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関連審決 無効2004-80248
関連ワード 発明者 /  創作性(創作) /  製造方法 /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術常識 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  禁反言 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10168号 審決取消請求事件
原告株 式会社シーディック
訴訟代理人弁理士廣江武典
同 武川隆宣
同 高荒新一
同 西尾務
同 中村繁元
被告株式会社システムトライ
訴訟代理人弁護士安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同 鷹見雅和
訴訟代理人弁理士安原正義
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2004-80248号事件について平成18年3月6日にした審決を取り消す。
第2事案の概要原告が有する後記特許のうち請求項1につき被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が平成17年5月6日付けでこれを無効とする審決(第1次審決)をしたことから,原告がその取消しを求めて訴えを提起し,これを審理した当庁は,平成17年9月2日,特許法181条2項により,これを取り消す決定をした。
そこで特許庁がさらに審理し,平成18年3月6日付けで,再び請求項1に係る特許を無効とする審決(第2次審決)をしたので,これに不服の原告が,上記第2次審決の取消しを求めたのが本件事案である。
第3当事者の主張1請求の原因(1)特許庁等における手続の経緯ア原告は,平成12年12月20日,名称を「複数自転車の置台」とする発明について特許出願をし,平成16年10月22日,特許庁から特許第3608002号として設定登録を受けた(請求項1〜4。以下「本件特許」という。。)これに対し被告から,本件特許のうち請求項1につき特許無効審判請求がなされたので,特許庁はこれを無効2004-80248号事件として審理した上,平成17年5月6日 「特許第3608002号の請求項1 ,に係る発明についての特許を無効とする 」旨の審決(甲1。第1次審 。
決)をした。
イこれに対し原告から審決取消訴訟が提起され,当庁はこれを平成17年(行ケ)第10517号事件として審理したが,その後原告が特許庁に訂正審判請求を行ったことから,当庁は,平成17年9月2日,特許法181条2項に基づき第1次審決を取り消す決定をした。
ウそこで,特許庁は,上記無効2004-80248号事件につきさらに審理した上,平成18年3月6日 「訂正を認める。特許第360800 ,2号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする 」旨の審。
決(甲2。第2次審決。以下,この審決を「本件審決」と,この訂正を「本件訂正」という )をし,その謄本は平成18年3月17日原告に送 。
達された。
(2)発明の内容。, 本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という )の内容は次のとおりである。
「 請求項1】自転車の平面から見た中心線に対して直交して互いに平行に 【配置される第1支持梁及び第2支持梁と,これらの支持梁に対して移動可能に組付けた前後一対で複数組の移動台と,これら前後一対の移動台と一体化されて,前記自転車の前後の車輪を支承し得る程度の幅と長さを有した複数の載置台と,これら各載置台に基端にて開閉自在に連結されて,その開閉角度が30°〜80°の範囲内に規制された第1クランクバーと,これら各第1クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して構成し,前記各第1クランクバーの前記開閉角度規制を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面,または,前記各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたことを特徴とする複数自転車の置台(下線部は訂正部分) 。」(3)本件審決の内容ア本件審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本件発明は,下記各発明及び周知の技術により,当業者が容易に発明することができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
記・特開平9-177348号公報(甲3。以下「甲3公報」といい,これに記載された発明を「甲3発明」という )。
・特開平10-292658号公報(甲4。以下「甲4公報」といい,これに記載された発明を「甲4発明」という )。
イなお本件審決は,甲3発明を次のとおり認定した上,本件発明との一致点,相違点を次のとおりとした。
<甲3発明>「基台2を構成する一対の平行なチャンネル状金属ロッドに,リンク機構により相互に連結された複数の自転車載台1を,横方向に平行移動できるように設けた駐輪装置であって,上記金属ロッド内面を転動するローラー13を設けた一対のL金具14,14上に載台1の各両端近傍を固定し,中間で折曲できる2組の折曲リンク9Aと,折曲リンク9Aを折曲点で連結する連結リンク9Bとからなるリンク機構9における,折曲リンク9Aの各端部を,隣り合う載台1,1に水平回転可能に固定することにより,各載台1,1が,常に上記一対の金属ロッドと直交した状態で,横方向に平行移動できるようにした,駐輪装置 」。
<一致点>「自転車の平面から見た中心線に対して直交して互いに平行に配置される第1支持梁及び第2支持梁と,これらの支持梁に対して移動可能に組付けた前後一対で複数組の移動台と,これら前後一対の移動台と一体化されて,前記自転車の前後の車輪を支承し得る程度の幅と長さを有した複数の載置台と,これら各載置台に基端にて開閉自在に連結された第1クランクバーと,これら各第1クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して構成した複数自転車の置台 」である点。
<相違点1>開閉機構に関し,本件発明では,各載置台の基端に開閉自在に連結された第1クランクバーを用いるものと規定されているのに対し,甲3発明では2組の折曲リンクと,折曲リンクを折曲点で連結する連結リンクとからなるリンク機構を用いる点。
<相違点2>「第1クランクバー」の開閉角度が,本件発明は30°〜80°の範囲内に規制され,前記各第1クランクバーの前記開閉角度規制を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面により行うようにしているのに対し,甲3発明では明らかでない点。
(4)本件審決の取消事由しかしながら,本件審決は,甲3発明の認定を誤り,本件発明との一致点の認定を誤り,本件発明との相違点を看過したほか,相違点1の評価を誤り,相違点2の評価を誤り,本件発明の作用効果の評価を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(1)(甲3発明の認定の誤り)本件審決は,甲3発明を 「基台2を構成する一対の平行なチャンネル ,状金属ロッド」という概念を用いて認定する(6頁20行〜29行)が,失当である。
甲3公報では,その特許請求の範囲の請求項1や要約中には 「自転車,を乗せる載台1が,横方向に平行移動できるように基台2に連結されてなる」としか記載されていないし,甲3公報中に記載されている「ロッド」に該当するものは 「丸棒15「金属ロッドを先端でU曲した側壁1 ,」,7 ,あるいは「垂直ロッド18 (段落【0022【0023 )しか 」 」】,】考えられないから,甲3発明において 「基台2を構成する一対の平行な ,チャンネル状金属ロッド」という概念は生まれないと考えられる。
イ取消事由1(2)(本件発明との一致点の認定の誤り)本件審決は,甲3発明の「一対の金属ロッド」が本件発明の「第1支持梁及び第2支持梁」に対応し,甲3発明の「L金具」が本件発明の「移動台」に対応すると関係付け,一致点と認定したが,以下のとおり,いずれも誤りである。
(ア)本件発明の「第1支持梁及び第2支持梁」は,甲15(本件特許公報)の図2から明らかなとおり,自転車を入れる方向に対して前後になって互いに平行に配置されるものであり,甲3発明の「互いに平行な前後の2本の基台」と解釈できるものであるから,甲3発明の「一対の金属ロッド」とは一致点にならない。
(イ)本件発明の「移動台」は,本件発明の「第1支持梁及び第2支持梁」に組み付けられて,その上に取り付けた「載置台」を 「第1支持,梁及び第2支持梁」に対して横方向に移動可能に支持するものである。
そうすると,本件発明の「移動台」は,甲3発明の「L金具」とこれに「連結軸」を介して支持された「ローラー」とからなると解釈できるものであるから,甲3発明の「L金具」とは一致点にならない。
(ウ)被告は,原告の上記(ア),(イ)の主張は禁反言の原則に反すると主張するが,かかる被告の主張は争う。
ウ取消事由1(3)(相違点の看過)本件審決は,本件発明が 「…各第1クランクバーの前記開閉角度規制 ,を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面,または,前記各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたこと」を構成要件としていることを,本件発明と甲3発明との相違点として挙げずにこれを看過した。
エ取消事由2(相違点1の評価の誤り)(ア)本件審決は 「…相違点1を検討するために,甲第4号証をみると, ,第10実施例( 0049【図13 )として,自転車の前輪を受け 【】,】入れる載置台であるが,該載置台に基端に開閉自在に連結されたクランクバー(リンク板20)と,これら各クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して構成したものが記載されており,甲第3号証記載の発明において,甲第4号証記載の第10実施例を適用して,相違点1の本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることにすぎない(8頁下18行〜下12行)とするが,失当 。」である。
@まず,甲4の第10実施例は,本件発明のうち 「…これら各載置,台に基端にて開閉自在に連結されて,その開閉角度が30°〜80°の範囲内に規制された第1クランクバーと,これら各第1クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して構成し,前記各第1クランクバーの前記開閉角度規制を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面,または,前記各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたこと」については,全く意が用いられておらず,甲4の自転車置台を,当業者が甲3に適用しても,本件発明をなすことはできない。
Aまた,甲4発明の自転車置台は,使用しない収納時には各連結機構は最小状態まで縮小され,展示会場等で使用されるときには各連結機構によって所定の距離まで伸張されるのであり,しかも,支持手段間の距離を全て略等間隔とするものである(段落【0008。さら】)に,同自転車置台は 「載置台1,1の間隔を左右に広がるように平 ,行に開いていくと,リンク板20,20が直線状態に成ったところで載置台1,1の間隔が所定の寸法となる」ものであるから 「直線状,態に成った 「リンク板20,20 (段落【0050 )は何らかの 」」】手を加えないと折り畳むことはできない。
これに対して,本件発明の自転車置台は,1台の自転車を出し入れするために,その支持台以外の支持台を左右に移動させて,これらの他の支持台間の距離を最小限に縮めることができるものであって,自転車を出し入れしたい支持台だけの両側に出し入れ空間が形成できるという作用効果を有するものである。
したがって,甲4発明の自転車置台は,本件発明のそれとは全く異なった構成を有するものであり,本件発明の上記のような作用効果を発揮することができないものである。したがって,このような甲4発明の第10実施例を,これとは全く異なった目的の下になされた甲3発明に適用することは,当業者といえどもなし得ないものである。
(イ)本件審決は 「本件発明では,…開閉機構として,各載置台の基端 ,に開閉自在に連結された第1クランクバーを用いるものと規定されているに止まり,開閉機構を構成する他の要素を積極的に除外しているとはいえず,甲第3号証に記載されたもののように,各載置台の両端近傍にそれぞれ第1クランクバーを連結し,さらに,隣り合う載置台に連結した第1クランクバー相互の連結点に棒材の両端を連結して,平行四辺形リンクとした開閉機構を含むものであるから,相違点1として摘記した事項に実質的な差異は認められない(8頁下11行〜下4行「仮 。」 ),に,本件発明の開閉機構が,第1クランクバーだけで構成されるものであったとしても,本件発明の開閉機構と甲第3号証記載の発明の開閉機構の機能及び作用効果に格別の差異は認められず,また,甲第3号証記載の発明の開閉機構から,載台1の一端側(自転車を出し入れする側)の折曲リンク及び連結リンクを除去することにより,本件発明の開閉機構とする点にも格別の困難性は認められないから,当業者が必要に応じ適宜なし得る設計変更にすぎない(8頁下3行〜9頁4行)とする 。」が,失当である。
甲3発明の「リンク機構」は,甲3の図3にも示されるとおり,2つの載台1の間には,合計4本の折曲リンク9Aと,これらを連結している1本の連結リンク9Bが存在していて,足の踏み場もない状態になっており,例えば向こうの方で自転車の出し入れをしようとする人がいると,各リンク9Aまたは9Bが不用意に狭められてこれらの間に足が挟まれ,使用者は足に怪我をしてしまう等の危険性がある。そのため,本件発明は,甲3発明の開閉機構を構成する他の要素,つまり,2組の折曲リンク9A内の「一方 ,及びこの折曲リンク9Aを折曲点で連結す 」る「連結リンク9B」を積極的に除外したものであり,平行四辺形リンクとした開閉機構を含むものではなく,更に安全性の確保ができるという優れた効果を有するのであるから,相違点1は実質的な大差である。
なお 「安全性の確保」が明確な目的として明細書中に挙げられてい ,なくても,本件発明の「複数自転車の置台」のような不特定多数の人が使用し利用するものについては,常に危険を回避するという目的をもって工夫がなされているものである。
オ取消事由3(相違点2の評価の誤り)(ア)本件審決は 「…開閉角度を所定の範囲内に規定することは,当業 ,者が当然配慮する程度の事項に過ぎない。このことは,自転車の置台において,甲第4号証の第11実施例( 0052】〜【0056【図 【 】,14 )として,載置台1にスライド孔21を設けることによりクラン 】クバー(リンク板20)の開閉角度を所定の範囲内に規定できるものがあることからも,当業者であれば容易に看取し得る事項である(9。」頁11行〜16行「…開閉角度を,具体的に30°〜80°とする ),ことも,上記事項を当業者が考慮すれば適宜設定し得る範囲に過ぎない(9頁17行〜18行)とするが,失当である。 。」本件発明の発明者は,今,自転車の出し入れを行おうとしている支持台の左右に出し入れ空間を確保しようとして,その支持台の両側の支持台を動かそうとするとき,もし,各「第1クランクバー」が重なったり,各「第1クランクバー」が直線状になっていたりすると,支持台上の自転車に力を加えるだけではその開閉機構の開閉は行えないという不都合を生ずることを見出して,これを回避するための手段として,隣同士開閉自在に連結された各「第1クランクバー」の開閉角度を所定の範囲内に規定することに気付き,本件発明という創作的活動を行ったものであり,これを「当業者が当然配慮する程度の事項」ということはできない。
また,前記エ(ア)に記載したように,甲4発明の自転車置台は 「載,置台1,1の間隔を左右に広がるように平行に開いていくと,リンク板20,20が直線状態に成ったところで載置台1,1の間隔が所定の寸法となる」ようにするものであり 「直線状態に成った」とは,本件発 ,。 , 明においては0°(90°は誤記と認める )になったときであるから甲4発明の自転車置台においては,開閉角度を,具体的に30°〜80°とすることは,全く想定していない。
(イ)また,本件審決は 「…隣り合う載置台の間隔は,第1クランクバ ,ーの開閉角度だけではなく,第1クランクバーの長さによっても変化するものであるから,上記開閉角度における「30° 「80°」という」上下限値だけを特定した点に,特段の技術的意義・作用効果は認められない(9頁19行〜22行)とするが,失当である。 。」まず,本件訂正明細書(甲16)には 「各第1クランクバー31間 ,の開閉角度とは,各第1クランクバー31が連結されている載置台20上の点から,図2の横方向に伸ばした線を0°としたときに,この線から各第1クランクバー31の立ち上がり角度を言うものである。各第1クランクバー31の開閉角度は,上述した通り,30°〜80°の間となることが必要であるが,その理由は,まず各第1クランクバー31の開閉角度が30°よりも小さいと,各第1クランクバー31を両側から押してこれを立ち上がらせようとしたときに,これが困難となるからである。一方,各第1クランクバー31の開閉角度が80°よりも大きいと,1本の載置台20に2本の第1クランクバー31を同軸的に設けたときに,互いに干渉し合ってしまい,損傷が生じ易くなるからである(段落【0016 )のように,上下限値を特定した点の技術的意 。」】義,作用効果が明確に記載されている。
また,前記エ(ア)に記載したように,甲4発明の自転車置台では,リンク板20,20が直線状態に成った後,つまり「つっぱったまま」の状態にあるものを折り畳もうとするとき,何ら手を加えないままではリンク板20,20は折り畳むことはできない。しかるに,これが,もし,80°を上限としていれば,そのままリンク板20,20を互いに縮めることは手を加えなくてもできるのである。このことは,下限値30°についても当てはまり,折り畳まれているものを広げる際に,この角度で下限値が規制されていれば,簡単に行えるのである。
(ウ)さらに,本件審決は 「…バーの連結先端部に形成された当接面に ,より開閉角度の規制を行うようにしたものが,甲第5〜7,12〜14号証等に記載されているように周知であるから,本件発明のように,開閉角度を所定の範囲内に規制する場合,クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面とすることに格別困難性はなく,当業者であれば容易になし得ることである(9頁23行〜28。」行 ,とするが,失当である。 )甲5〜7,12〜14に記載されている発明は,それぞれ 「ステ,ー (甲5「窓の開き止め用アーム (甲6「連結具 (甲7「書 」),」),」),庫兼机類ノ扉開閉支持金具 (甲12「連結具およびその製造方法」 」),(甲13「開き窓 (甲14)に関するものであり,本件発明のよう ),」な「自転車置台」は全く想定されていない。すなわち,甲5〜7,12〜14には,本件発明とは目的が異なった発明が記載されているのであって,これらを「クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面とすること」は全く想定していない。
さらに,開閉角度の規制を行うようにしたものが,甲5〜7,12〜14に記載されているように周知であったとしても,技術分野の全く異なる甲5〜7,12〜14を適用する場合には,それなりの条件が出てくるはずであるが,その条件は何ら記載されていない。
したがって,これらの甲5〜7,12〜14の角度規制手段を,甲3発明,甲4に適用することはできない。
カ取消事由4(本件発明の作用効果の評価の誤り)本件審決は 「本件発明の作用効果も,甲第3号証及び甲第4号証に記 ,載された発明と比較して格別のものがあるとはいえない(9頁下7行。」〜下6行 ,とするが,失当である。本件発明の開閉機構では,足を挟む )危険性がなく,また,今出し入れしたい自転車の支持台の両側だけ,出し入れ空間が確保できるのに対して,甲3発明の開閉機構では,足を挟む危険性があり,また,直線状になったリンク板20,20は何らかの手を加えないと折り畳むことができないなど,両者の機能及び作用効果には格別の差異がある。
2請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1(1)(甲3発明の認定の誤り)に対し原告は,甲3発明において 「基台2を構成する一対の平行なチャンネル ,状金属ロッド」という概念は生まれない,と主張し,請求項1,要約,段落【0022【0023】の記載を指摘する。 】,しかし,甲3の段落【0016 ,図1,段落【0021 ,図9,10 】 】によれば,基台2はチャンネル状の金属ロッドで方形状に連結されており,そのうちの一対の平行な金属ロッドにローラー13の設置されたL金具14を介して載台1が連結され,ローラー13が基台2のチャンネルの内側を回転・移動することで,載台1が軽く平行移動可能な構成となっていることが分かる。したがって,甲3には 「基台2を構成する一対の平行なチャンネ ,ル状金属ロッド」が記載されていることは明らかである。
(2)取消事由1(2)(本件発明との一致点の認定の誤り)に対しア原告は,本件発明の「第1支持梁及び第2支持梁」は,甲3発明の「互いに平行な前後の2本の基台」と解釈できると主張し 「一対の金属ロッ,ド」ではないとする。しかし,上記(1)のとおり,基台2,2は一対の金属ロッドで構成されているものであるから,本件発明の「第1支持梁及び第2支持梁」は甲3発明の「一対の金属ロッド」に相当するものである。
イ原告は,本件発明の「移動台」は,甲3発明の「L金具」とこれに「連結軸」を介して支持された「ローラー」とからなると解釈できると主張し,「L金具」ではないとする。しかし,甲3発明においてL金具にローラーが連結されていることは明らかであるから,本件発明の「移動台」は,甲3発明の「L金具」に相当するものである。
ウ原告は,無効審判手続で,その平成17年2月16日付け答弁書(乙1)において本件発明と甲3発明を対比した際も,甲3発明には,本件発明の,上記ア,イに関係する構成要件についての記載があると明確に認め,その後も主張の変更は全くしていなかった。したがって,一致点の認定の誤りがあるとする原告の主張は,禁反言の原則に反する。
(3)取消事由1(3)(相違点の看過)に対し原告は,本件審決が,本件訂正によって本件発明に加えられた「ストッパ」によってクランクバーの角度規制を行うことについては判断していないと非難するが,ある部材の移動を制限する技術につき,障害物を設けてその移動を制限することは極めて当たり前の慣用技術であるから,原告の批判は当たらない。
(4)取消事由2(相違点1の評価の誤り)に対しアまず,原告は,本件審決の判断には甲4の第10実施例の適用につき本件発明の原告指摘部分について全く意が用いられていないと主張する。
しかし,相違点1は,各載置台間を,1組のリンク機構で連結するのか(本件発明 ,2組の折曲リンクとそれらを結ぶ連結リンクとからなるリ )ンク機構で連結するのか(甲3)との差異であり,本件発明の原告指摘部分は何らこれと関係がない部分であるから,原告の上記主張は,相違点1に関する審決の判断と全く噛み合っていない主張である。
また,原告は,甲4発明の使用方法,目的等を縷々説明した上で,甲4発明は本件発明とは全く異なった構成を有するものであり,このような作用効果を甲4発明は発揮することができない,と主張する。
しかし,本件審決は,甲4発明をそっくりそのまま甲3発明に適用するとはしておらず 「該載置台に基端に開閉自在に連結されたクランクバー ,(リンク板20)と,これら各クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して構成したものが記載されており (8頁22行」〜24行)としていることから明らかなように,甲4公報の第10実施例(段落【0049 ,図13)に記載されているクランクバーの構成を, 】甲3発明に適用することで,本件発明の構成に想到することが当業者にとって容易であると判断しているのであって,その判断に何ら誤りはない。
イ原告は,本件発明は,甲3発明の「リンク機構」は,足の踏み場もない状態になっており,使用者は足に怪我をしてしまう等の危険性がある,そのため,本件発明は,開閉機構を構成する他の要素,つまり,2組の折曲リンク9A内の「一方 ,及びこの折曲リンク9Aを折曲点で連結する 」「連結リンク9B」を積極的に除外した,と主張する。
しかし,原告の主張は,甲3発明を「足の踏み場もない状態」などと恣意的な評価を加えた上のものであって,意味がない。甲3発明の自転車置台の使用者が足に怪我をしてしまう等の危険性がある,というのは,甲3公報には何ら記載されていない事項である。そもそも,載台又は載置台間に人がいる状態で,他の人が自転車を取り出そうとして載台又は載置台を移動させれば,もともといた人が載台又は載置台間に挟まれて怪我を負うであろう危険性は,甲3発明のみならず本件発明でも同じはずである。
そして,積極的に除外しているという以上,本件訂正明細書(甲16)中に,少なくとも当該構成を除外する旨の何らかの記載が存在するか,又は第1クランクバーのみを構成要件としたことによる積極的な作用・効果が記載されていなければならないはずであるが,本件訂正明細書(甲16)中にはそのような記載は一切なされていない。
(5)取消事由3(相違点2の評価の誤り)に対しア甲5〜7,12〜14により,本件発明の出願時(平成12年12月20日)において,クランク機構に関しその開閉角度制限を設ける技術が存在したことは明白であって,既に慣用技術となっていたといえるものである。また,クランク機構を使用する際に角度を制限して,クランクが伸びきって折りたたみに不都合が生じたり,クランクを完全に折りたたもうとすると他の部材と干渉する不都合を避けるという技術は,極めて常識的な技術内容といわざるを得ない。
イ原告は,開閉角度の上下限値(30°及び80°)につき,技術的意義がある旨主張する。しかし,数値限定をする以上,かかる「30° 「8」0°」という数値に特別な意味がなくてはならず,それが本件訂正明細書(甲16)において明示される必要があるところ,本件訂正明細書(甲1, 6)にはかかる数値に関する特別な根拠は全く記載されていない。原告は段落【0016】の記載を指摘するが,この記載はつまり,クランク機構に角度を設けるといっても,クランクが伸びきってしまわないように多少折りたたまれた状態が好ましく,また完全に折りたたまれた状態だとクランク同士が干渉するのでその手前で止めるのがよいという定性的な意味しか有しない。
(6)取消事由4(本件発明の作用効果の評価の誤り)原告の主張は,本件発明の明細書及び甲3発明の明細書に何ら記載されていない事項であり,失当である。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(本 ))件審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(1)(甲3発明の認定の誤り)について原告は,本件審決が,甲3発明において「基台2を構成する一対の平行なチャンネル状金属ロッド」と認定したことを争っている。
しかし,甲3公報には 「基台2は金属ロッドを方形状に連結したもの ,で(段落【0016 )の記載や 「載台1は基台2に沿って軽くスムーズ ,」】,に移動できるように,ローラー13を介して基台2に連結されている。…ローラー13は,図9に示すように,基台2であるチャンネルの内側を転動して,載台1を基台2に沿って軽く移動させる(段落【0021 )との記載があ 。」】り,これらの各記載に,同公報の図1,3,8,9を併せ考慮すれば,甲3公報には,基台2を構成する方形状に連結されたチャンネル状金属ロッドのうち,向かい合う一対の平行なチャンネル状金属ロッドに複数の載台1を平行移動可能に連結したものが記載されていると認められる。
したがって,本件審決が,甲3発明を 「基台2を構成する一対の平行なチ ,ャンネル状金属ロッド」という概念を用いて認定(6頁20行〜29行)したことに誤りはなく,取消事由1(1)は理由がない。
3取消事由1(2)(本件発明との一致点の認定の誤り)について(1)原告は,本件発明の「第1支持梁及び第2支持梁」は,甲15(本件特許公報)の図2から明らかなとおり,自転車を入れる方向に対して前後になって互いに平行に配置されるものであり,甲3発明の「互いに平行な前後の2本の基台」と解釈できるものであるから,甲3発明の「一対の金属ロッド」と一致点にはならない,と主張する。
しかし,上記2で説示したように,甲3公報には,基台2を構成する方形状に連結されたチャンネル状金属ロッドのうち,向かい合う一対の平行なチャンネル状金属ロッドに複数の載台1を平行移動可能に連結したものが記載されているというのであるから,原告が主張する,甲3発明の「互いに平行な前後の2本の基台」自体,向かい合う一対の平行なチャンネル状金属ロッドに相当するものと認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,本件発明の「移動台」は,甲3発明の「L金具」とこれに「連結軸」を介して支持された「ローラー」とからなると解釈できるものであるから,甲3発明の「L金具」と一致点にはならない,と主張する。
しかし,本件発明の特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「移動台」は 「載置台」と一体化されて「第1支持梁及び第2支持梁」に対して ,移動可能に組み付けるものであるところ,甲3公報の図9によれば,甲3発明において,載台に固定されて一対の金属ロッドに対して移動可能に組み付けられるのは「L金具」であると認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)以上によれば,原告の主張が禁反言の原則に反するかどうかを判断するまでもなく,取消事由1(2)は理由がない。
4取消事由1(3)(相違点の看過)について(1)原告は,本件審決は,本件発明が 「…各第1クランクバーの前記開閉 ,角度規制を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面,または,前記各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたこと」を構成要件としていることを,本件発明と甲3発明との相違点として挙げずにこれを看過した,と主張する。
(2)しかし,本件発明の特許請求の範囲の記載をみると,原告が相違点と主張する上記構成要件は 「各第1クランクバーの…開閉角度規制を,…各第 ,1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面…により行うようにしたこと ,または 「各第1クランクバーの…開閉角 」,度規制を,…各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたこと」の二つの要件の一方を満たせばよいものであることは明らかである。
そして,特許請求の範囲の記載が,一つの要件に特定することなく,二つの要件の一方を満たせばよいとのものである以上は,これら二つの要件の一方を満たす場合について進歩性が否定されるときは,他方を満たす場合について検討するまでもなく,本件発明の進歩性は否定されるものというほかない。
しかるに,本件審決は,前記二つの要件のうち,前者の要件を満たす場合に着目して,本件発明と甲3発明との相違点2( 第1クランクバー」の開 「閉角度が,本件発明は30°〜80°の範囲内に規制され,前記各第1クランクバーの前記開閉角度規制を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面により行うようにしているのに対し,甲3発明では明らかでない点)を認定した上で,本件発明の進歩性を否定したものであって,後記6のとおり,その判断に誤りはない。
(3)したがって,本件において,後者の要件,すなわち「各第1クランクバーの…開閉角度規制を,…各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたこと」を満たす場合について検討するまでの必要はなかったというべきであるから,本件審決がこの点を相違点として挙げなかったことを誤りということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
5取消事由2(相違点1の評価の誤り)について(1)原告は,本件審決が 「…甲第3号証記載の発明において,甲第4号証 ,記載の第10実施例を適用して,相違点1の本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることにすぎない(8頁下14行〜下12 。」行)とするのは失当である旨主張する。
そこで甲4公報をみるに,同公報には 「…図13は本発明の第10実施 ,例を表わす。自転車を支持し得る支持手段は,自転車の前輪を受け入れることが出来る載置台1と,前輪が入るだけの間隔を空けて載置台1の両側に立設された2個の支持枠3…とから成る。載置台1はまたリンク部材の一部であって,載置台1と,該載置台1の略半分の長さのリンク板20と,回動軸10とから連結機構が構成されている。両側に平行に載置台1,1を配置し,載置台1の先端部分に於いてリンク板20の一端部を回動軸10にて止める。
またリンク板20,20の他端部は,リンク板20,20同士を回動軸10にて止めている。それ故,内側のく字状のリンク板20,20とその両側の載置台1,1とでM字形状が形作られている(段落【0049 )との記 。」】載や 「本実施例の場合,載置台1,1の間隔を左右に広げるように平行に ,開いて行くと,リンク板20,20が直線状態に成ったところで載置台1,1の間隔が所要の寸法と成るように構成されている(段落【0050 ) 。」】との記載がある。
したがって,これらの各記載によれば,甲4には,回動軸10で連結されたリンク板20,20のそれぞれの先端部を,平行に配置される載置台1に回動軸10で連結することによって,隣接する自転車載置台を連結する構造が記載されているものと認められる。
しかるに,これらリンク板20,20は,それぞれの端部が載置台1に開閉自在に連結されたクランクバーということができ,隣接する自転車載置台の連結構造である点で,甲3発明におけるリンク機構と共通するものであるから,甲3発明におけるリンク機構に代えて,甲4記載の上記連結構造を適用し,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得る程度のことというべきである。
したがって,これと同旨である本件審決の判断に誤りはない。
(2)原告は,甲4の第10実施例は,本件発明のうち 「…これら各載置台,に基端にて開閉自在に連結されて,その開閉角度が30°〜80°の範囲内に規制された第1クランクバーと,これら各第1クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して構成し,前記各第1クランクバーの前記開閉角度規制を,前記各第1クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面,または,前記各載置台の各第1クランクバーを連結している部分の近傍に形成した第1ストッパ及び第2ストッパにより行うようにしたこと」については,全く意が用いられていない,と主張する。
しかし,たとえ甲4の第10実施例に,第1クランクバーの開閉角度が30°〜80°の範囲内に規制され,同開閉角度規制を所定の構成により行うようにしたことが認められないとしても,相違点1の判断は,これとは別の構成,すなわち,開閉機構に関し,第1クランクバーを用いるのか,2組の折曲リンクと折曲リンクを折曲点で連結する連結リンクとからなるリンク機構を用いるのか,という点にかかるものである。そうすると,甲4の第10実施例に開閉角度規制という点が認められないとしても,これを開閉機構の相違という別の構成に係る相違点1の判断のために用いることができないということにはならない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は,甲4発明の自転車置台は,使用しない収納時には各連結機構は最小状態まで縮小され,展示会場等で使用されるときには各連結機構によって所定の距離まで伸張されるものであり,支持手段間の距離を全て略等間隔とするものであり,また,直線状態に成ったリンク板20,20は,何らかの手を加えないと折り畳むことはできないものである,これらによれば,甲4発明の自転車置台は,本件発明と全く異なった構成を有するものであり,甲3発明には当業者といえども適用できない,と主張する。
しかし,原告が主張するように,甲4発明の自転車置台(甲4記載の第10実施例)が,使用するときはその各連結機構を最大限まで広げ,使用しないときはその各連結機構を最小限まで縮めておくなどのものであるとしても,甲4には,上記(1)で説示したように,回動軸10で連結されたリンク板20,20のそれぞれの先端部を,平行に配置される載置台1に回動軸10で連結することによって,隣接する自転車載置台を連結する構造が記載されていることに変わりはないのであるから,甲4記載の第10実施例を,当業者が甲3発明に適用できないという理由にはなり得ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)原告は,甲3発明の開閉機構においては,そのままでは「足を挟む」等の危険性があるところ,この危険性を回避するために本件発明では,甲3の開閉機構を構成する他の要素を積極的に除外しているのであり,平行四辺形リンクとした開閉機構を含むものではないから,相違点1は実質的な大差である旨,主張する。
アしかし,本件特許の請求項1(本件発明)の記載は,前記第3の1(2)のとおりであり,載置台を連結する構成については 「これら各載置台に,基端にて開閉自在に連結され…た第1クランクバーと,これら各第1クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して」とされるにとどまるのであって,載置台を連結するその他の構成要素の有無,あるいは,第1クランクバーが設置される位置を規定するものではない。
しかも,本件訂正明細書(甲16)のすべての記載を精査しても,本件発明が開閉機構を構成する第1クランクバー以外の要素を除外するものとの記載ないし示唆が存在するとは認められず 「足を挟む」等の危険性を ,回避することの記載ないし示唆も見出すことはできない。そうすると,原告主張のように,危険性を回避するために開閉機構を構成する他の要素を除外したものとして本件発明を限定して解することは,明細書の記載に基づかない主張といわざるを得ない。
イ他方,甲3発明は2組の折曲リンク9Aを有するところ,このうち1組の折曲リンク9Aは,その基端が自転車載台1に開閉自在に連結され,隣接するもの同士の先端が開閉自在に連結されたものである。したがって,同折曲リンク9Aは,上記アに記載した,本件発明の「これら各載置台に基端にて開閉自在に連結され…た第1クランクバーと,これら各第1クランクバーの互いに隣接するもの同士の先端を開閉可能に連結して」という要件を満たすものであって,本件発明の第1クランクバーに相当するものといえるから,この点において,本件発明と差異があるということはできない。
さらに,甲3発明は,1組の折曲リンク9Aに加えて,もう1組の折曲リンク9Aを設け,それぞれの組の折曲リンク9A相互の連結点に連結リンク9Bを連結して,自転車載台1と合わせて全体として平行四辺形となるリンク機構9を構成したものである(なお,これは,それぞれの組の折曲リンク9A相互の連結点に連結リンク9Bを連結することをいう趣旨であることは明らかである )ところ,上記アのとおり,本件発明が,開閉 。
機構を構成する他の要素を除外したものに限定して解することはできないのであるから,かかる平行四辺形のリンク機構を有するものをも包含するものと解される。
したがって,相違点1について,本件発明と甲3発明とで実質的な差異があるということはできず,審決が 「本件発明では,…開閉機構を構成 ,する他の要素を積極的に除外しているとはいえず,甲第3号証に記載されたもののように,…平行四辺形リンクとした開閉機構を含むものであるから,相違点1として摘記した事項に実質的な差異は認められない(8。」頁下11行〜下4行)と判断したことに誤りはない。
ウそうすると,上記アに説示したとおり,危険性を回避するために開閉機構を構成する他の要素を積極的に除外したものとして本件発明を限定して解することはできないのであるから,本件発明において,安全性の確保ができる旨の効果が奏されるものということはできない。本件発明に係る「複数自転車の置台」のような不特定多数の人が使用し利用するものについては,常に危険を回避するという目的をもって工夫をしていかなければならないからといって,当然に,明細書中にない「安全性の確保」という効果が奏されるものとみることはできない。したがって,本件発明の開閉機構が第1クランクバーだけで構成されるものであったとしても,これを危険性の回避,安全性の確保という見地から構成されたものとみることはできず,したがって,甲3発明の開閉機構から,単に,載台1の一端側の折曲リンク及び連結リンクを除去したにすぎないとみるほかなく,これを単なる設計変更以上のものということはできない。
エ以上のア〜ウによれば,原告の上記主張は採用することができない。
6取消事由3(相違点2の評価の誤り)について(1)原告は,本件発明の発明者は,各「第1クランクバー」が重なったり,各「第1クランクバー」が直線状になっていたりすると,支持台上の自転車に力を加えるだけではその開閉機構の開閉は行えないという不都合を生ずることを見出して,これを回避するための手段として,隣同士開閉自在に連結された各「第1クランクバー」の開閉角度を所定の範囲内に規定することに気付き,本件発明という創作的活動を行ったものであり,これを「当業者が当然配慮する程度の事項」ということはできない,と主張する。
しかし,甲3発明において,本件発明のように「第1クランクバー」の開閉角度を所定の角度に規制するようにされているか明らかでないとしても,1組の折曲リンク9Aが直線となる状態(開閉角度が0°となる状態)であると,自転車の載台1を押して移動させるのが困難となるのは,その機構から見て明らかであることからみて,折曲リンク9Aの開閉角度が一定以下にならないように規制することは,当業者が当然考慮する程度のことというべきである。
このことは,甲8(実開平5ー46654号公報)の【従来の技術】欄の以下の記載や,甲3公報の図1,図3からも裏付けられる。
すなわち,同欄には 「…折り畳み連結部材54は,支軸55と,この支 ,軸55を介して一端側が互いにヒンジ結合されている第1のアーム56と第2のアーム57とでなる。そして,第1のアーム56の他端は支軸58を介して車体に回動可能に取り付けられ,第2のアーム57の他端は支軸59を介して煽り52の回動先端側に回動可能に取り付けられている(段落。」【0002 )との記載や 「…煽り52が外側…へ回動されたときに,支 】,軸58の中心と支軸59の中心とを結んだ線60を支軸55が…越えた状態まで回動できるようにしておくと,再び煽り52を…回動させて起立させるときに,…スムースな閉動作が行えない。これに対して,線60を越えない位置に支軸55がある場合は,起立させるときに…スムースな閉動作が行える。… (段落【0003 )との記載があり,これらの記載によれば,甲 」】8(実開平5ー46654号公報)の【従来の技術】として,支軸55を介して一端側が互いにヒンジ結合される第1,第2のアーム56,57とからなる連結部材において,スムーズな閉動作が行えるように,支軸55が,両アームの他端側の支軸58,59の中心を結ぶ直線60を越えた位置まで回動しないようにする回動量規制手段が設けられる旨が記載されており,かかる事項はいわば技術常識ともいうべきものと認められる。また,甲3公報の図1,図3において,隣接する自転車の載台1の間隔が広げられた状態においても,折曲リンク9Aが直線とならずに屈曲した状態が図示されており,これによれば,同図1,図3において,開閉角度が一定以下にならないようにすることが示唆されていると認められる。
以上によれば,甲3発明において,折曲リンク9Aの開閉角度を所定範囲内とすることは,当業者が当然考慮する程度の事項というべきであり,この開閉角度を具体的にどの程度とするかは,下記(2)の検討に照らし,当業者が設計的に適宜設定し得るものというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2)また,原告は,甲4発明の自転車置台においては開閉角度を具体的に30°〜80°とすることは全く想定していない,と主張する。しかし,上記, (1)で説示したように,甲4発明が適用される対象である甲3発明において折曲リンク9Aの開閉角度を所定範囲内とすることは,当業者が当然考慮する程度の事項というべきであり,この開閉角度を具体的にどの程度とするかは,当業者が設計的に適宜設定し得るものと認められるのであるから,甲4発明の自転車置台において開閉角度が具体的に30°〜80°とすることが想定されていないと言ってみても,相違点2についての進歩性の判断が左右されることにはならない。
(3)原告は,本件訂正明細書(甲16)には,段落【0016】のように,上下限値を特定した点の技術的意義,作用効果が明確に記載されている,かかる技術的意義,作用効果は,仮に甲4発明の自転車置台において上下限値を設定してみれば,リンク板20,20を簡単に折り畳んだり広げたりできることからみても明らかである旨主張する。
そこで検討するに,本件訂正明細書には,第1クランクバーの開閉角度の範囲を特定したことについて 「…その理由は,まず各第1クランクバー3 ,1の開閉角度が30°よりも小さいと,各第1クランクバー31を両側から押してこれを立ち上がらせようとしたときに,これが困難となるからである。
一方,各第1クランクバー31の開閉角度が80°よりも大きいと,1本の載置台20に2本の第1クランクバー31を同軸的に設けたときに,互いに干渉し合ってしまい,損傷が生じ易くなるからである(段落【001。」6 )との記載がある。】これによれば,本件発明において,第1クランクバーの開閉角度の範囲が規制されたことの意義は,第1クランクバー31の開閉角度が小さいと,各第1クランクバー31を両側から押して立ち上がらせるのが困難となること,開閉角度が大きいと,1本の載置台20に2本の第1クランクバー31を同軸的に設けたときに,互いに干渉し合うことを考慮した点にあるものとされる。しかし,本件発明は,1本の載置台20に2本の第1クランクバー31を同軸的に設けることを要旨としないものであり,そもそも,開閉角度の上限を規定した点に上記のような意義があるとはいえないし,また,下限についても「30°」と特定したことに格別の意義があると認めるに足る証拠はないから,本件発明において,第1クランクバーの開閉角度の上下限を「80° 「30°」に特定した点に,設計的事項の域を超える格別の技術的意 」義があるということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4)原告は,甲5〜7,12〜14には,本件発明とは目的が異なっている発明が記載されているのであって,これらを「クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面とすること」は全く想定していない,技術分野の全く異なる甲5〜7,12〜14を適用する場合には,それなりの条件が出てくるはずであるが,その条件は何ら記載されていない,と主張する。
アそこで,甲5〜7,12〜14について検討する。
(ア)甲5(特開2000-8683号公報)には 「…この発明が特徴,とするところは,…第1,2アームが,それぞれの内端部の反対端部である外端部で軸部材(第3軸部材)を介して旋回可能に連結し,前記第2アームの前記内外端部間には,前記第2アームの側方へ延びて,前記蓋が開いているときに,前記固定枠の前面部分に前方から当接可能な係合部が形成されていること,にある(段落【0006 )との 。」】記載や 「この発明の…実施態様において,前記第1アーム外端部にお ,ける前記第3軸部材よりも外方の部分には,前記第1,2アームが前記第3軸部材を中心に互いに旋回するときに,前記第2アームの側縁部に旋回方向前方から当接してその旋回を止めることが可能なストッパー部が形成されている(段落【0007 )との記載がある。 。」】(イ)甲6(特開平10-331504号公報)には 「…この発明にお,いては,…各アームの他端部に連結片を回転自在に連結し,他方のアームの一端部をアーム長さ方向に延長し,その延長端部に一方のアームに対する当接によって一対のアームの開き角度を制限するストッパを設けた構成を採用している(段落【0008 )との記載がある。 。」】(ウ)甲7(特開平7-324548号公報)には 「…本発明の連結具,では,…開閉物の一方に取付けられ,回転軸となる軸を備えた第1の部材と,開閉物の他方に取付けられ,前記軸の少なくとも一部をインサート成形によって覆う第2の部材とから成り,前記第2の部材の成形時の収縮による前記軸への挟圧力で開閉動作を規制するようにしている(段落【0009 )との記載がある。 。」】(エ)甲12(実公昭8-4050号公報)には 「…上下二枚ノ腕金,(1)(2)ノ中央ニ鶴嘴状ニ隆起部(3)(4)及孔(5)(6)ヲ設ケ該孔(5)(6)ニ釘(7)ヲ嵌着シ隆起部(3)(4)ヲ相接セシメ…テ成ル書庫附机類ノ扉開閉支持金具ノ構造 (登録請求の範囲)との記載がある。 」(オ)甲13(特開平6-200671号公報)には 「…第1のアーム,21のストッパ25と第2のアーム30の一端30a側外周とが当接する位置まで蓋12が開らいて,… (段落【0026 )との記載が 」】ある。
(カ)甲14(特開平10-331505号公報)には 「第2アーム1,2には,…延長端部18が設けられ,その延長端部18にストッパ19が設けられている。ストッパ19は第1アーム10に対する当接によって第1アーム10と第2アーム12の開放角度を制限する(段。」落【0019 )との記載がある。】イそして,甲5は「固定枠に対して蓋や扉を開閉可能に連結するためのステー (段落【0001 )に係る技術を,甲6は「障子の開放角度を所 」】定の角度に制限すると共に,任意の開放位置で停止保持することができる窓の開き止め用アーム (段落【0001 )に係る技術を,甲7は 「蓋 」】,等の開閉物の開閉動作を規制する連結具 (段落【0001 )を,甲1 」】2は「書庫兼机類ノ扉開閉支持金具」に係る技術を,甲13は「自動車のコンソールボックスやグローボックス等の蓋とボックス本体との間に用いられる連結具 (段落【0001 )に係る技術を,甲14は「障子の開 」】放角度を所定の角度に制限すると共に,任意の開放位置で停止保持することができる窓の開き止め用アーム (段落【0001 )に係る技術を示 」】すところ,甲5の係合部及びストッパー部,甲6のストッパ,甲7の回転軸となる軸を備えた第1の部材と,同軸の少なくとも一部をインサート成形によって覆う第2の部材,甲12の隆起部(3)(4),甲13のストッパ25及びこれと当接する第2のアーム30の一端30a側外周,甲14のストッパ19及びこれと当接する第1アーム10は,いずれもアームの先端部に設けられ,アームの開閉角度を規制する当接面ということができる。
したがって,これらの記載によれば,バーの連結先端部に形成された二つの当接面により開閉角度の規制を行うことは,従来種々の分野において知られた周知の技術と認められるから,甲3発明においても,開閉角度を所定範囲内とするための規制手段として,折曲リンク9Aの連結先端部に二つの当接面を形成することは,当業者が設計的に適宜採用し得る程度のことというべきである。
ウ以上によれば,クランクバーの連結先端部に二つの当接面を形成することに格別困難性はないとした審決の判断に誤りはない。原告は,甲5〜7,12〜14には,本件発明とは目的が異なっている発明が記載されているのであって,これらを「クランクバーの連結先端部に形成されて前記範囲を構成する2つの当接面とすること」は全く想定していない,技術分野の全く異なる甲5〜7,12〜14を適用する場合には,それなりの条件が出てくるはずであるが,その条件は何ら記載されていない,と主張するが,上記イで説示したように,バーの連結先端部に形成された二つの当接面により開閉角度の規制を行うことは,従来種々の分野において知られた周知の技術というのであるから,原告が主張するような条件の記載の有無等にかかわらず,このような周知技術を当業者が甲3発明に適用することに格別困難があるとは考えられない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
7取消事由4(本件発明の作用効果の評価の誤り)について原告は,本件発明の開閉機構では,足を挟む危険性がなく,また,今出し入れしたい自転車の支持台の両側だけ,出し入れ空間が確保できるのに対して,甲3発明の開閉機構では,足を挟む危険性があり,また,直線状になったリンク板20,20は何らかの手を加えないと折り畳むことができないなど,両者の機能及び作用効果には格別の差異がある,と主張する。
しかし,上記5(4)アで検討したとおり,そもそも,本件訂正明細書(甲16)を通じてみても,本件発明が 「足を挟む」等の危険性を回避するもので ,あることの記載ないし示唆を見出すことはできない。さらに,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載によれば,本件発明の開閉機構が第1クランクバーだけで構成されるものに限定して解することはできないし,第1クランクバーについてみても 「足を挟む」等の危険性を回避するような位置,構造のもの ,とするようなものに特定されているとは認められない。
したがって,本件発明が,原告主張のような作用効果を奏するものということはできず,この点において甲3発明と格別の作用効果の差異があるということはできない。
また,原告が主張する,全体で1台の自転車分しか出し入れ空間がないように他の支持台を縮めておくことができて,出し入れしたい自転車の支持台の両側だけ出し入れ空間が確保できるといった作用効果は,甲3発明においても奏されるものと認められるから,格別の作用効果ということはできないし,前記6(1)〜(4)の検討に照らせば,甲3発明においても,折曲リンク9Aの開閉角度が一定以下にならないように規制することは,当業者が当然考慮する程度のことというべきであって,本件発明においてクランクバーが直線状にならない点も,格別の作用効果ということはできない。
8結語以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一