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関連審決 不服2003-1677
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10228審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  翻訳文 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  前置審査 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  合理的な理由 /  国際出願 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10839号 審決取消請求事件
原告ザ チャールズスターク ドレイパー ラボラトリイ インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 秋元輝雄
同 加藤宗和
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 上田忠
同 山口敦司
同 岡田孝博
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-1677号事件について平成17年8月29日にした審決を取り消す。
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,1991年(平成3年)9月11日(以下「本件優先日」という。)にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張し,平成4年9月11日,発明の名称を「マイクロメカニカル音叉角速度センサー」とする発明につき特許出願(特願平5-505506号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成14年10月24日に拒絶の査定を受けたので,平成15年2月3日,拒絶査定不服の審判請求をした。特許庁は,同請求を不服2003-1677号事件として審理した結果,平成17年8月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年9月13日,原告に送達された。
2 特許法184条の6第2項の規定により願書に添付した明細書とみなされるその国際出願に係る明細書の翻訳文並びに平成11年9月13日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面(甲3添付,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項46に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨少なくとも第1の回転感知軸を軸とする角回転を検知するマイクロメカニカル音叉ジャイロスコープであって,以下を備えるもの:角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板;第1の面内に配置され,少なくとも第1と第2の振動構造体を含み,前記第1と第2の振動構造体が互いに概ね近接し,平行に配設されている前記角速度感知構造体;前記第1と第2の振動構造体を励起し,これらを前記回転感知軸に直角で,前記第1の面にある軸にそって横方向へ振動させるためのもので,前記少なくとも第1と第2の振動構造体の前記横方向の振動が前記第1の回転感知軸を軸として,前記ジャイロスコープが角回転すると,前記第1の面に直角な第2の面に平行な方向に前記角速度感知構造体の少なくとも一部を同時に縦運動させる駆動手段;および,前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段。
3 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開昭60-73 1414号公報(甲13,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( ) 審決が本願発明と引用発明とを対比して認定した一致点及び相違点は,そ 2れぞれ次のとおりである。
(一致点)「少なくとも第1の回転感知軸を軸とする角回転を検知するマイクロメカニカル音叉ジャイロスコープであって,以下を備えるもの:角速度感知構造体を架設した部材;第1の面内に配置され,少なくとも第1と第2の振動構造体を含み,前記第1と第2の振動構造体が互いに概ね近接し,平行に配設されている前記角速度感知構造体;前記第1と第2の振動構造体を励起し,これらを前記回転感知軸に直角で,前記第1の面にある軸にそって横方向へ振動させるためのもので,前記少なくとも第1と第2の振動構造体の前記横方向の振動が前記第1の回転感知軸を軸として,前記ジャイロスコープが角回転すると,前記第1の面に直角な第2の面に平行な方向に前記角速度感知構造体の少なくとも一部を同時に縦運動させる駆動手段;および,前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段。」(相違点)「角速度感知構造体を架設した部材について,本願発明では,『角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板』であるのに対し,刊行物1に記載された発明(注,引用発明)は,『角速度感知構造体と一体に形成されたフレーム7』である点。」
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1,2),相違点についての判断を誤り(取消事由3),審判において改めて拒絶理由通知がされなかった手続上の瑕疵があり(取消事由4),補正の提案に対して判断を遺脱した瑕疵があり(取消事由5),その結果,本願発明が進歩性を欠くとの誤った結論を導いたものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過( ))1( ) 審決は,本願発明の「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基 1板」との記載中の「架設」の語が「ベース領域を含む基板」に掛かると解釈し,それを前提に,本願発明と引用発明とが「角速度感知構造体を架設した部材」である点で一致すると認定したが,誤りである。
( ) 「架設」という語は,一般に,「かけわたすこと。橋や電線などを設備す 2ること。『電話を-する』」(広辞苑第5版)との意味を有するものとされ,凹所等の何らかの空間部分にかけわたされていることを意味することが明らかである。本願発明の「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」との記載は,日本語の通常の解釈によれば,「架設」がその直後の「ベース領域」に掛かるものであり,したがって,「基板」に「架設」されているのではなく,「ベース領域」に「架設」されているものである。
本願発明の特許請求の範囲請求項46の「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」に対応する国際出願に係る明細書の原文(甲2添付,a substrate including a base region over 以下「出願原文」という。)は,「」であり,「 」は, which is suspended an angular ratesensitive structure suspended「吊り下げられる」という意味を有するところ,この語が「架設」に当たるのであり,上記原文をみれば,容易に,本願発明の角速度感知構造体は,基板のベース領域の上に架設されるものと理解することができる。なお,審査・審判段階において,原文参照の義務はないにしても,出願原文を参照することは許されるべきである。
( ) 一方,引用発明のフレーム7は,慣性変換部8等と同一基板上に一体成形 3されているのであるから,基板あるいはフレーム7に「架設」されるということはない。したがって,たとえ,引用発明の慣性変換部8が本願発明の角速度感知構造体に相当するとしても,引用発明には,本願発明にいう「角速度感知構造体」の「ベース領域」への架設についての記載がないから,引用発明は,「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」という本願発明の構成を有していない点で相違するものであり,本願発明と引用発明とが「角速度感知構造体を架設した部材」である点で一致するとした審決の認定は誤りである。
( ) 以上のとおり,審決には,相違点を看過した違法があり,審決の結論に影 4響を及ぼすことは明らかである。
2 取消事由2(相違点の看過( ))2( ) 審決は,本願発明と引用発明とが「前記角速度感知構造体の少なくとも一 1部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段」(以下,単に「角回転量を示す手段」ということがある。)である点で一致すると認定したが,誤りである。
( ) 本願発明は,「角速度感知構造体」,「角回転量を示す手段」を構成要素 2とし,両者は別体を構成するものである。このことは,特許請求の範囲において「前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力手段が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段」とされており,また,本件明細書の「発明の詳細な記述」欄の実施例において,「ブリッジ電極70,72」又は「感知電極74,76」が「角速度感知構造体14」とは別体に構成されていることから明らかである。そして,このような構成をとることにより,本願発明は,「角速度感知構造体」(実施例にいう振動構造体38,40)の振動から隔絶されているのである。
( ) 一方,引用発明では,「角速度Ωを示すコリオリ力検出部14」は,本願 3発明の「角速度感知構造体」の一部に相当するから,「ループ状の検出コイル16」が,本願発明の「角回転量を示す手段」に相当する。ところで,「ループ状の検出コイル16」は,「慣性変換部8」と一体化されているから,「フレーム7」と一体化されていることになる。
そうすると,「慣性変換部8」と一体化されている引用発明の「ループ状の検出コイル16」と,「角速度感知構造体」とは別体である本願発明の「角回転量を示す手段」が一致するということはできない。そして,この相違点に係る本願発明の構成が顕著な作用効果を奏することは,後記3( )の5とおりである。
( ) 以上のとおり,審決には,相違点を看過した違法があり,その結論に影響 4を及ぼすことは明らかである。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)( ) 審決は,相違点(角速度感知構造体を架設した部材について,本願発明で 1は,「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」であるのに対し,引用発明では,「角速度感知構造体と一体に形成されたフレーム7」である点。)について,「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成は周知である(例えば,特開昭60-113105号公報参照。)。そして,該周知の構成における基板の検出部を架設した領域が,本願発明における『ベース領域』に相当するということができる。そうしてみると,刊行物1に記載された発明(注,引用発明)において,一体形成されたフレーム7に角速度感知構造体を架設することに代えて,基板にベース領域を有するものを採用し,該ベース領域を有する基板に角速度感知構造体を架設して本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るところと言えるものである。」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第3段落)と判断したが,誤りである。
( ) 審決が周知文献として引用する上記の特開昭60-113105号公報 2(甲14,以下「甲14公報」という。)では,シリコン半導体基板5の上面に酸化絶縁膜6を形成し,さらに,その上に金属蒸着とエッチングにより第1電極9,第2電極13,14を一体に形成する。このように形成された第1電極9が慣性変換部を構成し,第2電極13,14がコリオリ力検出部を構成する。したがって,甲14公報の慣性変換部(振動部)やコリオリ力検出部は,具体的には,基板5表面の絶縁膜6上に直接形成されたごく薄い金属膜であるから,「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成」(以下「本件周知技術」という。)は周知であるとする審決の認定は,誤りである。
( ) 被告は,米国特許第5016072号明細書(乙1,対応する日本語公報 3は特表平5-502945号公報,以下「乙1公報」という。)及び特開昭63-172915号公報(乙2,以下「乙2公報」という。)を提出して,本件周知技術が周知であることを立証しようとしている。
しかし,乙1公報は,回転による振動体であって音叉型ではなく,乙2公報は,板ばね等を用いるものであって,基板のベース領域に架設するような構造ではなく,従来の機械的な角速度センサーにすぎない。したがって,乙1及び2公報は,本願発明のような「角速度感知構造体」と同様に基板上に架設された音叉型のジャイロスコープではないから,引用発明と組み合わせるべき周知例を裏付けるものとはなり得ない。
( ) また,引用発明では,フレーム7は,慣性変換部等が一体化されているの 4であるから,「刊行物1に記載された発明(注,引用発明)において,一体形成されたフレーム7に角速度感知構造体を架設することに代えて,基板にベース領域を有するものを採用」(審決謄本6頁第3段落)するということは,フレーム7と一体化されている慣性変換部等を分離するということであるが,そのような再度の分離は当業者において容易に想到し得るものではない。
さらに,引用例及び甲14公報は,出願人及び主たる発明者がいずれも同一であって,しかも出願日が2か月程度しか離れていない公開特許公報であるところ,その内容をみると相互の技術について何らの言及もなく,その上,当該出願人,発明者は本願発明に係る出願はしていないことからすると,当業者において,引用発明と本件周知技術とを組み合わせるのに困難を伴うものというべきである。
( ) 前記2( )のとおり,本願発明において,「角速度感知構造体」は,「ベ 52ース領域」に架設されており,「角回転量を示す手段」とは別体を構成するものであるところ,このような構成をとることにより,静電容量変化を検知する本願発明の「角回転量を示す手段」は,「角速度感知構造体」の振動からは隔絶されるので,その振動の影響が「ブリッジ電極70,72」又は「感知電極74,76」に及ぶことが少ないという顕著な作用効果を奏する。
( ) 以上のとおり,審決には,相違点についての判断を誤った違法がある。 64 取消事由4(拒絶理由通知の欠如)( ) 平成14年2月5日付け(発送)の拒絶理由通知書(甲5)は,本願発明 1(請求項46に係る発明)を拒絶する理由について,特許法29条2項の規定を挙げた上,「オープンエンド,クローズドエンドの音叉をシリコン基板上にエッチングで形成する振動ジャイロは引用例1(第2図,第4図参照)(注,甲14公報),引用例2(第5図,第9図,第10図参照)(注,引用例)に開示されている。」と記載するのみであって,あまりにも簡単な拒絶理由であって,出願人である原告において理解困難であり,本願発明について,具体的に拒絶の理由を述べているとはいえない。
拒絶理由通知書の理由1は,本願発明について,上記のとおり,具体的に拒絶の理由を構成しておらず,単に拒絶の適用条文を挙げたのみであるから,拒絶理由通知と審決の理由とは,実質上全く異なっている。
そうすると,本件においては,拒絶理由通知を欠いているか,あるいは,拒絶理由通知と審決の理由とが実質上全く異なっているというべきであって,審決が拒絶理由を更に敷衍したものとみるのは困難であり,したがって,原告に意見陳述の機会を与えずに審決がされたともいうべきである。
( ) 被告は,原告提出の平成14年8月5日付け意見書(甲6)をもって,原 2告が特許法29条2項により拒絶されたことを認識していた旨主張するが,拒絶査定における当該理由付けが審決と相違していることに変わりはなく,実質的に原告に対して拒絶理由通知がされていたと認めることはできない。
原告は,本願発明について,その特許請求の範囲の請求項の語句の意味にあいまいなところがあるなどの疑念があった上,拒絶理由通知書で拒絶理由を発見し得ない請求項が指摘されていたため,当該請求項のみに限定することも考慮していたところ,補正の機会が与えられなかったものである。
( ) 以上のとおり,審判合議体は,拒絶理由通知と実質的に異なる理由の審決 3をするのであれば,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に従って再度の拒絶理由を出願人である原告に通知し,意見書,補正書を提出する機会を与えるべきであったから,これをせずにした審決には,法令違背の瑕疵がある。
5 取消事由5(判断の遺脱)( ) 原告は,審判理由補充書において補正の提案をし,さらに審判の審理過程 1で,上申書を提出し,補正の可否の提案をしたところ,全く顧慮されることなく審決がされ,審決中の最後段のなお書きにおいて,「審判請求人は審判請求書において特許請求の範囲に対する補正案を提示し,該補正案をもとに引用発明との差異を縷々主張しているが,補正案に記載された発明は本願発明とは別異の発明である以上,その主張も本願発明とは別異の発明に対する主張である故,審判請求人の主張は採用し得ない。」とされたのみであった。
原告が,本願発明の特許性に重大な影響があると思われる補正を原告が提案し,さらに上申書で重ねて提案したにもかかわらず,審判では別異の発明であるとして審理判断をしなかったものであり,審決の結論に重大な影響を及ぼすことが明らかな事項につき判断を遺脱した違法がある。
( ) 被告は,原告は,補正の機会が十分に与えられており,漫然とその機会を 2利用しなかったにもかかわらず,時機を逸してから,上申書で補正を認めるように主張している旨反論する。
原告は,補正案による特許を希望していたのであるが,拒絶理由通知のなお書の内容から,同じ補正をしても,いわゆる審査前置制度による審理において特許査定される見込みがほとんどないために,同制度を利用しなかったにすぎない。また,前置審査を利用するとそれだけ審理が遅れる。そこで,被告提唱の審理・処理促進の観点から,直ちに審理を開始させるべく,審判請求時に補正をしなかったのであり,このこと自体は,なんら非難されるような違法性は存し得ない。このような事情のもとでは,審判請求時の補正の規定を利用することなく,つまり,審判請求時に補正をせずに,審判請求書においてその旨の主張をすることは,審判手続の公平性を損なうものではなく,また審判で補正をすること自体について特に特許法において排斥されているものでもない。
したがって,本件の場合,補正の機会が十分に与えられていたとはいい難く,また,原告がその機会を利用しないことに合理的な理由があったものというべきである。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過( ))について1( ) 本願発明を認定するに際しては,特段の事情のない限り,願書に添付した 1明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,本願発明の特許請求の範囲技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないというべきである。
そこで,本願発明の「架設」を検討すると,本願発明における「角速度感知構造体」と「基板」との関係から,「架設」が,「ベース領域を含む基板」に「角速度感知構造体」を「少なくとも一部の同時の縦運動をゆるすように支持」することを意味することは明らかであり,ここに「縦運動をゆるす」ためには,「角速度感知構造体」と「基板」との間に所定の空隙があるように支持されれば十分であるということができる。そうすると,本願発明の「架設」の技術的意義は,一義的に明確であるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情はない。
( ) 原告は,出願原文を参照することは許されるべきであるとし,本願発明の 2「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」に対応する出願原文a substrate including a base region over which is suspended an angular rate が「」であり,「 」が「架設」に当たる旨主張する。 sensitive structure suspendedしかし,本件出願は,1992年(平成4年)9月11日を国際出願日とする出願であり,これについて適用される平成6年法律第116号による改正前の特許法184条の4第4項の規定によれば,出願翻訳文に記載されていないものは,国際出願日における外国語特許出願の明細書若しくは請求の範囲に記載されていなかったものと,又は図面の中の説明がなかったものとみなされる。すなわち,国際特許出願の処理を行なうに当たっては,日本語による翻訳文に基礎がおかれるのであって,英語の原文に基礎がおかれるわけではない。したがって,原告の上記主張は,失当である。
( ) 仮に,本願発明の「架設」の意味として,上記「支持」することに加えて, 3「角速度感知構造体」と「基板」とを別体で構成することを含むとしても,審決において認定された相違点は,「本願発明では,『角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板』であるのに対し,刊行物1に記載された発明は,『角速度感知構造体と一体に形成されたフレーム7』である」というものであるから,実質的に相違点の看過はない。
2 取消事由2(相違点の看過( ))について2原告は,引用発明では,「角速度Ωを示すコリオリ力検出部14」は,本願発明の「角速度感知構造体」の一部に相当するから,「ループ状の検出コイル16」が,本願発明の「角回転量を示す手段」に相当すると主張するが,失当である。
引用例の「ループ状の検出コイル16」は,「コリオリ力検出部14」を構成する一部品であり,角速度Ωに比例したコリオリ力による振動(縦運動)がコリオリ力検出部14に発生し,その振動により検出コイル16に誘起された信号を測定することにより角速度Ωを計測できるのである。そして,「検出コイル16」が「コリオリ力検出部14」の一部であることからみて,「コリオリ検出部14」は,「縦振動する角速度感知構造体の少なくとも一部」であるとともに「角回転量を示す手段」でもある。また,引用例(甲13)には,「検出部14の面上にフォトリソグラフィー等で板状の電極を形成し,これに近接して配置した固定電極間との静電容量変化を用いる手段でも実現できる」(3頁右下欄第2段落)との記載事項もある。
また,本願発明の「角速度感知構造体」,「角回転量を示す手段」が別体を構成するとする原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。
したがって,引用発明の「角速度Ωを示すコリオリ力検出部」が,本願発明の「角回転量を示す手段」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について( ) 「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する 1基板上に架設する構成は周知である」(本件周知技術)が周知であることは,乙1,乙2公報からも明らかである。
すなわち,甲14公報,乙1,2公報には,本願発明の「振動式角速度感知構造体」に相当する「第1電極」,「トランスデューサ素子18」及び「振動体(11)」が,本願発明と同じ意味で架設されている。そして,甲14公報の「第1電極」は,「基板5」と間隙部7を介して対向しており,乙1公報の「トランスデューサ素子18」,乙2公報の「振動体(11)」も,基板等との間に空げき14やギャップが存在する。
したがって,審決が「コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成は周知である」としたことに誤りはない。
( ) 本願発明の「架設」は,上記1で述べたとおり,「縦運動をゆるすように 2支持」を意味するにすぎない。本願発明の「ベース領域」は,基板において検出部である角速度感知構造体を架設した領域を意味することが明らかであるので,「該周知の構成における基板の検出部を架設した領域が,本願発明における『ベース領域』に相当するということができる。」(審決謄本6頁第2段落)とした審決の判断にも誤りはない。
( ) 本願発明は,物の発明であり,角速度感知構造体と基板の構造が一体であ 3れ,別体であれ,機能に異なるところはないので,一体化により架設するか,それとも,別体のものを架設するかは,乙1,2公報に照らすと,当業者であれば,適宜選択し得る設計的事項にすぎないものというべきである。したがって,「刊行物1に記載された発明において,一体形成されたフレーム7に角速度感知構造体を架設することに代えて,基板にベース領域を有するものを採用し,該ベース領域を有する基板に角速度感知構造体を架設して本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るところと言えるものである。」(審決謄本6頁第3段落)とした審決の判断に誤りはない。
( ) 本願発明の奏する効果は,引用発明の効果及び本件周知技術の効果に比べ 4て格別なものとはいえず,当業者の予測し得る範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び本件周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,審決の相違点についての判断に誤りはない。
4 取消事由4(拒絶理由通知の欠如)について( ) 原告は,平成14年2月5日付け(発送)の拒絶理由通知書があまりにも 1簡単な拒絶理由であって,出願人である原告において理解困難であった旨主張するが,原告提出の同年8月5日付け意見書(甲6)には,「5.理由本願に対する平成14年1月25日付け(発送日:平成14年2月5日)の拒絶理由通知に対し,次の様に意見を申し述べます。審査官殿は請求項1〜13,41,46-49,51〜54,請求項25〜32,38〜40,請求項35〜37及び44に記載の発明は,第29条第2項に規定する発明に該当する・・・として拒絶理由を通知されました。しかしながら,期限内に意見書及び明細書等を補正した手続補正書を提出することができませんでした。」などと記載されており,その記載内容から,原告において,本願発明について,「引用例1 特開昭60-113105号公報」(注,甲14公報),「引用例2 特蘭昭60-73414号公報」(注,引用例),「引用例3 特開平3-122518号公報」,「引用例4 特開昭63-172915号公報」(注,乙2公報)を根拠として特許法29条2項の理由により拒絶されていると認識していたことは明らかである。
( ) 原告は,審判合議体は,特許法159条2項で準用する同法50条の規定 2に従って再度の拒絶理由を出願人である原告に通知し,意見書,補正書を提出する機会を与えるべきであった旨主張する。
しかし,審決の理由に用いた引用例及び本件周知技術は,それぞれ,拒絶査定の理由として既に引用され通知されたものであり,両者の拒絶の理由は異なるものではない。したがって,原告に対し,拒絶理由通知によって実質的に通知がされていると認められるので,原告の主張は,その前提を欠く。
5 取消事由5(判断の遺脱)について原告は,審判理由補充書において補正の提案をし,さらに審判の審理過程で,上申書を提出し,補正の可否の提案をしたところ,全く顧慮されることなく審決がされた旨主張する。
しかし,特許法17条の2第1項4号によると,拒絶査定に対する審判請求人は,その審判請求の日から30日以内に願書に添付した明細書又は図面について補正をする機会が与えられている。それにもかかわらず,原告は,平成15年2月3日の拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内に手続補正書を提出しておらず,平成15年5月15日付けの補正後の審判請求書の請求の理由(甲10)において,補正が許可されることを前提に補正案を下敷きに請求の理由をるる述べているだけである。
原告は,補正の機会が十分に与えられており,漫然とその機会を利用しなかったにもかかわらず,時機を逸してから,上申書で補正を認めるように主張していることになるが,このような主張を採用して手続補正を認めることは,審判手続の公平性を甚だしく損なうものであり特許法の予定とするところではない。
したがって,審判合議体がこのような原告の主張を採用せずに審決をしたからといって,上申書が特許法にない手続であること,及び,上述した原告の態様を考慮すれば,審判合議体が審理判断を遺脱したとは到底いうことができない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過( ))について1( ) 審決は,本願発明の「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基 1板」との記載中の「架設」の語が「ベース領域を含む基板」に掛かると解釈し,それを前提に,本願発明と引用発明とが「角速度感知構造体を架設した部材」である点で一致すると認定したのに対し,原告は,本願発明の「架設」は,「基板」に「架設」されているのではなく,「ベース領域」に「架設」されているものであり,審決は,一致点の認定を誤り,相違点を看過している旨主張する。
( ) 本願発明の「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」におけ 2る「角速度感知構造体」は,特許請求の範囲の記載によれば,「第1の面内に配置され,少なくとも第1と第2の振動構造体を含み,前記第1と第2の振動構造体が互いに概ね近接し,平行に配設されて」おり,「前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知」するものであって,「前記第1の面に直角な第2の面に平行な方向」に縦運動するものであることが認められる。
念のため,本件明細書(甲3添付)の「発明の概要」欄をみると,「この発明は,少なくとも一つの回転感知(検知)軸まわりの角回転を検出する集積し,ダブル歯で,クローズエンドのマイクロメカニカル音叉ジャイロスコープを特徴とする。そのようなジャイロスコープは,ピットが選択的にエッチングされ,それにエッチングされていないシリコン構造体がサスペンドされている単一のシリコン基板から製造される。エッチングされていないシリコン構造体は,第1の面内に配置され,少なくとも第1と第2の振動構造体を含む。第1と第2の振動構造体は,互いに概ね隣接し,平行に配置されている。第1と第2の振動構造体の各々は,関連した振動構造体と一体の質量体を含む。」(2頁第1〜第2段落)との記載があり,ここに「エッチングされていないシリコン構造体は,第1の面内に配置され,少なくとも第1と第2の振動構造体を含む。第1と第2の振動構造体は,互いに概ね隣接し,平行に配置されている。」という「シリコン構造体」が本願発明の「角速度感知構造体」に該当するものと認められる。
( ) 「架設」の語は,一般に,「かけわたすこと。橋や電線などを設備するこ 3と。」(広辞苑第5版),「支えを設けて一方から他方へかけ渡すこと」(大辞林第2版)などといった意味を有するものとされている。
本願発明の特許請求の範囲の「前記少なくとも第1と第2の振動構造体の前記横方向の振動が前記第1の回転感知軸を軸として,前記ジャイロスコープが角回転すると,前記第1の面に直角な第2の面に平行な方向に前記角速度感知構造体の少なくとも一部を同時に縦運動させる駆動手段」との記載によれば,「架設」とは,「角速度感知構造体の少なくとも一部」が,「ジャイロスコープが角回転すると,前記第1の面に直角な第2の面に平行な方向に・・・縦運動させる」ことができるようにされていることが必要であるが,特許請求の範囲の記載上,それ以上の制限はない。したがって,「架設」とは,角速度感知構造体において自在に縦運動をすることができるようにかけ渡されていることを要するものと解すべきである。
ところで,「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」というとき,「架設」が「ベース領域」に掛かるのか,「ベース領域を含む基板」に掛かるのか必ずしも明確ではない。
本件明細書の「発明の概要」欄をみると,上記のとおり,「ピットが選択的にエッチングされ,それにエッチングされていないシリコン構造体がサスペンドされている単一のシリコン基板」(2頁第1段落)との記載があり,選択的にエッチングされた「ピット」に「エッチングされていないシリコン構造体がサスペンドされている」というのであり,ここにいう「サスペンド」が本願発明の「架設」に当たり,「ベース領域」が「ピット」に当たることが明らかであるから,「シリコン構造体」が直接に「架設」されているのは,「ピット」であり,「シリコン基板」ではない。
ちなみに,本願発明の特許請求の範囲の「角速度感知構造体を架設したベasubstrate ース領域を含む基板」との記載に対応する出願原文をみると,「including a base region over which is suspended an angular rate sensitive」とされており,ここにいう「 」が「 」すなわ structure suspended a base regionち「ベース領域」に掛かっていることは,明らかである。
被告は,本件出願について適用される平成6年法律第116号による改正前の特許法184条の4第4項の規定によれば,出願翻訳文に記載されていないものは,国際出願日における外国語特許出願の明細書若しくは請求の範囲に記載されていなかったものと,又は図面の中の説明がなかったものとみなされるから,出願原文を参照することは許されるべきでない旨主張する。
しかし,ここで問題となっているのは,出願翻訳文に記載されている「架設」の技術的意義であり,その正しい意味内容を探るために,出願原文を参酌することは,何ら差し支えないと解すべきである。
( ) 一方,引用発明が,「Z軸を軸とする角速度を検出するフォトリソグラフ 4ィと異方性エッチング技術により微細加工した音叉振動子を用いた振動式角速度計であって,以下を備えるもの: 慣性変換部8(注,「慣性変換部S」とあるのは誤記と認める。)と当該慣性変換部を支持するフレーム7とを一体形成した基板; フレーム7の面内に配置され,一対の音叉振動子8a,8b(注,「音叉振動子Sa,Sb」とあるのは誤記と認める。)が互いに概ね近接し,平行に配設されている慣性変換部8; 一対の音叉振動子8a,8bを励振し,振動方向d,d’に振動させるためのもので,Z軸に角速度が印加されると,一対の音叉振動子8a,8bの振動方向d,d’の振動が振動方向d,d’に対して直角方向に角速度Ωに比例した振幅のコリオリ力によりコリオリ力検出部14に振動を発生させるカプス状の対向電極10a,10b及び発振回路,および,コリオリ力による振動を検出し,該振動の速度に比例した交流信号を発生し,該交流信号が角速度Ωを示すコリオリ力検出部14」(審決謄本4頁第3段落)との構成を有するものであることは,当事者間に争いがない。
引用発明の「フレーム7の面内に配置され,一対の音叉振動子8a,8bが互いに概ね近接し,平行に配設されている慣性変換部8」が本願発明の「第1の面内に配置され,少なくとも第1と第2の振動構造体を含み,前記第1と第2の振動構造体が互いに概ね近接し,平行に配設されている前記角速度感知構造体」に相当することは明らかであるところ,「慣性変換部8と当該慣性変換部を支持するフレーム7とを一体形成した基板」とあるとおり,「慣性変換部8」と「フレーム7」とが基板から一体成形されているものであるから,これが本願発明の「架設」に当たるとするのは困難である。
( ) しかし,審決は,本願発明と引用発明とが「角速度感知構造体を架設した 5部材について,本願発明では,『角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板』であるのに対し,刊行物1に記載された発明(注,引用発明)は,『角速度感知構造体と一体に形成されたフレーム7』である点」(審決謄本5頁下から第3段落)で相違していると認定していることからすれば,本願発明と引用発明とが「角速度感知構造体を架設した部材」である点で一致すると認定したことは,「架設」という用語を一致点として使用した点で,必ずしも適切とはいえないものの,相違点において,引用発明が一体形成であることを摘示しているのであるから,一致点,相違点を総合的にみれば,「角速度感知構造体を架設したベース領域を含む基板」との構成に掛かる審決の認定に誤りはないものというべきである。
したがって,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点の看過( ))について2( ) 原告は,本願発明において,「角速度感知構造体」と「角回転量を示す手 1段」とは別体を構成しているのに対し,引用発明においては,「角速度感知構造体」の一部に相当する「角速度Ωを示すコリオリ力検出部14」と「角回転量を示す手段」に相当する「ループ状の検出コイル16」とは一体であって,相違点というべきところ,審決はこの点を看過している旨主張する。
( ) しかし,本願発明の特許請求の範囲の「前記角速度感知構造体の少なくと 2も一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力手段が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段」は,もっぱら機能,作用によって特定されており,「角速度感知構造体」と「角回転量を示す手段」の位置関係については何らの記載もしていない。
念のため,本件明細書の「発明の概要」欄をみると,「エッチングされていないシリコン構造体の回転を感知する手段が,エッチングされていないシリコン構造体の垂直または回転運動を感知するために,そして,エッチングされていないシリコン構造体に生ずる回転運動に比例する電圧を与えるために,音叉ジャイロスコープによって検出される回転の角速度を指示するために設けられる。」(2頁最終段落)との記載があり,「発明の詳細な記述」欄には,「一つの実施例において,エッチングされていないシリコン構造体14の回転感知軸44を軸としての回転感知機能は,ブリッジ感知電極70,72により達成され,他方,埋設された感知電極74,76を利用するノンエッチのシリコン構造体14の感知機能およびクローズトループ・リバランス機能も本発明により企図されている。ブリッジ電極70,72は,シリコン基板10からエッチングされたピット12を越えてアウター領域68,69のエリアにおけるノンエッチのシリコン構造体へ達している。典型的には,ブリッジ電極70,72は,ノンエッチのシリコン構造体の上に約2〜10ミクロンの間隔をおいて位置している。該ブリッジ電極は,静電感知電子回路78に結合しており,該回路は,感知電極と隣接するノンエッチのシリコン構造体との間の微分キャパシタンスを検知してノンエッチのシリコン構造体の回転量を測定する。」(8頁第2〜第3段落)との記載がある。
上記記載によれば,本願発明においては,ブリッジ感知電極70,72と感知電極74,76との間に位置するシリコン構造体14が縦運動することによる位置の変化を,上記感知電極とシリコン構造体14との間の微分キャパシタンスの変化として検知するものであるから,「シリコン構造体14」,「ブリッジ感知電極70,72」,「埋設された感知電極74,76」等の全体が,本願発明にいう「前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段。」に該当するものというべきである。
したがって,本願発明の「角速度感知構造体」と「角回転量を示す手段」は,一体となって初めて感知機能を奏するのであって,これは,本願発明の特許請求の範囲において,「角速度感知構造体」と「角回転量を示す手段」の位置関係については何らの制限もしていないことを裏付けるものというべきである。
( ) 原告は,引用発明では,「角速度Ωを示すコリオリ力検出部14」は,本 3願発明の「角速度感知構造体」の一部に相当するから,「ループ状の検出コイル16」が,本願発明の「角回転量を示す手段」に相当するところ,「ループ状の検出コイル16」は,「慣性変換部8」と一体化されているから,「フレーム7」と一体化されていることになり,したがって,「慣性変換部8」と一体化されている引用発明の「ループ状の検出コイル16」と,「角速度感知構造体」とは別体である本願発明の「角回転量を示す手段」が一致するということはできないと主張する。そこで,引用発明について,更に検討すると,引用例(甲13)には,次の記載がある。
ア 「フォトリソグラフィとエッチング加工法により,同一基板上に振動による慣性変換部とコリオリ力検出部とを一体に形成したことを特徴とする振動式角速度計。」(特許請求の範囲( ))1イ 「本発明(注,引用発明)は従来技術の上記問題点を解消し,小型で製作精度が高く,安定性,信頼性に優れた振動式の角速度計の提供を目的とするものであり,その構成上の特徴は,フォトリソグラフィとエッチング加工法により,同一基板上に振動による慣性変換部とコリオリ力検出部とを一体に形成したことにある。」(2頁右上欄最終段落〜左下欄第1段落)ウ 「14は慣性変換部の音叉振動子8a,8bの結合部に一体に延長形成された板状のコリオリ力検出部であり,上記結合部と反対側は軸Zを含む第2のリガメント15を介してフレーム7に支持されている。16は変換部14の片面にスパッタとエッチング加工法で形成されたループ状の検出コイルであり・・・。Z軸に角速度が印加されると,音叉振動子8a,8bの振動方向d,d’に対して直角方向に角速度Ωに比例した振幅のコリオリ力による振動が矢印e,e’に示す方向にコリオリ力検出部14に発生する。矢印Bは検出コイル16と平行に供給される磁界であり,フレーム7と一体に動く部材に取り付けられた永久(電磁石)手段等で供給される。従って検出コイル16のe,e’方向の振動により,コイルのループはこの磁束Bを周期的に切ることになり,検出コイルにはコリオリ力検出部14の振動の速度に比例した交流信号が誘起され,この信号によりコリオリ力即ち角速度Ωを測定することができる。」(3頁右上欄末行〜右下欄第1段落)( ) 引用例の上記記載によれば,引用発明において,慣性変換部とコリオリ力 4検出部とは一体に形成されており,慣性変換部は,音叉振動子8a,8bから成り,その延長上にコリオリ力検出部が形成され,検出コイル16は,コリオリ力検出部14の片面にスパッタとエッチング加工法でループ状に形成されていることが認められる。検出コイル16に交流電流が誘起されるのであるが,検出コイル16は,コリオリ力検出部14の片面に一体に形成されており,コリオリ力検出部14の一部となっているのである。そして,一体の構成となっている検出コイル16とコリオリ力検出部14とを分離し,コリオリ力検出部14でなく,その一部を構成する検出コイル16が,本願発明の「前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段」に相当すると考えなければならない合理的理由は存在しない。
ちなみに,引用発明においては,慣性変換部及びコリオリ力検出部14の振動により検出コイル16が振動すると,検出コイル16が永久(電磁石)手段等で供給される磁束を切り,交流信号を誘起するというものであり,「慣性変換部」,「コリオリ力検出部14」,「検出コイル16」,「永久(電磁石)手段」等の全体が一体となって初めて感知機能を奏するのであり,本願発明にいう「前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段。」に該当するものということができる。
したがって,本願発明と引用発明は,「慣性変換部」の運動を検知する具体的な方法が,前者は微分キャパシタンスの変化,後者は交流信号の誘起であるという点を除けば変わるところがない。
そして,引用例(甲13)には,「コリオリ力の検出手段は,このようにコイルによる電磁誘導的な手段の他,検出部14の面上にフォトリソグラフィー等で板状の電極を形成し,これに近接して配置した固定電極間との静電容量変化を用いる手段でも実現できるし,・・・コリオリ力により発生する圧電気による起電力を測定することもできる。更に・・・光学的に振動を検出することも可能であって,種々の変位検出手段を用いることができる。」(3頁右下欄第2段落)との記載があり,コリオリ力の検出手段としては,引用発明の電磁誘導的な手段(交流信号の誘起),本願発明と同様の「固定電極間との静電容量変化を用いる手段」など種々の手段があるのである。
したがって,本願発明と引用発明とが「角速度感知構造体」と「角回転量を示す手段」との位置関係について,異なるところはない。
( ) そうすると,「角速度感知構造体」と「角回転量を示す手段」とが本願発 5明では別体であり,引用発明では一体であるとして,相違点の看過をいう原告の取消事由2の主張は,採用の限りでない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について( ) 審決は,「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部 1を有する基板上に架設する構成は周知である(例えば,特開昭60-113105号公報参照。)」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)と認定したのに対し,原告は,これを争うので検討する。
( ) 甲14公報には,「本発明は航空機等の移動体の姿勢制御信号源として必 2須な角速度計に関する。特にコリオリ力を利用した振動式角速度計の新規な構成に関し,小形,高精度で信頼性の高い角速度計を提供する。」(1頁左下欄下から第2段落),「以下実施例に基づいて本発明の構成を説明する。
第2図において,5は長方形のシリコン等の半導体基板,6はこの基板上に形成されたSiO 等の絶縁膜,7はこれら両者の中央部において基板をエ2ッチングして形成された間隙部,Dはその間隙部の距離を示す。8は絶縁膜6の中央部を間隙部7に貫通して長手方向に形成された小判形の穴,9はこの小判形穴8のまわりに絶縁膜6上に形成されて穴8の縁に沿った長手方向に電気抵抗が高くなるような狭部9 ,9を有する第1電極であり,慣性変ab換部を構成している。・・・13及び14は絶縁膜6上に形成されたコリオリ力検出用の第2電極で,第1電極9の狭部9a,9bの外側に一定の面積を有して形成されており,基板5と間隙部7を介して対向し,両者間に夫々静電容量C ,C (C は図示せず)が形成されている。15,16はこれ122ら第2電極にボンディングで接続されたリード線を示す。」(2頁右上欄第2段落〜左下欄第1段落),「交流発振器12は一定周期Tを有するパルス電流・・・を・・・第1電極9の狭部9,9 に供給する。・・・パルスのabオン期間に発熱して小判形穴の周囲が膨張し,絶縁膜6は小判形穴8の中心部に向かって矢印vで示す方向にたわむ。・・・オフ期間では発熱が無いので・・・反動としてvとは反対方向のv’方向にたわむ。この結果小判形穴8の周囲は,周期Tで矢印v,v’で示すような絶縁膜6の面内方向の振動が発生する。尚このような発熱による周期的な膨張を利用した振動発生の技術は公知である。慣性変換部を形成する小判形穴8の周辺部が上記のごとき振動を維持している状態において,軸Zが角速度Ωをもって回転すると,この振動速度と角速度Ωの積に比例したコリオリ力F が小判形穴8の外側部C分即ち第2電極13,14の部分に発生する。・・・このようなコリオリ力F の発生によって第2電極13,14は基板5に対してその対向間隙の距C離Dを周期的に変化させるように互いに逆位相で振動するので,基板5との間に形成されている静電容量C ,C も差動的に変化する。」(2頁右下欄12最終段落〜3頁左上欄第2段落)との記載があり,第2図には,直方体の半導体基板5の長手方向の中央部が両端に比べて一段と低くなって凹部を形成しており,この凹部をまたいで第1電極,第2電極が掛け渡されており,これらの両端は半導体基板5に接しているが,中央部は,上記凹部の存在により,間隙部7を形成していることが図示されている。
上記記載及び図示によれば,その慣性変換部を構成している第1電極は,半導体基板5の中央にエッチングして形成された間隙部7をまたいで,半導体基板5の両端に掛け渡されているものであり,そして,この慣性変換部を構成している第1電極の回転によって第2電極にコリオリ力が発生するものである。
したがって,第1電極は,角速度感知構造体において縦運動することが自在に,半導体基板5の両端に掛け渡されていることが認められる。
( ) 乙1公報は,「半導体チップのジャイロトランスデューサ」に係る発明で 3あるが,その明細書の発明の詳細な説明中には,「微小機構ジャイロトランスデューサ10は,N型シリコン塊12から形成される。・・・シリコン塊12の選択性エッチングにより,空げき14がシリコンフレーム16内に形成される。P型にドープされ,選択性エッチングの結果としてシリコン塊12から取り出されたトランスデューサ素子18は,空げき14の上方に掛留されている(注:乙1公報の原文である米国特許第5016072号明細書の記載は,「 」である。)。外側部32および is suspended above the void 14内側部34から成るトランスデューサ素子18は,同様に選択性エッチングによって取り出され,トランスデューサ素子18の外側部32をシリコンフレーム16と結合する第1可撓性連結手段を形成する可撓性リンクまたは撓み片20および22によって支持されている。各撓み片20および22は,シリコンフレーム16から突出し,第1端部24および26を有する。撓み片20および22の各第2端部28および30は,トランスデューサ素子18の第1ジンバル板32に接続している。撓み片20および22によって撓み自在に支持された第1ジンバル板32は,撓み片20および22を通過するX軸を中心として一定範囲で回転しうる性質を有する。」(3頁右上欄第2段落),「第1ジンバル板32は,X軸を中心として,一定振動数で,かつ,一定角度振幅で振動させられる被駆動部材である。・・・静電トルクを発生させるために外側埋込電極50,56に適当な交流DC電圧を加えることによって,第1ジンバル板32の振動が誘起される。」(同頁右下欄第2段落)との記載がある。
上記記載によれば,トランスデューサ素子18は,シリコンフレーム16から突出して第1端部24及び26を形成する可撓性リンク又は撓み片20及び22によって支持され,空げき14の上方に掛留(原文では「 」)されていることが認められる。 suspendedまた,乙2公報は,「ジャイロ装置」に係る発明であるが,その明細書の発明の詳細な説明中には,「基台(10)・・・の上面の4隅に夫々同一高さの凸部(10a),(10b),(10c),(10d)が設けられている。一方の板ばね(11g)の(Y-Y)軸方向の両端部が突部(10a),(10b)上に固定され,他方の板ばね(11h)の(Y-Y)軸方向の両端部が突部(10c),(10d)上に夫々固定される。従って,振動体(11)の下面と,基台(10)の上面との間にはギャップが存在し,各振動アーム(11a),(11b)及び板ばね(11g),(11h)は,基台(10)に接触することなく,振動し得る。」(3頁左下欄第2段落〜右下欄第1段落),「振動体(11)は,その振動アーム(11a),(11b)の速度ベクトルVの向きが,互に逆となるように,駆動用圧電素子(12a),(12b)等を介して,駆動回路(15)により一定振幅で駆動されている(点線図示)。」(同頁右下欄第3段落)との記載がある。
上記記載によれば,振動体(11)は,基台(10)の上面との間に間隙を設けて設置され,基台(10)に接触することなく振動し得る構成になっていることが認められる。
上記乙1及び2公報の記載に,上記()の記載,さらには甲14公報が昭 2和60年6月19日に公開されている古い技術であることをも併せ考えれば,本件周知技術である「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成」とすることは,本件優先日当時,当業者間において周知であったものというべきである。
( ) 原告は,甲14公報において,慣性変換部(振動部)やコリオリ力検出部 4は,基板5表面の絶縁膜6上に直接形成されたごく薄い金属膜であることを理由に,「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成は周知である」とはいえない旨主張する。
しかし,基板5表面の絶縁膜6上に直接形成されたごく薄い金属膜であったならば,なぜ「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成は周知である」とはいえないのか,その理由を示さないばかりでなく,本件全証拠を検討しても,同主張を裏付けるようなものは見当たらないから,原告独自の見解に基づく主張というほかなく,失当である。
また,原告は,乙1及び2公報は,本願発明のような「角速度感知構造体」と同様に基板上に架設された音叉型のジャイロスコープではないから,引用発明と組み合わせるべき周知例として用いることができるものではないと主張する。
しかし,乙1及び2公報は,上記のとおり,本件周知技術である「振動式角速度計において,コリオリ力を検出する検出部を凹部を有する基板上に架設する構成」が周知であることを裏付ける証拠であって,引用発明と組み合わせるべき周知例ではない。しかも,本件周知技術において問題とされているのは,「振動式角速度計」であって,音叉型のジャイロスコープに限定されているものではないところ,乙1及び2公報に記載されている「角速度感知構造体」は,いずれも「振動式角速度計」である。
したがって,原告の上記主張は,失当というほかない。
( ) 原告は,引用発明では,フレーム7は,慣性変換部等が一体化されている 5のであるから,「刊行物1に記載された発明(注,引用発明)において,一体成形されたフレーム7に角速度感知構造体を架設することに代えて,基板にベース領域を有するものを採用」することは,フレーム7と一体化されている慣性変換部等を分離するということであるが,そのような再度の分離は当業者において容易に想到し得るものではない旨主張する。
しかし,前記2( )のとおり,本願発明の特許請求の範囲において,「角 2速度感知構造体」と「角回転量を示す手段」は,もっぱら機能,作用によって特定されており,その位置関係については何らの記載もしていないのであるから,原告の主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
( ) 原告は,引用例及び甲14公報は,出願人及び主たる発明者がいずれも同 6一であって,しかも出願日が2か月程度しか離れていない公開特許公報であるにもかかわらず,互いの技術について何らの言及もなく,その上,当該出願人,発明者は本願発明に係る出願はしていないから,当業者において,引用発明と本件周知技術とを組み合わせるのに困難を伴う旨主張する。
しかし,引用刊行物の出願人,発明者の同一やそれらの間の出願日の近接性等は,引用発明と本件周知技術との組合せを困難とする事情とはなり得ない。
( ) 原告は,本願発明のコリオリ力に対応する静電容量の変化を検出して出力 7するための電極は,角速度感知構造体(その一部として振動構造体を含む)と別体を構成するので,第1,2の振動構造体38,40の振動の影響が当該電極に及ぶことが少ないという顕著な作用効果がある旨主張する。
しかし,上記主張は,角速度感知構造体と「前記角速度感知構造体の少なくとも一部の前記同時の縦運動を感知し,前記感知した同時の縦運動に比例する電圧出力信号を発生する手段であって,前記電圧出力信号が前記ジャイロスコープにより検出された角回転量を示す手段」とが別体に構成されていることを前提としていることが明らかであるところ,その前提が誤っていることは,前記2に判示のとおりである。
( ) したがって,原告主張の取消事由3は,理由がない。 84 取消事由4(拒絶理由通知の欠如)について( ) 原告は,審決の合議体は,拒絶理由通知と実質的に異なる理由の審決をす 1るのであれば,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に従って再度の拒絶理由を出願人である原告に通知し,意見書,補正書を提出する機会を与えるべきであったから,これをせずにした審決には,法令違背の瑕疵があると主張する。
( ) そこで,本件出願に係る審査,審判の経緯について検討すると,証拠(甲 25〜12)によれば,次の事実が認められる。
ア 平成14年2月5日付け(発送)の拒絶理由通知書には,「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」とされ,「請求項1乃至13,請求項41,請求項46乃至49,請求項51乃至54,請求項25乃至32,請求項38乃至40,請求項35乃至37,44」については,引用例として,「引用例1 特開昭60-113105号公報」(注,甲14公報),「引用例2特開昭60-73414号公報」(注,引用例),「引用例3 特開平3-122518号公報」,「引用例4 特開昭63-172915号公報」(注,乙2公報),「引用例5 特開昭63-154915号公報」,「引用例6 特開昭60-192206号公報」,「引用例7 米国特許第5016072号明細書」(注,乙1公報),「引用例8 特開昭61-114123号公報」,「引用例9 特開昭62-232171号公報」が引用された上,「備考」欄で,請求項46に係る発明(本願発明)を含む請求項1〜13,41,46〜49,51〜54について,「オープンエンド,クローズドエンドの音叉をシリコン基板上にエッチングで形成する振動ジャイロは引用例1(第2図,第4図参照),引用例2(第5図,第9図,第10図参照)に開示されている。クローズド音叉振動ジャイロの支持構造体ねじれにより角速度を検出する構成も引用例3(第1図参照),引用例4(第4図参照)に開示されている。互いにバランスする質量部を振動ジャイロに設けること,音叉振動ジャイロをH型に構成することは周知技術に過ぎない。」とされた。
イ これに対して,原告は,平成14年8月5日付けで,「本願に対する平成14年1月25日付け(発送日:平成14年2月5日)の拒絶理由通知に対し,次の様に意見を申し述べます。審査官殿は請求項1〜13,41,46〜49,51〜54,請求項25〜32,38〜40,請求項35〜37及び44に記載の発明は,第29条第2項に規定する発明に該当する。
また,本願は明細書及び図面の記載が特許法第36条第5項第2号及び6号に規定する要件を満たしていない。更に,特許法37条に規定する要件を満たしていないとして拒絶理由を通知されました。しかしながら,期限内に意見書及び明細書等を補正した手続補正書を提出することができませんでした。つきましては,審査官殿におかれましては,再度意見陳述及び補正の機会を与えて頂き度く,宜しくお願い致します。従って,準備ができ次第,至急補正書案を審査官殿宛てにファックスにてお送りする所存でありますので1カ月ほど審査のご猶予をお願い致したく,宜しくお願い致します。」との内容の意見書を提出した。
ウ さらに,原告は,同年10月23日付けで,「請求項1,41,46および54に,セグメントが構造的に結合しているが,相互に電気的に絶縁されている複数のセグメントを有するシリコン構造体の特徴を追加しました。この特徴は,新規性進歩性の面での拒絶理由が発見されていない請求項17,42,45および50の特徴事項の一つでありますのでこの特徴を追加した独立請求項1,41,46および54ならびにこれらに従属する請求項に記載された発明も拒絶理由がないものと思量いたします。本発明の特徴である構造的に結合しているが,相互に電気的に絶縁されている複数のセグメントを有するシリコン構造体を有する一体型のジャイロスコープについて,いずれの引例も開示していません。本願の請求項はいずれもこの特徴を含みますので引例と明確に区別できるものであります。」との内容の意見書を提出した。
エ 審査官は,同年10月24日付けで,「この出願については,平成14年1月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」とし,「備考」欄で,「出願人は上記拒絶理由を解消し得る意見書・補正書を提出期限内に提出しなかった。なお,意見書・補正書の提出期限後に補正案が参考提示されたが,そのまま特許可能な内容ではなかった。」とする拒絶査定をした。
オ 原告は,平成15年2月3日,拒絶査定不服の審判請求をしたが,その審判請求の日から30日以内に手続補正書を提出しなかった。
カ 原告は,同年5月15日,審判請求書の手続補正書を提出したが,その手続補正書には,特許請求の範囲の補正案を提示するとともに,その【本願発明が特許されるべき理由】欄で,「審判請求人は在外者であり,本件代理人との連絡に時間がかかり明細書の補正の機会を逸してしまいましたが本願の請求項を本補正書の最後に記載のように補正することによって拒絶理由が解消されると思量いたしますので,何卒再度補正の機会をお与え下さるようお願い致します。以下補正が許されることを前提に意見を申し述べます。」,「請求項1,41,46および54に,セグメントが構造的に結合しているが,相互に電気的に絶縁されている複数のセグメントを有するシリコン構造体の特徴を追加しました。この特徴は,新規性進歩性の面での拒絶理由が発見されていない請求項17,42,45および50の特徴事項の一つでありますのでこの特徴を追加した独立請求項1,41,46および54ならびにこれらに従属する請求項に記載された発明も拒絶理由がないものと思量いたします。本発明の特徴である構造的に結合しているが,相互に電気的に絶縁されている複数のセグメントを有するシリコン構造体を有する一体型のジャイロスコープについて,いずれの引例も開示していません。本願の請求項はいずれもこの特徴を含みますので引例と明確に区別できるものであります。」などと記載されていた。
キ 原告は,平成17年8月4日付けで,「本件につきましては,審判請求書において特許請求の範囲の補正につき補正のご提案をさせていただいています。すなわち,上記補正の提案は,拒絶理由通知書で(現時点では)拒絶の理由を発見しないとされた独立請求項45に準じて,他の独立請求項を全て同様に補正することを提案しているものであります。従いまして,上記提案に不足の点がありますならば,ご指摘をいただいき,さらに補正をする用意が出願人にはあります。」などといった内容の上申書を提出した。
ク 審判長は,同月15日,審理終結通知をし,同月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決がされた。
( ) 上記認定の事実によれば,本願発明は,審査段階では,「引用例1 特開 3昭60-113105号公報」(本訴の甲14公報),「引用例2 特開昭60-73414号公報」(本訴の引用例),「引用例3 特開平3-122518号公報」,「引用例4 特開昭63-172915号公報」(本訴の乙2公報)に係る発明によって進歩性を否定したところ,審判段階では,引用例及び甲14公報に係る発明によって進歩性がないと判断したものであり,実質的に審査段階と同様の理由により進歩性がないとの判断をしたものと認められるから,審判段階で,あらためて,その理由を出願人に通知して,同人に弁明ないし補正の機会を与える必要はないというべきである。
( ) 原告は,拒絶理由通知書は,本願発明について,具体的に拒絶の理由を構 4成しておらず,単に拒絶の適用条文を挙げたのみであり,あまりにも簡単な拒絶理由であって,出願人である原告において理解困難であった旨主張する。
しかし,上記( )イのとおり,原告は,平成14年8月5日付け意見書に 2おいて,「本願は明細書及び図面の記載が特許法第36条第5項第2号及び6号に規定する要件を満たしていない。更に,特許法37条に規定する要件を満たしていないとして拒絶理由を通知されました。しかしながら,期限内に意見書及び明細書等を補正した手続補正書を提出することができませんでした。つきましては,審査官殿におかれましては,再度意見陳述及び補正の機会を与えて頂き度く,宜しくお願い致します。」などと述べているのであって,拒絶理由通知書を理解していたことが明らかである。
原告は,拒絶理由通知書の理由1は,本願発明について,上記のとおり,具体的に拒絶の理由を構成しておらず,単に拒絶の適用条文を挙げたのみであるから,拒絶理由通知と審決の理由とは,実質上全く異なっており,審決が拒絶理由を更に敷衍したものとみるのは困難であり,原告に意見陳述の機会を与えずに審決がされたともいうべきであると主張する。
しかし,上記( )アのとおり,拒絶理由通知では,適用条文を挙げている 2のみならず,複数の引用例を掲げ,「オープンエンド,クローズドエンドの音叉をシリコン基板上にエッチングで形成する振動ジャイロは引用例1(第2図,第4図参照),引用例2(第5図,第9図,第10図参照)に開示されている。」と要点を摘示し,公知技術を示す図面を具体的に指摘しているのであるから,当業者であれば,十分に理解し得るものである。
また,原告は,本願発明について,その特許請求の範囲の請求項の語句の意味にあいまいなところがあるなどの疑念があった上,拒絶理由通知書で拒絶理由を発見し得ない請求項が指摘されていたため,当該請求項のみに限定することも考慮していたところ,補正の機会が与えられなかったと主張する。
しかし,上記( )オのとおり,原告は,審判請求の日である平成15年2 2月3日から30日以内に手続補正書を提出する機会が与えられていたのに,自らの都合によって,その補正の機会を利用しなかったにすぎないのである。
なお,本件においては,原告は,手続補正書の提出期限後に,審判請求書の補正の名目で,特許請求の範囲の補正案を提示しているが,後記のとおり,特許法の予定する補正ではないから,審判合議体がこの補正案についての拒絶理由を出願人に通知する必要がなかったことはいうまでもないところである。
( ) したがって,原告の取消事由4の主張は,すべて失当であり,採用の限り 5でない。
5 取消事由5(判断の遺脱)について( ) 原告は,審判理由補充書において補正の提案をし,さらに本件審判の審理 1過程で,上申書を提出し,補正の可否の提案をしたところ,これが全く顧慮されることなく,当該補正の提案について別異の発明であるとして審理判断がされなかったから,審決には判断遺脱の違法がある旨主張する。
しかし,審判請求人は,特許法17条の2第1項4号により,その審判請求の日から30日以内に願書に添付した明細書又は図面について補正をする機会が与えられているところ,本件において,原告は,平成15年2月3日の拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内に手続補正書を提出しなかったのであるから,補正の機会を逸したものであって,その後に補正の提案をしても,特許法の予定する補正手続ではない以上,審判合議体がこれを取り上げるべき義務があるとはいえない。
( ) 原告は,審査段階と同じ内容の補正をしても,いわゆる審査前置制度によ 2る審理において特許査定される見込みがほとんどないために,審理が遅れることもあって,同制度を利用せず,審判請求時に補正をしなかったのであるなどとし,本件の場合,補正の機会が十分に与えられていたとはいい難く,また,原告がその機会を利用しないことに合理的な理由があった旨主張する。
しかし,原告の上記主張によれば,原告は,補正案が認められる見込がなかったから,審判請求時に補正をしなかったというのであるが,そうであるならば,自ら手続補正をしない途を選択したのであるから,それを後になって特許法に基づかない補正案という形で検討するように上申し,審判合議体がそれに応じなかったからといって,判断遺脱があるとするのは,自己矛盾を犯すものにほかならない。
( ) したがって,原告の取消事由5の主張は失当である。 36 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明
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