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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10487審決取消請求事件 判例 特許
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平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10210審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  抵触 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  特許発明 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10838号 審決取消請求事件
原告 インターディジタルテクノロジー コーポレーション
訴訟代理人弁護士 中島和雄
訴訟代理人弁理士 内原晋
同船山武
同渡邉隆
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 小池正彦
同 大場義則
同 井関守三
同 長島孝志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/11/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が訂正2002−39124号事件について平成17年8月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告主文と同旨2被告(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 手続の経緯(1) 原告は,昭和61年2月26日(優先権主張1985年3月20日,米国)に出願した特願昭61-39331号(以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成9年7月11日に,発明の名称を「多重音声通信やデータ通信を単一又は複数チャンネルにより同時に行うための無線ディジタル加入者電話システム」とする新たな特許出願(特願平9-236592号)とした特許第2979064号の特許(平成11年9月17日設定登録。以下「本件特許」という。登録時の発明の数は6である。)の特許権者である。
(2) 本件特許の特許請求の範囲第1項ないし第6項に係る発明についての特許に対し,特許異議の申立てがあり,異議2000-72020号事件として特許庁に係属した。その審理の過程において,原告は,平成13年4月17日,本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)を訂正(以下「第1訂正」という。この訂正により,特許請求の範囲第1項,第2項,第3項及び第6項が訂正されるとともに,第4項が削除され,第5項及び第6項が第4項及び第5項に項番変更された。)する請求をした。特許庁は,審理の結果,同年10月23日,「訂正を認める。特許第2979064号の特許請求の範囲第1項ないし第5項に記載された発明についての特許を取り消す。」との決定(以下「異議決定」という。)をした。原告は,この決定を不服として,平成14年3月8日,その取消を求める訴訟を東京高等裁判所に提起し(東京高裁平成14年(行ケ)第113号),現在当庁に係属中である(当庁平成17年(行ケ)第10174号)。
(3) 原告は,平成14年5月17日,本件明細書の特許請求の範囲の訂正(以下,この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件明細書及び図面を「訂正明細書」という。)を求める審判を請求した。特許庁は,これを訂正2002-39124号事件(以下「本件審判」という。)として審理した結果,平成15年3月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をした。原告は,この審決を不服として,平成15年7月4日,その取消を求める訴訟を東京高等裁判所に提起した(東京高裁平成15年(行ケ)第293号)。東京高等裁判所は,平成16年12月9日,「特許庁が訂正2002-39124号事件について平成15年3月24日にした審決を取り消す。」との判決(以下「前訴判決」という。)をし,この判決は確定した。
(4) 特許庁は,前訴判決の確定をうけて,本件審判の審理を再開した上,平成17年8月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(附加期間90日,以下「本件審決」という。)をし,同年8月17日,その謄本を原告に送達した。本件審決の取消しを求めて原告が提起したのが,本件訴訟である。
2 本件訂正の内容本件訂正は,第1訂正による異議決定時の特許請求の範囲第1項ないし第3項及び第5項を追加訂正するとともに第4項を削除し,第5項を第4項に項番変更するものである(本件明細書のうち,特許請求の範囲以外の部分に訂正はない。)。
本件訂正後の特許請求の範囲の第1項ないし第4項の各記載は次のとおりである(一重下線部は第1訂正により訂正された箇所であり,二重下線部は本件訂正による訂正箇所である。)。
「1 無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであって,基地局及び加入者局を含み,その基地局が,電話網から複数の順方向ディジタル化音声信号を受けるとともに加入者局から少なくとも一つの逆方向ディジタル化音声信号を受ける複数の回線接続経路と,前記順方向ディジタル化音声信号をそれぞれ圧縮して圧縮音声信号を生ずる複数の圧縮器と,前記圧縮音声信号を単一の送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられた周波数/時間スロットに配置して多重化するマルチプレクサと,前記順方向搬送波周波数の各々を前記送信チャンネル・ビット・ストリームで変調して順方向被変調搬送波を生ずる複数の変調器と,前記順方向被変調搬送波を少なくとも一つの加入者局にRF送信する送信機と,前記ディジタル化音声信号を前記圧縮器の一つにそれぞれ導く交換手段と,入来呼要求に応答して圧縮音声信号の占めるべき順方向の時間スロット及び周波数を指示する時間スロット/周波数割当て信号を発生しそれによって圧縮済みのディジタル化音声信号を前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の順方向の時間スロット及び周波数に割り当てる時間スロット/周波数割当て信号発生手段であって,時間スロット/周波数の割当て済みの状況に関する情報を記憶するメモリを含み前記入来呼要求に応答して前記メモリにアクセスする時間スロット/周波数割当て信号発生手段と,前記時間スロット/周波数割当て信号に応答して入来ディジタル化音声信号を前記圧縮器経由で前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられたスロットに経路づけするように所要の接続を前記交換手段に完結させる手段と,前記時間スロット/周波数割当て信号を表す情報を前記加入者局に送る手段とを含み,前記加入者局が,前記逆方向ディジタル化音声信号を圧縮して逆方向圧縮音声信号を生ずる圧縮器と,前記逆方向圧縮音声信号を送信チャンネル・ビット・ストリーム内の逐次的時間スロット,すなわち前記順方向の割当てスロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットに配置するチャンネル・コントローラと,前記逆方向搬送波周波数,すなわち前記順方向の割当て周波数から固定周波数幅だけずれた逆方向搬送波周波数を前記送信チャンネル・ビット・ストリームで変調し逆方向被変調搬送波を生ずる変調器と,前記逆方向被変調搬送波を前記基地局にRF送信する送信機とを含むことを特徴とするディジタル陸上通信システム。」(以下,この発明を「本件訂正第1発明」という。)「2 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムにおいて,前記基地局における切換マトリクス及び各加入者局におけるセット・アップ手段であって,前記局線に接続され前記局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として前記局線に導く前記切換マトリクス,及び第1の逆方向情報を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップする前記セット・アップ手段と,前記基地局及び各加入者局における信号圧縮器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに第1の圧縮済みの第1の順方向信号すなわち圧縮前の前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮器と,前記基地局及び各加入者局における信号圧縮解除器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記加入者局から前記RFリンクの前記逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の逆方向信号を前記基地局切換マトリクス用に発生する基地局信号圧縮解除器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続され前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ手段用に発生する加入者局信号圧縮解除器と,前記圧縮済みの順方向情報信号及び逆方向情報信号への一つのチャンネル/時間スロット割当てをその情報信号を前記順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て手段であって,チャンネル/時間スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段を含む割当て手段とを含み,前記加入者局が前記順方向情報信号および逆方向情報信号の一方を割当てチャンネル/時間スロット経由で受信し,その割当てチャンネルから固定周波数幅だけずれた周波数およびその割当て時間スロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットを前記順方向情報信号および逆方向情報信号の他方に自動的に提供し,前記基地局圧縮器に接続され前記圧縮済みの順方向信号を前記順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの時間スロットを占める形で印加するように組み上げる信号コンバイナと,前記基地局及び加入者局における送信機及び受信機であって前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機とをさらに含む陸上無線ディジタル多元接続通信システム。」(以下,この発明を「本件訂正第2発明」という。)「3 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を備える市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信を行う方法であって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信方法において,前記基地局における切換及び前記加入者局の各々におけるセット・アップを行う過程であって,前記局線に接続され前記局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として前記局線に導く前記切換過程,及び第1の逆方向情報を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報としてセット・アップするセット・アップ過程と,前記基地局及び前記各加入者局における信号圧縮過程であって,前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに第1の圧縮済みの順方向信号すなわち圧縮前の第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮過程,及び,前記セット・アップ過程からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮過程と,前記基地局及び各加入者局における信号圧縮解除過程であって,前記加入者局から前記RFリンクの前記逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の逆方向信号を前記切換過程期間中の切換用に発生する基地局信号圧縮解除過程,及び前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ過程用に発生する加入者局信号圧縮解除過程と,前記圧縮済みの順方向及び逆方向情報信号への一つのチャンネル/時間スロット割当てをその情報信号を前記順方向及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て過程であって,チャンネル/時間スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段の維持を含む割当て過程とを含み,前記加入者局が前記順方向情報信号および逆方向情報信号の一方を割当てチャンネル/時間スロット経由で受信し,その割当てチャンネルから固定周波数幅だけずれた周波数およびその割当て時間スロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットを前記順方向情報信号および逆方向情報信号の他方に自動的に提供するようにし,前記基地局信号圧縮過程からの前記圧縮済みの順方向信号を前記順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの時間スロットを占める形で印加するように組み上げる過程と,前記基地局及び加入者局における送信過程及び受信過程であって前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信過程及び受信過程とをさらに含む陸上無線ディジタル多元接続通信方法。」(以下,この発明を「本件訂正第3発明」という。)「4 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムにおいて,前記基地局における切換マトリクス及び各加入者局におけるセット・アップ手段であって,前記局線に接続され前記局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として前記局線に導く前記切換マトリクス,及び第1の逆方向情報信号を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップするセット・アップ手段と,前記基地局及び各加入者局における信号圧縮器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに圧縮済みの第1の順方向信号すなわち圧縮前の前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報信号を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮器と,前記基地局及び各加入者局における信号圧縮解除器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記加入者局から前記RFリンクの前記逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報信号をもたらす第2の逆方向信号を前記基地局切換マトリクス用に発生する基地局信号圧縮解除器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続され前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報信号をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ手段用に発生する加入者局信号圧縮解除器と,前記圧縮済みの順方向情報信号及び逆方向情報信号の一つへのチャンネル/時間スロット割当てをその情報信号を前記順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て手段であって,チャンネル/時間スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段を含む割当て手段と,前記基地局圧縮器に接続され前記圧縮済みの順方向信号を前記順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの内の時間スロットを占める形で印加するように組み上げる信号コンバイナと,前記基地局及び加入者局における送信機及び受信機であって前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機とを含む陸上無線ディジタル多元接続通信システムに用いる加入者局において,前記第1の逆方向情報信号を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップするセット・アップ手段と,前記セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの前記第1の逆方向信号を圧縮して圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報信号を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する信号圧縮器と,前記セット・アップ手段に接続され前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報信号をもたらす第2の順方向信号をセット・アップ手段用に発生する信号圧縮解除器と,前記基地局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機とを含み,前記順方向情報信号および逆方向情報信号の一方を割当てチャンネル/時間スロット経由で受信し,その割当てチャンネルから固定周波数幅だけずれた周波数およびその割当て時間スロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットを前記順方向情報信号および逆方向情報信号の他方に自動的に提供する加入者局。」(以下,この発明を「本件訂正第4発明」という。)3 本件審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,下記(1)ないし(3)の理由により,本件訂正は認められない,とするものである。
(1) 次の@〜Fの点(審決書8頁33行〜10頁10行)で不備であるから,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明は,特許法36条3項,4項の規定を満たしておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができない(以下「理由A」という。)。なお,原出願は昭和61年2月26日に出願されたものであるから,本件審決にいうこれらの規定は,昭和62年法律第27号による改正前の特許法におけるものをいうところ(以下,本判決におけるこれら規定についても,同様である。),被告は,下記@〜C及びFは36条3項及び4項に違反し,下記D及びEは特許36条4項に違反するという(第3回弁論準備手続調書)。
@ 「特許請求の範囲第1項の『……複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……』との記載,特許請求の範囲第2項の『……各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる……』との記載,特許請求の範囲第3項の『……各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる……』との記載,及び,特許請求の範囲第4項の『……各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる……』との記載は,『複数の順方向及び逆方向搬送波周波数』(あるいは『複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル』)と『各々』と『互い』と『時間スロット』と『複数の時間スロット』と『同期』のそれぞれの関連が明確でない。」(以下「理由A@」という。)A 「特許請求の範囲第1項に『……複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……』とあるが,送信信号,受信信号の入れ物である時間スロットを刻むのは基地局,加入者局の構成(例えば,基地局でいえば,マルチプレクサ)であるから,『……複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……』との記載は意味不明りょうな記載である。」(以下「理由AA」という。)B 「明細書の【0055】によれば,遅延対策のため,加入者局は自己の伝送を基地局に対して進めるとしているところ,加入者局における複数の時間スロットの時間軸上の関係がどのようになっているのか,また,それが特許請求の範囲第1項〜第4項記載の同期といえるのか不明りょうである。」(以下「理由AB」という。)C 「明細書の発明の詳細な説明の欄の記載(たとえば,第1表〜第5表)によれば,符号化速度または前記情報信号の変調の種類に応じて,それぞれのスロット長が規定されており,たとえば第4表をみると,明らかに,時間スロットの長さが違うのであるから,仮に,請求人が基地局あるいは加入者局における送信の時間スロットと受信の時間スロットが一致していることを同期というのであれば,同期との表現は不適である。」(以下「理由AC」という。)D 「特許請求の範囲第1項〜第4項には,同期について言及しているにもかかわらず,同期を実現する手段についての記載がない。したがって,特許請求の範囲第1項〜第4項には発明の必須の構成要件の記載が欠けているといわざるを得ない。」(以下「理由AD」という。)E 「フレーム同期をとらないと,基地局と加入者局とで情報信号をやりとりはできないと考えられるところ,特許請求の範囲第1項〜第4項には,フレーム同期,フレーム同期を実現するための手段についての記載がない。
したがって,特許請求の範囲第1項〜第4項には発明の必須の構成要件の記載が欠けているといわざるを得ない。また,特許請求の範囲に記載が無いということは,フレーム同期をとらないで,基地局と加入者局とで情報信号をやりとりを行うことも発明の内容としているとも考えられるが,フレーム同期をとらないでどうして情報信号をやりとりできるのか不明である。」(以下「理由AE」という。)F 「請求人は,特許請求の範囲第1項乃至第4項において,『互いに同期した』との文言を付加する訂正をし,その根拠として,段落51,段落54,段落55,表1乃至表5,段落104をあげているが,同期とは何か明確でなく,また,(@)段落51からどうしてその同期が導き出せるのか(A)段落54からどうしてその同期が導き出せるのか(B)段落55からどうしてその同期が導き出せるのか(C)表1乃至表5からどうしてその同期が導き出せるのか(D)段落104からどうしてその同期が導き出せるのか明確でない。さらに,その同期が通信分野で使われている同期(フレーム同期,ビット同期等)と同じなのか違うものなのかも明確でない。」(以下「理由AF」という。)(2) 本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明は,いずれも,下記刊行物1乃至6記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,特許出願の際独立して特許を受けることができない(以下「理由B」という。)。
刊行物1 「電子通信学会論文誌(J64-B)第9号」(昭和56年9月25日,社団法人電子通信学会発行,1016頁〜1023頁,「TD-FDMA移動通信方式の検討」)(甲1。以下,刊行物1に記載された発明を「引用発明」という。前審決の「刊行物1」と同じ。)刊行物2 「IEEE International Conference on Cmmunications(Denver,Colorado June14-18, 1981) Coference Record」 Vol.2 of 4,第23.4.1-23.4.5 「Digital Mobile Radio Telephone System Using TD/FDMA Scheme」(甲2)刊行物3 特開昭58-51635号公報(甲3,前審決の「刊行物2」と同じ。)刊行物4 特開昭54-60806号公報(甲4,前審決の「刊行物3」と同じ。)刊行物5 特開昭55-120235号公報(甲5,前審決が,「送信に用いるタイムスロットと受信に用いるタイムスロットとを異ならせることについて,刊行物4(前審決の刊行物3)とともに例示した文献。)刊行物6 特開昭56-75741号公報(甲6)本件審決は,上記結論を導くに当たり,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明と引用発明とを対比・検討して,次のとおり認定判断した(審決書22頁21行〜29頁26行,29頁33行〜33頁38行)。
なお,本件審決は,「本件訂正第1発明は,上記刊行物1乃至3記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書29頁28行〜30行),「本件訂正第2発明は,上記刊行物1乃至3記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書34頁1行〜3行),「本件訂正第3発明は,本件訂正第2発明に示した理由と同様な理由で,上記刊行物1乃至3記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書34頁8行〜10行),「本件訂正第4発明は,本件訂正第2発明に示した理由と同様な理由で,上記刊行物1乃至3記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書34頁12行〜14行)としているが,上記における「刊行物1乃至3記載の発明」との記載はいずれも「刊行物1乃至6記載の発明」の誤記である(このことについては,当事者間に争いがない。)。
ア 本件訂正第1発明について(ア) 本件訂正第1発明が,無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が《互いに同期した》複数の時間スロットを《含む》とともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであるとすることは,上記《 》内の記述を除き,引用発明と実質的な差異はない。
上記《 》の記述のうち,《含む》との点については,順方向及び逆方向搬送波周波数そのものは複数のスロット(信号の入れ物のようなもの)を伝送することはないから,搬送波周波数が時間スロットを《含む》というのは技術的にはないが,スロットを基地局及び加入者局(移動機)が扱うという捉え方でいえば,本件訂正第1発明と引用発明との実質的な差異には当たらない。
上記《 》の記述のうち,《互いに同期した》点については,下記@,Aのとおりである。
@ 《互いに同期した》点については,前訴判決のように,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものとすれば,そのような同期は本件出願前普通に知られたことである(必要ならば,例えば,刊行物6を参照されたい。)から,引用発明1に適用して本件訂正第1発明と同様なスロット構成として同期をとることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
A 発明の技術内容がどういうものであるかは,特段の事情がある場合を除き,特許請求の範囲の記載に基づき認定されるべきである(最高裁判所昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決,以下「リパーゼ事件最高裁判決」という。)から,特許請求の範囲の記載を素直に読めば,他の解釈も可能であるということであれば,それも本件訂正第1発明の内容であると解される。そして,本件訂正前の特許請求の範囲第1項に係る発明は,「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が複数のスロットを含む……システム」であり,「各々」とは順方向搬送波周波数と逆方向搬送波周波数とを指し,それぞれが複数のスロットを含むとしてしたところ,本件訂正は,これに「互いに同期した」,「時間」スロットとの文言を付加し,「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……システム」(下線部は本件訂正による訂正箇所を示す。)としたものであるから,本件訂正第1発明は,「……順方向搬送波周波数が互いに同期した複数の時間スロットを含む……逆方向搬送波周波数が互いに同期した複数の時間スロットを含む……システム」であるということになる。ここで,スロットを扱うのは基地局及び加入者局であって,順方向及び逆方向搬送波周波数そのものは複数のスロット(信号の入れ物のようなもの)を伝送することはないから,「含む」との点を言い換えると,「……下り回線の基地局,加入者局が互いに同期した複数の時間スロットを扱う……,……上り回線の基地局,加入者局が互いに同期した複数の時間スロットを扱う……,……システム」ということになり,本件訂正第1発明はそのように解することもできる。 そうすると,本件訂正第1発明は,フレーム同期がとられ,これを起点としてフレーム,詳細にいえば時間スロットが順序よく刻まれるというものであり,引用発明も,フレーム同期がとられ,それを起点としてフレーム,詳細にいえば,時間スロットが刻まれる移動通信システムであるから,前提とするシステムに関し,同期という意味合いを含めても,本件訂正第1発明の陸上通信システムと上記刊行物記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。
(イ) 本件訂正第1発明において,基地局が,電話網から複数の順方向ディジタル化音声信号を受けるとともに加入者局から少なくとも一つの逆方向ディジタル化音声信号を受ける複数の回線接続経路を含むとする点は,引用発明との実質的差異に当たらない。
(ウ) 本件訂正第1発明において,基地局が,順方向ディジタル化音声信号をそれぞれ圧縮して圧縮音声信号を生ずる複数の圧縮器を含むとすることは,引用発明と実質的差異はない。
(エ) 本件訂正第1発明において,基地局が,圧縮音声信号を単一の送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられた周波数/時間スロットに配置して多重化するマルチプレクサを含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(オ) 本件訂正第1発明において,基地局が,順方向搬送波周波数の各々を送信チャンネル・ビット・ストリームで変調して順方向被変調搬送波を生ずる複数の変調器を含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(カ) 本件訂正第1発明において,基地局が,順方向被変調搬送波を少なくとも一つの加入者局にRF送信する送信機を含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(キ) 本件訂正第1発明において,基地局が,ディジタル化音声信号を前記圧縮器の一つにそれぞれ導く交換手段を含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(ク) 本件訂正第1発明において,基地局に含まれる時間スロット/周波数割当て信号発生手段が,入来呼要求に応答して圧縮音声信号の占めるべき順方向の時間スロット及び周波数を指示する時間スロット/周波数割当て信号を発生しそれによって圧縮済みのディジタル化音声信号を前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の順方向の時間スロット及び周波数に割り当てるとする点は,引用発明と実質的な差異はない。
ただ,基地局に含まれる時間スロット/周波数割当て信号発生手段に関し,本件訂正第1発明においては,時間スロット/周波数の割当て済みの状況に関する情報を記憶するメモリを含み入来呼要求に応答してメモリにアクセスするとしているのに対し,引用発明にはその点についての記載がない点で相違するが,刊行物3には基地局がメモリに記憶された各通話チャネルの空塞情報を参酌して空通話チャネルの選択を行うことが記載され,刊行物4には親局装置内の周波数,タイムスロット制御回路15の中央処理装置15-7は,メモリ15-8内に各周波数帯及びタイムスロット使用状況をファイルしておき刻々変る各周波数帯及びタイムスロットの使用状況から現在用いられている周波数帯及びタイムスロット番号の指定,端末装置から到来する電波の復調並びに並列変換制御,及び多重化回路15-2による多重化制御等を行うことが記載されているから,これらを引用発明に適用して,基地局に,時間スロット/周波数の割当て済みの状況に関する情報を記憶するメモリを含み入来呼要求に応答してメモリにアクセスすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
(ケ) 本件訂正第1発明において,基地局が,「時間スロット/周波数割当て信号に応答して入来ディジタル化音声信号を圧縮器経由で前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられたスロットに経路づけするように所要の接続を交換手段に完結させる手段」を含むとする点は,引用発明との実質的な差異に当たらない。
(コ) 本件訂正第1発明において,基地局が,時間スロット/周波数割当て信号を表す情報を加入者局に送る手段とを含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(サ) 本件訂正第1発明において,加入者局が,逆方向ディジタル化音声信号を圧縮して逆方向圧縮音声信号を生ずる圧縮器を含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(シ) 本件訂正第1発明において,加入者局が,逆方向圧縮音声信号を送信チャンネル・ビット・ストリーム内の逐次的時間スロットに配置するとする点は,引用発明と実質的な差異はない。
ただ,本件訂正第1発明においては,加入者局が,順方向の割当てスロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットに配置するチャンネル・コントローラを含むとするのに対し,引用発明にはその点についての記載がない点で相違するが,引用発明は所定の時間スロットに情報信号を配置するためのMultiplexerを基地局に設けており,これを移動局にも設けるとすることは,当業者が容易に想到できることである。
また,引用発明においては,送信系と受信系とで異なる搬送波を用いるから,送信系と受信系をまったく異なる系として構成する(送信系と受信系とで,構成要件が重複しない。全二重通信)ということであれば,送信に用いるタイムスロットと受信に用いるタイムスロットとは,タイミング的には同じであっても異なっていてもよいということになるが,送信系と受信系とを切り換えて用いるという構成を採用する(半二重通信)のであれば,送信に用いるタイムスロットと受信に用いるタイムスロットとは異なるタイムスロットとする必要があり,このようなことは,ごく普通に行われていることであるから(刊行物5,刊行物4),所定のタイムスロットとしてどのようなスロットを用いるかは,当業者が適宜なし得ることにすぎず,引用発明において送信と受信とで異なるスロットを用いることを阻害する要因は何もないから,引用発明において,本件訂正第1発明のように,送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットに配置するか否かは,当業者が適宜なし得ることである。
(ス) 本件訂正第1発明において,加入者局が,逆方向搬送波周波数,すなわち順方向の割当て周波数から固定周波数幅だけずれた逆方向搬送周波数を用いるとする点は,引用発明と実質的な差異はない。
ただ,本件訂正第1発明においては,加入者局が,送信チャンネル・ビット・ストリームで変調し逆方向被変調搬送波を生ずる変調器を含むとしているのに対し,引用発明にはその点が記載されていない点で相違するが,引用発明には,Demodulatorが基地局に設けられているから,移動局にmodulatorを設けるとすることは,ごく普通に考えられることである。
(セ) 本件訂正第1発明において,加入者局が,逆方向被変調搬送波を基地局にRF送信する送信機を備えるとする点は,引用発明と実質的な差異はない。
イ 本件訂正第2発明について(ア) 本件訂正第2発明が,局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が《互いに同期した》複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムであるとすることは,上記《 》内の記述を除き,引用発明と実質的な差異はなく,また,上記《 》内を含む記述内容については,前記ア(ア)に示したと同様である。
仮に,本件訂正第2発明において,基地局と公衆通信用電話網等との間に回線が設けられ,公衆通信電話網等から基地局へディジタル化音声信号を送信し,あるいは,基地局から公衆通信電話網等へディジタル化音声信号を送信する点が,引用発明との差異であると捉えたとしても,そのようなことは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(イ) 本件訂正第2発明が,基地局における切換マトリクス及び各加入者局におけるセット・アップ手段であって,局線に接続され局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として局線に導く切換マトリクス,及び第1の逆方向情報を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップする前記セット・アップ手段を含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(ウ) 本件訂正第2発明が,基地局及び各加入者局における信号圧縮器であって,基地局切換マトリクスに接続され前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに第1の圧縮済みの第1の順方向信号すなわち圧縮前の前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮器,及び加入者局セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の第1の逆方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮器と,基地局及び各加入者局における信号圧縮解除器であって,基地局切換マトリクスに接続され加入者局からRFリンクの逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し第1の逆方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の逆方向信号を基地局切換マトリクス用に発生する基地局信号圧縮解除器,及び加入者局セット・アップ手段に接続され基地局からRFリンクの順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに第1の順方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ手段用に発生する加入者局信号圧縮解除器を含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(エ) 本件訂正第2発明が,圧縮済みの順方向情報信号及び逆方向情報信号への一つのチャンネル/時間スロット割当てをその情報信号を順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て手段を含むとすることと引用発明とに実質的な差異はない。
ただ,本件訂正第2発明において,割当て手段が,チャンネル/時間スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段を含むとしているのに対し,引用発明にはその点についての記載がない点で相違するが,刊行物3には,基地局がメモリに記憶された各通話チャネルの空塞情報を参酌して空通話チャネルの選択を行うことが記載され,また,刊行物4には,親局装置内の周波数,タイムスロット制御回路15の中央処理装置15-7は,メモリ15-8内に各周波数帯及びタイムスロット使用状況をファイルしておき刻々変る各周波数帯及びタイムスロットの使用状況から現在用いられている周波数帯及びタイムスロット番号の指定,端末装置から到来する電波の復調並びに並列変換制御,及び多重化回路15-2による多重化制御等を行うことが記載されているから,これらを引用発明に適用して,基地局に,時間スロット/周波数の割当て済みの状況に関する情報を記憶するメモリを含み入来呼要求に応答してメモリにアクセスすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
(オ) 本件訂正第2発明において,加入者局が,順方向情報信号および逆方向情報信号の一方を割当てチャネル/時間スロット経由で受信するとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
ただ,本件訂正第2発明においては,加入者局が,割当てチャネルから固定周波数幅だけずれた周波数およびその割当て時間スロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットを前記順方向情報信号および逆方向情報信号の他方に自動的に提供するとしているのに対し,引用発明にはその点についての記載がない点で相違するが,引用発明において,移動機が,割当てチャネルから固定周波数幅だけずれた周波数およびその割当て時間スロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットを基地局から受信する情報信号および基地局に送信する情報信号の他方に自動的に提供するとすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(カ) 本件訂正第2発明において,基地局圧縮器に接続され圧縮済みの順方向信号を順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの時間スロットを占める形で印加するように組み上げる信号コンバイナを含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(キ) 本件訂正第2発明が,基地局及び加入者局における送信機及び受信機であって基地局と加入者局との間のRFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機とを含むとすることは,引用発明と実質的な差異はない。
(3) 本件訂正は,下記@,Aの理由(審決書34頁18行〜35頁1行)により,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条(以下,本判決において「特許法126条」という場合は,上記改正前の規定をいう。)1項ただし書の規定を満たしていない(以下「理由C」という。)。
@ 「明細書の発明の詳細な説明の欄の記載をみると,加入者局は半二重モードで作動するとしている。してみると,特許請求の範囲第2項に係る発明の陸上無線ディジタル多元接続通信システムが,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる局線と複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことができるとする点,特許請求の範囲第3項に係る発明の陸上無線ディジタル多元接続通信方法が,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる局線と複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことができるとする点,特許請求の範囲第4項に係る発明の陸上無線ディジタル多元接続通信システムが,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる局線と複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことができるとする点は,明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されていないことである。」(以下「理由C@」という。)A 「特許請求の範囲第1項乃至第4項にはフレーム同期及びフレーム同期を実現する手段についての記載が無いが,フレーム同期をとらないシステム,方法は,明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されていない。」(以下「理由CA」という。)
原告主張の取消事由の要点
本件審決の理由Aの判断は,手続上の信義則及び前訴判決の拘束力に反するという誤りがある上,記載不備との判断自体が誤りであり,本件審決の理由Bの判断は,前訴判決の拘束力に反するという誤りがある上,進歩性(独立特許要件)の判断自体にも誤りがあり,理由Cの判断は,手続上の信義則及び前訴判決の拘束力に反するという誤りがある上,新規事項を含むとの判断自体が誤りであって,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。
1 理由Aの判断の誤り本件審決は,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明が,特許法36条3項,4項の規定を満たしていないと判断したが,次のとおり,誤りである。
(1) 手続上の信義則違反特許法36条3項,4項違反の記載不備があるのであれば,前審決の時点でも解っていたはずにもかかわらず,前審決がこの点に言及していないことに鑑みると,前訴判決確定後,本件審決が上記記載不備を指摘するに至ったのは,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明の成立を妨げる目的によるものというべきであり,これは手続上の正義に反し,審理の公正を欠く。
また,本件審決は,本件訂正前の「複数のスロット」ないし「複数の時間スロット」を「互いに同期した複数の時間スロット」とした本件訂正につき,「同期」の意味やその手段に関する不明を主としていうものであるが,理由Bにおいては,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明がいずれも刊行物1乃至6記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたとし,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明のしかるべき理解を前提としているのであるから,記載不備をいうのは矛盾であり,信義に反する。
(2) 前訴判決の拘束力違反本件審決が記載不備の理由として指摘する理由A@〜AF(前記第2,3(1)@〜F)は,いずれも前訴判決の拘束力に反する。
本件審決が,理由A@〜AC及びAFの点において,記載不明確,不明りょうないし表現不適当とする点は,いずれも前訴判決において,判決主文を導き出す前提として,本件訂正明細書を参照して合理的に解釈にされた点であり,これらを不明確などとするのは前訴判決の認定判断に反する。
理由AD及びAEも,前訴判決で既に判断が示されている事項に関するものであり,これらを記載不備とすることは前訴判決の認定判断に反する。
(3) 記載不備とした判断の誤り本件審決が指摘する理由A@〜AFは,いずれも特許法36条3項,4項違反を構成しない。
ア 本件審決が,記載不明確,不明りょうないし表現不適当とする理由A@〜AC及びAFは,前審決を含め,特許庁における審査・審判を通じて一度も指摘されたことがなく,特許法36条3項にも,同条4項にも違反しない。
(ア) 理由A@は,特許請求の範囲の特定の用語の相互間の関連が不明確であるとの判断であるが,指摘された用語の相互間の関連に不明確な点は存在しない。
(イ) 理由AAで指摘された記載は,何ら意味不明りょうではない。
本件審決は,「送信信号,受信信号の入れ物である時間スロットを刻むのは基地局,加入者局の構成(例えば,基地局でいえば,マルチプレクサ)である」ということから,本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項の「……複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……」との記載が不明りょうであるとの判断を導くが,発明の構成要件の一部を信号の形態で定義することはごく普通に行われていることであり,本件審決の上記判断の根拠は不明といわざるを得ない。
被告は「搬送波周波数」が「時間スロット」を含むことはあり得ないと主張するが,かかる被告の主張は争う。本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項における「搬送波周波数」との記載は,前訴判決においても認められているように,「搬送波周波数チャンネル」を意味する。
(ウ) 理由ABで指摘されたような不明りょうな点はない。また,本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項ないし第4項における「同期」という用語の根拠となる記載は,本件訂正明細書の段落【0055】に限られず,段落【0051】,【0062】,【0104】〜【0115】,【0052】〜【0053】,【0071】〜【0077】など広範囲にわたるものであるから,段落【0055】だけを引用して,「同期」という用語の意味が不明りょうとすることは失当である。
(エ) 表4及び5の「混合変調フレームの構造」における変則的スロット長は,単位スロット長の1倍および2倍に規定されており,順方向および逆方向搬送波周波数のスロット相互間の同期が確保されていることは明白であり,理由ACの指摘は誤りである。
(オ) 本件訂正第1〜第4発明の「互いに同期した」との構成は,本件訂正明細書の段落【0051】,【0052】,【0053】,【0054】,【0055】の各記載によって裏付けられており,理由AFの指摘は誤りである。
イ 理由AD及びAEは,特許法36条4項の特許請求の範囲の記載要件違反を指摘する趣旨と理解されるが,同項の規定は,数次の法改正を経た後,「特許出願人が受けようとする発明」としてその趣旨を明確にしたものとされていることに鑑みると,「特許出願人が特許を受ける発明」についての記載要件と解すべきであって,本件審決のように,特許出願人の意思にかかわりなく,第三者的立場から必須構成要件の記載欠如を問題とすることは誤りである。また,前審決を含め,特許庁における審査・審判を通じて一度も指摘されたことがないことに照らしても,記載不備に当たらない。
また,ディジタル伝送がフレーム同期を要することは自明であり,フレーム同期をとる手段の記載を特許請求の範囲において省略することは通常行われていることであって,この点からも理由AEには根拠がない。
2 理由Bの判断の誤り(1) 前訴判決の拘束力違反ア 本件訂正第1発明について本件審決は,本件訂正第1発明と引用発明を対比し,前記第2,3(2)ア(ア)〜(セ)の点において,実質的な差異はないか,当業者が容易になし得る程度のことにすぎないとし(ただし,前記第2,3(2)ア(ア)の点につき刊行物6,同(ク)の点につき刊行物3,4,同(シ)の点につき刊行物4,5をそれぞれ補助的に引用する。),本件訂正第1発明は,刊行物1ないし6記載の発明に基づき周知技術参酌して当業者が容易に発明をすることができたとしたものであるところ,前記第2,3(2)(ア)の点に関する本件審決の認定判断は,次のとおり,前訴判決の拘束力に反する。
(ア) 前訴判決(甲13)は,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって「各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」とは,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するが(28頁12行〜16行),刊行物1の方式では,下り回線と上り回線とでタイムスロットの数が異なるし,情報部用のタイムスロットに関して,下り回線と上り回線とでは時間幅が異なることになり,下り回線と上り回線が互いに同期した複数のタイムスロットを含むということができないことになる(33頁10行〜18行)と認定し,前審決が上記相違点について適切な判断をしていない誤りがあるとした(35頁5行〜7行)。
本件審決は,刊行物6を補充引用し,前訴判決の理解による同期は本件出願前普通に知られていたとするものであるが(審決書23頁4行〜13行),刊行物6は単に刊行物1を補強する程度の追加資料にすぎないから,刊行物6の補充引用によっては,前訴判決の上記判断の拘束力を免れることはできない。
(イ) 前訴判決の本件訂正第1発明の「同期」の解釈は,広辞苑の一般的定義及び特許請求範囲の記載の自然な解釈から導かれ,かつ,本件訂正明細書の記載による裏付けを伴うものである(28頁3行〜31頁6行)。
本件審決は,リパーゼ事件最高裁判決を援用しつつ,本件訂正明細書の記載を参酌せずに,素直に訂正第1発明を読めば他の解釈もありうるとして,「順方向及び逆方向搬送波周波数が互いに(順方向及び逆方向搬送波周波数がそれぞれが),同期した複数の時間スロットを含む」(審決書25頁20行〜21行)とも解釈できるとし,この解釈によれば,「刊行物1の発明も,フレーム同期がとられ,それを起点としてフレーム,詳細にいえば,時間スロットが刻まれる移動通信システムであるから,前提とするシステムに関し,同期という意味合いを含めても」両者の間に実質的な差異はないとした(審決書23頁23行〜24頁末行)。しかし,リパーゼ事件最高裁判決の射程は,特許請求の範囲の記載がそれ自体で一義的に明確に理解できる場合に限られるところ,本件審決は,本件訂正第1発明の「同期」の解釈につき,前訴判決の解釈以外の別解釈もあること(「同期」の意味が一義的に明確でないこと)を前提とするものであるから,本件審決が同判決を援用するのは誤りである。
また,本件審決は,上記のように「実質的に差異がない」としたことを正当化しようと,乙6(秀和システム編集部著「通信ネットワーク用語事典2003〜2004年版」株式会社秀和システム2003年5月5日発行,875頁)及び乙7(山本平一,加藤修三著「TDMA通信」社団法人電子情報通信学会平成元年4月5日初版発行(平成9年6月1日初版第5刷)5頁〜6頁)を挙げるが,これらは前訴判決が言及した広辞苑第5版における用語の一般的定義を何ら否定するものではない。
イ 本件訂正第2発明について本件審決は,本件訂正第1発明の場合と同様に,本件訂正第2発明と引用発明を対比し,前記第2,3(2)イ(ア)〜(キ)の点において,実質的な差異はないか,当業者が容易になし得る程度のことにすぎないとし(ただし,前記第2,3(2)イ(エ)の点につき刊行物3,4,同(オ)の点につき刊行物4,5,同(キ)の点につき刊行物2をそれぞれ補助的に引用する。),本件訂正第2発明は,刊行物1ないし6記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたとしたものであるところ,上記(ア)の点に関する本件審決の認定判断は,本件訂正第1発明について上記アで指摘したと同様に,前訴判決の拘束力に反する。
ウ 本件訂正第3発明,本件訂正第4発明について本件訂正第3発明,本件訂正第4発明は,いずれも本件訂正第2発明と共通の「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」との構成を含むところ,前審決が本件訂正第2発明と同様な理由で当業者が容易に発明することができたとしたのに対し,前訴判決は前審決には本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明のいずれについても本件訂正第2発明についての認定判断と同様の誤りがあるとしたものであるから,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明が,本件訂正第2発明に示した理由と同様の理由で,刊行物1ないし6記載の発明に基づき周知技術参酌して当業者が容易に発明することができたとする本件審決の判断は,前訴判決の拘束力に反する。
(2) 認定判断手法の誤り進歩性の有無は,引用例の記載と特許発明との間の距離の大小に関わる判断であるから,引用例の記載内容は客観的に認定されるべきである。
しかるに,本件審決は,「当時の技術常識を加味して整理する」(審決書16頁37行)として,主たる引用例である刊行物1の記載内容A〜O(審決書10頁16行〜16頁36行)を,審判官の主観的評価を加えた(@)〜(IE)(審決書16頁39行〜19頁24行)に置き換えている。
また,本件審決における刊行物1の記載内容M〜O(図7の記載内容)の認定は,それ自体が客観的なものでなく,審判官の主観的評価を加えたものである。
このように,二重に主観的評価を加えることにより,引用例の記載内容を特許発明に近づけて認定し,これを特許発明と対比して進歩性の判断を行うという手法によれば,引用例の記載と特許発明との距離を実際よりも過小に見積もることとなり,進歩性判断の客観性が担保されないから,本件審決の認定判断手法は全体として,違法である。
(3) 審理不尽本件審決は,原告が本件審判において刊行物1の記載内容の理解のために参照されるべきものとして提出した刊行物1の著者らの文献(審判請求書(甲8)に「甲第1号証の1」ないし「甲第5号証」として添付した文献)について,何ら理由を挙げることなく考慮外としており,審理を尽くしていない。
(4) 刊行物1の記載内容の認定の誤りア 本件審決における刊行物1の記載内容M〜O(審決書16頁16行〜36行)の認定はいずれも根拠を欠き,誤りである。
イ 本件審決における刊行物1の記載内容に関する認定判断(i)〜(IC)(審決書16頁39行〜19頁24行)のうち,(A)後段,(B)前段,(C),(D),(F),(G),(H),(IA)前段,(IB),(IC),(ID),(IE)はいずれも根拠を欠き,誤りである。
(5) 対比検討の誤りア 本件審決における本件訂正第1発明と引用発明との対比・検討(審決書22頁21行〜29頁26行)はいずれも根拠を欠き,誤りである。
本件審決は刊行物6(甲6)を補充的に引用しているが,刊行物6には,親局と特定の子局との間のチャンネル数の増加や,その増加を許容するための子局数の削減及びそれに伴う「フレーム最後の開き(空きの誤記とみられる。)」など本件訂正第1発明の構成要件とは無関係の構成が記載されているにすぎず,刊行物6に記載された技術を引用発明に適用しても,「本件訂正第1発明と同様なスロット構成として同期をとることは,当業者が適宜なし得る」ということはできない。
イ 本件審決における本件訂正第2発明と引用発明との対比・検討(審決書29頁33行〜33頁38行)はいずれも根拠を欠き,誤りである。
なお,本件訂正第1発明について上述したと同様に,刊行物6(甲6)に記載された技術を引用発明に適用しても,本件訂正第2発明と同様なスロット構成として同期をとることは,当業者が適宜なし得るということはできない。
ウ 本件審決における本件訂正第3発明の判断(審決書34頁5行〜10行)は,上記イと同じ理由で,根拠を欠き,誤りである。
エ 本件審決における本件訂正第4発明の判断(審決書34頁12行〜14行)は,上記イと同じ理由で,根拠を欠き,誤りである。また,本件訂正第4発明が対象を「加入者局」としている点について,判断を遺脱している。
3 審決の「理由C」について本件審決は,理由Cに関して,願書に添付した明細書又は図面には記載されていないとして,特許法126条1項ただし書きの規定を満たしていないと判断したが,次のとおり,誤りである。
(1) 手続上の信義則違反本件審決は,本件訂正が特許法126条1項ただし書に違反するというが,前審決がこの点に言及していないことに鑑みると,前訴判決確定後,本件審決がこの点を指摘するに至ったのは,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明の成立を妨げる目的によるものというべきであり,手続的正義に反する。
(2) 前訴判決の拘束力違反理由C@及びCA(前記第2,3(3)(1)@〜A)は,いずれも前訴判決において示された認定判断と抵触し,前訴判決の拘束力に反する。
(3) 新規事項を含むとした判断の誤りア 理由C@は,本件訂正前の本件明細書(以下「本件訂正前明細書」という。)には,加入局は半二重モードで動作しているところ(段落【0046】,【0047】),本件訂正第2発明ないし本件訂正第4発明における「順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことができる」との構成は,本件訂正前明細書に記載されていないというものであるが,加入局の半二重モード動作における順方向及び逆方向周波数チャンネルの時間スロットの空塞状態が順方向と逆方向とでずれていて同時でないという趣旨であれば,そのようなスロットレベルの時間軸上のずれを伴う伝送を,本件訂正前明細書では全体を通じて同時伝送と呼んでいるのであるから(例えば,段落【0001】,【0007】),本件訂正第2発明ないし本件訂正第4発明の上記構成は本件訂正前明細書に記載があるというべきである。
イ 理由CAは,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明には,フレーム同期を実現する手段についての記載がないところ,フレーム同期をとらないシステム,方法は本件訂正前明細書に記載されていないというものであるが,フレーム同期は,本件審決も認めるとおり(審決書9頁29行〜30行),基地局と加入局とで情報通信のやりとりをするための前提たる技術常識であるから記載しなかったまでで,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4は,フレーム同期をとらないシステム,方法を積極的に記載しているわけではないから,本件審決の上記指摘は誤りである。
被告の反論の要点
本件審決の理由A,理由B,理由Cのいずれの認定判断にも,違法や誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 理由Aの判断の誤りについて(1) 手続上の信義則違反について平成17年2月4日付け訂正拒絶理由通知書により,理由Aに係る記載不備を指摘しており,原告の主張は根拠がない。
(2) 前訴判決の拘束力違反について前審決は記載不備の指摘をしておらず,前訴判決にも記載不備がないとの判示はないから,原告の主張は失当である。
(3) 記載不備との判断の誤りについて理由A@〜Fについては,本件審決が認定判断したとおりであり,誤りはない。
ア 本件審決が理由A@として指摘するとおり,各用語のそれぞれの関連が明確でない。なお,明確でないことの一例は,本件審決の「第4.当審の判断」,「2.上記理由Bについて」,「2-2 訂正の可否」,「2-2-1 本件訂正第1発明について」の(ア)の(3)(審決書25頁25行〜38行)に指摘されている。
イ 理由AAの指摘に誤りはない。本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載されているように,搬送波周波数が時間スロットを含むということはあり得ない。
ウ 理由ABについて,原告は,本件訂正明細書の段落【0055】を同期の根拠にしていないかのような主張をしているが,前訴判決は段落【0055】も根拠に含めており,また,訂正審判請求書も訂正の根拠として段落【0055】を挙げているところである。そして,特許請求の範囲第1項ないし第4項に記載された「同期」と段落【0055】との関係は不明りょうであるといわざるを得ない。
なお,原告は,本件訂正明細書の段落【0051】,【0062】,【0104】〜【0115】,【0052】〜【0053】,【0071】〜【0077】を同期の根拠として挙げるが,これらは各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相差が一致又は位相差が一定)といったこととは関係がない。すなわち,段落【0051】はタイミングベース,段落【0062】はクロック同期,段落【0104】〜【0115】はフレーム同期,段落【0052】はクロック源やフレーム開始(SOF)マーカについて,それぞれ記載するのみである。
また,段落【0053】は,基地局内の受信タイミングと送信タイミングについて記載するものであるが,完全なタイミング同期は実現できないと述べている。さらに,段落【0071】〜【0077】は,フレームの構造を述べているものであって,このフレームの配置と同期とは直接関係ない。また,送信スロットと受信スロットが必ずしも一致する訳ではない。
エ 理由ACについて,原告は,単位スロット長の1倍及び2倍に規定しているといった曖昧な主張をしているが,第4表のフレームは4つの単位スロットからなるものではなく,4-PSKは第4表に示される時間長の1スロットであり,第4表のフレームは,スロット長が異なる3つのスロットからなっている。そうすると,原告が,基地局あるいは加入者局における送信の時間スロットと受信の時間スロットが一致していることを同期というのであれば,「同期」との表現は不適である。
オ 本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項ないし第4項は,同期について言及しているにもかかわらず,同期を実現する手段についての記載がない。
したがって,本件審決が理由ADとして指摘したように,特許請求の範囲第1項〜第4項には発明の必須の構成要件の記載が欠けているといわざるを得ない。
また,本件訂正明細書発明の詳細な説明の欄のどの構成が同期を実現する手段であるのかも明確でない。
本件訂正明細書の段落【0053】に,「基地局内の受信タイミングは,基地局の送信タイミングと原則的に同一である。即ち,SOFマーカとシンボル・クロック信号は送信信号と受信信号との間で正確に並んでいなければならない。しかし,完全なタイミング同期は加入者局の伝送から期待できないので,基地局のモデム19の受信タイミングは加入者局からの入力シンボルに整合しなければならない。これは基地局モデム19の受信機能のサンプリング期間が加入者局から受信中のシンボルについて最良予測をもたらすために必要である。モデム19の受信機能にインタフェースしているCCU18内の小容量弾性バッファはこのわずかなタイミング・スキューを補償している。」と記載されているように,フレーム(タイムスロット)の始点は一致しないものである。
仮に同期を実現する手段があるということであると,完全なタイミング同期は加入者局の伝送から期待できないということは考えにくい。
カ 発明の構成に欠くことができない事項は特許請求の範囲に記載しなければならない(特許法36条4項)から,フレーム同期をとることが必須であるということであれば,フレーム同期について特許請求の範囲に記載しなければならない。原告は,理由AEに関し,フレーム同期をとる手段についての記載を特許請求の範囲において省略することは通常行われていると主張するが,特許法36条4項の規定を満たさないものがあるから省略しても良いということにはならない。上記規定を満たさないものがあれば,それは特許法36条4項の規定に違反したものであるということにすぎない。
キ 理由AFは,本件審決が指摘するとおりであり,誤りはない。
2 理由Bの判断の誤りについて(1) 前訴判決の拘束力違反について前訴判決(甲13)は,「刊行物1には,複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が『互いに同期した複数の時間スロットを含む』ものであることが開示されていないことは明らかであるから,本件訂正第1発明が『無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……ことと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない』とした審決の認定は誤りであり,この点を本件訂正第1発明と引用発明との相違点とすべきであるところ,審決は,これを看過し,この相違点について適切な判断をしていない誤りがあるというべきである。」(34頁25行〜35頁7行)とし,前審決が引用発明と本件第1発明とに実質的な差異はないとした点の一つを否定したので,本件審決は,上記の点を相違点とした上,その相違点について判断したものである。
また,本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載を素直に読めば,前記第2,3(2)ア(ア)Aの後段のようにも解釈できるので,その判断を行っているが,前審決はこの点に触れておらず,前訴判決もこの点についての判断をしていない(前訴判決は,広辞苑に基づいて,同期とは「作動を時間に一致させること」であるとして,本件訂正第1発明の意味を解釈判断したが,他に解釈がないとは述べていない。)。
本件訂正第2発明ないし本件訂正第4発明についても同様である。
したがって,本件審決の理由Bの判断は,前訴判決の判断に反するものではない。
(2) 認定判断手法の誤りについて出願当時あるいは刊行物の発行当時の技術常識を前提として,発明あるいは技術を提示するのはごく普通に行われていることであり,技術常識を踏まえて,刊行物1記載の技術を解釈することに何ら問題はない。
原告は,本件審決が刊行物1の記載事項の認定に際して二重の主観的評価を加えたと主張するが,本件審決は,刊行物1の図7の記載に基づいて記載事項M〜Oを認定したものであり,また,(@)〜(IE)については,要するに,審決のどの記載箇所で技術常識に触れるかということににすぎないから,原告の主張は当を得ないものである。
(3) 審理不尽について本件審決は,刊行物1に基づいて判断したものであるところ,原告が指摘する刊行物1の著者らの文献は,刊行物1と同時期ないしそれ以降のものであって,技術常識を示す文献としては不適切であるから,原告の主張は当を得ないものである。
(4) 刊行物1の記載内容の認定の誤りについて本件審決の認定判断に誤りはない。
(5) 対比検討の誤りについて本件審決の認定判断に誤りはない。
3 理由Cの判断の誤りについて(1) 手続上の信義則違反について平成17年2月4日付け訂正拒絶理由通知書により,理由Cに係る新規事項を指摘しており,原告の主張は根拠がない。
(2) 前訴判決の拘束力違反について前審決は新規事項の指摘をしておらず,前訴判決にも新規事項がないとの判示はないから,原告の主張は失当である。
(3) 新規事項を含むとした判断の誤りについてア 加入者局は半二重モードで作動するとされているところ,半二重とは,送信と受信を,同時ではなく,交互に行うものである。
しかるに,本件訂正明細書の特許請求の範囲第2項,第3項に係る各発明は,順方向情報信号および逆方向情報信号の同時伝送を行うとしており,この点は本件訂正前明細書の発明の詳細な説明の欄の記載に基づくものではなく,図面にも同時伝送は記載されていない。
したがって,理由C@についての本件審決の指摘に誤りはない。
イ 理由CAについては本件審決が指摘するとおりである。
当裁判所の判断
1 前訴判決の拘束力について本件は,本件特許の訂正審判請求についてされた二度目の審決に対する取消訴訟であり,前審決を取り消した前訴判決の拘束力の範囲が争点となっているので,まず,この点について検討する。
(1) 前訴の経緯ア前審決前審決は,本件第1訂正発明,本件第2訂正発明と引用発明との一致点・相違点については,本件第1訂正発明における「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システム」との構成に関する説示である下記(ア)及び本件第2訂正発明における「局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システム」との構成に関する説示である下記(イ)の点を除き,本件審決における認定判断(本件第1訂正発明については前記第2,3(2)ア(イ)〜(セ),本件第2訂正発明については前記第2,3(2)イ(イ)〜(キ))と概ね同様の認定判断をし,また,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明については「本件訂正第2発明に示した理由と同様な理由」(甲13添付の審決書26頁20行〜21行,24行)で,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明は,それぞれ,刊行物1,3及び4(前審決における刊行物1,2,3は,それぞれ本件審決における刊行物1,3,4と同一の文献である。)記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件審判の請求を不成立としたものである。
(ア) 「上記刊行物1記載の移動通信システムは,搬送波を用いて,基地局と移動機間との音声信号の送受を行なうものであり,その使用する搬送波は,……基地局が移動局に情報を送信するために使用する搬送波と移動局が基地局に情報を送信するために使用する搬送波とは異なるものを用いるとし,……基地局では,所定のタイムスロットにて音声信号を移動局に送信し,所定のタイムスロットにて音声信号を移動機から受信するようにし,移動機においても,送られてきた音声信号を指定されたタイムスロットで受信し,指定されたタイムスロットにて音声信号を基地局に送信するようにしている。そして,上記刊行物1記載の移動通信システムにおいては,……品質が確保できる符号化速度を採用するとしているから,本件訂正第1発明が,無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであることと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。」(甲13添付の審決書18頁29行〜19頁6行)(イ) 「基地局と公衆通信用電話網等との間に回線が設けられ,公衆通信電話網等から基地局へディジタル化音声信号を送信し,あるいは,基地局から公衆通信電話網等へディジタル化音声信号を送信するといったことは,ごく普通に行われていることであるところ,上記刊行物1記載の移動通信システムは,搬送波を用いて,基地局と移動機間との音声信号の送受を行なうものであり,その使用する搬送波は,……基地局が移動局に情報を送信するために使用する搬送波と移動局が基地局に情報を送信するために使用する搬送波とは異なるものを用いるとし,……基地局では,所定のタイムスロットにて音声信号を移動局に送信し,所定のタイムスロットにて音声信号を移動機から受信するようにし,移動機においても,送られてきた音声信号を指定されたタイムスロットで受信し,指定されたタイムスロットにて音声信号を基地局に送信するようにしている。そして,上記刊行物1記載の移動通信システムにおいては,……品質が確保できる符号化速度を採用するとしているから,本件訂正第2発明が,局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムであるとすることと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。」(甲13添付の審決書22頁33行〜23頁16行)イ 前訴判決前訴判決(甲13)は,次のとおり認定判断をして,前審決を取り消した。
(ア) 「本件訂正第1発明の一致点1-アに係る構成(本判決注:「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであるとの点」(11頁25行〜12頁4行)をいう。)は,『無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システム』であり,下線部が本件訂正の箇所であって,本件訂正は,順方向及び逆方向搬送波周波数について,その各々が『互いに同期した』複数の『時間』スロットを含むことを限定したものである。
一般に,同期とは,『作動を時間的に一致させること』(広辞苑第5版)であり,上記特許請求の範囲の記載からすれば,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって『各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む』とは,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解するのが自然である。」(28頁3行〜17行)(イ) 「本件訂正明細書にも,@基地局は80MHzの基準クロック信号を生成するシステム・タイミング装置を含み,基地局において,この基準クロック信号から16KHzのクロック信号と22.222Hzのフレーム・ストローブ・マーカ信号(フレーム開始(SOF)マーカ)が生成され,これら3つのタイミング信号は基地局の各モデムに供給されて,基地局内の周波数チャンネルはすべて伝送に関して同一の時間基準を使用することになること,A基地局内の受信タイミングは,基地局の送信タイミングと原則的に同一であるが,完全なタイミング同期は,加入者局からの伝送からは期待できないこと,B全システム内の加入者局は,その時間基準を基地局のマスタ・タイム・ベースに同期させており,その手順は,加入者局が基地局からのRCCメッセージを使用して基地局時間基準を取得し,モデムがトラッキング・アルゴリズムにより加入者局による受信タイミングを正確に保持すること,C加入者局が,その位置に起因する伝送往復遅延を相殺するために,小時間量だけ自己の伝送を基地局に対して進めることにより,基地局が受信する伝送は正しい位相関係になること,が明らかにされている。そして,各周波数チャンネルのフレームは変調形式に依存して2個又は4個のスロットに分割されるから(本件訂正明細書【0068】,【0071】,表1〜5参照),基地局の全周波数チャンネルが周波数やタイミングに関して同一の時間基準を採用すると,各周波数チャンネル間で複数の時間スロットが互いに同期することとなるのである。
このように,本件訂正明細書の記載も,本件訂正第1発明の「互いに同期した複数の時間スロット」が,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味していることを裏付けているということができる。」(30頁8行〜31頁6行)(ウ) 「刊行物1の方式において,下り回線では,各移動機が搬送波,フレーム及びクロックのいずれについても基地局に従属した位相同期系を構成するものの,上り回線では,基地局受信機入力点でクロック非同期とせざるを得ないことが示されているが,下り回線のタイムスロットと上り回線のタイムスロットとの同期については,明らかにされていない。
しかし,刊行物1の上記記載からすると,下り回線(順方向チャンネル)には,制御信号用のタイムスロットと複数の情報部用のタイムスロットが含まれるのに対し,上り回線(逆方向チャンネル)には,プリアンブルを付加した情報部が伝送されるべきタイムスロットが,下り回線の情報部タイムスロットと同数だけ含まれることとなる。したがって,刊行物1の方式では,下り回線と上り回線とでタイムスロットの数が異なるし(下り回線には制御信号用のタイムスロットが含まれるが,上り回線には含まれない。),情報部用のタイムスロットに関して,下り回線と上り回線とでは時間幅が異なる(下り回線のタイムスロットには情報部が隙間なく詰め込まれているのに対し,上り回線のタイムスロットには,情報部にプリアンブルが付加され,さらにガードタイムによる余裕を設けて挿入されている。)ことになり,下り回線と上り回線が互いに同期した複数のタイムスロットを含むということができないことになる。」(33頁1行〜18行)(エ) 「刊行物1には,複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が『互いに同期した複数の時間スロットを含む』ものであることが開示されていないことは明らかであるから,本件訂正第1発明が『無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……ことと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない』とした審決の認定は誤りであり,この点を本件訂正第1発明と引用発明との相違点とすべきであるところ,審決は,これを看過し,この相違点について適切な判断をしていない誤りがあるというべきである。」(34頁25行〜35頁7行)(オ) 「本件訂正第2発明の『各々が互いに同期した複数の時間スロット』についても,複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルが複数の時間スロットに分割され,各チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解すべきことは,本件訂正第1発明について検討したところと同様であり,引用発明が,下り回線と上り回線とが互いに同期したタイムスロットを有するものと認められないことも,前述したとおりである。
したがって,本件訂正第2発明と引用発明とが,『各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル』という点で実質的な差異がないとした審決の上記認定は誤りであり,審決には,この点の相違点を看過し,これについて適切な判断をしていない誤りがあるというべきである。」(35頁19行〜36頁4行)(カ) 「本件訂正第2発明について,審決に一致点の認定の誤り・相違点の看過があることは,前記のとおりであるから,審決には,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明についても同様の誤りがあることになる。」(36頁17行〜19行)(2) 前訴判決の拘束力の及ぶべき範囲についてア 審決の取消訴訟において審決取消の判決が確定した場合には,審判官は特許法181条の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすべきものであるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟に属するものとして行政事件訴訟法の適用を受けるから,審決を取り消す判決は同法33条1項の規定する拘束力を有するところ,この拘束力は判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は,再度の審理ないし審決において取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。特許無効審判事件についての取消訴訟において,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの審決の認定判断を誤りであるとして,審決が取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。この理は,訂正審判の審決に対する取消訴訟についても,同様に当てはまるものというべきである。すなわち,訂正を拒絶する審決を取り消す判決が確定したときは,審判官は,取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないものであり,したがって,取り消された審決と同様の認定判断を繰り返すこと,これを裏付けるための新たな証拠を提示することは許されない(なお,このことは,取消判決の認定判断に抵触することのない,独立した新たな訂正拒絶理由について,改めて特許権者に通知し,意見陳述の機会を与えた上,再度訂正を拒絶する審決をすることを妨げるものではない。)。
イ これを本件についてみるに,前記(1)の経緯から明らかなように,前訴判決は,前審決の前記(1)ア(ア)及び(イ)についての認定判断に誤りがあり,本件訂正第1発明と引用発明とは複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」という点で相違するところ,前審決はこの相違点について適切な判断をしていない(前記(1)イ(エ)),本件訂正第2発明と引用発明とは「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」という点で相違するところ,前審決はこの相違点について適切な判断をしていない,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明についても本件訂正第2発明の場合と同様である(前記(1)イ(カ))として,前審決を取り消したものである。前訴判決がその結論を導き出すのに必要とした事実認定及び法律判断は,次のとおりである。
(ア) 本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載からすれば,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって「各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」とは,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解するのが自然であり,このことは本件訂正明細書の記載によって裏付けられている(前記(1)イ(ア),(イ))。
(イ) 刊行物1には,複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が『互いに同期した複数の時間スロットを含む』ものであることが開示されていない(前記(1)イ(ウ),(エ))。
(ウ) 本件訂正第1発明が「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……ことと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない」とした前審決の認定は,誤りである(前記(1)イ(エ))。
(エ) 本件訂正第2発明の「各々が互いに同期した複数の時間スロット」についても,複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルが複数の時間スロットに分割され,各チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解すべきである(前記(1)イ(オ))。
(オ) 引用発明は,下り回線と上り回線とが互いに同期したタイムスロットを有するものと認められない(前記(1)イ(オ))。
(カ) 本件訂正第2発明と引用発明とが「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」という点で実質的な差異がないとした前審決の認定は,誤りである(前記(1)イ(オ))。
(キ) 本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明については,本件訂正第2発明と同様である(前記(1)イ(カ))。
ウ 上記のとおり,前訴判決は,本件訂正第1発明と引用発明とは複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」という点で相違するところ,前審決はこの相違点について適切な判断をしていない,本件訂正第2発明と引用発明とは「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」という点で相違するところ,前審決はこの相違点について適切な判断をしていない,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明については本件訂正第2発明の場合と同様であるとしたものであり,前審決のその余の認定判断を否定したものではない。
そして,前審決は上記各相違点につき実質的な差異には当たらない,すなわち引用発明との一致点と捉えていたものであって,相違点であることを前提として容易想到性を判断したものではなく,前訴判決も上記各相違点について当業者が容易に想到することができたか否かについて判断したものではない。
そうすると,前訴判決は,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明と引用発明とが上記の点で相違するとの点について,拘束力を有するものというべきである。
2 理由Bの判断の誤りについて原告は,本件審決の「理由B」における認定判断のうち,本件訂正第1発明に関する前記第2,3(2)ア(ア)の点,本件訂正第2発明に関する同イ(ア)の点が,前訴判決の拘束力に反し,違法なものであり,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明についての認定判断も本件訂正第2発明の場合と同様である旨主張し,また,刊行物6の記載内容は,前訴判決が指摘した本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明と引用発明との相違点に係る構成とは無関係であり,刊行物6記載の技術を引用発明に適用しても,上記相違点に係る本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明構成に想到することが容易であるとはいえない旨主張する。
(1) 本件訂正第1発明についてア 本件審決は,前訴判決が引用発明との相違点であるとした本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」との構成について,前訴判決が示した解釈を前提として,次のとおり認定判断している。
「上記刊行物1記載の移動通信システムは,搬送波を用いて,基地局と移動機間との音声信号の送受を行なうものであり,その使用する搬送波は,……基地局が移動機に情報を送信するために使用する搬送波と移動機が基地局に情報を送信するために使用する搬送波とは異なるものを用いるとし,また,複数のタイムスロットにより複数の音声チャネルを形成するようにしているから,本件訂正第1発明が,無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が《互いに同期した》複数の時間スロットを《含む》とともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであるとすることと,上記《 》内の記述を除き,実質的な差異はない。
上記《 》内の記述について検討すると,順方向及び逆方向搬送波周波数そのものは複数のスロット(信号の入れ物のようなもの)を伝送することはないから,搬送波周波数が時間スロットを《含む》というのは技術的にはない。ただ,スロットを基地局及び加入者局(移動機)が扱うという捉え方でいえば,本件訂正第1発明と上記刊行物1記載の発明との実質的な差異には当たらない。
次に,《互いに同期した》点について,検討すると,(1)何と何が互いに同期しているかということに関し,高裁判決では,広辞苑第5版の「作動を時間的に一致させること」を引用して,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解するのが自然であるとし,また,訂正明細書からも裏付けられるとしている。
しかるに,そのような同期は本件出願前普通に知られたこと(必要ならば,例えば,上記刊行物6を参照されたい。)であるから,上記刊行物1に適用して本件訂正第1発明と同様なスロット構成として同期をとることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
なお,通信をする上では,下り回線に関し,基地局から加入者局に送信するフレーム構成がどうなっているかが予め取り決められていれば,加入者局では基地局からの信号を予め指定されたスロットから取り出すことができ,また,上り回線に関し,加入者局から基地局に送信するフレーム構成がどうなっているかが予め取り決められていれば,基地局では加入者局からの信号を予め指定されたスロットから取り出すことができる。つまり,上り回線と下り回線のスロット数が同じであることは通信をする上での絶対条件ではない。ただ,スロット数を同じとして同期をとるとしても,それは上記したように当業者が適宜なし得ることにすぎない。」(審決書22頁23行〜23頁22行)イ 前記1のとおり,前訴判決は,本件訂正第1発明と引用発明とは複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」という点で相違するとしたものであるが,本件審決の上記アの認定判断は,本件訂正第1発明の上記構成に関し,「各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)こと」を意味するという前訴判決の認定を前提として,刊行物6を例示した上,そのような同期は本件出願前普通に知られたことであるから,引用発明にこれを適用して本件訂正第1発明と同様なスロット構成として同期をとることは,当業者が適宜なし得ることにすぎないとしたものと解される。
そうすると,本件審決は,前訴判決が認定した本件訂正第1発明と引用発明の相違点につき容易想到性を判断したものというべきであり,本件審決の上記アの認定判断が前訴判決の拘束力に違反するとはいえない。
ウ そこで,「各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)こと」が,本件出願前普通に知られたことであるという本件審決の認定の当否について,検討する。
刊行物6(甲6)には,次の記載がある。
「第1図は本発明にかかる方式の適用される通信網を説明するための図であって,親局から時間軸t上において多重化されたPCM信号を多方向に一斉に発射し各子局1,2,……,nにおいては親局から送信されたPCM信号のうちの自局割当分1,2,……,nのみを取り出して受信する。各子局1,2,……,nからはまた親局へ向けて信号を自局に割り当てられた時間帯においてかつ信号伝搬遅延時間について修正を加えて送信を行い親局には各子局からの信号が送信順に到着するようにする。
すなわち親局において各子局からの受信信号が各々重ならず1,2,……,nを時間軸上において整然と並ぶようにする。これは各子局が親局送信信号に含まれるフレームビットに同期して自局割当時間帯においてかつ遅延等化器を用いて親局間の信号伝搬遅延時間を修正して送信を行えば親局では第1図に示すように各局からの信号1,2,……,nを送信順に整然と受信することができる。
さて通常は第1図で説明したように第2図に示すごとき親局と子局との関係において親局から各子局1,2,……,nに向って一定チャンネル数で通信を行なっている。すなわち第1図において時間帯Fsb1,Fsb2,……,Fsbnの長さを一定または特定の長さに固定した形で通信を行なっている。」(1頁左下欄20行〜2頁左上欄4行)上記記載及び第1図,第2図によれば,刊行物6記載ものにおいては,各子局(加入者局,移動局)から親局(基地局)に送信される信号が,親局で受信するときに重ならないように,各子局の送信タイミングをずらして送信を行うことが認められるが,それ以上の開示はなく,「各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)こと」が開示されているとは認められない(なお,子局(加入者局,移動局)から親局(基地局)に送信される信号が,親局で受信するときに重ならないように,各子局の送信タイミングをずらして送信を行うこと自体は,刊行物1(甲1)の「基地局において各移動機からの信号の伝搬時間を測定し,伝搬遅延を補正して移動機毎にバースト信号の送出タイミングを指示する(可変長ガードタイム方式)。」(1019頁左欄22〜25行)と記載されている技術にすぎない。)。
そして,本件全証拠を検討しても,本件審決が「普通に知られたことである」というような技術常識が存在していることを的確に認めるに足りる証拠はないのであって,本件審決の上記説示はその裏付けを欠くものといわなければならない。
エ 本件審決は,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」との構成について,前記アの説示に引き続き,さらに次のとおり認定判断している。
「昭和62年(行ツ)第3号判決(平成3年3月8日最高裁。いわゆるリパーゼ判決)によれば,「要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。
特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」と判示されており,特段の事情がないかぎり,訂正明細書参酌することは許されない。そして,素直に本件訂正第1発明の記載内容を見ることが必要であり,素直に見ると他の解釈も可能であるということであれば,それも本件訂正第1発明の内容であると解される。
そして,本件訂正第1発明の記載内容については,次のように解釈することもできる。
(@)訂正前の第1発明は,「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が複数のスロットを含む……システム」であり,「各々」とは,順方向搬送波周波数と逆方向搬送波周波数と指し,それぞれが複数のスロット(通常,複数のスロット=フレームである。)を含むとしている。分かり易く書けば,次のようになる。
『……順方向搬送波周波数が複数のスロットを含む……逆方向搬送波周波数が複数のスロットを含む……システム』訂正審判請求では,これに『互いに同期した』,『時間』スロットの文言を付加する訂正をして,本件訂正第1発明を,『無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……システム』(下線部が訂正箇所)とするものであるから,前記した訂正前の第1発明に訂正内容を組み込むと,次のとおりとなる。
『……順方向搬送波周波数が互いに同期した複数の時間スロットを含む……逆方向搬送波周波数が互いに同期した複数の時間スロットを含む……システム』ここで,スロットを扱うのは基地局及び加入者局であって,順方向及び逆方向搬送波周波数そのものは複数のスロット(信号の入れ物のようなもの)を伝送することはないから,『含む』を言い換えると,『……下り回線の基地局,加入者局が互いに同期した複数の時間スロットを扱う……,……上り回線の基地局,加入者局が互いに同期した複数の時間スロットを扱う……,……システム』ということになる。
互いに同期した複数の時間スロットを扱うということは,複数の時間スロット=フレームであるから,例えば,加入者局では,動作起点(タイミングの起点)となる基準時点から,フレームが基地局のフレームと同様に刻まれ,フレーム1,フレーム2……と順序よく続くということとなり,フレーム内の時間スロットも当然,1フレーム=4時間スロットとすると,時間スロット1,時間スロット2,時間スロット3,時間スロット4と時間スロットが刻まれ,続いて次のフレームの時間スロット1,時間スロット2……というように順序どおりに時間スロットが刻まれるということになる。
そして,動作起点となる基準時点を与えるのが,通常フレーム同期といわれる同期であるから,本件訂正第1発明は,フレーム同期がとられ,これを起点としてフレーム,詳細にいえば,時間スロットが順序よくが刻まれるというものである。
したがって,上記刊行物1記載の発明も,フレーム同期がとられ,それを起点としてフレーム,詳細にいえば,時間スロットが刻まれる移動通信システムであるから,前提とするシステムに関し,同期という意味合いを含めても,本件訂正第1発明の陸上通信システムと上記刊行物記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。」(審決書23頁23行〜24頁末行)オ 本件審決の上記説示は,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」との構成について,前訴判決が示した解釈とは別の解釈も可能であり,そのように解釈すれば引用発明と実質的な差異はないとしたものと解される。
前記1において説示したとおり,前訴判決は,本件訂正第1発明と引用発明とが上記の点で相違すると認定判断したものであり,この点について拘束力を有するものであるから,本件審決の上記認定は前訴判決の拘束力に反するというべきである。
被告は,前審決は本件訂正第1発明の上記構成について,本件審決の上記エの説示のようにも解釈できるとの点に触れておらず,前訴判決もこの点について判断していない旨主張する。しかし,前訴判決は,本件訂正第1発明の上記構成について,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものである旨認定したものであり,このことはこれと異なる解釈を否定する趣旨というべきである。
カ 本件審決は,「本件訂正第1発明は,『無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む……システム』(下線部が訂正箇所)であるところ,仮に『各々』との記載がないとすると,『無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって互いに同期した複数の時間スロットを含む……システム』(下線部が訂正箇所)となり,この場合には,順方向と逆方向搬送波周波数とが,複数の時間スロットに関して,互いに同期しているとも解釈(以下,前者という。)でき,また,順方向及び逆方向搬送波周波数が互いに(順方向及び逆方向搬送波周波数がそれぞれが),同期した複数の時間スロットを含むとも解釈(以下,後者という。)できる。前者の場合については,上記(1)(本判決注:前記ア)で述べたとおりであり,後者の場合については,上記(2)(i)(本判決注:前記エ)で述べたとおりである。」(審決書25頁13行〜24行)とも説示しているが,本件審決の上記説示が前提とする本件審決の前記ア及びエの認定判断がいずれも誤りであることはすでに検討したとおりであるから,本件審決の上記認定判断も誤りというべきである。
キ 以上のとおり,本件訂正第1発明と引用発明とは複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」という点で相違するところ,本件審決はこの相違点についての判断を誤ったものというべきである。
(2) 本件訂正第2発明についてア 本件審決は,本件第2訂正発明の「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」との構成に関し,次のとおり認定判断している。
「基地局と公衆通信用電話網等との間に回線が設けられ,公衆通信電話網等から基地局へディジタル化音声信号を送信し,あるいは,基地局から公衆通信電話網等へディジタル化音声信号を送信するといったことは,ごく普通に行われていることであるところ,上記刊行物1記載の移動通信システムは,搬送波を用いて,基地局と移動機間との音声信号の送受を行なうものであり,その使用する搬送波は,……基地局が移動局に情報を送信するために使用する搬送波と移動局が基地局に情報を送信するために使用する搬送波とは異なるものを用いるとし,……基地局では,所定のタイムスロットにて音声信号を移動局に送信し,所定のタイムスロットにて音声信号を移動機から受信するようにし,移動機においても,送られてきた音声信号を指定されたタイムスロットで受信し,指定されたタイムスロットにて音声信号を基地局に送信するようにしている。
また,上記刊行物1記載の移動通信システムにおいては,……品質が確保できる符号化速度を採用するとしているから,本件訂正第2発明が,局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が《互いに同期した》複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムであるとすることと,上記《 》内の記述を除き,上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。
そして,上記《 》内を含む記述内容については,『2-2-1』の『(ア)』(本判決注:前記第2,3(2)ア(ア),前記(1)ア,エ,カ)に示したと同様である。
仮に,上記刊行物1に直接的な記載がないことから,本件訂正第2発明において,基地局と公衆通信用電話網等との間に回線が設けられ,公衆通信電話網等から基地局へディジタル化音声信号を送信し,あるいは,基地局から公衆通信電話網等へディジタル化音声信号を送信する点は,上記刊行物1記載の発明との差異であると捉えてたとしても,そのようなことは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。」(29頁35行〜30頁28行)イ 本件審決の上記アの認定判断は,本件第2訂正発明の「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」との構成のうち,「互いに同期した」との部分について,本件訂正第1発明についての認定判断を援用するものであるところ,これが誤りであることは前記1において説示したとおりである。
そうすると,本件訂正第2発明と引用発明とは「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」という点で相違し,前審決はこの相違点について適切な判断をしていない。
したがって,本件訂正第2発明と引用発明とは複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」という点で相違するところ,本件審決はこの相違点についての判断を誤ったものというべきである。
(3) 本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明について本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明は,「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる」陸上無線ディジタル多元接続通信方法(本件訂正第3発明)あるいは陸上無線ディジタル多元接続通信システム(本件訂正第4発明)である点を要件とするものであるところ,本件審決は,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明について,「本件訂正第2発明に示した理由と同様な理由で,上記刊行物1乃至3(本判決注:「刊行物1乃至6」の誤記と認められる。)記載の発明に基づき,周知事項を参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書34頁8行〜10行,12行〜14行)と判断した。
そうすると,本件訂正第2発明について,本件審決に相違点の判断の誤りがあることは,前記のとおりであるから,本件審決には,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明についても同様の誤りがあることになる。
(4) 以上のとおりであって,進歩性(独立特許要件)に関する原告のその余の主張について検討するまでもなく,本件審決の理由Bの判断は,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明のいずれについても,誤りがあるというべきである。
3 理由Aの判断の誤りについて原告は,本件審決の理由Aの判断が,手続上の信義則及び前訴判決の拘束力に反するという誤りがある上,記載不備であるとの判断自体が誤りである旨主張する。
(1) 拘束力違反について本件審決は,理由A@〜AFの不備があるから,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明は,特許法36条3項,4項の規定により,本件特許出願の際独立して特許を受けることができない,としたものである。
前訴判決は,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明が刊行物1,3及び4記載の発明に基づき周知技術参酌して当業者が容易に発明をすることができたものであるとの前審決の認定判断の当否を検討する過程において,本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載について解釈を示しているが,記載不備があるか否かについて判示したものではない。
そうすると,本件審決の理由Aが前訴判決の拘束力抵触するということはできない。
(2) 手続における信義則違反について一般に,訂正審判請求につき訂正を拒絶すべき複数の理由が想定され得る場合には,審決取消訴訟が繰り返されることを防ぐという観点からは訂正を拒絶する審決においてすべての理由を示すことが好ましいが,迅速な審判手続という観点からは実務上そのようにすることが常に適当であるとまではいえないところであるから,審決には,訂正を拒絶する理由を一つ示せば足り,すべての理由を逐一指摘する必要があるということはできない。そして,当該審決が取り消された場合にあっても,取消判決の認定判断に抵触することのない,独立した新たな訂正拒絶理由について,改めて特許権者に通知し,意見陳述の機会を与えた上,再度訂正を拒絶する審決をすることを妨げるものではないことは,前記1(2)アにおいて説示したとおりである。さらに,審決における進歩性なしとの判断が誤りであるとする取消判決の確定後に,再開された審判手続において,改めて記載不備との判断がなされることが少なくないことは,当裁判所に顕著である。
前審決は,理由Aについて何ら指摘していないが,記載不備がない旨判断したものではない。そして,前訴判決の確定後に再開された本件審判の手続において,平成17年2月4日付け訂正拒絶理由通知書(甲10)により原告に理由Aが通知され,原告に意見陳述の機会があったことは明らかである。
さらに,本件全証拠を検討しても,前訴判決の確定後再開された本件審判の手続において,記載不備の指摘をすることが,著しく信義に反するものというべき事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件審決が理由Aを指摘したことが,手続における信義則に反するということはできない。
(3) 記載不備とした判断の誤りについてア 理由A@〜AC,AFについて(ア) 本件訂正明細書(甲9)の特許請求の範囲第1項には,次の記載がある。
「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システム」(下線部は本件訂正による訂正箇所である。)上記記載によれば,本件訂正は,順方向及び逆方向搬送波周波数について,その各々が「互いに同期した」複数の「時間」スロットを含むことを限定したものということができる。
一般に,同期とは,前訴判決(甲13)にも説示されているように,「作動を時間的に一致させること」(広辞苑第5版)を意味する。
また,一般に,搬送波とは,「情報を含む低周波信号電流によって変調され,これを搬送する高周波電流の称。電信・電話・ラジオ・テレビなど,有線・無線の別なくいう。」(広辞苑第5版)を意味し,周波数とは,「振動する電圧・電流または電波・音波などが1秒間に向きを変える度数。単位はヘルツ(Hz)またはサイクル毎秒(c/s)。振動数。」(広辞苑第5版)を意味するから,上記特許請求の範囲の記載の「搬送波周波数」とは,「搬送波」の「周波数」を意味するものと解されるが,これらが「アナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する」ものであることは,特許請求範囲の記載から明らかであるから,「搬送波周波数」とは所定の帯域幅を有するものであり,いわゆるチャンネル(一般に,チャンネルとは,「適当な間隔をおいて並んだ各使用周波数に順次番号を付けたもの」(広辞苑第5版)と解される。)に相当するものであり,当業者であれば,「搬送波周波数」が「搬送波周波数チャンネル」の趣旨であることは,当然に理解できるというべきである(なお,前訴判決も「搬送波周波数」の後にかっこ書きで(チャンネル)を補って説明している。)。
そうすると,上記特許請求の範囲の記載からすれば,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって「各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」とは,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと理解することができる。
(イ) この点について,本件訂正明細書(甲9)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
「基地局と加入者局との間のタイミング同期を正確にとることは,全システム的に重大なことである。全システムに対するマスタ・タイミング・ベースは基地局によって作られる。ある特定のシステム内のすべての加入者装置は,周波数,シンボル・タイミング,及びフレーム・タイミングに関して,このタイム・ベースに同期しなければならない。」(段落【0051】)「基地局は,80.000MHzの極度に正確なタイミング基準クロック信号を生成するシステム・タイミング装置(STIMU)を包含している。この80MHzの基準クロック信号は16KHzのクロック信号及び22.222Hz(持続時間45msec)のフレーム・ストローブ・マーカ信号を生成するために周波数逓降される。すべての基地局送信タイミングはこれらの3つの同期マスタ基準信号から発生する。……。16KHzのクロック信号はすべての基地局周波数による伝送に対するシンボル・レートタイミングを供給する。45msecのマーカ信号は,新しいフレーム内の最初のシンボルを付与するために使用される。……。基地局内の周波数チャンネルはすべて,伝送に際して同一時間基準を使用する。3つのタイミング信号(80MHz,16KHz,及びフレーム開始{SOF}マーカ)は基地局内の各モデム19に供給される。モデム19は,同一の直列接続送信受信チャンネル対内のCCU18及びRFU21に適切なクロック信号を分配する。CCU18はこの16KHz及びSOFマーカを使用して当該周波数についての現フレーム構造に従って音声の伝送のタイミングをとりかつシンボルを制御する。」(段落【0052】)「基地局内の受信タイミングは,基地局の送信タイミングと原則的に同一である。即ち,SOFマーカとシンボル・クロック信号は送信信号と受信信号との間で正確に並んでいなければならない。しかし,完全なタイミング同期は加入者局の伝送から期待できないので,基地局のモデム19の受信タイミングは加入者局からの入力シンボルに整合しなければならない。これは基地局モデム19の受信機能のサンプリング期間が加入者局から受信中のシンボルについて最良予測をもたらすために必要である。モデム19の受信機能にインタフェースしているCCU18内の小容量弾性バッファはこのわずかなタイミング・スキューを補償している。」(段落【0053】)「全システム内の加入者局はその時間基準を基地局のマスタ・タイム・ベースに同期させている。この同期は,加入者局が基地局からのRCCメッセージを使用することによって基地局時間基準を最初に取得する多段階手順によって達成される。……」(段落【0054】)「いったん加入者局が基地局から時間基準を最初に捕捉完了すると,加入者局モデム30a,30b,30cの復調器内のトラッキング・アルゴリズムが加入者局の受信タイミングを正確に保持する。加入者局は,加入者局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための小時間量だけ自己の伝送を基地局に対して進める。この方法による結果,基地局が受信中であるすべての加入者局からの伝送は相互に正しい位相関係にあることになる。」(段落【0055】)上記記載によれば,本件訂正明細書発明の詳細な説明にも,@基地局は80MHzの基準クロック信号を生成するシステム・タイミング装置を含み,基地局において,この基準クロック信号から16KHzのクロック信号と22.222Hzのフレーム・ストローブ・マーカ信号(フレーム開始(SOF)マーカ)が生成され,これら3つのタイミング信号は基地局の各モデムに供給されて,基地局内の周波数チャンネルはすべて伝送に関して同一の時間基準を使用することになること,A基地局内の受信タイミングは,基地局の送信タイミングと原則的に同一であるが,完全なタイミング同期は,加入者局からの伝送からは期待できないこと,B全システム内の加入者局は,その時間基準を基地局のマスタ・タイム・ベースに同期させており,その手順は,加入者局が基地局からのRCCメッセージを使用して基地局時間基準を取得し,モデムがトラッキング・アルゴリズムにより加入者局による受信タイミングを正確に保持すること,C加入者局が,その位置に起因する伝送往復遅延を相殺するために,小時間量だけ自己の伝送を基地局に対して進めることにより,基地局が受信する伝送は正しい位相関係になること,が明らかにされている。
そして,各周波数チャンネルのフレームは変調形式に依存して2個又は4個のスロットに分割されるから(本件訂正明細書の段落【0068】,【0071】,表1〜5),基地局の全周波数チャンネルが周波数やタイミングに関して同一の時間基準を採用すると,各周波数チャンネル間で複数の時間スロットが互いに同期することとなる。
このように,本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載も,本件訂正第1発明の「互いに同期した複数の時間スロット」が,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味していることを裏付けているということができる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)において検討したところによれば,本件訂正第1発明における「同期」の意義や,「複数の順方向及び逆方向搬送波周波数」と「各々」と「互い」と「時間スロット」と「複数の時間スロット」と「同期」のそれぞれの関連については,本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載から理解することができ,これらの理解は本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載によっても裏付けられ,矛盾はないというべきである。
本件審決は,本件訂正第1発明との関係で,理由A@,AA,AB,AC,AFとして指摘した不備があるとするものであるが,いずれも上記の理解に反するものであって,誤りというべきである。
(エ) 本件訂正明細書の特許請求の範囲第2項の「……各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる……」との記載,第3項の「……各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる……」との記載,及び,第4項の「……各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる……」との記載も,本件訂正第1発明について検討したところと同様であり,これらの技術的意義を理解することができる。
本件審決は,本件訂正第2発明ないし本件訂正第4発明との関係で,理由A@,AA,AB,AC,AFとして指摘した不備があるとするものであるが,いずれも上記の理解に反するものであって,誤りというべきである。
(オ) 上記(ア)ないし(エ)において検討したところによれば,本件審決の理由A@,AA,AB,AC,AFの判断はいずれも誤りである。
イ 理由ADについて理由ADは,本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項ないし第4項は,同期について言及しているにもかかわらず,同期を実現する手段についての記載がないから,発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないというものである。
本件訂正第1発明「複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」との構成は,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数(チャンネル)間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解することができ,また,本件訂正第2発明ないし本件訂正第4発明の「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」との構成については,各々の周波数チャンネルが複数の時間スロットを含み,各周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解することができることは,いずれも上記アにおいて説示したとおりである。
このように,特許請求の範囲に記載された「複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」との構成,「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」との構成の技術的意義を理解することができるのであるから,単に「同期」を実現する具体的な技術手段が特許請求の範囲に規定されていないということのみを理由に,発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないということはできない。
したがって,本件審決の理由ADの判断は誤りである。
ウ 理由AEについて理由AEは,フレーム同期をとらないと,基地局と加入者局とで情報信号をやりとりはできないと考えられるところ,本件訂正明細書の特許請求の範囲第1項ないし第4項には,フレーム同期やフレーム同期を実現するための手段についての記載がないから,発明の必須の構成要件の記載が欠けているというものである。
ディジタル通信において,多重化信号から各信号を見出すためにフレーム同期が行われることは当然のことであり,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明においてもフレーム同期は当然の前提とされているものと認められ,また,フレーム同期を行うことが本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明の直接の対象とされているわけでもないから,特許請求の範囲に,フレーム同期やフレーム同期を実現する手段の記載がないからといって,発明の構成に欠くことのできない事項が欠けているいうことはできない。
したがって,本件審決の理由AEの判断は誤りである。
(4) 以上のとおりであって,本件審決の理由Aの判断はいずれも誤りというべきである。
4 審決の「理由C」について原告は,本件審決の理由Cの判断が,前訴判決の拘束力及び手続上の信義則に反するという誤りがある上,新規事項を含むとの判断自体が誤りである旨主張する。
(1) 拘束力違反について本件審決は,理由C@及びCAの点で,本件訂正が特許法126条1項ただし書の規定を満たしていないと判断したものである。
前訴判決は,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明が刊行物1,3及び4記載の発明に基づき周知技術参酌して当業者が容易に発明をすることができたものであるとの前審決の認定判断の当否を検討する過程において,本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載について解釈を示しているが,本件訂正が特許法126条1項ただし書の規定に違反するか否かについて判示したものではない。
そうすると,本件審決の理由Cが前訴判決の拘束力抵触するということはできない。
(2) 手続上の信義則違反について前記3(2)のとおり,一般に,訂正を拒絶する審決には,訂正を拒絶する理由を一つ示せば足り,すべての理由を逐一指摘する必要があるということはできず,当該審決が取り消された場合にあっても,取消判決の認定判断に抵触することのない,独立した新たな訂正拒絶理由について,改めて特許権者に通知し,意見陳述の機会を与えた上,再度訂正を拒絶する審決をすることを妨げるものではない。
前審決は,理由Cについて何ら指摘していないが,新規事項違反がない旨判断したものではない。そして,前訴判決の確定後に再開された本件審判の手続において,平成17年2月4日付け訂正拒絶理由通知書(甲10)により原告に理由Cが通知され,原告に意見陳述の機会があったことは明らかである。さらに,本件全証拠を検討しても,前訴判決の確定後再開された本件審判の手続において,記載不備の指摘をすることが,著しく信義に反するものというべき事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件審決が理由Cを指摘したことが,手続における信義則に反するということはできない。
(3) 新規事項を含むとした判断の誤りについてア 理由C@について理由C@は,要するに,発明の詳細な説明では,加入者局は半二重モードで作動するとしているところ(半二重モードは,双方向の伝送ができるが一度には1方向の伝送しか許容されない。),特許請求の範囲第2項ないし第4項では,「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送」するとしており,このようなものは,本件訂正前明細書に記載されていない,というものである。
本件訂正前明細書(甲7の2)には,次の記載がある。
(ア) 「【発明の属する技術分野】本発明は多数の音声信号またはデータ信号を一つ以上の無線周波数(RF)チャンネルを通じて同時に伝送するディジタル加入者電話システムに関する。」(段落【0001】)(イ) 「基地局は複数のRFチャンネル対を通して動作する。各々のチャンネル対の動作は,所与の無線周波数(RF)チャンネル経由の互いに異なる加入者局への同時伝送に備えて電話会社の幹線経由で同時に受信した所与の複数の情報信号を処理するための送信チャンネル回路と,前記幹線経由の伝送の備えた情報信号の提供のために互いに異なる加入者局から所与のRFチャンネル経由で同時に受信した複数の信号を処理するための受信チャンネル回路との組合せによって実現されている。(段落【0007】)(ウ) 「チャンネルごとに多数の通話を収容するため,各チャンネルは時分割多重化(TDM))技術によって”スロット”に分割されている。
これらのスロットはシステム・フレーム形式を特定する。システム・フレームの長さは所定の一定数のシンボルで構成されている。」(段落【0068】)(エ) 「システム・フレームの形式は,加入者局のモデム29が全二重方式(即ち,同時に送信と受信とを実行する)で働かないことを保証する。
このため,逆方向周波数及び順方向周波数に関するスロットは時間的に少なくとも1スロット時間だけずれている。」(段落【0069】)上記(ウ)及び(エ)の記載によれば,各チャンネルは,時分割多重化技術によりスロットに分割され,その上で,加入者のモデムが全二重方式で働かないように,すなわち,半二重方式で働くように,1スロット時間だけずらしていることが理解される。
これを前提に,上記(ア)及び(イ)の記載を検討すれば,そのようなスロットレベルの時間軸上のずれを伴う基地局と複数の加入者局との間の信号の伝送を,「同時に伝送」とか「同時伝送」と呼んでいることが理解される。
そうすると,加入者局が半二重モードで動作することと,順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送とは,なんら矛盾しない。
そして,順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの各々が「互いに同期した複数の時間スロット」を含むようにすることにより,「同時伝送」が可能となるのであるから,「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送」を行うことが本件訂正前明細書に記載されていないとした本件審決の理由C@の判断は,誤りである。
イ 理由CAについて理由CAは,フレーム同期やフレーム同期を実現する手段が本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明の構成に欠くことのできない事項であるとの前提に立って,フレーム同期をとらないシステム,方法は本件訂正前明細書に記載されていないというものと解される。
ディジタル通信において,多重化信号から各信号を見出すためにフレーム同期が行われることは当然のことであり,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明においてもフレーム同期は当然の前提とされているものと認められ,また,フレーム同期を行うことが本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明の直接の対象とされているわけでもないから,特許請求の範囲に,フレーム同期やフレーム同期を実現する手段を記載する必要はないことは,いずれも前記3(3)ウにおいて説示したとおりである。
そうすると,理由CAは,その前提を欠き,誤りというべきである。
(4) 以上のとおりであって,本件審決の理由Cの判断はいずれも誤りというべきである。
5結論以上のとおり,本件審決の理由AないしCの判断はいずれも誤りであり,これらの誤りが審決の結論に影響することは明らかである。
よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。