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関連審決 無効2005-80136
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10132審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10298審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10185審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10256審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10202審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  産業上利用(29条1項柱書) /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  数値限定 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  訂正明細書 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10111号 審決取消請求事件
原告AZエレクトロニック マテリアルズ株式会社
訴訟代理人弁護 士吉武賢次
同 宮嶋学
同 高田泰彦
訴訟代理人弁理 士中村行孝
同 紺野昭男
同 横田修孝
被告東海電化工業株式会社
訴訟代理人弁護 士後藤昌弘
同 川岸弘樹
訴訟代理人弁理 士和気操
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/11/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2005-80136号事件について平成18年2月6日にした審決のうち,「特許第3593200号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が有し,請求項1ないし8からなる後記特許について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が請求項1ないし4に係る特許を無効とし,その余の請求項に係る特許を維持する審決をしたことから,原告が無効とされた部分の取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯アスイス連邦に国籍を有するクラリアントインターナショナルリミテッド(以下「クラリアント社」という。)は,平成8年2月7日,名称を「低金属含率ポリベンゾイミダゾール材料およびその製法」とする発明について,特許出願(特願平8-21156号)をし,平成16年9月3日,特許第3593200号として設定登録を受けた(特許公報は甲18。以下「本件特許」という。)。原告は,クラリアント社から,本件特許権を譲り受け,平成17年2月9日その旨の登録がされた。
イこれに対し被告は,平成17年4月27日付けで本件特許の全請求項について無効審判請求をしたので,特許庁はこれを無効2005-80136号事件として審理し,その中で,原告は請求項1について訂正請求(甲19。以下「本件訂正」という。)をしたが,特許庁は,平成18年2月6日,「訂正を認める。特許第3593200号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。特許第3593200号の請求項5ないし8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年2月16日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件訂正後の請求項1〜4は,次のとおりである(以下,これらの発明を,順に「本件発明1」〜「本件発明4」という。なお,下線部分は本件訂正による加入部分である。請求項5〜8は省略。)【請求項1】下記の構造式(I)【化1】(式中,繰り返し単位を構成する各R は4価の芳香核であって,窒素原1子によって対称的に置換されており,繰り返し単位を構成する各R は22価の基であり,炭素数が2から20までの脂肪族,脂環族および芳香族のラジカルの中から選択され,繰り返し単位を構成する各R は水素原子,3アルキル基およびアリール基等の基(これらの基がさらに他の基で置換さ4れていてもよい)から独立的に選択され,繰り返し単位を構成する各Rは水素原子,アルキル基およびアリール基等の基(これらの基がさらに他の基で置換されていてもよい)から独立的に選択され,繰り返し単位を構成する各Xは直接結合,-O-,-CO-O-等から独立的に選択される),または下記の構造式(II)【化2】(式中,繰り返し単位を構成する各R は窒素原子(芳香核の隣接した炭5素原子上で組み合わされているベンゾイミダゾール環を形成している)を有する芳香核であり,繰り返し単位を構成する各R は水素原子,アルキ6ル基およびアリール基等の基(これらの基がさらに他の基で置換されていてもよい)から独立的に選択され,繰り返し単位を構成する各Xは直接結合,-O-,-CO-O-等から独立的に選択される)で表される,固相重合により製造されるポリベンゾイミダゾール材料であって,当該材料中に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下であることを特徴とする半導体・表示素子の製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料。
【請求項2】クロム,鉄,ニッケルの総濃度が5ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載した半導体・表示素子の製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料。
【請求項3】クロム,鉄,ニッケルの内,少なくとも2種類のそれぞれの濃度が1ppm以下であることを特徴とする請求項1ないし2に記載した半導体・表示素子の製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料。
【請求項4】ポリベンゾイミダゾール材料が下記の構造式【化3】で示される,請求項1または2または3に記載の半導体・表示素子の製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料。
(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりであり,本件発明1〜4を無効と判断した理由の要点は,次のとおりである。
(ア)本件訂正は,特許請求の範囲減縮等を目的としてなされたから適法である。
(イ)本件発明1〜4は,下記の各文献に記載された発明(以下,これらの発明を,「甲10発明」などという。)に基づいて当業者が容易に発明することができたから,その特許は特許法29条2項に違反してなされたものである。
・ 特開平7-147247号公報(甲10)・ 特開平7-130828号公報(甲12)・ 特開平6-135786号公報(甲13)・国際公開第95/02634号公報(甲21。国際公開日平成7年(1995)1月26日。その公表特許公報[特表平9-500163]は甲4。)・E. J. PowersandG. A. Serad” HistoryandDevelopment of Polybenzimidazole” the SymposiumontheHistoryofHighPerformancePolymers,NewYork,AmericanChemicalSociety,April15-18,1986(甲14)イなお,審決が認定した本件発明1と甲10発明との一致点,相違点は,次のとおりである。
・一致点「構造式(I)で表されるポリベンゾイミダゾール材料であって,半導体・表示素子の製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料」である点・ 相違点(あ)「ポリベンゾイミダゾール材料が「固相重合法により製造される」ものである」ことが,甲10発明には記載されていない点。
(い)「当該(ポリベンゾイミダゾール)材料中に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下である」ことが,甲10発明には記載されていない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決の判断には次のとおり進歩性の判断を誤った違法があるから,取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件発明1と甲10発明との相違点(い)についての認定判断の誤り)(ア) 本件発明1につき本件発明1は,半導体製造装置部品に用いるための低金属含有ポリベンゾイミダゾール材料に係るものである。
本件発明1は,金属不純物の存在が半導体・表示素子製品の歩留まりを大きく左右する半導体・表示素子を製造するための装置の部品材料として用いるために,ポリベンゾイミダゾール材料に含まれる金属をできる限り少なくすべきとするものであるが,本件特許出願当時(平成8年2月7日)においては,ポリベンゾイミダゾール材料に含まれる金属が半導体・表示素子製造装置によって製造される半導体・表示素子の歩留まりを悪くする直接の原因となることはもちろんのこと,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていること自体も全く知られていなかった。このことは,本件特許出願前の公知資料である甲10において,ポリベンゾイミダゾールが含有不純物のほとんどない理想的な材料として記載されていることからもうかがい知ることができる。
本件発明1は,このような背景の下,以下の経緯により成されたものである。
ヘキストジャパン株式会社は,平成2年ころから,ポリベンゾイミダゾール成型品をメカニカルシール,ワッシャーなどの一般の耐熱用部材用として販売していたが,平成4年ころ,ポリベンゾイミダゾールの優れた耐熱性,プラズマ耐性に目をつけ,プラズマ処理装置部品(ウエハー固定用治具など)の部材として,当時主に用いられていた石英に代えて,用いることができないか検討を始めた。そして,同社は,半導体製造装置メーカーである東京エレクトロン株式会社に対し,ポリベンゾイミダゾールを半導体製造装置用部材として用いることを提案し,共同して開発を行うことになった。その後製品化の段階に至り,ポリベンゾイミダゾール材料を用いたプラズマ処理装置中で半導体素子をプラズマ処理しようとしたとき,プラズマが不安定になることがあり,その不安定なプラズマによって製造装置が緊急停止するなどして半導体・表示素子の製造に支障をきたすという問題が発生した。当初,プラズマが不安定となる原因はポリベンゾイミダゾール中の水分の存在にあるとの推測がされていた。しかし,調査の結果,プラズマが不安定となる原因は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末(金属のかけら)が混入しており,プラズマが半導体素子だけにではなくポリベンゾイミダゾール材料中の金属の微粉末めがけて飛ぶことがあるためであることが突き止められた。さらに,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末が混入している原因は,触媒等を含むその合成原料にあるのではなく,ポリベンゾイミダゾールの強度が高いためその工業的規模での製造過程で反応容器に使用されている金属材料が摩耗してポリベンゾイミダゾール中に混入するためであり,当時存在したポリベンゾイミダゾール材料中には不可避的に金属の微粉末が混入しているということが解明された。なお,ヘキストジャパン株式会社のポリベンゾイミダゾール樹脂関連事業は,平成9年7月1日にクラリアントジャパン株式会社に,次いで平成16年10月1日に原告に譲渡された。
以上のようにして,ポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれていることについての認識が当業者間に全くなかった当時において,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末が含まれ,その金属の微粉末にプラズマが飛ぶことが半導体素子製造に支障をきたし,その結果として,歩留まりを悪くする原因であることが解明されたことにより,ポリベンゾイミダゾール材料へのプラズマの直撃を防ぐために,ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属を減らすべきであるという全く新規の課題が見出され,本件発明1がなされた。
本件発明1は,このように,ポリベンゾイミダゾール材料中の金属含有量自体を問題としている。この点において,本件発明1は,材料の含有金属とは関係なく発生する不純物に対しての対処法について記載されたものである甲10,12及び13とは根本的に異なり,また,本件発明1とは全く異なった観点から材料の抽出金属を問題とする甲21とも根本的に異なっている。次の(イ)以下で,これらの異なる点について詳しく述べる。
なお,被告は,半導体・表示素子製品の特性と製品の歩留まりとは,異なる概念であると主張するが,製品の特性が悪ければその製品は出荷することができなくなるのであるから,製品の特性は歩留まりと直接に関連することになる。
被告は,本件特許出願当時,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていることは知られていたと主張するが,本件明細書(特許公報は甲18,訂正明細書は甲19)には,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれている事実が記載されているのみであり,その事実が知られていたとは記載されていない。また,乙1(米国特許第4672104号)は,ファイバー用のポリベンゾイミダゾールの改良製法についての文献であり,半導体・表示素子製造装置部品などの成型品用のポリベンゾイミダゾール材料の製造においては,乙1に記載の製法が用いられることはないし,反応触媒としてマグネシウム等が使用されたとしても反応生成物中に必ずしもこれらが残留しているとはいえず,金属成分を含んだ触媒が使用されることが通常であると記載されているわけでもない。
被告は,半導体・表示素子製品の特性が安定化することと,その製造過程における工程が安定化することは全く別の概念であると主張するが,プラズマが不安定であると脇に逸れたプラズマにより製造装置表面が削り取られてパーティクル等の不純物がまき散らされることになるため,プラズマが不安定になると製品の特性が悪化することになる。
被告は,本件明細書の記載によると,金属材料は「製造装置に使用されている金属材料」であり「反応容器に使用されている金属材料」ではなく,「高い金属濃度の原因であることを見い出した。」であり「不可避的に金属の微粉末が混入しているということを解明した」ではないと主張する。しかし,反応容器は製造装置の一部であり,「反応容器に使用されている金属材料」は「製造装置に使用されている金属材料」に含まれている。また,「不可避的に金属の微粉末が混入しているということ」は,本件明細書の「製造装置に使用されている金属材料が摩耗してポリベンゾイミダゾール中に混入すること」に対応する。「イオンとして混入している金属」は,本件発明1における「金属」から排除されてはいないが,本件発明1は,摩耗して混入した金属の微粉末を問題としていることは明らかである。本件特許出願時の市販成形品用ポリベンゾイミダゾール材料は原料及び触媒として金属を含んだ物質が用いられることなく製造されていたため,それにイオンとして混入している金属は,微小金属粉として混入している金属と比較して,無視できるほど少ないものであった。
被告は,仮にポリベンゾイミダゾール材料中には不可避的に金属の微粉末が混入し,その金属の微粉末が反応容器に使用されている金属材料であるならば,その金属組成はステンレス組成と同じになると考えられると主張する。しかし,ステンレス表面においては,Crが空気中の酸素と結合して非常に安定な酸化クロムとなり,この酸化膜がステンレス表面に形成されると,錆が内部に進行しなくなる。しかし,その一部が破壊されると金属の溶解が進み局部腐食を起こすことになる。しかも,この腐食は,Feなどの構成金属の電位が異なるため構成金属の種類によってその程度に差が出てくる。そのため,一般に,ステンレス表面が摩耗して生じる金属微粉末の組成は,局部腐食の程度や各金属の有する電位に影響され,そのステンレス自体の組成とは一致しない。
被告は,本件発明1の半導体・表示素子の製造装置部品は,基板の搬送部品や固定部品,真空チャンバー内の絶縁部品や各種ガスケット,保護フィルムやフレキシブル絶縁基板であり,これらの製造装置部品がプラズマ処理装置中で使用されるとは限らず,本件明細書にもプラズマ処理装置についての記載はないと主張する。しかし,半導体・表示素子の製造装置の中で金属の影響を受けやすい代表例がプラズマ処理装置であり,本件発明1は,プラズマ処理装置を含む半導体素子製造装置部品として使用できるということに意義がある。
(イ) 甲10につき甲10は,「半導体ウェーハ等の被処理体に成膜或いはエッチング等の処理を行う処理装置」に係る発明の公開特許公報である。
甲10には,不純物発生の原因について,「そうした従来の処理装置の真空処理容器に施されたアルマイト処理においては,母材の種類(アルミニューム等)と酸の組み合わせ或いは処理条件(電解条件等)などで成長する被膜の性質が左右され,マイクロクラック等が生じ易く,引いてはこれが原因で耐電気絶縁性や耐腐食性の劣化を起こし,パーティクル等の不純物質の発生を招いていた。更には,電解液中でアルマイト処理する際に,そのアルマイト成長層に多くのアルミニューム及び各種重金属が含まれ,これら重金属元素が飛び出して不純物質となり,これらがウェーハ表面の微細な成膜層の汚染につながり,高密度高集積化が進む半導体素子の電気的特性の異常を招いていた。」(段落【0005】)との記載がある。そして,甲10には,その対処法について,「請求項1に係わる発明は,真空処理容器内に被処理体を収納保持すると共に,処理ガスを導入して該被処理体を処理する処理装置において,前記処理容器の内面に,高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を設けたことを特徴とする。」(段落【0009】)との記載がある。
したがって,甲10発明は,アルマイト成長層の劣化に伴って,アルマイト成長層が処理容器内面から剥離してパーティクルを発生させたり,アルマイト成長層を構成するアルミニューム及び各種重金属が飛び出したりして不純物質となることから,それを防ぐために,アルマイト処理に代えて,処理容器の内面にポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を設けるというものである。
また,甲10発明において想定するポリベンゾイミダゾール材料はPBI(ポリベンゾイミダゾール)樹脂の合成ペレット市販品であるが(段落【0047】),この合成ペレットは,段落【0046】の化学構造式【化1】で示されるポリベンゾイミダゾールがそれのみではペレット化できないことから,通常は他の樹脂(典型的にはポリエーテルエーテルケトン)との混合体からなるペレットである。したがって,樹脂の原料段階での金属混入については全く意識されていない。
このように,甲10発明は,アルマイト成長層の劣化に伴う不純物の発生がウェーハ表面の汚染の原因と捉えているのであって,半導体製造用の部品にアルミニュームや各種重金属が含まれていること自体を問題としてはいない点で本件発明1とは異なっている。
この点について,審決は,「そうすると,甲第10号証には,半導体素子の製造装置部品にアルミニュームや各種重金属が含まれているとこれらが不純物となってウェーハ表面を汚染するとの認識のもとに,当該部品に含有不純物が非常に低レベルであるポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を施すか部品自体をポリベンゾイミダゾール樹脂成形品とすることが記載されているものということができる。」(14頁下から7行〜3行)と認定するが,この認定は,「半導体素子の製造装置部品にアルミニュームや各種重金属が含まれているとこれらが不純物となってウェーハ表面を汚染するとの認識のもとに」としている点で,誤っている。
(ウ) 甲12につき甲12は,「半導体製造装置」に係る発明の公開特許公報であって,不純物発生の原因について,「ところが上記した載置台においては,ウエハSが静電チャック40に吸着される瞬間に,ウエハSの裏面とセラミック材料からなる絶縁体42の上面とが擦り合わされる。このため,絶縁体42の上面を滑らかに研磨して平滑としなければ,ウエハSが吸着される度に絶縁体42の上面が削り取られてダストとなる微粒子が発生してしまうという欠点があった。ダストの発生は,ウエハSを汚染して歩留りを著しく低下させるうえ,そのダストにはウエハS上に形成される素子に悪影響を及ぼすCa,Ti,Ba等の金属成分が含まれているため好ましくない。」(段落【0008】,【0009】)との記載がある。そして,甲12には,その対処法について,「上記課題を解決するために本発明は,ウエハを載置台に載置してそのウエハに表面処理を施す半導体製造装置において,前記載置台の上面を,高誘電率を有しかつ金属を含まない高分子薄膜で被覆するようにしたものである。」(段落【0012】)との記載がある。
したがって,甲12には,ウエハが半導体製造装置の載置台の静電チャックに吸着されるときに,ウエハの裏面とセラミック材料からなる載置台絶縁体の上面が擦り合わされて絶縁体の上面が削り取られてセラミック材料の微粒子が発生してしまうために,それを防ぐために,絶縁体の上面を高分子被膜で被覆することが記載されている。
このように,甲12発明は,セラミック材料からなる半導体製造装置の一部がウエハにより削り取られてダストになることを問題とするものであり,半導体製造装置に金属が含まれていることを問題とはしていない点で本件発明1とは異なっている。また,その発生するダストに金属が含まれること自体をとりたてて問題とするものではない点においても本件発明1とは異なっている。
なお,甲12には,上記の「ダストの発生は,ウエハSを汚染して歩留りを著しく低下させるうえ,そのダストにはウエハS上に形成される素子に悪影響を及ぼすCa,Ti,Ba等の金属成分が含まれているため好ましくない。」(段落【0009】)との記載があるが,これは,一般に,セラミックの構成元素としてCa,Ti,Ba等の金属成分が含まれることから,そのことを付加的に述べただけのものであって,特にその金属成分に着目してその発生を問題とするものではない。
この点について,審決は,「甲第12…号証には…,半導体素子の製造装置において,製品の品質の観点から装置からの金属成分の発生を防止すべきことが開示されているものということができ,」(15頁12行〜14行)と認定するが,この認定は,上記観点から誤っている。
(エ) 甲13につき甲13は,「半導体製造装置用セラミック部材及びその製造方法」に係る発明の公開特許公報である。
甲13には,不純物発生の原因について,「アルミナセラミックス等の耐摩耗セラミックスの研削加工面は,上記のように鋭利な微細凹凸等が存在し,それ自体がヤスリと同様に作用し,接触した接触物面を擦り減らし,摩滅粉を生じさせ,それら摩滅粉はセラミック表面に付着することになる。これらの付着粉が,半導体製造工程においてパーティクル発生原因であることが明らかになった。」(段落【0011】),「先ず,焼結法によって製造された焼成されたままのセラミック表面の特徴を考察した。焼成されたままのセラミック表面は,主に下記の性状を有する。…(3)焼成雰囲気や焼成中の接触物からの汚染が存在する。例えば,電気炉では,ヒーターや炉壁等を構成する耐火物から蒸発する不純物,また,ガス燃焼炉では,炉内へ吹き込まれる配管内の錆等や,電気炉と同様の耐火物から蒸発する不純物により,セラミックスの表面が汚染されていることが多い。また,道具材の不純物からの汚染も存在する。」(段落【0008】),「セラミックス自体の減耗速度が大きい時,温度が高くてセラミックス中を不純物や焼成時の付着汚染物が拡散し易い時,また,電界等でセラミックス中の不純物及び焼成汚染物に移動駆動力が存在する時に,汚染が極めて多くなることが知見された。また,微量不純物及び汚染物のうち,Na等アルカリ金属やCuのようにシリコン特性に影響し易いものの存在が特に問題となることも明らかになった。」(段落【0012】)との記載がある。そして,甲13には,その対処法について,「本発明によれば,セラミック部材であって,化学研磨により表面処理されてなり,セラミック材の汚染表面層及び/またはマイクロクラック層が除去され,半導体製造工程での汚染物放出を抑制されてなることを特徴とする半導体製造装置用セラミック部材が提供される。」(段落【0004】)との記載がある。
したがって,甲13には,半導体製造装置用セラミック部材の研削加工面には鋭利な微細凹凸が存在し,そこに接触物の摩減粉や,焼成中に付着した不純物が付着しているため,それらを化学研磨による表面処理により表面層ごと除去することが記載されている。
このように,甲13発明は,セラミック部材の研削加工面に特有のメカニズムによりその表面に付着した不純物を問題とするものであり,半導体製造用セラミック部材に含まれる金属を何ら問題としていない点で本件発明1とは異なっている。
なお,甲13には,上記のとおり,「また,微量不純物及び汚染物のうち,Na等アルカリ金属やCuのようにシリコン特性に影響し易いものの存在が特に問題となることも明らかになった。」(段落【0012】)との記載があるが,これは,たまたま不純物にNa,Cu等が含まれていることから付加的に述べたものであり,とりたててその金属成分に着目してそれを課題とするものではない。
この点について,審決は,「甲第…13号証には…,半導体素子の製造装置において,製品の品質の観点から装置からの金属成分の発生を防止すべきことが開示されているものということができ,」(15頁12行〜14行)と認定するが,この認定は,上記観点から誤っている。
(オ) 甲21につき甲21は,「高純度フルオロエラストマー配合物」に係る発明の公開特許公報である。このフルオロエラストマーは,主に高温やアグレッシブな薬品に遭遇する環境に曝される半導体ウエットケミカルプロセス等においてシール材等として用いられているゴム状の軟らかい材料である。
甲21には,「米国特許第3,682,872号,第4,281,092号,及び第4,592,784号に記載されたようなフルオロエラストマーは商業的に大成功を達成し,異常環境下,例えば高温やアグレッシブな薬品に遭遇する幅広い用途で使用されている。」(1頁3行〜7行。訳文1頁。甲4の4頁4行〜7行),「本発明によれば,フルオロエラストマーは,ある成分の濃度が僅かであるか,あるいは該成分が含まれない場合に,申し分のない性質を有するものとなる。フルオロエラストマー配合物に特に,金属および金属化合物が実質的に含まれてはならない。そのような金属および金属化合物の例は,実施例および比較例に報告された結果の金属および金属化合物である。一般に金属抽出物全体の濃度を約500部/ビリオン(ppb)未満とすべきであり,また金属抽出物の濃度が200ppb未満の場合に特に必要とするパフォーマンス特性が得られる。本発明のフルオロエラストマー配合物は,未乾燥化学的環境での使用に適しており,また既知の配合物と比較して金属性,アニオン性,およびTOC抽出物が顕著に少ない。その結果,高純度での他の用途と同様に半導体ウエットケミカルプロセスにおいて特に好適に用いられる。」(6頁24行〜7頁6行。甲4の10頁13行〜23行)との記載がある。
したがって,甲21には,半導体ウエットケミカルプロセスにおいては,金属性,アニオン性及びTOC抽出物が製造される半導体素子に悪影響を与えるという認識のもとに,高温やアグレッシブな薬品に遭遇する非常に過酷な環境下において抽出される金属性,アニオン性及びTOC抽出物が顕著に少ないフルオロエラストマー配合物について記載されている。
このように,甲21発明は,アグレッシブな薬品に長時間曝される半導体ウエットケミカルプロセスの過程においてフルオロエラストマーから抽出される金属性,アニオン性及びTOC抽出物を問題とするものである。この問題は,主に半導体ウエットケミカルプロセス等においてシール材等として用いられ,アグレッシブな薬品に長時間曝されることが想定されているフルオロエラストマーに特有のものであり,フルオロエラストマーとは物理的特性(弾性,硬度など)及び用途が全く異なる本件発明1のポリベンゾイミダゾールには当てはまらないものである。
また,本件発明1が想定するポリベンゾイミダゾール含有金属の濃度は1ppmのオーダーであるのに対し,甲21発明が想定するフルオロエラストマーから抽出される金属の濃度は100ppbのオーダーと非常に低い値となっている。これは,甲21発明では,ウェットケミカル中にフルオロエラストマーから抽出された金属は直接製造中の半導体素子に触れることとなるため,抽出金属の半導体素子に直接与える影響という観点から定められたものであるのに対し,本件発明1の数値は,材料中の金属にプラズマが直撃することを防ぐという観点から定められたものであり,金属そのものが半導体素子に与える影響という観点とは無関係に定められたものであるためである。このように,甲21発明と本件発明1とでは,問題とする金属濃度の数値設定の根拠となる技術思想が全く異なるものである。
そのため,甲21には,ウェットケミカル中において抽出される金属の総濃度が500ppb以下のフルオロエラストマー配合物製の部品を用いることが教示されているとはいえるが,半導体・表示素子の製造装置において,アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下の部品を用いることが教示されているとはいえない。
(カ)審決は,本件発明1との甲10発明との相違点(い)について,「甲第4,12及び13号証の記載事項を総合すると,これら各号証には,半導体素子の製造装置において,製品の品質の観点から,装置部品からのアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属を含む金属成分の発生を防止すべきこと,そのために部品材料中の金属含有量を低減させること,及び,アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下の部品を用いることが教示されているものということができる。」(16頁1行〜6行)と述べた上で,「甲10発明においても,半導体素子の製造装置部品にアルミニュームや各種重金属が含まれることによる不都合を解消するために,当該部品として含有不純物が非常に低レベルであるポリベンゾイミダゾール樹脂を用いるものである以上,上記各号証の教示に基づいて,ポリベンゾイミダゾール樹脂として,本件発明1の(い)のようにアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下のものを採用することは,当業者が容易に想到し得たものというべきである。」(16頁7行〜13行)と判断する。
しかし,本件発明1と甲10,12,13,21の各発明との間には,上記(ア)〜(オ)のとおり違いがあることからすると,審決の上記判断は,誤っている。
また,上記のとおり,本件特許出願当時,ポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれていることは公知ではなく,当業者は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれている可能性についての認識を有していなかった。そのため,本件特許出願当時の当業者には,ポリベンゾイミダゾール樹脂として金属の総濃度が低いものを採用しようという動機付けがなかったといえる。この点,甲21では,高分子ポリマーであるフルオロエラストマー配合物からの抽出金属を問題としているが,これは,通常のフルオロエラストマー配合物の製造において,金属性架橋材,金属酸化物酸受容体などの金属を含む原料が使用されていたという特殊な事情のためであり,ポリベンゾイミダゾールなど製造過程で金属を含む原料を使用しない通常の高分子ポリマー材料については,その材料中に金属が含まれている可能性について意識されることはなかった。
さらに,当業者にとって,本件発明1の10ppmという具体的数値は,微小金属粉混入の有無を画する基準となる数値として,その意義は明らかなものであり臨界的意義を有するものといえる。また,本件特許出願時においては当業者にはポリベンゾイミダゾール材料に金属が混入していることについての認識がなく,金属濃度についても何ら問題とされることはなかったのであるから,本件発明1は,臨界的意義の有無にかかわらず金属濃度を問題としていることのみをもって進歩性が認められるべきものである。
したがって,審決の上記判断は誤っている。
(キ)加えて,審決は,「仮に,甲第4号証(判決注本訴の甲21)にはO-リングのアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下とすることが開示されていないとしても,上記のように半導体製造装置用の部品に金属成分が含有されることが好ましくないことが当業界で広く認識されていた以上,甲10発明において,アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属についてその総濃度の上限を10ppmに設定することは,製品に要求される品質等を考慮して,当業者が適宜実験的になし得たものというほかはない。」(16頁14行〜20行)と判断する。
しかし,上記(ア)〜(オ)のとおり,甲21発明は,本件発明1とは技術思想を全く異にするものであり,また,甲10,12及び13には,部材等からの金属の放出を抑制するために部材の金属含有量自体を減らすべきことは記載されていない。甲10,12,13発明は,全体が金属成分により構成されているアルミやセラミック部材に係るものであるため,これらを根拠にして部品に金属成分が含有されることが好ましくないことが当業界で広く認識されていたと認定することは不合理である。
本件発明1の10ppmという具体的数値の意義については,上記(カ)のとおりである。
したがって,甲10発明においてアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属についてその総濃度の上限を10ppmに設定することは当業者が適宜実験的になし得たものであるとする審決の判断は誤っている。
(ク)以上のとおり,本件発明1と甲10発明との相違点(い)についての審決の認定判断は誤っている。
イ取消事由2(本件発明1と甲10発明との相違点(あ)及び相違点(い)の組合せについての審決の判断の誤り)(ア)反応器として金属製以外のものを用いることは現実的ではないことポリベンゾイミダゾールは,原料粉末を反応器内で加熱混合することにより製造される。その製造過程において,形成されたプレポリマーが表面で固化してカルメ焼き状に膜を形成することになるが,さらに重合させるために,そのプレポリマーを破砕する工程を経る必要がある。
この破砕の工程は,ステンレス製の反応器であれば,反応器の中でボールなどを用いて行うことができるが,ガラスなど金属製以外の反応器では,強度の問題から容器内で行うことができない。
ポリベンゾイミダゾールの製造においては,反応を不活性ガス中で行い,かつ未反応ベンジジンやフェノールなど危険物が反応における中間体として存在するため,一定量以上のポリベンゾイミダゾールを製造する場合には,閉じた環境の中で製造を行う必要がある。そのため,加熱して又は溶液化してガラス製の反応器から取出すことは現実的ではない。
甲15(三田達監訳「高分子大辞典」丸善株式会社1075頁)には,ポリベンゾイミダゾールの製造にガラス製の反応器が用いられることが記載されているが,それは,実験室レベルに限った話である。この場合においては,破砕の工程は,カルメラ状のプレポリマーをガラス製の反応器から一度かき出した上で,乳鉢などで砕くことにより行われる。ここで,カルメラ状のプレポリマーはガラス製の反応器に吸着しているため,反応器を割らずにプレポリマーをかき出すために地道な作業を必要とし,大変苦労することになる。そして,そのような作業を経て製造されるポリベンゾイミダゾールは,わずか数グラム程度である。半導体製造装置部品を製造するためには,通常5〜10キログラムのポリベンゾイミダゾールを用いてまず母材を製造し,次いでこの母材を切削加工することが必要であるため,半導体製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料を製造するために,ガラス製など金属製以外の反応器を用いることは現実的ではない。
また,ポリベンゾイミダゾールの製造には合成原料としてベンジジン系化合物が使用されるが,このベンジジン系化合物は発癌性の高い危険物質であるため,危機管理の観点から,破壊されやすいガラス容器による工業的規模での製造には全く適さない。
なお,被告は,本件発明1は「物」の発明であり,実験室的生産又は大量生産とは無関係であると主張する。しかし,本件発明1は,半導体・表示素子製造装置用ポリベンゾイミダゾール材料に係るものであるため,その生産方法も,製造装置用部品を製造するのに現実的な量のポリベンゾイミダゾールを製造できるものである必要がある。そのため,本件発明1は,実験的生産又は大量生産と無関係であるとはいえない。
被告は,レジスト材料などは数100g単位取引されるものもあると主張する。しかし,このようなレジスト材料は,半導体素子の製造の工程で一時的に用いられる消費材である化学品の組成物であり,半導体・表示素子の製造装置の部品として用いられるものではない。
被告は,ポリベンゾイミダゾールの固相重合においてはジクロライドを原料として使用する場合も考えられ,その場合,反応生成物として塩化水素が発生するため,グラスライニングの反応釜など耐食性の反応釜でないと製造できない場合があると主張する。しかし,ジクロライドを原料として製造されるポリベンゾイミダゾールは,専らファイバー用に検討されたものであるが,ファイバー用においても実用に適さないものであり,本件発明1が対象とする半導体・表示素子製造装置部品などの用途には用いることができない。
(イ)審決は,「ポリベンゾイミダゾールを固相重合法により製造することは上記のように本件の出願前周知であり,その製法において用いる反応器についても種々のものが知られている。例えば,周知例1(判決注本訴の甲15)に,「工業的な大量生産に適しているのは固相重合である。この方法では,真空または大気圧において固体を重合し,ポリマーの溶解した押出し可能な紡糸原液を直接作ることができる。大気圧における二段階重合には,ガラス製あるいは316-ステンレス鋼製の反応器が用いられる。」(第1075頁右欄第12〜16行)と記載されているように,ガラス製の反応器も周知である。そうすると,甲10発明において本件発明1の(あ)のように,ポリベンゾイミダゾール材料を「固相重合法により製造される」ものとしても,その固相重合がこのようなガラス製の反応器を用いて行われた場合には,製造されるポリベンゾイミダゾールには金属成分がほとんど含まれず,本件発明1の(い)の要件を自ずから満たすこととなるものと解される。また,上記(ii)のように甲10発明において,アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を低減しようとするにあたり,ポリベンゾイミダゾールの製造工程中での金属不純物の混入防止のために反応器に金属製以外のものを用いる等の手段を講ずることは,当業者が容易になし得るところというほかはない。したがって,本件発明1における(あ)と(い)の組合せに格別の困難性は見出せず,訂正明細書の記載からは,それにより,特に予測を超える効果を奏し得たものとも認められない。」(16頁下から10行〜17頁11行)と述べた上で,「本件発明1は甲第4,10,12〜14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書17頁18行〜19行)と判断する。
(ウ)しかし,上記(ア)で述べたように,ポリベンゾイミダゾールを固相重合法により製造するに際してガラス製の反応器その他金属製以外の反応器を用いることは,本件特許出願当時においても現在においても現実的ではなく,反応器として金属製以外のものを用いることが可能であるとの認識を前提とする審決の上記判断は誤ったものである。
さらに,上記1(ア)で述べたように,固相重合法により製造されるポリベンゾイミダゾールには不可避的に金属が含まれることになるが,本件特許出願当時,当業者には,固相重合法により製造されるポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれている可能性についての認識が全くなかった。そのため,本件特許出願当時,当業者には,相違点(あ)と相違点(い)を組合せる動機付けが存在しなかったのであり,相違点(あ)と相違点(い)の組合せが容易であったとはいえない。
したがって,審決の上記判断は誤っている。
ウ 取消事由3(本件発明2及び3についての審決の判断の誤り)本件発明2及び3は,本件発明1について,ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属の濃度を特定の金属についてさらに限定したものである。
前述のように,本件発明1について進歩性が認められるべきであることから,本件発明2及び3についても当然に進歩性が認められるべきである。
また,本件発明2における「クロム,鉄,ニッケルの総濃度が5ppm以下である」との限定は,固相重合法によるポリベンゾイミダゾール材料の製造に用いられるステンレス製反応器の主成分がクロム,鉄,ニッケルであり,それが製造工程において不可避的に材料に混入することから,ポリベンゾイミダゾール材料において,これらの総濃度が低いということは,大きな意義のあることである。本件発明3における「クロム,鉄,ニッケルの内,少なくとも2種類のそれぞれの濃度が1ppm以下である」との限定についても同様である。
したがって,本件発明2及び3について進歩性を認めなかった審決の判断は誤っている。
エ 取消事由4(本件発明4についての審決の判断の誤り)本件発明4は,本件発明1〜3について,ポリベンゾイミダゾールの構造式を特定のものに限定したものである。
前述のように,本件発明1〜3について進歩性が認められるべきであることから,本件発明4についても当然に進歩性が認められるべきである。
したがって,本件発明4について進歩性を認めなかった審決の判断は誤っている。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 本件明細書の記載内容ア本件明細書(甲18)の段落【0003】に,「しかし,現在市場製品として一般的に入手可能なポリベンゾイミダゾールには鉄,クロム,ニッケル,銅等の金属が多量に含まれており,特に金属不純物の影響が大きく製品の特性を左右する半導体・表示素子を製造するための部品としての用途は非常に限られたものであった。」と記載されている。また,本件明細書の段落【0005】に,「…金属総濃度を,金属不純物の影響が製品の特性を大きく左右する半導体・表示素子の製造部品用として要求されるまで,十分に低いレベルとすることは困難である。…によっては,前述の金属総濃度を上記要求を満たす程十分に低下させることはできないという結論に達した。」と記載されている。そうすると,本件発明1の目的は,ポリベンゾイミダゾールには金属が多量に含まれており,これらの金属は半導体・表示素子の特性を大きく左右することになるから,該半導体・表示素子を製造するときの製造装置部品に用いるために,アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下にした半導体・表示素子の製造装置部品用ポリベンゾイミダゾール材料を提供することにあるといえる。
イ本件明細書の段落【0012】に,「微小金属粉やイオンとして混入している金属をポリベンゾイミダゾールから貧溶剤中へ溶解・分散させることである。」と記載されている。また,本件明細書の段落【0025】に,「下記表1に示す前処理を施してICP発光分析法により含まれる金属不純物を測定した。」と微小金属粉やイオンを分離することなく測定していることが記載されている。そうすると,本件発明1における「金属」は「微小金属粉」のみではなく「微小金属粉やイオンとして混入している金属」である。
ウ本件明細書の段落【0006】に,「ポリベンゾイミダゾール材料に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下とすれば,アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属の影響を受けやすい半導体,表示素子の製造装置部品として工業上使用しうることを見い出した。」と記載されている。金属の総濃度10ppm以下との関係において,半導体・表示素子のどのような特性が金属の影響を受けるかについては何ら記載されていない。そうすれば,金属の総濃度10ppm以下についての臨界的意義はなく,単に金属総濃度を低くする程度として記載されているのみである。
エ本件明細書の段落【0017】に,「具体的には,半導体ウエハーや薄膜トランジスター駆動型液晶表示素子等の表示素子基板の搬送部品や固定部品,CVD・エッチング・スパッタリング用真空チャンバー内の絶縁部品,各種ガスケット等である。…塗工ワニスとして用いることも可能であり,またキャスティング法などによりフィルム化して…各種保護フィルムやフレキシブル絶縁基板としても用いられる。」と記載されている。そうすると,本件発明1の半導体・表示素子の製造装置部品は,基板の搬送部品や固定部品,真空チャンバー内の絶縁部品や各種ガスケット,保護フィルムやフレキシブル絶縁基板を含む概念である。
(2) 取消事由1に対しア 取消事由1の(ア)につき(ア)原告は,「本件発明1は,金属不純物の存在が半導体・表示素子製品の歩留まりを大きく左右する半導体・表示素子を製造するための装置の部品材料として用いるために,ポリベンゾイミダゾール材料に含まれる金属をできる限り少なくすべきとするものである」と主張する。しかし,本件明細書(甲18)には,上記(1)アのとおり,「特に金属不純物の影響が大きく製品の特性を左右する半導体・表示素子を製造するための部品としての用途は非常に限られたものであった。」(段落【0003】)と記載されているのみである。半導体・表示素子製品の特性と製品の歩留まりとは,異なる概念である。
(イ)原告は,「ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていること自体も全く知られていなかった。このことは,本件特許出願前の公知資料である甲10において,ポリベンゾイミダゾールが含有不純物のほとんどない理想的な材料として記載されていることからもうかがい知ることができる。」と主張する。しかし,原告の主張によれば,原告は,既存のポリベンゾイミダゾール(PBI)製品が存在することを前提とし,それを半導体製造装置用部材として用いることを提案したというのである。そして,本件明細書(甲18)には,上記(1)アのとおり,「現在市場製品として一般的に入手可能なポリベンゾイミダゾールには鉄,クロム,ニッケル,銅等の金属が多量に含まれており,」(段落【0003】)と記載されている。原告が半導体製造装置用部材として用いることを検討した時点では,PBI製品が市場製品として存在しており,しかもその市場で一般的に入手可能なPBI製品には金属が多量に含まれていることが出願前に知られていたというのである。そうであるとすれば,「ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていること自体も全く知られていなかった」とする原告の主張は全く事実に反するものというほかない。さらに,USP4672104(乙1)には,ポリベンゾイミダゾールの合成触媒として,マグネシウム,マンガン化合物を使用できることが記載されているから,当業者は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれている可能性についての認識を有していたといえる。
(ウ)原告は,「プラズマが不安定となる原因は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末(金属のかけら)が混入しており,プラズマが半導体素子だけにではなくポリベンゾイミダゾール材料中の金属の微粉末めがけて飛ぶことがあるためであることを突き止められた。」と主張する。しかし,本件明細書(甲18)には,上記(1)アのとおり,「特に金属不純物の影響が大きく製品の特性を左右する半導体・表示素子を製造するための部品」(段落【0003】)と,「半導体・表示素子の特性の観点」より記載されているのみである。本件発明1の課題がプラズマを安定化させることにあるとは一切記載されていない。また,半導体・表示素子製品の特性が安定化することと,その製造過程における工程が安定化することは全く別の概念である。
(エ)原告は,「ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末が混入している原因は,触媒等を含むその合成原料にあるのではなく,ポリベンゾイミダゾールの強度が高いためその工業的規模での製造過程で反応容器に使用されている金属材料が摩耗してポリベンゾイミダゾール中に混入するためであり,当時存在したポリベンゾイミダゾール材料中には不可避的に金属の微粉末が混入しているということが解明された。」と主張する。
しかし,本件明細書(甲18)には,「我々は,ポリベンゾイミダゾールに多量の金属不純物が含まれている原因を追及すべく検討を重ねた結果,ポリベンゾイミダゾールの強度が高いためその製造過程で製造装置に使用されている金属材料が摩耗してポリベンゾイミダゾール中に混入することが,高い金属濃度の原因であることを見い出した。」(段落【0004】)と記載されているのみである。本件明細書によれば,金属材料は「製造装置に使用されている金属材料」であり,「反応容器に使用されている金属材料」ではない。また,同じく「高い金属濃度の原因であることを見い出した。」であり,「不可避的に金属の微粉末が混入しているということを解明した」ではない。上記(1)イのとおり,本願発明の金属濃度という場合,それは金属粉末及び金属イオンを含む濃度である。
また,仮にポリベンゾイミダゾール材料中には不可避的に金属の微粉末が混入し,その金属の微粉末が反応容器に使用されている金属材料であるならば,その金属組成はステンレス組成と同じになると考えられる。しかし,本件明細書の【表2】によれば,原料ポリベンゾイミダゾール粉末に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属総濃度20ppmに対して,Feは9.0ppmである。このFeの濃度は金属総濃度20ppmの45%であるが,そのようなFe低濃度のステンレスは通常存在しない。
したがって,「ポリベンゾイミダゾール材料中には不可避的に反応容器に使用されている金属の微粉末が混入する」という原告の主張は技術的に誤りである。
(オ)原告は,「ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末が含まれ,その金属の微粉末にプラズマが飛ぶことが半導体素子製造に支障をきたし,その結果として,歩留まりを悪くする原因であることが解明されたことにより,ポリベンゾイミダゾール材料へのプラズマの直撃を防ぐために,ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属を減らすべきであるという全く新規の課題が見出され,本件発明1がなされた。」と主張する。
しかし,本件明細書(甲18)には,上記(1)アのとおり,「特に金属不純物の影響が大きく製品の特性を左右する半導体・表示素子を製造するための部品としての用途は非常に限られたものであった。」(段落【0003】)と記載されているのみである。本件明細書中に「ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属を減らすべきである」との記載はない。また,「特許請求の範囲」には,「アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下とする」とのみ記載されている。さらに,上記(1)エのとおり,本件発明1の半導体・表示素子の製造装置部品は,基板の搬送部品や固定部品,真空チャンバー内の絶縁部品や各種ガスケット,保護フィルムやフレキシブル絶縁基板である。これらの製造装置部品がプラズマ処理装置中で使用されるとは限らず,本件明細書にもプラズマ処理装置についての記載はない。
半導体・表示素子の製品特性を向上させるために該製品に含まれる金属含量を減らすことは本件特許出願時の周知事実である(審決14頁〜16頁の(ii))。そうすると,半導体・表示素子製品の金属含量を減らすために,その半導体・表示素子を製造する製造装置として,金属含量の少ない製造装置を用いようとすることは,甲10,12,13,21に既に記載されているように,新規の課題ではない。
イ 取消事由1の(イ)につき原告は,「甲10発明は,アルマイト成長層の劣化に伴う不純物の発生がウェーハ表面の汚染の原因と捉えているのであって,半導体製造用の部品にアルミニュームや各種重金属が含まれていること自体を問題としてはいない点で本件発明1とは異なっている。」と主張する。
しかし,審決は,「甲第10号証には,「発明が解決しようとする課題」として,従来の真空処理容器では,アルマイト成長層に多くのアルミニューム及び各種重金属が含まれ,これら重金属元素が飛び出して不純物質となり,これらがウェーハ表面の微細な成膜層の汚染につながり,高密度高集積化が進む半導体素子の電気的特性の異常を招いていたこと(摘示記載(サ))が記載されており,これに対して,真空処理容器内面に設けた高分子ポリベンゾイミダゾール(PBI)樹脂被膜は,アルマイト成長層よりも,更に一層優れた機械強度,耐熱性,耐電気絶縁性並びに耐腐食性を有する非常に化学的に安定した有機物で,パーティクル等の不純物質の発生がなく,パーティクルフリー,コンタミネーションフリーで非常にクリーンな環境を得て信頼性の高い能率的な処理の実現に有効となること(摘示記載(シ))」と認定した(14頁17行〜27行)上,「半導体素子の製造装置部品にアルミニュームや各種重金属が含まれているとこれらが不純物となってウェーハ表面を汚染する」ことを認定している(14頁下から7行〜5行)のであって,審決の判断に誤りはない。また,甲10発明の真空処理容器は半導体製造装置であり,その装置に各種重金属が含まれており,これらの金属が表面汚染として半導体素子の特性に影響することが甲10に記載されている。
ウ 取消事由1の(ウ)及び(エ)につき原告は,甲12,13は,部品材料中の金属含有量を低減させる本件発明1とは異なり,材料の含有金属とは関係なく発生する不純物に対しての対処法について記載されたものである旨主張する。
しかし,審決は,「また,甲第13号証には,半導体製造工程での汚染物放出を抑制されてなる半導体製造装置用セラミック部材(摘示記載(テ))が記載されており,微量不純物及び汚染物のうち,Na等アルカリ金属やCuのようにシリコン特性に影響し易いものの存在が特に問題となること(摘示記載(ト))も記載され,実施例には,「汚染物」としてFe,Na,Mg,Alが挙げられている(摘示記載(ナ))。」と認定した(15頁6行〜11行)上,「半導体素子の製造装置において,製品の品質の観点から,金属成分の発生を防止すべきことが開示されている」としている(15頁12行〜14行)のであって,この審決の判断に誤りはない。例えば,上記摘示の記載(ナ)においては,実施例1と,この実施例1よりも金属含有量の多い比較例2及び3の記載があるから,部品材料中の金属含有量自体について問題としている。また,上記摘示の記載(ト)においては,「シリコン特性に影響し易いものの存在が特に問題となること」とあり,製品の品質の観点から,部品材料中の金属含有量を低減させることが教示されているものということができる。
エ 取消事由1の(オ)につき原告は,甲21発明は,本件発明1とは,技術思想が全く異なる旨主張する。
しかし,甲21発明は,半導体製造装置に用いられるOリングに関する発明であり,半導体・表示素子を製造するための装置の部品材料に関する発明である。甲10には,高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂成型品をOリングとして使用することが記載されている。本件発明1は,上記(1)エのとおり,CVD・エッチング・スパッタリング用真空チャンバー内の各種ガスケットを含むものである。Oリングとガスケットは同一用途であって,その機能も同一であり,技術思想が全く異なるものであるとはいえない。本件発明1と甲21発明とは,半導体・表示素子を製造するための装置における金属を少なくする点において同一の技術思想である。また,甲21発明の「フルオロエラストマー配合物」は,配合剤の種類及び量を変化させることにより,物理的特性(弾性,硬度など)が変化することは周知の事実であり,ポリベンゾイミダゾールとフルオロエラストマー配合物とは物理的特性(弾性,硬度など)が全く異なるものであるとはいえない。
オ 取消事由1の(キ)につき原告は,甲10,12及び13の各号証から,半導体製造装置用の部品に金属成分が含有されることが好ましくないことが当業界で広く認識されていたと認定することはできないというべきであるから,甲10発明においてアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属についてその総濃度の上限を10ppmに設定することは当業者が適宜実験的になし得たものであるとする審決の判断は誤っている旨主張する。
しかし,甲10,12,13は,半導体製造装置に関連する発明であり,その装置又は部材から発生する金属が製品に影響を及ぼすことが記載されている。そうすれば,半導体製造装置用の部品に金属成分が含有されることが好ましくないことは当業界で広く認識されていたとの認定は正しいものである。
また,上記(1)ウのとおり,半導体・表示素子との関連において,アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属についてその総濃度の上限を10ppmに設定することの意義は,本件明細書において全く記載されていない。そうすれば,金属の総濃度として10ppm以下のものを採用することは当業者が容易に想到し得たものであり,この点においても審決の判断は正しいものである。
(3) 取消事由2に対し原告は,ポリベンゾイミダゾールを固相重合法により製造するに際してガラス製の反応器その他金属製以外の反応器を用いることは,現実的ではない旨の主張をする。
しかし,本件明細書(甲18)には,「その製法は重合溶媒を用いない固相重合法と呼ばれる製法が採用されている」(段落【0004】)と記載されているに過ぎない。原告が,前記1(4)イ(ア)で主張するポリベンゾイミダゾールの製造工程は本件明細書に記載されていないから,その主張は,本件明細書の記載に基づかないものである。
本件発明1は「物」の発明であり,実験室的生産又は大量生産とは無関係である。
本件発明1の半導体・表示素子の製造装置部品には,上記(1)エのとおり,保護フィルムやフレキシブル絶縁基板を含むのであり,それらはポリベンゾイミダゾール材料を液状にして用いる。そうすれば,原告が前記1イ(ア)で主張する「母材を製造し,次いでこの母材を切削加工すること」は半導体・表示素子の製造装置部品の一態様に過ぎない。また,保護フィルム用のワニス,あるいは半導体・表示素子の製造に用いられるレジスト材料などは数百グラム単位で取引されるものもあり,ガラス製の反応器を用いることは大量生産の場合においても非現実的ではない。例えば,内容量数トンのグラスライニングの反応釜は市販されており,工業的に使用されていることは周知の事実である。ポリベンゾイミダゾールの固相重合においてはジクロライドを原料として使用する場合も考えられ,その場合,反応生成物として塩化水素が発生するため,グラスライニングの反応釜など耐食性の反応釜でないと製造できない場合がある。さらに,ポリベンゾイミダゾールは融点が85〜200℃のものもあり,溶媒に可溶性であり,加熱して又は溶液化してガラス製の反応器から取り出すこともできると考えられる(甲14「TABLEU」参照)。
そうすると,原告主張のように「反応器として金属製以外のものを用いることは現実的ではない」とすることは失当であり,審決の判断は正しいものである。
(4) 取消事由3に対し上記(1)ウのとおり,本件発明1の金属の総濃度10ppm以下について臨界的意義はなく,単に金属総濃度を低くする程度として記載されているのみであるから,本件発明2及び3における数値限定についてもその臨界的意義はない。
そうである以上,「製品に要求される品質等を考慮して,当業者が適宜実験的になし得たものであり,これらの金属が混入するおそれの少ないガラス製の反応器の採用等の手段によりこのような限定範囲とすることも,当業者が容易になし得たことにすぎない。そして,上記のように本件発明1は…当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明2及び3も本件発明1と同様の理由により…当業者が容易に発明をすることができたものである。」(18頁9行〜17行)との審決の判断は正しい。
(5) 取消事由4に対し本件発明4において限定された構造式は,甲10【化1】記載の構造式そのものであるから,「本件発明4も本件発明1と同様の理由により,甲第4,10,12〜14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(18頁22行〜24行)との審決の判断は正しい。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本件発明1と甲10発明との相違点(い)についての認定判断の誤り)について(1) 本件発明1につきア本件明細書(甲19の訂正明細書。以下同じ)には,前記第1の1(2)のとおり「特許請求の範囲」の記載があるほか,「発明の詳細な説明」として,次の記載がある。
(ア)発明の属する技術分野「本発明は,様々な工業製品,特に半導体・表示素子を製造するための部品として利用され得るポリベンゾイミダゾール材料とその製造方法に関する。」(段落【0001】)(イ) 従来の技術「ポリベンゾイミダゾールは高分子材料としては最高レベルの耐熱性,強度,化学安定性を持ち,耐熱性繊維,成形品,塗工用ワニス等として様々な分野で使用されている。」(段落【0002】)(ウ) 発明が解決しようとする課題「しかし,現在市場製品として一般的に入手可能なポリベンゾイミダゾールには鉄,クロム,ニッケル,銅等の金属が多量に含まれており,特に金属不純物の影響が大きく製品の特性を左右する半導体・表示素子を製造するための部品としての用途は非常に限られたものであった。」(段落【0003】)「現在,ポリベンゾイミダゾールは唯一米国ヘキストセラニーズ社が商業化しているのみであり,その製法は重合溶剤を用いない固相重合法と呼ばれる製法が採用されている。我々は,ポリベンゾイミダゾールに多量の金属不純物が含まれている原因を追及すべく検討を重ねた結果,ポリベンゾイミダゾールの強度が高いためその製造過程で製造装置に使用されている金属材料が摩耗してポリベンゾイミダゾール中に混入することが,高い金属濃度の原因であることを見い出した。」(段落【0004】)「従って,上記製法により得られるポリベンゾイミダゾール粉末材料を公知の方法で以下の様に処理しても含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属以外の金属総濃度を,金属不純物の影響が製品の特性を大きく左右する半導体・表示素子の製造部品用として要求されるまで,十分に低いレベルとすることは困難である。すなわち,先ず溶液化することによりポリベンゾイミダゾール粉末中に取り込まれた金属不純物を遊離させ,それに引き続きゲル状ポリマー等の不溶物を除去するための濾過工程,更に引き続き濾過後の前記ポリベンゾイミダゾール溶液をポリベンゾイミダゾール材料に対して貧溶剤である溶剤中に投入することによっては,前述の金属総濃度を上記要求を満たす程十分に低下させることはできないという結論に達した。」(段落【0005】)(エ) 課題を解決するための手段「本発明者は,金属濃度を低下させるため,更に,最終的に得られたポリベンゾイミダゾール材料に含まれる金属濃度を低下させるための操作を加えることにより,ポリベンゾイミダゾール材料に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下とすれば,アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属の影響を受けやすい半導体,表示素子の製造部品として工業上使用しうることを見い出した。」(段落【0006】)(オ) 発明の実施の形態「以上の操作,或いはこれらの操作の組み合わせにより,最終的に得られたポリベンゾイミダゾール材料に含まれる金属濃度は十分に低く,すなわち10ppm以下に,特に金属混入原因である製造装置の主成分であるクロム,鉄,ニッケル等の金属の総濃度を5ppm以下にまで低下させることも可能である。またこの際,クロム,鉄,ニッケルの内,少なくとも2種類の濃度は1ppm以下であることが好ましい。」(段落【0016】)「本発明で得られた,アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下のポリベンゾイミダゾール材料は,焼結成形や射出成形法によって成形され,特に微量の金属不純物が最終製品の特性を大きく左右する半導体,表示素子の製造装置部品として主に用いられる。具体的には,半導体ウエハーや薄膜トランジスター駆動型液晶表示素子等の表示素子基板の搬送部品や固定部品,CVD・エッチング・スパッタリング用真空チャンバー内の絶縁部品,各種ガスケット等である。また,本発明で得られたポリベンゾイミダゾール材料を再び溶液として成形品と同様の用途における塗工ワニスとして用いることも可能であり,またキャスティング法などによりフィルム化して前記成形品と同様の用途における各種保護フィルムやフレキシブル絶縁基板としても用いられる。」(段落【0017】)「アルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度が影響を与える用途に対しては,本発明で得られたポリベンゾイミダゾール材料或いは当該材料より得られた成形部品を,脱イオン水および/または低濃度のフッ化水素を含む脱イオン水で洗浄することにより,アルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度を低下させて用いられる。」(段落【0018】)(カ) 発明の効果「以上説明したように,アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を大幅に低下させた本発明のポリベンゾイミダゾール材料は,金属不純物の影響が大きく製品の特性を左右する半導体・表示素子を製造するための部品材料として用いるのに特に好適である。」(段落【0028】)イ本件明細書の上記記載によると,@ポリベンゾイミダゾールには鉄,クロム,ニッケル,銅等の金属が多量に含まれており,そのために,ポリベンゾイミダゾールを半導体・表示素子を製造するための部品として使用する場合には,金属不純物の影響により,半導体・表示素子製品の特性が大きく左右されていたこと,A本件発明1は,ポリベンゾイミダゾール材料のアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下にすることによって,半導体・表示素子を製造するための部品として使用するのに適したものとしたことが認められる。
ウ原告は,「ポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれていることについての認識が当業者間に全くなかった当時において,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末が含まれ,その金属の微粉末にプラズマが飛ぶことが半導体素子製造に支障をきたし,その結果として,歩留まりを悪くする原因であることが解明されたことにより,ポリベンゾイミダゾール材料へのプラズマの直撃を防ぐために,ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属を減らすべきであるという全く新規の課題が見出され,本件発明1がなされた。」と主張する。
しかし,本件明細書には,上記のとおり,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていることによって半導体・表示素子製品の特性に悪影響を与えるとしか記載されておらず,それがポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末にプラズマが飛ぶことによって生ずる旨の記載はないから,本件発明1を,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末にプラズマが飛ぶことを防ぐ発明と理解することはできない。本件発明1は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていることによって半導体・表示素子製品の特性に悪影響を与えることを防ぐためにその金属の含有量を減らした発明であるとしか理解できない。
また,原告は,「当業者にとって,本件発明1の10ppmという具体的数値は,微小金属粉混入の有無を画する基準となる数値として,その意義は明らかなものであり臨界的意義を有するものといえる。」と主張する。
しかし,本件明細書には,ポリベンゾイミダゾール材料のアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下にすることの技術的な意義については,「ポリベンゾイミダゾール材料に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度を10ppm以下とすれば,アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属の影響を受けやすい半導体,表示素子の製造部品として工業上使用しうることを見い出した。」(段落【0006】)との説明しかなく,ましてや,この「10ppm」という数値に臨界的な意義がある旨の記載はない。
そうすると,この「10ppm」という数値に格別の意義は認められない。
(2) 甲10につきア 特開平7-147247号公報(甲10)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲「真空処理容器内に被処理体を収納保持すると共に,処理ガスを導入して該被処理体を処理する処理装置において,前記処理容器の内面に,高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を設けたことを特徴とする処理装置。」 (【請求項1】)「真空処理容器内に被処理体を収納保持すると共に,処理ガスを導入して該被処理体を処理する処理装置において,前記処理容器の被処理体搬入出口内面及びその搬入出口を開閉するゲートバルブ内面に,高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂皮膜を設けたことを特徴とする処理装置。」(【請求項6】)「ゲートバルブの閉成時の気密シールを行うOリング自体を高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂成型品としたことを特徴とする請求項6記載の処理装置。」(【請求項7】)(イ) 産業上の利用分野「本発明は,主に半導体ウェーハや液晶表示(LCD)基板等の被処理体に成膜或いはエッチング等の処理を行う処理装置に関する。」(段落【0001】)(ウ) 従来の技術「従来,例えば被処理体として半導体ウェーハ(以下単にウェーハと略記する)に,成膜処理する熱CVD装置や,プラズマを用いて成膜やエッチングなどの所要の処理を行うプラズマ処理装置(プラズマCVDやプラズマエッチング装置)などが知られている。」(段落【0002】)「この種の処理装置は,真空処理容器(プロセスチャンバー)内にウェーハを収納保持すると共に,所要のプロセスガスを注入して熱やプラズマによって該ウェーハ表面に成膜或いはエッチングなどの処理を行うが,その際,処理容器内に粒状物質(パーティクル)やガス状物質等の不純物質が発生していると,これらの不純物質が直接ウェーハに付着したり,或いはウェーハの表面に化学反応(ケミカルコンタミネーション)を起こしたりして,半導体素子の不良発生の原因となり,製品歩留まりの低下を招く。」(段落【0003】)「そこで,この種の処理装置では,真空処理容器をゲートバルブ付きのロードロック室を設けて外部と隔離すると共に,母材としてアルミニューム等を用いて切削加工した真空処理容器の内面に,硬質アルマイト処理を施して薄い被膜を形成し,耐電気絶縁性,プロセスガスに対する耐腐食性等を高めて,該処理容器内自体からの不純物質発生を防止し,更にその被膜表面に蒸気封孔処理を施してポーラス(多孔質)な表面を出来るだけ埋めて真空脱ガス特性を高めている。」(段落【0004】)(エ) 発明が解決しようとする課題「しかしながら,そうした従来の処理装置の真空処理容器に施されたアルマイト処理においては,母材の種類(アルミニューム等)と酸の組み合わせ或いは処理条件(電解条件等)などで成長する被膜の性質が左右され,マイクロクラック等が生じ易く,引いてはこれが原因で耐電気絶縁性や耐腐食性の劣化を起こし,パーティクル等の不純物質の発生を招いていた。更には,電解液中でアルマイト処理する際に,そのアルマイト成長層に多くのアルミニューム及び各種重金属が含まれ,これら重金属元素が飛び出して不純物質となり,これらがウェーハ表面の微細な成膜層の汚染につながり,高密度高集積化が進む半導体素子の電気的特性の異常を招いていた。」(段落【0005】)」(オ) 課題を解決するための手段と作用「請求項1に係わる発明は,真空処理容器内に被処理体を収納保持すると共に,処理ガスを導入して該被処理体を処理する処理装置において,前記処理容器の内面に,高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を設けたことを特徴とする。」(段落【0009】)「その真空処理容器内面に設けた高分子ポリベンゾイミダゾール(PBI)樹脂被膜は,アルマイト成長層よりも,更に一層優れた機械強度,耐熱性,耐電気絶縁性並びに耐腐食性を有する非常に化学的に安定した有機物で,且つ熱膨脹率が母材であるアルミニューム等と略同等で,マイクロクラックや剥離を生じる心配が無いと共に,含有不純物が低レベルで且つ外部からのエネルギーに対し非常に分解し難く,更には表面にポーラス(多孔質)やピンホールを持たないなどの非常に優れた特性を有しているので,真空処理容器の内面の耐熱性,耐電気絶縁性並びに耐腐食性を確実に維持できると共に,パーティクル等の不純物質の発生がなく,しかも真空脱ガス特性が非常に良く,パーティクルフリー,コンタミネーションフリーで非常にクリーンな環境を得て信頼性の高い能率的な処理の実現に有効となる。なお,上記優れた特性に加えて耐プラズマ性にも非常に優れ,各種プラズマ処理装置にも非常に有効となる。」(段落【0010】)「請求項6に係わる発明は,真空処理容器内に被処理体を収納保持すると共に,処理ガスを導入して該被処理体を処理する処理装置において,前記処理容器の被処理体搬入出口内面及びその搬入出口を開閉するゲートバルブ内面に,高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂皮膜を設けたことを特徴とする。」(段落【0019】)「請求項7に係わる発明は,前記被処理体搬入出口のゲートバルブの閉成時の気密シールを行うOリング自体を高分子ポリベンゾイミダゾール樹脂成形品としたことを特徴とする。」(段落【0021】)「以上のようなPBI樹脂被膜55は,金属や樹脂製品の表面改質に非常に優れた高機能な特性を有する。…また,…含有不純物が非常に低レベルでプラズマに叩かれても出て来ることがない。」(段落【0048】)イ上記記載によると,甲10には,@半導体製品の製造装置である真空処理容器内のアルマイト成長層に金属が含まれていることによって,これらが不純物となってウェーハ表面を汚染し,半導体製品の特性に悪影響を与えること,A真空処理容器内に含有不純物が非常に低レベルであるポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を設けるか又は真空処理容器内の部品をポリベンゾイミダゾール樹脂成形品とすることによって,半導体製品の特性への悪影響を防ぐことができることが記載されていると認められる。
原告は,甲10発明は,アルマイト成長層の劣化に伴う不純物の発生がウェーハ表面の汚染の原因と捉えているのであって,半導体製造用の部品にアルミニュームや各種重金属が含まれていること自体を問題としてはいない点で本件発明1とは異なっていると主張する。しかし,上記ア(エ)のとおり,甲10には,「電解液中でアルマイト処理する際に,そのアルマイト成長層に多くのアルミニューム及び各種重金属が含まれ,これら重金属元素が飛び出して不純物質となり,これらがウェーハ表面の微細な成膜層の汚染につながり,高密度高集積化が進む半導体素子の電気的特性の異常を招いていた。」との記載があるから,真空処理容器内のアルマイト成長層に金属が含まれていること自体による半導体製品の特性への悪影響について記載されているのであって,本件発明1と甲10発明に原告が主張するような違いがあるということはできない。また,原告は,甲10発明においては,樹脂の原料段階での金属混入については全く意識されていないと主張する。甲10においては,真空処理容器内のアルマイト成長層における金属混入が問題とされているのであって,ポリベンゾイミダゾール樹脂の金属混入が問題とされているのではないから,樹脂の原料段階での金属混入は問題になっていないが,このことは,甲10に上記@,Aの記載があることを左右するものではない。
以上述べたところからすると,審決が「そうすると,甲第10号証には,半導体素子の製造装置部品にアルミニュームや各種重金属が含まれているとこれらが不純物となってウェーハ表面を汚染するとの認識のもとに,当該部品に含有不純物が非常に低レベルであるポリベンゾイミダゾール樹脂被膜を施すか部品自体をポリベンゾイミダゾール樹脂成形品とすることが記載されているものということができる。」(14頁下から7行〜3行)と認定したことに誤りはない。
(3) 甲12につきア 特開平7-130828号公報(甲12)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲「ウエハを載置台に載置してそのウエハに表面処理を施す半導体製造装置において,前記載置台の上面を,高誘電率を有しかつ金属を含まない高分子薄膜で被覆したことを特徴とする半導体製造装置。」(【請求項1】)(イ) 産業上の利用分野「本発明は,静電吸着によってウエハを固定する載置台を備えたドライエッチング装置やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition) 装置等の半導体製造装置に関するものである。」(段落【0001】)(ウ) 従来の技術「…最近では載置台として,ウエハとの密着性が良くウエハを効率良く温度制御できる,静電吸着を利用した所謂静電チャックを用いた載置台が盛んに使用されている。」(段落【0003】)「…静電チャック40は,静電吸着用の金属電極41を絶縁体42で被覆してなる。…また絶縁体42は,例えば高誘電率を有するCa,TiやBa,Tiを主成分とするセラミック材料からなり,セラミック材料を焼結し又は熔射することによって加工される。」(段落【0005】)(エ) 発明が解決しようとする課題「ところが上記した載置台においては,ウエハSが静電チャック40に吸着される瞬間に,ウエハSの裏面とセラミック材料からなる絶縁体42の上面とが擦り合わされる。このため,絶縁体42の上面を滑らかに研磨して平滑としなければ,ウエハSが吸着される度に絶縁体42の上面が削り取られてダストとなる微粒子が発生してしまうという欠点があった。」(段落【0008】)「ダストの発生は,ウエハSを汚染して歩留りを著しく低下させるうえ,そのダストにはウエハS上に形成される素子に悪影響を及ぼすCa,Ti,Ba等の金属成分が含まれているため好ましくない。」(段落【0009】)「本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり,ウエハに対向する面を研磨を施さなくても常に平滑状態としておくことができる載置台を備えた半導体製造装置を提供することを目的としている。」(段落【0011】)(オ) 課題を解決するための手段「上記課題を解決するために本発明は,ウエハを載置台に載置してそのウエハに表面処理を施す半導体製造装置において,前記載置台の上面を,高誘電率を有しかつ金属を含まない高分子薄膜で被覆するようにしたものである。また上記装置において,載置台の上面に被覆された高分子薄膜は,複数枚を剥離可能に積層した状態に構成されるようにしたものである。」(段落【0012】)(カ) 作用「載置台の上面を高分子薄膜で被覆すると,その載置台の上面は平滑となるため,該上面にウエハが吸着保持された際にその上面が削り取られることがない。」(段落【0013】)(キ) 実施例「ところで,この実施例においてその特徴とするところは,絶縁体12の上面を高分子薄膜15で被覆し,載置台1の上面を平滑とした点にある。すなわち高分子薄膜15は,電気的に絶縁された高誘電率を有しかつ金属を含まない,例えばポリイミドや含フッ素系のポリマー等で構成される。」(段落【0018】)イ上記記載によると,甲12には,@半導体製品の製造装置の載置台のセラミック材料からなる絶縁体に,Ca,Ti,Ba等の金属が含まれていることによって半導体製品の特性に悪影響を与えること,Aその絶縁体を金属を含まない高分子薄膜で覆うことによって,半導体製品の特性への悪影響を防ぐことができることが記載されていると認められる。
原告は,甲12発明は,セラミック材料からなる半導体製造装置の一部がウエハにより削り取られてダストになることを問題とするものであり,半導体製造装置に金属が含まれていることを問題とはしていない点で本件発明1とは異なっており,また,その発生するダストに金属が含まれること自体をとりたてて問題とするものではない点においても本件発明1とは異なっていると主張する。甲12発明は,セラミック材料からなる絶縁体がウエハにより削り取られてダストになることを問題とするものであるが,上記ア(エ)のとおり,甲12には,そのダストが半導体製品の特性に悪影響を与えるのは,セラミック材料に金属が含まれているからである旨の記載がある。したがって,甲12発明は,半導体製造装置に金属が含まれ,その金属がダストとなって半導体製品の特性に悪影響を与えることを問題としているものであって,本件発明1と甲12発明との間に原告が主張するような違いがあるということはできない。
以上述べたところからすると,審決が「甲第12…号証には…,半導体素子の製造装置において,製品の品質の観点から装置からの金属成分の発生を防止すべきことが開示されているものということができ,」(15頁12行〜14行)と認定したことに誤りはない。
(4) 甲13につきア 特開平6-135786号公報(甲13)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲「セラミック部材であって,化学研磨により表面処理されてなり,セラミック材の汚染表面層及び/またはマイクロクラック層が除去され,半導体製造工程での汚染物放出を抑制されてなることを特徴とする半導体製造装置用セラミック部材。」(【請求項1】)(イ) 産業上の利用分野「本発明は,半導体製造装置用セラミック部材及びその製造方法に関し,更に,詳しくは,化学研磨により表面処理され,汚染物放出を抑制された優れた表面を有する半導体製造装置に好適な半導体製造装置用セラミック部材及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)(ウ) 従来の技術「セラミック部材は,各種の方面において使用されているが,半導体製造プロセスにおいては,従来,石英ガラスまたは炭化珪素の部材が多用されてきた。半導体製造では汚染問題が重要課題であって,従来の部材を形成する石英ガラスや炭化珪素は高純度であり,半導体シリコンウェハと同一元素のSi,C,Oが主成分であり,シリコンの汚染が少ないとされているためである。しかし,最近になって,プラズマ励起CVD,プラズマ励起エッチング等半導体製造プロセス技術の低温化の進歩により,従来の高温操作とは異なり,セラミック部材からの不純物放出による汚染度が少なくなった工程において,上記石英ガラス等以外の,アルミナ等の一般的な無機酸化物セラミックスの使用が急増している。
また,従来から半導体製造プロセスでも室温付近で使用される搬送部材としては,通常の無機酸化物セラミックスが,その高い剛性,低比重,耐摩粍性,耐薬品性,耐酸化性等の機能を利用して多用されてきている。」(段落【0002】)(エ) 発明が解決しようとする課題「しかしながら,通常のセラミックスを機構部材として使用するためには高い精度が必要で,焼成したままで使用する場合もあるが,ダイヤモンドグラインダー等で研削加工して使用することが増えてきている。
このような研削加工したセラミック部材を使用した場合,半導体製造プロセスの低温操作工程においても,条件によっては汚染問題が発生し,例えば,セラミック部材からのガス放出,接触物が摩耗されて生じたパーティクル発生,セラミック部材からの微量汚染物の放出等の汚染問題が増大して問題なっている。本発明は,特に,一般的なセラミックスから形成されたセラミック部材を用いた場合の上記問題を解決し,半導体製造装置で使用しても汚染源を構成しないセラミック部材の提供を目的とする。」(段落【0003】)(オ) 課題を解決するための手段「本発明によれば,セラミック部材であって,化学研磨により表面処理されてなり,セラミック材の汚染表面層及び/またはマイクロクラック層が除去され,半導体製造工程での汚染物放出を抑制されてなることを特徴とする半導体製造装置用セラミック部材が提供される。」(段落【0004】)(カ) 作用「…本発明のセラミック部材は,上記のように化学研磨処理され,平滑性に優れる表面を有するため,半導体製造装置に用いた場合,ガス放出やパーティクル発生がなく,また,セラミックス焼成時の汚染物の放出もなく,半導体汚染のおそれが少ない。」(段落【0006】)「先ず,焼結法によって製造された焼成されたままのセラミック表面の特徴を考察した。焼成されたままのセラミック表面は,主に下記の性状を有する。…(3)焼成雰囲気や焼成中の接触物からの汚染が存在する。例えば,電気炉では,ヒーターや炉壁等を構成する耐火物から蒸発する不純物,また,ガス燃焼炉では,炉内へ吹き込まれる配管内の錆等や,電気炉と同様の耐火物から蒸発する不純物により,セラミックスの表面が汚染されていることが多い。また,道具材の不純物からの汚染も存在する。」(段落【0008】)「次いで,セラミックスからの微量不純汚染物の放出について検討した。セラミックス自体の減耗速度が大きい時,温度が高くてセラミックス中を不純物や焼成時の付着汚染物が拡散し易い時,また,電界等でセラミックス中の不純物及び焼成汚染物に移動駆動力が存在する時に,汚染が極めて多くなることが知見された。また,微量不純物及び汚染物のうち,Na等アルカリ金属やCuのようにシリコン特性に影響し易いものの存在が特に問題となることも明らかになった。」(段落【0012】)「本発明の化学研磨は,セラミックス表面の含有不純物や焼成汚染層を除去することができ,セラミックス全体の誘電損率tanδを小さくすることができるため,不純物及び汚染物の放出総量を少なくすることに寄与する。」(段落【0018】)(キ) 実施例1及び比較例1「…化学研磨された透光性アルミナ質ベルジャーから試料を切り出し,二次イオン質量分析(SIMS)を用いて微量不純物分析を行った。比較例1として,上記の化学研磨する前の焼成後の,そのままのセラミックスについても同様な測定を行った。その結果,化学研磨したセラミックベルジャーの表面からは,Na,K,Mg,Si,Feが,焼成後のセラミックス表面より約2桁減少していた。」(段落【0021】)(ク) 実施例2及び比較例2〜3「外径38mm,内径35mmφ,長さ(高さ)120mm,肉厚1.5mmの透光性アルミナセラミック管を実施例1と同様にして化学研磨した。これをCDE(ケミカル・ドライ・エッチング)管として用い,シリコンウェハの汚染レベルを測定した。また,比較例2として化学研磨してない焼成したままのアルミナセラミック管,比較例3として石英ガラス管をCDE管として用いて同様にシリコンウェハ汚染を測定をした。その結果を表1に示した。」(段落【0023】)「表1の結果から明らかなように,化学研磨したアルミナセラミックスをCDE管として用いた時は,焼成したままのアルミナセラミックスをCDE管として用いた時に比べ,シリコンウェハの汚染が著しく少ないことが分かる。」(段落【0025】)イ上記記載によると,甲13には,@半導体製品の製造装置に用いられるセラミック部材に,Na,Cu等の金属が含まれていることによって半導体製品の特性に悪影響を与えること,Aセラミック部材に化学処理をすることによって,その金属の含有量を減らし,半導体製品の特性への悪影響を防ぐことができることが記載されていると認められる。
原告は,甲13発明は,セラミック部材の研削加工面に特有のメカニズムによりその表面に付着した不純物を問題とするものであり,半導体製造用セラミック部材に含まれる金属を何ら問題としていない点で本件発明1とは異なっていると主張する。甲13発明は,セラミックの表面に付着した不純物を問題とするものであるが,上記ア(カ)のとおり,甲13には,その不純物が半導体製品の特性に悪影響を与えるのは,不純物に金属が含まれているからである旨の記載がある。また,上記ア(カ)のとおり,不純物は,セラミック部材の製造過程で付着するものであって,セラミック部材の一部を構成するものである。したがって,甲13発明は,半導体製造用セラミック部材に金属が含まれ,その金属が半導体製品の特性に悪影響を与えることを問題としているものであって,本件発明1と甲13発明との間に原告が主張するような違いがあるということはできない。
以上述べたところからすると,審決が「甲第…13号証には…,半導体素子の製造装置において,製品の品質の観点から装置からの金属成分の発生を防止すべきことが開示されているものということができ,」(15頁12行〜14行)と認定したことに誤りはない。
(5) 甲21につきア平成7年(1995年)1月26日に公開された国際公開第95/02634号公報(甲21)には,次の記載がある(なお,以下の記載は,甲21の訳文が提出されている部分は,訳文により,その余の部分は,特表平9-500163[甲4]による。)。
(ア) 特許請求の範囲「…抽出金属および金属化合物が実質的に含まれないことを特徴とするフルオロエラストマー配合物。」(請求項1)「前記抽出金属および金属化合物は,約500ppb未満の量でもって存在することを特徴とする請求項1のフルオロエラストマー配合物。」(請求項14)(イ) 発明の背景「米国特許第3,682,872号,第4,281,092号,及び第4,592,784号に記載されたようなフルオロエラストマーは商業的に大成功を達成し,異常環境下,例えば高温やアグレッシブな薬品に遭遇する幅広い用途で使用されている。」(甲21の訳文1頁)「電子部品,例えば半導体装置の製造においては,そのような製造工程において使用される製造装置等における密閉部材(シール材)の性質に対して大変厳しい要求がなされている。従来のフルオロエラストマー及び加硫系においては,この要求に応えることができなかった。」(甲21の訳文1頁)(ウ) 本発明の要約「本発明は,非常に高純度が要求される用途に有効に用いることができるフルオロエラストマー配合物を提供する。」(甲21の訳文1頁)(エ) 本発明の詳細な説明「本発明によれば,ある用途におけるフルオロエラストマーの満足のいく性能は,ある成分が含まれないこと,あるいはその濃度が特に低いことを要求することが見い出された。フルオロエラストマー配合物に特に,金属および金属化合物が実質的に含まれてはならない。そのような金属および金属化合物の例は,実施例および比較例に報告された結果の金属および金属化合物である。一般に金属抽出物全体の濃度を約500部/ビリオン(ppb)未満とすべきであり,また金属抽出物の濃度が200ppb未満の場合に特に必要とするパフォーマンス特性が得られる。」(甲21の訳文1頁)「本発明のフルオロエラストマー配合物は,未乾燥化学的環境での使用に適しており,また既知の配合物と比較して金属性,アニオン性,及びTOC抽出物が顕著に少ない。その結果,高純度での他の用途と同様に半導体ウエットケミカルプロセスにおいて特に好適に用いられる。」(甲21の訳文1頁〜2頁)イ上記記載によると,甲21には,@半導体製品の製造装置に用いられるフルオロエラストマーには,金属及び金属化合物が実質的に含まれてはならないこと,A抽出金属及び金属化合物の濃度を約500ppb未満とすべきであり,抽出金属及び金属化合物の濃度が200ppb未満の場合に特に必要とするパフォーマンス特性が得られることが記載されていると認められる。
原告は,甲21発明は,主に半導体ウエットケミカルプロセス等においてシール材等として用いられ,アグレッシブな薬品に長時間曝されることが想定されているフルオロエラストマーに関する発明であり,フルオロエラストマーとは物理的特性(弾性,硬度など)及び用途が全く異なる本件発明1のポリベンゾイミダゾールには当てはまらないものであると主張する。
しかし,上記(1)ウのとおり,本件発明1は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれていることによって半導体・表示素子製品の特性に悪影響を与えることを防ぐためにその金属の含有量を減らした発明であるとしか理解できない。そうすると,本件発明1と甲21発明とでは,ポリベンゾイミダゾールとフルオロエラストマーという違いはあるものの,半導体製品の製造装置に用いられている材料中の金属の含有量を減らすという点では,共通している。また,上記アのとおり,甲21発明において,フルオロエラストマーは,半導体製造装置の密封部材(Oリング)として使用されることが想定されているが,前記(2)ア(ア)のとおり,ポリベンゾイミダゾールも気密シールを行うOリングとして用いられるから,その用途や必要とされる特性が全く異なるとまでは認められない。
また,原告は,本件発明1が想定するポリベンゾイミダゾール含有金属の濃度は1ppmのオーダーであるのに対し,甲21発明が想定するフルオロエラストマーから抽出される金属の濃度は100ppbのオーダーと非常に低い値となっているのは,甲21発明では,ウェットケミカル中にフルオロエラストマーから抽出された金属は直接製造中の半導体素子に触れることとなるため,抽出金属の半導体素子に直接与える影響という観点から定められたものであるのに対し,本件発明1の数値は,材料中の金属にプラズマが直撃することを防ぐという観点から定められたものであり,金属そのものが半導体素子に与えるという影響という観点とは無関係に定められたものであるためであると主張する。しかし,前記(1)ウのとおり,本件発明1は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属の微粉末にプラズマが飛ぶことを防ぐ発明と限定して理解することはできないのであるから,そのような観点から,本件発明1と甲21発明の数値の意義が異なるという原告の主張は採用できない。
(6)以上のとおり,甲10,12,13には,半導体製品の製造装置に金属が含まれていることによって半導体製品の特性に悪影響を与えること,その金属の含有量を減らすことによって半導体製品の特性への悪影響を防ぐことができることが記載されており,その金属には,アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属も例示されている。また,甲21にも,半導体製品の製造装置の金属含有量を減らすべきことが記載されている。
そうすると,半導体製品の特性への悪影響を防ぐために半導体製品の製造装置の金属含有量を減らすことは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって広く知られていた解決すべき課題であったということができるから,半導体製品の製造に用いられるポリベンゾイミダゾールについても,金属の含有量が少ないものが好ましいことは,当然のことであって,アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属の含有量が少ないポリベンゾイミダゾールという「物」については,当業者が容易に発明することができたものということができる。
この点について,原告は,本件特許出願当時,ポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれていることは公知ではなく,当業者は,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれている可能性についての認識を有していなかったから,本件特許出願当時の当業者には,ポリベンゾイミダゾール樹脂として金属の総濃度が低いものを採用しようという動機付けがなかったといえると主張する。しかし,米国特許第4672104号(1987年6月9日発行・乙1)には,ポリベンゾイミダゾールの合成触媒として,マグネシウム,マンガン化合物を使用できることが記載されているから,当業者は,少なくとも,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれている可能性についての認識を有していたといえる(原告は,半導体・表示素子製造装置部品などの成型品用のポリベンゾイミダゾール材料の製造においては,乙1に記載の製法が用いられることはないと主張するが,本件発明1は,「半導体・表示素子の製造装置部品用」ポリベンゾイミダゾール材料に関する発明であって,成型品に限られるものではないから,原告の主張は採用できない。)。また,仮に,本件特許出願当時,当業者が,ポリベンゾイミダゾール材料中に金属が含まれている可能性についての認識を有していなかったとしても,上記のとおり,半導体製品の特性への悪影響を防ぐために半導体製品の製造装置の金属含有量を減らすことは,当業者にとって広く知られていた解決すべき課題であったことからすると,金属含有量が少ないポリベンゾイミダゾールという「物」については,当業者が発明する動機付けがあり,容易に発明することができたものというべきである。
そして,本件発明1には,「材料中に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下であること」という数値限定があるが,前記(1)ウのとおり,この数値限定に格別の意義は認められないのであり,前記(5)のとおり,甲21発明には,500ppb未満という数値が示されていること,及び後記3のとおり,ガラス製の反応器を用いることによって金属がほとんど含有しないポリベンゾイミダゾールを製造し得たことを併せ考慮すると,本件発明1の数値限定は,当業者が容易になし得たものということができる。
なお,本件発明1と甲21発明とでは,ポリベンゾイミダゾールとフルオロエラストマーという違いがあり,また,甲21発明の500ppb未満という数値は,抽出金属及び金属化合物の濃度であるという違いがある。しかし,前記(5)のとおり,本件発明1と甲21発明とでは,半導体製品の製造装置に用いられている材料中に金属の含有量を減らすという点では,共通しており,その用途や必要とされる特性が全く異なるとは認められないし,甲21発明の500ppb未満という数値が,本件発明1の数値(10ppm=10000ppb)よりもはるかに低いことからすると,甲21発明のフルオロエラストマーにおいても,アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下である蓋然性が高いということができるから,上記のとおり甲21発明を考慮することができるというべきである。
(7)よって,審決が,本件発明1と甲10発明との相違点(い)について,当業者が容易に発明することができたものと判断したことに誤りはない。
3取消事由2(本件発明1と甲10発明との相違点(あ)及び相違点(い)の組合せについての審決の判断の誤り)について(1)ポリベンゾイミダゾールを固相重合法によって製造することが周知であったことにつき三田達監訳「高分子大辞典」丸善株式会社(平成6年9月20日発行)の「ポリベンゾイミダゾール」の項(1075頁。甲15),神戸博太郎編「高分子の耐熱性」株式会社培風館(昭和45年12月20日発行)の14頁〜15頁(甲16),高分子学会高分子辞典編集委員会編「新版高分子辞典」株式会社朝倉書店(1995年9月20日初版第4刷発行)の「固相重縮合」の項(161頁〜162頁。甲17)によると,ポリベンゾイミダゾールを固相重合法によって製造することは,本件特許出願前から広く知られていたことが認められる。
(2)反応器として金属製以外のものを用いることが現実的でないかどうかにつき原告は,ポリベンゾイミダゾールの固相重合法による製造過程において,反応器として金属製以外のものを用いることは現実的でないと主張する。
しかし,上記(1)の甲15には,ポリベンゾイミダゾールについて,「工業的な大量生産に適しているのは固相重合である。この方法では,真空または大気圧において固体を重合し,ポリマーの溶解した押出し可能な紡糸原液を直接つくることができる。大気圧における二段階重合には,ガラス製あるいは316-ステンレス鋼製の反応器が用いられる。」(1075頁右欄12行〜16行)と記載されている。この記載は,ポリベンゾイミダゾールの固相重合法による製造に当たり,ガラス製の反応器を用いることができることを記載したものであると認められる。もっとも,甲20(東京工業大学教授Aの陳述書)には,ガラス製の容器からカルメラ状の反応生成物を取り出すのには,慎重かつ面倒な操作が要求されること,カルメラ状の反応生成物を取り出すことなく,反応容器中でカルメラ状の反応生成物を破砕するためには,大きな物理的な衝撃が加わることが記載されている。この記載からすると,ガラス製の反応器をポリベンゾイミダゾールの工業的な生産に用いるには,困難な点があることが認められるが,上記甲15の記載があることをも考慮すると,ガラス製の反応器をポリベンゾイミダゾールの生産に用いる発明が産業上利用できないとまで認めることはできない。
(3)以上のとおり,ポリベンゾイミダゾールを固相重合法によって製造することが広く知られており,ガラス製の反応器を用いることも知られていたことからすると,本件発明1のポリベンゾイミダゾール材料が「固相重合法により製造される」ものである(相違点(あ))としても,その固相重合がガラス製の反応器を用いて行われた場合には,製造されるポリベンゾイミダゾールには金属成分がほとんど含まれず,本件発明1の相違点(い)の要件を自ずから満たすこととなるものと解される。
そうすると,本件発明1において,甲10発明との相違点(あ)及び相違点(い)を組み合わせることは,当業者が容易に想到することができたというべきであり,それにより,特に予測を超える効果を奏し得たものとも認められないから,その旨の審決の判断に誤りはない。
なお,原告は,本件特許出願当時,当業者には,固相重合法により製造されるポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれている可能性についての認識が全くなかったから,相違点(あ)と相違点(い)を組合せる動機付けが存在しなかったと主張するが,前記2(6)のとおり,当業者には,固相重合法により製造されるポリベンゾイミダゾール材料に金属が含まれている可能性についての認識が全くなかったとは認められないのであり,仮に,そのような認識がなかったとしても,前記2(6)のとおり,半導体製品の特性への悪影響を防ぐために半導体製品の製造装置の金属含有量を減らすことは,当業者にとって広く知られていた解決すべき課題であったこと,上記(1)のとおり,本件特許出願当時,ポリベンゾイミダゾールを固相重合法で製造することが広く知られていたことからすると,固相重合法で製造された金属含有量が少ないポリベンゾイミダゾールという「物」については,当業者が発明する動機付けがあり,容易に発明することができたものというべきである。
そして,「材料中に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く金属の総濃度が10ppm以下であること」という数値限定については,前記2(6)のとおりである。したがって,原告の上記主張は採用できない。
4 取消事由3(本件発明2及び3についての審決の判断の誤り)について本件発明2及び3は,本件発明1について,ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属の濃度を特定の金属についてさらに限定したものであって,本件発明2については,「クロム,鉄,ニッケルの総濃度が5ppm以下である」との限定を,本件発明3については,「クロム,鉄,ニッケルの内,少なくとも2種類のそれぞれの濃度が1ppm以下である」との限定を付したものである。
しかるところ,本件発明1について進歩性が認められないことは,既に説示したとおりである。
本件明細書には,本件発明2及び本件発明3における,ポリベンゾイミダゾール材料中に含まれる金属の濃度の上記数値限定に臨界的な意義があるなどの格別の技術的な意義がある旨の記載はなく,前記2(5)のとおり,甲21には,抽出金属及び金属化合物の濃度を約500ppb未満とすべきであり,抽出金属及び金属化合物の濃度が200ppb未満の場合に特に必要とするパフォーマンス特性が得られることが記載されていることをも考慮すると,本件発明2及び3の数値限定は,当業者が適宜なし得たものということができる。
したがって,本件発明2及び3について進歩性を認めなかった審決の判断に誤りはない。
5 取消事由4(本件発明4についての審決の判断の誤り)について本件発明4は,本件発明1〜3について,ポリベンゾイミダゾールの構造式を特定のものに限定したものである。
本件発明1について進歩性が認められないことは,既に説示したとおりであるところ,本件発明4は,そのポリベンゾイミダゾールの構造式を特定のものに限定したにすぎないものであって,本件発明4の構造式は甲10の【発明の詳細な説明】段落【0046】に記載されているから,本件発明4について進歩性を認めることはできない。
したがって,本件発明4について進歩性を認めなかった審決の判断に誤りはない。
6 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一