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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10056特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成20ネ10068特許権侵害差止控訴事件 判例 特許
平成17ネ10103特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10052特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10024特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  クレーム /  対象製品 /  出願経過 /  参酌 /  均等 /  均等侵害 /  置き換え /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  設定登録 /  発明の範囲 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (ネ) 10063号 特許権侵害差止請求権不存在確認請求控訴事件
控訴人X
被控訴人 株式会社タミヤ
訴訟代理人弁護士 松本好史
同 猿木秀和
同 竹田千穂
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,原判決別紙物件目録記載の各製品(以下,これらを併せて「原告製品」といい,同目録1記載の製品を「OP-434」,同目録2記載の製品を「OP-435」,同目録3記載の製品を「OP-582」という。)を製造販売している被控訴人が,発明の名称を「自動車タイヤ用内装材及び自動車タイヤ」とする特許第3615881号の特許権(平成8年10月29日出願・平成16年11月12日設定登録。以下「本件特許権」といい,その請求項1の発明を「本件発明」という。)を有する控訴人に対し,原告製品の製造販売につき控訴人が本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めた事案である。
原審は,原告製品は本件発明の構成要件の一部を充足せず,また,本件発明の構成と均等なものでもないから,本件発明の技術的範囲に属しないとして,被控訴人の請求を認容したため,控訴人は,これを不服として控訴を提起した。
2 当事者間に争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張次のとおり補正付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1,2及び第3の1ないし3(原判決2頁4行目〜9頁4行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,以下においては,原判決の略語表示は,当審においてもそのまま用いる。
(1) 原判決の補正ア 原判決3頁16行目の「共和ゴム工業株式会社」を「共和ゴム株式会社」と改め,17行目末尾に「これらの数値は原告製品を数個計測した中の平均値であり,原告製品には製造上のばらつきにより構成要件Aの数値範囲に含まれるものや数値を少し超えているものもあるが,いずれも本件発明のグリップ力が上がりタイヤが摩耗しにくいという効果を奏するから,本件発明の技術的範囲に属するというべきである。」を加える。
イ 原判決3頁22行目及び24行目の各「試験結果」をいずれも「試験方法」と改める。
(2) 当審における控訴人の主張ア 本件発明の作用効果の不当な無視等(ア) 「グリップ力が向上しタイヤが摩耗しにくい」という本件発明の作用効果は,本件発明の特許出願時,公知ではなかったものであり,上記作用効果は本件発明の本質的部分であるといえる。
すなわち,従来タイヤのグリップ力を増幅(強く)する技術は,タイヤの幅を広くする,トレッドパターン(溝)の数を少なくする,コンパウンド(ゴム質)を柔らかくする,中の空気圧を少なくするなどタイヤに関係する技術しかなく,このことはラジコンカーのタイヤも同様であった。
また,被控訴人が製造する製品や他社製品の内装材においても,あくまで空気圧のかわりに装着するハードタイプやソフトタイプで,タイヤのコーナリング時のよれを補い,加速,減速においてもそれ程優れたものではなく,本件発明の上記作用効果を奏するものはなかった。
本件発明は,その特許出願時,市販されていたラジコンカー用タイヤでどのようにすればグリップ力を増幅(強く)し,他車よりも早く走行できるかを考え,当時のタイヤの内装材等について何十種類もテストした結果,走行後に摩耗しにくいことをも発見した発明である。
(イ) しかるに,被控訴人は,本件発明の内容が公開公報で明らかとなった後,本件発明の上記作用効果を奏するようにしながらも,その特許請求の範囲の数値を僅かに置き換えた原告製品を製造販売することによって,本件特許権に基づく差止め等の権利行使を免れようとしたものであり,このような被控訴人の行為は,特許法の目的に反し,社会正義の衡平の理念にも反する行為である。
そして,原判決が,本件発明の上記作用効果を無視し,数値(構成要件A)の僅かな違いや非発泡表面層に関する表現(構成要件B)の違いにより,原告製品は構成要件A及びBを充足しないとして,原告製品の製造販売は本件特許権の侵害に当たらないと判断したのは不当である。
均等侵害の成立(ア)@ 原告製品は,本件発明の構成要件A(「見掛比重が0.20〜0.50,25%歪み時の圧縮応力が20〜1000g/ ,破断a伸びが150〜400%の特性を有するゴム発泡体からなる帯状環状体」)記載の圧縮応力又は破断伸びの上限値を僅かに(数g又は数%)超えている点で本件発明の構成と異なる部分があるが,本件発明の上記作用効果と同一の作用効果を奏するから,上記異なる部分は本件発明の本質的部分ではない。
A 上記異なる部分を原告製品の構成と置き換えても,本件発明の目的を達することができ,上記のとおり,本件発明と同一の作用効果を奏するものである。
B 上記のように置き換えることについては,当業者が原告製品の製造等の時点において容易に想到することができたものである。
C 原告製品は,本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は上記公知技術から当業者が上記出願時に容易に推考できたものではない。
D 原告製品は,本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に僅かに数値を除外したものである。
(イ) 以上によれば,原告製品は,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するから,被控訴人による原告製品の製造販売は本件特許権の侵害に当たる。
(3) 当審における被控訴人の反論原告製品が本件発明の技術的範囲に属しないとした原判決の認定及び判断は正当である。
控訴人は,原判決を非難するが,原告製品が本件発明の特許請求の範囲(クレーム)を充足していることにつき具体的に主張することもなく,原告製品は本件発明の作用効果を奏するから本件特許権を侵害するというような議論に終始しているだけであって,控訴人の非難は理由がない。
当裁判所の判断
当裁判所も,原告製品は,本件発明の構成要件A及びBを充足せず,また,本件発明の構成と均等なものでもないから,本件発明の技術的範囲に属するものではなく,原告製品の製造販売は本件特許権を侵害するものではないと判断する。その理由は,次のとおりである。以下,原判決の「第4 争点に対する判断」について,当審において,付加訂正した主要な箇所をゴシック体太字で記載する。
1 争点(1)(構成要件Aの充足性)について本件発明の構成要件Aは「見掛比重が0.20〜0.50,25%歪み時の圧縮応力が20〜1000g/ ,破断伸びが150〜400%の特性を a有するゴム発泡体からなる帯状環状体」というものであるところ,控訴人主張の原告製品の試験結果の数値(原判決3頁15行〜21行の「第3の1の【被告の主張】(1)」参照)を前提としても,原告製品のうち,OP-434は,破断伸びの上限値を超える点において構成要件Aを充足せず,OP-435及びOP-582は,圧縮応力の上限値を超える点で同様に構成要件Aを充足しないことは明らかであり,原告製品は,いずれも構成要件Aを充足しないというべきである。
控訴人は,上記数値は原告製品を数個計測した中の平均値であり,原告製品には製造上のばらつきにより構成要件Aの数値範囲に含まれるものや数値を少し超えているものもあるが,いずれも本件発明のグリップ力が上がりタイヤが摩耗しにくいという効果を奏するから,本件発明の技術的範囲に属すると主張する。
しかし,破断伸び(切断時伸び)に係る試験の報告書である乙3及び圧縮応力に係る試験の報告書である乙4の各「提出試料名」欄に「OP-435モールドインナーミディアムナローハード,OP-434モールドインナーミディアムナローソフト,OP-582モールドインナーミディアムナローミディアム各1個計3個」と記載されていることによれば,上記各試験で用いられた試料は,OP-434,OP-435及びOP-582が各1個であることが認められ,上記試験結果の数値は,控訴人が主張するように原告製品を数個計測した中の平均値であるものと認めることはできないし,上記各報告書において原告製品に製造上のばらつきにより構成要件Aの数値範囲にあるものが含まれていることをうかがわせる記載もない。他に原告製品が本件発明の構成要件Aの数値範囲にあることを認めるに足りる証拠はない。
また,異なる構成の発明から同一の作用効果が生じることはあり得ることであって,作用効果が同一であるからといって構成が同一であるとは直ちにいえないから,原告製品が本件発明と同一の作用効果を奏することが構成要件Aを充足することの根拠となるものではない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
2 争点(2)(構成要件Bの充足性)について以上のとおり,原告製品は構成要件Aを充足しないが,控訴人が均等による侵害をも主張していることにかんがみ,原告製品が本件発明の構成要件Bを充足するか否かについても判断しておく。
(1) 構成要件Bにいう「ゴムからなる非発泡表面層」については,発泡スポンジの周囲に薄く非発泡体であるゴム素材を塗布した場合にできる表面層がそれに当たることは明らかであるが,控訴人は,さらに,ゴム発泡体を金型成形する際に金型の壁面において気泡が押しつぶされるためにゴム発泡体内部と比較して,ゴム発泡体表面の気泡が目立たなくなっている表面層(以下,控訴人の用例に従って「スキン層」ともいう。)も,「ゴムからなる非発泡表面層」に含まれると主張し,被控訴人はこれを争っている。
特許発明技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記定めなければならないが,その際には,上記明細書の特許請 載に基づいて求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされているところ(平成14年法律第24,本件発明の構成要件B 号による改正前の特許法70条1項,2項)は,「(ゴム発泡体からなる)帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなる」というものであり,そこでいう「一体」が「一つになって分けられない関係にあること」(甲7。広辞苑第4版),「化」が「形や性質がかわること。かえること。」(同)を意味することによれば,上記にいう「一体化」とは,二つの異なる素材が合わさって一つになったことを意味し,そうすると「ゴム発泡体からなる帯状環状体」と「ゴムからなる非発泡表面層」とはもともと別の素材のものであると理解することが自然であるといえる。しかし,「ゴムからなる非発泡表面層」が,控訴人のいうところのスキン層を含むか否かは,上記文言自体からは必ずしも明確ではない。
そこで,以下,本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載等を参酌して,構成要件Bの意義を解釈する。
(2) 構成要件Bの意義についてア 本件明細書の記載(ア) 本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。
@「この発明の自動車タイヤ用内装材(1)は,上記特性を有する発泡体からなる帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなるものである。前記環状形状は,円形であることが好ましいが,特に円形形状に限定されるものではなく,例えば,楕円形状であっても良い。」(段落【0019】)A「前記帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されていることによりタイヤ内周面(2a)との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができる。」(段落【0020】)B「<実施例1>ポリクロロプレンゴムを発泡成形して,表1に示す特性を有するポリクロロプレンゴム発泡体からなる帯状環状体(幅22o,厚さ5o,外径60o)を得,この表面に厚さ0.3oの非発泡クロロプレンゴムを一体化して,内装材を得た。」(段落【0030】)C「<実施例2>ポリウレタン樹脂を発泡成形して,表1に示す特性を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる帯状環状体(幅22o,厚さ5o,外径60o)を得,この表面に厚さ0.3oの非発泡クロロプレンゴムを一体化して,内装材を得た。」(段落【0032】)D「<比較例1>ポリウレタン樹脂を発泡成形して,表1に示す特性を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる内装材(幅22o,厚さ5o,外径60o)を得た(従来より一般に使用されている内装材である)。」(段落【0033】)E「<比較例4,比較例2〜3>天然ゴムを発泡成形して,表1に示す特性を有する天然ゴム発泡体からなる内装材(幅22o,厚さ5o,外径60oの帯状環状体)を得た。」(段落【0029】)F「表1から明らかなように,この発明の実施例1,2の内装材をタイヤに内装すれば,カーブ走行安定性に優れるとともに,直進安定性にも優れる。」(段落【0039】),「これに対し,この発明の範囲を逸脱する比較例1〜3の内装材をタイヤに内装した場合には,カーブ走行安定性,直進安定性ともに劣っている。」(段落【0040】G「更に,帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されているから,タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができる。」(段落【0043】)(イ) これらの記載によれば,実施例1,2には,ポリクロロプレンゴム発泡体又はポリウレタン樹脂発泡体からなる帯状環状体の表面に,厚さ0.3oの非発泡クロロプレンゴムを一体化した内装材が開示されており,このように帯状環状体の表面に非発泡クロロプレンゴムからなる非発泡表面層を一体化する構成を採用することにより,タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができる効果を奏することが認められる。
しかし,一方で,控訴人がいうところの成形金型でゴム発泡体を成形する際に必ず生じる非発泡(泡の状態でない)の一体化した表皮ないしスキン層は,ゴム発泡体と同一の素材であることを前提とするものであるが,実施例1,2における各発泡体からなる帯状環状体とその帯状環状体の表面に一体化された非発泡クロロプレンゴムからなる非発泡表面層とは別の素材のものである。また,本件明細書においては,実施例1,2のほかには,ゴムからなる非発泡表面層がどのような構成のものが含まれるのかについての記載や示唆はなく,控訴人がいうところの上記表皮ないしスキン層が,ゴムからなる非発泡表面層に含まれる旨の記載や示唆もない。
かえって,実施例1,2とは異なり,ゴムからなる非発泡表面層を一体化した構成を有しないものとして本件明細書に記載された比較例2ないし4は,天然ゴムを発泡成形して得た天然ゴム発泡体からなる内装材(幅22o,厚さ5o,外径60oの帯状環状体)であるが,これらの比較例においては,上記帯状環状体(天然ゴム発泡体)から控訴人がいうところの上記表皮ないしスキン層を削り取り,又は削ぎ落とす等の工程の記載や示唆はみられないから,上記帯状環状体にはスキン層を有している構成をも含むものと認められる。
そうすると,本件明細書の「発明の詳細な説明」を参酌しても,控訴人のいうところのスキン層が本件発明の構成要件Bの「ゴムからなる非発泡表面層」に当たるものと認めることはできない。
出願経過証拠(甲1,2,8の1ないし7,9の1ないし5)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 当初明細書の記載控訴人は,平成8年10月29日,本件発明につき特許出願をした(以下「本件特許出願」という。)。その願書に添付した当初明細書(甲8の2)の特許請求の範囲は,以下のとおりであった。
「【請求項1】見掛比重が0.20〜0.50,25%歪み時の圧縮応力が20〜1000g/ の特性を有するゴム発泡体からな aり,帯状環状体に形成されてなることを特徴とする自動車タイヤ用内装材。」「【請求項2】ゴム発泡体の破断伸びが150〜400%である請求項1に記載の自動車タイヤ用内装材。」「【請求項3】ゴム発泡体が天然ゴム発泡体である請求項1または2に記載の自動車タイヤ用内装材。」「【請求項4】見掛比重が0.20〜0.50,25%歪み時の圧縮応力が20〜1000g/ の特性を有する合成樹脂発泡体から aなり,帯状環状体に形成されてなることを特徴とする自動車タイヤ用内装材。」「【請求項5】合成樹脂発泡体の破断伸びが150〜400%である請求項4に記載の自動車タイヤ用内装材。」「【請求項6】前記帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車タイヤ用内装材。」「【請求項7】請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車タイヤ用内装材がタイヤ内周面に積層一体化されていることを特徴とする自動車タイヤ。」さらに,当初明細書(甲8の2)の「発明の詳細な説明」の欄には,以下の各記載がある。
a 請求項1の「ゴム発泡体」についての記載「【0016】 上記ゴム発泡体としては,特に限定されるも ・・・のではないが,天然ゴム,ブタジエンスチレンゴム,ブタジエンアクリロニトリルゴム,ポリクロロプレンゴム,イソブチレンイソプレンゴム等が挙げられ,中でも天然ゴムが好適に用いられる。」「【0022】この発明の自動車タイヤ用内装材(1)は,上記特性を有する発泡体が帯状環状体に形成されてなるものである。前記環状形状は,円形であることが好ましいが,特に円形形状に限定されるものではなく,例えば,楕円形状であっても良い。」「【0023】前記帯状環状体の表面には,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されていることが好ましく,これによりタイヤ内周面(2a)との摩擦による発泡体の摩耗を ことができ防止するる。」b 請求項6についての記載「【0014】請求項6の発明は,上記請求項1〜5のいずれかの自動車タイヤ用内装材において,帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなる構成を採用したものである。」c 実施例1,3,4及び6についての記載「【0032】<実施例1,2,比較例2〜3>天然ゴムを発泡成形して,表1に示す特性を有する天然ゴム発泡体からなる内装材(幅22o,厚さ5o,外径60oの帯状環状体)を得た。」「【0033】<実施例3>ポリクロロプレンゴムを発泡成形して,表1に示す特性を有するポリクロロプレンゴム発泡体からなる,実施例1と同形状の帯状環状体を得,この表面に厚さ0.3oの非発泡クロロプレンゴムを一体化して,内装材を得た。」「【0034】<実施例4,5>ポリスチレン樹脂を発泡成形して,表1に示す特性を有するポリスチレン樹脂発泡体からなる,実施例1と同形状の内装材を得た。」「【0035】<実施例6>ポリウレタン樹脂を発泡成形して,表1に示す特性を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる,実施例1と同形状の帯状環状体を得,この表面に厚さ0.3oの非発泡クロロプレンゴムを一体化して,内装材を得た。」(イ) 拒絶理由通知特許庁審査官は,控訴人に対し,平成16年7月5日付け拒絶理由通知書(甲8の4)をもって,本件特許出願について,拒絶理由を通知した。
拒絶理由は,当初明細書の請求項1ないし4及び7の各発明は,各引用文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得た発明であるから,特許法29条2項に該当するというものであった。このうち請求項1,2について,その備考も含めた理由の記載は概ね以下のとおりである。
a 請求項1(a) 引用文献後記cの@ないしC(以下「引用文献1」ないし「引用文献4」という。)(b) 備考引用文献1ないし3のそれぞれには,ゴム発泡体を帯状環状体に形成した自動車タイヤ用内装材が開示されており,引用文献1には,所定の比重とすることが,引用文献3には,所定の圧縮応力にすることが,それぞれ開示されている。また,弾性を付与するために内装されるゴム発泡体として,所定の比重,圧縮応力を有するものは,引用文献4(特に,【0013】参照。)にも開示されている。
b 請求項2(a) 引用文献引用文献1ないし引用文献4(b) 備考また,引用文献4には,ゴム発泡体の伸び率を所定の値とすることも開示されている。
c 引用文献の記載内容@ 特開平8-132817号公報(引用文献1 甲9の1)。
独立気泡を有する発泡弾性体からなるパンクレスチューブの構成が記載されている。
A 特開平6-127207号公報(引用文献2 甲9の2)。
独立気泡を有する棒状又はドーナツ状体からなる発泡弾性体をトロイド状タイヤと使用リムとの組立体の内腔に圧縮裏に封入して成る構成を備えたタイヤ・リム組立体の構成が記載されている。
B 特開昭61-1504号公報(引用文献3 甲9の3)。
チューブレスタイヤのタイヤ空洞を充満する安全支持体に天然ゴム及びそれらの結合物等を硬化したものを用いることが記載されている。
C 特開平7-124458号公報(引用文献4 甲9の4)。
肥料などの粉粒体を造粒するために用いる回転造粒装置の内側にゴムシートを固設する構成が記載されており,そのゴムシートの物性値については,伸び率180%以上,25%圧縮応力400〜800gf/ ,比重0.2〜0.5のものが好ましく,発 a泡ゴムは望ましいものの1つであり,例えば,通常パッキング材として市販されているクロロプレンゴム発泡体が利用できることが記載されている。
さらに,その他の引用文献として,次の文献が請求項4,7との関係で指摘されている。
D 特開昭58-93602号公報(引用文献5 甲9の5)。
ポリウレタン弾性体(好ましくは発泡体)からなるトロイド状支持部材と,ゴム組成物からなる外皮部とからなる軽車両用安全タイヤ,特に自動二輪車,全路走行車用安全タイヤに好適な安全タイヤについて,トロイド状支持部材の発泡体も含むポリウレタン弾性体を金型を用いて成形する技術が開示されている。
(ウ) 拒絶理由通知に対する意見書の記載及び当初明細書の補正内容控訴人は,上記拒絶理由通知を受け,平成16年8月24日,手続補正書(甲8の6)及び意見書(甲8の5)を特許庁審査官に提出した。
控訴人は,上記手続補正書によって,本件明細書記載のとおりに特許請求の範囲を補正し,当初明細書における実施例1を比較例4に,同じく当初明細書における実施例4を比較例5に補正するとともに,実施例3を実施例1に,実施例6を実施例2とし,他の実施例2,5,7,8についての記載を削除する補正をした。
控訴人の上記意見書の「(2)補正事項について」に,特許請求の範囲の補正は,原請求項1に原請求項2及び原請求項6の構成を追加限定して新請求項1とし,また原請求項2を削除し,これに伴い原請求項3を新請求項2に繰り上げたものであるとし,発明の詳細な説明の欄の補正は,特許請求の範囲の記載と整合せしめるべく行ったものであり,実施例については,出願当初の「実施例1」を「比較例4」に,出願当初の「実施例3」を「実施例1」に,出願当初の「実施例4」を「比較例5」に,出願当初の「実施例6」を「実施例2」にそれぞれ補正するとともに,出願当初の「実施例2」「実施例5」「実施例7」「実施例8」を削除したとの記載がある。また,上記意見書の「(4)引用文献との対比」に,引用文献1ないし3にゴム発泡体が帯状環状体に形成されてなる自動車タイヤ用内装材が記載されていることは認める,しかし,引用文献1ないし5のいずれにも「ゴム発泡体からなる帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層を一体化した構成」は記載されていないし,このような構成を採用することによって「タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止できる」という格別な効果が得られることは何ら記載も示唆もない,したがって,上記各引用文献を組み合わせても,補正後の請求項1の発明(本件発明)を容易に想到することはできない旨の記載がある。
(エ) 特許査定及び登録本件発明は,平成16年10月1日に特許査定され,平成16年11月12日に設定登録された。
(3) 本件明細書に上記(2)アの記載があること及び同イ認定の出願経過によゴム発泡体を帯状環状体に形成し れば,控訴人は,上記意見書において,た自動車タイヤ用内装材が引用文献1ないし3に記載されているとの上記,引用文献1ないし5記載の公知 拒絶理由通知における指摘を認めた上で技術のいずれとも技術思想を異にする当初明細書の請求項6の発明の構成,すなわち,「請求項6の発明は,上記請求項1〜5のいずれかの自動車タイヤ用内装材において,帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなる構成」(当初明細書【0014】)を当初明細書の請求項1に ,本件発明としたものである(ただ 追加限定する補正を行いし,当初明細書の請求項2の構成も請求項1に追加限定している。)。また,控訴人は,補正後の請求項に整合させるために,当初明細書では実施例1としていた単一素材である天然ゴム発泡体からなる内装材,同じく実施例4としていた単一素材であるポリスチレン樹脂を発泡形成した発泡体からなる内装材を,いずれも本件発明の実施例から除外してこれらを比較例とし,補正後の本件発明の実施例としては,上記(2)アのとおり,ポリクロロプレンゴム発泡体ないしポリウレタン樹脂発泡体からなる帯状環状体の表面に厚さ0.3oの非発泡クロロプレンゴムを一体化した内装材のみとしたものである(本件明細書【0030】の実施例1,同【0032】の実施例2)。
これらによれば,控訴人が当初明細書の請求項1に同請求項6の構成を追加限定する補正をしたのは,同請求項1のゴム発泡体からなり帯状環状体に形成される内装材は引用文献1ないし4記載の各公知技術から容易に想到し得るとの拒絶理由を回避するために,上記帯状環状体の表面に「ゴムからなる非発泡表面層が一体化」されてなる構成(同請求項6の構成。
本件発明の構成要件Bと同じ)を付加することにより,上記内装材のうち,ゴム発泡体からなる帯状環状体のみから構成されるものを特許請求の範囲から除外することを目的としたものと認められる。 この補正そして,,本件発明が特許として成立したことが認められる。 によりそして,控訴人が当初明細書で実施例1としていた内装材を比較例4に補正したことは,そのような構成の内装材(天然ゴムを発泡成形した天然ゴム発泡体からなる内装材)を本件発明の技術的範囲から除外したものに前記認定のとおり,補正後の本件明細書中の比較例 ほかならないところ,4においては,上記帯状環状体(天然ゴム発泡体)から控訴人がいうところのスキン層を削り取り,又は削ぎ落とす等の工程の記載や示唆はみられないから,上記帯状環状体にはスキン層を有している構成をも含むものと認められる。
ゴム発泡体からなり帯状環状体に 以上の出願経過によれば,控訴人は,形成される内装材のうち,ゴム発泡体からなる帯状環状体のみから構成さ,スキン層に該当する表面層のあるものも含め,意識的に本件 れるものを発明の技術的範囲から除外したものと認められる。したがって,少なくとも構成要件Bの「ゴムからなる非発泡表面層」には,帯状環状体をなすゴム発泡体を成形する際に,金型の壁面において気泡が押しつぶされるためにゴム発泡体内部と比較して,ゴム発泡体表面の気泡が目立たなくなる状態にある表面部分(スキン層)を含まないものというべきである。
(4) 以上の認定判断に基づき,原告製品の構成を本件発明と対比すると,証拠(甲5の1ないし3)によれば,原告製品はいずれも一層のゴム発泡体からなる帯状環状体のみで構成された自動車タイヤ用内装材であり,その表面部分は,気泡が成形時に金型に接触することによって押しつぶされた認められるものの,当該部分は ために気泡が目立たない状態にあることが構成要件Bの「ゴムからなる非発泡表面層」に該当しないというべきであり,他に原告製品の帯状環状体の表面に「ゴムからなる非発泡表面層」を有することを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告製品は,いずれも本件発明の構成要件Bを充足しない。
3 争点(3)(均等侵害の成否)について充足しない (1) 以上のとおり,原告製品は,本件発明の構成要件A及びBをのであるから,この点において本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)に記載された本件発明の構成は原告製品の構成と異なるものであるとこ,控訴人は,原告製品について均等侵害を主張する。特許請求の範囲に ろ記載された構成中に他人が製造等をする製品と異なる部分が存する場合であっても,@上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,A上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,Bこのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属すると解すべきである(最高裁平成10以下,上記 年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照。
@を「均等の第1要件」といい,上記AないしDもこれに順じて表記す)。る。
(2) 上記均等の第1要件における特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,特許発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核的,特徴的部分をいうものと解される。
ア そこで,本件発明における特許発明の本質的部分がどこにあるのかを検討するに,本件明細書(甲2)には,「この発明は,…自動車タイヤのグリップ力及び直進安定性を向上させうる内装材およびグリップ力及び直進安定性に優れた自動車タイヤを提供することを目的とする。」(【0007】),「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明者は鋭意研究の結果,帯状環状体に形成された,特定の物性を有するゴム発泡体または合成樹脂発泡体を自動車タイヤに内装することにより,グリップ力及び直進安定性を向上しうることを見出すに至り,本発明を完成したものである。」(【0008】)との記載があり,本件発明の解決しようとする課題の解決手段として,ゴム発泡体が特定の物性を持つことに特徴があることを明記した上で,その物性に関しては,本件明細書(甲2)に「この発明において,前記発泡体は,見掛比重が0.20〜0.50,25%歪み時の圧縮応力が20〜1000g/ の特性を有する必要がある。上記2特性の内,1つでも上記範 a囲を逸脱すると,この発明の効果が達成されない。」(【0015】),「前記発泡体の破断伸びは150〜400%である必要がある。
150%未満あるいは400%を超えるとグリップ力向上の効果が十分に得られない。」(【0017】)と記載されている。
また,本件明細書には,「前記帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されていることによりタイヤ内周面(2a)との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができる。」(【0020】)との記載があることは前記2(2)ア(ア)Aのとおりである上,前記2(2),(3)において認定説示したとおり,控訴人は,当初明細書の請求項1ないし4にゴム発泡体からなり帯状環状体に形成されてなる自動車タイヤ用内装材を記載していたところ,かかる構成が引用文献1ないし3に記載されていること等を理由に拒絶理由通知を受けたため,平成16年8月24日付けの意見書において「引用文献1ないし5のいずれにも,『ゴム発泡体からなる帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層を一体化した構成』は記載されていないし,このような構成を採用することによって『タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止できる』という格別な効果が得られることは何ら記載も示唆もない」旨主張し,これに沿った補正をし,それが容れられて本件特許の特許査定がなされたものである。また,当初明細書(甲8の2)には,「また,帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなる場合には,タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができる。」(当初明細書【0050】)と,ゴムからなる非発泡表面層を帯状環状体の表面に一体化したことにより特有の効果を奏する旨の記載がある。
イ 上記のとおり,本件明細書には,本件発明は,自動車タイヤに内装するゴム発泡体に,特許請求の範囲に記載された範囲内の数値に限定された特定の物性を有するものを使用することにより,グリップ力及び直進安定性を向上させる効果を奏することが強調されており,この数値範囲を逸脱するとグリップ向上の効果等の発明の効果が十分に得られないとの記載がある。また,帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなるという点に関しても,本件明細書に上記記載があるほか,本件発明の上記出願経過を総合すると,控訴人は,当初明細書においてはゴム発泡体からなり帯状環状体に形成されてなる自動車タイヤ用内装材を記載していたところ,引用文献1ないし5を示されて拒絶理由通知を受けたため,上記各引用文献には帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層が一体化した構成は記載されておらず,そのような構成を採用することによってタイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止できるという格別な効果が得られるなどと主張し,その旨補正した上で特許査定を受けたものである。
ウ そうすると,自動車タイヤ用内装材について,特許請求の範囲に記載された範囲内の数値に限定された特定の物性を有するゴム発泡体を使用するとともに, の表面にゴムからな 上記ゴム発泡体からなる帯状環状体る非発泡表面層を一体化させる構成を採用したことは,いずれも本件発明特有の課題解決の手段を基礎付ける技術的思想の中核的,特徴的な部分すなわち本件発明の本質的部分であると認めるのが相当である。
(3) これに対し,原告製品は,@OP-434については破断伸び,OP-435,OP-582については圧縮応力においてそれぞれ本件発明と相違するとともに,Aいずれも一層のゴム発泡体からなる帯状環状体のみで構成された自動車タイヤ用内装材であって,別途,非発泡表面層を一体化したものではない点において本件発明と相違するところ(前記1及び2(4)),上記のとおり,各相違部分は,いずれも本件発明の本質的部分であって,上記均等の第1要件を欠くことが明らかである(ちなみに,前記出願本件発明の特許請求の範囲からゴム発泡 経過にかんがみると,控訴人は,,それが「スキン層」 体からなる帯状環状体のみから構成される内装材をと称する表面層を有するか否かにかかわらず,意識的に除外したものというべきであるから,上記均等の第5要件をも欠くとも解される。)。
(4) 以上の説示によれば,原告製品は,本件発明の特許請求の範囲均等なものとしてその技術的範囲に属するものということはできず,控訴人のこの点に関する主張は採用できない。
4 当審における控訴人の主張について(1) 控訴人は,「グリップ力が向上しタイヤが摩耗しにくい」という本件発明の作用効果は,本件発明の特許出願時,公知ではなかったもので,本件発明の本質的部分であるところ,被控訴人は,本件発明の内容が公開公報で明らかとなった後,本件発明の上記作用効果を奏するようにしながらも,その特許請求の範囲の数値を僅かに置き換えた原告製品を製造販売することによって本件特許権に基づく差止め等の権利行使を免れようとしたものであり,本件発明の上記作用効果を無視し,数値(構成要件A)の僅かな違いや非発泡表面層に関する表現(構成要件B)の違いにより,原告製品は構成要件A及びBを充足しないとして,原告製品の製造販売が本件特許権の侵害に当たらないと判断するのは不当である旨主張する。
しかし,先に説示したとおり,特許発明技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるから,特許権侵害訴訟において,相手方が製造販売する対象製品特許発明技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては,特許請求の範囲に記載された構成を充足するかどうかを基準とすべきであり,対象製品が特許請求の範囲に記載された構成のすべてを充足しない場合には,対象製品は,均等侵害が成立する場合を除き,特許発明技術的範囲に属するということはできないものと解されるところ,前記認定のとおり,原告製品のうち,OP-434は本件発明の構成要件Aの破断伸びの上限値を超えている点で,OP-435及びOP-582は構成要件Aの圧縮応力の上限値を超えている点でそれぞれ本件発明の構成要件Aを充足せず,また,原告製品はその帯状環状体の表面に「ゴムからなる非発泡表面層」を有しない点で本件発明の構成要件Bを充足しないのであるから,これらの点において原告製品は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。
加えて,異なる構成の発明から同一の作用効果が生じることはあり得ることであって,作用効果が同一であるからといって構成が同一であると直ちにいえないことは先に説示したとおりであり,原告製品が本件発明と同一の作用効果を奏するとしても,そのことから直ちに本件発明の構成要件A及びBを充足するということはできないのであるから,控訴人のいう作用効果の点は,原告製品が本件発明の技術的範囲に属しないとの上記判断を何ら妨げるものではない。
(2) 控訴人は,前記第2の2(2)イ(ア)@ないしDの事情があることを根拠として,原告製品は,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するから,被控訴人による原告製品の製造販売は本件特許権の侵害に当たる旨主張する。
しかし,先に説示したとおり,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,均等の第1要件ないし第5要件を充足するときは,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属すると解すべきであるが(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照),前記認定のとおり,原告製品は,本件発明の構成要件A及びBを充足しない点において,本件発明の構成と異なるものであるところ,自動車タイヤ用内装材について,本件発明に係る特許請求の範囲(請求項1)に記載された範囲内の数値に限定された特定の物性を有するゴム発泡体(構成要件A)を使用するとともに,上記ゴム発泡体からなる帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層を一体化させる構成(構成要件B)を採用したことは,いずれも本件発明特有の課題解決の手段を基礎付ける技術的思想の中核的,特徴的な部分すなわち本件発明の本質的部分であると認めるのが相当であるから,上記異なる部分は本件発明の本質的部分であり,原告製品は,均等の第1要件を充足しないものである。
また,前記認定のとおり,本件発明の特許出願経過によれば,控訴人は,ゴム発泡体からなり帯状環状体に形成される内装材のうち,ゴム発泡体からなる帯状環状体のみから構成されるものを,スキン層に該当する表面層のあるものも含め,意識的に本件発明の技術的範囲から除外したものであるところ,原告製品は,上記のとおり除外されたゴム発泡体からなる帯状環状体のみから構成されるものに該当するから,均等の第5要件(「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき」)を充足しないというべきである。
控訴人は,原告製品は,本件発明の構成要件A記載の圧縮応力又は破断伸びの上限値を僅かに(数g又は数%)超えている点で本件発明の構成と異なる部分があるが,本件発明の作用効果と同一の作用効果を奏するから,上記異なる部分は本件発明の本質的部分ではなく,均等の第1要件を充足する旨主張(前記第2の2(2)イ(ア)@)するが,均等の第1要件は,異なる部分の構成が発明の構成の本質的部分かどうかを評価判断するものであって,発明の作用効果が本質的部分かどうかを問題とするものではないから,上記主張は採用することはできない。また,控訴人は,原告製品は本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に僅かに数値を除外したものであるから,均等の第5要件を充足する旨主張(前記第2の2(2)イ(ア)D)するが,均等の第5要件は,出願人が,特許出願手続において当該異なる部分の構成を意識的に除外したかどうかなど,特許権者側の事情を問題とするものであるから,控訴人の上記主張はその主張自体均等の第5要件を充足するものではない。
したがって,原告製品は,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとの控訴人の上記主張は採用することができない。
5結論以上によれば,被控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容した原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀