関連審決 | 不服2003-15494 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 寄せ集め / 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 均等 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10728号
審決取消請求事件
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原告 株式会社シライテック(審決書上の表示) 株式会社白井鉄工所 訴訟代理人弁護士 井原紀昭 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 前田幸雄 同 佐々木正章 同高木彰 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/10/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2003-15494号事件について平成17年9月2日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成10年7月28日,発明の名称を「板ガラスの加工装置」とする発明について特許出願(特願平10-212259号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成15年7月9日に拒絶の査定を受けたので,同年8月11日,拒絶査定不服の審判請求をした。特許庁は,同請求を不服2003-15494号事件として審理した結果,平成17年9月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。 2 平成14年10月17日付け手続補正書によって補正された明細書(甲1,2,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた上流側走行体及び下流側走行体と,この上流側及び下流側走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けた上流側テーブル及び下流側テーブルと,この上流側テーブル上の板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側テーブル上に載置するように設けた受け渡し装置と,上記上流側及び下流側走行体の走行路の両側に設けた板ガラスの辺縁研磨の上流側砥石及び下流側砥石とからなり,上記上流側,下流側砥石のいずれか片方が,数値制御により接近,離反移動するようにしたことを特徴とする板ガラスの加工装置。 3 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,実願昭62-17 15319号(実開平1-81265号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。),特開平10-118907号公報(以下「引用例2」という。)及び特開平5-16063号公報 (以下「引用例3」という。)に記載された発明(以下,順に「引用発明1」,「引用発明2」,「引用発明3」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 ( ) 審決が本願発明と引用発明1とを対比して認定した一致点及び相違点は, 2それぞれ次のとおりである。 (一致点)「板ガラスを保持して搬送する上流側搬送手段及び下流側搬送手段と,上流側搬送手段により搬送された板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載するように設けた受け渡し装置と,上記上流側搬送手段及び下流側走搬送手段の両側に設けた板ガラスの辺縁研磨の上流側砥石及び下流側砥石とからなる板ガラスの加工装置。」(審決謄本6頁第3段落)(相違点)「[相違点1]本件発明(注,本願発明,以下「本願発明」と読み替える。)では,上流側搬送手段及び下流側搬送手段が,レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた上流側走行体及び下流側走行体と,この上流側及び下流側走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けた上流側テーブル及び下流側テーブルとからなり,受け渡し装置が,上流側テーブル上の板ガラスを下流側テーブル上に載置するようになっており,また,上流側砥石及び下流側砥石が,上記上流側及び下流側走行体の走行路の両側に設けられているのに対して,引用例1記載の発明では,上流側搬送手段及び下流側搬送手段が,それぞれ板ガラスの板面を挾持して走行させる左右に所定の間隔を存して並列させかつ上下二本が一組となるベルトコンベヤからなり,受け渡し装置が,上流側ベルトコンベアから送り込まれた板ガラスを下流側ベルトコンベアに送り込むようになっており,また,上流側砥石及び下流側砥石が,上流側及び下流側ベルトコンベアの両側に設けられている点。 [相違点2]本願発明では,上流側,下流側砥石のいずれか片方が,数値制御により接近,離反移動するようになっているのに対して,引用例1記載の発明では,そのように特定されていない点。」(同頁第4〜第5段落) |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明1との相違点を看過し(取消事由1),相違点1及び2についての判断を誤り(取消事由2,3),本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由4),その結果,本願発明が引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論を導き出したもので,違法であるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点の看過)( ) 審決は,本願発明と引用発明1の対比において,「引用例1記載の発明 1(注,引用発明1)における『旋回装置B』は,上流側搬送手段により搬送された板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載する装置であるという限りにおいて,本願発明と同様『受け渡し装置』ということができるものである。」(審決謄本5頁下から第2段落)とした上で,両者が「板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載するように設けた受け渡し装置」(同6頁第3段落)である点で一致すると認定したが,誤りである。 ( ) 本願発明は,上流側テーブル上の,上流側砥石により一方の対向二辺縁が 2研磨済みの板ガラスを,適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側テーブル上に載置する構成の「受け渡し装置」であるのに対し,引用発明1は,上流側搬送路のベルトコンベヤより搬送された板ガラスをパイプ12及び吸盤13により吸引,浮上させて90度旋回させた後に下流側ベルトコンベヤに搬送するものであって,技術的思想を異にしている。換言すると,引用発明1は,上流側のベルトコンベヤ走行中に一方の対向二辺縁が研磨ずみの板ガラスを「旋回装置」により旋回させた後に,下流側のベルトコンベヤに搬送するものである(以下「相違点3」という。)。 したがって,引用発明1の「旋回装置」は,板ガラスを上流側テーブルから下流テーブルに受渡しするものではないから,本願発明の「受け渡し装置」と同視することはできず,この点を一致点とした審決の認定は,相違点3を看過したものであって,誤りである。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)( ) 審決は,相違点1について,「引用例2記載の事項(注,引用発明2)及 1び引用例1記載の発明(注,引用発明1)は,いずれも板ガラスの加工装置に関するものであることから,引用例1記載の発明における上流側搬送手段及び下流側搬送手段として,上流側ベルトコンベア及び下流側ベルトコンベアに代えて,レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた上流側走行体及び下流側走行体と,この上流側及び下流側走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けた上流側テーブル及び下流側テーブルとからなるものを採用することは当業者が容易になし得たことである。」(審決謄本7頁第1段落)と判断したが,誤りである。 ( ) 引用例2に「ガラス基板の外周加工装置において,ガイドレール12に沿 2って適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた搬送基台11と,この搬送基台11に上面に載置したガラス基板1を適宜の保持手段により保持するように設けた保持テーブル13とからなる搬送手段を用いること。」(審決謄本4頁第4段落,引用発明2)が記載されていることは認めるが,引用発明2と本願発明とを対比すると,引用発明2は,(A)搬送手段(走行体)を往復させることにより,ガラス板の四辺の研磨を行い,(B)ガラス板の各角のR研磨(コーナーカット)は,四辺の研磨とは別工程で行うのに対し,本願発明による板ガラスの加工は,板ガラスの四辺を,板ガラスを一方向への走行のみにより研磨完了させるスルー方式により研磨し,かつ,四辺の研磨と同時に板ガラスの各角のR研磨等(コーナーカットともいう。)を行うという点で基本的に相違している。このように,引用発明2は,テーブルに載置された板ガラスを往復走行させることによって初めて1枚のガラスの研磨が完了するのに対し,本願発明においては,板ガラスを載置した上流側及び下流側テーブルを一方向へのみ走行させることにより研磨が完了するというものである。そして,この点は,引用発明1においても同様である。 したがって,本願発明と引用発明2とは,その構成及び作用に相違があるから,当業者において,引用発明1における上流側搬送手段及び下流側搬送手段として,上流側ベルトコンベヤ及び下流側ベルトコンベヤに代えて,引用発明2を適用して,相違点1に係る本願発明の構成に想到することは困難である。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)( ) 審決は,相違点2について,「引用例3には板ガラスの加工装置において, 1搬送手段の両側に設けた板ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成することが記載されており,前記デジタル制御は数値制御といい得るものであることは明らかであるから,上記引用例3記載の事項を引用例1記載の発明に適用して相違点2に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性は見当たらない。」(審決謄本7頁第3段落)と判断したが,誤りである。 ( ) 引用例3に,「板ガラスの加工装置において,搬送手段の両側に設けた板 2ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成すること」(審決謄本5頁第5段落,引用発明3)が記載されていることは認めるが,引用例3の開示する発明は,板ガラスのコーナーカットを行うための専用装置に係る発明であり,本願発明のように,板ガラスの四方辺縁の研磨とコーナーカットを同時に行う装置に係る発明ではないのであり,引用発明1とは全く構成及び作用を異にしている。 したがって,引用発明3を引用発明1に適用して相違点3に係る本願発明の構成とすることが,本件出願当時,当業者において容易であったとはいえない。 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)( ) 引用例1では,「旋回装置」だけでは板ガラスの研磨済み辺縁が下流側の 1ベルトコンベヤとの走行方向に対し,直角(90度)にならない場合があるので,走行方向前後に位置する研磨済み辺縁を挾持する基準挾持体及び板ガラスの走行方向左右に位置する辺縁の研磨代位置決めの挾持体を設け,上設研磨済み辺縁が走行方向に対し直角となるように矯正する構成を採用している。すなわち,板ガラスの「旋回装置」による旋回と,基準挾持体及び研磨代位置決めの挾持体の両者とがあいまって,上流搬送路で研磨された板ガラスの研磨済み辺縁を走行方向に対し直角に交差させることができ,逆にいうと,「旋回装置」だけでは精度不良が生じ,前記二つの挾持体により初めて直角の交差が実現される。 これに対して,本願発明は,相違点3に係る板ガラスを上流側テーブルから下流テーブルに「受け渡し装置」が存在することにより,引用例1のような基準挾持体及び辺縁の研磨代位置決めの挾持体を設けることなく,レールをガイドとして走行する走行体による精度の良好な板ガラスを研磨するものであり,基準挾持体及び研磨代位置決めの挾持体のようなものがなくても,上流側で研磨された板ガラスの研磨済み辺縁を下流側の走行路に対し,直角に交差させることができるものであり,板ガラスの研磨工程が簡略化され,ひいては板ガラス1枚の研磨完了時間も短縮されるという顕著な効果を奏する。 また,引用例1における板ガラスの研磨装置は,搬送手段である上下一対のベルトコンベヤに板ガラスを挾持して走行させながら,走行方向左右に位置する辺縁を回転砥石により研磨し,その研磨が完了した後に,次のガラスをベルトコンベヤに挾持して前記同様に研磨するという,いわゆるスルー方式であり,2枚のガラスを同時に研磨することによって作業能率を向上させるとの技術的思想は存在しなかった。ところが,本願発明は,上流側及び下流側にそれぞれテーブルを設けるとともに,ガラス板を上流側のテーブルから下流側テーブルへ受け渡しする装置を設けたことにより,1台のガラス加工装置において同時に2枚のガラスの研磨を可能とすることができるものである。 ( ) また,引用発明2は,上記2のとおり,テーブルに載置された板ガラスを 2往復走行させることによって初めて1枚のガラスの研磨が完了するのに対し,本願発明では,板ガラスを載置した上流側及び下流側テーブルを一方向へのみ走行させることにより研磨が完了するので,本願発明は,引用発明2と比較するとガラス板の研磨工程が非常に簡単であり,短時間に多量のガラス板を研磨できる。 ( ) 上述したとおり,本願発明と引用例1ないし3とを個別に対比すると,そ 3の構成は相違しているから,本願発明は公知技術である引用例1ないし3を単に寄せ集めたものではなく,また,本願発明は,引用例1ないし3の総和以上の顕著な作用効果を奏するものである。 また,仮に,本願発明が公知技術の寄せ集めであるとしても,単なる寄せ集めではなく,引用発明1の奏する作用効果を超える新たな作用効果を奏するものである以上,進歩性があるというべきである。 |
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被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(相違点の看過)について原告は,引用発明1の「旋回装置」は,板ガラスを上流側テーブルから下流側テーブルに受け渡しするものではないから,本願発明の「受け渡し装置」と同視することはできないと主張する。 しかし,引用発明1における旋回装置Bは,上流搬送路2から送り込まれる板ガラスAを,吸盤13とシリンダ10等の作用により浮上させ,ラック15とピニオン14により旋回させ,旋回が90°になるとピストン11を降下させ吸着を解除させて下流搬送路3のベルトコンベヤ1により搬送させる装置である。そして,上流搬送路2及び下流搬送路3のベルトコンベヤは,それぞれ上流側及び下流側搬送手段ということができ,また,本願発明における上流側及び下流側テーブルも,上流側及び下流側搬送手段を構成するということができる。 したがって,引用発明1の前記旋回装置Bは,「上流側搬送手段により搬送された板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載する装置である」という限りにおいて,本願発明の「受け渡し装置」に当たるものというべきである。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について原告は,引用発明1と引用発明2とは,その構成及び作用に相違があるから,当業者において,引用発明1に引用発明2を適用にして,相違点1に係る本願発明の構成に想到することは困難である旨主張する。 しかし,審決が引用例2から引用しているのは,「レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた走行体と,この走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けたテーブルとからなる搬送手段」という事項(引用発明2)である上,引用発明1及び2は,いずれも板ガラスの研磨加工という同一の技術分野に属するものであるから,引用発明1における搬送手段として,上記ベルトコンベヤに代えて,引用例2に記載された搬送手段を採用することは当業者が容易になし得たことである。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について( ) 審決において引用しているのは,引用例3に記載された,「板ガラスの加 1工装置において,搬送手段の両側に設けた板ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成すること」という事項(引用発明3)であるところ,引用発明1及び3は,いずれも板ガラスの研磨加工という同一の技術分野に属するものであるから,引用発明1に引用発明3の上記技術事項を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ( ) 原告は,引用例3は,板ガラスのコーナーカットを行うための専用装置の 2発明であり,本願発明のように,板ガラスの四方辺縁の研磨とコーナーカットを同時に行う装置ではないと主張する。 しかし,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「上流側及び下流側走行体の走行路の両側に設けた板ガラスの辺縁研磨の上流側砥石及び下流側砥石とからなり,上記上流側,下流側砥石のいずれか片方が,数値制御により接近,離反移動するようにした」と記載されているだけであって,四辺の研磨と同時に板ガラスの各角のR研磨等を行うことに限定されると解釈すべき特段の理由はない。 なお,仮に,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載から,四辺の研磨と同時に板ガラスの各角のR研磨等を行うことに限定的に解釈され得るとしても,後記のとおり,引用例3に記載された,板ガラスの搬送手段の両側に設けた研磨砥石を,数値制御により接近,離反移動するようにした構成を引用発明1に適用することにより辺縁の研磨と同時に板ガラスの各角のR研磨等を行うことは,当業者が容易になし得た事項である。 したがって,原告の上記主張は,前提において既に誤りである。 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について( ) 原告は,引用発明1の「旋回装置」だけでは精度不良が生じ,基準挾持体 1及び研磨代位置決めの挾持体とあいまって,初めて直角の交差が実現される旨主張する。 しかし,引用例1においては,従来,下流側ベルトコンベヤに乗り移った板ガラスを,挾持ベルトコンベヤにより挟み込んで下流搬送路に送り込んでいたところ,挾持ベルトコンベヤで挟み込む板ガラスの切断辺縁は,切断面が板面に対し直角でない場合が多く,当該切断面を基準とした送り込みではコーナーを挟む二辺が直角にならないという問題があったため,下流側ベルトコンベヤに乗り移った板ガラスに対して上記の挾持体による矯正を行うものである。このように,引用例1において上記二つの挾持体による矯正を行うのは,上記挾持ベルトコンベヤによる送り込みによる精度不良の問題を解決するためであって,「旋回装置」による搬送の精度に問題があるためとはされていない。 ( ) 原告は,本願発明が「受け渡し装置」の構成を有することによって,基準 2挾持体及び辺縁の研磨代位置決めの挾持体を設けることがなくても精度を維持することができ,板ガラスの研磨工程が簡略化され,ひいては板ガラス1枚の研磨完了時間も短縮されるという顕著な効果を奏する旨主張する。 しかし,本願発明における「受け渡し装置」は,特許請求の範囲の請求項1において,「上流側搬送手段により搬送された板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側テーブル上に載置するように設けた」と記載されているにとどまり,旋回の精度を向上させるための特段の構成を具備しているとはいえず,旋回の精度に関して,引用発明1の旋回装置と変わるところはない。 そして,原告の主張する,板ガラスの研磨工程が簡略化され,ひいては板ガラス1枚の研磨完了時間も短縮されるという効果は,引用例2に記載された,「レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた走行体と,この走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けたテーブルとからなる搬送手段」を引用例1における上流側及び下流側搬送手段として用いたことにより当然生じる効果にすぎないものである。 ( ) また,原告は,本願発明は,上流側及び下流側にそれぞれテーブルを設け 3るとともに,ガラス板を上流側のテーブルから下流側テーブルへ受け渡しする装置を設けたことにより,1台のガラス加工装置において同時に2枚のガラスの研磨を可能とすることができるものであると主張する。 しかし,引用発明1の板ガラスの研磨装置においても,板ガラスが下流搬送路に送られた後に,上流側の研磨装置を遊ばせておくことは通常考えられないから,下流搬送路への搬送と同時に上流搬送路において板ガラスの研磨を並列して行い得ることは自明の事項である。したがって,引用例1における板ガラスの研磨装置も,本願発明と同様に,同時に2枚のガラスの研磨が可能であることは明らかである。 ( ) 本願発明は,公知技術である引用発明1ないし3を単に寄せ集めたもので 4あり,引用発明1ないし3の総和以上の顕著な作用効果を有しているとはいえない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について( ) 審決が,本願発明と引用発明1につき,「板ガラスを適宜の支持手段によ 1り取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載するように設けた受け渡し装置」である点で一致すると認定したのに対し,原告は,引用発明1の「旋回装置」は,板ガラスを上流側テーブルから下流テーブルに受け渡しするものではないから,技術的思想を異にし,本願発明の「受け渡し装置」と同視することはできず,審決は相違点3を看過している旨主張するので,検討する。 ( ) まず,引用例1に,「板ガラスAの板面を挾持して走行させる左右に所定 2の間隔を存して並列させかつ上下二本が一組となるベルトコンベヤ1により構成され,直列に並べられた上流搬送路2及び下流搬送路3と,上流搬送路2から送り込まれる板ガラスAを適宜の支持手段により取り上げ,90゜旋回後に下流搬送路3に送り込む旋回装置Bと,上流搬送路2及び下流搬送路3を挾む両側に設けられ,板ガラスAの走行方向左右に位置する辺縁を研磨する上流側の回転砥石4及び下流側の回転砥石5とからなる板ガラスの辺縁を研磨する研磨装置。」(審決謄本3頁第6段落,引用発明1)が記載されていることは,当事者間に争いがない。 ところで,板ガラスを保持して搬送する手段が「テーブル」か「ベルトコンベヤ」かを除けば,本願発明及び引用発明1は,いずれも,「板ガラスを保持して搬送する上流側搬送手段及び下流側搬送手段」を有することが明らかであり,この点は,原告も認めるところである。 また,上記のとおり,引用発明1は,「上流搬送路2から送り込まれる板ガラスAを適宜の支持手段により取り上げ,90゜旋回後に下流搬送路3に送り込む旋回装置B」という構成部分を有するものであるから,本願発明の「上流側搬送手段により搬送された板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載する装置」との構成部分において一致することが明らかである。 ( ) 審決の理由をみると,まず,本願発明と引用発明1とは,板ガラスを保持 3して搬送する手段が「テーブル」か「ベルトコンベヤ」かを捨象した「上流側搬送手段により搬送された板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側搬送手段に移載するように設けた受け渡し装置」(審決謄本6頁第3段落)である点で一致するものとし,一方,相違点1において,板ガラスを保持して搬送する手段が「テーブル」か「ベルトコンベヤ」かである点に着目し,「上流側搬送手段及び下流側搬送手段」について,本願発明では,「上流側及び下流側走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けた上流側テーブル及び下流側テーブルとからなり,受け渡し装置が,上流側テーブル上の板ガラスを下流側テーブル上に載置するようになって」(同第4段落)いるのに対して,引用発明1においては,「それぞれ板ガラスの板面を挾持して走行させる左右に所定の間隔を存して並列させかつ上下二本が一組となるベルトコンベヤからなり,受け渡し装置が,上流側ベルトコンベアから送り込まれた板ガラスを下流側ベルトコンベアに送り込むようになって」(同段落)いると摘示しているのであるから,その認定に誤りはない。 ( ) 原告の上記主張は,本願発明と引用発明1とが「板ガラスを保持して搬送 4する上流側搬送手段及び下流側搬送手段」を有する点で共通することを看過するとともに,審決が,両者の板ガラスを保持して搬送する手段が「テーブル」,「ベルトコンベヤ」で相違することを相違点1において指摘していることを失念しているものであって,失当である。 そうすると,原告主張の取消事由1は,採用することができない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について( ) 引用例2に,「ガラス基板の外周加工装置において,ガイドレール12に 1沿って適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた搬送基台11と,この搬送基台11に上面に載置したガラス基板1を適宜の保持手段により保持するように設けた保持テーブル13とからなる搬送手段を用いること。」(審決謄本4頁第4段落,引用発明4)が記載されていることは,当事者間に争いがない。 また,引用例2(甲6の2)には,「【発明の属する技術分野】本発明(注,引用発明2)は,液晶パネルの基板等を構成するガラス基板の外周縁の部分からエッジを除くために,その外周縁の部分を加工するガラス基板の外周加工装置に関するものである。」(段落【0001】),「以下,本発明の実施の一形態について,図面を参照して詳細に説明する。図面において,図1は加工装置の全体構成を示し,図2には加工されたガラス基板の要部を示す。而して,ガラス基板1は,大きな寸法のガラス板を所定の寸法に切り出したものであり,通常は長方形をしている。従って,このガラス基板1には,2つの長辺1Lと2つの短辺1Sとを備え,これら各辺1L,1S間には4つのコーナ部1Cがあり,ガラス基板1を切り出した状態では,各辺1L,1Sのエッジと,各コーナ部1Cとは尖った状態になっている。このガラス基板1は,加工装置10によって,各辺1L,1Sの表裏両側のエッジ部を面取りすると共に,コーナ部1Cの突起を除く加工を行う。しかも,コーナ部1Cのうちの1つのコーナ部はオリフラが形成される。オリフラは,図2に仮想線で示したように,コーナ部に斜辺ができる程度にまで研磨量を大きくすることにより形成される。」(段落【0008】,【0009】)との記載がある。 ( ) 一方,引用発明1は,上記1( )のとおり,「板ガラスの辺縁を研磨する 22研磨装置」であるから,引用発明1及び2は,いずれも,板ガラスの外周加工装置という共通の技術分野に属するものであり,かつ,板ガラスの外周を研磨するという点で技術課題を共通にするものである。 そうすると,その採用を妨げる格別の事情が認められない限り,引用発明1は,「板ガラスを保持して搬送する上流側搬送手段及び下流側搬送手段」としてベルトコンベヤを用いているところ,ベルトコンベヤに代えて,引用発明2の「板ガラスの外周加工装置において,レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた走行体と,この走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けたテーブルとからなる搬送手段を用いること」との技術事項を適用し,相違点1に係る本願発明の構成に想到することについて格別の困難はないものというべきである。 ( ) この点について,原告は,引用発明2は,(A)搬送手段(走行体)を往復 3させることにより,ガラス板の四辺の研磨を行い,(B)ガラス板の各角のR研磨(コーナーカット)は,四辺の研磨とは別工程で行うとの基本的な相違点があるから,引用発明1のベルトコンベヤに代えて引用発明2を適用することは困難である旨主張する。 しかしながら,引用例2中に開示される「ガラス基板の外周加工装置において,ガイドレール12に沿って適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた搬送基台11と,この搬送基台11に上面に載置したガラス基板1を適宜の保持手段により保持するように設けた保持テーブル13とからなる搬送手段を用いること。」との技術事項(引用発明2)は,板ガラスの外周加工装置における,ひとまとまりの搬送手段に係る技術事項ということができるから,引用例2に接した当業者は,原告主張の(A)及び(B)の技術事項を捨象して,引用発明2自体を容易に把握することができるものと認められる。 したがって,引用例2に開示されている上記(A)及び(B)の技術事項が存在するからといって,これが引用発明2を引用発明1に適用することを妨げる事情になるものではない。 ( ) その他,上記( )の格別の事情は,本件全証拠を検討しても見いだすこと 42ができないから,当業者が,引用発明1に引用発明2を適用して,相違点1に係る本願発明の構成に想到することが容易であるとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は,採用の限りでない。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について( ) 引用例3に,「板ガラスの加工装置において,搬送手段の両側に設けた板 1ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成すること」(審決謄本5頁第5段落,引用発明3)が記載されていることは,当事者間に争いがない。 また,引用例3には,「【産業上の利用分野】本発明(注,引用発明3)は一定間隔を保ちながら連続移動する板ガラスの4コーナーに同寸法又は異寸法の加工を施すことができる板ガラスのコーナーカット装置に関するものである。」(段落【0001】),「固定機枠1及び可動機枠1’にそれぞれ平行方向の上下面挾持無端回動ベルト3’,3’を設けて方形板ガラス2の上下面挾持搬送コンベヤ3を形成する。このコンベヤ3の両外側対応位置にガラス検出用リミットスイッチ4,4を設け,かつ板ガラスコーナーカット用の水平回転砥石5,5を配置し,該回転砥石5,5を相互近接離反研磨台6,6に設け,該回転砥石5,5は上記リミットスイッチ4,4よりも搬送方向a側に一定間隔を介して設けるものである。そして上記リミットスイッチ4,4の閉路によって動作するオンディレータイマー7及びオフディレータイマー7’を設け,該タイマー7,7’の動作時間を設定することができる。この設定時間の経過によって正逆回動する駆動用ステッピングモーター8,8を設け,該モーター8,8の正逆回動によって互に近接離反する研磨台6,6が設けられ,該研磨台6,6上に上記回転砥石5,5を設ける。 即ち上記リミットスイッチ4,4の閉路(ガラス検出信号)によって設定時間動作するタイマー7を介して上記研磨台6,6を相互に離反し,開路(ガラスからの離脱信号)によって動作するタイマー7’を介して該研磨台6,6を相互に近接させることができる。」(段落【0012】〜【0014】)との記載がある。 一方,引用発明1は,上記1( )のとおり,「板ガラスの辺縁を研磨する 2研磨装置」であるから,引用発明1及び3は,いずれも,板ガラスの外周加工装置という共通の技術分野に属するものであり,かつ,板ガラスの外周を研磨するという点で技術課題を共通にするものである。 そうすると,その採用を妨げる特段の事情が認められない限り,引用発明1に,引用発明3の「板ガラスの加工装置において,搬送手段の両側に設けた板ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成すること」との技術事項を適用し,相違点2に係る本願発明の構成に想到することについて格別の困難はないものというべきである。 ( ) この点について,原告は,引用発明3は,板ガラスのコーナーカットを行 2うための専用装置の発明であり,引用発明1とは,板ガラスの四方辺縁の研磨をする点で相違するから,引用発明1に引用発明3の技術事項を採用することは困難である旨主張する。 しかしながら,引用例3中に開示される「板ガラスの加工装置において,搬送手段の両側に設けた板ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成すること」との技術事項(引用発明3)は,板ガラスの外周加工装置における,研磨に係るひとまとまりの技術事項ということができるから,引用例3に接した当業者は,板ガラスのコーナーカットに関連する技術部分を捨象して容易に把握することができるものと認められる。 したがって,引用例3に開示されているのが板ガラスのコーナーカットを行うための専用装置の発明であるからといって,これが引用発明3を引用発明1に適用することを妨げる事情になるものではない。 ( ) そうすると,上記( )の特段の事情のない本件では,当業者が,引用発明 311に引用発明3を適用して,相違点2に係る本願発明の構成に想到することが容易であるとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について( ) 原告は,本願発明は,「受け渡し装置」によって良好な精度が保たれてい 1るから,基準挾持体及び研磨代位置決めの挾持体のようなものがなくても,上流側で研磨された板ガラスの研磨済み辺縁を下流側の走行路に対し,直角に交差させることができるものであり,板ガラスの研磨工程が簡略化され,ひいては板ガラス1枚の研磨完了時間も短縮されるという顕著な効果を奏する旨主張する。 ア しかし,原告主張の,上流側で研磨された板ガラスの研磨済み辺縁を下流側の走行路に対し,直角に交差させるための位置決め及び保持の精度についてみると,本願発明における「受け渡し装置」は,特許請求の範囲の請求項1において,「上流側テーブル上の板ガラスを適宜の支持手段により取り上げ,90度旋回後に下流側テーブル上に載置するように設けた」と記載されているにとどまり,位置決め及び保持の精度を向上させるための特段の構成を具備しているとはいえない。 本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明の【発明の効果】欄には,「この発明(注,本願発明)の板ガラス加工装置によれば,上流側テーブル上に板ガラスを載置すると,走行途中に上流側砥石により板ガラスの一方の対向二辺縁が研磨され,この二辺縁の研磨ずみ板ガラスを受け渡し装置により90度旋回させて下流側テーブル上に載置し,或は上流側或いは下流側のテーブルを90度旋回させて板ガラスの辺縁の向きをかえ,そして,走行途中に下流側砥石により板ガラスの他方の対向辺縁が研磨されるので,板ガラスの辺縁の研磨を能率よく行なうことができる。」(段落【0060】)と記載されているのみであり,「受け渡し装置」による装置の精度の向上については,何らの記載も見当たらない。 イ 原告は,引用例1記載の基準挾持体及び研磨代位置決めの挾持体の有無を問題にしているようであるので,さらに検討する。 引用例1(甲6の1)には,「板ガラスの板面を挾持して走行させながら,搬送路の上流側で板ガラスの走行方向左右に位置する辺縁を回転砥石により研磨し,次いで旋回装置により板ガラスを90°旋回させたのち,搬送路の下流側で板ガラスの走行方向左右に位置する辺縁を回転砥石により研磨する板ガラスの研磨装置に於いて,下流側研磨の手前に前進し,前進終了後後退する走行体を配置し,又この走行体の前後並びに両側に上下方向に移動し,かつ降下時に板ガラスの走行方向前後に位置する研磨ずみ辺縁を挾持する基準挾持体及び板ガラスの走行方向左右に位置する辺縁の研磨代位置決めの挾持体を設け,上記の基準挾持体及び位置決め挾持体は,搬送路により板面を挾持して搬送されるとそれぞれ上昇させるようにしたことを特徴とする板ガラスの研磨装置。」(実用新案登録請求の範囲),「以上のように,この考案に係る板ガラスの研磨装置によれば,下流搬送路で板ガラスの残る二辺縁を研磨するとき,走行方向前後の基準挾持体により上流搬送路で研磨された研磨ずみ辺縁を挾持し,そして走行体を前進させながら下流搬送路に板ガラスを送り込んで搬送するので,走行方向に対し研磨ずみ辺縁を直角に交差させ,下流側研磨の縁面が第5図で示した斜めになっていても,研磨ずみ面を基準として矯正した搬送ができる。このため,二辺間のコーナーが常に90°となる研磨ができる。又左右の位置決め挾持体により下流側で研磨される両辺の研磨代を均等化することができ,片方の研磨代が多くなるような問題をなくすることができる。」(9頁最終段落〜10頁第3段落)との記載がある。 上記記載によれば,引用例1の実用新案登録請求の範囲の記載に係る考案は,「基準挾持体」及び「位置決め挾持体」を必須の構成要件とし,これらによって,板ガラスの位置決め及び保持がされていることが認められる。 ところで,審決が引用発明1として引用したのは,上記1( )のとおり,2「板ガラスAの板面を挾持して走行させる左右に所定の間隔を存して並列させかつ上下二本が一組となるベルトコンベヤ1により構成され,直列に並べられた上流搬送路2及び下流搬送路3と,上流搬送路2から送り込まれる板ガラスAを適宜の支持手段により取り上げ,90゜旋回後に下流搬送路3に送り込む旋回装置Bと,上流搬送路2及び下流搬送路3を挾む両側に設けられ,板ガラスAの走行方向左右に位置する辺縁を研磨する上流側の回転砥石4及び下流側の回転砥石5とからなる板ガラスの辺縁を研磨する研磨装置。」(審決謄本3頁第6段落)であり,「基準挾持体」及び「位置決め挾持体」の構成は含まれていない。 一方,引用発明2が「板ガラスの外周加工装置において,レールをガイドとし,かつ適宜の走行駆動手段により進退走行するように設けた走行体と,この走行体に上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持するように設けたテーブルとからなる搬送手段を用いること」との構成を有すること,板ガラスの位置決め及び保持のための構成を有する引用発明2を引用発明1に適用して,相違点1に係る本願発明の構成とすることが当業者において容易に想到し得ることは,上記2のとおりである。 そして,引用発明2の「レールをガイドとし」,「上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持する」構成が,引用例1記載の「基準挾持体」及び「位置決め挾持体」と同様,板ガラスの位置決め及び保持をするものであることは,明らかである。 そうすると,本願発明の良好な精度は,引用発明2の「レールをガイドとし」,「上面に載置した板ガラスを適宜の保持手段により保持する」構成(相違点1に係る構成)に基づくものであり,板ガラスの位置決め及び保持をするものである点で,引用例1記載の「基準挾持体」及び「位置決め挾持体」と変わるところがない。 ウ また,板ガラスの研磨工程が簡略化され,ひいては板ガラス1枚の研磨完了時間も短縮されるという点については,本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明の【発明の効果】欄に,「この発明(注,本願発明)の板ガラス加工装置によれば・・・数値制御により対向一対の砥石を接近,離反スライドさせるようにしてあるので,板ガラスの各角のR研磨や角落し研磨が辺縁の研磨と同時に精度よく,かつ能率よく行なうこともできる。」(段落【0060】,【0061】)との記載がある。 上記記載によれば,本願発明は,「上記上流側,下流側砥石のいずれか片方が,数値制御により接近,離反移動するようにしたこと」によって,板ガラスの各角のR研磨や角落し研磨が辺縁の研磨と同時に精度よく,かつ能率よく行うことができるというものである。 そうすると,板ガラスの研磨工程が簡略化され,ひいては板ガラス1枚の研磨完了時間も短縮されるという効果は,引用発明1に,引用発明3の「板ガラスの加工装置において,搬送手段の両側に設けた板ガラスの研磨砥石をデジタル制御により接近,離反移動するように構成すること」との技術事項を採用し,相違点2に係る本願発明の構成とすることによって奏される自明の効果にすぎない。そして,相違点2に係る本願発明の構成とすることが容易に想到し得ることは,上記3のとおりである。 エ 以上によれば,「受け渡し装置」によって良好な精度が保たれているから,基準挾持体及び研磨代位置決めの挾持体のようなものがなくても,上流側で研磨された板ガラスの研磨済み辺縁を下流側の走行路に対し,直角に交差させることができるとする原告の上記主張は,採用の限りでない。 ( ) 原告は,本願発明は,上流側及び下流側にそれぞれテーブルを設けるとと 2もに,ガラス板を上流側のテーブルから下流側テーブルへ受け渡しする装置を設けたことにより,1台のガラス加工装置において同時に2枚のガラスの研磨を可能とすることができるものであると主張する。 しかし,引用発明1の板ガラスの研磨装置において,板ガラスが上流側の研磨装置から下流搬送路に送られた後に,作業の終わった上流側の研磨装置を遊ばせておくことは通常考えられないところであり,かつ,下流搬送路への搬送と同時に上流搬送路において板ガラスの研磨を並列して行い得ることは明らかであるから,引用発明1は,本願発明と同様,同時に2枚のガラスの研磨が可能であるというべきである。そうすると,1台のガラス加工装置において同時に2枚のガラスの研磨を可能とすることは,本願発明に格別の効果であるということはできず,原告の上記主張は,採用の限りでない。 ( ) 原告は,引用発明2との比較で,本願発明では,板ガラスを載置した上流 3側及び下流側テーブルを一方向へのみ走行させることにより研磨が完了するので,本願発明は,引用発明2と比較するとガラス板の研磨工程が非常に簡単であり,短時間に多量のガラス板を研磨できる旨主張する。 しかし,本願発明と対比される公知技術は引用発明1であって,本願発明と引用発明1との相違点についての進歩性の判断において,相違点に相当する技術が公知であることを示すために引用発明2及び3を摘示しているのである。したがって,本願発明の作用効果は,本願発明と対比される引用発明1との関係で論じられなければならないのであって,審決が主引用例として引用していない引用例2の特許請求の範囲に係る発明と本願発明とを対比して作用効果を主張しても,それをもって本願発明の作用効果とすることはできない。 ( ) 原告は,本願発明と引用発明1ないし3とを個別に対比すると,その構成 4は相違しているから,本願発明は公知技術である引用発明1ないし3を単に寄せ集めたものではなく,また,本願発明は,引用発明1ないし3の総和以上の顕著な作用効果を奏するものである旨主張する。 しかし,上記1ないし3に判示したとおり,本願発明は,公知技術である引用発明1ないし3を寄せ集めた発明であり,その作用効果も,引用発明1ないし3の総和以上の作用効果を奏するとはいえない。 ( ) 以上によれば,原告主張の取消事由4は,採用することができない。 55 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 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裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |