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関連審決 不服2003-1587
関連ワード 29条1項3号 /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10064号 審決取消請求事件
原告 パナリティカルベー ヴィ
訴訟代理人弁理士 杉村興作
同 高見和明
同徳永博
同 岩佐義幸
同 藤谷史朗
同 来間清志
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 濱野隆
同上田忠
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/11/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-1587号事件について平成17年10月3日にした審決を取り消す。
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成6年7月4日,発明の名称を「X線回折装置」とする発明について特許出願(特願平6-152192号,優先権主張1993年〔平成5年〕年7月5日〔以下「本件優先日」という。〕,オランダ国)をしたが,平成14年10月22日に拒絶査定を受けたので,平成15年1月27日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2003-1587号事件として審理し,平成17年10月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
2 願書に添付された明細書(甲2,以下,願書添付の図面と併せ「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下,同請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)【請求項1】 X線管(7)とX線管を収容するホルダ(12)とを具えたX線回折装置であって,X線管が,X線管の一方の端の付近に設けられ,冷却媒体によって冷却される陽極(32)を具え,X線管を線状のX線の焦点を形成するように構成し,冷却媒体を供給し,排出するための導管手段(22,24,52,54,58)を具えるX線回折装置において,前記導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具えることを特徴とするX線回折装置。
3 審決の理由審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,旧ソビエト連邦特許発明第616717号明細書(甲3〔原文〕,4〔英訳文〕,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一であるとして,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明の一致点の認定を誤り(取消事由),その結果,本願発明が引用発明と同一であるとの誤った結論を導いたものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1 審決は,引用例には,「X線筒7,X線放射窓6を備えたX線筒7を固定するカバー5を含む回折計で,X線筒7は,X線筒7の一方の端の付近に設けられるとともに冷却水によって冷却される陽極を具え,点状の焦点の投射,あるいは線状の焦点の投射が可能であり,陽極を冷却するために入り口側,出口側の水路10が設けられ,これらの両水路10は,X線筒7の側部を通り,陽極の冷却水路12に接続されるともに(注,「とともに」の誤記と認める。),X線筒の2つの端部のうち陽極から離れた方の端部の下方に延びているもの」(審決謄本4頁第1段落)が記載されていると認定した上,本願発明が引用発明と同一であるとしたが,誤りである。
2 本願発明における管状の導管(52,54)は,X線管本体の一方の端からX線管本体の他方の端に延在し,導管がX線管本体に存在するものであって,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本発明の目的(段落【0005】)及び課題を解決するための手段(段落【0007】)に明記されているとおり,X線管がホルダ内で90度回転した場合に,接続導管が,たやすく一緒に動くように構成されているものである。
すなわち,本件明細書において,従来技術とされたもの(段落【0002】及び図2のa)は,カバーに延在する冷却水路の端部とそれに接続される陽極の水路との間には,断絶があり,固定されたカバーに対し]線管を回転させる時に冷却水が漏洩するという欠点を伴い,これらを漏洩なく一致させるためには高度の熟練を要し,また,この漏洩は,X線筒が高温になった場合,危険を伴うものであった。
本願発明は,従来技術の上記問題を解決し,導管(52,54)をX線管本体に設置し,X線管本体の一方の端から他方の端に延在することにより,従来技術の構成を採用した場合の問題点を解決したものである。
これに対し,引用例の冷却水路は,カバー5を経由してX線筒7の陽極の冷却水路と結びつくものであり,カバー5は装置内に固定されているものであるから,冷却水路の一部は,当然,X線筒と一緒に動かず,カバー内に止まっているもので,本件明細書における従来技術とされたものである。引用例においては,本願発明の「X線回折装置において,導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具える点」については,何ら記載されていないし,本願発明が奏する,X線管のホルダ内での回転に伴う冷媒漏れというX線回折装置特有の問題を解決するとの新規の作用効果を奏さないものであるから,引用発明は,本願発明と明確に異なるものである。
3 審決は,「後者(注,引用発明)の『カバー5』は,]線筒7を固定するとともに,その内部に]線筒7が配置されるものであるから,前者(注,本願発明)の『ホルダ2』に相当する。」(審決謄本4頁第2段落)と認定判断したが,これは,引用発明のカバー5に含まれる水路と,X線筒の冷却水路の存在を無視して,引用発明における,内部に水路を有するカバー5と,冷却水路のない本願発明の]線管ホルダ12とを比較して,同一視するものである。このような判断手法は,特許法70条2項の「願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」という規定に違背するものである。
4 なお,被告は,予備的主張として,仮に,本願発明の「導管」がX線管本体に設けられていることを意味しているとしても,この構成は本件優先日前に周知の技術であるとして,実願昭49-61475号(実開昭50-148974号)のマイクロフィルム等の刊行物(乙1ないし3)を挙げる。
しかし,上記刊行物は,審決書のどこにも記載されておらず,また,このような「周知技術」が存在することは,審決書において示唆すらされていないので,審決取消訴訟において,審理の対象とはなり得ない。
なお,上記刊行物に記載の]線管の冷却装置が仮に周知技術であったとしても,当該X線管は,装置内で固定されているものであって,本願発明のX線回折装置のように,本体内で90度回転させるものと異なっており,その冷却媒体の経路も当然に異なるから,本願発明は,それから容易に発明をすることができたものということは到底できない。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 原告は,本願発明と引用発明が同一であるとの審決の認定を争い,本願発明における管状の導管(52,54)は,X線管の一方の端から他方の端に延在し,導管がX線管本体に存在するものである旨主張するが,失当である。
本願発明の「X線回折装置において,前記導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管を具えること」は,「X線回折装置」の構成である「導管手段」が,「管状の導管」を備え,当該「導管」が「X線管の一方の端から他方の端に延在」していることを意味するものである。
そして,「X線管の一方の端から他方の端に延在する」という記載は,「導管」が「X線管の一方の端」から「X線管の・・・他方の端」まで延びて存在していること(すなわち,「導管」の延びる方向あるいは範囲)を示すにとどまり,当該「導管」がどこに設けられるものであるかについては何ら限定していない。
また,本願発明の特許請求の範囲の記載からすると,「冷却媒体を供給し,排出するための導管手段」は「X線回折装置」に備わるとしているのみで,当該「導管手段」が,例えば,「X線回折装置」の構成要素である「X線管(7)」あるいは「X線管を収容するホルダ(12)」に設けられることまでは,具体的に限定していない。
したがって,本願発明の構成要件である「X線回折装置において,前記導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具えること」という記載をもって,当該「導管」がX線管本体に設けられているものに限定することには合理的な理由がなく,本願発明には,当該「導管」がX線管の外部にあり,かつ,X線管の一方の端から他方の端に延在するようなものも包含される。
原告の主張は,特許請求の範囲の記載を離れて,本願発明の「導管」がX線管本体に設けられているものに限定されることを前提とするものであり,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。
2 原告は,「後者の『カバー5』は,]線筒7を固定するとともに,その内部に]線筒7が配置されるものであるから,前者の『ホルダ2』に相当する。」(審決謄本4頁第2段落)との審決の認定判断を争うが,失当である。
本願発明の特許請求の範囲の記載において,「X線管(7)」と「ホルダ(12)」との関係については,「X線管を収容するホルダ(12)」との記載が請求項1にあるのみであるから,単に,「ホルダ(12)」内に「X線管(7)」を備えているということにすぎず,「X線管(7)」が「ホルダ(12)」内で回転するとまでの限定はない。また,「X線管を線状のX線の焦点を形成するように構成し,・・・X線回折装置」との記載は,点状のX線焦点をも形成可能であることに触れていないから,線状のX線焦点と点状のX線焦点を切り替えるためにX線管をホルダ内で回転させることを限定していることにはならない。
したがって,本願発明は,X線管と冷却媒体用通路とを一体としてホルダ内で回転できるような構成とするものに限定されておらず,これが限定されていることを前提とする原告の主張は理由がない。
3 また,特許法70条2項には,「前項の場合においては」との文言が存在し,同条1項は「特許発明技術的範囲」を定めるための規定であるから,同条は,「特許を受けている発明」に関する規定であり,未だ特許を受けていない本願発明の要旨の認定に適用されるものではないことは明らかである。
そして,「特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである」ことは確立された判例法理(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)であるところ,本願発明に係る特許請求の範囲の記載からすると,「冷却媒体を供給し,排出するための導管手段」が,「X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管を具えること」により,当該「導管」中を流れる「冷却媒体」が「X線回折装置」全体を万遍なく冷却するという技術的意義を明確に理解することができ,かつ,一見して明らかな誤記が存するものでもないことから,本件において,「特段の事情」はなく,審決が,特許請求の範囲の記載に基づいて,本願発明の要旨を認定した点に何ら誤りはない。
4 仮に,本願発明の「導管」が,X線管本体に設けられていたとしても,本願発明と引用発明は同一であるとしたとの審決の結論に誤りはない。
すなわち,本願発明の「X線回折装置において,前記導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具えること」が,「導管」がX線管本体に設けられていることを意味する場合,本願発明と引用発明とは,前者では,導管手段が,X線管本体に設けられ,かつ,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管を備えているのに対し,後者では,X線筒7の側部を通り,陽極の冷却水路12に接続されるとともに,X線筒の2つの端部のうち陽極から離れた方の端部の下方に延びている,すなわち,X線管本体ではなく,X線管の外部であるカバー(5)に,X線管の一方の端から他方の端に延在する導管を備えている点で相違するものとなる。
そして,同相違点について検討すると,そもそも,「導管手段が,X線管本体に設けられ,かつ,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管を備える」ことは,実願昭49-61475号(実開昭50-148974号)のマイクロフィルム等の刊行物(乙1ないし3)に記載されているように,X線管の分野において,本件優先日前,周知の技術である。
したがって,「導管手段」を,ホルダ(カバー)あるいはX線管のどちらに設けるか,また,X線管本体に設けるにしても,その外寄りあるいは内寄りのどちらに設けるかは,X線管が回折装置用か否か,あるいは,X線の焦点形成態様にかかわらず,冷却される陽極の配置やX線管の細部構造に応じて,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項にすぎないから,上記相違点は,設計上の微差であって,実質的なものではなく,本願発明は,引用発明と同一であるというべきである。
当裁判所の判断
1 原告は,本願発明と引用発明が同一であるとした審決の認定を争い,引用例には,本願発明の「X線回折装置において,導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具える点」については,何ら記載されていない旨主張するので,まず,本願発明の上記構成について検討する。
( ) 本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の請求項1には,「X線管(7)と 1X線管を収容するホルダ(12)とを具えたX線回折装置であって,X線管が,X線管の一方の端の付近に設けられ,冷却媒体によって冷却される陽極(32)を具え,X線管を線状のX線の焦点を形成するように構成し,冷却媒体を供給し,排出するための導管手段(22,24,52,54,58)を具えるX線回折装置において,前記導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具えることを特徴とするX線回折装置。」と記載されている。
同記載によれば,本願発明において,@ 「X線回折装置」は,「X線管」とX線管を収容する「ホルダ」とを備え,A 「X線管」は,X線管の一方の端の付近に設けられ,冷却媒体によって冷却される「陽極」を備え,B 「X線管」は,線状の 線の焦点を形成するように構成され,C X「X線回折装置」は,冷却媒体を供給し,排出するための導管手段を備え,D 「導管手段」は,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管を備えている。
したがって,上記の特許請求の範囲の記載によれば,本願発明は,導管に係る構成につき,「導管手段」がX線回折装置に備えられるとともに,その「導管手段」が,「X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管」を備えることを規定しているということができる。
ここで,「延在」とは,通常の用語例に従えば,「延」は「のびること。
のばすこと」を意味し,「在」は「一定の場所にあること。いること。」(いずれも広辞苑第5版)を意味するものである。そうすると,「管状の導管」について,「X線管の一方の端から他方の端に延在」するとは,X線管が,どこからどこまで延びて存在するかという,その存在する範囲をいうものとして,「管状の導管」が,「X線管の一方の端」から「X線管の他方の端」まで存在する構成をいうものと一義的に理解できるものであり,また,このような理解により,特許請求の範囲の他の部分の記載との関係で矛盾を来すものではない。
他方,本願発明の「管状の導管」について,それが上記のように「X線管の一方の端」から「X線管の他方の端」まで存在することを超えて,X線管本体に設けられるのか,その外部に設けられるのかは,特許請求の範囲の記載においては,何らの限定もされてないのであって,特許請求の範囲の記載に従えば,本願発明は,「管状の導管」が,X線管本体に設けられるものも,その外部に設けられるものも含むものであると理解するほかはない。
( ) 原告は,本願発明における,管状の導管(52,54)は,X線管本体の 2一方の端からX線管本体の他方の端に延在し,導管がX線管本体に存在するものであって,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本発明の目的(段落【0005】)及び課題を解決するための手段(【0007】)に明記されているとおり,X線管がホルダ内で90度回転した場合に,接続導管が,たやすく一緒に動くように構成されているものである旨主張する。
しかし,上記(1)のとおり,特許請求の範囲の記載に基づく限り,本願発明の「導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具える」との記載は,上記のとおり,「管状の導管」が,「X線管の一方の端」から「X線管の他方の端」まで存在する構成をいうものと一義的に理解できるのであって,「X線管」と「導管手段」との配置の状態まで規定してるものとはいえず,したがって,本願発明において,「管状の導管」は,X線管の一方の端から他方の端に延在する限り,X線管本体に設けられるものも,その外部に設けられるものも含むものであると理解するほかはない。
( ) 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明における記載を参酌すべき旨を主 3張するが,特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲において記載されていない事項を,明細書の発明の詳細な説明の記載から取り込むことは,特段の事情のない限り,許されないところである。
もっとも,本願発明の「X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管」との記載が,発明の詳細な説明において,原告の主張するような意味のものとして定義されていることも考えられなくはないので,念のため,本件明細書の記載について検討すると,以下の記載がある。
ア 「【産業上の利用分野】本発明は,X線管と,X線管を収容するホルダとを具えるX線回折装置であって,このX線管がX線管の一方の端の付近に位置し,冷却媒体によって冷却される陽極を具え,このX線管を線状X線状焦点を形成するように構成し,冷却媒体を供給し,排出するための導管手段を具えるX線回折装置に関するものである。本発明はこのような装置で使用するX線管にも関するものである。」(段落【0001】)イ 「【従来の技術】上述したものと同種のX線回折装置及びX線管は,本出願人によって発行された『高出力X線回折管(High PowerX-ray DiffractionTubes)』と表題を付けられたリーフレットにより既知である。このリーフレットには,陽極の冷却液として水を使用したX線管が開示されている。冷却水を供給,排出する導管手段は,リーフレットに『ウォータイン(Water in)』と示されている冷却水給水口と,『ウォータアウト(Water out)』と示されている冷却水排水口とを具え,冷却水を冷却すべき陽極に沿って導く導管がこれらの給水口と排水口の間に設けられている。この給水口及び排水口は,冷却すべき陽極の付近に位置しているX線管の端の領域に配置されたフランジに設けられている。X線管をこのフランジによってホルダ内にしっかりと留める。冷却水をホルダの衝当て部の穴を経て供給,排出し,これらの穴はフランジの給水口及び排水口に整列している。前記刊行物に示されているX線管において線状のX線の焦点が形成され,この焦点からはX線は2つの直交する方向,すなわち焦点の長さ方向及びそれに垂直な方向に放射する。これらの方向の各々に対してX線管に出口窓を設けてある。X線回折を利用するいくつかの用途に対しては,調査すべき標本に線状焦点からのX線を照射することが望ましいが,他の用途に対しては点状焦点が好適である。したがってX線管が両方の焦点形状を形成することが望ましい。既知のX線管において,これは,陽極表面に対して小さい角度で焦点線の長さ方向にX線を放射させることによって可能となり,このとき線状焦点が(仮想的な)点状焦点のように見える。X線をこの方向に対し垂直な方向に放射する場合,X線焦点は線状に見える。実際にはX線の方向は規定される。なぜならこの方向によって標本や検出器や分析装置の他の設備の位置が決定されるからである。要求される点状焦点から線状焦点へ,又はその逆への切り換えは,X線管をホルダ内で90°回転することによって実現される。」(段落【0002】,【0003】)ウ 「【発明が解決しようとする課題】ホルダ内でのX線管の回転は,しかしながら,回転後のホルダの衝当て部の穴の位置がX線管のフランジの給水口及び排水口ともはや一致しないという欠点を有する。X線管のフランジとホルダの衝当て部との間にアダプタフランジを設けることによってこの問題が解決する可能性がある。すなわちX線管の各々の位置に対してそれぞれ1個のアダプタフランジを設けることが提案されている。このようにすると衝当て部に設けた穴はX線管フランジの穴に一致するようになる。
しかしながらこの解決法の欠点は,別個の構成部分(アダプタフランジ)を必要とすることと,このような交換は熟練した者によってしか行えないことである。X線管に水を供給するこの方法の他の欠点は,相当量の水が,回転するためにX線管を分離するとき,必然的に高電圧コネクタの側に放出されることである。この水はコネクタ及びX線管,又はその一方を損傷する高電圧のフラッシュオーバを引き起こす恐れがある。本発明の目的は,特別な操作を必要とせず,又,漏れを生じさせることなしにX線管をホルダ内で90°回転できるようにしたX線回折装置を提供することである。
」(段落【0004】,【0005】)エ 「【課題を解決するための手段】この目的を達成するために,本発明による装置は導管手段がX線管の1つの端から他の端に延在する管状の導管を具えることを特徴とする。X線管の位置決めをしている間に,X線管の一方の端をホルダ内へ,その中でしっかりと固定されるように滑り込ませる。高電圧とフィラメント電流のための電源ケーブルが固定されているもう一方の端はオペレータが容易に取り扱える。冷却水の接続部にこの領域において容易に取り扱えるので,水導管を容易にそこに接続することができる。X線管を90°回転した場合,接続導管はたやすく一緒に動く。・・・さらに本発明によるX線回折装置は,管状の導管をX線管の外側に延在させたことを特徴とする。このように構成するとX線管の構造は十分に簡単となる。本発明X線回折装置はさらに,X線管の高電圧絶縁のための部分をセラミック材料で製造したことを特徴とする。この部分は既知のX線管では通常ガラスで作られている。既知の手作りのガラス部分の特性として,これらは比較的大きな寸法公差を示しやすい。セラミック材料を使用した場合,これらの部分をかなり小さい寸法公差で製造することができ,その結果X線管の外形をより小さくすることができる。したがってホルダ内に冷却媒体の導管のための空間を容易に取っておくことができる。」(段落【0006】〜【0009】)オ 「【実施例】図1は角度計4をフレーム2上に装着したX線回折装置を示すものである。この角度計4には,その上に装着したX線源7及び検出装置9の回転角を計測するための目盛り6が設けてある。この角度計は標本10を載せる標本搬送台8も具える。標本の回転角の計測が重要な場合のために,目盛り11を設ける。X線源7は,図には示していないX線管のためのホルダ12を具え,このX線管はホルダ中に装着リング20によってしっかりと留められている。このX線管を,高電圧ケーブル18を経てX線管のための高電圧及びフィラメント電流を供給する高電圧コネクタ16に接続する。X線管の冷却水のための給水及び排水口22及び24をX線管の同じ側に設ける。X線管ホルダ12もX線出口窓14とX線ビームを平行にするためのユニット17(ソーラースリット)とを具える。検出装置9を,ソーラースリットのホルダ26と,モノクロメータクリスタルのホルダ28と,検知器30とから構成する。X線源に加えて検出器を標本の回りを回転できるようにした場合,図に示すように標本を回転できるように配置する必要はない。X線源を動かさないように配置することもできるが,これはX線管が大きく重い場合必要となる。このようにした場合,標本搬送台に加えて検出器も回転できるようにすべきである。図2a及び2bはX線管ホルダをX線管と共に示し,図2aは既知の冷却水の供給方法を示し,図2bは本発明による冷却水の供給方法を示す。図2aはX線管ホルダ12をX線管31と共に示す。ホルダ内に設けられたリム44と協働する装着フランジ38によってX線管をホルダ内に配置する。このX線管を突起46によって正しい角度位置に置く。このX線管を,ホルダ12を挟みつけるか,又はこれにねじ込む緊締リング20によってしっかりと留める。X線管31は陽極32を具え,これを冷却する必要がある。
冷却水を導管34及び36を経てこの陽極に沿って通す。これらの導管をホルダ12の一部で形成する。冷却水を接続部22を経て供給し,その後導管34を経て2個の正反対に位置する水路40及び42を設けたフランジ38へ導く。X線管内でこれらの水路の間に導管48を設け,これを経て冷却水を陽極に沿って導く。X線の放射方向にしたがって線状又は点状のX線焦点を形成するために,陽極32上に線状の電子焦点を形成する。
陽極上で生成されたX線をホルダからホルダ12の窓(図示せず)を経て放射する。線状焦点は第1窓50を経てX線を放射する。点状焦点は線状焦点を垂直方向で窓50に対し90°回転した窓(図示せず)を経て観測することによって得られる。X線を(仮想的な)点状焦点によって得ようとする場合は,ホルダ内に収容されたX線管の関連した窓をホルダの窓と一致するように回転しなければならない。線状焦点の場合には,したがってX線管を90°回転しなければならない。ホルダ内のX線管の回転は,特別な方法で行わなければならない。なぜなら,ホルダ12とフランジ40の水路の接続部は回転後はもはや一致しないからである。本発明はこの問題の解決を図2bに示す実施例の形で提供する。」(段落【0012】〜【0014】)カ 「図2bにおいて,冷却水をX線管に沿って外側に延在する2個の導管52及び54を経て供給する。これらの導管は基部56に熱結合している。
導管を冷却水貯水槽58に接続し,そこから陽極32の背後を横切って冷却水を配給する。X線管をホルダ内で90°回転する必要がある場合,図2aを参照して上述したような冷却水路の接続部の問題は,このような配置においては生じない。図3は本発明によるX線回折装置で使用するX線管をより詳細に示すものである。X線管はU字型陰極構造62によって囲まれたフィラメント60を具える。このフィラメントによって放射された電子は陰極と陽極の間の電界によって加速され,高速度で陽極に衝突し,その運動エネルギーの大部分は熱に変わる。熱の大部分は導管52及び54を通って運ばれる冷却水によって消散される。陰極62を,セラミック中間部材66上に装着した支持物64上に装着する。このセラミック中間部材を導管52及び54が貫通する基部56上に装着する。フィラメント60によって発生する熱は,対流又は伝導によって放出される。高電圧絶縁体にセラミック素材を使用しているので,ますます小型のX線管になる傾向がある。高電圧絶縁体を経て消散されるであろう熱は,基部56のようなX線管の外側にある部分の高温化を招く。これは一方ではフィラメント60と関連した部分との間のより短い経路によるものであり,他方ではガラスと比較してセラミック材料の熱伝導率がより高いことによるものである。冷却水が基部56に沿って導かれているので,この部分は許せない程の高温には達しない。」(段落【0015】〜【0016】)( ) 上記認定によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,@ 本願発明の 4目的は,特別な操作を必要とせず,また,漏れを生じさせることなしにX線管をホルダ内で90度回転できるようにしたX線回折装置を提供することにあること,A 当該目的を達成するため,導管手段がX線管の1つの端から他の端に延在する管状の導管を備えることを特徴とし,X線管を90度回転した場合,接続導管がたやすく一緒に動くようにしたこと,B ホルダ内のX線管の回転による水漏れの問題の解決を図2bに示す実施例により達成したこと,C 図2bの実施例においては,冷却水をX線管に沿って外側に延在する2個の導管52及び54を経て供給するが,これらの導管は基部56に熱結合することがそれぞれ記載され,さらに,D 本件明細書の図2bによれば,冷却水を供給する2個の導管52及び54は,X線管の陽極を冷却するX線管上部に設けられた貯水槽58,基部56を通るようにされており,X線管本体に設けられている態様であることが読み取れる。
実施例の図2bは,冷却水を供給する2個の導管52及び54がX線管本体に設けられているものではあるが,図2bで示されるのは,飽くまでも実施例であって,これによって冷却水路の接続導管をX線管本体以外の部材に設ける態様のものが除外されるものではなく,本件明細書の発明の詳細な説明の他の部分を検討しても,本願発明の「接続導管がX線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管を備える」によって,冷却水を供給する2個の導管が,X線管本体に設けられる態様のものに限定する旨定義している記載は見当たらない。
要するに,本件明細書は,実施例において,冷却水を供給する2個の導管がX線管本体に設けられている態様のもののみを開示してはいるが,特許請求の範囲においては,上記態様によって本願発明の構成を特定しておらず,冷却水路の接続導管をX線管以外の部材に設けるようにした態様のものを包含しているものとしているのである。
しかも,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記( )オのとおり,「X3線を(仮想的な)点状焦点によって得ようとする場合は,ホルダ内に収容されたX線管の関連した窓をホルダの窓と一致するように回転しなければならない。線状焦点の場合には,したがってX線管を90°回転しなければならない。ホルダ内のX線管の回転は,特別な方法で行わなければならない。なぜなら,ホルダ12とフランジ40の水路の接続部は回転後はもはや一致しないからである。本発明はこの問題の解決を図2bに示す実施例の形で提供する。」と記載されている。すなわち,X線管をホルダ内で90度回転させることを前提として,図2aで示された従来技術において克服されるべき問題点があるとして,それを解決したものが図2bで示されるとするものである。しかし,本願発明に係る特許請求の範囲の記載において,X線管をホルダ内で90度回転させるとの技術事項が,本願発明の構成要件でないことは明らかであって,このことに照らしても,本願発明が,図2bで示されたような構成に限定されなければならない理由はないというべきである。
そうすると,念のため,本件明細書の発明の詳細な説明参酌しても,本願発明において,管状の導管が,X線管本体に設けられたものに限定しなければならないような記載を見いだすことはできない。
( ) 以上によれば,本願発明において,「管状の導管」は,「X線管の一方の 5端」から「X線管の他方の端」まで「延在」するものではあるが,同導管が,X線管本体に設けられるものも,その外部に設けられるものも本願発明に包含されるものであると認めることができ,また,本願発明が,X線管がホルダ内で90度回転した場合に,接続導管が,たやすく一緒に動くように構成されているものに限定されているということはできない。
2 進んで,引用発明の構成及び本願発明との対比について検討する。
( ) 引用例(甲3翻訳文)には,以下の記載がある。 1ア 「[発明の詳細な説明]この発明は]線技術に関し,]線筒回折計において]線筒への強制冷却の適用を可能にするものである。]線発生管,安全カバー,カバーの通路に冷却水を通して]線筒を強制流通させる手段は既知である。[1]」(1頁3行目〜7行目)イ 「安全カバー,]線筒,及びカバーに取付けられた]線筒の陽極に向っての冷却液の誘導システムを備えた,]線の回折計は知られている。[2]発明に向けての最も近い技術的解決は,ゴニオメーター,放射線検波器,及び点状のまた線状の焦点を伴った]線筒,]線による放射の出口のための窓を伴った]線筒のカバー,カバー内の水路,及びそれらと筒の陽極において統合された水路を含む,]線筒の陽極への冷却媒体の誘導設備,カバー内の筒を固定するための設備と,カバーと筒をピント合わせするための設備を含む]線筒の陽極に向かっての冷却媒体の誘導装置を備えた,]線の回折計である。[3]」(同頁8行目〜15行目)ウ 「知られた処理の欠陥は,工程における焦点の一つのタイプからもう一つのタイプへ移行の際の,カバーを筒と一緒に方向転換しなければならない必要性であり,回折計のピント調整を妨げるものであった。発明の目的は,焦点の一つのタイプからもう一つのタイプへの回折計への組み替えを簡略化することにある。これは,出口がカバーの一つの側面に左右対称に一つの円に沿って備えられている四つの冷却水路管でカバーが満たされていて,一方筒の陽極における水路のもう一対の水路との同時の統合において,筒が隣接しない水路の出口の任意の一対の統合の可能性を伴って,固定の目的においてカバーに設置されていることによって達成される。望ましいのは,水路の入口と出口が一つの円の中に配列されていることである。」(同頁16行目〜27行目)エ 「図1には,回折計の,一般的な外観が描かれている。図2には,カバーの中の 線筒のユニットの上から見た概観が描かれている。図3には, X回折計の,側面からの外観が描かれている。図4には,図2におけるA-A線で切断した断面図が示されている。 図5には,図2におけるB-B線で切断した断面図が示されている。」(同頁28行目〜32行目)オ 「回折計はテストピースのホルダー2,ブラケット4に乗っている検波記,]線放射出口となる穴6を備えたカバー5,及びボルト8によってカバーに固定された]線筒7が配置された,ゴニオメータ1を含んでいる。
]線筒7は,例えばその内の一対が焦点の点状の照射の出口のために働き,もう一対が焦点の線状の投射の出口のために働く,四つの窓9を含んでいる。カバー5は,カバー5の基幹の側面11の表面に,出口が一つ個の円の中に,90度の間隔を伴って配置され,]線筒の固定のためのボルトのねじ山8によって取り付けられた,陽極に向っての冷却水の誘導のための,四つの冷却水路を含んでいる。隣接しない水路10のそれぞれの一対は,]線筒の陽極の冷却水路12と順番に結びつく。正反対の継ぎ手13のうち1つは水路10の一対の入口となっている。二つ目の継手13は出口となっている。」(同頁33行目〜2頁8行目)カ 「回折計において,使用の行程において点状の焦点の照射,あるいは線状の焦点の照射が用いられる。これは,カバー5の出口の穴6と]線筒7の四個の窓9のうち一つが結びつくことによって,達成される。その後]線筒7は二つの正反対の水路10のねじ山の穴にぶつかる二つのボルトボルト8によって,カバー5に固定される。これに際して二つの異なる水路10はカバー5の基幹の側面11の表面において]線筒7の陽極の冷却水路12と結びつく。そのようにして二つの水路10は]線筒7の固定のために使われ,他の二つは冷却水の循環のために使われる。焦点の投射の交替の際,即ち]線筒7の90度の展開のときに,水路の使用は反対の使用に変えられる。」(2頁9行目〜18行目)キ 「特許請求の範囲 1.ゴニオメータ,放射の検波器,点状のまたは線状の焦点を伴った]線筒,]線筒の放射の出口のための窓を伴った]線筒のカバー,カバー内の水路及びそれらと結びつけられた陽極の水路を含む,]線筒の陽極への冷却媒体の誘導のための設備,及びカバーと]線筒の調整のための設備を含む,一つのタイプの焦点からもう一つの焦点への回折計の組みなおしの簡素化の目的を伴い,カバーがそれらの出口がカバーの一つの側面に一つの円上に左右対称に置かれている四個の冷却水路で満たされており,他方,]線筒の陽極におけるもう一つの水路の対ととの水路の同時結合に際して,]線筒がカバーに隣接しない水路の出口の一対を伴う,完全な固定への結合の可能性を伴って取付けられていることを特徴とする,]線筒の回折計。」(同頁19行目〜29行目)ク 図4及び図5によれば,カバーには,4つの水路10が,カバーの前端から後端まで延びて形成されており,X線筒7がカバーに収容されること,X 図4には,一対の水路の上部にねじ8がねじ込まれており,それにより線筒7がカバーに固定されること,図5には,一対の水路の上部が, 線X筒7の陽極の冷却水路12と接続されていること,がそれぞれ見て取れる。
また,図2ないし図5によれば,冷却水路10が管状であることが見て取れる。
( ) 上記認定によれば,引用例には,「X線筒7とX線放射窓6を備えたX線 2筒7をその内部に収容して固定するカバー5とを備えたX線回折計であって,X線筒7は,X線筒7の一方の端付近に設けられ,冷却水により冷却される陽極を備え,線状と点状の 線の焦点の投射が可能であり,カバー5には, Xカバーの一方の端から他方の端まで延在するX線筒7の一方の端に設けられた陽極を冷却するための冷却水の入口側,出口側の一対の管状の水路10が設けられており,これらの管状の水路10は,X線筒の冷却水路12に接続され,X線筒の側部に位置するようにされているX線回折計」が記載されているものと認められる。
そして,引用発明の「カバー5」は,「X線放射窓6を備えたX線筒7をその内部に収容して固定する」ものであるから,本願発明の「X線管を収容するホルダ」に相当し,引用発明の「X線筒7」は,「X線筒7の一方の端付近に設けられ,冷却水により冷却される陽極を備え」るものであり,「線状と点状の 線の焦点の投射が可能」なものであるから,本願発明の「X X線管の一方の端の付近に設けられ,冷却媒体によって冷却される陽極(32)を具え,X線管を線状のX線の焦点を形成するように構成し」た「X線管(7)」に相当するものである。また,引用発明の「X線回折計」は,「X線筒7とX線放射窓6を備えたX線筒7をその内部に収容して固定するカバー5とを備えた」ものであるから,本願発明の「X線管(7)とX線管を収容するホルダ(12)とを具えた」「X線回折装置」に相当し,引用発明の「カバーの一方の端から他方の端を越えて延在するX線筒7の一方の端に設けられた陽極を冷却するための冷却水の入口側,出口側の一対の管状の水路10」及び「X線筒の冷却水路12」は,X線筒の一方の端に設けられた陽極を冷却するための冷却水を,その入口側から,X線筒の冷却水路12を通って出口側に循環させるものであるから,本願発明の「冷却媒体を供給し,排出するための導管手段」に相当する。
さらに,引用発明の「管状の水路10」は,X線管の一方の端から他方の端まで延在しているものであり,本願発明の「X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管」に相当する。もっとも,引用発明の「管状の水路10」は,カバー5に設けられたもので,X線管本体に設けられたものではないが,前記1( )のとおり,そのような導管も,本願発明における「X線 4管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管」に相当すると認められるものである。
したがって,本願発明と引用発明には相違する点はなく,本願発明は,引用発明と同一であると認められる。
( ) 原告は,引用例の冷却水路は,カバー5を経由してX線筒7の陽極の冷却 3水路と結びつくものであり,カバー5は装置内に固定されているものであるから,冷却水路の一部は当然,X線筒と一緒に動かず,カバー内に止まっているものであり,本件明細書において,従来技術とされたものであって,引用例には,本願発明の「X線回折装置において,導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具える点」については,何ら記載されておらず,本願発明が奏するX線管のホルダ内での回転に伴う冷媒漏れという,X線回折装置特有の問題を解決するという新規の作用効果を奏さないものであり,引用発明は,本願発明と明確に異なるものである旨主張する。
しかし,そもそも,本願発明における「導管手段が,X線管の一方の端から他方の端に延在する管状の導管(52,54)を具える」点について,前記1(4)のとおり,本願発明の「管状の導管」は,X線管本体に設けられるものも,その外部に設けられるものも含むのであり,冷却水路の一部がX線筒と一緒に動かず,カバー内にとどまっている構成のものも包含すると解されるから,原告の上記主張は,前提を欠くものである。
(4) また,原告は,「後者(注,引用発明)の『カバー5』は,]線筒7を固定するとともに,その内部に]線筒7が配置されるものであるから,前者(注,本願発明)の『ホルダ2』に相当する。」(審決謄本4頁第2段落)との審決の認定に対し,引用発明のカバー5に含まれる水路と,X線筒の冷却水路の存在を無視して,引用発明における,内部に水路を有するカバー5と,冷却水路のない本願発明の]線管ホルダ12とを比較して,同一視するものであって,特許法70条2項の規定に違反する旨主張する。
しかし,前記1(4)のとおり,本願発明は,冷却媒体を供給し,排出するための導管が,X線管本体に設けられるか否か,換言すれば,カバー内部に設けられるか否かについて,発明の特定事項として掲げていないと解されるものであるから,カバー内部に冷却水路があるか否かの点は,本願発明と引用発明の同一性の判断において問題となるものではなく,原告の上記主張も,失当である。
3 以上のとおり,本願発明は引用発明と同一というべきであって,これと同旨の審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明