証,審判甲13号証。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。別紙図面B参照),並びに,「工場 自動化・省力化事典」(工場自動化・省力化事典編集委員会編集,(株)産業調査会発行,昭和53年4月1日発行,110〜123頁・本訴甲3号証,審判甲2号証。以下「甲3文献」という。),実願昭54-167317号(実開昭56-83340号)の願書,願書に添付された明細書及び図面(本訴甲4号証,審判甲14号証。以下「刊行物2」という。)及び特開昭59-7531号公報に記載された各技術事項並びにプレス作業における技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,A本件発明2は,刊行物2に記載された発明(以下「引用発明2」という。別紙図面C参照),並びに,甲3文献,「NCシステム事典」(土井康弘,本多庸悟,井上久仁子編集,(株)朝倉書店,1983年11月5日発行,418〜419,6〜7,10〜11,80〜87,94〜95頁),特開昭58-94003号公報及び実願昭59-93350号(実開昭61-9603号)の願書,願書に添付された明細書及び図面に記載された各技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,いずれも特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
(2) 審決が上記結論を導くに当たり,本件発明1と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「A 被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができパルスにて制御するモータを設け, B’該モータの回転量を直線運動に変換する機構を備え, C 前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御するプレス。」 相違点 「相違点1:モータの回転量を直線運動に変換するために,本件発明1では,構成Bの機構を備えているのに対して,甲第13号証記載の発明では,パルスモータにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した制御機構により作動される油圧サーボシリンダ装置を備えている点。 相違点2:本件発明1は,構成D及び構成Eを備えているのに対して,甲第13号証記載の発明では,ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め,また被加工物を打抜く瞬間に前記加圧力を弱めるようにモータに供給するパルス信号を設定すると共にスライド部のストローク位置によってスライド部のストローク速度を任意に設定できるようにしている点。」 (3) 審決が上記結論を導くに当たり,本件発明2と引用発明2との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「F 被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け, G’該モータの回転量を直線運動に変換する機構を備え, H’前記ラム位置を検出する位置検出手段と, I’モータの回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点を設定する手段と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段とを備え, J’設定された位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御することを特徴とする電動プレス。」 相違点 「相違点1:本件発明2では,モータの回転量を直線運動に変換するために,構成Gの機構を備えているのに対して,甲第14号証記載の発明では,歯車13,14及び送りねじ12を介して直線運動に変換している点。 相違点2:本件発明2では,ラム位置を検出するために,構成Hの手段を備えているのに対し,甲第14号証記載の発明では,そのようになっていない点。 相違点3:本件発明2では,「加圧力を加えるべき加圧点」及び「加圧を終了させる定位置停止点」の設定,記憶を,構成Iの手段により行っているのに対し,甲第14号証記載の発明では,「加圧力を加えるべき加圧点」及び「加圧を終了させる定位置停止点」の位置を設定する設定手段を備えているものの,「加圧点」については設定したデータを記憶する記憶手段を備えておらず,「定位置停止点」については当該データを記憶する記憶手段を備えているか否か定かではない点。 相違点4:本件発明2では,記憶された位置から次の移動する位置に対してモータの回転速度を制御しているのに対し,甲第14号証記載の発明では,設定された位置から次の移動する位置に対してモータの回転速度を制御している点。」
原告主張の取消事由の要点
審決は,@本件発明1について,引用発明1との一致点Cの認定を誤って相違点を看過し(本件発明1についての取消事由1),また,相違点1及び相違点2についての判断をいずれも誤ったものであり(本件発明1についての取消事由2,3),A本件発明2について,引用発明2との一致点I’についての認定を誤って相違点を看過し(本件発明2についての取消事由1),また,その容易想到性についての判断も誤ったものであり(本件発明2についての取消事由2),これらの誤りは,請求項1及び2に係る本件特許についていずれも無効とした審決の結論にそれぞれ影響を及ぼすことが明らかであるから,審決は請求項1及び2のいずれについても違法として取り消されるべきである。
1 本件発明1についての取消事由1(一致点Cの認定の誤りによる相違点の看過) 引用発明1における油圧サーボシリンダ装置では,パルスモータ1aのパルス信号の数によって回転量が定まり,これによりサーボ弁機構を適宜量開口して,圧油をシリンダ装置1内に送り又はシリンダ装置1内から戻し,その圧油量によってピストンロッド2を上下動させ,ストロ-ク動作をさせるものである。
引用発明1においては,パルスモータ1aによる回転量でサーボ弁機構が適宜開口量を制御するものであるから,一定条件の下でのみ,パルス信号の数(モータの回転量)とピストンロッド2のストローク量とは一定の関係をもつものである。
すなわち,引用発明1では,加工の前にパルスを供給して圧入し,一度プレス作業を行い,ストローク長がどれくらいかを検出して所定位置まで達するように圧入する。そして,所定位置に達したときのパルス数を保持することで同様な負荷条件では同じ位置に圧入することが期待できる。
しかし,この油圧サーボシリンダ装置では,負荷(抵抗値)が変動するような場合には,パルス信号の数(回転量)とピストンロッド2のストローク長とは一定の関係にないため,所定位置に達したときのパルス数を供給しても予定の位置に圧入できないのである。すなわち,引用発明1においては,負荷(抵抗値)が予定した値より大きい場合には,あらかじめ設定保持したパルス数では,予定位置まで達することができず,負荷(抵抗値)が小さい場合には,あらかじめ設定したパルス数を供給すると,押し込み過ぎた位置になり,予定位置に制御できないのである。
このように,引用発明1は,一定条件の下でのみ,パルス信号の数(回転量)とピストンロッド2のストローク長とは一定の関係にあることを利用したものであるにすぎず,圧入する場合の嵌め合い条件がさまざまな負荷(抵抗値)の下では,油圧サーボシリンダ装置におけるパルスモータ1aによるパルス信号の数(回転量)とピストンロッド2のストローク長さがことごとく異なり,常に一定にはならないのである。
以上からすれば,本件発明1の構成C(「前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し,」)は刊行物1には記載されていないのであり,審決の一致点Cの認定は誤りである。
2 本件発明1についての取消事由2(相違点1についての判断の誤り) 審決は,相違点1について,「甲第13号証(判決注・刊行物1)記載の発明は「単位ストローク量当たりのパルス数,あるいは,単位パルス数当たりのストローク量が可変である」ことを積極的に用いた発明ではなく,「単位ストローク量当たりのパルス数,あるいは,単位パルス数当たりのストローク量が可変である」場合にも,ストローク位置を基準としてストローク速度等を制御することができるようにした発明と解すべきであるから,甲第13号証記載の発明は,駆動源として油圧サーボシリンダ装置を採用することがその発明の構成に欠くことができない必須の事項とするものではなく,駆動源として油圧サーボシリンダ装置を採用しても,実現可能な発明であると認めるべきものである。そして,プレス装置の一種であるスリーブ圧入装置,部品等の圧入装置において,モータの回転量をネジ機構にて直線運動に変換することは,甲第14,15号証に記載されているように周知の技術的事項であり,ネジ機構によりモータの回転量を直接直線運動に変換することも甲第2号証に記載されているように周知の技術的事項である。したがって,甲第13号証記載の発明において,モータの回転量を直線運動に変換するために,油圧サーボシリンダ装置に代えて,モータの回転量を直接直線運動に変換するネジ機構をを採用することは,当業者であれば容易に想到したことである。」(審決書9頁1〜3段)と判断した。しかし,審決のこの認定判断は誤りである。
(1) 審決は,上記のとおり,引用発明1は,「「単位ストローク量当たりのパルス数,あるいは,単位パルス数当たりのストローク量が可変である」場合にも,ストローク位置を基準としてストローク速度を制御することができるようにした発明」であると認定する。しかし,この認定は誤りである。
(2) 引用発明1は,経時的要素を含む方法の発明である。すなわち,引用発明1は,あらかじめ加工物の加工データを検出した後,実際のプレス作業時に,スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を,パルス信号の供給状態を任意に設定あるいは変更して制御することを特徴とするプレス機械の制御方法に関するものであって,教示操作後,実際のプレス作業時に教示と同様なプレス作業が繰り返し行われるものである。しかるに審決は,刊行物1には物の発明が記載されていると認定したものである。
3 本件発明1についての取消事由3(相違点2についての判断の誤り) 審決は,相違点2について「一方,甲第13号証記載の発明の「被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱める」との記載が,必ずしも加圧を終了して停止することを意味するものでないことは明らかであり,甲第13号証記載の発明の実施例がポンチによる打抜作業であることからみても,打抜き後ある程度ポンチは移動すると解するのが自然である。しかしながら,その場合であっても,打ち抜いた後は,適宜の位置で移動を停止することが合理的であることは自明であるし,「駆動源に不要な出力をさせないから,プレス作業を省エネルギ的に行い得る」との記載に照らしても,適宜の位置にて停止するものと解すべきであり,その停止位置も当然ストローク量に対応したパルス数として記憶設定すべきものである。まして,甲第13号証記載の発明はその実施例の打抜作業だけでなく,任意のプレス作業を対象とするものであり,本件明細書に例示されている圧入作業では,スライド部が過剰に移動しては不都合であることも自明というべきであるから,定位置停止点を記憶設定することは,プレス作業の種類に応じての設計事項というべきであって,これを困難ならしめる要因は存在しないもの認められる。したがって,甲第13号証の記載及びプレス作業における技術常識を勘案すれば,当業者が構成Dに想到することは容易であったといわざるを得ない。」(審決書10頁2,3段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(1) 本件発明1の構成Dの「加圧を終了させる定位置停止点」は,所望のプレス加工をする場合において,加圧工程の途中であらかじめ記憶された,一定位置で加圧を終了させることができる定位置停止点である。
しかるに,刊行物1には「ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め,また被加工物を打抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように,駆動源に供給するパルス信号を設定すれば,」(甲2号証3頁左欄14〜17行)との記載があるだけで,本件発明1のように,明確に停止させるとの記載があるわけではない。
審決は,上記のとおり「打ち抜いた後は,・・・「駆動源に不要な出力をさせないから,プレス作業を省エネルギ的に行い得る」との記載に照らしても,適宜の位置にて停止するものと解すべきであり」と判断したけれども,このような停止は,加圧作業の途中ではなく,打ち抜き後であって加圧作業が既に終了して,降下が必要でなくなり,上昇反転するための単なる停止点である。このように,刊行物1には,加圧状態下にあって,かつ,加圧作業を終了させる定位置停止点は,何ら記載されていない。
(2) 引用発明1は,ストローク位置を記憶できないものであるため,加圧点及び定位置停止点を記憶設定できる構成も存在しない。また,審決は「甲第13号証記載の発明はその実施例の打抜作業だけでなく,任意のプレス作業を対象とするものであり,」と判断したが,刊行物1には「打ち抜き」以外のプレス加工について具体的な記載はなく,「プレス作業の種類に応じての設計事項」ということはできない。したがって,審決の「定位置停止点を記憶設定することは,プレス作業の種類に応じての設計事項というべきであって,これを困難ならしめる要因は存在しないもの認められる。」との上記判断は誤りである。
(3) 本件発明1は,一般に存在するプレス加工機と異なり,微細な精密部品同士を結合したり,所定の歩留まりで曲げ加工を施すのに最適な電動プレスに係るものである。本件発明1の実施品は,原告により製造され,微細な電子部品同士の結合,精度が要求される金型の加工などの分野において,高い精度で少量の加工品を,その都度ティーチングして生産できる利点があることから,さまざまなユーザから,今までにない製品として利用されている。
本件発明1の構成Dの「・・加圧を終了させる定位置停止点」を記憶設定して,同じく記憶設定された任意の加圧点から該定位置停止点に至るまで,ラムの速度を制御することにより,初めて精密部品同士を所定の精度でカシメ結合をしたり,精密金型を所定の精度で曲げ加工したり,精密電子部品を基板上の所定の位置に圧入し,マウントさせるなどの高精度の作業が可能になるのである。
これに対し,審決における引用発明1の認定では,これとは逆に,刊行物1の「被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱める」との記載や,「駆動源に不要な出力をさせないから,プレス作業を省エネルギ的に行い得る」との記載から,ラムが「適宜の位置で移動を停止することが合理的であることは自明である」と判断しているのである。こうした判断は,審決に関与した審判官が本件発明1に係る技術の特色を,精密部品の結合とは全く無縁の,従来の機械プレスに無理に当てはめていることの表れと理解できる。そのことは,審決の上記認定で「打抜」,「適宜の位置で移動を停止」,「スライド部が過剰に移動して」などの用語を用いていることからも窺われるところである。
4 本件発明2についての取消事由1(一致点T’の認定の誤りによる相違点の看過) (1) 刊行物2には,「LS1はスリーブSの先端が工作物Wの端面よりも所定量だけ手前の位置に来たことを検出するリミツトスイツチを示す。」(甲4号証3頁18〜20行)と記載されている。このように,引用発明2における「所定量だけ手前の位置」は,加圧を加えるべき加圧点そのものではない。すなわち,引用発明2における前記位置は,本件発明2における設定手段により設定され,記憶手段により記憶される「加圧力を加えるべき加圧点」(請求項2)には相当しない。
(2) 引用発明2において,指定された量だけスリーブの先端突起Saが嵌合穴Waの底部に喰込むようにし,そのパルスを計数後,ラム11の下降を停止させた点は,設定手段によって任意に設定される複数位置ではなく,嵌合穴Waの底部に当たった点から指定された量で規定されるものである。そして,嵌合穴Waの底部は,任意に設定できる位置とはいえず,被加工物毎に異なる,設定できない位置であり,記憶することもできないものであるから,その底部から所定の量のストローク量を下降した位置も,任意に設定できる位置ではなく,記憶することもできないものである。したがって,引用発明2の前記ラム11の下降で,先端突起Saを食い込ませるために指定された量で停止させた点は,本件発明2の,設定手段により設定され,記憶手段により記憶される「前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧を終了させる定位置停止点」(請求項2)とはいえない。
5 本件発明2についての取消事由2(容易想到性についての判断の誤り) 発明の容易想到性の判断基準において,複数の公知技術の単なる寄せ集め進歩性がないとしても,本件発明2のように,有用な効果を奏する場合には,これを単なる公知技術寄せ集めと判断することは誤りである。
被告の反論の骨子
1 本件発明1についての取消事由1(一致点Cの認定の誤りによる相違点の看過)について 引用発明1の油圧サーボシリンダ装置においては,条件が異なれば「パルス数とストローク量の関係」は異なるものの,ある条件(条件A)の下であらかじめプレス加工を施して,条件Aにおける「パルス数とストローク量の関係」を検出しておけば,条件Aと同一の条件でプレス加工を行う残りの被加工物に対して,パルス数によってストローク量を制御することができる,というものである。そうすると,引用発明1においては,条件Aと同一の条件でプレス加工を行う残りの被加工物に対しては,パルス数によってストローク量を制御することができるのであるから,刊行物1に本件発明1の構成Cが記載されているとの審決の認定に誤りはない。
2 本件発明1についての取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用発明1においては,被加工物の厚さや材質及びプレス作業の種類によって,ストローク量がパルス信号の数で必ずしも定まらないのであり,単位パルス数当たりのストローク量は可変である。
(2) 容易想到性の判断をするにあたって,ある刊行物からある発明を引用例として認定する場合に,当該発明が方法の発明であったとしても,その刊行物の記載の中に物の発明としての記載が見出される場合には,物の発明の引用例としてこれを認定し引用することができることは当然である。
3 本件発明1についての取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 引用発明1は,打抜作業のみを対象とするものではなく,圧入作業を含む任意のプレス作業を対象とするものである。また,刊行物1記載の実施例も打抜作業に限定して記されているわけではなく,プレス作業一般について記載されているのである(甲2号証2頁左上欄16行〜3頁左上欄1行)。さらに,引用発明1を圧入作業に適用する際に格別の阻害要因も存在しない。
引用発明1は,あらかじめ1回プレス作業を行い,パルス数とストローク長との関係を検出して,ストローク長に対応する供給パルス数を保持しておくものである。他方,圧入作業を行う場合には,「加圧を終了させる定位置停止点」を記憶設定しておくことは当然に必要である。
そうすると,引用発明1を圧入作業に適用する場合には,「加圧を終了させる定位置停止点」を「ストローク長に対応する供給パルス数」として保持しておくことも当然のことであり,かつ,引用発明1は,任意のプレス作業を対象とするものであるから,「加圧を終了させる定位置停止点」を記憶設定することは刊行物1に記載されているといえるし,少なくとも,「加圧作業を終了させる定位置停止点」を記憶設定することは当業者にとって引用発明1から容易に想到し得ることである。
4 本件発明2についての取消事由1(一致点T’の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 本件出願の願書に添付した明細書(特許異議手続きにおいて訂正された後のもの。以下,この明細書と図面を併せて「本件明細書」という。)(甲第9号証の2・24頁6〜16行及び第3図)によれば,本件発明2における「加圧力を加えるべき加圧点」(請求項2)とは,ラムの下降速度を低速に変更する点であり,かつ,「ラムが工作物に当接する位置」よりも「所定量だけ手前の位置」であると解すべきである。したがって,引用発明2において,LSlを検出する位置が,スリーブSの先端が工作物に当接する位置よりも所定量だけ手前の位置であることは,当該LSlを検出する位置が本件発明2における「加圧力を加えるべき加圧点」(前同)に該当しないことの理由とはならない。
(2) 仮に,引用発明2において,スリーブの先端突起が底部に到達した位置を記憶設定していないとしても,少なくともスリーブの先端突起が底部に到達した位置と,その下降を停止する位置との位置関係は記憶設定しているのであるから,本件発明2の「前記ラムが加圧を終了させる定位置停止点」(請求項2)すなわち下降を停止する位置を,記憶設定することは極めて容易にできるはずである。
5 本件発明2についての取消事由2(容易想到性についての判断の誤り)について 争う。
当裁判所の判断
1 本件発明1についての取消事由1(一致点Cの認定の誤りによる相違点の看過)について 原告は,引用発明1は,一定条件の下でのみ,パルス信号の数(モータの回転量)とピストンロッド2のストローク長とは一定の関係にあることを利用したものであるにすぎず,圧入する場合の嵌め合い条件がさまざまな負荷(抵抗値)の下では,油圧サーボシリンダ装置におけるパルスモータ1aによるパルス信号の数(回転量)とピストンロッド2のストローク長さがことごとく異なり,常に一定にはならないことから,本件発明1の構成Cは刊行物1には記載されていない,と主張する。
しかし,甲2号証によれば,引用発明1における油圧サーボシリンダ装置では,パルスモータ1aのパルス信号の数によって回転量が定まり,これによりサーボ弁機構を適宜量開口して,圧油をシリンダ装置1内に送り又はシリンダ装置1内から戻し,その圧油量によってピストンロッド2を上下動させ,ストロ-ク動作をさせるものであり,同油圧サーボシリンダ装置において,プレス加工の作業内容と条件が異なれば,モータのパルス数とスライド部(ピストンロッド2及びポンチ3)のストローク量の関係が異なるものになるとしても,あらかじめ,ある条件(条件A)の下でプレス加工を行って,この条件Aにおけるモータのパルス数とスライド部のストローク量の関係を把握しておけば,条件Aと同一の条件でプレス加工を行う残りの被加工物に対して,モータに供給するパルス数によってスライド部のストローク量を制御することができるものであると認められる(原告も,引用発明1は,一定の条件下において,パルス信号の数(モータの回転量)とピストンロッド2のストローク長とは一定の関係にあることについては争わないところである。)。
引用発明1においては,上記のとおり,条件Aと同1条件でプレス加工を行う残りの被加工物に対して,モータに供給するパルス数によってスライド部のストローク量を制御することができるのであり,条件Aと異なる作業(条件B)を開始するに際しても,あらかじめその条件Bにおける,モータのパルス数とスライド部のストローク量の関係を把握すれば,残りの被加工物に対して当該条件Bにおける,モータのパルス数によってスライド部のストローク量を制御したプレス加工をなし得るものであることは明らかである。
以上からすれば,引用発明1が,本件発明1の構成C「前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し,」を備えているした審決の認定に誤りはない。原告の上記主張は理由がないものであることは明らかである。
2 本件発明1についての取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,引用発明1を「「単位ストローク量当たりのパルス数,あるいは,単位パルス数当たりのストローク量が可変である」場合にも,ストローク位置を基準としてストローク速度を制御することができるようにした発明」であると誤った認定をしている,と主張する。
しかし,甲2号証によれば,引用発明1においては,被加工物の厚さや材質及びプレス作業の種類によって,ストローク量がパルス信号の数で必ずしも定まらないのであり,単位パルス数当たりのストローク量は可変である(なお,引用発明1においては,条件Aと異なる作業(条件B)を開始するに際して,あらかじめその条件Bでの「パルス数とストローク量の関係」を把握し,その上で,残りの被加工物に対して当該条件Bでのパルス数によってストローク量を制御したプレス加工がなし得るものであることは上記のとおりである。)。したがって,審決の上記認定に何ら誤りはない。
(2) 原告は,引用発明1は,経時的要素を含む方法の発明である,と主張する。
しかし,進歩性の判断の資料となる公知技術の認定において,刊行物(特許公報)の特許請求の範囲に記載されている発明が方法の発明であるとしても,当該刊行物に物の発明が記載されている場合には,当該刊行物から物の発明を抽出し,これをその記載事項として認定することに何ら問題はない。そして,刊行物1の記載から物の発明を認定することが十分に可能であることは甲2号証から明らかである。審決は,刊行物1の記載から物の発明,すなわち,引用発明1を認定しているのであり,審決の認定に何ら問題はない。
3 本件発明1についての取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明1の構成Dの「加圧を終了させる定位置停止点」は,所望のプレス加工をする場合において,加圧工程の途中であらかじめ記憶された,一定位置で加圧を終了させることができる定位置停止点であるのに対し,刊行物1には,「ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め,また被加工物を打抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように,駆動源に供給するパルス信号を設定すれば,」との記載があるだけで,本件発明1のように,明確に停止させるとの記載があるわけではなく,加圧状態下にあって,かつ,加圧作業を終了させる定位置停止点は,何ら記載されていない,と主張する。
しかし,刊行物1には,次の記載がある(甲2号証)。
「本発明はプレス機械に於て,そのスライド部のストローク量,速度或は加圧力等を,プレスすべき材料の材質や板厚等に応じ予め検知して,所望条件でスライド部を作動させると共にその条件を任意に変更することができるプレス機械の制御方法に関する」(1頁左欄最下行〜右欄5行) 「本発明は上記のような従来のプレス機械の数値制御の現状に鑑み,スライド調整は勿論のことストローク速度や加圧力を任意に設定或は変更してこれらを制御することができるプレス機械の制御方法を提供することを目的としてなされたもので,その構成は,プレス機械のスライド部の駆動源にパルス信号で駆動制御されるモータ乃至は油圧シリンダを用い,予め,プレス加工すべき被加工物を前記駆動源に適宜のパルス信号を供給してプレス作業を行うと同時に,前記スライド部のストローク位置を基準にして当該プレス作業の加圧力やストローク速度をパルス信号で検出し,前記プレス作業のストロークと該ストローク時の加圧力及びストローク速度との関係を検出した後,実際のプレス作業時に,前記スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を,前記パルス信号の供給状態を任意に設定或は変更して制御することを特徴とするものである。」(1頁右欄下から4行〜2頁左上欄15行) 「次に本発明の実施例を図に拠り説明する。」(2頁左上欄16行) 「任意の被加工物にプレス作業を施すに当り,本発明方法を講じたプレス機械で予め前記被加工物にプレス加工を施すと,この加工時,前記被加工物に対して作動したスライド部の状態が,ストローク位置を基準として駆動源1に実際に供給されたパルス信号を時間及びストローク量で処理した形の信号で検出部13に検出されるから,この信号に基づいて指令装置に指令パルス信号を設定すれば,残りの被加工物を任意の設定状態で作動するようにしたスライド部の動作によつて均一にプレス加工を施すことができる。尚,ストローク量の検出はポンチを含むスライド部の任意の部分から検出してよい。」(2頁右下欄9〜3頁左上欄1行) 「また,プレスによるせん断作業は,通常ポンチが被加工物に当接する瞬間或は,前記ポンチが被加工物をせん断した瞬間に相当の衝撃音を発生し,問題となることが多いが,本発明方法によれば,ポンチのストローク位置によつてストローク速度を任意に設定できるので,作業ストロークと被加工物の厚みを勘案し,ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め,また被加工物を打抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように,駆動源に供給するパルス信号を設定すれば,プレス加工時に発生する騒音を相当レベル低減することができ,しかも,せん断加工前後の駆動源の作動を緩慢にすることによつて駆動源に不要な出力をさせないから,プレス作業を省エネルギ的に行い得る利点がある。 尚,本発明により制御できるプレス機械の駆動源は,実施例の油圧シリンダに限られず,例えば,油圧パルスモータ等を駆動源とするプレス機械に適用し得ること勿論である。またプレス機械は機械プレス,液圧プレスのいずれであつてもよい。」(3頁左上欄8行〜右上欄7行) 刊行物1の上記記載によれば,引用発明1は,あらかじめ,ある条件(条件A)下でプレス加工を行って,この条件Aにおける,モータのパルス数とスライド部のストローク量の関係を把握しておけば,条件Aと同一の条件でプレス加工を行う残りの被加工物に対して,モータに供給するパルス数によってスライド部のストローク量を制御することができるものであること,及び,プレスによるせん断作業,すなわちポンチが被加工物をせん断し,これを打ち抜く作業についての上記記載は,単にその実施例についての説明であるにすぎないことが認められる。そして,プレスとは,「金型を押して,板金に孔または模様を打ち出したり,型通りに成型したりする機械」(広辞苑第5版)を意味するのであるから,プレス加工とは,上記のようなポンチによるせん断打ち抜き作業(以下「孔開け作業」という。)のほか,模様を打ち出したり,型を成型するといった作業(以下,まとめて「成型作業」という。)も含むことは明らかであるから,刊行物1は,実施例として,孔開け作業について記載しているものの,その余のプレス加工,すなわち,成型作業を,その発明の対象から排除しているわけではないことは明らかである。
引用発明1は,上記のとおり,あらかじめ,ある条件(条件A)下でプレス加工を行って,この条件Aにおける,モータのパルス数とスライド部のストローク量の関係を把握しておけば,条件Aと同一の条件でプレス加工を行う残りの被加工物に対して,モータに供給するパルス数によってスライド部のストローク量を制御することができるというものであるから,これを成型作業について適用すれば,加圧を終了する定位置停止点において停止するように,モータに供給するパルス数によってスライド部のストローク量を制御するものとなることは当業者にとって自明の設計的事項である。審決が「甲第13号証記載の発明はその実施例の打抜作業だけでなく,任意のプレス作業を対象とするものであり,本件明細書に例示されている圧入作業では,スライド部が過剰に移動しては不都合であることも自明というべきであるから,定位置停止点を記憶設定することは,プレス作業の種類に応じての設計事項というべきであって,これを困難ならしめる要因は存在しない」(審決書10頁2段)と判断したことに誤りはない。
原告の上記主張は,刊行物1の実施例についての記載のみをその根拠とする主張であり,本件発明1の相違点2に係る審決の上記判断を否定する理由とはならない。
(2) 原告は,引用発明1は,ストローク位置を記憶できないものであるため,加圧点及び定位置停止点を記憶設定できる構成も存在しない,として,審決の相違点2についての判断を誤りである,と主張する。
確かに,刊行物1では,明示的に「ストローク位置を記憶する」との記載はない。しかし,刊行物1では,前記のとおり,あらかじめ行ったプレス作業で,「前記スライド部のストローク位置を基準にして当該プレス作業の加圧力やストローク速度をパルス信号で検出し」て,スライド部と被加工物との位置関係を把握しておき,「実際のプレス作業時に,前記スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を,前記パルス信号の供給状態を任意に設定或は変更して制御する」こと,及び,「加工時,前記被加工物に対して作動したスライド部の状態が,ストローク位置を基準として駆動源1に実際に供給されたパルス信号を時間及びストローク量で処理した形の信号で検出部13に検出されるから,この信号に基づいて指令装置に指令パルス信号を設定すれば,残りの被加工物を任意の設定状態で作動するようにしたスライド部の動作によって均一にプレス加工を施すことができる」ことが記載されているのである。これらの記載からすれば,引用発明1においては,モータに供給するパルス信号の設定により,スライド部のストローク位置及びストローク速度を制御しているのであり,このように設定され記憶されたパルス数により,スライド部のストローク位置を記憶しているのである。
原告は,刊行物1には「打ち抜き」以外のプレス加工について具体的な記載はない,と主張する。しかし,刊行物1に「打ち抜き」以外のプレス加工についての実施例の記載がないとしても,引用発明1をプレス加工のうちの孔開け作業についてのみ限定して解すべき記載も刊行物1には見当たらず,刊行物1には,「パルス信号の供給状態を任意に設定或は変更して制御することを特徴とするプレス機械の制御方法」(甲2号証,特許請求の範囲)が記載されているものであるから,この発明を孔開け作業にのみ限定して解すべき理由はない。
(3) 原告は,本件発明1は,一般に存在するプレス加工機と異なり,微細な精密部品同士を結合したり,所定の歩留まりで曲げ加工を施すのに最適な電動プレスに係るものである,本件発明1の構成Dの「・・加圧を終了させる定位置停止点」を記憶設定して,同じく記憶設定された任意の加圧点から該定位置停止点に至るまで,ラムの速度を制御することにより,初めて精密部品同士を所定の精度でカシメ結合をしたり,精密金型を所定の精度で曲げ加工したり,精密電子部品を基板上の所定の位置に圧入し,マウントさせるなどの高精度の作業が可能になる,と主張する。
しかし,本件発明1の構成D及びEは,「前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定し,該記憶設定された位置間の速度を制御することを特徴とする電動プレス。」であり,構成D及びEに係る相違点2の構成が容易に想到し得るものであるとの審決の判断に誤りがないことは上記のとおりである。
そして,本件発明1の効果は,本件明細書に「特に,モータ4の回転量を,直接に直線運動量に変換することで,その回転量が即,直線運動量となり,これが位置(加圧する位置)となる。これによって,その回転量にて加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を正確に制御でき,さらに位置間の加圧する速度も制御できるプレスを提供できる。このように本発明では,加圧すべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置の管理と,それぞれの位置間の加圧する速度制御が極めて正確且つ精密にできる。」(甲9号証の2・28頁下から6行〜29頁2行)などと記載されているとおりであり,この効果が,本件発明1の構成から予期し得ない顕著な効果であると認めることもできないところである。原告の上記主張は,本件明細書に基づくものではなく,審決の上記判断を誤りとする理由とはならない。
4 本件発明2についての取消事由1(一致点T’の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 原告は,引用発明2における「所定量だけ手前の位置」は,加圧を加えるべき加圧点そのものではないから,本件発明2における設定手段により設定され,記憶手段により記憶される「加圧力を加えるべき加圧点」には相当しない,と主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明2の「加圧力を加えるべき加圧点」について, 「上記した今までの設定操作により,作業者が操作釦Cl及びC2を押すと,中央処理装置2から電流設定回路8に高速設定された電流が,モータドライバー3を通してモータ4に供給され,該モータ4に結合されたラム5が高速で下降してゆき,設定加圧点に達するとラム5は前記中央処理装置2に,予め設定されたラム5が下降するのに必要なだけの最少電流と回転速度により,前記モータ4が駆動されラム5は低速で下降してゆく。
被加圧物に該ラム5が到達すると,モータ4の回転力が被加工物の抵抗に負けてラム5は停止する。この時,中央処理装置2がエンコーダ7により前記ラム5の停止を確認すると,瞬時に設定された加圧力に必要な電流を一定の立上り勾配をもってモータ4に供給した後,予め,前記中央処理装置2に設定された定速度でラム5は下降する。」(甲9号証の2・24頁6〜16行) と記載されている。この記載と本件明細書の第3図(甲第9号証の1・5頁)を参酌して解釈すれば,本件発明2における「加圧力を加えるべき加圧点」とは,ラムの下降速度を加工のため低速に変更する点であり,かつ,「ラムが工作物に当接する位置」よりも「所定量だけ手前の位置」であると解するのが相当である。
そして,刊行物2においても,LSlが検出される位置からラムが減速されるのであり,かつ,LSlが検出される位置は,ラムが工作物に当接する位置よりも所定量だけ手前の位置なのであるから(甲4号証3頁下から3行〜末行,5頁5〜11行参照),引用発明2における,LSlが検出される位置が,本件発明2における「加圧力を加えるべき加圧点」に相当する,とした審決の認定に何ら誤りはない。
(2) 原告は,引用発明2においては,「加圧を終了させる定位置停止点を含む複数位置を設定する設定手段」を備えているとの一致点I’の認定が誤りである,と主張する。
しかし,刊行物2には,次の記載がある(甲4号証)。
「ラム11の下降が停止されるとパルス発生器17からパルスが送出されなくなり,検出回路23から信号が出力される。これにより,フリツプフロツプFF3がリセツトされ,フリツプフロツプFF4がセットされてゲートG4に替わつてゲートG5が開かれるため,電流比較器21に喰込基準電流値IS2が与えられる。この喰込基準電流値IS2はスリーブSの先端突起Saを嵌合穴Waの底部に喰込ませるのに充分な駆動トルクが得られるような値に設定されているため,サーボモータ15は再び回転を開始し,ラム11を高い推力で下降させる。また,これと同時にアンドゲートAGが開かれるため,カウンタ25はパルス発生器17から出力されるパルスを計数し,スリーブSの先端突起Saが指定された量だけ喰込んでその計数値が設定器24の値に一致すると圧入完了信号PESを出力する。」(5頁末行〜6頁15行) 刊行物2の上記記載によれば,引用発明2においては,先端のスリーブSが工作物Wの嵌合穴Waの底部に当接して停止した後,設定されたパルス数だけ,スリーブの先端突起Saが嵌合穴Waの底部に喰込み,そこでラム11の下降が停止するものであり,「加圧を終了させる定位置停止点」をあらかじめパルス数を設定することにより設定しているものであると認められる。審決が,一致点I’において,本件発明2と引用発明2とは,「加圧を終了させる定位置停止点」をあらかじめ設定する,との構成において一致すると認定したことに誤りはない。
原告は,嵌合穴Waの底部は,任意に設定できる位置とはいえず,被加工物毎に異なる,設定できない位置であり,記憶することもできないものであるから,その底部から所定の量のストローク量を下降した位置も,任意に設定できる位置ではない,と主張する。しかし,嵌合穴Waの底部は,被加工物毎に定まっているものであるから,引用発明2においては,この位置を基準として,被加工物毎に「加圧を終了させる定位置停止点」をあらかじめパルス数を設定することにより設定しているものということができるのである。原告の主張は採用し得ない。 5 本件発明2についての取消事由2(容易想到性についての判断の誤り)について 原告は,本件発明2のように,有用な効果を奏する場合には,これを単なる公知技術寄せ集めと判断することは誤りである,と主張する。
いくつかの公知技術を組み合わせた発明については,そのような組合せによる構成を容易に想到することができ,かつ,その構成から予測し得る効果を奏するに留まるときは,進歩性を認めることはできないというべきである。そして,本件発明2については,その構成から予測し得ない顕著な効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。審決の「本件発明2の効果は,甲第14号証記載の発明及び甲第2,3,16,17号証に記載された技術的事項から当業者が予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。」(審決書17頁末段〜18頁1段)との判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用し得ない。
結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁