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関連審決 訂正2005-39170
関連ワード 加工方法 /  一致点の認定 /  周知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術的範囲 /  出願公開 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10085号 審決取消請求事件
原告住友 重機 械 工業株式 会社
訴訟代理人弁理士高橋敬四郎
同 来山幹雄
同 鵜飼伸一
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理 人豊原邦雄
同 前田幸雄
同 高木彰
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が訂正2005-39170号事件について平成18年1月17日にした審決を取り消す。
第2事案の概要原告は,後記特許の特許権者であるところ,第三者からの特許異議の申立てに基づき特許庁が特許取消決定したので,その取消訴訟を当庁に提起した。本件は,前記訴訟の係属中に原告が特許請求の範囲変更を求める訂正審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1請求の原因(1)特許庁等における手続の経緯原告は,平成12年6月28日,名称を「多軸レーザ加工装置及びレーザ加工方法」とする発明について特許出願(以下「本願」という )をし,平。
成15年8月22日,特許庁から特許第3463281号として設定登録を受けた(請求項1ないし3。甲2。以下,この特許を「本件特許」といい,登録時の請求項を「旧請求項」という。。)これに対し,第三者から特許異議の申立てがなされたので,特許庁はこれを審理の上,原告のなした訂正請求も踏まえ,平成17年6月27日 「訂,正を認める。特許第3463281号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す 」との決定(甲7)をした。そこで,これに不服の原告がその取消訴 。
訟を提起し,現在,当庁に係属中である(平成17年(行ケ)10627号 。)このような中にあって原告は,旧請求項2,3の削除と旧請求項1の変更等を内容とする訂正審判請求(甲8。以下「本件訂正」という )をなし,。
特許庁はこれを訂正2005-39170号事件として審理した結果,平成18年1月17日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との審決をし, , 。
その謄本は平成18年1月27日原告に送達された。
(2)訂正請求の内容平成17年9月26日になされた本件訂正は,前記のとおり,旧請求項2,3を削除し,旧請求項1の訂正等を内容とするものであるところ,そこに記載された発明は,次のとおりである(下線部分が訂正部分。以下「本件訂正発明」という。甲8 。)【請求項1】パルスレーザビームを出射するレーザ光源と,前記レーザ光源から出射されたパルスレーザビームの,時間軸上に配列した複数のパルスを,外部から与えられる制御信号に基づいて,各パルスが第1の光軸及び第2の光軸のいずれか一方の光軸に沿って伝搬するように振り分ける振り分け光学系と,前記第1の光軸に沿って伝搬するパルスレーザビームを,加工対象物上に導くと共に,外部から与えられる信号に基づいて駆動されることにより,加工対象物上のある領域内で,パルスレーザビームの照射位置を移動させる第1の走査光学系と,前記第2の光軸に沿って伝搬するパルスレーザビームを,加工対象物上に導くと共に,外部から与えられる信号に基づいて駆動されることにより,加工対象物上のある領域内で,パルスレーザビームの照射位置を移動させる第2の走査光学系と,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射すべき位置に移動させておき,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射すべき位置に移動させておく制御手段とを有し,前記第1の走査光学系が,前記第1の光軸に沿って伝搬するパルスレーザビームを複数のビームに分割し,分割されたパルスレーザビームの各々の照射位置を移動させ,前記第2の走査光学系が,前記第2の光軸に沿って伝搬するパルスレーザビームを複数のビームに分割し,分割されたパルスレーザビームの各々の照射位置を移動させる多軸レーザ加工装置。
(3)審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本件訂正発明は,本願より前の平成12年1月12日に出願され本願より後の平成12年9月26日に出願公開された特願2000-3698号(特開2000-263271号・発明の名称「レーザ加工方法およびレーザ加工機 ・出願人日立ビアメカニクス株式会社。 」甲1。以下,これに記載された発明を「先願発明」という )と同一であ。
るから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決が認定した先願発明の内容,及び,本件訂正発明との一致点と相違点は,次のとおりである。
(ア)先願発明の内容「パルス状のレーザビームを出射するレーザ発振器と,前記レーザ発振器から出射されたパルス状のレーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスがレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分けるビーム分配整形装置と,前記レーザビーム23に沿って伝搬するパルス状のレーザビームを,プリント基板上に導くと共に,外部から与えられる信号に基づいて駆動されることにより,プリント基板上のある領域内で,パルス状のレーザビームの照射位置を移動させるガルバノミラー5a,5b及びfθレンズ6aと,前記レーザビーム24に沿って伝搬するパルス状のレーザビームを,プリント基板上に導くと共に,NC装置から与えられる信号に基づいて駆動されることにより,プリント基板上のある領域内で,パルス状のレーザビームの照射位置を移動させるガルバノミラー5c,5d及びfθレンズ6bと,前記パルス状のレーザビームの複数のパルスが,前記ガルバノミラー5a,5b及びfθレンズ6aを通してプリント基板上の同一箇所に照射されている期間に,前記ガルバノミラー5c,5d及びfθレンズ6bを駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておき,前記パルス状のレーザビームの複数のレーザパルスが,前記ガルバノミラー5c,5d及びfθレンズ6bを通してプリント基板上の同一箇所に照射されている期間に,前記ガルバノミラー5a,5b及びfθレンズ6aを駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておくNC装置とを有するレーザ加工機 」。
(イ)<一致点>「パルスレーザビームを出射するレーザ光源と,前記レーザ光源から出射されたパルスレーザビームの,時間軸上に配列した複数のパルスを,外部から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスが少なくとも第1の光軸又は第2の光軸に沿って伝搬するように振り分ける振り分け光学系と,前記第1の光軸に沿って伝搬するパルスレーザビームを,加工対象物上に導くと共に,外部から与えられる信号に基づいて駆動されることにより,加工対象物上のある領域内で,パルスレーザビームの照射位置を移動させる第1の走査光学系と,前記第2の光軸に沿って伝搬するパルスレーザビームを,加工対象物上に導くと共に,外部から与えられる信号に基づいて駆動されることにより,加工対象物上のある領域内で,パルスレーザビームの照射位置を移動させる第2の走査光学系と,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておき,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておく制御手段とを有する多軸レーザ加工装置 」。
(ウ)<相違点1>振り分け光学系が,前者(本件訂正発明)では各パルスを「第1の光軸及び第2の光軸のいずれか一方の光軸に沿って」伝搬するように振り分けるのに対し,後者(先願発明)では「第1の光軸又は第2の光軸の光軸25に沿って,もしくは集熱装置26に向けて」伝搬するように振り分ける点。
(エ)<相違点2>第1及び第2の走査光学系が,前者ではレーザビームを複数のビームに分割し,分割されたビームの各々の照射位置を移動させるのに対し,後者ではこのようなものでない点。
(4)審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあり,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1-先願発明の認定の誤り(ア)審決は,上記(3)イ(ア)のとおり先願発明を認定し,その願書に添付された明細書等(先願明細書)に開示されたビーム分配整形装置は,「前記レーザ発振器から出射されたパルス状のレーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスがレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分ける (審決5頁下7行〜」下4行)ものとするが,失当である。
すなわち,先願明細書(甲1)の段落【0035】〜【0041】の記載によれば,先願明細書に開示されたビーム分配整形装置は 「…レ,ーザ発振器から出射されたパルス状のレーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスを,レーザビーム23もしくはレーザビーム25の光軸に沿って伝搬するように分割するか,またはレーザビーム24もしくはレーザビーム25の光軸に沿って伝搬するように分割する」ものというべきである。
(イ)被告は,レーザビーム25の光軸に沿ったレーザビームの伝搬は,集熱装置26においてレーザパルスの立ち上がり部及び立ち下がり部を熱に変換して消費するためのものであるから,先願発明におけるレーザビームの振り分けに何ら影響を及ぼすものではない,したがって,審決が,先願明細書に開示されたビーム分配整形装置を 「レーザ発振,器から出射されたパルス状のレーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスがレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分ける (審決5頁下7行〜下4行)と認定し 」たことに誤りはないと主張する。
しかし 「各レーザパルス」というときは,多くのレーザパルスから ,選択された一つ一つのレーザパルスの全体を意味し,一つのレーザパルスが分割されて得られるレーザパルスの一部分は,もはや「各レーザパルス」と呼ぶことはできない。しかるに,先願明細書に開示されたビーム分配整形装置においては,一つのレーザパルスが分割されて,その一部分のみが,レーザビーム23またはレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するものであるから,先願明細書に 「…各レーザパルス,がレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分ける」ビーム分配整形装置が記載されているということはできない。
イ取消事由2-一致点の認定の誤り(ア)審決は,上記(3)イ(イ)のとおり本件訂正発明と先願発明との一致点を認定し,とりわけ両者は 「前記パルスレーザビームの複数のパル ,スが,前記第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておき,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておく制御手段 (審決8頁13行」〜18行)とを有する多軸レーザ加工装置である点において一致するとし 「…一方の走査光学系においてパルスレーザビームの照射位置を移 ,動させる期間は,本願訂正発明,先願明細書等記載の発明のいずれにおいても,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間であることに相違はない (審決8頁下5行〜下1行)とするが,失当である。 」先願発明においては,先願明細書(甲1)の段落【0035【0】,036】も参照すると 「前記パルスレーザビームの複数のパルスの主 ,要部が,前記第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間,主要部が前記第1の光軸に沿って伝搬するパルスのうち主要部以外の部分が集熱装置に入射している期間,及び主要部が前記第2の光軸に沿って伝搬するパルスのうち主要部以外の部分が集熱装置に入射している期間に,前記第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射すべき位置に移動させている」ことになる。したがって,先願発明においては 「一方の走査光学系においてパルスレーザビ ,ームの照射位置を移動させる期間は,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間である 」とはいえない。。
さらに,本件訂正発明においては,一方の走査光学系においてパルスレーザビームの照射位置を移動させる期間は,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,他方の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間であると解釈されるものである。しかるに,本件訂正発明を 「一方の走査光学系においてパルスレーザビームの照射位 ,置を移動させる期間は,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間である」と認定することは,本件訂正発明の技術的範囲が,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間に,パルスレーザビームが他の走査光学系を通ることなく,他の走査光学系以外の光学系を通過する場合をも含むことになる。これは,本件訂正発明の技術的範囲を,特許請求の範囲に記載された内容よりも広く認定することになり,誤りである。
このように,被告は,本件訂正発明の技術的範囲を,特許請求の範囲に記載された内容よりも広く認定し,かつ先願発明を誤って認定した結果,本件訂正発明と先願発明との一致点の認定を誤ったものである。
(イ)被告は 「第1の走査光学系を通してレーザビームが加工対象物上 ,に照射されない期間」に第1の走査光学系を駆動することと 「第2の,走査光学系を通してレーザビームが加工対象物上の同一箇所に照射される期間」に第1の走査光学系を駆動することとを同一のものとみなし,かかる二つの期間の相違によって,本件訂正発明と先願発明との間に作用効果上の差異は何ら生じないから,上記相違点は実質的なものとはいえないと主張する。
しかし,前者の期間は,例えばレーザパルスが先願明細書(甲1)の図1に示された集熱装置26に入射する期間を含むのに対し,後者の期間は,集熱装置26に入射する期間を含まないから,両者は実質的に異なる期間というべきであって,振り分け光学系の構成上の相違に起因して発生する作用上の実質的な差異となっている。
ウ取消事由3-相違点1についての判断の誤り(ア)審決は,上記(3)イ(ウ)のとおり本件訂正発明と先願発明との相違点1を認定し 「…<相違点1>は,単に従来周知の技術を削除したも ,のに過ぎないから,実質的な相違点ではない(審決9頁19行〜2 。」0行)とするが,失当である。
すなわち,先願発明においては,1本のレーザビームを,第1の光軸(レーザビーム23 ,第2の光軸(レーザビーム24 ,集熱装置2 ) )6に入射する光軸(レーザビーム25)の3本に振り分けるために,直列に配置された2つのビーム分配整形装置21a及び21bが使用されている。レーザビーム24は,1段目のビーム分配整形装置21aのみを通過するのに対し,他方のレーザビーム23は,1段目のビーム分配整形装置21aと2段目のビーム分配整形装置21bの両方を通過する。
このため,2本のレーザビーム23と24との光学的特性を完全に一致させることは困難である。例えば,1段目のビーム分配整形装置21aによってエネルギロスが生じるため,レーザ発振器1から出射されたレーザパルスのピークパワーが揃っていたとしても,一方のレーザビーム23のピークパワーは,他方のレーザビーム24のピークパワーより低くなってしまうことになる。
これに対し,本件訂正発明のように,1本のレーザビームを第1の光軸及び第2の光軸の2本に振り分ける場合には,複数の振り分け装置を使用する必要がなく,第1の光軸及び第2の光軸に沿って伝搬するレーザパルスの光学的特性を一致させることが容易である。
このように,本件訂正発明は,先願発明では得られない格別の効果を有するから,相違点1は,単に従来周知の技術を削除したものではなく,実質的な相違点である。
(イ)また,先願発明と本件訂正発明との対応関係をどのように解釈しても,先願明細書には,本件訂正発明の振り分け光学系に相当する光学装置が開示されているとはいえない。
すなわち,まず,先願明細書の図1に記載された1段目のビーム分配整形装置21aが,本件訂正発明の振り分け光学系に相当すると仮定すると,ビーム分配整形装置21aを直進したレーザビーム25がヘッド7aに入射することになるが,レーザビーム24の光軸に沿って伝搬するレーザビームの強度の最大値は,レーザビーム25の光軸に沿って伝搬するレーザビームの強度の最大値の80%程度になるから,2つのヘッド7a及び7bに入射するレーザビームの強度が異なってしまうことになる。さらに,レーザビーム24の光軸に沿ってレーザビームが伝搬している期間にも,残りの20%程度の成分は,レーザビーム25の光軸に沿って伝搬してしまうことになる。
次に,先願明細書の図1に記載された1段目のビーム分配整形装置21a及び2段目のビーム分配整形装置21bが,本件訂正発明の振り分け光学系に相当すると仮定しても,この場合には,先願発明の振り分け光学系は,レーザ発振器1から出射したレーザビームを,レーザビーム23,24及び25の3本に振り分け,そのうち2本のみが,ヘッド7a及び7bに入射することになる。
(ウ)被告は,先願発明におけるレーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26の存在は,レーザパルスの振り分けという発明の本質的な機能に何ら影響を及ぼすものではない,そうすると,先願発明においてレーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26を省略し,振り分け光学系を,1本のレーザビームを第1の光軸及び第2の光軸のいずれか一方の光軸に沿って伝搬するように振り分けるようにすることは,振り分け光学系に実質的な変更をもたらすものではない,と主張する。
しかし,先願明細書(甲1)の段落【0012【0013】の記】,載にあるように,レーザパルスの立ち上がり部分及び立ち下がり部分が加工対象物に入射しない構成は,先願発明の本質的なものであるから,このような本質的な機能を担っているレーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26を省略することはできない。
2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し先願明細書(甲1)の段落【0043】には 「以下,加工プログラムに ,基づいて,レーザビーム23およびレーザビーム24を交互あるいはランダムに発生させて,スキャン領域10a,10b内の加工を行う 」と記載さ。
れている。この記載によれば,先願発明において,加工用のレーザパルスをレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分けていることは明白である。そして,レーザビーム25の光軸に沿ったレーザビームの伝搬は,集熱装置26においてレーザパルスの立ち上がり部及び立ち下がり部を熱に変換して消費するためのものであるから,先願発明におけるレーザビームの振り分けに何ら影響を及ぼすものではない。
したがって,先願明細書(甲1)には 「…前記レーザ発振器から出射さ ,れたパルス状レーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスがレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分けるビーム分配整形装置」が記載されているから,審決の先願発明の認定に誤りはない。
(2)取消事由2に対し本件訂正発明において,第2の走査光学系が駆動される期間としている「前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間 ,及び,第1の走査光学 」系が駆動される期間としている「前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間」とは,複数のパルスとパルスの間の,レーザビームが照射されない期間をも含む連続的なものであることが,本件訂正明細書の図2に示されている。
他方,先願発明においても,第1,第2の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に複数のパルスが照射されるものであり,集熱装置がレーザパルスの立ち上がり部及び立ち下がり部を熱に変換する期間は,レーザビームが加工対象物上に照射されないことになる。そうすると,先願発明においても 「前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第1の走査光学系を ,通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間」及び「前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間」に,それぞれ第2の走査光学系及び第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を次に照射する位置に移動させておくものであることは明らかである。
また,仮に,先願発明において,第2の走査光学系を駆動する期間に,主要部が第2の走査光学系を通して照射される複数のパルスのうち,最後のものが照射を終えた直後の期間と最初のものが照射を開始する直前の期間が含まれるとしても,本件訂正発明も先願発明も,一方の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所にレーザビームを照射している間に他方の走査光学系を駆動して照射位置を次に照射すべき位置に移動させておくことによって,レーザ光源から放射されるレーザビームを有効に利用するという目的及び効果は共通しているのであり,しかも,上記期間を含めないことによって,先願発明との間に作用効果上の差異は何ら生じないから,上記「相違点」は実質的なものとはいえない。
(3)取消事由3に対し先願発明におけるレーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26の存在は,レーザパルスの振り分けという発明の本質的な機能に何ら影響を及ぼすものではない。そうすると,先願発明においてレーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26を省略し,振り分け光学系を,1本のレーザビームを第1の光軸及び第2の光軸のいずれか一方の光軸に沿って伝搬するように振り分けるようにすることは,振り分け光学系に実質的な変更をもたらすものではなく,審決が,相違点1は従来周知の技術を削除したに過ぎないと判断したことに誤りはない。
なお,本件訂正発明と先願発明とで振り分け光学系に実質的な差異はないのであるから,作用効果においても差異が生じるということはできない。1本のレーザビームを2本に振り分ける場合に,第1の光軸及び第2の光軸に沿って伝搬するレーザパルスの光学的特性を一致させることが容易になるという原告主張の効果は,先願発明においても当然生じるものに過ぎない。
第4当裁判所の判断1請求の原因1(1)(特許庁等における手続の経緯 ,(2)(訂正請求の内容 , ))(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
そこで,原告主張の取消事由について判断する。
2取消事由1(先願発明の認定の誤り)について(1)原告は,先願明細書(甲1)に開示されたビーム分配整形装置は 「前,記レーザ発振器から出射されたパルス状のレーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスがレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分ける」のではなく 「レーザ発振器から出射されたパル ,ス状のレーザビームの,時間軸上に配列した複数のレーザパルスを,NC装置から与えられる制御信号に基づいて,各レーザパルスを,レーザビーム23もしくはレーザビーム25の光軸に沿って伝搬するように分割するか,またはレーザビーム24もしくはレーザビーム25の光軸に沿って伝搬するように分割する」ものである,と主張する。
そこで検討するに,先願明細書(甲1)の段落【0038】〜【0041】には 「 1)時刻t0から時刻t1まで:レーザビーム2はビーム分 ,(配整形装置21a,21bの両者を透過し,レーザビーム25が集熱装置26に入射して熱に換えられる。
) , (2)時刻t1から時刻t2までの(期間T:図4(a)に示すようにW1レーザビーム2は,ビーム分配整形装置21bで光路が偏向し,レーザビーム23がガルバノミラー5aに入射し,ガルバノミラー5a,5bで定まる光路を通り,集光レンズ6aで集光され,スキャン領域10a内に穴を加工する。
(3)時刻t2から時刻t4まで:レーザビーム2はビーム分配整形装置21a,21bの両者を透過し,レーザビーム25として集熱装置26に入射し,他の個所に散乱することなく,熱に換えられて消費される。
(4)時刻t4から時刻t5まで(期間T:図4(b)に示すように,W2)レーザビーム2はビーム分配整形装置21aで光路が偏向し,レーザビーム24がガルバノミラー5cに入射し,ガルバノミラー5c,5dで定まる光路を通り,集光レンズ6bで集光され,スキャン領域10b内に穴を加工する 」との記載がある。。
上記記載によれば,先願明細書(甲1)においては,時刻t1から時刻t2までの期間Tは,レーザビーム23がスキャン領域10a内に穴を加工W1するように,時刻t4から時刻t5までの期間Tは,レーザビーム24が W2スキャン領域10b内に穴を加工するように,また,それ以外の残余の期間である,時刻t0から時刻t1までの期間及び時刻t2から時刻t4までの期間は,レーザビーム25が集熱装置26に入射するように,ビーム分配整形装置21a,21bによりレーザビーム2の光路を偏向させることが記載されていることが認められる。
そうすると,先願明細書(甲1)におけるビーム分配整形装置21a,21bは,レーザビーム2をレーザビーム25の光軸に沿って伝搬するように振り分ける機能を有するものであるが,レーザビーム2をレーザビーム23あるいはレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分ける機能をも有することは明らかであるから,審決が,先願発明として 「…各レーザ,パルスがレーザビーム23又はレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するように振り分けるビーム分配整形装置… (審決5頁下5行〜下4行)と認定 」したことに誤りはない。
さらに,審決は,本件訂正発明と先願発明との相違点1を,振り分け光学系が,前者では各パルスを「第1の光軸及び第2の光軸のいずれか一方の光軸に沿って」伝搬するように振り分けるのに対し,後者では「第1の光軸又は第2の光軸の光軸25に沿って,もしくは集熱装置26に向けて」伝搬するように振り分ける点,として認定しており,かかる相違点1の認定については,当事者間で争いがない。そうすると,審決が,先願発明のビーム分配整形装置21a,21bを,集熱装置26に向けて振り分ける機能をも有するものと認定したことは明らかであり,集熱装置26に向けて振り分けるのはレーザビーム25であるから,審決は,先願発明の内容として明示していなくても,実質的には,先願発明の内容として,集熱装置26に向けてレーザビームを振り分ける点を認定したものと解するのが相当である。
(2)原告は 「各レーザパルス」というときは,多くのレーザパルスから選 ,択された一つ一つのレーザパルスの全体を意味し,一つのレーザパルスが分割されて得られるレーザパルスの一部分は,もはや「各レーザパルス」と呼ぶことはできない,しかるに,先願明細書に開示されたビーム分配整形装置においては,一つのレーザパルスが分割されて,その一部分のみが,レーザビーム23またはレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するものであるから,先願明細書に 「…各レーザパルスがレーザビーム23又はレーザビーム2 ,4の光軸に沿って伝搬するように振り分ける」ビーム分配整形装置が記載されているということはできない,と主張する。
しかし,審決が,先願発明は 「…遅れ期間T,増加期間T 及び減衰 ,DL R期間T の間のレーザビームを,第1の光軸及び第2の光軸から遮断して代Dわりに集熱装置へ伝搬させることによって,第1の光軸及び第2の光軸に沿って伝搬するレーザパルスを矩形に整形している (審決9頁7行〜10 」行)としているとおり,レーザビーム23またはレーザビーム24の光軸に沿って伝搬するレーザビームは,矩形に整形された「レーザパルス」といえるから,分割されたことによりもはや「各レーザパルス」と呼ぶことができなくなったものと評価することはできない。
(3)以上によれば,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(一致点の認定の誤り)について(1)原告は,先願発明においては,パルスレーザビームの複数のパルスの主要部が,第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間,主要部が前記第1の光軸に沿って伝搬するパルスのうち主要部以外の部分が集熱装置に入射している期間,及び主要部が第2の光軸に沿って伝搬するパルスのうち主要部以外の部分が集熱装置に入射している期間に,前記第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射すべき位置に移動させているのであるから,審決が,一致点として「前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておき,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておく制御手段 (審決8頁13行〜18行) 」を有する点を認定したことは誤りである旨主張する。
しかし,先願明細書(甲1)には 「…一方のヘッドで加工している間に ,他方のガルバノミラーの位置決めを行う… (段落【0047「…一方 」】),のヘッドが加工している期間中に他方のヘッドを位置決めする… (段落」【0055 )との記載があり,これによれば,先願発明が,パルスレーザ 】ビームの複数のパルスが一方の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,他方の走査光学系を駆動してビームの照射位置を次に照射する位置に移動させておくとの技術思想を有することは明らかであるから,審決が,本件訂正発明との一致点を上記のように認定したことに,誤りがあるとはいえない。
また,原告が主張する 「主要部が第1の光軸に沿って伝搬するパルスの ,うち主要部以外の部分が集熱装置に入射している期間「主要部が第2の」,光軸に沿って伝搬するパルスのうち主要部以外の部分が集熱装置に入射している期間」とは,先願明細書における「立上り期間T 」及び「立ち下がりR期間T 」をいうものと解されるところ,先願明細書(甲1)には 「…従D ,来ガルバノミラーを動作させることができなかった立上り期間T および立R, ち下がり期間T もガルバノミラーを動作させることができる。したがって Dレーザ発振器の待ち時間を少なくでき,レーザ発振器の稼働率を向上させることができる。… (段落【0047 )との記載があり,これによれば, 」】先願発明において,立上り期間T および立ち下がり期間T もガルバノミラR Dーを動作させるのは,レーザ発振器の待ち時間を少なくするためのものと認められる。そうすると,そこまでレーザ発振器の待ち時間を少なくする必要がない場合は,立上り期間T および立ち下がり期間T にはガルバノミラーR Dを動作させなくとも,その残余の期間である 「パルスレーザビームの複数 ,のパルスの主要部が第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間」にガルバノミラーを動作させること,すなわち,パルスレーザビームの複数のパルスが一方の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,他方の走査光学系を駆動してビームの照射位置を次に照射する位置に移動させるという構成が可能であることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとり当然の前提であることが明らかである。
したがって,当業者であれば,先願明細書(甲1)の記載自体から 「パ,ルスレーザビームの複数のパルスが,第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておき,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておく制御手段」を有する態様の発明を把握することができるというべきである。
以上によれば,原告の前記主張は採用することができない。
(2)また原告は,本件訂正発明を 「一方の走査光学系においてパルスレー ,ザビームの照射位置を移動させる期間は,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間である」と認定することは,本件訂正発明の技術的範囲が,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間に,パルスレーザビームが他の走査光学系を通ることなく,他の走査光学系以外の光学系を通過する場合をも含むことになるが,これは,本件訂正発明の技術的範囲を,特許請求の範囲に記載された内容よりも広く認定することになり,誤りである,と主張する。
しかし,審決が,本件訂正発明と先願発明のいずれも相違はないとした「一方の走査光学系においてパルスレーザビームの照射位置を移動させる期間は,他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間である」という点は,本件訂正発明と先願発明との共通点が抽出されたものにすぎないから,審決が,かかる文言をもって本件訂正発明の技術的範囲を認定したものとすることはできない。
以上によれば,原告の前記主張は採用することができない。
(3)なお,原告は,先願発明においては 「一方の走査光学系においてパル ,スレーザビームの照射位置を移動させる期間は,…他方の走査光学系を通して複数のパルスの最初のものが照射を始める時点から,最後のパルスが照射を終える時点までの期間である(審決8頁下5行〜下1行)とはいえな 。」いと主張する。
確かに,先願発明は,一方の走査光学系においてパルスレーザビームの照射位置を移動させる期間として「パルスの主要部以外の部分がレーザビーム25の光軸に沿って伝搬する期間」も含むとみることができ,そうであれば,レーザビーム25の光軸に沿って伝搬する期間は 「他方の走査光学系」を ,通すものではないから,審決の前記説示は,必ずしも正確ではない。しかし,この点を併せ考慮しても,上記(1)で説示したように,当業者であれば,先, , 願明細書(甲1)の記載自体から 「パルスレーザビームの複数のパルスが第1の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,第2の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておき,前記パルスレーザビームの複数のパルスが,前記第2走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に,前記第1の走査光学系を駆動してビームの照射位置を,次に照射する位置に移動させておく制御手段」を有するという態様の発明を把握することができることが何ら左右されるものではないから,審決の上記説示が本件の結論に影響を及ぼすものではない。
(4)以上によれば,取消事由2は理由がない。
4取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について(1)原告は,先願明細書(甲1)に記載された発明においては,1本のレーザビームを3本に振り分けるために,直列に配置された2つのビーム分配整形装置21a及び21bが使用されており,レーザビーム24は,1段目のビーム分配整形装置21aのみを通過するのに対し,他方のレーザビーム23は,1段目のビーム分配整形装置21aと2段目のビーム分配整形装置21bの両方を通過するため,2本のレーザビーム23と24との光学的特性を完全に一致させることは困難であるのに対し,本件訂正発明のように,1本のレーザビームを第1の光軸及び第2の光軸の2本に振り分ける場合には,複数の振り分け装置を使用する必要がなく,第1の光軸及び第2の光軸に沿って伝搬するレーザパルスの光学的特性を一致させることが容易であって,本件訂正発明は,先願明細書に記載された発明では得られない格別の効果を有するから,相違点1は,単に従来周知の技術を削除したものではなく,実質的な相違点である,と主張する。
そこで検討するに,まず,先願明細書(甲1)には,特許請求の範囲として「加工部に入力するレーザ光の波形を略矩形波に形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ加工方法( 請求項3,発明。」【】)の効果として「以上説明したように,本発明によれば,レーザ光の光路を偏向可能な光路偏向手段をレーザ光の光路に配置し,前記光路偏向手段により加工部に入力するレーザエネルギを制御し,レーザビームのエネルギがほぼピークに達した期間で加工をするから,立上り期間T および立ち下がり期R間T の影響を受けることがなく,また,加工エネルギ量の制御を正確に行 Dうことができる。この結果,品質の優れる穴を加工することができる 」。
(段落【0084 )との記載がある。】これらの各記載によれば,振り分け光学系が,各パルスを第1の光軸又は第2の光軸の光軸25に沿って,もしくは集熱装置26に向けて伝搬するように振り分ける,とされる相違点1に係る先願発明の構成において,振り分け光学系が各パルスを集熱装置26に向けて伝搬するように振り分けることの意義は,立上り期間T および立ち下がり期間T の影響を受けないように,R D加工部に入力するレーザ光の波形を略矩形波に形成する点にあるものと認められる。
しかるに,前記2(1)で説示したように,先願発明は,各パルスを第1の光軸又は第2の光軸に沿って振り分ける機能をも有することは明らかであるところ,パルス波形の前後両端を遮断することによって矩形波に整形することは,従来周知の波形整形技術であるから,振り分け光学系につきかかる波形整形機能を持たせるか,あるいは,かかる周知技術を削除して,単に第1の光軸又は第2の光軸の光軸に沿って振り分けるものとするかは,実施に際して当業者が適宜選択し得る具体化手段の微差にすぎないものというべきである。
また,単に第1の光軸又は第2の光軸に沿って振り分けるものとするなら,複数の振り分け装置を使用する必要がない(ビーム分配整形装置21bは不要でありビーム分配整形装置21aのみで足りる )ことも明らかであるか 。
ら,原告が主張するような,直列に配置された2つのビーム分配整形装置21a及び21bという複数の振り分け装置を使用しないことによる効果があるとしても,それは,周知技術を削除したものにおいて当然奏されるものに過ぎないというべきである。
したがって,相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは,先願発明において,単に従来周知の前記波形整形技術を削除したものであって,実施に際しての具体化手段の微差にすぎないから,相違点1は,実質的な相違であるとはいえない。
したがって,本件訂正発明と先願発明が,相違点1において相違し,特許法29条の2にいう同一性の要件を欠くということはできない。
, (2)また原告は,レーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26は先願明細書(甲1)に記載された発明の本質的な機能を担っているのであるから,これらを省略することはできない旨,主張する。
確かに,先願明細書(甲1)には,上記(1)認定のように,特許請求の範囲として【請求項3 ,発明の効果として段落【0084】の記載があり, 】これらの記載によれば,先願明細書(甲1)の特許請求の範囲に記載された発明は,立上り期間T および立ち下がり期間T の影響を受けないように,R Dその期間は,振り分け光学系が各パルスを集熱装置26に向けて伝搬するように振り分けるようにしたものとも解される。
しかし,上記(1)に説示したように,相違点1に係る先願発明の構成において,振り分け光学系が各パルスを集熱装置26に向けて伝搬するように振り分けることの意義は,立上り期間T および立ち下がり期間T の影響を受R Dけないように,加工部に入力するレーザ光の波形を略矩形波に形成する点にあるものと認められるところ,パルス波形の前後両端を遮断することによって矩形波に整形することは,従来周知の波形整形技術であるというのである。
そして,前記2(1)で説示したように,先願発明は,各パルスを第1の光軸又は第2の光軸に沿って振り分ける機能をも有することは明らかである。
そうすると,先願明細書(甲1)の特許請求の範囲に記載された発明は,上記のような従来周知の技術であるパルス波形整形を行わなくとも各パルスを第1の光軸又は第2の光軸の光軸に沿って振り分けることが可能であることを当然の前提として,その際の立上り期間T および立ち下がり期間T の影R D響による問題を改善するためになされたものとみることができ,かかる問題を考慮する必要がなければ,レーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26を省略できることは,明らかである。
したがって,この点を,先願発明の本質的な機能を担っているものとして,これらを省略することはできないとはいえず,原告の前記主張は採用することができない。
(3)また原告は,先願明細書(甲1)の図1に記載された1段目のビーム分配整形装置21aが,本件訂正発明の振り分け光学系に相当すると仮定すると,ビーム分配整形装置21aを直進したレーザビーム25がヘッド7aに入射することになるが,レーザビーム24の光軸に沿って伝搬するレーザビームの強度の最大値は,レーザビーム25の光軸に沿って伝搬するレーザビームの強度の最大値の80%程度になる(音響光学素子の特性を説明する資料である甲12,13参照)から,2つのヘッド7a及び7bに入射するレーザビームの強度が異なってしまうことになる,さらに,レーザビーム24の光軸に沿ってレーザビームが伝搬している期間にも,残りの20%程度の成分は,レーザビーム25の光軸に沿って伝搬してしまうことになる,と主張する。
原告の上記主張は,レーザビーム24の光軸に沿って伝搬するレーザビームの強度の最大値がレーザビーム25の光軸に沿って伝搬するレーザビームの強度の最大値の80%程度になることを根拠としているところからみて,先願発明における振り分け光学系が音響光学素子を用いたものであることを前提とするものと解される。しかし,先願明細書(甲1)の特許請求の範囲には 「前記光路偏向手段がポリゴンミラーであることを特徴とする請求項 ,5に記載のレーザ加工機( 請求項8 )との記載も存在し,かかる記載 。」【】からみて,先願発明における振り分け光学系が音響光学素子を用いたものに限定されないことは明らかであるから,原告の上記主張は,その前提において失当である。
さらに原告は,先願明細書(甲1)の図1に記載された1段目のビーム分配整形装置21a及び2段目のビーム分配整形装置21bが,本件訂正発明の振り分け光学系に相当すると仮定しても,この場合には,先願発明の振り分け光学系は,レーザ発振器1から出射したレーザビームを,レーザビーム23,24及び25の3本に振り分け,そのうち2本のみが,ヘッド7a及び7bに入射することになる,と主張する。
しかし,レーザビーム25の光軸に沿った伝搬及び集熱装置26を,先願発明の本質的な機能を担っているものとしてこれらを省略することはできないとの主張が失当であることは,前記(2)に説示したとおりであるから,原告の上記主張も採用することができない。
(4)以上によれば,取消事由3は理由がない。
5結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一