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関連審決 不服2003-1728
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10228審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  容易に実施 /  容易に発明 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10579号 審決取消請求事件
原告 株式会社ゲン・テック
訴訟代理人弁理士 久保田健治
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人末政清滋
同 江塚政弘
同 岡田孝博
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-1728号事件について平成17年5月30日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因・ 特許庁における手続の経緯米国に居住するA及びBは,平成5年4月9日,名称を「像処理装置,像記録装置及び像再現装置」とする発明について,特許出願をした(以下「本願」という。特願平5-83418号。公開特許公報は平6-308620号[甲1])。
原告は,平成12年1月17日,A及びBから,本願に係る特許を受ける権利を譲り受け,同年1月19日に特許庁にその旨を届け出,その後平成14年7月1日付け(甲5)・及び平成14年10月21日付け(甲6)で明細書を補正したが,平成15年1月6日拒絶査定を受けた。
そこで,原告は,平成15年2月4日付けで不服の審判請求を行い,特許庁は,この請求を不服2003-1728号事件として審理した。原告は,平成15年2月18日付け(甲7)で図面を補正した(以下,各補正後の明細書を「本願明細書」という。甲6,7)が,特許庁は,平成17年5月30日「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決を行い,その審決謄本は平成17年6月20日原告に送達された。
・ 発明の内容上記補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜17(以下これらの発明を総称して「本願発明」という。)から成り,その内容は次のとおりである。
【請求項1】「場面の像を記録するための像記録装置と所望の光源位置による再現像を生じるための像再現装置を具備する像処理装置において,前記像記録装置は,一連のフレームからなり,該フレームの記録時に照明された場面を映す像情報を含むフレームと,該フレーム上に前記場面の像を記録する記録器と,前記場面を照明するための複数個の個別に点灯可能な光源と,該記録器及び光源に接続され,該光源の別々の点灯と該一連のフレームの各フレームに該記録器による記録との同期をとるシンクロナイザとを具備し,前記像再現装置は前記一連のフレームの各々の像情報を記憶するためのフレーム記憶器と,再現像を記録するための再現像記憶器と,前記各光源に同期して前記フレーム記憶器からの像情報に応答して再現像情報を発生する再現像情報発生器とを具備し,かつ,前記再現像情報発生器は前記フレームの記録と同期する前記光源の位置と前記再現像のための前記光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数と前記一連のフレームの各フレームの像情報に関する再現像情報を発生することを特徴とする像処理装置。」【請求項2】「前記像記録装置は同一平面上にない方向から前記場面に向けて照射する少なくとも3個の光源を具備することを特徴とする請求項1に記載の像処理装置。」【請求項3】「前記フレームはフィルムに記録された写真像であり,前記フレーム記録器は該写真像を担持する担持体であり,前記再現像もフィルムに記録された写真像であり,前記再現像情報発生器は前記再現像フィルムを前記フレームのフィルムと共に露光する光源と,該再現像のための所望の光源位置と前記フレームのための光源位置とに関して選択された期間にわたって該露光光源を制御するコントローラを含むことを特徴とする請求項1に記載の像処理装置。」【請求項4】「前記各フレームはピクセル値を有する複数のピクセルから構成され,前記フレーム記録器はデジタルメモリを備え,前記再現像もピクセル値を有する複数のピクセルから構成され,前記再現像記録器もデジタルメモリを備え,前記再現像情報発生器は該フレーム記録器の対応するフレームのピクセルのピクセル値に応答して該再現像記録器中に記録する再現像ピクセル値を発生し,かつ,前記再現像のための前記所望の光源位置と前記フレームのための前記光源位置に関して該フレームのピクセル値から求められる重み係数を発生することを特徴とする請求項1に記載の像処理装置。
【請求項5】「前記各フレームは電気信号によって表される値をもつ一連のピクセルから構成され,前記フレーム記録器は該電気信号を記録するための手段を有し,前記再現像も電気信号によって表される値をもつ一連のピクセルから構成され,前記再現像記録器は該再現像の電気信号を記録するための手段を具備し,前記再現像情報発生器は対応するフレームのピクセルの電気信号に応答して該再現像記録器に記録するための再現像を表す電気信号を発生し,かつ,前記再現像のための前記所望の光源位置と前記フレームのための前記光源位置に関して該フレームのピクセルの電気信号から求められる重み係数を発生することを特徴とする請求項1に記載の像処理装置。」【請求項6】「一連のフレームを構成する各フレームの記録時に照明した場面に関する像情報を含む前記各フレームに前記場面の像を記録する記録器と,前記場面を照射する個別に点灯可能な複数の光源と,前記記録器及び前記光源に接続され,前記光源の別々の点灯と前記一連のフレームの各フレームへの記録とを同期させるシンクロナイザとを具備したことを特徴とする像記録装置。」【請求項7】「前記光源は前記場面を照射する同一平面上にない少なくとも3個の光源からなることを特徴とする請求項6に記載の像記録装置。」【請求項8】「異なる位置に配置された光源に応答して一連のフレームを構成する各フレームに記録されたフレーム情報に基づいて所望の光源位置による再現像を生じさせるための像再現装置であって,前記各フレームに記録された像情報を記録するためのフレーム記録器と,再現像を表す再現像情報を記録する再現像記録器と,再現像情報発生器とを具備し,該再現像情報発生器は,前記異なる位置に配置された光源に同期して記録された前記フレーム記録器からの像情報に応答して再現像情報を発生し,かつ,前記フレームの記録に同期した光源位置と前記再現像の所望の光源位置とを関連付ける重み係数を発生することを特徴とする像再現装置。」【請求項9】「前記フレーム情報は前記場面を照射する同一平面上にない少なくとも3個の光源の点灯中に記録されるフレームに関する情報であることを特徴とする請求項8に記載の像再現装置。」【請求項10】「前記各フレームはフィルムに記録された写真像であり,前記フレーム記録器は前記写真像を担持する担持体であり,前記再現像もフィルムに記録された写真像であり,前記再現像情報発生器は前記再現像フィルムを前記フレームのフィルムと共に露光する光源と,該再現像のための所望の光源位置と前記フレームのための光源位置とに関して選択された期間にわたって該露光光源を制御するコントローラを含むことを特徴とする請求項8に記載の像再現装置。」【請求項11】「前記各フレームはピクセル値を有する複数のピクセルから構成され,前記フレーム記録器はデジタルメモリを備え,前記再現像もピクセル値を有する複数のピクセルから構成され,前記再現像記録器もデジタルメモリを備え,前記再現像情報発生器は該フレーム記録器の対応するフレームのピクセルのピクセル値に応答して該再現像記録器中に記録する再現像ピクセル値を発生し,かつ,前記再現像のための前記所望の光源位置と前記フレームのための前記光源位置に関して該フレームのピクセル値から求められる重み係数を発生することを特徴とする請求項8に記載の像再現装置。」【請求項12】「前記各フレームは電気信号によって表される値をもつ一連のピクセルから構成され,前記フレーム記録器は該電気信号を記録するための手段を有し,前記再現像も電気信号によって表される値をもつ一連のピクセルから構成され,前記再現像記録器は該再現像の電気信号を記録するための手段を具備し,前記再現像情報発生器は対応するフレームのピクセルの電気信号に応答して該再現像記録器に記録するための再現像を表す電気信号を発生し,かつ,前記再現像のための前記所望の光源位置と前記フレームのための前記光源位置に関して該フレームのピクセルの電気信号から求められる重み係数を発生することを特徴とする請求項8に記載の像再現装置。」【請求項13】「異なる位置に配置された光源に応答して記録された一連のフレームに関するフレーム情報に基づいて所望の光源位置による再現像を生じさせるための像再現装置であって,ランベルト成分と非ランベルト成分とを有する前記フレーム情報を記録するためのフレーム記録器と,前記再現像を表す再現像情報を記録する再現像情報を記録器と,再現像情報発生器とを具備し,該再現像情報発生器は前記フレーム像情報からランベルト成分を表す像情報を発生する補正部とランベルト成分の再現像情報発生器とからなり,該ランベルト成分の再現像情報発生器は,前記異なる位置に配置された光源に同期して記録された前記フレーム記録器からのランベルト成分の像情報に応答してランベルト成分の再現像情報を発生し,かつ,前記フレームの記録に同期した光源位置と前記再現像の所望の光源位置とを関連付ける重み係数を発生することを特徴とする像再現装置。」【請求項14】「前記補正部は前記フレームの象情報のランベルト成分について線形結合関係を決定する関係決定部と,該関係決定部により決定された線形結合と実際のピクセル値との差に応答してピクセル・エラーを決定するエラー決定部と,該実際のピクセル値とピクセル・エラーに応答して被補正ピクセル値を発生するための補正発生部とを具備することを特徴とする請求項13に記載の像再現装置。」【請求項15】「前記再現像情報発生器はランベルト成分の再現像情報発生器によって発生されたピクセル値に非ランベルト成分のピクセル値を追加するための加算部を更に具備することを特徴とする請求項13に記載の像再現装置。」【請求項16】「前記追加加算部は,前記フレームを記録をした記録器の位置を確認する記録器位置探知機と,所望の光源位置を確認するための所望光源位置確認器と,前記記録器位置探知機によって確認された前記記録器の位置と前記所望の光源位置に応答して非ランベルト成分を加算するための非ランベルト成分加算機とを具備することを特徴とする請求項15に記載の像再現装置。」【請求項17】「異なる位置に配置された光源に応答して記録された一連のフレームに関するフレーム情報に基づいて所望の光源位置による再現像を生じるための像再現装置であって,前記一連の各フレームに対して影の有る有影領域と影のない無影領域とを有する前記フレーム象情報を記録するためのフレーム記憶器と,再現像を表す再現像情報を記録するための再現像記憶器と,再現像発生器とを具備し,該再現像発生器は有影領域決定部と無影領域再現像情報発生部とから構成され,該有影領域決定部は前記フレーム象情報から有影領域部分を識別し,該無影領域再現像情報発生部は無影領域について,前記異なる位置に配置された光源に同期して記録された前記フレーム記録器からの像情報に応答して再現像情報を発生し,かつ,前記フレームの記録に同期した光源位置と前記再現像の所望の光源位置とを関連付ける重み係数を発生することを特徴とする像再現装置。」・ 審決の内容審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。
その理由の要点は,・ 本願の【発明の詳細な説明】の【0033】,【0034】,【0036】,【0021】〜【0039】,【0042】,【0050】及び【0052】,【0059】〜【0060】に意味不明の箇所があるから,【発明の詳細な説明】に当業者が容易に発明実施できる程度に発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえない(特許法36条4項違反)。
・ 請求項17の発明は,【発明の詳細な説明】に記載したものであるとはいえない(特許法36条5項違反)。
というものである。
・ 審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(特許法36条4項が規定する要件を満たしていないとの判断の誤り)・ 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0033】について,InとIn(x,y)との関係が不明であり,どのようにして,望ましい照明ベクトルを決定できるのか不明である,と判断している(2頁3行〜4行)。
しかし,次のようにして,望ましい照明ベクトルを決定することができる。
・ 以下の説明においては,「照明ベクトルIa〜Icによる1組の記録像が記録される間,場面(表面形状や拡散反射係数ベクトル)は変化しない。」との前提が成立するものと仮定する。
・ まず,照明ベクトル「I」とフレームFの記録像「F(I)」との関係について説明する。
ここで,照明ベクトルIは3個のパラメータによって決定される(自由度3)ベクトルである。また,フレームFの記録像F(I)は複数の点(ピクセル)(x,y)から構成されており,点(x,y)の輝度レベルをI(x,y)とすればフレームFの記録像F(I)は,F(I)={I(x,y);(x,y)∈フレームFの全ての点}と書ける。
フレームFには照明ベクトルIから光が場面に照射され,場面からの拡散反射光が像記録装置を介してフレームFに像が記録される。
フレームFの点(x,y)に場面の点q(この点qの拡散反射係数をn(q)とする。)からの拡散反射光が入射して輝度レベルI(x,y)が記録されたとすれば,I(x,y)=n(q)*Iである(ランベルトの法則)。ここで,「*」はベクトルの内積を示す。
場面の点qの拡散反射係数ベクトルn(q)は一定であるから,フレームFの記録像F(I)={I(x,y);(x,y)∈F}は照明ベク12 1 2トルIの関数となる。すなわち,I =I のときは{I (x,y)=I12 1 2(x,y);(x,y)∈F}が成立し,I ≠I ならば{I (x,y)≠I(x,y);(x,y)∈F}となる。
このことからフレームFの記録像F(I)は照明ベクトルIの情報を内包しており,F(I)={I(x,y);(x,y)∈F}は一種のベクトル表現であるとみなせる。
・ 次に,In=Ca・Ia+Cb・Ib+Cc・Icならば In(x,y)={Ca・Ia(x,y)+Cb・Ib(x,y)+Cc・Ic(x,y);(x,y)∈F}が成立することを説明する。ただし,Ca,Cb,Cc はパラメータ(定数)である。
21 21・ I =a・I (ただし,aは定数)ならば,{I (x,y)=a・I(x,y);(x,y)∈F}が成立することは明らかである。
・ I =I +I のとき,フレームFの点(x,y)について,312I (x,y)=n(q)*I=n(q)*(I +I )331212=n(q)*I +R(q)*I=I (x,y)+I (x,y);(x,y)∈F12が成立する。
・ したがって,・及び・を繰り返して適用すれば頭書の等式が成立する。
・ 次に,係数Ca,Cb,Ccから望ましい照明ベクトルInを決する方法について説明する。なお,この場合において,前記「前提」により,1組3個のフレームについて場面は共通(同一)である。また,Ca,Cb,Cc は定数であるからフレームFの異なる3個の点(x,y)について,In(x,y)={Ca・Ia(x,y)+Cb・Ib(x,y)+Cc・Ic(x,y)}(式2)が成立し,この3個の等式を解くことにより係数Ca,Cb,Ccが決定される。また,このとき,{In(x,y)=Ca・Ia(x,y)+Cb・Ib(x,y)+Cc・Ic(x,y);(x,y)∈F}が成立する。
したがって,照明ベクトルInと輝度レベルIn(x,y)の関係は,以上の説明から明らかなように,In(x,y)は照明ベクトルInを照射したときの単一像のフレームF(In)における点(x,y)の輝度レベルであり,かつ,フレームF(In)は自由度3の一種のベクトル表現であることも明らかである。すなわち,フレームF(In)の3個の点の輝度レベルを決定すれば,これから照明ベクトルInが決定され,したがって,場面に関係なく場面の構成が明らかであれば,フレームF(In)の他の点の輝度レベルも決定される。
また,Ca,Cb,Cc が決定されれば,望ましい照明ベクトルInは,In=Ca・Ia+Cb・Ib+Cc・Icとなり,3個の照明ベクトルIa,Ib,Icから決定できることも明らかである。
・ 以上の考え方は,周知のランベルトの公式に,周知のベクトルの内積に関する公式(甲8,9)を適用したにすぎない。したがって,当該技術分野において一般に使用されている基本的な技術であり,当業者には周知な事項であるから,明細書中に記載するまでもない。
, ・ 審決は,本願明細書の段落【0034】について,「そのような像上の点Pi(x,y)の法線方向と反射係数がなぜ既知であるのか,どのようにしてわかるのか不明である。」と判断している(2頁9行〜11行)。
しかし,像上の点Pi(x,y)の法線方向と反射係数は,公知の手段によって求めることができるので,既知とみなすことができるが,法線方向と反射係数を求める公知手段については内容が複雑なので明細書に記載する代わりに公知手段が記載してある参考文献(ビー・ケイ・ビー・ホーン著「マシーンビジョン」)を挙げた(段落【0044】)。
反射係数を求める方法は,上記参考文献の日本語訳(甲10)の234頁〜235頁,特に235頁の最後の9行に記載されている。最後の3行には,「BRDFを得るもうひとつの方法は,光の反射面モデルを作り,解析的もしくは数値的シミュレーションによって反射率特性を求める方法である。これは,簡単な表面微視構造のモデルに対していくつか行われている。」と記載されている。
法線方向を求める方法は,上記参考文献(甲10)の255頁〜256頁に参照表を利用する方法が述べられている。
さらに,ランベルト面のように反射係数が向きに依存しないで一様な場合について,反射係数と法線方向を同時に求める方法が上記参考文献(甲10)253頁〜254頁及び263頁〜264頁に詳細に述べられている。
したがって,この公知手段を利用すれば,反射係数と法線方向を決定することは可能であり,これを利用して実施することも可能である。
また,問題解決に適したモデル(例えば,少なくとも3点以上の点で反射係数と法線方向が既知のモデル)を作成し,これを利用すれば,計測することなく,より簡単にできる。このような計測をする代わりにモデルを作成して利用する従来技術例としては,例えば,井口征士・佐藤宏介共著「三次元画像計測」(甲11)の97頁〜98頁に記載されている例がある。この例は一般的によく知られている方法である。
・ 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0036】について,「「9つの未知数」が何で,「9つの式」がどのようなものかが不明で,式3A〜3Bで何を求めようとしているのかも不明である。」と判断している(2頁13行〜15行)。
しかし,「9つの未知数」は,次の・のようなものであり,式3A〜3Bにより,次のとおり,望ましい照明ベクトルInを求めることができる。
・ 光源13Aの点灯期間の終わり(光源13Aをoffにしたとき)には,光源13Aは直ちに消灯せず,消灯の遅れが生じて,光源13Aと光源13Bが同時に点灯した状態が生じる。この結果,フレームFbにはあたかも光源13Bのベクトル(Ib)が変化し,見掛け上の照明ベクトルSbから照明されたように場面の像が撮影される。光源13B,光源13Cについても同様である。したがって,フレームFa,Fb,Fcには,見掛け上の照明ベクトルSa,Sb,Scから照明されたように場面の像が撮影される。ここで,見掛け上の照明ベクトルSa,Sb,Scは未知ベクトルであって,これから決定したいベクトルである。各照明ベクトルSa,Sb,Scは3個の未知変数があり,全体で9個の未知変数がある。ところで,フレームFa,Fb,Fcに記録された像{Ia(x,y);(x,y)∈F},{Ib(x,y);(x,y)∈F},{Ic(x,y);(x,y)∈F}は光源Sa,Sb,Scから場面に反射された撮影像である。すなわち,フレームFa,Fb,Fcに記録された像は,F(Sa)={Ia(x,y);(x,y)∈F},F(Sb)={Ib(x,y);(x,y)∈F},F(Sc)={Ic(x,y);(x,y)∈F}である。したがって,望ましい照明ベクトルInは,照明ベクトルIa,Ib,Icではなく,見掛けの照明ベクトルSa,Sb,Scを利用して決定する必要がある。
・ 次に,望ましい照明ベクトルInを求める手順について説明する。フレームFaの点(x,y)の輝度レベルIa(x,y)は見掛けの照明ベクトルSaが場面に照射されて,拡散反射光が記録器を介して,フレームFaに撮影された点である。フレームFaの点(x,y)に入射する場面の点Piの拡散反射係数ベクトルをnpiとすれば,(式3A)「Ia(xi,yi)=npi・Sa」が成立する。同様にして,フレームFbの点(x,y)については(式3B)「Ib(xi,yi)=npi・Sb」が成立し,フレームFcについては(式3C)「Ic(xi,yi)=npi・Sc」が成立する。したがって,npiが既知である3点Pi(i=1,2,3)を見出して,(式3A)〜(式3C)に代入して連立方程式を解けば,未知照明ベクトルSa〜Scを決定することができる。Sa〜Scを決定すれば,上記・・で述べたようにして,望ましい照明ベクトルInを決定することができる。なお,拡散反射係数ベクトルnpiについては,上記・で述べたとおりである。
・ 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0021】〜【0039】について,「これらの段階で,ピクセルごとの所望の光源位置について,言及されているようであるが,ピクセルごとの所望の光源位置と,所望のフレーム全体としての所望の光源位置との関係が不明であり,どのようにしてバランスの取れた所望のフレームを実現できるのか不明である。」と判断している(2頁17行〜20行)。
しかし,すでに述べたように,場面が同一であり,記録装置の位置等の条件が同一である場合には,望ましい照明ベクトルInと基準となる照明ベクトルIa,Ib,Icとの間に一定の線形な関係In=Ca・Ia+Cb・Ib+Cc・Icが成立すれば,基準フレームFa,Fb,Fcの任意の点(x,y)と望ましい照明ベクトルのフレームFnの点(x,y)との間にはIn(x,y)=Ca・Ia(x,y)+Cb・Ib(x,y)+Cc・Ic(x,y);(x,y)∈Fが成立し,逆もまた成立する。
したがって,フレーム上の輝度レベルの関係から未知係数Ca,Cb,Ccを決定することができれば,望ましい照明ベクトルInは基準となる照明ベクトルIa,Ib,Icから決定することができる。
また,基準照明ベクトルIa,Ib,Icの代わりに見掛けの照明ベクトルSa,Sb,Scから望ましい照明ベクトルInを決定することができることも,既に述べたとおりである。
・ 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0042】について,「「In(x,y)はベクトル「s」の方向から光を供給する光源に始まって,観測者に達するまでの光の強さ」の意味が不明である。」,表面の反射係数「p」が「何の表面なのか,またその技術的意義も不明である。」と判断している(2頁22行〜25行)。
しかし,本願明細書(甲6)の段落【0041】〜【0044】はランベルトの法則を一般的に説明したもので,「観測者」,「表面」の語は一般的用語として使用されているものである。これらの用語は本願発明とは直接に関係しない。「観測者」は場面を見ている者の意味で,記録器あるいは「フレーム」に相当し,場面から放射される光の強さは記録器のフレームに記録されたピクセルの輝度に略等しい。「表面」は「場面の表面」の意味である。
・ 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0050】及び【0052】について,「(式7),(式8)の技術的意義,「誤差Er」,「Ci」の技術的意義が不明である。したがって,非ランベルト成分の存在する場面の再現像を得る具体的手順が不明である。」と判断している(2頁下から3行〜1行)。
しかし,(式7)の誤差Erは,場面の全ての点がランベルト成分である場合には,ゼロ又は微小値(ノイズ等による誤差)となる。誤差Erが閾値(t)より小さい場合はランベルト成分とし,閾値(t)よりも大きい場合はそのピクセルは鏡面反射成分とする。したがって,誤差Erはランベルト成分と鏡面反射成分とを識別するという意義がある。また,(式8)は,ピクセル値を補正することにより,(式6)が成立するようにし,補正をした全フレームについてこれまで述べてきた手法が適用できるという意義がある。また,非ランベルト成分と識別した点(x,y)については反射性を示す明点を追加する。
・ 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0059】〜【0060】について,「実際の光源Siは複数有り,また,点Pの水平面からの高さも場面の状況によりいろいろの値を取ると考えられるが,実際に所望の再現象を実現する際の具体的手順が不明である。」と判断している(3頁6行〜8行)。
しかし,所望の光源による影領域は1つしか存在しない。したがって,複数の光源Siによる影領域から求めた所望の光源による影領域は全て一致するはずである。この結果,どの光源の影領域から所望の光源による影領域を求めてもよく,所望の再現象は本願明細書に記載された手法により求められる。
・ 以上のとおり,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,当業者が容易に発明実施できる程度に,発明の目的,構成及び効果が記載されており,これらが記載されていないとした審決の判断は誤っている。
イ 取消事由2(特許法36条5項が規定する要件を満たしていないとの判断の誤り)審決は,請求項17の発明について,「実際の光源が複数有り,立体的な場面に対して,どのように有影領域部分を識別できるか不明であり,フレームの記録に同期した光源位置と再現像の所望の光源位置とを関連付ける重み係数をどのように決定するのかも不明である。」と判断している(3頁16行〜19行)。
しかし,複数のうちの何か1つの光源による影領域から所望の光源による影領域を求めた場合の影領域は,他の光源による影領域から同一の所望の光源による影領域を求めた場合の影領域に一致する。また,影領域におけるピクセルのピクセル値(輝度レベル)はゼロ(0)であるから,重み係数を付加して加算するというような操作は不要である。したがって,請求項17の発明について,特許を受けようとする発明が【発明の詳細な説明】に記載されているから,これが記載されていないとする審決の判断は誤っている。
2 請求原因に対する認否請求原因・ないし・の各事実は認めるが,・は争う。
3 被告の反論・ 取消事由1につきア 段落【0033】についての主張に対し・ 原告は,前記1・ア・・のとおり,「照明ベクトルIa〜Icによる1組の記録像が記録される間,場面(表面形状や拡散反射係数ベクトル)は変化しない。」との前提が成立するものと仮定するとしているが,このような前提が必要であることは,本願明細書の記載から全く想定できるものではなく,当業者の理解を超えるものである。
また,原告は,すべての点が拡散反射であることを前提としているが,このような前提が必要であることは,本願明細書の記載から全く想定できるものではなく,当業者の理解を超えるものである。
・ 仮に,上記の二つの前提が許容されるとしても,前記1・ア・・の「・ I =a・I (ただし,aは定数)ならば,…・ I =I +I のと21 312き,…が成立する。・ したがって,・及び・を繰り返して適用すれば頭書の等式が成立する。」との原告の主張では,なぜ「I =a・I (た21だし,aは定数)」,「I =I +I 」と置くことができるのか(すなわ312ち,I ≠I +I のケースもあり得ると思われる),また,なぜ,「・312及び・を繰り返して適用する」ことができるのか,全く理解できない。
・ 原告は,前記1・ア・・のとおり,(式2)において,「この3個の等式を解くことにより係数Ca,Cb,Ccが決定される。」と主張している。
しかし,実施例としてのソースフレームを用いて,所望の再現像を得られる係数Ca,Cb,Ccとして,どのような値が得られるのかについて,何ら説明がなく,数式から解が得られるというのみでは,到底,発明が実施できることを説明したことにはならない。
数学的に式を見ても,所望フレームの特定のセル(x,y)での輝度情報In(x,y)を仮定すると思われる(そうしないと変数が4つとなり,3つの式で係数Ca,Cb,Ccが求まらない)が,どのように仮定すれば,所望の照明位置とできるのかが不明である。
(式2)において,In(x,y)を仮定することなく,3個の等式を解くことにより,係数Ca,Cb,Ccが決定されるとしても,望ましい照明ベクトルは,人間の判断を経て決定されると考えられるが,望ましいと感じる人間の判断と,決定された係数Ca,Cb,Ccとの関係が何ら記載されておらず,どのような手順で,望ましい再現像を得ることができるのか,明細書の記載からは,不明である。
イ 段落【0034】についての主張に対し・ 原告は,前記1・ア・のとおり,「法線方向と反射係数を求める公知手段については内容が複雑なので明細書に記載する代わりに公知手段が記載してある参考文献(ビー・ケイ・ビー・ホーン著「マシーンビジョン」)を挙げた(段落【0044】)」と主張しているが,原告指摘の段落【0044】は,補正により文献名は削除されている。そして,補正前(当初明細書・甲1)のその段落の記載も,「場面中の鈍い表面のためのランベルトの法則の結果として,どの光源からのどの方向の照明強度も実際の光源(これで場面が記録される)の直線的な組み合わせである。」というもので,意味不明である。どのように理解しても,補正前の段落【0044】が,法線方向と反射係数の求め方について記載しているとは解釈できない。
本願明細書(甲6)において「既知」とされている「法線方向と反射係数」が,特定の参考文献を参照しなければ,その意味が理解できないというのであれば,明細書の記載不備といわざるを得ないし,参考文献に原理的に可能であるという記載があるからといって,本願の装置における「法線方向と反射係数」を,いかにして求め,装置を実現することができるかが明細書に記載されているとはいえない。本願明細書(甲6)には,どのようにして「法線方向と反射係数」を各ピクセル毎に求めるのか一切記載されていない。
特に,映画の撮影対象である場面などは,記録されたフレームを検討して,所望フレームを得ようとする段階では,保存されているとは考えられず,いかにして,「法線方向と反射係数」を求めることができるのか,全く不明である。
・ 原告は,前記1・ア・のとおり,「問題解決に適したモデル(例えば,少なくとも3点以上の点で反射係数と法線方向が既知のモデル)を作成し,これを利用すれば,計測することなく,より簡単にできる。」と主張するが,モデルの利用については,本願明細書(甲6)中で何ら言及されておらず,原告の主張は失当である。本願明細書の記載からどのように具体的に発明としての「装置」が実現できるのか説明すべきである。
・ 本願明細書(甲6)の段落【0034】の「見掛けの照明ベクトル」は,「点灯期間の終りにおける光源13の消灯の遅れ」により起こる旨記載されているが,どのようにして,「見掛けの照明ベクトル」を決定するのか,本願明細書の記載からは不明である。
ウ 段落【0036】についての主張に対し・ 原告は,前記1・ア・・のとおり,(式3A)(式3B)(式3C)を数学的に解くことができる旨主張しているが,場面の中からどのようにして,3個の点Piを選択して,どのようにして法線方向と反射係数を測定し,他にどの数値を決定して,解くと,何がどのように求まるのか,何ら実施例を挙げて説明していない。
・ 原告は,前記1・ア・・のとおり,「npiが既知である3点Pi(i=1,2,3)を見出して」と主張しているが,どのようにして,その点を見出すのかが明らかでない。
・ 原告は,実際の装置の実施例,すなわち,どのようにして,各フレームのピクセルに対応する,場面の点の法線,反射率を測定するのか,それらの値を式に入れると,どのような値が得られ,望ましい照明位置に照明を置いたとき,どのような再現像が得られるのかについて説明し,それが,本願明細書の記載から,当業者にとって容易であることを主張すべきであるところ,単に,仮定を種々おいたモデル的な式から,解が求まるということしか,説明しておらず,本願発明が実施できるという主張は失当である。
エ 段落【0021】〜【0039】についての主張に対し原告は,前記1・ア・のとおり,「フレーム上の輝度レベルの関係から未知係数Ca,Cb,Ccを決定することができれば,望ましい照明ベクトルInは基準となる照明ベクトルIa,Ib,Icから決定することができる。」と主張するが,原告は,数学的に式を仮定した場合に単に式の解が求まると説明しているのみであり,本願発明が実際に実施できるという説明となっていない。
オ 段落【0050】及び【0052】についての主張に対し原告は,前記1・ア・のとおり,(式7),(式8)の意義について主張しているが,(式8)の「Ci」について何ら説明もなく,実施例に基づいた説明もなく,具体的手順が全く不明である。
本願明細書(甲6)の段落【0053】に「所望の光源位置に正反射のハイライトを付け加える。」と記載されているが,意味不明である。「所望の光源位置」が所望のフレームとしても,ピクセルをどのように選択するのか,ピクセルに対応する場面の向き,材質をどう認識するのか不明であり,本願明細書の記載からでは,具体的手順が不明である。
カ 段落【0059】〜【0060】についての主張に対し原告は,前記1・ア・のとおり,「所望の再現像は本願明細書に記載された手法により求められる。」と主張するが,本願明細書(甲6)には,実線70で表された障害物があったとき,特定方向(所望の光源)から光が当たった場合に,実際の照明による影ができる平面と同じ平面において,影となるかどうか記載されているのみで,フレーム記録器との関係も記載されておらず,場面内の物体の高さ,凹凸,奥行きが複雑な実際の場面において,いかにして,所望の光源による影を再現像に反映させるのか,例えば,本願明細書(甲6)の段落【0029】にある「映画用の一連の像を正確且つ精密に再現する」にはどのようにするのか,本願明細書の記載からは,不明である。
・ 取消事由2に対し原告の前記1・イの主張は,本願明細書(甲6)のどの記載を根拠とし,何を主張しようとしているのか意味不明であり,審決の判断に対する反論になっていない。
本願明細書(甲6)の【0059】〜【0060】では,模式的に,同一水平面に,ある高さの物体があったときに,異なる方向からの光線の影がどのようになるかを示したのみで,実際の場面を再現する,請求項17に記載された像再現装置が記載されているとは到底いえない。
請求項17には,「該有影領域決定部は前記フレーム象情報から有影領域部分を識別し」と記載されているが,輝度だけでは,影なのか,濃い色の部分なのか判断できないと思われるところ,輝度情報のみからなる,実際の場面を記録したフレーム像情報からいかにして有影領域を識別するのか,具体的手順が発明の詳細な説明に記載されていない。
請求項17には,「無影領域再現像情報発生部は無影領域について」と記載されているが,「無影領域再現像情報発生部」の構成は,発明の詳細な説明に記載されていない。また,請求項17には,「無影領域再現像情報発生部は無影領域について,前記異なる位置に配置された光源に同期して記録された前記フレーム記録器からの像情報に応答して再現像情報を発生し」と記載されているが,「無影領域について」,どのような再現像情報をどのようにして発生するのか,【発明の詳細な説明】に記載されておらず,不明である。
また,再現像情報には,影の情報も含まれると考えられるが,再現像情報と影の情報との関係についても,【発明の詳細な説明】に記載されておらず,不明である。
当裁判所の判断
1 請求原因・(特許庁における手続の経緯),・(発明の内容),・(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 本願発明について・ 本願明細書(甲6)には,「特許請求の範囲」として,前記第3の1・の記載があるほか,「発明の詳細な説明」に次の各記載がある。
ア 産業上の利用分野「この発明は,一般に視覚像の再現分野に関し,特に再現される像即ち再現像中の場面(シーン)の照明の見掛けの方向及び振巾を調節して変更するための装置を提供する。」(段落【0001】)イ 従来の技術「視覚像の再現時に,照明の方向及び強さは,像を視る人に及ぼす像の影響を考慮するのは一般的に重要なことである。像を横切る照明の方向,強さ及び変化は,像を視る際の視者のムードの様なものに影響し得るし,また像の再現時に芸術的に重要な像の或る面を明るくしがちである。」(段落【0002】)「例えば映画を製作する際には,場面は数回記録され,そして場面は記録のたびに異なる方向から何回も照明される。編集中,ディレクタは最終の映画に入れられる記録済み場面の一つを選択し得る。或る場面には,ディレクタはせっかく撮った場面をご破算にして適当な照明の下でその場面をもう一度撮らなければならない。いずれにしても,一つの場面を撮るのにそのように余計な努力をはらうのはお金と時間の両方がかかることである。」(段落【0003】)「同様に,スチール写真家は,多数の方向から照明を行って人や物の沢山の写真をとる。写真のプリントができた後,写真家は,自分にとって最も好ましい或いは自分好みの照明効果を達成する一枚又は数枚のプリントを選択し得る。写真家の望む視覚効果を持ったプリントが無い場合には,写真家の所望の効果を得られるまで一回ないし数回“修正”しようとし,或いは可能ならば写真をもう一回撮り直しもするが,これもやはりお金と時間がかかることである。」(段落【0004】)ウ 発明が解決しようとする課題「この発明は,像の再現時に場面の見掛けの照明の強さ及び方向が簡単且つ安価に変更され得るような仕方で,例えば写真,ビデオ又はデジタル技術により或る場面を記録するための新規で改良した装置を提供することである。この発明は,また,記録された視覚像を取り出し且つ再現像の照明の見掛けの強さ及び方向を調節するための新規で改良した装置を提供することである。」(段落【0005】)エ 課題を解決する手段「要約すれば,この発明は,その一面では,像記録装置及び,像再現装置を備えた像処理装置を提供する。像記録装置では,場面の像を記録し,且つ一連のフレームであって,その各々が前記フレームの記録時に照明された様な前記場面を映す像情報を含む前記フレーム上に前記場面の像を記録するための記録器と,複数個の個別に点灯可能な光源であって,その各々が前記場面を照射するための前記光源と,それら記録器及び光源に接続され,前記光源の別々の点灯と前記一連のフレーム中の個々のフレームの前記記録器による記録との同期をとるためのシンクロナイザとを含む。像再現装置は,所望の光源位置を映す再現像を生じる。像再現装置は,特に,前記一連のフレームの各々の前記像情報を記録するためのフレーム記録器と,前記再現像情報を受けるための再現像記録器と,前記光源の異なるものに同期して記録された様な前記一連のフレームに関連付けられた前記フレーム記録器からの像情報に応答して記録するための再現像情報を発生する再現像情報発生器とを含み,この再現像情報発生器は,前記フレームの記録と同期する前記光源の位置と前記再現像のための前記光源の所望位置との関係に関して重み付けられた様に,前記フレームの各々の像情報に関する前記再現記録情報を発生する。」(段落【0006】)「…更に他の面では,この発明は,光源が異なる位置を有することに応答して記録される一連のフレームに関するフレーム情報に基づいて所望の光源位置を映す再現像を生じるための且つ再現像の反射性に関する情報を発生する像再現情報を提供する。この像再現装置は,前記一連のフレームの各々のための,反射成分及び非反者成分を有する前記フレーム像情報を記録するためのフレーム記録器と,再現像を表す再現像情報を受けるための再現像記録器と,再現像情報発生器とを備え,この再現像情報発生器は,前記フレーム像情報からその非反射成分を表す中間像情報を発生するための反射補正部と,前記光源の異なるものに同期して記録された様な前記一連のフレームに関連付けられた中間像情報記録器に応答して記録するための再現像情報を発生し,また前記フレームの各々が記録された際の前記光源の位置と前記再現像用光源の所望位置との関係について重み付けられた様に前記フレームの各々のための中間像情報について前記再現像情報を発生するための非反射再現像情報発生器とを含み,…更に他の面では,この発明は,光源が異なる位置を有することに応答して記録される一連のフレームに関するフレーム情報に基づいて所望の光源位置を映す再現像を生じるための像再現装置を提供する。この像再現装置は,前記フレーム列の各々のための,影の有る領域及び影のない領域を有する前記フレーム像情報を記録するためのフレーム記録器と,再現像を表す再現像情報を受けるための再現像記録器と,再現像情報発生器とを備え,前記光源の異なるものに同期して記録された様な前記一連のフレームに関連付けられた中間像情報記録器に応答して記録するための再現像情報を発生し,また前記フレームの各々が記録された際の前記光源の位置と前記再現像用光源の所望位置との関係について重み付けられた様に前記フレームの各々のための中間像情報について前記再現像情報を発生するための無影再現像情報発生器と,前記再現像情報の前記フレーム像情報有影部分の有影部分領域から識別するための有影領域決定要素とを含む」(段落【0008】)オ 発明の効果「この発明は,所望の光源位置がどんな光源(これにより実際に記録される像が実際に記録された)の位置とも違う場面から再現像を生じさせ得る早くて安価な手段を提供することが理解されよう。この発明は,写真家,映画監督,その他,視者間に違ったムードを生じる所望の視覚効果を持つ像を作らなければならない人に,像が記録された後に像の照明位置に対するかなりの制御量を与えることができる。」(段落【0061】)「…上述した動作は,手動で,或は適当にプログラムされたコンピュータ(そのプログラミングはここでの説明から当業者には容易に明らかとなろう)に関して行われ得る。」(段落【0062】)・ 以上の記載によると,・本願発明は,「再現像の照明の見かけの方向及び振巾を調整して変更する装置」に関する発明であること,・視覚像の再現時には,照明の方向,強さ及びその変化が重要であるため,映画製作やスチール写真撮影に当たっては,適当な好ましい照明の下で何回も取り直しを行わなければならず,お金と時間がかかっていたこと,・本願発明は,この課題を解決したもので,場面の像を一連のフレームに記録する像記録装置とその像を再現する像再現装置からなること,・像記録装置は,複数の点灯可能な光源と一連のフレームの記録器による記録との同期をとるためのシンクロナイザを備えていること,・像再現装置は,フレームの記録と同期した光源の位置と再現像のための光源の所望位置との関係に関して重み付けを行い,フレームの各々の像情報に関する再現記録情報を発生する再現像情報発生器を備えていること,・フレームに記録された情報がランベルト成分と非ランベルト成分とを有する場合には,再現像情報発生器によって,非ランベルト成分を補正して,ランベルト成分を表す像情報を,フレームの記録と同期した光源の位置と再現像のための光源の所望位置との関係に関して重み付けを行って発生させ,その後に非ランベルト成分を加算すること,・フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合には,再現像情報発生器によって,影の有る領域を識別し,影のない領域について,フレームの記録と同期した光源の位置と再現像のための光源の所望位置との関係に関して重み付けを行って再現像情報を発生させること,・本願発明の装置により,実際に記録した光源位置とは違う所望の光源位置による,所望の視覚効果を持つ像を得ることができることが記載されているものと認められる。
3 取消事由1(特許法36条4項が規定する要件を満たしていないとの判断の誤り)について・ 本願に適用される特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの。
以下同じ)36条4項には,「…発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定している。
この規定は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づき,請求項に係る発明を容易に実施することができる程度に,発明の詳細な説明を記載しなければならない旨の規定であって,明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できないとき(例えば,どのように実施するかを発見するために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤等を行う必要があるとき)には,この規定の要件が満たされていないことになる。
そこで,以上の見地に立って,原告の各主張について検討する。
・ 段落【0033】に関する審決の判断につきア 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0033】について,InとIn(x,y)との関係が不明であり,どのようにして,望ましい照明ベクトルを決定できるのか不明である,と判断している(2頁3行〜4行)が,これに対し,原告は,望ましい照明ベクトルを決定することができると主張する(前記第3の1・ア・)。
イ 原告は,上記主張の前提として,「照明ベクトルIa〜Icによる1組の記録像が記録される間,場面は変化しない。」との仮定が存すると主張する。しかし,本願明細書(甲6)の段落【0033】には,「照明ベクトルIa〜Icによる1組の記録像が記録される間,場面は変化しない。」との仮定は記載されておらず,記載されていないそのような仮定が自明の仮定であるということもできない。
また,本願明細書の段落【0033】には,前記第3の1・ア・で原告が詳細に主張する内容は,何ら記載されていない。原告は,この主張の内容は,周知のランベルトの公式に周知のベクトルの内積に関する公式を適用したにすぎないという。しかし,これらの公式が知られているとしても,これらの公式に基づく前記第3の1・ア・で原告が詳細に主張するような内容は,本願明細書(甲6)には何ら記載されていない。
そうすると,本願明細書の段落【0033】の記載について,「照明ベクトルIa〜Icによる1組の記録像が記録される間,場面は変化しない。」との仮定の下に,前記第3の1・ア・で原告が主張するような内容が記載されていると理解することができるとは認められない。したがって,審決の上記判断に誤りがあったとは認められない。
ウ 本願明細書(甲6)の段落【0031】〜【0033】で記載されているのは,再現像の所望の照明に合致させた「基準フレーム」を用い,「基準フレーム」と各「ソースフレーム」の輝度レベルから「未知係数Ca,Cb,Cc」を決定する方法であり,「未知係数Ca,Cb,Cc」は,本願発明の「光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数」に当たると解されるから,本願明細書(甲6)の段落【0031】〜【0033】の記載は,上記「重み係数」を求める方法についての記載であると解される。しかるに,「基準フレーム」をどのようにして設定するのか(そこには,何を望ましいとするかについて人間の判断が加わるようにも考えられるが,その点についての記載もない),「基準フレーム」と各「ソースフレーム」の輝度レベルをどのようにして求めるか,「未知係数Ca,Cb,Cc」はどの程度の値が望ましいのかなどの記載がないから,上記「重み係数」を求める方法について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえない。
・ 段落【0034】に関する審決の判断につき審決は,本願明細書(甲6)の段落【0034】について,「そのような像上の点Pi(x,y)の法線方向と反射係数がなぜ既知であるのか,どのようにしてわかるのか不明である。」と判断している(2頁9行〜11行)ところ,原告は,Pi(x,y)の法線方向と反射係数は,公知の手段によって求めることができるから,既知とみなすことができると主張する(前記第3の1・ア・)。
しかし,本願明細書の段落【0034】には,「点Pi(x,y)の法線方向と反射係数は既知である。」としか記載されておらず,どうして既知であるのか全く記載されていない。
原告が法線方向と反射係数を求める手段に関する公知文献として挙げるビー・ケイ・ビー・ホーン著「マシーンビジョン」は,出願当初明細書(甲1)には,段落【0044】に記載されていたが,その後補正によって削除され,本願明細書(甲6)には記載されていない。
また,原告は,問題解決に適したモデルを作成し,これを利用すれば,計測することなく,より簡単にできるとも主張するが,モデルを作成し,これを利用することは,本願明細書には全く記載されていないし,原告が挙げる公知文献(井口征士・佐藤宏介共著「三次元画像計測」[甲11])が本願明細書に引用されているわけでもない。
さらに,法線方向と反射係数を求める手段やモデルを作成しこれを利用することが,上記各公知文献に記載されていたとしても,それを本願発明にどのように適用して,Pi(x,y)の法線方向と反射係数を知るかについての説明がない。
以上のようなことに照らせば,審決の上記判断に誤りがあったとは認められない。
・ 段落【0036】に関する審決の判断につきア 審決は,本願明細書(甲6)の段落【0036】について,「「9つの未知数」が何で,「9つの式」がどのようなものかが不明で,式3A〜3Bで何を求めようとしているのかも不明である。」と判断している(2頁13行〜15行)。
イ 本願明細書(甲6)の段落【0034】〜【0036】の記載によると,・「9つの未知数」は,3枚のフレームのそれぞれについて,3点ずつ(Pi(x,y)(i=1,2,3))を選んだ場合における,「Ia(xi,yi)=npi・Sa」(式3A),「Ib(xi,yi)=npi・Sb」(式3B),「Ic(xi,yi)=npi・Sc」(式3C)のSa,Sb,Scであること,・「9つの式」は,3枚のフレームそれぞれについての上記の式3A,式3B,式3Cであること,・Sa,Sb,Scは,各点における見掛けの照明ベクトル(以前に点灯していた光源が完全に消灯しないので,それを考慮に入れた照明ベクトル)で,式3A,式3B,式3Cは,この見掛けの照明ベクトルを求めようとするものであることが認められるから,「9つの未知数」,「9つの式」,「式3A〜3Bで求めるもの」それ自体の意味が不明であるということはできない。
ウ しかし,式3A〜3BによってSa,Sb,Scを求めるためには,Pi(x,y)(i=1,2,3)を選ばなければならないところ,3枚のフレームのそれぞれについて,Pi(x,y)(i=1,2,3)をどのように選ぶかについては何ら記載がないし,Pi(x,y)(i=1,2,3)の法線方向と反射係数を知る方法についても記載がないことは,前記・で述べたとおりである。
エ 本願明細書の段落【0034】〜【0039】で記載されているのは,所望の照明ベクトルInと見掛けの照明ベクトルSa,Sb,Scを用いて,In=a・Sa+b・Sb+c・Scの各「係数a,b,c」を求める方法であると解されるところ,「係数a,b,c」は,本願発明の「光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数」に当たると解されるから,本願明細書の段落【0034】〜【0039】の記載は,上記「重み係数」を求める方法についての記載であると解される。しかるに,上記ウのとおり,Pi(x,y)(i=1,2,3)を選ぶ方法や法線方向と反射係数を知る方法についての記載がないばかりか,所望の照明ベクトルInについても,「所望の照明ベクトルの方位及び大きさが分かっている」(段落【0037】)と記載されているのみで,それを求める方法についての記載はないし,「係数a,b,c」はどの程度の値が望ましいのかなどの記載もないから,上記「重み係数」を求める方法について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえない。
・ 以上の・〜・の判断をまとめると,本願発明の「光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数」を求める方法について,本願明細書(甲6)の段落【0031】〜【0033】に記載されている方法も,段落【0034】〜【0039】に記載されている方法も,当業者が実施できる程度の記載とはいえないものであり,また,他に,本願明細書の段落【0030】には,「図2に関連して説明したフレーム23を露光するために用いられた光源25の相対的強度を決定するためにはいくつかの手順が用いられる。
その手順は試行錯誤を使用してもよい。即ち,オペレータが最初に値を選び,再現像を作り出し,もし再現像が不適当であると決定されたら,この手順を繰り返すようにする。」との記載があるが,これも,オペレータがどのようにして値を選び,試行錯誤をするかについての記載がないから,当業者が実施できる程度の具体的な記載といえない。したがって,本願明細書には,本願発明の「光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数」を求める方法について当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。
・ 段落【0021】〜【0039】に関する審決の判断につきア 審決は,本願明細書(甲6)の段落について,「これらの段階で,ピクセルごとの所望の光源位置について,言及されているようであるが,ピクセルごとの所望の光源位置と,所望のフレーム全体としての所望の光源位置との関係が不明であり,どのようにしてバランスの取れた所望のフレームを実現できるのか不明である。」と判断している(2頁17行〜20行)ところ,原告は,「フレーム上の輝度レベルの関係から未知係数Ca,Cb,Ccを決定することができれば,望ましい照明ベクトルInは基準となる照明ベクトルIa,Ib,Icから決定することができる。」,「基準照明ベクトルIa,Ib,Icの代わりに見掛けの照明ベクトルSa,Sb,Scから望ましい照明ベクトルInを決定することができる。」などと主張する(前記第3の1・ア・)。
しかし,この原告の主張は,望ましい照明ベクトルInを決定することができることを述べるのみで,審決の上記判断に対する説明とはなっていない。
本願明細書(甲6)の段落【0021】〜【0039】には,記録器12によって作られた各フレームは複数の絵素すなわちピクセルに分けられ,ピクセルごとに,望ましい再現像を得るための操作がされることが記載されているが,ピクセルごとの所望の光源位置とフレーム全体としての所望の光源位置との関係については何ら記載されておらず,フレーム全体としてどのようにしてバランスの取れた所望のフレームを実現できるのかが不明であるというほかない。
したがって,審決の上記判断に誤りがあったとは認められない。
イ そして,上記・で述べたところに,上記アの記載を総合すると,本願明細書には,フレームの記録と同期した光源の位置と再現像のための光源の所望位置との関係に関して重み付けを行い,フレーム全体について所望の再現像を得る方法について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。
・ 段落【0042】に関する審決の判断につき審決は,本願明細書(甲6)の段落【0042】について,「「In(x,y)はベクトル「s」の方向から光を供給する光源に始まって,観測者に達するまでの光の強さ」の意味が不明である。」,表面の反射係数「p」が「何の表面なのか,またその技術的意義も不明である。」と判断している(2頁22行〜25行)。
しかし,本願明細書(甲6)の段落【0042】の「In(x,y)はベクトル「s」の方向から光を供給する光源に始まって,観測者に達するまでの光の強さ」は,「In(x,y)は,場面から放射され,記録器のフレームに記録された光の強さである」旨の説明と解される。また,「表面の反射係数」の「表面」は,「場面の表面」を意味するものと解され,反射係数についても,それ自体の技術的意義が不明であるとまではいえない。
もっとも,以上のとおりこれらの記載の意味自体が明らかであるとしても,そのことは,以上の・〜・で述べた当裁判所の判断を何ら左右するものではないことは明らかである。
・ 段落【0050】及び【0052】に関する審決の判断につき審決は,本願明細書(甲6)の段落【0050】及び【0052】について,「(式7),(式8)の技術的意義,「誤差Er」,「Ci」の技術的意義が不明である。したがって,非ランベルト成分の存在する場面の再現像を得る具体的手順が不明である。」と判断している(2頁下から3行〜1行)ところ,原告は,非ランベルト成分の存在する場所の再現像を得る手順について主張する(前記第3の1・ア・)。
前記2・・のとおり,本願発明は,フレームに記録された情報がランベルト成分と非ランベルト成分とを有する場合には,非ランベルト成分を補正してランベルト成分を表す像情報を発生させ,その後に非ランベルト成分を加算するものであるところ,本願明細書(甲6)の段落【0045】〜【0054】の記載は,その方法に関する記載であると認められる。この記載によると,誤差Erが閾値(t)より小さい場合はランベルト成分と決定し,閾値(t)よりも大きい場合は,非ランベルト成分,すなわち,正反射成分と決定することが理解できる。しかし,その誤差を補正して正反射成分を除去する方法について,本願明細書(甲6)の段落【0052】では,「Vi'(x,y)=Vi(x,y)-(1/Ci)・Er (i=A,B又はC)(式8)」と記載されているものの,「1/Ci」については,本願明細書に説明がなく,この式の技術的な意義が明らかでない。また,「非ランベルト成分を補正してランベルト成分を表す像情報をよって発生し,その後に非ランベルト成分を加算する」方法について,本願明細書の段落【0045】〜【0054】には,その原理が記載されているのみで,それをどのような再現像情報発生器を用いて,どのような手順で行うかについての具体的な記載があるとはいえない。
したがって,本願明細書には,「フレームに記録された情報がランベルト成分と非ランベルト成分とを有する場合に,非ランベルト成分を補正してランベルト成分を表す像情報を発生し,その後に非ランベルト成分を加算する」方法について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。
・ 段落【0059】〜【0060】に関する審決の判断につき審決は,本願明細書(甲6)の段落【0059】〜【0060】について,「実際の光源Siは複数有り,また,点Pの水平面からの高さも場面の状況によりいろいろの値を取ると考えられるが,実際に所望の再現象を実現する際の具体的手順が不明である。」と判断している(3頁6行〜8行)ところ,原告は,「所望の光源による影領域は1つしか存在しない。したがって,複数の光源Siによる影領域から求めた所望の光源による影領域は全て一致するはずである。」,「どの光源の影領域から所望の光源による影領域を求めてもよく,所望の再現象は本願明細書に記載された手法により求められる。」と主張する(前記第3の1・ア・)。
原告は,上記のとおり,所望の光源による影領域は1つしか存在しないと主張するが,本願明細書(甲6)には,本願発明において,場面に照射される所望の光源は1つに限られる旨の記載があるわけではなく,技術常識に照らしてそのように理解できるということもできないから,原告の主張は採用できない。
また,前記2・・のとおり,本願発明は,フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合には,影の有る領域を識別するものであるところ,本願明細書の段落【0055】〜【0060】には,所望の光源から光が照射された場合における,フレーム中の影のある有影領域と影のない無影領域とを識別する方法が記載されているものと認められる。しかし,本願明細書の段落【0059】〜【0060】には,図7(甲1参照)の実線70で表された障害物があったとき,特定方向(所望の光源)から光が当てられた場合に,実際の照明による影ができる平面と同じ平面において,影となるかどうかを決定する方法が記載されているものの,現実には,場面内の物体の高さ,凹凸,奥行きなどはもっと複雑であると考えられる。本願明細書の段落【0055】〜【0060】には,そのような複雑な場面について,複数の光源を想定したときに,いかにして,所望の光源から光が照射された場合における,フレーム中の影のある有影領域と影のない無影領域とを識別するかについては記載されていない。また,本願明細書の段落【0055】〜【0060】には,「影の有る領域を識別し,影のない領域について再現像情報を発生する」再現像発生器を,どのような構成の装置とし,どのような手順で識別や再現像情報の発生を行うかについての具体的な記載がない。
したがって,本願明細書には,「フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合に,影の有る領域を識別し,影のない領域について,再現像情報を発生する」方法について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。
・ 以上のとおり,本願明細書には,本願発明について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。
4 取消事由2(特許法36条5項が規定する要件を満たしていないとの判断の誤り)について・ 前述した特許法の36条5項は,「…特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定した上,1号で「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
・ 審決は,「請求項17」の発明について,「実際の光源が複数有り,立体的な場面に対して,どのように有影領域部分を識別できるか不明であり,フレームの記録に同期した光源位置と再現像の所望の光源位置とを関連付ける重み係数をどのように決定するのかも不明である。」として,特許法36条5項が規定する要件を満たしていないと判断している(3頁16行〜21行)ところ,原告は,同項が規定する要件を満たしていると主張する(前記第3の1・イ)。
・ 「請求項17」の発明は,前記2・・の「フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合に,再現像情報発生器によって,影の有る領域を識別し,影のない領域について,フレームの記録と同期した光源の位置と再現像のための光源の所望位置との関係に関して重み付けを行って再現像情報を発生する」発明であるところ,前記3・で述べたところからすると,本願明細書には,「光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数」を求める方法について当業者が認識できる程度の記載があるとはいえない。また,前記3・で述べたところからすると,「フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合に,影の有る領域を識別し,影のない領域について,再現像情報を発生する」方法についても,本願明細書には,当業者が認識できる程度の記載があるとはいえない。
殊に,請求項17には,「該有影領域決定部は前記フレーム象情報から有影領域部分を識別し」と記載されているところ,フレーム像情報の輝度だけでは,影なのか,濃い色の部分なのか判断できないと考えられるが,本願明細書には,フレーム像情報から有影領域部分をいかに識別するかについての記載がない。
したがって,「請求項17」の発明については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないのであり,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めるに足りる証拠もないから,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」ということはできないものというべきである。
5 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願については,特許法36条4項及び5項が規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないから,その旨の審決の判断に誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一