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関連審決 訂正2003-39186
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  審判制度 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  要旨変更 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 200号 審決取消請求事件
原告 蛇の目ミシン工業株式会社
訴訟代理人弁護士 山田克巳
同 山田勝重
同 山田博重
訴訟代理人弁理士 山田智重
同 辻實
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 神崎孝之
同 岡田孝博
同 前田幸雄
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が訂正2003-39186号事件について平成16年3月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「電動プレス」とする特許第2533486号の特許(昭和61年4月4日出願(以下「本件出願」という。),平成8年6月27日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
原告は,平成15年9月4日,本件特許の請求項1及び2について,本件出願の願書に添付した明細書(平成9年12月26日付け訂正請求書による訂正後のもの。以下「本件明細書」という。)を訂正すること(以下「本件訂正」といい,本件訂正による訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。)につき審判を請求した。特許庁は,これを訂正2003-39186号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成16年2月23日付け手続補正書により,本件訂正の審判請求書の手続補正を請求した(以下,この補正を「本件補正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成16年3月30日,本件補正は,審判請求書の要旨を変更するものであるとして,これを却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月8日,その謄本を原告に送達した。
2 本件訂正前の特許請求の範囲(別紙図面A参照) 「【請求項1】被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し,前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定し,該記憶設定された位置間の速度を制御することを特徴とする電動プレス。
【請求項2】被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,前記モータの回転量を検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段と,その回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段と,該設定したデータを複数記憶する記憶手段とを備え,記憶された位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御することを特徴とする電動プレス。」 3 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(本件補正前のもの) 「【請求項1】被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出することにより前記ラム位置を検出して 前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し,前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定し,該記憶設定された位置間の速度を制御することを特徴とする電動プレス。
【請求項2】被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで 検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段と,その回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段と,該設定したデータを複数記憶する記憶手段とを備え,記憶された位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御することを特徴とする電動プレス。」(下線部が本件訂正による訂正箇所である。以下,本件訂正後の請求項2の発明を審決と同様に「訂正発明2」という。) 4 本件補正による補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出することにより前記ラム位置を検出して前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し,前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む前記ラムの複数位置を記憶設定し,該記憶設定された位置間の速度を制御することを特徴とする電動プレス。
【請求項2】被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段と,その回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む前記ラムの複数位置を設定する設定手段と,該設定したデータを複数記憶する記憶手段とを備え,記憶された位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御することを特徴とする電動プレス。」(下線部が本件補正による補正箇所である。) 5 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件補正は,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2について,「前記ラムの」という限定事項が付されていないものから同限定事項を付したものに変更するものであるから,審判請求書の要旨を変更するものであり,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)131条2項の規定に適合しない,また,訂正発明2は,実願昭54-167317号(実開昭56-83340号)のマイクロフィルム(以下,審決と同様に「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。別紙図面B参照)及び実願昭59-93350号(実開昭61-9603号)のマイクロフィルム(以下,審決と同様に「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに従来周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので,本件訂正の審判の請求は,旧特許法126条3項の規定に適合していない,とするものである。
審決が訂正発明2の独立特許要件について上記結論を導くに当たり,訂正発明2と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を制御することができるモータを設け,該モータの回転量を直線運動に変換する機構を備え,前記ラム位置を検出する位置検出手段と,前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段とを備え,位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御する電動プレス。」 「相違点1 モータの回転量を直線運動に変換するために,訂正発明2では,ネジ機構にて直接直線運動に変換しているのに対して,引用例1記載の発明では,歯車13,14及び送りねじ12にて直線運動に変換している点。
相違点2 訂正発明2では,回転量を制御することができるモータが,回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータであり,また,ラム位置を検出する位置検出手段が,モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段であるのに対し,引用例1記載の発明では,そのようになっていない点。
相違点3 訂正発明2では,加圧点と定位置停止点との位置をモータの回転量に対応して設定しているのに対し,引用例1記載の発明では,そのようになっていない点。
相違点4 訂正発明2では,設定したデータを複数記憶する記憶手段を備え,モータの回転速度の制御を記憶された位置から次の位置に対して行っているのに対し,引用例1記載の発明では,そのようになっていない点。」(以下,「相違点1」,「相違点2」などという。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,本件補正が審判請求書の要旨を変更するものではないのに,要旨を変更するものであると誤って判断し(取消事由1),また,訂正発明2と引用発明1との一致点の認定を誤ったことにより,相違点を看過し(取消事由2,3),引用発明2の認定を誤ったことにより,訂正発明2の容易想到性についての判断を誤り(取消事由4),さらに相違点2及び3の判断も誤ったものであり(取消事由5),これらにより訂正発明2が独立して特許を受けることができないものであると誤って判断したものであって,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件補正が要旨変更であるとの判断の誤り) 本件補正は,訂正発明の特許請求の範囲(請求項1及び2)を,「前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む前記ラムの複数位置を」「記憶設定し」(請求項1),又は,「設定する」(請求項2),と下線部の「前記ラムの」を付加することをその内容とするものである。上記特許請求の範囲の記載の冒頭部分において,「前記ラムが下降する・・・」と記載されている以上,上記「複数位置」とは「ラム」についてのものであり,ラムが下降する方向での任意の位置に存在し,これら任意の位置には,加圧力を加えるべき加圧点と,加圧を終了させる定位置停止点が含まれているのである。
したがって,本件補正は,「複数位置」という名詞に対して,「前記ラムの」という形容詞を付加し,発明の内容をより明確にしたものであり,いわゆる不明りような記載を明りようにしたにすぎないものである。
訂正拒絶理由通知の指摘に対応して不明りような訂正明細書を明りようにすることは,特許権の範囲を明確にする訂正審判制度の趣旨から当然に許容されるべきである。
2 取消事由2(位置検出手段についての一致点認定の誤り) 審決は,「第6 対比」の「2」において,「引用例1記載の発明における「リミットスイッチLS1及びサーボモータ15の回転量を該サーボモータに連結されたパルス発生器17によりラム位置を検出する手段」は,・・・訂正発明2における「モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段」と一致している。」(審決書9頁)と認定した。
すなわち,審決は,引用発明1の「リミットスイッチLS1」が訂正発明2における,設定記憶される「加圧点」に相当する,との認定を行っている。
しかしながら,訂正発明2のラムの「複数位置」とは,請求項2において「前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する」と記載されているように,「前記ラムが下降する方向の任意の位置」に設定され,記憶される対象であり,「加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む」ものであるから,訂正発明2のラムの位置検出手段とは,ラムの任意の複数位置を検出する手段であり,引用発明1の「リミットスイッチLS1」とは異なるものである。審決は,訂正発明2の要旨の認定を誤り,誤った要旨認定に基づいて引用発明1と対比し,一致点の認定をしたものであり,上記一致点の認定は誤りである。
3 取消事由3(複数のラム位置の設定手段についての一致点認定の誤り) 審決の「第6 対比」の「3」及び「4」(審決書9頁)の認定は誤りである。
(1) 引用発明1のリミットスイッチLS1は,機械的制御における感知点にほかならず,訂正発明2における設定・記憶される「加圧点」に相当するものではない。
(2) 本件訂正明細書において,「さらに,加圧点の設定は,前記操作釦C2を押してラム5を下降させてゆき,圧入に必要な加圧力を加えるべき位置にきたら,操作釦C2を離してラム5を一時停止させ加圧点設定釦Eを押すと中央処理装置2に,前記圧入に必要な加圧力を加えるべき位置が記憶される。」(甲2号証3頁5欄6〜10行,甲4号証全文訂正明細書4頁3段)と記載されているように,訂正発明2においては,釦操作で加圧点,定位置停止点等を自由に任意の位置で調整設定できることを特徴としているのである。
訂正発明2は,引用発明1のリミットスイッチLS1の移動調整のようにねじを緩めたり,閉めたりする人間が行う機械的調整作業を伴うものではなく,所望の位置を直接記憶設定することができるばかりか,位置設定値を変更することにより,例えばミクロンオーダの正確な位置制御ができるという効果を奏するものである。
審決は,引用発明1のリミットスイッチLS1に係る位置(機械的位置調整作業後において固定される)を訂正発明2の加圧点や定位置停止点と同等のものとしており,誤りである。
4 取消事由4(引用発明2の認定の誤りによる相違点の判断の誤り) 審決は,「第5 引用例記載事項」の「2」の末尾において, 「上記記載事項,従来の成形プレスの成形工程を示す説明図である第2図及び可動体駆動用油圧装置の一実施例を示す概略構成図である第3図の記載からみて,引用例2には,成形プレスにおいて,上下動する可動盤の複数の位置情報を設定し,記憶し,記憶された位置情報に基づいて可動盤の移動速度等を制御するという技術的事項が記載されていると認める。」(審決書9頁) と認定した。しかし,審決の引用発明2の認定は,次の理由により誤りである。
(1) 引用発明2は,訂正発明2の「被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,」(請求項2)との構成を備えておらず,また「前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段」(同)との構成を備えてもいない。
(2) 引用発明2は,訂正発明2における「その回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段と,該設定したデータを複数記憶する記憶手段とを備え」(請求項2)るものでもなく,「記憶された位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御する」(同)ものでも,「電動プレス」(同)でもないことは明らかである。
すなわち,引用例2には,「速度を変える」ということと「複数の領域」があるという記載が存在するだけで,審決の上記認定にあるような「複数の位置情報を設定し,記憶し,記憶された位置情報に基づいて可動盤の移動速度等を制御する」という具体的技術は記載されていない。
審決が引用例2の記載事項として摘示した各箇所には,確かに「速度を変える」ということと「複数の領域」がある旨の記載が存在し,また,引用例2には,構成部品としての「可動盤」が存在し,引用例2の記載から当該「可動盤」が移動した結果において「位置検出装置12」が検出した検出値とあらかじめ「入力装置25」により「制御装置24」に入力されている設定値とを比較して,当該出力が設定値に一致するように「制御装置24」がサーボポンプ19に対して指令を与える技術は記載されている。
しかし,これらの引用発明2の技術は,決められた設定値に従って順序どおり動作を実行するものであり,本件出願前に一般に存在したいわゆる従来のシーケンスコントローラの制御形式の技術に止まるものである。
引用例2には,少なくとも審決が認定したような「複数の位置情報を記憶」したり,まして「記憶された位置情報に基づいて可動盤の移動速度等を制御する」との技術は記載されてはいない。
5 取消事由5(相違点2及び3についての判断の誤り) 審決は,相違点2について,「モータの回転量を被移動体の直線運動に変換するものにおいて,モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して被移動体の位置を検出する位置検出手段は,・・・周知の技術的事項であるから,引用例1記載の発明におけるリミットスイッチLS1及びパルス発生器17によるラム位置を検出する位置検出手段に代えてモータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段を採用することに,格別の困難性は見当たらない。また,このようにモータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出するのであるから,モータを回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータとすることにも,格別の困難性は見当たらない。」(審決書11頁第7,2)と判断し,相違点3についても,「上記2の相違点2についてで検討したようにモータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段を備えるのであるから,加圧点と定位置停止点とを含む複数位置をモータの回転量に対応して設定することは,当然になされることであり,格別の困難性は見当たらない。」(審決書11頁第7,3)と判断した。しかし,これらの判断は誤りである。
(1) 訂正発明2における「加圧点と定位置停止点とを含む複数位置」は,ラムの下降する方向の任意の位置であって任意に設定されるものである。これに対し,引用発明1においてはラムの下降する方向の任意の位置を設定するという技術思想はなく,部品としての技術が記載されているだけである。
このことは,引用例1では,スリーブの喰い込み量を一定とするための構成しか開示されていないことを意味し,引用発明1における動作制御の基準は,スリーブの先端が加工物の底部に到達したことを検出することにすぎないのに対し,訂正発明2における動作制御の基準は,前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定することができるというものであり,両者が本質的に相違することは明らかである。
(2) 本件出願前において,モータの回転量制御をモータに直結されたエンコーダに基づき行う技術が,電気制御,電子制御の分野で存在していたとしても,訂正発明2はモータ回転量制御に関する技術を要旨としているわけではなく,電子プレスの電子制御手段を要旨とする発明である。
しかるに,審決は,電子制御に係る電子プレスとは分野が異なる油圧プレスである引用発明1におけるリミットスイッチLS1や圧入装置における従来のシーケンスコントローラの技術に,電気制御,電子制御の技術を無理に適用し,これをもって容易想到性の判断を行っているものであり,その判断は誤りである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本件補正が要旨変更であるとの判断の誤り)について 本件補正は,特許請求の範囲の請求項1についてみれば,「前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出することにより前記ラム位置を検出して」を付加する従来の訂正事項に,「前記ラムの」を付加する,更に別個の訂正事項を追加するものであり,訂正を求める範囲が実質的に拡大変更されているものであって,審判請求書の要旨を変更するものである。
原告は,「前記ラムの」を付加することは,いわゆる不明りような記載を明りようにしたにすぎないものである,と主張する。しかし,不明りような記載を明りようにするものであっても,訂正を求める範囲が実質的に拡大変更されていることに変わりはない。
2 取消事由2(位置検出手段についての一致点認定の誤り)について 審決は,「第6 対比」の「2」において,引用発明1の「リミットスイッチLS1及び・・・パルス発生器17によりラム位置を検出する手段」は,「ラム位置を検出する位置検出手段であることに限り」,訂正発明2における「モータの回転量を・・・エンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段」と一致していると認定しているものであって,原告が主張しているような認定をしているものではない。
3 取消事由3(複数のラム位置の設定手段についての一致点認定の誤り)について 訂正発明2は,その「設定手段」及び「記憶手段」については,「その回転量に対応して前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段」及び「該設定したデータを複数記憶する記憶手段」(請求項2)と規定されているものであり,それ以上に具体的な制御動作の基準について規定しているものではない。
原告の主張は,いずれも特許請求の範囲(請求項2)の記載に基づかない主張である。
4 取消事由4(引用発明2の認定の誤りによる相違点の判断の誤り)について 引用発明2における可動盤の下降速度制御は,検出した可動盤の位置及び速度をあらかじめ入力された位置及び速度の設定値と比較して行うものであり,これは訂正発明2と同様の制御であるから,引用例2には「複数の位置情報を設定し,記憶し,記憶された位置情報に基づいて可動盤の移動速度等を制御する」という具体的技術が記載されているということができる。
5 取消事由5(相違点2及び3についての判断の誤り)について 引用例1には,原点検出用のリミットスイッチLS0を閉じる位置からラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点を設けることが記載されている。したがって,原告の「引用発明1においてはラムの下降する方向の任意の位置を設定するという技術思想はなく」との主張は,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件補正が要旨変更であるとの判断の誤り)について 本件訂正は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1について,「前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出することにより前記ラム位置を検出して」を付加し,また,請求項2について,「該モータに連結されたエンコーダで」を付加するものである。
本件補正は,請求項1について,「前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出することにより前記ラム位置を検出して」を付加するとの訂正事項に加えて,同訂正とは別の個所に「前記ラムの」を付加するとの訂正事項を加えるものであり,また,請求項2についても,「該モータに連結されたエンコーダで」を付加するとの訂正事項に加えて,同訂正とは別の個所に「前記ラムの」を付加するとの訂正事項を加えるものである。
旧特許法131条2項本文によれば,審判請求書の補正は,審判請求書の要旨を変更しない範囲で許されるものである。本件補正は,上記のとおり,請求項1及び2について,それぞれ当初の訂正事項に加えて,新たに「前記ラムの」を付加する別個の訂正事項を追加するものであるから,本件訂正に係る審判請求書の要旨を変更するものであるといわざるをえない。
原告は,本件補正は,「複数位置」という名詞に対して,「前記ラムの」という形容詞を付加し,発明の内容をより明確にしたものであり,いわゆる不明りような記載を明りようにしたにすぎず,当然に許容されるべきであると主張する。
しかしながら,本件補正は,請求項1及び2のいずれについても,当初の訂正箇所と明らかに異なる箇所に新たな訂正事項を付加するものであることが明らかである。このように,当初の訂正箇所と明らかに異なる箇所について訂正事項を付加するものは,これを要旨の変更に当たらない補正ということはできない。
なお,仮に,原告が主張するとおり,本件補正が本件訂正の要旨を変更しないものであるとすれば,本件訂正の要旨に変更がないのであるから,本件補正を考慮せずに,本件訂正に係る請求項2に記載された訂正発明2の要旨を認定し,その独立特許要件について判断した審決については,本件補正を却下したことがその結論に影響を与えることとはならないのであって,原告の取消事由1の主張はこの点からみても,失当であるといわざるを得ない。) 2 取消事由2(位置検出手段についての一致点認定の誤り)について 審決は,「第6 対比」の「2」において「引用例1記載の発明における「リミットスイッチLS1及びサーボモータ15の回転量を該サーボモータに連結されたパルス発生器17によりラム位置を検出する手段」は,ラム位置を検出する位置検出手段であることに限り,訂正発明2における「モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段」と一致している。」(審決書9頁)と認定した。
原告は,この認定が誤りであると主張する。しかし,審決は,引用発明1の「リミットスイッチLS1及び・・・パルス発生器17によりラム位置を検出する手段」は,「ラム位置を検出する位置検出手段であることに限り」,訂正発明2のエンコーダによる「ラム位置を検出する位置検出手段」と一致している,と認定したのであり,この認定に何ら誤りはない。
原告は,審決が,引用発明1の「リミットスイッチLS1」が訂正発明2における,記憶される「加圧点」に相当する,との認定を行っている,と主張する。
しかし,審決は,上記のとおり認定しただけであり,上記「2」において,原告が主張するように,引用発明1の「リミットスイッチLS1」が訂正発明2における,設定記憶される「加圧点」に相当すると認定しているわけではないから,原告の主張は,失当である。
原告は,訂正発明2のラムの位置検出手段とは,ラムの任意の複数位置を検出する手段であり,引用発明1の「リミットスイッチLS1」とは異なるものである,とも主張する。しかし,審決は,上記のとおり,「ラム位置を検出する位置検出手段であることに限り,」一致すると認定しているのであり,位置検出手段として,両者が同一のものであると認定しているわけではないことは明らかであり,また,引用発明1においても,加圧点と加圧を終了させる位置などの複数の位置を検出していることは,後記3認定のとおりである。原告の主張は理由がないことが明らかである。
3 取消事由3(複数のラム位置の設定手段についての一致点認定の誤り)について 原告は,審決の「第6 対比」の「3」及び「4」の認定が誤りであると主張する。
(1) 引用例1には次の記載がある(甲8号証)。
「また,サーボモータ15の後端部には,サーボモータ15の回転速度を検出する速度検出器16と,サーボモータ15の出力軸が所定量回転する度にパルスを発生するパルス発生器17とが取付けられている。なお,LS0は原点検出用のリミツトスイツチを示しLS1はスリーブSの先端が工作部Wの端面よりも所定量だけ手前の位置に来たことを検出するリミツトスイツチを示す。」(3頁13〜20行) 「今,起動スイツチSTARTが押圧されると,フリツプフロツプFF1とFF3がセットされゲートG1とG4が開かれる。これにより早送り速度に応じた速度指令電圧VS1が演算器20に与えられ,サーボモータ15が早送り速度で回転してラム11が,リミツトスイツチLS1が閉成されるまで早送り速度で下降される。リミツトスイツチLS1が閉成されるとフリツプフロツプFF1がリセットされ,フリツプフロツプFF2がセツトされるため,ゲートG1に替つてゲートG2が開かれる。これにより,圧入速度に応じた速度指令電圧VS2が演算器20に与えられるようになり,ラム11の下降速度が圧入速度に減速される。そして,圧入が開始されるとサーボモータ15に加わる負荷が増大してサーボモータ15に流れる電流が,ゲートG4を介して電流比較器21に与えられている圧入基準電流値IS1まで増大する。この圧入基準電流値IS1はスリーブSの先端突起Saが工作物Wに形成された嵌合穴Waの底部に当接するとラムの移動が停止するような値に設定されているため,スリーブSの先端突起Saが嵌合穴Waの底部に当接するとラム11の下降が停止される。
ラム11の下降が停止されるとパルス発生器17からパルスが送出されなくなり,検出回路23から信号が出力される。これにより,フリツプフロツプFF3がリセツトされ,フリツプフロツプFF4がセツトされてゲートG4に替わつてゲートG5が開かれるため,電流比較器21に喰込基準電流値IS2が与えられる。この喰込基準電流値IS2はスリーブSの先端突起Saを嵌合穴Waの底部に喰込ませるのに充分な駆動トルクが得られるような値に設定されているため,サーボモータ15は再び回転を開始し,ラム11を高い推力で下降させる。また,これと同時にアンドゲートAGが開かれるため,カウンタ25はパルス発生器17から出力されるパルスを計数し,スリーブSの先端突起Saが指令された量だけ喰込んでその計数値が設定器24の値に一致すると圧入完了信号PESを出力する。これにより,フリツプフロツプFF2がリセットされフリツプフロツプFF5がセツトされてゲートG3が開かれ後退早送りに応じた速度指令電圧-VS3が演算器20に与えられる。これにより,サーボモータ15が逆転され,ラム11が上昇端まで後退して圧入動作を完了する。」(4頁19行〜6頁最下行) (2) 引用例1の上記記載からすれば,引用発明1は,次のとおりであると認められる。
(ア) 引用発明1においては,リミットスイッチLS1が閉成される位置において「早送り速度」から「圧入速度」に減速されるものであり,当該位置は圧入作業を開始するべく加圧力を加える加圧点と解することができる。
(イ) 引用発明1のパルス発生器17は,モータの回転量に基づいてラム11の下降位置を表す信号を発するものである。
(ウ) 引用発明1では,圧入速度での下降中は,サーボモータ15に流れる電流が監視されており,スリーブSの先端突起Saが嵌合穴Waの底部に当接するとラム11の下降が停止される。そして,ラム11は,スリーブSの先端突起Saを嵌合穴Waの底部に喰込ませるのに充分な駆動トルクが得られるような高い推力での下降に移行し,これと同時にアンドゲートAGを介してカウンタ25がパルス発生器17の出力を計数して,スリーブSの先端突起Saが指令された量だけ喰込む位置で圧入完了が検出されるものである。
(エ) 引用例1に,ラムの下降に関して,「早送り速度で下降」,「圧入速度に減速」及び「高い推力で下降」と記載されているように,引用発明1は,特定位置で速度を切り替えるように制御されているものである。
(オ) 引用発明1の圧入完了信号PESは,あらかじめ適宜の位置を設定器24に設定し,パルス発生器17からのパルス数が計数され,あらかじめ設定された値と一致すると,出力されるものである。
(カ) 引用発明1においては,圧入完了信号PESが出力された後は,「後退早送り」に移り,ラム11が上昇端まで後退して圧入動作を完了するものとされていることからすれば,前記圧入完了信号PESが出力された位置は,圧入を終了した位置である。
(3) 以上によれば,審決が,「第6 対比」の「3」において,次のとおり認定したことに誤りはない。
「引用例1記載の発明におけるリミットスイッチLS1を設けた「ラム11の先端に取り付けられたスリーブSが工作物Wの端面より所定量だけ手前のラム11位置を検出する位置」は,訂正発明2における「ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点」に相当し,引用例1記載の発明における「スリーブSが工作物Wの嵌合穴Waの底部に当接したことを検出した後に指定された量だけスリーブの先端突起Saが嵌合穴Waの底部に喰込む位置」は,訂正発明2における「加圧を終了させる定位置停止点」に相当する。
また,引用例1記載の発明における上記の位置にリミットスイッチLS1を設けること及び上記喰込む位置の「サーボモータ15の回転量に相当するパルス発生器17のパルス数を設定」することは,訂正発明1における「加圧点と・・・定位置停止点とを含む複数位置を設定する設定手段と・・・を備え」ることに相当する。」 また,引用発明1においては,前記のとおり,「ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点」及び「加圧を終了させる定位置停止点」に相当する位置を含む複数位置において,ラム11の下降速度が適宜のものに切り替えられることが明らかであるから,審決が「第6 対比」の「4」において,次のとおり認定したことにも誤りはない。
「引用例1記載の発明における「リミットスイッチLS1によりラム11を検出するまでは,ラム11を早送り速度で下降するようにサーボモータ15を回転させ,リミットスイッチLS1によりラム11を検出した後は,ラム11の下降速度を圧入速度に減速し,該圧入速度でラム11を下降するようにサーボモータ15を回転させ,ラム11の先端のスリーブSが工作物Wの嵌合穴Waの底部に当接したことを検出した後は,該サーボモータ15に流れる電流を圧入基準電流値まで増大させることにより,ラム11を高い推力で下降させ,指定された量だけスリーブの先端突起Saが嵌合穴Waの底部に喰込む位置に設定したパルスを計数後,ラム11の下降を停止するように該サーボモータ15を回転させる」は,訂正発明2における「位置から次の移動する位置に対して前記モータの回転速度を制御する」に相当する。」 (4) 原告は,審決の「第6 対比」の「3」及び「4」の認定が誤りである理由として,引用発明1のリミットスイッチLS1は,機械的制御における感知点にほかならず,訂正発明2における設定・記憶される「加圧点」に相当するものではない,と主張する。
しかしながら,引用発明1のリミットスイッチLS1が閉成される位置が圧入作業が開始される加圧点に相当することは前記のとおりである。また,原告の上記主張は,訂正発明2においては,位置検出手段として,エンコーダを用いていることを主張しているとも解し得るものの,審決は,相違点2として,「訂正発明2では,回転量を制御することができるモータが,回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータであり,また,ラム位置を検出する位置検出手段が,モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段であるのに対し,引用例1記載の発明では,そのようになっていない点。」と認定しており,訂正発明2の,モータの回転量をエンコーダで検出し,ラム位置を検出するとの位置検出手段が,引用発明1にはないことを相違点としてとらえた上で,引用発明1のリミットスイッチが閉成する位置を訂正発明2の「加圧点」と認定しているのであるから,原告の上記主張は理由がないことが明らかである。
原告は,審決の上記認定が誤りである理由として,訂正発明2においては,釦操作で加圧点,定位置停止点等を自由に任意の位置で調整設定できることを特徴としている,また,訂正発明2は,引用発明1のリミットスイッチLS1の移動調整のようにねじを緩めたり,閉めたりする人間が行う機械的調整作業を伴うものではなく,所望の位置を直接記憶設定することができるばかりか,位置設定値を変更することにより,例えばミクロンオーダの正確な位置制御ができるという効果を奏するものである,と主張する。
しかし,「訂正発明2においては,釦操作で加圧点,定位置停止点等を自由に任意の位置で調整設定できる」とか,「ミクロンオーダの正確な位置制御ができる」との原告の上記主張は,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項2)の記載に基づくものではなく,採用することができないことも明らかである。
4 取消事由4(引用発明2の認定の誤りによる相違点の判断の誤り)について (1) 引用例2には,「上記位置検出装置12と速度検出装置14と圧力検出装置23とは,制御装置24に電気的に接続されており,各検出装置12,14,23で得られた可動盤10の位置情報,速度情報及び加圧力情報は,制御装置24に送られ,入力装置25によりあらかじめ入力された設定値(位置,速度,加圧力)と比較されるようになっている。」(甲9号証5頁14〜20行)との記載がある。
これによれば,引用発明2においては,位置検出装置12,速度検出装置14及び圧力検出装置23で得られた可動盤10の位置情報,速度情報及び加圧力情報は,あらかじめ入力装置25から入力された位置,速度,加圧力に係る設定値と比較されるものである。
そして,引用例2には,「次に上記のように構成された可動体駆動用油圧装置の作用について説明する。成形プレスの可動盤10が最も上方位置(型開き状態)にある場合に,制御装置24によりブリードオフ回路20を全閉にし,かつサーボポンプ19を駆動して圧油を油圧シリンダ16の上端部側から供給すると,油圧シリンダ16のピストンロッド17は下降を開始し,それに伴って,可動盤10は下降し始める。そして,位置検出装置12及び速度検出装置14の各出力とあらかじめ入力装置25により制御装置24に入力されている設定値とを比較して,該各出力が設定値に一致するように制御装置24はサーボポンプ19に対して指令を与える。従って,可動盤10は,高速下降工程,予圧工程,速度可変加圧工程の各工程において,それぞれあらかじめ決められた設定値に基づいて下降速度が制御され,速度可変加圧工程は例えば第4図(イ),(ロ),(ハ),(ニ)に示すように,段階的な制御あるいは第4図(ホ),(ヘ)に示すように,なめらかな制御等自由に可動盤10の下降速度を変化させて制御される。」(甲9号証6頁6行〜7頁6行)との記載がある。
この記載によれば,引用発明2においては,位置検出装置12及び速度検出装置14の各出力とあらかじめ入力装置25により制御装置24に入力されている設定値とを比較して,当該各出力が設定値に一致するように制御装置24はサーボポンプ19に対して指令を与えることで,可動盤10の下降速度を変化させる制御が行われるものと認められる。
以上によれば,審決の「引用例2には,成形プレスにおいて,上下動する可動盤の複数の位置情報を設定し,記憶し,記憶された位置情報に基づいて可動盤の移動速度等を制御するという技術的事項が記載されている」(審決書9頁4段)との認定に誤りがないことは明らかである。
(2) 原告は,引用発明2は,訂正発明2の「被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け,該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え,」(請求項2)との構成を備えておらず,また「前記モータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段」(同)との構成を備えてもいない,と主張する。しかし,審決は,引用発明2について,前記(1)の技術事項が記載されていると認定しているだけであり,原告が主張する上記技術事項が記載されていると認定しているわけではないことは明らかである。原告の主張は主張自体失当である。
原告は,引用例2には,「速度を変える」ということと「複数の領域」があるという記載が存在するだけで,審決の上記認定にあるような「複数の位置情報を設定し,記憶し,記憶された位置情報に基づいて可動盤の移動速度等を制御する」という具体的技術は記載されていない,と主張する。
しかし,引用例2に審決が認定した技術が記載されていることは上記のとおりであり,原告の上記主張は理由がないことが明らかである。
5 取消事由5(相違点2及び3についての判断の誤り)について 原告は,審決の相違点2及び3についての判断が誤りである,と主張する。
(1) 相違点2について モータの回転量を被移動体の直線運動に変換するものにおいて,モータの回転量を当該モータに連結されたエンコーダで検出して被移動体の位置を検出する位置検出手段は,「NCシステム事典」(甲10号証),特開昭59-32340号公報(甲11号証)に記載されているように,数値的入力情報によって加工装置などの位置と速度及び動作の切り替え等を行うNC制御の方法(NC(numerical control)プログラムにより制御していく方法)における位置検出手段として,周知の技術事項である。
そして,前記3認定のとおり,引用発明1において,加圧を開始する位置と,加圧を終了する位置とを設定するのであるから,ラム位置を検出するに際して,引用発明1における「サーボモータ15の出力軸が所定量回転する度にパルスを発生するパルス発生器17」に代えて,位置検出手段として周知の技術手段である前記エンコーダを用いたものを採用することに格別の困難性があるということはできない。また,モータの回転量を当該モータに連結されたエンコーダで検出することでラム位置を検出する以上,「モータの回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータ」を採用することが,当業者にとり格別困難性のあるものということもできない。審決が,相違点2について,「引用例1記載の発明におけるリミットスイッチLS1及びパルス発生器17によるラム位置を検出する位置検出手段に代えてモータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段を採用することに,格別の困難性は見当たらない。また,このようにモータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出するのであるから,モータを回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータとすることにも,格別の困難性は見当たらない。」(審決書11頁第7,2)とした判断に誤りはない。
(2) 相違点3について 引用発明1においても,加圧点を開始する位置と加圧を終了する位置を設定するのであるから,ラム位置を検出するに際して,位置検出手段としてモータの回転量を検出するエンコーダを用いたものを採用する以上,これらの位置をモータの回転量に対応して設定することは,当業者であれば容易に想起し得ることであり,これについて格別の困難性があるということはできない。審決の「上記2の相違点2についてで検討したようにモータの回転量を該モータに連結されたエンコーダで検出して前記ラム位置を検出する位置検出手段を備えるのであるから,加圧点と定位置停止点とを含む複数位置をモータの回転量に対応して設定することは,当然になされることであり,格別の困難性は見当たらない。」(審決書11頁第7,3)との判断に誤りはない。
(3) 原告は,訂正発明2における「加圧点と定位置停止点とを含む複数位置」は,ラムの下降する方向の任意の位置であって任意に設定されるものであるのに対し,引用発明1においてはラムの下降する方向の任意の位置を設定するという技術思想はなく,部品としての技術が記載されているだけである,このことは,引用例1では,スリーブの喰い込み量を一定とするための構成しか開示されていないことを意味し,引用発明1における動作制御の基準は,スリーブの先端が加工物の底部に到達したことを検出することにすぎないのに対し,訂正発明2における動作制御の基準は,前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定することができるというものであり,両者が本質的に相違することは明らかである,と主張する。
しかし,引用発明1は,前記3認定のとおり,ラム11の先端に取り付けられたスリーブSが工作物Wの端面より所定量だけ手前のラム11位置を検出する位置にリミットスイッチLS1が設けられること,すなわち,任意の位置に加圧力を加える加圧点を設けること,及び,スリーブSが工作物Wの嵌合穴Waの底部に当接したことを検出した後に指定された量だけスリーブの先端突起が嵌合穴Waの底部に食い込む位置にサーボモータ15の回転量に相当するパルス発生器17のパルス数が設定されること,すなわち,任意の位置に加圧を終了させる定位置停止点を設ける,というものである。したがって,引用発明1は,ラムが下降する任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点を設けるものであるから,原告の「引用発明1においてはラムの下降する方向の任意の位置を設定するという技術思想はなく,部品としての技術が記載されているだけである」との上記主張及びこれを前提とする上記主張に理由がないことは明らかである。
原告は,審決は,電子制御に係る電子プレスとは分野が異なる油圧プレスである引用発明1におけるリミットスイッチLS1や圧入装置における従来のシーケンスコントローラの技術に,電気制御,電子制御の技術を無理に適用し,これをもって容易想到性の判断を行っているものである,と主張する。
しかし,周知の技術であるNC制御の技術をプレス装置に適用することに格別の困難性がないことは前記のとおりであり,原告の主張は採用し得ないものである。
結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁