関連審決 | 無効2004-80024 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ワ8434特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ3668特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件 平成17ワ9357売掛代金等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ8435特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10775審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ90審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 反復(反復可能性) / 反復実施 / 物の発明 / 製造方法 / 物質発明 / 先願の地位 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 技術的手段 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 翻訳文 / 優先権 / クレーム / 特許出願日 / 参酌 / 置き換え / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 国際出願 / 国際公開 / 国内公表 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10781号
審決取消請求事件
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原告三共株式会社 訴訟代理人弁理士矢口敏昭 同越後友希 被告テバ ファーマシューティカル ワークス カンパニー リミティド バイ シェアズ (旧商号)ビオガル ファーマシューティカル ワークス リミティド 訴訟代理人弁護士上谷清 同永井紀昭 同宇井正一 同萩尾保繁 同笹本摂 同山口健司 同薄葉健司 同弁理士青木篤 同石田敬 同福本積 同永坂友康 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/06/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2004-80024号事件について平成17年9月28日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告の有する後記特許について被告が無効審判請求をしたところ,特許庁がこの特許を無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年10月16日に出願した特願2000-315256号の一部を分割して,名称を「プラバスタチンを精製する方法」とする発明につき,平成13年8月6日新たに特許出願をし,平成15年8月22日設定登録を受けた(特許第3463875号。請求項1ないし9。甲5。以下「本件特許」又は「本件特許権」という。)。 これに対し被告は,平成16年4月22日,本件特許の請求項1ないし9に係る発明について,特許無効審判請求をした。特許庁は,同請求を無効2004-80024号事件として審理した上,平成17年9月28日,「特許第3463875号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は平成17年10月8日原告に送達された。 (2) 発明の内容本件発明(以下,請求項1ないし9の発明を順に「本件発明1」〜「本件発明9」といい,これらをまとめて「本件発明」ともいう。)の内容は,下記のとおりである。 記【請求項1】菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から,有機溶媒を用いて,プラバスタチン類を抽出する工程において,有機溶媒として,式 CH CO R(上記式中,Rは炭素数3又は4のアルキル基を示32す。)を有する溶媒を使用し,並びに,不純物を無機酸を用いて分解する工程,不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる,一般式(I)【化1】を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項2】無機塩基が,アルカリ金属水酸化物類である,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項3】無機塩基を用いて分解する工程における反応温度が,50℃である,請求項1又は請求項2に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項4】無機塩基を用いて分解する工程における反応温度が,100℃である,請求項1又は請求項2に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項5】Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である,請求項1乃至4から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項6】無機酸が,リン酸又は硫酸である,請求項1乃至5から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項7】無機酸を用いて分解する工程のpHが,2乃至5である,請求項1乃至6から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項8】無機酸を用いて分解する工程における反応温度が,20℃〜80℃である,請求項1乃至7から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 【請求項9】無機酸を用いて分解する工程の反応温度が,40℃〜60℃である,請求項1乃至7から選択されるいずれか一項に記載プラバスタチンナトリウムを含有する組成物。 (3) 審決の内容審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。 その要点は,本件発明1ないし9は,下記先願発明と同一であるから,その特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものである等とするものである。 記・先願発明:2000年(平成12年)10月5日に出願された米国仮出願(60/238278。甲1)に基づく優先権を主張して2001年(平成13年)10月5日に出願された国際出願[PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。甲2。なお,特表2004-510817号公報(甲3)はその翻訳文の日本国内公表に係る公報であり,以下「先願明細書」の内容を甲3の記載をもって引用する。)]に記載された発明。 なお,本件発明1の一般式(I)の化合物が先願明細書に記載された「エピプラバ」と同一であることは,審判手続及び本件訴訟を通じて原告の争わないところであり,以下,一般式(I)の化合物を「エピプラバ」ともいう。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,以下に述べるとおり,先願明細書に記載された事項の解釈を誤り,この誤った解釈を適用したために結論を誤ったものであって,違法として取り消されるべきである。 なお,先願明細書に記載された「エピプラバ」が本件発明1の一般式(I)の化合物と同一であること,本件発明1に係る請求項が,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であって,本件発明1が「一般式(I)を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」となることは,争わない。 ア 化学物質発明に対する特許法29条の2の適用本件発明及び先願発明は,いずれも化学物質発明であり,先願発明が特許法29条の2の「他の特許出願」に該当するためには,化学物質発明として完成した発明であることが必要である。なお,特許庁の審査基準では,化学物質発明については,通常,一つ以上の代表的な実施例が必要であるとされている。すなわち,化学物質発明においては,明細書の一般的な記載だけでは明細書に完成した発明が記載されているか否かを把握することが困難なために,実施例で具体的に裏付けられている必要がある。つまり,化学物質発明においては,実施例で得られた実測値に基づき,それを整理する形で一般的な説明が明細書中に記載される。しかし,先願明細書はそのような構成がとられておらず,当業者は先願明細書に本件発明が記載されていると把握することはできない。 イ 明細書の一般的な記載と実施例の関係審決は,「(判決注:先願明細書(甲3)の)段落【0031】には,「本発明の段落【0011】〜【0030】に記載される方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは,エピプラバを実質的に含まない。本発明における方法を具体化した態様である例1〜7によれば,エピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうるが,好ましい態様に従えばエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。例1及び例3は,エピプラバが0.1%(w/w)未満で単離された例である。」ことが記載されていると認められる。ここで,単離されたプラバスタチンナトリウムにおけるエピプラバの混入の数値は,本発明の段落【0011】〜【0030】に記載される方法により導かれるものではなく,該方法により単離されたプラバスタチンナトリウムを何らかの測定手段をもって測定しなければ得られないのであるから,上記のエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満,0.1%(w/w)未満という数値範囲も,恣意的に測定し得るものではなく,何らかの手段により測定された具体的数値に基づくものでなければならない」(審決11頁下第2段落〜12頁第1段落)とした。 しかし,上記アのとおり化学物質発明は実施例で具体的に裏付けられている必要があるから,先願明細書(甲3)の段落【0031】に記載されている発明は,実施例で得られた具体的数値に基づき,それを整理する形で一般的な説明として記載されたものでなければならない。すなわち,エピプラバの混入が0.2%(w/w)未満,0.1%(w/w)未満という数値範囲の根拠となる記載が明細書及び出願時の技術常識から認められなければ,本件発明と同一のプラバスタチンナトリウムに対して0.1%(w/w)以下の量のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウムを含有する組成物に係る発明は完成した発明として認められない。「数値範囲は何らかの手段により測定された具体的数値に基づくものでなければならない」とは,すなわち,具体的な手段により測定された具体的数値が示されていなければならないことを意味する。 被告は,段落【0031】の最終文章に記載されているような,形式的意味での実施例に関連付けられた具体的な記載も「実施例」として評価されるべきであると主張するが,甲3の基礎となる国際出願[PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。甲2)においては,甲3の段落【0031】に該当する記載は,「Asdemonstrated inthe examples that follow, pravastatin sodium may be isolated with lessthan 0.5% (w/w) contamination by pravastatin lactone and less than0.2% (w/w) contamination by epiprava. Pravastatin sodium further maybe isolated with less than 0.2% (w/w) pravastatin lactone and 0.1%epiprava by adhering to the preferred embodiments of the invention,two of which are exemplified in Examples 1 and 3.(下線は原告)」と記載されており,「0.1%未満のプラバスタチンナトリウムの単離については「may be isolated」という表現が用いられている。小学館発行「小学館ランダムハウス英和大辞典第2版」(2002年1月1日発行。甲37)によれば,「may」とは,推量,可能性を示す用語であり,「may beisolated」(単離されうる)との記載は実施(単離)の結果を示すものではなく,実施(単離)の可能性を示した記載であることが明らかであり,「発明の実施の態様を具体的に示したもの」であるとはいえず,実施例には該当しない。 ウ 先願明細書の例1の解釈上記イの点について,審決は,「エピプラバが0.1%(w/w)未満で単離された例であるとされる例1をみると,プラバスタチンナトリウムの純度がHPLCにより測定され「約99.8%」と記載されているが,エピプラバについての数値は示されていない(記載事項5(判決注:甲3の段落【0045】))」(審決12頁第2段落)として,プラバスタチンナトリウムに対するエピプラバの混入の割合を示す数値が実施例に記載されていないことを認めつつも,「しかし,精製されたプラバスタチンナトリウムの純度をHPLCにより求めるには,手順として,プラバスタチンナトリウムと不純物であるエピプラバ,プラバスタチンラクトン等の各成分のピークが分離したチャートが得られるような条件を設定して測定し,得られたチャートの各成分のピーク面積を求め,ピーク面積の総和に対するプラバスタチンナトリウムのピーク面積比を算出し純度を求めることが通常採用される。すなわち,プラバスタチンナトリウムの純度を求めるにあたり,すべての成分のピーク面積は求められているので,プラバスタチンナトリウムだけでなくエピプラバ等の他の成分についても,その混入割合を同時に求めることは可能なのである。そして,先願明細書記載の発明において,精製されたプラバスタチンナトリウムにおけるエピプラバ混入の数値が重要な要件であることからすれば,例1においてエピプラバについての数値が示されていないとしても,HPLCによる測定によりプラバスタチンナトリウムの純度のみを求めたとすることは,常識的にあり得ないといえる」(審決12頁第2段落)とした。 しかし,プラバスタチンナトリウムに対して0.1%(w/w)以下のエピプラバを含有する組成物という数値が重要な要件である本件発明が先願明細書に開示されていると判断されるためには,その数値自体が先願明細書に明示されていなければならず,「プラバスタチンナトリウムの純度を求めるにあたり,すべての成分のピーク面積は求められている」のであれば,プラバスタチンナトリウムだけでなく,少なくとも,先願明細書(甲3)の段落【0031】に記載されているプラバスタチンラクトン及びエピプラバについては,その純度が実施例として具体的に記載されている必要がある。すなわち,プラバスタチンナトリウムに対するエピプラバの割合が重要な意味を有する発明において,その割合が示されていないということは,当業者であれば,「プラバスタチンナトリウムに対して0.1%(w/w)以下のエピプラバを含有する組成物」に係る発明は,先願明細書(甲3)に完成された発明として記載されていない,と判断することになる。 また,仮に実施例の数値を単なる数値として純粋に算術的な解釈に基づいて解釈すれば,「約99.9%」のような小数点以下第1位までの数値が記載されている場合,四捨五入して99.9%となるような値を意味することになる。すなわち,「約99.9%」とは99.85%から99.94%を意味することになり,不純物の量が0.15%である場合もあるので,不純物の合計が0.1%未満であるとはいえない。 エ 出願時には知られていなかった事項の参酌審決は,「先願明細書の例1においてプラバスタチンナトリウムの純度が「約99.8%」と記載されているが,甲第21号証(判決注:本訴甲21。サンプル情報)における1999年10月〜2000年4月の日付のあるHPLCの数値データをみると,小数点以下2桁まで算出されており,甲第1号証に係る出願の出願当時(2000年10月5日),HPLCにより純度は小数点以下2桁まで求めることが可能であったのであるから,上記純度の「約」は,小数点以下2桁目の数値を丸めたために付けられたと解される。したがって,純度を求めるのと同じ手順により,例1においてエピプラバについて0.1%以下の小数点以下2桁の数値を求めることも可能であったといえる。例えば,1999年11月23日の日付けのある甲第21号証の7頁目のデータによれば,エピプラバについて「0.06%」という数値が得られている」(審決12頁最終段落〜13頁第1段落)としたが,特許庁の審査基準によれば,特許法29条の2の他の出願の当初明細書等に記載された発明とは,「他の出願の当初明細書等に記載されている事項」及び「他の出願の当初明細書等に記載されているに等しい事項」から当業者が把握できる発明をいい,「他の出願の当初明細書等に記載されているに等しい事項」とは,他の出願の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が他の出願の当初明細書等に記載されている事項から導き出せる事項のことをいう。 しかし,甲21は,平成17年5月31日に,本件特許の無効審判手続において被告が弁駁書と一緒に提出したものであり,先願発明出願時はおろか本件特許出願日においても全く知られていなかったものであり,他の出願の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が他の出願の当初明細書等に記載されている事項から導き出せる事項ではない。すなわち,「したがって,純度を求めるのと同じ手順により,例1においてエピプラバについて0.1%以下の小数点以下2桁の数値を求めることも可能であったといえる」とした審決の解釈は,@そもそも純度を求める手順が開示されていない,A純度が小数点以下2桁まで求めることが可能であったとの根拠が先願発明の特許明細書に記載されておらず,先願発明出願時の技術常識にもなっていない,のであるから妥当ではない。 さらに,審決は,先願明細書に0.1%(w/w)未満のエピプラバを含有するプラバスタチンが記載されていたことの根拠として,「例えば,1999年11月23日の日付のある甲第21号証(判決注:甲21)の7頁目のデータによれば,エピプラバについて「0.06%」という数値が得られている」(審決13頁第1段落)としたが,甲21は,先願発明出願時は知られていなかったものであり,技術常識ともなっていなかったものであるから,先願明細書に0.1%(w/w)未満のエピプラバを含有するプラバスタチンが記載されていたことの根拠として甲21を用いることはできない。 オ 先願明細書中の数値の有効性先願明細書(甲3)に記載されている測定数値の純度には0.2%の誤差があり,仮にエピプラバの純度が測定されていたとしてもその値は正確なものではなかったと判断される。 すなわち,甲3の主な実施例をみると,@例1では,プラバスタチンナトリウムが65%の全収率,約99.8%の純度で得られており,A例3では,結晶化を1回繰り返すことによってプラバスタチンアンモニウム塩を更に精製したことを除き,例1の手順に従い,プラバスタチンナトリウムが約99.8%の純度及び68.4%の収率で得られており,B例4では,結晶化を2回繰り返すことによってプラバスタチンアンモニウム塩を更に精製したしたことを除き,例1の手順に従い,プラバスタチンナトリウムが約99.6%の純度及び53%の収率で得られており,C例5では,例1の精製操作の一部を変更して,プラバスタチンナトリウムが約99.9%の純度及び67.7%の収率で得られている。そうすると,例3では,例1の操作に,精製工程として結晶化の操作を1回加えることによって,プラバスタチンナトリウムの純度がほぼ同一で(いずれも,約99.8%である),収率が高いもの(例1では,65%であり,例3では,68.4%である。)が得られ,さらに,例4では,例1の操作に,精製工程として結晶化の操作を2回加えることによって,プラバスタチンナトリウムの純度が低く(例1では,約99.8%であり,例4では,99.6%である。),収率が低いもの(例1では,65%であり,例4では,53%である。)が得られていることとなる。しかし,理論的には,一定の精製工程において,更に精製操作を追加した場合には,加えられた精製操作が有効である限り,得られる最終物の純度が高くなり,収率が下がると考えられるのであるから,例3で,結晶化操作を1回加えたことにより,純度がほぼ同一で,収率が高くなっており,例4で,結晶化操作を2回加えたことにより,純度が低くなり,収率が低くなっており,これらデータを理論どおりには解釈することができない。すなわち,当業者であれば,これらのデータは,測定における実験誤差があることを示していると解釈し,プラバスタチンナトリウムの純度については,0.2%以上の実験誤差が存在すると理解するのである。このように,先願明細書に記載されている測定数値の純度については,0.2%以上の実験誤差が存在すると考えられ,しかも,エピプラバの純度が全く記載されていないのであるから,例1及び例3がエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離された例であると理解することはできない。 カ 先願発明の発明未完成「0.1%(w/w)未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」は,化学物質そのものであり,この化学物質そのものは,上述のように,先願明細書(甲3)の記載からも確認することはできず,さらに,当業者がこれらの記載から,「0.1%(w/w)未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」が得られていることを理解することができないものである。このような,明細書の記載から確認することができず,当業者が理解することもできない化学物質である「0.1%(w/w)未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」の発明は,化学物質発明として完成された発明であるとはいえないものであり,先願明細書(甲3)に記載された発明は,特許法29条の2の後願排除効を有するとはいえない。 キ 本件発明2ないし9審決は,「本件発明2〜9も,本件発明1と同様のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物そのものの発明であるから,上記「(1)(B)対比・判断」に記載の理由と同じ理由により,先願明細書に記載された発明と同一であるとすることができる」(審決13頁第2段落)と判断した。 しかし,上述したとおり,本件発明1は先願明細書(甲3)に記載された発明ではないから,本件発明2〜9についても,本件発明1と同様に,甲3は特許法29条の2の後願排除効を有するとはいえない。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,審決には原告が主張するような違法はない。 (1) 「化学物質発明に対する特許法29条の2の適用」に対し先願に係る発明が特許法29条の2に規定する先願の地位を有するには,明細書に完成された発明として記載され,開示されている必要があるが,その記載の程度は,当該技術分野における通常の知識を有するものが反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的客観的なものとして構成され,開示されていれば足り,それが形式上「実施例」という見出しの下に記載されていることまでは要求されていない。 特許庁の審査基準によれば,「発明の実施の形態を具体的に示したもの(例えば物の発明の場合,どのように作り,どのような構造を有し,どのように使用するか等を具体的に示したもの)」を実施例と称するのであって,「実施例」と称する形式で,あるいは「実施例」なる見出しの下に記載されている事項のみが実施例ではない。例えば,先願明細書(甲3)において,段落【0039】以降に「例」として記載されているもの(形式的意味での実施例)が実施例であることはいうまでもないが,段落【0031】の最終文章に記載されているような,形式的意味での実施例に関連付けられた具体的な記載も「実施例」として評価されるべきものである。 したがって,当業者は先願明細書に本件発明が記載されていると把握することはできないとする原告の主張は,根拠がない。 (2) 「明細書の一般的な記載と実施例の関係」に対し先願明細書(甲3)の段落【0031】には,「プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトン(「プラバスタチン」は誤記と認める。)が0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる」と記載されている。ここで,「例1・・・で例示される,本願発明の好ましい態様を遵守する」とは,「詳細な精製表」(甲22)に添付されている国際公開第02/030415号公報の12頁ないし13頁(甲3の段落【0039】〜【0045】の記載に相当する。)に,ペン書きで示されている@ないしHの工程を意味し,甲22の1頁ないし4頁には,それぞれ例1(example 1),例3(example 3),例4(example4)及び例6(example 6)の工程が示されている。これら記載から明らかなとおり,例3,4,5及び6は,いずれも例1の好ましい態様を遵守していることになり,したがって,「プラバスタチンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる」との記載は,例1,3,4,5及び6のすべてについて,エピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されていることを意味する。甲3においては,上記の実施例において,最終製品のエピプラバの量を実際に測定し,例1における9工程を含めばエピプラバの量を0.1%(w/w)未満に減少させることができることを確認したからこそ,「プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び例3で例示される,本願発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)で単離されうる」と記載することができたのであり,このことは,「純度表」(甲20)及び「サンプル情報」(甲21)からも確認することができる。 (3) 「先願明細書の例1の解釈」に対し特許法29条の2の先願明細書には発明が実施例として記載されていなければならないとしても,甲3において,段落【0039】以降に「例」として記載されているもの(形式的意味での実施例)が実施例であることはいうまでもないが,例えば,段落【0031】の最終文章に記載されているような,形式的意味での実施例に関連付けられた具体的な記載も「実施例」として評価されるべきものである。そして,エピプラバの量に関する具体的な記載「0.1(w/w)未満」は実際に行われた実施例の結果に基づくものであることは明らかであるから,甲3には本件発明が記載されているということができる。 (4) 「出願時には知られていなかった事項の参酌」に対し特許庁の審査基準にいう「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案」とは,「他の出願の当初明細書等に記載されている事項」それ自体ではなく,「他の出願の当初明細書等に記載されている事項」から当業者が把握できる発明又は考案をいう。 先願明細書(甲3)の例5には,「プラバスタチンナトリウムは,約99.9%の純度及び67.7%の収率で得られた。」旨記載されている(段落【0051】の最終文章)。この記載から,不純物の合計が「0.1%未満」であることが明らかである。段落【0006】には,「現在,プラバスタチンを製造するのに最も経済的に利用可能な方法は,コンパクチンのC-6位の微生物によるヒドロキシル化である。酵素的方法は非常に立体選択的であるが,有意な量のプラバスタチンC-6エピマー(「エピプラバ(epiprava)」)を混入することがある培養液からの単離後に得られるプラバスタチンナトリウムにとって一般的である。C-6位はビス-アリル位であるので,C-6原子はエピマー化しやすい。プラバスタチンの単離の間のpHの慎重な調節及び他の条件が,エピマー化を最小にするために必要とされる」と記載されている。この記載から,先願明細書の実施例におけるように培養液からプラバスタチンを精製する場合,プラバスタチンに不純物としてエピプラバが必然的に随伴することが明らかである。したがって,前記の合計0.1%未満の不純物中にエピプラバが含まれることが明らかであり,しかも当該エピプラバの量が0.1%未満であることも明らかである。 次に,例5以外の実施例(例1,3及び6)においては,99.8%純度のプラバスタチンナトリウムが得られた旨記載されている。確かに,これらの実施例中にはエピプラバの量は記載されていない。しかしながら,例1及び3に言及しながら記載されている段落【0031】の最終文章は,実際に行われた実施例に基づいて記載されていることは明らかであり,実施例という形式を採らなくても,また「実施例」という見出しの下に記載されていなくても,実施例として評価されるべきものである。 さらに,甲21は,先願明細書(甲3)に記載された実施例の基礎となった平成11年(1999年)10月から平成12年(2000年)4月当時における実験ノートの抜粋であり,甲20は,その実験ノートにプリントアウトされた数値を表にまとめたものであり,いずれも甲3の実施例記載の純度分析の精度を確認する資料であって,これらから優先権主張日(平成12年(2000年)10月5日)当時,純度を求める方法や純度を小数点以下2桁まで求めることは,当業者にとって技術常識であったことは明らかである。 (5) 「先願明細書中の数値の有効性」に対し先願明細書(甲3)に記載されている複数の実施例は,微生物の培養を伴う発酵の段階から相互に独立した試行として実施されたものであり(ただし,実施例6は例外的に,例1で得た最終製品を,再結晶化により更に精製したものである。),生物である微生物の培養を伴う醗酵の結果がバッチ間でバラつきが存在することは,よく知られていることである。むしろ,先願明細書に記載されている実施例においては,純度99.8%以上のプラバスタチンナトリウムを得るために,例1における標準的な工程に加えて,必要に応じてある工程(具体的には,前に引用した工程6の「塩析工程」など)を反復し,これにより純度99.8%以上のプラバスタチンナトリウムを得ていることが明らかである。 (6) 「先願発明の発明未完成」に対し前記のとおり,エピプラバの量が0.1%未満のプラバスタチンナトリウムが製造されていたことは,先願明細書(甲3)の記載から明らかである。 したがって,本件発明は完成したものとして先願明細書に記載されているものとした審決の認定判断に誤りはない。 本件発明において,「一般式(T)・・・(判決注:エピプラバ)を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンを含有する組成物」を工業的に製造することを可能にした技術的手段は,本件明細書(甲5)から明らかなとおり,32 @プラバスタチン類を含む培養液からプラバスタチン類を,式CH COR(式中,Rは炭素原子数3又は4のアルキル基を示す)を有する有機溶媒により抽出すること,A不純物(エピプラバなど)を無機酸を用いて分解すること,B不純物(エピプラバなど)を無機塩基を用いて分解すること,及びC結晶化を行なうこと,である。しかし,これらの手段は,既に先願明細書の実施例において使用されている。したがって,先願明細書には,エピプラバの混入量が0.1%未満であるプラバスタチンナトリウムを得る技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有するものが反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして記載されており,本件発明が完成したものとして記載されている。 (7) 「本件発明2ないし9」に対し本件発明は,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス発明であり,プロダクト・バイ・プロセス発明においては,「プロセス」は「プロダクト」を特定するための手段であり,「プロセス」それ自体は判断する場合の要素にはならず,「プロセス」が発明の同一性の判断に影響を与えるのは,「プロセス」が「プロダクト」に影響を与える場合のみである。これを本件についてみれば,本件発明がプラバスタチンナトリウムとエピプラバとの量比を数値により特定するのであるから,発明の同一性の判断において「プロセス」を考慮する余地はない。そして,本件発明2ないし9はいずれも「プロセス」のみを規定したものであるから,特許の対象である「プロダクト」には影響を与えない。 したがって,本件発明1が無効理由を有する以上,本件発明2ないし9も,当然に無効理由を含んでいることになる。 |
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当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2審決は,本件発明は先願発明と同一であると判断したものであるところ,原告は,審決は,先願明細書に記載された事項の解釈を誤り,この誤った解釈を適用したために結論を誤ったものであると主張するので,以下に検討する。 (1) 本件発明1は,上記第3の1(2)(発明の内容)の【請求項1】記載のとおりであるが,【請求項1】は,製造方法により一般式(I)を有する化合物の含量を限定したプラバスタチンナトリウム組成物を特定する記載がなされた,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり,同発明は,最終的に得られた生産物である「一般式(I)を有する化合物(判決注:エピプラバ)を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」(以下「本件組成物」ともいう。)そのものの発明であること(審決11頁第1段落)は,原告の認めるところである。 (2) 他方,先願明細書(甲3)には,以下の記載がある。 ア「実質的に純粋なプラバスタチンナトリウム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)イ「0.1%未満のエピプラバを含む,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」(同【請求項6】)ウ「0.2%未満のプラバスタチンラクトン及び0.1%未満のエピプラバを含む,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」(同【請求項7】)エ「プラバスタチンの分子構造は,式(Ia)(ここで,R=OH)によって表される。ラクトンの形態は,式(Ib)(原子の順番を示すために標識された原子を有する)によって表される。 【化1】プラバスタチン,コンパクチン(式Ia, R=H),ロバスタチン(式Ia, R=CH ),シンバスタチン,フルバスタチン及びアトルバスタ3チンは,それぞれカルボン酸によって終了し,且つカルボン酸に関してβ及びδ位に2つのヒドロキシル基を持つアルキル鎖を有する。δ位にあるカルボン酸基とヒドロキシル基は,式(Ib)に示すようにラクトン化する傾向にある。スタチンの様なラクトン化する化合物は,遊離酸型又はラクトン型で,あるいはその両方の型の平衡混合物として存在することがある。」(【発明の詳細な説明】の段落【0004】〜【0005】)オ「現在,プラバスタチンを製造するのに最も経済的に利用可能な方法は,コンパクチンのC-6位の微生物によるヒドロキシル化である。酵素的方法は非常に立体選択的であるが,有意な量のプラバスタチンC-6エピマー(「エピプラバ(epiprava)」)を混入することがある培養液からの単離後に得られるプラバスタチンナトリウムにとって一般的である。C-6位はビス-アリル位であるので,C-6原子はエピマー化しやすい。プラバスタチンの単離の間のpHの慎重な調節及び他の条件が,エピマー化を最小にするために必要とされる。」(同段落【0006】)カ「本発明の要約本発明は,プラバスタチンラクトン及び,プラバスタチンのC-6エピマーであるエピプラバ,を実質的に含まないプラバスタチンナトリウムを提供する。本発明は更に,その様な実質的に純粋なプラバスタチンナトリウムを製造するための,工業的な規模で実施され得る方法を提供する。」(同段落【0007】)キ「コンパクチンの酵素的ヒドロキシル化プラバスタチンが単離される酵素的ヒドロキシル化培養液は,コンパクチンの工業的な規模での培養について知られている任意な水性の培養液であってもよく,そのような方法は米国特許第5,942,423号及び第4,346,227号に記載されている。好ましくは,酵素的ヒドロキシル化は,コンパクチン及びデキストロースの栄養混合物を含む,生きているステプトミセス(Steptomyces)の培養液を用いて実施される。培養液が醗酵の完了時に中性又は塩基性である場合,培養液を約1〜6,好ましくは1〜5.5,そして更に好ましくは2〜4ののpHにするために酸がそれに加えられる。使用され得る酸は,塩酸,硫酸,トリフルオロ酢酸又は任意な他のプロトン性の酸,好ましくは水中での1M溶液として1未満のpHを有するものを含む。培養液の酸性化は,培養液中の任意なプラバスタチンカルボン酸塩を遊離酸及び/又はラクトンへと変換する。」(同段落【0010】)ク「実質的に純粋(「純水」は誤記と認める。)なプラバスタチンナトリウムの単離・・・第一段階において,プラバスタチンが培養液から抽出され24 24 14 る。C-Cアルキルのギ酸塩及びC-Cカルボン酸のC-Cアルキルエステルは,水性溶媒液からプラバスタチンの効率的な抽出を行うことができる。アルキル基は直鎖,分枝鎖又は環状であってもよい。好ましいエステルはギ酸エチル,ギ酸n-プロピル,ギ酸i-プロピル,ギ酸n-ブチル,ギ酸s-ブチル,ギ酸i-ブチル,ギ酸t-ブチル,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸n-プロピル,酢酸i-プロピル,酢酸n-ブチル,酢酸s-ブチル,酢酸i-ブチル,酢酸t-ブチル,プロピオン酸メチル,プロピオン酸エチル,プロピオン酸n-プロピル,プロピオン酸i-プロピル,プロピオン酸ブチル,酪酸メチル,酪酸エチル,酪酸n-プロピル,酪酸i-プロピル,酪酸ブチル,イソ酪酸メチル,イソ酪酸エチル,イソ酪酸プロピル及びイソ酪酸ブチルを含む。これらの好ましい有機溶媒の中でも,我々は酢酸エチル,酢酸i-ブチル,酢酸プロピル及びギ酸エチルが特によく適していることを発見した。」(同段落【0011】,【0012】)ケ「水溶液は,好ましくは酸,好ましくはトリフルオロ酢酸,塩酸,硫酸,酢酸,又はリン酸,更に好ましくは硫酸,を用いて,約1.0〜約6.5,更に好ましくは約2.0〜約3.7のpHに酸性化される。」(同段落【0014】)コ「プラバスタチンは,好ましくは水性溶媒中で溶解し,任意なプロトン性の酸,しかし,好ましくは硫酸を用いて,約2〜約4,更に好ましくは約3.1のpHに酸性化し,そして有機溶媒を用いてプラバスタチンを抽出することによって,アンモニウム塩から遊離される。上文で列記した有機溶媒のいずれでもよいが,好ましくは酢酸i-ブチルである有機溶媒が,プラバスタチンが実質的に完全に有機層へと移るまで,酸性化した溶液と任意に接触される。有機層は,好ましくは水層から分離され,そしてアンモニウムの残査を除去するために水で任意に洗浄した後,プラバスタチンは,好ましくは約7.4〜約13.0のpHの水性水酸化ナトリウム溶液を用いて逆抽出される。逆抽出は,好ましくは約8〜約10℃の低温で実施される。」(同段落【0023】)サ「プラバスタチンナトリウム溶液に対する水溶性の有機溶媒又は有機溶媒の混合物の添加は結晶化を補助する。特に,アセトン及びアセトン/アセトニトリル,エタノール/アセトニトリル及びエタノール/酢酸エチルの混合物が言及されうる。プラバスタチンナトリウムを結晶化するための最も好ましい溶媒系の1つは,プラバスタチンナトリウム溶液を約30w/v%に濃縮し,そして次に適当な量の1/4アセトン/アセトニトリル混合物の添加によって形成される1/3/12水/アセトン/アセトニトリル混合物である。最も好ましい結晶化溶媒混合物は水-アセトン(1:15)である。」(同段落【0029】)シ「凍結乾燥又は結晶化あるいは生成物の純度を損なわない他の手段によって単離されようとなかろうと,本発明の方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まない。以下の例で示すように,プラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトン(「プラバスタチン」は誤記と認める。)の混入が0.5%(w/w)未満で且つエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうる。プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトン(「プラバスタチン」は誤記と認める。)が0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。」(同段落【0031】)ス「例1プラバスタチンの精製・・・一緒にした酢酸i-ブチル層を,続いて濃水酸化アンモニウムの添加によって約pH7.5〜約pH11.0となった水(35L)を用いて抽出した。生じたプラバスタチン水溶液は,続いて5M硫酸の添加によって約2.0〜約4.0のpHに再酸性化され,そして酢酸i-ブチル(8L)で逆抽出された。・・・プラバスタチンアンモニウム塩を,以下の別の結晶によって更に精製した。プラバスタチンアンモニウム塩(155.5gの活性物質)を水(900ml)に溶解した。イソブタノール(2ml)を加え,そしてpHを濃水酸化ナトリウム溶液の添加によって約pH10〜約pH13.7に上げ,そしてこの溶液を周囲温度で30分間撹拌した。・・・この溶液を硫酸の添加によって約pH2〜約pH4の間のpHに酸性化し,これにより,プラバスタチンをその遊離酸へと戻した。プラバスタチンを含む酢酸i-ブチル層を水(5×10ml)で洗浄した。プラバスタチンは,続いてそのナトリウム塩へと変換され,そして約pH7.4〜約pH13のpHに達するまで8MのNaOHを途中添加しながら,約900〜2700mlの水の中で酢酸i-ブチル溶液を撹拌することによって別の水層の中に逆抽出した。 ・・・プラバスタチンナトリウムは,上述した条件を用いるHPLCによって測定した場合に,出発時の培養によって生成した活性物質から,65%の全収率,約99.8%の純度で得られた。」(同段落【0039】〜【0045】)セ「例2水/アセトン/アセトニトリル混合物からの再結晶化を省略したことを除き,例1の手順に従い,プラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンナトリウムの濃縮水溶液の凍結乾燥によって約99%の純度及び約72%の収率で得られた。」(同段落【0046】)ソ「例3プラバスタチンアンモニウム塩の結晶化を1回繰り返すことによってプラバスタチンアンモニウム塩を更に精製したことを除き,例1の手順に従い,プラバスタチンナトリウムが約99.8%の純度及び68.4%の収率で得られた。」(同段落【0047】)タ「例4プラバスタチンアンモニウム塩の結晶化を2回繰り返すことによってプラバスタチンアンモニウム塩を更に精製したことを除き,例1の手順に従い,プラバスタチンナトリウムは約99.6%の純度及び53%の収率で得られた。」(同段落【0048】)チ「例5例1の手順に従い,培養液(100L)を硫酸の添加によって約2.5〜約5.0のpHに酸性化した。・・・水性抽出物を再び酸性化し,そして例1で行った様に更に濃縮された溶液を得るために酢酸i-ブチルで抽出する代わりに,水性の抽出物を減圧下で140g/Lに濃縮した。生じた濃縮溶液は,続いて1MHClの添加によって約pH4.0〜約pH7.5のpHに酸性化された。・・・生じた結晶は,続いてナトリウム塩に置き換えられる再結晶化によって更に精製され,そして例1に記載の様に単離された。プラバスタチンナトリウムは,約99.9%の純度及び67.7%の収率で得られた。」(同段落【0049】〜【0051】)ツ「例6例1の手順に従い,プラバスタチンナトリウム塩は,HPLCによって測定した場合に,64%の,出発時の培養によって生成された活性物質からの全収率及び99.8%の純度で,1/15の水/アセトン混合物から結晶化された。」(同段落【0052】)テ「例7例5の最初の2つの段落の方法に従い,濃縮された水性の抽出物(140g/L)が得られた。濃縮された水性の抽出物は等分に分割された。」(同段落【0053】)(3) ところで,特許出願に係る発明が特許法29条の2により特許を受けることができないとされるためには,同条の「当該特許出願の日前の他の特許出願・・・に記載された発明」(先願発明)は,発明として完成していることを要すると解すべきである。そして,発明が完成したというためには,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,かつ,これをもって足りるものと解すべきである(なお,最高裁昭和61年10月3日第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。 これを本件についてみると,先願明細書(甲3)の上記(2)の記載によれば,先願発明は,「実質的に純粋なプラバスタチンナトリウム。」(上記(2)のア),「0.1%未満のエピプラバを含む,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」(同イ),「0.2%未満のプラバスタチンラクトン及び0.1%未満のエピプラバを含む,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」(同ウ)等に係る発明であり,明細書の【発明の詳細な説明】に,「実質的に純粋なプラバスタチンナトリウムの単離」(同ク)として,発酵液から抽出によりプラバスタチンを単離し,多段の工程を経て,プラバスタチンナトリウムを結晶化又は凍結乾燥によって単離する一連の工程の記載(同ケ〜サ)に続いて,「本発明の方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まない。以下の例で示すように,プラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトンの混入が0.5%(w/w)未満で且つエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうる。プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる」(同シ)とし,上記「以下の例」は,「プラバスタチンの精製」の具体例として挙げられている上記「例1」ないし「例7」を指すものと認められ,先願明細書には,現実に「エピプラバを,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」すなわち本件組成物が得られたことが,精製工程の具体的例を挙げて記載されていると認めることができる。したがって,先願明細書には,本件組成物の発明が,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されているということができる。 (4) これに対し,原告は,請求原因(4)アないしキのとおり主張するが,以下に述べるとおり,いずれも採用することができない。 ア「化学物質発明に対する特許法29条の2の適用」(原告の主張ア)について原告は,先願発明は,化学物質発明として完成した発明であることが必要であり,そのためには実施例で具体的に裏付けられている必要があるが,先願明細書にはそのような構成がとられておらず,当業者は先願明細書に本件発明が記載されていると把握することはできない旨主張する。 しかし,発明が完成したというためには,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,かつ,これをもって足りるものであり,先願明細書には,本件組成物の発明,すなわち本件発明が,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることは上記(3)のとおりである。 イ 「明細書の一般的な記載と実施例の関係」(原告の主張イ)について(ア) 原告は,先願明細書に記載された発明は,実施例で得られた具体的数値に基づきそれを整理する形で一般的な説明として記載されたものでなければならず,エピプラバの混入が0.2%未満,0.1%未満,という数値範囲の根拠となる記載が明細書及び出願時の技術常識から認められなければ,本件発明と同一のプラバスタチンナトリウムに対して0.1%以下の量のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウムを含有する組成物に係る発明は完成した発明として認められない旨主張する。 (イ) そこで,先願明細書(甲3)の記載をみると,例5(段落【0049】〜【0051】)には,具体的な手順とともに,「生じた結晶は,続いてナトリウム塩に置き換えられる再結晶化によって更に精製され,そして例1に記載の様に単離された。プラバスタチンナトリウムは,約99.9%の純度及び67.7%の収率で得られた」と記載されている。 そうすると,上記プラバスタチンナトリウムの純度が約99.9%であることから,不純物の合計は約0.1%であることが理解できる。また,本件明細書(甲5)の段落【0017】等に記載されているように,二段階発酵により生成されるプラバスタチン類は不純物を多く含有するものであって,エピプラバは不純物の一部を構成するものであるから,例5のエピプラバの含有量は0.1%以下であるということができる。したがって,先願明細書の例5には,「エピプラバを,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」すなわち本件組成物が記載されていると認められる。 また,先願明細書(甲3)の段落【0031】には,「プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる」と記載され,さらに,例1及び例3の記載をみると,それぞれ具体的な手順とともに,例1においては,「プラバスタチンナトリウムは,上述した条件を用いるHPLCによって測定した場合に,出発時の培養によって生成した活性物質から,65%の全収率,約99.8%の純度で得られた」ことが記載され(段落【0045】),例3においては,「プラバスタチンナトリウムが約99.8%の純度及び68.4%の収率で得られた」ことが記載されている(段落【0047】)。例1及び例3の記載のみからでは,不純物の合計は「約0.2%」であることは理解できるが,エピプラバの含有量が0.1%以下であるか否かは明らかではない。しかし,上述のように先願明細書(甲3)に記載された方法は,原料として雑多な物質が存在する発酵培養物を用いていることから,例1や例3の生成物においても,エピプラバ以外に,分離が困難なプラバスタチンラクトンやその他微量の不純物が混在するものと認められ,上記の不純物の合計「約0.2%」とは,これら全体を合計したものとなる。そうすると,「プラバスタチンラクトンが0.2%未満で且つエピプラバが0.1%未満で単離された」ことが十分確からしいものと認められ,【0031】の記載は,単なる憶測ではなく,客観的な根拠に基づくものということができる。したがって,先願明細書の段落【0031】及び例1,例3の記載からも,本件組成物が記載されていると認められる。 (ウ)原告は,甲2において,甲3の段落【0031】に該当する記載中の「may be isolated」との記載は,実施(単離)の可能性を示した記載であることが明らかで,「発明の実施の態様を具体的に示したもの」であるとはいえず,実施例には該当しないと主張するが,甲3の段落【0031】の記載が,具体例(甲2の例1ないし例7は,甲3の例1ないし例7に相当する。)に基づくものであることは,上記(3)のとおりである。 (エ) したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 「先願明細書の例1の解釈」について(ア) 原告は,先願明細書(甲3)の例1について,プラバスタチンナトリウムに対して0.1%(w/w)以下のエピプラバを含有する組成物という数値が重要な要件である本件発明が先願明細書に開示されていると判断されるためには,その数値自体が先願明細書に明示されていなければならず,少なくとも,先願明細書(甲3)の段落【0031】に記載されているプラバスタチンラクトン及びエピプラバについては,その純度が実施例として具体的に記載されている必要があると主張する。 しかし,先願明細書の例5には,「エピプラバを,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」すなわち本件組成物が記載されていること,及び,例1,例3の生成物においても,「プラバスタチンラクトンが0.2%未満で且つエピプラバが0.1%未満で単離された」ことが十分確からしいものと認められることは,上記イのとおりである。 (イ) 原告は,実施例の「約99.9%」のような小数点以下第1位までの数値が記載されている場合,四捨五入して99.9%となるような値,すなわち,99.85%から99.94%を意味することになり,不純物の量が0.15%である場合もあるので,不純物の合計が0.1%未満であるとはいえないと主張する。しかし,本件発明1に係る【請求項1】においても,「一般式(I)・・・を有する化合物(判決注:エピプラバ)を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする」として,小数点以下第2位については何ら規定していないことは,先願明細書の上記記載と同様であるから,両者の同一性を判断するに当たって,小数点以下第2位の具体的数値を特定する必要はなく,原告の上記主張は採用することができない。 エ 「出願時には知られていなかった事項の参酌」について原告は,審決には「先願明細書の例1においてプラバスタチンナトリウムの純度が「約99.8%」と記載されているが,甲第21号証における1999年10月〜2000年4月の日付のあるHPLCの数値データをみると,小数点以下2桁まで算出されており,甲第1号証に係る出願の出願当時(2000年10月5日),HPLCにより純度は小数点以下2桁まで求めることが可能であったのであるから,上記純度の「約」は,小数点以下2桁目の数値を丸めたために付けられたと解される。したがって,純度を求めるのと同じ手順により,例1においてエピプラバについて0.1%以下の小数点以下2桁の数値を求めることも可能であったといえる。 例えば,1999年11月23日の日付のある甲第21号証の7頁目のデータによれば,エピプラバについて「0.06%」という数値が得られている」(審決12頁最終段落〜13頁第1段落)として,甲21を引用したことについて,甲21は先願発明出願時はおろか本件特許出願日においても知られていなかったものであり,技術常識ともなっていなかったものであるから,先願明細書に0.1%未満のエピプラバが記載されていたことの根拠として甲21を用いることはできないと主張する。 しかし,審決の上記説示によれば,審決は,甲21を先願発明出願当時(甲1の出願時)における,HPLCによる純度の算出が小数点以下2桁まで求めることができるとの技術水準を把握するために引用したにすぎず,出願当時の技術水準を出願後の資料によって認定すること自体は,これを違法ということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。 オ 「先願明細書中の数値の有効性」について原告は,先願明細書に記載されている測定数値の有効性について,実施例に記載されている測定数値の純度には0.2%の誤差があり,仮にエピプラバの純度が測定されていたとしても,その値は正確なものではなかったと判断される旨主張する。 原告の上記主張は,例4の実験が,例1の操作に,精製工程として結晶化の操作を2回加えたものであるから,純度が高くなるのが当然であるのにもかかわらず,例1の純度(約99.8%)よりも例4の純度(約99.6%)が低くなっていることは,理論的に不合理であるということを根拠とするものである。しかし,例4は,少なくともプラバスタチンアンモニウム塩の結晶化工程以降の工程は,例1とは別途行われているものであるから,例4の純度が例1よりも低くなっても理論的に不合理であるということはなく,原告の上記主張はその前提において根拠がない。また,原告の上記主張が実験精度(実験誤差)(つまり,同じ操作を行っても,プラバスタチンナトリウムの純度が高い場合と低い場合があること)を問題にしているものであるとしても,本件組成物の発明が,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されているか否かの判断においては,本件組成物を反復して得られることが必要であるが,その反復可能性は必ずしも確率が高いものであることまでは必要としないというべきであるから,純度が低い場合が存在するとしても,そのことによって先願明細書に記載された発明が未完成であるということはできない。 カ 「先願発明の発明未完成」について原告は,明細書の記載から確認することができず,当業者が理解することもできない化学物質である「0.1%(w/w)未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」の発明は,化学物質発明として完成された発明であるとはいえないものであり,先願明細書(甲3)に記載された発明は,特許法29条の2の後願排除効を有するとはいえないと主張する。 しかし,上述したとおり,先願明細書には,本件組成物の発明が,完成した発明,すなわち,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されているということができるから,原告の上記主張は採用することができない。 キ 「本件発明2ないし9」について原告は,本件発明1は先願明細書(甲3)に記載された発明ではないから,本件発明2ないし9についても,本件発明1と同様に,甲3は特許法29条の2の後願排除効を有するとはいえないと主張する。 しかし,本件発明1に係る【請求項1】は,前記のようにいわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり,本件発明1が,最終的に得られた生産物である「一般式(I)を有する化合物(判決注:エピプラバ)を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」(本件組成物)そのものの発明であることは,前記(1)のとおりである。そして,本件発明2ないし9はいずれも「プロセス」のみを規定したものであるから,結局,本件発明1と同様,本件組成物そのものの発明ということになる。 したがって,本件発明2ないし9も,本件発明1と同様,先願発明と同一である。 3以上のとおり,本件発明1ないし9は先願発明と同一であるから,その特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであるとした審決に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |