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関連審決 訂正2002-39123
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  優先権 /  実質的に同一 /  抵触 /  援用権(援用) /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  特許発明 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10837号 審決取消請求事件
原告 インターディジタルテクノロジー コーポレーション
訴訟代理人弁護士 中島和雄
訴訟代理人弁理士 内原晋
同船山武
同渡邉隆
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 小池正彦
同 大場義則
同 井関守三
同 長島孝志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/11/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が訂正2002−39123号事件について平成17年8月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告主文と同旨2被告・ 原告の請求を棄却する。
・ 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 手続の経緯・ 原告は,発明の名称を「多重音声及び/又はデータ信号通信を単一又は複数チャンネルにより同時に行うための加入者RF電話システム」とする特許第2816349号の特許(昭和61年2月26日出願(優先権主張1985年3月20日,米国),平成10年8月21日設定登録。以下「本件特許」という。発明の数は2である。)の特許権者である。
・ 本件特許の特許請求の範囲第1項,第4項に係る発明についての特許に対し,特許異議の申立てがあり,平成11年異議71645号事件として特許庁に係属した。その審理の過程において,原告は,平成12年11月22日,本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)を訂正する請求をした。特許庁は,審理の結果,平成13年10月23日,上記訂正を認めないとした上,「特許第2816349号の特許請求の範囲第1項,第4項に記載された発明についての特許を取り消す。」との決定をした。原告は,この決定を不服として,平成14年3月8日,その取消を求める訴訟を東京高等裁判所に提起し(東京高裁平成14年(行ケ)第112号),現在当庁に係属中である(当庁平成17年(行ケ)第10173号)。
・ 原告は,平成14年5月17日,本件明細書の特許請求の範囲の訂正(以下,この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件明細書及び図面を「訂正明細書」という。)を求める審判を請求した。特許庁は,これを訂正2002-39123号事件(以下「本件審判」という。)として審理した結果,平成15年3月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をした。原告は,この審決を不服として,平成15年7月4日,その取消を求める訴訟を東京高等裁判所に提起した(東京高裁平成15年(行ケ)第291号)。東京高等裁判所は,平成16年12月9日,「特許庁が訂正2002-39123号事件について平成15年3月24日にした審決を取り消す。」との判決(以下「前訴判決」という。)をし,この判決は確定した。
・ 特許庁は,前訴判決の確定をうけて,本件審判の審理を再開した上,平成17年8月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(附加期間90日,以下「本件審決」という。)をし,同年8月17日,その謄本を原告に送達した。本件審決の取消しを求めて原告が提起したのが,本件訴訟である。
2 本件訂正の内容本件訂正は,登録時の特許請求の範囲の第1項及び第4項を訂正するとともに第2項及び第5項を削除し,第3項,第4項及び第6項を第2項,第3項及び第4項にそれぞれ項番変更するというものである(本件明細書のうち,特許請求の範囲以外の部分に訂正はない。)。
本件訂正後の特許請求の範囲の第1項及び第3項の各記載は次のとおりである(下線部は,本件訂正による訂正箇所を示す。)。
「1 公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受けた複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の移動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理するディジタル電話システムであって,前記基地局が,前記局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サンプルとして扱う交換手段(15)と,各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つに関連づけられて動作し,前記交換手段(15)から受けた前記ディジタル信号サンプルを圧縮して多数の個別の圧縮信号を供給する各々が複数の圧縮手段(16)を内蔵する複数の信号圧縮手段(17)と,前記複数の信号圧縮手段(17)の各々に接続され,その信号圧縮手段(17)からの前記圧縮信号をそれら圧縮信号の各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの前記選択された一つにそれぞれ対応の送信チャンネル・ビット・ストリームの中の逐次的時間スロット位置を占めるように送信チャンネル・ビット・ストリームの形に逐次組み上げるチャンネル制御手段(18)と,前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)と,前記交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記信号圧縮手段(17)内の信号圧縮手段(16)にそれぞれ接続する切換手段(25)と,前記局線(14)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求信号に応答して前記圧縮手段(16)のどの一つをその呼接続要求信号対応の前記受信情報信号に関連づけるかと前記送信チャンネル・ビット・ストリーム中のどの時間スロットをその受信情報信号に用いるかとを表すスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,どの時間スロットとどの無線周波数とが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応答してそのメモリを調べ他の局線に未割当ての圧縮手段(16)およびそれと対応の時間スロットへの接続をもたらす前記チャンネル制御手段(18),すなわち前記スロット割当て信号対応の周波数で動作する前記チャンネル制御手段(18)への接続を形成するスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記スロット割当て信号を前記交換手段(15)に供給するとともに,そのスロット割当て信号対応の割当て時間スロットおよび無線周波数を表す信号を前記チャンネル制御手段(18)および前記送信手段(21)経由で前記呼接続要求の宛先加入者局に伝達しその宛先加入者局による所要の時間スロットおよび無線周波数の設定に備える遠隔接続中央処理ユニット(20)と,前記遠隔接続中央処理ユニット(20)に接続され前記スロット割当て信号に応答してそのスロット割当て信号の指示する前記圧縮手段(16)への接続を前記切換手段(25)に形成させる呼切換処理手段(24)とを含むことを特徴とするディジタル電話システム。」(以下,この発明を「本件訂正第1発明」という。)「3 公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受けた複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の移動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理するディジタル電話システムであって,前記基地局が,前記局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サンプルとして扱う交換手段(15)と,複数の送信チャンネル回路であって,前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの互いに異なる一つに各々が割り当てられ,前記交換手段(15)からそれぞれ受けた前記ディジタル信号サンプルを圧縮して多数の個別の圧縮信号を生ずる複数の圧縮手段(16)内蔵の信号圧縮手段(17)と,前記圧縮手段(16)に接続され前記圧縮信号をそれら圧縮信号の各々が送信チャンネル・ビット・ストリーム内逐次的時間スロット位置を占めるように送信チャンネル・ビット・ストリームの形に逐次組み上げるチャンネル制御手段(18)と,前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して被変調副搬送波を生ずる変調手段(19)とを各々が有する複数の送信チャンネル回路と,前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被変調信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)と,前記交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記圧縮手段(16)にそれぞれ接続する切換手段(25)と,前記局線(14)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求信号に応答して前記送信チャンネル回路のどの一つおよびどの時間スロット位置およびその送信チャンネル回路中の前記圧縮手段(16)のどの一つに前記呼接続要求信号対応の前記受信情報信号を関連づけるべきかを表すスロット割当て信号,すなわちその情報信号に周波数と時間スロット位置とを割り当てるスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記周波数の各々についてどの時間スロットが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応答してそのメモリを調べ他の局線に未割当ての時間スロットを含む前記送信チャンネル回路のある一つとそれら未割当ての時間スロットの一つと前記送信チャンネル回路中の信号圧縮手段であって他の局線に未割当ての信号圧縮手段とへの接続を形成するスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記スロット割当て信号を前記交換手段(15)に供給し,そのスロット割当て信号対応の割当て時間スロットおよび無線周波数を表す信号を前記チャンネル制御手段(18)および前記送信手段(21)経由で前記呼接続要求の宛先加入者局に伝達しその宛先加入者局による所要の時間スロットおよび無線周波数の設定に備える遠隔接続中央処理ユニット(20)と,前記遠隔接続中央処理ユニット(20)に接続され前記スロット割当て信号に応答してそのスロット割当て信号の指示する前記圧縮手段(16)への接続を前記切換手段(25)に形成させる呼切換処理手段(24)とを含むことを特徴とするディジタル電話システム。」(以下,この発明を「本件訂正第2発明」という。)3 本件審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,下記・及び・の理由により,本件訂正は認められない,とするものである。
・ 発明の技術内容がどういうものであるかは,特段の事情がある場合を除き,特許請求の範囲の記載に基づき認定されるべきである(最高裁判所昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決,以下「リパーゼ事件最高裁判決」という。)から,訂正明細書の特許請求の範囲の第1項,第3項の記載をみると,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明は,それぞれ,「前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」,「前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被変調信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」を構成要件としていることがみてとれるが,上記各記載を素直に読めば,上記各構成要件は,「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」とも解されるところ,そのようなことは願書に添付した明細書又は図面には記載されていないから,本件訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条(以下,本判決において「特許法126条」という場合は,上記改正前の規定をいう。)1項ただし書の規定を満たしていない(以下「理由A」という。)。
・ 本件訂正第1発明,本件訂正第2発明は,いずれも,下記刊行物1乃至2記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,独立特許要件を満たさず,本件訂正は特許法126条3項の規定に違反する(以下「理由B」という。)。
刊行物1 「電子通信学会論文誌(J64-B)第9号」(昭和56年9月25日,社団法人電子通信学会発行,1016頁〜1023頁,「TD-FDMA移動通信方式の検討」)(甲1。以下,刊行物1に記載された発明を「引用発明」という。)刊行物2 特開昭54-60806号公報(甲2)本件審決は,上記結論を導くに当たり,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明と引用発明とを対比・検討し,次のとおり認定判断した(審決書15頁36行〜19頁37行,20頁6行〜21頁25行)。
ア 本件訂正第1発明について・ 本件訂正第1発明が,公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受けた複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の移動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理するディジタル電話システムであるとする点は,引用発明との実質的な差異には当たらない。
・ 本件訂正第1発明において,前記基地局が,局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サンプルとして扱う交換手段(15)を含むとする点は,引用発明との実質的差異には当たらない。
・ 本件訂正第1発明において,基地局が,各々が複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つに関連づけられて動作し,交換手段(15)から受けた前記ディジタル信号サンプルを圧縮して多数の個別の圧縮信号を供給する各々が複数の圧縮手段(16)を内蔵する複数の信号圧縮手段(17)を含むとする点は,引用発明と実質的差異はない。
・ 本件訂正第1発明において,基地局が,複数の信号圧縮手段(17)の各々に接続され,その信号圧縮手段(17)からの圧縮信号をそれら圧縮信号の各々が複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つにそれぞれ対応の送信チャンネル・ビット・ストリームの中の逐次的時間スロット位置を占めるように送信チャンネル・ビット・ストリームの形に逐次組み上げるチャンネル制御手段(18)を含むとする点は,引用発明と実質的差異はない。
・ 本件訂正第1発明において,基地局が,「送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)を含む」とする技術内容については,「システムの初期化に際して周波数の割当てに基づく設定がなされる」と解される(以下,この解釈を「解釈A」といい,このように捉えた本件訂正第1発明を「本件訂正第1発明A」という。)ほかに,「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」とも解される(以下,この解釈を「解釈B」といい,このように捉えた本件訂正第1発明を「本件訂正第1発明B」という。)ところ,送信手段が上記いずれのものであるとしても,下記@及びAのとおり,当業者が容易に導き出せることにすぎない。
@ 前訴判決では,前審決が,本件訂正第1発明Aについて,引用発明の基地局の送信機と本件訂正第1発明Aの送信手段とに実質的な差異はないとした点に関し,刊行物1には,送信機が複数の周波数切換可能であるとの記述がないのであるから,引用発明の基地局の送信機と本件訂正第1発明Aの送信手段とに実質的な差異はないとした点は誤りである旨判示しているが,送信周波数を切換えるようにするといったことは本件出願前普通に知られたこと(必要ならば,例えば,特開昭55-147842号公報(甲10)を参照されたい(季節,時間等に応じて送信周波数を切換えることが記載されている。)。)であるから,引用発明において,気象条件等に応じて送信機の周波数を切換えるとすること,そしてそのための切換手段を備えるとすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
A 本件訂正第1発明Bについては,送信手段(21)が,文字どおりに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるということであるが,刊行物2(前訴判決では,本件訂正第1発明Aを否定する刊行物ではないと判示されているものの,本件訂正第1発明Bを否定する刊行物ではないとは判示されていない。)には,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能にした送信機が記載されており,引用発明に適用して,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能とすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
・ 本件訂正第1発明において,基地局が,交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記信号圧縮手段(17)内の信号圧縮手段(16)にそれぞれ接続する切換手段(25)を含むとする点は,引用発明と実質的差異はない。
・ 本件訂正第1発明において,基地局に含まれる遠隔接続中央処理ユニット(20)が,局線(14)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求信号に応答して前記圧縮手段(16)のどの一つをその呼接続要求信号対応の前記受信情報信号に関連づけるかと前記送信チャンネル・ビット・ストリーム中のどの時間スロットをその受信情報信号に用いるかとを表すスロット割当て信号を発生するとする点,及び,スロット割当て信号を交換手段(15)に供給するとともに,そのスロット割当て信号対応の割当て時間スロット及び無線周波数を表す信号をチャンネル制御手段(18)及び送信手段(21)経由で呼接続要求の宛先加入者局に伝達しその宛先加入者局による所要の時間スロット及び無線周波数の設定に備えるとする点は,引用発明と格別の差異がない。
ただ,本件訂正第1発明と引用発明とは,基地局に含まれる遠隔接続中央処理ユニット(20)によるスロット割当て信号の発生に関し,本件訂正第1発明においては,どの時間スロットとどの無線周波数とが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応答してそのメモリを調べ他の局線に未割当ての圧縮手段(16)及びそれと対応の時間スロットへの接続をもたらす前記チャンネル制御手段(18),すなわち前記スロット割当て信号対応の周波数で動作する前記チャンネル制御手段(18)への接続を形成するとしているのに対し,引用発明にはその点についての記載がない点」で相違するが,刊行物2には,親局装置内の周波数,タイムスロット制御回路15の中央処理装置15-7は,メモリ15-8内に各周波数帯及びタイムスロット使用状況をファイルしておき刻々変る各周波数帯及びタイムスロットの使用状況から現在用いられている周波数帯及びタイムスロット番号の指定,端末装置から到来する電波の復調並びに並列変換制御,及び多重化回路15-2による多重化制御等を行うことが記載されており,これを引用発明に適用して,基地局に,どの時間スロットとどの無線周波数とが割当てずみであるかを示すメモリを維持し,CPUが呼接続要求に応答してそのメモリを調べ他の局線に未割当ての圧縮手段及びそれと対応の時間スロットへの接続をもたらすMultiplexer,すなわちスロット割当て信号対応の周波数で動作するMultiplexerへの接続を形成するとすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
イ 本件訂正第2発明について・ 本件訂正第2発明が,「公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受けた複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の移動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理するディジタル電話システム」であるとする点は,上記アにおいて検討したと同様であって,引用発明の構成と実質的な差異はない。
・ 本件訂正第2発明において,基地局が,「前記局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サンプルとして扱う交換手段(15)」,「交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記圧縮手段(16)にそれぞれ接続する切換手段(25)」,「前記局線(14)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求信号に応答して前記送信チャンネル回路のどの一つおよびどの時間スロット位置およびその送信チャンネル回路中の前記圧縮手段(16)のどの一つに前記呼接続要求信号対応の前記受信情報信号を関連づけるべきかを表すスロット割当て信号,すなわちその情報信号に周波数と時間スロット位置とを割り当てるスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記周波数の各々についてどの時間スロットが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応答してそのメモリを調べ他の局線に未割当ての時間スロットを含む前記送信チャンネル回路のある一つとそれら未割当ての時間スロットの一つと前記送信チャンネル回路中の信号圧縮手段であって他の局線に未割当ての信号圧縮手段とへの接続を形成するスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記スロット割当て信号を前記交換手段(15)に供給し,そのスロット割当て信号対応の割当て時間スロットおよび無線周波数を表す信号を前記チャネル制御手段(18)および前記送信手段(21)経由で前記呼接続要求の宛先加入者局に伝達しその宛先加入者局による所要の時間スロットおよび無線周波数の設定に備える遠隔接続中央処理ユニット(20)」を含むとする点は,上記アにおいて検討したと同様である。
・ 本件訂正第2発明において,基地局が,信号圧縮手段(17),チャンネル制御手段(18),変調手段(19)を有する複数の送信チャンネル回路を含むとする点は,引用発明と実質的な差異はない。
また,本件訂正第2発明における信号圧縮手段(17),チャンネル制御手段(18)の構成内容については,上記アにおいて検討したと同様である。
・ 本件訂正第2発明において,送信手段(21)が変調手段(19)からの被変調副搬送波を入力するとする点は,引用発明と実質的な差異はない。
また,本件訂正第2発明における送信手段(21)の構成内容については,上記アにおいて検討したと同様である。
・ 本件訂正第2発明において,基地局が,「前記遠隔接続中央処理ユニット(20)に接続され前記スロット割当て信号に応答してそのスロット割当て信号の指示する前記圧縮手段(16)への接続を前記切換手段(25)に形成させる呼切換処理手段(24)」を含むとする点は,引用発明との実質的差異には当たらない。
原告主張の取消事由の要点
本件審決の理由Aの判断は,前訴判決の拘束力及び手続上の信義則に反するという誤りがある上,新規事項を含むとの判断自体が誤りであり,また,本件審決の理由Bの判断は,前訴判決の拘束力に反するという誤りがある上,進歩性(独立特許要件)の判断自体にも誤りがあり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。
1 理由Aの判断の誤り本件審決は,理由Aに関して,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明の構成要件に共通する「前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」との記載につき,上記記載を素直に読めば,それら構成要件は,「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」(この解釈は,本件審決が理由Bに関して示した「解釈B」と同じである。)とも解されるとした上,そのようなことは,願書に添付した明細書又は図面には記載されていないとして,特許法126条1項ただし書きの規定を満たしていないと判断したが,次のとおり,誤りである。
・ 前訴判決の拘束力違反ア 前訴判決(甲9)は,前審決が,仮定的解釈の位置づけにおいて,「仮に,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるとしたとしても,上記刊行物2には,周波数を切り換えて用いる送信機は,上記刊行物2に示されているように,本件出願前に知られているのであるから,これを上記刊行物1記載の移動通信システムの送信機Txに適用するとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。」(甲9添付の審決書17頁4行〜9行)と判断したことについて,「審決の上記判断は,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であることを前提に,これを引用発明との相違点ととらえて判断した趣旨と考えられるが,本件訂正第1発明の送信手段(21)がシステムの使用中に任意のタイミングでその周波数を切り換えて使用されるものであることは本件明細書に記載がなく,審決のとらえた点は必ずしも適切な相違点ということはでき」ない(22頁15行〜20行)として斥けたものであり,明細書に記載のない本件審決の解釈Bのごとき仮定的解釈は採用できない旨判示したものである。
イ 前訴判決(甲9)は,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明の「複数の周波数切換可能な送信手段(21)」が,複数の送信手段の各々が周波数切換可能なものであることを意味していることは,訂正明細書(甲5)に,「『基地局は,チャンネルが選択自由である周波数帯域454〜460MHzバンド内のFCC25KHz間隔の周波数チャンネルのいずれかのチャンネル又はすべてのチャンネルによる送信及び受信が可能である。各々の音声チャンネルに対するチャンネル周波数の選択は一度に1チャンネルずつ基地局によって自動的に行われるが,基地局に備えてある操作員制御卓のインタフェースによってオーバライドすることができる。』(11頁19〜24行),『RF装置は全システムで使用されている互いに異なる周波数で動作するようにCCU制御機能によってプログラムされている』(108頁9〜11行),『基地局は普通の場合,正常運用時には動作周波数や送信電力レベルを変更しない。送信及び受信部は,26チャンネルの各々に完全同調可能である。』(109頁5〜6行)と記載され,基地局の複数の送信手段が複数の周波数チャンネルの各々で送信できるように周波数切換可能であることが示されていることからも裏付けられるということができる。」と判示している(21頁10行〜23行)。
ウ 以上によれば,本件審決の理由Aの判断は,前訴判決(甲9)が示した判断に反するものであり,同判決の拘束力に違反する。
なお,本件審決は解釈Bを示すに当たりリパーゼ事件最高裁判決を援用しているが,同判決は,そもそも訂正の根拠記載の有無を問題とする場合を射程とするものではない。また,本件審決のように特許請求範囲の文言が一義的に明確とはいえないことを前提とするのであれば,リパーゼ事件最高裁判決の判示に従い,明細書の記載を参酌して発明の要旨を認定すべきである。したがって,本件審決がリパーゼ事件最高裁判決を援用したのは誤りである。
・ 手続上の信義則違反本件訂正が特許法126条1項ただし書に違反するか否かは,独立特許要件(進歩性)に対し,論理的に先立つべき判断であるが,前審決は,この点に言及することなく,直ちに独立特許要件(進歩性)の判断をしたものであり,前訴判決もそうした理解を前提として進歩性に関する取消事由について判断したはずである。かかる経緯にもかかわらず,前訴判決によって前審決が取り消された後,理由Aによって本件訂正を拒むことは,手続上の信義則に反するものであって,許されない。
・ 新規事項を含むとした判断の誤り本件訂正第1発明,本件訂正第2発明に共通する「前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切替可能な送信手段(21)」との構成は,前訴判決(甲9)が具体的に指摘している(前記・イ参照)とおり,登録時の本件明細書(以下「本件訂正前明細書」という。甲3の2)の記載に裏付けられているから,特許法126条1項ただし書の規定に違反するものではない(前訴判決が言及したのは訂正明細書(甲5)であるが,特許請求の範囲の記載を除き,訂正前明細書の記載と同一である。)。
なお,本件審決及び被告はリパーゼ事件最高裁判決を援用するが,前記・ウのとおり,同判決は,そもそも訂正の根拠記載の有無を問題とする場合を射程とするものではないし,本件審決のように特許請求範囲の文言が一義的に明確とはいえないことを前提とするのであれば,同判決の判示に従い,明細書の記載を参酌して発明の要旨を認定すべきであるから,本件審決及び被告がリパーゼ事件最高裁判決を援用するのは誤りである。
2 理由Bの判断の誤り・ 前訴判決の拘束力違反ア 本件訂正第1発明について本件審決は,本件訂正第1発明の「前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」について,解釈Aのほかに解釈Bとも解されるとした上,上記送信手段がいずれのものであるとしても,当業者が容易に導き出せることにすぎないとした(前記第2,3・ア・)が,上記判断は,次のとおり,前訴判決の拘束力に反する違法なものである(なお,本件審決は,解釈Aをとった場合について「訂正第1発明A」,解釈Bをとった場合について「訂正第1発明B」と呼んでいるが,本件訂正第1発明が二種あるわけではないから,用語として不適当である。)。
・ 本件訂正第1発明の上記構成要件について,前訴判決が前提とした解釈Aのほかに解釈Bとも解されるとすること自体が,前記1・のとおり,前訴判決の拘束力に反する。
・ 本件審決は,解釈Aをとった場合について,刊行物1に複数の周波数切換可能との記載がなくとも,送信周波数を切換えるようにすることは普通に知られていたとして,甲10を例示し,引用発明において送信機の周波数を切換えることは,当業者が適宜なし得ることにすぎないと判断しているが,従前の引用例を補強する程度の追加資料にすぎないものでは,審決取消判決の拘束力を免れることはできない(最高裁判所平成4年4月28日判決・民集46巻4号245頁)から,周知技術の補強を行ったにすぎない本件審決の上記判断は前訴判決の拘束力に反するものである。
・ 本件審決は,解釈Bをとった場合について,刊行物2記載の技術を引用発明に適用して,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能とすることは,当業者が容易になし得ることにすぎないと判断しているが,前記・のとおり,解釈Bを採用することができないことに加え,前訴判決は,本件訂正第1発明が基地局の複数の送信手段が各々周波数切換可能なものと認定した上,刊行物2には基地局に相当する親局の送信機の周波数を切換えることは記載も示唆もなく,刊行物2記載の技術を引用発明に適用しても,基地局の送信機を周波数切換可能とすることが容易想到とはいえないと判断したものであるから,本件審決の上記判断全体が前訴判決の拘束力に反するものである。
イ 本件訂正第2発明について本件訂正第2発明の「送信手段(21)」の構成内容についての本件審決の判断(前記第2,3・イ・)は,本件訂正第1発明(上記ア)と同様の理由により,前訴判決の拘束力に反する。
・ 認定判断手法の誤り進歩性の有無は,引用例の記載と特許発明との間の距離の大小に関わる判断であるから,引用例の記載内容は客観的に認定されるべきである。
しかるに,本件審決は,「当時の技術常識を加味して整理する」(審決書12頁32行)として,主たる引用例である刊行物1の記載内容A〜O(審決書6頁12行〜12頁32行)を,審判官の主観的評価を加えた(@)〜(IC)(審決書12頁35行〜14頁21行)に置き換えている。
また,本件審決における刊行物1の記載内容M〜O(図7の記載内容)の認定は,それ自体が客観的なものでなく,審判官の主観的評価を加えたものである。
このように,二重に主観的評価を加えることにより,引用例の記載内容を特許発明に近づけて認定し,これを特許発明と対比して進歩性の判断を行うという手法によれば,引用例の記載と特許発明との距離を実際よりも過小に見積もることとなり,進歩性判断の客観性が担保されないから,本件審決の認定判断手法は全体として,違法である。
・審理不尽本件審決は,原告が本件審判において刊行物1の記載内容の理解のために参照されるべきものとして提出した刊行物1の著者らの文献(審判請求書(甲4)に「甲第1号証の1」ないし「甲第5号証」として添付した文献)について,何ら理由を挙げることなく考慮外としており,審理を尽くしていない。
・ 刊行物1の記載内容の認定の誤りア 本件審決における刊行物1の記載内容M〜O(審決書12頁12行〜32行)の認定はいずれも根拠を欠き,誤りである。
イ 本件審決における刊行物1の記載内容に関する認定判断(i)〜(IC)(審決書12頁35行〜14頁21行)のうち,(A)後段,(B)前段,(C),(D),(F),(G),(H),(IA)前段,(IB),(IC)はいずれも根拠を欠き,誤りである。
・ 対比検討の誤りア 本件審決における本件訂正第1発明と引用発明との対比・検討(審決書15頁36行〜19頁37行)はいずれも根拠を欠き,誤りである。
なお,本件審決は特開昭55-147842号公報(甲10)を必要ならば参照すべき資料として挙げているが,甲10記載の発明は,公衆通信用電話網と複数の移動加入者局との間の同時並行の多数の交信を可能にする基地局に関するものではなく,したがって,呼接続要求のあった度ごとに周波数・時間スロットの組合せを基地局で割り当てる本件訂正第1発明と同等の構成を示唆するものではなく,これをもって周知例ということはできない。
イ 本件審決における本件訂正第2発明と引用発明との対比・検討(審決書20頁6行〜21頁25行)はいずれも根拠を欠き,誤りである。
被告の反論の要点
本件審決の理由A,理由Bのいずれの認定判断にも,違法や誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 理由Aの判断の誤りについて・ 前訴判決の拘束力違反についてア 前訴判決(甲9)は,前審決が,本件訂正第1発明の「周波数切換可能な送信手段(21)」を「システムの初期化に際して周波数の割当てに基づく設定がなされ変更がされないもの」であるとして引用発明との実質的な差異はないとした点を,否定したものであり,また,刊行物2については,上記認定判断に関連して,その適用を否定したものにすぎず,引用発明と刊行物2記載の発明や他の周知技術に基づく容易想到性について,全面的に否定したものではない。また,前訴判決は,本件審決における新規事項違反の指摘との関係で,新規事項違反でないとの根拠を示したものでもない。
イ 原告は,本件審決及び被告が,リパーゼ事件最高裁判決を援用したことを誤りであるとするが,同判決は,発明の技術内容は,特段の事情がある場合を除き,特許請求の範囲の記載に基づき認定されるべきであるという原則を判示したものであり,訂正明細書の特許請求の範囲の記載を素直に読むと,本件審決が認定したとおり読みとれるのであるから,本件審決が同判決を援用して判断したことに違法性はない。
・ 手続上の信義則違反について平成17年2月4日付け訂正拒絶理由通知書により,理由Aに係る新規事項違反を指摘しており,原告の主張は根拠がない。
・ 新規事項を含むとした判断の誤りについて上記・イのとおり,訂正明細書の特許請求の範囲の記載を素直に読むと,本件審決が認定したとおり読みとれるのであり,本件審決が指摘したとおり,そのようなことは訂正前明細書に記載されていない。
また,原告の主張をみても,本件訂正が新規事項違反でないとの根拠は示されていない。
2 理由Bの判断の誤りについて・ 前訴判決の拘束力違反についてア 前訴判決は,@前審決が,本件訂正第1発明の周波数切換可能な送信手段(21)とは,システムの初期化に際して周波数の割当てに基づく設定がなされ変更がされないものであり,本件訂正第1発明がこれを含む点は引用発明との実質的な差異には当たらないとした点を,否定したものであり,また,A刊行物2については,前審決が,「仮に,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるとしたとしても」と仮定して,周波数を切り換えて用いる送信機は,刊行物2に示されているように,本件出願前に知られているのであるから,これを引用発明に適用するとすることは当業者が容易になし得ることにすぎないと判断した点について,「審決の上記判断は,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であることを前提に,これを引用発明との相違点ととらえて判断した趣旨と考えられるが,本件訂正第1発明の送信手段(21)がシステムの使用中に任意のタイミングでその周波数を切り換えて使用されるものであることは本件明細書に記載がなく,審決のとらえた点は必ずしも適切な相違点ということはできず,本件訂正第1発明の送信手段(21)が周波数切換可能な構成を有しているという引用発明との相違点について判断したものということはできない」として,その適用を否定したものである。
したがって,前訴判決は,引用発明と,刊行物2記載の発明や他の周知技術に基づく容易想到性について,全面的に否定したものではない。
イ・ 本件審決は,前審決が本件訂正第1発明と引用発明との一致点とした点を否定した前訴判決を踏まえ,この点を本件訂正第1発明Aとの相違点として抽出し,その相違点について判断したものである。
また,本件審決は,特許請求の範囲の記載を素直に読めば,本件訂正第1発明Bも記載されているとして,その判断をしているが,前審決では本件訂正第1発明Bについて判断しておらず,前訴判決もこの点について判断していない。
・ 本件審決の本件訂正第2発明についての判断についても,本件訂正第1発明の場合(上記・)と同様である。
ウ したがって,本件審決は,前訴判決の拘束力に反するものではない。
・ 認定判断手法の誤りについて出願当時あるいは刊行物の発行当時の技術常識を前提として,発明あるいは技術を提示するのはごく普通に行われていることであり,技術常識を踏まえて,刊行物1記載の技術を解釈することに何ら問題はない。
原告は,本件審決が刊行物1の記載事項の認定に際して二重の主観的評価を加えたと主張するが,本件審決は,刊行物1の図7の記載に基づいて記載事項M〜Oを認定したものであり,また,(@)〜(IC)については,要するに,審決のどの記載箇所で技術常識に触れるかということににすぎないから,原告の主張は当を得ないものである。
・ 審理不尽について本件審決は,刊行物1に基づいて判断したものであるところ,原告が指摘する刊行物1の著者らの文献は,刊行物1と同時期ないしそれ以降のものであって,技術常識を示す文献としては不適切であるから,原告の主張は当を得ないものである。
・ 刊行物1の記載内容の認定の誤りについて本件審決の認定判断に誤りはない。
・ 対比検討の誤りについて本件審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 前訴判決の拘束力について本件は,本件特許の訂正審判請求についてされた二度目の審決に対する取消訴訟であり,前審決を取り消した前訴判決の拘束力の範囲が争点となっているので,まず,この点について検討する。
・ 前訴の経緯ア前審決前審決は,本件第1訂正発明,本件第2訂正発明と引用発明との一致点・相違点については,本件第1訂正発明における送信手段(21)に関する説示である下記・及び本件第2訂正発明における送信手段(21)に関する説示である下記・の点を除き,本件審決における認定判断(本件第1訂正発明については前記第2,3・ア・〜・及び同・〜・,本件第2訂正発明については前記第2,3・イ・〜・,・前段及び・)と概ね同様の認定判断をし,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明は,それぞれ,刊行物1,2(前審決における刊行物1,2は,本件審決における刊行物1,2と同一の文献である。)記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件審判の請求を不成立としたものである。
・ 本件第1訂正発明における送信手段(21)について「上記刊行物1記載の移動通信システムにおいて,基地局は,3.・(E)(本判決注:「3.・(F)」の誤記と認められ,その内容は後記・のとおり。)で述べたように,送信機の周波数が変更可能である複数の送信機を備えている。一方,本件訂正第1発明の周波数切換可能な送信手段(21)とは,本件特許明細書(本判決注:特許第2816349号公報(本件甲3の2))の第53頁右欄第6〜22行の記載を参酌すると,システムの初期化に際して周波数の割当てに基づく設定がなされ変更されないものである。してみれば,本件訂正第1発明において,基地局が,送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)を含むとする点は,上記刊行物1記載の移動通信システムとの実質的差異には当たらない。
仮に,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるとしたとしても,上記刊行物2には,周波数を切り換えて用いる送信機は,上記刊行物2に示されているように,本件出願前に知られているのであるから,これを上記刊行物1記載の移動通信システムの送信機Txに適用するとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。」(甲9添付の審決書16頁30行〜17頁9行)・ 「また,本件第2訂正発明における送信手段(21)の構成内容については,上記4-1(本判決注:上記・の説示を意味するものと解される。)において検討したと同様である。」(甲9添付の審決書19頁14行〜16行)・ なお,前審決は,引用発明の内容を認定するに際し,次のとおり説示した。
「(F)基地局は,移動機に情報信号を所定の搬送波を用いて送信するための送信機と移動機から所定の搬送波を用いて送信されてきた情報信号を受信する受信機を備える。
送信機,受信機の周波数を変更できる構成とすることはごく普通のこと(例えば,PLL回路であれば,その分周比を変えることにより変更する)であって,上記刊行物1に記載された送信機Txの周波数が変更可能であるとすることに,格別な阻害要因はない。」(甲9添付の審決書12頁2行〜8行)。
イ 前訴判決前訴判決(甲9)は,次のとおり認定判断をして,前審決を取り消した。
・ 「刊行物1の記載等を総合すれば,刊行物1におけるTD-FDMA方式が複数の周波数チャンネルを備えるものであり,これを実現する移動通信システムの基地局が,複数の周波数チャンネルに対応して複数の送信機を有していることを認めることができる。……ところで,審決は,……『基地局は,……送信機の周波数が変更可能である複数の送信機を備えている。』として,上記複数の送信機が周波数変更可能な送信機であると認定している。しかし,……刊行物1には,基地局の送信機『Tx.』が周波数変更可能な構成をもった送信機であるとの記載はないし,基地局の送信機『Tx.』の周波数を切り換えて使用することの記載も,その周波数を切り換えることが可能であるとの示唆も見当たらない。審決の上記認定は,『送信機,受信機の周波数を変更できる構成とすることはごく普通のこと(例えば,PLL回路であれば,その分周比を変えることにより変更する)であって,上記刊行物1に記載された送信機Txの周波数が変更可能であるとすることに,格別な阻害要因はない』(審決書12頁5〜8行)ことを理由とするもののようであるが,一般に,送信機や受信機の周波数を変更することができ,そのような構成をもった送信機,受信機が周知のものであるとしても,そのことから当然に,刊行物1の基地局の送信機がその周波数を変更できるものであるといえないことはいうまでもなく,他に,刊行物1の基地局の送信機『Tx.』が周波数変更可能な送信機であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,引用発明において,基地局は,送信機の周波数が変更可能である複数の送信機を備えているとした審決の認定は誤りである。」(19頁13行〜20頁10行)・ 「本件訂正第1発明の『周波数切換可能な送信手段(21)』についての特許請求の範囲の記載は,『前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)』というものである。
上記記載によれば,本件訂正第1発明においては,基地局に複数の送信手段(21)があること,それらの送信手段が各々周波数切換可能なものであることが明らかである。
この点について,被告は,本件訂正第1発明の『基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)』とは,『複数の送信手段の内のある1つの送信手段は基地局が選択したある1つの周波数で,別の1つの送信手段は,基地局が選択した別の1つの周波数で,それぞれ送信でき,複数の送信手段全体により,基地局により選択された複数の無線周波数の任意の一つでそれぞれ送信できる』ことを意味しており,基地局の送信手段が『基地局の無線周波数の任意の一つで送信できる』のは,各送信手段の周波数が切換可能だからではなく,互いに周波数が異なるように設定された複数の送信手段が具備され,それらが切換使用されるように構成されているからであると主張する。
しかし,本件訂正第1発明の『複数の周波数切換可能な送信手段』が,複数の送信手段の各々が周波数切換可能なものであることを意味していることは,上記特許請求の範囲の記載自体から明らかであり,これを『複数の送信手段全体により,基地局により選択された複数の無線周波数の任意の一つでそれぞれ送信できる』ことを意味すると解することはできない。このことは,本件訂正の審判請求書に添付された訂正明細書(甲6号証(本判決注:本件甲5))に,『基地局は,チャンネルが選択自由である周波数帯域454〜460MHzバンド内のFCC25KHz間隔の周波数チャンネルのいずれかのチャンネル又はすべてのチャンネルによる送信及び受信が可能である。各々の音声チャンネルに対するチャンネル周波数の選択は一度に1チャンネルずつ基地局によって自動的に行われるが,基地局に備えてある操作員制御卓のインタフェースによってオーバライドすることができる。』(11頁19〜24行),『RF装置は全システムで使用されている互いに異なる周波数で動作するようにCCU制御機能によってプログラムされている』(108頁9〜11行),『基地局は普通の場合,正常運用時には動作周波数や送信電力レベルを変更しない。送信及び受信部は,26チャンネルの各々に完全同調可能である。』(109頁5〜6行)と記載され,基地局の複数の送信手段が複数の周波数チャンネルの各々で送信できるように周波数切換可能であることが示されていることからも裏付けられるということができる。したがって,被告の上記主張は,本件訂正第1発明の送信手段自体が周波数切換可能であることを看過している点において失当であり,採用することができない。」(20頁11行〜21頁25行)・ 「引用発明の基地局は,複数の送信機『Tx.』を備えているものの,周波数が変更可能である送信機を備えているかどうかは明らかでないから,本件訂正第1発明と引用発明とは,その基地局に備えられている複数の送信手段(送信機)が周波数切換可能な送信手段(送信機)であるかどうかという点で相違しているというべきであり,本件訂正第1発明の『基地局が,……周波数切換可能な送信手段(21)を含むとする点は,上記刊行物1記載の移動通信システムとの実質的差異には当たらない』とした審決の認定は誤りであるといわなければならない。」(21頁26行〜22頁7行)・ 「審決は,……『仮に,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるとしたとしても,上記刊行物2には,周波数を切り換えて用いる送信機は,上記刊行物2に示されているように,本件出願前に知られているのであるから,これを上記刊行物1記載の移動通信システムの送信機Txに適用するとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。』(審決書17頁4〜9行)と判断している。
しかし,審決の上記判断は,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であることを前提に,これを引用発明との相違点ととらえて判断した趣旨と考えられるが,本件訂正第1発明の送信手段(21)がシステムの使用中に任意のタイミングでその周波数を切り換えて使用されるものであることは本件明細書に記載がなく,審決のとらえた点は必ずしも適切な相違点ということはできず,本件訂正第1発明の送信手段(21)が周波数切換可能な構成を有しているという引用発明との相違点について判断したものということはできない(なお,刊行物2(甲4号証(本判決注:本件甲2))には,基地局に相当する親局の送信機の周波数を切り換えることは記載も示唆もないから,刊行物2の技術を引用発明に適用しても,基地局の送信機を周波数切換可能とすることが容易想到であるともいえない。)。
なお,審決は,引用発明の内容を認定するに際し,『送信機,受信機の周波数を変更できる構成とすることはごく普通のこと……であって,上記刊行物1に記載された送信機Txの周波数が変更可能であるとすることに,格別な阻害要因はない』(審決書12頁5〜8行)と説示しているが,仮に,この説示をもって,引用発明における基地局の送信機が周波数変更可能でないことを前提に,これを本件訂正第1発明との相違点ととらえて判断したものとみる余地があるとしても,本件全証拠を検討しても,審決が『ごく普通のこと』というような技術常識が存在していること,あるいは阻害要因の存在していないことを的確に認めるに足りる証拠はないのであって,上記説示はその裏付けを欠くものといわなければならない。」(22頁8行〜23頁9行)・ 「本件訂正第1発明と引用発明とは,少なくとも『周波数切換可能な送信手段(21)』の点で相違するから,この点を相違点とすべきであるところ,審決は,これを看過し,この相違点について適切な判断をしていない誤りがあるというべきである。」(23頁10行〜13行)・ 「本件訂正第2発明は,『前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被変調信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)』を,その構成に欠くことができない事項とするものであるが,審決は,本件訂正第2発明と引用発明との対比・検討の(エ)において,『本件第2訂正発明における送信手段(21)の構成内容については,上記4-1(判決注:本件訂正第1発明と引用発明との対比・検討)において検討したと同様である。』(審決書19頁21〜22行)と判断している。
……しかし,引用発明が『周波数切換可能な送信手段(21)』を有する点について審決の認定に誤りがあり,審決がこの相違点を看過し,適切な判断をしていないことは,上記1(本判決注:上記・〜・)で検討したとおりであるから,本件訂正第2発明についても,同様に,その点に関する審決の認定判断は誤りである。」(23頁15行〜24頁2行)・ 「以上のとおりであって,審決の認定判断には,本件訂正第1発明及び本件訂正第2発明のいずれについても,上記の誤りがあり,これが審決の結論に影響することは明らかであるから,その余の点について検討するまでもなく,審決は取消を免れない。」(24頁3行〜6行)・ 前訴判決の拘束力の及ぶべき範囲についてア 審決の取消訴訟において審決取消の判決が確定した場合には,審判官は特許法181条の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすべきものであるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟に属するものとして行政事件訴訟法の適用を受けるから,審決を取り消す判決は同法33条1項の規定する拘束力を有するところ,この拘束力は判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は,再度の審理ないし審決において取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。特許無効審判事件についての取消訴訟において,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの審決の認定判断を誤りであるとして,審決が取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。この理は,訂正審判の審決に対する取消訴訟についても,同様に当てはまるものというべきである。すなわち,訂正を拒絶する審決を取り消す判決が確定したときは,審判官は,取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないものであり,したがって,取り消された審決と同様の認定判断を繰り返すこと,これを裏付けるための新たな証拠を提示することは許されない(なお,このことは,取消判決の認定判断に抵触することのない,独立した新たな訂正拒絶理由について,改めて特許権者に通知し,意見陳述の機会を与えた上,再度訂正を拒絶する審決をすることを妨げるものではない。)。
イ これを本件についてみるに,前記・の経緯から明らかなように,前訴判決は,前審決の前記・ア・,・及び・についての認定判断に誤りがあり,本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違する点について適切な判断をしておらず(前記・イ・),本件訂正第2発明についても同様である(前記・イ・)として,前審決を取り消したものであるところ,前訴判決がその結論を導き出す過程において判示した事実認定及び法律判断は,次のとおりである。
・ 本件訂正第1発明においては,基地局に複数の送信手段(21)があること,それらの送信手段が各々周波数切換可能なものであることは,特許請求の範囲の記載自体から明らかであり,このことは訂正明細書の記載によって裏付けられている(前記・イ・)。
・ 刊行物1には,基地局の送信機「Tx.」が周波数変更可能な構成をもった送信機であるとの記載はないし,基地局の送信機「Tx.」の周波数を切り換えて使用することの記載も,その周波数を切り換えることが可能であるとの示唆も見当たらず,他に,刊行物1の基地局の送信機「Tx.」が周波数変更可能な送信機であることを認めるに足りる証拠はない(前記・イ・)。
・ 本件訂正第1発明と引用発明とは,その基地局に備えられている複数の送信手段(送信機)が周波数切換可能な送信手段(送信機)であるかどうかという点で相違しており,本件訂正第1発明の「基地局が,……周波数切換可能な送信手段(21)を含むとする点は,上記刊行物1記載の移動通信システムとの実質的差異には当たらない」とした前審決の認定は誤りである(前記・イ・)。
・ 前審決は,仮定的に,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であることを前提に,これを引用発明との相違点ととらえての判断をしているが,本件訂正第1発明の送信手段(21)がシステムの使用中に任意のタイミングでその周波数を切り換えて使用されるものであることは本件明細書に記載がなく,前審決のとらえた点は適切な相違点ということはできない(前記・イ・)。
・ 刊行物2には,基地局に相当する親局の送信機の周波数を切り換えることは記載も示唆もないから,刊行物2の技術を引用発明に適用しても,基地局の送信機を周波数切換可能とすることが容易想到であるとはいえない(前記・イ・)。
・ 前審決が,引用発明における基地局の送信機が周波数変更可能でないことを前提に,これを本件訂正第1発明との相違点ととらえて判断したものとみる余地があるとしても,前審決が「ごく普通のこと」というような技術常識が存在していること,あるいは阻害要因の存在していないことを的確に認めるに足りる証拠はない(前記・イ・)。
・ 本件訂正第2発明についても同様である(前記・イ・)。
ウ 上記イ・〜・,・に示したとおり,前訴判決は,本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違する点について前審決が適切な判断をしておらず,本件訂正第2発明についても同様であるとしている。
また,前訴判決は,@前審決が,本件訂正第1発明と引用発明が「送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」点で相違するとした点を誤りであるとし(上記イ・),また,A本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違するとした場合においては,刊行物2の技術を引用発明に適用して,上記相違点に係る本件訂正第1発明の構成に想到することが容易であるとはいえず,本件訂正第1発明と引用発明との上記相違点について,これを克服するような技術常識等を認めるに足る証拠はないとし(上記イ・,・),B本件訂正第2発明についても同様である(上記イ・)としている。
この点に関しては,まず,前訴判決が,前審決が本件訂正第1発明と引用発明が「送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」点で相違するとした点を誤りであるとした点(上記@)は,本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違するという前訴判決の上記認定判断と論理的に両立しないものであるから,注意的に否定したものと解することができる。そして,前訴判決が,本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違するとした場合に,刊行物2の技術を引用発明に適用して当該相違点に係る本件訂正第1発明の構成に想到することが容易であるとはいえず,当該相違点を克服するような技術常識等を認めるに足る証拠はないとした点(上記A)は,前審決が仮定的ないし予備的に「周波数切換可能な送信手段(21)」の点を相違点と捉えて行った判断を是認することができる場合には前審決を取り消すべき誤りはないことに帰するという立場から,前審決を取り消すべきとの結論に至るために論理的に必要な判断として当該判断を示したものと解することができる。
そうすると,前訴判決は,前審決が,本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違することを看過した点を誤りとした点にとどまらず,「周波数切換可能な送信手段(21)」の点を相違点と捉えてこれを容易想到と判断した点(上記A,B)についても,判決の結論を導くために必要な認定判断に属するものとして,拘束力を有するというべきである。
2 理由Bの判断の誤りについて原告は,本件審決の「理由B」における認定判断のうち,前記第2,3・ア・及び同イ・の点が,前訴判決の拘束力に反し,違法なものである旨主張する。
・ 本件審決の「理由B」の認定判断本件審決の理由Bは,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明は,いずれも,刊行物1,2記載の発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたとするものであって,前訴判決が引用発明との相違点であるとした本件訂正第1発明,本件第2訂正発明の「周波数切換可能な送信手段(21)」との構成に関しては,本件訂正第1発明は,解釈Aとも解釈Bとも解されるが,いずれのものであるとしても,当業者が容易に導き出せることにすぎないとし(前記第2,3・ア・),本件訂正第2発明についても同様であるとしたものである(前記第2,3・イ・)。
そして,解釈Aについては,「送信周波数を切換えるようにするといったことは本件出願前普通に知られたこと(必要ならば,例えば,特開昭55-147842号公報(本判決注:甲10)を参照されたい(季節,時間等に応じて送信周波数を切換えることが記載されている。)であるから,上記刊行物1記載の発明において,気象条件等に応じて送信機の周波数を切換えるとすること,そしてそのための切換手段を備えるとすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。」(審決書18頁18行〜24行)とし,解釈Bについては,「送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるということであるが,上記刊行物2……には,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能にした送信機が記載されており,上記刊行物1記載の発明に適用して,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能とすることは,当業者が容易になし得ることにすぎない。」(審決書18頁25行〜32行)としたものである。
・ 本件訂正第1発明についてア 解釈Aについて・ 前訴判決は,前記1において認定したとおり,前審決の「送信機,受信機の周波数を変更できる構成とすることはごく普通のこと……であって,上記刊行物1に記載された送信機Txの周波数が変更可能であるとすることに,格別な阻害要因はない」との説示をもって,引用発明における基地局の送信機が周波数変更可能でないことを前提に,これを本件訂正第1発明との相違点ととらえて判断したものとみる余地があるとしても,前審決が「ごく普通のこと」というような技術常識が存在していること,あるいは阻害要因の存在していないことを的確に認めるに足りる証拠はないとし,引用発明との相違点である本件訂正第1発明の「周波数切換可能な送信手段(21)」との構成に関し,これを克服するような技術常識等を認めるに足る証拠はないとしたものである。
これに対し,本件審決の解釈Aに係る認定判断は,「送信周波数を切換えるようにするといったことは本件出願前普通に知られたこと」であるという,前訴判決で否定された「送信機,受信機の周波数を変更できる構成とすることはごく普通のこと」であるという前審決認定と同一の認定を繰り返し,結局,前審決と同じ引用発明に基づいて容易想到との結論を導いたものである。本件審決は,前訴判決において検討されていない甲10に言及しているものの,これは,引用発明との相違点である本件訂正第1発明の「周波数切換可能な送信手段(21)」との構成について当業者が容易想到することができたか否かという点について,引用発明を単に補強するために追加された資料にすぎず,甲10が前訴判決の認定判断と抵触しない独立した新たな訂正拒絶理由を構成するためのものでないことは,本件審決の説示に照らし,明らかである。
前記1・アにおいて説示したとおり,再度の審判手続において,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないものであって,取り消された審決と同様の認定判断を繰り返すこと,これを裏付けるための新たな証拠を提示することは許されないから,本件審決の解釈Aに係る上記認定判断は,前訴判決の拘束力に反するものといわざるを得ない。
・ なお,念のため,仮に甲10について検討したとしても,これには,「本発明は,上記従来の問題を解決するために行ったもので,伝送品質の悪いHF回線を使って陸上固定局と航空機,船舶のように広いサービスエリアを比較的速い速度で移動する移動局とがデータ伝送の送受信を行う際に,時間,周波数,地域等によって時々刻々変化する伝送品質を常に最適に保つため,移動体からの送信データを固定基地局が受信する際には,広範囲の地域内に分散配置した複数の受信局(または受信所)を設け,その各局が移動局よりの複数波を同時受信して基地局に集め,情報の照合と誤り訂正を行って良品質のデータ伝送を確保している。また固定局から移動局にデータを送信する場合には,移動体の行動位置が分かっていればその位置情報に基づいてあらかじめ過去長時間に亘って収集した季節,時間,地域,周波数,電力等をパラメータとする最適周波数のデータから,広い地域に分散配置した送信所のうち最適の送信所を選択して送信するので,常に良好なデータ伝送が行われる。」(2頁左上欄18行〜右上欄16行)などの記載があるにとどまり,「送信手段の各々が周波数切替可能なもの」であることを示す記載はないから,本件訂正第1発明と引用発明との上記の相違点を埋めるものということはできない。
イ 解釈Bについて・ 前訴判決は,前記1において認定したとおり,前審決が,仮定的に,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であることを前提に,これを引用発明との相違点ととらえて判断したことについて,この点は適切な相違点ということはできないとしている。
これに対し,本件審決の解釈Bに係る認定判断は,本件訂正第1発明の送信手段(21)がシステムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であるとした上,刊行物2には,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能にした送信機が記載されており,引用発明に適用して,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能とすることは,当業者が容易になし得ることにすぎないとしたものであって,前訴判決で否定された前審決と実質的に同一の認定判断を繰り返し,結局,前審決と同じく,引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて容易想到との結論を導いたものである。
前記1・ウにおいて説示したとおり,前訴判決が,前審決が本件訂正第1発明と引用発明が「送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」点で相違するとした点を誤りであるとしたのは,前訴判決の拘束力の内容をなす,本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違するという認定判断と,論理的に両立しないものとして注意的に否定したものと解することができる。そして,本件訂正第1発明の解釈として,両者が論理的に両立しないものであることが,前訴判決の理解するとおりであることは明らかであるから,本件審決の解釈Bに係る上記認定判断は,前訴判決の拘束力の内容をなす認定判断と論理的に両立しない認定判断をあえて行ったものであり,前訴判決の拘束力に反するものといわざるを得ない。
・ 被告は,前審決では本件訂正第1発明Bについて判断しておらず,前訴判決もこの点について判断していないと主張する。
本件審決において「本件訂正第1発明B」とは,本件訂正第1発明を解釈Bのように捉えた場合をいうとされているが,解釈B,すなわち「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」という本件審決の文言の趣旨は,必ずしも明確ではない。
しかし,本件審決は,「本件訂正第1発明Bについては,送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」(審決書18頁25行〜26行)としており,これは,前訴判決が否定した前審決の仮定的解釈,すなわち,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,「システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」との解釈と,実質的に同一であり,前訴判決の拘束力の内容をなす本件訂正第1発明と引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」の点で相違するとの認定判断と両立しないものであることは,明らかである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
・ 本件訂正第2発明について本件訂正第2発明は,「前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被変調信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」を,その構成に欠くことができない事項とするものであるが,本件審決は,本件第2訂正発明における送信手段(21)の構成内容については,本件訂正第1発明と引用発明との対比・検討において検討したと同様であると判断したものである(前記第2,3・イ・)。
本件訂正第1発明についての本件審決の認定判断が前訴判決の拘束力に反することは,上記・で検討したとおりであるから,本件訂正第2発明についても,同様に,その点に関する本件審決の認定判断は前訴判決の拘束力に反するというべきである。
・まとめ以上のとおりであって,進歩性(独立特許要件)に関する原告のその余の主張について検討するまでもなく,本件審決の理由Bの判断は,本件訂正第1発明及び本件訂正第2発明のいずれについても前訴判決の拘束力に反するものであり,違法というべきである。
3 理由Aの判断の誤りについて原告は,本件審決の理由Aの判断について,前訴判決の拘束力及び手続上の信義則に反するという誤りがある上,新規事項を含むとの判断自体が誤りである旨主張する。
・ 拘束力違反について本件審決は,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明の「前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」との構成について,「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」とも解されるところ,そのようなことは願書に添付した明細書又は図面には記載されていないから,本件訂正は,特許法126条1項ただし書の規定を満たしていないと判断したものである。
前訴判決は,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明が,刊行物1,2記載の発明に基づき周知技術参酌して当業者が容易に発明をすることができたものであるとの前審決の認定判断の当否を検討する過程において,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明における上記構成についての解釈を示しているが,本件訂正が特許法126条1項ただし書の規定に違反するか否かについて判示したものではない。
そうすると,本件審決の理由Aにおける本件訂正第1発明,本件訂正第2発明の上記構成についての解釈が,前訴判決の拘束力抵触するということはできない。
・ 手続上の信義則違反について一般に,訂正審判請求につき訂正を拒絶すべき複数の理由が想定され得る場合には,審決取消訴訟が繰り返されることを防ぐという観点からは訂正を拒絶する審決においてすべての理由を示すことが好ましいが,迅速な審判手続という観点からは実務上そのようにすることが常に適当であるとまではいえないところであるから,審決には,訂正を拒絶する理由を一つ示せば足り,すべての理由を逐一指摘する必要があるということはできない。そして,当該審決が取り消された場合にあっても,取消判決の認定判断に抵触することのない,独立した新たな訂正拒絶理由について,改めて特許権者に通知し,意見陳述の機会を与えた上,再度訂正を拒絶する審決をすることを妨げるものではないことは,前記1・アにおいて説示したとおりである。
前審決は,理由Aについて何ら指摘していないが,新規事項違反がない旨判断したものではない。そして,前訴判決の確定後に再開された本件審判の手続において,平成17年2月4日付け訂正拒絶理由通知書(甲6)により原告に理由Aが通知され,原告に意見陳述の機会があったことは明らかである。さらに,本件全証拠を検討しても,前訴判決の確定後再開された本件審判の手続において,新規事項違反の指摘をすることが,著しく信義に反するものというべき事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件審決が理由Aを指摘したことが,手続における信義則に反するということはできない。
・ 新規事項を含むとの判断の誤りについてア 本件訂正第1発明,本件訂正第2発明において,「前記基地局が……含むこと」とされている「周波数切換可能な送信手段」についての特許請求の範囲の各記載は,それぞれ,「前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」,「前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被変調信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」というものである。
理由Aに関して本件審決がいうところの「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」との趣旨は,必ずしも明確でないが,特許請求の範囲の上記各記載によれば,本件訂正第1発明,本件訂正第2発明において,基地局に複数の送信手段(21)があること,それらの送信手段が各々周波数切換可能なものであること,周波数切換は基地局による選択に応じてなされるものであることは,いずれも明らかであり,また,特許法126条1項ただし書の規定にいう「願書に添付した明細書又は図面」とは,本件訂正前(本件審判の請求時)の本件明細書を意味するから,本件審決は,上記の事項が訂正前明細書(甲3の2)に記載されていないことを指摘したものと理解される。
イ そこで,訂正前明細書(甲3の2)(なお,訂正明細書(甲5)の記載は,特許請求の範囲の記載を除き,訂正前明細書の記載と同じである。)を検討するに,これには,次の記載がある。
・ 「基地局は,チャンネルが選択自由である周波数帯域454〜460MHzバンド内のFCC25KHz間隔の周波数チャンネルのいずれかのチャンネル又はすべてのチャンネルによる送信及び受信が可能である。
各々の音声チャンネルに対するチャンネル周波数の選択は一度に1チャンネルずつ基地局によって自動的に行われるが,基地局に備えてある操作員制御卓のインタフェースによってオーバライドすることができる。」(甲3の2:5頁10欄6行〜13行,甲5:11頁19行〜24行)・ 「RF装置は全システムで使用されている互いに異なる周波数で動作するようにCCU制御機能によってプログラムされている」(甲3の2:53頁106欄14行〜16行,甲5:108頁9行〜11行)・ 「一般的に,各基地局RFUはシステムの初期化に際しての与えられた周波数割当てにもとづいて設定され変更されないものとなっている。」(甲3の2:53頁106欄16行〜19行,甲5:108頁11行〜12行)」・ 「基地局は普通の場合,正常運用時には動作周波数や送信電力レベルを変更しない。送信及び受信部は,26チャンネルの各々に完全同調可能である。」(甲3の2:54頁107欄1行〜3行,甲5:109頁5行〜6行)上記・,・及び・の各記載に照らせば,基地局に複数の送信手段(21)があること,それらの各送信手段が各々周波数切換可能なものであること,周波数切換は基地局による選択に応じてなされるものであることは,いずれも訂正前明細書に記載した事項の範囲内のものと認められる。
ウ 理由Aに関して本件審決がいうところの「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」との趣旨は,前記のとおり,必ずしも明確でない。
もっとも,本件審決は,理由Bに関して,「送信手段(21)」につき,解釈Bとして,「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」とも解されるとし,このように捉えた本件訂正第1発明を「本件訂正第1発明B」と呼んで,「本件訂正第1発明Bについては,送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」(審決書18頁25行〜26行)としているから,理由Aに関しても,理由Bと同様に,「送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」との趣旨で,「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」との説示をしたものと解される。
しかし,そもそも「複数の送信手段の各々が,それぞれ,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つで送信できる(各送信手段が,基地局による選択に応じて周波数を切り換え得る)」ことと,「送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」とが同義であると理解すること自体が困難であるといわざるを得ない。
また,訂正明細書の特許請求の範囲第1項,第3項の各記載から「送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」ことを読みとることは困難であり,本件訂正第1発明,本件第2訂正発明をそのように解釈することは誤りであるというべきである。
さらに,訂正前明細書(甲3の2)及び訂正明細書(甲5)には,送信手段(21)が,システムの使用中に任意のタイミングでその周波数を切り換えて使用されるものであることを示す記載は認められないところであり,訂正前明細書及び訂正明細書の上記イ・の記載によれば,むしろ,送信手段(21)が,初期設定時等においてその周波数が設定されるように,周波数切換可能とされていることが認められ,この点に照らしても,「送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能である」との解釈は,誤りであるといわざるを得ない。
・ 以上のとおりであるから,本件審決の理由Aの判断は誤りというべきである。
4結論以上のとおり,本件審決の理由Bは前訴判決の拘束力に反するものであって,審判官がそのような認定判断をしたことは違法といわざるを得ない。また,本件審決の理由Aは,直ちに前訴判決の拘束力に反するとまではいえないものの,その判断は誤りである。
よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。