関連審決 | 不服2005-272 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 技術常識 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 減縮 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10822号
審決取消請求事件
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原告有限会社マス構造企画 訴訟代理人弁理士穴見健策 被告特許庁長官中嶋誠 指定代理 人西田秀彦,大元修二,高木彰,田中敬規 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/11/01 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-272号事件について平成17年9月27日にした審決を取り消す 」との判決。。 第2事案の概要本件は,原告が,名称を「擁壁用ブロック及び擁壁の構築構造」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判, 。 請求は成り立たないとの審決がなされたため 同審決の取消しを求めた事案である1特許庁における手続の経緯( )本件出願(甲第1号証)1出願人:有限会社マス構造企画(原告)発明の名称: 擁壁用ブロック及び擁壁の構築構造」 「出願番号:特願平6-186754号出願日:平成6年7月15日( )本件手続2(。「」。) 手続補正日:平成16年8月17日 甲第10号証 以下 第1次補正 という拒絶査定日:平成16年11月9日(甲第6号証)審判請求日:平成17年1月6日(不服2005-272号)手続補正日:平成17年1月28日(甲第2号証。以下「本件補正」という )。 審決日:平成17年9月27日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。 審決謄本送達日:平成17年11月2日2発明の要旨( )審決は,本件補正を却下し,第1次補正後の請求項1に記載された発明を1審決の対象としたものであり,この発明の要旨は,下記のとおりである(以下,この発明を「第1次補正発明」という。なお,第1次補正後の特許請求の範囲の請求項の数は9個である。。)「前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁の突設端部に両側方向へ膨出して設けられた膨拡壁と,控え壁または膨拡壁に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入孔と,を備え,鉄筋挿入孔のうち,1個または複数個の鉄筋挿入孔は,その上下両端に開口された挿入口に連続する内壁により画成された連通孔であり,かつ,該連通孔内には,挿入口の孔径より縮径された小径部が設けられて成る擁壁用ブロック 」。 ( )本件補正後の請求項2に記載された発明は,下記のとおりである(以下,2この発明を「本件補正発明」という。なお,本件補正後の特許請求の範囲の請求項の数は5個である。。)「少なくとも,前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁に鉛直方向に開孔された複数の鉄筋挿入孔と,を備えた第1擁壁用ブロックと,前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入孔と,を有する第2擁壁用ブロックであって,第1擁壁用ブロックの上面に,相互の鉄筋挿入孔が連通する様に積層配設された第2擁壁用ブロックと,を備え,それぞれ少なくとも一つの鉄筋挿入孔は,壁の上下両端面に開口された挿入口に上下に連通する連通孔からなり,該鉄筋挿入孔は上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備え,フーチング基礎の上面に,第1,第2擁壁用ブロックを積層配設して鉄筋挿入孔を上下に連通させ,これらの鉄筋挿入孔内にフーチング基礎のアンカー鉄筋と,アンカー鉄筋に連結した連結鉄筋とを貫通させると共に充填材を充填固化させてフーチング基礎に各擁壁用ブロックを一体的に連結させて成る擁壁の構築構造 」。 3審決の理由の要点審決の理由は,以下のとおりであり,要するに,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが,本件補正発明は,特開平6-93626号公報 甲第4号証 以下 刊行物1 という及び実公平3-52826号公報 甲 (。「」。) (第5号証。以下「刊行物2」という )にそれぞれ記載された発明に基づいて当業 。 者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正は,特許法17条の2第5項が準用する126条5項に違反するものであり,同法159条1項が準用, ,, する53条1項により却下した上 第1次補正発明を対象として審理し 刊行物12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。 なお,審決は,本件補正発明を単に「補正発明」と表記している。 「1.手続の経緯省略2.本件補正についての補正却下の決定[補正却下の決定の結論]平成17年1月28日付の手続補正(本件補正)を却下する。 [理由](1)補正後の本願発明本件補正により,特許請求の範囲の請求項2は,「少なくとも,前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁に鉛直方向に開孔された複数の鉄筋挿入孔と,を備えた第1擁壁用ブロックと,前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入孔と,を有する第2擁壁用ブロックであって,第1擁壁用ブロックの上面に,相互の鉄筋挿入孔が連通する様に積層配設された第2擁壁用ブロックと,を備え,それぞれ少なくとも一つの鉄筋挿入孔は,壁の上下両端面に開口された挿入口に上下に連通する連通孔からなり,該鉄筋挿入孔は上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備え,フーチング基礎の上面に,第1,第2擁壁用ブロックを積層配設して鉄筋挿入孔を上下に連通させ,これらの鉄筋挿入孔内にフーチング基礎のアンカー鉄筋と,アンカー鉄筋に連結した連結鉄筋とを貫通させると共に充填材を充填固化させてフーチング基礎に各擁壁用ブロックを一体的に連結させて成る擁壁の構築構造(以下 「補正発明」という ) 。」,。 と補正された。 上記補正は,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)本願出願前に頒布された刊行物に記載された事項原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-93626号公報(刊行物1)には,図面とともに,以下の記載がある。 「 請求項6】前壁と,この前壁の背面側に突設形成された控え壁とを備えた大型擁壁用ブロ 【ックを基礎フーチング上面に配設し,この大型擁壁用ブロックの上面に,この大型擁壁用ブロックよりも控え壁の背面側突設長さが短く形成された複数の擁壁用ブロックを積層して構築させ,前記大型擁壁用ブロックの控え壁の端部には,両側方向へ膨出した膨拡壁が設けられ,少なくとも,この膨拡壁内には,上下面に連通した鉄筋挿入用大径孔が開孔され,更に,最も前壁側に近い控え壁には鉄筋挿入用小孔が設けられると共に,この小孔と大径孔との中間位置には前記小孔よりも大きく,かつ,大径孔より小さい中径孔を備え,前記最も前壁側に近い控え壁に設けられた小孔は,大型擁壁用ブロック及びその上面側に積層される複数の擁壁用ブロックの最も前壁側に近い控え壁に設けられた小孔と直状に連通する連通孔を形成するように位置決め積層され,基礎フーチングより突設されたアンカー鉄筋及び基礎フーチング上面に載設された各擁壁用ブロックを連結する連結鉄筋とを,この連通孔内に連結挿通させて上下の擁壁用ブロックを一体連結させて成る擁壁の構築構造 」。 「 0010】次に,前壁14と,この前壁14の背面側に突設形成された控え壁16とを備 【えた大型擁壁用ブロックA1を基礎フーチング12上面に配設し,この大型擁壁用ブロックA1の上面に,この大型擁壁用ブロックよりも控え壁の背面側突設長さが短く形成された複数の擁壁用ブロックA2,A3,A4を積層して構築させ,前記大型擁壁用ブロックの控え壁の端部には,両側方向へ膨出した膨拡壁22が設けられ,少なくとも,この膨拡壁22内には,上下面に連通した鉄筋挿入用大径孔24が開孔され,更に,最も前壁側に近い控え壁には鉄筋挿入用小孔26が設けられると共に,この小孔26と大径孔24との中間位置には前記小孔26よりも大きく,かつ,大径孔26より小さい中径孔28を備え,前記最も前壁側に近い控え壁に設けられた小孔26は,大型擁壁用ブロックA1及びその上面側に積層される複数の擁壁用ブロックA2,A3,A4の最も前壁側に近い控え壁16に設けられた小孔26と直状に連通する連通孔を形成するように位置決め積層され,基礎フーチング12より突設されたアンカー鉄筋18及び基礎フーチング12上面に載設された各擁壁用ブロックを連結する連結鉄筋20とを,この連通孔内に連結層通させて上下の擁壁用ブロックを一体連結させて成る擁壁の構築構造10から構成される 」。 「 0014】また,前記膨拡壁16内に設けた大径孔24a,24b,控え壁16に設けた 【中径孔26或は小径孔28の内面側には挿入される鉄筋や充填材等を強固に連結固定するための凹凸,または凹凸溝52が設けられて成ることとしてもよい。 【0015】また,前記鉄筋挿入用大径孔24a,鉄筋挿入用小孔28,中径孔26,2次大径孔24bは,それらの孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔として形成されて成ることとしてもよい 」。 「 0035】また,鉄筋コンクリート基礎フーチング12より突設されたアンカー鉄筋18 【及び鉄筋コンクリート基礎フーチング12上面に載設された各擁壁用ブロックを連結する連結鉄筋20とを,この連結孔内に連結挿通させ,更に,上下の擁壁用ブロックを一体連結させている。このように,大型擁壁用ブロックA1と2次大型擁壁用ブロックA2とは相互に位置合わせ接合したとき大径孔24aと2次大径孔24bとは相互に連通し,また,控え壁16に設けた鉄筋挿入用の小孔26,中径孔28等も相互に連通し,この連通した孔内に連結鉄筋20を挿入してモルタルの様な充填材を充填固化させることにより,2次大型擁壁用ブロックA2は大型擁壁用ブロックA1に強固に連結される。すなわち,前壁側からもっとも土圧が作用する控え壁16の端部側にかけて順に抗張力及び抗縮力が作用し得る様に挿入でき,擁壁全体の剛体を向上させ得ると同時に構造全体の靱性をも向上させるので従来の限度高さよりも更に高い擁壁が構築できるものである 」。 「 0042】また,図29に示す用に,前記各大型擁壁用ブロックA1,2次大型擁壁用ブ 【ロックA2,中型擁壁用ブロックA3,小型擁壁用ブロックA4等において,前記膨拡壁22内に設けた大径孔24,控え壁16に設けた中径孔28や小径孔26の内面側には挿入される鉄筋や充填材等を強固に連結固定するために,各孔の円周面に凹凸または凹凸溝54を設けることが好ましい。そして,溝のピッチ間隔は,任意に設定してもよく,図示よりも大きな溝幅とした場合でも優れた剛体を形成でき,所期の目的を達成できる。これにより,内部に充填したモルタルの様な充填材は各ブロックに一体に付着して各ブロックの連設強度が大きくなる。 【0043】さらに,本実施例においては大型擁壁用ブロックの膨拡壁に開孔させた鉄筋挿入用大径孔24a,大型,中型,及び小型擁壁用ブロックの鉄筋挿入用小孔26,鉄筋挿入用中径孔28,2次大型擁壁用ブロックA2の2次大径孔24bは,それらの孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔として形成されている。図30には理解を容易にすべく誇張したテーパ角(度)θを図示している 」。 「【】,, ,,, 0059 また請求項11によれば前記鉄筋挿入用大径孔鉄筋挿入用小孔中径孔2次大径孔は,それらの孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔として形成されていることにより,上下に隣接する各ブロックの接合面で大きな剪断抵抗を保持でき,よって控え壁側から前壁側への土圧即ち,上方への引張力に対しても耐圧性の高い構造を形成することが可能となり,擁壁全体が靱性により優れたものとなる 」。 そうすると,上記記載,対応する図面及び当業者の技術常識によれば,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。 「前壁14と,前壁14の背面側に突設形成された控え壁16と,控え壁16に鉛直方向に連通した鉄筋挿入用小孔26,中径孔28と,を備えた大型擁壁用ブロックA1と,前壁14と,前壁14の背面側に突設形成された控え壁16と,控え壁16に鉛直方向に連通した鉄筋挿入用小孔26と,を有する大型擁壁用ブロックよりも控え壁の背面側突設長さが短く形成された擁壁用ブロックA2であって,大型擁壁用ブロックA1の上面に,相互の鉄筋挿入用小孔26が連通する様に積層配設された大型擁壁用ブロックよりも控え壁の背面側突設長さが短く形成された擁壁用ブロックA2と,を備え,鉄筋挿入用小孔26,中径孔28は,壁の上下両端面に開口された挿入口に上下に連通する連通孔からなり,該鉄筋挿入用小孔26,中径孔28は孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔を備え,フーチング基礎12の上面に,大型擁壁用ブロックA1,大型擁壁用ブロックよりも控え壁16の背面側突設長さが短く形成された擁壁用ブロックA2を積層配設して鉄筋挿入用小孔26を上下に連通させ,これらの鉄筋挿入用小孔26内にフーチング基礎12のアンカー鉄筋18と,アンカー鉄筋18に連結した連結鉄筋20とを貫通させると共に充填材を充填固化させてフーチング基礎12に各擁壁用ブロックA1,A2を一体的に連結させて成る擁壁の構築構造 」。 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された実公平3-52826号公報(刊行物2)には,図面とともに,以下の記載がある。 「 ,, , 主体1の前側上面の左右に円錐状の突起5 5を設け これと対応する主体1の前側下面に突起5が係合できる幅の横方向の凹溝6を設けたことを特徴とする擁壁用ブロック(実用新。」案登録請求の範囲)「3は縦の貫通孔で,その貫通孔3は中央が少しく細くなっている(3欄2〜3行)。」「なお,ブロックの側面に縦凹溝2,貫通孔3,凹部4を設けることによつて,充填された胴込め9のコンクリート,または土砂が土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる(4欄11〜16行) 。」そして 第1〜3図を参照すると 貫通孔3は 上下端の略中央位置に最小形 判決注: 最 , ,, (「小径」の誤記と認められる )となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向け 。 てしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きのラッパ状の孔部から構成されている点が記載されている。 (3)対比・判断そこで,補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「大型擁壁用ブロックA1」は補正発明の「第1擁壁用ブロック」に相当し,以下同様に 「大型擁壁用,ブロックよりも控え壁の背面側突設長さが短く形成された擁壁用ブロックA2」は「第2擁壁用ブロック」に 「鉄筋挿入用小孔26,中径孔28」は「複数の鉄筋挿通孔」に 「鉄筋挿入 , ,用小孔26」は「少なくとも一つの鉄筋挿入孔」に,それぞれ相当する。そして刊行部1(判決注: 刊行物1」の誤記と認められる )記載の発明の「孔の内部上縁側から下縁側へ向けて 「 。 」「」「」 孔径が小さくなるようなテーパ孔 は補正発明の ラッパ孔部 と対比して ラッパ状の孔部である点で共通する。 そうすると,両者は 「少なくとも,前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控 ,え壁に鉛直方向に開孔された複数の鉄筋挿入孔と,を備えた第1擁壁用ブロックと,前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入孔と,を有する第2擁壁用ブロックであって,第1擁壁用ブロックの上面に,相互の鉄筋挿入孔が連通する様に積層配設された第2擁壁用ブロックと,を備え,それぞれ少なくとも一つの鉄筋挿入孔は,壁の上下両端面に開口された挿入口に上下に連通する連通孔からなり,該鉄筋挿入孔はラッパ状の孔部を備え,フーチング基礎の上面に,第1,第2擁壁用ブロックを積層配設して鉄筋挿入孔を上下に連通させ,これらの鉄筋挿入孔内にフーチング基礎のアンカー鉄筋と,アンカー鉄筋に連結した連結鉄筋とを貫通させると共に充填材を充填固化させてフーチング基礎に各擁壁用ブロックを一体的に連結させて成る擁壁の構築構造 」。 の点で一致し,以下の点で相違している。 [相違点1]鉄筋挿通孔が,補正発明は,上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備えるのに対し,刊行物1記載の発明は,孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔を備える点。 上記[相違点1]について検討する。 刊行物2記載の発明には,擁壁用ブロックに関して,貫通孔3(補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当)は,上下端の略中央位置に最小形(判決注: 最小径」の誤記と認められ,以下,引 「用する場合には訂正して記載する )となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側 。 (「」) , に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部 補正発明の ラッパ孔部 に相当 を小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きのラッパ状の孔部から構成されている点,また,ブロックの側面に縦凹溝2,貫通孔3,凹部4を設けることによつて,充 された?(判決注: 充填」の誤記であると認められ,以下,引用する場合には訂正して記載する )胴 「 。 込め9のコンクリートが土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる点が記載されている。 そして,刊行物1記載の発明の鉄筋挿通孔に,刊行物2記載の発明の上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備える点を適用し,相違点1に係る補正発明の構成とすることは,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明が共に擁壁用ブロックという同一の技術分野に属するものであるから,何ら困難性はなく,当業者が容易に想到するものである。 そして,補正発明の作用効果も,刊行物1,刊行物2記載の発明から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明,及び刊行物2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)むすび以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について(1)本願発明平成17年1月28日付の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成16年8月17日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁の突設端部に両側方向へ膨出して設けられた膨拡壁と,控え壁または膨拡壁に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入孔と,を備え,鉄筋挿入孔のうち,1個または複数個の鉄筋挿入孔は,その上下両端に開口された挿入口に連続する内壁により画成された連通孔であり,かつ,該連通孔内には,挿入口の孔径より縮径された小径部が設けられて成る擁壁用ブロック(以下 「本願発明」という ) 。」,。 (2)本願出願前に頒布された刊行物に記載された事項原査定の拒絶の理由に引用された刊行物,および,その記載事項は,前記「2 (2 」の記.)載に加え,以下の事項が記載されている。 ・刊行物1について「 請求項3】前壁と,この前壁の背面側に突設形成された控え壁とを備え,前記控え壁の端 【部には,両側方向へ膨出した膨拡壁が設けられ,この膨拡壁内には,上下面に連通した鉄筋挿入用大径孔が開孔されると共に,前記控え壁には,上下面に連通した鉄筋挿入用の複数の孔が開孔され,これらの孔の端面側には同孔より拡径するようにテーパ面が設けられて成る擁壁用ブロック 」。 「 請求項5】前記鉄筋挿入用大径孔,或いはその他の鉄筋挿入用の複数の孔には,それらの 【孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔として形成されて成る請求項1,2,3又は4記載の擁壁用ブロック 」。 そして,図3,5等参照すると,鉄筋挿入用小孔26,中径孔28および鉄筋挿通用大径孔24は,その上下両端に開口された挿入口に連続する内壁により画成された連通孔であることは,当業者に明らかな事項である。 そうすると,上記記載,対応する図面及び当業者の技術常識によれば,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。 「前壁14と,前壁14の背面側に突設形成された控え壁16と,控え壁16の突設端部に両側方向へ膨出して設けられた膨拡壁22と,控え壁16に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入用小孔26,中径孔28および膨拡壁22に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入用大径孔24と,を備え,鉄筋挿入用小孔26,中径孔28および鉄筋挿通用大径孔24は,その上下両端に開口された挿入口に連続する内壁により画成された連通孔で形成されて成る擁壁用ブロック以下 刊。」(「行物1-2記載の発明」という )。 ・刊行物2について刊行物2には,第1〜3図を参照すると,貫通孔3内には,挿入口の孔径より縮径された小径部が設けられている点が記載されている。 (以下「刊行物2-2記載の発明」という)(3)対比・判断本願発明と刊行物1-2記載の発明を対比すると,刊行物1-2記載の発明の「鉄筋挿入用小孔26,中径孔28,鉄筋挿入用大径孔24」は,本願発明の「鉄筋挿通孔」に,相当するから,両者は「前壁と,前壁の背面側に突設形成された控え壁と,控え壁の突設端部に両側方, , 向へ膨出して設けられた膨拡壁と 控え壁または膨拡壁に鉛直方向に開孔された鉄筋挿入孔とを備え,複数個の鉄筋挿入孔は,その上下両端に開口された挿入口に連続する内壁により画成された連通孔である擁壁用ブロック 」の点で一致し,以下の点で相違する。 。 [相違点2]連通孔内に本願発明は,挿入口の孔径より縮径された小径部が設けられるのに対し,刊行物1-2記載の発明は,そのような構成が設けられていない点。 上記[相違点2]について検討する。 刊行物2-2記載の発明は,貫通孔3(本願発明の「連通孔」に相当)内に,挿入口の孔径より縮径された小径部が設けられているものである。 そして,刊行物1-2記載の発明の連通孔内に,刊行物2-2記載の発明の連通孔内に挿入口の孔径より縮径された小径部を設ける点を適用し,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,刊行物1-2記載の発明及び刊行物2-2記載の発明が共に擁壁用ブロックという同一,, 。 の技術分野に属するものであるから 何ら困難性はなく 当業者が容易に想到するものであるそして,本願発明の作用効果も,刊行物1-2記載の発明,及び刊行物2-2記載の発明から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって,本願発明は,刊行物1-2記載の発明及び,刊行物2-2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび,, , , 以上のとおり 本願発明は 刊行物1-2記載の発明 刊行物2-2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない 」。 第3原告の主張(審決取消事由)の要点1審決は,本件補正発明について,特許法17条の2第5項が準用する126条5項の要件(独立特許要件)の有無を判断するに当たり,刊行物2記載の発明の認定を誤って,本件補正発明と刊行物1記載の発明との相違点1についての判断を誤ったことにより,本件補正却下の決定をし,その結果,本件補正発明に基づいて認定すべき本願発明の要旨を,第1次補正後の発明に基づいて認定した誤りがあるから,取り消されるべきである。 2取消事由(相違点1についての判断の誤り)( )審決は,本件補正発明と刊行物1記載の発明との相違点1についての判断1に当たり 「刊行物2記載の発明には,擁壁用ブロックに関して,貫通孔3(補正 ,発明の『鉄筋挿通孔』に相当)は,上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部(補正発明の『ラッパ孔部』に相当)を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きのラッパ状の孔部から構成されている点,また,ブロックの側面に縦凹溝2,貫通孔3,凹部4を設けることによつて,充填された胴込め9のコンクリートが土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる点が記載されている 」と認定した。 上 「刊行物1記載の発明の鉄筋挿通孔に,刊行物2記載の発明の上下端の略中央 ,位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備える点を適用し,相違点1に係る補正発明の構成とすることは,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明が共に擁壁用ブロックという同一の技術分野に属するものであるから,何ら困難性はなく,当業者が容易に想到するものである「補正発明の作用効果も,刊行物1,刊行物2記載の発明から当 。」,。」,,。 業者が予測できる範囲のものであると判断したが 以下のとおり 誤りである( )刊行物2の記載事項の認定の誤り2ア刊行物2記載の発明の貫通孔3は,上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するものの,その上部側孔部には,対向する両側面に深さ方向にその側面部分の3分の1程度の大きさの逆台形状切欠からなる凹部4が形成されているから,「小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部」という構成にはなっていない。 この点につき,被告は,貫通孔3の上下端の略中央位置の小径部から凹部4の下端部にかけては,小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部が形成されていると主張するが,刊行物2記載の発明は,主体1について縦凹溝2,貫通孔3,凹部4を備えることにより,はじめてその作用ないし機能を生じさせるはずであり,部分的な,あるいは局部的な近似点を挙げ,全体として「ラッパ状」というようなことはできない。 イ刊行物2記載の発明の貫通孔3は,本件補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当するものではない。 すなわち,本件補正発明の鉄筋挿通孔は 「壁の上下両端面に開口された挿入口 ,に上下に連通する連通孔からなり「相互の鉄筋挿入孔が連通する様に積層配設さ 」,れる「鉄筋挿入孔」であり,かつ 「充填材を充填固化させてフーチング基礎に 」, ,各擁壁用ブロックを一体的に連結させて成る擁壁の構築構造 である構成を備え 特 」(許請求の範囲2項 ,積層された各擁壁用ブロックの前壁側に上方から下方への圧 )縮力が加わり,控え壁側に下方から上方への引張力が加わっても,鉄筋挿入孔内に充填固化したコンクリート部材に対し,各擁壁用ブロックが滑動することのないようにする目的を有するものである(本件補正に係る明細書(甲第2号証,以下「本件補正明細書」という )の段落【【。これに対し,刊行物2記載の 。】,】)00030004発明は,@刊行物2に「充填された胴込め9のコンクリート,または土砂が土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ(る) (4欄12〜14行)と記載 」されているように,土砂を胴込め材とすることが想定されているから,たとえ,鉄筋を配設することが示唆されているとしても,胴込め材と鉄筋との付着力について期待していないことが明らかであり,A貫通孔3に上記凹部4が形成されているから,仮に貫通孔3に縦方向に鉄筋を挿入しても,凹部4から胴込め材が流出し,鉄筋との結合性を確保することができず,B刊行物2の図面第4図のブロックの布積, , , み態様において 第2図の貫通孔3の幅長では 上下ブロックの貫通孔が連通せず縦方向に鉄筋を挿入して連結すること自体が困難であり,C刊行物2の上記@の記載にかんがみて,横ズレ防止を目的の一つとするものであって,胴込め9を充填してブロック自体の質量を大きくし,これによって,ブロックの食み出しを防止しようとするものであり,さらに,D刊行物2に,従来技術の問題点として 「隣接ブ,ロック同士に或角度をつけて積上げようとすると,上面の突起,突条は,下面の凹部,凹溝から外れることゝなり,突起,突条は凹部,凹溝以外の位置に存在し,ブロックは,正面から見てブロックが上下係合できず ・・・また,上下段の凹部, ,凹溝より突起,突条が外れていると背面から土圧に対しても弱く,強固な擁壁とすることはできなかった(1欄25行〜2欄7行)と記載されていることにかんが 。」みて,土圧が背面から水平方向に擁壁を押す力に抗するような抵抗せん断力を確保するものであり,擁壁を構成するブロックの上下方向の圧縮あるいは引張力に対応するものではない。当業者は,刊行物2記載の発明の貫通孔3については,これを鉄筋挿入孔とは見ず,横ズレ防止目的で質量を増加させるための,単なる胴込め材充填用のブロック内空隙としてしか評価しない。 この点に付き被告は,刊行物2に鉄筋を配設することが記載されていると主張するが,上記のとおり,刊行物2記載の発明は,水平方向等のせん断力に対応するた,, , めのものであるから これに使用される鉄筋も せん断力に対応するものであって本件補正発明のように,全体として上下に挿入した鉄筋を介して基礎と法面壁とを一体化した剛体構造とし,かつ,法面壁の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の双方に対する耐力向上機能を図るものではない。また,被告は,擁壁用ブロックにおいてその貫通孔に鉄筋を挿入することは,従来周知の技術であるとして,乙第1号証を引用するが,乙第1号証に記載されたものの構造も,刊行物2記載の発明と同様,塑性的な構造であって,そこで用いられる鉄筋7は,単に擁壁の個々のブロックの壁部分どうしを連結させているにすぎないものである。 したがって,刊行物2記載の発明の貫通孔3は,本件補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当するものではない。 ウ本件補正発明は,全体として上下に挿入した鉄筋を介して基礎と法面壁とを一体化した剛体構造とし,かつ,法面壁全体の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の両方に対する耐力向上機能を有した擁壁を構築するものであり,そのような剛体構造の構築に向け,上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部からそれぞれ上下方向に拡径された上向きラッパ孔部と下向きラッパ孔部を同時に有する鉄筋挿入孔を形成したものであり,単にラッパ孔部の形状のみを特徴とするものではない。 このように,全体として上下に挿入した鉄筋を介して基礎と法面壁とを一体化した剛体構造とし,かつ,法面壁全体の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の両方に対する耐力向上機能を有した擁壁を構築することについての示唆は,刊行物2には存在せず,また,刊行物1にも存在しない。 ( )作用効果についての判断の誤り3本件補正発明は,上記のとおり,上向きの引張力と下向きの圧縮力に同時に対応するという作用効果を奏するものであるが,刊行物1,2には,それぞれ記載に係る発明がこのような作用効果を奏することについて記載も示唆もなく,当業者が,これを予測することは容易ではない。 なお,現実に,本件補正明細書と刊行物2のそれぞれの実施例に示された擁壁について,図面に基づき,全体擁壁の上下方向の引張力と圧縮力に対する対応力を計算した場合には,本件明細書の実施例では擁壁全体が引張力,圧縮力の双方について上下から加わる力に対し大きな耐力を有するのに対し,刊行物2の実施例では,抵抗力が全く働かず,両者の効果の差異は著しいことが理解される。 第4被告の反論の要点1審決の認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 2取消事由(相違点1についての判断の誤り)に対し( )「刊行物2の記載事項の認定の誤り」との主張に対し1, , , ア原告は 刊行物2記載の発明の貫通孔3には 凹部4が形成されているから「小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部」という構成にはなっていないと主張するが,刊行物2の図面第1〜第3図を参照すれば,貫通孔3は,全体として,小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部を形成していることが明らかである。 仮に,凹部4が存在する部分の形状を「ラッパ状」ということができなくとも,貫通孔3の上下端の略中央位置の小径部から凹部4の下端部にかけては,小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部が形成されているということができる。 したがって,審決の刊行物2の認定に,原告主張の誤りはない。 イ原告は,刊行物2記載の発明の貫通孔3については,当業者はこれを鉄筋挿,「」 。 入孔とは見ず 本件補正発明の 鉄筋挿通孔 に相当するものではないと主張するしかしながら,刊行物2に 「ブロックの上面に凹部4や貫通孔3が設けられて ,いるときは鉄筋を配設して (3欄21〜23行)と記載されているとおり,貫通 」孔3には,鉄筋を配設することが明らかである。さらに,擁壁用ブロックにおいてその貫通孔に鉄筋を挿入することは,例えば,実願昭53-171298号(実開昭54-101006号)のマイクロフィルム(乙第1号証)に示されているとおり,従来周知の技術であるから,刊行物2記載の発明である擁壁用ブロックにおいて,貫通孔3に鉄筋を挿入することは,当業者にとって自明のことであるといわざるを得ない。 なお,上記主張の根拠として,原告が挙げる@〜Dの各点も,以下のとおり失当である。 (ア)刊行物2には,胴込め9としてコンクリートを使用する態様も記載されていることは,原告の引用に係る記載部分によって明らかであり,このような態様においては,胴込め材9と鉄筋に付着力が発生することは,当業者にとって明らかなことであるから,@の点は,原告の主張の根拠となり得ない。 (イ)刊行物2の「鉄筋を配設して凹部4,貫通孔3に胴込め9,ブロックの背面に裏込め10を充填して施工される (3欄22〜24行)との記載によれば, 」凹部4及び貫通孔3には,ともに胴込め9が充填されているものと解されるから,Aの凹部4から胴込め材が流出するとする点も誤りである。 (ウ)刊行物2の図面第1〜第3図に示された形状に照らせば,刊行物2記載の発明は,第4図(ブロックを積み上げた施工状態の正面図)の状態において,貫通孔3がその上下ブロックの縦凹溝2と連通することは明らかであるから,Bの点も誤りである。 (エ)仮に刊行物2記載の発明が横ズレ防止を目的の一つとするものであって,土圧が背面から擁壁を押す力に抗するような抵抗せん断力を確保するものであり,擁壁を構成するブロックの上下方向の圧縮あるいは引張力に対応するものではないとしても,そのことが,貫通孔3に鉄筋を挿通することを否定する理由とはならないから,C,Dの点も誤りである。 (オ)上記(ア)〜(エ)のとおり,@〜Dの各点は,刊行物2記載の発明の貫通孔3は本件補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当するものではない,との原告主張の根拠となるものではない。 ウ原告は,本件補正発明に係る,法面壁全体の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の両方に対する耐力向上機能を有した擁壁を構築することについての示唆は,刊行物2には存在せず,また,刊行物1にも存在しないと主張するが,刊行物1,2記載の発明が,ともに擁壁用ブロックである点で共通することにかんがみれば,刊行物1記載の発明の連通孔に,刊行物2記載の発明の貫通孔3の形状を適用することは,上下方向に加わる引張力及び圧縮力の両方に対抗することが刊行物2に記載されていなくとも,当業者において容易に想到し得るものである。 ( )「作用効果についての判断の誤り」との主張に対し 2原告は,当業者が,上向きの引張力と下向きの圧縮力に同時に対応するという本件補正発明の作用効果を,刊行物1,2により予測することは容易ではないと主張するが,刊行物2に記載された,貫通孔3が,上下端の略中央位置に最小形となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きのラッパ状の孔部を備える構成と,貫通孔3に胴込め9のコンクリートを充填し鉄筋を挿入することが当業者にとって自明であることによれば,上向きの引張力と下向きの圧縮力に同時に対応するという効果が,刊行物1,2に記載されていないとしても,当業者が普通に予測し得るものであり,審決の判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について( )「刊行物2の記載事項の認定の誤り」との主張について1ア原告は,貫通孔3は,小径部の上部側孔部に,対向する両側面に深さ方向にその側面部分の3分の1程度の大きさの逆台形状切欠からなる凹部4が形成されているから 「小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔 ,部」という構成にはなっていないと主張する。 しかるところ,刊行物2には,実用新案登録請求の範囲として「主体1の前側上面の左右に円錐状の突起5,5を設け,これと対応する主体1の前側下面に,突起5が係合できる幅の横方向の凹溝6を設けたことを特徴とする擁壁用ブロック 」。 との 「従来の技術」として「この種のブロックは,ブロックの上面に方形の突起 ,を,それと対応する下面に方形の凹部を設け,組積するには,上下のブロックの突起と凹部を嵌合して積上げるものや,或はブロックの上面に突条を,それと対応する下面に凹溝を設け,組積には,上下のブロックの突条と凹溝とを嵌合して積上げるもの等が存在していた(1欄14〜20行)との 「考案が解決しようとする 。」 ,問題点」として「前記の従来のものは ・・・隣接ブロックとは同一平面上に積上 ,げられるものであって,隣接ブロック同志に或角度をつけて積上げようとすると,,,, ,, 上面の突起 突条は 下面の凹部 凹溝から外れることゝなり ・・・ブロックは正面からみてブロックが上下係合できず,上下凹凸となり不体裁になるし,また,上下段の凹部,凹溝より突起,突条が外れていると背面から土圧に対しても弱く,強固な擁壁とすることはできなかった(1欄22行〜2欄7行)との 「問題を 。」 ,解決するための手段」として「そこで本考案は前記の不都合を解消するために提案されたものであって・・・突起は円錐状になっているため,あらゆる角度に対応でき,そして凹溝は突起の嵌合できる幅となっているので,隣接ブロック間を或角度, , に積上げても外れることがなく どのような湾曲部に対しても積上げることができ迅速に強固な擁壁とすることができる(2欄12〜24行)との各記載があり, 。」これらの記載によれば,刊行物2に記載された発明は,擁壁用ブロックの上面に方形の突起又は突条を,下面に方形の凹部又は凹溝を設けて,組み上げる際に,これらを嵌合させることとしていた従来技術において,隣接するブロック間に角度を設けて,擁壁を水平方向に湾曲させようとした場合に,突起又は突条と凹部又は凹溝の位置がずれて嵌合し得なかったという問題を 解決すべき課題とし ブロック 主 ,,(体1)の上面に円錐状の突起を,下面にこれが係合できる幅の横方向の凹溝を設けることにより,隣接するブロック間に角度を設けても,嵌合し得るようにして,この課題を解決したものであり,その必須の構成は,実用新案登録請求の範囲に記載された 「擁壁用ブロック」の「主体1の前側上面の左右に円錐状の突起5,5を ,設け」ることと 「これと対応する主体1の前側下面に,突起5が係合できる幅の ,横方向の凹溝6を設け」ることであるものと認められる。 他方,刊行物2には,これら必須の構成に関する記載のほかに 「1はブロック,の主体であってその両側には浅い縦凹溝2が形成され ・・・3は縦の貫通孔で, ,その貫通孔3は中央が少しく細くなっている。4は,上面横方向の凹部である 」。 (2欄25行〜3欄4行「ブロックの上面に凹部4や貫通孔3が設けられている ),ときは鉄筋を配設して凹部4,貫通孔3に胴込め9,ブロックの背面に裏込め10を充填して施工される(3欄21〜24行「ブロックの側面に縦凹溝2,貫 。」),通孔3,凹部4を設けることによつて,充填された胴込め9のコンクリート,または土砂が土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる(4欄11〜16行)との各記載があっ 。」て 「上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有する貫通孔3「上面横方向 , 」,の凹部4」や「ブロック両側の浅い縦凹溝2」等の構成が開示されている(刊行物2記載の発明の貫通孔3が,上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有することは,当事者間に争いがない。しかしながら,これらは,刊行物2において,必 。)須の構成ではなく,任意的,付加的な構成として記載されているものであるから,刊行物2に接した当業者は,上記必須の構成とこれら任意的,付加的構成の全部が備わった態様(図面第1〜第3図に表示された実施例の態様)を観念することができるほか,これらの任意的,付加的構成を備えない態様(上記必須の構成のみによって成る態様)を刊行物2に記載された発明として観念し得ることはいうまでもなく,さらに,これらの任意的,付加的構成は,必ずしも,その全部が一体となって備わらなければならないとする理由は見当たらないから,上記必須の構成と,これらの任意的,付加的構成の一部とを備えた態様を観念し得ることも明らかである。 そして,審決の「刊行物2記載の発明には,擁壁用ブロックに関して,貫通孔3(補正発明の『鉄筋挿通孔』に相当)は,上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きのラッパ状の孔部(補正発明の『ラッパ孔部』に相当)を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きのラッパ状の孔部から構成されている点,また,ブロックの側面に縦凹溝2,貫通孔3,凹部4を設けることによつて,充填された胴込め9のコンクリートが土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる点が記載されている。そして,刊行物1記載の発明の鉄筋挿通孔に,刊行物2記載の発明の上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備える点を適用し,相違点1に係る補正発明の構成とすることは,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明が共に擁壁用ブロックという同一の技術分野に属するものであるから,何ら困難性はなく,当業者が容易に想到するものである(審決書6頁15〜30行)との説示は,刊行物2に,必須の構成の 。」ほか,任意的,付加的構成として 「上下端の略中央位置に最小径となる小径部を ,有する貫通孔3」や 「凹部4「縦凹溝2」等の構成が開示されていることを, ,」,それらの構成の作用効果とともに指摘した上,刊行物2記載の発明の態様として,,「 」 必須の構成のほか上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有する貫通孔3の構成を備え 「凹部4」の構成を備えないものを観念し(この場合には 「貫通孔 , ,3」は,必然的に 「小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ ,, 」 孔部を 小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備えることになる,それらの構成から成る刊行物2記載の発明の 「上下端の略中央位 。) ,置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備える」点を,刊行物1記載の発明に適用して,相違点1に係る本件補正発明の構成とすることが容易である旨を説示したものと解することができる。 原告の,貫通孔3は,小径部の上部側孔部に,対向する両側面に深さ方向にその側面部分の3分の1程度の大きさの逆台形状切欠からなる凹部4が形成されているとの主張は,刊行物2記載の発明として,必須の構成のほか,任意的,付加的構成の全部が備わった態様(図面第1〜第3図に表示された実施例の態様)のみが存在することを前提とするものであるが,その前提自体が誤りであって,失当である。 イ次に,原告は,数点の根拠を挙げて,刊行物2記載の発明の貫通孔3は,本件補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当するものではないと主張するので,原告の挙げる根拠につき,順次検討する。 (ア)まず,原告は,刊行物2では,土砂を胴込め材とすることが想定されているから,鉄筋を配設することが示唆されているとしても,胴込め材と鉄筋との付着力について期待していないと主張する。しかしながら,刊行物2の 「9は胴込め,コンクリートまたは砂利である(3欄9行「充填された胴込め9のコンクリ 。」),ート,または土砂が土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる(4欄12〜16行)との各 。」記載によれば,刊行物2には,コンクリートを胴込め材とする態様と,土砂又は砂利を胴込め材とする態様とが開示されていることが認められ,このうち,土砂又は砂利を胴込め材とする態様では,胴込め材と鉄筋との間の付着力は生じないとしても,コンクリートを胴込め材とする態様では,胴込め材と鉄筋との間に付着力が生ずることは明らかであるから,原告の主張は失当である。 (イ)原告は,貫通孔3に上記凹部4が形成されているから,貫通孔3に縦方向に鉄筋を挿入しても,凹部4から胴込め材が流出し,鉄筋との結合性を確保することができないとも主張するが,刊行物2記載の発明として,凹部4の構成を備えない態様を観念し得ることは,上記アのとおりである。また,仮に,凹部4の構成を備えたものを想定したとしても,刊行物2の図面第4図により,刊行物2記載の発明であるブロックを積み上げる際には,横方向に隣接するブロックどうしの凹部4のある面を,相互に向き合わせるものであると考えることができ,そうであれば,凹部4は,胴込め材が充填された隣接ブロックの凹部4と向き合うだけで,外部に, , 向かって開放されるわけではないから 貫通孔3や凹部4に充填された胴込め材が凹部4から外部に流出するとは認められない。したがって,原告の上記主張は,いずれにせよ,失当である。 (ウ)次に,原告は,刊行物2の図面第4図のブロックの布積み態様において,第2図の貫通孔3の幅長では,上下ブロックの貫通孔が連通せず,縦方向に鉄筋を挿入して連結することが困難であると主張する。しかしながら,第1〜第4図を総合すると,刊行物2記載の発明の貫通孔3及び縦凹溝2を備える態様においては,各ブロックの貫通孔3は,当該ブロックの上下の段の横方向に隣接する2個のブロックの縦凹溝2が向き合って形成される孔状部分と連通するものと認められるから,上下のブロックの貫通孔3同士が連通していなくとも,縦方向に鉄筋を挿入して連結することは可能であり,原告の上記主張は誤りである。 (エ)さらに,原告は,刊行物2の「充填された胴込め9のコンクリート,または土砂が土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ(る) (4欄12〜」14行)との記載によれば,刊行物2記載の発明は,横ズレ防止を目的の一つとするものであって,胴込め9を充填してブロック自体の質量を大きくし,これによって,ブロックの食み出しを防止しようとするものであるとか 「隣接ブロック同士,に或角度をつけて積上げようとすると,上面の突起,突条は,下面の凹部,凹溝から外れることゝなり,突起,突条は凹部,凹溝以外の位置に存在し,ブロックは,正面から見てブロックが上下係合できず ・・・また,上下段の凹部,凹溝より突 ,起,突条が外れていると背面から土圧に対しても弱く,強固な擁壁とすることはできなかった(1欄25行〜2欄7行)との記載にかんがみて,刊行物2記載の発 。」明は,土圧が背面から水平方向に擁壁を押す力に抗するような抵抗せん断力を確保するものであって,当業者は,その貫通孔3を鉄筋挿入孔とは見ず,横ズレ防止目的で質量を増加させるための,単なる胴込め材充填用のブロック内空隙としてしか評価しないと主張する。 しかしながら,刊行物2に 「ブロックの上面に凹部4や貫通孔3が設けられて ,いるときは鉄筋を配設して凹部4,貫通孔3に胴込め9,ブロックの背面に裏込め10を充填して施工される(3欄21〜24行「ブロックの側面に縦凹溝2, 。」),貫通孔3,凹部4を設けることによつて,充填された胴込め9のコンクリート,または土砂が土圧に抵抗してブロックの食み出しを防ぐことができ,また鉄筋を配設すれば一層強固な擁壁とすることができる(4欄11〜16行)との各記載があ 。」ることは,上記アのとおりであり,刊行物2記載の発明について鉄筋を配設する態様が明記されていることに加え,縦方向の鉄筋を配設しないのであれば,縦凹溝2の構成の技術的意義が不明となり,さらに,貫通孔3に胴込め9を充填してブロックの質量を大きくすることと,貫通孔3に鉄筋を配設することとは,互いに排斥し合うものではないから,当業者が,貫通孔3を,鉄筋挿入孔とは見ず,質量増加目的の胴込め材充填用のブロック内空隙としてしか評価しないとの上記主張も明らかに誤りである。 なお,原告は,刊行物2記載の発明が擁壁を構成するブロックの上下方向の圧縮あるいは引張力に対応するものではないとも主張するが,刊行物2記載の発明の構成を刊行物1記載の発明に適用して,本件補正発明の構成とすることが容易であるかどうかという容易想到性の判断においては,刊行物2記載の発明の当該構成を刊行物1記載の発明に適用するための,いわゆる論理付けがあって,その適用した結果が,本件補正発明の構成を備えれば(したがって,本件補正発明の作用効果を奏すれば)足りるものであって(この点は,後記ウにおいて検討する,刊行物2記。)載の発明が,それ自体として,上下方向の圧縮力及び引張力に対応し得るという作用効果を奏することは必要ではない。 (オ)上記(ア)〜(エ)のとおり,刊行物2記載の発明の貫通孔3が,本件補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当するものではないことの根拠として,原告の挙げる事由はすべて失当である。そして,上記(エ)で摘示した刊行物2の記載に照らすと,刊行物2記載の発明の貫通孔3は,本件補正発明の「鉄筋挿通孔」に相当するものと認めることができる。 ウ原告は,本件補正発明は,全体として上下に挿入した鉄筋を介して基礎と法面壁とを一体化した剛体構造とし,かつ,法面壁全体の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の両方に対する耐力向上機能を有した擁壁を構築するものであるが,このような擁壁を構築することについての示唆は,刊行物1,2に存在しないと主張するところ,この主張は,刊行物2記載の発明の構成を刊行物1記載の発明に適用するための論理付けがなく,その適用が容易ではないという趣旨であると解される。 しかしながら,審決が認定した刊行物1記載の発明(審決書4頁22行〜5頁2行。刊行物1記載の発明に係る審決の認定に誤りがないことは,当事者間に争いがない )に係る「該鉄筋挿入用小孔26,中径孔28は孔の内部上縁側から下縁側 。 」,, へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔を備え る構成に関して 刊行物1には「前壁と、この前壁の背面側に突設形成された控え壁とを備えた大型擁壁用ブロックを基礎フーチング上面に配設し、この大型擁壁用ブロックの上面に、この大型擁壁用ブロックよりも控え壁の背面側突設長さが短く形成された複数の擁壁用ブロックを積層して構築させ、前記大型擁壁用ブロックの控え壁の端部には、両側方向へ膨出した膨拡壁が設けられ、少なくとも、この膨拡壁内には、上下面に連通した鉄筋挿入用大径孔が開孔され、更に、最も前壁側に近い控え壁には鉄筋挿入用小孔が設けられると共に、この小孔と大径孔との中間位置には前記小孔よりも大きく、かつ、大径孔より小さい中径孔を備え、前記最も前壁側に近い控え壁に設けられた小孔は、大型擁壁用ブロック及びその上面側に積層される複数の擁壁用ブロックの最も前壁側に近い控え壁に設けられた小孔と直状に連通する連通孔を形成するように位置決め積層され、基礎フーチングより突設されたアンカー鉄筋及び基礎フーチング上面に載設された各擁壁用ブロックを連結する連結鉄筋とを、この連通孔内に連結挿通させて上下の擁壁用ブロックを一体連結させて成る擁壁の構築構造(特許。」請求の範囲の請求項6「前記鉄筋挿入用大径孔,鉄筋挿入用小孔,中径孔,2次 ),大径孔は,それらの孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔として形成されて成る請求項5,6,7,8,9又は10記載の擁壁の構築構造(同請求項11「請求項11によれば,前記鉄筋挿入用大径孔,鉄筋挿 。」),入用小孔,中径孔,2次大径孔は,それらの孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔として形成されていることにより,上下に隣接する各ブロックの接合面で大きな剪断抵抗を保持でき,よって控え壁側から前壁側への土圧即ち,上方への引張力に対しても耐圧性の高い構造を形成することが可能となり,擁壁全体が靱性により優れたものとなる(段落【「一般に擁壁の前 。」】),0059面側には背面側の引張力に釣合った強い圧縮力を生じるものであり,この圧縮力に見合った抗縮力が必要である(段落【)との各記載があって,擁壁用ブロ 。」】0030ックの控え壁側(背面側)には上方への引張力が作用すること,刊行物1記載の発明の鉄筋挿入孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔を備える構成は,この上方への引張力に対抗するために採用されたものであり,この構成により,特に,上下に隣接する各ブロックの接合面で大きな剪断抵抗を保持できること,他方,擁壁用ブロックの前面側には背面側の引張力に釣合った強い圧縮力を生じるものであり,この圧縮力に対抗する抗縮力が必要であることが開示されている。そうすると,刊行物1に接した当業者は,上記圧縮力に対抗する手段を検討する必要に迫られるところ,圧縮力は,上記引張力の逆方向に作用する力であるから,引張力に対抗するため鉄筋挿入孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔を備えた刊行物1記載の発明を参酌し,これとは逆向きのテーパ孔,すなわち,鉄筋挿入孔の内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が大きくなるようなテーパ孔を備える構成を検討することは自然であり,その結果,このような構成を備えることにより,圧縮力に対抗し得ることを容易に見出し得るものと認められる(このように考えると,本件補正発明は,刊行物2記載の発明の構成に照らして検討するまでもなく,刊行物1記載の発明の構成のみに基づいて発明することができたものということもできる。他方,刊行物2には,上記ア,イのとお 。)り,貫通孔の上下端の略中央位置に最小径となる小径部を有するとともに,この小径部から上方側に向けてしだいに拡径された上向きラッパ孔部を,小径部から下方側に向けてしだいに拡径された下向きラッパ孔部を備え,かつ,貫通孔3に鉄筋を配設し,胴込め材をコンクリートとした態様の擁壁用ブロックの発明が開示されているところ,これに接した当業者であれば,この構成においては,一つの鉄筋挿入孔が,上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔と,上縁側から下縁側へ向けて孔径が大きくなるようなテーパ孔を併せ持つことをたやすく見て取れるから,引張力と圧縮力の双方に対抗するため,刊行物2記載のこの構成を,刊行物1記載の発明における,鉄筋挿入孔が内部上縁側から下縁側へ向けて孔径が小さくなるようなテーパ孔を備える構成に換えて適用することも容易になし得るところであるというべきである。そして,その結果として,刊行物1記載の発明は,相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるに至り,刊行物1記載の発明の「鉄筋挿入用小孔26内にフーチング基礎12のアンカー鉄筋18と,アンカー鉄筋18に連結した連結鉄筋20とを貫通させると共に充填材を充填固化させてフーチング基礎12に各擁壁用ブロックA1,A2を一体的に連結させ (審決書4頁37行〜 」5頁2行)る構成と相まって,全体として上下に挿入した鉄筋を介して基礎と法面壁とを一体化した剛体構造とし,かつ,法面壁全体の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の双方に対する耐力向上機能を有した擁壁が構築されることは,当業者が,普通に予測し得るものである。 したがって,原告の上記主張を採用することもできない。 ( )「作用効果についての判断の誤り」との主張について2原告は,本件補正発明の上向きの引張力と下向きの圧縮力に同時に対応するという作用効果は,刊行物1,2に記載又は示唆がなく,当業者がこれを予測することは容易ではないと主張するが,上記( )のウのとおり,刊行物1記載の発明に刊行1物2記載の発明の構成を適用した場合に,法面壁全体の上下方向に加わる引張力及び圧縮力の双方に対する耐力向上機能を有した擁壁が構築されることは,当業者が普通に予測し得るものであるというべきである。 なお,原告は,刊行物2の実施例に示された擁壁について,図面に基づき,全体擁壁の上下方向の引張力と圧縮力に対する対応力を計算した場合に,抵抗力が全く働からないとも主張するが,刊行物2記載の発明が,それ自体として,上下方向の圧縮力及び引張力に対応し得るという作用効果を奏する必要がないことは,上記のとおりであり,かかる計算に意味はない。 したがって,原告の上記主張も失当である。 2結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 高野輝久 |